(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】組成物、硬化膜および積層体
(51)【国際特許分類】
C08L 101/14 20060101AFI20230712BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20230712BHJP
C08K 5/47 20060101ALI20230712BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20230712BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230712BHJP
C09K 9/02 20060101ALI20230712BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20230712BHJP
C09D 129/04 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
C08L101/14
C08L29/04 A
C08K5/47
B32B27/20 A
B32B27/30 102
C09K9/02 Z
C09K11/06
C09D129/04
(21)【出願番号】P 2019038281
(22)【出願日】2019-03-04
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】古田 達郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 傑
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-057191(JP,A)
【文献】特開2016-210753(JP,A)
【文献】特開2020-143174(JP,A)
【文献】特開2020-143176(JP,A)
【文献】特開2022-064222(JP,A)
【文献】Suguru Ito et al.,Indolylbenzothiadiazoles with varying substituents on the indolering : a systematic study on the self-recovering mechanochromic luminescence,RSC Advances,2017年,Issue 28,pages 16953-16962,https://doi.org/10.1039/c7ra01006k
【文献】Suguru Ito et al.,N-Boc-Indolylbenzothiadiazole Derivatives: Efficient Full-Color Solid-StateFluorescence and Self-Recovering Mechanochromic Luminescence,Chemistry-An AsianJournal,2016年,Volume11, Issue13,pages 1963-1970,https://doi.org/10.1002/asia.201600526
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
B32B 27/00- 27/42
C09D 129/00-129/14
C09K 9/00- 11/89
CAPlus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される少なくとも1種のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体と、少なくとも1種の水系樹脂と、溶媒とを含有する組成物であり、前記溶媒として少なくとも水を含有し、
前記溶媒に占める前記水の配合率が30質量%以上であり、前記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の前記組成物中における溶解度が4.00×10
-2g/L超
4.53g/L未満である組成物。
【化1】
一般式(1)中、
R
1は、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、アルキルスルホニル基又はアリールスルホニル基を表し、
R
2及びR
3は、それぞれ、互いに独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基を表し、 R
4及びR
5は、それぞれ、互いに独立して置換基を表し、
sは、0~4の整数を表し、
tは、0~2の整数を表す。
【請求項2】
前記溶解度が1.00×10
-1g/L以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の含有率が、前記水系樹脂の全質量を基準として0.1質量%以上である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記水系樹脂として、ポリビニルアルコールを少なくとも含有する、請求項1~3の何れか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記溶媒として親水性有機溶媒を更に含有する、請求項1~4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記溶媒に占める前記水の配合率が、30質量%以上100質量%以下である、請求項1~
4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項7】
一般式(1)中、R
1は、ピバロイル基、ベンゾイル基、トシル基、または下記一般式(2)で表される基の何れかである、請求項1~6の何れか1項に記載の組成物。
【化2】
一般式(2)中、
R
6は、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基又はベンジル基を表し、
*は、一般式(1)中のインドール環に含まれる窒素原子との結合部位を表す。
【請求項8】
前記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体は下記一般式(3)で表される、請求項1~7の何れか1項に記載の組成物。
【化3】
一般式(3)中、
R
2aは、水素原子、メチル基、ホルミル基またはシアノ基を表し、
R
3は、一般式(1)中のR
3と同義である。
【請求項9】
一般式(3)中、R
3はアルキル基を表し、R
2aは水素原子を表す、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体は下記一般式(4)で表される、請求項1~7の何れか1項に記載の組成物。
【化4】
一般式(4)中、
R
6aは、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基、またはベンジル基を表し、
R
3は、一般式(1)中のR
3と同義である。
【請求項11】
前記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体は下記一般式(5)で表される、請求項1~7の何れか1項に記載の組成物。
【化5】
一般式(5)中、
R
1aは、ピバロイル基、ベンゾイル基、またはトシル基を表し、
R
3は、一般式(1)中のR
3と同義である。
【請求項12】
R
3は、メチル基、エチル基またはイソプロピル基である、請求項1~11の何れか1項に記載の組成物。
【請求項13】
塗料として用いられる請求項1~12の何れか1項に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1~13の何れか1項に記載の組成物の硬化膜。
【請求項15】
機械的刺激により発光の極大波長が5nm以上変化する、請求項14に記載の組成物の硬化膜。
【請求項16】
機械的刺激により変化した発光色が室温での放置により元の発光色に戻るまでの時間が1時間未満である、請求項14又は15に記載の硬化膜。
【請求項17】
基材と、前記基材上に請求項14~16のいずれか1項に記載の硬化膜とを備えた積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカノクロミック発光性色素を使用した組成物、硬化膜および積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
固体発光性の有機分子が「引っ張る」、「こする」等の機械的刺激により発光色(蛍光色)を変化させ、その後元の発光色に戻る現象は蛍光メカノクロミズムなどと呼ばれ、この特性を有する有機分子は、メカノクロミック発光性色素、メカノクロミック発光性有機分子などと呼ばれる。次世代機能性材料として注目され、近年徐々に報告例を増やしている(例えば、特許文献1~3、非特許文献1~3などを参照。)。
【0003】
従来のメカノクロミック発光性色素は、通常、元の発光色に戻すために加熱や溶媒蒸気に曝す必要があり、不便であるだけでなく、用途開発の弊害となっている。また、メカノクロミック発光性色素では、表示することのできる発光色(蛍光色)が限られており、例えば、特許文献1の材料では青色から緑色あるいは黄色への発光色変化、特許文献2の材料では青色あるいは緑色からの発光色変化に限られている。また、メカノクロミック発光性色素は従来、多くの工程を経て合成されており、その点でも不便である。さらに、固体状態で高効率発光(高蛍光量子収率)を示すメカノクロミック発光性色素は限られている。
【0004】
これに対し、機械的刺激により変化した発光色が自発的に、換言すると室温に放置するだけで元の発光色に戻る「自己回復性」を有するメカノクロミック発光性色素が開発され注目を集めている。例えば、特許文献3及び非特許文献3には、そのような特性を有するインドリルベンゾチアジアゾール誘導体が開示されている。これらに開示されたインドリルベンゾチアジアゾール誘導体は、「自己回復性」を有することに加え、発光色がバラエティに富み、簡便に合成でき、且つ、固体状態で高い蛍光量子収率を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5697030号公報
【文献】特許第5856965号公報
【文献】特開2017-57191号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Zhenguo Chi、Xiqi Zhang、Bingjia Xu、Xie Zhou、Chunping Ma、Yi Zhang、Siwei Liu、Jiarui Xu、「Recent advances in organic mechanofluorochromic materials」、Chemical Society Reviews、2012、41、3878-3896
【文献】Mizuho Kondo、Seiya Miura、Kentaro Okumoto、Mayuko Hashimoto、Nobuhiro Kawatsuki、「Mechanochromic Luminescence Characteristics of Pyridine‐Terminated Chromophores in the Solid State and in a Poly(vinyl alcohol) Matrix」、Chemistry An Asian Journal、2014、9、3188-3195
【文献】Suguru Ito、Tomohiro Taguchi、Takeshi Yamada、Takashi Ubukata、Yoshitaka Yamaguchi、Masatoshi Asami、「Indolylbenzothiadiazoles with varying substituents on the indole ring: a systematic study on the self-recovering mechanochromic luminescence」、RSC Advances、2017、7、16953-16962
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自己回復性を有するメカノクロミック発光性色素としてのインドリルベンゾチアジアゾール誘導体が開示された特許文献3では、基本骨格であるインドリルベンゾチアジアゾール環に対する置換基の相違により、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体が青色から橙色までと幅広い発光色を示すことや、機械的刺激により変化した発光色の自己回復時間が異なることが報告されている(特許文献3、特に[実施例]を参照)。
【0008】
一方、自己回復性を有する上記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体については、例えば塗料などの組成物や、当該組成物の硬化膜に応用した例は報告されていない。すなわち、バラエティに富む発光色の実現が可能で、且つ自己回復性を有するメカノクロミック発光性材料としての組成物や硬化膜は実現されていない。
【0009】
更に、そのような組成物又は硬化膜において、元の発光色に自己回復するのに要する時間を制御することが可能となり、例えば発光色の自己回復時間が1時間未満の組成物や硬化膜の提供が可能になった場合、新たな機能性材料や用途の開発が更に促進されることが期待される。
【0010】
本発明は、バラエティに富む発光色の実現が可能で、且つ、機械的刺激により変化した発光色が元の発光色に自己回復するのに要する時間を制御することが可能なメカノクロミック発光性材料としての組成物、硬化膜及び積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施形態に係る発明(以下において、「本実施形態」という。)は、以下の通りである。
すなわち、本発明の一側面によると、下記一般式(1)で表される少なくとも1種のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体と、少なくとも1種の水系樹脂と、少なくとも1種の溶媒とを含有する組成物であり、上記溶媒として少なくとも水を含有し、上記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の上記組成物中における溶解度が4.00×10
-2g/L超である組成物が提供される。
【化1】
【0012】
一般式(1)中、
R1は、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、アルキルスルホニル基又はアリールスルホニル基を表し、
R2及びR3は、それぞれ、互いに独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基を表し、
R4及びR5は、それぞれ、互いに独立して置換基を表し、
sは、0~4の整数を表し、
tは、0~2の整数を表す。
【0013】
本実施形態において、上記溶解度は1.00×10-1g/L以上であってよい。
【0014】
本実施形態において、上記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の含有率は、上記水系樹脂の全質量を基準として0.1質量%以上であってよい。
【0015】
本実施形態に係る組成物は、上記水系樹脂として、ポリビニルアルコールを少なくとも含有してよい。
【0016】
本実施形態において、上記ポリビニルアルコールのケン化度は80%以下であってよい。
【0017】
本実施形態に係る組成物は、上記溶媒として親水性有機溶媒を更に含有してよい。
【0018】
本実施形態において、上記溶媒に占める上記水の配合率は、30質量%以上100質量%以下であってよい。
【0019】
本実施形態において、一般式(1)中、R
1は、ピバロイル基、ベンゾイル基、トシル基、または下記一般式(2)で表される基の何れかであってよい。
【化2】
【0020】
一般式(2)中、
R6は、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基又はベンジル基を表し、
*は、一般式(1)中のインドール環に含まれる窒素原子との結合部位を表す。
【0021】
本実施形態において、上記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体は下記一般式(3)で表される化合物であってよい。
【化3】
【0022】
一般式(3)中、
R2aは、水素原子、メチル基、ホルミル基またはシアノ基を表し、
R3は、一般式(1)中のR3と同義である。
【0023】
本実施形態において、一般式(3)中、R3はアルキル基であり、R2aは水素原子であってよい。
【0024】
本実施形態において、上記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体は下記一般式(4)で表される化合物であってよい。
【化4】
【0025】
一般式(4)中、
R6aは、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基、またはベンジル基を表し、
R3は、一般式(1)中のR3と同義である。
【0026】
本実施形態において、上記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体は下記一般式(5)で表される化合物であってよい。
【化5】
一般式(5)中、
R
1aは、ピバロイル基、ベンゾイル基、またはトシル基を表し、
R
3は、一般式(1)中のR
3と同義である。
【0027】
本実施形態において、上記一般式中のR3は、メチル基、エチル基またはイソプロピル基であってよい。
【0028】
本実施形態に係る組成物は、塗料として用いることができる。
【0029】
また、本発明の他の側面によると、上述した本実施形態に係る組成物の硬化膜が提供される。
【0030】
本実施形態に係る硬化膜において、機械的刺激により発光色が変化するとき、発光の極大波長は、一形態において5nm以上変化する。
【0031】
本実施形態に係る硬化膜において、機械的刺激により発光色が変化するとき、変化した発光色が室温での放置により元の発光色に戻るまでの時間は、一形態において1時間未満である。
【0032】
また、本発明の他の側面によると、基材と、上記基材上に上述した本実施形態に係る硬化膜とを備えた積層体が提供される。
【発明の効果】
【0033】
本発明によると、バラエティに富む発光色の実現が可能で、且つ、機械的刺激により変化した発光色が元の発光色に自己回復するのに要する時間を制御することが可能なメカノクロミック発光性材料としての組成物、硬化膜及び積層体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1A】第一の実施形態に係る積層体を概略的に示す断面図。
【
図1B】第一の実施形態に係る積層体において、機械的刺激が加わった場合に生じる現象を説明するための概略断面図。
【
図2】第二の実施形態に係る積層体を概略的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に、本実施形態に係る組成物、硬化膜、積層体について説明する。
【0036】
(組成物)
本実施形態に係る組成物は、下記一般式(1)で表されるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体(以下において、「本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体」又は単に「インドリルベンゾチアジアゾール誘導体」などという。)と、水系樹脂と、溶媒として少なくとも水を含有する。本実施形態に係る組成物、及びこの組成物を用いて形成される硬化膜は、機械的刺激により発光色が変化し、その後、室温での放置により変化した発光色が元の発光色に戻る自己回復性を備えた可逆的応答性を有する。ここで、機械的刺激の種類は特に限定されるものではないが、例えば、摩擦、圧縮、延伸、衝撃、せん断、粉砕、曲げ、超音波が挙げられる。また、室温とは、例えば10℃~35℃をいう。
【0037】
本実施形態に係る組成物は、後掲で詳述するように、水を含む溶媒(以下、「水系溶媒」という。)と水系樹脂の混合液に対し、本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体を分散/溶解させたことを第一の特徴とする。また、本実施形態に係る組成物は、後掲で詳述するように、本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体の組成物中における溶解度が4.00×10-2g/L超であることを第二の特徴とする。ここで、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の溶解度とは、液温が25℃の組成物中における溶解度をいう。まず、本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体について説明する。
【0038】
(インドリルベンゾチアジアゾール誘導体)
本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体は、下記一般式(1)で表される発光性有機色素である。
【化6】
【0039】
一般式(1)中、
R1は、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、アルキルスルホニル基又はアリールスルホニル基を表し、
R2及びR3は、それぞれ、互いに独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基を表し、
R4及びR5は、それぞれ、互いに独立して置換基を表し、
sは、0~4の整数を表し、
tは、0~2の整数を表す。
【0040】
一般式(1)において、R4及びR5で表される置換基は、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基であってよい。
sは、0~3の整数であってよく、0~2の整数であってよく、0又は1であってよく、0であってよい。
tは、0又は1であってよく、0であってよい。
【0041】
本実施形態において、R
1は、ピバロイル基、ベンゾイル基、トシル基(p-トルエンスルホニル基)、または下記一般式(2)で表される基の何れかであってよい。
【化7】
【0042】
一般式(2)中、R6は、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基又はベンジル基を表し、*は、一般式(1)中のインドール環に含まれる窒素原子に対する結合部位を表す。
【0043】
また、本実施形態において、本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体は、下記一般式(3)で表される化合物であってよい。
【化8】
【0044】
一般式(3)中、R2aは、水素原子、メチル基、ホルミル基またはシアノ基を表し、R3は、一般式(1)中のR3と同義である。
本発明の一形態において、R3はアルキル基であってよく、メチル基、エチル基又はイソプロピル基であってよい。また、本発明の一形態において、R2aは水素原子であってよい。
【0045】
また、本実施形態において、本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体は、下記一般式(4)で表される化合物であってよい。
【0046】
【0047】
一般式(4)中、R6aは、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基、またはベンジル基を表し、R3は、一般式(1)中のR3と同義である。
本発明の一形態において、R3はアルキル基であってよく、メチル基、エチル基又はイソプロピル基であってよい。
【0048】
また、本実施形態において、本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体は、下記一般式(5)で表される化合物であってよい。
【化10】
【0049】
一般式(5)中、R1aは、ピバロイル基、ベンゾイル基、またはトシル基を表し、R3は、一般式(1)中のR3と同義である。
本発明の一形態において、R3はアルキル基であってよく、メチル基、エチル基又はイソプロピル基であってよい。
【0050】
本実施形態において、一般式(1)で表されるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体は組成物中に1種のみ含有させてもよいし、2種以上を含有させてもよい。
【0051】
本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体は、公知の方法に従って製造することができ、例えば、特開2017-57191号公報(特許文献3)の段落0026や[実施例](段落0031~0060)に記載の方法に準じて製造することができる。
【0052】
本実施形態に係る組成物は、水系溶媒と水系樹脂との混合液に対するインドリルベンゾチアジアゾール誘導体の溶解度が、発光色の自己回復時間に密接な関係性を有し、溶解度を調整することにより発光色の自己回復時間を制御することが可能であるという本発明者等により見出された知見に基づき開発されたものであり、前述の通り、水系溶媒と水系樹脂との混合液に対し、本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体を分散/溶解させたことを第一の特徴とし、さらに、本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体の組成物中の溶解度が4.00×10-2g/L超であることを第二の特徴とする。
【0053】
すなわち、一般式(1)で表されるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体については、上掲の特許文献3(特開2017-57191号公報)に、固体状態で良好な蛍光量子収率を示すこと、バラエティに富んだ蛍光発光色を有する各種誘導体が容易に合成できること、機械的刺激に対する発光色の自己回復性を有することがそのメカニズムと共に説明されている(例えば、段落0020等)。しかしながら、これら性能を発揮できる硬化膜については報告がなかった。本実施形態に係る組成物により、蛍光発光色に富み、且つ、機械的刺激に対する自己回復性を有する硬化膜の提供が可能となり、さらには、自己回復時間の制御が可能な硬化膜の提供が可能となったものである。
【0054】
本実施形態に係る組成物において、本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体の組成物中の溶解度は、所望とする回復時間に応じて適宜設定することができる。インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の溶解度が大きいほど、回復時間は短くなる。例えば、一時間未満の比較的短い回復時間としたい場合は、25℃におけるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体の溶解度は4.00×10-2g/L超であってよく、1.00×10-1g/L以上であってよい。一方、本実施形態に係る組成物に使用する親水性有機溶媒を減らす観点からは、25℃における本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体の溶解度は4.53g/L以下であってよい。
【0055】
・水系樹脂
本実施形態に係る組成物は、少なくとも1種の水系樹脂を含有する。水系樹脂は、液体状態にある組成物中で、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の分散性を良好なものとするとともに、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の溶解度の調整剤としての役割も果たす。また、組成物から溶媒が除去され得られる硬化膜においては、硬化膜が積層される基材に対する固着バインダーとしても機能する。水系樹脂の選択により、好適な強度を有する硬化膜を得ることができる。
【0056】
水系樹脂は、水溶性樹脂であってもよく、水分散性樹脂であってもよい。例えば、水系樹脂は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマーなどのビニル系樹脂、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アミド、ポリエチレングリコール等の水溶性樹脂であってもよいし、ウレタン樹脂やアクリル樹脂等を水系溶媒に分散させた水分散樹脂(エマルジョンやディスパージョン)であってもよい。
【0057】
中でも、ビニル系樹脂のポリビニルアルコール(PVA)は、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体が分散しやすく、好ましい。
【0058】
PVAは、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の溶解度の調整剤という観点からも好ましく、所望とする発光色の回復時間に応じて好適なケン化度を有するPVAを選択して使用することができる。例えば、比較的短い回復時間(例えば、1時間未満)を設定したい場合は、PVAのケン化度は80%以下であってよく、75%以下であってよい。本実施形態に係る組成物に使用する親水性有機溶媒を減らす観点からは、PVAのケン化度は65%以上であってよい。ここでPVAのケン化度は、JIS6726(1994)に記載の方法により求めた値である。
【0059】
水系樹脂は、1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。また、環境負荷の観点から、天然由来の高分子であることが望ましい。
【0060】
本実施形態において、組成物中における水系樹脂の含有率は、上記組成物の全質量を基準として、5質量%以上90質量%以下であってよく、10質量%以上30質量%以下であってよい。
【0061】
本実施形態において、組成物中におけるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体の含有率は、水系樹脂の全質量に対し、0.1質量%以上であってよく、0.1質量%以上50質量%以下であってよく、5質量%以上50質量%以下であってよい。
【0062】
・溶媒
本実施形態に係る組成物は、分散性などの観点から溶媒として少なくとも水を含有する。インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の溶解度の調整の観点などから、1種又は2種以上の親水性有機溶媒を水と併用してもよい。親水性有機溶媒としては、特に限定するものではないが、一形態において、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類であってよく、メタノールであってよい。溶媒として水とこれら親水性有機溶媒の1種以上を併用することにより、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の溶解度は高くなる。
本実施形態において、組成物中における溶媒の含有率は、組成物の全質量を基準として10質量%以上95質量%以下であってよく、70質量%以上90質量%以下であってよい。また、溶媒中に占める水の配合率は、30質量%以上100質量%以下であってよく、40質量%以上60質量%以下であってよい。
【0063】
本実施形態に係る組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体や水系樹脂、溶媒以外の材料を添加剤として含有してもよい。添加剤の含有量は、組成物の全質量を基準として20質量%以下であることが好ましい。添加剤の含有量が20質量%を超える場合、後述するインドリルベンゾチアジアゾール誘導体含有成形物の強度が低下することがある。添加剤としては特に限定されず、用途等に応じて、公知の添加剤のなかから適宜選択できる。具体的には、樹脂、無機層状化合物、無機針状鉱物、消泡剤、無機系粒子、有機系粒子、潤滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、架橋剤、磁性体、医薬品、農薬、香料、接着剤、酵素、顔料、染料、消臭剤、金属、金属酸化物、無機酸化物等が挙げられる。
【0064】
本実施形態に係る組成物は、自己回復性を有する蛍光メカノクロミズム特性を利用し、例えば塗料などの用途に好適に用いることができる。
【0065】
(硬化膜)
以下、硬化膜について説明する。本実施形態に係る硬化膜は、本実施形態に係る組成物の塗膜から溶媒を除去し、硬化させて得られる膜であり、常温乾燥コーティング、加熱硬化コーティング、電着コーティング等の公知の方法を用いて形成することができる。本実施形態に係る硬化膜は、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体と水系樹脂とを含み、自己回復性を備えた蛍光メカノクロミズム特性を有する。以下において、機械的刺激応答層などともいう。
【0066】
硬化膜の膜厚は、特に限定されず、用途等に応じて適宜設定できる。例えば、生産性や成形性、施工時の操作性の観点からは、硬化膜の膜厚は、5μm以上1000μm以下であってよく、10μm以上500μm以下であってよい。
なお、本実施形態に係る硬化膜は、自立性膜であってもよいし、以下に説明する積層体に含まれていてもよい。
【0067】
(積層体)
以下、本実施形態に係る積層体について図面を参照しながら説明する。但し、以下に説明する各図において相互に対応する部分には同一符号を付し、重複部分においては後述での説明を適宜省略する。
図1Aは、第一の実施形態に係る積層体1を概略的に示す断面図であり、任意選択的に設けてもよい基材2と、基材2の上に形成された硬化膜3とを備える。
【0068】
・基材
基材2の材質は、積層体1の使用目的にあわせて適宜選択することができる。基材2の材質の例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート共重合体(PETG)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ガラス、シリコン、不織布、メッシュ、紙、およびパルプなどが挙げられるが、これらに限られるものではない。さらに、インジウム-スズ酸化物(ITO)やケイ素酸化物(SiOx)による表面修飾や各種印刷、易接着処理や接着層加工などを施してもよい。
【0069】
基材2は、透明なもの、不透明なもの、反射性を有するもののいずれであってもよい。また、基材2は、積層体1の使用目的に合わせて、黒色、白色などの任意の色を有することができる。さらに、基材2は、光沢を有してもよいし、光沢を有していなくてもよい。
【0070】
基材2における硬化膜3を設ける側の面には、表面処理を施し、必要に応じて表面処理層(図示せず)を設けても構わない。表面処理を行うことで、基材2への組成物のコーティングが行いやすく、また基材2と硬化膜3との密着性を向上できる。表面処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理等が挙げられる。なお、機械的刺激応答層である硬化膜3が自立性膜である場合には、基材2を省略することができる。
【0071】
・硬化膜
機械的刺激応答層である硬化膜3は、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体と水系樹脂を含む。
図1Bは、積層体1の硬化膜3の一部に機械的刺激が加わった部位3aを示す。硬化膜3において機械的刺激が加わった部位3aは、発光の極大波長が変化する。より具体的には、硬化膜3において、機械的刺激が加わった部位3aから確認できる発光の極大波長は、刺激を加える前の極大波長から、例えば5nm以上シフトする。極大波長のシフトが5nm未満である場合、目視にて発光色の変化を確認することが困難になる場合がある。なお、発光は分光蛍光光度計によって測定することができる。
【0072】
機械的刺激の種類は特に限定されるものではないが、例えば、摩擦、圧縮、延伸、衝撃、せん断、粉砕、曲げ、超音波が挙げられる。
【0073】
発光を検出するためには励起光を照射する必要がある。その励起光の波長は特に限定されるものではないが、例えば100nm以上500nm以下であってよい。励起光の波長が100nm未満、または、500nmを超える場合、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の励起が困難となることがある。
【0074】
硬化膜3の膜厚は、特に限定されず、用途等に応じて適宜設定できる。例えば、生産性や成形性、施工時の操作性の観点からは、硬化膜の膜厚は、5μm以上1000μm以下であってよく、10μm以上500μm以下であってよい。
【0075】
硬化膜3は、基材2に前述の本実施形態に係る組成物を塗布して作製してもよい。硬化膜3は、本実施形態に係る組成物を基材2上に塗布し、コーティング液中の溶媒を加熱等により除去することで得られる。
【0076】
基材2にインドリルベンゾチアジアゾール誘導体含有組成物を塗布する手段は、例えば、刷毛塗り、筆塗り、鏝塗り、バーコーター、ナイフコーター、ドクターブレード、スクリーン印刷、スプレー塗布、スピンコーター、アプリケーター、ロールコーター、フローコーター、遠心コーター、超音波コーター、(マイクロ)グラビアコーター、ディップコート、フレキソ印刷、ポッティング、すきこみ処理等の手法を用いることができ、他の基材、例えば転写基材上に塗布した後に転写してもよい。また、本実施形態に係る組成物の塗布は、一回のみならず、複数回行ってもよい。
【0077】
・接着層
基材2と硬化膜3との密着性を向上する目的で、基材2と硬化膜3との間に接着層(図示せず)を更に設けてもよい。接着層の形成に用いる接着成分としては、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂等の接着樹脂が挙げられる。なかでも、接着樹脂としては、密着性が良好な点から、ポリビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル樹脂を用いることが好ましい。
【0078】
・保護層(オーバーコート層)
図2は、第二の実施形態に係る積層体11を概略的に示す断面図であり、任意選択的に設けてもよい基材2と、硬化膜3と、任意選択的に設けてもよい保護層(オーバーコート層)12とをこの順序で備える。保護層12は、主として耐擦傷性の観点から設けられる。保護層12の材質は、特に限定しないが、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂等の熱硬化型又は光硬化型樹脂が挙げられる。
【実施例】
【0079】
以下に、本発明を実施例でさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0080】
<インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の合成>
特開2017-57191号公報(特許文献3)の[実施例](段落0031~0060)に記載の方法に従い、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体として後掲の表1に記載の化合物1a~1jを合成した。
【0081】
<<実験例A>>
(実施例A1)
ポリビニルアルコール(PVA)(PVA-105;(株)クラレ製)水溶液(固形分10質量%)に、化合物1a(N-Boc-3-メチルインドリルベンゾチアジアゾール)を、PVAの質量に対し5質量%の濃度で分散させ、組成物A1を調製した。厚さ75μmのPETフィルム上に組成物A1を、乾燥膜厚10μmになるようにワイヤーバーを用いて塗工し、100℃で乾燥して硬化させることにより、膜厚10μmの硬化膜を備えた積層体A1を得た。なお、組成物A1における化合物1aの25℃での溶解度は、4.00×10-2g/L超であった。
【0082】
得られた積層体A1の硬化膜に対し、スパチュラで擦ることによる機械的刺激を加えたところ、硬化膜の発光極大波長は485nmから525nmに変化し、硬化膜の発光色は青緑色から黄緑色へと長波長シフトした。また機械的刺激で色変化した積層体A1を室温(25℃)で放置したところ、硬化膜は元の発光色に戻り、自己回復性を有することが確認された。
【0083】
(実施例A2~A10)
実施例A1に対し、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体1aを、後掲の表1に記載の各化合物に変更した以外は、実施例A1と同様の条件及び方法により、組成物A2~A10を調製し、更に積層体A2~A10を製造した。なお、組成物A2~A10各々における化合物1b~1jの25℃での溶解度は、いずれも4.00×10-2g/L超であった。
【0084】
得られた積層体A2~A10各々の硬化膜に対し、スパチュラで擦ることによる機械的刺激を加えたところ、各硬化膜の発光極大波長は表1に記載の通り変化し、各硬化膜の発光色は表1に記載の通り変化した。また機械的刺激で色変化した積層体A2~A10各々を室温(25℃)で放置したところ、各硬化膜は元の発光色に戻り、自己回復性を有することが確認された。
【0085】
(実施例A11)
実施例A1に対し、硬化膜の膜厚を10nmから100nmに変更したこと以外は、実施例A1と同様の条件及び方法により、積層体A11を製造した。
【0086】
得られた積層体A11の硬化膜に対し、スパチュラで擦ることによる機械的刺激を加えたところ、硬化膜の発光極大波長及び発光色は、実施例A1と同様の変化を示した。また機械的刺激で色変化した積層体A11を室温(25℃)で放置したところ、硬化膜は元の発光色に戻り、自己回復性を有することが確認された。
【0087】
(実施例A12)
実施例A1に対し、PVAの質量に対する化合物1aの濃度を5質量%から10質量%に変更した以外は、実施例A1と同様の条件及び方法により、組成物A12を調製し、積層体A12を製造した。なお、組成物A12における化合物1aの25℃での溶解度は、4.00×10-2g/L超であった。
【0088】
得られた積層体A12の硬化膜に対し、スパチュラで擦ることによる機械的刺激を加えたところ、硬化膜の発光極大波長及び発光色は、実施例A1と同様の変化を示した。また機械的刺激で色変化した積層体A12を室温(25℃)で放置したところ、硬化膜は元の発光色に戻り、自己回復性を有することが確認された。
【0089】
(比較例A1)
実施例A1に対し、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様の条件及び方法で組成物A1cを調製し、積層体A1cを製造した。
【0090】
得られた積層体A1cの硬化膜において、機械的刺激を加える前後における発光極大波長及び発光色の変化は見られなかった。
【0091】
[溶解度の測定]
調製した各組成物を超遠心分離にかけ、上澄み液を採取した。液体クロマトグラフィ(LC)により上澄み液(液温25℃)中の色素の量を定量評価することにより、各組成物の溶解度を測定した。
【0092】
[発光特性の評価]
・目視による発光色の確認
硬化膜に365nmの紫外光を照射した際の発光を、目視にて観察した。
・分光蛍光光度計による確認
硬化膜に365nmの紫外光を照射した際の発光を、分光器USB2000+(オーシャンオプティクス社製)を用いて測定した。
【0093】
【0094】
【0095】
表1より、実施例A1~A12においては、バラエティに富む発光色を備え、且つ自己回復性を備えた蛍光メカノクロミズム特性を有する固形膜が得られたことがわかる。
【0096】
<<実験例B>>
(例B1)
ポリビニルアルコール(PVA)(PVA-105;(株)クラレ製)水溶液(固形分10質量%)に、化合物1a(N-Boc-3-メチルインドリルベンゾチアジアゾール)を、PVAの質量に対し5質量%の濃度で分散させ、25℃における溶解度が3.92×10-4g/Lの組成物B1を調製した。厚さ75μmのPETフィルム上に組成物B1を、乾燥膜厚10μmになるようにバーコーターを用いて塗工し、60℃で乾燥して硬化させることにより、膜厚10μmの硬化膜を備えた積層体B1を得た。
【0097】
[溶解度の測定]
調製した組成物B1を超遠心分離にかけ、上澄み液を採取した。液体クロマトグラフィ(LC)により上澄み液(液温25℃)中の色素の量を定量評価することにより、組成物B1の溶解度を測定した。結果を表2に示す。
【0098】
[発光色の評価]
硬化膜に365nmの紫外光を照射した際の発光を、目視にて観察した。
【0099】
[回復時間の測定]
得られた積層体B1の硬化膜に対し、スパチュラで擦ることによる機械的刺激を加えることにより硬化膜の発光色を変化させた。機械的刺激を加えることを止めてから、変化した発光色が室温(25℃)での放置により元の発光色に戻るのに要する時間を測定し、これを発光色の回復時間とした。結果を表2に示す。
【0100】
(例B2~例B7)
例B1に対し、使用するPVAのケン化度及び/又は溶媒を表2に記載のものに変えた以外は、例B1と同様の条件及び方法により、組成物B2~B7、及び積層体B2~B7を製造し、例B1と同様の条件及び方法で溶解度及び回復時間を測定した。結果を表2に示す。
【0101】
(比較例B1)
例B1に対し、PVA-105をJMR-10M(日本酢ビ・ポバール株式会社製)に変更し、溶媒を水からメタノールに変更した以外は、例B1と同様の条件及び方法により、組成物B1c、及び積層体B1cを製造した。組成物B1cについては、例B1と同様の条件及び方法で溶解度を測定した。結果を表2に示す。一方、積層体B1cの硬化膜は、スパチュラで擦ることによる機械的刺激を加えても硬化膜の発光色は変化しなかった。
【0102】
【0103】
表2の例B1~B7より、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の溶解度が高くなるにつれ、回復時間が短くなることがわかる。特に溶解度が3.95×10-2g/Lを超えると回復時間は1時間を大幅に切るようになることがわかった。一方、比較例B1より、溶媒としてメタノールのみを使用することにより、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の溶解度が高まり過ぎた結果、発光色の変化が見られないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本実施形態に係る組成物、硬化膜及び積層体は、記録媒体、装飾用シート、偽造防止表示体、センシング媒体などに利用できる。
【符号の説明】
【0105】
1 積層体
2 基材
3 硬化膜
3a 機械的刺激が加わった部位
11 積層体
12 保護層(オーバーコート層)