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特許7311774Zn-Alワイヤー供給装置及びZn-Alワイヤー供給方法
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  • 特許-Zn-Alワイヤー供給装置及びZn-Alワイヤー供給方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】Zn-Alワイヤー供給装置及びZn-Alワイヤー供給方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/00 20060101AFI20230712BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20230712BHJP
   C22C 18/04 20060101ALN20230712BHJP
【FI】
C23C2/00
C23C2/06
C22C18/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019182074
(22)【出願日】2019-10-02
(65)【公開番号】P2021055171
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】入江 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】木戸 裕也
(72)【発明者】
【氏名】松田 弘賢
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/133205(WO,A1)
【文献】特表2010-506042(JP,A)
【文献】特開昭60-052507(JP,A)
【文献】特開2005-298842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00-2/40
C21C 7/00-7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融亜鉛浴へZn-Alワイヤーを供給するZn-Alワイヤー供給装置であって、
供給装置本体から押し出されたZn-Alワイヤーの進行方向を変える曲げ部を複数備えるとともに、隣り合う曲げ部がZn-Alワイヤーを異なる方向に曲げるように構成し、
供給装置本体から押し出されるZn-Alワイヤーを、溶融亜鉛浴へ供給するまでに、内径がZn-Alワイヤーの径の4倍以上、10倍以下のガイドパイプの中に通すことを特徴とするZn-Alワイヤー供給装置。
【請求項2】
記曲げ部の曲げ角度を90度以下とすることを特徴とする請求項1に記載のZn-Alワイヤー供給装置。
【請求項3】
前記曲げ部の曲率半径を100mm以上とすることを特徴とする請求項2に記載のZn-Alワイヤー供給装置。
【請求項4】
り合う各曲げ部の間が200mm以上であり、隣り合う各曲げ部の間に直線状のガイドパイプを備えたことを特徴とする請求項3に記載のZn-Alワイヤー供給装置。
【請求項5】
少なくとも一つの曲げ部では、ガイドローラーの間にワイヤーを通して曲げることを特徴とする請求項3又は4に記載のZn-Alワイヤー供給装置。
【請求項6】
ガイドローラーの個数は、ガイドローラーが設けられた各曲げ部あたり4個以上とすることを特徴とする請求項5に記載のZn-Alワイヤー供給装置。
【請求項7】
請求項1乃至6に記載のワイヤー供給装置を用いて溶融亜鉛浴へZn-Alワイヤーを供給することを特徴とするZn-Alワイヤー供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融亜鉛浴へZn-Alワイヤーを供給するZn-Alワイヤー供給装置及びZn-Alワイヤー供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛めっき鋼板の品質を安定化させるためには、溶融亜鉛浴中のAl濃度を厳格に管理する必要がある。というのも、Al濃度が高過ぎると合金化不良が発生し、Al濃度が低過ぎると浴中でボトムドロスが生成・蓄積し鋼板に付着することでドロス疵が発生するからである。
【0003】
現在、溶融亜鉛浴中のAl濃度は、Zn-Al合金の小型インゴットを間欠的に溶融亜鉛浴表層に投入(オペレーターによる手動投入)することで調整している。しかしこの方法は、間欠的なAl供給であるため経時的なAl濃度変動が生じており、また溶融亜鉛よりも低密度であるZn-Al合金の小型インゴットを溶融亜鉛浴表層から供給しているためAlが溶融亜鉛浴の表層に濃化し(溶融亜鉛浴の深部まで拡散しにくく)、溶融亜鉛浴の深さ方向にAl濃度のばらつきが発生する。これらのAl濃度の変動・Al濃度のばらつきにより溶融亜鉛浴中のAl濃度の厳格管理が困難であり、合金化不良やドロス疵の発生といった品質欠陥を発生させないように減速通板を余儀なくされるなど、生産性が阻害されている。
【0004】
これらのAl濃度の変動やAl濃度のばらつきを抑制する技術が必要であり、特許文献1や特許文献2では、Zn-Al合金のワイヤーを溶融亜鉛浴中の高流速部(溶融亜鉛浴表層から数百mmの深さ)に供給することでAl濃度の変動やAl濃度のばらつきの抑制を図る方法が提案された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5423929号公報
【文献】特開2018-184630号公報
【0006】
この方法では、Zn-Alワイヤーの供給装置本体を溶融亜鉛浴の近傍に設置する必要があると考えられていた。しかしながら、Zn-Alワイヤーの供給装置本体を溶融亜鉛浴の近傍に設置すると、溶融亜鉛浴の周辺でのオペレーター作業(ドロス除去作業や溶融亜鉛浴周辺機器の手入れ等)やその他の装置等の動作と干渉する等の問題が生じた。そこで、Zn-Alワイヤーの供給装置本体を溶融亜鉛浴周辺で行われるオペレーター作業やその他装置等の動作と干渉しない(溶融亜鉛浴から離れた)位置に配置することが求められるようになった。
【0007】
この求めに応じ、発明者が溶融亜鉛浴より離れた位置にZn-Alワイヤーを供給する供給装置本体を配置しようとしたところ、Zn-Alワイヤーの逸れなどにより、溶融亜鉛浴まで安定的に供給できなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような背景でなされた発明であり、本発明が解決しようとする課題は、Zn-Alワイヤーを供給する供給装置本体を溶融亜鉛浴の近傍に配置しなくても、Zn-Alワイヤーを溶融亜鉛浴に安定して供給できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、溶融亜鉛浴へZn-Alワイヤーを供給するワイヤー供給装置であって、供給装置本体から押し出されるZn-Alワイヤーを、溶融亜鉛浴へ供給するまでに、内径がZn-Alワイヤーの径の4倍以上、10倍以下のガイドパイプの中に通すことを特徴とするワイヤー供給装置とする。
【0010】
また、供給装置本体から押し出されるZn-Alワイヤーの進行方向を変える曲げ部を備え、前記曲げ部の曲げ角度を90度以下とする構成とすることが好ましい。
【0011】
また、曲げ部の曲率半径を100mm以上とする構成とすることが好ましい。
【0012】
また、供給装置本体から押し出されるZn-Alワイヤーの進行方向を変える曲げ部を複数備え、隣り合う各曲げ部の間が200mm以上であり、隣り合う各曲げ部の間に直線状のガイドパイプを備えた構成とすることが好ましい。
【0013】
また、少なくとも一つの曲げ部では、ガイドローラーの間にワイヤーを通して曲げる構成とすることが好ましい。
【0014】
また、ガイドローラーの個数は、ガイドローラーが設けられた各曲げ部あたり4個以上とすることが好ましい。
【0015】
また、このようなワイヤー供給装置を用いて溶融亜鉛浴へZn-Alワイヤーを供給することを特徴とするZn-Alワイヤー供給方法とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明を用いると、Zn-Alワイヤーを供給する供給装置本体を溶融亜鉛浴の近傍に配置しなくても、Zn-Alワイヤーを溶融亜鉛浴に安定して供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】溶融亜鉛浴から離れた場所に供給装置本体を配置した例を示す側面図である。
図2図1に示すワイヤー供給装置周りの平面図である。
図3】ガイドパイプに設けられた曲げ部の曲げ角度を表した図である。
図4】曲げ部にガイドローラーを用いた例を示す図である。
図5】曲げ部間の距離を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に発明を実施するための形態を示す。図1及び図2に示されていることから理解されるように、本実施形態のワイヤー供給装置1は、溶融亜鉛浴8へZn-Alワイヤー7を供給するものである。このワイヤー供給装置1は、供給装置本体10から押し出されるZn-Alワイヤー7を、溶融亜鉛浴8へ供給するまでに、内径がZn-Alワイヤー7の径の4倍以上、10倍以下のガイドパイプ3の中に通す。このため、Zn-Alワイヤー7を供給する供給装置本体10を溶融亜鉛浴8の近傍に配置しなくても、Zn-Alワイヤー7を溶融亜鉛浴8に安定して供給できる。また、このようなワイヤー供給装置1を用いて溶融亜鉛浴8へZn-Alワイヤー7を供給するようにすれば、Zn-Alワイヤー7の供給による溶融亜鉛浴8のAl濃度の変動やAl濃度のばらつきの抑制が可能となる。
【0019】
なお、供給装置本体10は、Zn-Alワイヤー7を送り出すものである。図1及び図2に示す例では、保管されたZn-Alワイヤー7を駆動ロール11とピンチロール12の間から押し出すものである。実施形態では、モーター駆動の駆動ロール11を回転させることにより、Zn-Alワイヤー7を駆動ロール11とピンチロール12の間から押し出すことができる。なお、図1及び図2に示す供給装置本体10は、巻回されたZn-Alワイヤー7を備えたファイバードラムなどから少しずつZn-Alワイヤー7を導入し、このZn-Alワイヤー7をガイドパイプ3に送り出す。
【0020】
ところで、溶融亜鉛浴8の周辺作業やその他装置等の動作の支障となりうるため、供給装置本体10を溶融亜鉛浴8の周辺に設置することは困難である。また、仮に供給装置本体10が溶融亜鉛浴8の周辺に設置できた場合でも、供給装置本体10が溶融亜鉛浴8から熱負荷を受けるため、冷却対策等が必要となり、装置コストが大きくなるといった問題がある。また、供給装置本体10が溶融亜鉛浴8の周辺に設置した場合、供給装置本体10のワイヤー交換(補充)やメンテナンス作業をする際の作業環境が劣悪なものとなる。
【0021】
このようなことから、上記問題が生じない任意の位置に供給装置本体10を設置する必要があるが、供給装置本体10を溶融亜鉛浴8から離れた位置に設置すると、供給装置本体10から溶融亜鉛浴8までの距離が長くなったり、曲げ回数が増加したりするなどしてワイヤーの安定供給が困難となる。この点を改善するために、本発明では、Zn-Alワイヤー7を、内径がワイヤー径の4倍以上、10倍以下のガイドパイプ3の中に通して供給するようにしている。Zn-Alワイヤー7をガイドパイプ3の中に通して供給するのは、Zn-Alワイヤー7の逸れや弛みを防止するためである。また、ガイドパイプ3の内径を、Zn-Alワイヤー7径の4倍以上、10倍以下とするのは、抵抗の低減、弛みの抑制などを達成するためである。内径が小さすぎる(Zn-Alワイヤー7の径の4倍未満)と、Zn-Alワイヤー7とガイドパイプ3の摩擦抵抗が大きくなり、内径が大きすぎる(Zn-Alワイヤー7の径の10倍超)と、Zn-Alワイヤー7が弛みやすくなる。
【0022】
ワイヤー供給装置1にはZn-Alワイヤー7の進行方向を変える曲げ部18は必須ではないが、曲げ部18を設ける場合、抵抗の低減を行うためには、曲げ部18の曲げ角度を90度以下としたり、曲げ部18の曲率半径を100mm以上としたりすることが好ましい。曲げ角度が大きすぎる(90°超)と、曲げ部18の摩擦抵抗が大きくなり、曲率半径が小さすぎる(100mm未満)と、Zn-Alワイヤー7の曲げ抵抗が大きくなったり、Zn-Alワイヤー7にくせがついたりすることにより、曲げ部18以降での摩擦抵抗が大きくなったりするからである。なお、曲げ部18の曲げ角度は、図3に示すことから理解されるように、Zn-Alワイヤー7が直線的な状態から、どの程度、角度が変えられるかを表したものである。
【0023】
また、図4に示すことから理解されるように、曲げ部18では、ガイドローラー19の間にZn-Alワイヤー7を通して曲げるようにすることが好ましい。Zn-Alワイヤー7がガイドパイプ3に擦りながら移動する場合と比較し、曲げ部18において生じる摩擦抵抗を低減させることができるからである。なお、ガイドローラー19は全ての曲げ部18に設ける必要はなく、少なくとも一つの曲げ部18において有する構成であれば、摩擦抵抗を低減させる効果は得られる。なお、ガイドローラー19の典型例としてボールベアリング付ローラーが挙げられるが、ガイドローラー19はボールベアリング付ローラーに限られるものでは無い。
【0024】
このガイドローラー19の個数は、ガイドローラー19が設けられた各曲げ部18あたり4個(2対)以上とすることが好ましい。ガイドローラー19の個数が少なすぎる(4個未満)と、Zn-Alワイヤー7が逸れたり、弛んだりするといったことも、生じやすくなるからである。
【0025】
また、供給装置本体10から押し出されるZn-Alワイヤー7の進行方向を変える曲げ部18を複数備え、隣り合う各曲げ部18の間が200mm以上であり、隣り合う各曲げ部18の間に直線状のガイドパイプ3を備えたワイヤー供給装置1とすることが好ましい。各曲げ部18の間の距離は、図5に示すことから理解されるように、ある曲げ部18での曲げ初めの箇所から、その次にある曲げ部18での曲げ終わりの箇所までの距離である。
【0026】
曲げ部18が近接しすぎていると(200mm未満)、先に通過した曲げ部18でついたワイヤーのくせを十分に矯正できず、後に通過する曲げ部18での曲げ抵抗や摩擦抵抗が大きくなるが、このような構成とすることで、上流側の曲げ部18で生じたワイヤーの癖を下流側の曲げ部18に至るまでに緩めることができ、曲げ抵抗や摩擦抵抗を抑制することができる。なお、曲げ部18間に位置するガイドパイプ3の直線状の部位の長さは、200mm以上とすることが望ましい。
【0027】
ところで、Zn-Alワイヤー7は、Zn及びAlが必要量含まれている合金のワイヤーである。なお、Zn-Alワイヤー7は、Znが60質量%以上、Alが5質量%以上含まれているものであることが好ましい。また、Alは6質量%以上15質量%以下であると、更に好ましい。
【実施例
【0028】
次に、実施例について説明する。本実施例では。図1及び図2に示すような供給装置本体10を、溶融亜鉛浴8から離れた個所に配置している。Zn-Alワイヤー7の径、ガイドパイプ3の内径、曲げ部18の数、延べ長さなどの条件を変更して溶融亜鉛浴8にZn-Alワイヤー7を安定供給可能であるか否かを確認した。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
表1の比較例1及び比較例2のように、用いたガイドパイプ3の内径がZn-Alワイヤー7の径の4倍以上、10倍以下という条件を満たさなかった場合、Zn-Alワイヤー7を溶融亜鉛浴8へ安定供給することはできなかった。一方、実施例1から3に示すように、用いたガイドパイプ3の内径が、Zn-Alワイヤー7の径の4倍以上、10倍以下という条件を満たした場合、Zn-Alワイヤー7を溶融亜鉛浴8へ安定供給することができた。
【0031】
ワイヤー供給装置1に備えられた曲げ部18の曲げ角度が90度以下でない比較例3では、Zn-Alワイヤー7を溶融亜鉛浴8へ安定供給することができなかった。一方、曲げ部18の曲げ角度が90度以下である実施例1などでは、Zn-Alワイヤー7を溶融亜鉛浴8へ安定供給することができた。
【0032】
曲げ部18の曲率半径が100mm以上で無かった比較例4では、Zn-Alワイヤー7を溶融亜鉛浴8へ安定供給することができなかった。一方、曲げ部18の曲率半径が100mm以上である実施例1などでは、Zn-Alワイヤー7を溶融亜鉛浴8へ安定供給することができた。
【0033】
曲げ部18と曲げ部18の間隔が200mm未満である比較例5では、Zn-Alワイヤー7を溶融亜鉛浴8へ安定供給することができなかった。一方、曲げ部18と曲げ部18の間隔が200mm以上である実施例8などでは、Zn-Alワイヤー7を溶融亜鉛浴8へ安定供給することができた。
【0034】
その他、曲げ部18を増やしたり、延べ長さを増やしたりするなど、さまざまな条件で、実験を行った結果、所定の条件を満たせば、比較的Zn-Alワイヤー7の送り出しをしにくそうな環境でも、Zn-Alワイヤー7を溶融亜鉛浴8へ安定供給でき得ることが分かった。
【0035】
以上、実施形態を中心として本発明を説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、各種の態様とすることが可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 ワイヤー供給装置
3 ガイドパイプ
7 Zn-Alワイヤー
8 溶融亜鉛浴
10 供給装置本体
18 曲げ部
19 ガイドローラー
図1
図2
図3
図4
図5