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特許7311642オリゴヌクレオチドを脱保護するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】オリゴヌクレオチドを脱保護するための方法
(51)【国際特許分類】
   C07H 21/04 20060101AFI20230711BHJP
   C07H 21/02 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
C07H21/04 A
C07H21/02 ZNA
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021574989
(86)(22)【出願日】2020-07-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-24
(86)【国際出願番号】 EP2020068922
(87)【国際公開番号】W WO2021004977
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】19185225.0
(32)【優先日】2019-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】チョイ ヨン ラグ
(72)【発明者】
【氏名】カン ヨングー
(72)【発明者】
【氏名】キム スン ウォン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン キョン ユン
(72)【発明者】
【氏名】シュミット パスカル
【審査官】安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/023439(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/191252(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/063940(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/066567(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリゴヌクレオチドの5’-O-オリゴヌクレオチド末端にある酸不安定な5’ヒドロキシ保護基の、酸を用いるオンカラム脱保護による除去を含む、オリゴヌクレオチドを精製するための方法であって、以下の工程:
a リン酸塩および極性非プロトン性溶媒を含むバッファー溶液を用いて陰イオン交換カラムの1回目の平衡化を行う工程、
b 粗オリゴヌクレオチドの希アンモニア水溶液をカラムに投入する工程、
c リン酸塩および極性非プロトン性溶媒を含むバッファー溶液を用いて陰イオン交換カラムの2回目の平衡化を行う工程、
d リン酸塩、極性非プロトン性溶媒、およびハロゲン化アルカリを含むバッファー溶液を用いてカラムを洗浄する工程、
e リン酸塩および極性非プロトン性溶媒を含むバッファー溶液を用いて陰イオン交換カラムの3回目の平衡化を行う工程、
f 酢酸を用いるオンカラム脱保護を行う工程、
g リン酸塩および極性非プロトン性溶媒を含むバッファー溶液を用いて陰イオン交換カラムの4回目の平衡化を行う工程、
h リン酸塩、極性非プロトン性溶媒、およびハロゲン化アルカリを含むバッファー溶液を用いて、脱保護されたオリゴヌクレオチドを溶出する工程、ならびに、それに続いて、リン酸塩、有機溶媒、およびハロゲン化アルカリを含むバッファー溶液を用いてカラムを無勾配で洗浄する工程
を含み、
バッファー溶液中のリン酸塩含有量が、10mMから40mMの間で選択され、
カラムに投入されるアンモニア水溶液が、カラム容積1L当たり8~20gのオリゴヌクレオチド総含有量を有し、
ハロゲン化アルカリが塩化ナトリウムである、方法
【請求項2】
酸不安定な5’ヒドロキシ保護基が、4,4’-ジメトキシトリチル、4-メトキシトリチル、トリチル、9-フェニル-キサンテン-9-イル、9-(p-トリル)-キサンテン-9-イルから、またはtert-ブチルジメチルシリルら選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
バッファー溶液中のリン酸塩が、アルカリリン酸塩またはその混合物から選択されるリン酸塩である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
バッファー溶液中のリン酸塩含有量が、20mMから30mMの間で選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
カラムに投入されるアンモニア水溶液が、ラム容積1L当たり10~15gのオリゴヌクレオチド総含有量を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
バッファー溶液中の有機溶媒が、極性非プロトン性溶媒アセトニトリルである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
洗浄する工程(d)におけるバッファー溶液が、0.2M~1.0M含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
溶出する工程(h)におけるバッファー溶液が、1.5M~3.0M含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
酢酸、水中の酢酸の濃度が50~95重量%ある酢酸水溶液である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
オンカラム脱保護を行う工程(f)における酸溶液の流速が、1.5L/分から2.5L/分の間で選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程(a)~(e)および(g)~(h)におけるバッファー溶液の流速が、2.0L/分から3.0L/分の間で選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
精製工程(a)~(h)の後に行われる、以下の工程
(i)タンジェンシャルフロー濾過によって濾液を精製水で洗浄することを含む、脱塩および濃縮する工程、ならびに
(j)脱塩および濃縮する工程から得られた濾液を凍結乾燥する工程
をさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
オリゴヌクレオチドが、修飾されていてもよいDNA、RNA、もしくはLNAヌクレオシドモノマー、またはそれらの組合せからなり、かつ、10~40クレオチド長である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリゴヌクレオチドの5’-O-オリゴヌクレオチド末端にある酸不安定な5’ヒドロキシ保護基の、酸を用いるオンカラム脱保護による除去を含む、オリゴヌクレオチドを精製するための新しい方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固相合成によって典型的に調製されるオリゴヌクレオチドは、固体支持体から切断された後も、かなりの量の不純物を引き続き含んでいる。15~20mer長の標準的モノマーの場合、API純度は、せいぜい70~80%の範囲である。化学修飾されたモノマーまたはより長い配列の場合、通常、API含有量はさらに少ない。
【0003】
治療的用途のための規格を満たす高純度オリゴヌクレオチドを調製するために、選択的分離方法が開発されている。
【0004】
1つの方法において、オリゴヌクレオチドには、固体支持体から切断された後、5’-O-オリゴヌクレオチド末端の酸不安定な5’ヒドロキシ保護基が残っている。この基が疎水性であることから、精製のために有効なクロマトグラフィー技術を適用することが可能になる。
【0005】
粗オリゴヌクレオチドが以下の工程を経ることは、一般的な戦略である(例えばKrotzら、Organic Process Research&Development 2003、7、47~52ページ(非特許文献1)):
a)逆相クロマトグラフィー
b)濃縮および脱塩
c)溶液中での酸不安定な5’ヒドロキシ保護基の除去、ならびに
d)さらなる濃縮および脱塩。
【0006】
この公知の方法は、個々の操作工程(a)~(d)の数が原因で操作時間をかなり要することが判明した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Krotzら、Organic Process Research&Development 2003、7、47~52ページ
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、精製工程の数を減らし、それによって操作時間を短くすること、およびまた、より高い全収率の達成を試みることであった。
【0009】
本発明の目的は、先に概説したようなオリゴヌクレオチド精製のための新規な方法を用いれば達成できることが、判明した。
[本発明1001]
オリゴヌクレオチドの5’-O-オリゴヌクレオチド末端にある酸不安定な5’ヒドロキシ保護基の、酸を用いるオンカラム脱保護による除去を含む、オリゴヌクレオチドを精製するための方法。
[本発明1002]
カラムがイオン交換クロマトグラフィーカラム、好ましくは陰イオン交換クロマトグラフィーカラムである、本発明1001の方法。
[本発明1003]
酸不安定な5’ヒドロキシ保護基が、4,4’-ジメトキシトリチル、4-メトキシトリチル、トリチル、9-フェニル-キサンテン-9-、9-(p-トリル)-キサンテン-9-イルから、またはtert-ブチルジメチルシリルから、好ましくは4,4’-ジメトキシトリチルから選択される、本発明1001または1002の方法。
[本発明1004]
a リン酸塩および有機溶媒を含むバッファー溶液を用いて陰イオン交換カラムの1回目の平衡化を行う工程、
b 粗オリゴヌクレオチドの希アンモニア水溶液をカラムに投入する工程、
c リン酸塩および有機溶媒を含むバッファー溶液を用いて陰イオン交換カラムの2回目の平衡化を行う工程、
d リン酸塩、有機溶媒、およびハロゲン化アルカリを含むバッファー溶液を用いてカラムを洗浄する工程、
e リン酸塩および有機溶媒を含むバッファー溶液を用いて陰イオン交換カラムの3回目の平衡化を行う工程、
f 酸を用いるオンカラム脱保護を行う工程、
g リン酸塩および有機溶媒を含むバッファー溶液を用いて陰イオン交換カラムの4回目の平衡化を行う工程、
h リン酸塩、有機溶媒、およびハロゲン化アルカリを含むバッファー溶液を用いて、脱保護されたオリゴヌクレオチドを溶出する工程、ならびに、それに続いて、リン酸塩、有機溶媒、およびハロゲン化アルカリを含むバッファー溶液を用いてカラムを無勾配で洗浄する工程
を含む、本発明1001から1003のいずれかの方法。
[本発明1005]
バッファー溶液中のリン酸塩が、アルカリリン酸塩またはその混合物から選択されるリン酸塩であるが、好ましくはリン酸一ナトリウムもしくはリン酸二ナトリウムまたはそれらの混合物である、本発明1004の方法。
[本発明1006]
バッファー溶液中のリン酸塩含有量が、10mMから40mMの間、好ましくは20mMから30mMの間で選択される、本発明1004または1005の方法。
[本発明1007]
カラムに投入されるアンモニア水溶液が、カラム容積1L当たり8~20g、好ましくはカラム容積1L当たり10~15gのオリゴヌクレオチド総含有量を有する、本発明1004から1006のいずれかの方法。
[本発明1008]
バッファー溶液中の有機溶媒が、極性のプロトン性溶媒または極性の非プロトン性溶媒から、好ましくは極性の非プロトン性溶媒から、より好ましくはアセトニトリルから選択される、本発明1004または1007のいずれかの方法。
[本発明1009]
ハロゲン化アルカリが塩化ナトリウムである、本発明1004から1008のいずれかの方法。
[本発明1010]
洗浄する工程(d)におけるバッファー溶液が、0.2M~1.0M、好ましくは0.4M~0.7Mの塩化ナトリウムを含む、本発明1004から1009のいずれかの方法。
[本発明1011]
溶出する工程(h)におけるバッファー溶液が、1.5.M~3.0M、好ましくは1.8M~2.5Mの塩化ナトリウムを含む、本発明1004から1010のいずれかの方法。
[本発明1012]
酸がプロトン酸である、本発明1001から1011のいずれかの方法。
[本発明1013]
酸が、酢酸、好ましくは、水中の酢酸の濃度が50~95重量%、より好ましくは70~90重量%、さらにより好ましくは75~85重量%である酢酸水溶液である、本発明1001から1012のいずれかの方法。
[本発明1014]
オンカラム脱保護を行う工程(f)における酸溶液の流速が、1.5L/分から2.5L/分の間で選択される、本発明1001から1013のいずれかの方法。
[本発明1015]
工程(a)~(e)および(g)~(h)におけるバッファー溶液の流速が、2.0L/分から3.0L/分の間で選択される、本発明1001から1014のいずれかの方法。
[本発明1016]
精製工程(a)~(h)の後に行われる、以下の工程
(i)タンジェンシャルフロー濾過によって濾液を精製水で洗浄することを含む、脱塩および濃縮する工程、ならびに
(j)脱塩および濃縮する工程から得られた濾液を凍結乾燥する工程
をさらに含む、本発明1001から1014のいずれかの方法。
[本発明1017]
オリゴヌクレオチドが、修飾されていてもよいDNA、RNA、もしくはLNAヌクレオシドモノマー、またはそれらの組合せからなり、かつ、10~40、好ましくは10~25ヌクレオチド長である、本発明1001から1015のいずれかの方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の定義は、本明細書において本発明を説明するために使用される様々な用語の意味および範囲を例示および定義するために説明される。
【0011】
酸不安定な5’ヒドロキシ保護基という用語は、適切な酸の助けを借りて切断可能であり、かつ疎水性の特性を有する、保護基と定義される。
【0012】
典型的な酸不安定な5’ヒドロキシ保護基は、4,4’-ジメトキシトリチル、4-メトキシトリチル、トリチル、9-フェニル-キサンテン-9-、9-(p-トリル)-キサンテン-9-イルから、もしくはtert-ブチルジメチルシリルから、好ましくは、4,4’-ジメトキシトリチル、4-メトキシトリチル、もしくはトリチルから、またはさらにより好ましくは4,4’-ジメトキシトリチルから選択される。
【0013】
本明細書において使用されるオリゴヌクレオチドという用語は、当業者によって通常理解されるように、2個以上の共有結合的に連結したヌクレオチドを含む分子と定義される。治療に有益なオリゴヌクレオチドとして使用するためには、10~40個のヌクレオチドを含む、好ましくは10~25ヌクレオチド長のオリゴヌクレオチドが、典型的に合成される。
【0014】
オリゴヌクレオチドは、修飾されていてもよいDNA、RNA、もしくはLNAヌクレオシドモノマー、またはそれらの組合せからなってよい。
【0015】
LNAヌクレオシドモノマーは、ヌクレオチドのリボース糖環のC2’とC4’の間にリンカー基または架橋を含む修飾ヌクレオシドである。これらのヌクレオシドは、文献において、架橋核酸または二環式核酸(BNA)とも呼ばれている。
【0016】
本明細書において使用される「修飾されていてもよい」とは、糖部分または核酸塩基部分に対する1つまたは複数の修飾の導入によって、対応するDNA、RNA、またはLNAヌクレオシドと比べて修飾されたヌクレオシドを意味する。好ましい実施形態において、修飾ヌクレオシドは、修飾糖部分を含み、例えば、1つもしくは複数の2’置換ヌクレオシドおよび/または1つもしくは複数のLNAヌクレオシドを含み得る。本明細書において、修飾ヌクレオシドという用語はまた、用語「ヌクレオシドアナログ」または修飾「ユニット」もしくは修飾「モノマー」と同義的に使用されてよい。
【0017】
通常、DNA、RNA、またはLNAヌクレオシドは、2つのヌクレオシドを共有結合的につなぐホスホジエステル(P=O)および/またはホスホロチオエート(P=S)ヌクレオシド間結合によって連結されている。
【0018】
したがって、一部のオリゴヌクレオチドにおいて、ヌクレオシド間結合はすべてホスホジエステル(P=O)からなってよく、他のオリゴヌクレオチドにおいて、ヌクレオシド間結合はすべてホスホロチオエート(P=S)からなってよく、またはさらに他のオリゴヌクレオチドにおいて、ヌクレオシド間結合の配列は様々であり、ホスホジエステル(P=O)ヌクレオシド間結合とホスホロチオエート(P=S)ヌクレオシド間結合の双方を含む。
【0019】
核酸塩基部分は、対応する各核酸塩基に対する文字記号、例えば、A、T、G、C、またはUによって示すことができ、ここで、各文字は、等価な機能を有する修飾核酸塩基を任意で含んでよい。例えば、例示的なオリゴヌクレオチドにおいて、核酸塩基部分は、DNAヌクレオシドの場合は大文字A、T、G、およびMeC(5-メチルシトシン)を用いて記載される。修飾核酸塩基には、tert-ブチルフェノキシアセチル、フェノキシアセチル、ベンゾイル、アセチル、イソブチリル、またはジメチルホルムアミジノなどの保護基を有する核酸塩基が含まれるが、それらに限定されるわけではない(WikipediaのPhosphoramidit-Synthese、2016年3月24時点のhttps://de.wikipedia.org/wiki/Phosphoramidit-Syntheseを参照されたい)。
【0020】
オリゴヌクレオチド合成の原理は、当該技術分野で周知である(例えば、無料百科事典WikipediaのOligonucleotide synthesis、2016年3月15時点のhttps://en.wikipedia.org/wiki/Oligonucleotide synthesisを参照されたい)。
【0021】
現在では、より大規模のオリゴヌクレオチド合成が、コンピューターでコントロールされた合成装置を用いて自動で行われている。
【0022】
通常、オリゴヌクレオチド合成は固相合成であり、その際、組み立てられるオリゴヌクレオチドは、その3’末端ヒドロキシ基を介して固体支持体材料に共有結合的に結合され、鎖を組み立てる過程の始めから終わりまで結合されたままである。適切な支持体は、Cytiva製のPrimer support 5GまたはKinovate製のNittoPhase(登録商標)HL支持体のような市販のマクロ多孔性ポリスチレン支持体である。
【0023】
オリゴヌクレオチド合成は、原理的には、所望の配列が組み立てられるまで、伸びていく鎖の5’末端にヌクレオチド残基を段階的に付加することである。
【0024】
通常、各付加は合成サイクルと呼ばれ、原理的には以下の化学反応からなる
)固体支持体上の保護された5’ヒドロキシル基をデブロッキングすること、
)活性化ホスホラミダイトとしての第1のヌクレオシドと固体支持体上の遊離5’ヒドロキシル基とを結合させること、
)P結合した各々のヌクレオシドを酸化または硫化して、各々のホスホジエステル(P=O)または各々のホスホロチオエート(P=S)を形成させること、
)任意で、固体支持体上の任意の未反応5’ヒドロキシル基をキャッピングすること、
)固体支持体に結合された第1のヌクレオシドの5’ヒドロキシル基をデブロッキングすること、
)活性化されたホスホラミダイトとしての第2のヌクレオシドを結合させて、各々のP-O結合したダイマーを形成させること、
)P-O結合した各々のジヌクレオシドを酸化または硫化して、各々のホスホジエステル(P=O)または各々のホスホロチオエート(P=S)を形成させること、
)任意で、任意の未反応5’ヒドロキシル基をキャッピングすること、
)所望の配列が組み立てられるまで、前述の工程a~aを繰り返すこと。
【0025】
その後の固体支持体からの切断は、濃アンモニア水を用いて実施することができる。リン酸保護基およびヌクレオチド塩基保護基もまた、この切断手順の間に除去される。
【0026】
切断後の粗オリゴヌクレオチドには、5’-O-オリゴヌクレオチド末端の酸不安定な5’ヒドロキシ保護基が残っている。
【0027】
オリゴヌクレオチドを精製するための方法は、オリゴヌクレオチドの5’-O-オリゴヌクレオチド末端にある酸不安定な5’ヒドロキシ保護基の、酸を用いるオンカラム脱保護による除去を含む。
【0028】
本発明の文脈では、「オンカラム脱保護」という用語は、5’-O-オリゴヌクレオチド末端にある酸不安定な5’ヒドロキシ保護基の脱保護がクロマトグラフィーカラム上で、好ましくはイオン交換クロマトグラフィーカラム上で、より好ましくは陰イオン交換クロマトグラフィーカラム上で直接起こることを意味する。
【0029】
陰イオン交換クロマトグラフィーは、試料溶液の荷電イオンと使用されるバッファー媒体との競合的相互作用に基づいている。これは、従来の市販の陰イオン交換樹脂、好ましくは、トリメチルアンモニウム官能基を持たせたものを用いて行うことができる。これらの相材料は、例えば、Cytiva、Tosoh Bioscience、Bio-Rad、またはMerckから入手することができる。典型的な陰イオン交換樹脂は、Tosoh Bioscienceから入手可能なTSKgel Super Q-5PW(QAE)またはCytivaから入手可能なSource 30Q樹脂である。
【0030】
先に概説したように、酸不安定な5’ヒドロキシ保護基は、典型的には、4,4’-ジメトキシトリチル、4-メトキシトリチル、トリチル、9-フェニル-キサンテン-9-、9-(p-トリル)-キサンテン-9-イルから、またはtert-ブチルジメチルシリルから選択されるが、好ましくは、4,4’-ジメトキシトリチルである。
【0031】
オンカラム脱保護方法は、便宜上、
a リン酸塩および有機溶媒を含むバッファー溶液を用いて陰イオン交換カラムの1回目の平衡化を行う工程、
b 粗オリゴヌクレオチドの希アンモニア水溶液を陰イオン交換カラムに投入する工程
c リン酸塩および有機溶媒を含むバッファー溶液を用いて陰イオン交換カラムの2回目の平衡化を行う工程、
d リン酸塩、有機溶媒、およびハロゲン化アルカリを含むバッファー溶液を用いてカラムを洗浄する工程、
e リン酸塩および有機溶媒を含むバッファー溶液を用いて陰イオン交換カラムの3回目の平衡化を行う工程、
f 酸を用いるオンカラム脱保護を行う工程、
g リン酸塩および有機溶媒を含むバッファー溶液を用いて陰イオン交換カラムの4回目の平衡化を行う工程、
h リン酸塩、有機溶媒、およびハロゲン化アルカリを含むバッファー溶液を用いて、脱保護されたオリゴヌクレオチドを溶出する工程、ならびに、それに続いて、リン酸塩、有機溶媒、およびハロゲン化アルカリを含むバッファー溶液を用いて陰イオン交換カラムを無勾配で洗浄する工程
を含む。
【0032】
バッファー溶液は、通常、有機溶媒、および方法の工程に応じてハロゲン化アルカリをさらに含む、リン酸バッファー溶液である。
【0033】
通常、バッファー溶液中のリン酸塩は、リン酸一ナトリウムもしくはリン酸二ナトリウムまたはリン酸一カリウムもしくはリン酸二カリウムあるいはそれらの混合物などのアルカリリン酸塩であるが、好ましくは、リン酸一ナトリウムもしくはリン酸二ナトリウムまたはそれらの混合物である。
【0034】
バッファー溶液中のリン酸塩含有量は、10mMから40mMの間、好ましくは、20mMから30mMの間で選択される。
【0035】
バッファー溶液のpH範囲は、理想的には、6.0から7.5の間に調整される。
【0036】
バッファー溶液の温度は、通例、15℃から50℃の間で維持され、好ましくは室温、すなわち20℃から40℃の間である。
【0037】
希釈した投入溶液を調製するためには、通常、オリゴヌクレオチド合成から直接得られるアンモニア水溶液を、1.5~2.5体積に相当する、好ましくは2.0体積に相当する量の水で最初に希釈して、2.5~3.5、好ましくは3.0の希釈グレードを実現する。
【0038】
陰イオン交換カラムに投入される希アンモニア水溶液は、典型的には、カラム容積1L当たり8~20g、好ましくはカラム容積1L当たり10~15gのオリゴヌクレオチド総含有量を有する。
【0039】
バッファー溶液中の有機溶媒は、極性のプロトン性溶媒または極性の非プロトン性溶媒から、好ましくは極性の非プロトン性溶媒から、より好ましくはアセトニトリルから選択することができる。
【0040】
適切な極性プロトン性溶媒は、メタノール、エタノール、またはi-プロパノールなどの第一級脂肪族アルコール、好ましくはエタノールである。
【0041】
適切な極性非プロトン性溶媒は、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、またはN-メチル-2-ピロリドンであり、好ましくはアセトニトリルである。
【0042】
より好ましい実施形態において、アセトニトリルが使用される。
【0043】
通常、バッファー溶液は、5~15重量%、さらにより好ましくは約10重量%の量の有機溶媒を含む。
【0044】
脱保護には、酸、好ましくはプロトン酸が使用される。
【0045】
プロトン酸という用語は、無機酸または有機酸、好ましくは、水に溶かした形態で、かつ塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、ギ酸、または酢酸から、より好ましくは酢酸から選択される、無機酸または有機酸を意味するものとする。
【0046】
好ましい実施形態において、プロトン酸は、水中の酢酸の濃度が50~95重量%、より好ましくは70~90重量%、さらにより好ましくは75%~85重量%である酢酸水溶液である。
【0047】
洗浄工程および溶出工程において、バッファー溶液は、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムなどのハロゲン化アルカリ、好ましくは塩化ナトリウムをさらに含む。
【0048】
洗浄工程(d)において、通常、バッファー溶液は、0.2M~1.0M、好ましくは0.4M~0.7Mのハロゲン化アルカリを含む。
【0049】
溶出工程(h)において、およびその後の無勾配洗浄工程において、典型的には、バッファー溶液は、1.5M~3.0M、好ましくは1.8M~2.5Mのハロゲン化アルカリを含む。
【0050】
バッファー溶液または酸溶液の流速は、固体支持体に結合されたオリゴのバッファー曝露を調整するために重要なパラメーターである。
【0051】
通常、オンカラム脱保護のための酸溶液の流速は、酸溶液の粘度を高い値に調整し、酸不安定な5’ヒドロキシ保護基の相対的に高度な酸曝露を可能にするために、他の工程におけるバッファーの流速と比べて遅くされる。
【0052】
典型的には、オンカラム脱保護工程(f)における酸溶液の流速は、1.5L/分から2.5L/分、好ましくは1.8L/分から2.2L/分の間である。
【0053】
他の工程の場合、バッファーの流速は、2.0L/分から3.0L/分の間、好ましくは2.3L/分から2.7L/分の間の範囲で選択される。
【0054】
通常、オンカラム脱保護工程(f)および溶出工程(h)は、酸溶液またはバッファー溶液をそれぞれ比較的多量に必要とし、典型的にはカラム容積(CV)の10~30倍、好ましくはカラム容積(CV)の15~25倍である。
【0055】
オリゴ溶出はUV検出によって適宜測定され、オリゴを含む溶出剤はそれに応じて分画される。
【0056】
好ましい実施形態において、方法は、精製工程(a)~(h)の後に行われる、以下の工程
(i)タンジェンシャルフロー濾過によって濾液を精製水で洗浄することを含む、脱塩および濃縮する工程、ならびに
(j)脱塩および濃縮の工程から得られた濾液を凍結乾燥する工程
をさらに含む。
【0057】
タンジェンシャルフロー濾過は、透過物側に対して正圧をかけて、供給物に濾過膜を(接線方向に)横切らせることを特徴とする。膜の孔径より小さい、物質の一部は、透過物または濾液として膜を通り抜け、それ以外はすべて、膜の供給物側に残留物として保持される。
【0058】
適切な膜は、例えば、Merck Milliporeから商品名Pellicon(商標)として、またはSartoriusから商品名Hydrosart(商標)として、市販されている。
【0059】
凍結乾燥は、当業者に公知の技術であり、したがって、状況に応じて適用することができる。
【0060】
本発明の方法の実例として、下記の配列のオリゴヌクレオチドを選択した:
上記の配列中、「」はホスホロチオエート架橋を表し、「」はリン酸架橋を表し、A、G、T、UはDNAヌクレオシドモノマーであり、「Me」はメチルを表し、下線を引いたヌクレオシドは2’-MOEヌクレオシドである。
【0061】
本明細書において開示される化合物は、下記の核酸塩基配列を有する
SEQ ID No.1:cucagtaacattgacaccac’
【実施例
【0062】
略語:
AcO=酢酸無水物
(d)A=(デオキシ)アデノシン
(d)C=(デオキシ)シチジン
(d)G=(デオキシ)グアノシン
DCA=ジクロロ酢酸
DCI=4,5-ジシアノイミダゾール
DMT=4,4’-ジメトキシトリチル
CV=カラム容積
EtN=トリエチルアミン
EtOH=エタノール
MeCN=アセトニトリル
MOE=2-メトキシエチル
NA=該当なし
NaOAc=酢酸ナトリウム
NMI=N-メチルイミダゾール
PADS=フェニルアセチルジスルフィド
PhMe=トルエン
T=チミジン
U=ウリジン
下線を引いたヌクレオシドは、2’-MOEヌクレオシドである
【0063】
実施例1
a)
の合成
標題化合物をAKTA oligopilot-100を用いて72mmolスケールで「DMTオン型」として合成した。
【0064】
下記のホスホラミダイトを各サイクルで使用した:
【0065】
合成パラメーター サイクル3~5、17~19
【0066】
合成パラメーター サイクル1~2、6~16
【0067】
合成パラメーター サイクル20
【0068】
b)オンカラム脱トリチルおよび
の形成
実施例1a)で得られた粗物質(338.87g)の溶液を、いくつかの平衡工程、カラム洗浄工程、オンカラム脱トリチル工程、および最終生成物溶出工程からなる精製工程に供した。
【0069】
最初に、固相有機合成から得られた粗生成物を、予め平衡化したAEXカラムに載せ、続いて再平衡化した。DMTオン型ショートマー、キャッピングされた失敗配列、および他の低分子は、低濃度の塩化ナトリウムを含むバッファーでカラムを洗浄することによって除去した。カラム平衡化後、結合されたオリゴヌクレオチドのDMT基を酢酸水溶液によって除去し(オンカラム脱トリチルと呼ばれる)、その後、再びカラムを平衡化して、残存している酸を除去し、溶出工程の開始条件を確立した。最後の工程で、高濃度塩化ナトリウムの勾配を適用して、生成物を溶出させた。紫外線(UV)吸収分光法によって、溶出プロファイルを観察した。完全長DMTオフ型生成物のピークを、いくつかの画分に採取した。これらの画分を、純度、有機不純物について試験し、それに応じてまとめた。精製パラメーターを下記の表に大まかに示す。
【0070】
c)タンジェンシャルフロー濾過/凍結乾燥
2つの精製バッチ(例1b)を、タンジェンシャルフロー濾過/凍結乾燥工程のために混合した。
【0071】
混合した溶液(541.76g、純度89.2%)を濃縮し、その後、精製水を用いてタンジェンシャルフロー濾過を行って脱塩した。脱塩の終了は、除去された透過物の伝導度に基づいて検知した。脱塩した溶液を再び濃縮し、精製水を添加することにより、溶液中のオリゴヌクレオチドの濃度を60~100mg/mLに調整した。溶液を0.2μmフィルター(Sartopore-2、Sartorius)に通して濾過し、次いで凍結乾燥した。実施した凍結乾燥サイクルの条件を、下記の表に示す:
【0072】
すすぎの後に得られた溶液を凍結乾燥して、純度90.9%の標題生成物508.26gを得た。
【0073】
実施例2(比較例)
a)
の合成
実施例1aに従って標題化合物を調製した。
【0074】
b)HPLC
粗物質の一部を、下記の表のパラメーターを用いたHPLC(Amberchrom XT20樹脂を充填したカラム)によって精製した。
【0075】
精製溶液は、97.2%の純度および90.8%の収率を示した。
【0076】
c)溶液中での脱トリチル
実施例2bから得られた画分の混合物のpHを、氷酢酸を脱トリチル剤として用いてpH3に調整し、続いて、10M NaOHを用いてpHを5に再調整した。pH調整した溶液をエタノールに添加することにより、標題化合物を沈殿させた。得られた収率は66.0%であった。
【配列表】
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