(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】積層コアおよび回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/18 20060101AFI20230712BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20230712BHJP
H01F 27/24 20060101ALI20230712BHJP
H01F 27/245 20060101ALI20230712BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
H02K1/18 B
H02K15/02 F
H01F27/24 Q
H01F27/245 150
H01F41/02 B
(21)【出願番号】P 2020561438
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2019049292
(87)【国際公開番号】W WO2020129940
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-04-23
(31)【優先権主張番号】P 2018235859
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】上川畑 正仁
(72)【発明者】
【氏名】平山 隆
(72)【発明者】
【氏名】竹田 和年
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-028743(JP,U)
【文献】特開2011-023523(JP,A)
【文献】特開2002-125341(JP,A)
【文献】国際公開第2018/105473(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/18
H02K 15/02
H01F 27/24
H01F 27/245
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向に積層された複数の電磁鋼板を備える積層コアであって、前記電磁鋼板は、環状のコアバック部と、前記コアバック部から径方向に向けて突出するとともに、前記コアバック部の周方向に間隔をあけて配置された複数のティース部と、を備え、
前記複数の電磁鋼板のうち、積層方向に沿う外側の一方に位置する電磁鋼板のティース部は積層方向に隣り合うティース部同士が対向する表面間に設けられる接着部により互いに接着され、積層方向に沿う外側の他方に位置する電磁鋼板のティース部は積層方向に隣り合うティース部同士が対向する表面間に設けられる接着部により互いに接着され、積層方向に沿う中央部に位置する電磁鋼板のティース部は互いに接着されて
おらず、
前記積層方向に沿う中央部に位置する電磁鋼板の枚数は、前記積層方向に沿う外側の一方に位置する電磁鋼板の枚数および前記積層方向に沿う外側の他方に位置する電磁鋼板の枚数よりも多く、
前記積層コアが備える前記複数の電磁鋼板の全枚数に対する、前記積層方向に沿う外側の一方に位置する電磁鋼板の枚数および、前記積層コアが備える前記複数の電磁鋼板の全枚数に対する、前記積層方向に沿う外側の他方に位置する電磁鋼板の枚数の比は、1%以上10%以下である、積層コア。
【請求項2】
前記積層方向に沿う外側の一方に位置する電磁鋼板の枚数と前記積層方向に沿う外側の他方に位置する電磁鋼板の枚数が等しい、請求項
1に記載の積層コア。
【請求項3】
前記接着部は、前記ティース部における接着される面の全面に設けられる、請求項1
または2に記載の積層コア。
【請求項4】
前記接着部は、前記ティース部における接着される面の外周縁に設けられる、請求項1
または2のいずれか1項に記載の積層コア。
【請求項5】
前記積層方向に沿う中央部に位置する電磁鋼板の前記ティース部は、互いにかしめられていなく、かつ互いに溶接されていなく、
前記積層方向に沿う中央部に位置する電磁鋼板の前記コアバック部は、互いに接着されていなく、かつ互いにかしめられていなく、かつ互いに溶接されていない、請求項1~
4のいずれか1項に記載の積層コア。
【請求項6】
前記積層方向に沿う外側の一方に位置する電磁鋼板のティース部は、前記積層方向に隣り合うティース部と、互いにかしめられていなく、かつ互いに溶接されていなく、
前記積層方向に沿う外側の一方に位置する電磁鋼板のコアバック部は、前記積層方向に隣り合うコアバック部と、互いに接着されていなく、かつ互いにかしめられていなく、かつ互いに溶接されていない、請求項1~
5のいずれか1項に記載の積層コア。
【請求項7】
前記接着部の平均厚みが1.0μm~3.0μmである、請求項1~
6のいずれか1項に記載の積層コア。
【請求項8】
前記接着部の平均引張弾性率Eが1500MPa~4500MPaである、請求項1~
7のいずれか1項に記載の積層コア。
【請求項9】
前記接着部が、エラストマー含有アクリル系接着剤からなるSGAを含む常温接着タイプのアクリル系接着剤である、請求項1~
8のいずれか1項に記載の積層コア。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の積層コアを備える、回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層コアおよび回転電機に関する。
本願は、2018年12月17日に、日本に出願された特願2018-235859号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来から、下記特許文献1に記載されているような積層コアが知られている。この積層コアでは、積層方向に隣り合う電磁鋼板が接着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来の積層コアには、磁気特性を向上させることについて改善の余地がある。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、磁気特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
(1)本発明の第一の態様は、厚さ方向に積層された複数の電磁鋼板を備える積層コアであって、前記電磁鋼板は、環状のコアバック部と、前記コアバック部から径方向に向けて突出するとともに、前記コアバック部の周方向に間隔をあけて配置された複数のティース部と、を備え、前記複数の電磁鋼板のうち、積層方向に沿う外側の一方に位置する電磁鋼板のティース部は積層方向に隣り合うティース部同士が対向する表面間に設けられる接着部により互いに接着され、積層方向に沿う外側の他方に位置する電磁鋼板のティース部は積層方向に隣り合うティース部同士が対向する表面間に設けられる接着部により互いに接着され、積層方向に沿う中央部に位置する電磁鋼板のティース部は互いに接着されておらず、前記積層方向に沿う中央部に位置する電磁鋼板の枚数は、前記積層方向に沿う外側の一方に位置する電磁鋼板の枚数および前記積層方向に沿う外側の他方に位置する電磁鋼板の枚数よりも多く、前記積層コアが備える前記複数の電磁鋼板の全枚数に対する、前記積層方向に沿う外側の一方に位置する電磁鋼板の枚数および、前記積層コアが備える前記複数の電磁鋼板の全枚数に対する、前記積層方向に沿う外側の他方に位置する電磁鋼板の枚数の比は、1%以上10%以下である、積層コアである。
【0007】
一般的に、接着剤は硬化時に収縮する。そのため、接着剤の硬化に伴い、電磁鋼板に圧縮応力が付与される。圧縮応力が付与されると、電磁鋼板に歪が生じる。歪が生じると、積層コアの鉄損が大きくなる。この場合、積層コアの磁気特性が低下するおそれがある。
【0008】
この構成によれば、複数の電磁鋼板のうち、積層方向に沿う中央部に位置する電磁鋼板のティース部は互いに接着されていない。そのため、積層方向に沿う中央部に位置する電磁鋼板のティース部において、歪が生じるのを抑えることができる。よって、積層方向に沿う中央部を含む、全ての電磁鋼板のティース部が接着されている場合に比べて、積層コアの磁気特性を向上させることができる。
一方で、積層コアの積層方向に沿う外側の一方および他方にて、複数の電磁鋼板のティース部が互いに接着されている。そのため、例えば積層コアの積層方向に沿う外側の一方および他方を含む、全ての電磁鋼板のティース部が互いに接着されていない場合に比べて、積層コアの積層方向に沿う外側の一方および他方に位置する電磁鋼板のティース部の浮き上がり(反り)を抑制することができる。従って、積層コアの磁気特性を向上させることができる。
【0009】
上述したように、前記積層コアでは、前記積層方向に沿う中央部に位置する電磁鋼板の枚数は、前記積層方向に沿う外側の一方に位置する電磁鋼板の枚数および前記積層方向に沿う外側の他方に位置する電磁鋼板の枚数よりも多くてもよい。
一般的に、接着剤により互いに接着されていないティース部には、接着剤の収縮による歪が生じない。一方で、接着剤により互いに接着されているティース部には、接着剤の収縮による歪が生じる。この構成によれば、歪が生じないティース部の枚数が、積層方向に沿う外側の一方および他方に位置して歪が生じるティース部の枚数よりもそれぞれ多くなる。このため、積層コア全体に生じる歪をより小さくすることができる。
【0010】
(2)前記(1)に記載の積層コアでは、前記積層方向に沿う外側の一方に位置する電磁鋼板の枚数と前記積層方向に沿う外側の他方に位置する電磁鋼板の枚数が等しくてもよい。
この構成によれば、積層コアの積層方向に沿う外側の一方の厚さと、積層コアの積層方向に沿う外側の他方の厚さとが、等しくなる。さらに、積層コアの積層方向に沿う外側の一方に生じる歪量と、積層コアの積層方向に沿う外側の他方に生じる歪量とが、等しくなる。これにより、積層コア全体に生じる歪の偏りを抑制することができる。
【0011】
上述したように、前記積層コアでは、前記積層コアが備える前記複数の電磁鋼板の全枚数に対する、前記積層方向に沿う外側の一方に位置する電磁鋼板の枚数および、前記積層コアが備える前記複数の電磁鋼板の全枚数に対する、前記積層方向に沿う外側の他方に位置する電磁鋼板の枚数の比は、1%以上10%以下であってもよい。
この比が1%未満であると、積層方向に沿う外側の一方および他方に位置するティース部を接着する接着部の接着力が低下する。このため、積層コア全体としての形状を保持し難くなる。一方で、この比が10%を超えると、積層方向に沿う外側の一方および他方に位置するティース部を互いに接着する接着部の接着力が飽和する。この比を1%以上10%以下にすることで、ティース部の接着に用いる接着部の量を抑えつつ、積層コア全体としての形状を保持することができる。
【0012】
(3)前記(1)または(2)のいずれかに記載の積層コアでは、前記接着部は、前記ティース部における接着される面の全面に設けられてもよい。
この構成によれば、接着部によってティース部に生じる歪の偏りを抑制することができる。従って、積層コア全体に生じる歪の偏りを抑制することができる。
【0013】
(4)前記(1)または(2)のいずれかに記載の積層コアでは、前記接着部は、前記ティース部における接着される面の外周縁に設けられてもよい。
この構成によれば、互いに接着される積層方向に隣り合うティース部の外周縁同士が離間するのを抑えることができる。
【0014】
(5)前記(1)~(4)のいずれかに記載の積層コアでは、前記積層方向に沿う中央部に位置する電磁鋼板の前記ティース部は、互いにかしめられていなく、かつ互いに溶接されていなく、前記積層方向に沿う中央部に位置する電磁鋼板の前記コアバック部は、互いに接着されていなく、かつ互いにかしめられていなく、かつ互いに溶接されていなくてもよい。
一般的に、ティース部、コアバック部を互いにかしめたり、互いに溶接したりすると、ティース部、コアバック部に層間短絡が生じる。
この構成によれば、ティース部およびコアバック部が互いにかしめられていなく、かつ互いに溶接されていないため、積層方向に沿う中央部に位置する電磁鋼板のティース部およびコアバック部に生じる層間短絡を抑えることができる。
さらに、コアバック部が互いに接着されていないため、積層方向に沿う中央部に位置する電磁鋼板のコアバック部に生じる歪を小さくすることができる。
【0015】
(6)前記(1)~(5)のいずれかに記載の積層コアでは、前記積層方向に沿う外側の一方に位置する電磁鋼板のティース部は、前記積層方向に隣り合うティース部と、互いにかしめられていなく、かつ互いに溶接されていなく、前記積層方向に沿う外側の一方に位置する電磁鋼板のコアバック部は、前記積層方向に隣り合うコアバック部と、互いに接着されていなく、かつ互いにかしめられていなく、かつ互いに溶接されていなくてもよい。
この構成によれば、ティース部およびコアバック部が互いにかしめられていなく、かつ互いに溶接されていないため、積層方向に沿う外側の一方に位置する電磁鋼板のティース部およびコアバック部に生じる層間短絡を抑えることができる。
さらに、コアバック部が互いに接着されていないため、積層方向に沿う外側の一方に位置する電磁鋼板のコアバック部に生じる歪を小さくすることができる。
【0016】
(7)前記(1)~(6)のいずれかに記載の積層コアでは、前記接着部の平均厚みが1.0μm~3.0μmであってもよい。
【0017】
(8)前記(1)~(7)のいずれかに記載の積層コアでは、前記接着部の平均引張弾性率Eが1500MPa~4500MPaであってもよい。
【0018】
(9)前記(1)~(8)のいずれかに記載の積層コアでは、前記接着部が、エラストマー含有アクリル系接着剤からなるSGAを含む常温接着タイプのアクリル系接着剤であってもよい。
【0019】
(10)本発明の第二の態様は、前記(1)~(9)のいずれかに記載の積層コアを備える回転電機である。
この構成によれば、回転電機の磁気特性を向上することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、磁気特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る回転電機の断面図である。
【
図2】
図1に示す回転電機が備えるステータの平面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るステータコアの斜視図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るステータコアの平面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るステータコアの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る積層コアおよび回転電機を説明する。
なお、本実施形態では、回転電機として電動機、具体的には交流電動機を一例に挙げて説明する。交流電動機は、より具体的には同期電動機、より一層具体的には永久磁石界磁型電動機である。この種の電動機は、例えば、電気自動車などに好適に採用される。
【0023】
図1および
図2に示すように、回転電機10は、ステータ20と、ロータ30と、ケース50と、回転軸60と、を備える。ステータ20およびロータ30は、ケース50に収容される。ステータ20は、ケース50に固定される。
本実施形態では、回転電機10として、ロータ30がステータ20の内側に位置するインナーロータ型の回転電機が用いられている。しかしながら、回転電機10として、ロータ30がステータ20の外側に位置するアウターロータ型の回転電機が用いられてもよい。また、本実施形態では、回転電機10が、12極18スロットの三相交流モータである。しかしながら、例えば、極数やスロット数、相数などは適宜変更することができる。
【0024】
ステータ20は、ステータコア21と、図示しない巻線と、を備える。
ステータコア21は、環状のコアバック部22と、複数のティース部23と、を備える。以下では、ステータコア21(コアバック部22)の軸方向(ステータコア21の中心軸線O方向)を、軸方向という。ステータコア21(コアバック部22)の径方向(ステータコア21の中心軸線Oに直交する方向)を、径方向という。ステータコア21(コアバック部22)の周方向(ステータコア21の中心軸線O周りに周回する方向)を、周方向という。
【0025】
コアバック部22は、ステータ20を軸方向から見た平面視において円環状に形成されている。
複数のティース部23は、コアバック部22から径方向に向けて(径方向に沿ってコアバック部22の中心軸線Oに向けて)突出する。複数のティース部23は、周方向に同等の間隔をあけて配置されている。本実施形態では、中心軸線Oを中心とする中心角20度おきに18個のティース部23が設けられている。複数のティース部23は、互いに同等の形状で、かつ同等の大きさに形成されている。
前記巻線は、ティース部23に巻き回されている。前記巻線は、集中巻きされていてもよく、分布巻きされていてもよい。
【0026】
ロータ30は、ステータ20(ステータコア21)に対して径方向の内側に配置されている。ロータ30は、ロータコア31と、複数の永久磁石32と、を備える。
ロータコア31は、ステータ20と同軸に配置される環状(円環状)に形成されている。ロータコア31内には、前記回転軸60が配置されている。回転軸60は、ロータコア31に固定されている。
複数の永久磁石32は、ロータコア31に固定されている。本実施形態では、2つ1組の永久磁石32が1つの磁極を形成している。複数組の永久磁石32は、周方向に同等の間隔をあけて配置されている。本実施形態では、中心軸線Oを中心とする中心角30度おきに、12組(全体では24個)の永久磁石32が設けられている。
【0027】
本実施形態では、永久磁石界磁型電動機として、埋込磁石型モータが採用されている。
ロータコア31には、ロータコア31を軸方向に貫通する複数の貫通孔33が形成されている。複数の貫通孔33は、複数の永久磁石32に対応して設けられている。各永久磁石32は、対応する貫通孔33内に配置された状態でロータコア31に固定されている。例えば、永久磁石32の外面と貫通孔33の内面とを接着剤により接着すること等により、各永久磁石32がロータコア31に固定されている。なお、永久磁石界磁型電動機として、埋込磁石型モータに代えて表面磁石型モータが用いられてもよい。
【0028】
ステータコア21およびロータコア31は、いずれも積層コアである。積層コアは、複数の電磁鋼板40が積層されることで形成されている。
なお、ステータコア21およびロータコア31それぞれの積厚は、例えば、50.0mmとされる。ステータコア21の外径は、例えば、250.0mmとされる。ステータコア21の内径は、例えば、165.0mmとされる。ロータコア31の外径は、例えば、163.0mmとされる。ロータコア31の内径は、例えば、30.0mmとされる。ただし、これらの値は一例であり、ステータコア21の積厚、外径や内径、およびロータコア31の積厚、外径や内径は、これらの値に限られない。
ここで、ステータコア21の内径は、ステータコア21におけるティース部23の先端部を基準としている。ステータコア21の内径は、全てのティース部23の先端部に内接する仮想円の直径である。
【0029】
ステータコア21およびロータコア31を形成する各電磁鋼板40は、例えば、母材となる電磁鋼板を打ち抜き加工すること等により形成される。電磁鋼板40には、公知の電磁鋼板を用いることができる。電磁鋼板40の化学組成は、特に限定されない。本実施形態では、電磁鋼板40として、無方向性電磁鋼板を採用している。無方向性電磁鋼板としては、例えば、JIS(日本工業規格) C 2552:2014の無方向性電鋼帯を採用することができる。
しかしながら、電磁鋼板40として、無方向性電磁鋼板に代えて方向性電磁鋼板を採用することも可能である。方向性電磁鋼板には、JIS C 2553:2012の方向性電鋼帯を採用することができる。
【0030】
電磁鋼板の加工性や、積層コアの鉄損を改善するため、電磁鋼板40の両面には、絶縁被膜が設けられている。絶縁被膜を構成する物質としては、例えば、(1)無機化合物、(2)有機樹脂、(3)無機化合物と有機樹脂との混合物、などが適用できる。無機化合物としては、例えば、(1)重クロム酸塩とホウ酸の複合物、(2)リン酸塩とシリカの複合物、などが挙げられる。有機樹脂としては、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、アクリルスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、シリコン系樹脂、フッ素系樹脂などが挙げられる。
【0031】
互いに積層される電磁鋼板40間での絶縁性能を確保するために、絶縁被膜の厚さ(電磁鋼板40片面あたりの厚さ)は0.1μm以上とすることが好ましい。
一方で絶縁被膜が厚くなるに連れて、絶縁効果が飽和する。また、絶縁被膜が厚くなるに連れて占積率が低下し、積層コアとしての性能が低下する。したがって、絶縁被膜は、絶縁性能が確保できる範囲で薄い方がよい。絶縁被膜の厚さ(電磁鋼板40片面あたりの厚さ)は、好ましくは0.1μm以上5μm以下である。絶縁被膜の厚さは、より好ましくは0.1μm以上2μm以下である。
【0032】
電磁鋼板40が薄くなるに連れて、次第に鉄損の改善効果が飽和する。また、電磁鋼板40が薄くなるに連れて、電磁鋼板40の製造コストは増す。そのため、鉄損の改善効果および製造コストを考慮すると、電磁鋼板40の厚さは0.10mm以上とすることが好ましい。
一方で電磁鋼板40が厚すぎると、電磁鋼板40のプレス打ち抜き作業が困難になる。
そのため、電磁鋼板40のプレス打ち抜き作業を考慮すると、電磁鋼板40の厚さは0.65mm以下とすることが好ましい。
また、電磁鋼板40が厚くなると鉄損が増大する。そのため、電磁鋼板40の鉄損特性を考慮すると、電磁鋼板40の厚さは0.35mm以下とすることが好ましい。電磁鋼板40の厚さは、より好ましくは、0.20mmまたは0.25mmである。
上記の点を考慮し、各電磁鋼板40の厚さは、例えば、0.10mm以上0.65mm以下である。各電磁鋼板40の厚さは、好ましくは、0.10mm以上0.35mm以下、より好ましくは0.20mmや0.25mmである。なお、電磁鋼板40の厚さには、絶縁被膜の厚さも含まれる。
【0033】
図3に示すように、ステータコア21を形成する複数の電磁鋼板40は、厚さ方向に積層されている。厚さ方向は、電磁鋼板40の厚さ方向である。厚さ方向は、電磁鋼板40の積層方向に相当する。なお、
図3では、便宜上、ティース部23の図示を省略している。複数の電磁鋼板40は、中心軸線Oに対して同軸に配置されている。電磁鋼板40は、コアバック部22と、複数のティース部23と、を備える。
ステータコア21において、複数の電磁鋼板40のうち、積層方向に沿う外側の一方に位置する電磁鋼板(
図3において、ステータコア21の積層方向の上端部(第1端部)71に位置する電磁鋼板)40(以下では、第1鋼板集合体76とも言う)のティース部23は、積層方向に隣り合うティース部23同士の間に設けられる接着部41(
図2に示す)により互いに接着されている。
【0034】
ステータコア21の上端部71に位置する電磁鋼板40のティース部23は、接着のみによって固定されている。ステータコア21の上端部71に位置する電磁鋼板40のティース部23は、他の手段(例えば、かしめ等)によっては固定されていない。すなわち、
図2に示すように、ステータコア21の上端部71に位置する電磁鋼板40の表面(第1面)40aには、接着部41が設けられた接着領域と、接着部41が設けられていない非接着領域とが形成されている。
なお、接着部41が設けられた電磁鋼板40の接着領域とは、電磁鋼板40の第1面40aのうち、分断されることなく硬化した接着剤が設けられている領域を意味する。また、接着部41が設けられていない電磁鋼板40の非接着領域とは、電磁鋼板40の第1面40aのうち、分断されることなく硬化した接着剤が設けられていない領域を意味する。
【0035】
また、ステータコア21において、複数の電磁鋼板40のうち、積層方向に沿う外側の他方に位置する電磁鋼板(
図3において、ステータコア21の積層方向の下端部(第2端部)72に位置する電磁鋼板)40(以下では、第2鋼板集合体77とも言う)のティース部23は、積層方向に隣り合うティース部23同士の間に設けられる接着部41により互いに接着されている。
ステータコア21の下端部72に位置する電磁鋼板40のティース部23は、接着のみによって固定されていて、他の手段(例えば、かしめ等)によっては固定されていない。すなわち、ステータコア21の下端部72に位置する電磁鋼板40の表面(第1面)40aには、接着部41が設けられた接着領域と、接着部41が設けられていない非接着領域とが形成されている。
さらに、ステータコア21において、複数の電磁鋼板40のうち、積層方向に沿う中央部73に位置する電磁鋼板(
図3において、ステータコア21の積層方向の中央部73に位置する電磁鋼板)40(以下では、第3鋼板集合体78とも言う)のティース部23は互いに接着されていない。
【0036】
図2に示すように、ステータコア21の上端部71および下端部72に位置する電磁鋼板40(第1鋼板集合体76のティース部23、および第2鋼板集合体77のティース部23)同士は、互いに全面接着されていない。これらの電磁鋼板40同士は、ティース部23において互いに局所的に接着されている。
ここで、積層方向に隣り合う電磁鋼板40同士の間で、分断されることなく硬化した接着剤を、1つの接着部41と言う。
【0037】
本実施形態では、積層方向に隣り合う電磁鋼板40同士は、電磁鋼板40を積層方向から見た平面視において、互いに離れた18か所(18個のティース部23)で接着部41により接着されている。各接着部41は、平面視において帯状に形成され、ティース部23の外形に沿って配置されている。
【0038】
ここで帯状とは、帯の幅が途中で変化する形状も含む。例えば、丸形状の点が分断されることなく一方向に連続する形状も、一方向に延びる帯状に含まれる。
接着部41は、ティース部23の接着される表面(面)23aにおける中央部に配置されている。接着部41は、表面23aにおけるコアバック部22に連なる外周縁まで延びている。
ティース部23を接着部41により接着することで、ティース部23をかしめる場合に比べて、接着面積(接合面積)を容易に確保することができる。
【0039】
ステータコア21の上端部71を構成する電磁鋼板40の枚数は、2枚以上である。ステータコア21の下端部72を構成する電磁鋼板40の枚数は、2枚以上である。ステータコア21の中央部73を構成する電磁鋼板40の枚数は、2枚以上である。
【0040】
ステータコア21の中央部73を構成する電磁鋼板40の枚数は、ステータコア21の上端部71を構成する電磁鋼板40の枚数およびステータコア21の下端部72を構成する電磁鋼板40の枚数よりも多いことが好ましい。
すなわち、ステータコア21の中央部73を構成する電磁鋼板40の枚数は、ステータコア21の上端部71を構成する電磁鋼板40の枚数よりも多いことが好ましい。そして、ステータコア21の中央部73を構成する電磁鋼板40の枚数は、ステータコア21の下端部72を構成する電磁鋼板40の枚数よりも多いことが好ましい。
【0041】
ステータコア21の上端部71を構成する電磁鋼板40の枚数とステータコア21の下端部72を構成する電磁鋼板40の枚数が等しいことが好ましい。
また、ステータコア21が備える複数の電磁鋼板40の全枚数(厚さ)に対する、ステータコア21の積層方向の上端部71に位置する電磁鋼板40の枚数の比は、1%以上10%以下であることが好ましい。この比は、2%以上8%以下であることがより好ましく、5%であることが最も好ましい。ステータコア21の積層方向の下端部72に位置する電磁鋼板40についても、ステータコア21の積層方向の上端部71に位置する電磁鋼板40と同様である。
【0042】
ステータコア21の上端部71および下端部72において、接着部41は、
図4に示すように、電磁鋼板40のティース部23における接着される面(
図2に示す表面23a)の全面に設けられることが好ましい。すなわち、ステータコア21の上端部71および下端部72において、電磁鋼板40のティース部23の表面23aの全面は、接着部41を介して積層されていることが好ましい。
また、
図5に示すように、接着部41は、ティース部23の表面23aの外周縁に設けられることが好ましい。この例では、接着部41は、表面23aの外周縁の一部には設けられていない。この一部は、この外周縁のうち、コアバック部22に連なる部分における、この外周縁が延びる方向の中央部である。
【0043】
接着部41には、例えば、重合結合による熱硬化型の接着剤などが用いられる。接着剤の組成物としては、(1)アクリル系樹脂、(2)エポキシ系樹脂、(3)アクリル系樹脂およびエポキシ系樹脂を含んだ組成物などが適用可能である。
接着剤としては、熱硬化型の接着剤の他、ラジカル重合型の接着剤なども使用可能である。生産性の観点からは、常温硬化型(常温接着タイプ)の接着剤が望ましい。常温硬化型の接着剤は、20℃~30℃で硬化する。なお、本明細書中において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
常温硬化型の接着剤としては、アクリル系接着剤が好ましい。代表的なアクリル系接着剤には、SGA(第二世代アクリル系接着剤。Second Generation Acrylic Adhesive)などがある。本発明の効果を損なわない範囲で、嫌気性接着剤、瞬間接着剤、エラストマー含有アクリル系接着剤がいずれも使用可能である。
なお、ここで言う接着剤は硬化前の状態を言う。接着剤は硬化すると、接着部41となる。
【0044】
接着部41の常温(20℃~30℃)における平均引張弾性率Eは、1500MPa~4500MPaの範囲内とされる。接着部41の平均引張弾性率Eは、1500MPa未満であると、積層コアの剛性が低下する不具合が生じる。そのため、接着部41の平均引張弾性率Eの下限値は、1500MPa、より好ましくは1800MPaとされる。逆に、接着部41の平均引張弾性率Eが4500MPaを超えると、電磁鋼板40の表面に形成された絶縁被膜が剥がれる不具合が生じる。そのため、接着部41の平均引張弾性率Eの上限値は、4500MPa、より好ましくは3650MPaとされる。
【0045】
なお、平均引張弾性率Eは、共振法により測定される。具体的には、JIS R 1602:1995に準拠して引張弾性率を測定する。
より具体的には、まず、測定用のサンプル(不図示)を製作する。このサンプルは、2枚の電磁鋼板40間を、測定対象の接着剤により接着し、硬化させて接着部41を形成することにより、得られる。この硬化は、接着剤が熱硬化型の場合には、実操業上の加熱加圧条件で加熱加圧することで行う。一方、接着剤が常温硬化型の場合には常温下で加圧することで行う。
そして、このサンプルについての引張弾性率を、共振法で測定する。共振法による引張弾性率の測定方法は、上述した通り、JIS R 1602:1995に準拠して行う。その後、サンプルの引張弾性率(測定値)から、電磁鋼板40自体の影響分を計算により除くことで、接着部41単体の引張弾性率が求められる。
このようにしてサンプルから求められた引張弾性率は、積層コアであるステータコア21全体としての平均値に等しくなる。このため、この数値をもって平均引張弾性率Eとみなす。平均引張弾性率Eは、その積層方向に沿った積層位置やステータコア21の中心軸線回りの周方向位置で殆ど変わらないよう、組成が設定されている。そのため、平均引張弾性率Eは、ステータコア21の上端位置にある、硬化後の接着部41を測定した数値をもってその値とすることもできる。
【0046】
熱硬化型の接着剤を用いた接着方法としては、例えば、電磁鋼板40に接着剤を塗布した後、加熱および圧着のいずれかまたは両方により接着する方法が採用できる。なお、加熱手段には、例えば、高温槽や電気炉内での加熱、または直接通電する方法等が用いられる。加熱手段は、どのような手段でも良い。
【0047】
安定して十分な接着強度を得るために、接着部41の厚さは1μm以上とすることが好ましい。
一方で、接着部41の厚さが100μmを超えると接着力が飽和する。また、接着部41が厚くなるに連れて占積率が低下し、積層コアの鉄損などの磁気特性が低下する。したがって、接着部41の厚さは1μm以上100μm以下である。接着部41の厚さは、さらに好ましくは1μm以上10μm以下である。
なお、上記において接着部41の厚さは、接着部41の平均厚みを意味する。
【0048】
接着部41の平均厚みは、1.0μm以上3.0μm以下とすることがより好ましい。接着部41の平均厚みが1.0μm未満であると、前述したように十分な接着力を確保できない。そのため、接着部41の平均厚みの下限値は、1.0μm、より好ましくは1.2μmとされる。逆に、接着部41の平均厚みが3.0μmを超えて厚くなると、熱硬化時の収縮による電磁鋼板40の歪み量が大幅に増えるなどの不具合を生じる。そのため、接着部41の平均厚みの上限値は、3.0μm、より好ましくは2.6μmとされる。
接着部41の平均厚みは、ステータコア21全体としての平均値である。接着部41の平均厚みは、その積層方向に沿った積層位置やステータコア21の中心軸線回りの周方向位置で殆ど変わらない。そのため、接着部41の平均厚みは、ステータコア21の上端位置において、円周方向10箇所以上で測定した数値の平均値をもってその値とすることができる。
【0049】
なお、接着部41の平均厚みは、例えば、接着剤の塗布量を変えて調整することができる。また、接着部41の平均引張弾性率Eは、例えば、熱硬化型の接着剤の場合には、接着時に加える加熱加圧条件および硬化剤種類の一方もしくは両方を変更すること等により調整することができる。
【0050】
ステータコア21の中央部73を構成する複数の電磁鋼板40のティース部23は、互いに接着部41によって固定されていない(接着されていない)。このティース部23は、互いにかしめ(ダボ)によっても固定されていない(かしめられていない)。このティース部23は、互いに溶接によって固定されていない(溶接されていない)。このティース部23は、接着部41、かしめ、溶接等のいかなる固定手段によっても、互いに固定されていない。
また、ステータコア21の中央部73を構成する複数の電磁鋼板40のコアバック部22は、互いに接着部41によって固定されていない(接着されていない)。このコアバック部22は、互いにかしめ(ダボ)によっても固定されていない(かしめられていない)。このコアバック部22は、互いに溶接によって固定されていない(溶接されていない)。このコアバック部22は、接着部41、かしめ、溶接等のいかなる固定手段によっても、互いに固定されていない。
【0051】
ステータコア21の上端部71を構成する電磁鋼板40のティース部23は、積層方向に隣り合うティース部23と、互いにかしめ(ダボ)によって固定されていない(かしめられていない)。このティース部23は、互いに溶接によって固定されていない(溶接されていない)。
ステータコア21の上端部71を構成する電磁鋼板40のコアバック部22は、積層方向に隣り合うコアバック部22同士の間に設けられる接着部41により、積層方向に隣り合うコアバック22部と互いに接着されていてもよい。これらのコアバック部22同士は、互いに接着されていなくてもよい。また、ステータコア21の上端部71を構成する電磁鋼板40のコアバック部22は、積層方向に隣り合うコアバック部22同士の間で、かしめ(ダボ)によって互いに固定されていてもよい。これらのコアバック部22同士は、互いにかしめられていなくてもよい。また、ステータコア21の上端部71を構成する電磁鋼板40のコアバック部22は、積層方向に隣り合うコアバック部22同士の間で、溶接によって互いに固定されていてもよい。これらのコアバック部22同士は、互いに溶接されていなくてもよい。
【0052】
ステータコア21の下端部72を構成する電磁鋼板40のティース部23は、積層方向に隣り合うティース部23と、互いにかしめ(ダボ)によって固定されていない(かしめられていない)。このティース部23は、互いに溶接によって固定されていない(溶接されていない)。
ステータコア21の下端部72を構成する電磁鋼板40のコアバック部22は、積層方向に隣り合うコアバック部22同士の間に設けられる接着部41により互いに接着されていてもよい。これらのコアバック部22同士は、互いに接着されていなくてもよい。また、ステータコア21の下端部72を構成する電磁鋼板40のコアバック部22は、積層方向に隣り合うコアバック部22同士の間で、かしめ(ダボ)によって互いに固定されていてもよい。これらのコアバック部22同士は、互いにかしめられていなくてもよい。また、ステータコア21の下端部72を構成する電磁鋼板40のコアバック部22は、積層方向に隣り合うコアバック部22同士の間で、溶接によって互いに固定されていてもよい。これらのコアバック部22同士は、互いに溶接されていなくてもよい。
【0053】
なお、本実施形態では、ロータコア31を形成する複数の電磁鋼板40は、かしめ42(ダボ)によって互いに固定されている(
図1参照)。しかしながら、ロータコア31を形成する複数の電磁鋼板40が、接着部41を介して積層されていてもよい。
なお、ステータコア21やロータコア31などの積層コアは、いわゆる回し積みにより形成されていてもよい。
【0054】
なお、ステータコア21の積層方向の上端部71および下端部72に位置する電磁鋼板40のティース部23は、積層方向に隣り合うティース部23同士の間に設けられる接着部41により、それぞれが互いに接着されている。このティース部23は接着部41により互いに接着されているため、それぞれが一定の形状に保持される。
一方で、ステータコア21の積層方向の中央部73に位置する電磁鋼板40のティース部23は、一定の形状に保持されたステータコア21の積層方向の上端部71および下端部72に位置する電磁鋼板40に挟まれている。このため、例えばステータコア21の軸線が上下方向に沿うように配置されたときに、ステータコア21の積層方向の中央部73に位置する電磁鋼板40のティース部23は、ステータコア21の積層方向の上端部71位置する電磁鋼板40のティース部23の重量により下方に押し付けられる。従って、ステータコア21の積層方向の中央部73に位置する電磁鋼板40のティース部23は、一定の形状に保持される。
【0055】
以上のように構成されたステータコア21は、以下のように製造される。
ティース部23に接着剤を塗布した電磁鋼板40を所定の枚数積層して、ステータコア21の積層方向の上端部71に位置する電磁鋼板40を構成する。同様に、ティース部23に接着剤を塗布した電磁鋼板40を所定の枚数積層して、ステータコア21の積層方向の下端部72に位置する電磁鋼板40を構成する。常温硬化型の接着剤を用いた場合には、接着剤は常温で硬化して接着部41となる。
接着剤を塗布しない電磁鋼板40を所定の枚数積層して、ステータコア21の積層方向の中央部73に位置する電磁鋼板40を構成する。
ステータコア21の積層方向の中央部73に位置する電磁鋼板40を、ステータコア21の積層方向の上端部71および下端部72に位置する電磁鋼板40で積層方向に挟む。
以上の工程で、ステータコア21が製造される。
【0056】
製造したステータコア21は、例えば図示しない治具によりコアバック部22を積層方向の両側から挟んで、ステータコア21の形状をより確実に保持しておくことが好ましい。
治具で形状を保持したステータコア21のティース部23に、前記巻き線を巻き回すと、ステータ20が製造される。ステータ20から治具を取外しても、巻き線によりステータコア21の形状がより確実に保持される。
【0057】
上記回転電機10は、例えば、各相に実効値10A、周波数100Hzの励磁電流を印加することにより、回転数1000rpmで回転することができる。
【0058】
一般的に、接着剤は硬化時に収縮する。そのため、接着剤の硬化に伴い電磁鋼板40に圧縮応力が付与される。圧縮応力が付与されると、電磁鋼板40に歪が生じる。歪が生じるとステータコア21の鉄損が大きくなる。この場合、ステータコア21としての磁気特性が低下するおそれがある。
【0059】
以上説明した本実施形態の係るステータコア21によれば、複数の電磁鋼板40のうち、積層方向に沿う中央部73(第3鋼板集合体78)に位置する電磁鋼板40のティース部23は互いに接着されていない。そのため、積層方向に沿う中央部73に位置する電磁鋼板40のティース部23において、歪が生じるのを抑えることができる。よって、積層方向に沿う中央部を含む、全ての電磁鋼板のティース部が接着されている場合に比べて、ステータコア21の磁気特性を向上させることができる。
一方で、ステータコア21の上端部71(第1鋼板集合体76)および下端部72(第2鋼板集合体77)にて、複数の電磁鋼板40のティース部23のみが互いに接着されている。そのため、例えばステータコアの積層方向に沿う外側の一方および他方を含む、全ての電磁鋼板のティース部が互いに接着されていない場合に比べて、ステータコア21の上端部71、下端部72を構成する電磁鋼板40のティース部23の浮き上がり(反り)を抑制することができる。従って、ステータコア21の磁気特性を向上させることができる。
【0060】
また、複数の電磁鋼板40のうち、ステータコア21の上端部71および下端部72に位置する電磁鋼板40のティース部23は、それぞれ互いに接着される。一方で、複数の電磁鋼板40のうち、積層方向に沿う中央部73に位置する電磁鋼板40のティース部23は互いに接着されていない。これにより、ステータコア21は積層方向に沿う中央部73に位置する電磁鋼板40で積層方向に分離可能であるため、ステータコア21は一体の構造物とはならない。
一般的に、一体の構造物では、共振周波数が一定の値に決まる。一方で、一体にはならない構造物では、共振周波数が一定の値に決まらず、構造物が共振し難くなる。従って、本実施形態のステータコア21は、共振抑制効果を発揮することができる。
【0061】
本実施形態に係るステータコア21(積層コア)において、ステータコア21の中央部73を構成する電磁鋼板40の枚数が、ステータコア21の上端部71を構成する電磁鋼板40の枚数よりも多い。さらに、ステータコア21の中央部73を構成する電磁鋼板40の枚数が、ステータコア21の下端部72を構成する電磁鋼板40の枚数よりも多い。
一般的に、接着剤により互いに接着されていないティース部には、接着剤の収縮による歪が生じない。一方で、接着剤により互いに接着されているティース部には、接着剤の収縮による歪が生じる。本実施形態に係るステータコア21では、歪が生じないティース部23の枚数が、積層方向に沿う上端部71および下端部72に位置して歪が生じるティース部23の枚数よりもそれぞれ多くなる。従って、ステータコア21全体に生じる歪を小さくすることができる。
【0062】
本実施形態に係るステータコア21(積層コア)において、ステータコア21の上端部71を構成する電磁鋼板40の枚数とステータコア21の下端部72を構成する電磁鋼板40の枚数が等しい。従って、ステータコア21の上端部71と下端部72の厚さが、等しくなる。さらに、ステータコア21の上端部71と下端部72に生じる歪量も、等しくなる。これにより、ステータコア21全体に生じる歪の偏りを抑制することができる。
【0063】
ステータコア21が備える複数の電磁鋼板40の全枚数に対する、ステータコア21の積層方向の上端部71に位置する電磁鋼板40の枚数の比は、1%以上10%以下である。この比が1%未満であると、ステータコア21の積層方向の上端部71のティース部23を互いに接着する接着部41の接着力が低下する。このため、ステータコア21全体としての形状を保持し難くなる。一方で、この比が10%を超えると、積層方向の上端部71のティース部23を互いに接着する接着部41の接着力が飽和する。この比を1%以上10%以下にすることで、ティース部23の接着に用いる接着部41の量を抑えつつ、ステータコア21全体としての形状を保持することができる。この比は、2%以上8%以下であることがより好ましい。
【0064】
本実施形態に係るステータコア21(積層コア)において、ステータコア21の上端部71および下端部72において、接着部41を、電磁鋼板40のティース部23における接着される面(表面23a)の全面に設ける。これにより、接着部41によってティース部23に生じる歪の偏りを抑制することができる。従って、ステータコア21全体に生じる歪の偏りを抑制することができる。
本実施形態に係るステータコア21(積層コア)において、ステータコア21の上端部71および下端部72において、接着部41を、電磁鋼板40のティース部23の表面23aの外周縁に設ける。従って、互いに接着される積層方向に隣り合うティース部23の外周縁同士が離間するのを抑えることができる。
【0065】
一般的に、ティース部、コアバック部を互いにかしめたり、互いに溶接したりすると、ティース部、コアバック部に層間短絡が生じる。
本実施形態に係るステータコア21(積層コア)において、ステータコア21の中央部73に位置する電磁鋼板40のティース部23は、互いにかしめられていなく、かつ互いに溶接されていない。そして、ステータコア21の中央部73に位置する電磁鋼板40のコアバック部22は、互いに接着されていなく、かつ互いにかしめられていなく、かつ互いに溶接されていない。
ティース部23およびコアバック部22が互いにかしめられていなく、かつ互いに溶接されていないため、積層方向に沿う中央部73に位置する電磁鋼板40のティース部23およびコアバック部22に生じる層間短絡を抑えることができる。
さらに、コアバック部22が互いに接着されていないため、積層方向に沿う中央部73に位置する電磁鋼板40のコアバック部22に生じる歪を小さくすることができる。
【0066】
本実施形態に係るステータコア21(積層コア)において、ステータコア21の上端部71にて、電磁鋼板40のティース部23は、互いにかしめられていなく、かつ互いに溶接されていない。そして、ステータコア21の上端部71にて、電磁鋼板40のコアバック部22は、互いに接着されていなく、かつ互いにかしめられていなく、かつ互いに溶接されていない場合がある。
この場合には、ティース部23およびコアバック部22が互いにかしめられていなく、かつ互いに溶接されていないため、ステータコア21の上端部71にて、ティース部23およびコアバック部22に生じる層間短絡を抑えることができる。
さらに、コアバック部22が互いに接着されていないため、ステータコア21の上端部71にて、コアバック部22に生じる歪を小さくすることができる。
【0067】
本実施形態に係る回転電機10は、本実施形態に係るステータコア21を備えるため、回転電機10の磁気特性を向上することができる。
【0068】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、ステータコアの形状は、前記実施形態で示した形態に限定されるものではない。具体的には、ステータコアの外径および内径の寸法、積厚、スロット数、ティース部の周方向と径方向の寸法比率、ティース部とコアバック部との径方向の寸法比率などは、所望の回転電機の特性に応じて任意に設計可能である。
【0069】
前記実施形態におけるロータでは、2つ1組の永久磁石32が1つの磁極を形成しているが、本発明はこれに限られない。例えば、1つの永久磁石32が1つの磁極を形成していてもよく、3つ以上の永久磁石32が1つの磁極を形成していてもよい。
ステータコア21の積層方向の中央部73に位置する電磁鋼板40のティース部23は、積層方向に隣り合うティース部23と互いにかしめられていてもよい。このティース部23は、積層方向に隣り合うティース部23と互いに溶接されていてもよい。
ステータコア21の積層方向の中央部73に位置する電磁鋼板40のコアバック部22は、積層方向に隣り合うコアバック部22と互いに接着されていてもよい。このコアバック部22は、積層方向に隣り合うコアバック部22と互いにかしめられていてもよい。このコアバック部22は、積層方向に隣り合うコアバック部22と互いに溶接されていてもよい。
【0070】
ステータコア21の積層方向の上端部71に位置する電磁鋼板40のティース部23は、積層方向に隣り合うティース部23と互いにかしめられていてもよい。このティース部23は、積層方向に隣り合うティース部23と互いに溶接されていてもよい。
ステータコア21の積層方向の下端部72に位置する電磁鋼板40のティース部23は、積層方向に隣り合うティース部23と互いにかしめられていてもよい。このティース部23は、積層方向に隣り合うティース部23と互いに溶接されていてもよい。
【0071】
前記実施形態では、回転電機として、永久磁石界磁型電動機を一例に挙げて説明したが、回転電機の構造は、以下に例示するようにこれに限られない。回転電機の構造は、更には以下に例示しない種々の公知の構造も採用可能である。
前記実施形態では、同期電動機として、永久磁石界磁型電動機を一例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限られない。例えば、回転電機がリラクタンス型電動機や電磁石界磁型電動機(巻線界磁型電動機)であってもよい。
前記実施形態では、交流電動機として、同期電動機を一例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限られない。例えば、回転電機が誘導電動機であってもよい。
前記実施形態では、電動機として、交流電動機を一例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限られない。例えば、回転電機が直流電動機であってもよい。
前記実施形態では、回転電機として、電動機を一例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限られない。例えば、回転電機が発電機であってもよい。
【0072】
前記実施形態では、本発明に係る積層コアをステータコアに適用した場合を例示した。本発明に係る積層コアは、ロータコアに適用することも可能である。
【0073】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、磁気特性を向上させた積層コア、およびこの積層コアを備えた回転電機を提供できる。よって、産業上の利用可能性は大である。
【符号の説明】
【0075】
10 回転電機
20 ステータ
21 ステータコア(積層コア)
22 コアバック部
23 ティース部
23a 表面(面)
30 ロータ
31 ロータコア(積層コア)
32 永久磁石
33 貫通孔
40 電磁鋼板
41 接着部
50 ケース
60 回転軸