(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】医療用ガイドワイヤ
(51)【国際特許分類】
A61M 25/09 20060101AFI20230712BHJP
A61B 17/34 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
A61M25/09 550
A61B17/34
(21)【出願番号】P 2019570632
(86)(22)【出願日】2019-01-16
(86)【国際出願番号】 JP2019001027
(87)【国際公開番号】W WO2019155828
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2018021604
(32)【優先日】2018-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143085
【氏名又は名称】藤飯 章弘
(72)【発明者】
【氏名】春山 新治
(72)【発明者】
【氏名】山形 天
【審査官】田中 玲子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-213667(JP,A)
【文献】国際公開第2009/090963(WO,A1)
【文献】特開2015-100664(JP,A)
【文献】特開2001-46508(JP,A)
【文献】国際公開第2004/084712(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0211909(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/09
A61B 17/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する長尺なワイヤ本体と、
前記ワイヤ本体の表面を被覆する少なくとも一層の中間層と、
前記中間層の表面を被覆する最外層と
、
前記最外層上に螺旋状に巻回配置される線材とを備え、
前記中間層は、顔料を含むことにより着色されており、
前記顔料の濃度は、前記中間層全体に対し50wt%以上90wt%以下であり、
前記中間層は、第1の顔料を含む第1領域、及び、前記第1の顔料とは異なる色を有する第2の顔料を含む第2領域を備え、前記第1領域及び第2領域によって螺旋模様を構成
しており、
前記ワイヤ本体の長手方向に沿う方向における、隣り合う前記第2領域同士の間隔寸法と、隣り合う前記線材同士の間隔寸法とは、異なる寸法として構成される医療用ガイドワイヤ。
【請求項2】
前記顔料の濃度は、前記中間層全体に対し55wt%以上85wt%以下である請求項1に記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項3】
前記顔料の平均粒径は、0.05μm以上2μm以下である請求項1又は2に記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項4】
前記中間層の厚みは、2μm以上30μm以下である請求項1から3のいずれかに記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項5】
前記中間層は、ポリイミド系樹脂からなるバインダー樹脂を含む請求項1から4のいずれかに記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項6】
前記最外層は、フッ素系樹脂材料からなる請求項1から5のいずれかに記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項7】
前記最外層は、前記中間層の表面に融着されている請求項1から6のいずれかに記載の医療用ガイドワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用ガイドワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療現場で使用される様々な医療用ガイドワイヤが知られている。例えば、特許文献1に記載されているように、内視鏡下で使用する医療用ガイドワイヤとして、カテーテル内との滑り性を確保しながら、内視鏡のファイバースコープを通してガイドワイヤの動きを把握できるようにするため、複数の色で色分けされた螺旋模様を有するフッ素樹脂チューブを被覆したガイドワイヤが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の複数の色で色分けされたフッ素樹脂チューブを被覆したガイドワイヤは、内視鏡下での視認性が非常に優れる一方で、フッ素樹脂チューブがガイドワイヤの金属線材に化学的に接着していないため、近年急速に普及している超音波内視鏡下穿刺術における穿刺針の中を通すガイドワイヤ用として使用すると、中空の穿刺針の先端部との接触によってフッ素樹脂チューブの一部分が剥離しての脱落してしまうという問題があり、穿刺針の中を通す際に使用されるガイドワイヤとして使用することが難しいという問題があった。
【0005】
また、ガイドワイヤの芯材である金属線材にコーティング法により樹脂下地層、フッ素樹脂層をコーティングすることにより形成されるガイドワイヤも知られているが、このようなガイドワイヤも、穿刺針のような鋭角な先端を有する金属部材との摺動を考慮したものではなく、樹脂下地層上にコーティングされたフッ素樹脂層が、中空の穿刺針の先端部との接触で剥離して脱落することが懸念され、穿刺針の中を通す際に使用されるガイドワイヤとして使用することが難しいというのが実情である。
【0006】
このような問題から、超音波内視鏡下穿刺術における穿刺針の中を通すガイドワイヤ用としては、フッ素樹脂チューブによる被覆やコーティング層の無い金属ワイヤが使用されているが、金属ワイヤは、滑り性が乏しく、中空の穿刺針内を挿通させにくいという問題がある。
【0007】
本発明は、かかる問題を解決すべくなされたものであって、コーティング層の密着性を確保しつつ優れた滑り性を発揮する医療用ガイドワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、可撓性を有する長尺なワイヤ本体と、前記ワイヤ本体の表面を被覆する少なくとも一層の中間層と、前記中間層の表面を被覆する最外層と、前記最外層上に螺旋状に巻回配置される線材とを備え、前記中間層は、顔料を含むことにより着色されており、前記顔料の濃度は、前記中間層全体に対し50wt%以上90wt%以下であり、前記中間層は、第1の顔料を含む第1領域、及び、前記第1の顔料とは異なる色を有する第2の顔料を含む第2領域を備え、前記第1領域及び第2領域によって螺旋模様を構成しており、前記ワイヤ本体の長手方向に沿う方向における、隣り合う前記第2領域同士の間隔寸法と、隣り合う前記線材同士の間隔寸法とは、異なる寸法として構成される医療用ガイドワイヤにより達成される。
【0009】
この医療用ガイドワイヤにおいて、前記顔料の濃度は、前記中間層全体に対し55wt%以上85wt%以下であることが好ましい。
【0011】
また、前記顔料の平均粒径は、0.05μm以上2μm以下の範囲とすることが好ましい。また、前記中間層の厚みは、1μm以上30μm以下の範囲とすることが好ましい。
【0012】
また、前記中間層は、ポリイミド系樹脂からなるバインダー樹脂を含むことが好ましい。また、前記最外層は、フッ素系樹脂材料から形成することが好ましい。また、前記最外層は、前記中間層の表面に融着されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コーティング層の密着性を確保しつつ優れた滑り性を発揮する医療用ガイドワイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る医療用ガイドワイヤの要部拡大概略構成断面図である。
【
図2】(a)は、
図1に係る医療用ガイドワイヤの変形例を示す要部拡大平面図であり、(b)は、そのA-A断面における要部拡大断面図である。
【
図3】(a)は、
図1に係る医療用ガイドワイヤの他の変形例を示す要部拡大平面図であり、(b)は、そのB-B断面における要部拡大断面図である。
【
図4】(a)(b)共に、
図1に係る医療用ガイドワイヤの更なる他の変形例を示す要部拡大平面図である。
【
図5】
図1に係る医療用ガイドワイヤの変形例を示す要部拡大概略構成断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態にかかる医療用ガイドワイヤ1について添付図面を参照して説明する。なお、各図は、構成の理解を容易ならしめるために部分的に拡大・縮小している。
図1は、本発明の一実施形態に係る医療用ガイドワイヤ1の要部拡大概略断面図である。本発明に係る医療用ガイドワイヤ1は、例えば、超音波内視鏡下穿刺術における中空の穿刺針の中を通すガイドワイヤや、カテーテルに挿入して用いられるガイドワイヤであって、ワイヤ本体2と、中間層3と、最外層4とを備えている。
【0016】
ワイヤ本体2は、可撓性を有する長尺状の線状部材である。このワイヤ本体2としては、医療用ガイドワイヤの芯材として使用される従来からある種々の材料を用いて構成することができるが、金属材料から形成することが好ましい。例えば、ステンレス鋼(例えば、SUS304、SUS303、SUS316、SUS316L、SUS316J1、SUS316J1L、SUS405、SUS430、SUS434、SUS444、SUS429、SUS430F、SUS302等SUSの全品種)を用いて構成することができる。ワイヤ本体2の材料として、ステンレス鋼を用いた場合、医療用ガイドワイヤ1は、より優れた押し込み性およびトルク伝達性を得ることができる。
【0017】
また、ワイヤ本体2の材料として、擬弾性を示す合金(超弾性合金を含む)を用いることもできる。特に、超弾性合金を用いてワイヤ本体2を構成する場合、医療用ガイドワイヤ1は、全体にわたって十分な曲げに対する柔軟性と復元性が得られ、複雑な湾曲・屈曲に対する追従性が向上し、より優れた操作性が得られる。さらに、ワイヤ本体2が湾曲・屈曲変形を繰り返しても、ワイヤ本体2に復元性により曲がり癖が付かないので、医療用ガイドワイヤ1の使用中にワイヤ本体2に曲がり癖が付くことによる操作性の低下を防止することができる。
【0018】
擬弾性合金には、引張りによる応力-ひずみ曲線がいずれの形状のものも含み、As、Af、Ms、Mf等の変態点が顕著に測定できるものも、できないものも含み、応力により大きく変形し、応力の除去により元の形状にほぼ戻るものは全て含まれる。
【0019】
超弾性合金の好ましい組成としては、49~52原子%NiのNi-Ti合金等のNi-Ti系合金、38.5~41.5重量%ZnのCu-Zn合金、1~10重量%XのCu-Zn-X合金(Xは、Be、Si、Sn、Al、Gaのうちの少なくとも1種)、36~38原子%AlのNi-Al合金等が挙げられる。このなかでも特に好ましいものは、上記のNi-Ti系合金である。
【0020】
また、ワイヤ本体2の材料として、コバルト系合金を用いることもできる。コバルト系合金によりワイヤ本体2を構成する場合、医療用ガイドワイヤ1は、特に優れたトルク伝達性に優れ、座屈等の問題が極めて生じ難い。コバルト系合金としては、構成元素としてCoを含むものであれば、いかなるものを用いてもよいが、Coを主成分として含むもの(Co基合金:合金を構成する元素中で、Coの含有率が重量比で最も多い合金)が好ましく、Co-Ni-Cr系合金を用いるのがより好ましい。このような組成の合金を用いることにより、前述した効果がさらに顕著なものとなる。また、このような組成の合金は、弾性係数が高く、かつ高弾性限度としても冷間成形可能で、高弾性限度であることにより、座屈の発生を十分に防止しつつ、小径化することができ、所定部位に挿入するのに十分な柔軟性と剛性を備えるものとすることができる。
【0021】
また、ワイヤ本体2しては、上記材料を用いて構成する他、例えば、ピアノ線から構成してもよい。
【0022】
また、ワイヤ本体2の形態としては種々の形態を採用することができる。例えば、一本の鋼材によってワイヤ本体2を形成してもよく、或いは、一本の線状鋼材を折り合わせた後撚り合わせてワイヤ本体2を形成してもよい。また、複数の線状鋼材を撚り合わせてワイヤ本体2を形成してもよく、線状鋼材及び線状樹脂部材を撚り合わせて形成してもよい。更には、中心部分と表面部分とが異なる材料から形成されているもの(二層構造のもの、例えば、金属からなる中心部分の外表面に熱硬化性樹脂をコーティングして表面部分を構成したような部材)等、種々の構成を採用することができる。このワイヤ本体2の全長は、特に限定されないが、2000~5000mm程度であるのが好ましい。
【0023】
また、ワイヤ本体2は、その外径がほぼ一定となるように構成してもよく、或いは、先端部分が、先端方向に向かってその外径が減少するテーパ状となるように形成してもよい。ワイヤ本体2の先端部分が、先端方向に向かってその外径が減少するテーパ状となるように構成した場合、ワイヤ本体2の剛性(曲げ剛性、ねじり剛性)を先端方向に向かって徐々に減少させることができ、その結果、医療用ガイドワイヤ1は、先端部に良好な狭窄部の通過性および柔軟性を得て、追従性、安全性が向上すると共に、折れ曲がり等も防止することができるので好ましい。
【0024】
また、先端部分を構成する第1ワイヤ本体2と、中間部分及び手元部分を構成する第2ワイヤ本体2部とを溶接等により連結することによりワイヤ本体2を構成してもよい。第1ワイヤ本体2と第2ワイヤ本体2とによりワイヤ本体2を構成する場合、第1ワイヤ本体2の径が、第2ワイヤ本体2の径よりも小さくなるように設定することが好ましい。また、連結部分は、第1ワイヤ本体2と第2ワイヤ本体2とが滑らかに連結するようにテーパ状となるように構成することが好ましい。このようにワイヤ本体2を構成した場合も、ワイヤ本体2の剛性(曲げ剛性、ねじり剛性)を先端方向に向かって徐々に減少させることができ、その結果、医療用ガイドワイヤ1は、先端部に良好な狭窄部の通過性および柔軟性を得て、追従性、安全性が向上すると共に、折れ曲がり等も防止することができるので好ましい。
【0025】
中間層3は、ワイヤ本体2の表面を被覆するように構成されており、顔料とバインダー樹脂とを含む材料で構成されている。中間層3に含まれる顔料は、着色剤であり、中間層3に色を付すために用いられる。この顔料としては、無機顔料、有機顔料のいずれでもよいが、耐熱性に優れるものを採用することが好ましい。顔料としては、カーボンブラック、酸化チタン、フタロシアニンブルー、雲母、ニッケルチタンイエロー、プルシアンブルー、ミロリーブルー、コバルトブルー、ウルトラマリン、ヴィリジアン等が使用可能である。なお、顔料は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用(特に混合)してもよい。また、顔料の平均粒径は、特に限定されないが、例えば、0.05μm以上2μm以下の範囲に設定することが好ましく、0.1μm以上1.5μm以下の範囲に設定することがより好ましい。
【0026】
中間層3に含まれるバインダー樹脂についても、その種類は特に限定されないが、ポリスルホン、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレンケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレンサルファイド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドスルホン、ポリアリルスルホン、ポリアリルエーテルスルホン、ポリエステル、ポリエーテルスルホン等が挙げられる。特に、ポリイミド系樹脂であるポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドスルホンなどを好適に用いることができる。このような材料をバインダー樹脂として用いることにより、ワイヤ本体2と最外層4との密着性を効果的に向上させることができる。
【0027】
この中間層3の厚みは、特に限定されないが、着色した色味を際立たせるという観点から、1μm以上に設定することが好ましい。また、医療用ガイドワイヤを太くなりすぎないように構成するという観点から、30μm以下に設定することが好ましい。より好ましくは、2μm以上20μm以下の範囲に中間層3を構成することが好ましい。
【0028】
また、本発明においては、顔料の濃度が、中間層3の全体に対して50wt%以上90wt%以下の範囲となるように構成されている。より好ましくは、顔料の濃度が、中間層3の全体に対して55wt%以上85wt%以下の範囲となるように、更には、60wt%以上85wt%以下の範囲となるように構成することが好ましい。このような顔料濃度に設定することにより、中間層3の表面(最外層4と接触する面)の表面積が大きくなり、最外層4に対するアンカー効果が増大し、中間層3に対する最外層4の密着強度が飛躍的に向上することとなる。また、このような顔料濃度に設定することにより、ワイヤ本体2と中間層3との硬度ギャップを小さくすることができるため、穿刺針先端部通過時など、ガイドワイヤ外部から加わるせん断応力がワイヤ本体2と中間層3との界面に集中しにくくしているものと推測される。
【0029】
ワイヤ本体2の表面を上記顔料及びバインダー樹脂から構成される材料により被覆して中間層3を形成する方法は、特に限定されず、様々な方法を用いることができる。例えば、上述の顔料及びバインダー樹脂に適当な溶剤を混合して調製した溶液をワイヤ本体2に塗布した後、乾燥させて溶剤を揮発させることにより形成することができる。なお、中間層3に含まれる材料としては、上述の顔料及びバインダー樹脂に限定されるものではなく、例えばフッ素系樹脂や、その他種々の添加剤を含むように構成してもよい。
【0030】
最外層4は、ワイヤ本体2の表面に配置される中間層3を被覆するように構成されており、透明材料から形成されることが好ましい。最外層4を構成する材料としては、例えば、潤滑性を有するフッ素系樹脂材料が好ましい。このようなフッ素系樹脂材料としては、例えば、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA、融点300~310℃)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、融点330℃)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP、融点250~280℃)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE、融点260~270℃)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF、融点160~180℃)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE、融点210℃)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(EPE、融点290~300℃)等、及び、これらのポリマーを含むコポリマー等のフッ素系樹脂材料を挙げることができる。なかでも、優れた摺動特性を有することから、PFA、PTFE、FEP、ETFE、PVDFが好ましい。
【0031】
最外層4の厚みは、特に限定されないが、通常乾燥厚さで、2μm以上30μm以下、好ましくは3μm以上25μm以下であり、特に好ましくは4μm以上20μm以下である。
【0032】
中間層3の表面を上記の樹脂材料により被覆して最外層4を形成する方法は、特に限定されず、様々な方法を用いることができる。例えば、上述の樹脂材料と適当な溶剤とを用いて調製した溶液中に中間層3が形成されたワイヤ本体2を浸漬した乾燥させ、その後、加熱処理を行って最外層4を中間層3上に融着させる方法を挙げることができる。加熱処理に際しては、例えば、チャンバー型熱処理装置を用い、ワイヤ本体2上の形成された最外層4の外側から熱を付与することにより行うことができる。また、ワイヤ本体2が、例えば、電気を通しやすい金属材料から形成されている場合には、当該ワイヤ本体2の両端に電圧を印加することにより、ワイヤ本体2を加熱し、この熱によってワイヤ本体2の表面を被覆して配置される最外層4を溶融させることにより、最外層4を中間層3上に融着することもできる。
【0033】
本実施形態に係る医療用ガイドワイヤ1は、上述のように、ワイヤ本体2と最外層4との間に中間層3を介在させるように構成すると共に、中間層3に含まれる顔料の濃度を、中間層3全体に対し50wt%以上90wt%以下となるように構成している。このような構成により、最外層4と中間層3との間の密着性を極めて高いものとすることが可能となり、例えば、超音波内視鏡下穿刺術における穿刺針の中を通すガイドワイヤとして使用した場合であっても、最外層4が、中空の穿刺針の先端部との接触によって剥離してしまうことを効果的に防止することが可能となる。
【0034】
また、本発明に係る医療用ガイドワイヤ1は、フッ素系樹脂材料等から形成される潤滑性を有する最外層4を備えるものであるため、極めて高い滑り性を発揮し、超音波内視鏡下穿刺術における穿刺針の内壁やカテーテルの内壁と間での良好な摺動性を確保することができる。
【0035】
ここで、
図1に示す構成では、中間層を一層設けるように構成しているが、例えば、
図2(a)の要部拡大平面図、及び、
図2(a)におけるA-A断面における要部拡大断面図である
図2(b)に示すように、第1の顔料を含む第1領域31、及び、第1の顔料とは異なる色を有する第2の顔料を含む第2領域32を備えるように中間層を構成してもよい。この
図2に示す医療用ガイドワイヤにおいては、中間層が2層構造となるように第1領域31上に第2領域32を設けて構成している。また、第2領域32は、医療用ガイドワイヤの長手方向に沿って螺旋模様を形成するように第1領域31上に設けられている。
【0036】
このような中間層3は、例えば、第1の顔料、バインダー樹脂及び溶剤を混合して第1の溶液を調整すると共に、別途、第2の顔料、バインダー樹脂及び溶剤を混合して第2の溶液を調整しておき、ワイヤ本体2への第1の溶液の塗布・乾燥を行って第1領域31を形成した後、当該第1領域31の上に第2の溶液を螺旋状に塗布し、乾燥させることにより第2領域32を形成して構成する。
【0037】
このように第1領域31及び第2領域32を有する中間層3であっても、該中間層3含まれる顔料の濃度(第1の顔料及び第2の顔料を合算した顔料の濃度)は、中間層3全体に対し50wt%以上90wt%以下となるように構成されることにより、上述の密着性向上の効果を得ることができる。また、互いに色が異なる第1領域31及び第2領域32を備えるように構成することにより、内視鏡のファイバースコープ等を通してガイドワイヤの動きを容易に把握できることができるため、
図2に示す医療用ガイドワイヤは、優れた視認性を有するものとなる。
【0038】
また、上記
図2においては、第1領域31の上に螺旋状に模様付けされる第2領域32が形成された二層構造の中間層3の構成を示しているが、
図3(a)の要部拡大平面図、及び、
図3(a)におけるB-B断面における要部拡大断面図である
図3(b)に示すように、第1領域31及び第2領域32が、ワイヤ本体2の長手方向に沿って交互にワイヤ本体2上に配置される二重らせん構造(一層の中間層3により螺旋模様が形成される形態)として構成してもよい。また、互いに色が異なる第1領域31及び第2領域32を備えるように構成する場合、
図2や
図3に示すように螺旋模様を形成する構成に限定されず、例えば、
図4(a)の要部拡大平面図に示すように、第2領域32をドット状に形成してもよく、或いは、
図4(b)の要部拡大平面図に示すように、リング状の第1領域31及び第2領域32が、ワイヤ部材の長手方向に沿って交互の配列されるように構成してもよい。
【0039】
本発明の発明者は、本発明に係る医療用ガイドワイヤに関する実施例(実施例1~4)及び比較例(比較例1~4)に係る試作品を作成し、上記効果(密着性向上に関する効果)を確認するための試験を行ったので、以下、説明する。
【0040】
まず、実施例1~4、及び、比較例1~4の構造について説明する。実施例1~4、及び、比較例1~4は、
図2(a)(b)に示すように、ワイヤ本体2上に2層構造からなる中間層3(第1領域31及び第2領域32を備える中間層3)を形成すると共に、形成した中間層3上に最外層4を形成して構成している。実施例1~4、及び、比較例1~4は、いずれも、ワイヤ本体2としては、直径0.55mmの金属線材(材質:(株)古河テクノマテリアル Ni-Ti系合金)を用いている。また、最外層4としては、実施例1~4、及び、比較例1~4のいずれも、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)を用いて構成している。最外層4の厚みは、10μmとしている。
【0041】
また、中間層3を構成する第1領域31の厚みは、4μmとしている。また、第1領域31上に形成される第2領域32の厚みは、8μmとしている。また、第2領域32については、ワイヤ本体2の長手方向に沿う方向の寸法が、3mmとなるように構成している。また、ワイヤ本体2の長手方向に沿う方向に見た場合に、隣り合う第2領域32同士の間隔が6mmとなるように構成している。
【0042】
また、中間層3については、実施例1~4、及び、比較例1~4のそれぞれに関して、第1領域31及び第2領域32にそれぞれ含有される顔料やバインダー樹脂を種々変更し、また、中間層3全体(第1領域31及び第2領域32)に対する顔料濃度を変更して形成した。中間層3(第1領域31及び第2領域32)に含まれるバインダー樹脂の種類、顔料の種類、及び顔料濃度についての詳細を下記表1に示す。なお、実施例1は顔料濃度が85wt%、実施例2は顔料濃度が70wt%、実施例3は顔料濃度が60wt%、実施例4は顔料濃度が50wt%である。また、比較例1は顔料濃度が30wt%、比較例2は顔料濃度が40wt%、比較例3は顔料濃度が95wt%、比較例4は顔料濃度が40wt%である。
【0043】
【0044】
上述のように構成された実施例1~4、及び、比較例1~4のそれぞれに係るガイドワイヤについて、実際に超音波内視鏡下穿刺術において使用される中空の穿刺針(テルモ株式会社製NEOLUS(1.20×38mm))に挿通させることにより、最外層4が剥がれ落ちるか否かの密着性確認試験を行った。より具体的には、水平に載置された中空の穿刺針の基端部から各ガイドワイヤを挿入し、穿刺針の先端部から上方45度の角度でガイドワイヤを50mm引き出して設置し、その後、ガイドワイヤを穿刺針の先端部側から基端部側に向けて等速で牽引し。ガイドワイヤに最外層4の剥離が発生しているか否かについて顕微鏡を用いて確認を行った。この結果を下記表2に示す。なお、密着性確認結果に関して、最外層4が剥離脱落している場合を“×”とし、最外層4の脱落は発生していないが層状に剥離している場合を“△”とし、最外層4に傷は発生しているが剥離や脱落が発生していない場合を“〇”とし最外層4に傷、剥離が発生していない場合を“◎”としている。
【0045】
また、発明者らは、実施例1~4、及び、比較例1~4のそれぞれについて視認性確認の試験も行ったので、その結果も表2に示す。なお、視認性確認の試験内容は、PTFE製のカニューラ内に各ガイドワイヤを挿入し、内視鏡ファイバースコープ下でガイドワイヤの動きを観察することにより行った。表2中、試験確認結果について、ガイドワイヤが動いていることが確認できない場合を“×”とし、ガイドワイヤが動いていることを確認できるが不鮮明である場合を“△”としている。また、ガイドワイヤの動きが鮮明に確認できた場合を“◎”としている。
【0046】
【0047】
上記表2の密着性確認結果に示されるように、中間層3(第1領域31及び第2領域32)に含まれる顔料の濃度が、中間層3全体に対して50wt%以上の範囲となる実施例1~実施例4、比較例3は、最外層4が剥離脱落しないものであることが確認できる。特に、顔料濃度が、中間層3全体に対して60wt%以上85wt%以下の範囲である実施例1、実施例2、実施例3については、いずれも最外層4の剥離や脱落が無く、最外層4の密着性が極めて優れるものであることが分かる。
【0048】
一方、顔料濃度が、中間層3全体に対して40wt%以下である比較例1、比較例2、比較例4については、いずれも最外層4の一部分が脱落しており、最外層4の密着性が悪いことが確認された。
【0049】
また、表2の密着性確認結果から、最外層が脱落せずに使用に耐えることができる顔料濃度の下限値は、実施例4の50wt%であると考えられる。また、特に、最外層4の密着性が高くなる顔料濃度の下限値は、実施例3の50wt%と、実施例4の60wt%との間に存在すると考えられ、両者の算術平均値である55wt%がその境界であると推測される。従って、中間層3と最外層4との密着性を十分確保するためには、中間層3に含まれる顔料の濃度としては、中間層3全体に対し55wt%以上に設定することが好ましいといえる。
【0050】
また、表2の密着性確認結果から、最外層が脱落せずに使用に耐えることができる顔料濃度の上限値は、比較例3の95wt%であると考えられるが、この比較例3の場合、中間層3に含まれる顔料が過大であることに起因して、ワイヤ本体2と中間層3との密着性に問題が生じる恐れがある(ワイヤ本体2と中間層3との密着性に問題が生じる恐れがあることから、表2の密着性確認結果を“△~×”としている)。従って、ワイヤ本体2と中間層3との密着性に優れ、かつ、最外層4の密着性が高くなる顔料濃度の上限値は、実施例1の85wt%と、比較例3の95wt%との間に存在すると考えられ、両者の算術平均値である90wt%がその境界であると推測される。つまり、ワイヤ本体2と中間層3との密着性、及び、中間層3と最外層4との密着性を十分確保するためには、中間層3に含まれる顔料の濃度としては、中間層3全体に対し90wt%以下に設定することが好ましいといえる。
【0051】
また、表2の視認性確認結果から、中間層3(第1領域31及び第2領域32)に含まれる顔料の濃度が、中間層3全体に対して50wt%以上の範囲となる実施例1~実施例4、比較例3は、いずれも、ガイドワイヤの動きが鮮明に確認できる良好な視認性を有するものであることが分かる。一方、顔料濃度が、中間層3全体に対して40wt%以下である比較例1、比較例2、比較例4については、いずれも、ガイドワイヤの動きが確認できなかったり、不鮮明であることがわかる。
【0052】
以上より、中間層3(第1領域31及び第2領域32)に含まれる顔料の濃度が、中間層3全体に対して50wt%以上90wt%以下の範囲に設定することにより、内視鏡のファイバースコープ下での視認性を良好なものにでき、更に、最外層4の十分な密着性も確保できることが分かる。
【0053】
以上、本発明に係る医療用ガイドワイヤ1について説明したが、具体的構成は、上記実施形態に限定されない。例えば、
図5の断面図に示すように、最外層4の表面に、線材5を螺旋状に巻回して医療用ガイドワイヤ1を構成してもよい。なお、
図5に示す医療用ガイドワイヤ1は、
図2に示す医療用ガイドワイヤに対して線材5を巻回配置した構成を示している。この線材5は、上記最外層4を形成する材料と同一の材料から形成されることが好ましい。また、線材5は、最外層4上に巻回される前段階において、その長手方向に沿って略均一な太さを有するように形成されており、その最大径が、例えば、10μm以上200μm以下の範囲のものを好適に用いることができ、80μm以上200μm以下の範囲がより好ましい。ここで、ピッチとは、
図5の断面図に示すように、ワイヤ本体2の長手方向に沿う方向に隣り合う線材5同士の中心間距離を表す概念であり、
図5においては、この線材5同士の中心間距離(ピッチ)が等しくなるように、線材5が螺旋状に巻回されて構成されている。線材5同士の中心間距離(ピッチ)は、任意の寸法となるように設定することができるが、例えば、15μm~5000μm、好ましくは30μm~1000μmであり、特に好ましくは50μm~700μmである。なお、線材5同士の中心間距離(ピッチ)を部分的に異なるように構成してもよい。
【0054】
最外層4上に線材5を巻き付ける方法は特に限定されず、例えば、カバリング糸を製造するために使用されるカバリング装置を用いて巻き付ける方法等を挙げることができる。
【0055】
また、最外層4上に螺旋状に巻回配置される線材4は、その全域に亘って最外層4上に融着されて一体化されている。線材5を最外層4上に融着させる方法としては、例えば、線材5を最外層4の外表面に螺旋状に巻回した後、加熱することによって線材5や最外層4を溶融させて、線材5を最外層4の表面に融着させる方法を挙げることができる。加熱方法としては、例えば、チャンバー型熱処理装置を用い、ワイヤ本体2上の最外層4に巻回された線材4の外側から熱を付与することにより行うことができる。また、ワイヤ本体2が、例えば、電気を通しやすい金属材料から形成されている場合には、当該ワイヤ本体2の両端に電圧を印加することにより、ワイヤ本体2を加熱し、この熱によってワイヤ本体2上の最外層4及び線材5を溶融させることにより、線材5を最外層4上に融着することもできる。なお、線材5を最外層4上に設ける場合には、上述の中間層3上に最外層4を形成する際の加熱処理を省略し、最外層4上に線材5を配置した後に行う加熱処理により、中間層3に対する最外層4の融着、及び、最外層4に対する線材5の融着を同時に行うようにしてもよい。
【0056】
このような線材5を備えることにより、最外層4の耐久性がより一層向上すると共に、中空の穿刺針やカテーテル内に医療用ガイドワイヤ1を挿入した場合、中空の穿刺針の内壁等と接触する部分は、線材5の最外部(頂部)になるため、医療用ガイドワイヤ1と中空の穿刺針やカテーテル等との接触面積を減じることが可能となり、より一層高い摺動性を確保することが可能となる。特に、線材5をフッ素系樹脂材料から構成することにより、より高い摺動性を確保することができる。
【0057】
また、最外層4上に熱融着される線材5は、
図5の断面図に示すように、その断面形状が、半円柱レンズ形状または平凸レンズ形状(英大文字「D」字形状)となるが、熱融着後の線材5の高さ(最外層4の表面から線材頂部までの寸法)は、4μm~80μmの範囲となるように構成することが好ましい。このような数値範囲、特に6μm以上の高さを有するように融着後の線材5を構成することにより、中空の穿刺針やカテーテルの内部で医療用ガイドワイヤ1を移動させる際に、点接触になることで滑り性が向上し、更には凹凸部が移動することによる振動が医療用ガイドワイヤの使用者(施術者)の指先に伝わるため、内視鏡による視覚情報、通常の挿入感覚情報に加えて、こうした特有な振動による感覚情報からも挿入状況を把握することが可能となり、使用者の利便性を向上させることが可能となる。
【0058】
なお、
図5に示す構成においては、最外層4上に一本の線材5を螺旋状に巻回配置するように構成しているが、例えば、太さの異なる二本の線材5を最外層4上に螺旋状(二重螺旋状)に巻回してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 医療用ガイドワイヤ
2 ワイヤ本体
3 中間層
31 第1領域
32 第2領域
4 最外層
5 線材