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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】フィルム成形装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/325 20190101AFI20230712BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20230712BHJP
   B29C 48/92 20190101ALI20230712BHJP
【FI】
B29C48/325
B29C48/08
B29C48/92
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019199269
(22)【出願日】2019-10-31
(65)【公開番号】P2021070275
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】日置 一弥
(72)【発明者】
【氏名】八若 佐知
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-020119(JP,A)
【文献】国際公開第2017/090694(WO,A1)
【文献】特開2019-034540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/00-48/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイから溶融樹脂を押し出してフィルムを成形するフィルム成形装置であって、
フィルムの厚みに関するフィルム厚データを計測するセンサと、
前記ダイのリップ幅を調節するための複数のダイリップ駆動機構と、
前記複数のダイリップ駆動機構を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記ダイリップ駆動機構を駆動したときの当該ダイリップ駆動機構に対応する位置のフィルム厚の変動量と他のダイリップ駆動機構に対応する位置のフィルム厚の変動量との関係を示す関係データを記憶する記憶部と、
前記フィルム厚データと前記関係データとに基づいて、前記複数のダイリップ駆動機構に対する制御指令を生成する制御指令生成部と、を含み、
前記ダイのリップはリング状であり、
前記他のダイリップ駆動機構に対応する位置のフィルム厚の変動量には、前記ダイリップ駆動機構を駆動したときの当該ダイリップ駆動機構に対応する位置のフィルム厚の変動量がプラスである場合に、フィルム厚の変動量がマイナスになる他のダイリップ駆動機構に対応する位置のフィルム厚の変動量が含まれることを特徴とするフィルム成形装置。
【請求項2】
ダイから溶融樹脂を押し出してフィルムを成形するフィルム成形装置であって、
フィルムの厚みに関するフィルム厚データを計測するセンサと、
前記ダイのリップ幅を調節するための複数のダイリップ駆動機構と、
前記複数のダイリップ駆動機構を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記ダイリップ駆動機構を駆動したときの当該ダイリップ駆動機構に対応する位置のフィルム厚の変動量と他のダイリップ駆動機構に対応する位置のフィルム厚の変動量との関係を示す関係データを記憶する記憶部と、
前記フィルム厚データと前記関係データとに基づいて、前記複数のダイリップ駆動機構に対する制御指令を生成する制御指令生成部と、を含み、
前記他のダイリップ駆動機構に対応する位置のフィルム厚の変動量には、前記ダイのリップの延在方向において前記駆動したダイリップ駆動機構と隣接する他のダイリップ駆動機構に対応する位置のフィルム厚の変動量に加えて、当該延在方向において前記駆動したダイリップ駆動機構と隣接しない他のダイリップ駆動機構に対応する位置のフィルム厚の変動量が含まれることを特徴とするフィルム成形装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記記憶部に前記関係データが記憶されていない場合、成形の開始信号を受け付けても成形を開始させないことを特徴とする請求項1または2に記載のフィルム成形装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記ダイリップ駆動機構を駆動させ、そのときに前記センサが計測したフィルム厚データを取得し、取得したフィルム厚データに基づいて関係データを生成する関係データ生成部をさらに備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のフィルム成形装置。
【請求項5】
成形中にダイリップ駆動機構を駆動したときの、当該ダイリップ駆動機構に対する制御指令とフィルム厚データとに基づいて、前記関係データを更新することを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のフィルム成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融樹脂をダイの吐出口であるリップから押し出してフィルムを成形するフィルム成形装置が知られている。従来では、リップの延在方向に並んだ複数のダイリップ駆動機構によってリップ幅を少なくとも部分的に調節することにより、リップの延在方向の全体にわたってフィルムの厚み(以下、フィルム厚という)を目標範囲に収める技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-177348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来のフィルム成形装置では、通常、複数のダイリップ駆動機構は位置制御ではなく荷重制御される。そのため、フィルム厚を目標範囲内に収めるべく或るダイリップ駆動機構を駆動して当該ダイリップ駆動機構に対応する位置のリップ幅を変動させると、その周囲のリップ幅ひいてはフィルム厚も変動する。例えば当該ダイリップ駆動機構に隣接する他のダイリップ駆動機構に対応する位置のリップ幅ひいてはフィルム厚が変動する。しかしながら、従来のフィルム成形装置では、複数のダイリップ駆動機構のそれぞれについて、他のダイリップ駆動機構に対応する位置のフィルム厚に与える影響をも考慮して出力を決定していない。その結果、リップの延在方向の全体にわたってフィルム厚を目標範囲に収めるのに、比較的長時間を要していた。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、比較的短時間で、リップの延在方向の全体にわたってフィルム厚を目標範囲に収めることができるフィルム成形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のフィルム成形装置は、ダイから溶融樹脂を押し出してフィルムを成形するフィルム成形装置であって、フィルムの厚みに関するフィルム厚データを計測するセンサと、ダイのリップ幅を調節するための複数のダイリップ駆動機構と、複数のダイリップ駆動機構を制御する制御装置と、を備える。制御装置は、ダイリップ駆動機構を駆動したときの当該ダイリップ駆動機構に対応する位置のフィルム厚の変動量と他のダイリップ駆動機構に対応する位置のフィルム厚の変動量との関係を示す関係データを記憶する記憶部と、フィルム厚データと関係データとに基づいて、複数のダイリップ駆動機構に対する制御指令を生成する制御指令生成部と、を含む。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、比較的短時間で、リップの延在方向の全体にわたってフィルム厚を目標範囲に収めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態に係るフィルム成形装置の概略構成を示す図である。
図2図1のダイおよび厚み調節部の縦断面図である。
図3図1のダイおよび厚み調節部の上面図である。
図4図1のダイリップ駆動機構を単体で駆動したときの、全周にわたるフィルム厚の変動量を示す図である。
図5図1の複数のダイリップ駆動機構のそれぞれを単体で駆動させたときのフィルム厚の変動量と、複数のダイリップ駆動機構を同時に駆動させたときのフィルム厚の変動量との関係を説明するための図である。
図6】A行列の各要素を特定する手順を説明する図である。
図7図1の制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
図8図6の制御指令生成部の具体的な構成例を示すブロック図である。
図9】フィルム成形装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0011】
図1は、実施の形態に係るフィルム成形装置1の概略構成を示す。フィルム成形装置1は、ダイ10と、厚み調節部2と、一対の安定板4と、ピンチロール5と、厚みセンサ6と、制御装置7と、を備える。
【0012】
ダイ10は、押出機(不図示)より供給された溶融樹脂を、図1では不図示のリング状の吐出口(以下、リップと呼ぶ)から押し出すことにより、チューブ状のフィルムを成形する。
【0013】
厚み調節部2は、フィルム厚を調節するとともに、フィルムを冷却する。
【0014】
一対の安定板4は、厚み調節部2の上方に配置され、バブルを一対のピンチロール5の間に案内する。ピンチロール5は、安定板4の上方に配置され、案内されたバブルを引っ張り上げながら扁平に折りたたむ。扁平に折りたたまれたフィルムは、巻取機(不図示)によって巻き取られる。
【0015】
厚みセンサ6は、厚み調節部2と安定板4との間に配置される。厚みセンサ6は、全周にわたるフィルム厚を、所定の周期で繰り返し計測する。本実施の形態の厚みセンサ6は、チューブ状のフィルムの周りを回りながら、全周にわたるフィルム厚を計測する。厚みセンサ6により計測されたフィルム厚データは制御装置7に送信される。
【0016】
制御装置7は、フィルム成形装置1を統合的に制御する装置である。
【0017】
図2は、ダイ10および厚み調節部2の縦断面図である。図3は、ダイ10および厚み調節部2の上面図である。図3では、冷却装置3の表示を省略している。
【0018】
ダイ10は、ダイ本体11と、内周部材12と、外周部材14と、を含む。内周部材12は、ダイ本体11の上面に載置される略円柱状の部材である。外周部材14は、環状の部材であり、内周部材12を環囲する。内周部材12と外周部材14との間には、リング状に上下方向に延びるスリット18が形成される。このスリット18を溶融樹脂が上側に向かって流れ、その上端開口であるリップ18aから溶融樹脂が押し出される。
【0019】
ダイ本体11の外周には、複数のヒータ19が装着される。また、外周部材14の外周にもヒータ19が装着される。ダイ本体11および外周部材14は、ヒータ19によって所要の温度に加熱される。これにより、ダイ10の内部を流れる樹脂を適度な温度および状態に保つことができる。
【0020】
厚み調節部2は、冷却装置3と、複数のダイリップ駆動機構16_1~16_32(以下、特に区別しないときやまとめていうときには単にダイリップ駆動機構16と呼ぶ)と、を含む。なお、ここではダイリップ駆動機構16の個数は32であるが、これには限定されない。
【0021】
冷却装置3は、ダイ10の上方に配置される。冷却装置3は、エアーリング8と、環状の整流部材9と、を備える。エアーリング8は、内周部が下方に凹んだリング状の筐体である。エアーリング8の外周部には、複数のホース口8bが周方向に等間隔で形成されている。複数のホース口8bのそれぞれにはホース(不図示)が接続され、このホースを介してブロワー(不図示)からエアーリング8内に冷却風が送り込まれる。
【0022】
エアーリング8の内周部には、上側に開口したリング状の吹出口8aが形成されている。エアーリング8内に送り込まれた冷却風は、吹出口8aから吹き出てバブルに吹き付けられる。吹出口8aは特に、中心軸Aを中心とするリング状のスリット18と同心となるよう形成される。これにより、冷却風がバブルに当たる高さや、バブルに当たる冷却風の風量が、周方向で均一になる。
【0023】
整流部材9は、吹出口8aを取り囲むようエアーリング8内に配置される。整流部材9は、エアーリング8内に送り込まれた冷却風を整流する。これにより、冷却風は、周方向において均一な流量、風速で、吹出口8aから吹き出る。
【0024】
複数のダイリップ駆動機構16は、外周部材14の上端側を囲むように、リップの延在方向である周方向に、例えば等間隔に配置される。ダイリップ駆動機構16_1、16_2、・・・、16_32は、この順に周方向に並ぶ。ダイリップ駆動機構16は、片持ち状に外周部材14に取り付けられる。複数のダイリップ駆動機構16の上方には冷却装置3が固定される。
【0025】
複数のダイリップ駆動機構16はそれぞれ、外周部材14に径方向内向きの押圧荷重または径方向外向きの引張荷重を付与できるよう構成される。外周部材14は、押圧荷重または引張荷重が付与されることによって弾性変形する。したがって、複数のダイリップ駆動機構16を調節することによってリップ幅を少なくとも周方向で部分的に調節でき、フィルム厚を周方向で少なくとも部分的に制御できる。フィルム厚が周方向でばらついている場合、例えば、フィルム厚が薄い部分に対応する(例えばフィルム厚が薄い部分の下方に位置する)ダイリップ駆動機構16により外周部材14に引張荷重を付与し、フィルム厚が薄い部分の下方のリップ幅を広くする。リップ幅が広くなると、そこから押し出される溶融樹脂の量が増え、その上方のフィルム厚は厚くなる。その結果、フィルム厚のばらつきが小さくなる。
【0026】
ダイリップ駆動機構16は、一例としては図3に示すように、制御装置7からの制御指令に基づいて駆動するアクチュエータ24と、回動軸32を支点として支持され、アクチュエータ24の回転力を受けるレバー34と、外周部材14により軸線方向に変位可能に支持され、レバー34の作用点に支持された作動ロッド36と、含む。そして、レバー34の回転力が作動ロッド36の軸線方向の力に変換され、その軸線方向の力が内周部材12または外周部材14に対する荷重となり、レバー34がレバー34の作用点において作動ロッド36に直接力を付与する。
【0027】
図4は、複数のダイリップ駆動機構16のうちのダイリップ駆動機構16_i(1≦i≦32)を単体で駆動したときの、全周にわたるリップ幅ひいてはフィルム厚の変動量を示す図である。図4において、横軸はリップの周方向位置を示し、縦軸はフィルム厚の変動量を示す。ここでは、フィルム厚が厚くなったときの変動量をプラスの値で示し、フィルム厚が薄くなったときの変動量をマイナスの値で示している。つまり図4は、ダイリップ駆動機構16_iにより外周部材14に引張荷重を付与してダイリップ駆動機構16_iに対応する位置のフィルム厚を厚くしたときの、全周にわたるフィルム厚の変動量を示す。
【0028】
ダイリップ駆動機構16_iにより外周部材14に引張荷重を付与した場合、ダイリップ駆動機構16_iに対応する位置(すなわちダイリップ駆動機構16_iにより引張荷重を付与する周方向位置)Pのフィルム厚の変動量は最大となり、引張荷重を付与した位置から離れるほどフィルム厚の変動量は徐々に小さくなり、さらに離れると変動量はマイナス、すなわち外周部材14に荷重を付与していないときよりも薄くなり、さらに離れると変動量はゼロ、すなわち外周部材14に荷重を付与していないときと同じフィルム厚になる。
【0029】
なお、図4を横軸に対して反転させれば、ダイリップ駆動機構16_iにより外周部材14に押圧荷重を付与した場合のリップ幅ひいてはフィルム厚の変動量となる。
【0030】
ここで、リップは周方向に連続しているため、ダイリップ駆動機構16_iによって対応する位置Pの外周部材14の部分に荷重を付与すると、すなわちダイリップ駆動機構16_iに対応する位置Pの外周部材14の部分に加わる圧力を変動させると、他のダイリップ駆動機構16に対応する位置の外周部材14の部分に加わる圧力も変動する。ダイリップ駆動機構16は位置制御ではなく荷重制御されるため、当該他のダイリップ駆動機構16に対応する位置の外周部材14の部分に加わる圧力が変動すれば、当該他のダイリップ駆動機構16に対応する位置のリップ幅ひいてはフィルム厚も変動する。つまり、図4に示すように、ダイリップ駆動機構16_iによって外周部材14に荷重を付与した場合、ダイリップ駆動機構16_iに対応する位置Pのフィルム厚のみならず、他のダイリップ駆動機構16に対応する位置のフィルム厚も変動する。
【0031】
図4の例では、ダイリップ駆動機構16_iによって外周部材14に荷重を付与した場合、ダイリップ駆動機構16_i+1、16_i+2、16_i-1、16_i-2のそれぞれに対応する位置Pi+1、Pi+2、Pi-1、Pi-2のフィルム厚も変動している。当然ながら、逆にダイリップ駆動機構16_iの周囲のダイリップ駆動機構16、例えばダイリップ駆動機構16_i+1、16_i+2、16_i+3、16_i-1、16_i-2、16_i-3によって外周部材14に荷重を付与すれば、ダイリップ駆動機構16_iに対応する位置のフィルム厚も変動する。
【0032】
したがって、各ダイリップ駆動機構16の出力を決定するにあたっては、いち早くフィルム厚を全周にわたって許容範囲に収めるには、各ダイリップ駆動機構16について、他のダイリップ駆動機構16に対応する位置のフィルム厚に与える影響をも考慮して出力を決定する必要がある。
【0033】
本発明者達が鋭意検討した結果、複数のダイリップ駆動機構16のそれぞれを0%~100%の範囲の出力で同時に駆動させたときのフィルム厚の変動量は、複数のダイリップ駆動機構16のそれぞれを0%~100%の範囲の出力で単体で駆動させたときのフィルム厚の変動量の足し合わせとみなせることに想到した。これについて、図5を参照して具体的に説明する。
【0034】
図5は、複数のダイリップ駆動機構16のそれぞれを単体で駆動させたときのフィルム厚の変動量と、複数のダイリップ駆動機構16を同時に駆動させたときのフィルム厚の変動量との関係を説明するための図である。図5において、点線Lは、複数のダイリップ駆動機構16のうち、ダイリップ駆動機構16_iを単体で駆動させたときのフィルム厚の変動量を示す。実線Lは、複数のダイリップ駆動機構16を駆動させたときのフィルム厚の変動量を示す。点線Lをすべて足し合わせれば、実線Lとなる。
【0035】
したがって、実線Lがフィルム厚の所望の変動量であると考えれば、単体で駆動させたときにはフィルム厚に点線のような変動量を生じさせる出力を、複数のダイリップ駆動機構16のそれぞれの出力とすればよいことになる。これを前提として、各ダイリップ駆動機構16の出力を決定する手法について説明する。
【0036】
なお、ダイリップ駆動機構16_iを単体で駆動させた場合の各周方向位置でのフィルム厚の変動量は、ダイリップ駆動機構16_iの出力と比例関係があるものとみなす。すなわち、ダイリップ駆動機構16_iをx%(0≦x≦100)の出力で単体で駆動させた場合の各周方向位置でのフィルム厚の変動量は、ダイリップ駆動機構16_iを100%の出力で単体で駆動させた場合の各周方向位置でのフィルム厚の変動量の(x/100)倍となるものとみなす。また、複数のダイリップ駆動機構16には個体差はないものとみなす。
【0037】
まず、ダイリップ駆動機構16_1をx%の出力で単体で駆動させた場合のフィルム厚の変動量は次の式(1)で表すことができる。
【数1】
ここで、
【数2】
は32×32の単位行列であり、y(k=1,2,・・・,32)はダイリップ駆動機構16_1をx%の出力で単体で駆動させた場合のダイリップ駆動機構16_kに対応する位置のフィルム厚の変動量を示し、aはダイリップ駆動機構16_1を100%の出力で単体で駆動させたときのダイリップ駆動機構16_kに対応する位置のフィルム厚の変動量を示す。
【0038】
また、ダイリップ駆動機構16_2をx%の出力で単体で駆動させた場合のフィルム厚の変動量は次の式(2)で表すことができる。
【数3】
ここで、
【数4】
は、単位行列の各行を下向きに1行ずつ巡回的にシフトさせた行列である。
上述したようにダイリップ駆動機構16には個体差がないため、ダイリップ駆動機構16_1を100%の出力で単体で駆動させたときの変動量aを用いて式(2)のごとく表すことができる。
【0039】
また、ダイリップ駆動機構16_3、16_4、・・・16_32のそれぞれを、x%、x%、・・・x32%で単体で駆動させた場合のフィルム厚の変動量も、同様にして表すことができる。したがって、複数のダイリップ駆動機構16のそれぞれをx%、x%、・・・、x32%の出力で同時に駆動させた場合の全体にわたるフィルム厚の変動量は、次の式(3)で表される。
【数5】
【0040】
式(3)の行列式を書き下すと次の式(4)ようになる。
【数6】
【0041】
式(4)の複数の方程式のそれぞれを、その項をxについて昇順に並べ替えると、次の式(5)の複数の方程式のようになる。
【数7】
【0042】
式(5)の複数の方程式を、xを解とする連立方程式が解ける形を意識して行列式に書き直すと次の式(6)のようになる。
【数8】
【0043】
式(6)を書き換えて、最終的に次の式(7)が得られる。
【数9】
【0044】
ここで、フィルム厚の変動量yは、厚みセンサ6により計測されるフィルム厚データから算出できる。具体的には、フィルム厚の変動量yは、厚みセンサ6により周期的に計測されるフィルム厚データと、厚みセンサ6によって初期に計測されるフィルム厚データとの差として算出される。初期に計測されるフィルム厚データとは、成形開始後ではあるものの、複数のダイリップ駆動機構16を駆動する前に厚みセンサ6によって計測されるフィルム厚データであって、複数のダイリップ駆動機構16が外周部材14に荷重を付与していないときのフィルム厚データである。
【0045】
したがって、A行列のデータを記憶していれば、式(7)を用いて、複数のダイリップ駆動機構16のそれぞれについて、他のダイリップ駆動機構16に対応する位置のフィルム厚に与える影響をも考慮した出力を決定できる。言い換えると、複数のダイリップ駆動機構16のそれぞれについて、ダイリップ駆動機構16を駆動したときの、当該ダイリップ駆動機構16に対応する位置のフィルム厚の変動量と、他のダイリップ駆動機構に対応する位置のフィルム厚の変動量との関係を示す関係データを記憶していれば、他のダイリップ駆動機構16に対応する位置のフィルム厚に与える影響をも考慮した出力を決定できる。
【0046】
続いて、A行列の各要素であるa~a32を特定する手順の一例について説明する。図6は、A行列の各要素を特定する手順を説明する図である。
【0047】
(1)シミュレーション、具体的には例えば、有限要素法を用いたシミュレーションにより、ダイリップ駆動機構16を100%の出力で単体で駆動させたときの全周にわたるリップ幅の変動量を取得する。
(2)フィルム成形装置1において、複数のダイリップ駆動機構16が外周部材14に荷重を付与していないときの全周にわたるフィルム厚を計測する。
(3)フィルム成形装置1において、いずれかのダイリップ駆動機構16(例えばダイリップ駆動機構16_1)を100%の出力で単体で駆動させたときの、全周にわたるフィルム厚を計測する。
(4)手順(2)において計測したフィルム厚と、手順(3)において計測したフィルム厚とに基づいて、全周にわたるフィルム厚の変動量(図6の実線)を算出する。
(5)手順(1)において取得したリップ幅の変動量に適当な係数を乗算することによって、当該係数を乗算した変動量を、手順(4)で算出したフィルム厚の変動量(図6の実線)に図6の破線のごとくフィッティングさせる。
(6)手順(1)において取得したリップ幅の変動量のうち、複数のダイリップ駆動機構16のそれぞれに対応する位置のリップ幅の変動量に、手順(5)のフィッティングにおいて乗算した係数を乗算して得られる値を、それぞれa~a32とする。
【0048】
なお、上述の説明では、簡単のため、複数のダイリップ駆動機構16には個体差がないものとしたが、個体差があるものとしてもよく、その場合は、すべてのダイリップ駆動機構16について上述の手順(2)~(6)を行い、A行列を特定すればよい。
【0049】
また、手順(2)~(3)は、シミュレーションにより実施してもよい。
【0050】
続いて制御装置7の構成を説明する。図7は、制御装置7の構成を示す機能ブロック図である。ここに示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0051】
制御装置7は、種々の通信プロトコルにしたがって厚みセンサ6との通信処理を実行する通信部40と、ユーザによる操作入力を受け付け、また各種画面を表示部に表示させるU/I部42と、通信部40およびU/I部42から取得されたデータをもとにして各種のデータ処理を実行するデータ処理部46と、データ処理部46により参照、更新されるデータを記憶する記憶部48と、を含む。
【0052】
記憶部48は、厚み記憶部56と、関係記憶部58と、を含む。厚み記憶部56は、厚みセンサ6によって計測されたフィルム厚データを記憶する。関係記憶部58は、ダイリップ駆動機構16_iを駆動したときの、ダイリップ駆動機構16_iに対応する位置のフィルム厚の変動量と、他のダイリップ駆動機構16に対応する位置のフィルム厚の変動量との関係を示す関係データを記憶する。本実施の形態では、関係記憶部58は、関係データ生成部51が生成した関係データ、あるいは予め特定された関係データを記憶する。
【0053】
データ処理部46は、受信部50と、関係データ生成部51と、制御指令生成部52と、制御部54と、を含む。受信部50は、厚みセンサ6が所定の周期で送信するフィルム厚データを受信する。受信部50は、受信したフィルム厚データを厚み記憶部56に記憶させる。
【0054】
関係データ生成部51は、関係データの生成の開始信号を受信すると、自動で関係データを生成する。関係データの生成の開始信号は、例えば不図示の校正ボタンをユーザが押したときに送信されてもよい。
【0055】
以下では、上述のA行列が関係データである場合について説明する。
【0056】
関係データ生成部51は、シミュレーションにより、ダイリップ駆動機構16を100%の出力で単体で駆動させたときの全周にわたるリップ幅の変動量を取得する(手順(1))。なお、手順(1)は、予め実施されていてもよい。
【0057】
続いて、関係データ生成部51は、複数のダイリップ駆動機構16が外周部材14に荷重を付与していないときに厚みセンサ6が計測した全周にわたるフィルム厚を厚み記憶部56から取得する(手順(2))。変形例として、関係データ生成部51は、シミュレーションにより、複数のダイリップ駆動機構16が外周部材14に荷重を付与していないときの全周にわたるフィルム厚を取得してもよい。なお、手順(2)も、予め実施されていてもよい。
【0058】
関係データ生成部51は、いずれかのダイリップ駆動機構16(例えばダイリップ駆動機構16_1)を100%の出力で単体で駆動させ、そのときにセンサ6が計測したフィルム厚を厚み記憶部56から取得する(手順(3))。変形例として、関係データ生成部51は、シミュレーションにより、いずれかのダイリップ駆動機構16を100%の出力で単体で駆動させたときの全周にわたるフィルム厚を取得してもよい。
【0059】
関係データ生成部51は、手順(2)において取得したフィルム厚と、手順(3)において取得したフィルム厚とに基づいて、全周にわたるフィルム厚の変動量を算出する(手順(4))。
【0060】
関係データ生成部51は、手順(1)において取得されたリップ幅の変動量に適当な係数を乗算することによって、当該係数を乗算した変動量を、手順(4)で算出したフィルム厚の変動量にフィッティングさせる(手順(5))。
【0061】
関係データ生成部51は、手順(1)において取得されたリップ幅の変動量のうち、複数のダイリップ駆動機構16のそれぞれに対応する位置のリップ幅の変動量に、手順(5)のフィッティングにおいて乗算した係数を乗算して得られる値を、それぞれa~a32とする(手順6)。
【0062】
関係データ生成部51は、手順6で得られたa~a32に基づいて関係データとしてのA行列を生成する。なお、複数のダイリップ駆動機構16に個体差があるものとする場合、関係データ生成部51は、すべてのダイリップ駆動機構16について手順(2)~(6)を実施してA行列を生成すればよい。
【0063】
関係データ生成部51は、生成したA行列を関係データとして関係記憶部58に記憶させる。
【0064】
制御指令生成部52は、フィルム厚を全周にわたって許容範囲に収めるべく、複数のダイリップ駆動機構16のそれぞれに対する制御指令を生成する。具体的には制御指令生成部52は、厚み記憶部56に記憶されるフィルム厚データに基づいて、式(7)を用いて複数のダイリップ駆動機構16のそれぞれの出力を決定する。制御指令生成部52は、複数のダイリップ駆動機構16のそれぞれに決定した出力を発揮させる制御指令を生成する。
【0065】
制御部54は、制御指令生成部52が生成した制御指令に基づいて、複数のダイリップ駆動機構16のそれぞれを制御する。
【0066】
制御指令生成部52および制御部54は、関係記憶部58に関係データが記憶されていない場合、制御装置7が成形の開始信号を受け付けた場合であっても、処理を実行しない。この場合、制御装置7は、校正ボタンを押して関係データを生成するように、表示や音声等で促してもよい。あるいは、関係記憶部に関係データが記憶されていない場合に制御装置7が成形の開始信号を受け付けると、関係データ生成部51が自動で関係データを生成して関係記憶部58に記憶させてもよい。
【0067】
図8は、制御指令生成部52の具体的な構成例を示すブロック図である。制御指令生成部52は、制御指令を生成する。偏差生成器(減算器)60は、フィルム厚の測定値と目標値の差分に相当する偏差を生成する。なお、フィルム厚の測定値を、偏差生成器に入力する前に不図示のフィルタにより平滑化してもよい。積分器62は、偏差を積分する。指令値生成部64は、積分器の出力に基づいて、制御指令値を生成する。指令値生成部64は特に、上述の式(7)に基づいて制御指令値を生成する。積分器62を入れることで、前提条件等に伴う様々な誤差、一例としてはフィルム厚の変動量はダイリップ駆動機構16の出力と比例関係があるとみなしたことによる誤差が残り続けるのを抑止できる。
【0068】
以上のように構成されたフィルム成形装置1の動作を説明する。
図9は、フィルム成形装置1の動作を示すフローチャートである。図9の動作は、成形開始信号が入力されると開始される。成形信号は、例えば不図示の成形開始ボタンを介して入力されてもよい。
【0069】
制御装置7は、関係記憶部58に関係データが記憶されているか否かを確認する(S10)。関係記憶部58に関係データが記憶されていない場合(S10のN)、処理を終了する。この際、例えば不図示のディスプレイに表示するなどして、関係記憶部58に関係データが記憶されていない旨をユーザに通知してもよい。関係記憶部58に関係データが記憶されている場合(S10のY)、制御装置7は、押出機、冷却装置3およびピンチロール5などを制御してフィルムの成形を開始する(S12)。
【0070】
厚みセンサ6は、フィルム厚を計測する(S14)。そして制御装置7は、厚みセンサ6により計測されたフィルム厚データと、関係記憶部58に記憶される関係データとに基づいて、上述の式(7)を用いて複数のダイリップ駆動機構16に対する制御指令を生成し(S16)、生成した制御指令に基づいて複数のダイリップ駆動機構16を制御する(S18)。
【0071】
制御装置7は、終了条件が満たされるか否かを判定する(S20)。終了条件が満たされない場合(S20のN)、処理をステップS14に戻す。終了条件が満たされる場合(S20のY)、制御装置7はフィルムの成形を終了する。終了条件は、外部から終了の指示を受け付けたことや、成形が所定の時間継続されたことである。
【0072】
以上説明したように、本実施の形態によれば、複数のダイリップ駆動機構16のそれぞれについて、他のダイリップ駆動機構16に対応する位置のフィルム厚に与える影響をも考慮して出力が決定される。これにより、より短時間でフィルム厚を目標範囲に近づけることができる。
【0073】
また、本実施の形態によれば、関係データを生成するにあたって、1つのダイリップ駆動機構16についてのみのフィルム厚の変動量を取得すればよいため、比較的低負荷で関係データを生成できる。
【0074】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下変形例を示す。
【0075】
(変形例1)
実施の形態では特に言及しなかったが、成形中に得られるデータに基づいて関係データを更新してもよい。以下、具体的に説明する。
【0076】
実施の形態で説明したように、フィルム厚の変動量は、式(3)のように表わされる。この式(3)を、次の式(8)のように書き換える。
【数10】
【0077】
ここで、X行列の各要素は、ダイリップ駆動機構16に対する制御指令から把握され、yは厚みセンサ6により計測されるフィルム厚データから算出できる。したがって、式(8)よりA行列を算出できる。
【0078】
例えば、制御指令生成部52が式(8)を用いてA行列を算出し、算出するたびに関係記憶部58に記憶される関係データとしてのA行列を更新してもよい。また例えば、A行列が算出されるたびに移動平均を算出し、関係記憶部58に記憶される関係データとしてのA行列を更新してもよい。移動平均は、個々のデータに重みをつけた移動平均であってもよい。重みは、新しいデータほど大きくしてもよい。また重みは、フィルム厚が理想に近いとき、具体的には例えば厚みセンサ6により計測されたフィルム厚と理想のフィルム厚との二乗和誤差が小さいときのデータほど重みを大きくしてもよい。
【0079】
さらなる変形例として、前回の成形において更新されたA行列が関係記憶部58に記憶されている場合、そのA行列を今回の成形における初期の関係データとして用いてもよい。また、初期の関係データには、例えば知見に基づく適当なデータを設定してもよい。そして成形中に得られるデータに基づいて、上述のようにして関係データを更新してもよい。これらの場合、今回の成形に際してA行列を準備が不要あるいは容易になるため、ユーザの負担が軽減される。
【0080】
(変形例2)
実施の形態では、フィルム厚に基づいて制御指令を生成する場合について説明したが、これには限定されず、リップ幅に基づいて制御指令を生成してもよい。この場合、センサにより、複数のダイリップ駆動機構16のそれぞれに対応する位置のリップ幅のを計測すればよい。センサは、リップ幅を直接的に計測するものであってもよく、リップ幅を間接的に計測する、具体的には例えばダイリップ駆動機構16の駆動量を計測するものであってもよい。
【0081】
(変形例3)
実施の形態および上述の変形例では、ダイ10が、リップ18aがリング状であるいわゆる丸ダイである場合について説明したが、これには限定されず、実施の形態の技術思想は、リップが直線状であるいわゆるTダイにも適用できる。
【0082】
上述した実施の形態および変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施の形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0083】
1 フィルム成形装置、 7 制御装置、 10 ダイ、 52 制御指令生成部、 54 制御部、 58 関係記憶部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9