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特許7311946指紋非視認性コーティングおよびそれを形成する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】指紋非視認性コーティングおよびそれを形成する方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 7/24 20060101AFI20230712BHJP
   B05D 3/06 20060101ALI20230712BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20230712BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230712BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230712BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20230712BHJP
   C03C 17/30 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
B05D7/24 302Y
B05D3/06 Z
B05D5/00 Z
B32B27/00 101
C09D7/63
C09D183/04
C03C17/30 A
【請求項の数】 17
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017111628
(22)【出願日】2017-06-06
(65)【公開番号】P2018027531
(43)【公開日】2018-02-22
【審査請求日】2019-05-21
(31)【優先権主張番号】62/345,924
(32)【優先日】2016-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516344753
【氏名又は名称】エヌビーディー ナノテクノロジーズ, インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】NBD NANOTECHNOLOGIES, INC.
【住所又は居所原語表記】Building C,Suite 400A,99 Hayden Avenue,Lexington,Massachusetts 02421 US
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 富雅
(72)【発明者】
【氏名】ミゲル ガルベス
(72)【発明者】
【氏名】ボン ジューン チャン
(72)【発明者】
【氏名】イスラ アルティノク
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-212353(JP,A)
【文献】特開2015-123592(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00-7/26
B32B1/00-43/00
C09D1/00-10/00
101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に耐指紋性コーティングを形成する方法であって、
a)前記基材を、不活性ガス、N、O、および前記ガスの少なくとも2つの混合物からなる群から選択される少なくとも1つのガスのプラズマに曝すことによって、前記基材を活性化する工程、そして
b)前記工程a)の活性化した前記基材上に、アルキルシランおよびヒドロキシル末端かご型シルセスキオキサン(OH-POSS)を含む疎水性コーティングのための溶液を堆積させる工程、但し、前記OH-POSSは、以下のT8構造を有し、
【化9】
前記構造中、Rは-(CH-OHであり、かつnは0~5である、または
前記構造中、Rは-(CHN(CHCHOH)である、または
前記構造中、Rは-(CHOH)CHOHであり、かつnは1~10である、
を含む方法。
【請求項2】
前記コーティングは70~85°の水接触角および30~40°のジヨードメタン接触角を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程b)における前記疎水性コーティングのための溶液は以下を含む、請求項1に記載の方法:
a)以下の式1のアルキルシラン(AS)
C-(CH-Si(X)3-p(R) (式1)、
式1において、nは0~15であり、
pは0、1または2のいずれかであり、
Rはアルキル基または水素原子のいずれかであり、
Xは加水分解性基である、
または
式(EtO)Si(CHClのアルキルシラン(AS)
のいずれか、
b)前記OH-POSS、および
c)少なくとも1つの水性酸または少なくとも1つの水性塩基のいずれか。
【請求項4】
式1において、nは3~5である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
式1において、pは0または1のいずれかである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
式1において、pは0である、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
式1において、Xはハライド基およびアルコキシ基からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記構造中、Rは-(CH-OHであり、かつnは1である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記堆積させる工程b)は、アルキルシラン(AS)の求核反応を補助するために水性酸または水性塩基のいずれかを含む溶液を用いて実施され、前記酸はアスコルビン酸、クエン酸、サリチル酸、酢酸、塩酸、シュウ酸、リン酸、および硫酸からなる群から選択される少なくとも1つの物質であり、前記塩基は水酸化アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、および水酸化カリウムからなる群から選択される少なくとも1つの物質である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記基材はガラス、セラミック、および金属酸化物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
指紋非視認性コーティングであって、プロトン性溶媒および非プロトン性溶媒からなる群から選択された溶媒中で調製され、さらに水性酸または水性塩基のいずれかを含むアルキルシラン(AS)および請求項1に記載されたOH-POSS、を含む、コーティング。
【請求項12】
70~85°の範囲の水接触角および30~40°の範囲のジヨードメタン接触角を有する、少なくとも1つのアルキルシラン材料、および、請求項1に記載されたOH-POSSを含む、ヒドロキシル化POSS材料、を含む、指紋非視認性コーティングを提供するための組成物。
【請求項13】
指紋非視認性コーティング材料であって、70~85°の範囲の水接触角および30~40°の範囲のジヨードメタン接触角を有する、少なくとも1つのアルキルシラン材料、および、請求項1に記載されたOH-POSSを含む、ヒドロキシル化POSS材料、を含む、コーティング材料。
【請求項14】
前記OH-POSSの前記構造中、R=(CH-OHであり、かつnは0~5である、請求項13に記載のコーティング材料。
【請求項15】
基材上に耐指紋性コーティングを形成する方法であって、
基材の表面上に、アルキルシランおよび請求項1に記載のOH-POSSを含む疎水性コーティングのための溶液を堆積させてコーティングされた基材を形成する工程、
を含み、
前記コーティングされた基材は70~85°の水接触角および30~40°のジヨードメタン接触角を有する、方法。
【請求項16】
前記方法はさらに、
前記基材の表面を、不活性ガス、N、O、および前記ガスの少なくとも2つの混合物からなる群から選択される少なくとも1つのガスのプラズマに曝すことによって、前記基材の表面を活性化する工程、を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記アルキルシラン(AS)は、
式(EtO)Si(CHClのASであるか、
または
式1のAS
C-(CH-Si(X)3-p(R) (式1)、
式1において、nは0~15であり、
pは0、1または2のいずれかであり、
Rはアルキル基または水素原子のいずれかであり、
Xは加水分解性基である、
のいずれかである、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、本出願と共通の譲受人に譲渡され、INVISIBLE FINGERPRINT COATINGS AND PROCESS FOR FORMING SAMEと題する、2016年6月6日出願の、同時係属中の米国仮特許出願第62/395,924号の利益を主張し、その開示はその全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
分野
本開示は、例示的な実施形態において、基材をコーティングして指紋を視認できなくするか、ほぼ視認できなくするためのコーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
人は(皮脂腺からの)皮脂と他の油を顔面と指先から自然に出す。人はそのような油を携帯電話(または他の物品)のディスプレイ画面、例えばガラス(または画面保護材、通常ポリマー・プラスチック)、ガラスセラミック、金属酸化物、プレキシガラスまたは同様の材料または表面上に付着させる。しばしば、そのような油は視認され、前記装置上で見る画像の品質を低下させ得るだけでなく、(汚れ、埃などを伴って)前記画面の審美的外観の低下の原因になり得る。指紋非視認性(「IFP」)コーティングは、一般的に親油性コーティングであり、油、例えば指紋由来の油を画面表面に沿って広げることにより、前記油を視認できなくするか、ほぼ視認できなくする。前記油は画面材料、例えばガラスの屈折率と一致するようになり、結果的に、光が通過して指紋がないように見せる。指紋は依然として存在するが、(少なくとも前記表面を精査しないわけではないが)ただ指紋を見ることはできない。IFP特性を示すコーティングおよびコーティング材料は、前記油が玉のように盛り上がって蒸発するのに十分なほど疎水性でなければならない。前記コーティングの親水性が高すぎる場合には、指紋を見ることができる。また、前記コーティングの疎水性が高すぎる(例えば、約85°より大きい接触角である)場合、前記コーティングは十分な特性を示さない。
【0004】
対照的に、「防指紋性」(「AFP」)コーティングは疎油性コーティングであり、耐湿潤性であり、実際に形成される指紋をより容易に洗浄されるようにできるが、指紋の形成は防止せず、または実際に形成される指紋の目立ちを低減することはない。IFPコーティングはAFPコーティングとは異なる様式で機能する。
【0005】
光学的透明性、機械的耐久性、および指紋非視認特性を提供することができるコーティングを有することが望ましい。
【発明の概要】
【0006】
以下は、様々な本発明の実施形態のいくつかの態様の基本的な理解をもたらすために簡略化した要旨を提示する。前記要旨は本発明の広範な概要ではない。これは、本発明の重要な要素または不可欠な要素を特定することも、本発明の範囲を線引きすることも意図していない。以下の要旨は、以下のより詳細な説明の前置きとして、本発明のいくつかの概念を単純化した形態で提示するに過ぎない。
【0007】
本開示は、例示的な実施形態において、IFPコーティングを提供するための組成物に関する。本開示はまた、基材、例えば、これに限定されないが、ガラス材料製の基材、セラミックまたは金属酸化物表面の上に疎水性でかつ親油性のコーティングを形成する方法に関する。
【0008】
1つの例示的な実施形態では、基材上に耐指紋性コーティングを形成する方法であって、
a)前記基材を、不活性ガス、N、O、および前記ガスの少なくとも2つの混合物からなる群から選択される少なくとも1つのガスのプラズマに曝すことによって、前記基材を活性化する工程、そしてb)第一の層上に、少なくとも1つのアルキル骨格単層、好ましくはアルキルシラン(AS)、およびヒドロキシルかご型シルセスキオキサン(hydroxyl-polyhedral oligomeric silsesquioxane)(OH-POSS)ナノ粒子を含む疎水性コーティングを堆積させる、堆積の第二工程を含む方法が開示される。
【0009】
別の例示的な実施形態では、プロトン性溶媒または非プロトン性溶媒のいずれかで調製され、さらに水性塩基または水性酸のいずれかを含むアルキルシラン(AS)およびOH-POSS、を含む、指紋非視認性コーティングが開示される。
【0010】
別の例示的な実施形態では、プライマー第一層上にコーティングを含む、上記方法によって得られた基材であって、前記オムニフォビック・コーティングは、水性酸または水性塩基のいずれかにおける疎水性アルキル単層、例えばASと、親水性OH-POSSとの混合物を含む、基材が開示される。
【0011】
別の例示的な実施形態では、75~85°の範囲の水接触角および30~40°の範囲のジヨードメタン接触角を有するヒドロキシル化POSS材料を含む、指紋非視認性コーティングを提供するための組成物が開示される。
【0012】
別の例示的な実施形態では、75~85°の範囲の水接触角および30~40°の範囲のジヨードメタン接触角を有する、少なくとも1つのアルキルシラン材料、およびヒドロキシル化POSS材料を含む、指紋非視認性コーティング材料が開示される。
【0013】
他の特徴は、添付の特許請求の範囲と併せて、特定の例示的な実施形態の以下の詳細な説明を読むことによって明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図面により、以下の例示的な実施形態または試験結果が開示される。
【0015】
図1A図1Aは、2つの基材を示す2片のゴリラ強化ガラス(Gorilla Tempered Glass)の間に配置した指紋の写真である。左側の基材は実施例1に従ってコーティングされ、右側の基材はコーティングされていない。
【0016】
図1B図1Bは、図1Aの写真の詳細図である。
【0017】
図2図2は、2つの基材を示す写真であり、左の基材は実施例5に従ってアルキルシランでコーティングされている。右の基材は、アルキルシランおよびOH-POSSナノ粒子でコーティングされている。
【0018】
図3図3は、コーティングされていない(左)およびコーティングされた(右)金属のシートを示す写真である。
【0019】
図4図4は、実質的に長方形のマークされた領域内に指紋が配置された、コーティングされた(左)およびコーティングされていない(右)ガラスのシートを示す写真である。
【0020】
図5図5は、イソプロピルアルコールで擦った前後の、実施例1に従ってコーティングされた基材の耐薬品性を示すチャートである。
【0021】
図6図6は、水およびジヨードメタン油を用いた、実施例5に従ってコーティングされた基材の機械的摩耗試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
例示的な実施形態では、前記基材は、例えば、電子ディスプレイに使用されるような、ガラス画面であってもよく、具体的には、これらに限定されないが、携帯電話の画面、コンピュータのモニタ、テレビ画面、タッチスクリーン、家電製品、ヘッドアップ・ディスプレイ、眼鏡(例えば、眼鏡およびサングラス)、マスク(例えば、溶接マスク)、内壁塗料などが含まれる。例示的な実施形態では、前記基材は、器具機器および化粧仕上げ分野において、例えば、器具、具体的には家庭用電気機器(冷蔵庫のドア、オーブンのドア、ディスプレイ・ケースなど)用の装飾パネルにも使用され得る。前記基材はガラス(または画面保護材、通常ポリマー・プラスチック)、ガラスセラミック、金属酸化物、プレキシガラスまたは他の材料で作られていてもよい。
【0023】
本開示において、「視認できない」という用語は視認できない、ほとんど視認できない、または目立たない(例えば、前記表面を精査しない限り見ることができない)ことを意味すると理解されるべきである。「非視認性」は、ある程度、光の屈折と、表面を見る方法にも依存すると理解されるべきである。ある角度から、指紋は見えないかもしれないが、他の角度では識別可能であり得る。「濡れ性」という用語は、それによって極性または非極性の液体が基材に付着し、望ましくない膜を形成する性質を意味し、さらにあらゆる種類の塵や汚れ、指紋、昆虫などを保持する基材の傾向を意味する。
【0024】
油がしばしば含まれる、液体の存在は、特に前記表面上の指紋の可視性を下げるために電子ディスプレイにおいて重要である。基材の濡れ特性は疎水性/疎油性および親水性/親油性に分類することができる。疎水性/疎油性基材とは、油(有機液体を含む)と水を撥く基材を意味する。通常、オムニフォビック表面の接触角は、平坦な表面の場合、ヘキサデカンに関しては約60°より高く、水の場合には約90°より高い。親水性/親油性基材とは、油と水が前記表面に引きつけられることを意味する。このように、液体は前記表面を横切って容易に広がり、低い接触角(約50°未満)を有する。
【0025】
指紋非視認性コーティングを達成するためには、もたらされる液体が前記表面を横切って広がり、前記表面上の液体がガラス基材に由来する屈折率と一致するように、水と油の接触角を最適化する必要がある。そのような場合、光は指紋を通過し、目に見えない指紋の可視効果をもたらすことになる。この接触角を達成するために、疎水特性および親油特性を有する表面が望ましいことが実証された。前記効果を最適化するためには、水接触角は約70~85°の範囲でなければならず、ジヨードメタン接触角は約25~40°の範囲でなければならないことが見出された。
【0026】
本明細書に開示される組成物の特徴は、疎水性SAMアルキルシランおよびOH-POSSを使用することである。前記SAMアルキルシランは疎水性をもたらすが、それ自体は約110°の水接触角を有し、疎水性が強すぎる。したがって、水とジヨードメタンの接触角の両方を小さくするために、添加剤が必要とされるが、添加剤はコーティングに組み込まれたときに濡れ性およびIFP特性をもたらさなければならず、また前記アルキルシランと共にコーティングを形成することができなければならない。したがって、既存の添加剤は適切ではない可能性が高かった。本明細書に開示される例示的な実施形態では、OH-POSSが、親水性であるため、添加剤として使用される。
【0027】
基材、例えばガラス基材上に本明細書に記載の指紋非視認性コーティングを組み込むことのいくつかの利点がある。このようなコーティングにより、垂直または傾斜した表面から水滴が滑り落ちることが可能になり、さらに容易に洗浄されることが可能になる。このようなコーティングの親油性表面により、指紋の油が前記表面を横切って広がることが可能になり、油が盛り上がる代わりに液状膜がもたらされる。例示的な実施形態において、水との80°のおよびジヨードメタンとの40°未満の特定の接触角に調整された疎水性および親油性の組み合わせにより、光透過性または指紋の非視認性を最大にすることができる。そのようなコーティングにより、疎水性コーティングに基づく確立されていない親水性添加剤による自己修復特性を実証することができ、それにより経時劣化を低減することができる。
【0028】
グレージング(基材)上にコーティング層の形態で使用することができる指紋非視認特性を付与することが知られている薬剤には、これらに限定されないが、酸性またはアルカリ性溶液中のアルキルシラン(AS)およびヒドロキシル末端T8 POSSナノ粒子が含まれる。本明細書に記載するように、コーティング層は、水性または非水性の酸性または塩基性溶媒中にAS材料およびヒドロキシルPOSSを含有する溶液を基材の表面に適用することによって得ることができる。
【0029】
周知のアルキルシラン(「AS」と呼ぶが、本明細書の実施例の全てがシラン誘導体ではない)は、例えば、アルキルシラン、アルキルチオール、アルキルホスホネート、およびアルキルカルボン酸であり、それらのアルキル基は少なくとも1つのアルキル末端基、すなわち、nが0または正の整数である、HC-(CH-基からなるものである。
【0030】
「自己修復」材料は、経時的な機械的使用によって生じるダメージを修復する能力を有する材料である。ヒドロキシルT8-POSSは、その末端が親水性および親油性であり、前記アルキルシランの撥水性を低下させるナノ粒子ベースの構造である。本明細書に開示されている例示的な方法によって形成されたナノ粒子は、ポリマーマトリックス(例えば、アルキルSAM)中にほぼ均一に分布させることができる。これらのナノ粒子は、ダメージを受けたときに前記ポリマーマトリックスの表面に浮遊し、自己修復能力を示すようになる。
【0031】
光学的に透明な基材およびコーティングに関するより重要な問題の1つは、コーティングの厚さ、透明性または有効性を劣化させ、摩耗させまたは減少させる機械的摩耗である。磨耗は、例えば、特に透明な基材を通して十分な視界を回復するために定期的に必要となる、指紋および汚れを取り除くために布で擦ることによって、使用者が基材を扱う間に多かれ少なかれ生じる。分解はまた、紫外線、熱、低温、化学薬品、塩または他の腐食性物質、汚れ、他の研磨材料、または他の環境要素、状態もしくは物質に曝されることに起因しうる。
【0032】
このような自己修復および耐磨耗性能により、通常、基材に関して、耐摩耗性、UV耐性および耐塩腐食性のいずれもで、電子産業によって現在課されている仕様をより効果的に満たすことが可能になる。
【0033】
例示的な実施形態では、適切なコーティングは、75~85°の水接触角を有していてもよい。例示的な実施形態では、適切なコーティングは、30~40°のジヨードメタン接触角を有していてもよい。
【0034】
1つの例示的な実施形態によれば、基材、例えばガラス材料、セラミックまたは金属酸化物で形成された基材上にコーティングを提供する方法が開示され、この方法は以下の工程を含む。
【0035】
第一に、基材表面を、ArまたはHeタイプの不活性ガス、N、O、またはHOガス、または前述したガスの2つ以上の混合物から選択したガスのプラズマに曝すことによって、基材を活性化する。1つの例示的な実施形態によれば、この活性化工程はHOを含むガス混合物のプラズマに前記基材を曝すことによって実行される。前記活性化工程により、前記基材の表面上のヒドロキシル密度が増加するため、前記SAMの結合密度が増加する。
【0036】
第二に、少なくとも1つのアルキル単層およびT8ヒドロキシルかご型シルセスキオキサン(ヒドロキシル-POSS)を含む疎水性コーティングを形成する。例示的な実施形態において、前記アルキル単層はアルキルシラン(AS)またはアルキルチオール(AT)のいずれかである。次いでこれを水性塩基または水性酸のいずれかを含有するプロトン性または非プロトン性溶媒と混合する。
【0037】
第三に、この疎水性コーティングを前記基材上に堆積させる。
【0038】
第四に、アルキル単層およびヒドロキシ-POSSからなる疎油性コーティングを、水性塩基または水性酸のいずれかを含有するプロトン性または非プロトン性溶媒のいずれかで調製する。
【0039】
通常、前記コーティング層は、5~100nmのRMS(二乗平均平方根)表面粗さが得られる条件下で、浸漬、噴霧、および熱CVD(化学蒸着)によって堆積される。例示的な実施形態では、5~10nmのRMS(二乗平均平方根)表面粗さを得ることができる。
【0040】
このようにして得られたグレーズド基材は、光学的に透明であり、機械的磨耗および他の機械的衝撃に抵抗性があり、自己修復性である。本開示において、「光学的に透明」とは、前記基材(例えば、ガラス)に対して光学的に中性であることを意味し、すなわち、前処理されたガラスの透過率またはヘイズは実質的に変化しない。
【0041】
1つの例示的な方法によれば、前記コーティングを堆積させる工程は、アルキルシラン
(AS)または以下の式のいずれか、ヒドロキシル末端T8かご型シルセスキオキサンと
、水性酸または水性塩基のいずれかとの混合物から得られた溶液を用いて行われる:
C-(CH-Si(X)3-p(R)
式中:
・1つの例示的な実施形態では、n=0~15;さらに他の例示的な実施形態では、n=
3~5であり;
・1つの例示的な実施形態では、p=0、または2であり;さらに別の例示的な実施形態
では、p=0または1であり;さらに別の例示的な実施形態では、p=0であり;
・Rはアルキル基または水素原子であり;そして、
・Xは加水分解性基であり、例えば、これらに限定されないが、ハライド基またはアルコ
キシ基である。
【化1】
【0042】
ここで、
oRはOH-(CHであり、
o1つの例示的な実施形態では、n=0~5であり、さらに別の例示的な実施形態では、n=1である。
【0043】
本開示の組成物の例示的な実施形態の特徴は、SAMとOH-POSSの相対量のバランスをとることである。従来のSAMは、指紋非視認性コーティングとして適切に機能するには疎水性および疎油性が強い材料を提供することとなる。純粋なガラスは、親水性でかつ疎油性(約30°のWCA、および約40~45°のジヨードメタンCA)である。前記POSS構造上の置換に関して、一般的に、より多くのヒドロキシル化が存在するほど、より親水性の構造となる。指紋非視認性機能を提供するには不十分な特性をもたらすことになる、高すぎるまたは低すぎるWCAを避け適切なレベルのヒドロキシル化とすることが重要である。OH-POSSが多すぎると、材料が親水性になり、所望の特性を示さない。OH-POSSが少なすぎると、材料の疎水性/疎油性が強すぎて機能しなくなる。このように、指紋非視認特性を適切に提供するために特定のOH-POSS組成物および意図された使用(例えば、基材)に関して、濡れ性を調整する必要がある。75~85°の範囲の水接触角および30~40°の範囲のジヨードメタン接触角を有するコーティングされた表面は、優れた非視認特性を示した。
【0044】
代替の例示的な実施形態では、OH-POSSの代わりに他の非フッ素化疎水性材料を使用してもよい。例えば、これらに限定されないが、PEG化-POSS、アミン置換POSS、カルボン酸置換POSSなどの他の親水性POSS材料を使用してもよい。
【0045】
別の例示的な実施形態では、本明細書に開示される方法に従って作製されたコーティングは、80°の水接触角および30°のジヨードメタン接触角を有し、優れた指紋非視認特性を示した。
【0046】
本開示はまた、本明細書に記載の基材を含む、またはこの基材によって形成されたオムニフォビック・コーティングに関し、このコーティングは、特に、様々な媒体面用または建築物用のグレージングとして使用される。
【0047】
以上、若干の例示的な実施形態のみを詳細に説明したが、当業者は、新規の教示および利点から実質的に逸脱することなく、例示的な実施形態において多くの変更が可能であることを容易に理解することとなる。したがって、そのような変更の全ては、以下の特許請求の範囲で定義される本開示の範囲内に含まれることが意図される。
【実施例
【0048】
以下の実施例は、例示のみのために記載される。そのような実施例に出てくる部およびパーセンテージは、別段の定めがない限り重量による。
【0049】
実施例1- OH-POSS合成
5mLのトリエトキシシランのメタノール溶液(EtOH中50%)を、2mLの0.1M KOH水溶液を含む20mL容のシンチレーションバイアルに入れた。反応混合物を室温で一晩撹拌した。反応が完了した時点で、溶媒をゆっくりと蒸発させると固体/ゲル生成物が得られ、その後数週間で固体に変わった。収量:850mg(79%)。
【0050】
水性酸または水性塩基は、ASの求核反応を補助するために必要である。例示的な実施形態において、前記酸は1~3の範囲のpHを有してもよい。例示的な実施形態では、前記酸は、例えば、これらに限定されないが、アスコルビン酸、クエン酸、サリチル酸、酢酸、塩酸、シュウ酸、リン酸、硫酸などの組成物であってもよい。例示的な実施形態において、前記塩基は11~14の範囲のpHを有してもよい。例示的な実施形態では、前記塩基は、例えば、これらに限定されないが、水酸化アンモニウム、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの組成物であってもよい。上記のような低pHの酸または高pHの塩基が使用されるのは、OHの脱プロトン化が前記基材(例えば、ガラス)表面上で起こってOとなるためであり、これはOHより求核剤として反応性が高く、それによって、脱離基を有するSAMの結合密度が増大する。
【0051】
別の例示的な実施形態において、前記OH-POSSの構造は以下の通りである:
【化2】
ここでRは(CHOHである。
【0052】
実施例2- (OH)-POSS合成:
2.45gのビス(2-ヒドロキシエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン(MW=309.47g/mol、7.91mmol)をEtOH:オクタン=10:1(15ml)中25ml容のバイアル移した。
【0053】
触媒量の0.4M KOHを混合物に添加した。反応混合物を室温で一晩撹拌した。次いで、前記混合物を減圧下で乾燥させた。最終生成物の蒸発後、1.05gの油状物が得られた。
【0054】
前記の組成は(HOCHCHN-(CHSi(X)3-pであり、その中で:
・1つの例示的な実施形態では、n=0~15であり;さらに他の例示的な実施形態では、n=3~5であり;
・1つの例示的な実施形態では、p=0、1または2であり;別の例示的な実施形態では、p=0または1であり;さらに別の例示的な実施形態では、p=0であり;
・Rはアルキル基または水素原子であり;そして
・Xは加水分解性基であり、例えば、これらに限定されないが、ハライド基またはアルコキシ基である。
【0055】
前記OH-POSSは次のように示される:
【化3】
その中で:
・RはCHOH(CHOH)であり、そして
・1つの例示的な実施形態では、n=1~10であり;別の例示的な実施形態では、n=0~5であり;さらに別の例示的な実施形態では、n=3である。
【0056】
実施例3- CHOH(CHOH)-POSS合成
5.0gのN-(3-トリエトキシシリルプロピル)グルコンアミド溶液(EtOH中50%)を10mLのEtOHを含む20mL容のシンチレーションバイアルに入れた。次に、2mLの0.1M KOH水溶液を前記バイアルに添加した。反応混合物を室温で一晩撹拌した。沈殿した生成物を真空濾過によって回収した。収量は750mg(42%)であった。
【0057】
実施例4-特定の例示的な実施形態およびその態様を以下により詳細に説明する。
実施例4A-活性化プラズマ条件:
例示的な実施形態によれば、前記基材を、プラズマの形態に活性化したガスで処理した。この工程は、様々な真空チャンバまたは大気圧チャンバ内で行うことができる。例えば、平行平板RFリアクタを使用することができる。前記処理により、前記基材の化学修飾がもたらされるが、物理的変化、例えば形態変化は生じない。使用するガスはAr、He、N、またはO、またはこれらのガスの2つ以上の混合物から選択される。使用圧力は50~500mTorr、出力は10~200W、活性化時間は約1分~約5分、通常1分以内であった。
【0058】
実施例4B-指紋非視認性層の堆積条件:
例示的な実施形態によれば、AS、ヒドロキシルPOSS、および水性塩基を含む前記指紋非視認性層は、上記のように、当業者に知られている任意の適切な堆積技術によって堆積させることができる。
【0059】
本開示はまた、以下を含む、上記の例示的な実施形態の1つに従った方法で得ることができる指紋非視認性コーティングを備えたガラス、セラミックまたは金属酸化物基材を提供する:
・水性塩基または水性酸中のAS材料およびヒドロキシルPOSS材料は、すなわち、本質的にまたは専ら、指紋非視認性層からなり、その表面は5nmより大きい表面粗さを有し、好ましくは表面粗さを改質しないかまたは実質的に改質しない条件下で、ArまたはHeタイプの希ガス、NまたはOガスから選択されるガスのプラズマで処理されることによるか、または、上記のガスの少なくとも2つの混合物のプラズマで処理されることによって活性化され;および
・指紋非視認性コーティングを含む、ASおよびOH-POSSは、水性塩基または水性酸によって補助され基材に結合する。
【0060】
例示的な実施形態において、前記基材は、HOと、Ar、HeおよびNからなる群から選択される少なくとも1つのガスとを含むガス混合物のプラズマによって活性化される活性化工程を実施することによって得られる。
【0061】
例示的な実施形態では、前記指紋非視認性層の厚さは10~500nmである。他の例示的な実施形態では、前記指紋非視認性層の厚さは20~100nmである。
【0062】
例示的な実施形態では、前記オムニフォビック層のRMS粗さは10nm未満である。他の例示的な実施形態では、前記オムニフォビック層のRMS粗さは5~10nmである。
【0063】
例示的な実施形態に開示されるコーティング材料の特徴は、表面にコーティングを形成し、75~85°の水接触角と、30~40°のジヨードメタン接触角を有する性能である。
【0064】
実施例5-材料の調製および前記基材のコーティング
実施例5A-プラズマ活性化を伴うガラス基材の調製
ソーダ石灰強化ガラスの基材を、低圧PECVD(プラズマ化学気相成長)反応器のチャンバに入れた。活性化ガスを導入する前に、先ず前記チャンバ内の残留真空を少なくとも5mPa(5×10-5mbar)とした。前記ガスまたは前記ガス混合物を、ガラス基材の表面処理のために、100sccmの流速で前記チャンバ内へ、前記反応器内の全圧が350mTorrに設定されるまで導入した。
【0065】
平衡状態で、導入した前記ガスのプラズマを、室温で約1分間、100Wの平均ラジオ周波数(13.56MHz)の電力でガス拡散器に電気的にバイアスをかけることによって点火した。
【0066】
実施例5B-指紋非視認性コーティング溶液の適用
指紋非視認性コーティング溶液を以下の方法で調製した(パーセントは重量による):20%エタノール、70%水および10%5M NHOHの混合物を調製した。上記した2つの構成成分に対して5%の割合で、式C 17 Si(OEt)(ここで、Et=エチル)を有する化合物、およびOH-POSSを添加した。混合物を30分間超音波処理した。このようにして得られたオムニフォビック・コーティング溶液を、浸漬によりプラズマで活性化した基材上に堆積させた。試験片を75℃のオーブンで少なくとも2時間乾燥させた。
【0067】
実施例6-試験および分析
試験のために、対照には表面処理を行わず、試料はプラズマで活性化したガラス試料上の指紋非視認性コーティングであった。上記のように調製した試験片を以下の試験方法に従って評価した。
【0068】
最初の接触角の測定は、水およびジヨードメタンを用いて行ったが、これによりグラフト化された基材のオムニフォビシティの基準指標が提供される。
【0069】
透過率試験は、ASTM D1003に従って光の放射照度の百分率を測定した。
【0070】
グラフト化された前記コーティングをASTM D4060に従って前記試験片に対する1.5cmの面積に対してCS10硬度の研磨ディスクを用いて250gの荷重下で、並進速度50サイクル/分、回転速度6rpmで摩擦した後、前記試験片上の水の残留接触角を測定して耐摩耗性を得た。前記接触角が1500サイクル後に80°を超えていれば、試験片は前記試験で満足のいくものと判断される。
【0071】
耐薬品性試験は室温で強酸(pH2)および強塩基(pH11)環境下で行った。8時間後に水接触角が90°を超えていれば、試験片は前記試験で満足のいくものと判断される。
【0072】
実施例7-接触角測定
前記指紋非視認性コーティングを、異なる流体、例えば水およびジヨードメタンを用いた接触角測定によって評価した。上記手順に従って調製した試験片について得られた結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0073】
以下の表2は、OH-POSSなしのアルキルシラン(AS)コーティングに対する接触角測定値を示す。
【表2】
【0074】
実施例8-耐指紋性および非視認性
指紋特性は、2片のゴリラ強化ガラスの間に配置された指紋の図1Aおよび1Bにおける各写真にコーティングされた(左側の)およびコーティングされていない(右側の)2つの基材の間に指紋を配置することによって測定した。左側のコーティングされた基材は指紋を示さないが、右側のコーティングされていないものは明確な指紋汚れがある。
【0075】
この比較の目的は、親水性OH-POSSを含まない疎水性コーティングを用いて指紋非視認性の有効性を試験することであった。図2の画像に示すように、OH-POSSなしのアルキルシラン・コーティング(左)よりも前記指紋非視認性コーティング(右)の方が指紋が見えにくい。図3は、コーティングされていない(左)およびコーティングされた(右)金属のシートを示す写真である。図4は、実質的に長方形のマークされた領域内に指紋が配置された、コーティングされた(左)およびコーティングされていない(右)ガラスのシートを示す写真である。
【0076】
実施例9-耐薬品性
一般に、疎水性コーティングは、過酷な溶媒条件に曝された後は加水分解およびコーティングの破損に対して脆弱である。この試験の目的は、本開示の例示的な方法に従って形成された指紋非視認性コーティングを備えた基材の耐薬品特性を測定することであった。前記試験は、イソプロパノールアルコール(IPA)に浸した布で10回試料を擦ることからなっていた。図5のチャートに示す、試験結果、IPA摩擦前後の耐薬品性試験では、前記コーティングの水接触角およびジヨードメタン接触角が溶媒暴露の影響を受けないことが示された。
【0077】
実施例10-耐摩耗性
得られたオムニフォビック基材の耐磨耗性をASTM D4060に従って測定した。この試験は、1.5cmの面積に対して250gの荷重下でCS-10硬度の研磨ディスクを用いて、50サイクル/分の並進速度および6rpmの回転速度で試験片に対して実施した。1500サイクル後に前記接触角が70°を超えていれば、試験片は前記試験で満足のいくものと判断した。機械的磨耗(ASTM D4060テーバー)試験:1,500サイクルに関して500gの重量負荷(CS-10ホイール)の結果を示すチャートである、図6に示すように、前記試験片の耐摩耗性は十分であり、水接触角の僅かな劣化も見られないことが理解できる。
【0078】
CS-10硬度の研磨ディスクに500gの重りを載せた。前記試験片の耐摩耗性は、僅かな劣化を示した。1,500サイクルを超えても、水接触角は水およびジヨードメタンのカットオフ限界(70°および30°)を超えたままであった。
【0079】
前記方法、装置およびシステムは特定の実施形態に関連して説明されているが、本明細書の実施形態は全ての点で限定的ではなく例示的であるように意図されているため、それらの範囲が説明した特定の実施形態に限定されることは意図されていない。
【0080】
特に明記しない限り、本明細書中に記載される任意の方法は、その工程が特定の順序で実施されることを必要とすると解釈されることを決して意図されていない。したがって、方法の請求項が実際にその工程の後に続くべき順序を列挙していないか、または請求項または明細書の説明においてその工程が特定の順序に限定されることは特に明記されていない場合、いかなる点でも、順序が推論されることは決して意図されていない。
【0081】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上他に明確に指示されない限り、複数の指示対象を含む。
【0082】
範囲は、本明細書では、「約」1つの特定値から、および/または「約」別の特定値までと表現されてもよい。そのような範囲が表されるとき、別の実施形態では、前記1つの特定値からおよび/または前記他の特定値までを含む。同様に、値が近似値として表現される場合、先行する「約」の使用により、前記特定値は別の実施形態を形成することが理解される。さらに、範囲の各々の終点は、他方の終点に関して両方が重要であり、他方の終点とは独立していることが理解される。
【0083】
「任意の」または「任意に」は、その後に記載される事象または状況が起こっても起こらなくてもよいことを意味し、その記載は、前記事象または状況が起こる場合と起こらない場合を含む。
【0084】
本明細書の説明および特許請求の範囲を通じて、「含む(comprise)」という単語および「comprising」および「comprises」などの前記単語の変形は、「含むがこれ(ら)に限定されない」を意味し、例えば、他の添加物、成分、整数または工程を排除することを意図するものではない。「例示的な」は「の一例」を意味し、好ましいまたは理想的な実施形態の表示を伝えることを意図するものではない。「例えば」または「具体的には」は限定的な意味ではなく、説明のために使用される。
【0085】
開示された方法、装置およびシステムを実行するために使用され得る構成要素が開示される。これらおよびその他の構成要素は本明細書に開示されており、これらの構成要素の組み合わせ、サブセット、相互作用、群などが開示されている場合、これらの様々な個別および集合的な組合せおよび置換の各々の特定の参照は明示的に開示されていないが、全ての方法、装置およびシステムについて、各々が具体的に考慮され、本明細書に記載されている。これは、これらに限定されないが、開示された方法の工程を含む、本出願の全ての態様に当てはまる。したがって、実行可能な追加の工程が多岐に渡る場合、これらの追加の工程の各々は、開示された方法の任意の特定の実施形態または実施形態の組み合わせで実行できることが理解される。
【0086】
本明細書に言及されたいずれの特許、出願および刊行物も、その全体が参照により援用されることにさらに留意されるべきである。
【0087】
以下の番号の付いた条項は、企図された、非限定的な実施形態を含む:
【0088】
条項1.
基材上に耐指紋性コーティングを形成する方法であって、
a.前記基材を、不活性ガス、N、O、および前記ガスの少なくとも2つの混合物からなる群から選択される少なくとも1つのガスのプラズマに曝すことによって前記基材を活性化する工程、そして
b.前記工程a)の活性化した前記基材上に、少なくとも1つのアルキル骨格単層およびヒドロキシルかご型シルセスキオキサン(OH-POSS)ナノ粒子を含む疎水性コーティングを堆積させる工程、
を含む方法。
【0089】
条項2.
前記コーティングは70~85°の水接触角を有する、条項1に記載の方法。
【0090】
条項3.
前記コーティングは30~40°のジヨードメタン接触角を有する、条項1に記載の方法。
【0091】
条項4.
前記少なくとも1つのアルキル骨格単層はアルキルシラン(AS)を含む、条項1に記載の方法。
【0092】
条項5.
前記堆積させる工程b)は、以下を含む溶液を用いて実施される、条項1に記載の方法:
a.以下の式のOH-POSS
C-(CH-Si(X)3-p(R) (式1)、
b.式(SiEtOH)(CHClのアルキルシラン(AS)、
c.ヒドロキシル末端かご型シルセスキオキサン(OH-POSS)、および
d.少なくとも1つの水性酸または少なくとも1つの水性塩基のいずれか。
【0093】
条項6.
式1において、nは0~15である、条項5に記載の方法。
【0094】
条項7.
式1において、nは3~5である、条項5に記載の方法。
【0095】
条項8.
式1において、pは0、1または2のいずれかである、条項5に記載の方法。
【0096】
条項9.
式1において、pは0または1のいずれかである、条項5に記載の方法。
【0097】
条項10.
式1において、pは0である、条項5に記載の方法。
【0098】
条項11.
式1において、Rはアルキル基または水素原子のいずれかである、条項5に記載の方法。
【0099】
条項12.
式1において、Xは加水分解性基である、条項5に記載の方法。
【0100】
条項13.
式1において、Xはハライド基およびアルコキシ基からなる群から選択される、条項5に記載の方法。
【0101】
条項14.
前記OH-POSSは、以下の構造を有し、
【化4】
構造中、RはOH-(CHである、条項5に記載の方法。
【0102】
条項15.
nは0~5である、条項14に記載の方法。
【0103】
条項16.
nは1である、条項14に記載の方法。
【0104】
条項17.
前記OH-POSSの構造は以下の構造であり、
【化5】
構造中、Rは-(CHN(CHCHOH)である、条項5に記載の方法。
【0105】
条項18.
前記OH-POSSの構造は以下の構造であり、
【化6】
構造中、RはCHOH(CHOH)(式中、nは1~10である)である、条項5に記載の方法。
【0106】
条項19.
前記堆積させる工程b)は、ASの求核反応を補助するために水性酸または水性塩基のいずれかを含む溶液を用いて実施され、前記酸はアスコルビン酸、クエン酸、サリチル酸、酢酸、塩酸、シュウ酸、リン酸、および硫酸からなる群から選択される少なくとも1つの物質であり、前記塩基は水酸化アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、および水酸化カリウムからなる群から選択される少なくとも1つの物質である、条項1に記載の方法。
【0107】
条項20.
指紋非視認性コーティングであって、プロトン性溶媒および非プロトン性溶媒からなる群から選択された溶媒中で調製され、さらに水性酸または水性塩基のいずれかを含むアルキルシラン(AS)およびOH-POSS、を含む、コーティング。
【0108】
条項21.
条項1に記載の方法によって得られたコーティングされた基材であって、プライマー第一層上に形成されたコーティングを含み、前記オムニフォビック・コーティングは水性酸または水性塩基のいずれかにおける疎水性アルキル単層と親水性OH-POSSとの混合物を含む、基材。
【0109】
条項22.
前記コーティングは光学的に透明であり、機械的磨耗に対して耐性があり、自己修復性である、条項21に記載のコーティングされた基材。
【0110】
条項23.
前記コーティングの厚さは20~200nmである、条項5に記載の基材。
【0111】
条項24.
前記基材はガラス、セラミック、および金属酸化物からなる群から選択される、条項1に記載の方法。
【0112】
条項25.
70~85°の範囲の水接触角および30~40°の範囲のジヨードメタン接触角を有するヒドロキシル化POSS材料を含む、指紋非視認性コーティングを提供するための組成物。
【0113】
条項26.
指紋非視認性コーティング材料であって、70~85°の範囲の水接触角および30~40°の範囲のジヨードメタン接触角を有する、少なくとも1つのアルキルシラン材料、およびヒドロキシル化POSS材料を含む、コーティング材料。

【0114】
条項27.
ヒドロキシル化POSS材料は以下の構造を含み、
【化7】
構造中、R=(CH-OHであり、前記ヒドロキシル化POSS材料に対する前記少なくとも1つのアルキルシラン材料の比が5:1の比を有する、条項26に記載の指紋非視認性コーティング材料。
【0115】
条項28.
前記コーティング材料はさらに水性酸、非水性酸、水性塩基、および非水性塩基を含む群から選択される材料を含む溶媒をさらに含む、条項27に記載の材料。
【0116】
条項29.
条項1に従って製造された材料でコーティングされた基材、を含む、コーティングされた材料。
【0117】
条項30.
前記基材はガラス、金属酸化物、およびアクリルポリマーからなる群から選択された少なくとも1つの材料で形成される、条項29に記載のコーティングされた材料。
以下に、さらなる非限定的な実施形態を含む:
1.
基材上に耐指紋性コーティングを形成する方法であって、
a)前記基材を、不活性ガス、N 、O 、および前記ガスの少なくとも2つの混合物からなる群から選択される少なくとも1つのガスのプラズマに曝すことによって、前記基材を活性化する工程、そして
b)前記工程a)の活性化した前記基材上に、アルキルシランおよびヒドロキシル末端かご型シルセスキオキサン(OH-POSS)を含む疎水性コーティングのための溶液を堆積させる工程、但し、前記OH-POSSは、以下のT8構造を有する、
【化8】
を含む方法。
2.
前記構造中、Rは-(CH -OHであり、かつnは0~5である、または
前記構造中、Rは-(CH N(CH CH OH) である、または
前記構造中、Rは-(CHOH) CH OHであり、かつnは1~10である、
前記1に記載の方法。
3.
前記コーティングは70~85°の水接触角および30~40°のジヨードメタン接触角を有する、前記1に記載の方法。
4.
前記工程b)における前記疎水性コーティングのための溶液は以下を含む、前記1に記載の方法:
a)以下の式1のアルキルシラン(AS)
C-(CH -Si(X) 3-p (R) (式1)、
式1において、nは0~15であり、
pは0、1または2のいずれかであり、
Rはアルキル基または水素原子のいずれかであり、
Xは加水分解性基である、
または
式(EtO) Si(CH Clのアルキルシラン(AS)
のいずれか、
b)前記OH-POSS、および
c)少なくとも1つの水性酸または少なくとも1つの水性塩基のいずれか。
5.
式1において、nは3~5である、前記4に記載の方法。
6.
式1において、pは0または1のいずれかである、前記4に記載の方法。
7.
式1において、pは0である、前記4に記載の方法。
8.
式1において、Xはハライド基およびアルコキシ基からなる群から選択される、前記4に記載の方法。
9.
前記構造中、Rは-(CH -OHであり、かつnは1である、前記2に記載の方法。
10.
前記堆積させる工程b)は、アルキルシラン(AS)の求核反応を補助するために水性酸または水性塩基のいずれかを含む溶液を用いて実施され、前記酸はアスコルビン酸、クエン酸、サリチル酸、酢酸、塩酸、シュウ酸、リン酸、および硫酸からなる群から選択される少なくとも1つの物質であり、前記塩基は水酸化アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、および水酸化カリウムからなる群から選択される少なくとも1つの物質である、前記1に記載の方法。
11.
前記基材はガラス、セラミック、および金属酸化物からなる群から選択される、前記1に記載の方法。
12.
指紋非視認性コーティングであって、プロトン性溶媒および非プロトン性溶媒からなる群から選択された溶媒中で調製され、さらに水性酸または水性塩基のいずれかを含むアルキルシラン(AS)および前記1に記載されたOH-POSS、を含む、コーティング。
13.
70~85°の範囲の水接触角および30~40°の範囲のジヨードメタン接触角を有する、前記1に記載されたOH-POSSを含む、ヒドロキシル化POSS材料、を含む、指紋非視認性コーティングを提供するための組成物。
14.
指紋非視認性コーティング材料であって、70~85°の範囲の水接触角および30~40°の範囲のジヨードメタン接触角を有する、少なくとも1つのアルキルシラン材料、および、前記1に記載されたOH-POSSを含む、ヒドロキシル化POSS材料、を含む、コーティング材料。
15.
前記OH-POSSの前記構造中、R=(CH -OHであり、前記ヒドロキシル化POSS材料に対する前記少なくとも1つのアルキルシラン材料の比が5:1の比を有する、前記14に記載のコーティング材料。
16.
前記コーティング材料はさらに水性酸、非水性酸、水性塩基、および非水性塩基からなる群から選択される材料を含む溶媒を含む、前記15に記載のコーティング材料。
17.
基材上に耐指紋性コーティングを形成する方法であって、
基材の表面上に、アルキルシランおよび前記1に記載のOH-POSSを含む疎水性コーティングのための溶液を堆積させてコーティングされた基材を形成する工程、
を含み、
前記コーティングされた基材は70~85°の水接触角および30~40°のジヨードメタン接触角を有する、方法。
18.
前記方法はさらに、
前記基材の表面を、不活性ガス、N 、O 、および前記ガスの少なくとも2つの混合物からなる群から選択される少なくとも1つのガスのプラズマに曝すことによって、前記基材の表面を活性化する工程、を含む、前記17に記載の方法。
19.
前記アルキルシラン(AS)は、
式(EtO) Si(CH ClのASであるか、
または
式1のAS
C-(CH -Si(X) 3-p (R) (式1)、
式1において、nは0~15であり、
pは0、1または2のいずれかであり、
Rはアルキル基または水素原子のいずれかであり、
Xは加水分解性基である、
のいずれかである、前記17に記載の方法。

図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6