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特許7311634ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ変異型ポリペプチド及びそれを用いたL-スレオニン生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ変異型ポリペプチド及びそれを用いたL-スレオニン生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/53 20060101AFI20230711BHJP
   C12N 9/02 20060101ALI20230711BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230711BHJP
   C12P 13/08 20060101ALI20230711BHJP
   C12R 1/15 20060101ALN20230711BHJP
【FI】
C12N15/53 ZNA
C12N9/02
C12N1/21
C12P13/08 C
C12R1:15
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021570197
(86)(22)【出願日】2020-08-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-29
(86)【国際出願番号】 KR2020010419
(87)【国際公開番号】W WO2021060696
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】10-2019-0119159
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCCM  KCCM12502P
(73)【特許権者】
【識別番号】514199250
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダング コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ペク、ミナ
(72)【発明者】
【氏名】クォン、ス ヨン
(72)【発明者】
【氏名】イ、イムサン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、スン-ジュ
(72)【発明者】
【氏名】イ、グァン ウ
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107916246(CN,A)
【文献】特表2010-514431(JP,A)
【文献】特表2008-506408(JP,A)
【文献】特開平10-215883(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00- 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ(dihydrodipicolinate reductase)活性を有する変異型ポリペプチドであって、前記変異型ポリペプチドにおいて、配列番号1のアミノ酸配列またはこれと98%以上の同一性を有するアミノ酸配列で13番目の位置に対応するアミノ酸がアスパラギン(Asparagine)、スレオニン(Threonine)、システイン(Cysteine)、チロシン(Tyrosine)、セリン(Serine)、リシン(Lysine)またはグルタミン(Glutamine)で置換されており前記変異型ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列またはこれと98%以上の同一性を有するアミノ酸配列と少なくとも90%以上かつ100%未満の配列同一性を有し、
前記変異型ポリペプチドのジヒドロジピコリン酸レダクターゼ活性は、配列番号1のアミノ酸配列またはこれと98%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する野生型ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ活性より弱化している、変異型ポリペプチド。
【請求項2】
配列番号1のアミノ酸配列と98%以上の同一性を有するアミノ酸配列は、配列番号51で記載されるアミノ酸配列である、請求項1に記載の変異型ポリペプチド。
【請求項3】
前記変異型ポリペプチドは、配列番号3または配列番号53のアミノ酸配列からなる、請求項1に記載の変異型ポリペプチド。
【請求項4】
請求項1に記載の変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項5】
前記ポリヌクレオチドは、配列番号4または配列番号54の塩基配列からなる、請求項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項1に記載の変異型ポリペプチド;前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;及び前記ポリヌクレオチドを含むベクターのいずれか一つ以上を含むコリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)微生物。
【請求項7】
前記配列番号1のアミノ酸配列と98%以上の同一性を有するアミノ酸配列は配列番号51である、請求項に記載のコリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)微生物。
【請求項8】
前記コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)微生物は、さらに次の(1)~(3)の変異型ポリペプチドから選択されるいずれか一つ以上を含む、請求項に記載のコリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)微生物
(1)ジヒドロピコリン酸シンターゼ(dihydrodipicolinate synthase)活性が弱化した変異型ポリペプチド
(2)ジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼ(Diaminopimelate decarboxylase)活性が弱化した変異型ポリペプチド;及び
(3)ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ(diaminopimelate dehydrogenase)活性が弱化した変異型ポリペプチド。
【請求項9】
前記変異型ポリペプチドは、(1)~(3)の変異型ポリペプチドから選択されるいずれか一つ以上を含む、請求項に記載のコリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)微生物
(1)配列番号65のアミノ酸配列で119番目のアミノ酸がチロシン(Tyrosine)からフェニルアラニン(Phenylalanine)に置換されたジヒドロピコリン酸シンターゼ(dihydrodipicolinate synthase)変異型ポリペプチド
(2)配列番号70のアミノ酸配列で302番目のアミノ酸がアルギニン(Arginine)からアラニン(Alanine)に置換されたジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼ(Diaminopimelate decarboxylase)変異型ポリペプチド;及び
(3)配列番号75のアミノ酸配列で169番目のアミノ酸がスレオニン(Threonine)からロイシン(Leucine)に置換されたジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ(diaminopimelate dehydrogenase)変異型ポリペプチド。
【請求項10】
前記微生物は、非変異型菌株に比べてL-スレオニン(Threonine)生産能が増加したものである、請求項に記載のコリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)微生物。
【請求項11】
前記微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、請求項に記載の微生物。
【請求項12】
請求項1に記載の変異型ポリペプチドを含むコリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)微生物を培地で培養する段階を含む、L-スレオニン(Threonine)を生産する方法。
【請求項13】
前記配列番号1のアミノ酸配列と98%以上の同一性を有するアミノ酸配列は配列番号51である、請求項12に記載のL-スレオニン(Threonine)を生産する方法。
【請求項14】
前記微生物を培養する段階に培養した培地及び微生物からL-スレオニン(Threonine)を回収する段階をさらに含む、請求項12に記載のL-スレオニン(Threonine)を生産する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ(dihydrodipicolinate reductase)活性が弱化した変異型ポリペプチド及びそれを用いてL-スレオニン(threonine)を生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コリネバクテリウム属(the genus Corynebacterium)微生物、その例としてコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)は、L-アミノ酸及びその他有用物質の生産に多用されているグラム陽性の微生物である。上記L-アミノ酸及びその他有用物質を生産するために、高効率生産の微生物及び発酵工程技術の開発のための多様な研究が行われている。例えば、L-リシン生合成に関与する酵素をコードする遺伝子の発現を増加したり、またはL-リシン生合成に不要な遺伝子を除去するような目的物質の特異的アプローチ方法が主に用いられている(米国登録特許第8048650号)。
【0003】
一方、L-アミノ酸中、L-リシン、L-トレオニン、L-メチオニン、L-イソロイシン、L-グリシンはアスパルテート由来のアミノ酸であり、アスパルテートからL-リシン及びその他アスパルテート由来のアミノ酸への生合成分岐(branch)に作用する共通前駆体であるアスパルチルセミアルデヒド(Aspartyl semialdehyde)をホモセリン(homoserine)に効果的に転換させることがL-スレオニンの合成水準に影響を及ぼし得る。
【0004】
ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ(dihydrodipicolinate reductase)は、微生物のリシン生合成経路に作用する酵素であり、微生物のスレオニン生合成とリシン生合成の共通した前駆体であるアスパルチルセミアルデヒド(Aspartyl semialdehyde)からリシンを生合成するための経路に送るにおいてジヒドロジピコリン酸シンターゼ(dihydrodipicolinate synthase)の直後に作用する重要な酵素である。
【0005】
リシン生合成の前駆体であるジアミノピメリン酸(diaminopimelate)の場合、微生物の細胞壁を構成するペプチドグリカン(peptidoglycan)の形成に用いられるために、ジアミノピメリン酸(diaminopimelate)生成経路中に作用するジヒドロジピコリン酸レダクターゼをコードするdapB遺伝子を欠損時に微生物の細胞壁の合成が阻害されるため、菌株の生長が阻害される。
【0006】
従って、L-スレオニン生産能の向上のためには、L-リシンの生合成経路に作用する遺伝子を欠損するよりは、適切な水準に減らすためのアプローチが依然として必要な実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第8048650号明細書
【文献】特開2005-227977号公報
【文献】韓国特許第2009-0094433号公報
【文献】韓国登録特許第10-0159812号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】J. Sambrook et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory press,Cold Spring Harbor,New York,1989
【文献】F.M. Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,Inc.,New York
【文献】Sambrook et al.,supra,9.50-9.51,11.7-11.8
【文献】TURBA E,et al,Agric. Biol. Chem. 53:2269~2271,1989
【文献】Van der Rest et al.,Appl. Microbial. Biotecnol. 52:541-545,1999
【文献】J Mol Biol. 2004 Apr 23;338(2):329-39
【文献】Biochem Biophys Res Commun. 2018 Jan 8;495(2):1815-1821
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような背景の下に、本発明者らは、菌株の成長速度の遅延なしにL-リシンの生産量は減少し、かつL-スレオニン生産量は高めるために鋭意努力・研究した結果、特定の水準にジヒドロジピコリン酸レダクターゼの活性を弱化させた新規の変異型ポリペプチドを用いる場合、微生物の成長が維持されるだけでなく、L-スレオニンの生産量が増加することを確認することにより本出願を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本出願の一つの目的は、コリネバクテリウム・グルタミカム由来のジヒドロジピコリン酸レダクターゼ(dihydrodipicolinate reductase)変異型ポリペプチドを提供することにある。
【0011】
本出願のもう一つの目的は、上記変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供することにある。
本出願のもう一つの目的は、上記ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ(dihydrodipicolinate reductase)変異型ポリペプチドを含むコリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)微生物を提供することにある。
【0012】
本出願の更に他の一つの目的は、上記微生物を用いたL-スレオニン(Threonine)を生産する方法を提供することにある。
本出願の更に他の一つの目的は、L-スレオニン(Threonine)を生産するための上記微生物の使用を提供することにある。
【発明の効果】
【0013】
本出願のジヒドロジピコリン酸レダクターゼ活性を弱化させた新規の変異型ポリペプチドを用いる場合、野生型ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ活性を有する菌株比成長速度の遅延なしにリシンの生産量を減少させ、スレオニンの生産量を増加させることができ、スレオニンの大量生産に広く活用され得るものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
これを具体的に説明すると、次の通りである。一方、本出願で開示されたそれぞれの説明及び実施形態は、それぞれの異なる説明及び実施形態にも適用され得る。即ち、本出願で開示された多様な要素の全ての組合わせが本出願の範疇に属する。また、下記の具体的な記述により本出願の範疇が制限されるとは見られない。
【0015】
上記目的を達成するための本出願の一つの様態は、コリネバクテリウム・グルタミカム由来のジヒドロジピコリン酸レダクターゼ(dihydrodipicolinate reductase)変異型ポリペプチドを提供する。
【0016】
具体的には、上記コリネバクテリウム・グルタミカム由来のジヒドロジピコリン酸レダクターゼ(dihydrodipicolinate reductase)変異型ポリペプチドは、コリネバクテリウム・グルタミカム由来のジヒドロジピコリン酸レダクターゼの配列と同一の配列を変異対象の基準配列とし、一つ以上のアミノ酸置換を含むジヒドロジピコリン酸レダクターゼ活性を有するポリペプチドを提供する。さらに具体的には、上記アミノ酸の置換は、13番目のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたことを含むジヒドロジピコリン酸レダクターゼ変異型ポリペプチドを提供する。
【0017】
上記ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ(dihydrodipicolinate reductase)変異型ポリペプチドは、コリネバクテリウム・グルタミカム由来のジヒドロジピコリン酸レダクターゼの配列と同一の配列であってもよい。その例として、配列番号1のアミノ酸配列またはこれと98%以上の同一性を有するアミノ酸配列で13番目のアミノ酸がアスパラギン(Asparagine)、スレオニン(Threonine)、システイン(Cysteine)、チロシン(Tyrosine)、セリン(Serine)、リシン(Lysine)またはグルタミン(Glutamine)で置換されたものである、変異型ポリペプチドであってもよい。その例として、上記配列番号1のアミノ酸配列またはこれと98%以上の同一性または相同性を有するアミノ酸配列で13番目のアミノ酸がアスパラギンで置換された、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ活性を有する変異型ポリペプチドを提供する。
【0018】
その時、上記98%以上の同一性を有するアミノ酸配列は、配列番号51からなるものであってもよい。また、上記ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ(dihydrodipicolinate reductase)変異型ポリペプチドは、配列番号3または配列番号53のアミノ酸配列からなってもよい。
【0019】
本出願において「ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ(dihydrodipicolinate reductase,Ec 1.3.1.26)」は微生物においてアスパルテート由来のアミノ酸であるL-メチオニン、L-スレオニン、L-イソロイシン、L-リシン生合成の共通中間物質であるアスパルチルセミアルデヒド(Aspartyl semialdehyde)をジヒドロジピコリン酸シンターゼ(dihydrodipicolinate synthase)酵素を通じて2,3-ジヒドロジピコリン酸(2,3-dihydeopicolinate)に転換し、これをNADPHを用いてリシン生合成の前駆体であるPiperidine 2,6-dicarboxylateに転換してリシン生合成を触媒する酵素を意味する。
【0020】
本出願においてジヒドロジピコリン酸レダクターゼは、上記転換活性を有するポリペプチドであれば、由来に関係なく含まれてもよく、任意の有機体(植物及び微生物など)に由来する酵素を用いることができる。具体的には、上記ジヒドロジピコリン酸レダクターゼは、コリネバクテリウム属微生物由来の配列と同一であり、より具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)由来の配列と同一であってもよい。
【0021】
本出願においてコリネバクテリウム・グルタミカム由来のジヒドロジピコリン酸レダクターゼは、上記微生物由来のジヒドロジピコリン酸レダクターゼと同一の配列も含まれることを意味する。
【0022】
例えば、配列番号1またはこれと98%以上の同一性または99%以上の同一性を有する配列であってもよいが、これに限定するものではない。このような配列は、その例として、配列番号51のアミノ酸配列を含むポリペプチドであってもよい。
【0023】
上記配列番号1または配列番号51のアミノ酸配列を含むポリペプチドは、配列番号1または配列番号51のアミノ酸配列を有するポリペプチド、配列番号1または配列番号51のアミノ酸配列で構成されるポリペプチドと混用されてもよい。
【0024】
本出願において、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼを確保する方法は、当該分野においてよく知られている多様な方法が適用可能である。その方法の例としては、ポリペプチド発現に通常広く用いられるコリネバクテリウム属微生物でポリペプチドを高効率で確保できるようにコドン最適化が含まれた遺伝子合成技術、そして微生物の大量ゲノム情報を基盤に生物情報学的方法により有用酵素リソースのスクリーニング方法を通じて確保することができ、これに制限されるものではない。
【0025】
本出願における「ジヒドロジピコリン酸レダクターゼの活性を有するポリペプチド」とは、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼの活性を有するポリペプチドのアミノ酸配列、例えば、配列番号1または配列番号51のアミノ酸配列、前後への無意味な配列追加または自然に発生し得る突然変異、あるいはその潜在性突然変異(silent mutation)を除くものではなく、上記配列番号1または配列番号51のアミノ酸配列を含むポリペプチドと互いに同一または対応する活性を有する場合であれば、本願のジヒドロジピコリン酸レダクターゼの活性を有するポリペプチドに該当する。
【0026】
具体的な例として、本願のジヒドロジピコリン酸レダクターゼの活性を有するポリペプチドは、配列番号1または配列番号51のアミノ酸配列またはこれと少なくとも60%、70%、80%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、97%、98%または99%の相同性または同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドであってもよい。また、このような相同性または同一性を有し、上記ポリペプチドに対応する生物学的活性を示すアミノ酸配列であれば、13番目の位置のアミノ酸配列以外に、一部の配列が欠失、変形、置換または付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドも本出願の範囲に含まれることは自明である。
【0027】
例えば、本出願におけるジヒドロジピコリン酸レダクターゼの活性を有するポリペプチドは、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)由来のジヒドロジピコリン酸レダクターゼであってもよい。より具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032由来のジヒドロジピコリン酸レダクターゼのアミノ酸配列(配列番号1)またはコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869由来のジヒドロジピコリン酸レダクターゼのアミノ酸配列(配列番号51)であってもよい。上記配列を有するジヒドロジピコリン酸レダクターゼは、互いに相同性または同一性を示し、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼとして対応する効能を示すため、本出願のジヒドロジピコリン酸レダクターゼの活性を有するポリペプチドに含まれることは自明である。
【0028】
上記「相同性」または「同一性(identity)」とは、2個の与えられたポリヌクレオチドまたはポリペプチドモイエティ(moiety)間の同一性のパーセントをいう。与えられたアミノ酸配列または塩基配列と一致する程度を意味し、百分率で表されることができる。用語、相同性及び同一性は、しばしば相互交換的に用いられ得る。本明細書において、与えられたアミノ酸配列または塩基配列と同一または類似の活性を有するその相同性配列が「%相同性」で表される。一つのモイエティからもう一つのモイエティまでの配列間の相同性は知られている当該技術により決定され得る。例えば、点数(score)、同一性(identity)及び類似度(similarity)などのパラメータ(parameter)を計算する標準ソフトウェア、具体的には、BLAST2.0を用いたり、定義されたストリンジェントな条件下でサザンハイブリダイゼーション実験により配列を比較することにより確認することができ、定義される適切なハイブリダイゼーション条件は当該技術範囲内であり、当業者においてよく知られている方法(例えば、J. Sambrook et al.,Molecular Cloning、A Laboratory Manual,2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory press,Cold Spring Harbor,New York,1989; F.M. Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,Inc.,New York)で決定され得る。
【0029】
本出願において用語、「変異」、「変異型」または「変異体」とは、遺伝的または非遺伝的に一つの安定した表現型的変化を示す培養物や個体を意味する。具体的には、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼの活性を有するポリペプチドに対応するアミノ酸配列上において一つ以上のアミノ酸が変異され、その活性が野生型、天然型または非変異型と比較して弱化した変異体を意味してもよい。
【0030】
本出願においてジヒドロジピコリン酸レダクターゼ変異型ポリペプチドは、「変異型ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ」、「変異されたジヒドロジピコリン酸レダクターゼ」、「ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ変異体」、「変異型ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ」または「ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ変異体」で混用され得る。一方、このような変異体は、非自然的な(non-naturally occurring)ものであってもよい。
【0031】
本出願において変異は、一般に、酵素を改良するための方法として当業界の知られている公知となった方法が制限なく用いられ、これには、合理的設計(rational design)と誘導進化(directed evolution)などの戦略がある。例えば、合理的設計戦略には特定位置のアミノ酸を部位指定突然変異導入(site-directed mutagenesisまたはsite-specific mutagenesis)する方法などがあり、誘導進化戦略には、ランダム変異(random mutagenesis)を引き起こす方法などがある。また、自然な突然変異により外部の操作なしに突然変異されたものであってもよい。具体的には、上記ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ変異型ポリペプチドは、分離されたものであるか、組換えポリペプチドであってもよく、非自然的に発生したものであってもよい。しかし、これに制限されるものではない。
【0032】
本出願の「ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ変異型ポリペプチド」は、一つ以上のアミノ酸置換を含むジヒドロジピコリン酸レダクターゼ活性を有するポリペプチドであり、上記アミノ酸の置換は13番目のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたことを含むジヒドロジピコリン酸レダクターゼ変異型ポリペプチドを提供する。
【0033】
「他のアミノ酸で置換」とは、置換前のアミノ酸と異なるアミノ酸で置換されるものであれば制限されない。具体的には、リシン、ヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、プロリン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン及びグルタミンのいずれか一つのアミノ酸で置換されたものであってもよい。より具体的には、上記ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ(dihydrodipicolinate reductase)変異型ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列またはこれと98%以上の同一性を有するアミノ酸配列で13番目のアミノ酸に対応する位置のアミノ酸が極性アミノ酸または塩基性アミノ酸に置換されたものであってもよい。
【0034】
より具体的には、上記ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ(dihydrodipicolinate reductase)変異型ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列またはこれと98%以上の同一性を有するアミノ酸配列で13番目のアミノ酸に対応する位置のアミノ酸がアスパラギン(Asparagine)、スレオニン(Threonine)、システイン(Cysteine)、チロシン(Tyrosine)、セリン(Serine)、リシン(Lysine)またはグルタミン(Glutamine)で置換されたものである、変異型ポリペプチドであってもよい。
【0035】
また、上記置換されたアミノ酸残基には、天然アミノ酸だけでなく、非天然アミノ酸も含まれ得る。上記非天然アミノ酸は、例えば、D-アミノ酸、ホモ(Homo)-アミノ酸、ベータ-ホモ(Beta-homo)-アミノ酸、N-メチルアミノ酸、アルファ-メチルアミノ酸、非通常アミノ酸(例えば、シトルリンまたはナフチルアラニン等)であってもよいが、これに制限されない。一方、本出願において「特定アミノ酸が置換された」と表現する場合、他のアミノ酸で置換されたと特に表記しなくても置換前のアミノ酸と異なるアミノ酸で置換されることであることは自明である。
【0036】
一具体例として、上記配列番号1のアミノ酸配列またはこれと98%以上の同一性を有するアミノ酸配列で13番目のアミノ酸に対応する位置のアミノ酸がアスパラギンで置換された、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ活性を有する変異型ポリペプチドを提供することができる。この時、上記98%以上の同一性を有するアミノ酸配列は、配列番号51からなるものであってもよい。
【0037】
本出願において用語「対応する(correspondingto)」とは、タンパク質またはペプチドで列挙される位置のアミノ酸残基であるか、またはタンパク質またはペプチドで列挙される残基と類似、同一、または相同のアミノ酸残基を指す。本出願で用いられた「対応領域」とは、一般に、関連タンパク質またはレファレンスタンパク質における類似の位置を指す。
【0038】
本出願において、本出願に用いられるポリペプチド内のアミノ酸残基の位置に特定ナンバリングが用いられる。例えば、比較しようとする対象ポリペプチドと本出願のポリペプチド配列を整列させることにより、本出願のポリペプチドのアミノ酸残基の位置に対応する位置に対して再ナンバリングすることが可能である。
【0039】
本出願で提供するジヒドロジピコリン酸レダクターゼの変異体は、上記で説明したジヒドロジピコリン酸レダクターゼにおいて特異的位置のアミノ酸が置換され、L-スレオニンの生産能が変異前のポリペプチド比増加することができる。上記変異型ポリペプチドは配列番号1のアミノ酸配列またはこれと98%以上の同一性を有するアミノ酸配列で13番目のアミノ酸に対応する位置でアスパラギンへの置換を含め、配列番号1のアミノ酸配列または配列番号51のアミノ酸配列と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%以上、100%未満の配列相同性を有し、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼの活性を有するものであってもよい。
【0040】
上記変異型ポリペプチドのジヒドロジピコリン酸レダクターゼの活性は、野生型である配列番号1のアミノ酸配列またはこれと98%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するジヒドロジピコリン酸レダクターゼの活性より弱化したものであってもよい。
【0041】
具体的な例として、本出願の変異型ジヒドロジピコリン酸レダクターゼは、配列番号3または配列番号53のアミノ酸配列またはこれと相同性または同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドであってもよい。また、このような相同性または同一性を有し、上記ポリペプチドに対応する生物学的活性を示すアミノ酸配列であれば、13番目のアミノ酸に対応する位置のアミノ酸以外に、一部のアミノ酸が欠失、変形、置換または付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドも本出願の範囲に含まれることは自明である。
【0042】
また、本出願のジヒドロジピコリン酸レダクターゼ変異型ポリペプチドは、これを含む微生物内でジヒドロジピコリン酸レダクターゼの活性を有する野生型もしくは天然型ポリペプチドまたは、非変形ポリペプチドとは異なり、最終産物であるリシンを生成する活性が弱化した特徴を有するものであってもよい。
【0043】
本出願において「弱化」とは、タンパク質またはポリペプチドの機能が低下することを意味し、上記ジヒドロジピコリン酸レダクターゼの活性が弱化することによりスレオニン生合成とリシン生合成の共通した前駆体であるアスパルチルセミアルデヒドからリシンを生合成するための経路に送る機能が低下し、結果的に最終産物であるリシンの生産能力は減少する一方、スレオニンの生産能力は増加してスレオニン及びスレオニン由来のアミノ酸の生産性を高めることができる。上記スレオニン由来のアミノ酸は、スレオニンを前駆体にして生合成できるアミノ酸を意味し、スレオニンから生合成され得る物質であれば、制限されない。
【0044】
また、本出願において上記ジヒドロジピコリン酸レダクターゼは、機能が弱化するだけで阻害されるものではないため、リシン生合成前駆体であるジアミノピメリン酸を生産するには問題はなく、微生物の細胞壁の合成は阻害されず、菌株の生長には問題はないことを特徴とする。即ち、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼをコードする遺伝子(dapB)を欠損することではなく、13番目のアミノ酸が他のアミノ酸で置換される変異により適切な水準に活性を弱化させることができる。
【0045】
本出願のもう一つの様態は、上記ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。
上記ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ、変異型ポリペプチドについては上記説明した通りである。
【0046】
本出願において用語、「ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチド単量体(monomer)が共有結合により長く鎖状につながったヌクレオチドの重合体(polymer)で一定の長さ以上のDNAまたはRNA鎖を含む意味を有し、この基本構成単位であるヌクレオチドは天然ヌクレオチドだけでなく、糖または塩基部位が変形された類似体(analogue)も含む。本出願において上記ポリヌクレオチドは、細胞から分離されたポリヌクレオチドまたは人為的に合成されたポリヌクレオチドであってもよいが、これに制限されるものではない。
【0047】
具体的には、上記ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであってもよい。本出願の変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、本出願のジヒドロジピコリン酸レダクターゼ活性を有する変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列であれば、制限なく含まれてもよい。一具体例として、本出願の変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、配列番号4または配列番号54の塩基配列またはこれと少なくとも60%、70%、80%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、97%、98%または99%の相同性または同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドであってもよい。また、このような相同性または同一性を有し、上記ジヒドロジピコリン酸レダクターゼポリペプチドに対応する生物学的活性を示すアミノ酸配列をコードする塩基配列であれば、13番目のアミノ酸をコードする塩基配列以外の一部の配列が欠失、変形、置換または付加された塩基配列を有するポリヌクレオチドも本出願の範囲に含まれることは自明である。
【0048】
本出願においてジヒドロジピコリン酸レダクターゼ変異体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドは、具体的には、コリネバクテリウム属微生物由来であってもよく、より具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカム由来であってもよい。しかし、これに制限されるものではない。
【0049】
遺伝暗号の縮退性(genetic code degeneracy)に起因して同一アミノ酸配列をコードする塩基配列及びこの変異体も本出願に含まれてもよい。具体的には、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドはコドンの縮退性(degeneracy)により上記ポリペプチドを発現させようとする生物で好まれるコドンを考慮し、コーディング領域から発現されるポリペプチドのアミノ酸配列を変化させない範囲内でコーディング領域に多様な変形がなされてジヒドロジピコリン酸レダクターゼの活性を有する限り、制限なく含まれてもよい。
【0050】
または公知の遺伝子配列から製造され得るプローブ、例えば、上記ポリヌクレオチド配列の全体または一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下にハイブリッド化し、上記配列番号のアミノ酸配列からなるポリペプチドの活性を有するポリペプチドをコードする配列であれば、制限なく含まれ得る。
【0051】
上記「ストリンジェントな条件」とは、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを可能にする条件を意味する。このような条件は、当業者においてよく知られている方法である文献(例えば、J. Sambrook et al.,Molecular Cloning、A Laboratory Manual,2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory press,Cold Spring Harbor,New York,1989; F.M. Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,Inc.,New York)に具体的に記載されている。例えば、相同性が高い遺伝子同士、80%、90%以上、より具体的には95%以上、さらに具体的には97%以上、特に具体的には99%以上の相同性を有する遺伝子同士でハイブリッド化し、それより相同性が低い遺伝子同士でハイブリッド化しない条件、または通常のサザンハイブリッド化の洗浄条件である60℃、1×SSC、0.1% SDS、具体的には60℃、0.1×SSC、0.1% SDS、より具体的には、68℃、0.1×SSC、0.1% SDSに相当する塩濃度及び温度で、1回、具体的には2回~3回洗浄する条件を列挙することができる。ハイブリダイゼーションは、たとえハイブリダイゼーションの厳格さにより塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2個の核酸が相補的配列を有することを要求する。
【0052】
本出願において用語、「相補的」とは、互いにハイブリダイゼーションが可能なヌクレオチド塩基間の関係を記述するのに用いられる。例えば、DNAについて、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。従って、本出願は、また、実質的に類似のヌクレオチド配列だけでなく、全体配列に相補的な単離されたヌクレオチド断片を含んでもよい。具体的には、相同性を有するポリヌクレオチドは55℃のTm値でハイブリダイゼーション段階を含むハイブリダイゼーション条件を用い、上述した条件を用いて探知することができる。また、上記Tm値は60℃、63℃または65℃であってもよいが、これに制限されるものではなく、その目的に応じて当業者により適宜調節され得る。ポリヌクレオチドをハイブリダイズする適切な厳格さは、ポリヌクレオチドの長さ及び相補性程度に依存し、変数は該当技術分野においてよく知られている(Sambrook et al.,supra,9.50-9.51,11.7-11.8を参照)。
【0053】
本出願のもう一つの様態は、上記変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターである。
本出願において用語、「ベクター」とは、適した宿主内で目的ポリペプチドを発現させるように適した調節配列に作動可能に連結された上記目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列を含有するDNA製造物を意味する。上記調節配列は、転写を開始できるプロモーター、そのような転写を調節するための任意のオペレータ配列、適したmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、及び転写及び解読の終結を調節する配列を含んでもよい。ベクターは、適当な宿主細胞内に形質転換された後、宿主ゲノムと関係なく複製されたり機能することができ、ゲノムそのものに統合されることができる。
【0054】
本出願で用いられるベクターは、宿主細胞内で複製可能であれば、特に限定されず、当業界において知られた任意のベクターを用いることができる。通常用いられるベクターの例としては、天然状態であるか、組み換えられた状態のプラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージを挙げることができる。例えば、ファージべクターまたはコスミドベクターとしてpWE15、M13、MBL3、MBL4、IXII、ASHII、APII、t10、t11、Charon4A及びCharon21Aなどを用いることができ、プラスミドベクターとしてpBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系及びpET系などを用いることができる。具体的には pDZ、pACYC177、pACYC184、pCL、pECCG117、pUC19、pBR322、pMW118、pCC1BACベクターなどを用いることができるが、これに制限されない。
【0055】
本出願で使用可能なベクターは、特に制限されるものではなく、公知となった発現ベクターを用いることができる。また、細胞内染色体挿入用ベクターを通じて染色体内に目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを挿入させることができる。上記ポリヌクレオチドの染色体内への挿入は、当業界において知られた任意の方法、例えば、相同組換えにより行われ得るが、これに限定されない。上記染色体挿入如何を確認するための選別マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。選別マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選別、即ち、目的核酸分子の挿入如何を確認するためのものであり、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性または表面タンパク質の発現のような選択可能表現型を付与するマーカーが用いられる。選択剤(selective agent)が処理された環境では選別マーカーを発現する細胞のみ生存したり異なる表現形質を示すため、形質転換された細胞を選別することができる。
【0056】
本出願の更に他の一つの様態は、上記ベクターが導入された形質転換体である。
本出願において用語「形質転換」とは、標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞内に導入して宿主細胞内で上記ポリヌクレオチドがコードするポリペプチドが発現できるようにすることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは宿主細胞内で発現できさえすれば、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置したり染色体外に位置したりに関係なく、これらをいずれも含んでもよい。また、上記ポリヌクレオチドは、標的ポリペプチドをコードするDNAまたはRNAを含む。上記ポリヌクレオチドは、宿主細胞内に導入されて発現できるものであれば、如何なる形態で導入されても問題ない。例えば、上記ポリヌクレオチドは、独自に発現されるのに必要な全ての要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入されてもよい。上記発現カセットは、通常、上記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されているプロモーター(promoter)、転写終結信号、リボソーム結合部位及び翻訳終結信号を含んでもよい。上記発現カセットは、自体複製が可能な発現ベクターの形態であってもよい。また、上記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入されて宿主細胞で発現に必要な配列と作動可能に連結されているものであってもよく、これに限定されない。上記形質転換する方法は、核酸を細胞内に導入する如何なる方法も含まれ、宿主細胞により当分野において公知となった通り、適した標準技術を選択して行うことができる。例えば、電気穿孔法(electroporation)、リン酸カルシウム(Ca(HPO、CaHPOまたはCa(PO)沈殿、塩化カルシウム(CaCl)沈殿、マイクロインジェクション法(microinjection)、ポリエチレングリコール(PEG)法、DEAE-デキストラン法、カチオンリポソーム法、及び硝酸リチウム-DMSO法などがあるが、これに制限されない。
【0057】
また、上記において用語「作動可能に連結」されたとは、本出願の目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介させるプロモーター配列と上記ポリヌクレオチド配列が機能的に連結されていることを意味する。作動可能な連結は、当業界の公知となった遺伝子組換え技術を用いて製造することができ、部位特異的DNA切断及び連結は、当業界の切断及び連結酵素などを用いて製作できるが、これに制限されない。
【0058】
本出願の更に他の一つの様態は、変異型ジヒドロジピコリン酸レダクターゼを含む微生物を提供する。具体的には、上記ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ変異型ポリペプチドを含む、L-スレオニンを生産するコリネバクテリウム属(the genus of Corynebacterium)微生物を提供する。
【0059】
上記ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ、変異型ポリペプチドは、上記説明した通りである。
本出願において用語、「微生物」とは、野生型微生物や、自然なまたは人為的に遺伝的変形が起こった微生物をいずれも含み、外部遺伝子が挿入されたり内在的遺伝子の活性が強化されたり弱化されるなどの原因により特定機序が弱化されたり強化された微生物をいずれも含む概念である。
【0060】
本出願において用語「スレオニン」または「L-スレオニン」は混用されてもよく、「リシン」または「L-リシン」も混用されてもよい。
具体的には、本出願のジヒドロジピコリン酸レダクターゼ変異型ポリペプチドを含む微生物は、自然にL-アミノ酸生産能を有している微生物またはL-アミノ酸の生産能がない親株にL-アミノ酸の生産能が付与された微生物を意味する。具体的には、上記ジヒドロジピコリン酸レダクターゼを含む微生物は、配列番号1または配列番号51のアミノ酸配列で13番目のアミノ酸がアスパラギン(Asparagine)、スレオニン(Threonine)、システイン(Cysteine)、チロシン(Tyrosine)、セリン(Serine)、リシン(Lysine)またはグルタミン(Glutamine)で置換された変異型ジヒドロジピコリン酸レダクターゼを発現する微生物であってもよく、一具体例として、上記アミノ酸配列で13番のアミノ酸であるアルギニンがアスパラギンで置換された変異型ジヒドロジピコリン酸レダクターゼを発現する微生物であってもよいが、これに制限されない。
【0061】
上記微生物は、13番目のアミノ酸が置換されたジヒドロジピコリン酸レダクターゼ変異型ポリペプチドを含むことにより生長に妨害されず、リシンの生産量は減少しながらスレオニンの生産量は増加させることを特徴とする。
【0062】
上記変異位置によりジヒドロジピコリン酸レダクターゼの酵素活性が弱化し、菌株の成長速度の遅延なしにもリシンの生産量減少及びスレオニン生産量増加をもたらすことができる。
【0063】
本出願の変異型ジヒドロジピコリン酸レダクターゼを含む微生物は、野生型または非変形ジヒドロジピコリン酸レダクターゼの活性を有するポリペプチドを含む微生物に比べてリシンの生産能が減少し、スレオニンの生産能が向上するため、これら微生物からスレオニンを高収率で得ることができる。
【0064】
本出願において上記ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ変異型ポリペプチドを含む微生物は、その種類が特に制限されないが、エンテロバクター(Enterbacter)属、エシェリキア(Escherichia)属、エルウィニア(Erwinia)属、セラチア(Serratia)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、プロビデンシア(Providencia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属及びブレビバクテリウム(Brevibacterium)属に属する微生物であってもよい。より具体的には、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属に属する微生物であってもよい。
【0065】
本出願において「コリネバクテリウム属微生物」は、具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、コリネバクテリウム・テルモアミノゲネス(Corynebacterium thermoaminogenes)、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)などであるが、必ずしもこれに限定されるものではない。一具体例では、本出願においてコリネバクテリウム属の微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)であってもよい。
【0066】
上記微生物は、上記ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み、または変異型ジヒドロジピコリン酸レダクターゼをコードするポリヌクレオチドを含むベクターが導入された微生物であってもよい。具体的には、上記導入は形質転換により行われ得るが、これに制限されず、本出願の目的上、上記宿主細胞または微生物は、上記変異型ポリペプチドを含みリシンまたはスレオニンまたは上記アミノ酸であるリシンまたはスレオニン由来のアミノ酸を生産できる微生物であればいずれも可能である。
【0067】
上記コリネバクテリウム属微生物は、具体的には、上記L-スレオニンの生合成経路を強化させるために、例えば、スレオニン合成酵素をコードするthrC、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(phosphoenolpyruvate carboxylase)をコードするppc遺伝子、ブドウ糖流入に関与するgalP遺伝子、リシン感受性アスパルトキナーゼ3(lysine-sensitive aspartokinase 3)をコードするlysC遺伝子、ホモセリン脱水素酵素(homoserine dehydrogenase)をコードするhom遺伝子またはオキサロ酢酸(Oxaloacetate)poolの増加を誘導するpyc遺伝子などの発現は、微生物内で強化または増加され得る。
【0068】
上記L-スレオニンに対するフィードバック阻害を解除させるために、例えば、1ysC遺伝子、hom遺伝子または、アスパルトキナーゼ及びホモセリン脱水素酵素1の二官能性を有する(Bifunctional aspartokinase/homoserine dehydrogenase 1)thrA遺伝子などに遺伝子変異を導入することができる。
【0069】
上記L-スレオニンの生合成経路を弱化させる遺伝子を不活性化させるために、例えば、L-スレオニン生合成中間体であるオキサロ酢酸(OAA)をホスホエノールピルビン酸(PEP)に転換するのに関与するpckA遺伝子、1ysC遺伝子を抑制するtyrR遺伝子、ブドウ糖の流入に関与するgalP遺伝子の発現を抑制するgalR遺伝子またはDNA結合転写二重調節因子(DNA-binding transcriptional dual regulator)であるmcbR遺伝子などの発現は、微生物内で弱化または不活性化され得る。
【0070】
上記L-スレオニンオペロンの活性を増加させるために、アスパルトキナーゼ(aspartokinase)、ホモセリンデヒドロゲナーゼ(homoserine dehydrogenase)、ホモセリンキナーゼ(homoserine kinase)及びスレオニンシンターゼ(threonine synthase)をコードする遺伝子で構成されたスレオニンオペロン(日本公開特許第2005-227977号)を含むプラスミドまたは大腸菌由来のスレオニンオペロンなどを微生物に導入し(TURBA E,et al,Agric. Biol. Chem. 53:2269~2271,1989)、微生物内でスレオニンオペロンの発現を増加させることができる。
【0071】
また、L-スレオニン類似体であるα-アミノ-β-ヒドロキシ吉草酸またはD,L-スレオニンヒドロキサメートなどに対して耐性を付与することができる。
また、L-スレオニンと共通した前駆体を有するL-リシンの生合成経路に作用する遺伝子であるdapA(ジヒドロピコリン酸シンターゼ:dihydrodipicolinate synthase)、1ysA(ジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼ:Diaminopimelate decarboxylase)、またはddh(ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ:diaminopimelate dehydrogenase)遺伝子を弱化させることができる。
【0072】
しかし、これに制限されずに当業界において公知となった遺伝子発現調節方法でL-スレオニン生産能を強化することができる。
本出願において、用語「強化/増加」とは、内在的活性に比べて活性が増加することをいずれも含む概念である。
【0073】
このような遺伝子活性の強化または増加は、当該分野においてよく知られている多様な方法の適用により達成される。上記方法の例として、遺伝子の細胞内コピー数の増加;遺伝子の発現調節の配列に変異を導入する方法;遺伝子発現調節配列を活性が強力な配列に交替する方法;遺伝子の活性が強化されるように当該遺伝子に変異を追加で導入させる方法;及び微生物に外来遺伝子を導入する方法からなる群から選択されるいずれか一つ以上の方法で行われ、これらの組合わせでも達成できるが、上記例により特に制限されるものではない。
【0074】
本出願において用語、「不活性化」とは、内在的活性に比べて活性が弱化したり、または活性がないことをいずれも含む概念である。
このような遺伝子活性の不活性化または弱化は、当該分野においてよく知られている多様な方法の適用により達成される。上記方法の例として、上記遺伝子の活性が除去された場合を含めて染色体上の遺伝子の全体または一部を欠失させる方法; 当該ポリペプチドの活性が減少するように突然変異された遺伝子で、染色体上の上記ポリペプチドをコードする遺伝子に代替する方法;上記ポリペプチドをコードする染色体上の遺伝子の発現調節の配列に変異を導入する方法;上記ポリペプチドをコードする遺伝子の発現調節配列を活性が弱かったり、ない配列に交替する方法(例えば、上記遺伝子のプロモーターを内在的プロモーターより弱いプロモーターに交替する方法);上記ポリペプチドをコードする染色体上の遺伝子の全体または一部を欠失させる方法;上記染色体上の遺伝子の転写体に相補的に結合して上記mRNAからポリペプチドへの翻訳を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスRNA)を導入する方法;上記ポリペプチドをコードする遺伝子のSD配列の前段にSD配列と相補的な配列を人為的に付加し、2次構造物を形成させてリボソーム(ribosome)の付着を不可能にさせる方法及び当該配列のORF(open reading frame)の3’末端に逆転写されるようにプロモーターを付加するRTE(Reverse transcription engineering)方法などがあり、これらの組合わせでも達成できるが、上記例により特に制限されるものではない。
【0075】
例えば、1ysC,hom,またはpycの活性強化のために、遺伝子の細胞内コピー数の増加;遺伝子の発現調節の配列に変異を導入する方法;遺伝子発現調節配列を活性が強力な配列で交替する方法;遺伝子の活性が強化されるように当該遺伝子に変異を追加で導入させる方法;及び微生物に外来遺伝子を導入する方法などからなってもよいが、これに制限されるものではなく、活性の強化または増加のために公知となった方法が制限なく用いられる。
【0076】
例えば、dapA、ddhまたは1ysAの活性弱化のために上記遺伝子の活性が除去された場合を含めて染色体上の遺伝子の全体または一部を欠失させる方法;当該ポリペプチドの活性が減少するように突然変異された遺伝子で、染色体上の上記ポリペプチドをコードする遺伝子に代替する方法;上記ポリペプチドをコードする染色体上の遺伝子の発現調節の配列に変異を導入する方法;上記ポリペプチドをコードする遺伝子の発現調節配列を活性が弱かったり、ない配列に交替する方法(例えば、上記遺伝子のプロモーターを内在的プロモーターより弱いプロモーターに交替する方法);上記ポリペプチドをコードする染色体上の遺伝子の全体または一部を欠失させる方法などからなってもよいが、これに制限されるものではなく、活性弱化のために公知となった方法が制限なく用いられる。
【0077】
また、上記ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ変異型ポリペプチドを含む微生物に次の変異型ポリペプチドのいずれか一つ以上をさらに含んでもよい。
上記さらに含まれる変異型ポリペプチドは、配列番号80のアミノ酸配列で119番目のアミノ酸がチロシンからフェニルアラニンに置換されたジヒドロピコリン酸シンターゼ(dihydrodipicolinate synthase)変異型ポリペプチド、配列番号81のアミノ酸配列で302番目のアミノ酸がアルギニンからアラニンに置換されたジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼ(Diaminopimelate decarboxylase)変異型ポリペプチド;及び配列番号82のアミノ酸配列で169番目のアミノ酸がスレオニンからロイシンに置換されたジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ(diaminopimelate dehydrogenase)変異型ポリペプチドの中から選択されるいずれか一つ以上であってもよい。
【0078】
上記配列番号80のアミノ酸配列で119番目のアミノ酸がチロシンからフェニルアラニンに置換されたジヒドロピコリン酸シンターゼ(dihydrodipicolinate synthase)変異型ポリペプチドのアミノ酸の配列は配列番号65であってもよいが、これに限定されるものではない。上記ジヒドロピコリン酸シンターゼ(dihydrodipicolinate synthase,dapA)は、リシンとスレオニンの共通前駆体であるアスパルチルセミアルデヒド(Aspartyl semialdehyde)からリシンを生合成するための酵素であり、上記119番目のアミノ酸配列がチロシンからフェニルアラニンに置換されることでジヒドロピコリン酸シンターゼの機能が弱化することによりリシンの生産能は減少し得る。本出願の実施例において上記変異型ポリペプチドを導入することによりリシンの生産量は減少し、スレオニンの生産量が増加することを確認することができた。
【0079】
上記配列番号81のアミノ酸配列で302番目のアミノ酸がアルギニンからアラニンに置換されたジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼ(Diaminopimelate decarboxylase)変異型ポリペプチドのアミノ酸配列は配列番号70であってもよいが、これに限定されるものではない。上記ジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼ(Diaminopimelate decarboxylase,lysA)は、リシン生合成に作用する最後の酵素であり、上記302番目のアミノ酸配列がアルギニンからアラニンに置換されることでジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼの機能が弱化することによりリシンの生産能は減少し得る。本出願の実施例において上記変異型ポリペプチドを導入することによりリシンの生産量は減少し、スレオニンの生産量が増加することを確認することができた。
【0080】
上記配列番号82のアミノ酸配列で169番目のアミノ酸がスレオニンからロイシンに置換されたジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ(diaminopimelate dehydrogenase)変異型ポリペプチドのアミノ酸配列は配列番号75であってもよいが、これに限定されるものではない。上記ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ(diaminopimelate dehydrogenase,ddh)はリシンの生合成に作用する酵素であり、上記169番目のアミノ酸がスレオニンからロイシンに置換されることでジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼの機能が弱化することによりリシンの生産能は減少し得る。本出願の実施例において上記変異型ポリペプチドを導入することによりリシンの生産量は減少し、スレオニンの生産量が増加することを確認することができた。
【0081】
本出願の更に他の一つの様態は、記述された微生物を培地で培養する段階を含む、スレオニンまたはスレオニン由来L-アミノ酸の生産方法を提供する。
また、上記生産方法は、上記培養された微生物または培養された培地からスレオニンまたはスレオニン由来L-アミノ酸を回収する段階をさらに含む、スレオニンまたはスレオニン由来L-アミノ酸の生産方法を提供する。
【0082】
上記微生物は、上記説明した通り、本出願のジヒドロジピコリン酸レダクターゼ変異型ポリペプチドを含むコリネバクテリウム属微生物であってもよく、より具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカムであってもよい。また、上記コリネバクテリウム属微生物またはコリネバクテリウム・グルタミカムは、スレオニンまたはスレオニン由来L-アミノ酸を生産する微生物であってもよい。上記スレオニン由来L-アミノ酸はスレオニン由来L-アミノ酸だけでなく、この誘導体も含んでもよい。例えば、L-スレオニン、L-イソロイシン、O-アセチル-L-ホモセリン、O-スクシニル-L-ホモセリン、O-ホスホ-L-ホモセリン、L-メチオニン及び/又はL-グリシンであってもよいが、これに制限されない。より具体的には、L-スレオニン、L-イソロイシン、O-アセチル-L-ホモセリン、O-スクシニル-L-ホモセリン及び/又はL-メチオニンであってもよいが、これに制限されない。
【0083】
上記スレオニンまたはスレオニン由来L-アミノ酸は、本出願の記述された微生物が生産したスレオニンまたはスレオニン由来L-アミノ酸培養液であるか、または精製された形態であってもよい。また、そのものの形態だけでなく、その塩の形態も全て含むことは、当業者に自明である。
【0084】
上記スレオニンまたはスレオニン由来L-アミノ酸を生産する方法は、当業界において公知となった最適化された培養条件及び酵素活性条件で当業者により容易に決定され得る。
【0085】
上記方法において、上記微生物を培養する段階は、特に制限されないが、公知となった回分式培養方法、連続式培養方法、流加式培養方法などにより行われ得る。この時、培養条件は、特にこれに制限されないが、塩基性化合物(例:水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたはアンモニア)または酸性化合物(例:リン酸または硫酸)を用いて適正pH(例えば、pH5~9、具体的にはpH6~8、最も具体的にはpH6.8)を調節することができるが、これに制限されるものではない。また、酸素または酸素含有ガス混合物を培養物に導入させて好気性条件を維持することができる。培養温度は20℃~45℃、具体的には25℃~40℃を維持することができるが、これに制限されるものではない。培養時間は約10~160時間培養できるが、これに制限されるものではない。上記培養により生産されたアミノ酸、一具体例として、スレオニンまたはリシンは、培地中に分泌されたり細胞内に残留してもよい。
【0086】
併せて、用いられる培養用培地は、炭素供給源としては、糖及び炭水化物(例:グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、モラセス、澱粉及びセルロース)、油脂及び脂肪(例:大豆油、ヒマワリ種子油、ピーナッツ油及びココナッツ油)、脂肪酸(例:パルミチン酸、ステアリン酸及びリノール酸)、アルコール(例:グリセロール及びエタノール)及び有機酸(例:酢酸)などを個別に用いたりまたは混合して用いられるが、これに制限されない。窒素供給源としては、窒素含有有機化合物(例:ペプトン、酵母抽出液、肉汁、麦芽抽出液、トウモロコシ浸漬液、大豆粕粉及びウレア)、または無機化合物(例:硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム及び硝酸アンモニウム)などを個別に用いたり、または混合して用いられるが、これに制限されない。リン供給源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、これに対応するナトリウム含有塩などを個別に用いたり、または混合して用いられるが、これに制限されない。また、培地にはその他金属塩(例:硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄)、アミノ酸及びビタミンのような必須成長促進物質を含んでもよい。
【0087】
本出願の上記培養段階で生産されたスレオニンまたはスレオニン由来L-アミノ酸を回収する方法は、培養方法により当該分野において公知となった適した方法を用いて培養液から目的とする産物を得ることができる。例えば、遠心分離、濾過、アニオン交換クロマトグラフィ、結晶化及びHPLCなどが用いられ、当該分野において公知となった適した方法を用いて培地または微生物から目的物質であるスレオニンまたはスレオニン由来L-アミノ酸を回収することができる。また、上記回収段階は、追加の精製工程を含んでもよく、当該分野において公知となった適した方法を用いて行われ得る。
【0088】
本出願のもう一つの様態は、本出願のジヒドロジピコリン酸レダクターゼ変異型ポリペプチド;上記変異体をコードするポリヌクレオチド;及び上記ポリヌクレオチドを含むベクター;のいずれか一つ以上を含む、微生物またはその培養液を含む、L-スレオニン生産用組成物を提供する。
【0089】
上記ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ、その変異型ポリペプチド、ポリヌクレオチド、ベクター及び微生物は、前述した通りである。
上記微生物は、コリネバクテリウム属であってもよく、具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカムであってもよいが、これに制限されない。これについては前述した通りである。
【0090】
上記L-スレオニン生産用組成物は、本出願のジヒドロジピコリン酸レダクターゼ変異型ポリペプチドによりL-スレオニンを生産できる組成物を意味してもよい。上記組成物は、上記ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ変異型ポリペプチドまたは上記ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ変異型ポリペプチドを作動させる構成を制限なく含んでもよい。上記ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ変異型ポリペプチドは、導入された宿主細胞で作動可能に連結された遺伝子を発現させるようにベクター内に含まれた形態であってもよい。
【0091】
上記組成物は、凍結保護剤または賦形剤をさらに含んでもよい。上記凍結保護剤または賦形剤は、非自然的に発生した(non-naturally occurring)物質または自然に発生した物質であってもよいが、これに制限されるものではない。もう一つの具体例として、上記凍結保護剤または賦形剤は、上記微生物が自然に接触しない物質、または上記微生物と自然に同時に含まれない物質であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0092】
本出願のもう一つの様態は、上記本出願のジヒドロジピコリン酸レダクターゼ変異型ポリペプチド;上記変異体をコードするポリヌクレオチド;上記ポリヌクレオチドを含むベクター;またはそのうちのいずれか一つ以上を含む微生物のL-スレオニンまたはスレオニン由来L-アミノ酸の生産における使用を提供する。
【0093】
以下、本出願を実施例を通じてより詳しく説明する。しかし、これら実施例は、本出願を例示的に説明するためのものであり、本出願の範囲がこれら実施例に局限されるわけではない。
【0094】
実施例1:dapB遺伝子ORF内変異導入用ベクターライブラリの製作
コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)のdapB遺伝子の発現量またはその活性が弱化した変異体を発掘するための目的で下記の方法でライブラリを製作した。
【0095】
まず、dapB(747bp)遺伝子を含むDNA断片(747bp)のkb当たり0-4.5個を変異を導入するための目的でGenemorphII Random Mutagenesis Kit(Stratagene)を用いた。コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032(WT)の染色体を鋳型とし、プライマー配列番号5及び6を用いてError-prone PCRを行った。具体的には、WT菌株の染色体(500ng)、プライマー5及び6(それぞれ125ng)、Mutazyme II reaction buffer(1Х),dNTP mix(40 mM),Mutazyme II DNA polymerase(2.5U)を含む反応液は94℃で2分間の変性後、94℃で1分間の変性、56℃で1分間のアニーリング、72℃で2分間の重合を25回繰り返した後、72℃で10分間の重合反応を行った。
【0096】
増幅された遺伝子断片は、TOPO TA Cloning Kit(Invitrogen)を用いてpCRIIベクターに連結し、大腸菌DH5αに形質転換してカナマイシン(25mg/l)が含まれたLB固体培地に塗抹した。形質転換されたコロニー20種を選別した後、プラスミドを獲得し、塩基配列を分析した結果、0.5 mutations/kbの頻度で互いに異なる位置に変異が導入されていることを確認した。最終的には、約10,000個の形質転換された大腸菌コロニーをとってプラスミドを抽出し、これをpTOPO-dapB(mt)ライブラリと命名した。
【0097】
実施例2:dapB欠損株の製作及び成長速度を基盤にdapB変異株スクリーニング
野生型のコリネバクテリウム・グルタミカムグルタミカムATCC13032でdapB遺伝子が欠損した菌株を製作するために、下記の通りdapB遺伝子が欠損したベクターpDZ-ΔdapBを製造した。具体的には、dapB遺伝子の5’及び3’末端に位置したDNA断片が(各300bp)pDZベクター(大韓民国特許第2009-0094433号)に連結された形態で製作された。報告されたdapB遺伝子の塩基配列(配列番号2)に基づいて5’断片及び3’断片に制限酵素SalI認識部位を挿入したプライマー配列番号7及び8とこれらからそれぞれ300bp離れた位置でプライマー配列番号9及び10を合成した。コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032の染色体を鋳型として5’末端の遺伝子断片は、プライマー配列番号7及び9を用いてPCRを通じて製作した。同様の方法でgltA遺伝子の3’末端に位置した遺伝子断片は、配列番号8及び10を用いてPCRを通じて製作した。PCR条件は94℃で2分間の変性後、94℃で1分間の変性、56℃で1分間のアニーリング、72℃で40秒間の重合を30回繰り返した後、72℃で10分間の重合反応を行った。
【0098】
一方、制限酵素SalIで処理した後、65℃で20分間熱処理したpDZベクターと上記PCRを通じて増幅した挿入DNA断片をInfusion Cloning Kitを用いて連結した後、大腸菌DH5αに形質転換し、カナマイシン(25mg/l)が含まれたLB固体培地に塗抹した。プライマー配列番号7及び8を用いたPCRを通じて目的とした遺伝子が挿入されたベクターで形質転換されたコロニーを選別した後、通常知られているプラスミド抽出法を用いてプラスミドを獲得し、このプラスミドをpDZ-ΔdapBと命名した。
【0099】
上記製作されたベクターpDZ-ΔdapBをコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032に電気パルス法(Van der Rest et al.,Appl. Microbial. Biotechnol. 52:541-545,1999)で形質転換し、相同染色体組換えによりdapB遺伝子が欠損した菌株を製作した。このようにdapB遺伝子が欠損した菌株をコリネバクテリウム・グルタミカム13032::ΔdapBと命名した。
【0100】
また、13032::ΔdapB菌株を対象にpTOPO-dapB(mt)ライブラリを電気パルス法で形質転換し、カナマイシン(25mg/1)が含まれた複合平板培地に塗抹して約100個のコロニーを確保した。確保した100株の菌株に対してL-リシン生産能テストを進めた。種培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに獲得した100株の菌株を接種した後、30℃で20時間200rpmで振盪培養した。下記L-リシン生産培地24mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに1mlの種培養液を接種し、30℃で48時間200rpmで振盪培養した。
【0101】
リシン生産培地(pH7.0)
ブドウ糖100g、(NHSO 40g、大豆タンパク質2.5g、トウモロコシ浸漬固形分(Corn Steep Solids) 5g、尿素3g、KHPO 1g、MgSO・7HO 0.5g、ビオチン100μg、チアミン塩酸塩1000μg、パントテン酸カルシウム2000μg、ニコチンアミド3000μg、CaCO 30g(蒸溜水1リットル基準)。
【0102】
13032及び13032::ΔdapB菌株を対照群として用いた。培養終了後にHPLCを用いてリシンの生産量を測定した。野生型である13032菌株対比L-リシン濃度は減少しながら13032::ΔdapB菌株よりはL-リシン濃度が高く出る菌株6種を選別し、6種に対するアミノ酸の培養液内の濃度を表1に示した。上記選別された6種の菌株は13032::dapB(mt)-1~6と命名した。その他94種のコロニーは対照群として用いられた13032よりL-リシン濃度が高かったり13032::ΔdapB菌株と同様な水準を示した。また、13032::ΔdapB菌株の生長速度が13032比で大幅に減少する一方、選別された6種の菌株は13032::ΔdapBよりは高い生長速度を維持することを確認することができた。
【0103】
【表1】
【0104】
表1の結果のように、選別された6種の菌株は、L-リシン濃度がWT菌株よりは少ないながら13032::ΔdapB菌株よりは高く出る結果を示した。
実施例3:dapB変異株6種の塩基配列の確認
6種の選別菌株13032::dapB(mt)-1~6のdapB遺伝子塩基配列を確認するために、実施例1に明示されたプライマーを(配列番号5及び6)用いて染色体内dapB遺伝子を含むDNA断片をPCR増幅した。PCR条件は、94℃で2分間の変性後、94℃で1分間の変性、56℃で1分間のアニーリング、72℃で40秒間の重合を30回繰り返した後、72℃で10分間の重合反応を行った。
【0105】
増幅された遺伝子の塩基配列を分析した結果6種の菌株中、順に13032::dapB(mt)-1は配列番号2の37~39番目の塩基配列が既存のCGTからAACに変わった、N末端から13番目のアミノ酸であるアルギニンがアスパラギンで置換された形態の変異体、13032::dapB(mt)-2は配列番号2の106~108番目の塩基配列が既存のGTCからATCに変わった、N末端から36番目のアミノ酸であるバリンがメチオニンで置換された形態の変異体、13032::dapB(mt)-3は配列番号2の175~177番目の塩基配列が既存のGCTからCTGに変わった、N末端から59番目のアミノ酸であるアラニンがロイシンで置換された形態の変異体、13032::dapB(mt)-4は配列番号2の235~237番目の塩基配列が既存のACGからGCAに変わった、N末端から79番目のアミノ酸であるスレオニンがアラニンで置換された変異体、13032::dapB(mt)-5は配列番号2の433~435番目の塩基配列がACGからGCGに変わった、N末端から145番目のアミノ酸であるスレオニンがアラニンで置換された変異体、最後に13032::dapB(mt)-6は配列番号2の414番目の塩基配列がGからCに変わった、N末端から138番目のアミノ酸であるリシンがアルギニンで置換された変異体であることを確認した。
【0106】
上記6種の菌株中、L-リシンの生産量がWT菌株である13032比減少しながら13032::ΔdapBとは最も類似にL-リシンの生産量が少ないながら生長速度はWT菌株である13032と類似の13032::dapB(mt)-1菌株を最も優れたジヒドロジピコリン酸レダクターゼ活性弱化菌株として選別した。
【0107】
実施例4:dapB遺伝子の13番目のアミノ酸であるアルギニンが他のアミノ酸で置換された多様な菌株の製作
上記アミノ酸配列1で13番目のアミノ酸の位置に、野生型が有するアルギニンを除いた他のproteogenicアミノ酸への置換を試みた。
【0108】
実施例3で確認した変異であるR13Nを含む19種の異種性塩基置換変異を導入するためにそれぞれの組換えベクターを下記のような方法で製作した。
まず、WT菌株から抽出したゲノムDNAを鋳型としてdapB遺伝子の36~39番目の位置で前後にそれぞれ約600bp離れた位置に5’断片及び3’断片に制限酵素SalI認識部位を挿入したプライマー配列番号11及び12を合成した。19種の異種性塩基置換変異を導入するためにdapB遺伝子の36~39番目の塩基配列を置換するためのプライマー配列番号13~50を合成した。
【0109】
具体的には、pDZ-dapB(R13N)プラスミドはdapB遺伝子の5’及び3’末端に位置したDNA断片が(各600bp)pDZベクター(大韓民国特許第2009-0094433号)に連結された形態で製作された。WT菌株の染色体を鋳型として5’末端の遺伝子断片はプライマー配列番号11及び13を用いてPCRを通じて製作した。PCR条件は、94℃で2分間の変性後、94℃で1分間の変性、56℃で1分間のアニーリング、72℃で40秒間の重合を30回繰り返した後、72℃で10分間の重合反応を行った。同様の方法でdapB遺伝子の3’末端に位置した遺伝子断片は配列番号12及び14を用いてPCRを通じて製作した。増幅されたDNA断片をQuiagen社のPCR Purification kitを用いて精製した後、ベクター製作のための挿入DNA断片として用いた。
【0110】
一方、制限酵素SalIで処理した後、65℃で20分間熱処理したpDZベクターと上記PCRを通じて増幅した挿入DNA断片をInfusion Cloning Kitを用いて連結した後、大腸菌DH5αに形質転換した。上記菌株をカナマイシン(25mg/l)が含まれたLB固体培地に塗抹した。プライマー配列番号11及び12を用いたPCRを通じて目的とした遺伝子が挿入されたベクターで形質転換されたコロニーを選別した後、通常知られているプラスミド抽出法を用いてプラスミドを獲得した。上記プラスミドはpDZ-dapB(R13N)と命名した。
【0111】
同様の方法でプライマー配列番号11及び15、12及び16を用いてpDZ-dapB(R13G)、プライマー配列番号11及び17、12及び18を用いてpDZ-dapB(R13A)、プライマー配列番号11及び19、12及び20を用いてpDZ-dapB(R13V)、プライマー配列番号11及び21、12及び22を用いてpDZ-dapB(R13L)、プライマー配列番号11及び23、12及び24を用いてpDZ-dapB(R13I)、プライマー配列番号11及び25、12及び26を用いてpDZ-dapB(R13M)、プライマー配列番号11及び27、12及び28を用いてpDZ-dapB(R13F)、プライマー配列番号11及び29、12及び30を用いてpDZ-dapB(R13W)、プライマー配列番号11及び31、12及び32を用いてpDZ-dapB(R13P)、プライマー配列番号11及び33、12及び34を用いてpDZ-dapB(R13S)、プライマー配列番号11及び35、12及び36を用いてpDZ-dapB(R13T)、プライマー配列番号11及び37、12及び38を用いてpDZ-dapB(R13C)、プライマー配列番号11及び39、12及び40を用いてpDZ-dapB(R13Y)、プライマー配列番号11及び41、12及び42を用いてpDZ-dapB(R13Q)、プライマー配列番号11及び43、12及び44を用いてpDZ-dapB(R13D)、プライマー配列番号11及び45、12及び46を用いてpDZ-dapB(R13E)、プライマー配列番号11及び47、12及び48を用いてpDZ-dapB(R13K)、プライマー配列番号11及び49、12及び50を用いてpDZ-dapB(R13H)を製作した。
【0112】
dapB変異導入によるリシン濃度及び生長速度をより明確にするために、それぞれ製作されたベクターをリシンを生産するコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11016P菌株(大韓民国登録特許第10-0159812号)に電気パルス法で形質転換した。このようにdapB遺伝子に異種性塩基置換変異が導入された菌株19種は KCCM11016P::dapB(R13N),KCCM11016P::dapB(R13G),KCCM11016P::dapB(R13A),KCCM11016P::dapB(R13V),KCCM11016P::dapB(R13L),KCCM11016P::dapB(R13I),KCCM11016P::dapB(R13M),KCCM11016P::dapB(R13F),KCCM11016P::dapB(R13F),KCCM11016P::dapB(R13W),KCCM11016P::dapB(R13P),KCCM11016P::dapB(R13S),KCCM11016P::dapB(R13T),KCCM11016P::dapB(R13C),KCCM11016P::dapB(R13Y),KCCM11016P::dapB(R13Q),KCCM11016P::dapB(R13D),KCCM11016P::dapB(R13E),KCCM11016P::dapB(R13K)とそれぞれ命名した。
【0113】
実施例5:dapB変異株に対するリシン生産能の分析
KCCM11016P菌株を対照群として用いて選別菌株19種を下記のような方法で培養して糖消耗速度、リシン生産収率、スレオニン生産収率を測定した。
【0114】
まず、種培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに各菌株を接種し、30℃で20時間、200rpmで振盪培養した。その後、生産培地24mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに1mlの種培養液を接種し、32℃で72時間、200rpmで振盪培養した。上記種培地と生産培地の組成は、それぞれ下記の通りである。培養終了後にHPLC(Waters 2478)を用いてL-リシンとL-スレオニンの濃度を測定した。
【0115】
<種培地(pH7.0)>
ブドウ糖20g、ペプトン10g、酵母抽出物5g、尿素1.5g、 KHPO 4g、KHPO8g、MgSO・7HO 0.5g、ビオチン100μg、チアミンHCl 1000μg、パントテン酸カルシウム2000μg、ニコチンアミド2000μg(蒸溜水1リットル基準)
<生産培地(pH7.0)>
ブドウ糖100g、(NHSO 40g、大豆タンパク質2.5g、トウモロコシ浸漬固形分(Corn Steep Solids) 5g、尿素3g、KHPO 1g、MgSO・7HO 0.5g、ビオチン100μg、チアミン塩酸塩1000μg、パントテン酸カルシウム2000μg、ニコチンアミド3000μg、CaCO 30g(蒸溜水1リットル基準)。
【0116】
リシン及びスレオニン生産能、及び糖消耗速度の測定結果は、下記表2の通りである。
【0117】
【表2】
【0118】
配列番号1の13番目のアミノ酸が他のアミノ酸で置換された変異型ポリペプチドを含む菌株の場合、置換されたアミノ酸が極性を帯びる場合(S,T,C,Y,N,Q,K)、菌株の生長は産業上活用可能な水準に維持されながらリシン生産能が弱化し、スレオニンの生産能が向上したことを確認することができた。そのうち、R13N変異導入株の場合、菌株の生長はKCCM11016Pと最も類似しながらリシン生産能が最も下落し、スレオニンの生産能は最も大きく上昇したことが見られた。また、R13S、R13T、R13C、R13Y、R13Q、R13K変異菌株も菌株の生長が維持されながらリシンの生産能は減少する一方、スレオニンの生産能が向上したことが見られた。
【0119】
一方、残りの性質のアミノ酸で置換された場合、スレオニン生産能が減少したり、菌株の糖消耗速度も対照群と同等であるか、またはそうでなければ、大きく下落して産業上活用不可能な水準であることが確認された。
【0120】
上記のような結果により、本出願の変異を導入する場合、菌株の生長は適正水準に維持されながらリシン収率のみ減少させ、スレオニン生産性の向上に効果があることを確認することができた。
【0121】
本結果は、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼの活性調節を通じて、リシン生合成経路の弱化による細胞壁合成の阻害により引き起こされる菌株の生長速度は維持させながら適切な水準にリシン生産能を減少させ、同時に、それによる炭素の流れをスレオニンに送ることによりスレオニンの生産能を向上させる結果を確認することができた。
【0122】
実施例6:コリネバクテリウム属微生物ATCC13032基盤dapB遺伝子の13番目のアミノ酸であるアルギニンがアスパラギンで置換された菌株の製作
13番目のアミノ酸がアスパラギンで置換された変異体の効果を野生型菌株で再確認するために、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC 13032が内在的に有するジヒドロジピコリン酸レダクターゼのアミノ酸配列(配列番号1)で13番目のアミノ酸であるアルギニンをアスパラギンで置換した。
【0123】
具体的には、実施例4で製作したpDZ-dapB(R13N)ベクターをコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032に電気パルス法で形質転換した。このように、dapB遺伝子に異種性塩基置換変異が導入された菌株を13032::dapB(R13N)と命名した。
【0124】
実施例7:コリネバクテリウム属微生物ATCC13032基盤dapB変異株に対するスレオニン及びリシン生産能の分析
実施例1で用いた13032::ΔdapB菌株とコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032菌株を対照群として用いて上記実施例6で製作された13032::dapB(R13N)菌株を下記のような方法で培養し、糖消耗速度、スレオニン及びリシン生産収率を測定した。
【0125】
まず、種培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに各菌株を接種し、30℃で20時間、200rpmで振盪培養した。その後、生産培地24mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに1mlの種培養液を接種し、32℃で24時間、200rpmで振盪培養した。上記種培地と生産培地の組成は、それぞれ下記の通りである。培養終了後にHPLC(Waters 2478)を用いてL-リシンとL-スレオニンの濃度を測定した。
【0126】
種培地(pH7.0)
ブドウ糖20g、ペプトン10g、酵母抽出物5g、尿素1.5g、KHPO 4g、KHPO8g、MgSO・7HO 0.5g、ビオチン100μg、チアミンHCl 1000μg、パントテン酸カルシウム2000μg、ニコチンアミド2000 μg(蒸溜水1リットル基準)
L-スレオニン生産培地(pH7.2)
ブドウ糖30g、KHPO2g、Urea 3g、(NHSO 40g、Peptone 2.5g、CSL(Sigma) 5g(10 ml)、MgSO・7HO 0.5g、Leucine 400mg、CaCO 20g(蒸溜水1リットル基準)。
【0127】
培養の結果、スレオニン及びリシン生産能、糖消耗速度の測定結果は、下記表3の通りである。
【0128】
【表3】
【0129】
dapB遺伝子が欠損した菌株の場合、親株比リシン濃度は減少し、スレオニン濃度は小幅増加したが、培養後半まで糖を消耗できなかった。即ち、dapB遺伝子が欠失してリシン生合成能がない場合は、菌株の生長が抑制され、産業上活用し難いと見られた。配列番号1の13番目のアルギニンがアスパラギンで置換された変異型ポリペプチドを含む13032::dapB(R13N)菌株の場合、菌株の生長は産業上活用可能な水準に維持されながらリシン濃度が減少し、スレオニン濃度は増加することを確認した。即ち、本出願の変異を導入する場合、スレオニン濃度は向上させながら、副産物であるリシンは減少させる効果があることを確認することができる。
【0130】
本結果によりdapB遺伝子の変異導入を通じてジヒドロジピコリン酸レダクターゼの活性を弱化させる時、スレオニンとリシンの共通前駆体であるアスパルチルセミアルデヒドから炭素の流れがリシン生合成側の流れに行くことを減らすことにより、スレオニンの生合成側の経路に流れるようにしてスレオニン生産量を増加させ、副産物であるリシン生産量を低減させることを確認することができる。
【0131】
実施例8:コリネバクテリウム属微生物ATCC13869基盤dapB遺伝子の13番目のアミノ酸であるアルギニンがアスパラギンで置換された菌株の製作
13番目のアミノ酸がアスパラギンで置換された変異体の効果を野生型菌株で再確認するために、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869微生物が内在的に有するジヒドロジピコリン酸レダクターゼのアミノ酸配列(配列番号51)で13番目のアミノ酸であるアルギニンをアスパラギンで置換した(配列番号53)。
【0132】
具体的には、実施例5で確認した変異であるR13Nをコリネバクテリウム・グルタミカムATCC 13869菌株に導入するための組換えベクターを下記のような方法で製作した。
【0133】
まず、13869菌株から抽出したゲノムDNAを鋳型とする点のみ実施例4と異なり、残りは実施例4と同一のプライマーと方法を用いてpDZ-dapB(R13N)-13869プラスミドを製作した。
【0134】
このように製作されたベクターをコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869に電気パルス法で形質転換した。このようにdapB遺伝子に異種性塩基置換変異が導入された菌株を13869::dapB(R13N)と命名した。
【0135】
実施例9:コリネバクテリウム属微生物ATCC13869基盤dapB欠損株の製作
実施例1で製作したpDZ-ΔdapBをコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869に電気パルス法(Van der Rest et al.,Appl. Microbial. Biotecnol. 52:541-545,1999)で形質転換し、相同染色体の組換えによりdapB遺伝子が欠損した菌株を製作した。このように、dapB遺伝子が欠損した菌株をコリネバクテリウム・グルタミカム13869::ΔdapBと命名した。
【0136】
実施例10:13869基盤dapB変異株に対するスレオニン及びリシン生産能の分析
コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869及び実施例9で製作した13869::ΔdapB菌株を対照群として用いて実施例8で製作された13869::dapB(R13N)菌株を先の実施例と同様な方法で培養し、糖消耗速度、スレオニン及びリシン生産収率を測定した。
【0137】
培養の結果、スレオニン及びリシン生産能、糖消耗速度の測定結果は、下記表4の通りである。
【0138】
【表4】
【0139】
dapB遺伝子が欠損した菌株の場合、親株比リシン濃度は減少し、スレオニン濃度は小幅増加したが、培養後半まで糖を消耗することができなかった。即ち、dapB遺伝子が欠失してリシン生合成能がない場合は、菌株の生長が抑制され、産業上活用し難いと見られる。配列番号53のように13番目のアルギニンがアスパラギンで置換された変異型ポリペプチドを含む13869::dapB(R13N)菌株の場合、菌株の生長は、産業上活用可能な水準に維持されながらリシン濃度が減少し、スレオニン濃度は増加することを確認した。即ち、本出願の変異を導入する場合、スレオニン濃度は向上させながら副産物であるリシンは減少させる効果があることが分かった。
【0140】
本結果を通じてジヒドロジピコリン酸レダクターゼ活性を弱化させるために、dapB遺伝子の変異導入をさせる場合、スレオニンとリシンの共通前駆体であるアスパルチルセミアルデヒドから炭素の流れがリシン生合成側の流れに行くことを減らすことによりスレオニンの生合成側の経路に流れるようにしてスレオニン生産量を増加させ、副産物であるリシン生産量を低減させるということが分かった。
【0141】
実施例11:スレオニン生産株基盤dapB(R13N)変異導入株の製作
dapB(R13N)変異導入によるL-スレオニン生産能の変化を明確に確認するために、スレオニン生産菌株を製作した。具体的には、スレオニン生合成経路で最初の重要な酵素として作用するaspartate kinase(lysC)のフィードバック阻害(feedback inhibition)の解消のために、lysC(L377K)変異が導入された菌株を製作した(大韓民国特許第2009-0094433号)。変異導入のための組換えベクターは、下記のような方法で製作された。
【0142】
lysC(L377K)変異が導入された菌株を製作するために、13032菌株から抽出したゲノムDNAを鋳型としてlysC遺伝子の1128~1131番目の位置で前後にそれぞれ約500bp離れた位置に5’断片及び3’断片に制限酵素Smal認識部位を挿入したプライマー配列番号56及び57を合成した。L377K異種性塩基置換変異を導入するために、lysC遺伝子の1128~1131番目の塩基配列を置換するためのプライマー配列番号58及び59を合成した。
【0143】
具体的には、pDZ-lysC(L377K)プラスミドは、lysC遺伝子の5’及び3’末端に位置したDNA断片が(各515,538bp)pDZベクター(大韓民国特許第2009-0094433号)に連結された形態で製作された。13032菌株の染色体を鋳型として5’末端の遺伝子断片は、プライマー配列番号56及び58を用いてPCRを通じて製作した。PCR条件は94℃で2分間の変性後、94℃で1分間の変性、56℃で1分間のアニーリング、72℃で40秒間の重合を30回繰り返した後、72℃で10分間の重合反応を行った。同様の方法で1ysC遺伝子の3’末端に位置した遺伝子断片は、配列番号57及び59を用いてPCRを通じて製作した。増幅されたDNA断片をQuiagen社のPCR Purification kitを用いて精製した後、ベクター製作のための挿入DNA断片として用いた。
【0144】
一方、制限酵素SmaIで処理した後、65℃で20分間熱処理したpDZベクターと上記PCRを通じて増幅した挿入DNA断片をInfusion Cloning Kitを用いて連結した後、大腸菌DH5αに形質転換した。上記菌株をカナマイシン(25mg/l)が含まれたLB固体培地に塗抹した。プライマー配列番号56及び57を用いたPCRを通じて目的とした遺伝子が挿入されたベクターで形質転換されたコロニーを選別した後、通常知られているプラスミド抽出法を用いてプラスミドを獲得した。上記プラスミドはpDZ-lysC(L377K)と命名した。
【0145】
上記製作されたベクターをコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032菌株に電気パルス法で形質転換した。このように、lysC遺伝子に異種性塩基置換変異が導入された菌株をCJP1と命名した。上記CJP1はCA01-2307と命名され、2017年3月29日付でブダペスト条約下の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(KCCM)に寄託し、受託番号KCCM12000Pの付与を受けた。
【0146】
次に、上記製作されたCJP1菌株にL-トレオニン、L-イソロイシン生合成経路の共通の中間体であるホモセリン(homoserine)を生産するホモセリンデヒドロゲナーゼ(homoserine dehydrogenase)をコードする遺伝子に変異を導入して強化した。具体的には、配列番号60でのように1218~1221番目の塩基配列が既存のTTGからAAGに変わり、N末端から407番目のアミノ酸であるアルギニンがヒスチジンで置換された形態の変異体hom(R407H)変異が導入された菌株を製作した。変異導入のための組換えベクターは、下記のような方法で製作した。
【0147】
まず、13032菌株から抽出したゲノムDNAを鋳型としてhom遺伝子の1219~1221番目の位置で前後にそれぞれ約600bp離れた位置に5’断片及び3’断片に制限酵素SalI認識部位を挿入したプライマー配列番号61及び62を合成した。R407H異種性塩基置換変異を導入するために、hom遺伝子の1219~1221番目の塩基配列を置換するためのプライマー配列番号63及び64を合成した。
【0148】
具体的には、pDZ-hom(R407H)プラスミドはhom遺伝子の5’及び3’末端に位置したDNA断片が(各600bp)pDZベクター(大韓民国特許第2009-0094433号)に連結された形態で製作された。WT菌株の染色体を鋳型として5’末端の遺伝子断片はプライマー配列番号61及び63を用いてPCRを通じて製作した。PCR条件は、94℃で2分間の変性後、94℃で1分間の変性、56℃で1分間のアニーリング、72℃で40秒間の重合を30回繰り返した後、72℃で10分間の重合反応を行った。同様の方法でhom遺伝子の3’末端に位置した遺伝子断片は配列番号62及び64を用いてPCRを通じて製作した。増幅されたDNA断片をQuiagen社のPCR Purification kitを用いて精製した後、ベクター製作のための挿入DNA断片として用いた。
【0149】
一方、制限酵素SalIで処理した後、65℃で20分間熱処理したpDZベクターと上記PCRを通じて増幅した挿入DNA断片をInfusion Cloning Kitを用いて連結した後、大腸菌DH5αに形質転換した。上記菌株をカナマイシン(25mg/1)が含まれたLB固体培地に塗抹した。プライマー配列番号61及び62を用いたPCRを通じて目的とした遺伝子が挿入されたベクターで形質転換されたコロニーを選別した後、通常知られているプラスミド抽出法を用いてプラスミドを獲得した。上記プラスミドは、pDZ-hom(R407H)と命名した。
【0150】
上記製作されたベクターをCJP1に電気パルス法で形質転換した。このようにhom 伝子に異種性塩基置換変異が導入された菌株をCA09-0900(受託番号KCCM12418P)と命名した。
【0151】
上記菌株のジヒドロジピコリン酸レダクターゼ変異導入を通じたL-スレオニン生産とリシン生産の変化を確認するために、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼをコードする遺伝子に上記実施例4で確認した変異を導入した。具体的には、R13N変異をCA09-0900菌株に導入するために実施例4で製作されたpDZ-R13Nベクターを電気穿孔法でCA09-0900に形質転換し、実施例4と同様の方法で2次交差過程を経て染色体上で塩基変異が変異型塩基で置換されている菌株を得た。変異型塩基に置換された菌株は、CA09-0903と命名した。
【0152】
上記菌株CA09-0903は、2019年4月25日付でブダペスト条約下の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(KCCM)に国際寄託し、KCCM12502Pとして寄託番号の付与を受けた。
【0153】
実施例12:スレオニン生産株基盤dapB変異株に対するスレオニン及びリシン生産能の分析
実施例10で製作したCA09-0900菌株を対照群としてCA09-0903菌株を実施例7と同様な方法で培養し、スレオニン及びリシン生産収率を測定した。
【0154】
培養の結果、スレオニン及びリシン生産能の測定結果は、下記表5の通りである。
【0155】
【表5】
【0156】
その結果、変異を導入した菌株は、対照群であるCA09-0900菌株比L-リシンの生産量が減少し、L-スレオニン生産量が1.07g/L増加し、従って、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ(dapB)の13番目のアミノ酸の置換による変異導入を通じたリシンの低減とスレオニンの生産量増加の効果を確認することができた。
【0157】
実施例13:リシン経路追加弱化株の製作(dapA)
リシン生合成経路の追加弱化によるL-スレオニン生産能の変化を明確に確認するために、リシン生合成経路の遺伝子に対する追加弱化をさせて実験を進めた。まず、リシンとスレオニンの共通前駆体であるアスパルチルセミアルデヒド(Aspartyl semialdehyde)からリシンを生合成するための最初の作用酵素であるジヒドロピコリン酸シンターゼ(dihydrodipicolinate synthase,dapA)の活性を弱化させることと文献に報告された変異を導入するための菌株を製作した(J Mol Biol. 2004 Apr 23;338(2):329-39)。具体的には、dihydrodipicolinate synthase(dapA)に配列番号65のように355~357番目の塩基配列が既存のTACからTTTに変わってN末端から119番目のアミノ酸であるチロシンがフェニルアラニンで置換された形態の変異体dapA(Y119F)変異が導入された菌株を製作した(配列番号80)。変異導入のための組換えベクターは、下記のような方法で製作された。
【0158】
dapA(Y119F)変異が導入された菌株を製作するために13032菌株から抽出したゲノムDNAを鋳型としてdapA遺伝子の355~357番目の位置で前後にそれぞれ約350bp、610bp離れた位置に5’断片及び3’断片に制限酵素SalI認識部位を挿入したプライマー配列番号66及び67を合成した。Y119F異種性塩基置換変異を導入するために、dapA遺伝子の355~357番目の塩基配列を置換するためのプライマー配列番号68及び69を合成した。
【0159】
具体的には、pDZ-dapA(Y119F)プラスミドはdapA遺伝子の5’及び3’末端に位置したDNA断片が(各350,610bp)pDZベクター(大韓民国特許第2009-0094433号)に連結された形態で製作された。13032菌株の染色体を鋳型として5’末端の遺伝子断片はプライマー配列番号66及び68を用いてPCRを通じて製作した。PCR条件は、94℃で2分間の変性後、94℃で1分間の変性、56℃で1分間のアニーリング、72℃で40秒間の重合を30回繰り返した後、72℃で10分間の重合反応を行った。同様の方法でdapA遺伝子の3’末端に位置した遺伝子断片は、配列番号67及び69を用いてPCRを通じて製作した。増幅されたDNA断片をQuiagen社のPCR Purification kitを用いて精製した後、ベクター製作のための挿入DNA断片として用いた。
【0160】
一方、制限酵素SalIで処理した後、65℃で20分間熱処理したpDZベクターと上記PCRを通じて増幅した挿入DNA断片をInfusion Cloning Kitを用いて連結した後、大腸菌DH5αに形質転換した。上記菌株をカナマイシン(25mg/l)が含まれたLB固体培地に塗抹した。プライマー配列番号66及び67を用いたPCRを通じて目的とした遺伝子が挿入されたベクターで形質転換されたコロニーを選別した後、通常知られているプラスミド抽出法を用いてプラスミドを獲得した。上記プラスミドは、pDZ-dapA(Y119F)と命名した。
【0161】
上記製作されたベクターを実施例11で製作されたCA09-0903菌株に電気パルス法で形質転換した。このようにdapA遺伝子に異種性塩基置換変異が導入された菌株を CA09-0903/dapA(Y119F)と命名した。
【0162】
実施例14:dapA変異導入株に対するスレオニン及びリシン生産能の分析
実施例11で製作したCA09-0903菌株を対照群としてCA09-0903/dapA(Y119F)菌株を実施例7と同様な方法で培養してスレオニン及びリシン生産収率を測定した。
【0163】
培養の結果、スレオニン及びリシン生産能の測定結果は、下記表6の通りである。
【0164】
【表6】
【0165】
その結果、dapA(Y119F)変異をさらに導入した菌株は、対照群であるCA09-0903菌株比L-リシンの生産量が減少し、L-スレオニン生産量が0.90g/L増加し、従って、さらにジヒドロピコリン酸シンターゼdapAの119番目のアミノ酸変異体の導入を通じて、リシン生合成経路の追加弱化によりリシン生産能はさらに低減され、スレオニンの生産量がさらに増加する効果を確認することができた。
【0166】
実施例15:リシン経路追加弱化株の製作(1ysA)
リシン生合成経路の追加弱化によるL-スレオニン生産能の変化を明確に確認するために、リシン生合成経路の遺伝子に対する追加弱化を進行した。リシン生合成に作用する最後の酵素であるジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼ(Diaminopimelate decarboxylase,lysA)の活性を弱化させることと文献に報告された変異を導入するための菌株を製作した(Biochem Biophys Res Commun. 2018 Jan 8;495(2):1815-1821)。具体的には、Diaminopimelate decarboxylase(lysA)に配列番号70のように904~906番目の塩基配列が既存のCGCからGCAに変わってN末端から302番目のアミノ酸であるアルギニンがアラニンで置換された形態の変異体lysA(R302A)変異が導入された菌株を製作した(配列番号81)。変異導入のための組換えベクターは、下記のような方法で製作された。
【0167】
lysA(R302A)変異が導入された菌株を製作するために、13032菌株から抽出したゲノムDNAを鋳型としてlysA遺伝子の904~906番目の位置で前後にそれぞれ約500bp離れた位置に5’断片及び3’断片に制限酵素SalI認識部位を挿入したプライマー配列番号71及び72を合成した。R302A異種性塩基置換変異を導入するために、lysA遺伝子の904~906番目の塩基配列を置換するためのプライマー配列番号73及び74を合成した。
【0168】
具体的には、pDZ-lysA(R302A)プラスミドは、lysA遺伝子の5’及び3’末端に位置したDNA断片が(各500bp)pDZベクター(大韓民国特許第2009-0094433号)に連結された形態で製作された。13032菌株の染色体を鋳型として5’末端の遺伝子断片は、プライマー配列番号71及び73を用いてPCRを通じて製作した。PCR条件は、94℃で2分間の変性後、94℃で1分間の変性、56℃で1分間のアニーリング、72℃で40秒間の重合を30回繰り返した後、72℃で10分間の重合反応を行った。同様の方法でlysA遺伝子の3’末端に位置した遺伝子断片は、配列番号72及び74を用いてPCRを通じて製作した。増幅されたDNA断片をQuiagen社のPCR Purification kitを用いて精製した後、ベクター製作のための挿入DNA断片として用いた。
【0169】
一方、制限酵素SalIで処理した後、65℃で20分間熱処理したpDZベクターと上記PCRを通じて増幅した挿入DNA断片をInfusion Cloning Kitを用いて連結した後、大腸菌DH5αに形質転換した。上記菌株をカナマイシン(25mg/l)が含まれたLB固体培地に塗抹した。プライマー配列番号66及び67を用いたPCRを通じて目的とした遺伝子が挿入されたベクターで形質転換されたコロニーを選別した後、通常知られているプラスミド抽出法を用いてプラスミドを獲得した。上記プラスミドは、pDZ-lysA(R302A)と命名した。
【0170】
上記製作されたベクターを実施例11で製作されたCA09-0903菌株に電気パルス法で形質転換した。このように、lysA遺伝子に異種性塩基置換変異が導入された菌株を CA09-0903/lysA(R302A)と命名した。
【0171】
実施例16:1ysA変異導入株に対するスレオニン及びリシン生産能の分析
実施例11で製作したCA09-0903菌株を対照群としてCA09-0903/1ysA(R302A)菌株を実施例7と同様な方法で培養してスレオニン及びリシン生産収率を測定した。
【0172】
培養の結果、スレオニン及びリシン生産能の測定結果は、下記表7の通りである。
【0173】
【表7】
【0174】
その結果、lysA(R302A)変異を追加で導入した菌株は、対照群であるCA09-0903菌株比L-リシンの生産量が減少し、L-スレオニン生産量が0.20g/L増加し、従って、さらに1ysAの302番目のアミノ酸変異体導入を通じて、リシン生合成経路の追加弱化によりリシンの生産能はさらに低減されており、スレオニンの生産量がさらに増加する効果を確認することができた。
【0175】
実施例17:リシン経路追加弱化株の製作(ddh)
リシン生合成経路の追加弱化によるL-スレオニン生産能の変化を明確に確認するために、リシン生合成経路の遺伝子に対する追加弱化を進行した。リシン生合成に作用する酵素であるジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ(diaminopimelate dehydrogenase,ddh)の活性を弱化させるための菌株を製作した。具体的には、 diaminopimelate dehydrogenase(ddh)に配列番号75のように505~507番目の塩基配列が既存のACCからCTCに変わってN末端から169番目のアミノ酸であるスレオニンがロイシンで置換された形態の変異体ddh(T169L)変異が導入された菌株を製作した(配列番号82)。変異導入のための組換えベクターは、下記のような方法で製作した。
【0176】
ddh(T169L)変異が導入された菌株を製作するために13032菌株から抽出したゲノムDNAを鋳型としてlysA遺伝子の505~507番目の位置で前後にそれぞれ約500bp離れた位置に5’断片及び3’断片に制限酵素SalI認識部位を挿入したプライマー配列番号76及び77を合成した。T169L異種性塩基置換変異を導入するためにddh遺伝子の505~507番目の塩基配列を置換するためのプライマー配列番号78及び79を合成した。
【0177】
具体的には、pDZ-ddh(T169L)プラスミドは、ddh遺伝子の5’及び3’末端に位置したDNA断片が(各500bp)pDZベクター(大韓民国特許第2009-0094433号)に連結された形態で製作された。13032菌株の染色体を鋳型として5’末端の遺伝子断片はプライマー配列番号76及び78を用いてPCRを通じて製作した。PCR条件は、94℃で2分間の変性後、94℃で1分間の変性、56℃で1分間のアニーリング、72℃で40秒間の重合を30回繰り返した後、72℃で10分間の重合反応を行った。同様の方法でddh遺伝子の3’末端に位置した遺伝子断片は、配列番号77及び79を用いてPCRを通じて製作した。増幅されたDNA断片をQuiagen社のPCR Purification kitを用いて精製した後、ベクター製作のための挿入DNA断片として用いた。
【0178】
一方、制限酵素SalIで処理した後、65℃で20分間熱処理したpDZベクターと上記PCRを通じて増幅した挿入DNA断片をInfusion Cloning Kitを用いて連結した後、大腸菌DH5αに形質転換した。上記菌株をカナマイシン(25mg/l)が含まれたLB固体培地に塗抹した。プライマー配列番号76及び77を用いたPCRを通じて目的とした遺伝子が挿入されたベクターで形質転換されたコロニーを選別した後、通常知られているプラスミド抽出法を用いてプラスミドを獲得した。上記プラスミドはpDZ-ddh(T169L)と命名した。
【0179】
上記製作されたベクターを実施例11で製作されたCA09-0903菌株に電気パルス法で形質転換した。このようにddh遺伝子に異種性塩基置換変異が導入された菌株を CA09-0903/ddh(T169L)と命名した。
【0180】
実施例18:ddh変異導入株に対するスレオニン及びリシン生産能の分析
実施例11で製作したCA09-0903菌株を対照群としてCA09-0903/ddh(T169L)菌株を実施例7と同様な方法で培養してスレオニン及びリシン生産収率を測定した。
【0181】
培養の結果、スレオニン及びリシン生産能の測定結果は、下記表8の通りである。
【0182】
【表8】
【0183】
その結果、ddh(T169L)変異をさらに導入した菌株は、対照群であるCA09-0903菌株比L-リシンの生産量が減少し、L-スレオニン生産量が0.35g/L増加し、従って、さらにddhの169番目のアミノ酸が置換された変異体導入を通じてリシン生合成経路の追加弱化によりリシンの生産能はさらに低減され、スレオニンの生産量はさらに増加する効果を確認することができた。
【0184】
以上の説明から、本発明が属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施されうることが理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明の範囲は上記詳細な説明よりは、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導かれるあらゆる変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれるものと解釈すべきである。
【0185】
【表9】
【配列表】
0007311634000001.app