(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】弁構造
(51)【国際特許分類】
F16K 47/02 20060101AFI20230712BHJP
F16K 15/06 20060101ALI20230712BHJP
F16K 17/04 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
F16K47/02 B
F16K15/06
F16K17/04 C
(21)【出願番号】P 2021101035
(22)【出願日】2021-06-17
【審査請求日】2022-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000151346
【氏名又は名称】株式会社タツノ
(74)【代理人】
【識別番号】110000431
【氏名又は名称】弁理士法人高橋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大森 賢登
(72)【発明者】
【氏名】鶫 雄太
(72)【発明者】
【氏名】奥村 達也
(72)【発明者】
【氏名】大内 敏彦
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-189163(JP,A)
【文献】特開2008-196599(JP,A)
【文献】特開2011-149502(JP,A)
【文献】特開2013-231507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 47/02
F16K 17/04
F16K 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧流体の流入口としての開口部を有する弁座と、
前記弁座側に弾性体によって付勢され、前記開口部から流入する流体の圧力に対応して弁座に着座し或いは弁座から離隔する弁体と、
当該弁体の弁軸が収容される軸受部を含み、
当該軸受部に抵抗付与部が設けられ
、
弁軸外周面及び/又は軸受部内周面に溝を設けたことを特徴とする弁構造。
【請求項2】
前記溝は複数形成されている請求項
1の弁構造。
【請求項3】
複数の前記溝は軸受部の中心軸に対して対称な位置に設けられている請求項
2の弁構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路を閉鎖し、開放する弁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
弁構造、例えば逆止弁は、流路に設けられて流路上流側から流路下流側に向かう流体の流れ(順方向の流れ)においては開放して流体が通過することを許容するが、下流側から上流側に向かう流体の流れは許容せずに閉鎖して流体の通過を遮断する。ここで逆止弁は、例えば弾性手段等により弁体を付勢することにより、流体の圧力に対応して弁座と弁体との距離が変化する様に構成されている。
従来技術に係る逆止弁では、上流側と下流側の圧力差と弁体に作用する付勢力とが概略均衡した状態になると、弁体は付勢力が作用する方向への移動と、その反対方向への移動を頻繁に繰り返し、弁体と弁座が離隔した状態と弁体が弁座に着座した状態とが頻繁に繰り返される(いわゆる「チャタリング」を生じる)ことがある。
チャタリングを生じた場合には、流体の流量制御が不安定となり、振動により騒音が発生し、或いは、弁体に当接するOリングや弁座に着座する弁体が損傷するという問題が発生する。チャタリング及びそれに関連する問題は、逆止弁以外の弁構造においても存在する。
【0003】
この様な問題に対して、弁体の開閉に際して抵抗を付与するための抵抗部を設ける技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
係る従来技術(特許文献1)においては、抵抗部(摺動抵抗付与部材52)は、管路の損傷を防止するため一般的に樹脂材料が用いられる。しかし、樹脂材料に対して微細な加工公差で製造することは困難である。例えば、当該抵抗部が本来の寸法よりも小さく加工されてしまった場合には、所定の摺動抵抗を付与することは出来ず、チャタリングの発生を防止することが出来ない。
また、例えば水素充填装置の流路において逆止弁が使用された場合には、-40℃に冷却された水素ガスより、線形膨張係数が大きい樹脂材料は収縮してしまうので、小さく加工された場合と同様に、所定の抵抗を付与することが出来なくなる。そして、摺動抵抗の細かい調整が困難になってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、材料の特性に影響されることなく、弁体の開閉に必要な抵抗を与えることが出来る弁構造の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の弁構造(100)は、
高圧流体の流入口としての開口部(1A)を有する弁座(1)と、
前記弁座(1)側に弾性体(4:例えばスプリング)によって付勢され、前記開口部(1A)から流入する流体の圧力に対応して弁座(1)に着座し或いは弁座から離隔する(前記開口部1Aを開閉する)弁体(2)と、
当該弁体(2)の弁軸(2A)が収容される軸受部(3)を含み、
当該軸受部(3)に抵抗付与部(5)が設けられ、
弁軸(2A)外周面及び/又は軸受部(3)内周面に溝(15、16)を設けたことを特徴としている。
【0008】
本発明において、溝(15、16)は複数形成することが好ましい。そして、複数の前記溝(15、16)は軸受部(3)の中心軸に対して対称(点対称)な位置に設けることが好ましい。
【0009】
本発明の実施に際して、軸受部(3)の下流側(二次側:底部3A)にはスペーサー(9)が設けられており、スペーサー(9)の内側には流路を構成する空間(10)が形成されているのが好ましい。
【0010】
本発明の弁構造(100)は、例えば逆止弁、リリーフ弁に適用可能である。
【発明の効果】
【0011】
上述の構成を具備する本発明によれば、弁体(2)の弁軸(2A)が収容される軸受部(3)に抵抗付与部(5)が設けられているため、閉弁時に一次側の圧力と二次側の圧力が概略等しい圧力均衡時であっても、弁体(2)が弁座(1)に着座する動き或いは弁体(2)が弁座(1)から離隔する動きは、抵抗付与部(5)によって速度が緩やかになる。そのため、弁体(2)が急激に弁座(1)に座着し、弁座から離隔するのを繰り返す動きは抑制されるので、チャタリングが抑制され、その結果、高速充填が可能となる。
また、抵抗付与部(5)は弁体(2)が動く速度を緩やかにするものであり、弁体(2)を停止する訳ではないため、圧力均衡時であっても弁体(2)は弁座(1)へ確実に着座して弁を閉鎖し、或いは、弁体(2)は弁座(1)からの確実に離隔して弁を開放するので、弁の開閉動作は正確且つ確実に行われる。
さらに、作動流体(例えば水素ガス)供給系の逆止弁等に用いられた場合において、作動流体の供給時(水素ガスの充填時)に作動流体充填装置側(上流側:一次側)と作動流体供給側(下流側:二次側)との差圧が大きくても、開弁時には、弁体(2)が弁座(1)から離隔する動きは抵抗付与部(5)によって速度が緩やかになり、急激な開弁により弁体(2)が損傷することが防止される。
【0012】
本発明において、弁構造(100)が作動流体の充填機械に用いられ、抵抗付与部(5)が弁体(2)を弁座(1)の方向に付勢している弾性体(4:例えばスプリング)を含んでいれば、当該弾性体(4)により弁体(2)は弁座(1)の方向へ付勢されるので、作動流体の充填終了時は弾性体(4)により弁体(2)を弁座(1)に着座する弁閉動作が確実に行われる。すなわち、作動流体の充填終了時は弾性体(4)の付勢力により弁体(2)が弁座(1)方向に押圧されるので、弾性体(4)による付勢力及び作動流体の流体圧により、弁体(2)が弁座(1)に着座して弁構造(100)が確実に閉鎖し、本発明の弁構造(100)において作動流体が逆流してしまうことが防止される。
【0013】
本発明において、抵抗付与部(5)には孔(6、7、8:貫通孔)が形成されており、当該孔(6、7、8)を介して作動流体が抵抗付与部(5)に流入或いは流出する様に構成されていれば、抵抗付与部(5)は弾性体(4:例えばスプリング)と流体抵抗を利用したダンパーとして減衰効果を発揮する。
作動流体が水素ガスである場合、水素ガスの充填時には、高圧の水素ガスが孔(6、7、8)を介して抵抗付与部(5)に流入して、減衰力が発生するので、チャタリングを起こすことなく、弁体(2)を安定して弁座(1)に着座させて開弁することができる。
また、弁軸(2A)外周面及び/又は軸受部(3)内周面に溝(15、16)を形成すれば、当該溝(15、16)を介して作動流体が抵抗付与部(5)に流入或いは流出する。
ここで、孔(6、7、8)の断面積或いは溝(15、16)の開口面積を調整して、作動流体の流量を調整することにより、ダンパーとして減衰力その他の効果を制御することができる。
【0014】
溝(15、16)を介して作動流体を抵抗付与部(5)に流入或いは流出する場合において、溝(15、16)は複数形成し、そして、複数の前記溝(15、16)は軸受部(3)の中心軸に対して対称(点対称)な位置に設ければ、弁体(2)の弁棒(2A)に対して作動流体の圧力が均等に作用する。そのため、弁棒(2A)が傾き或いは偏寄してしまうことが防止され、弁体(2)は円滑に移動して開閉動作を行うことが出来る。
【0015】
本発明の実施に際して、軸受部(3)の下流側(二次側:底部3A)にはスペーサー(9)が設けられており、スペーサー(9)の内側には流路を構成する空間(10)が形成されていれば、作動流体が高圧であり軸受部(3)が二次側(下流側)に強く押圧されたとしても、スペーサー(9)の内側の空間(10)により、作動流体の流路が確保される。そのため、作動流体が高圧流体(例えば高圧の水素ガス)であっても、水素ガス充填の流路を確保することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1実施形態を示す縦断面図である。
【
図2】本発明の第2実施形態を示す縦断面図である。
【
図3】第2実施形態の変形例を示す縦断面図である。
【
図4】本発明の第3実施形態を示す縦断面図である。
【
図5】第3実施形態の変形例を示す縦断面図である。
【
図6】本発明の第4実施形態を示す縦断面図である。
【
図8】第4実施形態の変形例を示す縦断面図である。
【
図9】本発明の第5実施形態を示す縦断面図である。
【
図11】第5実施形態の変形例を示す縦断面図である。
【
図12】本発明の第6実施形態を示す縦断面図である。
【
図14】第6実施形態の変形例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。図示の実施形態では、作動流体が水素ガスであり、水素充填装置の流路に介装された逆止弁に本発明を適用した場合を例示している。
最初に
図1を参照して、本発明の第1実施形態を説明する。
第1実施形態に係る弁構造100は、弁座1、弁体2、軸受部3、弾性体4、抵抗付与部5を有しており、軸受部3には弁体2の弁軸2Aが収容されており、抵抗付与部5は軸受部3に設けられている。
図1の右側(図示しない水素充填装置側)には、高圧流体(図示の実施形態では高圧の水素ガス)の流入口である開口部1Aが形成されており、弁座1は開口部1A近傍の領域を含み、弁座1と弁体2により開閉弁が構成されている。弁体2は軸方向(
図1で左右方向)に移動可能である。そして弁座1には、高圧流体(高圧水素ガス)の漏洩を防止するため、Oリング13が配置されている。
弁体2は、弾性体4によって弁座1側(
図1では右側)に付勢されている。そして、弾性体4の付勢力と開口部1Aから流入する高圧流体(水素ガス)の圧力に対応して、弁体2は弁座1に着座し、或いは、弁座1から離隔し、以て、開口部1Aを開閉する。ここで、弾性体4は、その弾性反発力が、充填時における水素充填装置側(上流側:一次側)と図示しない車両の水素貯蔵タンク側(下流側:二次側)との差圧による力よりも弱く、充填終了時における上流側と下流側の差圧による力よりも強くなる様に設定されている。
弁体2には弁軸2Aが一体的に形成されており、弁体1と同一の中心軸を有し且つ弁体2より小径の弁軸2Aは、弁体2よりも下流側(
図1で左側)の部分に延在している。ただし、弁軸2Aは弁体2と別体に構成することも可能である。
【0018】
図1において、軸受部3はその内部に空間を設けた中空構造となっている。当該内部空間には弁軸2Aが、軸方向(
図1の左右方向)に摺動自在に収容されている。ここで空間14は軸受部3の内部空間の一部或いは全部であり、弾性体4が収容される空間であって、弁体2の移動すなわち弾性体4の伸縮によりその容積が変化する。弁軸2Aの外周面と軸受部3の中空空間の内周面は、いわゆる「緩み嵌め」の嵌合状態である。図示の実施形態では軸受部3はケーシング11に固定されている。
軸受部3の内部空間において、当該空間に収容される弁軸2Aに隣接して、弁座1から離隔する側(
図1で左側)に弾性体4が配置されており、弾性体4は弁体2を弁座1側に付勢している。
軸受部3には、抵抗付与部5が設けられている。図示の実施形態において、抵抗付与部5は、弾性体4が収容される空間14(軸受部3の内部空間の一部)、空間14に連通する貫通孔6、空間14内部の水素ガスを含んでいる。ここで、貫通孔6は水素ガスを導入し、排出するために設けられている。なお、貫通孔6を形成している軸受部3についても、抵抗付与部5を構成する構成要素に含むことが出来る。
また、弾性体4は軸受部3の外周に設けても良い。
後述するが、
図4(第3実施形態)で貫通孔8が形成される弁軸2A、
図6~
図14(第4~第6実施形態)で溝15、16が形成される軸受部3、弁軸2についても、抵抗付与部5の構成要素とすることが出来る。
【0019】
軸受部3の長手方向(中心線方向)において、弁軸2Aが挿入されているのとは反対側(下流側:
図1では左側)の端部は、軸受部3の底部3Aを構成している。底部3Aの中心には貫通孔6が形成され、貫通孔6は、軸受部3の外部であって水素ガスの流路の一部を構成する空間10と空間14を連通している。
軸受部3の底部3Aにおいて、貫通孔6が形成されている領域の半径方向外側の領域には、円周方向に等間隔に複数の貫通孔3Bが形成されており、貫通孔3Bは水素ガスの流路の一部を構成している。
さらに軸受部3において、底部3Aの下流側(
図1で左側)にはスペーサー9が延在しており、スペーサー9は軸受部3と一体的に形成されており、スペーサー9の内側には上述した空間10が形成されている。
弁構造100の下流側(
図1で左側)端部は板状の底部12が設けられ、板状底部12の中心には水素ガスの流出口12Aが形成されている。
【0020】
上述した様に、図示の実施形態に係る弁構造100は、水素充填流路に介装された逆止弁について適用されている。すなわち、
図1において、弁構造100の流入口1A(開口部)は図示しない水素充填装置側(上流側:一次側)と接続され、流出口12Aは図示しない車両の水素貯蔵タンク側(下流側:二次側)と接続されている。
充填時には、水素充填装置側(上流側)から供給される高圧流体(水素ガス)の圧力と水素貯蔵タンク側(下流側)の圧力との差圧が大きく、その圧力差により、スプリング4(弾性体)の付勢力に抗して、弁体2は弁座から離隔する方向(
図1の左側)に移動し、弁座1から弁体2が離隔して開閉弁は開放される。そして、高圧流体は流入口1Aから弁構造100に流入し(矢印A1)、弁構造100内を流過し(矢印A2)、空間10(流路)、流出口12Aを介して車両の水素貯蔵タンク側(下流側)に流出される(矢印A3)。
一方、充填終了時(或いは非充填時)には、充填時とは異なり上流側と下流側の圧力差は小さいので、弾性体4の付勢力が圧力差より大きいため、弾性体4の付勢力により弁体2が弁座1方向に移動し、弾性体4による付勢力により、弁体2が弁座1に着座し、開閉弁は閉弁する。
【0021】
図1で示す第1実施形態において、抵抗付与部5を構成する空間14(弾性体4が収容される空間)には貫通孔6を介して水素ガスが流入し、或いは流出する。すなわち、弁構造100の一次側(上流側)の圧力と二次側(下流側)の圧力との圧力差に対応して、空間10における水素ガスが、貫通孔6を介して抵抗付与部5の空間14内に流入し、或いは、抵抗付与部5の空間14内の水素ガスが、貫通孔6を介して空間10に流出する。
弁体2が弁座1に座着する際(閉弁時)には、空間14に流体が流入しないと弾性体4が充分伸長せず、弁体2が弁座1に座着する抵抗となる。一方、弁体2が弁座1から離隔する際(開弁時)には、空間14から流体が流出しないと弾性体4が充分収縮せず、弁体2が弁座1から離隔する抵抗となる。換言すると、貫通孔6を介して水素ガスが流れる際の抵抗(流体抵抗)により、弁体2が弁座1に着座する動き或いは弁体2が弁座1から離隔する動きに抵抗が生じ、当該動きの速度は緩やかになり、弁閉或いは弁開の感度が鈍くなる。弁閉或いは弁開の感度が鈍くなる結果、水素充填終了時の弁閉の際に、水素充填装置側(上流側:一次側)と図示しない車両の水素貯蔵タンク側(下流側:二次側)との差圧が小さくなり上流側と下流側の圧力が均衡しても、弁体2が弁座1に対して急激に座着と離隔を繰り返す動きは抑制される。そして、チャタリングによる問題(流量制御の不安定、振動による騒音、弁体および弁体に当接するOリングの損傷)は生じない。
また、抵抗付与部5は弁体2が動く速度を緩やかにするが、弁体2の開弁或いは閉弁を停止させる訳ではないため、圧力均衡時であっても、弁体2の弁座1への着座(弁閉鎖)と弁体2の弁座1からの離隔(弁開放)は確実に行われる。
【0022】
図1の第1実施形態では、弁体2を弁座1の方向に付勢するスプリング4を(空間14内に)含んでおり、充填終了時は水素充填装置側(上流側:一次側)と図示しない車両の水素貯蔵タンク側(下流側:二次側)との圧力差は小さくなっているので、弾性体4の付勢力は上流側と下流側との差圧よりも大きくなる。そのため、弾性体4の付勢力により、弁体2は弁座1方向に移動し、弁体2の閉動作が確実に行われる。そのため、水素ガスが弁構造100において逆流してしまうことが防止される。
【0023】
また、抵抗付与部5において、空間14には貫通孔6を介して水素ガスが流入或いは流出しており、その際の流体抵抗により、抵抗付与部5は弾性体4と流体抵抗を利用したダンパーとして減衰効果を発揮する。すなわち、水素ガスの充填時には、高圧の水素ガスが貫通孔6を介して空間14に流入する際の流体抵抗による減衰力が発生するので、上流側と下流側との圧力が均衡してもチャタリングを起こすことなく、弁体2を安定して弁座1に座着して閉弁することができる。
一方、水素充填の最初の段階における開弁時には、貫通孔6を介して空間14から水素ガスが流出する際の流体抵抗により、弁体2が弁座1から離隔する動きに対して減衰力が発生するので、弁体2及び弁棒2Aが弁座1から急激に離隔してしまうことは無い。そのため、弁体2及び弁棒2Aが軸受部3に衝突して、損傷することは防止される。
ここで、貫通孔6の断面積を調整して、水素ガスの流量を調整することにより、貫通孔6における流体抵抗を調整し、ダンパーとしての減衰力を制御することができる。
【0024】
図1の第1実施形態において、軸受部3において二次側(下流側)の底部3Aにはスペーサー9が設けられており、スペーサー9の内側には流路を構成する空間10が形成されている。
そのため、高圧の水素ガスにより軸受部3が二次側(下流側)に圧力を負荷されても、スペーサー9の内側の空間10により水素ガス充填の流路(空間10)を確保することが出来る。
【0025】
次に
図2を参照して、本発明の第2実施形態を説明する。
第2実施形態~第6実施形態において、
図1の第1実施形態と同様な部材については、同様な符号を付して説明する。
上述した様に、
図1の第1実施形態では軸受部3の内部に形成された抵抗付与部5の空間14に水素ガスを供給/排出する流路は、軸受部3の弁体2の反対側(下流側:
図1では左側)の底部3Aに穿孔された貫通孔6である。
それに対して、
図2の第2実施形態の弁構造100-1では、抵抗付与部5-1の空間14に水素ガスを供給/排出する流路は、軸受部3の側壁部に穿孔された貫通孔7である。すなわち、貫通孔7により空間14と軸受部3の外部の空間が連通している。
図示はされていないが、第2実施形態における貫通孔7は複数本穿孔される場合もあり、軸受部3の周囲方向(円周方向)について、軸受部3の長手方向中心(図示せず)に対して点対称に配置されている。そのため、貫通孔7は、軸受部3の周囲方向において等間隔に配置されている。
複数の貫通孔7を上述のように配置することにより、抵抗付与部5-1の空間14に流入する水素ガス或いは抵抗付与部5-1の空間14から排出される水素ガスによる圧力が、軸受部3の周囲方向について均等となり、弁軸2Aが軸受部3の長手方向中心(図示せず)に対して偏寄して摺動することが防止される。
図2の第2実施形態におけるその他の構成及び作用効果は、
図1の第1実施形態と同様である。
【0026】
第2実施形態の変形例について、
図3を参照して説明する。
図3の変形例の弁構造100-2では、抵抗付与部5-2の空間14に水素ガスを供給/排出する流路として、
図2の第2実施形態における軸受部3の側壁部に穿孔された貫通孔7に加えて、
図1の第1実施形態と同様に軸受部3の底部3Aに貫通孔6が穿孔されている。
図3の第2実施形態の変形例におけるその他の構成及び作用効果は、
図2の第2実施形態と同様である。
【0027】
図4を参照して、本発明の第3実施形態を説明する。
第3実施形態の弁構造100-3では、抵抗付与部5-3の空間14に水素ガスを供給/排出する流路は、弁体2内に穿孔された貫通孔8である。
貫通孔8は、弁軸2Aの中心軸方向に延在する弁軸側貫通孔8Aと弁軸の中心軸と垂直方向に弁体2の外側面まで延在する弁体側貫通孔8Bを有し、弁軸側貫通孔8Aと弁体側貫通孔8Bは連通している。貫通孔8により空間14と弁体2の側壁部外部の流路空間は連通する。貫通孔8は、弁体2が弁座1に着座する領域、或いは、一次側(上流側)に連通する領域(弁体2の上流側先端の領域)に連通しない様に形成されている。弁体2が弁座1に着座する領域に貫通孔が連通すると、弁体2が弁座1に着座している場合には水素ガスが貫通孔に流入することが出来なくなる。また、一次側(上流側)に連通する領域に貫通孔が連通すると、抵抗付与部5-3の圧力が一次側圧力と等しくなるため、逆止弁として機能しなくなる恐れがある。
図4では貫通孔8は一つのみ示されているが、貫通孔8を複数形成する場合もあり、弁体側貫通孔8Bが弁体3の周方向に等間隔に配置されることが好ましい。弁体2及び弁体2Aが軸受部3の中心軸(図示せず)に対して傾斜することなく摺動する様にするためである。
図4の第3実施形態におけるその他の構成及び作用効果は、
図1、
図2の第1及び第2実施形態と同様である。
【0028】
第3実施形態の変形例について、
図5を参照して説明する。
図5の変形例の弁構造100-4では、抵抗付与部5-4の空間14に水素ガスを供給/排出する流路として、
図4の第3実施形態における弁体2及び弁軸2Aの内部に穿孔された貫通孔8(8A、8B)に加えて、
図1の第1実施形態と同様に軸受部3の底部3Aに貫通孔6が穿孔されている。
図5の第3実施形態の変形例におけるその他の構成及び作用効果は、
図4の第3実施形態と同様である。
図示はされていないが、
図5の第3実施形態の変形例に、
図2の第2実施形態における軸受部3の側壁部に形成された貫通孔7を追加すること、すなわち、第1~第3実施形態を組み合わせることが可能である。
【0029】
図6、
図7を参照して、本発明の第4実施形態を説明する。
図6に示す弁構造100-5では、抵抗付与部5-5の空間14に水素ガスを供給/排出する流路として、軸受部3及び/又は弁体2には貫通孔を形成されていないが、軸受部3の側壁部の内周面に溝15が形成されている。溝15については、
図7でも示されている。
図6では、溝15は弁軸2Aに対して上下方向の2箇所に表示されている。
図7では、溝15は弁軸2Aに対して左右方向の2箇所に表示されている。
溝15は、軸受部3の側壁部の上流側(
図6で右側)端部から空間14の下流側(
図6で左側)端部近傍まで、軸受部3の長手方向(中心軸方向)に沿って形成されている。そして、溝15により空間14と軸受部3の上流側端部近傍の空間が連通している。
上流側の水素ガスは、溝15を介して抵抗付与部5-5における空間14に流入し、或いは、空間14から排出される。
図6、
図7で示す様に、溝15は複数本(
図6、
図7の例では2本)形成される場合もあり、軸受部3の中心軸(図示せず)に対して点対称に配置されている。その結果、複数の溝15は、軸受部3内周の周囲方向に等間隔に形成されている。
複数の貫通孔15を上述のように配置することにより、抵抗付与部5-5の空間14に流入する水素ガス或いは空間14から排出される水素ガスによる圧力が、軸受部3内周の周囲方向について均等に作用し、弁軸2Aが軸受部3の長手方向中心(中心軸:図示せず)に平行に摺動する。
溝15の本数は2本には限定されない。空間14の水素ガスの圧力が弁軸2Aの周囲方向について均等に作用するのであれば、溝15の本数については限定はない。
図6、
図7の第4実施形態におけるその他の構成及び作用効果は、
図1~
図5の実施形態と同様である。
【0030】
第4実施形態の変形例について、
図8を参照して説明する。
図8の変形例の弁構造100-6では、抵抗付与部5-6の空間14に水素ガスを供給/排出する流路として、
図6、
図7で示す軸受部3の側壁部の内周面の溝15に加えて、
図1と同様に、軸受部3の底部3Aに貫通孔6が穿孔されている。
図8の変形例におけるその他の構成及び作用効果は、
図6、
図7の第4実施形態と同様である。
【0031】
図9、
図10を参照して、本発明の第5実施形態を説明する。
図6、
図7の第4実施形態では、軸受部3の側壁部の内周面の溝15を介して、抵抗付与部5-5の空間14に水素ガスが供給或いは排出される。
それに対して、
図9、
図10の第5実施形態の弁構造100-7では、弁軸2Aの外周面に形成された溝16を介して、抵抗付与部5-7の空間14に水素ガスが供給され、排出される。
図9では溝16は、弁軸2Aにおいて上下方向の2箇所に表示されている。
図10では溝16は、弁軸2Aにおいて左右方向の2箇所に表示されている。
溝16は、弁軸2Aの軸方向に沿って全長に亘って形成される。溝16により空間14と弁軸2Aの上流側(
図9の右側)端部近傍の空間は連通する。
図9、
図10においても、溝16は複数本(
図9、
図10の例では2本)形成されており、軸受部3の長手方向中心(中心軸:図示せず)に対して点対称に配置されている。その結果、複数の溝16は、軸受部3内周の周囲方向に等間隔に形成されている。溝16をこの様に配置することにより、弁棒2Aが軸受部3の長手方向中心(中心軸:図示せず)と平行に摺動する。
複数の溝16の本数は図示の2本に限定されない。空間14の水素ガスの圧力が弁軸2Aの周囲方向について均等に作用するのであれば、溝16の本数について限定はない。
図9、
図10の第5実施形態におけるその他の構成及び作用効果は、
図1~
図8の実施形態と同様である。
【0032】
第5実施形態の変形例について、
図11を参照して説明する。
図11の変形例の弁構造100-8では、抵抗付与部5-8の空間14に水素ガスを供給/排出する流路として、
図9、
図10で示す弁軸2Aの外周面に形成された溝16に加えて、
図1と同様に軸受部3の底部3Aに貫通孔6が穿孔されている。
図11の変形例におけるその他の構成及び作用効果は、
図9、
図10の第5実施形態と同様である。
【0033】
図12、
図13を参照して、本発明の第6実施形態を説明する。
図12、
図13の第6実施形態は、
図6、
図7の第4実施形態と、
図9、
図10の第5実施形態を組み合わせた態様の実施形態である。
図12、
図13の弁構造100-9において、抵抗付与部5-9の空間14に水素ガスが供給或いは排出する流路は、軸受部3の側壁部の内周面に形成された溝15と、弁軸2Aの外周面に形成された溝16であり、軸受部3の側壁部の内周面に形成された溝15と弁軸2Aの外周面に形成された溝16の数は等しい。また、軸受部3の側壁部の内周面に形成された溝15と弁軸2Aの外周面に形成された溝16は、軸受部3(及び弁軸2A)の円周方向において同一の位置に、同一の幅寸法で形成されるのが好ましい。更に回転止めを設ければ常に同位置に保持することができる。
図12では溝15、16はそれぞれ弁軸2Aに対して上下方向の2箇所に位置しており、弁軸2Aにおいて上下方向の2箇所に位置している。
図13では溝15、16はそれぞれ弁軸2Aに対して左右方向の2箇所に位置している。
溝15と溝16で構成される流路により、空間14と軸受部3の上流側(
図12で右側)の端部近傍の空間は連通する。
軸受部3の側壁部の内周面に形成された溝15と弁軸2Aの外周面に形成された溝16は、軸受部3の長手方向中心(図示せず)に対して点対称に配置されており、軸受部3内周の周囲方向に等間隔に形成されている。そのため、弁軸2Aが軸受部3の長手方向中心(中心軸:図示せず)に対して偏寄して摺動することが防止される。
図12、
図13の第6実施形態におけるその他の構成及び作用効果は、
図1~
図11の実施形態と同様である。
【0034】
第6実施形態の変形例について、
図14を参照して説明する。
図14の変形例の弁構造100-10では、抵抗付与部5-10の空間14に水素ガスを供給/排出する流路として、
図12、
図13で示す軸受部3の側壁部の内周面に形成された溝15及び弁軸2Aの外周面に形成された溝16に加えて、
図1と同様に軸受部3の底部3Aに貫通孔6が穿孔されている。
図14の変形例におけるその他の構成及び作用効果は、
図12、
図13の第6実施形態と同様である。
明確には図示されていないが、第1実施形態及びその変形例~第6実施形態及びその変形例を適宜組み合わせて、抵抗付与部5の空間14に水素ガスを供給・排出する流路を構成することが出来る。
また、第1実施形態~第6実施形態における貫通孔6~8、溝15、16の断面積を適宜調整し水素ガスの流量を調整することにより、抵抗付与部5によるチャタリング抑制の効果を制御することが出来る。
【0035】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
例えば、図示の実施形態は逆止弁について説明しているが、リリーフ弁についても本発明を適用可能である。
【符号の説明】
【0036】
1・・・弁座
1A・・・開口部
2・・・弁体
2A・・・弁軸
3・・・軸受部
4・・・弾性体(スプリング)
5~5-10・・・抵抗付与部
6、7、8・・・貫通孔
9・・・はスペーサー
10、14・・・空間
15、16・・・溝
100~100-10・・・弁構造