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特許7311883活性型IRF5を特異的に認識するモノクローナル抗体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】活性型IRF5を特異的に認識するモノクローナル抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/18 20060101AFI20230712BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230712BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230712BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20230712BHJP
【FI】
C07K16/18 ZNA
C12P21/08
G01N33/53 D
C12N15/13
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019107741
(22)【出願日】2019-06-10
(65)【公開番号】P2020200264
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-03-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、免疫アレルギー疾患等実用化研究事業、「全身性エリテマトーデスの革新的治療法のための転写因子IRF5阻害剤の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 智彦
(72)【発明者】
【氏名】藩 龍馬
【審査官】木原 啓一郎
(56)【参考文献】
【文献】Proceedings of the National Academy of Sciences,2014年,Vol. 111,p.17438-17443,DOI: 10.1073/pnas.1418516111
【文献】抗体の作製方法 | MBLライフサイエンス [online],2016年,[retrieved on 2023.02.08],Retrieved from the Internet: <URL: https://web.archive.org/web/20160731021413/https://ruo.mbl.co.jp/bio/support/method/antibody-production.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性型のIRF5タンパク質に結合し、非活性型のIRF5タンパク質には検出可能なレベルで結合しない、モノクローナル抗体又は抗体断片であって、配列番号2に示すアミノ酸配列のCDR1、配列番号3に示すアミノ酸配列のCDR2、及び配列番号4に示すアミノ酸配列のCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号6に示すアミノ酸配列のCDR1、配列番号7に示すアミノ酸配列のCDR2、及び配列番号8に示すアミノ酸配列のCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、モノクローナル抗体又は抗体断片。
【請求項2】
活性型のIRF5タンパク質は、ヒトIRF5アイソフォームb(配列番号17)の第446番セリンに相当するセリン残基がリン酸化したIRF5タンパク質であり、非活性型のIRF5タンパク質は、当該セリン残基がリン酸化していないIRF5タンパク質である、請求項1記載のモノクローナル抗体又は抗体断片。
【請求項3】
重鎖可変領域の配列が、配列番号1に示すアミノ酸配列であり、軽鎖可変領域の配列が、配列番号5に示すアミノ酸配列である、請求項1又は2記載のモノクローナル抗体又は抗体断片。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体又は抗体断片を、IRF5タンパク質を含む試料と接触させ、活性型のIRF5タンパク質を免疫学的に検出することを含む、IRF5タンパク質の活性化状態を解析する方法。
【請求項5】
前記試料が、自己免疫疾患を有する患者又は有するおそれのある患者から分離された試料である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
自己免疫疾患が、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、又は全身性強皮症である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体又は抗体断片を含む、活性型IRF5タンパク質の検出キット。
【請求項8】
活性型のIRF5タンパク質に結合し、非活性型のIRF5タンパク質には検出可能なレベルで結合しない、モノクローナル抗体又は抗体断片の作製方法であって、
リン酸化型IRF5ペプチドで非ヒト動物を8回以上免疫する、免疫工程;
免疫後の非ヒト動物のB細胞より、重鎖可変領域を含む領域をコードするcDNA及び軽鎖可変領域を含む領域をコードするcDNAを調製して一本鎖抗体(scFv)遺伝子又はFab断片遺伝子を調製し、これをファージ用プラスミドベクターに組み込んでscFv又はFabを発現するベクターのライブラリーを作製し、ファージディスプレイ法により各scFv又は各Fabを表面に提示するファージのライブラリーを作製する、ファージライブラリー作製工程;並びに
リン酸化型IRF5ペプチド及び非リン酸化型IRF5ペプチドを用いたポジティブ及びネガティブセレクションに加え活性型IRF5タンパク質及び非活性型IRF5タンパク質を用いたポジティブ及びネガティブセレクションも行うことにより、リン酸化型IRF5ペプチド及び活性型IRF5タンパク質への特異的結合性が高いファージを濃縮する、パニング工程
を含み、前記IRF5ペプチドは、ヒトIRF5アイソフォームb(配列番号17)の第446番セリンに相当するセリン残基を含む、IRF5タンパク質の部分配列又は該部分配列のC末端又はN末端にIRF5タンパク質の配列に由来しない1~5個の残基が付加された配列からなるペプチドであり、リン酸化型IRF5ペプチドは、前記IRF5ペプチドにおいて前記第446番セリンに相当するセリン残基がリン酸化されたペプチドである、方法。
【請求項9】
前記IRF5ペプチドは、LQISNPD(配列番号24)を含むIRF5タンパク質部分配列又は該部分配列のC末端又はN末端にIRF5タンパク質の配列に由来しない1~5個の残基が付加された配列からなる、7~40残基のサイズのペプチドであり、前記リン酸化型IRF5ペプチドは、LQISNPD中の4番目のセリン残基がリン酸化されたIRF5ペプチドである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記IRF5ペプチドは、SIRLQISNPDLKD(配列番号23)を含むIRF5タンパク質部分配列又は該部分配列のC末端又はN末端にIRF5タンパク質の配列に由来しない1~5個の残基が付加された配列からなる、13~40残基のサイズのペプチドである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記免疫工程において、キャリアタンパク質を結合させたリン酸化型IRF5ペプチドで非ヒト動物を免疫する、請求項8~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
非ヒト動物の免疫に用いるリン酸化型IRF5ペプチドの純度が85%以上である、請求項8~11のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性型IRF5を特異的に認識するモノクローナル抗体又は抗体断片、該抗体又は抗体断片を用いたIRF5の活性化状態を解析する方法、並びにそのようなモノクローナル抗体又は抗体断片を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫系は本来、病原体や癌などの異物を排除するための機構であるが、自己免疫疾患ではこれが誤って自己を攻撃してしまい、様々な症状が引き起こされる。全身性エリテマトーデス (systemic lupus erythematosus; SLE) は特効薬の無い難治性の自己免疫疾患であり、患者数は国内で6~10万人、全世界で推定350万人とされている。ステロイド療法などによりSLE患者の生存率は改善されたが、易感染症をはじめ様々な副作用があるため、生活の質や長期予後を改善できる新たな治療法が求められている。
【0003】
転写因子interferon regulatory factor 5 (IRF5) は自然免疫応答において重要な役割を担う (非特許文献1)。ウイルスや細菌などの病原体が自然免疫受容体であるToll-like receptor (TLR) によって認識されると、その下流においてIRF5は翻訳後修飾であるリン酸化などを受けて活性化される。活性化型IRF5は核移行し、I型インターフェロンや炎症性サイトカインの遺伝子を誘導する (非特許文献2~5)。IRF5はTLRを介した自然免疫応答に重要であるが、SLEの病態発症にも関与することが多数報告されている。ヒューマンバイオロジーの観点からは、日本人を含む様々な人種集団でのゲノムワイド関連解析によりIRF5はその遺伝子多型がSLE発症リスクと強く相関する疾患感受性遺伝子であることが示されている (非特許文献6)。実際に、SLE患者の末梢血中の単球においてIRF5が核移行していることも報告されている (非特許文献7)。さらに、本願発明者らの研究 (非特許文献8、9) をはじめとして、これまで研究された全てのSLEモデルマウスにおいてIRF5が病態発症に必要であることが判明している (非特許文献10)。そして本願発明者らは近年、マウスモデルを用いて、IRF5の過剰な活性化がSLE様病態を引き起こし、IRF5の抑制がその発症を阻止すること、したがってIRF5がSLEの有力な治療標的であることを明らかにした (非特許文献9)。
【0004】
IRF5はシェーグレン症候群や全身性強皮症など他の自己免疫疾患とも関連することが報告されている (非特許文献11、12)。また、本願発明者らは、マウスモデルを用いて脊髄のミクログリアにおけるIRF5が神経因性疼痛を引き起こすことを報告している (非特許文献14)。
【0005】
従来の研究結果から、IRF5の活性化にはinhibitor of nuclear factor κ-B kinase β (IKKβ) による特定のセリン残基(ヒトIRF5アイソフォームbにおいては第446番目; S446、マウスIRF5アイソフォーム2, 3においては第445番目のセリン残基)のリン酸化が重要であることが示されている(非特許文献4、5)。リン酸化IRF5の検出は、本願発明者らがリン酸基捕捉分子Phos-tagを用いて確立した方法 (非特許文献14) や、抗リン酸化IRF5ポリクローナル抗体を用いた方法 (非特許文献4、5、15) により可能ではあるが、前者の方法ではリン酸化部位の特定ができず、後者はポリクローナル抗体を用いるため一定の結果を得るのが難しいという問題点がある。IRF5の活性化に重要な上記した特定のセリン残基のリン酸化を特異的に認識する抗リン酸化IRF5モノクローナル抗体はこれまでに報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Tamura, T. et al. The IRF family transcription factors in immunity and oncogenesis. Annu Rev Immunol 26, 535-584, doi:10.1146/annurev.immunol.26.021607.090400 (2008).
【文献】Takaoka, A. et al. Integral role of IRF-5 in the gene induction programme activated by Toll-like receptors. Nature 434, 243-249, doi:10.1038/nature03308 (2005).
【文献】Schoenemeyer, A. et al. The interferon regulatory factor, IRF5, is a central mediator of toll-like receptor 7 signaling. J Biol Chem 280, 17005-17012, doi:10.1074/jbc.M412584200 (2005).
【文献】Lopez-Pelaez, M. et al. Protein kinase IKKβ-catalyzed phosphorylation of IRF5 at Ser462 induces its dimerization and nuclear translocation in myeloid cells. Proc Natl Acad Sci USA 111, 17432-17437, doi:10.1073/pnas.1418399111 (2014).
【文献】Ren, J. et al. IKKβ is an IRF5 kinase that instigates inflammation. Proc Natl Acad Sci USA 111, 17438-17443, doi:10.1073/pnas.1418516111 (2014).
【文献】Deng, Y. & Tsao, B. P. Genetic susceptibility to systemic lupus erythematosus in the genomic era. Nat Rev Rheumatol 6, 683-692, doi:10.1038/nrrheum.2010.176 (2010).
【文献】Stone, R. C. et al. Interferon regulatory factor 5 activation in monocytes of systemic lupus erythematosus patients is triggered by circulating autoantigens independent of type I interferons. Arthritis Rheum 64, 788-798, doi:10.1002/art.33395 (2012).
【文献】Savitsky, D. A. et al. Contribution of IRF5 in B cells to the development of murine SLE-like disease through its transcriptional control of the IgG2a locus. Proc Natl Acad Sci USA 107, 10154-10159, doi:10.1073/pnas.1005599107 (2010).
【文献】Ban, T. et al. Lyn Kinase Suppresses the Transcriptional Activity of IRF5 in the TLR-MyD88 Pathway to Restrain the Development of Autoimmunity. Immunity 45, 319-332, doi:10.1016/j.immuni.2016.07.015 (2016).
【文献】Ban, T. et al. Regulation and role of the transcription factor IRF5 in innate immune responses and systemic lupus erythematosus. Int Immunol 30, 529-536, doi:10.1093/intimm/dxy032 (2018).
【文献】Tang, L. et al. Association between IRF5 polymorphisms and autoimmune diseases: a meta-analysis. Genet Mol Res 13, 4473-4485, doi:10.4238/2014.June.16.6 (2014).
【文献】Eames, H. L. et al. Interferon regulatory factor 5 in human autoimmunity and murine models of autoimmune disease. Transl Res 167, 167-182, doi:10.1016/j.trsl.2015.06.018 (2016).
【文献】Masuda, T. et al. Transcription factor IRF5 drives P2X4R+-reactive microglia gating neuropathic pain. Nat Commun 5, 3771, doi:10.1038/ncomms4771 (2014).
【文献】Sato G. R. et al. Phos-tag Immunoblot Analysis for Detecting IRF5 Phosphorylation. Bio-Protocol 7, doi:ARTN e2295, doi:10.21769/BioProtoc.2295 (2017).
【文献】Zhao, Y. et al. Microbial recognition by GEF-H1 controls IKKε mediated activation of IRF5. Nat Commun, 10, 1349, doi:10.1038/s41467-019-09283-x (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
IRF5の阻害方法を開発することで、SLEの新規治療法につながることが期待される。さらに、IRF5を標的とした治療法は、シェーグレン症候群や全身性強皮症などのSLE以外の自己免疫疾患、ならびに神経因性疼痛などの疾患にも適用できる可能性がある。この治療法の適用症例選択や予後評価には、IRF5の活性化状態を評価できる方法が必要である。しかしながら、上述したように、IRF5の活性化に重要な特定のセリン残基のリン酸化を特異的に認識する抗リン酸化IRF5モノクローナル抗体はこれまでに報告されていない。
【0008】
従って、本発明の目的は、上記した特定のセリン残基がリン酸化した活性型のIRF5を、該セリン残基がリン酸化していない非活性型のIRF5と区別して認識できるモノクローナル抗体を確立し、IRF5の活性化状態を評価できる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、上記した特定のセリン残基がリン酸化した活性型のIRF5を特異的に認識できるモノクローナル抗体の確立を目指し、ヒトIRF5アイソフォームbの配列を利用して、S446リン酸化型IRF5に対する反応性を有するポリクローナル抗体を誘導できたウサギの脾臓細胞より重鎖及び軽鎖可変領域の遺伝子をクローニングし、一本鎖抗体 (single chain fragment of variable region; scFv) を提示するファージライブラリーを作製し、S446リン酸化型のIRF5部分ペプチド及びS446リン酸化型のIRF5タンパク質を用いてパニングを行なうことにより、S446がリン酸化した活性型のIRF5を特異的に認識できるモノクローナル抗体の作出に成功し、当該モノクローナル抗体の相補性決定領域 (complementarity-determining region; CDR) 配列を決定することにより、本願発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、活性型のIRF5タンパク質に結合し、非活性型のIRF5タンパク質には検出可能なレベルで結合しない、モノクローナル抗体又は抗体断片であって、配列番号2に示すアミノ酸配列のCDR1、配列番号3に示すアミノ酸配列のCDR2、及び配列番号4に示すアミノ酸配列のCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号6に示すアミノ酸配列のCDR1、配列番号7に示すアミノ酸配列のCDR2、及び配列番号8に示すアミノ酸配列のCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、モノクローナル抗体又は抗体断片を提供する。
【0011】
また、本発明は、上記本発明のモノクローナル抗体又は抗体断片を、IRF5タンパク質を含む試料と接触させ、前記活性型のIRF5タンパク質を免疫学的に検出することを含む、IRF5タンパク質の活性化状態を解析する方法を提供する。
【0012】
さらに、本発明は、上記本発明のモノクローナル抗体又は抗体断片を含む、活性型IRF5タンパク質の検出キットを提供する。
【0013】
さらに、本発明は、活性型のIRF5タンパク質に結合し、非活性型のIRF5タンパク質には検出可能なレベルで結合しない、モノクローナル抗体又は抗体断片の作製方法であって、
リン酸化型IRF5ペプチドで非ヒト動物を8回以上免疫する、免疫工程;
免疫後の非ヒト動物のB細胞より、重鎖可変領域をコードするcDNA及び軽鎖可変領域をコードするcDNAを調製してscFv遺伝子又はFab遺伝子を調製し、これをファージ用プラスミドベクターに組み込んでscFv又はFabを発現するベクターのライブラリーを作製し、ファージディスプレイ法により各scFv又は各Fabを表面に提示するファージのライブラリーを作製する、ファージライブラリー作製工程;並びに
リン酸化型IRF5ペプチド及び非リン酸化型IRF5ペプチドを用いたポジティブ及びネガティブセレクションに加え活性型IRF5タンパク質及び非活性型IRF5タンパク質を用いたポジティブ及びネガティブセレクションも行うことにより、リン酸化型IRF5ペプチド及び活性型IRF5タンパク質への特異的結合性が高いファージを濃縮する、パニング工程
を含み、前記IRF5ペプチドは、ヒトIRF5アイソフォームb(配列番号17)の第446番セリンに相当するセリン残基を含む、IRF5タンパク質の部分配列又は該部分配列のC末端又はN末端にIRF5タンパク質の配列に由来しない1~5個の残基が付加された配列からなるペプチドであり、リン酸化型IRF5ペプチドは、前記IRF5ペプチドにおいて前記第446番セリンに相当するセリン残基がリン酸化されたペプチドである、方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、活性型のIRF5タンパク質を非活性型のIRF5タンパク質と区別して認識できるモノクローナル抗体が初めて提供される。本発明のモノクローナル抗体又は抗体断片は、IRF5の活性化に重要な特定のセリン残基のリン酸化を特異的に認識できるので、IRF5の活性化状態を従来技術よりも正確に解析できる。モノクローナルであるので、再現性は非常に高く、安定した検出結果を得ることができる。IRF5の活性化は、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、全身性強皮症等の種々の自己免疫疾患の他、神経障害性疼痛、感染症、がん等の様々な疾患に関与することが知られている。本発明によりIRF5の活性化状態を解析することで、IRF5関連疾患の重篤度や予後を評価できる。また、IRF5の活性化を抑制する薬剤が開発されIRF5関連疾患の治療薬として確立された場合には、IRF5の活性化状態を解析することで、当該治療薬を適用すべき患者を選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】抗活性型IRF5モノクローナル抗体の作製工程の概要である。
図2】H鎖用ベクター(ウサギIgGの定常領域配列を挿入済みのpEHX1.1プラスミド)に組み込んだVH鎖の塩基配列(配列番号9)、およびこれにコードされるアミノ酸配列(配列番号10)である。網掛け部分のアミノ酸配列はシグナル配列、枠線で囲まれたアミノ酸配列はCDR1, CDR2, CDR3を示す。クローニングしたscFv発現ベクターをテンプレートに、ポリメラーゼ連鎖反応 (polymerase chain reaction; PCR) によりシグナル配列および制限酵素認識配列を付加しながらVH鎖を増幅し、これを制限酵素HindIIIとBspEIで消化してH鎖用ベクターに挿入した。
図3】L鎖用ベクター(pELX2.2)に組み込んだL鎖の塩基配列(配列番号11)、およびこれにコードされるアミノ酸配列(配列番号12)である。網掛け部分のアミノ酸配列はシグナル配列、枠線で囲まれたアミノ酸配列はCDR1, CDR2, CDR3を示す。クローニングしたscFv発現ベクターをテンプレートに、PCRによりシグナル配列および制限酵素認識配列を付加しながらVL鎖を増幅した後、κ鎖定常領域を付加してVL-Cκフラグメントを調製し、これを制限酵素HindIIIとXbaIで消化してL鎖用ベクターに挿入した。
図4】抗pS446型IRF5モノクローナル抗体の結合活性を評価した結果である。抗pS446型IRF5モノクローナル抗体 (p-IRF5 mAb) および正常ウサギIgG (control IgG) の、IRF5ペプチドおよび可溶化IRF5タンパク質 (いずれも非リン酸化型あるいはS446リン酸化型を使用した) に対する結合活性を、抗体濃度3点 (0.1, 0.5および2.5 μg/mL) についてELISAにより評価した。
図5】ヒト免疫細胞株における内因性リン酸化IRF5の解析結果である。野生型 (WT) あるいはIRF5欠損 (KO) のCAL-1細胞を未処理 (-) または3 μMのR-848で2時間刺激し、glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase (GAPDH)、IRF5およびリン酸化型IRF5 (p-IRF5) のタンパク質発現をイムノブロッティング (IB) で解析した。
図6】ヒトプライマリー免疫細胞における内因性リン酸化IRF5の解析結果である。健常者ボランティアの末梢血から分離したPBMCを3 μMのR-848で2時間刺激し、GAPDH、IRF5およびリン酸化IRF5 (p-IRF5) のタンパク質発現をイムノブロッティング (IB) で解析した。
図7】マウスプライマリー免疫細胞における内因性リン酸化IRF5の解析結果である。野生型 (WT) およびIRF5欠損 (Irf5-/-) マウス由来の脾臓細胞を3 μMのR-848または0.15 μMのCpG-Bオリゴデオキシヌクレオチド (oligodeoxynucleotides; ODN) で2時間刺激し、GAPDH、IRF5およびリン酸化IRF5 (p-IRF5) のタンパク質発現をイムノブロッティング (IB) で解析した。
図8】ヒトプライマリー免疫細胞におけるリン酸化IRF5陽性細胞集団の解析結果である。ヒトPBMCを3 μMのR-848で2時間刺激し、各細胞種におけるIRF5リン酸化をフローサイトメトリーにより解析した。(A) B細胞、単球 (Mo)、pDCおよびcDCのゲーティング方法を示す。左のパネルはダブレット除去後の細胞の中での割合を表す。(B) 各細胞種におけるIRF5のリン酸化を本抗体 (anti-p-IRF5) または正常ウサギIgGを用いて解析した。
図9】SLEモデルマウスにおけるリン酸化IRF5の解析結果である。野生型マウスはC57BL/6J (B6)、SLEモデルマウスはLyn欠損 (Lyn-/-) マウスおよびNZB/W F1 (BWF1) マウスを用いた (メス、18-20週齢)。マウス2-3匹分の脾臓細胞をひとつにプールしてからCD11c+細胞を単離し、IRF5およびリン酸化IRF5 (p-IRF5) のタンパク質発現をイムノブロッティング (IB) で解析した。それぞれの系統で2つのプール (#1と#2) のデータを示す。
図10-1】ヒトIRF5及びマウスIRF5の代表的なアイソフォームのアミノ酸配列のアライメントである。
図10-2】ヒトIRF5及びマウスIRF5の代表的なアイソフォームのアミノ酸配列のアライメントである(図10-1の続き)。枠で囲んだ部分領域は、実施例においてIRF5部分ペプチドに採用した領域であり、白抜き文字で示したSがIRF5の活性化に重要なセリン残基である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において、活性型のIRF5タンパク質とは、活性化に重要な特定のセリン残基がリン酸化したIRF5タンパク質を意味し、非活性型のIRF5タンパク質とは、当該特定のセリン残基がリン酸化していないIRF5タンパク質を意味する。この特定のセリン残基は、ヒトIRF5アイソフォームbのアミノ酸配列(配列番号17)においては第446番目の残基である。図10には、ヒトとマウスにおける代表的なIRF5のアイソフォームのアミノ酸配列のアライメントを示した。図10-2中で白抜き文字で示したSが当該特定のセリン残基であり、各アミノ酸配列中では以下の位置に存在する。
【0017】
ヒト:
isoform b (NP_001092097、配列番号17): 446番目
isoform d (NP_001092099、配列番号26): 462番目
isoform e (NP_001229381、配列番号28): 360番目
variant 4 (AAR90326、配列番号30): 436番目
マウス:
isoform 1 (NP_001239311、配列番号32): 454番目
isoform 2 (NP_036187、配列番号34): 445番目
isoform 3 (NP_001298012、配列番号36): 445番目
【0018】
「ヒトIRF5アイソフォームb(配列番号17)の第446番セリンに相当するセリン残基」という語は、ヒトIRF5アイソフォームb、及びこれ以外のIRF5タンパク質における、上記した特定のセリン残基を指す語である。従って、「ヒトIRF5アイソフォームb(配列番号17)の第446番セリンに相当するセリン残基がリン酸化したIRF5タンパク質」という語には、第446番セリンがリン酸化したヒトIRF5アイソフォームb、第462番セリンがリン酸化したヒトIRF5アイソフォームd、第360番セリンがリン酸化したヒトIRF5アイソフォームe、第436番セリンがリン酸化したヒトIRF5バリアント4、第454番セリンがリン酸化したマウスIRF5アイソフォーム1、第445番セリンがリン酸化したマウスIRF5アイソフォーム2、及び第445番セリンがリン酸化したマウスIRF5アイソフォーム3が包含される。ヒト及びマウスでは、図10に例示したもの以外にも様々なアイソフォームが知られており、ヒト及びマウス以外の動物のIRF5も種々知られている。それらのIRF5タンパク質のアミノ酸配列も、GenBank等のデータベースに登録されており、容易に入手できる。図10に例示したもの以外のIRF5タンパク質において、ヒトIRF5アイソフォームbの第446番セリンに相当するセリン残基は、そのIRF5タンパク質のアミノ酸配列と配列番号17のアミノ酸配列をClustalW等の公知のアルゴリズムを用いて整列化することで容易に特定できる。
【0019】
本発明のモノクローナル抗体は、活性型のIRF5タンパク質に結合し、非活性型のIRF5タンパク質には検出可能なレベルで結合しないモノクローナル抗体である。活性型のIRF5、非活性型のIRF5の定義は上記した通りである。このような結合性を、活性型IRF5への特異的結合性とよぶ。また、このような結合性を有する抗体を「抗活性型IRF5抗体」とも表現する。
【0020】
本発明の抗活性型IRF5モノクローナル抗体は、配列番号2に示すアミノ酸配列のCDR1、配列番号3に示すアミノ酸配列のCDR2、及び配列番号4に示すアミノ酸配列のCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号6に示すアミノ酸配列のCDR1、配列番号7に示すアミノ酸配列のCDR2、及び配列番号8に示すアミノ酸配列のCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0021】
本発明のモノクローナル抗体は、活性型IRF5への特異的結合性を有する限り、可変領域全体の配列はいかなる配列であってもよい。CDRは抗原に対する抗体の特異性を決定する領域であり、配列番号2~4に示す重鎖CDR配列と、配列番号6~8に示す軽鎖CDR配列を有していれば、活性型IRF5への特異的結合性を発揮できるといえるため、フレームワーク領域の配列は特に限定されない。本発明のモノクローナル抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列の一例として、配列番号1及び配列番号5に示すアミノ酸配列をそれぞれ挙げることができるが、本発明の範囲はこれらの配列に限定されるものではない。定常領域の配列にも何ら制限はない。
【0022】
本発明の抗体断片は、活性型IRF5への特異的結合性を有している限り、いかなる断片であってもよい。具体例として、Fab断片、F(ab')2断片、さらには一本鎖可変領域ないし一本鎖抗体(scFv)を挙げることができるが、これらに限定されない。Fab断片やF(ab')2断片は、周知の通り、モノクローナル抗体をパパインやペプシンのようなタンパク分解酵素で処理することにより得ることができる。scFvの作製方法も周知である。簡単に記載すると、活性型IRF5への特異的結合性を有する抗体を産生する細胞(ハイブリドーマ等)からmRNAを抽出して逆転写によりcDNAを調製し、免疫グロブリンH鎖及びL鎖に特異的なプライマーを用いてPCRを行ないH鎖遺伝子及びL鎖遺伝子を増幅し、これらをリンカーで連結し、適切な制限酵素部位を付与してプラスミドベクターに導入し、該ベクターで大腸菌、酵母、動物細胞等の宿主細胞を形質転換し、宿主細胞からscFvを回収することにより、scFvを作製することができる。本発明の抗体断片として、後述するファージディスプレイ法を利用した作製方法により活性型IRF5への特異的結合性を有するscFvを作製する場合には、当該特異的結合性が確認された候補クローンよりscFv発現ベクターを回収できるので、必要に応じscFv遺伝子を他の適当なベクターに入れ替えて宿主細胞に導入し、scFvを発現させて回収すればよい。
【0023】
本発明の抗活性型IRF5モノクローナル抗体によれば、IRF5タンパク質の活性化状態(上記した特定のセリン残基がリン酸化している活性型IRF5がどれくらいのレベルで存在するか、すなわちIRF5がどれだけ活性化しているか)を解析することができる。IRF5タンパク質の活性化状態を解析する方法は、本発明のモノクローナル抗体又は抗体断片を、IRF5タンパク質を含む試料と接触させ、活性型IRF5タンパク質を免疫学的に検出することを含む。「検出」という語には、定性的検出と定量的検出が包含され、定量的検出には相対定量、絶対定量及び半定量が包含される。
【0024】
目的タンパク質を免疫学的に検出するイムノアッセイの手法自体はこの分野において周知である。イムノアッセイ法を反応形式に基づき分類すると、サンドイッチ法、競合法、凝集法等があり、標識に基づき分類すると、酵素免疫分析、放射免疫分析、蛍光免疫分析等がある。IRF5タンパク質の活性化状態の解析では、これらのイムノアッセイ法のいずれを採用してもよい。好ましく採用できる手法の具体例を挙げると、化学発光酵素免疫測定法(chemiluminescent enzyme immunoassay; CLEIA)、酵素結合免疫吸着法(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay; ELISA)、ラジオイムノアッセイ、電気化学発光免疫測定法等のサンドイッチ法や、ウエスタンブロッティング、免疫沈降などの他、蛍光標識したモノクローナル抗体を用いて標的細胞(本発明の場合は活性型IRF5を有する細胞)を特定し分析するフローサイトメトリーを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0025】
各イムノアッセイ法に必要な試薬類も周知であり、用いる抗体が本発明のモノクローナル抗体又は抗体断片であること以外は、通常のイムノアッセイキットを用いて活性型IRF5タンパク質の免疫学的検出を行なうことができる。すなわち、本発明は、上記した本発明の抗体又は抗体断片を含む、活性型IRF5タンパク質の検出キットも提供する。本発明の抗体又は抗体断片以外でキットに含まれる試薬類は、公知の通常のイムノアッセイキットと同様で良い。
【0026】
IRF5を含む試料は、ヒトやマウス等の動物から分離された生体由来試料であってもよい。IRF5は、単球、B細胞、樹状細胞などの各種免疫細胞で発現しているので、IRF5を含む生体由来試料の例としては、末梢血などの血液試料(例えば末梢血単核球試料)、脾臓細胞試料、腎臓細胞試料、リンパ節細胞試料、骨髄細胞試料等を挙げることができる。
【0027】
IRF5を含む生体由来試料は、IRF5の活性化が関与する疾患を有する患者、又はそのような疾患を有するおそれのある患者から分離された試料であってもよい。IRF5の活性化が関与する疾患(以下、「IRF5関連疾患」という)として、全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群、全身性強皮症等の種々の自己免疫疾患(非特許文献9~12等)、神経障害性疼痛(非特許文献14等)、感染症(Barnes et al. J Biol Chem 276, 23382-23390, doi:10.1074/jbc.M101216200 (2001)等)、がん(Yanai et al. Proc Natl Acad Sci USA 104, 3402-3407, doi:10.1073/pnas.0611559104 (2007)等)等が知られている。そのような患者から分離された試料を用いて、IRF5タンパク質の活性化状態を解析することにより、IRF5関連疾患の重篤度や予後を評価することができる。また、将来的にIRF5の活性化を抑制する薬剤が開発され、IRF5関連疾患の治療薬が開発された場合には、本発明によりIRF5タンパク質の活性化状態を解析することで、当該治療薬を適用すべき患者を選択することができる。また、SLEモデルマウスや神経障害性疼痛のモデルマウスなど、種々のモデル動物が知られており、IRF5を含む生体由来試料はそのようなモデル動物から分離された試料であってもよいし、愛玩動物などの、モデル動物ではない非ヒト動物から分離された試料であってもよい。
【0028】
活性型IRF5に特異的に結合するモノクローナル抗体又は抗体断片は、以下の工程を含む方法で作製することができる。
【0029】
リン酸化型IRF5ペプチドで非ヒト動物を免疫する工程(免疫工程)。
免疫後の非ヒト動物のB細胞より、重鎖可変領域をコードするcDNA及び軽鎖可変領域をコードするcDNAを調製してscFv遺伝子又はFab断片遺伝子を調製し、これをファージ用プラスミドベクターに組み込んでscFv又はFabを発現するベクターのライブラリーを作製し、ファージディスプレイ法により各scFv又は各Fabを表面に提示するファージのライブラリーを作製する工程(ファージライブラリー作製工程)。
リン酸化型IRF5ペプチド及び活性型ヒトIRF5タンパク質を用いたポジティブセレクション、並びに非リン酸化型IRF5ペプチド及び非活性型ヒトIRF5タンパク質を用いたネガティブセレクションにより、リン酸化型IRF5ペプチド及び活性型ヒトIRF5タンパク質への特異的結合性が高いファージを濃縮する工程(パニング工程)。
【0030】
<免疫工程>
非ヒト動物(ウサギ、マウス、ラット等)をリン酸化型IRF5ペプチドで免疫する。IRF5ペプチドとは、ヒトIRF5アイソフォームb(配列番号17)の第446番セリン(S446)に相当するセリン残基を含む、IRF5タンパク質の部分配列から本質的になるペプチドである。リン酸化型IRF5ペプチドとは、IRF5ペプチドにおいて当該S446に相当するセリン残基がリン酸化されたペプチドである。また、後の工程で用いる非リン酸化型IRF5ペプチドとは、当該S446に相当するセリン残基がリン酸化されていないIRF5ペプチドであり、例えば、リン酸化された残基を含まないIRF5ペプチドであり得る。
【0031】
IRF5ペプチドの一例として、LQISNPD(配列番号24)を含むIRF5タンパク質部分配列から本質的になる、7~40残基のサイズのペプチドを挙げることができる。LQISNPD(配列番号24)は、配列番号17に示したヒトIRF5アイソフォームbのアミノ酸配列では第443番~第449番アミノ酸の領域であり、LQISNPDの4番目のSがヒトIRF5アイソフォームbのS446に相当する。従って、この一例において、リン酸化型IRF5ペプチドは、LQISNPDの4番目のSがリン酸化されたIRF5ペプチドである。
【0032】
より好ましく使用し得るIRF5ペプチドの例として、SIRLQISNPDLKD(配列番号23)を含むIRF5タンパク質部分配列から本質的になる、13~40残基のサイズのペプチドを挙げることができる。SIRLQISNPDLKD(配列番号23)は、配列番号17に示したヒトIRF5アイソフォームbのアミノ酸配列では第440番~第452番アミノ酸の領域であり、SIRLQISNPDLKDの7番目のSがヒトIRF5アイソフォームbのS446に相当する。従って、この例において、リン酸化型IRF5ペプチドは、SIRLQISNPDLKDの7番目のSがリン酸化されたIRF5ペプチドである。
【0033】
リン酸化型及び非リン酸化型のいずれも、IRF5ペプチドは、ビオチン化等の修飾や他のタンパク質との結合の便宜のため、末端に適当な残基を付加した形態であってよい。例えば、ビオチン化のためには一般的にLys残基が、キャリアタンパク質との結合のためにはCys残基(MBS法による場合)が、ペプチド末端に付加される。「IRF5タンパク質の部分配列から本質的になるペプチド」という語には、IRF5の部分配列からなるペプチドの他、ペプチドの加工の便宜等の目的で、IRF5タンパク質の配列に由来しない少数(1~数個、例えば1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、又は1個)の残基がIRF5部分配列のC末端又はN末端に付加された構造のペプチドが包含される。
【0034】
リン酸化型IRF5ペプチド、非リン酸化型IRF5ペプチドは、常法の化学合成により調製できる。リン酸化型IRF5ペプチドは比較的短いペプチドであるため、非ヒト動物に免疫する際には通常、キーホールリンペットヘモシアニン、ウシサイログロブリン、ウシ血清アルブミン等のキャリアタンパク質と結合させたものを免疫原として用いる。また、免疫に用いるリン酸化型IRF5ペプチドは、純度が十分に高いものを用いることが望ましい。純度85%以上、例えば87%以上、特に90%以上のペプチドであれば、非ヒト動物の体内でリン酸化型ペプチドに対する抗体を十分に誘導することができる。
【0035】
リン酸化型IRF5ペプチドでの免疫回数は特に限定されないが、免疫回数を多くすることで十分な抗体誘導を達成しやすくなるので、例えば6回以上、7回以上、又は8回以上としてよい。
【0036】
<ファージライブラリー作製工程>
リン酸化型IRF5ペプチドで免疫された非ヒト動物のB細胞は、例えば脾臓や末梢血から採取できる。マウスやウサギ等の小型の非ヒト動物を用いる場合には、脾臓細胞をB細胞として用いるのが一般的である。脾臓細胞又は末梢血リンパ球よりmRNAを抽出し、逆転写反応によりcDNAを合成し、重鎖可変領域を含む領域をコードするcDNA(VH cDNA)及び軽鎖可変領域を含む領域をコードするcDNA(VL cDNA)をPCRにより網羅的に増幅すればよい。Fab領域をファージに提示させたい場合には、重鎖可変領域及び重鎖定常領域1をコードするcDNAと、軽鎖可変領域及び軽鎖定常領域をコードするcDNAをPCRにより網羅的に増幅すればよい。scFvをファージに提示させたい場合には、重鎖可変領域をコードするcDNAと、軽鎖可変領域をコードするcDNAを網羅的に増幅すればよく、定常領域をコードする配列は不要である。抗体の可変領域を網羅的に増幅するためのプライマーは公知である(例えば、Marks, J. D. et al. J Mol Biol 222, 581-597 (1991); Welschof, M. et al. J Immunol Methods 179, 203-214 (1995); Welschof, M. et al. Methods Mol Med 13, 593-603 (1998); Orlandi, R. et al. Proc Natl Acad Sci USA 86 3833-3837 (1989); Marks, J. D. et al. Eur J Immunol 21 985-991 (1991); Campbell, M. J. et al. Mol Immunol 29, 193-203 (1992); Barbas III, C. F. et al. Proc Natl Acad Sci USA 88, 7978-7982 (1991))。
【0037】
次いで、増幅したVH cDNA及びVL cDNAを、常法のアセンブリPCRないしはFusion PCRにより連結し、scFv又はFab断片をコードするDNA(scFv遺伝子又はFab断片遺伝子)を調製する。VH cDNA及びVL cDNAを増幅する際に、適当なリンカーペプチド配列に対応するDNAを付加したプライマーを用いてPCRを行ない、得られたVH cDNA増幅断片及びVL cDNA増幅断片をアセンブリPCRないしはFusion PCRにより連結すればよい。これにより、リンカーをコードするDNAを介してVH cDNAとVL cDNAがランダムに連結されたscFv遺伝子又はFab断片遺伝子が得られる。5'-[VH cDNA]-[リンカーDNA]-[VL cDNA]-3'の順序で連結されたscFv遺伝子又はFab断片遺伝子と、5'-[VL cDNA]-[リンカーDNA]-[VH cDNA]-3'の順序で連結されたscFv遺伝子又はFab断片遺伝子の両者を調製してもよい。
【0038】
次いで、調製したscFv遺伝子又はFab断片遺伝子をファージ用プラスミドベクターに組み込み、scFv又はFab断片を発現するベクターのライブラリー(scFv遺伝子ライブラリー、又はFab断片遺伝子ライブラリー)を作製した後、ファージディスプレイ法により各scFv又は各Fabを表面に提示するファージのライブラリーを作製する。ファージ用プラスミドベクターとしては、ファージ粒子を形成するために必要なファージ遺伝子が全て含まれ、単独でファージ粒子形成が可能なファージベクターと、g3p遺伝子を含むが他のファージタンパク質遺伝子を含まず、ファージ粒子形成のためにヘルパーファージを必要とするファージミドベクターの2種類があるが、ファージミドベクターを好ましく用いることができる。ファージミドベクターを用いて作製したscFv又はFab断片遺伝子ライブラリーを大腸菌に導入し、大腸菌にヘルパーファージを重感染させることにより、scFv又はFab断片遺伝子ライブラリーの個々のベクターがパッケージングされ、該ベクターが発現するscFv又はFabを表面に提示するファージのライブラリーを作製できる。
【0039】
<パニング工程>
ファージライブラリーのパニングでは、リン酸化型IRF5ペプチド及び活性型IRF5タンパク質を用いたポジティブセレクション、並びに非リン酸化型IRF5ペプチド及び非活性型IRF5タンパク質を用いたネガティブセレクションを行なう。免疫原としたペプチドだけではなく、IRF5タンパク質もセレクションに使用する。また、リン酸化型(活性型)への結合性によるポジティブセレクションだけではなく、非リン酸化型(非活性型)には結合しないファージをふるい落とすネガティブセレクションも行なう。これにより、リン酸化型IRF5ペプチド及び活性型ヒトIRF5タンパク質の両者への特異的結合性が高いファージクローンを効率よく濃縮することができる。
【0040】
パニング工程では、標的タンパク質(リン酸化型及び非リン酸化型のIRF5ペプチド、並びに活性型及び非活性型のヒトIRF5タンパク質)と固相を特異結合パートナー分子で修飾し、特異結合パートナー分子を介して固相化した標的タンパク質を用いることが好ましい。特異結合パートナー分子としては、ビオチンとストレプトアビジンを好ましく用いることができる。固相としては磁気ビーズを好ましく用いることができる。ポジティブセレクションでは、標的タンパク質に結合したファージを磁気により分離して回収する。ネガティブセレクションでは、標的タンパク質に結合したファージを磁気により分離して除去し、標的タンパク質に結合しなかったファージを回収すればよい。
【0041】
回収したファージを溶解し、パッケージングされていたベクターを回収して再度大腸菌に導入し、ヘルパーファージを重感染させてファージ粒子を再度形成させる。これらのファージ粒子に対して再度ポジティブセレクション及びネガティブセレクションを行なう。これらの操作を繰り返し、セレクションを複数ラウンド行なうことにより、リン酸化型(活性型)のペプチド及びタンパク質と特異的に且つ強く結合するファージクローンを十分に濃縮することができる。
【0042】
パニング工程で用いるリン酸化型及び非リン酸化型のIRF5ペプチドは、任意の付加残基が、免疫工程で用いたリン酸化型IRF5ペプチドと異なっていてよい。任意の付加残基以外のアミノ酸配列、すなわち、IRF5タンパク質の部分配列に該当する部分のアミノ酸配列は、免疫工程で用いたリン酸化型IRF5ペプチドと同一とすることが好ましいが、数残基程度の相違(例えば、IRF5タンパク質に由来する部分が、免疫工程で用いたペプチドよりも数残基長い等)があっても差し支えない。
【0043】
活性型IRF5タンパク質は、例えば、IKKβとIRF5を適当な細胞株中で強制発現させ、IKKβによりリン酸化されたIRF5タンパク質を回収すればよい。ヒトIRF5アイソフォームb(配列番号17)を利用する場合には、配列番号19に示したアミノ酸配列のヒトIKKβ(NP_001547)を用いればよい。ビオチン化したIRF5を細胞株中で強制発現させれば、細胞ライセートからストレプトアビジンによりリン酸化型(活性型)IRF5タンパク質を容易に回収・精製できる。非活性型IRF5タンパク質は、IRF5のみを適当な細胞株中で強制発現させて回収・精製すればよい。非活性型IRF5タンパク質は、リン酸化を全く受けていないタンパク質であってよい。ビオチン化タンパク質を細胞株中で発現させる技術は確立した技術である。ビオチン化タグ(細胞内でビオチン化される特殊なペプチド)を付加したIRF5のcDNAと、このビオチン化タグを認識するビオチンリガーゼのcDNAを同じ細胞内で発現させればよい。ビオチンリガーゼの作用により、IRF5に融合したビオチン化タグにビオチンが結合し、その結果細胞内でビオチン化IRF5が生成される。
【0044】
パニング工程で複数ラウンドのセレクションを経てファージを濃縮することにより、候補のscFv発現ベクター又はFab発現ベクターを有するファージを取得できるが、候補をさらに絞り込むため、パニング工程の後に下記のクローン選定工程を行ってもよい。また、活性型IRF5タンパク質に結合し、非活性型IRF5タンパク質には検出可能なレベルで結合しない抗体としてIgG抗体を調製したい場合には、候補のscFv又はFabをIgG化すればよい。活性型IRF5タンパク質に結合し、非活性型IRF5タンパク質には検出可能なレベルで結合しない抗体断片としてFabを調製したい場合には、候補のscFvをFab化するか、候補のFab断片をそのまま、あるいは適宜改変を加えて利用すればよい。
【0045】
<クローン選定工程>
クローン選定工程では、パニング工程により得られたファージよりscFv発現ベクターを回収し、該ベクターを大腸菌に導入してscFvを発現する大腸菌のクローンを調製し、得られたクローンについて、活性型IRF5タンパク質への反応性及び可変領域の配列を調べ、活性型IRF5タンパク質への特異的結合性が高いクローンを選定する。大腸菌クローンのスクリーニングは、例えば、活性型IRF5タンパク質を抗原としたELISAにより行なえばよく、リン酸化型IRF5ペプチドを抗原としたELISAを併せて行なってもよい。また、配列が同一ないし非常に類似した可変領域を有するクローンが複数存在している可能性があるため、VH及びVLの塩基配列を決定し、クローンの重複を確認してクローンのグルーピングを行なってもよい。これらの作業により、活性型IRF5タンパク質への特異的結合性が高いクローンを選定し、候補をさらに絞り込むことができる。
【0046】
<IgG化工程>
所望のVH鎖及びVL鎖からIgG抗体を作製するIgG化の技術は周知である。
scFv提示ファージライブラリーを作製してパニングを行なった場合には、候補のファージ又は大腸菌クローンよりscFv発現ベクターを回収し、これを鋳型としてVH及びVLをコードするポリヌクレオチドをそれぞれPCRにより増幅し、Fusion PCRにより可変領域に定常領域(VHに対してはIgGの重鎖定常領域1~3(CH1~CH3)、VLに対しては軽鎖可変領域(CL)であり、CLはκ鎖の定常領域(Cκ)でもλ鎖の定常領域(Cλ)でもよい)を付加したポリヌクレオチド断片を調製してプラスミドベクターに組み込むか、または可変領域と定常領域を順次プラスミドベクターに組み込むことにより、H鎖発現ベクター及びL鎖発現ベクターをそれぞれ構築できる。あるいは、CH1~CH3が組み込まれたH鎖発現用ベクター、及びCL(Cκ又はCλ)が組み込まれたL鎖発現用ベクターも広く知られており、市販品も存在するので、そのような公知のベクターを用いてもよい。構築したH鎖発現ベクター及びL鎖発現ベクターを、CHO細胞、HEK293細胞などの適当な宿主細胞中で共発現させることにより、目的のIgG抗体を得ることができる。あるいは、H鎖発現ベクター及びL鎖発現ベクターから必要な領域を切り出して連結してIgG抗体発現ベクターを構築し、これを宿主細胞中で発現させてもよい。宿主細胞中で発現させたIgG抗体は、例えばProtein A等を固定化したアフィニティーカラムを用いて常法により回収・精製できる。
Fab提示ファージライブラリーを作製してパニングを行なった場合には、候補のファージ又は大腸菌クローンより回収したFab発現ベクターを鋳型として、VH及びVLの領域のみを増幅してIgG化を行なってもよいし、あるいは、定常領域も含めて増幅し、不足する定常領域を付加してIgG化を行なってもよい。
【0047】
<Fab化工程>
scFvをFab化する技術も周知であり、CH1が組み込まれたIgG重鎖のFab領域部分を発現するためのベクターも広く知られており、市販品も存在する。そのような公知のベクターにVHのPCR増幅断片を挿入するか、又はFusion PCRによりVHにCH1を付加したポリヌクレオチド断片を調製してプラスミドベクターに組み込んで、H鎖Fab領域発現ベクターを調製できる。この発現ベクターと、上記のようにして構築したL鎖発現ベクターを、適当な宿主細胞中で共発現させることにより、目的のFab断片を得ることができる。あるいは、H鎖Fab領域発現ベクター及びL鎖発現ベクターから必要な領域を切り出して連結してFab発現ベクターを構築し、これを宿主細胞中で発現させてもよい。宿主細胞からのFabの回収には、Protein G等を固定化したアフィニティーカラムを用いて常法により回収・精製できる。
【実施例
【0048】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の略語は以下を意味する。
APC: アロフィコシアニンallophycocyanin
CD: 分化クラスターcluster of differentiation
CDR: 相補性決定領域complementarity-determining region
cDC: 古典的樹状細胞conventional dendritic cell
CHO: チャイニーズハムスター卵巣Chinese hamster ovary
EDTA: エチレンジアミン四酢酸ethylenediaminetetraacetic acid
ELISA: 酵素結合免疫吸着測定法enzyme-linked immunosorbent assay
FACS: 蛍光標識セルソーティングfluorescence-activated cell sorting
FBS: ウシ胎仔血清fetal bovine serum
GAPDH: glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase
HEK: ヒト胎児由来腎臓human embryonic kidney
HLA: ヒト白血球抗原human leukocyte antigen
HPLC: 高速液体クロマトグラフィーhigh-performance liquid chromatography
HRP: セイヨウワサビペルオキシダーゼhorseradish peroxidase
IB: イムノブロッティングimmunoblotting
Ig: 免疫グロブリンimmunoglobulin
IKKβ: inhibitor of nuclear factor κ-B kinase β
IRF5: interferon regulatory factor 5
mAb: モノクローナル抗体monoclonal antibody
NZB/W: ニュージーランドブラック/ホワイトNew Zealand Black/White
ODN: オリゴデオキシヌクレオチドoligodeoxynucleotides
PAGE: ポリアクリルアミドゲル電気泳動polyacrylamide gel electrophoresis
PBMC: 末梢血単核球peripheral blood mononuclear cell
PBS: リン酸緩衝生理食塩水phosphate buffered saline
PCR: ポリメラーゼ連鎖反応polymerase chain reaction
pDC: 形質細胞様樹状細胞plasmacytoid dendritic cell
PE: フィコエリトリンphycoerythrin
RIPA: 放射免疫沈降分析radioimmunoprecipitation assay
RPMI: ロズウェルパーク記念研究所Roswell Park Memorial Institute
scFv: 一本鎖抗体single-chain variable fragment
SDS: ドデシル硫酸ナトリウムsodium dodecyl sulfate
SLE: 全身性エリテマトーデスsystemic lupus erythematosus
TLR: トール様受容体Toll-like receptor
TMB: テトラメチルベンジジンtetramethylbenzidine
【0049】
以下の実験では、IRF5としてヒトIRF5 isoform bを利用した。そのため、活性化に重要なセリン残基をS446、活性型IRF5をpS446型IRF5と表記している。ヒトIRF5 isoform bのアミノ酸配列(RefSeq ID: NP_001092097)を配列番号17に、これをコードする塩基配列(NM_001098627)を配列番号16に示す。
【0050】
1.pS446型IRF5を特異的に認識するモノクローナル抗体の作出
S446がリン酸化していない非活性型のIRF5と区別してpS446型IRF5を認識できるモノクローナル抗体の確立を目指し、pS446型のIRF5部分ペプチドを免疫原として、ポリクローナル抗体の作出、ならびに腸間膜リンパ節法および脾臓法によるモノクローナル抗体の作出を試みた。方法(1)~(4)は、合計3社に抗体作製を委託して実施した。
【0051】
pS446型のIRF5部分ペプチドとして、配列番号17に示すヒトIRF5のアミノ酸配列中の第440番~第452番残基の領域の配列(SIRLQISNPDLKD、配列番号23)を含み、第446番セリンに該当するセリン残基がリン酸化された構造のリン酸化型ペプチド(SIRLQI(pS)NPDLKDC(配列番号20)、又はSIRLQI(pS)NPDLKDK(biotin)(配列番号21))を化学合成した。C末端にシステインを導入した配列番号20のペプチドにキャリアタンパク質を結合させたものを免疫原として使用した。ビオチン化したペプチドは、リン酸化型のものと非リン酸化型のものを合成し、モノクローナル抗体のスクリーニング及びポリクローナル抗体の精製に使用した。
【0052】
方法(1):ラット腸間膜リンパ節法
リン酸化型ペプチド(純度80%)をラットに2回免疫し、腸間膜リンパ節を用いてハイブリドーマを作製した。ハイブリドーマのスクリーニングは、リン酸化型ペプチド及び非リン酸化型ペプチド(配列番号21)を抗原としたELISAにより行なった。
【0053】
方法(2):マウス脾臓法
リン酸化型ペプチド(純度80%)をマウスに6回免疫し、脾臓を用いてハイブリドーマを作製した。ハイブリドーマのスクリーニングは方法(1)と同様に実施した。
【0054】
方法(3):ウサギポリクローナル抗体作製1
リン酸化型ペプチド(純度80%)をウサギに5回免疫し、血清を採取した。リン酸化型ペプチドを用いて血清から抗体をアフィニティー精製した後、非リン酸化型ペプチドを用いて非リン酸化型ペプチドに結合する抗体を吸収除去した。
【0055】
しかしながら、方法(1)~(3)のいずれでも、pS446型IRF5を特異的に認識できる抗体は得られなかった。
【0056】
次いで、下記方法(4)の通り、リン酸化型ペプチドを再合成してウサギポリクローナル抗体の作製を再度試みた。
【0057】
方法(4):ウサギポリクローナル抗体作製2
リン酸化型ペプチド(純度90%)をウサギに8回免疫し、血清を採取した。リン酸化型ペプチドを用いて血清から抗体をアフィニティー精製した後、非リン酸化型ペプチドを用いて非リン酸化型ペプチドに結合する抗体を吸収除去した。
【0058】
その結果、方法(4)により、ウェスタンブロッティング(WB)でpS446型IRF5のシグナルを検出できるポリクローナル抗体を得ることができた。方法(3)と方法(4)の相違点として、ペプチドの純度、免疫の回数が挙げられる。純度の高いペプチドを免疫原としたこと、および免疫の回数が多かったことのいずれか一方または両方が、目的のポリクローナル抗体の取得に寄与していると考えられる。
【0059】
ただし、方法(4)で得られたポリクローナル抗体は、WBでpS446のシグナルを検出できるものの、非特異シグナルも生じ、特異性に問題があった。そこで、方法(4)の通りに免疫し上記のポリクローナル抗体を産生するウサギの脾臓を用いて、抗体ファージディスプレイ法によるモノクローナル抗体の作出を試みたところ(方法(5))、抗pS446型IRF5モノクローナル抗体(以下、「本抗体」ということがある)の作製に成功した。
【0060】
方法(5):抗体ファージディスプレイ法によるモノクローナル抗体作製
作製工程の概要を図1に示す。ヒトIRF5部分領域由来のリン酸化型ペプチドおよび非リン酸化型ペプチドを用いたセレクションに加え、ヒトIRF5リコンビナントタンパク質のpS446型および非pS446型(S446非リン酸化型)を用いたセレクションも行なうことにより、pS446型IRF5を特異的に認識するモノクローナル抗体の作出に成功した。ウサギへの免疫~脾臓採取は、株式会社免疫生物研究所に委託して実施した。抗原ペプチド及びパニング用ペプチドの合成、scFv遺伝子ライブラリーの調製~IgG化した抗体の精製までの作業は、株式会社医学生物学研究所に委託して実施した。候補大腸菌クローン(scFv)の結合活性・特異性の評価に用いるIRF5発現細胞は本願発明者らが作製した。
【0061】
リン酸化型ペプチド [SIRLQI(pS)NPDLKDC(配列番号20)、純度90.1%] にキャリアタンパク質を結合させたものを免疫原として用い、ウサギに8回免疫した後、脾臓を採取した。
【0062】
脾臓からRNAを抽出した後、逆転写反応によりcDNAを合成し、これをテンプレートとしてPCRを行ない、VH鎖をコードするcDNA(VH cDNA)およびVL鎖をコードするcDNA(VL cDNA)を調製した。リンカーペプチド配列をコードするリンカーDNAを用いて、VH cDNAとVL cDNAをアセンブリPCRによりランダムに連結し、scFv遺伝子(5'-[VH cDNA]-[リンカーDNA]-[VL cDNA]-3'、5'-[VL cDNA]-[リンカーDNA]-[VH cDNA]-3')を調製した。scFv遺伝子をファージミドベクターに組み込み、scFv遺伝子ライブラリーを調製した。
【0063】
scFv遺伝子ライブラリーを大腸菌に形質転換後、ヘルパーファージを重感染させることにより、様々なscFvを表面に提示したファージのライブラリー(scFv抗体ファージライブラリー)を作製した。免疫したウサギ2匹の脾臓より、2種類のscFv遺伝子ライブラリーを調製し、最終的に2種類のscFv抗体ファージライブラリーを作製した。
【0064】
パニング工程では、ビオチン化したリン酸化型ペプチド[SIRLQI(pS)NPDLKDK(biotin)(配列番号21で7番目のセリンがリン酸化), 純度90.9%]およびビオチン化した非リン酸化ペプチド[配列: SIRLQISNPDLKDK(biotin)(配列番号21), 純度99.9%]を用いたポジティプおよびネガティブセレクションに加え、pS446型IRF5リコンビナントタンパク質およびS446非リン酸化型IRF5リコンビナントタンパク質を用いたポジティプおよびネガティブセレクションも行ない、リン酸化型ペプチドとpS446型リコンビナントタンパク質の両方に特異的に反応するscFv抗体を提示するファージを濃縮した。pS446型IRF5リコンビナントタンパク質は、ビオチン化IRF5およびIKKβ (RefSeq ID: NP_001547(配列番号19)、これをコードするポリヌクレオチド配列(NM_001556のCDSの配列)を配列番号18に示す) を強制発現させたHEK293T細胞のライセートからストレプトアビジンにより精製して得た。S446非リン酸化型IRF5リコンビナントタンパク質は、ビオチン化IRF5のみを強制発現させたHEK293T細胞のライセートからストレプトアビジンにより精製して得た。ビオチン化IRF5の強制発現では、17残基のビオチン化タグが付加したIRF5のcDNAと、このビオチン化タグを認識するビオチンリガーゼのcDNAを含むプラスミドベクターをHEK293T細胞に導入し、ビオチン化タグ付加IRF5とビオチンリガーゼを細胞内で発現させることにより、ビオチン化IRF5を生成させた。
【0065】
大腸菌コロニープレートを作製してscFv抗体のクローニングを行った後、192クローンの反応性評価とH鎖可変領域の配列解析・分類を行った。評価結果に基づき4クローンを選択し、IgG化を行った。VHおよびVL断片として、scFv発現ベクターをテンプレートに、PCRによりそれぞれシグナル配列および制限酵素認識配列を付加しながら増幅した。VLは続けてCκ(κ鎖の定常領域、配列番号13)を付加するfusion-PCRにてVL-Cκフラグメントを調製した。これらの遺伝子断片をそれぞれ2種類の制限酵素で処理し、予めウサギCH1, 2, 3遺伝子を組み込んだH鎖用ベクター (pEHX1.1, 東洋紡) およびL鎖用ベクター (pELX2.2, 東洋紡) へ各断片を組み込んだ。分泌シグナル配列はH鎖にMKHLWFFLLLVAAPRWVLS(配列番号14)、L鎖はMRLLAQLLGLLMLWVPGSSG(配列番号15)を使用した。H鎖ベクターおよびL鎖ベクターをシークエンシングし、正しい遺伝子断片が挿入できていることを確認した (図2、配列番号9、ならびに図3、配列番号11)。
【0066】
H鎖ベクターとL鎖ベクターを2種類の制限酵素で消化し、H鎖ベクターとL鎖ベクターを連結し、IgG抗体発現ベクターを作製した。これをCHO細胞へ導入し、ピューロマイシン選択により安定発現細胞を得た。最も反応性の高い1クローンについては、安定発現細胞の単クローン化を行った。培養上清を回収し、Protein Aを用いたアフィニティーカラムで精製を行った。以上で得られた精製IgGを抗pS446型IRF5モノクローナル抗体(本抗体)として以下の実験に用いた。
【0067】
本抗体のCDR配列は以下の通りであった。
重鎖可変領域:配列番号1
重鎖CDR1: DYIMI(配列番号2)
重鎖CDR2: TISSRGTTHYASWAKG(配列番号3)
重鎖CDR3: GISGSGYYNV(配列番号4)
軽鎖可変領域:配列番号5
軽鎖CDR1: QASENIYSGLA(配列番号6)
軽鎖CDR2: RASTLES(配列番号7)
軽鎖CDR3: QCATFVSTTYSNG(配列番号8)
【0068】
2.本抗体の結合活性評価および本抗体によるpS446型IRF5の検出
方法
ELISA
間接法により抗体の抗原への結合性を評価した。ペプチド抗原の場合は、ビオチン化したリン酸化型ペプチドまたはビオチン化した非リン酸化型ペプチドをPBS-T [1x PBS (pH 7.2), 0.05% Tween 20] で1 μg/mLに希釈し、Nunc Immobilizer Streptavidin 12X8 Strip (Thermo Fisher Scientific) の各ウェルに加えて4℃で1時間インキュベーションすることで固相化させた。可溶化タンパク質抗原の場合は、ビオチン化IRF5およびIKKβを強制発現させたHEK293T細胞またはビオチン化IRF5のみを強制発現させたHEK293T細胞をRIPAバッファー [50 mM Tris-HCl (pH 7.4), 150 mM NaCl, 0.1% SDS, 1% Nonidet P-40, 0.5% デオキシコール酸ナトリウム, cOmplete Mini EDTA-freeプロテアーゼ阻害剤カクテル (Roche), PhosSTOPホスファターゼ阻害剤カクテル (Roche)] で溶解して得られたライセートをNunc Immobilizer Streptavidin 12X8 Stripの各ウェルに加えて4℃で1時間インキュベーションすることで感作させた。ウェルの洗浄と抗体の希釈はPBS-Tを用いた。一次抗体 (抗pS446型IRF5モノクローナル抗体または正常ウサギIgG) ならびに二次抗体 (抗ウサギIgG-HRP標識, MBL, 5000倍希釈) の反応は室温1時間で行った。発色はTMBを基質として用い、室温で3分間反応させた。
【0069】
細胞培養
ヒト形質細胞様樹状細胞株であるCAL-1細胞1、ヒト末梢血単核球 (PBMC)、マウス脾臓細胞ならびにマウス脾臓CD11c+細胞は、10% FBSを含むRPMI培地 [RPMI 1640培地 (L-グルタミン・HEPES含有, ナカライテスク), 10% FBS, 100 U/mLペニシリンGカリウム (明治), 0.1 mg/mL硫酸ストレプトマイシン (明治), 50 mM 2-メルカプトエタノール (Sigma-Aldrich), 0.1 mM非必須アミノ酸 (Gibco), 1 mMピルビン酸ナトリウム (Gibco)] を用い、CO2インキュベーター (飽和水蒸気, 37℃, 5% CO2の条件下) で培養した。細胞刺激に用いたCpG-B ODN (CpG ODN 1668: 5'-TCCATGACGTTCCTGATGCT-3'(配列番号22), ホスホロチオエート骨格, HPLC精製) はユーロフィンジェノミクス、R-848はEnzo Life Sciencesより購入した。
【0070】
ヒトPBMCの単離
ヒトPBMCは密度勾配遠心法により単離した。SepMate-50チューブ (STEMCELL Technologies) に比重液であるLymphoprep (STEMCELL Technologies) を15 mL入れておき、そこに希釈した末梢血 [健常者ボランティアから採取した末梢血 (ヘパリン加血) に等量の2% FBS 含有PBSを加えて希釈したもの] を重層して遠心 (1200 x g, 4℃, 20分) を行った。分離した層のうちPBMC層を回収し、等量の2% FBS 含有PBSを加え、遠心 (300 x g, 4℃, 8分) を行った。細胞ペレットを2% FBS 含有PBSで1回洗浄後、10% FBS含有RPMI培地に懸濁し、速やかに刺激実験を行った。ヒト検体 (末梢血) を用いた解析は、横浜市立大学医学研究倫理委員会の審議・承認を経ており、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」や「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」を遵守して行った。
【0071】
マウス
Irf5遺伝子欠損 (Irf5-/-) およびLyn遺伝子欠損 (Lyn-/-) マウスの作製については既報の通りである2,3。NZB/W F1マウスは日本エスエルシー株式会社から購入した。野生型マウスはC57BL/6J系統を用いた。実験動物の使用については、横浜市立大学動物実験委員会での審議・承認を経て、「横浜市立大学における動物実験の実施に関する規程」を遵守して行った。
【0072】
マウス脾臓細胞の単離
安楽死させたマウスから脾臓を摘出し、1.5 mLの酵素混合液 [1.67 U/mL Liberase DL (Roche), 0.2 mg/mL DNase I (Roche)] を注入した後、解剖用ハサミで細切れにしてCO2インキュベーター (飽和水蒸気, 37℃, 5% CO2) で30分間インキュベーションした。酵素処理後の細胞懸濁液や細切れの脾臓をセルストレーナー (Corning, 70 μm) に移し、10 mLの2 mM EDTA含有PBSで洗浄しながら2.5 mLシリンジ (テルモ) のドロッパーですり潰した。細胞懸濁液を遠心 (300 x g, 4℃, 5分) し、上清を除去した。1 mLの赤血球溶解液 (155 mM NH4Cl, 10 mM KHCO3, 0.1 mM EDTA) で細胞を懸濁し室温で1分間静置した後、10 mLの10% FBS含有RPMI培地を添加し、遠心 (300 x g, 4℃, 5分) した。 上清を除去し、細胞ペレットを10% FBS含有RPMI培地に懸濁した後、セルストレーナーを通して新しいチューブに移動した。単離した脾臓細胞は速やかに刺激実験に用いた。
【0073】
マウス脾臓CD11c+細胞の単離
SLEモデルマウスにおける活性型IRF5タンパク質の分解を避けるために、マウス脾臓細胞を酵素処理なしで速やかに単離した。脾臓細胞からCD11c+細胞の単離は抗マウスCD11c抗体マイクロビーズ (Miltenyi Biotec) を用い、取扱説明書に従って行った。簡潔に述べると、抗CD16/32抗体 (BioLegend, clone93) を用いてFc受容体をブロッキングし、抗CD11c抗体マイクロビーズと反応させた後、autoMACS Pro Separator (Miltenyi Biotec) を用いPOSSEL_DプログラムでCD11c+細胞を単離した。
【0074】
イムノブロッティング
細胞はRIPAバッファーで溶解してライセートを調製した。SDS-PAGEはLaemmli法を基本にして行い、泳動後のゲルはセミドライ式ブロッティング装置を用いてメンブレンへ転写した。メンブレンの洗浄はTBS-T [25 mM Tris-HCl (pH7.4), 3 mM KCl, 140 mM NaCl, 0.05% Tween 20]、ブロッキングならびに抗体の希釈は5%スキムミルクを含むTBS-Tで行った。一次抗体は本抗体 (0.2 μg/mL) に加え、抗GAPDH抗体 (Abcam, clone 6C5; 0.05 μg/mL)、抗IRF5抗体 (Abcam, ab21689; 0.2 μg/mL) または抗IRF5抗体 (Abcam, clone EPR17067; 1.0 μg/mL)、二次抗体は抗マウスIgG-HRP (GE Healthcare; 20,000倍希釈) または抗ウサギIgG-HRP (GE Healthcare; 20,000倍希釈) を使用した。化学発光反応はECL Prime (GE Healthcare) またはImmunoStar LD (和光純薬) を基質に用い、ImageQuant LAS 4000 mini (GE Healthcare) により検出した。
【0075】
フローサイトメトリー
本抗体を用いて細胞内染色を行った。細胞を回収し、遠心 (300 x g, 4℃, 5分) して上清を除去した後、細胞ペレットを細胞表面染色用ブロッキングバッファー (1x PBS, 10%正常ヒト血清, 2% FBS) に懸濁し、氷上で10分間静置した。細胞表面マーカーに対する抗体 (PE-Cy7標識抗体を除く) の混合液を添加し、氷上で15分間静置した。タッピングで撹拌し、さらに15分間静置した (合計30分間の抗体反応)。2% FBS含有PBSを添加してから遠心 (300 x g, 4℃, 5分) して上清を除去し、細胞ペレットを2%FBS含有PBSで懸濁した後、等量の37℃に温めたBD Cytofix Buffer (BD Biosciences) を添加し、37℃で10分間振盪した。遠心 (400 x g, 4℃, 5分) して上清を除去した後、細胞ペレットをボルテックスで崩しながらBD Phosflow Perm Buffer III (BD Biosciences) を添加し、氷上で30分間静置した。2% FBS含有PBSを添加してから遠心 (400 x g, 4℃, 5分) して上清を除去した。この洗浄操作をもう一度行った (合計2回の洗浄)。細胞ペレットを細胞内用ブロッキングバッファー (5%スキムミルク含有TBS-T) に懸濁し、室温で30分間振盪した。細胞内染色用ブロッキングバッファーで希釈した一次抗体を添加し、室温で1時間振盪した。遠心 (400 x g, 4℃, 5分) して上清を除去した後、細胞ペレットをTBS-Tで懸濁し、室温で5分間振盪した。再度遠心と上清除去を行った (合計2回の洗浄)。細胞ペレットに、細胞内染色用ブロッキングバッファーで希釈した二次抗体またはPE-Cy7標識の細胞表面染色用の抗体を添加し、室温で1時間振盪した。洗浄を2回行った後、細胞ペレットを2% FBS含有PBSに懸濁してからメッシュに通しながらFACSチューブに移動した。解析はBD FACSCanto IIフローサイトメーター (BD Biosciences) により行った。細胞表面染色用の抗体はAPC標識抗CD14抗体 (BioLegend, clone M5E2)、APC-Cy7標識抗CD1c抗体 (BioLegend, clone L161)、Brilliant Violet 421標識抗CD16抗体 (BioLegend)、Alexa Fluor 488標識抗CD303抗体 (BioLegend, clone 201A)、Brilliant Violet 510標識抗CD19抗体 (BioLegend, clone HIB19) ならびにPE-Cy7標識抗HLA-DR抗体 (BioLegend, clone L243)を用いた。細胞内染色の一次抗体は本抗体または正常ウサギIgG (Cell Signaling Technology) を終濃度1 μg/mLで、二次抗体はPE標識AffiniPure Donkey Anti-Rabbit IgG (H+L) (Jackson ImmunoResearch) を終濃度3 μg/mLで用いた。
【0076】
結果
抗体の結合活性評価
ペプチド抗原またはタンパク質抗原に対する本抗体の結合活性をELISAにより評価した。図4に示すように、本抗体は非リン酸化型のIRF5ペプチド [IRF5 タンパク質 (RefSeq ID: NP_001092097, human isoform b) の440から452番目のアミノ酸に相当] ではいずれの抗体濃度においても殆ど反応しないのに対して、リン酸化型ペプチド (446番目のセリン残基がリン酸化されたものに相当) の場合は強く反応し、かつ濃度依存性が認められた(図4左)。同様の結果は非リン酸化型あるいはS446リン酸化型のIRF5タンパク質に対する結合活性評価においても得られた(図4右)。以上の結果から、本抗体はIRF5のペプチドとタンパク質いずれの抗原に対してもS446リン酸化型に特異的な結合活性を有することが示された。
【0077】
ヒト免疫細胞株における内因性リン酸化IRF5の評価
ヒト形質細胞様樹状細胞株であるCAL-1細胞1では、TLRを介した自然免疫応答においてIRF5が活性化されることが報告されている4。CAL-1細胞をTLR7およびTLR8のリガンドであるR-848で刺激した際における内因性IRF5のリン酸化をイムノブロッティングで解析した。一次抗体として、抗GAPDH抗体、抗IRF5抗体、および本抗体を用いた。その結果、IRF5のリン酸化はR-848刺激によって顕著に誘導された (図5のp-IRF5のパネル)。一方で、IRF5を欠損したCAL-1細胞(KO)ではこの誘導は検出されなかった。以上の結果から、本抗体はヒト免疫細胞株のTLR刺激時における内因性IRF5のリン酸化を特異的に認識する抗体であることが示された。
【0078】
ヒトプライマリー免疫細胞における内因性リン酸化IRF5の評価
ヒト末梢血単核球 (PBMC) には単球やB細胞など、IRF5を発現する免疫細胞が含まれる。健常者の末梢血からPBMCを単離し、R-848刺激時におけるIRF5のリン酸化をイムノブロッティングで解析した結果、ヒトPBMCにおいてもR-848刺激によりIRF5のリン酸化が誘導された (図6)。IRF5タンパク質全体の発現量は刺激前後で変化がなく、IRF5タンパク質が刺激によって増加したことによる結果を見ているわけではないことが言える。以上の結果から、本抗体によりヒトのプライマリー免疫細胞のTLR刺激時における内因性IRF5のリン酸化を評価できることが示唆される。
【0079】
マウスプライマリー免疫細胞における内因性リン酸化IRF5の評価
マウス脾臓細胞には樹状細胞やB細胞など、IRF5を発現する免疫細胞が含まれており、これらの細胞ではTLRを介してIRF5依存的な免疫応答が惹起されることが示されている3,5。野生型マウスの脾臓細胞をTLR7およびTLR8のリガンド (R-848) またはTLR9のリガンド (CpG-B ODN) で刺激した際における内因性IRF5のリン酸化をイムノブロッティングで解析した結果、いずれの刺激もIRF5のリン酸化を顕著に誘導した (図7)。一方で、IRF5欠損マウス由来の脾臓細胞ではこの誘導は検出されなかった。以上の結果から、本抗体はマウス免疫細胞のTLR刺激時における内因性IRF5のリン酸化を特異的に認識する抗体であることが示された。また、この結果は、本抗体がヒトの活性型IRF5タンパク質だけではなくマウスの活性型IRF5タンパク質にも特異的に結合できることを示している。
【0080】
ヒトプライマリー免疫細胞におけるリン酸化IRF5陽性細胞集団の解析
ヒトのプライマリー免疫細胞におけるIRF5のリン酸化を単一細胞レベルで解析した報告は未だない。常者の末梢血からPBMCを単離し、R-848刺激時における各細胞種でのIRF5のリン酸化について本抗体を用いてフローサイトメトリーで解析した結果、形質細胞様樹状細胞 (pDC)、古典的樹状細胞 (cDC) ならびに単球 (Mo) の大部分の細胞においてIRF5がリン酸化されることが判明した (図8)。R-848刺激したB細胞におけるIRF5のリン酸化の程度は、上記の細胞種と比較すると弱かった。以上の結果から、本抗体を用いることでヒトプライマリー免疫細胞におけるリン酸化IRF5陽性細胞集団の解析が可能であることが示唆される。
【0081】
SLEモデルマウスにおけるリン酸化IRF5の解析
発明者らは、SLEモデルマウスのひとつであるLyn欠損マウスのCD11c+細胞 (主に樹状細胞) では、IRF5が活性化状態にあることを、Phos-tagイムノブロット法という抗リン酸化抗体を用いない方法で過去に示した6。18-20週齢のメスのLyn欠損マウスの脾臓CD11c+細胞におけるIRF5のリン酸化について、本抗体を用いてイムノブロッティングで解析した結果、野生型マウスと比較して顕著にIRF5がリン酸化されていた (図9)。同様の結果は、広く用いられているSLEモデルマウスであるNZB/W F1マウスにおいても得られた。以上の結果から、本抗体を用いることでSLEモデルマウスにおける活性型IRF5の解析も可能であることが示唆される。
【0082】
文献
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図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10-1】
図10-2】
【配列表】
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