(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】冷間タンデム圧延設備及び冷間タンデム圧延方法
(51)【国際特許分類】
B21B 37/74 20060101AFI20230712BHJP
B21B 1/24 20060101ALI20230712BHJP
B21B 38/00 20060101ALI20230712BHJP
B21C 51/00 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
B21B37/74 A
B21B1/24
B21B38/00 Z
B21B38/00 C
B21C51/00 E
B21C51/00 C
(21)【出願番号】P 2019149099
(22)【出願日】2019-08-15
【審査請求日】2022-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】白石 利幸
(72)【発明者】
【氏名】明石 透
(72)【発明者】
【氏名】大野 晃
(72)【発明者】
【氏名】柴山 淳史
(72)【発明者】
【氏名】有田 吉宏
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-108406(JP,A)
【文献】特開昭60-238015(JP,A)
【文献】特開2012-148310(JP,A)
【文献】特開2015-139810(JP,A)
【文献】特開2009-148797(JP,A)
【文献】特開2014-008520(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109420682(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 37/00-37/78
B21B 1/00-1/46
B21B 38/00
B21B 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の圧延機スタンドを直列状に配列してなる冷間タンデム圧延機の上流に、圧延すべきストリップの変形抵抗に相関する材質についてのストリップ板幅方向の分布を連続的に測定することによりストリップ長手
方向及びストリップ板幅方向の変形抵抗分布を測定するための変形抵抗分布測定器が配設されており、
さらに、前記測定された変形抵抗分布に基づき、前記変形抵抗分布測定器と前記複数の圧延機スタンドのうち最上流側に位置する第1圧延機スタンドとの間においてストリップ板幅方向に温度分布を生じさせるための加熱装置と、
前記変形抵抗分布測定器の測定値に基づいて、ストリップ板幅方向の変形抵抗分布が均一になるような板幅方向温度分布を得るために必要な前記加熱装置の制御量を計算するための計算装置と、
計算された制御量に基づいて前記加熱装置の制御量を制御する加熱制御装置と
を具備していることを特徴とする冷間タンデム圧延設備。
【請求項2】
請求項1に記載の冷間タンデム圧延設備において、
前記加熱装置と前記第1圧延機スタンドとの間に、板幅方向のストリップの温度分布を測定する温度検出器が配設されていることを特徴とする冷間タンデム圧延設備。
【請求項3】
複数の圧延機スタンドを直列状に配列してなる冷間タンデム圧延機の上流において、圧延されるストリップの変形抵抗に相関する材質についてのストリップ板幅方向の分布を連続的に測定することによりストリップ長手
方向及びストリップ板幅方向の変形抵抗分布を測定し、
さらに、前記変形抵抗分布が測定されたストリップについて、前記複数の圧延機スタンドのうち最上流側に位置する第1圧延機スタンドで圧延される以前に、加熱装置により前記ストリップの少なくとも板幅方向端部領域を加熱して板幅方向に温度分布を生じさせ、しかも前記測定された変形抵抗分布に基づいて、ストリップ板幅方向の変形抵抗分布が均一になるような板幅方向温度分布を得るために必要な前記加熱装置の制御量を計算し、計算された制御量に基づいて前記加熱装置の制御量を制御することを特徴とする冷間タンデム圧延方法。
【請求項4】
複数の圧延機スタンドを直列状に配列してなる冷間タンデム圧延機の上流において、圧延されるストリップの変形抵抗に相関する材質についてのストリップ板幅方向の分布を連続的に測定することによりストリップ長手
方向及びストリップ板幅方向の変形抵抗分布を測定し、
さらに前記変形抵抗分布が測定されたストリップについて、前記複数の圧延機スタンドのうち最上流側に位置する第1圧延機スタンドで圧延される以前に、加熱装置により前記ストリップの少なくとも板幅方向端部領域を加熱してストリップの板幅方向に温度分布を生じさせるとともに、前記加熱装置と前記第1圧延機スタンド入側との間において、ストリップの板幅方向の温度分布を測定し、
前記測定された変形抵抗分布及び前記
測定された温度分布に基づいて、前記ストリップが第1圧延機スタンドで圧延される以前に、ストリップ板幅方向の変形抵抗分布が均一になるような板幅方向温度分布を与えるために必要な前記加熱装置の制御量を計算し、計算された制御量に基づいて前記加熱装置の制御量を制御することを特徴とする冷間タンデム圧延方法。
【請求項5】
予め、圧延すべきストリップのサンプルであってかつ板幅方向に変形抵抗分布のあるサンプルについて、変形抵抗に相関する材質を測定する変形抵抗分布測定器により板幅方向材質分布を測定するとともに、該サンプルの板幅方向各位置についての引張試験によって板幅方向の耐力分布を測定するサンプル測定段階と、
該サンプル測定段階による板幅方向材質分布測定結果と板幅方向耐力分布測定結果に基づいて、板幅方向材質分布と板幅方向耐力分布との相関関係を求めることにより、前記変形抵抗分布測定器の較正を行う較正段階と、
複数の圧延機スタンドを直列状に配列してなる冷間タンデム圧延機による実際のストリップの連続タンデム冷間圧延中において、前記冷間タンデム圧延機の上流にて前記変形抵抗分布測定器によりストリップの板幅方向の材質分布を連続的に測定する変形抵抗分布測定段階と、
得られた変形抵抗分布測定結果から、変形抵抗分布を表すパラメータを算出する変形抵抗分布パラメータ算出段階と、
予め、圧延すべきストリップのサンプルであってかつ板幅方向に変形抵抗分布のあるサンプルについて、変形抵抗に及ぼす板温度の影響を求めておく第1の回帰計算段階と、 少なくともストリップの幅方向端部を加熱するための加熱装置によって、予め圧延すべきストリップのサンプルについての加熱実験を行なって、その加熱装置の制御量とストリップ速度と板厚と板温度との関係を求めておく第2の回帰計算段階と、
前記第1の回帰計算段階で求められた関係と前記第2の回帰計算段階で求められた関係とに基づいて、前記ストリップが第1圧延機スタンドで圧延される以前に、ストリップ板幅方向の変形抵抗分布が均一になるような板幅方向温度分布を与えるために必要な前記加熱装置の制御量を計算する制御量計算段階と、
前記制御量で前記加熱装置を制御して、前記加熱装置によりストリップ板幅方向の変形抵抗分布が均一になるように温度分布を付与する温度分布付与段階と
を有することを特徴とする冷間タンデム圧延方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の製造工程において、熱間圧延上がりの鋼帯(熱延鋼帯)を、連続的に冷間圧延するための冷間タンデム圧延設備及び圧延方法に関し、とりわけ、高合金綱等、板幅方向での変形抵抗の分布が、長手方向に不均一に生じた熱間圧延上がりのストリップを連続冷間圧延するに適した冷間タンデム圧延設備及び冷間タンデム圧延方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記、板幅方向での変形抵抗の分布が、長手方向に不均一に生じた熱間圧延上がりのストリップとして、具体的な例としては、高張力鋼板(ハイテン鋼板)、ステンレス鋼板、電磁鋼板等がある。また、熱間圧延上がりの鋼帯(熱延鋼帯)の製造プロセスとしては、鋼スラブを粗圧延機及び仕上げ圧延機により熱間圧延してコイルに巻き取り、さらにそのコイルを大気中で冷却する製造プロセスや、粗圧延を省略して仕上げ圧延に相当する熱間圧延を行ってコイルに巻き取り、そのコイルを大気中で冷却する製造プロセス等がある。また、薄板連続鋳造圧延法として知られる双ロール式連続鋳造法あるいはベルト式連続鋳造法等によって製造された薄肉鋳片(薄肉スラブ)については、粗圧延を施すことなく、直ちに仕上げ圧延機に相当するインラインミルで圧下してコイルに巻き取り、さらにそのコイルを大気中で冷却する製造プロセス、さらに、連続鋳造から熱間粗圧延を経て熱間仕上げ圧延までを、途切れることなく一連続で行う製造プロセスもある。
【0003】
以降、ここでは一例として、鋼スラブを粗圧延機及び仕上げ圧延機により熱間圧延してコイルに巻き取り、さらにそのコイルを大気中で冷却したストリップコイルを冷間圧延する工程を含む製造プロセスにより無方向性電磁鋼板を製造する場合を例に挙げて説明する。
一般に、無方向性電磁鋼板の製造にあたっては、連続鋳造によって得られた鋳造板(スラブ)を加熱し、連続熱間圧延して、所定の板厚の熱延鋼帯とし、引き続いて熱延鋼帯に対して連続焼鈍(以下ではホットコイル焼鈍と称する)を施し、その後、酸洗・冷間圧延を施し、表面処理するのが一般的である(例えば非特許文献1)。このような従来の一般的な製造方法では、工程数が多く、高コスト化を招かざるを得ない。そこで最近では、例えば無方向性電磁鋼板の製造コストの低減を図るため、熱延鋼帯のホットコイル焼鈍工程を省略することが取り組まれている。すなわち、熱間圧延工程において熱延鋼帯の仕上げ圧延過程とそれに続く冷却過程の条件を適切に制御することによって、その冷却過程において自己焼鈍させることにより、ホットコイル焼鈍工程を省略する方法である。
【0004】
例えば、特許文献1には、質量%でC≦0.008、2≦Si+Al≦3、0.02≦Mn≦1.0、S≦0.003、N≦0.002、Ti≦0.003、0.001≦REM≦0.02、更に、0.3≦Al/(Si+Al)≦0.5の関係を満足し、残部Fe及び不可避的な不純物を含む無方向性電磁鋼板スラブを、熱間仕上圧延温度が1050℃以上となるような温度範囲で熱間仕上圧延を行い、その後の無注水時間を1秒以上7秒以下とし、注水冷却により700℃以下で巻取りを行うことにより、熱間仕上圧延後の冷却過程により熱延版焼鈍工程(ホットコイル焼鈍工程)を代替する製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-242186号公報
【文献】特開昭60-46804号公報
【文献】特開2002-239617号公報
【文献】特開2003-340510号公報
【文献】特開平3-60810号公報
【文献】特開2014-8520号公報
【文献】実開平3-128850号公報
【文献】特開平2-210258号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】「図解わかる電磁鋼板」(新日本製鐵株式会社、1994) 、p.67
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、例えば特許文献1に示されるように、連続熱延後の冷却過程での自己焼鈍によりホットコイル焼鈍工程を省略してコイルに巻き取られた無方向性電磁鋼板用の自己焼鈍コイルを、酸洗して冷間タンデム圧延機にて連続冷間圧延する際には、以下のような問題があることが認識された。
【0008】
1)熱間圧延上がりの熱延鋼帯は、例えば700℃以下でコイル状に巻取られた後、そのコイルのままの状態で大気中において冷却されるのが通常である。このような冷却過程では、コイル内での材料位置によって、冷却速度にバラツキが生じる。具体的には、コイルの外周部分の冷却速度は内周部分の冷却速度より大きくなり、また板幅方向の端部(エッジ部)の冷却速度は板幅方向の中央部寄りの部分よりも冷却速度が大きくなる。
このようなコイル内での冷却速度のバラツキによって、コイル内で、板長手方向及び板幅方向に材質の不均一、特に強度の不均一が生じ、ひいては冷間での変形抵抗の不均一が生じる。ここでは、このようなコイルを自己焼鈍コイルと称する。この自己焼鈍コイルの材質(鋼種)は上記無方向性電磁板に限定されるものではなく、コイル内で、板長手方向及び板幅方向に材質の不均一、特に強度の不均一が生じ、ひいては冷間での変形抵抗の不均一が生じる鋼種を意味する。
【0009】
2)このように自己焼鈍コイルでは、コイル内の長手方向及び板幅方向の材質の不均一が、自己焼鈍コイルの外周近傍かつエッジ近傍(巻き取られている熱延鋼帯の幅方向端部近傍)に発生するが、その不均一は、自己焼鈍コイル外周側の2~3周分において、板幅方向の端部(エッジ部)から150mm~250mm内側までの領域が顕著であり、これらの領域では、ストリップの板幅方向端部の強度が板幅方向中央部分の強度よりも10%から20%程度高くなることがある。
【0010】
3)上記のような材質の不均一のある自己焼鈍コイルを溶接によって連続化してストリップとし、酸洗して冷間タンデム圧延した際には、冷間タンデム圧延機の第1スタンドにおいて、上記の材質不均一部分での変形抵抗の差、すなわち板幅方向の両端部の変形抵抗が板幅方向中央部分の変形抵抗よりも大きいことから、圧延された板の形状が中伸びとなり、そのため、いわゆる絞りが発生して、板破断が生じることがある。
【0011】
4)中伸びによる絞り起因の板破断が生じれば、冷間タンデム圧延機内の圧延スタンドにおけるワークロールの損傷が生じてしまうことが多い。その場合には、圧延を中止して、ワークロールの交換が必要となるため、生産性が大幅に低下してしまう。
【0012】
5)さらに、絞り起因の板破断が激しい場合(激しい中伸びに起因する板破断の場合)には、ワークロールのみならず、ワークロールと接触している中間ロールあるいはバックアップロールの交換も必要となる。
【0013】
6)特に高速圧延時においては、絞り起因の板破断は激しく、復旧に十時間程度の長時間を要する場合があり、生産性の著しい低下を招いてしまう。
【0014】
以上のように、自己焼鈍コイルについては、その後の冷間タンデム圧延において、絞り起因の板破断が生じやすく、生産性を阻害する恐れが強かったのが実情である。
そこで、冷間タンデム圧延において自己焼鈍コイルの板破断が生じないようにした冷間タンデム圧延設備及び圧延方法が強く求められていた。
【0015】
一般に、圧延機で絞りが生じないようにするためには、圧延時に板形状の制御を行なうことが公知である。即ち、圧延機出側に形状検出器を設置して圧延された板形状を測定し、所望とする板形状に納まるように、例えば中伸び形状にならないように圧延機の形状制御端(例えばワークロールベンダー力)を制御することが知られている(例えば特許文献2)。一般的にはこのような形状制御は最終スタンドで行われている。
【0016】
また、冷間タンデム圧延機の第1スタンドにおいて圧延機出側に形状検出器を設置して圧延された板形状を測定し、形状制御を行う方法が特許文献3で提案されている。さらに、冷間タンデム圧延機の第1スタンドと第2スタンドにおいて圧延機出側に形状検出器を設置し、圧延された板形状を測定して形状制御を行う方法が、特許文献4で提案されている。また冷間タンデム圧延機の全スタンドにおいて圧延機出側に形状検出器を設置して、圧延された板形状を測定し形状制御を行う方法が、特許文献5で提案されている。
【0017】
一方、板幅方向に不均一な変形抵抗分布がある場合の形状制御方法が特許文献6に開示されている。すなわち特許文献6には、予め熱延鋼帯の長手方向の先端部、中央部、尾端部の位置における熱延鋼帯の幅方向の降伏応力を測定して変形抵抗分布パターンを調査し、その結果に基づいて圧延機の形状プリセットを行う(熱延鋼帯の長手方向の先端部、中央部、尾端部の位置でそれぞれ異なる形状プリセットを行う)方法が開示されている。
【0018】
上記特許文献2~特許文献5に開示された形状制御方法は、いずれか1以上の圧延機スタンドの出側に設置された形状検出器による板形状を測定して、測定された板形状が目標通りになるように、当該圧延機スタンドの形状制御端をフィードバック制御する方法である。この方法は、板形状が変化しても絞りが生じにくい熱延鋼帯や、サーマルクラウンのような比較的緩やかな変化に対しては有効であるものの、本発明で主に対象としている自己焼鈍コイルでは、必ずしも有効ではないことが認識されている。
【0019】
その理由は、ホットコイル焼鈍工程を省略した自己焼鈍コイルでは、変形抵抗分布の不均一が大きく、しかも長手方向で急激に変化するため、圧延後の形状も急激に大きく変化することにある。しかるに特許文献2~特許文献5に示されるようなフィードバック制御による形状制御方法では、熱延鋼帯が或る圧延機スタンドからその圧延機スタンド出側の形状検出器に至るまでの間に無駄時間がある。そのため、形状変化が大きくかつ急激な場合、時間的にフィードバック制御では間に合わない。
【0020】
本発明者等が、自己焼鈍コイルについての絞りによる第1スタンドの板破断のデータを調査したところ、第1スタンドでの圧延速度200m/minでは約2秒の間に急峻度1%の端伸びから急峻度2%の中伸びに変化し、その結果絞りが生じて板破断に至る場合があることが確認されている。この場合において、第1スタンドのロールバイト出口から3m離れた箇所に形状検出器を設置しているため(スペース上、3m未満にすることは不可能)、形状検出するまでに1秒程度を要し、その後に形状制御を開始したとしても、さらに1秒程度を要するため、実際に形状制御が行われるまでには、ロールバイトを出てから2秒程度の無駄時間を要することになる。そのため上記の急激な形状変化に間に合わず、板破断を防止することは困難とある。この際、第1スタンドでの圧延速度を100m/minまで下げれば、形状制御が開始される相対的な圧延長は1/2に短くなるが、形状が検出されるまでの無駄時間が2倍になるため、圧延速度を下げても板破断を防止することは困難である。
【0021】
一方、特許文献6に開示された、予め原板コイルの長手方向の先端部、中央部、尾端部の材料の幅方向の降伏応力を測定して変形抵抗分布パターンを調査し、その調査結果(予測結果)にもとづいて圧延機スタンドでの形状プリセット(フィードフォワード制御)を行う方法は、熱延鋼帯のコイル毎に再現性のある材料に関しては有効である。しかしながら、本発明で対象としている自己焼鈍コイルは、熱延仕上げの板形状やスケールや巻き取り後のコイル冷却条件(コイル配置位置、季節要因等)により、冷間圧延での板形状の変化の状況が大きく異なる。このため、予測結果に対するバラツキが大きく、実際上再現性があるとは言えない。すなわち、予測調査に基づいて変形抵抗分布をコイル全長にわたってパターン化することは困難である。ちなみに、不適切なパターンを入力してしまえば、中伸びを助長して、板破断を誘発してしまうおそれがある。
【0022】
そのほか、上記のような変形抵抗分布パターンを予測することなく、変形抵抗分布が変化しても中伸びにならないように端伸び形状に圧延機スタンドをプリセットすることも考えられる。この方法は、熱延鋼帯の変形抵抗分布の不均一がさほど大きくなく、かつ熱延鋼帯の長さ方向にさほど変形抵抗の変化がなく、熱延鋼帯のコイルごとにバラツキのない材料についてはある程度有効である。しかしながら、本発明で主として対象とする自己焼鈍コイルでは、熱延鋼帯の長さ方向に変形抵抗分布の板幅方向分布が大きくばらつく。そのため、中伸びを防止するために変形抵抗分布が不均一な(板端が硬い)箇所でも端伸びになるようにプリセットすれば、変形抵抗分布が均一な(板端が硬い)箇所で端伸びが大きくなりすぎ、逆に端伸び過大による絞りが発生して、板破断を誘発してしまうおそれがある。
【0023】
以上のように、従来は、自己焼鈍コイルの如く、熱延鋼帯の長手方向及び幅方向の変形抵抗分布の不均一が大きいコイルについて冷間タンデム圧延するにあたって、板破断の発生を確実に防止する制御手法は、未だ確立されていなかったのが実情である。
【0024】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、例えば自己焼鈍コイルの如く、熱延鋼帯の長手方向及び幅方向の変形抵抗分布の不均一が大きいコイルについて冷間タンデム圧延するにあたって、板破断の発生を確実に防止して、安定した圧延が可能となる冷間タンデム圧延設備及び冷間タンデム圧延方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
以下に本発明の冷間タンデム圧延設備、冷間タンデム圧延方法の具体的な態様について示す。
【0026】
本発明の基本的な態様(第1の態様)の冷間タンデム圧延設備は、
複数の圧延機スタンドを直列状に配列してなる冷間タンデム圧延機の上流に、圧延すべきストリップの変形抵抗に相関する材質についてのストリップ板幅方向の分布を連続的に測定することによりストリップ長手方向及びストリップ板幅方向の変形抵抗分布を測定するための変形抵抗分布測定器が配設されており、
さらに、前記測定された変形抵抗分布に基づき、前記変形抵抗分布測定器と前記複数の圧延機スタンドのうち最上流側に位置する第1圧延機スタンドとの間においてストリップ板幅方向に温度分布を生じさせるための加熱装置と、
前記変形抵抗分布測定器の測定値に基づいて、ストリップ板幅方向の変形抵抗分布が均一となるような板幅方向温度分布を得るために必要な前記加熱装置の制御量を計算するための計算装置と、
計算された制御量に基づいて前記加熱装置の制御量を制御する加熱制御装置と
を具備していることを特徴とするものである。
【0027】
また本発明の第2の態様の冷間タンデム圧延設備は、
前記第1の態様の冷間タンデム圧延設備において、
前記加熱装置と前記第1圧延機スタンドとの間に、板幅方向のストリップの温度分布を測定する温度検出器が配設されていることを特徴とするものである。
【0028】
さらに本発明の第3の態様の冷間タンデム圧延方法は、
複数の圧延機スタンドを直列状に配列してなる冷間タンデム圧延機の上流において、圧延されるストリップの変形抵抗に相関する材質についてのストリップ板幅方向の分布を連続的に測定することによりストリップ長手方向及びストリップ板幅方向の変形抵抗分布を測定し、
さらに、前記変形抵抗分布が測定されたストリップについて、前記複数の圧延機スタンドのうち最上流側に位置する第1圧延機スタンドで圧延される以前に、加熱装置により前記ストリップの少なくとも板幅方向端部領域を加熱して板幅方向に温度分布を生じさせ、 しかも前記測定された変形抵抗分布に基づいて、ストリップ板幅方向の変形抵抗分布が均一になるような板幅方向温度分布を得るために必要な前記加熱装置の制御量を計算し、計算された制御量に基づいて前記加熱装置の制御量を制御することを特徴とするものである。
【0029】
また本発明の第4の態様の冷間タンデム圧延方法は、
複数の圧延機スタンドを直列状に配列してなる冷間タンデム圧延機の上流において、圧延されるストリップの変形抵抗に相関する材質についてのストリップ板幅方向の分布を連続的に測定することによりストリップ長手方向及びストリップ板幅方向の変形抵抗分布を測定し、
さらに前記変形抵抗分布が測定されたストリップについて、前記複数の圧延機スタンドのうち最上流側に位置する第1圧延機スタンドで圧延される以前に、加熱装置により前記ストリップの少なくとも板幅方向端部領域を加熱してストリップの板幅方向に温度分布を生じさせるとともに、前記加熱装置と前記第1圧延機スタンド入側との間において、ストリップの板幅方向の温度分布を測定し、
前記測定された変形抵抗分布及び前記測定された温度分布に基づいて、前記ストリップが第1圧延機スタンドで圧延される以前に、ストリップ板幅方向の変形抵抗分布が均一になるような板幅方向温度分布を与えるために必要な前記加熱装置の制御量を計算し、計算された制御量に基づいて前記加熱装置の制御量を制御することを特徴とするものである。
【0030】
さらに本発明の第5の態様の冷間タンデム圧延方法は、
予め、圧延すべきストリップのサンプルであってかつ板幅方向に変形抵抗分布のあるサンプルについて、変形抵抗に相関する材質を測定する変形抵抗分布測定器により板幅方向材質分布を測定するとともに、該サンプルの板幅方向各位置についての引張試験によって板幅方向の耐力分布を測定するサンプル測定段階と、
該サンプル測定段階による板幅方向材質分布測定結果と板幅方向耐力分布測定結果に基づいて、板幅方向材質分布と板幅方向耐力分布との相関関係を求めることにより、前記変形抵抗分布測定器の較正を行う較正段階と、
複数の圧延機スタンドを直列状に配列してなる冷間タンデム圧延機による実際のストリップの連続タンデム冷間圧延中において、前記冷間タンデム圧延機の上流にて前記変形抵抗分布測定器によりストリップの板幅方向の材質分布を連続的に測定する変形抵抗分布測定段階と、
得られた変形抵抗分布測定結果から、変形抵抗分布を表すパラメータを算出する変形抵抗分布パラメータ算出段階と、
予め、圧延すべきストリップのサンプルであってかつ板幅方向に変形抵抗分布のあるサンプルについて、変形抵抗に及ぼす板温度の影響を求めておく第1の回帰計算段階と、
少なくともストリップの幅方向端部を加熱するための加熱装置によって、予め圧延すべきストリップのサンプルについての加熱実験を行なって、その加熱装置の制御量とストリップ速度と板厚と板温度との関係を求めておく第2の回帰計算段階と、
前記第1の回帰計算段階で求められた関係と前記第2の回帰計算段階で求められた関係とに基づいて、前記ストリップが第1圧延機スタンドで圧延される以前に、ストリップ板幅方向の変形抵抗分布が均一になるような板幅方向温度分布を与えるために必要な前記加熱装置の制御量を計算する制御量計算段階と、
前記制御量で前記加熱装置を制御して、前記加熱装置によりストリップ板幅方向の変形抵抗分布が均一になるような温度分布を付与する温度分布付与段階と
を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明の冷間タンデム圧延設備、冷間タンデム圧延方法によれば、例えば自己焼鈍コイルの如く、板幅方向の変形抵抗の分布が長手方向で不均一に生じている熱延鋼帯を冷間タンデム圧延機で圧延するにあたっても、板破断の発生を確実に防止して、安定した圧延が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の一実施形態に係る冷間タンデム圧延設備を組み込んだ無方向性電磁鋼板の製造ラインの一例を示す図である。
【
図2】本発明者等の実験による自己焼鈍コイルの結晶粒径と耐力(変形抵抗)との関係を示すグラフである。
【
図3】本発明者等の実験による自己焼鈍コイルの板幅方向各位置と耐力(変形抵抗)との関係、すなわち板幅方向の変形抵抗分布を示すグラフである。
【
図4】本発明者等の実験による自己焼鈍コイルの板幅方向端部と板幅方向中央部における板温度と耐力(変形抵抗)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
<冷間タンデム圧延設備についての実施形態>
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
図1には、本発明の一実施形態に係る冷間タンデム圧延設備を組み込んだ電磁鋼板の製造ラインの一例を示す。
【0034】
図1において、コイルC1、C2は、例えば、連続熱延の冷却過程での自己焼鈍により、ホットコイル焼鈍工程を省略して得られた無方向性電磁鋼板用熱延板(自己焼鈍コイル)を巻き取ってなるものである。
【0035】
ここで、上記無方向性電磁鋼板用熱延板の成分組成、及び自己焼鈍のための熱間圧延後の冷却条件は基本的には限定されず、要は、熱延板焼鈍工程を省略して製造しても、最終的に無方向性電磁鋼板としての性能が担保されるような成分組成、冷却条件であればよく、例えば特許文献1に記載されている成分組成、冷却条件が好適である。
【0036】
すなわち、質量%でC≦0.008%、2%≦(Si+Al)≦3、0%.02%≦Mn≦1.0%、S≦0.003%、N≦0.002%、Ti≦0.003%、0.001%≦REM≦0.02%を含有し、更に、0.3%≦Al/(Si+Al)≦0.5%の関係を満足し、残部Fe及び不可避的な不純物を含む無方向性電磁鋼板用スラブを用い、熱間仕上圧延温度が1050℃以上となるような温度範囲で熱間仕上圧延を行い、その後の無注水時間を1秒以上7秒以下とし、注水冷却により700℃以下で巻取を行った、自己焼鈍コイルが好適である。
【0037】
図1において、上記のような自己焼鈍コイルC1,C2はコイル払い出し機1に供給される。コイル払い出し機1によって自己焼鈍コイルC1,C2から払い出された板は、溶接機2により先行コイルからの板の尾端と後行コイルからの板の先端とが溶接されて連続化されたストリップ(自己焼鈍ストリップ)Sとなり、ルーパー3に送られる。なお以下では。自己焼鈍コイルC1,C2から払い出されて連続化された自己焼鈍ストリップSを、単にストリップ、あるいは自己焼鈍板と称することがある。
ルーパー3は、溶接機2におけるコイル接合中の払出しが無い場合(すなわちストリップの走行が停止している場合)でも、下流工程でストリップの供給の停滞がないように制御される。なお、コイル払い出し機1に供給される自己焼鈍コイルC1,C2は、ホットバス等で温度60℃以上に予め加熱しても良い。
【0038】
ルーパー3を通過した自己焼鈍ストリップSは、酸洗設備4に供給される。この酸洗設備4で、自己焼鈍コイルの表面スケールが除去(溶削)される。なお、酸洗前に溶削効率を上げるために、自己焼鈍ストリップSの表面にクラックを入れる圧延機や、レベラーもしくはテンションレベラー、あるいはショットブラスト(乾式又は湿式)やグラインダーを設置しても良い。
【0039】
酸洗されて表面スケールが除去された自己焼鈍ストリップSは、冷間タンデム圧延機7の上流に設置された変形抵抗分布測定器5によって、自己焼鈍ストリップSの長手方向に連続的に、板幅方向の変形抵抗分布が測定される。そして、変形抵抗分布測定器5で測定された変形抵抗分布を元に、後述する加熱装置6における加熱温度を制御するための制御量(例えば加熱装置6が誘導加熱装置の場合、電流量)が計算装置10で計算され、その計算装置10により得られた制御量に基づいて、加熱装置6の制御量が制御される。
【0040】
ここで、変形抵抗分布測定器5は、非破壊にてオンラインで変形抵抗を測定し得る装置を用いればよく、実際上は、変形抵抗と相関の強い物性値を示す材質を測定する測定器を用い、その物性値(材質)の測定値を変形抵抗に変換すればよい。具体的には、変形抵抗には鋼板の結晶粒径が相関することが知られており、そこで、例えば特許文献7に示されるように、感磁性素子を用いた磁束分布の測定によって、結晶粒径分布を求め、その結晶粒径分布を変形抵抗分布に変換すればよい。
【0041】
すなわち本実施形態における結晶粒径測定装置は、例えば特許文献7に示されるように、磁化器と磁化器電極間に固定した感磁性素子で検出端を構成し、その検出端を自己焼鈍ストリップの板面に対向して配置される検出ヘッドに設け、その検出ヘッドを自己焼鈍ストリップの板幅方向に走査(スキャン)させる機構を有するものとすればよい。そして測定にあたっては、感磁性素子を備えた検出ヘッドを板幅方向に走査させながら、結晶組織の粒界から生じる漏れ磁束を感磁性素子が検知することによって、板幅方向の結晶粒径分布を測定することができる。
【0042】
なお、本発明においては、幅方向の分布測定は短周期(例えば0.1秒)で行うことが好ましく、場合によっては(スキャンに時間がかかる場合には)、上述の検出ヘッドを自己焼鈍ストリップSの板幅方向に複数設け、走査(スキャン)することなく、板幅方向の結晶粒径分布を測定してもよい。この場合、板幅が変っても所望位置の板端部の結晶粒が測定できるように測定位置を変更できるようにすることが好ましい。また、自己焼鈍コイル全幅を1つの検出ヘッドで走査(スキャン)するのではなく、走査型の検出ヘッドを複数設置し、スキャンの距離を短くして短周期で測定できるようにしてもよい。
【0043】
また上記のような感磁性素子を用いた装置のほか、例えば特許文献8に示されるように、超音波の伝搬速度によって変形抵抗分布を測定することも可能である。
【0044】
変形抵抗分布測定器5と冷間タンデム圧延機7の入側との間には、自己焼鈍ストリップSの板幅方向に温度分布(板幅方向端部と板幅方向中央部との温度差)を生じさせるための加熱装置6が配設されている。
この加熱装置6は、例えば板幅方向の両端側の領域のみを加熱する誘導加熱装置によって構成される。具体的には、後に
図3を参照して説明するように、板幅方向両側における板端から板幅方向中央に向けてそれぞれ板幅の10~15%程度の位置までの領域(板端部領域)を局部的に加熱する誘導加熱装置によって構成される。加熱装置6の制御量(例えば電流量)は、変形抵抗分布測定器5で測定された変形抵抗分布に基づいた計算装置10の計算結果に応じ、図示しない加熱制御装置によって制御されるようになっている。
【0045】
なお本例では、加熱装置6は、上記のように板幅方向の両端側の領域(板端部領域)のみを加熱することとしているが、場合によっては、板幅方向の全幅にわたって加熱する構成としても良く、その場合は、板端部領域を板幅方向中央部寄りの領域よりも高温に加熱するように、板幅方向に不均一に加熱する構成とすればよい。また加熱装置としては、誘導加熱装置に限らず、例えば蒸気加熱方式の加熱装置や赤外線加熱方式の加熱装置、あるいはバーナー方式の加熱装置や通電加熱方式の加熱装置等を用いることもできる。
【0046】
また、加熱装置6と冷間タンデム圧延機7の入側(第1段圧延機スタンド7a)の入側との間には、必要に応じて図示しない温度検出器を配設しておいてもよい。この温度検出器は、加熱装置6によって自己焼鈍ストリップの幅方向に付与された温度分布の実際の分布を実測するためのものである。但し本例では、上記の温度検出器による温度分布の実測は行わないものとして説明し、後に改めて説明する別の実施形態において上記の温度検出器による温度分布の実測及びそれによる制御に関して説明する。
【0047】
上記のようにして板幅方向の変形抵抗分布が連続的に(したがって自己焼鈍ストリップSの長手方向に沿って連続的に)測定され、引き続いて加熱装置6によって板幅方向に温度分布差が付与された自己焼鈍ストリップSは、冷間タンデム圧延機7によって、より薄い板厚に圧延される。
【0048】
冷間タンデム圧延機7は、本実施形態では直列状に配列された5スタンドの圧延機スタンド7a~7eによって構成されており、第1スタンド7aから第5スタンド7eは、それぞれ例えば4重圧延機(4Hiミル)で構成されている。
さらに、冷間タンデム圧延機7では、図示していないが、各スタンドの入側と出側にてクーラントと称される圧延潤滑油を水に混入してエマルションにした圧延潤滑油が供給される。供給されたクーラントは図示しないタンクに回収され、再び各スタンドに供給されるリサーシュレーション潤滑が行われる。
ここでクーラントは、各スタンドでの圧延中に自己焼鈍ストリップが板幅方向に均一に冷却されるように、冷却されている。従って、第1スタンド入側に付与された板幅方向の温度分布差は、最終スタンド入側まで維持される。
【0049】
上記冷間タンデム圧延機7においては、例えば板厚2.3mm、板幅1200mmの無方向性電磁鋼板用の自己焼鈍ストリップが、板厚0.3mmまで圧延される。また、クーラントとしては、例えば合成エステル(ヒンダードコンプレックスエステル)をベース油とした圧延潤滑油が濃度2%、温度60℃で、各スタンドに1~3m3/min供給(入側と出側の合計)され、圧延潤滑とワークロール冷却を行っている。
【0050】
各圧延機スタンド7a~7eのワークロール径は、例えば500mm~700mm、バックアップロール径は、例えば1300mm~1600mm、胴長は例えば2000mmとされる。
【0051】
冷間タンデム圧延機7の下流には、連続化されて圧延された自己焼鈍ストリップを切断する切断機8が配備され、その下流には連続化されて圧延された自己焼鈍ストリップを巻き取るカローゼルリール9が配備されている。図示しないがカローゼルリール9で巻き取られ切断されたコイルは、ロールから払い出され、コンベアーに載せられ、次工程の工場等に向けて搬出される。
【0052】
ここで、無方向性電磁鋼板の製造ラインにおいて自己焼鈍コイルを溶接によって連続化してなるストリップ(自己焼鈍ストリップ)を、従来の冷間タンデム圧延設備により従来の一般的な方法にしたがって圧延した場合、既に述べたように熱間仕上げ圧延後のコイルでの冷却過程におけるコイル内の冷却速度の不均一による板幅方向、板長手方向の変形抵抗の不均一に起因して、圧延による板形状の乱れ(通常は中伸び)、極端な場合は板破断が生じてしまうことがある。
【0053】
これに対し、
図1に示したような本発明の一実施形態の冷間タンデム圧延設備を組み込んだ無方向性電磁鋼板の製造ラインにおいては、第1圧延機スタンドの上流(入側)に変形抵抗分布測定器を設置して自己焼鈍ストリップの板幅方向の変形抵抗分布を測定し、さらにその変形抵抗分布の測定結果に基づいて、第1圧延機スタンドに送り込まれる自己焼鈍ストリップに板幅方向に温度差を付与する(フィードフォワード制御により温度制御する)ことによって、変形抵抗の不均一が解消されて、後述する冷間タンデム圧延方法の実施形態として説明するように、圧延による大きな板形状の乱れ、板破断の発生を未然に防止することができる。
【0054】
<自己焼鈍コイルの変形抵抗分布と材質分布との関係についての知見>
本発明の冷間タンデム圧延方法を実施するにあたっては、前述のように冷間タンデム圧延機の上流に変形抵抗分布測定器を設置しておき、自己焼鈍コイルの長手方向及び板幅方向の変形抵抗分布を測定する。ここで、変形抵抗分布測定器としては、変形抵抗と相関の強い材質(物性値)、例えば結晶粒径を測定する測定器を用い、その物性値測定値を変形抵抗に変換して、変形抵抗分布を求めることができる。材質分布、とりわけ結晶粒径の分布と変形抵抗分布との相関関係については、本発明者等の次のような実験によって確認されている。
【0055】
すなわち、
図1に示した冷間タンデム圧延機7において、第1スタンド7aと第2スタンド7bとの間に図示しない張力検出器を設置して、その間での板張力を測定するようにした。また冷間タンデム圧延機7によって自己焼鈍コイル(連続化された自己焼鈍ストリップ)を連続圧延している間に、上記の張力検出器で測定される張力の値が零になった場合に、第1スタンド7aにて板破断発生と判定し、圧延を緊急停止させることとした。
このように板破断により圧延を緊急停止させた際の第1スタンド入側の板サンプル(したがって板の長手方向に、板破断個所に近い個所における圧延前のサンプル(大板サンプル))を採取して、さらにその大板サンプルから板幅方向の各位置のサンプル(小板サンプル)を切出し、その小板サンプルにおける材質を調査した。材質の調査方法としては、上記サンプルの材質分布として、板幅方向における結晶粒径分布を、特許文献7に示されている感磁性素子を用いて調査した。
その後、同一サンプル(前記小板サンプル)から引張り試験片を作成し、引張り試験を行って、板幅方向の各位置での耐力を測定した。
【0056】
上記のように調査した自己焼鈍ストリップ(連続ストリップ)における板破断個所近傍での板幅方向の結晶粒径分布によれば、板幅方向両端部の結晶粒が微細であるのに対して板幅方向中央部の結晶粒は粗大となっていることが確認された。また板幅方向の各位置での耐力の調査結果によれば、板幅方向両端部の耐力よりも板幅方向中央部の耐力が低いことが確認された。
【0057】
ここで、上記のように調査した自己焼鈍コイル(連続化されて圧延された自己焼鈍ストリップ)における板破断個所近傍での板幅方向各位置での結晶粒径と同一個所での板幅方向の各位置での耐力(変形抵抗)との関係を
図2に示す。
図2から明らかなように、結晶粒径が大きいほど、耐力が低下すること、言い換えれば変形抵抗が小さくなる傾向を示す。
このような傾向は、既に述べたように、熱間仕上げ圧延後のコイルの冷却過程でのコイル内における板幅方向の冷却速度の差に起因するものである。すなわち、コイル内において板幅方向両端部では冷却速度が大きいのに対し、板幅方向中央部では冷却速度が小さいためである。
【0058】
さらに、前述の板幅方向の各位置での耐力の調査結果から、板幅方向各位置と耐力(変形抵抗)との関係、言い換えれば板幅方向の変形抵抗分布を
図3に示す。なお
図3において横軸の板幅方向の位置は、規格化した位置であって、板幅方向中央位置を0(ゼロ)とし、板幅方向両端位置を±1としている。
図3からも、板幅方向両端部の耐力が大きいこと(変形抵抗が大きいこと)が明らかである。
【0059】
ここで、
図3に示す関係から、幅方向の一端から幅方向中央部に向けて全板幅の10%~15%の位置までの領域、及び幅方向の他端から幅方向中央部に向けて全板幅の10%~15%の位置までの領域(すなわち、両端から10%~15%内側の位置までの領域)を、それぞれ少なくとも加熱すべき幅方向端部領域とし、その幅方向端部領域を加熱により適切な程度まで軟化させれば、幅方向の全域にわたって耐力(変形抵抗)をほぼ均一化し得ることが分かる。例えば板幅1200mmの自己焼鈍コイルであれば、幅方向両側について、幅方向板端から120~180mm程度の位置までの領域(幅方向端部領域)を加熱すれば、板幅1200mmの全幅にわたって変形抵抗をほぼ均一化し得ることが分かる。
そして、上記のように板幅方向に温度分布が付与された状態、言い換えれば板幅方向の変形抵抗分布が均一になるような状態で圧延することによって、板幅方向の変形抵抗分布の不均一に起因する圧延時の板破断を防止することが可能となるのである。
さらに、
図3における板幅方向の変形抵抗分布形状を多項式近似しようとした場合、
4次式によって近似し得ること、言い換えれば、板幅方向の変形抵抗分布を4次式での近似により定量化し得ることを見出した。
【0060】
以上のように、第1スタンドで板破断が生じたストリップ(自己焼鈍コイルを連続化した自己焼鈍ストリップ)では、板破断部分付近で、板幅方向中央部と板幅方向端部とで結晶組織が異なり、それに伴って板幅方向の変形抵抗分布(耐力分布)も異なるが、例えば感磁性素子を用いた結晶粒径分布を測定することによって、板幅方向の変形抵抗分布(板幅方向端部の温度と板幅方向中央部との変形抵抗の差)を定量化することが可能であることを認識したのである。
【0061】
<自己焼鈍コイルの変形抵抗分布に及ぼす温度の影響についての知見>
さらに本発明者等は、自己焼鈍コイルにおける耐力と温度の関係を調べた。すなわち自己焼鈍コイルから板幅方向中央部と板幅方向端部(板中央部よりも2割程度硬い部分)のサンプルを切り出して、それぞれ引張り試験片を作成し、種々の温度で温間引張り試験を行った。その結果を、耐力と温度の関係として
図4に示す。
図4から、耐力の変化は温度と線形の関係にあり、低下しろ(傾き)は素材の変形抵抗の値(初期値)にはほとんど関係ないことが分かる。
そして
図4の結果に基づけば、例えば板中央部よりも2割程度硬い板端部は、板中央部よりも200℃程度温度か高くなるように加熱することによって、耐力差(変形抵抗差)を解消できることが分かる。この関係から、後に改めて説明する(3)式を回帰することができる。
【0062】
したがって板幅方向の変形抵抗分布に基づいて第1スタンド入側の加熱装置を制御して、第1スタンドで圧延される自己焼鈍ストリップの板幅方向に温度差(温度分布)を付与して、板幅方向の変形抵抗差を打消した状態(板幅方向の変形抵抗分布が均一になるような状態)で第1スタンドで圧延することにより、第1スタンドでの板破断の発生を防止し得るのである。
【0063】
<冷間タンデム圧延方法>
前述のような知見に基づき、本発明の冷間タンデム圧延方法の基本的な態様では、複数の圧延機スタンドを直列状に配列してなる冷間タンデム圧延機の上流において、圧延される自己焼鈍ストリップの板幅方向の材質分布、例えば結晶粒径分布を連続的に測定することにより、長手方法及び板幅方向の変形抵抗分布を測定するとともに、その測定された変形抵抗分布に基づいて、冷間タンデム圧延機の第1圧延機スタンドで圧延される自己焼鈍ストリップの板幅方向に、上記板幅方向の変形抵抗分布が均一になるような温度差を付与(フィードフォワード(FF)方式での制御)することとしている。
次に本発明の冷間タンデム圧延方法の実施形態を説明する。
【0064】
<冷間タンデム圧延方法の実施形態>
実施形態の冷間タンデム圧延方法は、基本的には、サンプル測定段階と、較正段階と、変形抵抗分布測定段階と、変形抵抗分布パラメータ算出段階と、第1の回帰計算段階と、第2の回帰計算段階と、制御量計算段階と、温度分布付与段階とを有する。以下にこれらの各段階について具体的に説明する。
【0065】
[サンプル測定段階]
第1の実施形態のサンプル測定段階は、予め、圧延すべきストリップのサンプルであってかつ板幅方向に変形抵抗分布のあるサンプルについて、変形抵抗に相関する材質を測定する変形抵抗分布測定器により板幅方向材質分布を測定するとともに、該サンプルの板幅方向各位置についての引張試験によって板幅方向の耐力分布を測定する段階である。
すなわち第1の実施形態の場合、予め変形抵抗分布のあるサンプルを採取し、オフラインで変形抵抗分布測定器の較正を実施しておく。ここで、変形抵抗分布測定器として、変形抵抗分布と相関の強い材質分布(例えば前述の冷間圧延設備の実施形態では粒径分布)を測定する場合、測定された板幅方向の粒径の分布態様が、同じ板幅方向の変形抵抗、例えば耐力の分布態様に相関するが、絶対値として粒径の値が耐力の値に相当するわけではない。そこで、予め採取した変形抵抗分布のあるサンプルを用いて、測定された粒径分布を耐力分布の絶対値分布に変換するための較正をおこなっておく必要がある。
【0066】
具体的には、冷間圧延すべき自己焼鈍ストリップと同一の鋼種(同一成分)でかつ熱履歴(熱間圧延から仕上げ圧延後の冷却過程での熱履歴)も同じであってしかも板厚、板幅も同じ自己焼鈍ストリップから、変形抵抗分布のある個所のサンプルを採取する(但し、第1スタンドで板破断が生じて緊急停止した際にその破断個所付近から採取したサンプルに限定されない)。そして採取したサンプルの幅方向粒径分布を測定するとともに、同じサンプルの幅方向各位置から引張り試験片を切り出して、板長手方向(L方向)に沿っての引張り試験を行い、そのサンプルの板幅方向の耐力分布を測定する。
【0067】
[較正段階]
較正段階とは、前記のサンプル測定段階による板幅方向材質分布測定結果と板幅方向耐力分布測定結果に基づいて、板幅方向材質分布と板幅方向耐力分布との相関関係を求めることにより、前記変形抵抗分布測定器の較正を行う段階である。すなわち、粒径と耐力との対応関係に基づいて、粒径分布測定結果を耐力分布(変形抵抗分布)に変換し得るように較正する。このようにして、変形抵抗分布をその絶対値として測定することが可能となる。
【0068】
[変形抵抗分布測定段階]
変形抵抗分布測定段階は、複数の圧延機スタンドを直列状に配列してなる冷間タンデム圧延機による実際のストリップの連続タンデム冷間圧延中において、冷間タンデム圧延機の上流にて前記変形抵抗分布測定器によりストリップの板幅方向の材質分布を測定する段階である。
すなわち、前記較正段階による較正済みの変形抵抗分布測定器を用いて冷間タンデム圧延機に送り込まれるストリップの板幅方向の材質分布(例えば粒径分布)を冷間タンデム圧延機の上流で測定して、その分布を変形抵抗分布測定結果として出力する。
【0069】
[変形抵抗分布パラメータ算出段階]
変形抵抗分布パラメータ算出段階は、変形抵抗分布測定段階によって得られた変形抵抗分布測定結果を多項式近似して、変形抵抗分布を表すパラメータを算出する段階である。
具体的には、前記較正段階を経て得られた変形抵抗分布、例えば
図3に示したような板幅方向の位置(横軸x)と耐力(変形抵抗:縦軸y)の関係を、多項式近似、例えば次の(1)式で示す4次式で近似する。
y=ax
4+b・・・(1)
ここで、板幅方向の位置xは、板幅方向の両端位置を±1、板幅方向の中央位置を0として規格化したものとする。
そして前記4次式((1)式)から、変形抵抗分布パラメータαとして、板端の耐力(a+b)が板中央部の耐力(b)よりどれだけ耐力が大きいか(変形抵抗がどれだけ大きいか)を表すパラメータαを次の(2)式によって算出する。
α=(a+b)-b
= a ・・・(2)
【0070】
[第1の回帰計算段階]
第1の回帰計算段階は、予め、圧延すべきストリップのサンプルであってかつ板幅方向に変形抵抗分布のあるサンプルについて、変形抵抗に及ぼす板温度の影響を求めておく段階である。
具体的には、変形抵抗分布の有る自己焼鈍ストリップから板幅方向のサンプルを切り出し、耐力に及ぼす温度の影響を、温間引張り試験によって調査し、変形抵抗変化(Δσ)と、変形抵抗(σ)に及ぼす第1圧延機スタンド入側での非加熱時の板温(室温、例えば20℃)からの温度上昇量(ΔT)との関係を、次の(3)式によって回帰する。
Δσ=f(ΔT)・・・(3)
【0071】
[第2の回帰計算段階]
第2の回帰計算段階は、少なくともストリップの幅方向端部を加熱するための加熱装置によって、予め圧延すべきストリップのサンプルについての加熱実験を行なって、その加熱装置の制御量とストリップ速度と板厚と板温度との関係を求めておく段階である。
具体的には、予め圧延すべきストリップのサンプルについて、前記加熱装置を用いて、加熱実験を行ない、加熱制御量(β)とストリップ速度(V)及び板厚(H)と板温度(T)との関係を調査し、加熱後の板温度(T)とストリップ速度(V)及び板厚(H)と加熱制御量(β)と制御量の関係を、次の(4)式によって回帰しておく。
T=g(V,H,β)・・・(4)
【0072】
[制御量計算段階]
制御量計算段階は、前記第1の回帰計算段階で求められた関係と前記第2の回帰計算段階で求められた関係とに基づいて、前記ストリップが第1圧延機スタンドで圧延される以前に、ストリップ板幅方向の変形抵抗分布が均一になるような板幅方向温度分布を与えるために必要な前記加熱装置の制御量を計算する段階である。
すなわち、加熱装置による加熱がなくかつ板幅方向に変形抵抗分布がないストリップ(このストリップの板端部の変形抵抗をσ1とする)を圧延速度V1で第1圧延機スタンドにおいて圧延している状態から、板幅方向に変形抵抗分布のあるストリップ(このストリップの板端部の変形抵抗をσ2とする)が第1圧延機スタンドに到来した時には、第1圧延機スタンドで圧延されるストリップの板端部の変形抵抗がσ1からσ2に変化することになる。
【0073】
ここで本発明の方法では圧延機の上流にてストリップの板幅方向の変形抵抗分布を測定しており、その変形抵抗分布のパラメータ(板端部の変形抵抗と板中央部の変形抵抗との差に相当する)をαとすれば、変形抵抗分布がないストリップを第1圧延機スタンドにおいて圧延している状態から、板幅方向に変形抵抗分布のあるストリップが第1圧延機スタンドに到来した時には、変形抵抗分布パラメータαは、α1(基本的に零)からα2(変形抵抗の変化量に相当)へ変化する。即ち変形抵抗はα2だけ変化することになる。
【0074】
また(4)式より、加熱制御量(β)をβ1からβ2に変えた場合のストリップの温度変化(ΔT)は、次の(5)式によって求められる。
ΔT=g(V2,H2,β2)-g(V1, H1,β1)・・・(5)
ここで、自己焼鈍コイル内では、板厚Hは長手方向で均一であり、また一定圧延速度であればVも変化しないから、その場合は次の(5′)式によってΔTを求めることができる。
ΔT=g(V1,H1,β2)-g(V1, H1,β1)・・・(5′)
【0075】
さらに、(3)式と(4)式と(5)又は(5′)式から、次の(6)式の関係が得られる。
Δσ=f(ΔT)・・・(6)
そこでこれらの関係式を解くことによって、変形抵抗分布が均一になるように(すなわち板端部の変形抵抗が板中央部と同じとなるように)必要な板端部の加熱上昇温度、即ち加熱装置の板端部の加熱制御量(β2)を求めることができる。
【0076】
[温度分布付与段階]
温度分布付与段階は、前記制御量(例えば加熱装置の電流量)で前記加熱装置を制御して、その加熱装置によりストリップ板幅方向の変形抵抗分布が均一になるような温度分布を付与する段階である。すなわち、前記の求められたβ2の制御量で、図示しない加熱制御装置により加熱装置を制御する段階である。
【0077】
以上のようにして、変形抵抗分布の変化に応じてFF方式により第1スタンドで圧延されるストリップの温度分布を制御し(ストリップ板幅方向の変形抵抗分布が均一になるように加熱制御)することにより、自己焼鈍ストリップにおける板幅方向の変形抵抗分布の不均一が大きい箇所が当該スタンドに突然送り込まれても、圧延後の形状は変化しないことになり、したがって形状変化に起因する絞り等による板破断の発生を未然に防止することができる。
【0078】
なお以上説明した圧延方法の実施形態では、測定された変形抵抗分布の変化に応じてフィードフォワード方式(FF方式)により加熱装置を制御することとしているが、既に述べたように。加熱装置と第1圧延機スタンド入側との間にストリップの温度分布を実測するための温度検出器を配設している場合には、測定された変形抵抗分布の変化に応じてFF方式により加熱装置を制御すると同時に、実測された温度分布に応じて、フィードバック方式(FB方式)により加熱装置を制御してもよい。これは、FF方式とFB方式を併用して、ストリップ板幅方向の変形抵抗分布が均一になるように板幅方向温度分布を与える制御を行うことを意味する。このようにすれば、より一層確実にストリップ板幅方向の変形抵抗分布が均一になり、板破断の発生をより一層確実に防止することができる。
また、以上は、板幅方向の変形抵抗分布が対称である場合の例で説明してきたが、板幅方向の変形抵抗分布が非対称な場合も同様に取り扱うことができることは言うまでも無い。
すなわち、板幅方向の変形抵抗分布を4次式近似して、一方の板端側のパラメータをα1、他方の板端側のパラメータをα2として、ストリップ板幅方向の変形抵抗分布が均一になる温度ΔT1,ΔT2を上述した手順で求めて板幅方向両端部の加熱制御を行えば良い。
【実施例】
【0079】
以下、本発明の各実施形態の冷間タンデム圧延方法に関する実施例及び比較例について説明する。
実施例及び比較例は、いずれも
図1に示した構成を備えた冷間タンデム圧延設備において実施した。すなわち冷間圧延機は第1~第4の圧延機スタンドからなり、各圧延機スタンドは4重式圧延機(4Hiミル)からなる構成とした。
【0080】
実施例、比較例でタンデム冷間圧延に供したストリップは、板厚2.3mm、板幅1200mmの無方向性電磁鋼板用の自己焼鈍ストリップであり、質量%でC:0.007%、(Si+Al):2.5%、Mn:0.5%、S:0.001%、N:0.001%、Ti:0.001%、REM:0.01%を含有し、更に、Al/(Si+Al):0.4%の関係を満足し、残部Fe及び不可避的な不純物を含む無方向性電磁鋼板用スラブを用い、熱間仕上圧延温度が1090℃となるような熱間仕上圧延を行い、その後の無注水時間を6秒とし、注水冷却により680℃で巻取を行ったものである。
【0081】
このようなコイル(自己焼鈍コイル)から払い出されたストリップを溶接により連続化し、自己焼鈍ストリップとして上記の冷間タンデム圧延機により板厚0.3mmまで圧延した。なお圧延速度は、コイル切り替え時の最終スタンドの圧延速度を250m/min、最終スタンドの最高圧延速度を1100m/minとした。また、下記表1に示すように、各スタンド間における張力は50~250MPaとした。
【0082】
【0083】
変形抵抗分布測定器として、既に述べたような感磁性素子を用いた結晶粒径測定装置を第1圧延機スタンドの入側に設置し、第1圧延機スタンドの入側で測定した粒径分布を耐力分布(変形抵抗分布)に変換する方式を適用した。また加熱装置として、既に述べたような誘導加熱方式の加熱装置を変形抵抗分布測定器と第1圧延機スタンドの入側との間に設置しておいた。なおこの加熱装置は、板幅方向両端から中央部に向けて150mmの位置までの領域(端部領域)を局部的に加熱する構成とした。
【0084】
実施例、比較例における、測定及び制御の態様は次のとおりである。
・比較例:従来の一般的な圧延方法に相当する例であり、板幅方向の変形抵抗分布があっても、加熱装置の制御を行なわずに、自己焼鈍ストリップを圧延した。
・実施例:自己焼鈍ストリップの板幅方向の変形抵抗分布を測定して、第1圧延機スタンド入側の加熱装置の制御量(電流量)を、前述の変形抵抗分布パラメータαの値に応じてFF制御した。
【0085】
以上のようにして、実施例、比較例により、自己焼鈍ストリップをそれぞれ100コイル分、圧延した。各例において、第1圧延機スタンドでの板破断の発生状況を調査した。なお変形抵抗分布パラメータαはそれぞれ0~110MPa(板端部耐力と板中央部耐力の比で1~1.2)の範囲で変化しているものが含まれる。但し、コイル毎のαのバラツキ(大きさ、位置)は大きく、必ずしも同一条件の100コイルではない。なお実施例の場合においては、板端部の温度は板中央部の温度よりも0~200℃の範囲で高くなるように制御されていた。
【0086】
以上のように調査した結果、比較例ではパラメータαが55MPa以上(板端部耐力と板中央部耐力の比で1.10以上)では約90%の確率で板破断が発生した。これに対して実施例の場合は、パラメータαが55MPa以上(板端部耐力と板中央部耐力の比で1.10以上)でも板破断の発生は認められなかった。
【0087】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0088】
例えば、上記実施形態では、無方向性電磁鋼板の自己焼鈍材を対象としたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、方向性電磁鋼板や、そのほか高張力鋼、ステンレス鋼板等を対象としてもよく、さらに自己焼鈍された熱延ストリップに限らず、ストリップの長さ方向、板幅方向に大きな変形抵抗の不均一がある場合に適用して、冷間タンデム圧延時の板破断を防止することができる。
【0089】
また前述の例では、各圧延機スタンドとして4重圧延機(4Hiミル)を用いているが、それに限らず、例えば6重圧延機(6Hiミル)を用いてもよい。
【0090】
以上、本発明の好ましい実施形態及び実験例について説明したが、これらの実施形態、実験例は、あくまで本発明の要旨の範囲内の一つの例に過ぎず、本発明の要旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。すなわち本発明は、前述した説明によって限定されることはなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定され、その範囲内で適宜変更可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0091】
C1,C2 自己焼鈍コイル
S 自己焼鈍ストリップ
1 コイル払い出し機
2 溶接機
3 ルーパー
4 酸洗設備
5 変形抵抗分布測定器
6 加熱装置
7 冷間タンデム圧延機
7a,7b,7c,7d,7e 冷間タンデム圧延機の圧延機スタンド
8 切断機
9 カローゼルリール
10 計算装置