(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】SIGLEC依存的免疫応答をモジュレートするポリペプチド
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20230712BHJP
C12N 15/85 20060101ALI20230712BHJP
C07K 14/745 20060101ALI20230712BHJP
C07K 14/755 20060101ALI20230712BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20230712BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230712BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20230712BHJP
A61K 38/36 20060101ALI20230712BHJP
A61K 38/37 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
C12N15/12
C12N15/85 Z
C07K14/745 ZNA
C07K14/755
C07K14/47
C12N5/10
A61P7/04
A61K38/36
A61K38/37
(21)【出願番号】P 2018560933
(86)(22)【出願日】2017-05-22
(86)【国際出願番号】 EP2017062295
(87)【国際公開番号】W WO2017198877
(87)【国際公開日】2017-11-23
【審査請求日】2020-04-27
(32)【優先日】2016-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500050402
【氏名又は名称】オクタファルマ アクチェン ゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】カンニヒト クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンゲ ステファン
(72)【発明者】
【氏名】コーラ グイード
(72)【発明者】
【氏名】ゾレッカ ヴィテュルスカ バルバラ
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-525363(JP,A)
【文献】国際公開第2013/120939(WO,A1)
【文献】特表2010-529155(JP,A)
【文献】Haematologica,2012年,Vol.97, No.12,p.1855-1863
【文献】Journal of Thrombosis and Haemostasis,2016年,Vol.14,p.733-746
【文献】Journal of Thrombosis and Haemostasis,2010年,Vol.8,p.137-145
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K1/00-19/00
Pubmed
Genbank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE/WPIDS(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するヒトvWFまたはその断片と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含むグリコシル化ポリペプチドであって、前記グリコシル化ポリペプチドがO-グリコシル化部位の1つ以上のクラスターを含み、前記クラスターが少なくとも3つのO-グリコシル化部位および1つ以上のシアル酸化O-グリカンを含み、
前記グリコシル化ポリペプチドのシアル酸化コア2型および伸長コア1型O-グリカンの合わせた数が、
天然に存在するヒトvWFまたはその断片のシアル酸化コア2型および伸長コア1型O-グリカンの数よりも多く、
天然に存在するヒトvWFまたはその断片と比較して、SIG-5、SIG-7、SIG-8、およびSIG-9から選択される1つ以上のSIGLECへの増加した結合親和性を示す、
グリコシル化ポリペプチド。
【請求項2】
前記グリコシル化ポリペプチドのシアル酸化コア2型O-グリカンの数が、前記天然に存在するヒトvWFまたはその断片のシアル酸化コア2型O-グリカンの数よりも多い、請求項1に記載のグリコシル化ポリペプチド。
【請求項3】
前記1つ以上のクラスターが、少なくとも4つのO-グリコシル化部位を含有する、請求項1または2に記載のグリコシル化ポリペプチド。
【請求項4】
前記1つ以上のクラスターが、4つのアミノ酸中の少なくとも1つのグリコシル化部位を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のグリコシル化ポリペプチド。
【請求項5】
少なくとも3つのクラスターを含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のグリコシル化ポリペプチド。
【請求項6】
前記クラスターが、50アミノ酸未満だけ離隔している、請求項1~5のいずれか一項に記載のグリコシル化ポリペプチド。
【請求項7】
各々のシアル酸化O-グリカンが、α2-3結合および/またはα2-6グリコシド結合で少なくとも2つのシアル酸を含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のグリコシル化ポリペプチド。
【請求項8】
シアル酸化O-グリカンの数に基づくコア2型O-グリカンの割合が、少なくとも35%である、請求項7に記載のグリコシル化ポリペプチド。
【請求項9】
多量体化ドメインをさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のグリコシル化ポリペプチド。
【請求項10】
グリコシル化ポリペプチドのO-グリカン部位の総数が、天然に存在するヒトvWFまたはその断片のO-グリカン部位の総数より多い、請求項1~9のいずれか一項に記載のグリコシル化ポリペプチド。
【請求項11】
少なくとも3つのO-グリコシル化部位が、前記天然に存在するヒトvWFまたはその断片と相同または同一であるアミノ酸配列内に位置する、請求項10に記載のグリコシル化ポリペプチド。
【請求項12】
グリコシル化ポリペプチドが融合タンパク質であり、1つ以上のO-グリコシル化部位を含有する第2のアミノ酸配列が、前記天然に存在するヒトvWFまたはその断片と同一または相同であるアミノ酸配列に共有結合している、請求項
11に記載のグリコシル化ポリペプチド。
【請求項13】
共有結合リンカーが、ペプチド結合、化学リンカー、またはグリコシド結合から選択される、請求項
12に記載のグリコシル化ポリペプチド。
【請求項14】
前記第2のアミノ酸配列が、配列番号1のアミノ酸475~505と少なくとも95%相同であるか、または配列番号1のアミノ酸475~505の2つの連続コピーと少なくとも95%相同である、請求項12または13に記載のグリコシル化ポリペプチド。
【請求項15】
ヒト細胞株中での発現により産生される、請求項1~12のいずれか一項に記載のグリコシル化ポリペプチド。
【請求項16】
FVIIIタンパク質、FVII、FIX、ADAMTS13またはそれらの一部から選択される治療タンパク質の免疫応答の低減に使用するための、請求項1~15のいずれか一項に記載のグリコシル化ポリペプチド。
【請求項17】
第1および第2のポリペプチドを含む組成物であって、前記第1のポリペプチドは請求項1~15のいずれか一項に記載のグリコシル化ポリペプチドであり、前記第2のポリペプチドは、第2のヒトタンパク質と相同または同一であるアミノ酸配列を含有し、前記第1および第2のポリペプチドが、タンパク質複合体を形成し、前記第2のポリペプチドと比較して、SIG-5、SIG-7、SIG-8、およびSIG-9から選択される1つ以上のSIGLECから選択されるSIGLECに対する増加した結合親和性を有する組成物。
【請求項18】
前記第2のポリペプチドが、FVIIIタンパク質、FVII、FIX、ADAMTS13またはそれらの一部から選択される、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記第1のポリペプチドがヒトvWFの断片であり、配列番号1の1~505により定義される配列と少なくとも95%同一であるか、配列番号2と少なくとも95%同一であるか、配列番号3と少なくとも95%同一であるか、配列番号4と少なくとも95%同一であるか、または配列番号5と少なくとも95%同一である配列を含み,
ただし、配列番号1の485位、492位、493位および500位のスレオニンに対応するスレオニンは変化しておらず、および前記第2のポリペプチドが、FVIIIタンパク質である、請求項17または18に記載の組成物。
【請求項20】
請求項10~15のいずれか一項に記載のグリコシル化ポリペプチドをコードする単離ポリヌクレオチド。
【請求項21】
配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5から選択される配列と少なくとも95%の同一性を有し、ただし、配列番号1の485位、492位、493位および500位のスレオニンに対応するスレオニンは変化していない、アミノ酸配列を有するグリコシル化ポリペプチドをコードする、請求項20に記載の単離ポリヌクレオチド。
【請求項22】
ベクター骨格および請求項20または21に記載のポリヌクレオチドを含有するベクターであって、前記ベクター骨格は、pCDNA3、pCDNA3.1、pCDNA4、pCDNA5、pCDNA6、pCEP4、pCEP-puro、pCET1019、pCMV、pEF1、pEF4、pEF5、pEF6、pExchange、pEXPR、pIRES、およびpSCASから選択されるベクター。
【請求項23】
請求項20もしくは21に記載のポリヌクレオチドまたは請求項22に記載のベクターを含有する宿主細胞であって、ヒト胚性腎細胞株である宿主細胞。
【請求項24】
出血性障害の治療または予防における使用のための、請求項1~13のいずれか一項に記載のグリコシル化ポリペプチドまたは請求項17~19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項25】
静脈内または非静脈内注射により投与される、請求項24に記載の使用のためのグリコシル化ポリペプチドまたは組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モジュレートされるSIGLEC結合に起因する低減した免疫応答または増加した免疫寛容を示す哺乳動物タンパク質をベースとするグリコシル化ポリペプチドおよびそのグリコシル化ポリペプチドを使用する治療方法に関する。本発明はさらに、モジュレートされるSIGLEC結合に起因する低減した免疫応答または増加した免疫寛容を示すタンパク質複合体およびそのタンパク質複合体を使用する治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血友病は、血液凝固または凝血を制御する身体の能力を害する遺伝性障害のグループである。この最も一般的な形態の血友病Aにおいて、凝固第VIII因子(FVIII)が欠損しており、血友病Aは、5,000~10,000人の男児出生につき1人に生じる。FVIIIタンパク質は、多機能特性を有する血液凝血における必須の補因子である。FVIIIの欠損は、FVIIIの血小板由来濃縮剤により、または組換え産生FVIIIにより治療することができる。FVIII濃縮剤による治療は、血友病患者の生活の正常化をもたらしている。歴史的に、血友病Aは、ヒト血漿に由来するFVIIIにより治療されてきた。血漿において、正常条件下で、FVIII分子は、その補因子;様々な変性の形態からFVIII分子を安定させるフォン・ヴィレブランド因子(vWF)と常に会合している。
【0003】
フォン・ヴィレブランド因子の有無にかかわらず、血漿または第VIII因子を組換え産生する培養物(rFVIII)から第VIII因子を精製する多くの方法が記載されている。90年代において、最初の組換えFVIII(rFVIII)製品が市販され、血漿中のFVIIIの主形態を模倣する全長rFVIII分子、および1つの不活性部分(Bドメイン)が除去されたBドメイン欠失rFVIII分子(Eriksson et al.,2001)に分けられ、両方とも高い純度を有する(全てvWFを有さない)。
【0004】
血友病A患者は、要求に応じて、または1週間に数回投与される予防的治療法としてFVIIIにより治療される。予防的治療については、15~25IU/kg体重のFVIIIが1週間に3回投与され、それは、FVIIIの持続的必要性およびヒトにおいて約11時間にすぎない血液系中でのその短い半減期に起因して必要である。(Ewenstein et al.,2004)。
【0005】
高頻度で、外部投与されるFVIIIによる持続的治療は、患者の免疫系の応答を引き起こし(Saenko et al.,Haemophilia 8:1-11(2002)、それは治療法の深刻な限定を表す。
【0006】
現在、血友病A(先天性FVIII欠損)を有する患者において免疫寛容を達成するための最も一般的なオプションおよびインヒビターは、免疫寛容誘導(ITI)であり、高用量のFVIIIが長期間投与される。しかしながら、この治療は最大2年を要し得、患者の約30%において不成功のままであり、非常にコストがかかり、阻害抗体の初期発生を抑制するための予防的様式で使用することができない。
【0007】
したがって、免疫応答を減衰させるアプローチが必要とされている。1つの有望なアプローチは、FVIIIまたはその結合パートナーvWFのいずれかのグリコシル化の最適化である。
【0008】
例えば、国際公開第2014/176125A1号パンフレットは、FVIIIに対する抗原特異的免疫寛容を誘導するための免疫コンジュゲートに関する。免疫コンジュゲートは、B細胞上で発現されるSIGLEC、すなわち、SIG-1またはSIG-10(またはオルソログSIG-G)を標的化する特異的グリカンリガンドにコンジュゲートしているFVIIIタンパク質である。グリカンリガンドは、特に、FVIIIが導入されるリポソームにカップリングしている。
【0009】
シアル酸結合免疫グロブリンレクチン(Sialic Acid Binding Immunoglobulin Lectin)(SIGLEC)は、マウスおよびヒトにおけるほとんどのT細胞を除く免疫系の種々の白血球上で発現される15個のヒトおよび9つのネズミ細胞表面受容体のファミリーをなす。SIGLECは、異なる細胞タイプ上で局在し、異なるグリカン構造に結合する(Paulson et al.2012に概説されている)。例えば、SIG-5へのvWFおよびFVIIIの結合が実証されている(Pegon 2012)。しかしながら、結合機序は不明のままである。
【0010】
異なるアプローチが国際公開第2014/179184A1号パンフレットに記載されている。著者らは、SIGLECリガンドの添加による不所望な抗体免疫応答の低減および血液凝血因子、例えば、FVIIIの免疫寛容の誘導を示唆している。SIGLECリガンドは、9-N-ビフェニルカルボキシル-NeuAca2-6Gal~l-4GlcNAc(6’-BPCNeuAc)、NeuAca2-6Galwl-4GlcNAcおよびNeuAca2-6Galwl-4(6-スルホ)GlcNAcから選択される。SIGLECリガンドは、水溶性ポリマーを介して凝血因子に結合している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、とりわけ、血漿由来タンパク質、特にvWF中で天然に発生するグリカン構造が、SIGLECのグループ、特に、SIG-5、SIG-7、SIG-8およびSIG-9との相互作用を可能とするという知見に基づく。さらに、本発明者らは、タンパク質上のグリカン構造の改変により、SIGLEC、例えば、SIG-5、SIG-7、SIG-8およびSIG-9との相互作用を増加させることができることを見出した。この増加は、タンパク質が投与される患者の低減した免疫応答および/または増加した免疫寛容をもたらす。
【0012】
したがって、第1の態様によれば、本発明は、少なくとも哺乳動物、好ましくは、ヒトタンパク質の断片と同一または相同であるアミノ酸配列を含むグリコシル化ポリペプチドであって、1つ以上のシアル酸化O-グリカンを含有し、哺乳動物タンパク質またはその断片と比較してSIG-5、SIG-7、SIG-8、およびSIG-9からなる群から選択される1つ以上のSIGLECに対する増加した結合親和性を有するグリコシル化ポリペプチドを提供する。
【0013】
本発明者らは、一方でSIGLECとの相互作用に必要とされるが、付加がSIGLECへの増加した結合ももたらすグリカン構造を具体的に定義した。シアル酸化コア2型O-グリカンおよび/または伸長コア1型O-グリカンがこれを担う。
【0014】
したがって、第1の態様によるグリコシル化ポリペプチドは、少なくとも哺乳動物、好ましくは、ヒトタンパク質の断片と同一または相同であるアミノ酸配列を含むグリコシル化ポリペプチドであって、1つ以上のシアル酸化O-グリカンを含有し、グリコシル化ポリペプチドのシアル酸化コア2型O-グリカンおよびシアル酸化伸長コア1型O-グリカンの合わせた数が、哺乳動物タンパク質またはその断片のシアル酸化コア2型O-グリカンおよびシアル酸化伸長コア1型O-グリカンの合わせた数よりも多いグリコシル化ポリペプチドと定義することもできる。
【0015】
シアル酸化コア2型O-グリカンおよび/またはシアル酸化伸長コア1型O-グリカン、特に、シアル酸化コア2型O-グリカンを含むグリカン組成を有するタンパク質は、組合せ投与による治療タンパク質に対する患者の免疫応答を改変するために使用することができる。
【0016】
したがって、第2の態様によれば、本発明は、治療タンパク質に対する患者の免疫応答を低減させ、または免疫寛容を増加させるための、1つ以上のシアル酸化O-グリカンを含有し、SIG-5、SIG-7、SIG-8、およびSIG-9から選択される1つ以上のSIGLECへの結合を示すグリコシル化ポリペプチドの使用に関する。
【0017】
SIGLECに対する結合親和性を有するグリコシル化ポリペプチドの改変の使用により、改変ポリペプチド自体のSIGLEC結合親和性を直接改変することが可能であるだけでなく、グリコシル化ポリペプチドが一部であるタンパク質複合体または組成物、例えば、第VIII因子(FVIII)およびフォン・ヴィレブランド因子(vWF)の複合体のSIGLEC結合親和性も改変することも可能である。
【0018】
したがって、第3の態様によれば、本発明は、第1および第2のポリペプチドを含むタンパク質組成物であって、第1のポリペプチドは、1つ以上のシアル酸化O-グリカンを含有するグリコシル化ポリペプチドであり、第2のポリペプチドは、第2の哺乳動物、特に、ヒトタンパク質と相同または同一であるアミノ酸配列を含有し、第2のポリペプチドと比較して、SIG-5、SIG-7、SIG-8、およびSIG-9から選択される1つ以上のSIGLECに対する増加した結合親和性を有するタンパク質組成物を提供する。第3の態様による組成物の第1および第2のポリペプチドは、好ましくは、タンパク質複合体を形成する。
【0019】
第4の態様によれば、本発明は、本発明の第1の態様によるグリコシル化ポリペプチドをコードする核酸配列を含む単離ポリペプチドを提供する。第5の態様において、本発明はまた、本発明の第4の態様によるポリヌクレオチドを含む発現ベクターに関する。
【0020】
第1の態様によるグリコシル化ポリペプチド、特に、vWFまたはFVIIIおよび第3の態様による組成物、特に、FVIIIおよびvWFの複合体は、低減した免疫応答に起因して、特に医学的治療において有用である。
【0021】
したがって、第4の態様によれば、本発明は、出血性疾患の治療又は予防における使用のための、第1の態様により定義されるグリコシル化ポリペプチドまたは第3の態様により定義される組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】異なるSIGLECへのvWFの結合試験の結果を示す。492nmにおける吸光度は、それぞれ特定されるSIGLECまたは対照に結合しているvWFに比例する。SIG-2、SIG-5、SIG-7、SIG-F、SIG-9およびSIG-10をプロテインAを介してマイクロタイタープレート上に500ng/ウェルにおいて固定化した。ビオチン化vWFを0~0.8μg/mLの濃度において添加し、洗浄後、結合をHRPコンジュゲートストレプトアビジンにより可視化し、吸光度を492nmにおいて計測した。抗vWFおよび抗ニワトリIgYを対照に使用した。
【
図2】N-およびO-グリコシル化、V8プロテアーゼ開裂部位を含むvWFドメイン構造およびV8プロテアーゼ開裂後に得られる断片の模式的表示を示す。
【
図3】SIGLECのSIG-5、SIG-7、SIG-FおよびSIG-9へのvWFのN末端およびC末端断片の結合試験の結果を示す。492nmにおける吸光度は、それぞれ特定されるSIGLECまたは対照に結合しているvWF断片に比例する。SIG-5、SIG-7、SIG-FおよびSIG-9を、プロテインAを介してマイクロタイタープレート上に500ng/ウェルにおいて固定化した。ビオチン化N末端VWF断片(暗灰色バー)およびC末端vWF断片(淡灰色バー)を1μg/mLの濃度において添加し、洗浄後、結合をHRPコンジュゲートストレプトアビジンにより可視化し、吸光度を492nmにおいて計測した。抗ニワトリIgYを陰性対照として使用した。
【
図4】脱シアル酸化、脱N-グリコシル化および非処理形態のvWF N末端断片の結合試験の結果を示す。492nmにおける吸光度は、それぞれ特定されるSIGLECまたは対照に結合しているvWF N末端断片に比例する。消化前のN末端VWF断片は白色バーにより、PNGアーゼF脱N-グリコシル化断片は灰色バーにより、および脱シアル酸化断片は黒色バーにより表される。SIG-5、SIG-7、SIG-FおよびSIG-9を、プロテインAを介してマイクロタイタープレート上に500ng/ウェルにおいて固定化した。ビオチン化N末端vWF断片(消化前、PNGアーゼFまたはシアリダーゼAにより消化)を8μg/mLの濃度において添加し、洗浄後、結合をHRPコンジュゲートストレプトアビジンにより可視化し、吸光度を492nmにおいて計測した。抗ニワトリIgYを対照に使用した。
【
図5】SIGLECへのO-グリコシル化クラスターIおよびクラスターIIの結合試験の結果を示す。492nmにおける吸光度は、それぞれ特定されるSIGLECまたは対照に結合しているクラスターI断片(淡灰色バー)またはクラスターII断片(暗灰色バー)に比例する。SIG-5、SIG-7、SIG-F、SIG-9およびSIG-10を、プロテインAを介してマイクロタイタープレート上に500ng/ウェルにおいて固定化した。ビオチン化クラスターIおよびクラスターIIを4μg/mLの濃度において添加し、洗浄後、結合をHRPコンジュゲートストレプトアビジンにより可視化し、吸光度を492nmにおいて計測した。抗ニワトリIgYを陰性対照として使用した。
【
図6】シアリダーゼAによる処理前後のSIGLECへのO-グリコシル化クラスターIIの結合試験の結果を示す。492nmにおける吸光度は、それぞれ特定されるSIGLECまたは対照に結合している非処理クラスターII断片(淡灰色バー)またはシアリダーゼAにより消化されたクラスターII断片(暗灰色バー)に比例する。SIG-5、SIG-7、SIG-FおよびSIG-9を、プロテインAを介してマイクロタイタープレート上に500ng/ウェルにおいて固定化した。消化前(淡灰色バー)およびシアリダーゼAにより消化されたビオチン化クラスターIIを2μg/mLの濃度において添加し、洗浄後、結合をHRPコンジュゲートストレプトアビジンにより可視化し、吸光度を492nmにおいて計測した。抗ニワトリIgYを陰性対照として使用した。
【
図7】組換え発現vWF断片Seq11およびSeq12の模式的表示を示す。
【
図8】トリプシン/キモトリプシン消化;シアリダーゼA消化およびレクチン濃縮後のSeq11から単離されたO-糖ペプチドのMALDI MSスペクトルを示す。特定されたペプチド配列は、KVTLNPSDPEHCQICHCDVVNLTCEACQEPGGLVVPPTDAPVSPTTLYVEDISEPPLH
GSAW(配列番号6)であり、最後の4つのアミノ酸(下線)は、配列のC末端に付着しているタグに対応する。上段のスペクトルは完全O-グリコシル化糖ペプチドを示し、下段のスペクトルはO-グリコシダーゼ消化後の同一の糖ペプチドを示す。
【
図9】トリプシン/キモトリプシン消化;シアリダーゼA消化およびレクチン濃縮後のSeq12から単離されたO-糖ペプチドのMALDI MSスペクトルを示す。特定されたペプチド配列は、[KVTLNPSDPEHCQICHCDVVNLTCEACQEPGGLVVPPTDAPVSPTTLYVEDISEPPLHQEPGGLVVPPTDAPVSPTTLYVEDISEPPLHQEPGGLVVPPTDAPVSPTTLYVEDISEPPLH
GSAW(配列番号7)であり、最後の4つのアミノ酸(下線)は、配列のC末端に付着しているタグに対応する。上段スペクトルは完全O-グリコシル化糖ペプチドを示し、下段スペクトルはO-グリコシダーゼ消化後の同一の糖ペプチドを示す。
【
図10】SIGLECへの組換えポリペプチドSeq11およびSeq12の結合試験の結果を示す。492nmにおける吸光度は、それぞれ特定されるSIGLECまたは対照に結合しているSeq11(暗灰色バー)またはSeq12(淡灰色バー)に比例する。SIG-5、SIG-7、SIG-FおよびSIG-9を、プロテインAを介してマイクロタイタープレート上に500ng/ウェルにおいて固定化した。Strep-Tag担持配列を、42nMの等モル濃度においてプレート上でアプライし、洗浄後、結合をHRPコンジュゲートストレプトアビジンにより可視化し、吸光度を492nmにおいて計測した。抗ニワトリIgYを陰性対照として使用し、抗vWF pAbを陽性対照として使用した。
【
図11】SIGLECへのシアリダーゼA処理後の組換えポリペプチドSeq11およびSeq12の結合試験の結果を示す。492nmにおける吸光度は、それぞれ特定されるSIGLECまたは対照に結合しているSeq11(暗灰色バー)またはSeq12(淡灰色バー)に比例する。SIG-5、SIG-7、SIG-FおよびSIG-9を、プロテインAを介してマイクロタイタープレート上に500ng/ウェルにおいて固定化した。Strep-Tag担持配列を酵素的に脱シアル酸化し、42nMの等モル濃度においてプレート上にアプライし、洗浄後、結合をHRPコンジュゲートストレプトアビジンにより可視化し、吸光度を492nmにおいて計測した。抗ニワトリIgYを陰性対照として使用し、抗vWF pAbを陽性対照として使用した。
【
図12】SIGLECへの組換えポリペプチドSeq11の濃度依存的結合および特異的結合曲線のスキャッチャード分析の結果を示す。
【
図13】SIGLECへの組換えポリペプチドSeq12の濃度依存的結合および特異的結合曲線のスキャッチャード分析の結果を示す。
【
図14】
図12および
図13に提示される曲線について実施されたスキャッチャード分析から得られたK
D値のまとめを示す。
【
図15】組換えFVIIIへのSeq11、Seq12および全長血漿VWFの結合について計算された解離親和性定数(KD)値を示す。データをSPRにより得た。
【
図16】IL-12p70およびIFN-γに対するNおよびC末端VWF断片の効果。moDCを、0.1μg/mlのLPSの添加なし(左列)または添加あり(右列)のいずれかで種々の濃度のVWF断片と培養した。サイトカインの細胞外レベルを、サイトメトリックビーズアレイを介して同時に測定した。非刺激細胞のIL-12p70およびIFN-γレベルは、ほとんどのドナーについて、検出限界未満であった(bd、IL-12p70について0.6pg/mlおよびIFN-γについて1.8pg/ml)。データを平均±SEMとして提示し、それぞれのドットは1人のドナーを表す。
【
図17】500nMのVWFのN末端断片による10分間のmoDCの刺激後のSIGLECならびにSIGLECシグナリングに関与するアダプター分子SHP-1およびSHP-2のリン酸化の結果を示す。同一容量の100mMのNaClにより刺激された細胞が対照として機能した。細胞溶解物における免疫受容体-リン酸化の分析を、プロテオームプロファイラーヒトホスホ-免疫受容体アレイキットにより実施した。結果を、2~4回の個々の実験の平均画素密度±SEMとして示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書および特許請求の範囲、ならびにそのような用語に与えられるべき範囲の明確で一貫した理解を提供するため、以下の定義が提供される。
【0024】
定義
本明細書において使用される「ペプチド」は、好ましくは、ペプチド結合により結合している任意のタイプの任意数のアミノ酸、好ましくは、天然発生アミノ酸から構成され得る。特に、ペプチドは、少なくとも3つのアミノ酸、好ましくは、少なくとも5つ、少なくとも7つ、少なくとも9つ、少なくとも12個、または少なくとも15個のアミノ酸を含む。さらに、ペプチドの長さについての上限は存在しない。しかしながら、好ましくは、本発明によるペプチドは、500アミノ酸の長さを超過せず、より好ましくは、それは、300アミノ酸の長さを超過せず;いっそうより好ましくは、それは、250アミノ酸よりも長くない。
【0025】
したがって、用語「ペプチド」は、通常、2~10アミノ酸の長さを有するペプチドを指す「オリゴペプチド」、および通常、10アミノ酸超の長さを有するペプチドを指す「ポリペプチド」を含む。
【0026】
本明細書において使用される用語「タンパク質」は、少なくとも60個、少なくとも80個、好ましくは、少なくとも100個のアミノ酸を有するペプチドを指す。用語「ポリペプチド」および「タンパク質」は、互換的に使用される。本明細書において使用されるポリペプチドおよびタンパク質としては、化学合成タンパク質および遺伝子によりコードされる天然合成タンパク質が挙げられる。ポリペプチドまたはタンパク質は、天然資源、例えば、ヒト血液から得、または細胞培養物中で組換えタンパク質として産生することができる。
【0027】
本明細書において使用される用語「哺乳動物タンパク質」は、天然発生哺乳動物タンパク質、すなわち、哺乳動物生物体により天然に発現されるタンパク質に関する。したがって、哺乳動物タンパク質は、天然発生アミノ酸配列および天然発生翻訳後修飾、例えば、グリコシル化を有する。本発明によれば、哺乳動物タンパク質および天然発生哺乳動物タンパク質という用語は、互換的に使用することができる。
【0028】
本明細書において使用される用語「ヒトタンパク質」は、天然発生ヒトタンパク質、すなわち、ヒト生物体により天然に発現されるタンパク質に関する。したがって、ヒトタンパク質は、天然発生アミノ酸配列および天然発生翻訳後修飾、例えば、グリコシル化を有する。本発明によれば、ヒトタンパク質および天然発生ヒトタンパク質という用語は、互換的に使用される。
【0029】
本明細書において使用される「組換えタンパク質」または「組換えポリペプチド」は、分子生物学技術により細胞中に導入されるトランス遺伝子によりコードされるものである。タンパク質は、化学的方法により、または翻訳後プロセスにおいて酵素により修飾することができる。
【0030】
本発明による用語「融合タンパク質」は、2つ以上の遺伝子、cDNAまたは元々、別個のタンパク質/ペプチドをコードした配列の結合を介して作出されるタンパク質に関する。遺伝子は、同一生物体もしくは異なる生物体中で天然に発生し得、または合成ポリヌクレオチドであり得る。
【0031】
本明細書において使用される用語「治療タンパク質」は、治療効果を有するタンパク質またはポリペプチド、すなわち、活性医薬成分として使用されるタンパク質に関する。
【0032】
2つのアミノ酸配列間または2つのヌクレオチド配列間の関連性は、パラメータ「配列同一性」により記載される。本発明の目的のため、2つのアミノ酸配列間の配列同一性の程度は、EMBOSSパッケージ(EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite,Rice et a/.,2000,Trends Genet.16:276-277)、好ましくは、バージョン3.0.0以降のもののNeedleプログラムにおいて実行されるNeedleman-Wunschアルゴリズム(Needleman and Wunsch,1970,J.Mol.Biol.48:443-453)を使用して決定される。使用される任意選択のパラメータは、ギャップ開始ペナルティ10、ギャップ伸長ペナルティ0.5、およびEBLOSUM62(BLOSUM62のEMBOSSバージョン)置換マトリックスである。「最長同一性」(ノーブリーフ(no brief)オプションを使用して得る)と表示されるNeedleの出力値が同一性パーセントとして使用され、以下のとおり計算される:
(同一残基×100)/(アラインメントの長さ-アラインメント中のギャップの総数)
【0033】
暫定的用語「含む(comprising)」は、「含む(including)」、「含有する」または「~を特徴とする」と同義であり、包括的または非限定であり、追加の列挙されない要素も方法ステップも除外しない。暫定的語句「~からなる」は、特許請求の範囲において規定されない任意の要素、ステップ、または成分を、通常それに伴う不純物を除き、除外する。語句「~からなる」が、以下のプリアンブル直後でなく、特許請求の範囲の本体の節において出現する場合、それは、その節に記載の要素のみを限定し;他の要素は、全体として特許請求の範囲から除外されない。暫定的語句「本質的に~からなる」は、特許請求の範囲の範囲を、特許請求される発明の規定の材料またはステップ「および基本および新規特徴に実質的に影響しないもの」に限定する。「特許請求の範囲の「本質的に~からなる」は、「からなる」形式において記述される閉鎖クレームおよび「含む」形式で起草される完全開放クレーム間の中立を占める」。
【0034】
本明細書において使用される「相同」は、それぞれのアミノ酸配列及びヌクレオチド配列が、参照アミノ酸配列および対象ヌクレオチド配列との規定の同一性の程度を有することを意味する。相同配列は、慣用の配列アラインメントツールClustal Vをデフォルトパラメータで使用して対象配列と少なくとも75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%またはさらには99%同一であるアミノ酸配列を含むと解釈される。典型的には、相同体は、対象アミノ酸配列と同一の活性部位残基を含むが、任意数の保存アミノ酸置換を含み得る。本明細書において使用される「同一」は、100%の参照配列とのアミノ酸またはヌクレオチド配列同一性を指す。
【0035】
用語「組換え体」は、対象の細胞、核酸、タンパク質またはベクターに関して使用される場合、対象が異種核酸もしくはタンパク質の導入または天然核酸もしくはタンパク質の変更により改変されたこと、または細胞がそのように改変された細胞に由来することを示す。したがって、例えば、組換え細胞は、天然(非組換え)形態の細胞内で見出されない遺伝子を発現し、または天然遺伝子を天然で見出されるものと異なるレベルにおいてもしくは異なる条件下で発現する。
【0036】
細胞に関して使用される本明細書において使用される用語「形質転換」、「安定的形質転換」、および「トランスジェニック」は、細胞がそのゲノム中に組み込まれ、または複数世代を介して維持されるエピソームとして担持される非天然(例えば、異種)核酸配列を含有することを意味する。
【0037】
本明細書において使用される用語「断片」は、天然または野生型タンパク質と比較して1つ以上のアミノ酸のアミノ末端および/またはカルボキシル末端欠失を有するが、残りのアミノ酸配列が全長cDNAから推定されるアミノ酸配列中の対応する部分と同一であるポリペプチドを指す。断片は、典型的には、少なくとも50アミノ酸長である。
【0038】
本明細書において使用される用語「グリコシル化」は、分子、例えば、タンパク質へのグリカンの付着を指す。グリコシル化は、酵素反応であり得る。形成される付着は、共有結合を介するものであり得る。したがって、本明細書において使用されるグリコシル化ポリペプチドは、グリカンが付着しているポリペプチドである。語句「高グリコシル化」は、利用可能なグリコシル化部位、例えば、O-結合またはN-結合グリコシル化部位の全てまたはほぼ全てにおいてグリコシル化されている酵素のような分子を指す。
【0039】
本明細書において使用される用語「グリカン」は、多糖もしくはオリゴ糖、または糖タンパク質もしくはグリコシル化ポリペプチドの炭水化物区分を指す。グリカンは、単糖残基のホモまたはヘテロポリマーであり得る。これらは、直鎖または分枝鎖分子であり得る。しかし、グリカンは、典型的には、少なくとも3つの糖を含有し、直鎖または分枝鎖であり得る。グリカンとしては、天然糖残基(例えば、グルコース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルノイラミン酸、ガラクトース、マンノース、フコース、ヘキソース、アラビノース、リボース、キシロースなど)および/または修飾糖(例えば、2’-フルオロリボース、2’-デオキシリボース、ホスホマンノース、6’スルホN-アセチルグルコサミンなど)を挙げることができる。
【0040】
本明細書において使用される用語「O-グリカン」は、哺乳動物糖タンパク質のセリンおよびトレオニン残基に共有結合している一般に見出されるグリカンを指す。O-グリカンは、O-グリコシド結合によりセリンまたはトレオニンの-OHにN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)部分を介してα-結合していてよい。他の結合としては、α-結合O-フコース、β-結合O-キシロース、α-結合O-マンノース、β-結合O-GlcNAc(N-アセチルグルコサミン)、α-またはβ-結合O-ガラクトース、およびα-またはβ-結合O-グルコースグリカンが挙げられる。
【0041】
本明細書において使用される用語「シアル酸化」は、シアル酸またはその誘導体と反応した分子、特に、グリカンを指す。
【0042】
本明細書において使用される用語「結合親和性」または「親和性」は、2つの分子、特に、リガンドおよびタンパク質標的間の結合の強度を示す。結合親和性は、2つの分子間の非共有分子間相互作用、例えば、水素結合、静電相互作用、疎水性相互作用、およびファンデルワールス力により影響を受ける。
【0043】
本明細書において使用される免疫応答は、適応または自然免疫応答に関する。自然免疫応答は、体内での抗原出現直後または数時間以内に活性化される非特異的防御機序を指す。これらの機序としては、物理的障壁、例えば、皮膚、血液中の化学物質、および体内の外来細胞を攻撃する免疫系細胞が挙げられる。自然免疫応答は、抗原の化学的特性により活性化される。適応免疫応答は、抗原特異的免疫応答を指す。このため、抗原は最初にプロセシングおよび認識されなければならない。抗原が認識されると、適応免疫系は、その抗原を攻撃するように特異的に設計された多数の免疫細胞を作出する。
【0044】
本明細書において使用される「免疫寛容」(または単に「寛容」)は、免疫系が抗原を攻撃しないプロセスである。これは、3つの形態:中枢寛容、末梢寛容および獲得寛容で生じる。寛容は、身体が自己抗原に対する免疫応答を開始しない「天然」もしくは「自己寛容」、または抗原に対する寛容が免疫系の操作により作出され得る「誘導寛容」のいずれかであり得る。
【0045】
グリコシル化ポリペプチド
第1の態様によれば、本発明は、少なくとも哺乳動物、好ましくは、ヒトタンパク質の断片と同一または相同であるアミノ酸配列を含むグリコシル化ポリペプチドであって、1つ以上のシアル酸化O-グリカンを含有し、哺乳動物タンパク質またはその断片と比較して1つ以上のSIGLECに対する増加した結合親和性を有するグリコシル化ポリペプチドを提供する。
【0046】
本発明によるグリコシル化ポリペプチドは、哺乳動物タンパク質をベースとし、すなわち、哺乳動物タンパク質と同一または相同であるアミノ酸配列を含有する。哺乳動物タンパク質は、特に、ヒトタンパク質である。グリコシル化ペプチドのアミノ酸配列が相同または同一であるヒトタンパク質は、好ましくは、グリコシル化タンパク質である。
【0047】
ヒトタンパク質は、より好ましくは、ヒト血液タンパク質である。ヒト血液タンパク質は、ヒト血液凝固因子、輸送タンパク質、プロテアーゼインヒビター、免疫グロブリン、細胞関連血漿タンパク質、アポリポタンパク質、補体因子、成長因子、抗血管新生(antiangionetic)タンパク質、高グリコシル化タンパク質、血液因子または別のヒト血液タンパク質であり得る。
【0048】
ヒト血液凝固因子は、特に、フィブリノーゲン、フィブリン単量体、プロトロンビン、トロンビン、FV、FX、FIX、FVII、FVIII、FXI、FXII、およびFXIII、フォン・ヴィレブランド因子、ならびにADAMTS13からなる群から選択される。
【0049】
凝固因子FV、FX、FIX、FVII、FVIII、FXI、FXII、およびFXIIIは、不活性、活性形態であることが認識される。したがって、本発明に関して、FV、FX、FIX、FVII、FVIII、FXI、FXII、およびFXIIIへの言及は、それぞれ、特に明示されない限り、または文脈から、活性化形態が論理的に含まれ得ない限り、活性化形態FVa、FXa、FIXa、FVIIa、FVIIIa、FXIa、FXIIa、およびFXIIIaを含む。したがって、例えば、これに関して、FV、FX、FIX、FVII、FVIII、FXI、FXII、およびFXIIIは、FV/FVa、FX/FXa、FIX/FIXa、FVII/FVIIa、FVIII/FVIIIa、FXI/FXIa、FXII/FXIIa、FXIII/FXIIIaと読むことができる。
【0050】
輸送タンパク質は、アルブミン、トランスフェリン、セルロプラスミン、ハプトグロビン、ヘモグロビン、およびヘモペキシンから選択することができる。
【0051】
考えられるプロテアーゼインヒビターは、例えば、β-アンチトロンビン、α-アンチトロンビン、酸化型アンチトロンビン、2-マクログロブリン、Clインヒビター、組織因子経路インヒビター(TFPI)、ヘパリン補因子II、プロテインCインヒビター(PAI-3)、プロテインC、プロテインS、およびプロテインZである。
【0052】
免疫グロブリンの例は、例えば、ポリクローナル抗体(IgG)、モノクローナル抗体、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgA1、IgA2、IgM、IgE、IgD、およびベンスジョーンズタンパク質である。
【0053】
細胞関連血漿タンパク質は、例えば、フィブロネクチン、トロンボグロブリン、血小板第4因子であり得る。アポリポタンパク質の例は、apo A-I、apo A-II、およびapo Eである。
【0054】
本発明による補体因子は、例えば、B因子、D因子、H因子、I因子、C3b不活性化因子、プロパージン、C4結合タンパク質などである。
【0055】
成長因子の例としては、血小板由来成長因子(PDGF)、上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子アルファ(TGF-α)、トランスフォーミング成長因子ベータ(TGF-α)、線維芽細胞成長因子(FGF)および肝細胞成長因子が挙げられる。
【0056】
抗血管新生タンパク質としては、潜在型アンチトロンビン、プレ潜在型アンチトロンビン、酸化型アンチトロンビンおよびプラスミノーゲンが挙げられる。
【0057】
高グリコシル化タンパク質の例は、アルファ-1-酸糖タンパク質、アンチキモトリプシン、インター-α-トリプシンインヒビター、α-2-HS糖タンパク質、C反応性タンパク質である。血液因子は、例えば、エリスロポエチン、インターフェロン、腫瘍因子、tPA、gCSFなどであり得る。
【0058】
他のヒト血液タンパク質としては、ヒスチジンリッチ糖タンパク質、マンナン結合レクチン、C4結合タンパク質、フィブロネクチン、GC-グロブリン、プラスミノーゲン/プラスミン、α-1マイクログロブリン、C反応性タンパク質が挙げられる。
【0059】
ヒトタンパク質は、特に、vWF、FVIII、FVII、FIX、ADAMTS13から選択される。
【0060】
ヒトにおける第VIII因子は、6つのエクソン中の187.000個の塩基対を含むF8遺伝子によりコードされる。転写されるmRNAは、9.029塩基対の長さを有し、2.351個のアミノ酸を有するタンパク質に翻訳され、翻訳後修飾により19個のアミノ酸がそれから除去される。ヒトにおけるFVIII分子は、31個のアミノ酸側鎖上でグリコシル化される(25×N-グリコシル化、6×O-グリコシル化)。
【0061】
翻訳後、アミノ酸鎖は特異的プロテアーゼにより、約200kDaを有する重鎖および約80kDaを有する軽鎖の形成をもたらす位置上で開裂される。ドメイン組織化は、典型的には、A1-A2-B-A3-C1-C2として特徴づけられる。軽鎖は、ドメインA3-C1-C2から構成される。重鎖は、原則として、ドメインA1-A2-Bから構成される。血漿中で見出される重鎖は、90~200kDaで変動する分子量を有する不均一組成を有する。この理由は、そのグリコシル化の不均一性、スプライスバリアントの存在およびタンパク質分解産物、例えば、Bドメイン枯渇重鎖A1A2の存在である。全長FVIIIのアミノ酸配列は、SwissProt,July 21,1986のP00451のアミノ酸20~2.351により特定される。
【0062】
ヒトタンパク質は、好ましくは、SwissProt,July 21,1986のP00451のアミノ酸20~2.351により特定される全長FVIII、Bドメイン欠失FVIIIまたはBドメインの一部がリンカーにより置き換えられたFVIIIタンパク質である。
【0063】
vWFは、複数の生理学的機能を有する、哺乳動物の血漿中に存在する多量体接着糖タンパク質である。一次止血の間、vWFは、血小板表面上の特異的受容体および細胞外マトリックスの構成成分、例えば、コラーゲン間のメディエーターとして作用する。さらに、vWFは、凝血促進第VIII因子のための担体および安定化タンパク質として機能する。vWFは、内皮細胞および巨核球中で、2813アミノ酸の前駆分子として合成される。前駆ポリペプチドのプレプロvWFは、22残基のシグナルペプチド、741残基のプロペプチドおよび成熟血漿フォン・ヴィレブランド因子中に見出される2050残基のポリペプチドからなる(Fischer et al.,1994)。全長vWFは、UniprotエントリーP04275により特定される。
【0064】
vWFは、血漿中への分泌時、異なる分子サイズを有する種々の種の形態で循環する。これらのvWF分子は、2050個のアミノ酸残基の成熟サブユニットのオリゴマーおよび多量体からなる。vWFは、通常、血漿中で、約500~20.000kDaのサイズの範囲の多量体として見出すことができる(Furlan et al.1996)。vWFは、特に、UniprotエントリーP04275の配列のいずれかのアミノ酸配列を有する。より好ましくは、vWFタンパク質は、配列番号1により特定される。
SLSCRPPMVKLVCPADNLRAEGLECTKTCQNYDLECMSMGCVSGCLCPPGMVRHENRCVALERCPCFHQGKEYAPGETVKIGCNTCVCQDRKWNCTDHVCDATCSTIGMAHYLTFDGLKYLFPGECQYVLVQDYCGSNPGTFRILVGNKGCSHPSVKCKKRVTILVEGGEIELFDGEVNVKRPMKDETHFEVVESGRYIILLLGKALSVVWDRHLSISVVLKQTYQEKVCGLCGNFDGIQNNDLTSSNLQVEEDPVDFGNSWKVSSQCADTRKVPLDSSPATCHNNIMKQTMVDSSCRILTSDVFQDCNKLVDPEPYLDVCIYDTCSCESIGDCACFCDTIAAYAHVCAQHGKVVTWRTATLCPQSCEERNLRENGYECEWRYNSCAPACQVTCQHPEPLACPVQCVEGCHAHCPPGKILDELLQTCVDPEDCPVCEVAGRRFASGKKVTLNPSDPEHCQICHCDVVNLTCEACQEPGGLVVPPTDAPVSPTTLYVEDISEPPLHDFYCSRLLDLVFLLDGSSRLSEAEFEVLKAFVVDMMERLRISQKWVRVAVVEYHDGSHAYIGLKDRKRPSELRRIASQVKYAGSQVASTSEVLKYTLFQIFSKIDRPEASRITLLLMASQEPQRMSRNFVRYVQGLKKKKVIVIPVGIGPHANLKQIRLIEKQAPENKAFVLSSVDELEQQRDEIVSYLCDLAPEAPPPTLPPDMAQVTVGPGLLGVSTLGPKRNSMVLDVAFVLEGSDKIGEADFNRSKEFMEEVIQRMDVGQDSIHVTVLQYSYMVTVEYPFSEAQSKGDILQRVREIRYQGGNRTNTGLALRYLSDHSFLVSQGDREQAPNLVYMVTGNPASDEIKRLPGDIQVVPIGVGPNANVQELERIGWPNAPILIQDFETLPREAPDLVLQRCCSGEGLQIPTLSPAPDCSQPLDVILLLDGSSSFPASYFDEMKSFAKAFISKANIGPRLTQVSVLQYGSITTIDVPWNVVPEKAHLLSLVDVMQREGGPSQIGDALGFAVRYLTSEMHGARPGASKAVVILVTDVSVDSVDAAADAARSNRVTVFPIGIGDRYDAAQLRILAGPAGDSNVVKLQRIEDLPTMVTLGNSFLHKLCSGFVRICMDEDGNEKRPGDVWTLPDQCHTVTCQPDGQTLLKSHRVNCDRGLRPSCPNSQSPVKVEETCGCRWTCPCVCTGSSTRHIVTFDGQNFKLTGSCSYVLFQNKEQDLEVILHNGACSPGARQGCMKSIEVKHSALSVELHSDMEVTVNGRLVSVPYVGGNMEVNVYGAIMHEVRFNHLGHIFTFTPQNNEFQLQLSPKTFASKTYGLCGICDENGANDFMLRDGTVTTDWKTLVQEWTVQRPGQTCQPILEEQCLVPDSSHCQVLLLPLFAECHKVLAPATFYAICQQDSCHQEQVCEVIASYAHLCRTNGVCVDWRTPDFCAMSCPPSLVYNHCEHGCPRHCDGNVSSCGDHPSEGCFCPPDKVMLEGSCVPEEACTQCIGEDGVQHQFLEAWVPDHQPCQICTCLSGRKVNCTTQPCPTAKAPTCGLCEVARLRQNADQCCPEYECVCDPVSCDLPPVPHCERGLQPTLTNPGECRPNFTCACRKEECKRVSPPSCPPHRLPTLRKTQCCDEYECACNCVNSTVSCPLGYLASTATNDCGCTTTTCLPDKVCVHRSTIYPVGQFWEEGCDVCTCTDMEDAVMGLRVAQCSQKPCEDSCRSGFTYVLHEGECCGRCLPSACEVVTGSPRGDSQSSWKSVGSQWASPENPCLINECVRVKEEVFIQQRNVSCPQLEVPVCPSGFQLSCKTSACCPSCRCERMEACMLNGTVIGPGKTVMIDVCTTCRCMVQVGVISGFKLECRKTTCNPCPLGYKEENNTGECCGRCLPTACTIQLRGGQIMTLKRDETLQDGCDTHFCKVNERGEYFWEKRVTGCPPFDEHKCLAEGGKIMKIPGTCCDTCEEPECNDITARLQYVKVGSCKSEVEVDIHYCQGKCASKAMYSIDINDVQDQCSCCSPTRTEPMQVALHCTNGSVVYHEVLNAMECKCSPRKCSK(配列番号1)
【0065】
グリコシル化ポリペプチドは、例えば、国際公開第2015/185758A2号パンフレットに定義されるvWFの断片を含有し得る。国際公開第2015/185758A2号パンフレットに示されるとおり、それに定義されるFVIIIおよびvWF断片の複合体は、FVIII単独と比較して低減したリン脂質膜への結合ならびにFVIIIおよび全長vWFの複合体と比較して低減したコラーゲンIIIおよびヘパリンへの結合を示す。
【0066】
これに関して、vWFの断片は、特に、配列番号1のアミノ酸1から開始する断片である。配列番号1のアミノ酸1~272は、vWFのFVIII結合ドメインを含む。
【0067】
vWFの断片は、好ましくは、配列番号1のアミノ酸1から開始し、好ましくは、1142~1390の範囲の配列番号1のアミノ酸で終了する。断片は、より好ましくは、1267~1390の範囲のvWF断片のアミノ酸で終了する。より好ましくは、vWF断片は、1337~1390の範囲の配列番号1のアミノ酸で終了する。
【0068】
グリコシル化ポリペプチドは、グリコシル化ペプチド中に含有されるアミノ酸配列により定義される哺乳動物タンパク質または断片と比較して増加した結合親和性を有することを理解すべきである。したがって、グリコシル化ポリペプチドが全長哺乳動物タンパク質のアミノ酸配列を含む場合、グリコシル化ポリペプチドは、全長哺乳動物タンパク質と比較してSIGLECに対する高い親和性を有する。
【0069】
他方、グリコシル化ポリペプチドが哺乳動物タンパク質の部分配列により定義される哺乳動物タンパク質の断片を含む場合、グリコシル化ポリペプチドは、天然発生タンパク質に由来する同一断片と比較して増加した結合親和性を有する。例えば、グリコシル化ポリペプチド中のアミノ酸配列がvWFの断片と同一または相同である場合、第1の態様によるグリコシル化ポリペプチドは、血漿由来vWFの断片化から得られる同一断片と比較して1つ以上のSIGLECに対する増加した結合親和性を有する。
【0070】
実施例に示されるとおり、少なくともSIGLECのSIG-5、SIG-7、SIG-8およびSIG-9に特異的に結合するvWFのグリカン構造が決定された(実施例1参照)。したがって、第1の態様の一実施形態によれば、1つ以上のSIGLECは、SIG-5、SIG-7、SIG-8およびSIG-9の群から選択される。
【0071】
本発明者らは、驚くべきことに、ヒトvWFにおいて、O-グリカンがSIG-5、SIG-7、SIG-8およびSIG-9への結合を担うことを見出した。対照的に、N-グリカンは、それらのSIGLECへのいかなる結合も示さない(実施例2参照)。これまでのところ、SIGLECと相互作用することが示されたのはむしろN-グリカンであったため(Lai et al,2015)、このことは特に驚くべきことである。
【0072】
本発明者らは、O-グリカンが、SIG-5、SIG-7、SIG-8、SIG-9への結合のためにシアル酸化されていなければならないだけでなく、最小割合のコア2グリカンも存在しなければならないことをさらに決定した(実施例4参照)。
【0073】
したがって、SIGLEC結合および結果的に低減した免疫応答は、哺乳動物タンパク質またはその断片のシアル酸化コア2型O-グリカンの数と比較して増加したグリコシル化タンパク質中のシアル酸化コア2型O-グリカンの数または割合に基づく。
【0074】
構造類似性に起因して、シアル酸化伸長コア1型O-グリカンが、シアル酸化コア2グリカンと同一の効果を有することが想定される。したがって、上記定義のSIGLECに対する結合親和性を増加させるため、好ましくは、シアル酸化コア2型および伸長コア1型O-グリカンの合わせた数または割合を増加させる。
【0075】
したがって、一実施形態によれば、グリコシル化ポリペプチドのシアル酸化コア2型および/または伸長コア1型O-グリカンの数は、哺乳動物タンパク質またはその断片のシアル酸化コア2型および/または伸長コア1型O-グリカンの数よりも多い。これに関して、シアル酸化コア2型および/または伸長コア1型O-グリカンの割合も、哺乳動物タンパク質のコア2型および/または伸長コア1型O-グリカンの割合と比較して増加している。
【0076】
これは、グリコシル化ポリペプチドのシアル酸化コア2型O-グリカンおよびシアル酸化伸長コア1型O-グリカンの合わせた数が、哺乳動物タンパク質またはその断片のシアル酸化コア2型O-グリカンおよびシアル酸化伸長コア1型O-グリカンの合わせた数よりも多いことを意味する。
【0077】
あるいは、シアル酸化コア2型O-グリカンの数のみを増加させることができる。これに関して、シアル酸化コア2型O-グリカンの割合も、哺乳動物タンパク質のコア2型O-グリカンの割合と比較して増加している。
【0078】
結合が示されたSIGLECは、ヒトおよびマウスの免疫応答に関与する。SIGLECは共通して、シアル酸含有リガンドに結合する1つのN末端VセットIgドメイン、および膜の表面から遠位のリガンド結合側を伸長する変動数のC2セットIgドメインを有する。
【0079】
さらに、多くのSIGLECは、細胞シグナリングの調節に関与する補助受容体中で共通して見出される細胞質チロシンモチーフ、例として、免疫受容体チロシンベース阻害モチーフ(ITIM)およびITIM様モチーフを有する。他のSIGLECはチロシンモチーフを含有しないが、アダプタータンパク質との会合を許容する正荷電膜貫通領域を含有する。SIGLECは、危険関連分子パターン(DAMP)を認識しないが、代わりに「自己」の決定因子を認識する。
【0080】
SIGLECは、同一細胞上で「シス」で、および隣接細胞上で「トランス」でそのようなシアル酸化自己リガンドに結合する。ヒトSIGLECは、通常、SIG-1~SIG-14と称される。マウスSIGLECのSIG-E、SIG-FおよびSIG-Gは、それぞれヒトSIGLECのSIG-9、SIG-8およびSIG-10のオルソログである。
【0081】
SIG-1~SIG-4は、それぞれ、名称シアロアテシン(Sialoatesin)、CD22、CD33およびMAGとも称される。CD22およびSIG-10はB細胞に、SIG-5は好中球および単球に、SIG-7はNK細胞上に、SIG-8は好酸球上に、SIG-9は単球、好中球および樹状細胞上に局在する(Paulsen et al 2012)。
【0082】
SIGLECは、種々の異なるグリカン構造に結合する。SIGLECのSIG-2、SIG-5、SIG-7、SIG-8、SIG-9およびSIG-10のそれぞれは、異なるグリカン優先性を有する(Paulson et al.,2012)。SIGLECは、自然および適応免疫における役割を担う。特に、ヒトおよびマウスのB細胞上に局在するSIG-2およびSIG-10である。
【0083】
Paulsen et al.によれば、SIG-2およびSIG-10は、末梢B細胞寛容に相乗的に寄与すると考えられる。さらに、SIGLECは、トル様受容体(TRL)についての阻害補助受容体として作用すると考えられる。これに関して、活性化受容体へのSIG-7またはSIG-9の架橋がそれぞれ、腫瘍細胞に対するNK細胞の細胞溶解活性およびマスト細胞からの化学メディエーターの放出の阻害をもたらすことが示された。
【0084】
さらに、固定化抗体によるSIG-E(SIG-9)およびSIG-11の架橋は、マクロファージにおけるLPSに応答するサイトカイン産生の阻害をもたらす。
【0085】
注目すべきことに、マクロファージ細胞株中のSIG-5およびSIG-9の局所的発現は、ペプチドグリカン、ATLR2リガンド、LPSおよびCpGに応答してTNF-アルファ産生を阻害し、IL-10産生を向上させることが示されている。さらに、マクロファージ中のLPS誘導SIG-E(SIG-9)発現は、TRLシグナリングを生じさせる効果と考えられる。さらに、シアル酸化病原体は、SIGLECを介して免疫応答を減衰させる。一例として、B群連鎖球菌は、莢膜多糖上でNeu-Acα-1Galβ-1 4GlcNAc残基を発現し、好中球上のSIGLEC-9をリクルートし、好中球の殺菌機能の抑制をもたらす。
【0086】
したがって、理論により拘束されるものではないが、抗原提示細胞(例えば、樹状細胞など)上のSIGLECへの結合は、炎症促進の下方調節および細胞表面上の免疫抑制受容体発現の上方調節をもたらすことが考えられる。さらに、結合は、抗炎症性サイトカインの向上した産生をもたらし、炎症促進性サイトカインの産生を低下させ、結果的に、T細胞増殖および抗体産生に対する阻害をもたらす。したがって、SIGLECのSIG-5、SIG-7、SIG-8およびSIG-9の結合は、グリコシル化ポリペプチドが患者に投与された場合に低減した免疫応答または増加した免疫寛容をもたらす。
【0087】
したがって、第1の態様によるグリコシル化ポリペプチドは、少なくとも哺乳動物、好ましくは、ヒトタンパク質の断片と同一または相同であるアミノ酸配列を含むグリコシル化ポリペプチドであって、1つ以上のシアル酸化O-グリカンを含有し、哺乳動物タンパク質またはその断片と比較して、
- グリコシル化ポリペプチドに対するヒトの免疫応答が低減しており;および/または
- グリコシル化ポリペプチドに対するヒトの免疫寛容が増加している
グリコシル化ポリペプチドと定義することもできる。
【0088】
他方、本発明の第1の態様のより構造的な定義は、少なくとも哺乳動物、好ましくは、ヒトタンパク質の断片と同一または相同であるアミノ酸配列を含むグリコシル化ポリペプチドであって、1つ以上のシアル酸化O-グリカンを含有し、グリコシル化ポリペプチドのシアル酸化コア2型O-グリカンおよびシアル酸化伸長コア1型O-グリカンの合わせた数が、哺乳動物タンパク質またはその断片のシアル酸化コア2型O-グリカンおよびシアル酸化伸長コア1型O-グリカンの合わせた数よりも多いグリコシル化ポリペプチドである。
【0089】
好ましくは、少なくとも哺乳動物、好ましくは、ヒトタンパク質の断片と同一または相同であるアミノ酸配列を含むグリコシル化ポリペプチドであって、1つ以上のシアル酸化O-グリカンを含有し、グリコシル化ポリペプチドのシアル酸化コア2型O-グリカンの数が、哺乳動物タンパク質またはその断片のシアル酸化コア2型O-グリカンの合わせた数よりも多いグリコシル化ポリペプチド。
【0090】
O-グリカンをグリコシル化ポリペプチドのアミノ酸配列にカップリングさせるため、それは1つ以上のO-グリコシル化部位を含有した。グリコシル化ポリペプチドのO-グリコシル化部位は、標準的なO-グリコシル化部位セリン(Ser)、およびトレオニン(Thr)であり得る。しかしながら、さらに、チロシン(Tyr)、ヒドロキシリジン(ヒドロキシ-Lys)またはヒドロキシプロリン(ヒドロキシ-Pro)へのO-グリカンの結合が記載されており、本発明に関して考えられる。したがって、グリコシル化ポリペプチド中の1つ以上のO-グリコシル化部位は、任意のさらなる考えられるO-グリコシル化部位中のSer、Thr、Tyr、ヒドロキシ-Lysおよびヒドロキシ-Proから選択することができる。好ましくは、O-グリコシル化部位は、SerおよびThrから選択される。
【0091】
標準的なグリコシル化部位SerおよびThrは、一般に、O-グリカンによる最大占有を示す。したがって、一実施形態によれば、1つ以上のグリコシル化部位は、SerおよびThrから選択される。
【0092】
本発明に関して、実用的理由から、用語「グリコシル化ポリペプチド」は、単数形で使用される。一般に、グリコシル化ポリペプチドは、同一タイプのポリペプチドの組成物の形態で生じる。これに関して、早期形態のグリコシル化ポリペプチドは、同一のアミノ酸配列を有するが、グリコシル化の分散を有するグリコシル化ポリペプチドの組成物である。例えば、組成物の個々の分子の全てが100パーセントまでグリコシル化され得るわけではない。さらに、規定のO-グリコシル化部位に結合しているグリカンにおける差異が生じ得る。したがって、本発明はまた、少なくとも第1のタイプのグリコシル化ポリペプチド分子を含む組成物であって、第1のタイプのタンパク質分子のアミノ酸配列は、少なくとも哺乳動物、好ましくは、ヒトタンパク質の断片と同一または相同であり、タンパク質分子は、1つ以上のグリコシル化部位を含有する組成物に関する。
【0093】
好ましくは、ポリペプチドは、グリコシル化部位の1つ以上のクラスターを含有する。単一グリコシル化部位がSIGLEC結合に十分であり得るが、O-グリコシル化部位のクラスターの形成がSIGLECへの改善された結合をもたらすことが想定される。グリコシル化部位のクラスター形成は哺乳動物タンパク質において観察されることが多く、例は、ヒンジ領域(Franc et al.2013参照)およびヒトムチン(Guzman-Aranguez and Argueeso 2010参照)中のクラスター化O-グリカンを含有するヒトIgAである。
【0094】
これに関して、近接している既に2つのO-グリコシル化部位が、O-グリコシル化クラスターにおいて考慮される。したがって、O-グリコシル化部位の1つ以上のクラスターは、少なくとも2つのO-グリコシル化部位を含有する。O-グリコシル化部位のクラスターは、異なる数のO-グリコシル化部位を有し得る。例えば、グリコシル化ポリペプチドは、2つのグリコシル化部位を有する1つのクラスターおよび3つのグリコシル化部位を有する第2のクラスターを含有し得る。クラスターのO-グリコシル化部位間には、N-グリコシル化部位も存在し得る。好ましくは、O-グリコシル化クラスター中にN-グリコシル化部位は存在しない。
【0095】
さらに、1つのクラスターは3つのグリコシル化部位を含有し得、他のクラスターは4つのO-グリコシル化部位を含有し得る。多数の3つのO-グリコシル化部位は、全てがSIGLECと相互作用し、したがって、増加した効果をもたらし得る3つの隣接O-グリカンをもたらす。一実施形態によれば、O-グリコシル化部位の1つ以上のクラスターは、好ましくは、少なくとも3つのO-グリコシル化部位を含有する。
【0096】
vWFにおいて、それぞれ4つのO-グリコシル化部位を有する2つのクラスターが存在する。したがって、好ましくは、ポリペプチドは、少なくとも4つのO-グリコシル化部位を有する1つ以上のクラスターを含有する。現在、O-グリコシル化部位の数が多ければ多いほど、結合親和性が大きくなることが想定される。
【0097】
O-グリコシル化部位のクラスターは、アミノ酸配列中の短い距離内の2つ以上のO-グリコシル化部位により定義することができる。それらのクラスターは、「配列クラスター」とも称される。しかしながら、グリコシル化ポリペプチドの三次元アセンブリに起因して、O-グリコシル化クラスターは、アミノ酸配列内で遠い距離で存在するが、フォールディング後に近接して局在するO-グリコシル化部位も含み得る。この後者のクラスターは、「フォールディングクラスター」とも称される。
【0098】
vWF O-グリコシル化クラスター2は、20アミノ酸内で4つのO-グリコシル化部位を含有し、それらはベータターンとして配置される。したがって、O-グリカンまたはO-グリコシル化部位の距離は27.2Å~34.0Åであり、6.8Å~8.5Åの平均距離をもたらす。したがって、クラスター中の2つのO-グリコシル化部位の平均距離は、4.0Å~15.0Åの範囲であり得る。4.0Å未満では、O-グリカンの立体障害が存在し得、特に、両方のO-グリコシル化部位をグリコシル化することが可能でない場合がある。2つのアミノ酸の平均距離が15.0Å超を超えると、O-グリカンの協調効果が存在しない可能性が高い。協調効果は、例えば、同一細胞上でのSIGLECとの相互作用である。好ましくは、クラスター中の2つのO-グリコシル化部位の平均距離は、5.0Å~12.0Åの範囲である。より好ましくは、クラスター中の2つのO-グリコシル化部位の平均距離は、6.0Å~9.0Åの範囲である。
【0099】
フォールディングクラスターは、100アミノ酸超のアミノ酸配列に及び得る。しかしながら、クラスターの空間配置は80Åを超過しないことが好ましい。O-グリコシル化部位が80Åを超えて離れている場合、O-グリカンは組合せ効果を示さないことが想定される。クラスター中のO-グリカンの組合せ効果は、O-グリカンが50Åの直径を有する区域内に局在する場合に最も強力である。したがって、より好ましくは、クラスターの空間配置は50Åを超過しない。
【0100】
一実施形態によれば、1つ以上のクラスター、すなわち、配列クラスターは、10個のアミノ酸中の少なくとも1つのO-グリコシル化部位を含有する。O-グリコシル化がさらに拡散している場合、O-グリコシル化部位に結合しているO-グリカンは、おそらく、SIGLECを含有する同一細胞上で一緒に作用し得ないことが考えられる。
【0101】
好ましくは、1つ以上のクラスターは、4つのアミノ酸中の少なくとも1つのO-グリコシル化部位を含有する。4つのアミノ酸のO-グリコシル化部位の平均距離では、O-グリコシル化部位がフォールディング後にも近接する可能性が高い。空間的近接性は、同一細胞上でのSIGLECとのクラスター中のグリカンの協調相互作用を可能とする。
【0102】
より好ましくは、1つ以上のクラスターは、3つのアミノ酸中の少なくとも1つのO-グリコシル化部位を含有する。実施例において示されるとおり、試験vWFペプチドは、2つのアミノ酸中の1つのグリコシル化部位を有するクラスターを含有する。したがって、好ましい実施形態によれば、1つ以上のクラスターは、2つのアミノ酸中の少なくとも1つのグリコシル化部位を含有する。
【0103】
実施例において示されるとおり、そのようなO-グリコシル化クラスターの既に1つが、SIGLECとの強力な相互作用に十分である。さらに、2つのvWFポリペプチドの比較により、O-グリコシル化部位のより多数のクラスターがSIGLEC、特に、SIG-5、SIG-7、SIG-8およびSIG-9へのペプチドの増加した結合親和性をもたらすことも示される。したがって、グリコシル化ポリペプチドは、好ましくは、少なくとも2つのグリコシル化クラスター、より好ましくは、少なくとも3つのグリコシル化クラスターを含む。
【0104】
理論により拘束されるものではないが、クラスターの局在が近ければ近いほど、SIGLECに対するグリコシル化ポリペプチドの結合親和性が大きくなる。これに関して、2つのクラスターが存在する場合、それらは、好ましくは、100アミノ酸未満だけ離隔している。100アミノ酸未満の距離は、SIGLEC結合におけるグリカンのクラスターの協調効果を可能とする。より好ましくは、2つのクラスターは、50アミノ酸未満だけ離隔している。最も好ましくは、2つのクラスターは、30アミノ酸未満だけ離隔している。
【0105】
一実施形態によれば、任意の2つの隣接クラスター間の距離は、100アミノ酸未満であり、好ましくは、グリコシル化ポリペプチド内の任意の2つのクラスター間の距離は、50アミノ酸未満である。より好ましくは、任意の2つの隣接クラスター間の距離は、30アミノ酸未満である。
【0106】
グリコシル化ポリペプチドは、好ましくは、配列が相同または同一であるヒトタンパク質と比較してO-グリコシル化部位の少なくとも1つの追加のクラスターを含有する。
【0107】
上記定義のとおり、全てのグリコシル化ポリペプチドと同様、本発明によるグリコシル化ポリペプチドは、グリコシル化ポリペプチド分子の組成物を表す。これらの分子は、グリコシル化パターン内のある程度の不均一性を示し、特に、グリコシル化部位の全てが必ずしもO-グリカンにより占有されているわけではない。O-グリカンによる占有は、特に、推奨されるグリコシル化ポリペプチドが産生される宿主細胞に依存的である。好ましくは、宿主細胞、すなわち、発現系は、O-グリコシル化部位の占有の割合が70%を超えるように選択される。占有が70%未満では、SIGLEC結合に十分でないO-グリカンが存在し得る。好ましくは、O-グリコシル化部位の80%超が、O-グリカンにより占有される。より好ましくは、O-グリコシル化部位の90%超が、O-グリカンにより占有される。好ましい実施形態によれば、O-グリコシル化部位の95%超が、O-グリカンにより占有される。
【0108】
グリコシル化ポリペプチドに付着しているグリカンの組成は、産生の方法に依存する。O-グリカンは、天然の合成グリカンであり得る。天然O-グリカンは、例えば、以下のコア構造を有するグリカンである:
コア1型O-グリカン:Galβ1→3GalNAcα1→Ser/Thr
伸長コア1:O-グリカン:Galβ1→4GlcNAcβ1→3Galβ1→3GalNAcα1→Ser/Thr
コア2型O-グリカン:Galβ1→3(Galβ1→3GlcNAcβ1→6)GalNAc α1→Ser/Thr
【0109】
SIGLECは、シアル酸に結合することが公知である。これと一致して、実施例において、脱シアル酸化がSIGLECへの結合を停止させたことが示される(実施例3参照)。したがって、O-グリカンのシアル酸化は、結合のための前提条件であることが裏付けられる。したがって、グリコシル化ポリペプチド中のO-グリカンの高い割合のシアル酸化が好ましい。
【0110】
したがって、グリコシル化ポリペプチドのO-グリカンは、好ましくは、シアル酸化されており、すなわち、グリカン分子の一部として少なくとも1つのシアル酸を含有する。
【0111】
好ましくは、シアル酸化O-グリカンは、アルファ2-3グリコシド結合で少なくとも2つのシアル酸を含有する。あるいは、シアル酸化O-グリカンは、アルファ2-8グリコシド結合で2つのシアル酸を含有し得る。シアル酸化O-グリカンは、アルファ2-3およびアルファ2-8グリコシド結合も含み得る。一実施形態によれば、シアル酸化O-グリカンは、2-3および/または2-8グリコシド結合で少なくとも3つのシアル酸を含有する。グリコシル化ポリペプチド中のシアル酸化O-グリカンは、特に、コア1型またはコア2型O-グリカンである。コア1型、伸長コア1型およびコア2型O-グリカンの構造の概要を以下に挙げる:
シアル酸化コア1:O-グリカン:NeuNAcα2→3Galβ1→3GalNAcα1→Ser/Thr
シアル酸化伸長コア1型O-グリカン:
NeuNAcα2→3Galβ1→4GlcNAcβ1→3Galβ1→3GalNAcα1→Ser/Thr
シアル酸化コア2型O-グリカン:NeuNAcα2→3Galβ1→4GlcNAcβ1→6(NeuNAcα2→3Galβ1→3)GalNAcα1→Ser/Thr
【0112】
コア1およびコア2の両方ならびに/または伸長コア1型O-グリカンが、グリコシル化ポリペプチド上に存在する必要があると考えられる。一実施形態によれば、グリコシル化ポリペプチドは、シアル酸化コア1型O-グリカンならびにシアル酸化コア2型および/または伸長コア1型O-グリカンを含む。実施例4において示されるとおり、O-グリカンの総数に基づくコア2グリカンの割合2.5%は、SIGLEC相互作用に十分でない。したがって、グリコシル化ポリペプチドの一実施形態によれば、O-グリカンの数に基づくコア2型O-グリカンの割合は、少なくとも5%である。同一の実施例において、O-グリカンの数に基づくコア2型O-グリカン割合10.78%を有するクラスター2が、SIGLECとの強力な相互作用をもたらすことが示される。したがって、好ましい実施形態によれば、グリコシル化ポリペプチド中のO-グリカンの数に基づくコア2型O-グリカンの割合は、少なくとも8%である。より好ましくは、O-グリカンの数に基づくコア2型O-グリカンの割合は、少なくとも10%である。
【0113】
実施例7において、組換え産生vWFペプチドの糖ペプチド分子の約80%が、コア2型O-グリカンまたは伸長コア1グリカンのいずれかを含有することが決定された。したがって、O-グリカンの総数に基づくシアル酸化コア2型および/または伸長コア1型O-グリカンの割合は、少なくとも20%である。したがって、一実施形態によれば、グリコシル化ポリペプチド中のO-グリカンの数に基づくコア2型および/または伸長コア1型O-グリカンの濃度は、少なくとも15%、より好ましくは、少なくとも18%、最も好ましくは、少なくとも20%である。
【0114】
グリコシル化ポリペプチド中のコア2型O-グリカンの数または割合、特に、コア2型O-グリカンを担持するグリコシル化ポリペプチドの個々の分子の数または割合は、以下の方針のいずれかにより増加させることができる:
【0115】
1つの方針は、酵素β1,6-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼを使用することである。この酵素は、コア2型O-グリカンの形成に関与する。したがって、コア2担持分子および/またはポリペプチド分子当たりのコア2型O-グリカンの数の増加は、酵素β1,6-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼを過剰発現する細胞株中でのグリコシル化ポリペプチドの発現により得ることができる。
【0116】
別の任意選択は、癌細胞株に由来する発現細胞株中でのグリコシル化ポリペプチドの発現である。癌細胞株は、より多量のコア2型O-グリカンを有するグリコシル化タンパク質を産生することが示されることが多い。
【0117】
伸長コア1の割合を増加させる1つの方針は、酵素β1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼを使用することである。この酵素は、伸長コア1型O-グリカンの形成に関与する。したがって、伸長コア1担持分子および/またはポリペプチド分子当たりの伸長コア1型O-グリカンの数の増加は、酵素β1,6-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼを過剰発現する細胞株中でのグリコシル化ポリペプチドの発現により得ることができる。
【0118】
コア2および/または伸長コア1シアル酸化O-グリカンの濃度は、グリカンの化学合成により増加させることができる。
【0119】
したがって、本発明の教示に基づき、当業者は、グリカンを適合させて高い結合親和性を有する合成グリカンを決定することができる。好ましい実施形態によれば、O-グリカンは、天然グリカンである。
【0120】
一実施形態によれば、グリコシル化ポリペプチド中のシアル酸化コア2-O-グリカンの少なくとも一部は、コア2型O-グリカン中のガラクトース(Gal)もしくはN-アセチルグルコサミニダーゼ(GlcNAc)に付着しているスルフェート基またはGlcNAcに付着しているフコースを含有し、それはSIGLEC7、8および8についての高い親和性結合リガンドを表す(Paulson et al.2012)。
【0121】
追加のO-グリコシル化部位を産生するための当業者に公知である様々な手法が存在する。グリコシル化ポリペプチドは、ヒトタンパク質またはその断片と比較して増加したO-グリコシル化部位の数に起因して増加した数のシアル酸化コア2型O-グリカンを有し得る。
【0122】
これに関して、グリコシル化ポリペプチドは、融合タンパク質であって、1つ以上のO-グリコシル化部位を含有する第2のアミノ酸配列が、ヒトタンパク質またはその断片と同一または相同であるアミノ酸配列(第1のアミノ酸配列)に共有結合している融合タンパク質であり得る。第2のアミノ酸配列は、第1のアミノ酸配列に関してN末端に局在させることができる。あるいは、第2のアミノ酸配列は、第1のアミノ酸配列に関してC末端に局在させることができる。グリコシル化ポリペプチドは、第1のアミノ酸配列に対してNおよびC末端の両方に追加のアミノ酸配列を含有し得る。
【0123】
したがって、このような融合タンパク質において、主にO-グリコシル化部位、特に、O-グリコシル化クラスターを含有する第2のアミノ酸配列および場合によりさらなるアミノ酸配列が、存在し得る。O-グリコシル化部位のクラスターは、公知の哺乳動物、特に、ヒトタンパク質グリコシル化タンパク質のアミノ酸配列をベースとし得る。
【0124】
第2のアミノ酸配列は、以下のO-グリコシル化クラスターの1つ以上を含み得る:
VVPPTXAPVXPTTXYVXXXSXPP(配列番号8)、
VVPPTDAPVSPTTLYVEDISEPP(配列番号9)、
PPPTXPPXXAXVTVXPXXXXVSTXXP(配列番号10)、
PPPTLPPDMAQVTVGPGLLGVSTLGP(配列番号11)、
VSSTSXXXXSTXPSXXXAAXTXXTSSXXPPSXPVXXXSXXXTTXXXX(配列番号12)、
VSSTSNNLISTIPSDNLAAGTDDTSSLGPPSMPVHYDSQLDTTLFGK(配列番号13)、
XXXATTXPXXXXXXTXPXXX(配列番号14)、
QFNATTIPENDIEKTDPWFA(配列番号15)、
XXTTAATXXX(配列番号16)、
LGTTAATELK(配列番号17)、
XXPTPXXXSXSXXXEAX(配列番号18)、
QSPTPHGLSLSDLQEAK(配列番号19);
VXXXXXXXXXTXTSXXSPXXXXXVXXSXXXXTXXAXX(配列番号20)、および
VHIYQKDLFFTETSDGSPGHLDLVEGSLLQGTEGAIK(配列番号21)。
【0125】
配列番号8、10、12、14、16、18および20の配列において、Xは、天然アミノ酸のいずれかを意味する。
【0126】
配列番号9および11はvWF中に見出され、配列番号13、15、17、19および21はFVIIIのBドメインに由来する。
【0127】
第2のアミノ酸配列は、配列番号8、10、12、14、16、18および20から選択される配列の1つ以上を含み得る。第2のアミノ酸配列は、配列の組合せを含有し得る。第2のアミノ酸配列は、好ましくは、配列番号8、10、12、14、16、18および20の配列の1つの複数コピーを含む。第2のアミノ酸配列は、配列番号8、10、12、14、16、18および20の複数コピーの組合せをさらに含み得る。
【0128】
第2のアミノ酸配列は、配列番号9、11、13、15、17、19および21から選択される配列の1つ以上を含み得る。第2のアミノ酸配列は、配列の組合せを含有し得る。第2のアミノ酸配列は、好ましくは、配列番号9、11、13、15、17、19および21の配列の1つの複数コピーを含む。第2のアミノ酸配列は、配列番号9、11、13、15、17、19および21の複数コピーの組合せをさらに含み得る。
【0129】
好ましい実施形態によれば、第2のアミノ酸配列は、配列番号8のコピーの1つ以上を含有する。
【0130】
さらに第2のアミノ酸配列は、天然発生グリコシル化タンパク質の配列とのある割合の同一性を有し得る。天然発生タンパク質との同一性のレベルは、好ましくは、80%、より好ましくは、少なくとも90%である。
【0131】
あるいは、第2のアミノ酸配列中のO-グリコシル化部位のアミノ酸配列は、完全合成であり得る。本明細書において使用される完全合成アミノ酸配列は、公知のタンパク質、特に、哺乳動物タンパク質をベースとしない配列である。
【0132】
一実施形態によれば、グリコシル化ポリペプチド中で第2のアミノ酸配列をヒトタンパク質またはその断片と同一または相同であるアミノ酸配列に連結する共有結合リンカーは、ペプチド結合、化学リンカー、またはグリコシド結合から選択される。これに関して適格な化学リンカーは、
- アミン-アミンリンカー、例えば、ビスマレイミドエタン、1,8-ビスマレイミド-ジエチレングリコール、
- アミン-スルフヒドリルリンカー、例えば、スクシンイミジルヨードアセテート、N-α-マレイミドアセト-オキシスクシンイミドエステル、
- カルボキシル-アミンリンカーのジシクロヘキシルカルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩および
- スルフヒドリル-炭水化物リンカー、例えば、N-β-マレイミドプロピオン酸ヒドラジド、N-ε-マレイミドカプロン酸ヒドラジド
である。
【0133】
本発明による融合タンパク質のリンカーは、融合タンパク質を定める第1および第2のアミノ酸配列を離隔するスペーサーペプチド配列により形成することができる。スペーサーペプチド配列は、個々のタンパク質またはペプチド部分の正確なフォールディングを容易にし得、それにより、個々のタンパク質またはペプチド部分がそれらの個々の機能的特性を保持する可能性がより高くなる。スペーサーペプチド配列は、完全融合タンパク質DNA配列を構成する個々のDNA断片のインフレームアセンブリの間、すなわち、オーバーラッピングPCRまたはDNAライゲーションの間に融合タンパク質DNA配列中に挿入することができる。
【0134】
ペプチド結合は、完全グリコシル化ポリペプチドを融合タンパク質として一度に発現させることができるという利点を有する。
【0135】
第2のアミノ酸配列は、第1のアミノ酸配列に化学リンカーにより付加することができ、したがって、タンパク質の発現後に付加することができる。
【0136】
実施例において示されるとおり、したがって、特に、O-グリコシル化クラスター1および/または2を含有するvWFおよび断片は、SIGLECに結合する。
【0137】
したがって、一実施形態によれば、ヒトタンパク質は、FVIIIまたはその断片である。したがって、グリコシル化ポリペプチド中のFVIIIとの配列同一性は、少なくとも90%、より好ましくは、少なくとも95%、最も好ましくは、少なくとも98%である。好ましい実施形態によれば、第1のアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸1~505と同一または相同である。
【0138】
第2のアミノ酸配列の長さは、好ましくは、5~100アミノ酸、より好ましくは、10~80アミノ酸、最も好ましくは、20~70アミノ酸の範囲である。
【0139】
一実施形態によれば、第2のアミノ酸は、配列番号1のアミノ酸475~505と少なくとも98%相同である。好ましくは、第2のアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸475~505と同一である。より好ましい実施形態によれば、第2のアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸475~505の2つの連続コピーと少なくとも98%相同である。好ましくは、第2のアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸475~505の2つの連続コピーと同一である。
【0140】
本発明による代表的な融合タンパク質は、Seq12である。Seq12は、以下のアミノ酸配列(配列番号2)を有する:
【0141】
以下の配列(配列番号3)は、追加の
22アミノ酸シグナルペプチド(太字および下線)を有するSeq12を表す。このペプチドの発現は、Seq12の単量体形態を提供する。シグナルペプチドは、酵素的に開裂される。
【0142】
さらなる代表的な本発明による融合タンパク質は、Seq12およびシグナルペプチド(太字および下線)を有するプロペプチド(太字)を含むPro-Seq12である。Pro-Seq12は、配列番号4により特定される:
【0143】
Pro-Seq12の発現は、二量体の形成をもたらす。ペプチド二量体は、プロペプチドの開裂後もそのままである。
【0144】
一実施形態によれば、グリコシル化ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸1~505と少なくとも98%同一である第1のアミノ酸配列を含有する。第2のアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸475~505の2つの連続コピーと少なくとも98%相同である。
【0145】
一実施形態によれば、グリコシル化ポリペプチドは、ヒト細胞株中での発現により産生される。一般に、任意のヒト細胞株がグリコシル化ポリペプチドの発現に好適である。好ましいグリコシル化ペプチドは、特にHEK細胞株を用いて得られる。
【0146】
グリコシル化ポリペプチドの産生のためのHEK細胞株の例は、HEK293F、Flp-In(商標)-293(Invitrogen、R75007)、293(ATCC(登録商標)CRL-1573)、293EBNA、293H(ThermoScientific 11631017)、293S、293T(ATCC(登録商標)CRL-3216(商標))、293T/17(ATCC(登録商標)CRL11268(商標))、293T/17SF(ATCC(登録商標)ACS4500(商標))、HEK293STF(ATCC(登録商標)CRL3249(商標))、HEK-293.2sus(ATCC(登録商標)CRL-1573(商標))である。ポリペプチドの産生に好ましい細胞株は、細胞株としてのHEK293Fである。
【0147】
発現用宿主細胞として好適な他の細胞株としては、ヒト骨髄性白血病細胞に由来する細胞株が挙げられる。宿主細胞の具体例は、K562、NM-F9、NM-D4、NM-H9D8、NM-H9D8-E6、NM H9D8-E6Q12、GT-2X、GT-5s、および前記宿主細胞のいずれか1つに由来する細胞である。K562は、American Type Culture Collection(ATCC CCL-243)に存在するヒト骨髄性白血病細胞株である。残りの細胞株はK562細胞に由来し、規定のグリコシル化特徴のために選択された。
【0148】
代替的実施形態によれば、1つ以上のグリコシル化部位は、哺乳動物タンパク質またはその断片と相同または同一であるアミノ酸配列内に局在する。哺乳動物タンパク質または断片のアミノ酸配列中に存在しないO-グリコシル化部位が、グリコシル化ポリペプチド内の相同または同一のアミノ酸配列内に見出されることを理解すべきである。
【0149】
哺乳動物タンパク質またはその断片と相同または同一であるアミノ酸配列内の1つ以上のO-グリコシル化部位は、配列内に挿入することができる。あるいは、1つ以上のO-グリコシル化部位は、哺乳動物タンパク質のアミノ酸と置き換わり得る。アミノ酸の置き換えは、それがポリペプチド鎖のサイズを変化させず、したがって、タンパク質の三次元構造に影響を与える可能性が低いため、好ましい。
【0150】
アミノ酸配列内の1つ以上のO-グリコシル化部位は、好ましくは、タンパク質の結合部位も活性中心も形成しない配列の部分中に存在する。さらに、1つ以上のO-グリコシル化部位は、好ましくは、フォールドしたタンパク質の表面に露出されるアミノ酸位置中で付加される。タンパク質の活性または統合性に対する最小の影響を達成するため、1つ以上のO-グリコシル化部位は、タンパク質のフレキシブルループに付加することができる。
【0151】
FVIIIタンパク質の場合、1つ以上のO-グリコシル化部位は、好ましくは、Bドメインの位置中で、またはそれと置き換わって付加される。
【0152】
一実施形態において、グリコシル化ポリペプチドは、例えば、半減期または安定性を改善するために1つ以上の生体適合性ポリマーによる付着により修飾される。好適な生体適合性ポリマーとしては、ポリアルキレンオキシド、例えば、限定されるものではないが、ポリエチレングリコール(PEG)、デキストラン、コロミン酸または他のポリマーベースの炭水化物、アミノ酸のポリマー、ビオチン誘導体、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリカルボキシレート、ポリビニルピロリドン、ポリエチレン-co-無水マレイン酸、ポリスチレン-co-無水リンゴ酸、ポリオキサゾリン、ポリアクリロイルモルホリン、ヘパリン、アルブミン、セルロース、キトサンの加水分解物、デンプン、例えば、ヒドロキシエチル-デンプンおよびヒドロキシプロピル-デンプン、グリコーゲン、アガロースおよびその誘導体、グアーガム、プルラン、イヌリン、キサンタンガム、カラギーナン、ペクチン、アルギン酸加水分解物、他の生体ポリマーおよびその任意の等価物が挙げられる。一実施形態において、ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)である。別の実施形態において、ポリマーは、メトキシポリエチレングリコール(mPEG)である。他の有用なポリアルキレングリコール化合物は、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリブチレングリコール(PBG)、PEG-グリシジルエーテル(Epox-PEG)、PEG-オキシカルボニルイミダゾール(CDI-PEG)、分枝鎖ポリエチレングリコール、直鎖ポリエチレングリコール、フォーク型ポリエチレングリコールおよび多腕型または「超分枝鎖」ポリエチレングリコール(星型PEG)である。生体適合性ポリマーは、好ましくは、以下の残基-SH、OH、-COOHの1つによりポリペプチドに連結されている。
【0153】
一実施形態によれば、グリコシル化ポリペプチドは、二量体または多量体を形成し得る。二量体、特に多量体の形成は、近接するO-グリカンまたはO-グリカンクラスターの数を増加させる。したがって、より多くのO-グリカンが1つの細胞上でSIGLECと相互作用し得る。さらに、O-グリカンは、一緒に密接に局在するいくつかのSIGLEC発現細胞と相互作用し得、それにより免疫寛容を増加させる。
【0154】
多量体化は、グリコシル化ポリペプチドがベースとする哺乳動物タンパク質のアミノ酸配列中の多量体化ドメインの結果であり得る。あるいは、グリコシル化ポリペプチドの多量体は、多量体化ドメインをグリコシル化ポリペプチドのアミノ酸配列中に導入することにより形成することができる。
【0155】
多量体を形成する本発明による融合タンパク質の一例は、Seq12およびシグナルペプチド(太字および下線)を有するプロペプチド(太字)ならびにvWFの多量体化配列「システインノットドメイン」(下線)を含むPro-Seq12-Multである。Pro-Seq12-Multは、配列番号5により特定される:
【0156】
あるいは、グリコシル化ポリペプチドの多量体化は、ポリマーまたはリポソームへの結合により得ることができる。
【0157】
グリコシル化ポリペプチドの使用
上記定義のとおり、本発明者らは、シアル酸化コア2型O-グリカンおよび/またはシアル酸化伸長コア1型O-グリカンを含むグリカン組成を有するタンパク質が定められるSIGLECと相互作用し、したがって、哺乳動物の免疫系の細胞に影響を与えることを見出した。特に、グリコシル化ポリペプチドは、低減した免疫応答を示す。したがって、このようなグリコシル化ポリペプチドは、第2のタンパク質と投与された場合、第2のタンパク質に対する患者の免疫応答に影響を与え得る。したがって、シアル酸化コア2型O-グリカンおよび/またはシアル酸化伸長コア1型O-グリカンを有するグリコシル化ポリペプチドを使用してタンパク質、特に組合せ投与における治療タンパク質に対する患者の免疫応答を改変し、特に低減させることができる。
【0158】
したがって、第2の態様によれば、本発明は、治療タンパク質の免疫応答を低減させるための、1つ以上のシアル酸化O-グリカンを含有し、SIG-5、SIG-7、SIG-8、およびSIG-9から選択される1つ以上のSIGLECへの結合を示すグリコシル化ポリペプチドの使用に関する。
【0159】
好ましくは、免疫応答の低減に使用されるグリコシル化ポリペプチドは、シアル酸化コア2型O-グリカンおよび/またはシアル酸化伸長コア1型O-グリカンを含む。より好ましくは、グリコシル化ポリペプチドは、第1の態様によるグリコシル化ポリペプチドとして定義される。
【0160】
使用は、治療タンパク質により患者を治療する方法であって、治療タンパク質の免疫応答を低減させるための、1つ以上のシアル酸化O-グリカンを含有し、SIG-5、SIG-7、SIG-8、およびSIG-9から選択される1つ以上のSIGLECへの結合を示すグリコシル化ポリペプチドを投与することを含む方法として記載することもできる。
【0161】
組成物およびタンパク質複合体
したがって、本発明による概念、すなわち、例えば、1つ以上のシアル酸化コア2-O-グリカンの付加によるヒトタンパク質の低減した免疫応答は、融合タンパク質の調製またはO-グリコシル化部位によるアミノ酸の挿入もしくは置き換えによってだけでなく、第2の態様による使用において記載される追加のポリペプチドの付加によっても達成することができる。これは、グリコシル化ポリペプチドおよび免疫応答を低減させるべき第2のポリペプチドの組成物の形成をもたらす。
【0162】
したがって、第3の態様において、本発明はまた、第1および第2のポリペプチドを含む組成物であって、第1のポリペプチドは、1つ以上のシアル酸化O-グリカンを含有するグリコシル化ポリペプチドであり、第2のポリペプチドは、第2の哺乳動物、特に、ヒトタンパク質と相同または同一であるアミノ酸配列を含有し、第2のポリペプチドと比較して、SIG-5、SIG-7、SIG-8、およびSIG-9から選択される1つ以上のSIGLECから選択されるSIGLECに対する増加した結合親和性を有する組成物に関する。
【0163】
SIGLECに対する増加した結合親和性を有するポリペプチドに結合パートナーを、2つのポリペプチドの複合体がポリペプチドと比較してSIGLECに対する増加した結合親和性を有するように提供することも可能である。
【0164】
したがって、第3の態様によれば、本発明は、第1および第2のポリペプチドを含む組成物であって、第1のポリペプチドは、1つ以上のシアル酸化O-グリカンを含有するグリコシル化ポリペプチドであり、第2のポリペプチドは、第2の哺乳動物、特に、ヒトタンパク質と相同または同一であるアミノ酸配列を含有し、第2のポリペプチドと比較して、
- から選択されるSIGLECに対する増加した結合親和性を有し;および/または
- 複合体に対するヒトの免疫応答が低減しており;および/または
- 複合体に対するヒトの免疫寛容が増加している
組成物を提供する。
【0165】
第2のヒトタンパク質は、好ましくは、ヒト血液タンパク質である。ヒト血液タンパク質は、ヒト血液凝固因子、輸送タンパク質、プロテアーゼインヒビター、免疫グロブリン、細胞関連血漿タンパク質、アポリポタンパク質、補体因子、成長因子、抗血管新生タンパク質、高グリコシル化タンパク質、血液因子または別のヒト血液タンパク質であり得る。
【0166】
ヒト血液凝固因子は、特に、フィブリノーゲン、フィブリン単量体、プロトロンビン、トロンビン、FV/FVa、FX/FXa、FIX/FIXa、FVII/FVIIa、FVIII/FVIIIa、FXI/FXIa、FXII/FXIIa、FXIII/FXIIIa、フォン・ヴィレブランド因子、およびADAMTS13からなる群から選択される。
【0167】
輸送タンパク質は、アルブミン、トランスフェリン、セルロプラスミン、ハプトグロビン、ヘモグロビン、およびヘモペキシンから選択することができる。
【0168】
考えられるプロテアーゼインヒビターは、例えば、β-アンチトロンビン、α-アンチトロンビン、酸化型アンチトロンビン、2-マクログロブリン、Clインヒビター、組織因子経路インヒビター(TFPI)、ヘパリン補因子II、プロテインCインヒビター(PAI-3)、プロテインC、プロテインS、およびプロテインZである。
【0169】
免疫グロブリンの例は、例えば、ポリクローナル抗体(IgG)、モノクローナル抗体、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgA1、IgA2、IgM、IgE、IgD、およびベンスジョーンズタンパク質である。
【0170】
細胞関連血漿タンパク質は、例えば、フィブロネクチン、トロンボグロブリン、血小板第4因子であり得る。アポリポタンパク質の例は、apo A-I、apo A-II、およびapo Eである。
【0171】
本発明による補体因子は、例えば、B因子、D因子、H因子、I因子、C3b不活性化因子、プロパージン、C4結合タンパク質などである。
【0172】
成長因子の例としては、血小板由来成長因子(PDGF)、上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子アルファ(TGF-α)、トランスフォーミング成長因子ベータ(TGF-α)、線維芽細胞成長因子(FGF)および肝細胞成長因子が挙げられる。
【0173】
抗血管新生タンパク質としては、潜在型アンチトロンビン、プレ潜在型アンチトロンビン、酸化型アンチトロンビンおよびプラスミノーゲンが挙げられる。
【0174】
高グリコシル化タンパク質の例は、アルファ-1-酸糖タンパク質、アンチキモトリプシン、インター-α-トリプシンインヒビター、α-2-HS糖タンパク質、C反応性タンパク質である。血液因子は、例えば、エリスロポエチン、インターフェロン、腫瘍因子、tPA、gCSFなどであり得る。
【0175】
他のヒト血液タンパク質としては、ヒスチジンリッチ糖タンパク質、マンナン結合レクチン、C4結合タンパク質、フィブロネクチン、GC-グロブリン、プラスミノーゲン/プラスミン、α-1マイクログロブリン、C反応性タンパク質が挙げられる。
【0176】
第2のヒトタンパク質は、特に、vWF、FVIII、FVII/FVIIa、FIX、ADAMTS13から選択される。
【0177】
第3の態様による組成物は、特に、第1および第2のポリペプチドのタンパク質複合体である。
【0178】
第1のポリペプチドは、好ましくは、グリコシル化されており、1つ以上のシアル酸化O-グリカンを含有する。第2のポリペプチドは、哺乳動物、特に、ヒトタンパク質と同一であるアミノ酸配列を含有する。第2のポリペプチドに対するヒトの免疫応答を低減させるため、第1のポリペプチドは、第2のポリペプチドとの複合体を形成する。
【0179】
タンパク質複合体形成のため、第1のポリペプチドは、特に、第2のポリペプチドへの結合を可能とする結合ドメインおよびグリコシル化ドメインを含む。グリコシル化ドメインは、特に、1つ以上のO-グリコシル化部位、好ましくは、O-グリコシル化クラスターを含む。
【0180】
一実施形態によれば、第2のポリペプチドは、FVIIIタンパク質であり、第1のポリペプチドは、vWFのFVIII結合ドメインおよびシアル酸化コア2型O-グリカンが結合している1つ以上のO-グリコシル化部位を含む。
【0181】
組成物の好ましい例は、P00451のアミノ酸20~2.351により特定される配列と95%同一であるアミノ酸配列を有するFVIIIタンパク質と、配列番号1のアミノ酸1~172と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む結合パートナーとしての第1のポリペプチドとのタンパク質複合体である。
【0182】
第3の態様のタンパク質複合体の一実施形態によれば、第1のポリペプチドは、第1の態様によるポリペプチドである。
【0183】
さらなる実施形態によれば、第2のポリペプチドは、例えば、FVIII、FVII、FIXおよびADAMTS13から選択することができる。
【0184】
第3の態様の一実施形態において、第1のポリペプチドは、少なくともヒトvWFの断片を含み、第2のポリペプチドは、FVIIIタンパク質、特に、全長FVIIIタンパク質、Bドメイン欠失FVIIIタンパク質またはBドメインの一部がリンカーにより置き換えられたFVIIIタンパク質である。一実施形態によれば、第1のポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸1~505により定義され、それはHEK細胞、特に、HEK293F細胞中で産生される。
【0185】
さらなる実施形態によれば、第1のポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸1~505および配列番号1のアミノ酸475~505の1コピーにより定義される。さらに、第1のポリペプチドは、配列番号2、配列番号3、配列番号4、および配列番号5から選択されるアミノ酸配列により定義することができる。
【0186】
実施例において示されるとおり、SIGLEC、特に、SIG-5、SIG-7、SIG-8および/またはSIG-9に対する改善された結合親和性を有するタンパク質は、細胞株HEK293Fを用いて産生することができる。したがって、タンパク質複合体のさらなる実施形態によれば、第1および第2のポリペプチドは、ヒト細胞株、好ましくは、HEK細胞株中での推奨される発現により産生される。グリコシル化ポリペプチドの産生のためのHEK細胞株の例は、HEK293F、Flp-In(商標)-293、293、293EBNA、293H、293S、293T、293T/17、293T/17SF、HEK293STF、およびHEK-293.2susである。ポリペプチドの産生に好ましい細胞株は、細胞株としてのHEK293Fである。
【0187】
第1および第2のポリペプチドは、別個の組換え発現により産生し、その後に結合させることができる。あるいは、第1および第2のポリペプチドは、同一細胞中で組換え発現される。このため、第1および第2のポリペプチドは、同一ベクターに、または2つの異なるベクター上でコードさせることができる。
【0188】
ポリヌクレオチド
第4の態様によれば、本発明は、本発明の第1の態様によるグリコシル化ポリペプチドをコードする核酸配列を含む単離ポリヌクレオチドを提供する。
【0189】
単離ポリヌクレオチドは、DNA分子またはRNA分子であり得る。単離ポリヌクレオチドは、好ましくは、DNA分子、特に、cDNA分子である。ペプチドをコードするポリヌクレオチドを単離またはクローニングするために使用される技術は当分野において公知であり、それとしては、ゲノムDNAからの単離、cDNAからの調製、またはそれらの組合せが挙げられる。このようなゲノムDNAからのポリヌクレオチドのクローニングは、例えば、周知のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)または発現ライブラリーの抗体スクリーニングを使用することにより行って共通の構造的特徴を有するクローニングされたDNA断片を検出することができる(例えば、Innis et al,1990参照)PCR:A Guide to Methods and Application,Academic Press,New York。他の核酸増幅手順、例えば、リガーゼ連鎖反応(LCR)、ライゲーション活性化転写(ligation activated transcription)(LAT)およびポリヌクレオチドベース増幅(polynucleotide-based amplification)(NASBA)を使用することができる。
【0190】
単離ポリヌクレオチドは、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5からなる群から選択される配列と類似または同一であるアミノ酸配列を有するグリコシル化ポリペプチドをコードするDNA分子であり得る。
【0191】
特に、単離ポリヌクレオチドは、配列番号2と少なくとも90%、好ましくは、少なくとも95%、より好ましくは、少なくとも98%、最も好ましくは、100%の同一性を有するアミノ酸配列を有するグリコシル化ポリペプチドをコードするDNA分子であり得る。さらに、単離ポリヌクレオチドは、配列番号3と少なくとも90%、好ましくは、少なくとも95%、より好ましくは、少なくとも98%、最も好ましくは、100%の同一性を有するアミノ酸配列を有するグリコシル化ポリペプチドをコードするDNA分子であり得る。一実施形態によれば、単離ポリヌクレオチドは、配列番号4と少なくとも90%、好ましくは、少なくとも95%、より好ましくは、少なくとも98%、最も好ましくは、100%の同一性を有するアミノ酸配列を有するグリコシル化ポリペプチドをコードするDNA分子である。一実施形態によれば、単離ポリヌクレオチドは、配列番号5と少なくとも90%、好ましくは、少なくとも95%、より好ましくは、少なくとも98%、最も好ましくは、100%の同一性を有するアミノ酸配列を有するグリコシル化ポリペプチドをコードするDNA分子である。
【0192】
発現ベクター
第5の態様において、本発明はまた、本発明の第4の態様によるポリヌクレオチドを含む発現ベクターに関する。
【0193】
発現ベクターは、好ましくは、制御エレメント、例えば、プロモーター、ならびに転写および翻訳終止シグナルをさらに含む。第4の態様によるポリヌクレオチドおよび制御エレメントを一緒に結合させ、制限部位におけるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの挿入または置換を許容するための1つ以上の制限部位を含み得る組換え発現ベクターを産生することができる。ポリヌクレオチドは、発現のための適切な発現ベクター中に挿入することができる。発現ベクターの作出において、コード配列は、コード配列が発現に適切な制御配列と作動可能に結合するように発現ベクター中で局在させる。
【0194】
組換え発現ベクターは、組換えDNA手順に簡便に供することができ、本発明の第4の態様のポリヌクレオチドの発現を生じさせ得る任意のベクター(例えば、プラスミドまたはウイルス)であり得る。発現ベクターの選択は、典型的には、発現ベクターを導入すべき宿主細胞との発現ベクターの適合性に依存する。発現ベクターは、線形または閉環プラスミドであり得る。
【0195】
発現ベクターは、好ましくは、哺乳動物細胞中での発現に適合される。発現ベクターは、自律複製ベクター、すなわち、複製が染色体複製に非依存的である染色体外実体、例えば、プラスミド、染色体外エレメント、ミニ染色体、または人工染色体として存在するベクターであり得る。自律複製のため、ベクターは、当該宿主細胞中でのベクターの自律複製を可能とする複製起点をさらに含み得る。複製起点は、細胞中で機能する自律複製を媒介する任意のプラスミド複製因子であり得る。用語「複製起点」または「プラスミド複製因子」は、プラスミドまたはベクターのインビボ複製を可能とするポリヌクレオチドを意味する。
【0196】
ベクターは、好ましくは、宿主細胞中に導入された場合、ゲノム中に組み込まれ、それが組み込まれた染色体と一緒に複製されるものである。宿主細胞ゲノム中への組込みのため、発現ベクターは、相同または非相同組換えによるゲノム中への組込みのための発現ベクターの任意の他のエレメントに依存し得る。あるいは、ベクターは、染色体中の正確な場所における宿主細胞のゲノム中への相同組換えによる組込みを指向するための追加のポリヌクレオチドを含有し得る。
【0197】
本発明のベクターは、好ましくは、形質転換、形質移入、形質導入細胞などの容易な選択を許容する1つ以上の(例えば、いくつかの)選択マーカーを含有する。選択マーカーは、産物が殺生物またはウイルス耐性、重金属に対する耐性、栄養要求体に対する原栄養などを提供する遺伝子である。
【0198】
上記エレメントをライゲートして本発明の組換え発現ベクターを構築するために使用される手順は、当業者に周知である(例えば、Sambrook et al.,1989、前掲参照)。
【0199】
一実施形態によれば、第5の態様によるベクターのベクター骨格は、pCDNA3、pCDNA3.1、pCDNA4、pCDNA5、pCDNA6、pCEP4、pCEP-puro、pCET1019、pCMV、pEF1、pEF4、pEF5、pEF6、pExchange、pEXPR、pIRES、およびpSCASから選択される。
【0200】
第5の態様によるベクターは、宿主細胞中に一過的または非一過的に形質転換することができる。宿主細胞は、上記列記の細胞のいずれかであり得る。好ましくは、宿主細胞は、HEK293Fである。
【0201】
医学的使用および治療方法
上記のとおり、本発明によるグリコシル化ポリペプチドおよび組成物、特に、タンパク質複合体は、患者、特に、ヒト患者における低減した免疫応答という利点を有する。したがって、グリコシル化ポリペプチドおよびタンパク質複合体は、特に、医学的治療のための活性成分として有用である。
【0202】
第6の態様によれば、本発明は、医学的治療における使用のための、第1の態様により定義されるグリコシル化ポリペプチドを提供する。代替例として、第6の態様によれば、本発明は、医学的治療における使用のための、第3の態様により定義される組成物を提供する。好ましくは、出血性障害の治療または予防である。
【0203】
したがって、本発明の第6の態様はまた、患者の出血性障害の治療または予防方法であって、前記患者に、第1の態様によるグリコシル化ポリペプチドまたは第3の態様による組成物、特に、タンパク質複合体を投与することを含む方法に関する。
【0204】
本明細書において使用される「出血性障害」は、正常な止血を害する疾患または病態を指す。出血性障害は、例えば、血友病A、血友病B、第VIII因子欠乏症、第XI因子欠乏症、フォン・ヴィレブランド病、グランツマン血小板無力症、ベルナール・スーリエ症候群、特発性血小板減少性紫斑病、脳内出血、外傷、外傷性脳損傷などであり得る。
【0205】
本明細書において使用される「血友病」は、血友病を有さない健常個体における血液凝固形成時間と比較して増加した血液凝固形成時間を伴う出血性障害のグループを指す。「血友病」は、第VIII因子の欠乏をもたらす障害である血友病A、および第IX因子の欠乏をもたらす障害である血友病Bの両方を指す。
【0206】
出血性障害は、好ましくは、血友病である。治療は、例えば、PUPS(未治療患者)の血友病治療または免疫寛容誘導(ITI)治療であり得る。
【0207】
第3の態様の代替実施形態によれば、本発明は、出血性障害の治療または予防における使用のための、第2の態様により定義されるタンパク質複合体を提供する。
【0208】
治療は、好ましくは、患者に、有効量のグリコシル化ポリペプチドまたは組成物、特に、タンパク質複合体を投与することを含む。
【0209】
本明細書に記載のグリコシル化ポリペプチドまたは組成物、特に、タンパク質複合体は、単独で、または医薬組成物の形態で投与することができる。本発明による医薬組成物は、少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体と配合された有効量のコンジュゲートを含み得る。実施形態の医薬組成物は、製薬分野において周知の任意の方法により調製し、対象に投与することができる。例えば、Goodman & Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics,Hardman et al.,eds.,McGraw-Hill Professional(10th ed.,2001);Remington:The Science and Practice of Pharmacy,Gennaro,ed.,Lippincott Williams & Wilkins(20th ed.,2003);およびPharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems,Ansel et al.(eds),Lippincott Williams & Wilkins(7th ed.,1999)参照。さらに、実施形態の医薬組成物は、他の医学的に有用な薬物または生物剤を含むように配合することもできる。医薬組成物は、典型的には、薬学的に許容可能な担体と組み合わせた治療有効量のグリコシル化ポリペプチドまたはタンパク質複合体を含む。薬学的に許容可能な担体は、当分野において公知の、または確立された任意の担体である。例示的な薬学的に許容可能な担体としては、無菌パイロジェンフリー水および無菌パイロジェンフリー生理食塩溶液が挙げられる。本実施形態に利用することができる薬学的に許容可能な担体の他の形態としては、配合物の使用形態に応じて通常使用される結合剤、崩壊剤、界面活性剤、吸収促進剤、湿分保持剤、吸収剤、滑沢剤、充填剤、増量剤、湿分付与剤、保存剤、安定剤、乳化剤、可溶化剤、浸透圧を制御する塩、希釈剤、例えば、緩衝液および賦形剤が挙げられる。これらは、得られる配合物の単位投与量に応じて場合により選択され、使用される。
【0210】
インビボ用途のため、グリコシル化ポリペプチド、タンパク質複合体または医薬組成物は、患者に、任意の慣習的な投与経路、例えば、経口、非経口により、または吸入により投与することができる。非経口投与としては、静脈内注射、皮下注射、腹腔内注射、筋肉内注射および腹腔内注射、液状薬剤、懸濁液剤、エマルションおよび滴剤が挙げられる。非経口投与のため、グリコシル化ポリペプチド、タンパク質複合体または医薬組成物は、注射剤、例えば、液状薬剤または懸濁液剤であるべきである。
【0211】
他の実施形態において、グリコシル化ポリペプチド、タンパク質複合体または医薬組成物は、患者に経口投与される。これらの実施形態において、薬物の形態としては、固体配合物、例えば、錠剤、コーティング錠、散剤、顆粒剤、カプセル剤およびピル剤、液状配合物、例えば、液剤(例えば、点眼薬、点鼻薬)、懸濁液剤、エマルションおよびシロップ剤、吸入剤、例えば、エアゾール剤、アトマイザーおよびネブライザー、ならびにリポソーム包含剤が挙げられる。さらに一部の他の実施形態において、グリコシル化ポリペプチド、タンパク質複合体または医薬組成物は、対象の気管および/または肺を標的化するために患者の呼吸管への吸入により投与される。これらの実施形態において、市販されている。
【0212】
第6の態様の一実施形態によれば、使用のためのグリコシル化ポリペプチドまたは組成物、特に、タンパク質複合体において、使用は、静脈内または非静脈内注射を含む。非静脈内注射は、好ましくは、皮下注射である。
【0213】
本発明は、以下の非限定的な実施例によりさらに記載される。
【実施例】
【0214】
実施例1
SIGLECへの全長ヴィレブランド因子(vWF)の結合:
1.1.実験手順
組換えSIG-2、SIG-5、SIG-7、SIG-F(ヒトSIG-8のマウス等価物)、SIG-9およびSIG-10を、Fc融合タンパク質としてR&D Systemsから入手した。第1に、プロテインA(SERVA Feinbiochemica GmbH & Co)を、4℃において濃度0.5μg/ウェルでプレート上で一晩(O/N)コートした。ブロッキングおよび洗浄緩衝液(20mMのHEPES、125mMのNaCl、1mMのEDTA、1%のBSA)による洗浄ステップ後、Fc融合SIGLECまたは対照抗体を、5μg/mlの濃度における37℃における1時間のインキュベーションによりプロテインAに結合させた。抗vWF-pAb(Dako、#A0082)を陽性対照として、抗ニワトリIgY(Sigma Aldrich、#C2288)を陰性対照として抗体Fc部分を介して固定化した。
【0215】
血漿由来VWF(pdVWF)を、EZ-Link(商標)スルホ-NHS-ビオチンビオチン化キット(Thermo Fisher Scientific)を使用してビオチン化した。ビオチン化vWFの濃度系列を、0~0.8μg/mLの濃度においてウェル中にアプライした。洗浄緩衝液による5回の洗浄ステップ後、HRPカップリングストレプトアビジン(Thermo Fisher Scientific、#31001)をウェルに添加し、37℃において1時間インキュベートし、続いて5回の洗浄ステップを行った。
【0216】
結合したビオチン化pdvWFの可視化のため、ウェルをo-フェニレンジアミン二塩酸塩基質(SIGMAFAST(商標)OPD、#P9187、Sigma Aldrich)とインキュベートした。続いて、492nmにおける吸光度を計測した。
【0217】
1.2 結果
図1に示されるとおり、492nmにおける吸光度は、SIG-5、SIG-7、SIG-F、およびSIG-9を用いた結合実験においてvWFの出発濃度とともに増加する。値は、陽性対照(抗vWF)よりもわずかに高く(SIG-FおよびSIG-9)または低い(SIG-5およびSIG-7)。対照的に、SIG-2、SIG-10および陰性対照の抗ニワトリIgYを用いた結合実験における吸光度は、濃度に無関係にほぼ0であった。
【0218】
したがって、vWFは、SIG-5、SIG-7、SIG-F、およびSIG-9に濃度依存的に結合する。他方、vWFは、SIG-2およびSIG-10に結合しない。
【0219】
実施例2
SIGLECへのvWF断片の結合
2.1 実験手順
50mMのトリス-HCl、150mMのNaCl pH7.8の緩衝液中で1:100の酵素対タンパク質のw/w比を使用して37℃、300rpmにおいて3時間実施したV8プロテアーゼ(Thermo Fisher Scietific,#201959)]消化により、vWFのCおよびN末端断片を調製し、MonoQ5/50GLカラム(GE Healthcare #17-5166-01)上でのアニオン交換クロマトグラフィーにより精製した。ランニング緩衝液は20mMのトリス-HCl pH7.4であり、溶出緩衝液は20mMのトリス-HCl、500mMのNaCl pH7.4であった。100mMのNaClをランニング緩衝液として使用するSuperose6 10/300GLカラム(GE Healthcare #17-5172-01)上でのサイズ排除クロマトグラフィーにより断片をさらに精製および脱塩した。
【0220】
得られた断片(C末端およびN末端)を
図2に模式的に示し、ドメインおよびグリコシル化部位を特定した。
【0221】
精製されたvWF C末端断片およびvWF N末端断片を、EZ-Link(商標)スルホ-NHS-ビオチンビオチン化キット(Thermo Fisher Scientific)を使用してビオチン化し、vWF C末端断片およびvWF N末端断片の濃度1μg/mLで実施例1に記載のとおりSIGLECへの結合を計測した。
【0222】
2.2 結果
図3に示される吸光度値に基づくと、O-グリコシル化部位および2O-グリカンクラスター(クラスター1およびクラスター2)の大半を含有するvWF N末端断片は、SIG-5、SIG-7、SIG-FおよびSIG-9に結合する。対照的に、vWF C末端断片について吸光度はほとんど計測されず、または計測されなかった。したがって、後者の断片は、SIGLECに結合しない。
【0223】
実施例3
SIGLECへのvWFのN末端部分の結合:
3.1.実験手順
実施例2において得られたN末端vWF断片の一部分を、シアリダーゼAを使用して酵素的に脱シアル酸化した。50mMのリン酸ナトリウム、pH6.0中で、100μgのVWF断片につき2μlの酵素(シアリダーゼA(商標)#GK80040をProzymeから入手した)を使用してインキュベーションを37℃において3時間実施した。
【0224】
N末端vWF断片の第2の部分を脱N-グリコシル化した。50mMのリン酸ナトリウム、pH7.5緩衝液中で、20μgのVWF断片につき1μlの酵素(PNGアーゼF #P0704をNew England Biolabsから入手した)を使用してインキュベーションを37℃において一晩実施した。
【0225】
脱シアル酸化、脱N-グリコシル化および非処理N末端vWF断片の試料を、SIG-5、SIG-7、SIG-8、およびSIG-9への結合について試験した。結合実験を、N末端vWF断片の濃度8μg/mLで実施例1に記載のとおり実施した。
【0226】
3.2 結果:
図4に示されるとおり、脱N-グリコシル化vWF N末端断片および非処理vWF N末端断片について測定された吸光度値は、わずかに異なるにすぎない。したがって、脱N-グリコシル化は結合に影響を与えず、その結合がO-グリカンを介して媒介されることを示す。
【0227】
O-グリカンの脱シアル酸化は、
図4に示されるとおり、SIGLECへのvWF N末端断片の結合を強力に低減させ、または停止させる。したがって、vWF N末端断片の結合は、O-グリカン鎖に付着しているシアル酸により媒介される。
【0228】
実施例4
O-グリカンクラスター1および2を含有するペプチドのSIGLEC結合
4.1 実験手順
vWFは、
図2に模式的に示される完全占有O-グリコシル化部位(Solecka et.al 2016参照)の2つのクラスターを含有する。両方のクラスターは、コア2構造の相対量が異なる。糖ペプチド分子の4.9%のみが、クラスター1中のコア2構造を含有する。したがって、クラスター1中のO-グリカンの総数に基づくシアル酸化コア2型O-グリカンの割合は、1.25%である。
【0229】
他方、糖ペプチド分子の34.86%が、クラスター2中のコア2構造を含有する(Solecka et al,2016参照)。したがって、クラスター2中のO-グリカンの総数に基づくシアル酸化コア2型O-グリカンの割合は、10.78%である。
【0230】
2つのクラスターの結合を独立して計測するため、vWF N末端断片をトリプシンにより処理し、以下の断片:配列番号1のVWFのAA449~511を包含するクラスター1断片およびAA674~728/729を包含するクラスター2断片を生成した。断片を逆相HPLCにより精製した。簡潔に述べると、pdVWFを還元し、遊離システインをマレイミド-PEG2-ビオチンにより製造業者の説明書に従ってブロッキングした(EZ-Link(商標)マレイミド-PEG2-ビオチン、#21901BIDをThermo Fisher Scientificから入手した)。トリプシンにより37℃において一晩消化した後、10kDaカットオフ遠心分離フィルター装置(Millipore)を使用して高分子量ペプチドを濃縮した。続いて、ペプチドをJupiter 5μ 300Å C18カラム(Phenomenex)上で分離した。移動相は、A-H2O中0.1%のトリフルオロ酢酸(TFA);B-アセトニトリル中0.085%のTFAであり、流速は0.3 mL/分であった。溶出ペプチド/糖ペプチドを、215nm波長において紫外線吸収により検出した。目的の分画を回収し、凍結乾燥し、続いて10μLのH2O中で再構成した。両方のクラスターはシステインを含有するため、両方にビオチンを供給した。
【0231】
結合実験を、SIGLECのSIG-5、SIG-7、SIG-F、SIG-9およびSIG-10を用いてクラスター1およびクラスター2断片の濃度4μg/mLで実施例1に記載のとおり実施した。
【0232】
さらに、クラスター1およびクラスター2断片の試料を脱シアル酸化により処理し、続いて結合実験において脱シアル酸化クラスター1およびクラスター2断片の濃度2μg/mLで実施例1に記載のとおり試験した。
【0233】
4.2 結果:
図5に示される吸光度値に基づくと、クラスター2断片はSIGLECのSIG-5、SIG-7、SIG-F、SIG-9に結合した。SIG-10については、吸光度は検出されず、またはほとんど検出されず、他の実施例からの結果を裏付けた。
【0234】
結果的に、O-グリカンクラスター上の高い割合のコア2構造が、SIG-5、SIG-7、SIG-F、SIG-9への結合のための要件である。
【0235】
実施例5
クラスター2SIGLEC結合のシアル酸依存性
5.1 実験手順
実施例4に記載のとおり得られたクラスター2断片の試料を脱シアル酸化した。続いて、脱シアル酸化クラスター2断片および非処理クラスター2断片を、結合実験においてSIGLECのSIG-5、SIG-7、SIG-F、およびSIG-9を用いて脱シアル酸化クラスター1およびクラスター2断片の濃度2μg/mLで実施例1に記載のとおり試験した。
【0236】
5.2 結果
非処理クラスター2断片について検出された吸光度値は、実施例4に見出される結果を裏付けた(
図6参照)。脱シアル酸化クラスター2断片は、結合を示さず、またはわずかに結合を示すにすぎない。したがって、O-グリカンクラスター上のコア2構造のシアル酸化は、SIG-5、SIG-7、SIG-F、SIG-9への結合のための要件である。
【0237】
実施例6
FVIII結合部位を含有するO-結合グリカンリピートを有するまたは有さないVWF断片の組換え発現:
2つの組換えvWF断片を、HEK細胞株293F中で発現させた。第1の断片、Seq11は、配列番号1のAA1~505を包含し、O-グリコシル化部位485、492、493、500)を有するクラスター1を含有する。
【0238】
第2の断片Seq12は、配列番号1のAA1~505およびAA475~505の2つの追加の反復(AA1~505+2×475~505)およびしたがってクラスター1O-グリカンクラスターリピートの2つの追加のコピーを包含する。
【0239】
Seq11およびSeq12を、HEK293細胞株中でC末端Strep-Tagとともに一過的に発現させ、Strep-tactin親和性クロマトグラフィー(IBA GmbH)により精製した。したがって、Seq11および12をコードする遺伝子をGeneArt(Thermo Fisher Scientific)により合成し、Twin-Strep-tagを含有するpDSG-発現ベクター(IBA GmbH)中でクローニングした。TOP10大腸菌(E.coli)(IBA gmbH)を構築物により形質転換し、アンピシリン含有LB寒天プレート上での37℃における一晩のインキュベーション後に単一クローンを選択した。QIAamp DNA-MiniまたはMaxiキット(Qiagen)を製造業者の推奨に従って使用してプラスミドDNA調製を実施した。クローニングされた構築物の正確な配向および組込みをシーケンシングにより確認した。両方のvWF断片の真核細胞発現のため、MEXi形質移入培地(IBA GmbH)中で増殖させたMEXi-293細胞(IBA GmbH)を、4.5mg/mlの25kDaの直鎖ポリエチレンイミンを使用して1.5mg/lの構築物により形質移入した。37℃、5%のCO2および100~150rpmにおける2~4時間のインキュベーション後、培養物をMEXi形質移入培地により1:2に希釈し、細胞生存率が75%に到達するまで培養を継続した。続いて、上清を4℃および300×gにおける遠心分離により細胞から分離した。細胞培養培地中のビオチンの阻害効果を最小化するため、およびpHを調整するため、0.1容量の緩衝液(1Mのトリス-HCl、1.5mMのNaCl、10mMのEDTA、pH8.0)および0.09%(v/v)のBioLock溶液(IBA GmbH)を上清に添加し、4℃において20分間インキュベートした。遠心分離後、上清をStrep-Tactin XTカラム(IBA GmbH)上でアプライし、洗浄緩衝液(100mMのトリス-HCl、150mMのNaCl、1mMのEDTA、pH8.0)により5回洗浄し、結合したStrep-tag含有タンパク質を溶出緩衝液(100mMのトリス-HCl、150mMのNaCl、1mMのEDTA、10mMのデスチオビオチン、pH8.0)により溶出させた。
【0240】
両方の断片Seq11およびSeq12を
図7に模式的に示す。
【0241】
実施例7
vWF断片Seq11およびSeq12のO-グリコシル化の分析
7.1 実験手順
実施例6により産生された断片Seq11およびSeq12のO-グリコシル化を、質量分析により分析した。
【0242】
このため、Seq11およびSeq12を最初に、60℃における50mMのジチオトレイトールとの、および続いて100mMのヨードアセトアミドとの20分間のインキュベーションにより還元およびアルキル化した。トリプシンおよびキモトリプシンによる消化後、得られたペプチドをシアリダーゼA消化緩衝液中で再緩衝化し、実施例3に記載の条件を使用して一晩脱シアル酸化した。アガロース固定化レクチン(Vector Laboratories)を使用するジャカリン(アルトカルプス・インテグリフォリア(Artocarpus integrifolia)レクチン)親和性クロマトグラフィーによりO-糖ペプチドを特異的に濃縮した。ジャカリン-アガロースを重力駆動カラム中に充填し、クロマトグラフィーを製造業者の説明書に従って実施した。溶出したO-糖ペプチドを、C4 Ziptipピペットチップ(Millipore)を使用するMALDI MS計測のために精製し、50%のアセトニトリル/0.1%のトリフルオロ酢酸中で溶解させた25mg/mlのスーパーDHBマトリックスを使用するリニアポジティブイオンモードでの計測に供した。
【0243】
濃縮された糖ペプチドのアリコートを、O-グリコシダーゼ(エンド-α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ、#P0733、New England Biolabs)によりさらに処理した。簡潔に述べると、ペプチドを、10μlの糖タンパク質につき1μlの酵素を使用して酵素と37℃において2時間インキュベートした。O-グリコシダーゼはコア1型O-グリカンのみに特異的であるため(Galβ1→3GalNAcα1→Ser/Thr二糖)、それはペプチド骨格に付着しているコア2グリカンおよび/または伸長コア1型O-グリカンを残す。
【0244】
【0245】
O-糖ペプチドを、ポストソース分解(PSD)MALDIにより特定した。特定されたSeq11断片のペプチド配列は、
KVTLNPSDPEHCQICHCDVVNLTCEACQEPGGLVVPPTDAPVSPTTLYVEDISEPPLHGSAW(配列番号6)である。最後の4つのアミノ酸(下線)は、C末端Strep-Tagに対応する。このペプチドは、4つのO-グリコシル化部位を含有する。
【0246】
図8の上段スペクトルは完全O-グリコシル化糖ペプチドを示し、
図8の下段スペクトルはO-グリコシダーゼ消化後の同一の糖ペプチドを示す。O-グリコシダーゼ消化後の1460.3Daの質量シフト(矢印により標識)は、365Daの質量をそれぞれ有する4つのコア1型O-グリカンに対応する。上段スペクトルにおいて観察される365Daの質量距離は、同一のペプチドの異なる糖型に対応する一方、それぞれの追加の365Daの質量付加は、Galβ1→4GlcNAc二糖形成コア2構造に対応する。O-グリコシダーゼ処理後、ペプチドの完全脱グリコシル化形態(8358.6Da)ならびにコア2構造(Galβ1→4GlcNAcβ1→6(Galβ1→3)GalNAc、730Da)および/または伸長コア1構造(Galβ1→4GlcNAcβ1→3Galβ1→3GalNAc、730Da)を含有する糖型が観察される。
【0247】
Seq12断片の特定されたペプチド配列は、
KVTLNPSDPEHCQICHCDVVNLTCEACQEPGGLVVPPTDAPVSPTTLYVEDISEPPLHQEPGGLVVPPTDAPVSPTTLYVEDISEPPLHQEPGGLVVPPTDAPVSPTTLYVEDISEPPLHGSAW(配列番号7)である。最後の4つのアミノ酸(下線)は、C末端Strep-Tagに対応する。
【0248】
図9の上段スペクトルは完全O-グリコシル化糖ペプチドを示し、
図9の下段スペクトルはO-グリコシダーゼ消化後の同一の糖ペプチドを示す。O-グリコシダーゼ消化後の4380.3Daの質量シフトは、365Daの質量をそれぞれ有する12個のコア1型O-グリカンに対応し、それは、Seq12中の12個全てのO-グリコシル化部位がO-グリカンにより占有されていることを裏付ける。Seq11について観察されるのと同様に、スペクトル中に観察される365Daおよび730Daの距離は、Galβ1→4GlcNAc二糖またはコア2および/もしくは伸長コア1構造にそれぞれ対応する。
【0249】
コア1およびコア2型O-グリカンの定量は、それぞれのO-グリカンが付着している糖ペプチドの相対量に基づく。所与のペプチドの異なる糖型の定量は、MALDIスペクトルにおけるシグナル強度の評価により行う。
【0250】
糖ペプチドSeq11については、定量は、同一ペプチドの異なる糖型のMALDIシグナル強度に基づき行う。このペプチドの全ての糖型の総ピーク強度(8358Da、8724Da、9089Da、9454Da、9819Da、10181Da、10543Da、10910Da、11277Da)は41275a.u.に等しく、それは100%を表す。
【0251】
質量8358Daを有するコア1型O-グリカンのみを含有する糖型は8410a.u.の強度を示し、それは総計の20%に対応する。したがって、全ての他の糖型(80%)は、付着している少なくとも1つのコア2および/または伸長コア1グリカンタイプグリカンを含有する。この計測において、コア2および伸長コア1は、区別不可能である。したがって、O-グリカンの総数に基づくコア2型および/または伸長コア1型O-グリカンの割合は、少なくとも20%である。
【0252】
したがって、HEK細胞株中で組換え産生されたSeq11中の4つのO-グリコシル化部位およびSeq12中の12個全てのO-グリコシル化部位は、コア1型O-グリカンにより占有されており、高い割合までコア2型O-グリカンおよび/または伸長コア1型O-グリカンによっても占有されている。多量のコア2型O-グリカンを考慮すると、両方の配列は、SIGLEC結合についての良好なリガンドであり得る。4つのO-グリコシル化部位を含有する2つの追加の配列リピートの付加は、12個のクラスター化および完全占有O-グリカンを有するタンパク質を良好にもたらした。
【0253】
実施例8
Seq11およびSeq12のSIGLEC結合の分析
8.1 実験手順
Strep-Tag担持組換えタンパク質Seq11およびSeq12を、SIGLEC結合ELISAにおいて実施例1に記載のとおり試験したが、以下の検出方針を除く;ストレプトアビジン-HRPに代えて、Strep-Tactin-HRP(#2-1502-001、IBA GmbH)コンジュゲートをStrep-tag付きタンパク質の検出に使用した。アプライされるStrep-Tactin-HRPの濃度は、0.25μg/mlであった。両方のタンパク質Seq11およびSeq12を、42nMの等モル濃度において試験した。
【0254】
8.2 結果
図10に示されるとおり、両方のポリペプチドSeq11およびSeq12は、SIG-5、SIG-7、SIG-FおよびSIG-9への結合を示した。4つ全てのSIGLECに対する両方のポリペプチドSeq11およびSeq12について計測された吸光度は、抗vWFへのSeq11およびSeq12の結合と同一の範囲であった。
【0255】
対照的に、SIG-2およびSIG10を用いた実験におけるSeq11およびSeq12の吸光度は、抗ニワトリ抗体を用いた陰性対照実験と同一範囲であった。したがって、Seq11およびSeq12のいずれも、SIG-2にもSIG-10にも結合しなかった(
図10参照)。
【0256】
実施例9
Seq11およびSeq12のSIGLEC結合のシアル酸依存性
9.1 実験手順
実施例8による実験プロトコルを、strep-tag付きポリペプチドSeq11およびSeq12のシアリダーゼA消化を追加して繰り返した。脱シアル酸化を実施例3に記載のとおり実施した。
【0257】
9.2 結果
脱シアル酸化Seq11およびSeq12を用いた結合実験の結果を、
図11に示す。計測された吸光度によれば、SIG-5への脱シアル酸化Seq11およびSeq12の結合は、非処理ポリペプチドと比較して強力に低減する。SIG-7、SIG-FおよびSIG-9への結合は完全に停止され、すなわち、吸光度はSIG-2およびSIG10への結合について測定されたものと同一のレベルである。したがって、SIG-5、SIG-7、SIG-FおよびSIG-9への両方のポリペプチドSeq11およびSeq12の結合は、シアル酸依存的である。
【0258】
実施例10
Seq11およびSeq12のSIGLEC結合の比較
10.1 実験手順
Seq11およびSeq12の見かけの結合親和性を計測および比較するため、結合曲線のスキャッチャード分析を用いるSIGLEC ELISAを適用した。ELISAを実施例8および9に記載のとおり実施した。スキャッチャード分析をGraph Pad Prismソフトウェアを使用して行った。
【0259】
10.2 結果
配列11および12の結合曲線ならびに対応するスキャッチャードプロットを、
図12および13に示す。スキャッチャードプロットから導かれる見かけの結合親和性(K
D)を、
図14にまとめる。Seq12中のO-グリカンリピートの増加は、SIGLEC結合親和性に対する有意な効果を有した。SIGLEC5についての親和性は、Seq11についての0.494μMから、Seq12についての0.14μMまで増加し得た。SIGLEC7についての親和性は、Seq11についての0.371μMから、Seq12についての0.005μMまで増加し得た。SIGLEC8についての親和性は、Seq11についての1.027μMから、Seq12についての0.015μMまで増加し得た。最後に、SIGLEC9についての親和性は、Seq11についての0.591μMから、Seq12についての0.041μMまで増加し得た。本文における記述:「このELISA実験から、解離親和性定数は、全てのSeq11および12-SIGLEC相互作用について計算される」。
【0260】
実施例11
Seq11およびSeq12のFVIII結合親和性の測定
11.1 実験手順
両方の配列のFVIII結合を、表面プラズモン共鳴(SPR)により評価した。分析を、Biacore3000(GE Healthcare)機器を使用して実施した。配列11および12ポリペプチドを、アミンカップリングキット(GE Healthcare)を使用してCM5チップ上で固定化した。陽性対照として、全長血漿VWF(Wilate、Octapharma)を固定化した。続いて、FVIII(Nuwiq、Octapharma)濃度系列(0.2nM、0.6nM、1.7nM、5.0nM、15nM、45nM)を、センサチップ表面にわたりインジェクトした。ランニング緩衝液は、150mMのHEPES、150mMのNaCl、5mMのCaCl2、0.05%であった。
【0261】
11.2 結果
SPR計測により、両方の配列のFVIII結合親和性(KD)は1.4nMに等しいことが明らかになり、したがって、追加のO-グリカンリピートはFVIIIに対する結合親和性に対する影響を有さない。
【0262】
実施例12
N末端VWF断片はIL-12p70およびIFN-γの細胞外レベルを低減させるが、C末端VWF断片は低減させない
12.1 背景
SIGLECは、免疫系の種々の細胞、例として、単球および樹状細胞上で発現され、細胞接着、エンドサイトーシスならびに適応および自然免疫のシグナリング経路のモジュレートにおける役割を示す(Macauley et al.2014)。ほとんどのSIGLECは、細胞増殖および活性化の阻害(Vitale et al.1999;Ikehara et al.2004)、アポトーシス誘導(Nutku et al.2003)およびサイトカイン産生の抑制(Erdmann et al.2009;Chen et al.2013)により炎症応答の減衰において機能することが示されているそれらの細胞質ドメイン中の免疫受容体チロシンベース阻害モチーフ(ITIM)またはITIM様モチーフを含有する。
【0263】
moDCにより産生される炎症性サイトカインのレベルがSIGLECにエンゲージするvWF断片の存在下で変更されるか否かを把握するため、刺激された未成熟単球由来樹状細胞(moDC)の上清中のIL-12p70およびIFN-γの量を、フローサイトメトリーにより同時に分析した。
【0264】
12.2 実験設計
健常ドナーからの単球をFicoll勾配を介して濃縮し、続いてCD14+単球を磁気細胞ソーティングにより精製した。moDCを得るため、CD14+単球を10%のウシ胎仔血清、1000U/mlのインターロイキン4および1000U/mlの顆粒球マクロファージコロニー刺激因子が補給されたRPMI培地中で5~6日間培養した。moDCにより分泌されたサイトカインプロファイルを、それぞれのvWF断片による刺激24時間後に、製造業者の推奨に従ってIL-12p70およびIFN-γを検出するサイトメトリックビーズアレイCBA Flex(BD)を介して分析した。同一容量の100mMのNaClにより処理された細胞が対照として機能した。試料をフローサイトメーターFACSVerseにより分析した。サイトカイン濃度の最終分析および計算を、FCAPアレイソフトウェア(BD)を使用して実施した。
【0265】
12.3 結果
図16は、LPS刺激ありおよびなしの2つのvWF断片とのmoDCのインキュベーション後のサイトカイン濃度を示す。これらの結果によれば、vWFのN末端部分はLPS刺激に応答して合成される炎症促進性サイトカインの産生を低下させるが、C末端部分は低下させない。LPS刺激なしの場合、炎症促進性サイトカインの分泌に対するvWF断片の効果は検出することができなかった。
【0266】
実施例13
SIGLECおよびそれらのアダプター分子のリン酸化の分析
13.1 背景
シアル酸含有リガンド結合時、SIGLECのITIMおよびITIM様モチーフは、SRCファミリーチロシンキナーゼによりリン酸化され、それがSRCホモロジー2(SH2)ドメイン含有タンパク質チロシンホスファターゼ(SHP)-1およびSHP-2のリクルートメントをもたらす。これらのホスファターゼは、活性化されると、細胞基質を脱リン酸化し得、それにより種々のシグナリング経路の活性化を制御する(Crocker et al.,2007)。SHP-1は、阻害シグナリングにおける役割に属する一方、SHP-2は、ほとんどのシグナリング経路においてシグナル伝達を向上させるが、負に調節する細胞内シグナリングプロセスにも関与することが報告されている(An et al.,2006;Avril et al.,2004;Boyd et al.,2009;Qu,2000;Salmond and Alexander,2006)。
【0267】
13.2 実験手順
moDCを、実施例12に記載のとおり調製した。SIGLECならびにそれらのアダプター分子SHP-1およびSHP-2のチロシンリン酸化に対するN末端vWF断片の影響を測定するため、6*10^6個のmoDCを、500nMのN末端vWF断片と10分間インキュベートした。同一容量の100mMのNaClにより刺激された細胞が対照として機能した。免疫受容体リン酸化の分析をプロテオームプロファイラーヒトホスホ-免疫受容体アレイキット(R&D systems)を用いて製造業者の推奨に従って500μgの細胞溶解物を使用して実施した。
【0268】
13.3 結果
ホスホ-免疫受容体アレイの結果を、
図17に示す。計測された画素密度によれば、N末端vWF断片は、対照と比較してSHP-1、SHP-2、SIG-5およびSIG-7のリン酸化を特異的に変更する。SIG-2およびSIG-10のリン酸化は観察することができず、それはそれらのSIGLECへのvWF N末端断片の結合の欠落と密接に関連する。
【0269】
本明細書に記載の本発明の多くの改変および他の実施形態により、本発明が関する当業者は、上記の詳細な説明および関連する図面に提示される教示の利益を有することを想起する。したがって、本発明は開示される具体的な実施形態に限定されるものではないこと、ならびに改変および他の実施形態が添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれるものであることを理解すべきである。規定の用語が本明細書において用いられるが、それらは一般的および記述的な意味でのみ使用され、限定を目的として使用されるものではない。
【0270】
参照文献
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Boyd,C.R.,Orr,S.J.,Spence,S.,Burrows,J.F.,Elliott,J.,Carroll,H.P.,Brennan,K.,Ni,G.J.,Coulter,W.A.,Jones,C.,Crocker,P.R.,Johnston,J.A.,and Jefferies,C.A.(2009).Siglec-E is up-regulated and phosphorylated following lipopolysaccharide stimulation in order to limit TLR-driven cytokine production.J.Immunol.183,7703-7709.
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