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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】鋳型の製造方法および鋳型造型用型
(51)【国際特許分類】
   B22C 9/02 20060101AFI20230712BHJP
   B22C 1/10 20060101ALI20230712BHJP
   B22C 1/18 20060101ALI20230712BHJP
   B22C 7/00 20060101ALI20230712BHJP
   B22C 9/10 20060101ALI20230712BHJP
   B22C 9/12 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
B22C9/02 101Z
B22C1/10 A
B22C1/10 C
B22C1/18 Z
B22C1/18 B
B22C7/00 112Z
B22C9/10 E
B22C9/12 J
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018240322
(22)【出願日】2018-12-21
(65)【公開番号】P2020093298
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2018230288
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000165000
【氏名又は名称】群栄化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】椎林 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 一毅
(72)【発明者】
【氏名】羽鳥 祐樹
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-076115(JP,A)
【文献】特開2015-062919(JP,A)
【文献】特開2004-298920(JP,A)
【文献】特開2014-188541(JP,A)
【文献】特開2012-115870(JP,A)
【文献】特開2004-249339(JP,A)
【文献】特開2004-249340(JP,A)
【文献】特開2004-174598(JP,A)
【文献】特開2014-208364(JP,A)
【文献】国際公開第2017/141337(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 9/02
B22C 9/10
B22C 9/12
B22C 1/10
B22C 1/18
B22C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥状態の耐火性粒状材料を鋳型造型用型の内部に充填する工程(I)と、
前記耐火性粒状材料が充填された鋳型造型用型を水に浸漬し、造型物を得る工程(II)と、
得られた造型物を鋳型造型用型に充填したまま乾燥する工程(III)と、
を含み、
前記鋳型造型用型には、水が内部に浸透することを妨げず、かつ前記耐火性粒状材料が内部から流出することを阻害する複数の穴が形成され、
前記工程(I)で用いる耐火性粒状材料および前記工程(II)で用いる水の少なくとも一方に水溶性無機粘結剤が混合されており、
前記水溶性無機粘結剤が、硫酸化合物、リン酸化合物、塩化物および炭酸化合物からなる群より選ばれる1種以上である、鋳型の製造方法。
【請求項2】
少なくとも前記工程(II)で用いる水に前記水溶性無機粘結剤が混合されている、請求項1に記載の鋳型の製造方法。
【請求項3】
前記耐火性粒状材料が珪酸塩で被覆されている、請求項1または2に記載の鋳型の製造方法。
【請求項4】
前記鋳型造型用型がマイクロ波を透過する材料からなり、
前記工程(III)では造型物にマイクロ波を照射して乾燥する、請求項1~3のいずれか一項に記載の鋳型の製造方法。
【請求項5】
前記工程(III)を減圧下で行う、請求項1~4のいずれか一項に記載の鋳型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型の製造方法および鋳型造型用型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋳造用鋳型(以下、単に「鋳型」ともいう。)には普通鋳型と特殊鋳型とがあり、普通鋳型には生型と乾燥型がある。一方、特殊鋳型には熱硬化鋳型、自硬性鋳型、ガス硬化鋳型がある。
鋳型の材料には珪砂などの耐火性粒状材料が用いられるが、耐火性粒状材料だけでは乾燥すると崩れやすいため粘結剤を加えて崩れにくくしている。
普通鋳型にはベントナイトなどの粘土が粘結剤として用いられる。一方、特殊鋳型にはフェノール樹脂、フラン樹脂、ウレタン樹脂などの有機粘結剤や、水ガラスなどの無機粘結剤が用いられる。
【0003】
各種方法により製造した鋳型には、鉄、銅、アルミニウム等の金属を高温で溶かした液体が注湯され、鋳物が得られる。鋳物は、鋳型を解体して取り出される。また、解体した鋳型から耐火性粒状材料を再生し、鋳型の製造に再利用するのが一般的である。
有機粘結剤を用いた鋳型は、解体時の崩壊性に優れる。しかし、注湯時に有機粘結剤が熱分解してガス(熱分解ガス)が発生しやすく、鋳物に欠陥が生じたり、作業環境が悪化したりしやすい。
一方、無機粘結剤を用いた鋳型は、無機粘結剤が熱分解しにくいため注湯時に粘結剤の熱分解ガスが発生しにくい。しかし、無機粘結剤として水ガラスを用いた鋳型は、注湯後の強度が低下しにくく、崩壊しにくい(崩壊性に劣る)ため、有機粘結剤を用いた鋳型に比べて解体しにくい。
【0004】
水ガラスに代わる無機粘結剤を用いて鋳型を製造する方法として、例えば特許文献1には、硫酸マグネシウム等の硫酸化合物を含む水溶性の粘結剤と水とを耐火性粒状材料に加えて混練砂(鋳物砂)を得る第1工程と、混練砂を造型する第2工程と、混練砂内の硫酸化合物が少なくとも一部の結晶水を含有する状態を維持しつつ混練砂を乾燥させて鋳型を得る第3工程とを含む鋳型の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4223830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
混練砂を造型するには、混練砂を木型、樹脂型、金型等(以下、これらを総称して「鋳型造型用型」ともいう。)に充填して造型するのが一般的である。
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、湿った状態の混練砂を鋳型造型用型に充填することになる。湿った状態の混練砂は流動性が低い。そのため、鋳型造型用型の形状が複雑になるほど混練砂を充填しにくくなり、充填不良や鋳型強度の低下を引き起こす。
【0007】
本発明は上記事情を鑑みてなされたもので、強度が高く、しかも複雑な形状の鋳型でも容易に製造できる鋳型の製造方法および鋳型造型用型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を有する。
[1]乾燥状態の耐火性粒状材料を鋳型造型用型の内部に充填する工程(I)と、
前記耐火性粒状材料が充填された鋳型造型用型を水に浸漬し、造型物を得る工程(II)と、
得られた造型物を鋳型造型用型に充填したまま乾燥する工程(III)と、
を含み、
前記鋳型造型用型には、水が内部に浸透することを妨げず、かつ前記耐火性粒状材料が内部から流出することを阻害する複数の穴が形成され、
前記工程(I)で用いる耐火性粒状材料および前記工程(II)で用いる水の少なくとも一方に水溶性無機粘結剤が混合されており、
前記水溶性無機粘結剤が、硫酸化合物、リン酸化合物、塩化物および炭酸化合物からなる群より選ばれる1種以上である、鋳型の製造方法。
[2]少なくとも前記工程(II)で用いる水に前記水溶性無機粘結剤が混合されている、[1]の鋳型の製造方法。
[3]前記耐火性粒状材料が珪酸塩で被覆されている、[1]または[2]の鋳型の製造方法。
[4]前記鋳型造型用型がマイクロ波を透過する材料からなり、
前記工程(III)では造型物にマイクロ波を照射して乾燥する、[1]~[3]のいずれかの鋳型の製造方法。
[5]前記工程(III)を減圧下で行う、[1]~[4]のいずれかの鋳型の製造方法。
[6]乾燥状態の耐火性粒状材料を用いて鋳型を造型するための鋳型造型用型であって、
前記耐火性粒状材料を内部に充填して水に浸漬させたときに、水が内部に浸透することを妨げず、かつ前記耐火性粒状材料が内部から流出することを阻害する複数の穴が形成されている、鋳型造型用型。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、強度が高く、しかも複雑な形状の鋳型でも容易に製造できる鋳型の製造方法および鋳型造型用型を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の鋳型造型用型の一実施形態を示す斜視図である。
図2】実施例および比較例で用いたテストピース作製用の鋳型造型用型を示す図であり、(a)は斜視図であり、(b)は平面図である。
図3】流動性の評価におけるスランプ試験の結果を示す写真であり、(a)は実施例1、(b)は比較例1である。
図4】実施例2~8の結果を示すグラフである。
図5】実施例9~12の結果を示すグラフである。
図6】実施例13~20の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[鋳型造型用型]
本発明の鋳型造型用型は、乾燥状態の耐火性粒状材料を用いて鋳型を造型するための型である。
耐火性粒状材料については、後述する。
【0012】
図1に、本発明の一実施形態として中子を造型するための鋳型造型用型を示す。中子とは、中空部を有する鋳物を製造する際に、中空部にあたる部分として、主型となる鋳型の中にはめ込まれる鋳型である。
図1に示す鋳型造型用型10は上型11と下型12とからなる。
上型11および下型12は、鋳型の形状に対応した窪み13を有している。窪み13のうち、13aは中子本体に相当する部分の窪みであり、13bは幅木に相当する部分の窪みである。これらの窪み13が内側になるように上型11と下型12とを重ね合わせる、具体的には、第一凸部15aと第一凹部16a、第二凸部15bと第二凹部16b、第三凸部15cと第三凹部16c、第四凸部15dと第四凹部16dとをそれぞれ重ね合わせることで出来上がる鋳型造型用型10内の空間に、耐火性粒状材料を充填する。
【0013】
鋳型造型用型10には、複数の穴14が形成されている。穴14は、耐火性粒状材料を鋳型造型用型10の内部に充填して水に浸漬させたときに、水が内部に浸透することを妨げず、かつ耐火性粒状材料が内部から流出することを阻害するように形成されている。
穴14の形状としては、例えば円形、楕円形、多角形(例えば三角形、四角形、五角形、六角形、菱形、台形等)、スリット状などが挙げられるが、これらに限定されない。
スリット状の穴は水が浸透しやすいが、鋳型にスリット状の穴に添った線状の凸部が生じてしまう傾向がある。円形、楕円形または多角形の穴に対応する部分の鋳型にも凸部が生じてしまう傾向があるが、スリット状の穴に添った線状の凸部よりは目立ちにくい。そのため、例えば図1に示すように、中子本体に相当する部分の窪み13aには、鋳型に転写されたときに模様が目立ちにくい円形の穴14aが形成されていることが好ましい。中子本体に相当する部分の窪み13aには、円形の穴14aに代えて、楕円形や多角形の穴が形成されていてもよい。一方、幅木に相当する部分の窪み13bには水が浸透しやすいようにスリット状の穴14bが形成されていることが好ましい。
【0014】
穴14の大きさは、鋳型造型用型10に充填される耐火性粒状材料の粒子径以下が好ましい。ただし、粒子径の大きい耐火性粒状材料同士の隙間に、粒子径の小さい耐火性粒状材料が充填されて緻密な充填状態となる、いわゆる石垣効果が得られる場合は、耐火性粒状材料の流出を阻害できるので、穴14の大きさが耐火性粒状材料の粒子径より大きくてもよい。
穴14の大きさは、具体的には0.05~1mmが好ましく、0.1~1mmがより好ましい。穴14の大きさが上記下限値以上であれば、穴14の形成が容易であるとともに、水が浸透しやすい。穴14の大きさが上記上限値以下であれば、耐火性粒状材料の流出を阻害しやすい。
本明細書において、穴14の大きさとは、形状が円形の場合は円の直径であり、楕円形の場合は楕円の短径であり、多角形の場合は内接する円の直径であり、スリット状の場合はスリット幅である。
【0015】
鋳型造型用型10の開口率は、0.1~10%が好ましく、1~5%がより好ましい。開口率が上記下限値以上であれば、水が浸透しやすい。開口率が上記上限値以下であれば、鋳型の表面が平滑になる。
本明細書において、開口率とは、鋳型造型用型10の窪み13部分の表面における穴14の占める面積割合のことである。
【0016】
鋳型造型用型10の材料としては、穴14を形成できるものであれば特に制限されず、樹脂、金属、木などが挙げられる。
詳しくは後述するが、耐火性粒状材料を充填して水に浸漬させた後、得られた造型物を鋳型造型用型10に充填したままマイクロ波を照射して乾燥させて鋳型を製造する場合は、鋳型造型用型10はマイクロ波を透過する材料からなることが好ましい。
マイクロ波を透過するとは、造型物を乾燥するのに必要な発熱が生じる程度に、マイクロ波の少なくとも一部が鋳型造型用型10を通過することを意味し、具体的には材料の比誘電率(εr)が7以下であることを意味する。比誘電率は6以下が好ましく、5以下がより好ましい。比誘電率の下限値については特に制限されない。
比誘電率は、空洞共振摂動法により求められる。具体的には、例えば常温下で材料を幅50.0mm×長さ50.0mm×厚さ1.5mmの大きさに成形し、得られた成形物について空洞共振摂動法により比誘電率(εr)を測定する。
【0017】
マイクロ波を透過する材料としては、例えばガラス、好ましくはソーダ石灰ガラス(εr=6.0~8.0)、ポリアミド(εr=3.5~5.0)、エポキシ樹脂(εr=2.5~6.0)、ポリスチレン(εr=2.4~2.6)、シリコン樹脂(εr=3.5~5.0)、ポリウレタン(εr=5.0~5.3)、ポリ乳酸(εr=約3)、ポリフェニレンサルファイド(εr=3~4)などが挙げられる。これらの材料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
鋳型造型用型10の製造方法としては特に制限されないが、形状の自由度が高く、複雑な形状であっても容易に製造でき、しかも所望の位置に所望の大きさの穴14を容易に形成できる点で、3次元積層造形等の付加製造法(additive manufacturing)により鋳型造型用型10を製造することが好ましい。3次元積層造形の中でも、選択的レーザー焼結法(SLS法:Selective Laser Sintering法)が好適である。
以下、選択的レーザー焼結法による鋳型造型用型の製造方法の一例を説明する。
【0019】
まず、目的とする鋳型造型用型10の一定間隔の断面形状の三次元データを予め作成し、この三次元データに基づいて、粉末状の材料の薄層を作業台に積層する。粉末状の材料としては、例えばガラス、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリルエーテルケトン、フッ素樹脂などを使用できる。これらの中でも、ガラス(好ましくはソーダ石灰ガラス)とポリアミドとの混合物は、マイクロ波を透過できるので好ましい。
次いで、得られた薄層にレーザーを走査照射して加熱することにより前記粉末状の材料を焼結する。次いで、焼結後の薄層上に、前記粉末状の材料からなる別の薄層を積層し、レーザーを走査照射するという操作を繰り返すことにより、溶融接着された前記粉末状の材料からなる鋳型造型用型10が得られる。
【0020】
なお、付加製造法以外の方法で鋳型造型用型10を製造してもよい。例えば射出成形や切削加工により所望の形状の成形体を製造し、得られた成形体の所望の位置に所望の大きさの穴を形成して鋳型造型用型10を製造してもよい。
【0021】
[鋳型の製造方法]
<第一の態様>
本発明の第一の態様の鋳型の製造方法は、下記工程(I-1)と工程(II-1)と工程(III-1)とを含む。第一の態様の鋳型の製造方法は、付加的に下記工程(IV-1)を含んでいてもよい。
工程(I-1):乾燥状態の耐火性粒状材料を鋳型造型用型の内部に充填する工程
工程(II-1):耐火性粒状材料が充填された鋳型造型用型を、水溶性無機粘結剤が混合された水に浸漬し、造型物を得る工程
工程(III-1):得られた造型物を鋳型造型用型に充填したまま乾燥する工程
工程(IV-1):造型物をさらに加熱する工程
【0022】
(工程(I-1))
工程(I-1)は、乾燥状態の耐火性粒状材料を鋳型造型用型の内部に充填する工程である。
工程(I-1)で用いる鋳型造型用型には、水が内部に浸透することを妨げず、かつ耐火性粒状材料が内部から流出することを阻害する複数の穴が形成されている。このような鋳型造型用型としては、上述した本発明の鋳型造型用型を用いればよい。
【0023】
乾燥状態の耐火性粒状材料は湿った状態の耐火性粒状材料に比べて流動性に優れる。よって、乾燥状態の耐火性粒状材料を用いれば、鋳型造型用型の形状が複雑であっても均一に素早く充填でき、充填不良や鋳型強度の低下を抑制できる。加えて、乾燥状態の耐火性粒状材料は毛細管現象が起こりやすいため、工程(II-1)において水が浸透しやすい。
本発明において、乾燥状態とは、目視で観察したときに凝集していない状態を意味する。客観的な凝集の状態は、スランプ試験により確認できる。本発明では、上底の直径が70mm、下底の直径が60mm、高さが80mmであるスランプコーンに耐火性粒状材料を詰めた後、スランプコーンを静かに鉛直に引き上げたときの耐火性粒状材料の広がり(スランプフロー)が150mm以上であることが好ましい。
【0024】
耐火性粒状材料としては、珪砂、クロマイト砂、ジルコン砂、オリビン砂、非晶質シリカ、アルミナ砂、ムライト砂等の天然砂;人工砂などの従来公知のものを使用できる。また、使用済みの耐火性粒状材料を回収したもの(回収砂)や再生処理したもの(再生砂)なども使用できる。これら耐火性粒状材料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
製造コストの観点では天然砂が好ましく、その中でも珪砂がより好ましい。熱により膨張しにくい観点では人工砂が好ましい。製造コストと耐熱性とのバランスを考慮し、天然砂と人工砂とを混合して用いてもよい。
【0025】
耐火性粒状材料の粒子径は50~600μmが好ましく、60~500μmがより好ましく、70~300μmがさらに好ましく、75~150μmが特に好ましい。耐火性粒状材料の粒子径が上記下限値以上であれば、取扱いに優れ、作業性を良好に維持できる。耐火性粒状材料の粒子径が上記上限値以下であれば、強度の高い鋳型が得られる。また、該鋳型を用いて鋳造される鋳物の表面性にも優れる。
耐火性粒状材料の粒子径は、動的光散乱法により測定した耐火性粒状材料の体積累計50%のメディアン径である。
【0026】
耐火性粒状材料は、珪酸塩で被覆されていることが好ましい。珪酸塩で被覆された耐火性粒状材料を用いれば、強度がより高い鋳型が得られる。また、鋳型の強度が高まるため、後述の水溶性無機粘結剤の使用量を削減できる。水溶性無機粘結剤は結晶水を含んでいることがあるが、水溶性無機粘結剤の使用量が増えると、得られる鋳型中に含まれる結晶水の量も増えることとなる。鋳型は注湯時に高温に曝されるが、このときに水溶性無機粘結剤自身は熱分解しにくいものの、結晶水が蒸発してガスが発生し、ガス欠陥の原因となる場合がある。水溶性無機粘結剤の使用量を削減できれば注湯時のガス発生量も削減できるので、ガス欠陥を抑制できる。
珪酸塩としては、例えば珪酸ナトリウム、珪酸カリウムなどが挙げられる。
なお、珪酸塩で被覆されていない耐火性粒状材料を用いれば、崩壊性により優れる鋳型が得られる。また、解体した鋳型から耐火性粒状材料を再生し、鋳型の製造に再利用する際の再生率にも優れる。
【0027】
耐火性粒状材料を珪酸塩で被覆するためには、水ガラスを用いて耐火性粒状材料を被覆することが好ましい。例えば、100~120℃に加熱した耐火性粒状材料に水ガラスを添加し、混合することで、珪酸塩で被覆された耐火性粒状材料が得られる。加熱した耐火性粒状材料に水ガラスを添加することで、水が蒸発して珪酸塩が耐火性粒状材料に残り、耐火性粒状材料の表面を被覆する。
【0028】
水ガラスとしては特に限定されず、従来公知のものを使用できる。例えば珪酸ナトリウム(具体的にはJIS K 1408:1966に記載されている1号、2号、3号やメタ珪酸ナトリウム(1種、2種))、珪酸カリウムや、これらの混合物を用いることができる。
また、水ガラスとしては、SiOとM(M=KOまたはNaO)のモル比(SiO/M)が1.6~4.0である水ガラスを用いることが好ましく、モル比が2.15~2.5である水ガラスを用いることがより好ましい。モル比が小さくなると硬化速度が遅くなり、接着強度が高くなる傾向にある。逆に、モル比が大きくなると硬化速度が速くなり、接着強度が低くなる傾向にある。
【0029】
水ガラスの25℃におけるボーメ度は36~50であることが好ましい。水ガラスのボーメ度が小さくなると、耐火性粒状材料を水ガラスで被覆する際に蒸発させる水が多くなるため、被覆に必要な耐火性粒状材料の加熱温度を高く設定したり、混合時間を長くしたりする必要がある。逆に、水ガラスのボーメ度が大きくなると、水ガラスの粘度が増加して耐火性粒状材料を均一に被覆しにくくなる。
【0030】
珪酸塩の割合、すなわち被覆量は、被覆されていない耐火性粒状材料100質量部に対して、0.1~5.0質量部が好ましく、0.1~2.0質量部がより好ましい。珪酸塩の割合が上記下限値以上であれば、鋳型の強度がより高まる。珪酸塩の割合が上記上限値以下であれば、鋳造後の鋳型の崩壊性を良好に維持でき、耐火性粒状材料の再生率も高まる傾向にある。
【0031】
(工程(II-1))
工程(II-1)は、耐火性粒状材料が充填された鋳型造型用型を、水溶性無機粘結剤が混合された水、すなわち溶解した水溶性無機粘結剤を含む水(以下、「粘結剤水溶液」ともいう。)に浸漬し、造型物を得る工程である。
なお、本発明において水溶性とは、20℃の水への溶解度が2g/100mL以上であることを示す。
【0032】
鋳型造型用型には、水が内部に浸透することを妨げず、かつ耐火性粒状材料が内部から流出することを阻害する複数の穴が形成されている。よって、鋳型造型用型を粘結剤水溶液に浸漬することで、鋳型造型用型に形成された穴から粘結剤水溶液が浸透し、鋳型造型用型に充填された耐火性粒状材料の全体に、溶解した水溶性無機粘結剤が含浸する。しかも、鋳型造型用型に充填された耐火性粒状材料は乾燥状態なので、粘結剤水溶液が均一に含浸しやすい。
【0033】
水溶性無機粘結剤は、硫酸化合物、リン酸化合物、塩化物および炭酸化合物からなる群より選ばれる1種以上である。
硫酸化合物としては、例えば硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸ナトリウム、硫酸ニッケル、硫酸マンガン、硫酸鉄などが挙げられる。これら硫酸化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
リン酸化合物としては、例えばリン酸三ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸一水素カリウム、リン酸マグネシウムなどが挙げられる。これらリン酸化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
塩化物としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどが挙げられる。これら塩化物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
炭酸化合物としては、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが挙げられる。これら炭酸化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
これら硫酸化合物、リン酸化合物、塩化物および炭酸化合物は、無水物であってもよいし、水和物であってもよい。
【0035】
鋳型造型用型に充填されている耐火性粒状材料100質量部に対する水溶性無機粘結剤の割合は、0.5~15質量部が好ましく、1~13質量部がより好ましく、2~12質量部がさらに好ましい。水溶性無機粘結剤の割合が上記範囲内であれば、鋳型の強度がより高まる。
なお、耐火性粒状材料が珪酸塩で被覆されている場合は、耐火性粒状材料の質量に珪酸塩の質量を含める。
【0036】
耐火性粒状材料が珪酸塩で被覆されている場合、例えば上述した範囲のボーメ度の水ガラスを用いて耐火性粒状材料を被覆していれば、珪酸塩と水溶性無機粘結剤の質量比(珪酸塩:水溶性無機粘結剤)は、1:0.5~1:12が好ましく、1:2~1:6がより好ましい。珪酸塩の割合が多いほど鋳型の強度が高まる傾向にあり、水溶性無機粘結剤の割合が多いほど鋳型の崩壊性が高まるとともに、耐火性粒状材料の再生率も高まる傾向にある。
【0037】
耐火性粒状材料100質量部に対する水溶性無機粘結剤の割合や、珪酸塩と水溶性無機粘結剤の質量比を上記範囲内とするには、粘結剤水溶液の濃度や鋳型造型用型への粘結剤水溶液の浸透量を調節すればよい。
粘結剤水溶液の濃度、すなわち粘結剤水溶液の総質量に対する水溶性無機粘結剤の含有量は、5~35質量%が好ましく、10~25質量%がより好ましい。
鋳型造型用型への粘結剤水溶液の浸透量は、鋳型造型用型に充填されている耐火性粒状材料100質量部に対して10~40質量部が好ましく、15~30質量部がより好ましい。
なお、鋳型造型用型への粘結剤水溶液の浸透量は、浸漬時間、鋳型造型用型の開口率によって調整できる。
【0038】
鋳型造型用型の粘結剤水溶液への浸漬時間は特に制限されず、鋳型造型用型の大きさによって浸漬時間を調整すればよい。浸漬時間が長いほど溶解した水溶性無機粘結剤が耐火性粒状材料に充分に含浸するが、浸漬時間が長すぎても効果は頭打ちとなる。
【0039】
(工程(III-1))
工程(III-1)は、工程(II-1)で得られた造型物を鋳型造型用型に充填したまま乾燥する工程である。
水溶性無機粘結剤が結晶水を含んでいる場合、工程(III-1)では造型物に含まれる粘結剤水溶液の溶媒を除去し、水溶性無機粘結剤の結晶水を残すように造型物を乾燥する。結晶水が残っていれば鋳型の強度がより高まる。
【0040】
造型物を鋳型造型用型に充填したまま乾燥する方法としては、造型物が充填された鋳型造型用型にマイクロ波を照射して乾燥する方法、減圧下で乾燥を行う方法、造型物が充填された鋳型造型用型を乾燥器または電気炉に入れて乾燥する方法、造型物が充填された鋳型造型用型に熱風を当てて乾燥する方法などが挙げられる。これらの中でも、容易に粘結剤水溶液の溶媒を除去でき、しかも水溶性無機粘結剤の結晶水を残すように造型物を乾燥できる観点から、造型物が充填された鋳型造型用型にマイクロ波を照射して乾燥する方法、減圧下で乾燥を行う方法が好適である。また、これらの方法を併用すれば、乾燥時間を短縮できる。
なお、造型物が充填された鋳型造型用型にマイクロ波を照射して乾燥する場合は、鋳型造型用型としてはマイクロ波を透過する材料からなるものを用いる。
【0041】
マイクロ波の照射条件は、得られる鋳型の大きさ、水溶性無機粘結剤の種類や使用量(浸透量)に応じて、出力と照射時間を制御すればよい。
出力が高すぎると、鋳型造型用型が溶けるおそれがある。よって、出力は1000W以下が好ましく、900W以下がより好ましい。また、照射時間を短縮できる観点から、200W以上が好ましく、300W以上がより好ましい。
照射時間が長すぎると、鋳型造型用型が溶けるおそれがある。よって、出力に応じて照射時間を設定することが好ましい。
また、出力および照射時間の少なくとも一方を変更して、複数回に分けてマイクロ波を照射してもよい。
【0042】
減圧乾燥する際の圧力(真空度)は、乾燥時間を短縮できる観点から、50kPa以下が好ましく、20kPa以下がより好ましい。真空度の下限値は特に制限されないが、通常は5kPa以上である。
【0043】
上述したように、工程(II-1)の後の耐火性粒状材料には粘結剤水溶液が含浸している。造型物を鋳型造型用型に充填したまま乾燥することで、耐火性粒状材料に含浸していた粘結剤水溶液の溶媒である水が蒸発し、溶解していた水溶性無機粘結剤が固化することで、耐火性粒状材料が鋳型造型用型の形状に固まり、抜型することで所望の形状の鋳型が得られる。
なお、粘結剤水溶液に含まれる水溶性無機粘結剤がリン酸化合物を含む場合は、以下の工程(IV-1)を行ってもよい。
【0044】
(工程(IV-1))
工程(IV-1)は、造型物をさらに加熱する工程である。
水溶性無機粘結剤が結晶水を含んでいる場合、工程(IV-1)では水溶性無機粘結剤の結晶水の少なくとも一部を除去するように造型物をさらに加熱する。
水溶性無機粘結剤の結晶水の少なくとも一部を除去すれば、注湯時のガス発生量も削減できるので、ガス欠陥を抑制できる。
【0045】
造型物を加熱する方法としては、造型物を乾燥機または電気炉に入れて加熱する方法、造型物に直接熱風をあてる方法、造形物に直接バーナーをあてる方法などが挙げられる。これらの方法は、常圧下で行ってもよいし、減圧下で行ってもよい。これらの中でも、容易に水溶性無機粘結剤の結晶水の少なくとも一部を除去できる観点から、造型物を電気炉に入れて加熱する方法が好ましい。
【0046】
造型物を加熱する際の加熱温度は、常圧下の場合は100~700℃が好ましく、250~700℃がより好ましい。このときの加熱時間は、水溶性無機粘結剤の結晶水の少なくとも一部が除去されれば特に制限されず、鋳型造型用型の大きさによって調整すればよい。
【0047】
工程(IV-1)は、鋳型造型用型が耐熱性を有していれば造型物を鋳型造型用型に充填したまま加熱してもよい。鋳型造型用型の耐熱温度が低い場合は、鋳型造型用型から抜型して造型物のみを加熱してもよい。
【0048】
このようにして得られる鋳型の加熱減量(α)が1.0%以下であれば、水溶性無機粘結剤の結晶水の少なくとも一部が除去されたと判断できる。すなわち、製造工程が工程(IV-1)まで進んだことを意味する。加熱減量(α)は、以下のようして求められる。
鋳型を秤量し、予め300℃に保持した電気炉内で2時間加熱した後、25℃まで放冷し、放冷後の鋳型の質量を測定し、下記式(1)より加熱減量を求める。
加熱減量(α)={(加熱前の鋳型の質量-放冷後の鋳型の質量)/加熱前の鋳型の質量}×100 ・・・(1)
【0049】
(作用効果)
以上説明した本発明の第一の態様の鋳型の製造方法によれば、乾燥状態の耐火性粒状材料を鋳型造型用型の内部に充填するので、鋳型造型用型の形状が複雑であっても均一に素早く耐火性粒状材料を充填でき、充填不良や鋳型強度の低下を抑制できる。しかも、本発明の鋳型造型用型は特定の穴が形成されているので、粘結剤水溶液が浸透して、鋳型造型用型に充填された耐火性粒状材料の全体に、溶解した水溶性無機粘結剤が含浸する。よって、造型物を鋳型造型用型に充填したまま乾燥することで所望の形状の鋳型が得られる。特に、第一の態様の鋳型の製造方法では、水に溶解した水溶性無機粘結剤に耐火性粒状材料が充填された鋳型造型用型を浸漬させるので、溶解した水溶性無機粘結剤が耐火性粒状材料の全体に均一に行きわたりやすい。
このように、本発明の第一の態様の鋳型の製造方法によれば、強度が高く、しかも複雑な形状の鋳型でも容易に製造できる。
【0050】
なお、第一の態様の鋳型の製造方法においては、工程(I-1)で用いる耐火性粒状材料に水溶性無機粘結剤が混合されていてもよい。
【0051】
<第二の態様>
本発明の第二の態様の鋳型の製造方法は、下記工程(I-2)と工程(II-2)と工程(III-2)とを含む。第二の態様の鋳型の製造方法は、付加的に下記工程(IV-2)を含んでいてもよい。
工程(I-2):水溶性無機粘結剤が混合された、乾燥状態の耐火性粒状材料を鋳型造型用型の内部に充填する工程
工程(II-2):耐火性粒状材料が充填された鋳型造型用型を水に浸漬し、造型物を得る工程
工程(III-2):得られた造型物を鋳型造型用型に充填したまま乾燥する工程
工程(IV-2):造型物をさらに加熱する工程
【0052】
(工程(I-2))
工程(I-2)は、充填前の耐火性粒状材料に水溶性無機粘結剤が混合されている以外は、第一の態様の工程(I-1)と同様である。
乾燥状態の耐火性粒状材料および水溶性無機粘結剤としては、それぞれ第一の態様の説明において先に例示した耐火性粒状材料および水溶性無機粘結剤が挙げられる。
【0053】
水溶性無機粘結剤の割合は、耐火性粒状材料100質量部に対して、0.5~15質量部が好ましく、1~13質量部がより好ましく、2~12質量部がさらに好ましい。水溶性無機粘結剤の割合が上記下限値以上であれば、鋳型の強度がより高まる。
なお、耐火性粒状材料が珪酸塩で被覆されている場合は、耐火性粒状材料の質量に珪酸塩の質量を含める。
【0054】
耐火性粒状材料が珪酸塩で被覆されている場合、珪酸塩と水溶性無機粘結剤の質量比(珪酸塩:水溶性無機粘結剤)は、1:0.5~1:12が好ましく、1:2~1:6がより好ましい。珪酸塩の割合が多いほど鋳型の強度が高まる傾向にあり、水溶性無機粘結剤の割合が多いほど鋳型の崩壊性が高まるとともに、耐火性粒状材料の再生率も高まる傾向にある。
【0055】
(工程(II-2))
工程(II-2)は、水溶性無機粘結剤が混合された、乾燥状態の耐火性粒状材料が充填された鋳型造型用型を水に浸漬し、造型物を得る工程である。
鋳型造型用型には、水が内部に浸透することを妨げず、かつ耐火性粒状材料が内部から流出することを阻害する複数の穴が形成されている。よって、鋳型造型用型を水に浸漬することで、鋳型造型用型に形成された穴から水が浸透し、耐火性粒状材料に混合されていた水溶性無機粘結剤が溶解して耐火性粒状材料の全体に含浸する。しかも、鋳型造型用型に充填された耐火性粒状材料は乾燥状態なので、水が均一に含浸しやすい。
【0056】
鋳型造型用型への水の浸透量は、鋳型造型用型に充填されている耐火性粒状材料100質量部に対して5~35質量部が好ましく、10~25質量部がより好ましい。
なお、鋳型造型用型への水の浸透量は、浸漬時間、鋳型造型用型の開口率によって調整できる。
鋳型造型用型の水への浸漬時間は特に制限されず、鋳型造型用型の大きさによって浸漬時間を調整すればよい。浸漬時間が長いほど水が充分に浸透するが、浸漬時間が長すぎても効果は頭打ちとなる。また、浸漬時間が長すぎると、鋳型造型用型の外へ水溶性無機粘結剤が流出する場合がある。
【0057】
(工程(III-2))
工程(III-2)は、工程(II-2)で得られた造型物を鋳型造型用型に充填したまま乾燥する工程である。
水溶性無機粘結剤が結晶水を含んでいる場合、工程(III-2)では造型物に含まれる粘結剤水溶液の溶媒を除去し、水溶性無機粘結剤の結晶水を残すように造型物を乾燥する。結晶水が残っていれば鋳型の強度がより高まる。
具体的な乾燥方法は、第一の態様の工程(III-1)と同様である。
【0058】
造型物を鋳型造型用型に充填したまま乾燥することで、耐火性粒状材料に含浸していた水が蒸発し、溶解していた水溶性無機粘結剤が固化することで、耐火性粒状材料が鋳型造型用型の形状に固まり、抜型することで所望の形状の鋳型が得られる。
なお、粘結剤水溶液に含まれる水溶性無機粘結剤がリン酸化合物を含む場合は、以下の工程(IV-2)を行ってもよい。
【0059】
(工程(IV-2))
工程(IV-2)は、造型物をさらに加熱する工程である。
水溶性無機粘結剤が結晶水を含んでいる場合、工程(IV-2)では水溶性無機粘結剤の結晶水の少なくとも一部を除去するように造型物をさらに加熱する。結晶水の少なくとも一部を除去すれば、注湯時のガス発生量も削減できるので、ガス欠陥を抑制できる。
具体的な加熱方法は、第一の態様の工程(IV-1)と同様である。
【0060】
このようにして得られる鋳型の加熱減量(α)が1.0%以下であれば、水溶性無機粘結剤の結晶水の少なくとも一部が除去されたと判断できる。すなわち、製造工程が工程(IV-2)まで進んだことを意味する。
加熱減量(α)の測定方法は、第一の態様における加熱減量(α)の測定方法と同様である。
【0061】
(作用効果)
以上説明した本発明の第二の態様の鋳型の製造方法によれば、水溶性無機粘結剤が混合された、乾燥状態の耐火性粒状材料を鋳型造型用型に充填するので、鋳型造型用型の形状が複雑であっても均一に素早く耐火性粒状材料を充填でき、充填不良や鋳型強度の低下を抑制できる。しかも、本発明の鋳型造型用型は特定の穴が形成されているので、水が浸透し、鋳型造型用型に充填された水溶性無機粘結剤が溶解して耐火性粒状材料の全体に含浸する。よって、造型物を鋳型造型用型に充填したまま乾燥することで所望の形状の鋳型が得られる。
このように、本発明の第二の態様の鋳型の製造方法によれば、強度が高く、しかも複雑な形状の鋳型でも容易に製造できる。
【0062】
[鋳型]
本発明により得られる鋳型は、粘結剤として水溶性無機粘結剤を含んでいるため、注湯時に水溶性無機粘結剤の熱分解ガスが発生しにくい。また、鋳型は水溶性無機粘結剤によってその形状を維持し、強度が維持されているが、水溶性無機粘結剤は水に溶解しやすいため、鋳造後の鋳型に水をかけることで容易に鋳型が崩壊する。さらに、水溶性無機粘結剤は水に溶解するので、固液分離することで解体した鋳型から耐火性粒状材料を容易に再生できる。また、固液分離した液体から水を除去すれば、水溶性無機粘結剤も再利用できる。
【実施例
【0063】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。各例で用いた耐火性粒状材料、水溶性無機粘結剤および水ガラスを以下に示す。また、各種測定方法および評価方法と、鋳型造型用型の製造方法は以下の通りである。
【0064】
<耐火性粒状材料>
耐火性粒状材料として、以下に示すものを用いた。なお、以下に示す耐火性粒状材料(i)~(v)は、いずれも乾燥状態である。
・耐火性粒状材料(i):焼結法により得られた人工砂(Al-SiOを95質量%含むもの、伊藤忠セラテック株式会社製の商品名「CB-X#1450」、粒子径53~150μm)。
・耐火性粒状材料(ii):焼結法により得られた人工砂(Al-SiOを95質量%含むもの、伊藤忠セラテック株式会社製の商品名「CB-X#650」、粒子径106~212μm)。
・耐火性粒状材料(iii):天然珪砂(SiOを98質量%含む珪砂、三菱商事建材株式会社製の商品名「フラタリーサンド」、粒子径106~212μm)。
・耐火性粒状材料(iv):溶融法により得られた人工砂(Alを75質量%、SiOを25質量%含むもの、伊藤機工株式会社製の商品名「アルサンド#650」、粒子径106~212μm)。
・耐火性粒状材料(v):火炎溶融法により得られた人工砂(SiOを98質量%含むもの、CHINA MINERAL PROCESSING LIMITED社製の商品名「SPHERESAND SL SLH#65」、粒子径106~212μm)。
【0065】
<水溶性無機粘結剤>
水溶性無機粘結剤として、硫酸マグネシウム無水物を用いた。
【0066】
<水ガラス>
水ガラスとして、富士化学工業株式会社製の「珪酸ソーダ」(モル比(SiO/NaO):2.5、ボーメ度:48(25℃)、水分:50質量%)を用いた。
【0067】
<測定・評価>
(流動性の評価)
スランプ試験に基づいて試料(耐火性粒状材料および混練砂)の流動性を評価した。
スランプ試験には、上底の直径が70mm、下底の直径が60mm、高さが80mmであるスランプコーンを用いた。
スランプコーンに試料を詰めた後、スランプコーンを静かに鉛直に引き上げたときの試料の広がり(スランプフロー)を測定した。
【0068】
(曲げ強さの測定)
各実施例および比較例で得られたテストピースの曲げ強さをJACT試験法SM-1に記載の測定方法を用いて測定した。
【0069】
<鋳型造型用型の製造(1)>
ソーダ石灰ガラス(ポッターズ・バロティーニ株式会社製の商品名「ガラスビーズ」、平均粒子径50μm、εr=6.0)7.5kgと、ポリアミド11(アルケマ株式会社製の商品名「RILSAN INVENT NATURAL」、平均粒子径50μm、εr=4.3)7.5kgとをスクリュー型ミキサーで5分間混合し、付加製造法用材料を得た。
SLS法に基づき、レーザー焼結機(EOS社製、「EOSINT P380」)にて付加製造用材料を選択的にレーザー焼結することにより、図1に示す鋳型造型用型10を作製した。中子本体に相当する部分の窪み13aには、直径0.8mmの円形の穴14aが形成され、幅木に相当する部分の窪み13bには、長さ75~81mmのスリット状の穴14bが形成されており、開口率は3.1%である。
【0070】
<鋳型造型用型の製造(2)>
鋳型造型用型の製造(1)と同様にして、付加製造法用材料を得た。
SLS法に基づき、レーザー焼結機(EOS社製、「EOSINT P380」)にて付加製造用材料を選択的にレーザー焼結することにより複数のパーツを製造した。得られた複数のパーツを組み合わせて、図2に示すような、縦60mm、横10mm、深さ10mmの直方体状の窪み13が5つ形成されたテストピース作製用の鋳型造型用型20を作製した。窪み13の側面と底面には、幅0.3mm、長さ8~30mmのスリット状の穴14bが形成されており、開口率は7.9%である。
【0071】
[実施例1]
耐火性粒状材料(i)についてスランプ試験を行い、耐火性粒状材料(i)の流動性を評価した。結果を図3の(a)に示す。
【0072】
別途、濃度が25質量%となるように水溶性無機粘結剤を水に溶解し、粘結剤水溶液を調製した。
耐火性粒状材料(i)を図1に示す鋳型造型用型10の窪み13に充填した(工程(I-1))。次いで、耐火性粒状材料(i)を充填した鋳型造型用型10を粘結剤水溶液に30秒間浸漬した(工程(II-1))。次いで、粘結剤水溶液から鋳型造型用型10を引き上げ、マイクロ波減圧乾燥器(西光エンジニアリング株式会社製)に入れ、マイクロ波出力1000W、真空度10kPaの条件で5分間乾燥を行った後(工程(III-1))、鋳型造型用型10から重量250gの鋳型を取り出した。
【0073】
[比較例1]
耐火性粒状材料(iii)100質量部に、水溶性無機粘結剤3質量部と、水2.4質量部とを添加し、1分間混練して混練砂を得た。
得られた混練砂についてスランプ試験を行い、混練砂の流動性を評価した。結果を図3の(b)に示す。
【0074】
図3の結果より、耐火性粒状材料(i)は、スランプフローが210mmであり流動性に優れていた。また、この耐火性粒状材料(i)を図1に示す鋳型造型用型10に充填したところ、充分に充填できた。さらに、粘結剤水溶液を浸透させた後に乾燥することで、鋳型を製造することができた。
一方、混練砂は湿っているため、スランプフローが70mmであり流動性に劣っていた。
よって、乾燥状態の耐火性粒状材料を用いれば、鋳型造型用型の形状が複雑であっても均一に素早く充填でき、充填不良や鋳型強度の低下を抑制できることが示された。
【0075】
[実施例2]
耐火性粒状材料(i)100質量部と水溶性無機粘結剤2質量部とを混合し、得られた混合物を図2に示す鋳型造型用型20の窪み13に充填した(工程(I-2))。次いで、耐火性粒状材料(i)と水溶性無機粘結剤を充填した鋳型造型用型20を水に30秒間浸漬した(工程(II-2))。次いで、水から鋳型造型用型20を引き上げ、マイクロ波減圧乾燥器(西光エンジニアリング株式会社製)に入れ、マイクロ波出力800W、真空度10kPaの条件で1.5分間乾燥を行った後(工程(III-2))、鋳型造型用型20から5個のテストピース(鋳型)を取り出した。
取り出した5個のテストピースについて曲げ強さを測定し、その平均値を求めた。結果を表1および図4に示す。
なお、鋳型造型用型20への水の浸透量は、鋳型造型用型20に充填されている耐火性粒状材料(i)100質量部に対して20質量部あった。
また、上述した測定方法によりテストピースの加熱減量(α)を測定したところ1.4%であり、テストピース中の水溶性無機粘結剤の結晶水が残っている状態であることが確認できた。
【0076】
[実施例3~8]
水溶性無機粘結剤の添加量が表1に示す値となるように変更した以外は、実施例2と同様にしてテストピースを製造し、曲げ強さを測定した。結果を表1および図4に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
表1および図4の結果より、各実施例からは強度の高いテストピースが得られた。
【0079】
[実施例9]
濃度が25質量%となるように水溶性無機粘結剤を水に溶解し、粘結剤水溶液を調製した。
耐火性粒状材料(iii)を図2に示す鋳型造型用型20の窪み13に充填した(工程(I-1))。次いで、耐火性粒状材料(iii)を充填した鋳型造型用型20を粘結剤水溶液に30秒間浸漬した(工程(II-1))。次いで、粘結剤水溶液から鋳型造型用型20を引き上げ、マイクロ波減圧乾燥器(西光エンジニアリング株式会社製)に入れ、マイクロ波出力800W、真空度10kPaの条件で1.5分間乾燥を行った後(工程(III-1))、鋳型造型用型20から5個のテストピース(鋳型)を取り出した。
取り出した5個のテストピースについて曲げ強さを測定し、その平均値を求めた。結果を表2および図5に示す。
なお、鋳型造型用型20への粘結剤水溶液の浸透量は、鋳型造型用型20に充填されている耐火性粒状材料100質量部に対して含浸した水溶性無機粘結剤の量が6質量部となる量であった。
【0080】
[実施例10~12]
表2に示す種類の耐火性粒状材料を用いた以外は、実施例9と同様にしてテストピースを製造し、曲げ強さを測定した。結果を表2および図5に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
表2と、以下の表3中の「粘結剤水溶液の濃度」は、粘結剤水溶液の総質量に対する水溶性無機粘結剤の含有量(質量%)である。
表2と、以下の表3および図6中の「水溶性無機粘結剤の割合」は、鋳型造型用型20に充填されている耐火性粒状材料100質量部に対して含浸した水溶性無機粘結剤の量(質量部)である。
【0083】
表2および図5の結果より、各実施例からは強度の高いテストピースが得られた。
【0084】
[実施例13~16]
粘結剤水溶液の総質量に対する水溶性無機粘結剤の濃度が表3に示す値となるように粘結剤水溶液を調製した。
得られた粘結剤水溶液、および耐火性粒状材料(i)を用いた以外は、実施例9と同様にしてテストピースを製造し、曲げ強さを測定した。結果を表3および図6に示す。また、鋳型造型用型20に充填されている耐火性粒状材料(i)100質量部に対して含浸した水溶性無機粘結剤の量を表3に示す。
【0085】
[実施例17~20]
耐火性粒状材料(i)100質量部を110℃に加熱した。次いで、加熱した耐火性粒状材料(i)に水ガラスを1質量部添加し、ミキサーにて5分間撹拌し、珪酸塩で被覆された耐火性粒状材料(i)を得た。なお、珪酸塩の割合、すなわち被覆量は、被覆されていない耐火性粒状材料(i)100質量部に対して、0.5質量部となる。
別途、粘結剤水溶液の総質量に対する水溶性無機粘結剤の濃度が表3に示す値となるように粘結剤水溶液を調製した。
得られた粘結剤水溶液、および珪酸塩で被覆された耐火性粒状材料(i)を用いた以外は、実施例9と同様にしてテストピースを製造し、曲げ強さを測定した。結果を表3および図6に示す。また、鋳型造型用型20に充填されている耐火性粒状材料(i)100質量部(ただし、珪酸塩の質量を含める)に対して含浸した水溶性無機粘結剤の量を表3に示す。
【0086】
【表3】
【0087】
表3および図6の結果より、珪酸塩で被覆された耐火性粒状材料を用いることで、より強度が高いテストピースが得られた。
【符号の説明】
【0088】
10 鋳型造型用型
11 上型
12 下型
13 窪み
13a 中子本体に相当する部分の窪み
13b 幅木に相当する部分の窪み
14 穴
14a 円形の穴
14b スリット状の穴
15a 第一凸部
15b 第二凸部
15c 第三凸部
15d 第四凸部
16a 第一凹部
16b 第二凹部
16c 第三凹部
16d 第四凹部
20 鋳型造型用型
図1
図2
図3
図4
図5
図6