(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】焼結鉱の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 1/20 20060101AFI20230712BHJP
F27B 21/08 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
C22B1/20 J
F27B21/08 Z
(21)【出願番号】P 2019228103
(22)【出願日】2019-12-18
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】小杉 亮太
(72)【発明者】
【氏名】松村 勝
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-225682(JP,A)
【文献】特開2006-194456(JP,A)
【文献】特開2009-024248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/20
F27B 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドワイトロイド式焼結機を構成するパレットに、造粒された配合原料を装入して原料充填層を形成し、前記原料充填層の上部から点火し、下方から酸素含有ガスを吸引することにより前記原料充填層を焼結する焼結鉱の製造方法であって、
前記ドワイトロイド式焼結機は、前記パレットの進行方向上流側に配置され、前記原料充填層の上層に点火する点火器と、前記点火器下流側に離間して設けられ、前記原料充填層の上面をフレ-ムを用いて加熱するフレーム加熱装置を備え、
前記点火器および前記フレーム加熱装置の間には、フレ-ムを用いた加熱が行われない区間である大気吸引領域が形成されており、
前記配合原料として使用する全コークスに対し、コークス粒径が5mm超え7mm未満のコークスの割合が5質量%以上であること、を特徴とする焼結鉱の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結鉱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高炉製銑法の主原料は、焼結鉱である。
焼結鉱は、通常、次のように製造される。まず、原料(焼結原料)となる鉄鉱石(粉)、スケールや製鉄ダスト等の含鉄雑原料、橄欖岩等のMgO含有副原料、石灰石等のCaO含有副原料、返鉱、および、燃焼熱によって焼結鉱を焼結(凝結)させる燃料となる炭材(凝結材ともいう)を、所定の割合で配合して配合原料とする。配合原料を混合し、混合した配合原料をドラムミキサなどにより造粒して原料造粒物とする。次に、造粒された配合原料(原料造粒物)を、ホッパより、下方吸引式のドワイトロイド(DL)式焼結機のパレット上に搭載して、原料充填層を形成する。形成した原料充填層の上方に配置された点火炉(点火器)により、原料充填層の上部(表面層)の炭材に点火する。そして、パレットを連続的に移動させながらパレットの下方から空気(酸素含有ガス)を吸引する。吸引により原料充填層中に酸素を供給し、炭材の燃焼を下方に進行させる。炭材の燃焼熱により、原料充填層は、上層から下層へ順次焼結される。焼結により得られた焼結ケーキ(焼結層)は、粉砕され、篩分け等により所定の粒度に整粒され、高炉の原料である焼結鉱となる。配合原料の焼結を進行させるには、形成した原料充填層の通気性を確保することが重要である。なお、原料充填層の通気性の指標として、一般的にJPU(Japanese Permeability Unit)指数が用いられる。
【0003】
焼結燃料として使用されるコークスの粒度の好適範囲は、1mm~3mmとされている(非特許文献1)。それは、以下のような理由による。粒度が1mm未満の微粒コークスは、原料造粒物粒子の隙間に詰まり、通気性を悪化させるため、生産性の低下を招く。また、粒度が3mmを超える粗粒コークスは未燃焼のまま残留するため(以下、残留分を未燃コークスという)、焼結が不十分となり、成品歩留の低下を招く。実機操業においては、成品歩留の低下を防ぐためにコークスの投入量自体を増加させる必要があり、その結果、コークス原単位が悪化(増加)する。ここで、コークス原単位とは、焼結鉱1トンを製造する際に必要とするコークス使用量を示し、次の式で定義される。
コークス原単位[kg/t・Sinter]=コークス使用量[kg]÷焼結鉱生産量[t・Sinter]
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】稲角忠弘著「焼結鉱」日本鉄鋼協会2000年9月p.204
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
焼結燃料のコークス(粉コークス)は、塊状の炭材を破砕したものである。
図1は、炭材を破砕して製造される粉コークスのうち、1mm未満の微粒コークスの比率と3mmを超える粗粒コークスの比率の関係を示す図である。
図1に示すように、破砕特性上、微粒コークスの比率を低減させると粗粒コークスの比率が増加し、粗粒コークスの比率を低減させると微粒コークスの比率が増加するという関係にある。非特許文献1に記載されたように、焼結工程において、粒度が1mm未満の微粒コークスの使用比率を低減すれば通気性が改善するが、破砕特性を鑑みると、粒度が1mm未満の微粒コークスの使用比率の低減は、粒度が3mmを超える粗粒コークスの使用比率の増加に繋がり、コークス原単位を悪化させてしまう。
【0006】
本発明の目的は、粗粒コークスを使用しても、成品歩留の低下を防ぐことができ、コークス原単位の悪化を抑制することができる焼結鉱の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨とするところは、以下のとおりで、
ドワイトロイド式焼結機を構成するパレットに、造粒された配合原料を装入して原料充填層を形成し、前記原料充填層の上部から点火し、下方から酸素含有ガスを吸引することにより前記原料充填層を焼結する焼結鉱の製造方法であって、
前記ドワイトロイド式焼結機は、前記パレットの進行方向上流側に配置され、前記原料充填層の上層に点火する点火器と、前記点火器下流側に離間して設けられ、前記原料充填層の上面をフレ-ムを用いて加熱するフレーム加熱装置を備え、
前記点火器および前記フレーム加熱装置の間には、フレ-ムを用いた加熱が行われない区間である大気吸引領域が形成されており、
前記配合原料として使用する全コークスに対し、コークス粒径が5mm超え7mm未満のコークスの割合が5質量%以上であること、を特徴とする焼結鉱の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、使用コークスの粒度を粗粒化させても、再点火焼結により粗粒コークスの燃焼を促進させることで成品歩留を向上させて、コークス原単位の悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】破砕により製造された粉コークスについて、微粒コークスと粗粒コークスとの比率の関係を示す図である。
【
図3】一般的な焼結法を説明する説明概要図である。
【
図4】フレーム加熱法を説明する説明概要図である。
【
図5】フレーム加熱装置の配置場所の範囲などを算定する方法を示す説明図である。
【
図6】焼結工程における焼結時間とコークスの粒径変化の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に課題を解決した経緯について詳細に説明する。
焼結原料であるコークスの粒度の粗粒化は、破砕工程においては、破砕時間の短縮およびエネルギー消費量の低減を可能とする。また、焼結工程においては、微粒コークスの比率の低減により、原料充填層の通気性が改善し、生産性の向上に繋がる。しかしながら、コークス粒度の粗粒化に伴い、未燃コークスの残留による成品歩留の低下が問題となる。発明者らは、燃料となるコークスの粒度を粗粒化しても、成品歩留を維持できる焼結鉱の製造方法について検討した。その結果、後述する再点火焼結の1つであるフレーム加熱技術を用いることが有効であることがわかった。
【0011】
ここで、フレーム加熱技術の概要を説明する。
DL式焼結機では、原料充填層の上層表面に点火し、原料充填層の下方からガスを吸引することにより点火した上層から下層に向けて順次焼結を進行させる。そのため、一般に、焼結過程において、原料充填層の高さ方向の熱的分布が異なり、下層部では熱量が十分であっても、上層部では熱量不足となる傾向がある。これは、下層部では、上層部の焼結の進行により徐々に昇温し充分に予熱された後にコークスなどの炭材が燃焼し、さらに燃焼完了後も上層部の残熱により徐々に冷却されるのに対し、上層部では、上方より吸引される低温の空気(酸素含有ガス)により燃焼温度が十分に上昇せず、また、炭材の燃焼完了後には低温の空気により急冷されることによる。上層部で熱量不足により焼結が十分に進行しないと、上層部の焼結鉱の強度不足を引き起こし、全体の歩留も悪くなる。
【0012】
本発明者らは、点火器での点火後に、種々の方法で原料充填層の上面を加熱し、各方法や各条件における歩留を調べた。その結果、点火器での点火完了後、所定の区間に大気吸引領域を設けて一定時間大気(酸素含有ガス)を吸引し、その後、再度、原料充填層の上面を点火して加熱することによって、成品歩留が向上することを見出した。この最初の点火後に所定の間隔を空けたタイミングでフレーム(火炎)加熱を行う技術を、フレーム加熱法と呼ぶ。フレーム加熱は、最初の点火で燃焼されなかった上層部の炭材(コークス)に点火し、十分に加熱して熱量不足を補うことを目的とする。
【0013】
フレーム加熱法は、比較的簡便な焼結機の装置構成により、脆弱になりがちな原料充填層上層部において高温保持時間を延長し、原料充填層上層部の歩留を向上させるものである。具体的には、点火器から所定の間隔を設けて配置したフレーム加熱装置を備えた焼結機を使用し、フレーム加熱装置により、原料充填層の上面を再加熱する。再加熱により、原料充填層上部空間が高温に保たれ、かつ高温に保たれた原料充填層上部空間の空気が焼結層内へ吸引される。そのため、原料充填層上層部からの抜熱は無く、逆にガス顕熱が原料充填層上層部中の炭材への熱供給に活用される。そのため、燃料による加熱が効率的に行われ、熱不足、高温保持時間不足による焼結不良が防止でき、原料充填層上部(上層部)の歩留改善に有効となる。全体の歩留を下げていた上層部の歩留が向上するので、全体としての歩留も向上する。
【0014】
ここで、フレーム加熱法は、焼結不十分になりやすい上層部を加熱するという原理から、配合原料の種類によらず、その効果を発現する。本発明者らは、従来よりも平均粒度が大きい(粗粒コークスの含有率の高い)コークスを用いて焼結鉱を製造する方法において、歩留の向上を目的に、上述のフレーム加熱技術を適用することを思いついた。コークスを粗粒化することに伴い残留する未燃コークスを、フレーム加熱技術を利用することにより燃焼させて、成品歩留を向上させることができる。
【0015】
(本発明の実施形態)
本発明は、従来よりも粗粒化したコークスを焼結原料として使用し、焼結工程においてフレーム加熱法を用いることを特徴とする焼結鉱の製造方法である。
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0016】
(焼結機と焼結鉱の製造方法)
まず、一般的な焼結鉱の製造装置および製造方法について、図面を参照して説明する。
図2は、一般的なDL式焼結機の構成を示す概略図である。
図3は、DL式焼結機による焼結鉱の製造方法を説明する説明図である。
図3では、DL式焼結機100の一部の構成のみ図示し、パレット9、トラックガイド10、駆動輪11、遊動輪12、ダクト13、風箱14の記載を省略している。なお、後述する燃料散布焼結法、フレーム加熱法、および本発明に使用する焼結機も、このような一般的な焼結機の構成に準拠している。以後の説明において、同様の構成については、同様の符号や名称を付す等して重複する説明は省略する。
【0017】
まず、DL式焼結機100の構成について説明する。
図2に示すように、DL式焼結機100は、点火器2、ホッパ7、パレット9、トラックガイド10、駆動輪11、遊動輪12、ダクト13、および風箱14を備えて構成される。DL式焼結機100は、装入された配合原料(配合原料造粒物)の上部からバーナー火炎により配合原料中の炭材(凝結材)に点火し、点火した炭材の燃焼熱により配合原料を焼成して、焼結鉱を製造する装置である。
【0018】
ホッパ7は、配合原料を装入する原料供給部である。上部から配合原料が供給され、下部排出口からパレット9内に所定量の配合原料を切り出す。
パレット9は、焼結機長手方向に隙間なく複数配置され、容器を形成する。パレット9は、2枚の側壁と底部からなる台車であり、上部および進行方向前後が開口されている。また、底部には、パレット進行方向に沿って延びるスリット状の開口が複数形成されている。
【0019】
パレット9は、駆動輪11によって給鉱側から押し出され、トラックガイド10の上を所定の速度で走行して排鉱部に至る。そこで遊動輪12とトラックガイド10とに誘導されて反転し、下側のトラックガイド10に沿って駆動輪11に戻る。
点火器2は、複数のパレット9のうち、進行方向上流のパレット9上の原料充填層内の炭材に上部から点火する装置である。例えば、パレット9の上部を覆う箱状体(フード)と、その内部に配置される複数の点火用のバーナーを備えている点火炉である。
風箱14は、パレット9の下に配置され、ダクト13を介して、ブロア(図示省略)に接続されている。ブロアの動作により、風箱14からパレット9の下方空間の空気が吸い出される。これに伴い、パレット9の上方から空気が原料充填層内に導入される。
【0020】
次に、焼結鉱の製造方法について説明する。
焼結鉱の原料である鉄鉱石、含鉄雑原料、副原料、返鉱、および炭材(凝結材)は、所定の配合割合で配合される。配合された原料(配合原料)は、ドラムミキサなどにより混合され、所定量の水分を添加して造粒される。造粒された配合原料(原料造粒物)は、ホッパ7に投入される。ホッパ7に供給された配合原料(原料造粒物)は、所定量が、下部排出口からDL式焼結機100のパレット9(
図2参照)上に切り出されて、原料充填層1を形成する。上述したように、パレット9は連続的に移動しており、原料充填層1は、パレット9の移動により下流側に配置された点火器2(点火炉)の下方に進む。点火器2のバーナーにより、原料充填層1の上部(表面層)の炭材が点火される。点火により原料充填層1の上部の炭材が燃焼し、炭材が燃焼する燃焼帯5は、下方からの吸引による空気(酸素)の供給により維持されつつ原料充填層1の下層へと進行する。そして、焼結完了層6(焼成した原料充填層)は、下方からの吸引により上方から導気される空気により冷却される。パレットが遊動輪12(
図2参照)上を下方に移動する際に焼結完了層6が破断されて落下し、クラッシャによって破砕されて、所定径の焼結鉱が製造される。
【0021】
(フレーム加熱法)
続いて、
図4および
図5を参照して、本発明の特徴的な構成であるフレーム加熱法について、詳細に説明する。フレーム加熱法は、DL式焼結機を使用する焼結鉱の製造方法である。なお、ここでの説明は、フレーム加熱法のみの説明であり、粗粒化したコークスを使用してフレーム加熱法を行う本発明についての説明は後述する。
【0022】
フレーム加熱法を実施する焼結機には、以下の2点の特徴がある。1つ目は、原料充填層1の上面をフレーム加熱するフレーム加熱装置4を設けることである。フレーム加熱装置4は、点火器2の下流側に、点火器2と所定の間隔で離間して設けられる。2つ目は、点火器2とフレーム加熱装置4との間に、大気吸引領域3を設けることである。なお、
図3および
図4に示された燃焼帯5は模式的なものであり、実際に燃焼帯5が原料充填層1に対して占める割合や燃焼帯5の形状は図示されたものとは異なりうる。
【0023】
ここで、「フレーム加熱」とは、フレーム(火炎)を用いて加熱することである。フレーム加熱は、加熱対象物である焼結層最上面に火炎を吹き付けて、外部から加熱するものである。燃料を原料充填層1内に吹き込んで燃焼させるなど、原料充填層1を内部から加熱するものではない。なお、フレーム加熱は、火炎が焼結層表面に直接接している状態で、焼結層を加熱することが望ましい。
【0024】
ここで、「大気吸引領域3」とは、点火器2とフレーム加熱装置4との間の区間(領域)であり、下方吸引により大気が吸引されるものの、上面からはバーナー等による直接加熱が行われない焼結工程における一領域のことをいう。
点火器2での点火により、原料充填層1には燃焼帯5が形成される。引き続きすぐにバーナー加熱を行っても、点火器2での点火により原料充填層1上方空間の酸素濃度が低下しているため、焼結反応は進行しない。本発明では、上面から火炎バーナー等の燃焼加熱を行うことなく大気の吸引を行う区間である大気吸引領域3を設ける。点火器2とフレーム加熱装置4との間に大気吸引領域3を設けることにより、燃焼帯5に十分に酸素が供給される。よって、この大気吸引領域3での原料充填層1内上層部において炭材の燃焼が促進されて、下層への焼結反応が進行し、燃焼帯5が拡大する。
【0025】
フレーム加熱法においては、フレームが、原料充填層1の上面に直接噴射されるため、原料充填層1上面を十分に加熱できる。同時に原料充填層1上部空間の空気をも加熱できる。原料充填層1上部空間の空気が加熱されるために、冷たい空気による原料充填層1の上層の温度低下を防止できる。また、フレーム加熱装置4による再点火と、原料充填層1の上層の温度低下の解消により、点火器2で点火できなかった燃え残りの炭材を余さず燃焼させることができ、原料充填層1に含まれる炭材の燃焼効率が向上する。
【0026】
図5を参照して、フレーム加熱法における焼結の進行について、詳細に説明する。
ホッパ7から装入された原料充填層1の上面(表面)の炭材に、点火器2により点火する。点火により、原料充填層1に含まれる炭材が燃焼する。点火器2の配置箇所(
図5のX1に対応する箇所)においては、大気を下方吸引する場合もしない場合もありうるが、いずれの場合も、ここでの炭材の燃焼による焼結は下層方向に進行せず停滞する。これは、点火器2による点火が完了するまでは、着火はするものの、点火バーナー加熱により原料充填層1の上方の酸素濃度が薄くなるためである。
【0027】
着火が完了し、点火器2から下流方向にパレット(
図4および
図5において原料充填層1は長手方向に連続して図示されているが、実際は、原料充填層1は、各箱型のパレット中に載置されている。)が移動することにより、原料充填層1は大気吸引領域3(
図5のd1に対応する箇所)に移動する。大気吸引領域3では、下方吸引により燃焼帯5が降下し、下層方向に焼結が進行する。このとき、原料充填層1中の厚さ方向に含まれるすべての炭材が一度に燃焼を開始するものではない。最初は、表面の炭材のみが燃焼し、表面の炭材の燃焼が終了すると、順次、火面(燃焼前線)が下部方向に移動する。すなわち、焼結中において、原料充填層1中で炭材が燃焼している部分(燃焼帯5)は、炭材が燃焼し終わった焼結完了層6と、炭材がこれから燃焼する原料充填層1との間にあり、深さ方向にある程度の厚さを有する。
【0028】
原料充填層1は、更なるパレットの移動により、大気吸引領域3からフレーム加熱装置4の配置箇所(
図5のX2に対応する箇所)に移動する。フレーム加熱装置4で加熱されている最中は、下方吸引しても、しなくても、燃焼前線(燃焼帯下面)は進行せず停滞する。これは、点火器2での加熱中と同様に、フレーム加熱中は原料充填層1の上方の酸素濃度が薄くなり、燃焼に必要な酸素の供給が制限されるからである。なお、「燃焼前線(燃焼帯下面)」とは、炭材が赤熱燃焼している燃焼帯5の最下部で、燃焼が開始する境界面をいう。
【0029】
フレーム加熱を開始するタイミングは、例えば以下のような点を考慮して決定される。
フレーム加熱を開始するタイミングが遅れると、焼結層上面部が、大気吸引により冷却されて温度が下がり切ってしまう。改めて加熱しても、炭材の燃焼に必要な熱量が得られず、フレーム加熱による歩留向上の効果が低下してしまう。
一方、フレーム加熱を開始するタイミングが早いと、十分な長さの大気吸引領域3が確保できず、燃焼帯5の上下方向の長さが短くなる。点火に引き続き連続して加熱した場合、あるいは、必要十分な長さd1の大気吸引領域3を設けない場合などは、十分な大気吸引が行われないことから、原料充填層1内部の炭材に供給される酸素が不足する。そのため、原料充填層1上部(上層部)に、焼結に必要な時点での熱量を供給することができず、焼結を進行させるに十分な温度である1100℃以上の高温保持時間が十分に確保できない。
【0030】
フレーム加熱を開始するタイミングは、燃焼前線(燃焼帯下面)の深さ位置hに基づいて決めることが望ましいが、燃焼前線の深さ位置hは測定困難な指標である。そこで、燃焼前線の深さ位置hと一定の比例関係にある、点火器2とフレーム加熱装置4の離間距離(大気吸引領域3の長さd1に等しい、以下、長さd1として説明する)を用いて、好ましいタイミングを特定した。
【0031】
長さd1の範囲は、機長L2(風箱14の全長(
図1参照))、風箱の開始端から点火器2の開始端までの距離X3、点火器2の長さX1、フレーム加熱装置4の長さX2、フレーム加熱開始時の燃焼前線深さh、原料充填層1の厚さH、およびFFPにより、特定することができる。ここでいうFFP(燃焼前線到達点:Flame front point)とは、機長L2の始点(焼結層が形成された地点)から燃焼前線が充填層の最下層(最下部)に到達するまでの距離を、風箱14の全長(機長L2)で除した値である。
図5に示すように、燃焼帯5の中で、燃焼最高温度位置は、燃焼前線位置より遅れて充填層の最下部に到達する。すなわち、燃焼前線が充填層の最下層に到達した後も、燃焼が最高温度に到達して焼結が完全に完了し、排鉱できるまでにするには、さらに時間あるいは距離が必要となる。FFPは、その距離を規定する値であり、燃焼前線が充填層の最下部まで到達した地点と燃焼が完了する地点との距離は、機長L2との積で表され、L2×(1-FFP)である。
【0032】
図5を参照して、長さd1を特定する方法について、詳細に説明する。パレット9は、上述したように、駆動輪11によって所定の速度で移動する。すなわち、原料充填層1は、装入されてから、風箱(
図1参照、
図5では図示略)の終端である焼結終了点まで、一定の速度で移動する。一方、燃焼前線は、下方に向けて進行する箇所と進行しない箇所とがある。具体的には、大気吸引領域3を通過する間(
図5中に示される距離d1の区間)、および、フレーム加熱装置4での加熱後から風箱の終点まで移動する間(
図5中に示される距離d2の区間)においては、燃焼前線は一定の速度で下方に進行する。また、点火器2で点火されている間(点火器2の機長方向の長さX1の区間)、および、フレーム加熱されている間(フレーム加熱装置4の機長方向の長さX2の区間)においては、上述したように、酸素濃度不足により、燃焼前線は進行しない。最終的に、燃焼前線は、原料充填層1の層厚H分だけ移動する。
【0033】
ここで、大気吸引領域3の間に燃焼前線深さはhまで進行する。hと総充填層厚さHとの比h/Hは、点火器2およびフレーム加熱装置4の距離d1と、燃焼前面が実質的に下方に進行する機長方向の距離(有効機長)L1との比に等しい。すなわち、h=d1×H/L1となる。
【0034】
例えば、フレーム加熱法のみを行う場合(燃料散布焼結法を組み合わせない場合)、そのタイミングは、燃焼前線(燃焼帯下面)が焼結層最上面より深さ13mm以上86mm以下にある時点が好ましい。この場合、hの範囲は、13~86mmとなり、ゆえに、d1の好ましい範囲は、下記の式(1)となる。
13×L1/H≦d1≦86×L1/H ・・・(1)
【0035】
なお、有効機長L1は、
図5で示すように、L2、X1、X2、X3およびFFPを用いて以下の式(2)で求められる。
L1=L2-(X1+X2+X3)―(1-FFP)×L2
=L2×FFP-(X1+X2+X3)・・・(2)
【0036】
また、通常、FFPは0.7~0.9の範囲で、Hは500~700mmの範囲で焼結操業が行なわれる。層厚の代表値であるH=600mmでは、式(1)は、
0.02≦d1/L1≦0.14
となる。すなわち、焼結機の機長L2、X1、X2、X3、FFPから計算される有効機長L1に対する比率として、d1は、その2%から14%の間に相当する。よって、距離d1(mm)は、有効機長L1に対し2%から14%の長さが好ましい。
【0037】
フレーム加熱を開始するタイミングは、深さ方向の燃焼前線(燃焼帯下面)降下速度V(mm/min)によって、フレーム加熱開始時刻として決定することもできる。
点火器2による点火完了までは、燃焼帯5は下方向に進行しないので、点火器2の点火完了時刻0(出口時点)までは、燃焼帯5は表面から動かず、燃焼帯前線の深さは0である。深さ方向の燃焼前線(燃焼帯下面)降下速度がVであるならば、点火器2による点火完了時刻を基準0minとすると、燃焼前線深さhが13mm~86mmnの間にある時刻tは、深さhを燃焼前線(燃焼帯下面)降下速度Vで割れば経過時間が算出できるので、点火完了時刻から、13/V~86/V(min)後となる。例えば、燃焼前線(燃焼帯下面)降下速度を29mm/min程度とした代表的な実機の操業(燃料散布焼結法を用いない場合)においては、13/V~86/V(min)後とは、点火器2による点火完了後、約30秒以上3分以内に相当する。
【0038】
点火器2は、従来に用いられるものと同様のものが使用できる。効率的な原料充填層表面への着火を図るために、燃焼量:25MJ/原料t程度となるようなバーナーで構成するのが好ましい。この燃焼熱量は、現行の実機レベルである。なお、空燃比はガスの種類(LPG、COG等)に応じて燃焼に適正な条件で調整する。
フレーム加熱装置4も、燃料ガスに着火して火炎を形成させるので、点火器2と同一の構成、すなわち、同一仕様・規模の点火器を併設するものでもよい(
図4参照)。既存の点火器、点火炉をそのまま利用できるので、焼結機設置の際のコストダウンを図ることができる。燃焼量は、25MJ/原料t程度とすることができる。なお、燃料散布焼結法と組み合わせた本発明における、好ましい燃焼量については後述する。
【0039】
大気吸引領域3は、例えば、
図4および
図5に示したように、点火器2とフレーム加熱装置4とを独立して設け、それぞれを焼結機のパレット進行方向に離して設けることで実現できる。また、図示は省略するが、点火器2とフレーム加熱装置4とを同一フード内に敷設してもよい。このとき、例えば、大気吸引ゾーンと両点火ゾーンとを仕切る壁などをフード内に設けるなどして、大気吸引領域3を形成する。大気吸引領域3において、大気(酸素含有ガス)を供給しつつ、点火器2およびフレーム加熱装置4により加熱された高温ガスの顕熱を利用して、焼結層内温度を高めるように構成することが好ましい。
【0040】
フレーム加熱装置4は、例えば、前記パレット9の走行方向に直行する幅方向に配列される複数のバーナーを有し、フレーム加熱装置4により原料充填層1の幅方向全体がフレーム加熱されることが好ましい。幅方向全体を加熱することにより、上面の幅方向表面全体において、歩留、冷間強度が改善される。
【0041】
(各点火方法におけるコークス粒径と焼成時間の関係)
本発明者らは、コークスの粒径と燃焼時間との関係を、後述する燃焼速度算出式を用いたシミュレーションにより求めた。
図6(A)~(D)は、それぞれ、焼結開始時の粒径が8.5mm、7.0mm、6.0mm、4.0mmのコークスについて、シミュレーションを行った結果を示す図である。
図6において、従来の点火方法の1つであるスリットバーナーを使用した場合について、細い破線で示し、フレーム加熱法を使用した場合については、太い実線で示している。また、
図6のシミュレーションにおいては、点火器(点火炉)2による点火を60秒間(
図6の横軸(焼結時間)の0秒から60秒までの間)とした。フレーム加熱法を使用した場合については、点火器2による点火終了後13秒空けた後に、フレーム加熱装置4により60秒間(
図6の横軸(焼結時間)の73秒から133秒までの間)の再点火を行う設定とした。
【0042】
燃焼速度は、コークス粒子の化学反応式に基づいて、所定の物性値を用いてコークス粒子半径(コークス粒径)の時間変化から算出した。ここで、西岡(西岡浩樹 私信「焼結機数学モデルの概要」)の検討を参考に、粉コークスを球形粒子かつ独立粒子(S型)(肥田ら「焼結鉱製造過程でのコークス燃焼におよぼす擬似粒子中コークス賦存状態の影響」鉄と鋼68(1982),189)と仮定した。また、化学反応速度はHottelの式(A.S.Parker and H.C.Hottel : Indust. Eng. Chem., 28(1936), 1334)、燃焼境膜内物質移動はRanz-Marshallの式(W.E.Ranz and W.R.Marshall: Chem. Eng. Prog., 48(1952), 173)に従った。なお、燃焼場への流通ガス中の酸素濃度は、点火中を想定した5vol%および大気吸引中を想定した21vol%とした。点火中の吸引ガス中の酸素濃度を5vol%と設定したのは、点火時における点火ガス量と排ガス量から吸引大気量を算出し、吸引ガス全量に対する酸素濃度を導出したことによる。
【0043】
図6(D)に示すように、従来の点火器2としてスリットバーナーを使用した場合では、最初のコークス粒径が4mmである場合、コークス粒径が0mmとなること、すなわち、コークス粒子が燃焼し尽くすことはなかった。従来の点火器2として天井バーナーを使用した場合では、最初のコークス粒径が4mmであれば、燃焼(焼結)時間が40秒となった時点で、コークス粒径が0mmとなり燃え尽きた。しかし、
図6(A)~(C)に示すように、コークス粒径が6mm以上では、コークス粒径が0mmとはならず燃え残った。これに対し、従来の点火器2としてスリットバーナーを使用し、スリットバーナーの加熱終了後に所定の加熱しない時間を設けて、その時間経過後に、フレーム加熱装置による点火を行った場合は、
図6(A),(B)に示すように、最初のコークス粒径が8.5mmでは、燃え残ったが、最初のコークス粒径が7mm以下であれば燃え尽きた。なお、図示は省略するが、コークス粒径を8.3mmである場合について、上述と同様のシミュレーションを行った結果、コークス粒径が8.3mm以下であれば、フレーム加熱法を用いることにより、コークス粒子が燃え尽きることがわかった。
【0044】
このように、コークス粒子が粗粒であっても、フレーム加熱法を用いることによって、未燃コークスの残留を防ぐことができる。本発明の焼結鉱の製造方法は、上記検討に基づいて創案されたものであり、フレーム加熱法を用いて焼結を行う焼結鉱の製造方法であって、焼結原料として使用するコークスは、コークス粒径が5mm超え7mm未満の割合が5%質量以上であることを特徴とする。本発明によれば、コークスの粗粒化により、微粒コークス比率が低減し通気性が改善することに加え、フレーム加熱技術により未燃コークスの残留による成品歩留の低下を解消する事ができる。その結果、コークス原単位を増加(悪化)させることなく、焼結操業を行うことが可能となる。
【実施例】
【0045】
本発明の効果を実証する実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
発明者らは、DL式焼結機により焼結鉱を製造し、本発明の効果を確認した。後述する表1~表4に示すように、比較例1~3、発明例の4つの実験を行った。DL式焼結機では、以下の条件により焼結を行った。
吸引負圧:980mmH2O
ストランド長:92m
パレット幅:5m
パレット速度:16.3m/min
層厚(床敷部を除く):484mm
X1、X2、d1:1.75m、1.75m、1.25m
【0047】
(実験条件)
表1は、使用した焼結原料の配合割合を示す。表1の鉄鉱石A~Gは異なる産地のものを使用した。表1に示すように、焼結原料は、比較例1と比較例2、比較例3と発明例が、それぞれ略同一となるように配合した。また、鉄鉱石、副原料、および含鉄雑原料を配合した新原料を100質量%として、粉コークス、返鉱の配合割合は、外数で、それぞれ、3.3~3.4質量%、19.5~20.0質量%とした。
【0048】
【0049】
表2は、各試験ケースについて、焼結原料として使用したコークスの粒度分布を示す。表2において、粒度区分の境界値となる粒径は、表2に示すように、0.25mm、0.5mm、1mm、3mm、5mm、7mmであり、これらの値は分級に使用した篩の篩目である。例えば、粒度区分「1mm-0.5mm」とは、0.5mmの篩目の篩で篩分けた際に篩上であり、1mmの篩目の篩で篩分けた際に篩下である。なお、0.125mm、0.25mm、0.5mm、1mm、2mmの篩については、JIS Z 8801で規定されているものを使用している。
【0050】
【0051】
試験ケースは、以下の4ケースである。
比較例1:フレーム加熱なし、コークス粒度は通常(ベース)条件
比較例2:フレーム加熱なし、コークス粒度は粗粒化条件
比較例3:フレーム加熱あり、コークス粒度は通常(ベース)条件
本発明 :フレーム加熱あり、コークス粒度は粗粒化条件
【0052】
JPUは、以下の式(3)により求めた。通気性(JPU)は、ある吸引負圧の圧力勾配があるところで、ある層厚さの原料充填層を単位面積当たりに通過する気体の流量で定義される。また、成品歩留は、得られた焼結ケーキから粒径+5mm(5mm超)の焼結鉱を焼結成品とし、焼結成品重量を、床敷鉱を除くシンターケーキ重量で除した値である。
JPU=(F/A)×(h/S)0.6・・・(3)
A:焼結機機長面積(m2)=パレット幅(m)×ストランド長(m)
F:通風量(Nm3/min)
h:層厚(mm)
S:吸引負圧(mmH2O)
【0053】
表3に、試験結果を示す。
フレーム加熱(再点火)を行わなかった比較例1と比較例2(配合割合一定)では、コークス粒度粗粒化に伴い、通気性(JPU)が改善した。また、フレーム加熱(再点火)を行った比較例3と本発明(配合割合一定)においても、コークス粒度粗粒化に伴い、通気性(JPU)が改善した。
通気性(JPU)の改善は、コークス粒度粗粒化に伴い、微粒コークス割合が低下したためであると考えられる。
【0054】
【0055】
表4は、焼結操業において、成品歩留が一定となるように操業した際のコークス原単位を示している。比較例1および比較例2については、成品歩留が76.1%となるように操業した際のコークス原単位を示し、比較例3および発明例については、成品歩留が76.8%となるように操業した際のコークス原単位を示す。
【0056】
【0057】
表4に示すように、比較例2では比較例1に比べてコークス原単位が悪化(増加)した。それに対し、発明例では比較例3と同等の値が得られた。比較例2も発明例もコークス粒度を粗粒化したが、発明例においては、フレーム加熱効果で未燃コークスの残留量が低いためであると考えられる。このように、フレーム加熱なしの条件では、コークス粒度を粗粒化すると、コークス原単位が悪化するデメリットが生じてしまうが、フレーム加熱ありの条件では、コークス粒度の粗粒化による通気性(JPU)の改善効果を得つつ、かつ、コークス原単位が悪化するデメリットを回避できる。
【符号の説明】
【0058】
1…原料充填層、2…点火器、3…大気吸引領域、4…フレーム加熱装置、5…燃焼帯、6…焼結完了層、7…ホッパ、9…パレット、10…レールまたはトラックガイド、11…駆動輪、12…遊動輪、13…ダクト、14…風箱、100…DL式焼結機