(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】表面実装型水晶振動子付き回路基板
(51)【国際特許分類】
H03H 9/10 20060101AFI20230712BHJP
H01L 23/06 20060101ALI20230712BHJP
H01L 23/14 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
H03H9/10
H01L23/06 B
H01L23/14 Z
(21)【出願番号】P 2019159084
(22)【出願日】2019-08-30
【審査請求日】2022-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000166948
【氏名又は名称】シチズンファインデバイス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 剛志
(72)【発明者】
【氏名】赤羽根 剛
【審査官】吉村 伊佐雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-063329(JP,A)
【文献】特開2010-147854(JP,A)
【文献】特開2015-128267(JP,A)
【文献】特開2014-200048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/54
23/00-23/04
23/06-23/26
H03H3/007-3/06
9/00-9/135
9/15-9/24
9/30-9/40
9/46-9/62
9/66
9/70
9/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路基板に形成された実装用ランドパターンに、導電性接着剤Aによって表面実装型水晶振動子の端子電極を接合した表面実装型水晶振動子付き回路基板であって、
前記表面実装型水晶振動子は、水晶振動片と、前記水晶振動片を接合するマウント電極を備える支持部材と、蓋部材とを備え、
前記マウント電極に導電性接着剤Bによって前記水晶振動片が接合され、更に前記蓋部材は、前記支持部材と接合されており、
前記導電性接着剤Aのヤング率は、
2~4GPaであり、前記導電性接着剤Bのヤング率
は、2GPaであることを特徴とする表面実装型水晶振動子付き回路基板。
【請求項2】
前記導電性接着剤A及び前記導電性接着剤Bは、シリコーン系、エポキシ系またはウレタン系の樹脂であることを特徴とする請求項
1に記載の表面実装型水晶振動子付き回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性接着剤を用いて表面実装型水晶振動子及び表面実装型水晶発振器の端子電極を回路基板に接合した表面実装型水晶振動子付き回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、表面実装型水晶振動子の端子電極を回路基板に接合する方法としてはんだを溶融して接合する方法が記載されている。ところが、特許文献1によると、表面実装型水晶振動子のパッケージ材質は、一般的に、機械的な強度、比誘電率、気密性、耐湿性の観点から、アルミナなどのパッケージが用いられることが多い。一方、回路基板の材質としては、コスト、製造・加工の容易性などの観点から、例えばガラスエポキシ基板などが用いられている。表面実装型水晶振動子のパッケージと回路基板との材質が異なることから、それぞれの熱膨張係数は相違し、表面実装型水晶振動子においては、回路基板上にはんだで接合された後、回路基板から機械的応力が発生し、この機械的応力は表面実装型水晶振動子に収容されている水晶振動片及び水晶振動片の表面に形成された電極膜に伝わり振動子特性のエージング特性に影響を与えることが推測される。
【0003】
特許文献2によると、表面実装型水晶振動子の端子電極を電子部品を備える回路基板上にはんだで接合すると回路基板から表面実装型水晶振動子に振動子特性に影響を与える機械的応力が伝わるため、はんだで接合せず、ヤング率が1GPaより小さいシリコーン系導電性接着剤で接合することにより表面実装型水晶振動子に収容される水晶振動片に伝わる機械的応力を軽減できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-41858号公報
【文献】特開2016-633229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2においては、表面実装型水晶振動子の端子電極と回路基板とを接合するシリコーン系導電性接着剤のヤング率については考慮されているが、表面実装型水晶振動子に収容されている水晶振動片をパッケージに接合するための導電性接着剤のヤング率と、表面実装型水晶振動子の端子電極と回路基板とを接合するシリコーン系導電性接着剤のヤング率と表面実装型水晶振動子に収容されている水晶振動片をパッケージに接合するための導電性接着剤のヤング率との関係を考慮していないため表面実装型水晶振動子に収容されている水晶振動片及び水晶振動片の表面に形成された電極膜に伝わる機械的応力の軽減が不十分であった。
【0006】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、表面実装型水晶振動子及び表実装型水晶発振器に収容されている水晶振動片及び水晶振動片の表面に形成された電極膜に伝わる機械的応力が十分に軽減された表面実装型水晶振動子付き回路基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
回路基板に形成された実装用ランドパターンに、導電性接着剤Aによって表面実装型水晶振動子の端子電極を接合した表面実装型水晶振動子付き回路基板であって、表面実装型水晶振動子は、水晶振動片と、水晶振動片を接合するマウント電極を備える支持部材と、蓋部材とを備え、マウント電極に導電性接着剤Bによって水晶振動片が接合され、更に蓋部材は、前記支持部材と接合されており、導電性接着剤Aのヤング率は、2~4GPaであり、導電性接着剤Bは、2GPaである表面実装型水晶振動子付き回路基板とする。
【0009】
導電性接着剤A及び導電性接着剤Bは、シリコーン系、エポキシ系またはウレタン系の樹脂である表面実装型水晶振動子付き回路基板とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の表面実装型水晶振動子付き回路基板によれば、表面実装型水晶振動子に収容されている水晶振動片及び水晶振動片の表面に形成された電極膜に伝わる機械的応力が十分に軽減された表面実装型水晶振動子付き回路基板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】回路基板に表面実装型水晶振動子が接合された本発明の実施例における表面実装水晶振動子付き回路基板の断面図である。
【
図3】本発明の実施例におけるエージング特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
これから、本発明の実施例における表面実装型水晶振動子付き回路基板を、図面を参照して以下に説明する。本発明の範囲は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また図面においては各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等を異ならせる場合がある。
【0013】
図1は、回路基板1aに接合される表面実装型水晶振動子2の断面図である。
【0014】
表面実装型水晶振動子2は、例えば厚み滑り水晶振動片3と、支持部材4と、蓋部材5とからなる。なお、水晶振動片3は厚み滑り水晶振動片3に限定されず音叉型水晶片を用いてもよい。
【0015】
厚み滑り水晶振動片3は、圧電ウエハを周知の切断技術と研磨技術及び真空蒸着技術を用いて、厚み滑り水晶振動片3の外形形状及び厚み滑り水晶振動片3の表面に電極膜6を形成する。なお、電極膜6は励振電極膜6aと接合電極6bとからなり接合電極6bは励振電極膜6aと電気的に接続している。
【0016】
支持部材4はセラミックなどの薄板を積層することにより水晶振動片3を収容する凹部7を備える。凹部7の一方の端部付近に一対のマウント電極8が形成される。このマウント電極8は支持部材4の底面に形成された端子電極9と電気的に接続されている。
【0017】
水晶振動片3の表面に形成された接合電極6bとマウント電極8とは例えばAgを含む導電性フィラーを含有したシリコーン系樹脂からなる導電性接着剤B11で機械的及び電気的に接合されている。なお、導電性接着剤B11に用いられる樹脂はシリコーン系樹脂だけに限定されずエポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂を用いても構わない。導電性接着剤B11のヤング率は2GPaである。
【0018】
蓋部材5は金属などの薄板からなり、蓋部材5の一方の面には枠状の接合材が形成されている。
【0019】
水晶振動片3が接合された支持部材4の上端に蓋部材5を接合することにより内部が封止された表面実装型水晶振動子2が得られる。
【0020】
図2は、回路基板に表面実装型水晶振動子が接合された本発明の表面実装型水晶振動子付き回路基板の断面図である。
【0021】
回路基板1aは、周知のフォトリソグラフィ技術を用いてガラスエポキシ基板(FR-4)などの基板表面に実装用ランドパターン1bが形成される。回路基板1aの実装用ランドパターン1bと表面実装型水晶振動子2の端子電極9とが、例えばAgを含む導電性フィラーを含有したシリコーン系樹脂からなる導電性接着剤A10によって機械的及び電気的に接合されている。なお、導電性接着剤A10に用いられる樹脂はシリコーン系樹脂だけに限定されずエポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂を用いても構わない。導電性接着剤A10のヤング率は2~4GPaである。なお、回路基板1aの実装用ランドパターン1bに表面実装型水晶振動子2以外の電子部品を接合しても構わない。表面実装型水晶振動子付き回路基板1は電子機器などの筐体に固定される。
【0022】
図3は回路基板1aの実装用ランドパターン1bと表面実装型水晶振動子2の端子電極9とを導電性接着剤A10(ヤング率:2~4GPa)によって接合した後の本発明の実施例におけるエージング特性E1を示す。表面実装型水晶振動子2に収容される水晶振動片3は前述した導電性接着剤B11(ヤング率:2GPa)によりマウント電極8に固定されている。本発明のエージング特性E1との比較を行うため、表面実装型水晶振動子2の端子電極9を実装用ランドパターン1bに接合する導電性接着剤A10のヤング率及び表面実装型水晶振動子2に収容される水晶振動片3をマウント電極8に接合する導電性接着剤B11のヤング率を下記の通りとしたエージング特性も示す。
エージング特性E2 導電性接着剤A10のヤング率5GPa、導電性接着剤B11のヤング率2GPa。
エージング特性E3 導電性接着剤A10のヤング率40GPa、導電性接着剤B11のヤング率2GPa。
エージング特性E4 導電性接着剤A10のヤング率2GPa、導電性接着剤B11のヤング率5GPa。
エージング特性を示す図の横軸は表面実装型水晶振動子2の端子電極9を実装用ランドパターン1bに接合した後の経過時間、縦軸は発振周波数の変化である。
【0023】
それぞれのエージング特性とも表面実装型水晶振動子2の端子電極9を実装用ランドパターン1bに接合した後の発振周波数は時間の経過とともにプラス側へ変化していく。エージング特性E1は接合から2日目でほぼ発振周波数は変化しないが、エージング特性E2、E3、E4は接合から2日目以降も発振周波数が変化している。これは表面実装型水晶振動子2に収容されている水晶振動片3及び水晶振動片3の表面に形成された電極膜6に伝わった機械的応力の残留応力が時間の経過とともに減少しているためである。
【0024】
図4は
図2のC部の概念図である。この概念図を用いて前述したエージング特性のメカニズムについて記載する。
【0025】
回路基板1aの実装用ランドパターン1bと表面実装型水晶振動子2の端子電極9とを導電性接着剤A10によって接合すると表面実装水晶振動子2と回路基板1aとの材質が異なることにより生じる機械的応力Dが発生する。なお、機械的応力Dは支持部材4や蓋部材5などのパッケージを構成する部材から発生する機械的応力も含む場合がある。この機械的応力Dは回路基板1aから実装用ランドパターン1b、導電性接着剤A10まで伝わる。導電性接着剤A10は機械的応力Dの一部を吸収する。吸収できなかった機械的応力D´は端子電極9、マウント電極8、導電性接着剤B11まで伝わる。導電性接着剤B11は機械的応力D´の一部を吸収する。接合電極6bを介して励振電極膜6a及び水晶振動片3に伝わるが、本発明の実施例における導電性接着剤A10及び導電性接着剤B11のようなヤング率の関係にすることで励振電極膜6a及び水晶振動片3に伝わる機械的応力D´を軽減して良好なエージング特性を得ることができる。
【0026】
弾性を有する導電性接着剤A10は、実装用ランドパターン1bからの機械的応力Dの一部を吸収するが、ヤング率が高いため実装用ランドパターン1bからの機械的応力Dを相殺する力(機械的応力Dに対して反対側に作用する力)をあまり発生させないので、機械的応力Dはわずかに減少された状態で端子電極9、マウント電極8を介して導電性接着剤B11に伝わる。
【0027】
弾性を有する導電性接着剤B11は、端子電極9、マウント電極8を介して伝わった機械的応力D´の一部を吸収するとともに、マウント電極8からの機械的応力D´を相殺する力(機械的応力D´に対して反対側に作用する力)を発生させるので、マウント電極8からの機械的応力D´が大きく減少し、励振電極膜6a及び水晶振動片3に伝わる機械的応力D´も小さくなる。すなわち、励振電極膜6a及び水晶振動片3の残留応力も小さいので良好なエージング特性が得られる。導電性接着剤A10のヤング率は、マウント電極8と水晶振動片3との接合に用いた導電性接着剤B11のヤング率と同等かそれ以上、例えば、導電性接着剤A10のヤング率を2~4GPa、導電性接着剤B11のヤング率を2GPaにすると良い。ヤング率が小さいと弾性が高いため機械的応力D、D´を相殺する力が発生しやすい。また、ヤング率が大きいと弾性が低いため機械的応力D、D´を相殺する力が発生しにくい。
【0028】
導電性接着剤A10のヤング率が4GPaより大きくなると導電性接着剤の弾性が落ち実装用ランドパターン1bからの機械的応力Dを吸収する量が少なくなる。このため、導電性接着剤B11は、マウント電極8を介して伝わった機械的応力D´を吸収しきれず、励振電極膜6a及び水晶振動片3に機械的応力D´が伝わりエージング特性が悪くなる。また、導電性接着剤B11のヤング率を大きくすると導電性接着剤B11の弾性が落ち、マウント電極8からの機械応力D´を相殺する力(機械的応力D´に対して反対側に作用する力)が減少し、エージング特性が悪くなる。なお、導電性接着剤A10及び導電性接着剤B11のヤング率を2GPaより小さくすると接着力が低下し表面実装型水晶振動子2を回路基板1aに接合しても接合強度が弱く取れてしまう。また、マウント電極8に接合した水晶振動片3も剥がれてしまう。導電性接着剤A10のヤング率を4GPaより大きくすると機械的応力Dに対して反対側に作用する力をほとんど発生させないので機械的応力Dはほとんど減少しなくなる。導電性接着剤B11のヤング率を2GPaより大きくすると機械的応力D´に対して反対側に作用する力をほとんど発生させないので機械的応力D´はほとんど減少しなくなる。
【0029】
一実施例として表面実装型水晶振動子2で説明したが、支持部材4に集積回路などが実装された表面実装型水晶発振器でも同様な効果が得られる。
【0030】
表面実装型水晶振動子付き回路基板1を電子機器などの筐体に固定するときに発生する機械的応力に対しても同様な効果が得られる。
【符号の説明】
【0031】
1 表面実装型水晶振動子付き回路基板
1a 回路基板
1b 実装用ランドパターン
2 表面実装型水晶振動子
3 水晶振動片
4 支持部材
5 蓋部材
6 電極膜
6a 励振電極膜
6b 接合電極
7 凹部
8 マウント電極
9 端子電極
10 導電性接着剤A
11 導電性接着剤B