(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】接合方法及び構造体
(51)【国際特許分類】
B23K 20/00 20060101AFI20230712BHJP
H01L 21/02 20060101ALI20230712BHJP
C23C 16/18 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
B23K20/00 310L
H01L21/02 B
C23C16/18
(21)【出願番号】P 2019098223
(22)【出願日】2019-05-27
【審査請求日】2022-03-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年9月5日に第79回応用物理学会秋季学術講演会予稿集ウェブサイトに掲載(https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2018a/subject/20p-223-5/advanced) 平成30年9月20日に第79回応用物理学会秋季学術講演会にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】312016056
【氏名又は名称】ハリマ化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001793
【氏名又は名称】弁理士法人パテントボックス
(72)【発明者】
【氏名】水野 潤
(72)【発明者】
【氏名】桑江 博之
(72)【発明者】
【氏名】山田 紘右
(72)【発明者】
【氏名】相原 正巳
(72)【発明者】
【氏名】小川 孝之
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0003652(US,A1)
【文献】特開2018-085535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00
H01L 21/02
C23C 16/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平滑面を有する2つの被接合材の接合面の少なくとも一方に、1.0Pa以上の真空度で原子層堆積法を用いて、前記被接合材の母材の体積拡散係数よりも大きい体積拡散係数を有する貴金属の薄膜を形成する、第1工程と、
前記薄膜を介して前記2つの被接合材の接合面同士が接続されるように、前記2つの被接合材を重ね合わせて積層体を形成する、第2工程と、
前記積層体を所定の温度に保持して前記2つの被接合材を接合する、第3工程と、
を含
み、
前記第1工程において、前記接合面の少なくとも一方に形成される前記薄膜は、原子層堆積法を用いてマスクレスで形成される、接合方法。
【請求項2】
前記第1工程における、前記薄膜の膜厚は100nm以下である、請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の接合方法で接合された、前記2つの被接合材を含む構造体。
【請求項4】
請求項1
又は2に記載の接合方法で使用される接合材料であって、
前記被接合材の接合面に前記薄膜が形成された、接合材料。
【請求項5】
請求項1
又は2に記載の接合方法で接合された、前記2つの被接合材を含む、構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子層堆積法による金属薄膜を用いる接合方法、並びに、該接合方法を用いた構造体及び接合体材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高い集積化が進む半導体デバイス(半導体装置)の実装技術として、低温かつ効率のよい接合技術が重要視されている。しかしながら、一般的に接合に用いられる金属は、自然酸化被膜やその拡散係数の低さから、接合の際に高温の加熱プロセスや加圧による変形等が要求される。これらの要求事項は高エネルギーを必要とする上、接合界面への脆い化合物層の形成や熱ひずみ、残留応力が誘起される等の半導体デバイスの信頼性の悪化を招く原因となる。また、熱や圧力に弱い半導体素子やその周辺回路への損傷が懸念される基板の接合には適用できず、使われる材料の選択肢に限界が生じる。このため、半導体素子やその周辺回路に物理的なダメージを与えず、かつ、高いエネルギーを必要としない接合技術が要望されている。
【0003】
一方、近年のパワー半導体分野での技術進展に伴い、信頼性の高い半導体デバイスを、より高温で使用可能であるといった、省エネ効果の高いパワーデバイスの実現が期待されている。高温領域に対応可能な金属や半導体等の接続部には鉛はんだが広く用いられてきたが、環境規制等の観点から、鉛を含有しない、かつ、安価な接合技術が求められている。
【0004】
被接合材同士を常温、無加圧又は低加圧下で接合する技術としては、被接合材の接合面に希ガス等のイオンビームを照射して接合面上の酸化物や有機物等を除去し、被接合材表面の原子が化学的結合を形成し易い活性な状態にした後、接合面相互を重ね合わせることで、常温での接合を可能とする常温接合法(例えば、特許文献1参照)が開示されている。他にも、被接合材の接合面に金(Au)等の安定した貴金属又は錫(Sn)等の拡散係数が大きい材料を用いて微結晶連続薄膜を形成し、この薄膜を介して2つの被接合材を重ね合わせて接合界面及び結晶粒界において原子拡散を生じさせることにより、低温で被接合材間を接合する原子拡散接合法(例えば、特許文献2参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-092702号公報
【文献】特開2010-046696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載される接合方法では、被接合材の接合面相互を重ね合わせるプロセスに先立ち、被接合材の接合面やその周辺部に対して、物理的なダメージを与え得るプラズマやスパッタリング等により表面処理を施す必要がある。また、当該表面処理には1×10-4~1×10-8Pa程度の高真空環境を要するため、プロセス時間が長期化する、製造装置が大型化する等の問題点を有する。
【0007】
また、被接合材の接合面に形成される微結晶連続薄膜は厚膜であることが多いため、被接合材の母材中への異種金属や不純物の混入量が増加し、得られる半導体デバイスの電気的・機械的特性が劣化するという問題点を有していた。さらに、特定エリアへの成膜にはマスクが必須である。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑み提案されたものであり、その目的として、一つの側面では、被接合材へのダメージが少なく、高度の減圧工程を必要とせず、マスクレスでエリア選択的な適用が可能で、生産性の高い設備による簡易操作の低温接合により、高温領域の接続部においても高い接合強度及び接続信頼性を実現可能な接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る接合方法は、
平滑面を有する2つの被接合材の接合面の少なくとも一方に、1.0Pa以上の真空度で原子層堆積法を用いて、前記被接合材の母材の体積拡散係数よりも大きい体積拡散係数を有する貴金属の薄膜を形成する、第1工程と、
前記薄膜を介して前記2つの被接合材の接合面同士が接続されるように、前記2つの被接合材を重ね合わせて積層体を形成する、第2工程と、
前記積層体を所定の温度に保持して前記2つの被接合材を接合する、第3工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、一つの側面では、被接合材へのダメージが少なく、高度の減圧工程を必要とせず、マスクレスでエリア選択的な適用が可能で、生産性の高い設備による簡易操作の低温接合により、高温領域の接続部においても高い接合強度及び接続信頼性を実現可能な接合方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】PtのALD膜を成膜処理した後のCu基材表面及びSi基材表面のSEM(走査型電子顕微鏡)画像並びにEDX(エネルギー分散型X線分析)スペクトラムである。
【
図2】白金(Pt)の原子層堆積(ALD:atomic layer deposition)成膜処理後の、基材の接合箇所断面の概略図である。
【
図3】PtのALD膜(中間層)が無い場合、あるいは、片面又は両面にALD膜を形成した場合における、ダイシェア強度である。
【
図4】AuのALD膜(中間層)が無い場合、あるいは、片面又は両面にALD膜を形成した場合における、ダイシェア強度である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施形態に係る接合方法及び該接合方法により接合された構造体について、詳細に説明する。
【0013】
(接合方法)
先ず、本実施形態に係る接合方法について詳細に説明する。本実施形態に係る接合方法は、平滑面を有する2つの被接合材(金属又は非金属)の接合面の少なくとも一方に、1.0Pa以上の真空度で原子層堆積法(ALD法)を用いて、前記被接合材の母材の体積拡散係数よりも大きい体積拡散係数を有する貴金属の薄膜を形成する、第1工程と、
前記薄膜を介して前記2つの被接合材の接合面同士が接続されるように、前記2つの被接合材を重ね合わせて積層体を形成する、第2工程と、
前記積層体を所定の温度に保持して前記2つの被接合材を接合する、第3工程と、
を含む。
【0014】
(ALD法)
本実施形態に係る接合方法の第1工程では、1.0Pa以上の比較的低真空度でのALD法を用いる。なお、本明細書において、ALD法は、他のALDベースの技術と同等又は密接に関連する技術とを含む。具体的には、分子層堆積(Molecular Layer Deposition:MLD)技術等が挙げられる。
【0015】
ALD法による膜成長メカニズムについては、当業者には公知であるが、ALD法は、少なくとも1つの被接合材の接合面に、少なくとも2つの反応性前駆体種を順次導入し、逐次反応によって膜を形成させる化学的堆積法である。少なくとも1つの被接合材の接合面を、反応容器内で時間的に分断された前駆体パルスに暴露することで、自己飽和表面反応により、膜材料を上記被接合材の接合面に堆積させることができる。前記少なくとも2つの反応性前駆種は、金属前駆体と、対応する反応ガスとから成る。
【0016】
ALD法による成膜プロセスで用いる真空度は、1.0Pa以上と比較的低真空であり、物理的成膜法であるスパッタリング等で一般的に用いる1×10-3Pa以下までの高真空の排気を必要としない。また、本実施形態に係るALD法は、プラズマやスパッタリング等の物理的処理を必要としないため、被接合材の接合面やその周辺部に対して物理的なダメージを与える心配がない。さらに、ALD法は、膜厚制御等の成膜制御が容易であり、ピンホールのない緻密な膜を形成できるという特長を有する。
【0017】
ALD法の堆積サイクルは、連続する4つのステップ、即ち、パルスA、パージA、パルスB及びパージBで構成される。パルスAは、第1の前駆体蒸気を投入するステップであり、パルスBは第2の前駆体蒸気を投入するステップである。パージA及びパージBは、ガス状反応副生成物と残留反応物分子とを反応空間から除去する工程であり、一般的に不活性ガス及び真空ポンプが使用される。
【0018】
ALD法の1つの堆積シーケンスは、少なくとも1つの堆積サイクルを含み、所望の厚さの薄膜(被膜)が生成されるまで、堆積サイクルが繰り返される。
【0019】
次に、ALD法で使用される各々の成分について、説明する。
【0020】
<金属前駆体>
本実施形態に係る金属前駆体は、被接合材の母材の体積拡散係数よりも大きい体積拡散係数を有する貴金属を含む金属前駆体を使用する。金属前駆体の具体例としては、
トリメチル(メチルシクロペンタジエニル)白金(IV)錯体、シクロオクタジエンジメチル白金(II)錯体、トリメチルホスフィントリメチル金(III)錯体、ジメチル金(III)ジエチルジチオカルバメート錯体、(ビス(トリメチルシリル)アミド)(トリエチルホスフィン)金(I)錯体、Atomic Layer Deposition of Noble Metals and Their Oxides(Chem. Mater. 2014, 26, pp.786-801)に記載されている貴金属の前駆体、Plasma-Assisted Atomic Layer Deposition: Basics, Opportunities, and Challenges(J. Vac. Sci. Technol. A, Vol. 29, No. 5, Sep/Oct 2011, pp.050801-1-050801-26)に記載されている貴金属の前駆体などが挙げられる。
【0021】
<反応ガス>
本実施形態に係る反応ガスは、上述の金属前駆体の種類に応じて公知の反応ガスの中から適宜選択することができる。反応ガスの具体例としては、酸素、酸素イオン、水素等が挙げられる。なお、貴金属のALD膜を形成する場合、オゾン等の酸化性ガスを用いても、金属前駆体となる有機金属化合物に対しては還元剤となるため、水素等の還元性ガスに加え、酸素やオゾン等の反応ガスも使用可能である。
【0022】
(接合工程)
次に、本実施形態に係る接合方法の各々の工程について、詳細に説明する。前述したように、本実施形態に係る接合方法は、平滑面を有する2つの被接合材(金属又は非金属)の接合面の少なくとも一方に、1.0Pa以上の真空度で原子層堆積法(ALD法)を用いて、前記被接合材の母材の体積拡散係数よりも大きい体積拡散係数を有する貴金属の薄膜を形成する、第1工程と、前記薄膜を介して前記2つの被接合材の接合面同士が接続されるように、前記2つの被接合材を重ね合わせて積層体を形成する、第2工程と、前記積層体を所定の温度に保持して前記2つの被接合材を接合する、第3工程と、を含む。
【0023】
以下、各々の工程について、詳細に説明する。
【0024】
<第1工程>
本実施形態に係る接合方法の第1工程は、平滑面を有する2つの被接合材(金属又は非金属)の接合面の少なくとも一方に、1.0Pa以上の真空度で原子層堆積法(ALD法)を用いて、前記被接合材の母材の体積拡散係数よりも大きい体積拡散係数を有する貴金属の薄膜を形成する工程である。なお、以後、本実施形態のALD法で形成される薄膜については、ALD膜と呼ぶ。
【0025】
第1工程でALD膜を形成する際の真空度は1Pa以上、具体例としては通常、1~100Paの低真空であり、50Pa以下であることが好ましく、30Pa以下であることがより好ましい。
【0026】
第1工程ALD膜を形成する際の温度は、金属の前駆体の気化温度や、反応ガスとの反応速度に基づいて、適宜選択することができるが、半導体デバイスにおける被接合材やその周辺材料においては通常室温~1000℃の範囲内で行う。
【0027】
第1工程で形成されるALD膜の膜厚は、100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、20nm以下であることがさらに好ましく、5nm以下であることが最も好ましい。ALD膜の膜厚を上記範囲とすることで、接合後、2つの被接合材の母材への不純物混入量を著しく減らし、疑似的な直接接合を実現できる。ALD膜の膜厚を上記範囲とすることで、低温条件(例えば、室温~数百度程度)での被接合材同士の接合において、良好な接合性を担保することができる。また、ALD膜の膜厚が100nmを超える場合、プロセス時間が長くなる問題点を有するため、100nm以下とすることが好ましい。なお、本実施形態において、ALD膜の膜厚は、例えば、走査電子顕微鏡画像(SEM像)に基づいて実測される。
【0028】
本実施形態において、第1工程で形成されるALD膜は、前記極薄膜を形成する金属種の選択や成膜時間等の制御によって、上記薄膜形成時にエリア選択性を持たせることが可能である。例えば銅(Cu)バンプ付きシリコン(Si)基板に対し、ALD法を用いて30Paの真空下、270℃で白金(Pt)を90分間(100サイクル)のプロセスで成膜した場合、PtはCu表面に優先的に堆積する。このエリア選択性を利用することにより、半導体デバイス等を構成する複数種の材料の中から、マスクを用いずに特定材料のエリア内のみをALD膜で被覆することができ、接合プロセスの簡略化が可能となる。
【0029】
本実施形態において、2つの被接合材料(被接合材1、被接合材2と呼ぶ)の材料は、特に限定されず、各種の金属材料、半導体材料、セラミック材料又は樹脂材料を用いることができる。被接合材1の具体例としては、シリコン基板等の半導体基板;銅基板等の金属基板、リードフレーム、金属板貼付セラミックス基板(例えばDirect Bonding Copper:DBC基板)、Light Emitting Diode:LEDパッケージ等の半導体素子搭載用基板、銅リボン、金属ブロック、端子等の給電用部材、放熱板、水冷板等が挙げられる。被接合材2の具体例としては、ダイオード、整流器、サイリスタ、MOSゲートドライバ、パワースイッチ、パワーMOSFET、Insulated Gate Bipolor Transistor:IGBT、ショットキーダイオード、ファーストリカバリダイオード等からなるパワーモジュール、発信機、増幅器、センサー、アナログ集積回路、半導体レーザー、LEDモジュール等が挙げられる。
【0030】
また、被接合材1及び被接合材2は、本実施形態に係るALD膜と接する面に金属を含んでいてもよい。金属としては、銅、ニッケル、銀、金、パラジウム、白金、鉛、錫、コバルト、マンガン、アルミニウム、ベリリウム、チタン、クロム、鉄、モリブデン及びこれらの合金等が挙げられる。
【0031】
<第2工程>
第2工程は、第1工程で形成されたALD膜を介して2つの被接合材の接合面同士が接続されるように、2つの被接合材を重ね合わせて積層体を形成する工程である。
【0032】
積層方法としては、特に限定されず、チップマウンタやフリップチップボンダ等を用いた方法や、各種の冶具を用いて手作業で配置する方法などが挙げられる。
【0033】
<第3工程>
第3工程は、第2工程で得られた積層体を所定の温度に保持して前記2つの被接合材を接合する工程である。より具体的には、第2工程で得られた積層体を、チャンバー内に移した後、大気圧で又は大気圧以下に減圧して、所定の温度に保持させることで、ALD膜の接合界面での原子拡散を生じさせて、前記2つの被接合材を接合させる。
【0034】
第3工程における保持温度は、被接合材やその周辺部の材料等に応じて適宜設定することができ、通常、室温~1100℃であり、30~1000℃であることがより好ましく、35~900℃であることがさらに好ましい。
【0035】
また、保持時間は、分散媒の揮発及び金属粒子の融着を十分に進行させることができれば、特に限定されないが、歩留まりや工程効率等の観点からは60分以下が好ましい。
【0036】
なお、第3工程においては、接合を補助する目的で、2つの被接合材の接合界面に垂直な方向に圧力を印加してもよい。
【0037】
(実施例1)
次に,本発明の接合方法について、実施例を参照して以下に説明する。
【0038】
12mm×12mmのSi基板上にマイクロケム社製樹脂PMGIを1μmの厚みでスピンコートし、続けて東京応化工業製感光性樹脂TSMR-V90を1μmの厚みでスピンコートした。
【0039】
その後、紫外線光により局所的に露光し、続けて現像することで直径8μmの貫通孔パターンを形成した。続いて、作製した樹脂パターンの上から、スパッタリングにより膜厚30nmのチタン膜および、膜厚500nmの銅膜を連続して成膜した。終わりに、マイクロケム社製溶解液Remover PGを用いて樹脂を除去することにより、銅バンプパターンを形成して被接合材1とした。
【0040】
また、15mm×15mmのシリコン基板上に直接、膜厚30nmのチタン膜及び膜厚300nmの銅膜を連続して成膜して被接合材基板である被接合材2とした。
【0041】
その後、ANRIC TECHNOLOGIES社原子層堆積装置AT-400を用いて、Oakwood Chemical社製トリメチル(メチルシクロペンタジエニル)白金(IV)錯体を金属前駆体とし、酸素を還元剤ガスとして、30Paの真空度と270℃の加熱条件下で、前記被接合材1の接合面のみと、前記被接合材1及び2の両接合面との2つのパターンで、100サイクルのALD成膜プロセス処理を行った。
【0042】
図1に、PtのALD膜を成膜処理した後のCu基材表面及びSi基材表面のSEM(走査型電子顕微鏡)画像並びにEDX(エネルギー分散型X線分析)スペクトラムを示す。
【0043】
図1に示されるように、Cuの表面には、5~20Åの膜厚で白金(Pt)が成膜されている一方で、Si基板の上にはPtの存在が認められなかった。即ち、被接合材の接合部となる銅上にのみ、マスクレスで選択的に、PtのALD膜を成膜し得ることを確認した。
【0044】
次に、2つの被接合材の接合面同士を対向させ重ね合わせて積層体とし、この積層体をチャンバー内に移した後、チャンバー内を大気圧以下に減圧し、積層体の接合界面に垂直な方向から100MPaの圧力をかけながら、300℃で15分間保持し、接合した。
【0045】
また、比較例として、PtのALD成膜処理を行わなかった以外は実施例と同様の方法により、比較例の接合も実施した。
図2に、実施例及び比較例における、PtのALD成膜処理後の、基材の接合箇所断面の概略図を示す。
図2の左図が比較例の接合箇所断面の概略図であり、
図2の中図及び右図が実施例の接合箇所断面の概略図である。
【0046】
(実施例2)
PtのALD膜の代わりに金(Au)のALD膜を形成した以外は実施例1と同様の方法により、被接合材1と被接合材2とを接合した。なお、AuのALD膜は、前駆体としてトリメチルホスフィントリメチル金(III)錯体を、反応ガスとしてオゾン、水蒸気を用いた。
【0047】
(試験結果)
図3に、PtのALD膜が無い場合、あるいは、片面又は両面にALD膜を形成した場合における、ダイシェア強度を示す。
【0048】
ALD膜を成膜しなかった場合、ダイシェア強度は1.9MPaであった。これに対して、被接合材1の接合面にのみPtのALD膜を成膜した場合のダイシェア強度は7.7MPaへ向上した。さらに、被接合材1と被接合材2との両方の接合面にPtのALD膜を成膜した場合のダイシェア強度は9.5MPaであった。
【0049】
図4に、AuのALD膜が無い場合、あるいは、両面にALD膜を形成した場合における、ダイシェア強度を示す。
【0050】
ALD膜を成膜しなかった場合、ダイシェア強度は1.85MPaであった。これに対して、被接合材1と被接合材2との両方の接合面にPtのALD膜を成膜した場合のダイシェア強度は3.20MPaであった。
【0051】
実施例のように、貴金属のALD膜を設けることで、被接合材の酸化抑制に加え、母材組成の変化を極力抑えながら、Cu-Cu間の原子拡散が促進され、疑似的な低温直接接合が達成されたと考えられる。一方、比較例のように貴金属のALD膜を設けなかった場合、2つの被接合材の各々の表面に形成された前記酸化膜が接合界面で重なり、金属の原子拡散が大きく阻害されたため、ダイシェア強度が低くなったと思われる。