(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】インク用印刷適性向上剤、これを含有する水性インク組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/03 20140101AFI20230712BHJP
C09D 11/106 20140101ALI20230712BHJP
【FI】
C09D11/03
C09D11/106
(21)【出願番号】P 2019212133
(22)【出願日】2019-11-25
【審査請求日】2022-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000106438
【氏名又は名称】サンノプコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112438
【氏名又は名称】櫻井 健一
(72)【発明者】
【氏名】澤熊 耕平
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-006619(JP,A)
【文献】特開昭49-000003(JP,A)
【文献】特開2018-158986(JP,A)
【文献】特開昭60-006766(JP,A)
【文献】米国特許第05114479(US,A)
【文献】特表2002-530461(JP,A)
【文献】特開平10-081843(JP,A)
【文献】特開平10-130554(JP,A)
【文献】特開2019-025850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-13/00
D21B 1/00-1/38
D21C 1/00-11/14
D21D 1/00-99/00
D21F 1/00-13/12
D21G 1/00-9/00
D21H 11/00-27/42
D21J 1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸(塩)(A)と(メタ)アクリル酸アルキル(アルキル基の炭素数
2~4)エステル(B)との共重合体を含み、
(メタ)アクリル酸(塩)(A)単位及び(メタ)アクリル酸アルキル(アルキル基の炭素数
2~4)エステル(B)単位のモル数に基づいて、(メタ)アクリル酸(塩)(A)単位の含有量が
40~60モル%、(メタ)アクリル酸アルキル(アルキル基の炭素数
2~4)エステル(B)単位の含有量が
40~60モル%であ
り、
共重合体の重量平均分子量が30万~70万であることを特徴とする
水性フレキソインク用印刷適性向上剤。
【請求項2】
水性インク材100重量部に対して、請求項1に記載された印刷適性向上剤を0.001~20重量部含むことを特徴とする水性インク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインク用印刷適性向上剤及びこれを含有する水性インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
「カチオン性樹脂[A]を含有することを特徴とするフレキソ印刷適性向上剤」が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のフレキソ印刷適性向上剤(インク用印刷適性向上剤)では印刷適性が不十分であるという問題がある。本発明の目的は、印刷適性に優れたインク用印刷適性向上剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の水性フレキソインク用印刷適性向上剤の特徴は、(メタ)アクリル酸(塩)(A)と(メタ)アクリル酸アルキル(アルキル基の炭素数2~4)エステル(B)との共重合体を含み、
(メタ)アクリル酸(塩)(A)単位及び(メタ)アクリル酸アルキル(アルキル基の炭素数2~4)エステル(B)単位のモル数に基づいて、(メタ)アクリル酸(塩)(A)単位の含有量が40~60モル%、(メタ)アクリル酸アルキル(アルキル基の炭素数2~4)エステル(B)単位の含有量が40~60モル%であり、
共重合体の重量平均分子量が30万~70万である点を要旨とする。
【0006】
本発明の水性インク組成物の特徴は、水性インク材100重量部に対して、上記の印刷適性向上剤を0.001~20重量部含む点を要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のインク用印刷適性向上剤は、優れた印刷適性を示す。
【0008】
本発明の水性インク組成物は、上記のインク用印刷適性向上剤を含むので、優れた印刷適性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(メタ)アクリル酸(塩)(A)としてはアクリル酸、メタクリル酸及びこれらの塩が含まれ、これらを単独又は2種類以上使用することができる。
「(メタ)アクリ・・」とは、メタクリ・・、アクリ・・を意味する(以後も同様とする)。
【0010】
塩としては、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム及びカリウム等)塩、アンモニウ塩、炭素数2~6のアルキルアミン(モノエチルアミン、モノブチルアミン及びトリエチルアミン等)塩及び炭素数2~6のアルカノールアミン(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミン等)塩等が挙げられる。これらのうち、印刷適性の観点から、アルカリ金属塩及びアンモニウム塩が好ましく、さらに好ましくはナトリウム塩、カリウム塩及びアンモニウム塩、特に好ましくはナトリウム塩である。
【0011】
(メタ)アクリル酸アルキル(アルキル基の炭素数1~12)エステル(B)のアルキル基としては、直鎖アルキル基及び分岐鎖アルキル基が含まれる。
【0012】
直鎖アルキルとしては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、へキシル、へプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル及びドデシル等が挙げられる。
【0013】
分岐鎖アルキルとしては、イソプロピル、イソブチル、t-ブチル、イソペンチル、ネオペンチル、イソヘキシル、2-エチルヘキシル、2-プロピルへプチル、2-ブチルオクチル及び3,5,5-トリメチルへキシル等が挙げられる。
【0014】
これらのうち、印刷適性の観点から、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチルが好ましく、さらに好ましくは(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル及び(メタ)アクリル酸ブチルである。
【0015】
共重合体には、本発明の効果を奏する限り、任意の構成単量体を含んでもよい(含有量割合も任意であるが、任意の構成単量体を含まないことが好ましい)。任意の構成単量体としては、(メタ)アクリル酸(塩)(A)及び(メタ)アクリル酸アルキル(アルキル基の炭素数1~12)エステル(B)と共重合できれば制限なく、2-シアノエチル(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレングリコール(分子量88~1998)モノ(メタ)アクリレート、メトキシポリオキシエチレングリコール(分子量76~2012)(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N、N-ビス2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、ビニルスルホン酸(塩)、アリルスルホン酸(塩)、メタリルスルホン酸(塩)、(メタ)アクリロニトリル、N-ビニル-2-ピロリドン、アクロレイン及びスチレン等が挙げられる。
【0016】
(メタ)アクリル酸(塩)(A)単位の含有量(モル%)は、(メタ)アクリル酸(塩)(A)単位及び(メタ)アクリル酸アルキル(アルキル基の炭素数1~12)エステル(B)単位のモル数に基づいて、40~70が好ましく、さらに好ましくは45~65、特に好ましくは50~60である。この範囲内であると印刷適性がさらに良好となる。
【0017】
(メタ)アクリル酸アルキル(アルキル基の炭素数1~12)エステル(B)単位の含有量(モル%)は、(メタ)アクリル酸(塩)(A)単位及び(メタ)アクリル酸アルキル(アルキル基の炭素数1~12)エステル(B)単位のモル数に基づいて、30~60が好ましく、さらに好ましくは35~55特に好ましくは40~50である。この範囲内であると印刷適性がさらに良好となる。
【0018】
共重合体の重量平均分子量(Mw)は、10万~150万が好ましく、さらに好ましくは20万~100万、特に好ましくは30万~70万である。この範囲内であると印刷適性がさらに良好となる。
【0019】
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略す)によって測定される。たとえば、以下の条件で測定できる。
【0020】
GPC装置:HLC-8320(東ソー株式会社)
カラム:TSKgel G6000 PWXL(東ソー株式会社)
検出器:GPC装置に内蔵の示差屈折計検出器
溶離液:0.2Mリン酸緩衝液
流量:0.8ml/分
カラム温度:40℃
試験試料:0.1重量%の溶離液溶液
注入量:200μl
標準物質:PEO-18、PEO-8(住友精化株式会社)及びTSK standard POLY(ETHYLENE OXIDE)SE-150、SE-30、SE-8(東ソー株式会社)
【0021】
共重合体は、公知の方法(特許第3817583号等)等で製造でき、乳化重合の方法により製造することが好ましい。
【0022】
本発明のインク用印刷適性向上剤には、取り扱い性の観点(印刷適性には影響はない)から、さらに水を含有させることができる。水を含有する場合、この含有量(重量部)は、共重合体100重量部に対して、200~450が好ましく、さらに好ましくは250~400、特に好ましくは300~350である。
【0023】
本発明のインク用印刷適性向上剤には、共重合体及び水以外に、他の公知の添加剤{消泡剤、分散剤、防黴剤、防腐剤及び酸化防止剤等;たとえば、特開2000-327946号公報及び特開2004-305882号公報に記載されたもの等}を含有してもよい。
【0024】
他の添加剤を含有する場合、この含有量(重量部)は、共重合体(A)100重量部に対して、0.001~100が好ましく、さらに好ましくは0.01~50、特に好ましくは0.02~10である。
【0025】
共重合体以外に、水や他の添加剤を含有する場合、本発明のインク用印刷適性向上剤は、これらを均一混合して調製できる。
【0026】
て使用でき、水性インクの印刷適性向上剤に適しており、水性フレキソインクの印刷適性向上剤として好適である。
【0027】
本発明の水性インク組成物おいて、上記の印刷適性向上剤の含有量(重量部)は、水性インク材100重量部に対して、共重合体の量が0.001~20重量部となる量が好ましく、さらに好ましくは同量が0.01~10重量部となる量、特に好ましくは同量が1~5重量部となる量である。この範囲であると、印刷適性がさらに良好となる。
【0028】
水性インク材としては、公知の顔料及び樹脂等{たとえば、色材協会誌、70巻7号、p476~484;印刷インキ基礎講座(第VII講)、東中冨佐男著、1997年}を含有してなるインク材等が使用できる。
【0029】
本発明のインク用印刷適性向上剤を含有した水性インク組成物を被印刷体に印刷するには、通常の方法を用いることができ、凸版印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷及びシルクスクリーン印刷等が適用できる。これらのうち、フレキソ印刷が適している。
【0030】
本発明のインク用印刷適性向上剤を含有した水性インク組成物が印刷される被印刷体としては、段ボールのライナー、包装紙、カートン紙、コートボール紙、ラベルシール、紙ナプキン、食品包装フィルム及びレジ袋等が挙げられる。これらのうち段ボールのライナー及び包装紙が適している。
【実施例】
【0031】
以下、部又は%は、特記しない限り、重量部又は重量%を意味する。
<実施例1>
水556.8部、メタクリル酸165.9部(1.9モル部)、アクリル酸ブチル13.1部(0.1モル部)、アクリル酸エチル117.5部(1.2モル部)及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム60%水溶液(ネオゲンR-K、第一工業製薬株式会社、「ネオゲン」は同社の登録商標である。)8.9部を均一混合し、これらを攪拌しながら、80~100℃で、過硫酸カリウム0.4%水溶液77.3 部を140分かけて滴下し、滴下終了後1時間同温度に保った。その後、40℃に冷却して、共重合体(1)を含む白色エマルション(1)を得た。この白色エマルション(1)に水60.4部を混合して、本発明のインク用印刷適性向上剤(1;濃度30%、粘度10mPa・s)を得た。なお、共重合体(1)の重量平均分子量は30万であった。
【0032】
<実施例2>
実施例1と同様にして得た白色エマルション(1)939.5部と酢酸ナトリウム11%水溶液41.5部(0.06モル部)とを均一混合して、白色エマルション(2)(34モル%中和体)を得た。この白色エマルション(2)に水18.9部を混合して、本発明のインク用印刷適性向上剤(2;濃度31%、粘度10mPa・s)を得た。
【0033】
<実施例3>
水560.5部、メタクリル酸127.5部(1.5モル部)、アクリル酸ブチル168.5部(1.3モル部)及びポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステルナトリウム塩25%水溶液(キャリボンEN-200、三洋化成工業株式会社、「キャリボン」は同社の登録商標である。)46.7部を均一混合し、これらを攪拌しながら、80~100℃で、過硫酸カリウム0.4%水溶液38.7部を140分かけて滴下し、滴下終了後1時間同温度に保った。その後、40℃に冷却して、共重合体(3)を含む白色エマルション(3)を得た。この白色エマルション(3)に水58部を混合して、本発明のインク用印刷適性向上剤(3);濃度31% 、粘度10mPa・s)を得た。なお、共重合体(3)の重量平均分子量は70万であった。
【0034】
<実施例4>
水555.3部、メタクリル酸140部(1.6モル部)、アクリル酸エチル156部(1.6モル部)及びポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステルナトリウム塩25%水溶液(キャリボンEN-200、三洋化成工業株式会社)46.7部を均一混合し、これらを攪拌しながら、80~100℃で、過硫酸カリウム0.4%水溶液51.6部を140分かけて滴下し、滴下終了後1時間同温度に保った。その後、40℃に冷却して、共重合体(4)を含む白色エマルション(4)を得た。この白色エマルション(4)に水50.3部を混合して、本発明のインク用印刷適性向上剤(4;濃度31% 、粘度10mPa・s)を得た。なお、共重合体(4)の重量平均分子量は30万であった。
【0035】
<実施例5>
水550部、メタクリル酸164部(1.9モル部)、アクリル酸エチル130部(1.3モル部)及びポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステルナトリウム塩25%水溶液(キャリボンEN-200、三洋化成工業株式会社)49.1部を均一混合し、これらを攪拌しながら、80~100℃で、過硫酸カリウム0.4%水溶液51.6部を140分かけて滴下し、滴下終了後1時間同温度に保った。その後、40℃に冷却して、共重合体(5)を含む白色エマルション(5)を得た。この白色エマルション(5)に水酸化ナトリウム50%水溶液59.2部(0.74モル部;39モル%中和体)及び水52.8部を混合して、本発明のインク用印刷適性向上剤(5;濃度32%、粘度25mPa・s)を得た。なお、共重合体(5)の重量平均分子量は35万であった。
【0036】
<実施例6>
実施例4と同様にして得た白色エマルション(4)949.6部と水酸化ナトリウム50%水溶液129.6部(1.6モル部、100モル%中和体)及び水70.7部とを均一混合して、本発明のインク用印刷適性向上剤(6;濃度35%、粘度1800mPa・s)を得た。
【0037】
<比較例>
特許文献1(特開2004-232158号)の実施例2に記載されたカチオン性樹脂B(固形分40.2%、粘度1400mPa・s)に相当するカチオン樹脂{ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)の43%水溶液、ユニセンスFPA1000L、粘度1200mPa・s、センカ株式会社}を比較用のインク用印刷適性向上剤(h1)とした。
【0038】
実施例で得たインク用印刷適性向上剤(1~6)及び比較例で得たインク用印刷適性向上剤(h1)を用い、以下のようにして、水性フレキソインク組成物を調製し、印刷適性を評価した。これらの結果を表1に示した。
【0039】
<水性フレキソインク組成物の調製>
表1に記載した原料組成にて、円盤型羽根を装着した卓上サンドミル(カンペ家庭塗料株式会社、カンペサンドミル)でグラインディングし、ついでアンカー型羽根を装着した撹拌機(東京理化器械株式会社、MAZELLA ZZ-1100)でレットダウンして、水性フレキソインクを調製した。この水性フレキソインク99部と実施例で得たインク用印刷適性向上剤(1)~(6)のいずれか又は比較用のインク用印刷適性向上剤(h1)の1部とをコーレス型羽根を装着したエクセルオートホモジナイザー(日本精器株式会社、モデルED)にて25℃、2000rpm、5分間攪拌混合して評価用水性フレキソインク組成物を得た。
【0040】
【0041】
注1:青色顔料、珠海東洋色材有限公司(ZHUHAI TOYOCOLOR CO., LTD.)
注2:スチレン/アクリル樹脂、ビーエーエスエフ・コーポレイション、「Joncryl」は同社の登録商標である。
注3:ポリオレフィンディスパジョン、三井化学株式会社、「ケミパール」は同社の登録商標である。
注4:スチレン/アクリル樹脂、星光PMC株式会社
注5:増粘剤、サンノプコ株式会社
注6:消泡剤、サンノプコ株式会社
【0042】
<印刷適性の評価>
工作用ボール紙{カルトナージュ約1mm厚 A4サイズ}にアニロックスローラー{イージープルーフ、RK Print Coat Instruments}を使用して評価用水性フレキソインク組成物を印刷した。印刷体を20~25℃で24時間静置して乾燥した後、印刷面について、分光白色度計・色差計{PF7000、日本電色工業株式会社}を用いて印刷適性向上剤を添加していない水性フレキソインク(ブランク)の印刷面を比較対象として色差測定を行った。また、印刷かすれの有無を目視判定した。
【0043】
【0044】
本発明のインク用印刷適性向上剤(1)~(6)を用いて得た水性フレキソインク組成物を塗工した印刷面は、比較用の印刷適性向上剤と比較して、色差(ΔE)が大きく(発色性に優れ)、印刷かすれもなく、印刷適性に優れていることを確認できた。