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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】ポリエステル系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20230712BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20230712BHJP
   C08K 5/06 20060101ALI20230712BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
C08L67/00
C08K5/29
C08K5/06
C08K5/05
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019077165
(22)【出願日】2019-04-15
(65)【公開番号】P2020176168
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】309012122
【氏名又は名称】日清紡ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 雄大
(72)【発明者】
【氏名】谷口 彰
(72)【発明者】
【氏名】小谷 沙織
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/119190(WO,A1)
【文献】特開平05-302022(JP,A)
【文献】特開2013-231200(JP,A)
【文献】特開昭58-162654(JP,A)
【文献】特開2012-206342(JP,A)
【文献】国際公開第2007/029768(WO,A1)
【文献】特開2016-065252(JP,A)
【文献】特開平01-174557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂(A)と、下記式(1)で表されるカルボジイミド化合物(B)と、エポキシ基及び水酸基の少なくともいずれかを有する有機化合物(C)とを含み、
前記カルボジイミド化合物(B)の含有量が、前記ポリエステル系樹脂(A)、前記カルボジイミド化合物(B)及び前記有機化合物(C)の合計100質量部に対して0.1~10.0質量部であり、
前記カルボジイミド化合物(B)に対する前記有機化合物(C)の質量比が0.1~10.0である、ポリエステル系樹脂組成物。
【化1】

(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に、イソシアネート基との反応性を有する官能基を1つ有する有機化合物(Y)から前記官能基を除いた残基である。
3は、ジイソシアネート化合物から2つのイソシアネート基を除いた2価の残基である。前記ジイソシアネート化合物は、前記イソシアネート基と直接結合するベンゼン系芳香環を有し、該ベンゼン系芳香環の前記イソシアネート基に対する両オルト位ともに、置換基を持つことはない。複数のR3は、互いに同一又は異なる。
4は、ジオール化合物から2つの水酸基を除いた2価の残基である。R4が複数ある場合、各R4は、互いに同一又は異なる。前記ジオール化合物は、ポリエステルポリオールである。
前記有機化合物(Y)は、モノアルコール、モノアミン、モノカルボン酸及び酸無水物から選ばれる1種以上である。
1及びX2は、それぞれ独立に、前記有機化合物(Y)の前記官能基と、前記ジイソシアネート化合物の前記イソシアネート基との反応により形成される結合である。
mは0~50の数、nは1~50の数である。)
【請求項2】
前記有機化合物(C)は、エポキシ当量が170~750であるエポキシ化合物、及び水酸基当量が170~750であるヒドロキシ化合物から選ばれる1種以上である、請求項1に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項3】
前記有機化合物(C)が25℃、1気圧で固体である、請求項1又は2に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項4】
前記ジイソシアネート化合物が、パラフェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート及びナフタレンジイソシアネートから選ばれる1種以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項5】
前記有機化合物(Y)が、モノアルコールである、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリエステル系樹脂(A)が、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸及びポリヒドロキシアルカン酸から選ばれる1種以上である、請求項1~のいずれか1項に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐加水分解性に優れたポリエステル系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル系樹脂は、一般に、透明性や機械的強度、加工性、耐溶剤性、リサイクル性等に優れていることから、繊維やフィルム、シート等に広く利用されており、また、家電製品やOA機器の筐体等にも使用されている。
しかしながら、ポリエステル系樹脂は、経時により加水分解が進行して劣化しやすいため、これを抑制し、耐加水分解性を向上させる目的で、カルボジイミド化合物が添加されることがある。
【0003】
また、カルボジイミド化合物を添加する際、エポキシ化合物を併用することにより、耐加水分解性をより向上させることができることも知られている。
例えば、特許文献1に、芳香族ポリエステルに、耐加水分解性を向上させる目的で、エポキシ化合物及びカルボジイミド化合物を添加することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平1-174557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1には、具体的には、カルボジイミド基の両末端に炭化水素基が結合したモノカルボジイミド化合物、又は両末端に、カルボジイミド基に直接結合する炭化水素基を有するポリカルボジイミド化合物が開示されている。このようなカルボジイミド化合物は、ポリエステル系樹脂組成物の溶融混練や成形加工時の加熱により、該カルボジイミド化合物の分解によりイソシアネートガスが発生しやすく、ポリエステル系樹脂の製造における作業環境上、好ましくないものであった。
【0006】
また、脂肪族系カルボジイミドは、上述したようなイソシアネートガスの発生が起きやすく、また、エポキシ化合物と併用した場合であっても、ポリエステル系樹脂の耐加水分解性の向上効果が十分であるとは言えないものであった。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、耐加水分解性に優れたポリエステル系樹脂を得ることができ、かつ、溶融混練や成形加工時の加熱によるイソシアネートガスの発生が抑制されたポリエステル系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、所定のカルボジイミド化合物と、エポキシ基及び/又は水酸基を有する化合物とを併用することにより、ポリエステル系樹脂に、従来よりも優れた耐加水分解性を付与することができ、かつ、溶融混練や成形加工時の加熱によるイソシアネートガスの発生が抑制されたポリエステル系樹脂組成物を得られることを見出したことに基づくものである。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[7]を提供する。
[1]ポリエステル系樹脂(A)と、下記式(1)で表されるカルボジイミド化合物(B)と、エポキシ基及び水酸基の少なくともいずれかを有する有機化合物(C)とを含み、前記カルボジイミド化合物(B)の含有量が、前記ポリエステル系樹脂(A)、前記カルボジイミド化合物(B)及び前記有機化合物(C)の合計100質量部に対して0.1~10.0質量部であり、前記カルボジイミド化合物(B)に対する前記有機化合物(C)の質量比が0.1~10.0である、ポリエステル系樹脂組成物。
【0010】
【化1】

(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に、イソシアネート基との反応性を有する官能基を1つ有する有機化合物(Y)から前記官能基を除いた残基である。
3は、ジイソシアネート化合物から2つのイソシアネート基を除いた2価の残基である。前記ジイソシアネート化合物は、前記イソシアネート基と直接結合するベンゼン系芳香環を有し、該ベンゼン系芳香環の前記イソシアネート基に対する両オルト位ともに、置換基を持つことはない。複数のR3は、互いに同一又は異なる。
4は、ジオール化合物から2つの水酸基を除いた2価の残基である。R4が複数ある場合、各R4は、互いに同一又は異なる。
前記有機化合物(Y)は、モノアルコール、モノアミン、モノカルボン酸及び酸無水物から選ばれる1種以上である。
1及びX2は、それぞれ独立に、前記有機化合物(Y)の前記官能基と、前記ジイソシアネート化合物の前記イソシアネート基との反応により形成される結合である。
mは0~50の数、nは1~50の数である。)
【0011】
[2]前記有機化合物(C)は、エポキシ当量が170~750であるエポキシ化合物、及び水酸基当量が170~750であるヒドロキシ化合物から選ばれる1種以上である、上記[1]に記載のポリエステル系樹脂組成物。
[3]前記有機化合物(C)が25℃、1気圧で固体である、上記[1]又は[2]に記載のポリエステル系樹脂組成物。
[4]前記ジイソシアネート化合物が、パラフェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート及びナフタレンジイソシアネートから選ばれる1種以上である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載のポリエステル系樹脂組成物。
[5]前記有機化合物(Y)が、モノアルコールである、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載のポリエステル系樹脂組成物。
[6]前記ジオール化合物が、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール及びポリウレタンポリオールから選ばれる1種以上である、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載のポリエステル系樹脂組成物。
[7]前記ポリエステル系樹脂(A)が、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸及びポリヒドロキシアルカン酸から選ばれる1種以上である、上記[1]~[6]のいずれか1項に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、溶融混練や成形加工時の加熱によるイソシアネートガスの発生が抑制されたポリエステル系樹脂組成物であって、従来よりも耐加水分解性に優れたポリエステル系樹脂を得ることができるポリエステル系樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、ポリエステル系樹脂(A)と、下記式(1)で表されるカルボジイミド化合物(B)と、エポキシ基及び水酸基の少なくともいずれかを有する有機化合物(C)とを含む。そして、カルボジイミド化合物(B)の含有量が、ポリエステル系樹脂(A)、カルボジイミド化合物(B)及び有機化合物(C)の合計100質量部に対して0.1~10質量部であり、カルボジイミド化合物(B)に対する有機化合物(C)の質量比が0.1~10.0であることを特徴としている。
【0014】
【化2】
【0015】
前記式(1)において、R1及びR2は、それぞれ独立に、イソシアネート基との反応性を有する官能基を1つ有する有機化合物(Y)から前記官能基を除いた残基である。
3は、ジイソシアネート化合物から2つのイソシアネート基を除いた2価の残基である。前記ジイソシアネート化合物は、前記イソシアネート基と直接結合するベンゼン系芳香環を有し、該ベンゼン系芳香環の前記イソシアネート基に対する両オルト位ともに、置換基を持つことはない。複数のR3は、互いに同一又は異なる。
4は、ジオール化合物から2つの水酸基を除いた2価の残基である。R4が複数ある場合、各R4は、互いに同一又は異なる。
有機化合物(Y)は、モノアルコール、モノアミン、モノカルボン酸及び酸無水物から選ばれる1種以上である。
1及びX2は、それぞれ独立に、有機化合物(Y)の前記官能基と、前記ジイソシアネート化合物の前記イソシアネート基との反応により形成される結合である。
mは0~50の数、nは1~50の数である。
【0016】
上記のようなポリエステル系樹脂組成物は、溶融混練や成形加工時の加熱によるイソシアネートガスの発生が少なく、かつ、従来よりも耐加水分解性に優れたポリエステル系樹脂が得られる。
【0017】
[ポリエステル系樹脂(A)]
本発明のポリエステル系樹脂組成物におけるポリエステル系樹脂(A)としては、エステル基を有する樹脂であれば、特に限定されるものではない。ポリエステル系樹脂(A)は、1種単独であっても、2種以上であってもよい。
ポリエステル系樹脂(A)は、例えば、二塩基酸もしくはその酸無水物又は二塩基酸エステルと、ジオールとの重縮合反応、あるいはまた、ヒドロキシカルボン酸もしくはその環状誘導体の重縮合反応又は開環重合によって、主鎖にエステル結合を有する樹脂として得られる。
【0018】
前記二塩基酸又はその酸無水物としては、例えば、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、コハク酸無水物、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラブロム無水フタル酸、テトラクロロ無水フタル酸、無水ヘット酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。
前記二塩基酸エステルとしては、例えば、テレフタル酸ジメチル、ナフタレンジカルボン酸ジメチル等が挙げられる。
【0019】
前記ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールA-2-ヒドロキシプロピルエーテル、シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。また、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール等のポリエーテルグリコール等も挙げられる。
【0020】
前記ヒドロキシカルボン酸又はその環状誘導体としては、例えば、乳酸、ヒドロキシ酪酸、ラクチド、β-プロピオラクトンやδ-バレロラクトン等のラクトン等が挙げられる。
【0021】
ポリエステル系樹脂(A)の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と略称する。)、ポリブチレンテレフタレート(以下、「PBT」と略称する。)、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、エチレンテレフタレート-イソフタレート共重合体、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酪酸等のポリヒドロキシアルカン酸等が挙げられる。これらの中でも、加工性やコスト等の観点から、PET、PBT、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸、ポリヒドロキシアルカン酸が好適に用いられ、より好ましくはPET、PBTであり、特に好ましくはPBTである。
【0022】
前記ポリエステル系樹脂組成物中のポリエステル系樹脂(A)の含有量は、ポリエステル系樹脂(A)、カルボジイミド化合物(B)及び有機化合物(C)の合計100質量部に対して、80.0~99.8質量部であることが好ましく、より好ましくは85.0~99.5質量部、さらに好ましくは90.0~99.0質量部である。
【0023】
[カルボジイミド化合物(B)]
本発明のポリエステル系樹脂組成物におけるカルボジイミド化合物(B)は、下記式(1)で表される化合物である。
このようなカルボジイミド化合物をポリエステル系樹脂(A)に添加混合することにより、該ポリエステル系樹脂組成物の溶融混練や成形加工時の加熱によるイソシアネートガスの発生を抑制することができる。また、カルボジイミド化合物(B)を、有機化合物(C)とともに、ポリエステル系樹脂(A)に添加混合することにより、ポリエステル系樹脂(A)に従来よりも優れた耐加水分解性を付与することができる。
【0024】
【化3】
【0025】
<R1及びR2
前記式(1)におけるR1及びR2は、イソシアネート基との反応性を有する官能基を1つ有する有機化合物(Y)から前記官能基を除いた残基である。有機化合物(Y)は、前記式(1)で表される化合物において、末端イソシアネート基を封止する末端封止剤である。前記R1及び前記R2は、互いに同一であっても、異なっていてもよい。
【0026】
有機化合物(Y)は、モノアルコール、モノアミン、モノカルボン酸及び酸無水物から選ばれる1種以上である。有機化合物(Y)は、これらのうちの1種単独であっても、2種以上であってもよい。
【0027】
モノアルコールの場合、前記官能基は水酸基であり、該官能基とイソシアネート基との反応により、ウレタン結合が形成される。モノアミンの場合、前記官能基はアミノ基であり、該官能基とイソシアネート基との反応により、ウレア結合が形成される。モノカルボン酸の場合、前記官能基はカルボキシ基であり、該官能基とイソシアネート基との反応により、アミド結合が形成される。酸無水物の場合は、前記官能基は酸無水物であり、該官能基とイソシアネート基との反応により、イミド結合が形成される。これらの各官能基とイソシアネート基との反応により形成される結合が、前記式(1)におけるX1及びX2に相当する。
【0028】
前記モノアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、オクタノール、ドデカノール等の脂肪族アルコール;シクロヘキサノール等の脂環式アルコール;(ポリ)エチレングリコールモノメチルエーテル、(ポリ)プロピレングリコールモノメチルエーテル等の(ポリ)エーテルモノオール等が挙げられる。
前記モノアミンとしては、例えば、ブチルアミン、シクロヘキシルアミン等の第一級アミン;ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の第二級アミンが挙げられる。
前記モノカルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、イソ吉草酸、ヘキサン酸、ラウリン酸、ミルスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸等が挙げられる。
前記酸無水物としては、無水フタル酸、無水酢酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水安息香酸等が挙げられる。
【0029】
有機化合物(Y)は、これらのうち、モノアルコールが、イソシアネート基との反応性が高く、カルボジイミド化合物(B)の合成時の前記末端封止剤として取り扱いやすく、また、カルボジイミド化合物(B)の分解によって生じるイソシアネートガスを効果的に抑制する観点から好ましい。その中でも、取り扱いやすさの観点から、イソプロパノール、オクタノール、シクロヘキサノールが好ましい。また、有機物質の揮発抑制の観点からは、ドデカノールが好ましい。
【0030】
<X1及びX2
前記式(1)におけるX1及びX2は、それぞれ独立に、有機化合物(Y)の前記官能基と、R3の由来化合物であるジイソシアネート化合物のイソシアネート基との反応により形成される結合を表している。前記X1及び前記X2は、上述したように、有機化合物(Y)に対応する結合であり、互いに同一であっても、異なっていてもよい。
【0031】
<R3
前記式(1)におけるR3は、ジイソシアネート化合物から2つのイソシアネート基を除いた2価の残基である。前記ジイソシアネート化合物は、前記イソシアネート基と直接結合するベンゼン系芳香環を有する芳香族系ジイソシアネートである。前記ジイソシアネート化合物は、1つ又は2つ以上のベンゼン系芳香環を有しており、前記2つのイソシアネート基は、それぞれ、同一の又は異なるベンゼン系芳香環に直接結合している。各イソシアネート基が結合しているベンゼン系芳香環は、該イソシアネート基の結合位置に対するオルト位の両方ともが、置換基を持つことはない。すなわち、各イソシアネート基が結合しているベンゼン系芳香環は、該イソシアネート基の結合位置に対するオルト位の一方のみに置換基を持つか、又は、両方ともに置換基を持たない。
前記式(1)における複数のR3は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0032】
3の由来化合物が上記のような芳香族系ジイソシアネートであり、カルボジイミド化合物(B)は、カルボジイミド基がベンゼン系芳香環に直接結合しているため、カルボキシ基との反応性が高く、従来の脂肪族系カルボジイミドに比べてカルボジイミド当量が大きくても、ポリエステル系樹脂に良好な耐加水分解性を付与し得ると考えられる。
【0033】
従来から多用されている芳香族系カルボジイミド化合物として、例えば、2,4,6-トリイソプロピルベンゼン-1,3-ジイルジイソシアネートの重合体(ポリ(1,3,5-トリイソプロピルフェニレン-2,4-カルボジイミド))であるスタバクゾール(登録商標)P100(ラインケミー社製)が知られている。この化合物は、カルボジイミド基と直接結合するベンゼン系芳香環の該カルボジイミド基に対する両オルト位に、いずれもイソプロピル基を有している。ポリエステル系樹脂に添加して溶融混練や成形加工する際の加熱により前記化合物が分解して生じた遊離イソシアネート基は、前記イソプロピル基の立体障害等の影響により、反応性が低いため、イソシアネートガスとして揮発しやすいものと考えられる。
【0034】
これに対して、本発明のカルボジイミド化合物(B)は、カルボジイミド基と直接結合するベンゼン系芳香環の該カルボジイミド基に対する両オルト位が、いずれにも置換基を持たない、又は、いずれか一方のみに置換基を持つ構造を有している。このため、本発明のポリエステル系樹脂組成物の溶融混練や成形加工時の加熱によりカルボジイミド化合物(B)が分解して遊離イソシアネート基が生じた場合であっても、反応性が高いため、ポリエステル系樹脂組成物中の前記有機化合物(C)と反応しやすく、イソシアネートガスの発生が抑制されるものと推測される。
【0035】
3の由来化合物であるジイソシアネート化合物としては、例えば、パラフェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(以下、「TDI」と略称する。)、トリジンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、「MDI」と略称する。)、ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。前記ジイソシアネート化合物は、これらのうちの1種単独であっても、2種以上を併用してもよい。これらのうち、前記ポリエステル系樹脂組成物の溶融混練や成形加工時の加熱によるイソシアネートガスの発生の抑制の観点から、MDIが好ましい。
【0036】
TDIには、2,4-TDI及び2,6-TDIの2種類の異性体が存在する。これらの異性体の種類は特に限定されるものではないが、通常、入手容易性等の観点から、2,4-TDIと2,6-TDIの混合物であり、前記混合物100モル%中の2,4-TDIが75~85モル%のものが好適に用いられる。
【0037】
MDIには、2,2’-MDI、2,4’-MDI及び4,4’-MDIの3種類の異性体が存在する。これらの異性体の種類は特に限定されるものではないが、通常、入手容易性等の観点から、2,4’-MDIと4,4’-MDIの混合物、4,4’-MDIの単体が好ましい。カルボジイミド化合物(B)の溶融粘度の上昇抑制等の観点から、2,4’-MDIと4,4’-MDIの混合物がより好ましい。
2,4’-MDIと4,4’-MDIの混合物は、前記混合物100モル%中の2,4’-MDIのモル含有量が30~70モル%であることが好ましく、より好ましくは40~65モル%、さらに好ましくは50~60モル%である。
【0038】
<R4
前記式(1)におけるR4は、ジオール化合物から2つの水酸基を除いた2価の残基である。前記式(1)における複数のR4は、互いに同一であっても、異なっていてもよい。
【0039】
前記ジオール化合物は、水酸基を2つ有する化合物であり、この2つの水酸基のそれぞれと、前記ジイソシアネート化合物のイソシアネート基との反応により、ウレタン結合を形成する。これにより、カルボジイミド化合物(B)は、カルボジイミドセグメントに対してウレタン結合が導入された構造を有するものとなる。
このウレタン結合の導入によって、カルボジイミド化合物(B)は、ウレタン結合が未導入の場合よりも、ポリエステル系樹脂(A)との相溶性が向上し、該ポリエステル系樹脂組成物の溶融混練や成形加工時の加熱の際に、ポリエステル系樹脂(A)の局所的な架橋反応が起きにくく、溶融粘度の上昇が抑制されると推測される。
【0040】
前記ジオール化合物は、低分子化合物であっても、高分子化合物であってもよい。ただし、カルボジイミド化合物(B)によるポリエステル系樹脂(A)への良好な耐加水分解性の付与のためには、カルボジイミド化合物(B)のカルボジイミド当量が大きすぎないことが好ましく、また、該ポリエステル系樹脂組成物の適度な溶液粘度及び溶融粘度等の観点から、前記ジオール化合物の分子量は、100~40000であることが好ましく、より好ましくは150~10000、さらに好ましくは200~2000である。
なお、前記ジオール化合物が高分子化合物である場合の分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより、数平均分子量Mn(標準物質ポリスチレン換算)として測定することができる。
【0041】
前記ジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,4-ジヒドロキシ-2-ブテン等の脂肪族ジオール;シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスヒドロキシエトキシベンゼン、キシレングリコール、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタル酸等の芳香族ジオール等が挙げられる。また、ポリアルキレングリコール等のポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリウレタンポリオール、ジオール変性シリコーン等の重合体も挙げられる。これらのうち、ポリエステル系樹脂(A)との相溶性、ポリエステル系樹脂(A)への良好な耐加水分解性の付与等の観点から、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリウレタンポリオールが好ましく、より好ましくはポリエステルポリオールである。
【0042】
<m>
前記式(1)におけるmは、0~50の数であり、好ましくは0よりも大きく20以下、より好ましくは1~10の数である。
前記mが0の場合、カルボジイミド化合物(B)は、前記ジオール化合物を由来化合物とするR4とR3とのウレタン結合を含むユニット(M)[NH-CO-O-R4-O-CO-NH-R3]を含まないものである。カルボジイミド化合物(B)は、前記ユニット(M)を含まない場合であっても、有機化合物(C)との併用により、ポリエステル系樹脂(A)に良好な耐加水分解性を付与することができる。
前記mが0よりも大きい場合、カルボジイミド化合物(B)は、前記ユニット(M)によって、ポリエステル系樹脂(A)との相溶性が向上する。
前記mが50よりも大きい場合、該ポリエステル系樹脂組成物の溶液粘度及び溶融粘度が大きくなりすぎるため好ましくない。
【0043】
<n>
前記式(1)におけるnは、1~50の数であり、好ましくは2~40、より好ましくは3~30の数である。
前記nは、R3の由来化合物であるジイソシアネート化合物の重合(脱炭酸縮合反応)により生成したカルボジイミド基を含むユニット(N)[N=C=N-R3]の数であり、カルボジイミド基の数を表しており、カルボジイミド基の平均重合度とも言う。
前記nが1未満の場合、カルボジイミド化合物(B)によるポリエステル系樹脂(A)への耐加水分解性の付与効果が得られない。
前記nが50よりも大きい場合、カルボジイミド化合物(B)は、ポリエステル系樹脂(A)との良好な相溶性が得られにくく、また、分子量が大きくなることにより、該ポリエステル系樹脂組成物の溶液粘度及び溶融粘度が大きくなりすぎるため好ましくない。
【0044】
なお、前記式(1)における前記ユニット(M)及び前記ユニット(N)は、それぞれ複数ある場合、各ユニットの共重合体において、ブロック共重合体であってもよく、また、ランダム共重合体であってもよい。すなわち、前記m及び前記nは、ブロック共重合体におけるブロック部分のみの各ユニット数に限定されるものではない。
【0045】
カルボジイミド化合物(B)は、ポリエステル系樹脂(A)への良好な耐加水分解性の付与、また、該ポリエステル系樹脂組成物の溶融混練及び成形加工時の加熱によるイソシアネートガスの発生の抑制等の観点から、カルボジイミド当量(カルボジイミド基1モル当たりの化学式量)が200~1500であることが好ましく、より好ましくは220~1000、さらに好ましくは250~700である。
【0046】
前記ポリエスル樹脂組成物中のカルボジイミド化合物(B)の含有量は、ポリエステル系樹脂(A)、カルボジイミド化合物(B)及び有機化合物(C)の合計100質量部に対して、0.1~10.0質量部であり、好ましくは0.2~7.0質量部、より好ましくは0.3~5.0質量部である。
前記含有量が0.1質量部未満の場合、ポリエステル系樹脂(A)に十分な耐加水分解性を付与することができない。一方、前記含有量が10.0質量部を超える場合、該ポリエステル系樹脂組成物の溶融混練及び成形加工時の加熱によるイソシアネートガスの発生を抑制することが困難であり、また、前記加熱により、溶液粘度及び溶融粘度が上昇しやすく、取り扱い性に劣る。
【0047】
<カルボジイミド化合物(B)の製造方法>
カルボジイミド化合物(B)の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いて製造することができる。
カルボジイミド化合物(B)が、前記式(1)におけるmが0、すなわち、前記ユニット(M)[NH-CO-O-R4-O-CO-NH-R3]を含まない構造である場合、例えば、下記(1)~(3)に示すような合成方法が挙げられる。これらの合成方法のうち、カルボジイミド化合物(B)の製造効率等の観点から、(2)の方法が好ましい。
(1)前記ジイソシアネート化合物を触媒の存在下でカルボジイミド化反応させて、イソシアネート末端ポリカルボジイミドを得た後、次いで、有機化合物(Y)(末端封止剤)を添加して末端封止反応を行う方法
(2)前記ジイソシアネート化合物及び有機化合物(Y)(末端封止剤)を混合して、触媒の存在下でカルボジイミド化反応及び末端封止反応を行う方法
(3)前記ジイソシアネート化合物及び有機化合物(Y)(末端封止剤)を反応させてイソシアネート基の末端封止反応を行った後、触媒の存在下でカルボジイミド化反応を行う方法
【0048】
また、カルボジイミド化合物(B)が、前記式(1)におけるmが0より大きい、すなわち、前記ユニット(M)[NH-CO-O-R4-O-CO-NH-R3]を有する構造である場合、例えば、下記(4)~(6)に示すような合成方法が挙げられる。これらの合成方法のうち、製造効率等の観点から、(5)の方法が好ましい。
(4)前記ジイソシアネート化合物を触媒の存在下でカルボジイミド化反応させて、イソシアネート末端ポリカルボジイミドを得た後、次いで、有機化合物(Y)(末端封止剤)及び前記ジオール化合物を添加して、ウレタン化反応及び末端封止反応を行う方法
(5)前記ジイソシアネート化合物、前記ジオール化合物及び有機化合物(Y)(末端封止剤)を混合して、触媒の存在下で、ウレタン化反応、カルボジイミド化反応及び末端封止反応を行う方法
(6)前記ジイソシアネート化合物の一部及び前記ジオール化合物をウレタン化反応させて、ウレタン結合導入イソシアネート末端ポリカルボジイミドを得た後、該ウレタン結合導入イソシアネート末端ポリカルボジイミド、前記ジイソシアネート化合物の残部及び有機化合物(Y)(末端封止剤)を混合して、触媒の存在下で、カルボジイミド化反応及び末端封止反応を行う方法
【0049】
前記カルボジイミド化反応は、例えば、前記ジイソシアネート化合物のカルボジイミド化触媒の存在下での脱炭酸縮合反応であることが好ましい。
前記カルボジイミド化触媒としては、例えば、1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシド、3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシド、1-エチル-2-ホスホレン-1-オキシド、3-メチル-2-ホスホレン-1-オキシド及びこれらの3-ホスホレン異性体等のホスホレンオキシド等が挙げられる。これらの中でも、反応性や入手容易性等の観点から、3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシドが好ましい。
前記カルボジイミド化触媒の使用量は、通常、前記ジイソシアネート化合物100質量部に対して0.01~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.05~5質量部、さらに好ましくは0.2~1質量部である。
【0050】
前記ジイソシアネート化合物の脱炭酸縮合反応は、溶媒中でも、無溶媒でも行うことができる。使用される溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、ジオキソラン等の脂環式エーテル;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、パークレン、トリクロロエタン、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素;シクロヘキサノン等が挙げられる。これらは、単独でもよく、2種以上を併用してもよい。
溶媒中で反応を行う場合、前記ジイソシアネート化合物の濃度は、5~55質量%とすることが好ましく、より好ましくは5~20質量%である。
【0051】
前記脱炭酸縮合反応の反応温度は、適度な反応促進やカルボジイミド基の重合度等に応じて適宜設定される。通常は、20~200℃であることが好ましく、より好ましくは30~170℃、さらに好ましくは40~150℃である。溶媒中で反応を行う場合は、40℃~溶媒の沸点の範囲内の温度であることが好ましい。
また、反応時間は、反応温度やカルボジイミド基の重合度等に応じて適宜設定される。通常、0.5~100時間であることが好ましく、より好ましくは1~70時間、さらに好ましくは2~30時間である。
また、窒素ガス、希ガス等の不活性ガス雰囲気下で反応を行うことが好ましい。
【0052】
前記ウレタン化反応及び前記末端封止反応の反応温度は、副反応を抑制し、反応を促進し得る範囲内で適宜設定される。通常、20~200℃であることが好ましく、より好ましくは30~170℃、さらに好ましくは40~150℃である。
また、反応時間は、反応温度や副反応を抑制し得る範囲内で適宜設定される。通常、0.1~20時間であることが好ましく、より好ましくは0.5~10時間、さらに好ましくは1~3時間である。
【0053】
[有機化合物(C)]
本発明のポリエステル系樹脂組成物における有機化合物(C)は、エポキシ基及び水酸基の少なくともいずれかを有する化合物である。
このような化合物を、カルボジイミド化合物(B)とともに、ポリエステル系樹脂(A)に添加混合することにより、ポリエステル系樹脂(A)に従来よりも優れた耐加水分解性を付与することができる。
【0054】
有機化合物(C)は、エポキシ基及び/又は水酸基を有する化合物であり、これらの中でも、エポキシ当量(エポキシ基1モル当たりの化学式量)が170~750であるエポキシ化合物、及び水酸基当量(水酸基1モル当たりの化学式量)が170~750であるヒドロキシ化合物が好ましい。これらのうち、1種単独であってもよく、2種以上を併用してもよい。
前記エポキシ当量が170以上であれば、該ポリエステル系樹脂組成物の溶融混練及び成形加工時の加熱による溶液粘度及び溶融粘度の上昇が抑制される。また、前記エポキシ当量が750以下であれば、ポリエステル系樹脂(A)に良好な耐加水分解性を付与する観点から好ましい。
前記エポキシ当量は、より好ましくは170~500、さらに好ましくは180~300である。
前記水酸基当量の値についても、上述したエポキシ当量の値についての説明と同様のことが言える。
なお、前記エポキシ当量は、JIS K 7236:2001の記載に従った方法により測定することができる。また、前記水酸基当量は、JIS K 1557-1:2007の記載に従った方法で測定された水酸基価から求めることができる。
【0055】
前記エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAD型、テトラブロモビスフェノールA型等のビスフェノール型エポキシ樹脂;クレゾールノボラック型、フェノールノボラック型、ナフトールノボラック型、ビスフェノールAノボラック型、臭素化フェノールノボラック型、アルキルフェノールノボラック型、ビスフェノールSノボラック型、アルコキシ基含有ノボラック型、ブロム化フェノールノボラック型等のノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。また、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂(ザイロック樹脂のエポキシ化物)、ビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂等の2官能型エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂等の脂環式エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン-フェノール付加反応型エポキシ樹脂、ビフェニル変性ノボラック型エポキシ樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価フェノール樹脂のエポキシ化物)、硫黄含有エポキシ樹脂、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、カテコールジグリシジルエーテル、トリグリシジルシソシアヌレート等が挙げられる。
【0056】
前記ヒドロキシ化合物としては、例えば、ラウリルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール等の炭素原子数12以上の長鎖アルキルアルコールが挙げられる。また、エポキシ基及び水酸基を有する化合物として、例えば、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、ビスフェノールA/ビスフェノールF型共重合型フェノキシ樹脂、リン変性フェノキシ樹脂等のフェノキシ樹脂が挙げられる。
【0057】
有機化合物(C)は、これらの中でも、該ポリエステル系樹脂組成物中に添加混合する際の取り扱いやすさ等の観点から、25℃、1気圧、すなわち、常温常圧下で固体のものが好ましい。
【0058】
前記ポリエステル系樹脂組成物中の有機化合物(C)の含有量は、カルボジイミド化合物(B)に対する有機化合物(C)の質量比が0.1~10.0であり、好ましくは0.2~9.0、より好ましくは0.3~8.0である。
前記質量比が0.1未満である場合、得られたポリエステル系樹脂の耐加水分解性が経時により低下しやすい。一方、前記質量比が10.0を超える場合、ポリエステル系樹脂(A)の物性が損なわれ、耐加水分解性も十分に付与されない。
【0059】
[ポリエステル系樹脂組成物の製造方法]
前記ポリエステル系樹脂組成物は、ポリエステル系樹脂(A)と、カルボジイミド化合物(B)と、有機化合物(C)とを溶融混練することにより得ることができる。このとき、ポリエステル系樹脂(A)とカルボジイミド化合物(B)とを予め混合した混合物を溶融混練してもよく、あるいはまた、溶融させたポリエステル系樹脂(A)にカルボジイミド化合物(B)を添加して混練してもよい。また、これらのいずれかの方法で、一旦、マスターバッチ等の樹脂コンパウンドを調製したものとポリエステル系樹脂(A)とを溶融混練してもよい。
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、カルボジイミド化合物(B)及び有機化合物(C)が添加されることによって、上記のような溶融混練時においても、イソシアネートガスが発生しにくく、作業環境を悪化させないようにすることができる。また、溶融粘度の上昇が抑制されるため、溶融混練の作業効率を高めることができ、製造効率の点でも優れている。
【0060】
なお、ポリエステル系樹脂(A)には、カルボジイミド化合物(B)及び有機化合物(C)以外に、例えば、酸化防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、着色剤等のポリエステル系樹脂に適用される公知の添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲内で添加してもよい。すなわち、前記ポリエステル系樹脂組成物は、その用途において求められる性能等の観点から、必要に応じて、上記のような添加剤を含んでいてもよい。
この場合、前記ポリエステル系樹脂組成物中のポリエステル系樹脂(A)、カルボジイミド化合物(B)及び有機化合物(C)の合計含有量は、90質量%以上であることが好ましく、より好ましくは92質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。
【0061】
溶融混練手段は、特に限定されるものではなく、公知の混練機を用いて行うことができる。前記混練機としては、例えば、単軸や二軸の押出機、ロール混合機等が挙げられる。
溶融混練時の温度は、ポリエステル系樹脂(A)の種類に応じて適宜調整されるが、通常、150~350℃程度である。
【0062】
前記ポリエステル系樹脂組成物を用いたポリエステル系樹脂製品の製造は、射出成形法やフィルム成形法、ブロー成形法、発泡成形法等の公知の成形方法を用いて行うことができる。ポリエステル系樹脂(A)の溶融温度以上で、フィルム状やシート状、ブロック状等の種々の形態に成形することができる。
本発明のポリエステル系樹脂組成物を用いて、このようにして成形されたポリエステル系樹脂製品は、耐加水分解性に優れているものである。
【実施例
【0063】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0064】
[カルボジイミド化合物(B)の合成]
下記合成例で用いた各原料の詳細を以下に示す。
<ジイソシアネート化合物>
・2,4’-MDI(54モル%)と4,4’-MDI(46モル%)の混合物:「ミリオネートNM」、東ソー株式会社製
・2,4-TDI(80モル%)と2,6-TDI(20モル%)の混合物:「コスモネート(登録商標)T-80」、三井化学SKCポリウレタン株式会社製
・4,4’-MDI:「ミリオネートMT」、東ソー株式会社製
・HMDI:ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、「デスモジュール(登録商標)W」、住化コベストロウレタン株式会社製
<有機化合物(Y)(末端封止剤)>
・IPA:イソプロパノール、関東化学株式会社製
・OA:2-エチルへキサノール(オクタノール)、三菱ケミカル株式会社製
<ジオール化合物>
・ポリエステルポリオール:「マキシモール(登録商標)RFK-505」、川崎化成工業株式会社製
【0065】
(合成例1)
2,4’-MDI(54モル%)と4,4’-MDI(46モル%)の混合物100質量部、IPA6.9質量部、及びカルボジイミド化触媒として3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシド0.5質量部を、還流管及び撹拌機付き反応容器に入れ、窒素気流下、110℃で2時間撹拌混合した。
赤外線吸収(IR)スペクトル測定(測定装置:フーリエ変換赤外分光光度計「FTIR-8200PC」、株式会社島津製作所製;以下、同様。)にて、波長2270cm-1前後のイソシアネート基の吸収ピークが消失したことを確認し、カルボジイミド化合物(B1)(m=0、n=6)を得た。
【0066】
(合成例2)
2,4’-MDI(54モル%)と4,4’-MDI(46モル%)の混合物100質量部、IPA6.9質量部、及びポリエステルポリオール25.3質量部を、還流管及び撹拌機付き反応容器に入れ、窒素気流下、60℃で1時間撹拌混合した。
次いで、カルボジイミド化触媒として3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシド0.5質量部を添加し、100℃で3時間撹拌混合した。
IRスペクトル測定にて、波長2270cm-1前後のイソシアネート基の吸収ピークが消失したことを確認し、カルボジイミド化合物(B2)(m=1、n=5)を得た。
【0067】
(合成例3及び4)
合成例2において、各原料組成を下記表1に示すように変更し、それ以外は合成例2と同様にして、カルボジイミド化合物(B3)及び(B4)を得た。
【0068】
(合成例5)
合成例1において、ジイソシアネート化合物をHMDIに変更して、下記表1に示す原料組成とし、それ以外は合成例1と同様にして、カルボジイミド化合物(B5)(脂肪族系カルボジイミド)を得た。
【0069】
【表1】
【0070】
[ポリエステル系樹脂組成物の製造]
下記実施例及び比較例で用いた各原料の詳細を以下に示す。なお、下記の有機化合物(C)のエポキシ当量及び水酸基当量は、計算値又はカタログ値である。
<ポリエステル系樹脂(A)>
(A1)PBT樹脂:「ノバデュラン(登録商標)5010L」、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製
(A2)PET樹脂:「TRN-8550FF」、帝人化成株式会社製
<カルボジイミド化合物(B)>
(B1)~(B5):合成例1~5において製造したもの
(B6)ポリ(1,3,5-トリイソプロピルフェニレン-2,4-カルボジイミド):「スタバクゾール(登録商標)P100」、ラインケミー社製
<有機化合物(C)>
(C1)クレゾールノボラック型エポキシ樹脂:「エピクロン(登録商標)N-695」、DIC株式会社製、エポキシ当量215
(C2)ビスフェノールA型エポキシ樹脂:「エピクロン(登録商標)860」、DIC株式会社製、エポキシ当量240
(C3)ステアリルアルコール:「カルコール(登録商標)8098」、花王株式会社製、水酸基当量270
(C4)フェノキシ樹脂:「YP-50S」、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、水酸基当量284
【0071】
(実施例1-1)
ラボミキサー(「セグメントミキサKF70V」、株式会社東洋精機製作所製、ラボプラストミル(登録商標);以下、同様。)を用いて、PBT樹脂98.5質量部を250℃で溶融させた後、カルボジイミド化合物(B1)1.0質量部、及び有機化合物(C1)0.5質量部を加えて3分間混練して、ポリエステル系樹脂組成物(PBT樹脂組成物)を製造した。
【0072】
(実施例1-2~1-26、比較例1-2~1-13)
実施例1-1において、下記表2に記載のカルボジイミド化合物(B)及び有機化合物(C)にそれぞれ変更し、それ以外は実施例1-1と同様にして、各ポリエステル系樹脂組成物(PBT樹脂組成物)を製造した。
【0073】
(比較例1-1)
カルボジイミド化合物(B)及び有機化合物(C)を未添加のPBT樹脂のみのブランクを比較例1-1とした。
【0074】
(実施例2-1)
ラボミキサーを用いて、PET樹脂98.5質量部を280℃で溶融させた後、カルボジイミド化合物(B1)1.0質量部、及び有機化合物(C1)0.5質量部を加えて3分間混練して、ポリエステル系樹脂組成物(PET樹脂組成物)を製造した。
【0075】
(実施例2-2~2-26、比較例2-2~2-13)
実施例2-1において、下記表3に記載のカルボジイミド化合物(B)及び有機化合物(C)にそれぞれ変更し、それ以外は実施例2-1と同様にして、各ポリエステル系樹脂組成物(PET樹脂組成物)を製造した。
【0076】
(比較例2-1)
カルボジイミド化合物(B)及び有機化合物(C)を未添加のPET樹脂のみのブランクを比較例2-1とした。
【0077】
[測定評価]
上記実施例及び比較例で得られた各ポリエステル系樹脂組成物について、以下に示す項目の測定評価を行った。これらの測定評価結果を、下記表2及び3にまとめて示す。
【0078】
<イソシアネートガス発生>
溶融混練したポリエステル系樹脂組成物を300℃で20分間加熱し、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)(「6890GCシステム」、アジレント・テクノロジー株式会社製)にて発生するイソシアネートガスの定量分析を行った。
イソシアネートガスの検出量(発生量)は少ないほど好ましい。下記表2及び3に示す評価結果は、以下の評価基準による。
〔評価基準〕
A:イソシアネートガスの検出量が500ppm未満
B:イソシアネートガスの検出量が500ppm以上1000ppm未満
C:イソシアネートガスの検出量が1000ppm以上
【0079】
<耐加水分解性>
(1)PBT樹脂組成物
溶融混練したPBT樹脂組成物を250℃で平板プレスして、厚み約300μmのシート状に成形した後、幅10mm、長さ70mmの短冊シートを作製した。
この短冊シートの引張強度を、引張試験機(「3365」、インストロン社製;温度20±5℃(室温);以下、同様。)にて測定した。
また、前記短冊シートを、高度加速寿命試験装置(「EHS-210M」、エスペック株式会社製、恒温恒湿器;温度121℃、相対湿度100%)にセットして湿熱処理を行った。湿熱処理開始から72時間経過後、120時間経過後及び168時間経過後の各短冊シートの引張強度を引張試験機にて測定した。
湿熱処理の前、72時間経過後、120時間経過後及び168時間経過後のそれぞれについて、短冊シート5枚ずつの引張強度の測定値の平均値を算出した。
湿熱処理前の引張強度の平均値(基準値)に対する72時間経過後の引張強度の平均値の比率を、72時間経過後の強度保持率として算出した。120時間経過後及び168時間経過後についても同様にして、各強度保持率を求めた。
【0080】
前記強度保持率は、ポリエステル系樹脂の耐加水分解性の評価指標となるものであり、値が大きいほど、湿熱処理後でも引張強度が保持されていることを意味し、より長い時間経過後での値が大きければ、ポリエステル系樹脂の耐加水分解性が、より優れていると言える。
【0081】
(2)PET樹脂組成物
溶融混練したPET樹脂組成物を280℃で平板プレスして、厚み約300μmのシート状に成形した後、幅10mm、長さ70mmの短冊シートを作製した。
上記(1)のPBT樹脂組成物についての耐加水分解性の測定評価において、各短冊シートの引張強度の測定時期を、湿熱処理開始から40時間経過後、72時間経過後及び96時間経過後に変更し、それ以外は、同様にして、各強度保持率を求めた。
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
表2及び3に示した測定評価結果から分かるように、本発明のポリエステル系樹脂組成物は、カルボジイミド化合物(B)及び有機化合物(C)の併用添加により、溶融混練や成形加工時の加熱によるイソシアネートガスの発生が抑制され、かつ、耐加水分解性に優れたポリエステル系樹脂を得られることが認められた。特に、PBT樹脂における耐加水分解性の向上効果に優れていることが認められた。