IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

特許7311777コークス炉ガス処理装置およびコークス炉ガス処理方法
<>
  • 特許-コークス炉ガス処理装置およびコークス炉ガス処理方法 図1
  • 特許-コークス炉ガス処理装置およびコークス炉ガス処理方法 図2
  • 特許-コークス炉ガス処理装置およびコークス炉ガス処理方法 図3
  • 特許-コークス炉ガス処理装置およびコークス炉ガス処理方法 図4
  • 特許-コークス炉ガス処理装置およびコークス炉ガス処理方法 図5
  • 特許-コークス炉ガス処理装置およびコークス炉ガス処理方法 図6
  • 特許-コークス炉ガス処理装置およびコークス炉ガス処理方法 図7
  • 特許-コークス炉ガス処理装置およびコークス炉ガス処理方法 図8
  • 特許-コークス炉ガス処理装置およびコークス炉ガス処理方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】コークス炉ガス処理装置およびコークス炉ガス処理方法
(51)【国際特許分類】
   C10K 1/04 20060101AFI20230712BHJP
【FI】
C10K1/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019190799
(22)【出願日】2019-10-18
(65)【公開番号】P2021066760
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 彰一
(72)【発明者】
【氏名】田原 年英
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-239934(JP,A)
【文献】特開2011-132365(JP,A)
【文献】特開2009-256490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10K 1/00-34
C10B 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭の乾留中に発生するコークス炉ガスを回収して、不純物の除去を行うコークス炉ガス処理装置であって、
前記コークス炉ガスの冷却処理を行うガス冷却装置と、
前記ガス冷却装置の下流側に設けられ、前記冷却処理後のコークス炉ガスの精製処理を行うガス精製装置と、
制御装置と、を備え、
前記ガス冷却装置は、その最下流側に設けられるチラー式クーラーと、ガス経路から回収される回収水の一部または全部から、前記回収水に含まれる不純物である窒素化合物、硫黄化合物のうちの少なくともいずれか一方を除去する不純物除去装置と、を有し
前記ガス精製装置は、脱硫装置と脱窒素装置の一方又は両方を有し、
前記ガス冷却装置、又は前記ガス精製装置は、前記チラー式クーラーの下流側のコークス炉ガス中のH S濃度を計測するH S濃度測定装置と、前記チラー式クーラーの下流側のコークス炉ガス中のNH 濃度を計測するNH 濃度測定装置の、一方又は両方を有し、
前記制御装置は、前記H S濃度測定装置により計測された測定値と前記NH 濃度測定装置により計測された測定値の一方又は両方に基づいて、前記チラー式クーラーによる前記コークス炉ガスの冷却温度を制御する、ことを特徴とするコークス炉ガス処理装置。
【請求項2】
不純物除去装置を経由する前記回収水は、コークス炉ガス中に投入されるものである、ことを特徴とする請求項1に記載のコークス炉ガス処理装置。
【請求項3】
記不純物除去装置は、前記チラー式クーラーからの回収水に含まれる前記不純物を除去する、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコークス炉ガス処理装置。
【請求項4】
前記チラー式クーラーは、チラー式間接クーラーであり、
前記ガス冷却装置は、前記不純物除去装置の代わりに、前記チラー式間接クーラーから回収される回収水を前記ガス冷却装置から排出処理する排出処理装置を有する、ことを特徴とする請求項3に記載のコークス炉ガス処理装置。
【請求項5】
前記チラー式クーラーによる前記コークス炉ガスの冷却温度の制御は、
前記チラー式クーラーにおいて使用される熱交換冷媒の温度の調整による、ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のコークス炉ガス処理装置。
【請求項6】
請求項3又は請求項4に記載のコークス炉ガス処理装置を用いる、ことを特徴とするコークス炉ガス処理方法。
【請求項7】
前記チラー式クーラーによる前記コークス炉ガスの冷却温度の制御を、
前記チラー式クーラーにおいて使用される熱交換冷媒の温度の調整により行う、ことを特徴とする請求項に記載のコークス炉ガス処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉ガス処理装置およびコークス炉ガス処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭(原料炭)を乾留してコークスを製造する際には、石炭中の揮発分に起因する副産物として、コークス炉ガス(COG)やタールが発生する。コークス炉ガスには、芳香族化合物や環境汚染物質などの不純物が約3%程度含まれる。芳香族化合物は、タールミスト、ナフタレン、軽油などであり、環境汚染物質は、シアン化水素(HCN)、アンモニア(NH)、硫化水素(HS)などである。
【0003】
これらの不純物を含むコークス炉ガスは、化成品としての回収、燃料としての利用、設備の腐食トラブルの回避、環境対策など、目的に応じた処理が行われるが、その処理工程としては、前半のガス冷却工程と、後半のガス精製工程に大別される。
【0004】
ガス冷却工程においては、原料炭の乾留排ガスである、高温のコークス炉ガスを冷却する。コークス炉ガスの冷却処理には、間接ガスクーラーによる間接冷却処理と、直接ガスクーラーによる直接冷却処理とがある。間接冷却処理においては、チューブの中を通過する冷却水により、コークス炉ガス中に含まれる飽和水蒸気などが凝縮し、不純物を含んだ凝縮液が発生する。直接冷却処理においては、投入した直接冷却の冷却水およびコークス炉ガス中に含まれる飽和水蒸気などが凝縮し、不純物を含んだ凝縮液が発生する。凝縮液は回収水として回収され、タール混合液と安水(アンモニア成分を含む水)に分離される。安水は一定量がコークス炉ガスの冷却に使用され、残りは廃棄処理される。
【0005】
ガス精製工程は、配管の腐食対策や環境対策のための脱硫を目的とする脱硫工程、配管の腐食やNOx発生の原因となる窒素化合物の除去を目的とする脱窒素工程(例えば、アンモニア除去を目的とするNH除去工程)、軽油の回収を目的とする軽油回収工程などを含む。なお、これらの工程の順序は製鉄所により様々である。
【0006】
ガス冷却工程については、以下のような技術が開示されている。
特許文献1には、コークス炉ガスを、循環水をスプレする受容器、冷却塔により冷却処理することが記載されている。また、特許文献2には、コークス炉ガスを、間接式プライマリー・ガス・クーラー、循環冷却水をスプレーして冷却する直接式プライマリー・ガス・クーラーにより冷却処理することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特公昭58-30356号公報
【文献】特開平6-73386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、前半のガス冷却工程を実施するガス冷却装置は、コークス炉ガスの冷却を目的として設備設計がなされ、脱硫処理や脱窒素処理を目的とするものではない。脱硫処理や脱窒素処理は、後半のガス精製工程を実施するガス精製装置に委ねている。特許文献1および特許文献2に記載されているように、ガス冷却工程において、コークス炉とドライメーンの間の管下降部や直接式クーラーにおいて散布されるスプレ水(散布水)には、ドライメーン、間接式プライマリー・ガス・クーラー、直接式プライマリー・ガス・クーラーにおいて回収された回収水を、一定量循環させて有効利用している。
【0009】
このように、ガス冷却装置は回収水を散布水としてコークス炉ガス中に再投入し、循環利用する構成となっている。回収水中に溶解する硫黄分および窒素分は、循環してコークス炉ガス中に戻るので、ガス冷却工程の入口側から導気されるコークス炉ガス中の成分がそのまま維持され、ガス冷却工程の出口側における硫黄分や窒素分の濃度は、原料炭の硫黄分および窒素分の成分量により決まってくる。
【0010】
ここで、コークス炉ガスを処理するコークス炉ガス処理装置は、コークス炉の付帯設備として、コークス炉とともに建設される。そのため、コークス炉ガス処理装置は、建設当時にコークス炉で使用されていた原料炭の成分に基づいて、処理能力が設定されている。すなわち、脱硫や脱窒素を行うガス精製工程における処理能力も、建設当時にコークス炉で使用されていた原料炭の成分に基づいて設定されている。
【0011】
原料炭の成分が、建設当時のものと変わらないのであれば、問題なく処理が行えるのであるが、近年、良質炭の枯渇により、石炭受給環境に変化が生じており、原料炭として安価な劣質炭などを使用するようになってきている。劣質炭は、硫黄分や窒素分などを多く含む場合が多いため、ガス冷却工程入口におけるコークス炉ガス中の硫黄分や窒素分の量が増加し、必然的に、ガス冷却工程の出口側における硫黄分や窒素分の濃度が上昇する事態が起きている。
【0012】
しかしながら、既存の設備においては、ガス精製装置の処理能力は、上述のように建設時に設定されており、限界がある。硫黄分や窒素分の量が、ガス精製装置の処理能力を超過するとガス精製処理後の排ガス中のNOx濃度やSOx濃度が上昇し、環境規制が遵守できなくなる。そのため、NOx濃度やSOx濃度の上昇を抑えるために、安価な劣質炭の使用量を抑えるか、ガス精製工程における処理能力を向上させるかの対策をとる必要が生じている。処理能力の向上対策として取りうる措置は、例えば、脱硫工程や脱窒素工程を行うガス精製装置の増設であるが、大規模な設備投資となるという問題があった。また、硫黄分や窒素分の濃度は倍増するわけではなく、例えば、1~3割程度の増加分に対応できればよい。よって、ガス精製装置の増設よりも簡易な設備で対応できることが望まれていた。
【0013】
本発明の目的は、硫黄分や窒素分の多い劣質炭などの原料炭の乾留の際に発生するコークス炉ガスを処理することができるコークス炉ガス処理装置およびコークス炉ガス処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の要旨とするところは、以下のとおりである。
(1)石炭の乾留中に発生するコークス炉ガスを回収して、不純物の除去を行うコークス炉ガス処理装置であって、
前記コークス炉ガスの冷却処理を行うガス冷却装置と、
前記ガス冷却装置の下流側に設けられ、前記冷却処理後のコークス炉ガスの精製処理を行うガス精製装置と、を備え、
前記ガス冷却装置は、ガス経路から回収される回収水の一部または全部から、前記回収水に含まれる不純物である窒素化合物、硫黄化合物のうちの少なくともいずれか一方を除去する不純物除去装置と、を備えた、
ことを特徴とするコークス炉ガス処理装置。
ここで、ガス経路とは、コークス炉から導気されたコークス炉ガスが流れる流路であり、ドライメイン、クーラー、およびドライメインとクーラーとの間の配管を含む。
(2)不純物除去装置を経由する前記回収水は、コークス炉ガス中に投入されるものである、ことを特徴とする(1)に記載のコークス炉ガス処理装置。
(3)前記ガス冷却装置は、その最下流側に設けられるチラー式クーラーを有し、
前記不純物除去装置は、前記チラー式クーラーからの回収水に含まれる前記不純物を除去する、ことを特徴とする(1)又は(2)に記載のコークス炉ガス処理装置。
ここで、チラー式クーラーとは、コークス炉ガスを冷却するCOG接触冷媒(コークス炉ガスと熱交換を行う冷却媒体)を冷却するための熱交換器を備え、この熱交換機が、人工的に冷却した冷却媒体を用いてCOG接触冷媒を冷却する構成となっているものをいう。
(4)前記チラー式クーラーは、チラー式間接クーラーであり、
前記ガス冷却装置は、前記不純物除去装置の代わりに、前記チラー式間接クーラーから回収される回収水を前記ガス冷却装置から排出処理する排出処理装置を有する、ことを特徴とする請求項(3)に記載のコークス炉ガス処理装置。
(5)制御装置を、さらに備え、
前記ガス精製装置は、脱硫装置と脱窒素装置の一方又は両方を有し、
前記ガス冷却装置、又は前記ガス精製装置は、前記チラー式クーラーの下流側のコークス炉ガス中のHS濃度を計測するHS濃度測定装置と、前記チラー式クーラーの下流側のコークス炉ガス中のNH濃度を計測するNH濃度測定装置の、一方又は両方を有し、
前記制御装置は、前記HS濃度測定装置により計測された測定値と前記NH濃度測定装置により計測された測定値の一方又は両方に基づいて、前記チラー式クーラーによる冷却温度を制御できる、ことを特徴とする(3)又は(4)に記載のコークス炉ガス処理装置。
(6)前記チラー式クーラーによる前記コークス炉ガスの冷却温度の制御は、
前記チラー式クーラーにおいて使用される熱交換冷媒の温度の調整による、ことを特徴とする請求項(5)に記載のコークス炉ガス処理装置。
ここで、熱交換冷媒とは、COG接触冷媒(コークス炉ガスと熱交換を行う冷却媒体)と熱交換を行う冷却媒体である。
(7)(3)又は(4)に記載のコークス炉ガス処理装置を用いたコークス炉ガス処理方法であって、
前記ガス精製装置は、脱硫装置と脱窒素装置の一方又は両方を有し、
前記ガス冷却装置、又は前記ガス精製装置は、前記チラー式クーラーの下流側のコークス炉ガス中のHS濃度を計測するHS濃度測定装置と、前記チラー式クーラーの下流側のコークス炉ガス中のNH濃度を計測するNH濃度測定装置の、一方又は両方を有し、
前記HS濃度測定装置により計測された測定値と前記NH濃度測定装置により計測された測定値の一方又は両方に基づいて、前記チラー式クーラーによる冷却温度を制御する、ことを特徴とするコークス炉ガス処理方法。
(8)前記チラー式クーラーによる前記コークス炉ガスの冷却温度の制御を、
前記チラー式クーラーにおいて使用される熱交換冷媒の温度の調整により行う、ことを特徴とする(7)に記載のコークス炉ガス処理方法。
ここで、熱交換冷媒とは、COG接触冷媒(コークス炉ガスと熱交換を行う冷却媒体)と熱交換を行う冷却媒体である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、コークス炉から排出されるコークス炉ガスを処理するコークス炉ガス処理装置又はコークス炉ガス処理方法において、回収水に含まれる不純物の除去を行うことにより、ガス精製装置又はガス精製工程に導気する前のコークス炉ガス中の不純物の濃度を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】従来のコークス炉ガス処理装置の全体構成の一例を示す図である。
図2】コークス炉ガスの冷却実験の結果を示す図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係るコークス炉ガス処理装置(チラー式直接クーラー使用)の構成の一例の一部を示す図である。
図4】本発明の第1の実施形態に係るコークス炉ガス処理装置(チラー式直接クーラー使用)の変形例の構成の一例の一部を示す図である。
図5】本発明の第1の実施形態に係るコークス炉ガス処理装置(チラー式間接クーラー使用)の構成の一例の一部を示す図である。
図6】本発明の第1の実施形態に係るコークス炉ガス処理装置(チラー式間接クーラー使用)の変形例の構成の一例の一部を示す図である。
図7】本発明の第2の実施形態に係るコークス炉ガス処理装置の全体構成の一例を示す図である。
図8】本発明の第3の実施形態に係るコークス炉ガス処理装置の全体構成の一例を示す図である。
図9】本発明の第3の実施形態に係るコークス炉ガス処理装置の変形例を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、最初に、従来のコークス炉ガス処理装置の一例について説明し、その後、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
図1は、従来のコークス炉ガス処理装置の全体構成を示す図である。図1に示されたコークス炉ガス処理装置1は、コークス炉ガス処理装置の一例である。図において、2本線の配管路はコークス炉ガスの流路を示し、太い実線の矢印はコークス炉ガスから回収された回収水の流れを示し、細い実線の矢印は外部から冷却のために供給される水(海水)の流れを示している。ここで、回収水とは、ガス経路中で回収される水であり、タール混合液も含む。
【0019】
図1に示すように、コークス炉ガス処理装置1は、コークス炉から導気されるコークス炉ガスの冷却処理を行うガス冷却装置2と、冷却処理後のコークス炉ガスの精製処理を行うガス精製装置3とを備える。コークス炉ガスは、まず、ガス冷却装置2に導気されて、冷却処理が行われ、その後、ガス精製装置3に導気されて、ガス精製処理後に、適宜、そのエネルギーの再利用などが行われる。
【0020】
ガス冷却装置2は、コークス炉から延びる上昇管下降部4Aと、ドライメーン4およびガスクーラー5(間接ガスクーラー5a、直接ガスクーラー5b)と、デカンタ6と、を備えている。なお、図1に示すコークス炉ガス処理装置1においては、ガスクーラー5として、間接ガスクーラー5aと直接ガスクーラー5bの両方を備えているが、必ずしも両方を備える必要はなく、どちらか一方を備えていればよい。
【0021】
上昇管下降部4Aでは、コークス炉からドライメーン4に導気される800℃前後のコークス炉ガスに、散布水を直接噴霧し、コークス炉ガスを70℃~80℃に冷却する。冷却されたコークス炉ガスは、間接ガスクーラー5aに導気される。また、上昇管下降部4Aでの散布水の噴霧によりドライメーン4の底部に溜まる散布水および冷却により凝縮した凝縮液は、ドライメーン4と間接ガスクーラー5aの間の配管からデカンタ6に、回収水Aとして回収される。ここで、詳細は後述するが、ドライメーン4の散布水には、デカンタ6に回収された回収水A~Cのうちの、アンモニア成分を含む水である安水が循環利用される。
【0022】
間接ガスクーラー5aは、外部から供給される水(COG接触冷媒41)をチューブに通してコークス炉ガスと間接的に接触させて、熱交換によりコークス炉ガスの冷却処理を行う装置である。ここで、COG接触冷媒41とは、コークス炉ガス(COG)と熱交換を行う冷却媒体のことをいう。間接ガスクーラー5aのCOG接触冷媒41には、コークス炉ガスよりも温度の低い自然界の冷水、例えば、海から汲み上げた海水が利用される。ドライメーン4から導気された75℃前後のコークス炉ガスは、間接ガスクーラー5aにより、約50℃に冷却される。冷却されたコークス炉ガスは、直接ガスクーラー5bに導気される。また、間接ガスクーラー5aにおける冷却により凝縮した凝縮液は、間接ガスクーラー5aの底部に溜り、回収水Bとして回収され、デカンタ6に集められる。
【0023】
直接ガスクーラー5bは、散布水(COG接触冷媒41)を直接コークス炉ガスに噴霧し、コークス炉ガスに接触させて、熱交換によりコークス炉ガスの冷却処理を行う装置である。直接ガスクーラー5bは、間接ガスクーラー5aから導気された50℃前後のコークス炉ガスを約35℃に冷却する。冷却されたコークス炉ガスは、ガス精製装置3に排送される。また、直接ガスクーラー5bにおける冷却により凝縮した凝縮液は、不純物が溶解した散布水とともに直接ガスクーラー5bの底部に溜る。溜まった凝縮水および散布水の大部分は回収水Dとして回収され、冷却されて、直接ガスクーラー5bの散布水として、循環利用される。なお、回収水Dを冷却する直接ガスクーラー5bのCOG接触冷媒41は、熱交換器42において、コークス炉ガスよりも温度の低い自然界の冷水、例えば、海から汲み上げた海水によって冷却され、直接ガスクーラー5bで再散布される。また、循環利用されなかった回収水Cはデカンタ6に集められる。
【0024】
上述のように、間接ガスクーラー5aのCOG接触冷媒41および直接ガスクーラー5bのCOG接触冷媒41を冷却する冷媒には、コークス炉ガスよりも温度の低い自然界の冷水、例えば、海水が用いられている。そのため、ガス冷却装置2(間接ガスクーラー5aおよび直接ガスクーラー5b)による冷却処理後のコークス炉ガスの温度は35℃位であり、海水の温度以下にはならない。
【0025】
デカンタ6には、上述のように、ドライメーン4、間接ガスクーラー5a、および直接ガスクーラー5bからの回収水A~Cが集められる。回収水A~Cは、タールを多く含むタール混合液と安水(アンモニア成分を含む水)とに分離される。安水は、ドライメーン4でのコークス炉ガスの冷却に必要な量が、上述したように、散布水として循環利用され、その他は排水処理設備により無害化した後に廃棄される。タールは、例えば、副成品として回収される。
【0026】
ドライメーン4、間接ガスクーラー5a、および直接ガスクーラー5bにより冷却処理されたコークス炉ガスは、図示は省略するが、途中経路において、適宜、ブロアなどの排送機により吸引昇圧されて、ガス精製装置3に排送される。また、図示は省略するが、ガス精製装置3への導気前の経路において、タールミストを除去する電気集塵機や、ナフタレンを除去するナフタレンスクラバーなどが、適宜配設される。
【0027】
ガス精製装置3は、脱硫処理を行う脱硫装置7、脱窒素処理を行うアンモニア吸収装置8、および軽油を副成品として回収する軽油吸収装置9を備える。環境規制を遵守すべく、ガス精製装置3の脱硫装置7、アンモニア吸収装置8、および軽油吸収装置9は、それぞれ、ガス冷却装置2から排送されたコークス炉ガスに含まれる硫黄化合物、窒素化合物、および軽油分の除去を行う。除去処理されたコークス炉ガスは、適宜、再利用等される。なお、脱硫装置7、アンモニア吸収装置8、および軽油吸収装置9の配置順は、精製目的により適宜変更される。
【0028】
ここで、本発明者は、ガス精製装置3に導気される前のコークス炉ガス中の硫黄化合物や窒素化合物の濃度を効果的に低減させる方法を模索する中で、ガスクーラー5により冷却処理されたコークス炉ガスをさらに冷却するとともに、冷却時に回収される回収水中の不純物を適切に処理することにより、コークス炉ガス中に含まれる硫黄化合物や窒素化合物が効果的に除去できることを見出した。
【0029】
図2は、本発明者が行ったコークス炉ガスの冷却実験の結果である。図2に示すように、ガスクーラー出口側において35℃に冷却されたコークス炉ガス(黒四角、黒丸)を、さらに間接クーラーで6℃まで冷却する(斜線ハッチングの四角、斜線ハッチングの丸)と、アンモニア(NH)濃度は14g/Nmから6g/Nmに(除去率約57%)、硫化水素(HS)濃度は9g/Nmから6g/Nmに(除去率約33%)減少した。これらの濃度の減少は、不純物(アンモニア、硫化水素)が冷却により凝縮したためと考えられる。
また、本発明者は、直接クーラーでの冷却実験も行った。直接クーラーによって、コークス炉ガス(黒四角、黒丸)を6℃まで冷却すると、アンモニアおよび硫化水素は、それぞれ約96%、約94%に当たる量が除去されて、アンモニア濃度および硫化水素濃度は0.5g/Nmにまで減少する(白四角、白丸)ことが確認された。直接クーラーによる冷却の場合、不純物が凝縮除去されるだけでなく、加水した水分中に不純物が溶解して除去されたためであると考えられる。
【0030】
本発明のコークス炉ガス処理装置は、以下の図3図9に示すように、回収水の一部または全部から回収水に含まれる不純物である窒素化合物、硫黄化合物のうちの少なくともいずれか一方を除去する不純物除去装置を備え、不純物除去後の回収水をコークス炉ガス中に再投入、または系外に排出する。不純物除去装置により下流側のガス精製装置3に導気されるコークス炉ガス中に含まれる窒素化合物や硫黄化合物を除去し、ガス精製装置3の脱硫処理や脱窒素処理などの処理能力の範囲内に収めることができる。以下、本発明の各実施形態について、図面を参照して説明する。
【0031】
(第1の実施形態)
図3~6は、本発明の第1の実施形態に係るコークス炉ガス処理装置10の構成の一例の一部を示す図である。下流側のガス精製装置3は、上述した従来のコークス炉ガス処理装置1のガス精製装置3と同じ構成であるので、図示を省略している。
【0032】
第1の実施形態のコークス炉ガス処理装置10は、コークス炉ガスの冷却によりコークス炉ガス中の硫化水素(HS)濃度およびアンモニア(NH)が減少するという、上述した知見に基づいて、構成されたものである。従来のコークス炉ガス処理装置1とは、ガス冷却装置2のガスクーラー5の下流側に、チラー式クーラー15(チラー式直接クーラー15bまたはチラー式間接クーラー15a)が増設されている点が異なっている。ここで、チラー式クーラー15とは、コークス炉ガスを冷却するCOG接触冷媒41を冷却するための熱交換器42xを備え、この熱交換器42xは、人工的に冷却した冷却媒体(以下、熱交換冷媒43という)を用いてCOG接触冷媒41を冷却する構成となっているものである。熱交換器42xは、例えば、ヒートポンプなどを用いた冷却器(図示せず)を使用する。熱交換冷媒43は、冷却器により、自然界の冷水である海水よりも低い温度(例えば5℃以下)に冷却されており、この熱交換冷媒43を使用して冷却したCOG接触冷媒41により、熱交換器42xは、コークス炉ガスを自然界の冷水である海水よりも低い温度(25℃以下)にまで冷却する冷却能力を有する。なお、熱交換器42xは、コークス炉ガスを、自然界の冷水である海水よりも低い任意の温度(例えば、10℃~25℃)に冷却する冷却調整能力を有するものであることが望ましい。
以下、第1の実施形態のコークス炉ガス処理装置10について、図3図6を参照して、従来のコークス炉ガス処理装置1と異なる構成について説明する。
【0033】
図3は、チラー式クーラー15がチラー式直接クーラー(直接ガスクーラー)15bである場合の構成図である。図3に示すように、直接ガスクーラー5bから排気されたコークス炉ガスは、チラー式直接クーラー15bに導気され冷却処理された後に、ガス精製装置3に排送される。チラー式直接クーラー15bは、熱交換器42xにおいて、海水ではなく、冷却器により冷却された熱交換冷媒43が使用されること、および、分離槽16により回収水Eをタール混合液と安水とに分離されること以外は、直接ガスクーラー5bと同じ構成である。冷却器により冷却された熱交換冷媒43によって熱交換処理されるため、散布水(COG接触冷媒41)は、海水温度(約35℃)よりも低温(5℃~20℃)となる。低温となった散布水を使用するため、コークス炉ガスは、海水温度よりも低い温度、例えば、10℃~25℃まで冷却処理される。この冷却処理により、コークス炉ガス中の硫黄化合物や窒素化合物を凝縮させ、または、散布水中に溶解させて、回収水Eとして回収することができる。
【0034】
回収された回収水Eは、分離槽16によりタールを多く含むタール混合液と安水とに分離される。タール混合液は、デカンタ6に集められ、安水は散布水として循環利用される。安水を散布水として循環利用する経路において、不純物除去装置11が設けられている。不純物除去装置11は、循環利用される回収水Eから不純物(窒素化合物、硫黄化合物)の除去処理を行い、不純物除去処理後の回収水Eを循環経路に戻す。なお、分離槽16に集められたタール混合液中のタールの一部は、図示を省略しているが、チラー式直接クーラー15bの散布水に適宜添加される。チラー式直接クーラー15bにおいて、コークス炉ガス(COG)を冷却に伴い凝縮したナフタレンやタールを溶解し、装置内に付着して閉塞するのを防止するためである。
【0035】
不純物除去装置11は、例えば、蒸留塔である。蒸留塔において、回収水Eを蒸留することにより、回収水Eから窒素化合物や硫黄化合物が除去される。蒸留処理された回収水Eは、循環経路に戻されて、熱交換器42xで冷却されたあと、チラー式直接クーラー15bにおいて散布水として再利用される。一方、除去された窒素化合物や硫黄化合物は、燃焼炉12に導気されてSO、N、H0などに燃焼処理などの系外への排出処理がなされる。例えば、無害化されたN、H0はスタックから排気し、SOは、硫酸(HSO)や石膏(CaSO)として回収してもよい。なお、不純物除去装置11は、不純物が除去できればよく、上述した蒸留塔に限られない。例えば、空気、COG等のガス体で爆気する爆気槽などを用いて不純物を分離し、除去してもよい。
【0036】
図4は、チラー式直接クーラー15bを使用したコークス炉ガス処理装置10の変形例である。この変形例においては、不純物除去装置11において不純物除去処理を行った回収水Eの少なくとも一部を、デカンタ6に戻す、または系外に排出する構成としている。
【0037】
第1の実施形態のコークス炉ガス処理装置10(チラー式直接クーラー15b使用)によれば、チラー式直接クーラー15bによってコークス炉ガス中の硫黄化合物や窒素化合物を回収水E中に移動させ、不純物除去装置11によって回収水E中から除去することができる。回収水E中から除去した硫黄化合物や窒素化合物をコークス炉ガス中に戻さないので、ガス冷却装置2の出口側からガス精製装置3へ排気されるコークス炉ガス中の硫黄化合物や窒素化合物の濃度を低減させることができる。
【0038】
図5は、チラー式クーラー15がチラー式間接クーラー(間接ガスクーラー)15aである場合の構成図である。図5に示すように、ガス冷却装置2は、不純物除去装置11の代わりに、回収水Fをガス冷却装置2から排出処理する排出処理装置17を有する。
直接ガスクーラー5bから排気されたコークス炉ガスは、チラー式間接クーラー15aに導気され冷却処理された後に、ガス精製装置3に排送される。熱交換器42xで、冷却器により冷却された熱交換冷媒43によって、海水温度よりも低温となるように熱交換処理された冷却水(COG接触冷媒41)が使用される以外は、間接ガスクーラー5aと同じ構成である。熱交換器42xで熱交換処理された低温の循環水を使用するため、コークス炉ガスは、海水温度よりも低い温度、例えば、10℃~25℃まで冷却処理される。この冷却処理により、硫黄化合物や窒素化合物を、コークス炉ガス中から凝縮させて回収水Fとして回収する。海水温度よりも低温に冷却することにより、コークス炉ガス中の硫黄化合物や窒素化合物を効果的に除去することができる。
【0039】
なお、チラー式間接クーラー15aにおいて回収された回収水Fは、排出処理装置17などにより不純物除去後に排出される。排出処理装置17は、例えば、燃焼炉などである。回収水Fは燃焼炉に送り、回収水F中の不純物は燃焼されて無害化された後に、回収水Fが蒸発した水蒸気とともに、スタックから排気される。具体的には、排出処理装置17においては、上述のチラー式直接クーラー15bと異なり蒸留処理を行わず、燃焼炉により燃焼分解処理を行う。燃焼分解処理により発生したSO、N、HOのうち、排ガス処理が必要なSOについては、例えば、別途、硫酸製造の原料としたり、中和処理などをして廃棄する。
【0040】
図6は、チラー式間接クーラー15aを使用したコークス炉ガス処理装置10の変形例である。この変形例においては、チラー式間接クーラー15aにおいて回収された回収水Fを、デカンタ6に戻す。デカンタ6に戻す経路に不純物除去装置11を配設し、不純物除去装置11により回収水F中の硫黄化合物や窒素化合物を除去する。除去した硫黄化合物や窒素化合物は、適宜排出処理され、系外に排出される。
【0041】
第1の実施形態のコークス炉ガス処理装置10(チラー式直接クーラー15b、チラー式間接クーラー15a)によれば、ガスクーラー5の下流側にチラー式クーラー15を設けて、コークス炉ガスをより低い温度に冷却することにより、コークス炉ガス中の硫黄化合物や窒素化合物の量を減らすことができる。結果、ガス冷却装置2の出口側からガス精製装置3へ排気されるコークス炉ガスの硫黄化合物の濃度や窒素化合物の濃度(HS濃度、NH濃度、およびHCN濃度など)を低減させて、下流側のガス精製装置3の処理能力の範囲内の濃度とすることが可能となり、下流側のガス精製装置3を増設することなく、そのまま使用することができる。よって、コークス炉において、原料炭に劣質炭を使用することも問題とならない。チラー式クーラー15および不純物除去装置11などを増設する必要はあるが、ガス精製装置3の増設よりも設備投資の負担を抑えることができる。なお、コークス炉ガス処理装置10は、チラー式クーラー15を設けることにより、ガス精製装置3に排送するコークス炉ガス中の硫黄化合物や窒素化合物の濃度を低減できる構成であればよい。不純物除去装置11や排出処理装置17によって除去した硫黄化合物や窒素化合物の処理装置および処理方法は、上述のものに限らず、その目的に応じて、適宜変更することができる。
【0042】
また、コークス炉ガス処理装置10のガス冷却装置2は、図示は省略するが、チラー式クーラー15の出口側に温度測定装置を設けた構成とすることもできる(後述する温度測定装置21参照)。チラー式クーラー15から排出されるコークス炉ガスの温度を計測することにより、コークス炉ガスの冷却温度と不純物の濃度との関係を示すグラフ(図2)に基づいて、コークス炉ガス中のHS濃度やNH濃度を推定することができる。
【0043】
(第2の実施形態)
図7は、本発明の第2の実施形態に係るコークス炉ガス処理装置20の全体構成の一例を示す図である。なお、図7においては、チラー式クーラー15がチラー式直接クーラー15bである場合について図示している。チラー式クーラー15がチラー式間接クーラー15aである場合については、図示を省略しているが、チラー式クーラー15がチラー式間接クーラー15aである場合についても、後述する同様の構成となるので、説明および図示を省略する。
【0044】
第2の実施形態のコークス炉ガス処理装置20、および、本発明のコークス炉ガス処理方法を実施するコークス炉ガス処理装置は、第1の実施形態のコークス炉ガス処理装置10において、HS濃度測定装置23、およびNH濃度測定装置25を備えている。また、コークス炉ガス処理装置20はさらに、温度制御装置44を備えている。HS濃度測定装置23は、脱硫装置7の入口側または出口側に設けられ、脱硫装置7から導気または排気されるHS濃度を計測する装置である。NH濃度測定装置25は、アンモニア吸収装置8の入口側または出口側に設けられ、アンモニア吸収装置8から導気または排気されるNH濃度を計測する装置である。温度制御装置44は、HS濃度測定装置23、およびNH濃度測定装置25により計測された測定値に基づいて、チラー式クーラー15によるコークス炉ガスの冷却温度を制御する制御装置である。
【0045】
コークス炉ガス処理方法においては、HS濃度測定装置23により測定したHS濃度の測定値やNH濃度測定装置25により測定したNH濃度の測定値に基づいて、最下流側のチラー式クーラー15におけるコークス炉ガスの冷却温度を制御する。また、コークス炉ガス処理装置20においては、温度制御装置44が、HS濃度測定装置23により測定したHS濃度の測定値やNH濃度測定装置25により測定したNH濃度の測定値に基づいて、最下流側のクーラーであるチラー式クーラー15におけるコークス炉ガスの冷却温度を制御する。コークス炉ガスの冷却温度の温度制御は、例えば、冷却器の熱交換冷媒43の温度制御により行う。
【0046】
具体的には、脱硫装置7から排気されるコークス炉ガス中のHS濃度と、アンモニア吸収装置8から排気されるコークス炉ガス中のNH濃度の一方または両方が、例えば、環境規制値に基づいて定められた操業管理値を超えた際に、チラー式クーラー15の出口側のコークス炉ガスの温度が低くなるように、例えば、チラー式クーラー15の熱交換冷媒43による冷却温度を制御する。チラー式クーラー15の出口側におけるコークス炉ガスの温度を下げることにより、チラー式クーラー15内において、コークス炉ガス中の硫黄化合物や窒素化合物をより多く除去することができる。硫黄化合物や窒素化合物の除去量の増大により、ガス精製装置3に導入される硫黄化合物や窒素化合物の量を低減させることができ、脱硫装置7から排気されるHS濃度や、アンモニア吸収装置8から排気されるNH濃度を低く抑えることができる。なお、上記構成において、図4に示すように、温度測定装置21を備えた構成としてもよい。温度測定装置21は、チラー式クーラー15(チラー式直接クーラー15b)の出口側に設けられ、チラー式クーラー15から排気されるコークス炉ガスの温度を計測する装置である。実際のチラー式クーラー15出口におけるコークス炉ガスの温度を測定する温度測定装置21を設けることにより、コークス炉ガスの温度変化を監視することができる。
【0047】
第2の実施形態のコークス炉ガス処理装置20、およびコークス炉ガス処理方法によれば、HS濃度やNH濃度の測定値などに基づいて、チラー式クーラー15内のコークス炉ガスの冷却条件を制御するので、過度の冷却による電力消費などを抑えることができる。脱硫装置7の入口側、アンモニア吸収装置8の入口側に、それぞれ、HS濃度測定装置23、NH濃度測定装置25を設けた場合には、脱硫装置7に導気されるHS濃度、アンモニア吸収装置8に導気されるNH濃度を計測することができる。温度制御装置44は、これらの測定値に基づいて、ガス精製装置3に導気されるコークス炉ガス中の硫黄化合物や窒素化合物の量が、ガス精製装置3の処理能力の範囲内となるように、チラー式クーラー15の出口側のコークス炉ガスの冷却条件を制御することができる。
【0048】
また、脱硫装置7の出口側、アンモニア吸収装置8の出口側に、それぞれ、HS濃度測定装置23、NH濃度測定装置25を設けた場合には、脱硫装置7から排気されるHS濃度や、アンモニア吸収装置8から排気されるNH濃度を計測することにより、例えば、操業の目安となる操業管理値との差分を求めることができる。この差分に基づいて、コークス炉ガスの冷却条件を効率よく管理することができる。また、HS濃度測定装置23、NH濃度測定装置25を、それぞれ、脱硫装置7、アンモニア吸収装置8の下流側に設けて計測することにより、コークス炉で乾留する原料炭の成分による値の変化と、各装置(脱硫装置7、アンモニア吸収装置8)の劣化による値の変化の両方に対応することができる。
【0049】
なお、HS濃度測定装置23、NH濃度測定装置25を、それぞれ、脱硫装置7、アンモニア吸収装置8の入口側と出口側の両方に設けてもよい。脱硫装置7の入口側と出口側のコークス炉ガスのHS濃度を計測することにより、脱硫装置7の脱硫率を導き出すことができる。また、アンモニア吸収装置8の入口側と出口側のコークス炉ガスのNH濃度を計測することにより、アンモニア吸収装置8の脱窒素率を導き出すことができる。脱硫率や脱窒素率に基づいて、設備劣化に伴う、脱硫装置7やアンモニア吸収装置8の処理能力を把握することが可能である。温度制御装置44は、把握された処理能力に見合った温度管理を行うことができる。
【0050】
なお、上述のコークス炉ガス処理装置20においては、HS濃度を計測する装置とNH濃度を計測する装置の両方を備えた構成としたが、どちらか一方のみの測定装置を備えた構成とし、どちらか一方のみに基づいて、チラー式クーラー15におけるコークス炉ガスの冷却温度の温度制御を行ってもよい。
【0051】
(第3の実施形態)
図8は、本発明の第3の実施形態に係るコークス炉ガス処理装置30の全体構成の一例を示す図である。本発明者は、ガス精製装置3に導気するコークス炉ガス中の窒素化合物や硫黄化合物の濃度を低減させる手段を思案する中で、以下に説明する第3の実施形態のコークス炉ガス処理装置30の構成を着想した。
図8に示すように、第3の実施形態のコークス炉ガス処理装置30のガス冷却装置2は、第2の実施形態のコークス炉ガス処理装置20と異なり、チラー式クーラー15を備えおらず、従来のコークス炉ガス処理装置1の回収水A~Dが循環利用される経路中に、あるいは一部を分流した経路に、不純物除去装置11を備えた構成となっている。なお、不純物除去装置11や燃焼炉12の構成、および、これらによる処理は、第1の実施形態のコークス炉ガス処理装置10と同様であるので、説明を省略する。
【0052】
回収水A~D中には不純物が凝縮している。図8に示すように、不純物除去装置11は、直接ガスクーラー5bにおいて、散布水として循環利用される回収水Dの循環経路から分岐して再度合流する分流経路に設けられている。循環利用される回収水の一部を循環経路から抜き出し、不純物除去装置11により窒素化合物や硫黄化合物の除去処理を行った後に、循環経路に戻す。なお、分流経路を設けず、循環経路に不純物除去装置11を設け、循環利用される回収水の全部について、窒素化合物や硫黄化合物の除去処理を行ってもよい。
【0053】
図9は、本発明の第3の実施形態に係るコークス炉ガス処理装置30の他の例を説明する説明図である。なお、図9においては、不純物除去装置13a,13b,13cを設ける位置を模式的に図示し、燃焼炉12の記載は省略している。
図8に示す第3の実施形態においては、不純物除去装置11を、直接ガスクーラー5bの回収水Dの循環経路に設けた構成としたが、これに限らず、不純物除去装置11は、ガス冷却装置2において回収される回収水A~Dの循環経路に設けた構成であればよい。例えば、図9に示す不純物除去装置13a,13b,13cのように、ドライメインとその隣に設けられるクーラーとの間の配管から回収される回収水Aがデカンタ6に集められる経路に設けられた分流経路、間接ガスクーラー5aにおいて回収される回収水Bがデカンタ6に集められる経路に設けられた分流経路、直接ガスクーラー5bにおいて回収される回収水Cがデカンタ6に集められる経路に設けられた分流経路に設け、回収水A~Cの一部から窒素化合物や硫黄化合物の除去処理を行ってもよい。また、不純物除去装置13a,13b,13cは、コークス炉ガス処理装置30の不純物除去装置11同様、分流経路を設けることなく、デカンタ6に集められる経路上に設けてもよい。
【0054】
第3の実施形態およびその変形例のコークス炉ガス処理装置30によれば、硫黄化合物、窒素化合物の除去処理を下流側のガス精製装置3に委ねていた従来のコークス炉ガス処理装置1と異なり、上流側のガス冷却装置2において、硫黄化合物や窒素化合物の除去処理を行うことができる。具体的には、不純物除去装置11,13a,13b,13cにより、回収水A~Dの一部または全部から、回収水A~Dに含まれる不純物である窒素化合物や硫黄化合物を除去することにより、コークス炉ガス中に投入される(循環利用される)散布水中の硫黄化合物や窒素化合物の量を減らすことができる。結果、ガス冷却装置2の出口側から排気されるコークス炉ガスの硫黄化合物の濃度や窒素化合物の濃度(HS濃度、NH濃度、およびHCN濃度など)を低減させて、下流側のガス精製装置3の処理能力の範囲内の濃度とすることが可能となり、下流側のガス精製装置3を増設することなく、そのまま使用することができる。よって、原料炭に劣質炭を使用することも問題とならない。不純物除去装置11などを増設する必要はあるが、ガス精製装置3の増設よりも設備投資の負担を抑えることができる。なお、不純物除去装置11,13a,13b,13cは、少なくともいずれか1つを増設すればよい。また、不純物除去装置13a,13b,13cについては、除去処理を行う回収水A~Cを1カ所に集めて、1つの不純物除去装置により、処理を行う構成としてもよい。また、図示は省略するが、回収水A~Dの一部または全部を、上述した排出処理装置17などにより、系外に排出してもよい。
【0055】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、上述の各実施形態により、ガス冷却装置2の下流側におけるコークス炉ガス中の硫黄化合物(HS濃度など)や窒素化合物(NH濃度、およびHCN濃度など)の濃度の低減を実現することができた。なお、本発明は、上述した実施形態に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0056】
1,10,20,30…コークス炉ガス処理装置、2…ガス冷却装置、3…ガス精製装置、4…ドライメーン、5…ガスクーラー、6…デカンタ、7…脱硫装置、8…アンモニア吸収装置、9…軽油吸収装置、11,13…不純物除去装置、15…チラー式クーラー、16…分離槽、17…排出処理装置、21…温度測定装置、23…HS濃度測定装置、25…NH濃度測定装置、A~F…回収水、41…COG接触冷媒、42,42x…熱交換器、43…熱交換冷媒、44…温度制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9