(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】水性エマルション耐油コート剤、紙の製造方法及び水性エマルション耐油コート剤を含む塗工層を有する紙
(51)【国際特許分類】
C09D 191/00 20060101AFI20230712BHJP
C09D 191/06 20060101ALI20230712BHJP
C09D 129/04 20060101ALI20230712BHJP
C09D 189/00 20060101ALI20230712BHJP
D21H 19/18 20060101ALI20230712BHJP
D21H 19/20 20060101ALI20230712BHJP
D21H 21/14 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
C09D191/00
C09D191/06
C09D129/04
C09D189/00
D21H19/18
D21H19/20
D21H21/14
(21)【出願番号】P 2023524214
(86)(22)【出願日】2023-01-24
(86)【国際出願番号】 JP2023002084
【審査請求日】2023-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2022020598
(32)【優先日】2022-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000109635
【氏名又は名称】星光PMC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100164828
【氏名又は名称】蔦 康宏
(72)【発明者】
【氏名】三谷 義之
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-1864(JP,A)
【文献】国際公開第2020/216719(WO,A1)
【文献】特表2006-521448(JP,A)
【文献】特表2021-535235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D101/00-201/10
D21H17/00-70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化ひまし油及び/又はライスワックスである成分(a)、ポリビニルアルコール及び/又はカゼインである成分(b)、及び水を含有する水性エマルション耐油コート剤。
【請求項2】
成分(a)と成分(b)の比率が質量比で成分(a)/成分(b)=100/1~20の比率で含むことを特徴とする請求項1記載の水性エマルション耐油コート剤。
【請求項3】
成分(a)が硬化ひまし油であることを特徴とする請求項1記載の水性エマルション耐油コート剤。
【請求項4】
成分(b)がカゼインであることを特徴とする請求項1記載の水性エマルション耐油コート剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の水性エマルション耐油コート剤を塗工することを特徴とする、紙の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の水性エマルション耐油コート剤を含む塗工層を有する紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物由来成分を主たる成分として使用することでカーボンニュートラル性を高めた、水性エマルション耐油コート剤、及びこれを用いた紙に関する。
【背景技術】
【0002】
食品などの包装材料には、紙あるいは板紙が幅広く用いられており、特に油や油脂成分が多く含まれる食品には油が包装用紙に浸透しないように耐油性を有する紙や板紙が使用されている。従来、紙に耐油性を付与する手段としてフッ素樹脂系の耐油剤が使用されているが、フッ素樹脂系の耐油剤は100℃以上に加熱されると、難分解性のフッ素系炭化水素を発生するなど、健康又は環境に悪影響を及ぼすことが懸念される。このため、フッ素樹脂系耐油剤に代わる技術が開発されている。フッ素樹脂系耐油剤を用いない技術として、疎水化された澱粉の塗膜を含む紙製品(特許文献1)やスチレンーアクリル系樹脂とポリビニルアルコール系樹脂を耐油層に有する耐油紙(特許文献2)が知られているが、いずれも塗工層被膜形成機能によって耐油性を確保しようとするものであるため、通気性と耐油性の両方が求められる用途には適さなかった。通気性と耐油性の両方を高めるために、疎水基を有する澱粉とワックスを含有する高い通気性と耐油性を両立させる耐油紙(特許文献3)が開示されているが、通気性は満足されるレベルではなかった。また近年、循環型社会の構築を求める声の高まりとともに、化石燃料からの脱却が望まれており、カーボンニュートラル性に優れたいわゆる生物由来成分が注目を集めている。しかし、生物由来の原料を用い、かつ高い通気性と耐油性の要求を満たすことは難しく、これらの要求を満たす耐油剤が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-069889号公報
【文献】特開2021-080591号公報
【文献】特開2013-237941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記事情に鑑み、本発明は、生物由来成分を主たる成分として使用することによりカーボンニュートラル性に優れる、高い通気性、耐油性を有する耐油紙を得ることができる水性エマルション耐油コート剤、水性エマルション耐油コート剤を塗工した紙の製造方法、及び水性エマルション耐油コート剤を含む塗工層を有する紙を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、
<1>硬化ひまし油及び/又はライスワックスである成分(a)、ポリビニルアルコール及び/又はカゼインである成分(b)、及び水を含有する水性エマルション耐油コート剤、
<2>成分(a)と成分(b)の比率が質量比で成分(a)/成分(b)=100/1~20の比率で含むことを特徴とする<1>記載の水性エマルション耐油コート剤、
<3>成分(a)が硬化ひまし油であることを特徴とする<1>記載の水性エマルション耐油コート剤、
<4>成分(b)がカゼインであることを特徴とする<1>記載の水性エマルション耐油コート剤、
<5><1>~<4>のいずれか1項に記載の、水性エマルション耐油コート剤を塗工することを特徴とする、紙の製造方法、
<6><1>~<4>のいずれか1項に記載の、水性エマルション耐油コート剤を含む塗工層を有する紙、
である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高い通気性、耐油性を有し、かつ生物由来成分である硬化ひまし油及び/又はライスワックスを主体とするためにカーボンニュートラル性が高く、環境負荷の低い耐油コート剤を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態を具体的に説明する。なお、本実施形態は本発明を実施するための一形態であり、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。本明細書において、部や%を使用するがこれらは質量基準である。また、「~」を用いて表される数値範囲はその前後に記載される数値を含む。
【0008】
本発明の耐油コート剤は、硬化ひまし油及び/又はライスワックスである成分(a)、ポリビニルアルコール及び/又はカゼインである成分(b)、及び水を含有する。
【0009】
<硬化ひまし油及び/又はライスワックスである成分(a)>
成分(a)は耐油性付与のために使用され、硬化ひまし油あるいはライスワックス、又はその両方からなる。成分(a)は硬化ひまし油であることが好ましい。
【0010】
成分(a)に含まれる硬化ひまし油はひまし油の水素添加物であり、水添ひまし油とも呼ばれるものである。ひまし油はヒマ(トウゴマ)の種子から抽出される植物油の一種で、不飽和脂肪酸であるリシノール酸のグリセリドを主成分とし、その他にオレイン酸、リノール酸と少量の飽和脂肪酸のグリセリドを成分として有する。
【0011】
成分(a)に含まれるライスワックスは、米のぬか油から抽出した天然の蝋である。ライスブランワックス、米ぬか蝋とも呼ばれるものである。ライスワックスの主成分は、高級脂肪酸と高級アルコールのエステルであり、その他に遊離高級脂肪酸、高級アルコールと少量の炭化水素を含んでいる。
【0012】
<ポリビニルアルコール及び/又はカゼインである成分(b)>
成分(b)は成分(a)の乳化やエマルションの分散安定性向上効果のため使用され、紙へ塗工後の通気性への悪影響を少なくする観点、乾燥後の塗膜の耐油性の観点から、ポリビニルアルコール又はカゼインより選ばれる少なくとも一つからなる必要がある。その中でも、カーボンニュートラル性の観点からカゼインが最も好ましい。
【0013】
成分(b)で使用されるポリビニルアルコールは鹸化度が70モル%から99モル%であることが好ましく、さらには80モル%から90モル%であることが好ましい。
【0014】
本発明の耐油コート剤に含まれる成分(a)と成分(b)の割合は、重量比で、成分(a)/成分(b)=100/1~20の比率であることが好ましい。成分(b)の割合が1以下では成分(a)の乳化安定性が不十分となる場合があり、20以上では、塗工液の粘度が高くなりすぎて塗工適性に支障が出る場合がある。
【0015】
<その他のワックス>
本発明の耐油コート剤には、成分(a)以外のワックス類をその通気性、耐油性を悪化させない範囲で併用することができる。
【0016】
成分(a)以外のワックス類としては、ハゼロウ、ウルシロウ、カルナウバロウ、又はカンデリラロウ等の、ライスワックス以外の植物系ワックス、ミツロウ、セラックロウ、又はラノリン等の動物系ワックス、大豆油、ナタネ油、パーム油、ヤシ油、米油等の、ひまし油以外の植物油を硬化(水素添加)した植物系硬化油、牛脂や豚脂を硬化(水素添加)した動物系硬化油、モンタンワックス又はオゾケライト等の鉱物系ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、ポリエチレンワックス、脂肪酸エステル系ワックス、又は脂肪酸アミド等の合成系ワックスが挙げられる。これらの中の1種あるいは複数を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、カーボンニュートラル性の観点から生物由来である植物系ワックス又は動物系ワックスを併用することが好ましい。
【0017】
<その他の乳化分散剤>
本発明の耐油コート剤には、成分(b)の他にその他のノニオン性、アニオン性、カチオン性、両性の乳化分散剤を併用することもできる。その他のノニオン性、アニオン性、カチオン性、両性の乳化分散剤は、成分(a)の総質量部100に対して、0~10質量部の範囲内が、その効果や安定性を悪化させない上で好ましい。
【0018】
ノニオン性乳化分散剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類、プロピレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタンエステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン硬化ひまし油類、アルキルイミダゾリン類等が挙げられる。アニオン性乳化分散剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸アンモニウム又はジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、スチレン無水マレイン酸系共重合体、αオレフィン無水マレイン酸共重合体、ジイソブチレン無水マレイン酸共重合体、イソブチレン無水マレイン酸共重合体、スチレン―アクリル系高分子乳化分散剤、アクリル系高分子乳化分散剤等のアニオン性合成系乳化分散剤、サーファクチン、ソホロリピッド、セラック、ロジン、ステアリン酸やパルミチン酸などの高級脂肪酸及びその塩等のアニオン性天然系乳化分散剤、カルボキシメチルセルロース、オクテニル無水コハク酸変性澱粉、酸化澱粉、ヒドロキシプロピルキサンタンガム、ロート油等のアニオン性変性天然乳化分散剤が挙げられる。カチオン性乳化分散剤としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルアンモニウムクロライド、ベンジルアンモニウムクロライドなどのカチオン性界面活性剤、キトサンの塩、或いは澱粉、セルロース、ポリビニルアルコールのカチオン変性物を挙げることができる。両性乳化分散剤としては、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、又はアルキルアミノジ酢酸モノナトリウム等の両性合成系低分子乳化分散剤、レシチン(水添物、水酸化物を含む)等の両性天然系低分子乳化分散剤が挙げられる。これらの中の1種あるいは複数を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、ロート油、パルミチン酸が好ましい。
【0019】
<その他の添加剤>
本発明の耐油コート剤には、上記成分(a)、成分(b)以外に、その通気性、耐油性を悪化させない範囲で、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、レベリング剤、染料、表面張力調整剤、滑剤、ブロッキング防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の塗料に一般的に使用される各種添加剤を添加することができる。
【0020】
<乳化方法>
本発明の耐油コート剤のエマルションを形成させる方法としては、特に制限はなく、従来周知の方法を適用できる。例えば、成分(b)の水溶液に成分(a)を添加し、高温下で撹拌する方法、溶剤に成分(a)を溶かし、成分(b)及び水を添加して高圧乳化を行い、溶剤を留去する溶剤法、溶融させた成分(a)に成分(b)の水溶液を滴下し、油中水滴型から水中油滴型にする転相乳化法、高温加圧下で混合後、高圧乳化を行う高圧乳化法、超音波乳化法等の公知の方法が使用でき、この中でも高圧乳化法でエマルションを形成することが好ましい。成分(b)の添加のタイミングには特に制限はなく、成分(a)を乳化する工程までに全量を添加してもよく、成分(a)の乳化後に一部を分割して添加してもよい。
【0021】
本発明の耐油コート剤の固形分は好ましくは10%以上55%以下、さらに好ましくは15%以上50%以下である。固形分が55%を超える場合は経時的に増粘しやすく、貯蔵中に液面の固形分濃度が高まることで凝集物が生じやすく(皮張りしやすく)なり、10%未満の場合は有効成分が少なくなるため経済的ではない。
【0022】
なお本発明における固形分とは、水性エマルション耐油コート剤を150℃20分加熱乾燥した後の残存質量の加熱前の質量に対する百分率とする。
【0023】
本発明の水性エマルション耐油コート剤の代表的な利用形態としては、紙への塗工が挙げられる。
<紙>
本利用形態に用いられる紙は、紙及び/又は板紙を意味し、生分解性を有するパルプを主成分とした一般的な紙や板紙であれば特に制限なく使用することができる。具体的には、上質紙、純白ロール紙、未晒又は晒クラフト紙、グラシン紙、コート紙、ライナー原紙、紙管原紙、白ボール、チップボール等が例示できる。
【0024】
<本発明の耐油コート剤を塗工することを特徴とする、紙の製造方法>
本発明の耐油コート剤の紙への塗工方法は、公知の手法であれば制限なく用いることができる。例えば、バーコート、ブレードコート、ダイコート、カーテンコート、エアナイフコート、スプレーコート、グラビアコート、フレキソコート、サイズプレスコート等が挙げられる。
また、本発明の耐油コート剤は、一層塗工にも多層塗工にも適用でき、さらに片面塗工、両面塗工のいずれにも適用可能である。本発明の耐油コート剤の塗工量は特に制限はないが、耐油性、コストの観点から1~10g/m2であることが好ましい。
【0025】
本発明の耐油コート剤は、塗工層へのヒートシール性の付与のため各種ヒートシール剤と併用することもできる。ヒートシール剤としては例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、塩化酢酸ビニル系樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。
本発明の耐油コート剤とヒートシール剤は混合して塗工することもでき、また、本発明の耐油コート剤とヒートシール剤を別々に多層塗工することもできる。この場合、本発明の耐油コート剤とヒートシール剤との塗工順序はどちらを先行させても差し支えがない。さらには、本発明の耐油層を塗工した紙の塗工面と反対側の面にヒートシール剤を塗工することもできる。
【0026】
紙と本発明の耐油コート剤を含む塗工層の間には、吸液コントロールのための塗工層や、紙表面の凹凸を埋めて平滑にするための塗工層等を設けても良い。
【0027】
ウエット塗膜の乾燥方法は、公知の手法であれば制限なく用いることができる。例えば、シリンダー加熱、蒸気加熱、熱風加熱、赤外線加熱、高周波加熱等が挙げられる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
(カゼインの溶解例)
加熱装置、撹拌装置、冷却管、温度計を具備した四つ口セパラブルフラスコに、カゼイン(富士フイルム和光純薬(株)製)200部、28%アンモニア水15部、水785部を投入して、撹拌下85℃まで昇温し、温度を保持したまま20分間かけて溶解することで濃度20%のカゼイン溶液を得た(カゼイン液)。
【0030】
<水性エマルション耐油コート剤の調製>
(耐油コート剤1)
加熱装置、攪拌装置、冷却管、温度計を具備した四つ口セパラブルフラスコに、水262部とポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、製品名:5-88)14部を仕込み、攪拌下90℃まで昇温し、温度を保持したまま60分間攪拌し、ポリビニルアルコールを溶解させた。続いて硬化ひまし油(伊藤製油株式会社製、製品名:ヒマシ硬化油A)200部を投入した後、攪拌下95℃まで昇温し、温度を保持したまま10分間攪拌し乳化液を作成した。次に、この乳化液をマントンゴーリン乳化機で高圧乳化処理(乳化圧200kgf/cm2)を行い、均一な乳化液とした後、攪拌下水237部と混合後、温度40℃以下まで冷却し、固形分30%の耐油コート剤1を得た。
【0031】
(耐油コート剤2~4、8~9、11~14)
成分(a)及び成分(b)の種類、重量比、固形分を表1に記載の様に変えた以外は耐油コート剤1の場合と同様にして、耐油コート剤2~4、8~9、11~14を得た。
【0032】
(耐油コート剤5)
加熱装置、攪拌装置、冷却管、温度計を具備した四つ口セパラブルフラスコに、水270部と濃度20%のカゼイン溶液(カゼイン液)30部、及びポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、製品名:5-88)6部を仕込み、攪拌下90℃まで昇温し、温度を保持したまま60分間攪拌し、ポリビニルアルコールを溶解させた。続いて硬化ひまし油(伊藤製油株式会社製、製品名:ヒマシ硬化油A)200部を投入した後、攪拌下95℃まで昇温し、温度を保持したまま10分間攪拌し乳化液を作成した。次に、この乳化液をマントンゴーリン乳化機で高圧乳化処理(乳化圧200kgf/cm2)を行い、均一な乳化液とした後、攪拌下水201部を投入した。温度40℃以下まで冷却し、固形分30%の耐油コート剤5を得た。
【0033】
(耐油コート剤6~7、10)
成分(a)及び成分(b)の種類、重量比を表1に記載の様に変えた以外は耐油コート剤5の場合と同様にして、耐油コート剤6~7、10を得た。
【0034】
(耐油コート剤15)
成分(a)及び成分(b)の種類、重量比を表1に記載の様に変えた以外は耐油コート剤1の場合と同様にして、耐油コート剤15の調整を試みたが、乳化性が悪く安定な乳化液を得ることは困難であった。
【0035】
(耐油コート剤16)
加熱装置、攪拌装置、冷却管、温度計を具備した四つ口セパラブルフラスコに、水270部とポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、製品名:5-88)6部を仕込み、攪拌下90℃まで昇温し、温度を保持したまま60分間攪拌し、ポリビニルアルコールを溶解させた。続いて硬化ひまし油(伊藤製油株式会社製、製品名:ヒマシ硬化油A)200部を投入した後、攪拌下95℃まで昇温し、温度を保持したまま10分間攪拌し乳化液を作成した。次に、この乳化液をマントンゴーリン乳化機で高圧乳化処理(乳化圧200kgf/cm2)を行い、均一な乳化液とした後、攪拌下水201部と濃度20%のカゼイン溶液(カゼイン液)30部の混合液に投入した。温度40℃以下まで冷却し、固形分30%の耐油コート剤16を得た。
【0036】
(耐油コート剤17)
90℃で30分糊化処理を行った市販の酸化コーン澱粉(日本食品化工株式会社製、製品名:MS#3800 )(固形分10%)100gと耐油コート剤13、17.8gを混合し、固形分13%の耐油コート剤17を得た。
【0037】
【表1】
PVA:ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、製品名5-88)
酸化澱粉:酸化コーン澱粉(日本食品化工株式会社製、製品名:MS#3800)
CMC:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(株式会社ダイセル製、製品名CMCダイセル1110)
ライスワックス:ボーソー油脂株式会社製、製品名ライスワックスSS-2
パラフィンワックス:日本精蝋株式会社製、製品名Paraffin Wax-135
ロート油:竹本油脂株式会社製、製品名ロート油K
パルミチン酸:純正化学株式会社製、製品名パルミチン酸
カルナバワックス:山桂産業株式会社製、製品名カルナバ蝋(1号)
【0038】
<耐油コート剤の塗工>
耐油コート剤塗工条件、及び、各評価項目における、測定方法又は評価方法は以下の方法に従った。
(塗工原紙)
片艶晒クラフト紙: 坪量50g/m2
(塗工)
各耐油コート剤付着量が固形分で7g/m2になるよう、原紙にバーコーター(バーNo.14)を用いて非艶面に塗工し、温風乾燥機を用いて110℃で0.5分間乾燥した。その後、23℃、50%RHにおいて24時間調湿を行ったのち、耐油性の指標としてKit値、及び通気性の指標として透気度を測定した。
(Kit値):JAPAN TAPPI No41に準拠し評価を行った。数値が大きい程、耐油性が良好であることを示す。幅広い用途での使用を想定した場合の実用面からKit値は5以上が望まれる。
(透気度)MESSMER社製PPS(パーカープリントサーフ)を使用して測定した。数値が小さい程、通気性が良好であることを示す。通気性が要求される用途での使用を想定した場合、透気度は250秒以下であるのが実用的である。
【0039】
(実施例1)
片艶晒クラフト紙に対して耐油コート剤1を前記条件により塗工、乾燥し耐油コート剤塗工紙を得た。調湿後、Kit値、透気度を測定した。この結果を表2に示す。
【0040】
(実施例2~11、比較例3~4)
表2のように耐油コート剤を変えた以外は実施例1と同様にして、耐油コート剤塗工紙を得た。さらに、実施例1と同様にして、Kit値、透気度を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0041】
(比較例1,2)
表2のように耐油コート剤を変え、さらに塗工時のバーコーターのバーNo.を14から18に変えた以外は実施例1と同様にして、耐油コート剤塗工紙を得た。さらに、実施例1と同様にして、Kit値、透気度を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0042】
(比較例5)
耐油コート剤の塗工液を調製することができなかったため、塗工評価は行わなかった。
【0043】
(比較例6)
表2のように耐油コート剤を変え、さらに塗工時のバーコーターのバーNo.を14から32に変えた以外は実施例1と同様にして、耐油コート剤塗工紙を得た。さらに、実施例1と同様にして、Kit値、透気度を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0044】
【0045】
本発明の条件を満足する実施例1~11と、本発明の条件を満たさない比較例1~5を比較すると、実施例1~11で使用した水性エマルション耐油コート剤を塗工した場合に紙の耐油度が優れ、紙の通気性も高いことが分かる。また成分(a)にあたる成分が生物由来成分を用いた実施例1、3、8は、化石燃料由来成分からなるパラフィンワックスを用いた比較例3,4と比べて、カーボンニュートラル性を有した材料においても優れた耐油性を示していることが分かる。
【0046】
特開2013-237941号公報記載の実施例1を参考として配合したパラフィンワックスと澱粉の混合液を塗工した比較例6は、本発明の実施例1~10に対比して通気性が大きく劣ることがわかる。
【要約】
【課題】本発明は、生物由来成分を主たる成分として使用することにより、通気性、耐油性、カーボンニュートラル性に優れる、水性エマルション耐油コート剤を提供することを課題とする。
【解決手段】水性エマルション耐油コート剤中に、硬化ひまし油及び/又はライスワックスである成分(a)、ポリビニルアルコール及び/又はカゼインである成分(b)及び水を含む水性エマルション耐油コート剤、前記水性エマルション耐油コート剤を塗工することを特徴とする紙の製造方法、及び前記水性エマルション耐油コート剤を含む塗工層を有する紙。