(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】Al脱酸鋼の溶製方法
(51)【国際特許分類】
C21C 7/10 20060101AFI20230712BHJP
C21C 7/06 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
C21C7/10 A
C21C7/06
(21)【出願番号】P 2019232252
(22)【出願日】2019-12-24
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】岡山 敦
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-327239(JP,A)
【文献】特開平05-277679(JP,A)
【文献】国際公開第2013/161794(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/058131(WO,A1)
【文献】特開2005-002421(JP,A)
【文献】特開2004-143510(JP,A)
【文献】特開2012-158789(JP,A)
【文献】特開2013-216927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 7/10
C21C 7/06
C21C 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空脱ガス装置を用いて、sol.Al濃度が0.0050質量%以下の溶鋼を環流させて脱炭処理を行い、溶鋼中のT.O濃度を0.0030質量%以下まで低下させ、その後、以下の(1)式の範囲でREMを前記溶鋼に添加して、REMの添加完了から1.5~3分の間にAlを添加することを特徴とするAl脱酸鋼の溶製方法。
61.2×%T.O≦W_REM ・・・(1)
ここで、W_REMはREM添加量(kg/ton)を表し、%T.Oは、REMを添加する前の溶鋼中の全O濃度(質量%)を表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗大なアルミナクラスタの形成を抑制するために用いて好適なAl脱酸鋼の溶製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Alは強力な脱酸剤であり、瞬時に溶存酸素を低減でき、効果も安定していることから、製鋼プロセスの中で多用されている。しかしながら、溶存酸素とAlが反応した場合、生成したアルミナが樹枝状に連なった、いわゆるアルミナクラスタが生成してしまう。鋼材中にアルミナクラスタが含まれている場合、鋳造性を悪化させることに加え、製品まで残存した場合、破壊や疵の起点になるなど、製品性能を著しく低下させてしまう。
【0003】
例えば、最も清浄性を要求される軸受鋼といった清浄鋼では、鋼材中のアルミナクラスタが破壊の起点となり、転動疲労寿命を低下させることが知られている。また、大型構造物として用いられる厚板鋼においては、アルミナクラスタが溶接時の靱性を低下させる場合がある。さらに、自動車用鋼板等に使用される薄板鋼では、アルミナクラスタがスラブの表層欠陥であるふくれ疵の要因となり、鋼板表面の美麗さを損なう場合もある。
【0004】
このように、Alなどの強脱酸元素を溶鋼に添加することによってアルミナクラスタが生成し、製品段階の性能を低下させる要因になりうる。また、アルミナの生成を抑制するために他の酸化物を生成させた場合には、酸化物の種類によってはノズル詰まりの要因となることから、生産性が低下する場合もある。そこで、溶鋼段階でアルミナなどの非金属介在物を低減する技術が提案されている。
【0005】
例えば特許文献1には、真空脱ガス装置にて溶鋼を撹拌して非金属介在物を浮上・分離させる高清浄度鋼の溶製方法が開示されている。この手法は生成した非金属介在物を物理的に溶鋼から除去する技術であり、効率良く凝集させて見かけの介在物径を大きくして除去速度を増大させ、かつ、長時間処理することで鋼の清浄性を向上させるものである。しかしながら、この方法は長時間処理を行うことから生産性が低く、かつAl脱酸鋼を溶製する場合にはAlの添加は必須となり、その場合にはアルミナクラスタの生成を抑制することができない。
【0006】
また、特許文献2には、転炉から溶鋼を末脱酸出鋼し、溶鋼中酸素濃度が100ppm以下になるまで炭素含有物を溶鋼に添加し、その後Alを添加する高清浄鋼の溶製方法が開示されている。この手法は、炭素含有物を添加することで溶鋼中の酸素をCOガスとして除去し、清浄性を高めているが、この技術を用いてもAlを添加することによってアルミナが生成され、不可避的にアルミナクラスタが形成されてしまう。
【0007】
さらに特許文献3には、Al濃度とC濃度とを所定の濃度に調整した状態で、環流型脱ガス装置において10分以上減圧下で環流処理を行い、環流後にZr,REMを添加する技術が開示されている。しかしながら技術はAlを添加することができないため、Al脱酸鋼を溶製することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-262218号公報
【文献】特開平10-317049号公報
【文献】特開2013-216927号公報
【文献】特許第4888516号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】溝口:鉄と鋼、vol.99 (2013) No.10, p601.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のようにAl脱酸鋼を溶製する場合には、Alを添加して脱酸を行うため、不可避的にアルミナクラスタが形成してしまう。また、アルミナの生成を抑制しようとすると、操業時間が著しく長くなったり、他の酸化物によって鋳造時などにノズルの閉塞が生じやすくなったり、操業に支障をきたす場合がある。
【0011】
本発明は前述の問題点を鑑み、操業上の支障が生じないようにして、アルミナクラスタの形成を抑制可能なAl脱酸鋼の溶製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の通りである。
(1)
真空脱ガス装置を用いて、sol.Al濃度が0.0050質量%以下の溶鋼を環流させて脱炭処理を行い、溶鋼中のT.O濃度を0.0030質量%以下まで低下させ、その後、以下の(1)式の範囲でREMを前記溶鋼に添加して、REMの添加完了から1.5~3分の間にAlを添加することを特徴とするAl脱酸鋼の溶製方法。
61.2×%T.O≦W_REM ・・・(1)
ここで、W_REMはREM添加量(kg/ton)を表し、%T.Oは、REMを添加する前の溶鋼中の全O濃度(質量%)を表す。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、操業上の支障が生じないようにして、アルミナクラスタの形成を抑制可能なAl脱酸鋼の溶製方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明で「%」とは特段の説明がない限り、質量%を指すものとする。
【0015】
製品性能を著しく低下させるアルミナクラスタの生成要因としては、アルミナとアルミナの境界に生じている液体酸化鉄(FeO)の存在が報告されている(非特許文献1参照)。この液体酸化鉄は、単体のアルミナが生成している状況、すなわち溶鋼中のAl濃度が高い場合であっても生成していることから、Al脱酸の範囲では液体酸化鉄の生成を抑制するのは困難である。液体酸化鉄の生成を抑制するには、Alよりも脱酸力が強いREMを添加して液体酸化鉄を還元するのが効果的であると考えられる。ここでREM(Rare Earth Metal)とは、周期表の3族に属するSc,Y,ランタノイド(La,Ce等、原子番号57~71の15元素)から選ばれた1種以上の希土類元素を意味し、特に、Ce,La,PrまたはNdのうちの1種以上の元素が該当する。
【0016】
しかしながら、Al脱酸した後にREMを添加したとしても、アルミナとアルミナの結合部分に存在する液体酸化鉄は、アルミナ自身が盾となっているため、脱酸力が強い元素を添加しても処理時間内には還元しきれない可能性がある。一方で、Al脱酸していない未脱酸もしくは弱脱酸状況での溶鋼中O濃度は数10ppmから数100ppm程度であり、この酸素を全てREMで脱酸するには多量のREMが必要であり、工業的に成立しない。ここで、溶鋼中O濃度は、溶存酸素と酸化物中の酸素とを合わせた全O濃度であり、以下、T.O濃度と記載する場合がある。
【0017】
そこで本発明者らは、予め溶存酸素をCで脱酸した後にREMを添加すれば、少ないREM添加量で脱酸できることに着想した。但し、溶鋼は取鍋上のスラグもしくは僅かながら大気によって再酸化されるため、REMを添加してからある程度時間が経過してしまうと、REMから溶存酸素が移行し、液体酸化鉄が生成されやすくなってしまう。そこで本発明者らはさらに、REMを添加した後に、所定の時間内にAlを添加すれば、液体酸化鉄が生じず、アルミナクラスタの生成が抑制できることに着想した。
【0018】
本発明者らは、以上のような着想に基づいて液体酸化鉄の生成を抑制することによって、アルミナクラスタの生成を抑制するための諸条件を調査し、本発明を完成するに至った。以下、アルミナクラスタの生成を抑制するための詳細な条件について説明する。
【0019】
[脱炭処理前の条件]
製鋼炉から取鍋に溶鋼が出鋼された後、真空脱ガス装置まで搬送される。なお、取鍋に溶鋼が出鋼された後、真空脱ガス装置まで搬送される間に、合金等を添加して成分調整してもよい。
【0020】
本実施形態では、製鋼炉から出鋼された溶鋼に対して、真空脱ガス装置を用いて減圧し、溶鋼中のCとOを反応させて脱炭処理を行うことにより溶存酸素濃度を低減させる。ここで真空脱ガス装置とは、真空槽を要する溶鋼処理装置であって、代表的な装置としてRH型真空脱ガス装置がある。RH型真空脱ガス装置では、取鍋中の溶鋼に浸漬管を浸漬させて真空槽内の圧力を低下させることで溶鋼を真空槽に吸い上げ、さらに溶鋼中に環流ガスを流すことで、溶鋼を取鍋と真空槽内とで環流させる。環流中の溶鋼では、溶鋼が減圧雰囲気にさらされることから脱ガス反応が促進されるとともに、介在物の凝集、浮上除去が促進される。
【0021】
なお、真空脱ガス装置で脱炭処理を行う前に、SiなどのAl以外の脱酸剤を添加して脱酸し、脱炭処理の負荷を低減してもよい。また、脱炭処理では、CとOとの反応でCO気泡が溶鋼中に生じるが、CO気泡は介在物等を核にした方がエネルギー的に有利であることから、脱炭反応を用いることで介在物中の酸素除去も効率良く進む。
【0022】
また、真空脱ガス装置で脱炭処理する前の段階で溶鋼中のsol.Al濃度が0.005%を超えていると、溶鋼中にアルミナが生成してアルミナクラスタを形成し、アルミナクラスタが懸濁する状態となる。一度アルミナクラスタが形成されてしまうと、アルミナ同士の接合を外すには多量の強脱酸元素が必要である。また、一度懸濁したアルミナクラスタを溶鋼から取り除くには長時間の環流処理が必要となる。このため、脱炭処理前のsol.Al濃度は0.005%以下とする。なお、通常の操業で溶鋼を溶製する場合には、Alを添加しない限り、sol.Al濃度は0.005%以下となる。また、sol.Al濃度は低位であるほうがアルミナ生成量は低減できるが、溶鋼中からsol.Alを完全に低減することは困難である。好ましくは、脱炭処理前のsol.Al濃度は、0.0005~0.0020%である。
【0023】
[脱炭処理後(REM添加前)の全O濃度:0.0030%以下]
Oは鋼材の製造過程において不可避的に含有される元素であり、溶存酸素、もしくは酸化物として溶鋼中に存在する。このため、REMを残存させるためには、溶存酸素に加え、酸化物中の酸素も考慮することが必要である。REMは脱酸力が強く、溶存酸素と反応することに加え、多くの酸化物を還元し、自らはREM酸化物となる。REM添加前の全O濃度(T.O濃度)が高い場合、脱酸に要するREM添加量が多くなり、溶製コストが高くなってしまう。また、REM酸化物が過剰に生成すると、アルミナクラスタの生成は抑制されるが、REM酸化物に起因して鋳造時にノズル閉塞を生じさせてしまう。このため、真空脱ガス装置を用いて脱炭処理によりCとOとを反応させ、REM添加前のO濃度を0.0030%以下に制御しておくことが必要である。
【0024】
[REM添加量]
REMは強脱酸元素であり、一般的には鋼材の組織を微細化するといった用途で添加される。本実施形態においては、アルミナクラスタの生成要因の一つと考えられる液体酸化鉄の生成を抑制するためにREMが添加される。以下の(1)式を満たす量のREMを添加すれば、REM酸化物が生成し、Al添加前において液体酸化鉄が生成しない状態とすることが可能である。なお、REMを添加した場合、REM硫化物を生成する可能性があるが、通常の操業で溶鋼に含まれるS濃度では、添加したREMのほとんどはREM酸化物となり、REM硫化物はほとんど生成されないため、無視してよい。
61.2×%T.O≦W_REM ・・・(1)
ここで、%T.OはREM添加前の溶鋼中の全O濃度(質量%)を表し、W_REMはREMの添加量(kg/ton)を表す。
【0025】
ここで、REMとしてCe(原子量:140.1g/mol)を仮定すると、溶鋼中の酸素(原子量:16g/mol)をCe2O3として固定するために必要な化学量論的なCe重量は、酸素濃度の5.84倍(=(140.1*2)/(16*3))となる。単位を質量%からkg/tonに変換すると、理論上、溶鋼中の酸素をREM酸化物として固定するのに{%T.O×58.4}kg/ton以上が必要となるが、実際には添加時の合金歩留りや環流中の濃度低下が生じる。これらを勘案し、小型実験や実機試験結果から実験的に検討した結果、REM添加量W_REMは(1)式の範囲とする必要があることが確認できた。
【0026】
以上のように、REM添加量W_REMが61.2×%T.Oよりも少ないと、溶鋼中にREM酸化物が十分に生成されないため、液体酸化鉄が生成してしまいその後のAl添加によりアルミナクラスタが生成してしまう。このため、REM添加量は(1)式の範囲を満たしていることが必要である。REM添加量W_REMの上限は特に規定しないが、REM添加量が多すぎると液体酸化物の生成抑制効果が得られる一方でその効果が飽和し、合金コストが増大してしまう。このため、REM添加量W_REMは以下の(2)式を満たす範囲とすることが好ましい。
W_REM≦64.2×%T.O ・・・(2)
【0027】
また、REMの添加手法としては、金属単体で添加してもよく、複数種類の金属(REM)が混入しているいわゆるミッシュミタルの形状で添加してもよい。また、FeやSiといったREM以外の他の金属との合金として添加してもよい。その場合は、合金中のREMの含有率を乗じて、REM相当量が(1)式を満たす範囲にあればよい。
【0028】
[REM添加後のAl添加]
その後、溶鋼中にREMが微量濃度残存している間、具体的にはREM添加完了から3分以内にAlを添加する。REMの添加後3分超経過してからAlを添加すると、REMによる脱酸効果が低下した状態、つまり液体酸化鉄の生成を抑制できない状態でAlを添加することになり、アルミナクラスタが生成されやすくなる。したがって、REM添加後3分以内にAlを添加する必要がある。
【0029】
一方、REMを添加して1.5分経たないうちにAlを添加すると、溶鋼中にREMが均一に混合されていない状況でAlが添加されるため、REM濃度が低いところでアルミナクラスタが生成してしまう。このため、REM添加完了から1.5~3分の間にA1を添加する必要がある。
【0030】
なお、Alの添加量は、Al脱酸鋼を溶製するのに必要な量とする。アルミナとアルミナの境界に生じている液体酸化鉄(FeO)を生じさせない分量のAlを添加する必要があるが、Al脱酸鋼では、さらにAlNのピン止め効果を利用したオーステナイト粒度制御に必要な分量のAlが必要である。具体的には、Alを添加することによって溶鋼中のsol.Al濃度は0.02~0.10%とすることが好ましく、0.03~0.08%とすることがさらに好ましい。Al添加後は、溶鋼を必要な成分および温度に調整する。
【0031】
[溶製時の溶鋼成分測定方法]
溶鋼中のAl濃度は、取鍋内の溶鋼から採取したサンプルを分析することで測定できる。また、溶鋼中の全O濃度(T.O濃度)は、特許文献4に記載の方法に基づいて迅速に分析できる。また、酸素濃淡電池を原理とする酸素濃度プローブで溶鋼の溶存酸素濃度を直接測定することができる。
【0032】
[効果の確認方法]
アルミナクラスタが低減されたか否かを確認する方法は、鋳片から検鏡用のミクロサンプルを切り出して樹脂埋め後に鏡面研磨し、その後、光学顕微鏡もしくはEDS付きの電子顕微鏡でミクロサンプル研磨面上の酸化物および硫化物の数、大きさおよび成分等を調査する。この調査において、視野面積160~200mm2に存在する粒径1μm以上の酸化物(アルミナ)を調査し、酸化物中心間距離が5μm以下であるアルミナは同一のアルミナクラスタと評価し、同一のアルミナクラスタの最大粒径が25μm以上になるアルミナクラスタを計数する。この時、鋳片でのアルミナクラスタの個数密度が0.30個/mm2以下であった場合、アルミナクラスタ低減効果があったと判断できる。また、それぞれの試験にて鋳造性を調査し、アルミナクラスタ低減効果があり、かつ、ノズル閉塞傾向が見られなかった場合を、発明の効果が認められたと判断する。
【実施例】
【0033】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0034】
高炉から出銑された溶銑を、溶銑予備処理で脱硫処理し、転炉型精錬容器(CV、Converter)にて脱燐および脱炭処理した後、取鍋に溶鋼を出鋼した。出鋼の際、Si、Mnを含む合金元素を添加し、保温用のカバースラグを添加した。その後、取鍋に保持された溶鋼をRH型真空脱ガス装置まで搬送し、浸漬管を溶鋼に浸漬させて真空槽内の圧力が1torr以下になるまで真空槽内を減圧した。そして、溶鋼中にArガスからなる環流ガスを8.0NL/(min・溶鋼ton)流し、溶鋼を環流させて脱炭処理を行った。溶鋼量は250ton規模であり、RH型真空脱ガス装置では、1560℃から1610℃の間で推移した。その結果、減圧処理(脱炭処理)後のsol.Al濃度およびT.O濃度は、以下の表1に示す値であった。
【0035】
なお、表1のNo.8のみ、RH型真空脱ガス装置で脱炭処理開始直後にAlを添加した。一方、表1のNo.1からNo.7、およびNo.9からNo.15では、RH型真空脱ガス装置において、Alを添加することなく10~15分の間、CとOを反応させて脱炭処理を行った。なお、sol.Al濃度は、No.8を除いて脱炭処理前と同じ濃度であった。
【0036】
脱炭処理後、表1に示すそれぞれの溶鋼にミッシュメタルの状態でREMを添加し、その後、No.8を除いてAlを添加した。Alを添加した後は、連続鋳造機にてスラブあるいはブルームといった半製品を製造した。そして、前述した手順で鋳片からは検鏡用のミクロサンプルを採取し、検鏡法により、鏡面研磨したサンプル研磨面上の粒径1μm以上の酸化物を調査した。その結果を表1に示す。鋳片でのアルミナクラスタの個数密度が0.30個/mm2以下であった場合、アルミナクラスタ低減効果があったと判断した。
【0037】
【0038】
No.1からNo.7は本発明例であり、いずれも質量%で脱炭処理前のsol.Al濃度が0.0050%以下、脱炭処理後のT.O濃度が0.0030%以下であり、REM添加量が(1)式の範囲内で、且つAlを添加したタイミングがREM添加完了してから1.5~3分後であった。その結果、全ての条件で鋳片でのアルミナクラスタの個数密度が0.30個/mm2以下にできたことに加え、ノズル閉塞といった鋳造トラブルも無く溶製できた。
【0039】
No.8は、RH型真空脱ガス装置で脱炭処理開始直後にAl添加した従来例である。溶鋼中のO濃度が高い段階からAlが添加されたため、アルミナクラスタの個数密度は高かった。また、No.9は、sol.RH型真空脱ガス装置での脱炭処理前後でsol.Al濃度が質量%で0.0050%よりも高い状態であったため、REM添加前の段階でアルミナクラスタが多く生成され、REMを添加してもアルミナクラスタ低減効果が十分得られなかった。
【0040】
No.10およびNo.11は、脱炭処理後のREM添加前のT.O濃度が質量%で0.0030%よりも高かったため、REM添加量が(1)式の範囲であったものの、REM酸化物が過剰に生成されたことによって、鋳造時にノズル閉塞傾向が確認された。
【0041】
No.12およびNo.13は、REM添加量が(1)式の下限よりも少なかった。このため、REM酸化物が不足して液体酸化鉄が生成してしまったため、アルミナクラスタの形成を低減できなかった。
【0042】
No.14は、REM添加完了からAl添加までの時間が1.5分よりも短かった。このため、Al添加のタイミングではまだ溶鋼内でREMが均一に拡散されておらず、REMが十分に拡散されていないところではAlを展開したことによってアルミナクラスタが形成されやすく、アルミナクラスタを低減できなかった。一方でNo.15は、REM添加完了からAl添加までの時間が3.0分よりも長かった。このため、REMによる脱酸効果が低下した状態、つまり液体酸化鉄の生成を抑制できない状態でAlを添加したため、アルミナクラスタの形成を低減できなかった。