(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】電波吸収体
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20230712BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20230712BHJP
【FI】
H05K9/00 M
B32B7/025
(21)【出願番号】P 2019096694
(22)【出願日】2019-05-23
【審査請求日】2022-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】小畑 輝
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 文緒
(72)【発明者】
【氏名】渡部 雄太
【審査官】五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-170887(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B32B 7/025
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる階層に配置された複数の誘電体層と、
前記各誘電体層の上側に積層される共振層と、
積層された前記複数の誘電体層および前記共振層の最下層に配置された導電体からなる反射導体層と、
を備え、
前記共振層は、
該共振層に設定された周波数帯を吸収する複数のパッチ導体
群を有し、
前記複数のパッチ導体
群は、
前記周波数帯に含まれる一の共振周波数に共振する一のパッチ導体を所定周期で配置した一のパッチ導体群と、前記周波数帯に含まれる他の共振周波数に共振する他のパッチ導体を所定周期で配置した他のパッチ導体群と、からなり、
前記一のパッチ導体および前記他のパッチ導体が、異なる階層に配置された前記共振層の一のパッチ導体および他のパッチ導体と積層方向において重ならないように配置されている、
ことを特徴とする電波吸収体。
【請求項2】
1種類以上の誘電体材料を用いて前記複数の誘電体層が形成されている、
ことを特徴とする請求項
1に記載の電波吸収体。
【請求項3】
前記
一のパッチ導体
および前記他のパッチ導体は、円形状に形成され、
前記一のパッチ導体は、前記他のパッチ導体と直径が異なる、
ことを特徴とする請求項1
または2に記載の電波吸収体。
【請求項4】
前記
一のパッチ導体は、円形状
に形成され、前記他のパッチ導体は、中心に孔を有するリング形状パッチ導体
に形成され、前記
一のパッチ導体および前記
他のパッチ導体は、直径が同一
である、
ことを特徴とする請求項1
または2に記載の電波吸収体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、反射導体層と誘電体層と共振層によって構成され、複数の周波数帯の吸収特性を備える電波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、無線LANおよびETCレーン等における電波干渉の抑制や通信品質の改善を図るため、特定の周波数帯域に対する電波吸収体が用いられている。
この電波吸収体は、壁面や床面などに設置されるため、できるだけ強固で薄型軽量に構成されたものが望まれている。
既存の電波吸収体には、無線LANシステムで使用する周波数帯に対応するように、例えば複数帯域の周波数特性を備えたものがある。このように広帯域に対応する電波吸収体は、厚みが数十ミリメートルになることから、薄型に構成する技術が提案されている。
【0003】
例えば、中間層となる絶縁性材料の平面上に導電性ループパターンを積層した電波吸収体がある(例えば、特許文献1参照)。
この電波吸収体は、中間層の下方に、金属製筐体や建物のシールド材などによって構成された導電性層を積層したもので、吸収対象となる電磁波の波長に対して0.027倍以上の厚みを有する。上記の導電性ループパターンは、規則的に配置した導電性ループを複数個備えている。
【0004】
また、一部分が途切れたループ状スロットを複数備えた周期スロット層に、ループ状導体パターンを複数備えたパターン層を積層した電波吸収体がある(例えば、特許文献2参照)。
この電波吸収体は、吸収する電磁波の波長が異なるように各ループ状導体パターンを設け、薄型に形成しても十分な電波吸収を行うことができるように、ループ状スロットの中心点とループ状導体パターンの中心点が重なるように積層している。
なお、この電波吸収体は、例えば中心ループ長(大きさ、サイズ)が異なる各ループ状導体パターンを同一層(パターン層)に備え、また、例えば中心ループ長(大きさ、サイズ)が異なる各ループ状スロットを他の同一層(周期スロット層)に備えている。
【0005】
また、方形の導体箔(導体層)と、これに対峙させた電波吸収材(抵抗膜層)と、導体箔と電波吸収材の間に樹脂を充填した中間層(スペーサ層)を備えた電波吸収体がある(例えば、特許文献3参照)。
この電波吸収体は、電波の完全反射体である中間膜を、導体箔ならびに電波吸収材に対向させて中間層に備えている。
この中間膜は、中央部に設けた孔に、他の周波数帯域に対応する中間膜をさらに備えており、複数の周波数帯の電波を吸収するように構成されている。
【0006】
また、例えば正方形のパッチパターンを誘電体基板の上面に周期的に配置し、銅箔などからなる導体層に、各パッチパターンからなるパターン層と誘電体基板からなる誘電体層を積層した電波吸収体がある(例えば、特許文献4参照)。
このパッチパターンは、正方形のループスロットを設けて、当該ループスロットによって隔てられた2つのパターンを有するように構成されている。このように2つのパターンを有するパッチパターンは、2つの異なる周波数帯の電波吸収特性を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-352191号公報
【文献】特開2005-244043号公報
【文献】特開2007-87977号公報
【文献】特開2007-73662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の電波吸収体は、同一の導電性ループを配置して単一の周波数帯(狭帯域)に対応するように構成されており、広域または複数の周波数帯に対応して電波を吸収することができない。また、厚みを1[mm]以下として構成すると、十分な電波吸収特性を得ることが難しくなる。
特許文献2の電波吸収体は、ループ状導体パターンとループ状スロットの各中心点を合わせて積層しており、また、同一層にループ状導体パターン(他の同一層にループ状スロット)を形成していることから、配置スペース等に制限が生じ、多様な大きさ、サイズ等のループ状導体パターンを多数配置することが難しく、広帯域または複数の周波数帯に対応することが困難になる。
【0009】
特許文献3の電波吸収体は、導体層、スペーサ層、抵抗膜層を備えた構成であり、スペーサ層には、吸収周波数に対して1/4波長の厚みが必要になる。例えば、5[GHz]の電波を吸収する場合には15[mm]の厚みが必要になり、当該電波吸収体を薄型に形成することが難しいものである。
特許文献4の電波吸収体は、1つのパッチパターンをループスロットによって2つのパターンに分割するため、分割された各パターンの周波数特性は相互に影響し、各々のパターンについて所望の周波数特性を有するように構成することが難しい。
【0010】
本開示は上記の問題点に鑑みなされたもので、薄型に形成することが可能であり、所望の広域または複数の周波数帯域において電波を十分に吸収することができる電波吸収体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示に係る電波吸収体は、異なる階層に配置された複数の誘電体層と、前記各誘電体層の上側に積層される共振層と、積層された前記複数の誘電体層および前記共振層の最下層に配置された導電体からなる反射導体層と、を備え、前記共振層は、所定周期で配置された複数のパッチ導体を有し、前記複数のパッチ導体は、複数の所定共振周波数のうち、いずれかの周波数で共振するように個々の大きさと形状の少なくとも一方が異なる、ことを特徴とする。
【0012】
また、前記共振層は、前記複数のパッチ導体が、異なる階層に配置された共振層のパッチ導体と積層方向において重ならないように配置されている、ことを特徴とする。
【0013】
また、1種類以上の誘電体材料を用いて前記複数の誘電体層が形成されている、ことを特徴とする。
【0014】
また、前記共振層は、前記複数のパッチ導体が直径の異なる円形状に形成され、異なる直径のパッチ形状が隣り合うように配置されている、ことを特徴とする。
【0015】
また、前記共振層の複数のパッチ導体は、円形状パッチ導体および中心に孔を有するリング形状パッチ導体からなり、前記円形状パッチ導体の直径およびリング形状パッチ導体の直径が同一に形成されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、誘電体層の厚みを抑えて共振層の導体によって吸収する周波数帯を定めることができ、電波吸収体を薄型に形成することが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本開示の実施例による電波吸収体の概略構成を示す断面図である。
【
図2】本実施例の電波吸収体が備える共振層の構成を示す説明図である。
【
図3】本実施例の電波吸収体の吸収特性を測定する測定装置の概略構成を示す説明図である。
【
図4】
図3の測定装置による電波吸収体の測定結果から得られた吸収特性を示す説明図である。
【
図5】
図3の測定装置による電波吸収体の測定結果から得られた吸収特性を示す説明図である。
【
図6】
図3の測定装置による電波吸収体の測定結果から得られた吸収特性を示す説明図である。
【
図7】本実施例による電波吸収体の電波減衰特性を測定する実験装置の概略構成を示す説明図である。
【
図8】
図7の実験装置を用いた電波減衰特性の測定結果を示す説明図である。
【
図9】
図7の実験装置を用いた電波減衰特性の測定結果を示す説明図である。
【
図10】
図8および
図9に示した電波伝搬特性から求めた遅延スプレッドを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の実施の一形態を説明する。
(実施例)
図1は、本開示の実施例による電波吸収体の概略構成を示す断面図である。
図1(a)は、誘電体層11~1nならびに共振層21~2nによって各々構成された第1層から第n層を、反射導体層10に積層させた電波吸収体の断面を示している。
図1(b)は、反射導体層10、誘電体層11、共振層21、誘電体層12、共振層22の5層を積層した構成例の電波吸収体の断面を示している。
本実施例の電波吸収体は、共振層ならびに誘電体層からなる階層を、少なくとも2階層以上積層して構成されている。即ち、異なる階層に配置された複数の誘電体層を備えている。これらの誘電体層は、同一種類の誘電体によって形成しても、異なる種類(複数種類)の誘電体によって個々の誘電体層を形成してもよい。なお、個々の誘電体層は、均一な(同一の)誘電体によって形成されている。
【0019】
ここでは、説明を簡単にするため、
図1(b)のように構成された電波吸収体について説明する。
本実施例の電波吸収体は、最下層に反射導体層10が配置され、
図1(a)においては、最上層の第n層側から(図中、上側から)電波が入射するように構成されている。また、
図1(b)においては、共振層22が配置されている側から(図中、上側から)電波が入射するように構成されている。
【0020】
反射導体層10は、例えば薄板(または薄膜)状の導電体を用いて形成されている。反射導体層10の上側に積層した誘電体層11は、例えばエポキシ材などの誘電体を用いて形成されている。
誘電体層11の上側に積層した共振層21は、反射導体層10と同様な導電体を用いて形成されている。
共振層21は、誘電体層11の上側部位に複数形成され(1つの階層に複数設けられ)、各共振層21は、例えば、同様な大きさ、形状に形成され、等間隔に配置されている。
【0021】
各共振層21の上側に積層した誘電体層12は、例えば、誘電体層11と同様な素材を用いて形成されている。
誘電体層12の上側に積層した共振層22は、共振層21等と同様な素材によって形成されている。
共振層22は、誘電体層12の上端面に複数形成され(1つの階層に複数設けられ)、各共振層22は、例えば、同様な大きさ、形状に形成され、等間隔に配置されている。
また、共振層22は、下層の共振層21と重ならないように(積層方向において重ならないように)配置されている。
【0022】
図2は、本実施例の電波吸収体が備える共振層の構成を示す説明図である。この図は、例えば共振層21を上方視した場合の構成を示している。
各共振層21は、前述のように薄膜の導電体によって構成されており、当該導電体は、所定の電波周波数帯に対応したパターン(大きさや形状等)に形成されている。
図2(a)には、共振層21のパターンの一例を示し、
図2(b)には、パターンの他の例を示している。
【0023】
図2(a)に示したパターンは、導電体を円形状に形成したパッチ導体41とパッチ導体42によって構成され、複数のパッチ導体41ならびにパッチ導体42を周期的に配置したものである。
ここで例示したパッチ導体41は直径d1、パッチ導体42は直径d2を有し、微小な径の差異を有する。
図2(b)に示したパターンは、導電体をリング形状に形成したパッチ導体43と円形状に形成したパッチ導体44によって構成され、複数のパッチ導体43ならびにパッチ導体44を周期的に配置したものである。
ここで例示したパッチ導体43とパッチ導体44は、同等な直径を有している。
【0024】
本実施例の電波吸収体は、1つの共振層が2つの共振周波数に共振するように構成されている。具体的には、個々の共振周波数に共振する2種類のパッチ導体(例えば、パッチ導体41とパッチ導体42)を備え、これらのパッチ導体は、大きさと形状のうち、少なくとも一方が異なるように構成されている。
また、本実施例の電波吸収体は、吸収する周波数帯の中心周波数に共振するようにパッチ導体を設定し、設定したパッチ導体の直径または長辺長さの、100±1.4~1.6[%]の大きさを有する、2種類のパッチ導体を周期的に配置して共振層に備える。
この2種類のパッチ導体を1つの共振層に備え、広帯域の電波吸収するように構成されている。
【0025】
本開示の電波吸収体を設計するとき、初めにターゲットとする周波数帯(吸収周波数帯)を設定する。ここで、ターゲットの周波数帯を例えばfA,fBとする。なお、周波数帯fAと周波数帯fBは、fA<fBで表される帯域である。
共振層21に備えるパッチ導体41,42は、周波数帯fAに対応するように設定されたもので、共振層22に備えるパッチ導体41,42は、周波数帯fBに対応するように設定されたものである。
周波数帯fA,fBを設定した後、誘電体層11として用いる誘電性材料を選定し、当該誘電体層11の厚みt1を設定する。
上記のように材料を選定し、厚みt1を設定した誘電体層11を、3層構造(反射導体層、誘電体層、共振層を有する構造)のパッチアンテナに関する設計式に当てはめ、この式を用いて周波数帯fAに作用するパッチ導体の直径を算出する。
【0026】
本実施例の電波吸収体のように2種類のパッチ導体41,42を備える場合には、上記算出した直径を±1.5%増減し、例えば1.5%減少させてパッチ導体41の直径d1とし、1.5%増大させてパッチ導体42の直径d2とする。
上記のように各パッチ導体の直径を設定した後、パッチアンテナに関する設計式を用いて、各パラメータを求めてパッチ導体41,42を配置する際の最適なパッチ周期w(各パッチ導体間の距離)を算出する。
【0027】
周波数帯fBに作用する共振層22についても、同様にパッチ導体の直径を算出する。周波数帯fBに関する演算を行うときには、パッチ周期wを既知の値として取り扱う。即ち、周波数帯fAに関する演算によって算出したパッチ周期wを、周波数帯fBに関する演算に用いる。
具体的には、既知の値であるパッチ周期wをパッチアンテナに関する設計式に適用し、共振層22に備えるパッチ導体41,42の各直径d1,d2を算出し、また、誘電体層12の最適な厚みt2を算出する。
【0028】
誘電体層11の厚みt1と誘電体層12の厚みt2を加算し、この値をパッチアンテナに関する設計式に適用してパッチ導体径の調整を行う。
共振層21のパッチ導体41,42は、当該電波吸収体に電波が入射したとき、上側に積層された誘電体層12の影響を受け、電波吸収特性が低周波数側へ遷移するため、誘電体層12の厚みt2が確定した後、パッチ導体径を小さくする調整が必要になる。
このパッチ導体径の調整は、直径のみを調整してもよいが、パッチ導体41,42の大きさ、形状等を調整して、所望の電波吸収特性(周波数帯fAを吸収する特性)が得られるように最適化してもよい。
【0029】
共振層21のパッチ導体径の調整等を行った後、積層方向において共振層21のパッチ導体41,42と共振層22のパッチ導体41,42が重ならないように、各共振層22を配置設定する。
本実施例の電波吸収体は、所望の周波数帯に対応した共振層および誘電体層を、複数積層することも可能であり、共振層および誘電体層からなる各階層において吸収する周波数帯を変えることにより、多数周波数帯の電波吸収特性を備えることが可能になる。
【0030】
図3は、本実施例の電波吸収体の反射波を測定する測定装置の概略構成を示す説明図である。
この測定装置は、平坦な床面40に載置されたスタンド等に支持固定されたアンテナ30、アンテナ30を用いて所定周波数帯の電波を放射し、また、アンテナ30が受信した電波の強度を測定するネットワークアナライザ31を備えている。
この測定装置は、電波吸収体100の背後に設置する基準金属板32、電波吸収体100ならびに基準金属板32を支持する支持部材33、アンテナ30から放射され、電波吸収体100の背後側へ進行した電波を吸収する電波吸収壁部材34を備えている。
【0031】
この測定装置は、床面40から高さh1(例えば1.15m)の位置にアンテナ30を固定し、アンテナ30の電波放射(反射受信)部位から距離h2(例えば1.0m)の位置に電波吸収体100を固定している。
この測定装置は、アンテナ30から電波吸収体100へ、所定周波数帯の電波を放射し、当該電波吸収体100が反射した電波(反射波)をアンテナ30で受信し、ネットワークアナライザ31が当該反射波の強度を周波数と対応させて記録するように構成されている。
【0032】
電波吸収体100は、例えば、2つの周波数帯f
A,f
Bを吸収する特性を備えており、周波数帯f
Aを吸収する(周波数f
Aで共振する)第1共振層と、周波数帯f
Bを吸収する(周波数f
Bで共振する)第2共振層を有する。
また、電波吸収体100は、第1共振層を上側に積層した第1誘電体層と、第2共振層を上側に積層した第2誘電体層を有しており、これらを反射導体層の上側に積層させている。
電波吸収体100の各誘電体層は、ガラスエポキシ材によって形成され、また、各共振層ならびに反射導体層は、銅材等を用いて形成されている。
電波吸収体100の各共振層のパッチ導体は、全て円形状に形成されており、各々の共振周波数において共振する直径(大きさ)を有している。即ち、電波吸収体100のパッチ導体は、
図2(a)に示した形状のように形成されている。
【0033】
図4~
図6は、
図3の測定装置による電波吸収体100の測定結果から得られた吸収特性を示す説明図である。
図5および
図6は、
図4の周波数スケールを拡大したもので、
図4と同一の特性を示したものである。
これらの図は、
図3に示した位置に電波吸収体100を設置したときに計測された反射波強度と、同じ位置に全反射構造物である基準金属板32を設置したときに計測された反射波強度との差分SIをグラフの縦軸に示し、横軸に反射波の周波数を示している。
この電波吸収体100は、共振周波数f
A,f
Bにおいて
各々100[MHz]の帯域幅を有し、また10[dB]の減衰率を有していることが分かる。
【0034】
図7は、本実施例による電波吸収体の電波減衰特性を測定する実験装置の概略構成を示す説明図である。
図7(a)は、実験装置を上方から見た場合の各部の配置構成を示し、
図7(b)は、実験装置を側方から見た場合の各部の配置構成を示している。
この実験装置は、電波を遮蔽する、例えば金属製のシールド材によって、天井、側壁、床等を覆ったシールドルーム53に、送信アンテナ50a、受信アンテナ50b、電波吸収体100等を設置し、シールドルーム53から隔てられた測定室等(図示省略)にネットワークアナライザ31を設置している。
【0035】
シールドルーム53は、室内長がs1(例えば、4370mm)、室内幅がs9(例えば、2950mm)、室内高さがs10(例えば、2050mm)の大きさを有する。
シールドルーム53の室内には計36枚の電波吸収体100が設置されている。詳しくは、18枚の電波吸収体100からなる吸収体100aと、9枚の電波吸収体100からなる吸収体100bとを、間隔s3(例えば、250mm)を設けて、シールドルーム53の一の側壁に設置している。
また、9枚の電波吸収体100からなる吸収体100cを、吸収体100bに対して90度向きを変えて他の側壁に設置している。
【0036】
吸収体100a,100b,100cは、シールドルーム53の床面から高さs12(例えば、600mm)の位置に設置されている。
吸収体100aの横幅はs2(例えば、1854mm)、吸収体100bの横幅はs4(例えば、927mm)、吸収体100cの横幅はs8(例えば、927mm)である。
吸収体100a,100b,100cの高さ方向の大きさは、同一のs11(例えば、927mm)である。
【0037】
シールドルーム53の室内には、送信アンテナ50a、受信アンテナ50b等が設置されており、いずれもシールドルーム53の床面から高さs13(例えば、825mm)の位置に設置されている。
送信アンテナ50aは、吸収体100a表面から距離s6(例えば、500mm)、吸収体100c表面から距離s7(例えば、1050mm)の位置に設置されている。
受信アンテナ50bは、送信アンテナ50aから距離s5(例えば、2000mm)の位置に設置されている。
送信アンテナ50aおよび受信アンテナ50bは、いずれも無指向性アンテナであり、例えば、ロッドアンテナによって本体が構成されている。
【0038】
上記のようにシールドルーム53室内に設置された送信アンテナ50aおよび受信アンテナ50bは、測定室等に設置されたネットワークアナライザ31に配線接続されている。
送信アンテナ50aおよび受信アンテナ50bとネットワークアナライザ31を配線接続するケーブル等は、貫通管52を用いてシールドルーム53の外部へ引き出されており、シールドルーム53室内の電波が外部へ漏洩することを抑制している。
ネットワークアナライザ31は、送信アンテナ50aから所定の周波数帯の電波を所定強度で放射(送信)し、また、受信アンテナ50bが受信した電波を測定して、例えば、所定様式の数値データとして記録するように構成されている。
【0039】
図8および
図9は、
図7の実験装置を用いた電波減衰特性の測定結果を示す説明図である。
図8および
図9は、測定を行う周波数幅を100[MHz]に設定して、送信アンテナ50aから受信アンテナ50bまでの電波伝搬特性をネットワークアナライザ31によって測定し、パラメータを周波数領域から時間領域に変換した結果を示したものである。
図8および
図9において、横軸は時間を示し、縦軸は送信アンテナ50a端のレベルを基準(0dB)としたときの受信アンテナ50b端のレベルを示している。
図8および
図9において、破線で表した特性曲線は、電波吸収体100(吸収体100a,100b,100c)を配置せずに測定した場合に得られたもので、実線で表した特性曲線は、
図7のように電波吸収体100(吸収体100a,100b,100c)を配置して測定した場合に得られたものである。
【0040】
図8は、ネットワークアナライザ31に設定する中心周波数を2.45[GHz]として測定した場合の特性であり、
図9は、上記の中心周波数を5.2[GHz]として測定した場合の特性である。
図8および
図9に示した測定結果は、いずれも、電波吸収体100(吸収体100a,100b,100c)を配置することにより、時間による電波減衰量が増加していることがわかる。
図10は、
図8および
図9に示した電波伝搬特性から求めた遅延スプレッドを示す説明図である。
図10の図表に示した遅延スプレッドは、
図8および
図9の電波伝搬特性となる測定結果に基づいて、次の式(1)を用いて算出した値である。
【0041】
【0042】
なお、式(1)のTDは、次の式(2)のように表記される。ここで、P(τi)は遅延時間τiの受信電力を示し、τ1はP(τi)が最初にカットオフレベルを下回る遅延時間を示し、τNはP(τi)が最後にカットオフレベルを上回る遅延時間を示している。上記のカットオフレベルは、測定時の雑音レベルに10[dB]を加算した値であり、この測定では-100[dB]である。
【0043】
【0044】
図10に示した値から、電波吸収体100(吸収体100a,100b,100c)の配置によって、遅延スプレッドが減少していることがわかる。
【0045】
本実施例の電波吸収体は、2つの周波数帯に対応する電波吸収特性を備えているが、階層毎に共振層のパターンを所望の周波数に対応させることにより、4つの周波数に電波吸収特性を得ることも可能である。
また、1つの共振層に、2つの(異なる)共振周波数を有する各パッチ導体を備え、これら2つの共振周波数を、任意の周波数の±1~1.5[%]に設定して当該パッチ導体を設計すると、より広帯域の電波吸収を可能にした特性が得られる。
本実施例の電波吸収体は、各共振層のパターン(パッチ導体)の設定(設計)によって、所望の吸収特性が得られるため、所望の吸収特性を有する電波吸収体を容易に作成することができる。
【0046】
本実施例の電波吸収体は、所望の周波数の電波が共振層へ入射すると、当該共振層の各パッチ導体が共振し、共振周波数成分が誘電体層へ進行する際に熱エネルギへ返還されることによって、電波吸収を行っている。
周波数特性(電波吸収特性)は、誘電体層の厚みを一定とした場合、共振層の導体形状ならびに配列(パターン)によって決定される。
そのため、誘電体層の厚みを抑制し、共振層のパッチ導体等に関連する設定(設計)により所望の電波吸収特性を得るともに、当該電波吸収体を薄型に構成することが可能になり、例えば、積層構造の全体厚みを3[mm]以下に抑えることも可能になる。
【符号の説明】
【0047】
10反射導体層
11~1n誘電体層
21~2n共振層
30アンテナ
31ネットワークアナライザ
32基準金属板
33支持部材
34電波吸収壁部材
40床金属面
41~44パッチ導体
50a送信アンテナ
50b受信アンテナ
52貫通管
53シールドルーム
100電波吸収体
100a,100b,100c吸収体