(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】全固体リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20230712BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230712BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0562
H01M4/66 A
(21)【出願番号】P 2019203099
(22)【出願日】2019-11-08
【審査請求日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2018215322
(32)【優先日】2018-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川崎 洋志
(72)【発明者】
【氏名】草野 亮介
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-186917(JP,A)
【文献】特開2017-152383(JP,A)
【文献】特開2012-150896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/64- 4/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機固体電解質と正極と負極とを備え、前記正極と前記負極とがそれぞれ樹脂集電体を備える全固体リチウムイオン二次電池であって、
前記樹脂集電体が高分子材料からなる母材と導電性フィラーと分散剤とを含む全固体リチウムイオン二次電池
(但し、正極活物質層と接する樹脂集電体表面に電子導電性層を有しない)。
【請求項2】
前記分散剤の含有量が、前記樹脂集電体の重量を基準として1~20重量%である請求項1に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記分散剤が、ブロック(A1)とブロック(A2)とを有する共重合体であり、
前記ブロック(A1)が、エチレン及びプロピレンを必須構成単量体とするブロックであり、
前記ブロック(A2)が、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマー(a2)を必須構成単量体とするブロックである請求項1又は2に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記分散剤の酸価が15~55mgKOH/gである請求項1~3のいずれか記載の全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記分散剤の融点が120~145℃である請求項1~4のいずれか記載の全固体リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護のため二酸化炭素排出量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が鋭意行われている。二次電池としては、高エネルギー密度、高出力密度が達成できるリチウムイオン電池に注目が集まっている。
【0003】
なかでも、有機溶媒が揮発する可能性がなく、充放電時の副反応である有機溶媒の分解反応が進行することよって電池内部にガスが発生して電池を膨脹させる問題のない電池として、液体状態の電解質を用いない全固体リチウムイオン二次電池が検討されている。
【0004】
全固体電池に用いる集電体としては金属箔が一般的である。しかし、活物質層と集電体との間に微小な隙間が生じることを免れることができず、そのため電子伝導性が劣り、さらに電池の充放電に伴う積層体の膨張収縮に伴い金属箔が剥離しやすく、サイクル特性が良好な電池を長期にわたり維持することができないという問題があった。
このような問題を解決する方法として、集電体に樹脂フィルムを用いる検討がなされている(特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-329004号公報
【文献】特開2009-181874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの検討では、集電体として使用される樹脂フィルム膜厚が薄いほど活物質層との接触抵抗が下がり電池のサイクル特性が向上するとされている。一方で、全固体電池の充放電時には加圧すること(例えば、50~400気圧またはそれ以上の圧力で電池を拘束すること)が必要であり、そのような条件下では薄いフィルムは容易に破断してしまい電池として機能しなくなる事例が多いという課題があった。
【0007】
本発明は、サイクル特性と電池の安定性を両立した全固体リチウムイオン二次電池である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、これらの課題を解決するべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、下記発明である。
固体電解質と正極と負極とを備え、前記正極と前記負極とがそれぞれ樹脂集電体を備える全固体リチウムイオン二次電池であって、前記樹脂集電体が高分子材料からなる母材と導電性フィラーと分散剤とを含む全固体リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明の全固体リチウムイオン二次電池は、サイクル特性と電池の安定性を両立できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、固体電解質と正極と負極とを備え、前記正極と前記負極とがそれぞれ樹脂集電体を備える全固体リチウムイオン二次電池であって、前記樹脂集電体が高分子材料からなる母材と導電性フィラーと分散剤とを含む全固体リチウムイオン二次電池である。
【0011】
本発明の全固体リチウムイオン二次電池は、非水系有機溶剤と電解質塩との混合物であるリチウムイオン電池用電解液を含まないリチウムイオン二次電池である。
【0012】
本発明における固体電解質には特に制限はなく公知の固体電解質を用いることができ、日本国特許公開第2018-170184号公報、日本国特許公開第2018-116812号公報、日本国特許公開第2012-243743号公報等に記載のもの等を用いることができる。
【0013】
本発明の正極及び負極は樹脂集電体を備えること以外に特に制限はなく、樹脂集電体とともに正極及び負極を構成する電極活物質層は公知の正極活物質及び負極活物質を用いることができる。
【0014】
正極活物質としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物{遷移金属が1種である複合酸化物(LiCoO2、LiNiO2、LiAlMnO4、LiMnO2及びLiMn2O4等)、遷移金属元素が2種である複合酸化物(例えばLiFeMnO4、LiNi1-xCoxO2、LiMn1-yCoyO2、LiNi1/3Co1/3Al1/3O2及びLiNi0.8Co0.15Al0.05O2)及び金属元素が3種類以上である複合酸化物[例えばLiMaM’bM’’cO2(M、M’及びM’’はそれぞれ異なる遷移金属元素であり、a+b+c=1を満たす。例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2)等]等}、リチウム含有遷移金属リン酸塩(例えばLiFePO4、LiCoPO4、LiMnPO4及びLiNiPO4)、遷移金属酸化物(例えばMnO2及びV2O5)、遷移金属硫化物(例えばMoS2及びTiS2)及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリ-p-フェニレン及びポリビニルカルバゾール)等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。なお、リチウム含有遷移金属リン酸塩は、遷移金属サイトの一部を他の遷移金属で置換したものであってもよい。
【0015】
負極活物質としては、炭素系材料[例えば黒鉛、難黒鉛化性炭素、アモルファス炭素、樹脂焼成体(例えばフェノール樹脂及びフラン樹脂等を焼成し炭素化したもの等)、コークス類(例えばピッチコークス、ニードルコークス及び石油コークス等)、炭化ケイ素及び炭素繊維等]、導電性高分子(例えばポリアセチレン及びポリピロール等)、金属(スズ、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム及びチタン等)、金属酸化物(チタン酸化物、リチウム・チタン酸化物及びケイ素酸化物等)及び金属合金(例えばリチウム-スズ合金、リチウム-シリコン合金、リチウム-アルミニウム合金及びリチウム-アルミニウム-マンガン合金等)等及びこれらと炭素系材料との混合物等が挙げられる。これらの他に金属リチウム箔を負極活物質として用いることができる。
上記負極活物質のうち、内部にリチウム又はリチウムイオンを含まないものについては、予め活物質の一部又は全部にリチウム又はリチウムイオンを含ませるプレドープ処理を施してもよい。
【0016】
電極活物質は、表面の一部又は全部に被覆用樹脂である高分子化合物を含む電極被覆層を有する被覆電極活物質であってもよい。
電極被覆層は、被覆用樹脂である高分子化合物を含んでなる。また、必要に応じて、さらに、後述する導電助剤を含んでいてもよい。
電極被覆層を構成する高分子化合物としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などが挙げられ、例えば、国際公開第2015/005117号に記載のリチウムイオン電池活物質被覆用樹脂等が挙げられる。
【0017】
導電助剤としては、導電性を有する材料から選択され、具体的には、カーボン[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等]、PAN系炭素繊維及びピッチ系炭素繊維等のカーボンファイバー、カーボンナノファイバー並びにカーボンナノチューブ、金属[ニッケル、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、銅及びチタン等]を用いることができる。
これらの導電助剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物を用いてもよい。電気的安定性の観点から、好ましくはアルミニウム、ステンレス、カーボン、銀、銅、チタン及びこれらの混合物であり、より好ましくは銀、アルミニウム、ステンレス及びカーボンであり、さらに好ましくはカーボンである。またこれらの導電助剤としては、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電性材料(上記した導電材料のうち金属のもの)をめっき等でコーティングしたものでもよい。グラフェンを練り込んだポリプロピレン樹脂も導電助剤として好ましい。
【0018】
正極活物質層及び負極活物質層は、電極活物質と導電助剤とを含む電極活物質成形体であってもよい。
前記電極活物質成形体は、電極活物質と導電助剤とを一括又は段階的に万能混合機等の公知の粉体混合装置等に入れ、公知の方法で混合した後に成形する方法、電極活物質と導電助剤と溶剤との混合物を基材上に塗布した後に溶剤を蒸発留去する方法等で得ることができる。
【0019】
本発明の正極及び負極はそれぞれ樹脂集電体を備える。前記樹脂集電体は高分子材料と導電性フィラーと分散剤とを含む。
高分子材料としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリシクロオレフィン(PCO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂及びこれらの混合物等が挙げられる。
電気的安定性の観点から、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)およびポリシクロオレフィン(PCO)が好ましく、さらに好ましくはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)及びポリメチルペンテン(PMP)である。
【0020】
導電性フィラーは、導電性を有する材料から選択され、集電体内のイオン透過を抑制する観点から、電荷移動媒体として用いられるイオンに関して伝導性を有さない材料を用いるのが好ましい。具体的には、カーボン材料、アルミニウム、金、銀、銅、鉄、白金、クロム、スズ、インジウム、アンチモン、チタン、ニッケルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの導電性フィラーは1種単独で用いられてもよいし、2種以上併用してもよい。また、ステンレス(SUS)等のこれらの合金材が用いられてもよい。耐食性の観点から、好ましくはアルミニウム、ステンレス、カーボン材料、ニッケル、より好ましくはカーボン材料である。また、これらの導電性フィラーは、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに、上記で示される金属をメッキ等でコーティングしたものであってもよい。
【0021】
本発明における分散剤とは、導電性フィラーを高分子材料中に分散する機能を有する材料である。前記分散剤を使用することで前記導電性フィラーの分散性がよくなり、樹脂集電体の均一性、機械強度等が向上するので、全固体リチウムイオン電池の充放電時に必要とされる大きな加圧(100気圧~400気圧またはそれ以上の拘束)に対しても破断しなくなる。
【0022】
前記分散剤の重量平均分子量[以下、Mwと略記する。測定は後述するゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法による。]は、500~100,000であり、8,000~60,000であることが好ましい。前記分散剤のMwが前記範囲であると樹脂集電体の機械的強度が良化する。
【0023】
本発明におけるGPCによるMwの測定条件は以下のとおりである。
装置:高温ゲルパーミエイションクロマトグラフ[「Alliance GPC
V2000」、Waters(株)製]
溶媒:オルトジクロロベンゼン
基準物質:ポリスチレン
サンプル濃度:3mg/ml
カラム固定相:PLgel 10μm、MIXED-B 2本直列
[ポリマーラボラトリーズ(株)製]
カラム温度:135℃
【0024】
前記分散剤として市場から入手できるものとしては、ユーメックスシリーズ[三洋化成工業株式会社製]並びにハードレンシリーズ及びトーヨータックシリーズ[東洋紡株式会社製]等が挙げられる。
【0025】
前記分散剤は、導電性の観点から好ましくは、ブロック(A1)とブロック(A2)とを有する共重合体であり、前記ブロック(A1)が、エチレン及びプロピレンを必須構成単量体とするブロックであり、前記ブロック(A2)が、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマー(a2)を必須構成単量体とするブロックである。
【0026】
前記ブロック(A1)の具体例としては、エチレンとプロピレンとを共重合したブロック、エチレン及びプロピレンと炭素数4~30のα-オレフィン及び/又は他の単量体とを共重合したブロック等が挙げられる。
【0027】
前記ブロック(A2)を構成する前記カルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマー(a2)としては、不飽和モノカルボン酸[炭素数3~15、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸及び桂皮酸]、不飽和ジカルボン酸[脂肪族化合物(炭素数4~24、例えばマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸及びメサコン酸)、芳香族化合物(炭素数10~24、例えばジカルボキシスチレン)及び脂環式化合物(炭素数8~24、例えばジカルボキシシクロヘキセン及びジカルボキシシクロヘプテン)等]、3価~4価又はそれ以上のポリカルボン酸[脂肪族化合物(炭素数6~24、例えばアコニット酸)及び脂環式(炭素数7~24、例えばトリカルボキシシクロペンテン、トリカルボキシシクロヘキセン及びトリカルボキシシクロオクテン)等]、多価カルボン酸の部分アルキル(炭素数1~18)エステル(マレイン酸モノメチルエステル、フマル酸モノエチルエステル、イタコン酸モノ-t-ブチルエステル、メサコン酸モノデシルエステル及びジカルボキシシクロヘプテンジドデシルエステル等)及びその塩(アルカリ金属塩及びアンモニウム塩等)等が挙げられる。
【0028】
前記ブロック(A2)を構成する、前記(a2)の割合は、前記導電性フィラーの分散性の観点から、前記ブロック(A2)の重量を基準として、50~100重量%が好ましく、更に好ましくは60~100重量%であり、特に好ましくは70~100重量%である。
【0029】
前記ブロック(A2)中のカルボキシル基の合計モル濃度は、前記導電性フィラーの分散性の観点から、前記ブロック(A2)の重量を基準として、0.0001~0.03モル/gが好ましく、更に好ましくは0.001~0.028モル/gであり、特に好ましくは0.01~0.025モル/gである。
前記ブロック(A2)中の上記官能基の合計モル濃度は、前記分散剤を製造する際の前記(a2)の仕込み量から、下記数式により算出することができる。
合計モル濃度=Σ{((a2)の仕込み量)/((a2)の分子量)}/{(a2)の合計仕込み量}
なお、上記モル濃度を算出にあたっては、2個以上のカルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマー(a2)を用いる場合は、前記(a2)の仕込み量に官能基の数をかけた値を「(a2)の仕込み量」として算出する。
【0030】
前記分散剤中のカルボキシル基の合計モル濃度は、前記分散剤の重量を基準として、導電性フィラーの分散性の観点から、0.00005~0.015モル/gが好ましく、更に好ましくは0.0005~0.014モル/gである。
前記分散剤中の上記官能基の合計モル濃度は、前記分散剤について13C-NMR及びIR(赤外分光)を測定し、モル濃度の分かっている試料を用いて求めた検量線に当てはめることで算出できる。
また、前記分散剤中の上記官能基の合計モル濃度は、前記分散剤を製造する際の仕込み量から、下記数式により算出することもできる。
合計モル濃度=Σ{((a2)の仕込み量)/((a2)の分子量)}/(分散剤を構成するモノマーの合計仕込み量)
なお、上記モル濃度を算出にあたっては、2個以上のカルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマー(a2)を用いる場合は、前記(a2)の仕込み量に官能基の数をかけた値を「(a2)の仕込み量」として算出する。
【0031】
前記分散剤は、ブロック(A1)とブロック(A2)とを有する共重合体であるが、前記導電性フィラーの分散性の観点から、重量比{(A1)/(A2)}が好ましくは50/50~99/1であり、更に好ましくは60/40~98/2であり、特に好ましくは70/30~95/5である。
【0032】
前記分散剤の製造方法としては、例えば、従来のオレフィン重合体を製造する方法(例えばバルク法、溶液法、スラリー法及び気相法等)で製造した重合体(A’1)(例えば、エチレンとプロピレンの共重合体)に、熱減成反応などで二重結合を導入して重合体(A’’1)とし、これに前記カルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマー(a2)を付加する方法等が挙げられる。
【0033】
熱減成法には、前記オレフィン重合体を窒素通気下で、(1)有機過酸化物(ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド等)不存在下、300~450℃で0.5~10時間、連続的又は非連続的に熱減成する方法、及び(2)有機過酸化物存在下、180~300℃で0.5~10時間、連続的又は非連続的に熱減成する方法等が含まれる。
これらの前記(1)、(2)のうち好ましいのは、分子末端及び/又はポリマー鎖中の二重結合数のより多いものが得やすい(1)の方法である。
【0034】
前記分散剤は、前記重合体(A’’1)と前記カルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマー(a2)とをラジカル発生源[ラジカル開始剤(d)、熱、光等]の存在下で反応させることにより得られる。ここでいう反応とは、前記重合体(A’’1)が有する二重結合への前記(a2)の付加反応を指す。反応の有無は、反応前後の混合物{(A’’1)と(a2)との混合物}が有する二重結合の数の減少で判断する。
二重結合数の測定は1H-NMR(核磁気共鳴)分光法のスペクトルから求めることができる。すなわち、前記測定で得られたスペクトル中のピークを帰属し、前記混合物の4.5~6.0ppmにおける二重結合由来の積分値及び前記混合物由来の積分値から、前記混合物の二重結合数と前記混合物の炭素数の相対値を求め、前記混合物の炭素1,000個当たりの該分子末端及び/又はポリマー鎖中の二重結合数を算出する。後述の実施例における分散剤を製造する際の反応の有無も同方法に従って確認した。
【0035】
前記ラジカル開始剤(d)としては、アゾ化合物[アゾビスイソブチロニトリル及びアゾビスイソバレロニトリル等]、過酸化物〔単官能(分子内にパーオキシド基を1個有するもの)(ベンゾイルパーオキシド、ジ-t-ブチルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド等)及び多官能(分子内にパーオキシド基を2個以上有するもの)[2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、ジ-t-ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート及びジアリルパーオキシジカーボネート等]〕等が挙げられる。
これらのうち(A’’1)と(a2)との反応性の観点からラジカル開始剤として好ましいのは、過酸化物であり、更に好ましいのは単官能過酸化物、特に好ましいのはジ-t-ブチルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド及びジクミルパーオキシドである。
【0036】
前記ラジカル開始剤(d)の使用量は、反応性及び副反応抑制の観点から、(A’’1)と(a2)の合計重量に基づいて好ましくは0.05~10%、更に好ましくは0.2~5%、特に好ましくは0.5~3%である。
【0037】
前記分散剤のMwを上記範囲にする方法としては、前記熱減成法(1)の方法において加熱温度、加熱時間を調整すればよい。加熱温度は高いほど、加熱時間は長いほど、前記分散剤Mwは小さくなる傾向にある。
【0038】
前記分散剤の酸価は、樹脂集電体の電気抵抗及び成形性の観点から、15~55mgKOH/gであることが好ましく、25~55であることが更に好ましい。
【0039】
前記分散剤の酸価は、JIS K0070に準じて以下の(i)~(iii)の手順で測定して得られる値である。
(i)100℃に温度調整したキシレン100gに(X)1gを溶解させる。
(ii)フェノールフタレインを指示薬として、0.1mol/L水酸化カリウムエタノール溶液[商品名「0.1mol/Lエタノール性水酸化カリウム溶液」、和光純薬(株)製]で滴定を行う。
(iii)滴定に要した水酸化カリウム量をmgに換算して酸価(単位:mgKOH/g)を算出する。
なお、上記測定では1個の酸無水物基は1個のカルボキシル基と等価になる結果が得られる。後述の実施例における酸価は当該方法に従った。
【0040】
前記分散剤の酸価を上記範囲にする方法としては、前記分散剤中の前記カルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマー(a2)の重量割合をコントロールすることで酸価を調整することができる。
【0041】
前記分散剤の融点は、導電性フィラーの分散性の観点から、120~145℃であることが好ましく、135~145℃であることが更に好ましく、140~145℃であることが特に好ましい。
なお、本発明において融点とはDSC(示差走査熱量測定)を用い、JIS K7122(転移熱測定法)に準じて測定される融解ピーク温度を意味する。DSCとしては、DSC2910[商品名、ティー・エイ・インスツルメント(株)製]等が挙げられる。後述の実施例における融点は当該方法、機器を用いて測定した。
【0042】
前記分散剤の融点を上記範囲にする方法としては、前記熱減成法(1)の方法において加熱温度、加熱時間を調整すればよい。加熱温度は高いほど、加熱時間は長いほど、前記分散剤の融点は低くなる傾向にある。
【0043】
前記分散剤の含有量は、電気的安定性の観点から、前記樹脂集電体の重量を基準として1~20重量%含有することが好ましい。
【0044】
樹脂集電体は、高分子材料と、導電性フィラーと分散剤との他に、さらに必要に応じ、その他の成分[着色剤、紫外線吸収剤、汎用の可塑剤(フタル酸骨格含有化合物、トリメリット酸骨格含有化合物、リン酸基含有化合物及びエポキシ骨格含有化合物等)]等を適宜含んでいてもよい。その他の成分の合計添加量は、電気的安定性の観点から、樹脂集電体100重量部中0.001~5重量部であることが好ましく、更に好ましくは0.001~3重量部である。
【0045】
樹脂集電体は、日本国特許公開第2012-150905号公報及び国際公開第WO2015/005116号等に記載の公知の方法で作製することができる。また、その厚みも特に制限されず、公知のものと同様、あるいは適宜変更して適用することができる。
【0046】
本発明の全固体リチウムイオン二次電池は、樹脂集電体を備える正極と固体電解質と樹脂集電体を備える負極とを電池外装容器(ラミネート容器等)内に積層し、集電体に接続した電流取り出し用端子を容器の外側に出した状態で電池外装容器を封止する方法等で得ることができる。
【0047】
本発明の全固体リチウムイオン二次電池において、固体電解質を膜状に成形して用いても良い。
なお、全固体リチウムイオン二次電池において正極と負極との間に配置される固体電解質膜をセパレータという場合もある。
【0048】
本発明の全固体リチウムイオン二次電池は、1個を単独で用いることも可能であるが、複数個の全固体リチウムイオン二次電池の正極と負極を直列に接続した構成とした組電池からなる電池パックとして用いることにより出力を高めることができる。
本発明の全固体リチウムイオン二次電池を複数個直列に接続する方法としては、全固体リチウムイオン二次電池を、隣接するひとつの全固体リチウムイオン二次電池の正極端子と他の全固体リチウムイオン二次電池負極端子とが接触するように接続して積層する方法等が挙げられる。また、全固体リチウムイオン二次電池の正極端子及び負極端子がそれぞれ電池外装容器の上部及び下部に露出している場合には、各全固体リチウムイオン二次電池内における蓄電素子の向きが一致するように積層する方法により直列に接続することができる。正極端子及び負極端子がそれぞれ電池外装容器の上部及び下部に露出した状態の全固体リチウムイオン二次電池は、電池外装容器として用いるラミネート容器の樹脂層を剥離して金属層を露出させて封止すること等により得ることが出来る。
【0049】
樹脂集電体に接続した電流取り出し用端子を電池外装容器の上部及び下部に露出した状態で封止した全固体リチウムイオン二次電池を用いた場合、全固体リチウムイオン二次電池を積層するだけで正極端子と負極端子とを接続することができ、特別な部材を必要とせずに容易に全固体リチウムイオン二次電池同士を直列接続して電池パックとすることができる。また特別な部材を使用することなく、積層することにより形成されているので、全固体リチウムイオン二次電池のひとつに不良品があった場合でも、全固体リチウムイオン二次電池間の配線をやり直すことなく不良品を取り換えるだけで、後の良品をそのまま使用できるため、メンテナンス性と経済性に優れる。
【0050】
電池パックの出力を向上する観点から、例えば、全固体リチウムイオン二次電池を5個以上直列に接続した構成であることが好ましく、7個以上直列に接続した構成であることがより好ましい。
また、全固体リチウムイオン二次電池は、正極として機能する露出面と負極として機能する露出面とが平滑であるため、全固体リチウムイオン二次電池同士を直列接続しても電気的接続が良好である。
【実施例】
【0051】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部、%は重量%を意味する。
【0052】
<製造例1:ポリオレフィン(A1-1)の製造>
反応容器に、プロピレン、エチレンを構成単位とするメタロセン触媒を使用したポリオレフィン(A0-1)[商品名「ウィンテックWFX6」、日本ポリプロ(株)製]100部を仕込み、気相部分に工業用窒素(純度99.999体積%)を通気しながら、マントルヒーターにて加熱溶融し、攪拌しながら360℃で18分間熱減成を行い、ポリオレフィン(A1-1)を得た。(A1-1)の炭素1000個当たりの分子末端の二重結合数は0.4個、Mwは50000であった。
【0053】
<製造例2:ポリオレフィン(A1-2)の製造>
反応容器に、プロピレン、エチレンを構成単位とするチーグラナッタ触媒を使用したポリオレフィン(A0-2)[商品名「サンアロマーPM854X」、サンアロマー(株)製]100部を仕込み、気相部分に工業用窒素(純度99.999%)を通気しながら、マントルヒーターにて加熱溶融し、攪拌しながら360℃で37分間熱減成を行い、ポリオレフィン(A1-2)を得た。(A1-2)の炭素1000個当たりの分子末端の二重結合数は2.0個、Mwは15000であった。
【0054】
<製造例3:ポリオレフィン(A1-3)の製造>
反応容器に、プロピレン、エチレンを構成単位とするチーグラナッタ触媒を使用したポリオレフィン(A0-3)[商品名「サンアロマーPZA-20A」、サンアロマー(株)製]100部を仕込み、気相部分に工業用窒素(純度99.999%)を通気しながら、マントルヒーターにて加熱溶融し、攪拌しながら360℃で30分間熱減成を行い、ポリオレフィン(A1-3)を得た。(A1-3)の炭素1000個当たりの分子末端の二重結合数は1.2個、Mwは8000であった。
【0055】
<製造例4:ポリオレフィン(A1-4)の製造>
反応容器に、プロピレン、エチレンを構成単位とするメタロセン触媒を使用したポリオレフィン(A0-4)[商品名「バーシファイ3000」、ダウケミカル(株)製]100部を仕込み、気相部分に工業用窒素(純度99.999%)を通気しながら、マントルヒーターにて加熱溶融し、攪拌しながら360℃で37分間熱減成を行い、ポリオレフィン(A1-4)を得た。(A1-4)の炭素1000個当たりの分子末端の二重結合数は2.0個、Mwは16000であった。
【0056】
<製造例5:ポリオレフィン(A1-5)の製造>
反応容器に、前記ポリオレフィン(A0-2)100部を仕込み、気相部分に工業用窒素(純度99.999%)を通気しながら、マントルヒーターにて加熱溶融し、攪拌しながら360℃で26分間熱減成を行い、ポリオレフィン(A1-5)を得た。(A1-5)の炭素1000個当たりの分子末端の二重結合数は0.8個、Mwは40000であった。
【0057】
<製造例6:ポリオレフィン(A1-6)の製造>
反応容器に、前記(A0-1)100部を仕込み、気相部分に工業用窒素(純度99.999%)を通気しながら、マントルヒーターにて加熱溶融し、攪拌しながら360℃で15分間熱減成を行い、ポリオレフィン(A1-6)を得た。(A1-6)の炭素1000個当たりの分子末端の二重結合数は0.2個、Mwは64000であった。
【0058】
<製造例7:ポリオレフィン(A1-7)の製造>
反応容器に、前記ポリオレフィン(A0-3)100部を仕込み、気相部分に工業用窒素(純度99.999%)を通気しながら、マントルヒーターにて加熱溶融し、攪拌しながら360℃で39分間熱減成を行い、ポリオレフィン(A1-7)を得た。(A1-7)の炭素1000個当たりの分子末端の二重結合数は2.2個、Mwは15000であった。
【0059】
<製造例8:ポリオレフィン(A1-8)の製造>
反応容器に、前記ポリオレフィン(A0-2)100部を仕込み、気相部分に工業用窒素(純度99.999%)を通気しながら、マントルヒーターにて加熱溶融し、攪拌しながら360℃で15分間熱減成を行い、ポリオレフィン(A1-8)を得た。(A1-8)の炭素1000個当たりの分子末端の二重結合数は0.2個、Mwは60000であった。
【0060】
<製造例9:分散剤(D-1)の製造>
反応容器に(A1-1)100部と無水マレイン酸3部を仕込み、工業用窒素(純度99.999%)通気下、200℃まで加熱昇温して10時間攪拌を続けた。その後、減圧下(1.5kPa、以下同じ)で未反応の無水マレイン酸を留去して、分散剤(D-1)を得た。分散剤(D-1)の酸価は15、融点は120℃、Mwは52000であった。
【0061】
<製造例10:分散剤(D-2)の製造>
製造例6の(A1-1)を(A1-2)に、無水マレイン酸の仕込み量を3から11部に変更した以外は製造例9と同じ操作を行い、分散剤(D-2)を得た。分散剤(D-2)の酸価は55、融点は145℃、Mwは28000であった。
【0062】
<製造例11:分散剤(D-3)の製造>
製造例6の(A1-1)を(A1-3)に、無水マレイン酸の仕込み量を3から6.9部に変更した以外は製造例9と同じ操作を行い、分散剤(D-3)を得た。分散剤(D-3)の酸価は35、融点は135℃、Mwは32000であった。
【0063】
<製造例12:分散剤(D-4)の製造>
製造例6の(A1-1)を(A1-4)に、無水マレイン酸の仕込み量を3から11部に変更した以外は製造例9と同じ操作を行い、分散剤(D-4)を得た。分散剤(D-4)の酸価は55、融点は115℃、Mwは30000であった。
【0064】
<製造例13:分散剤(D-5)の製造>
製造例6の(A1-1)を(A1-5)に、無水マレイン酸の仕込み量を3から5.1部に変更した以外は製造例9と同じ操作を行い、分散剤(D-5)を得た。分散剤(D-5)の酸価は26、融点は150℃、Mwは45000であった。
【0065】
<製造例14:分散剤(D-6)の製造>
製造例6の(A1-1)を(A1-6)に、無水マレイン酸の仕込み量を3から2.3部に変更した以外は製造例9と同じ操作を行い、分散剤(D-6)を得た。分散剤(D-6)の酸価は11、融点は124℃、Mwは70000であった。
【0066】
<製造例15:分散剤(D-7)の製造>
製造例6の(A1-1)を(A1-7)に、無水マレイン酸の仕込み量を3から12.1部に変更した以外は製造例9と同じ操作を行い、分散剤(D-7)を得た。分散剤(D-7)の酸価は60、融点は135℃、Mwは28000であった。
【0067】
<製造例16:分散剤(D-8)の製造>
製造例6の(A1-1)を(A1-8)に、無水マレイン酸の仕込み量を3から2.3部に変更した以外は製造例9と同じ操作を行い、分散剤(D-8)を得た。分散剤(D-8)の酸価は11、融点は150℃、Mwは65000であった。
【0068】
【0069】
<製造例17:正極用樹脂集電体(W-1)の製造>
2軸押出機にて、高分子材料としてポリプロピレン[商品名「サンアロマーPC630S」、サンアロマー(株)製]69.7部、導電性フィラーとしてアセチレンブラック[商品名「デンカブラック」、デンカ(株)製]25.0部、分散剤として分散剤(D-9)[商品名「ユーメックス1001(酸変性ポリプロピレン)」、三洋化成工業(株)製]5.0部を180℃、100rpm、滞留時間5分の条件で溶融混練して正極樹脂集電体用材料を得た。得られた正極樹脂集電体用材料をTダイ押出しフィルム成形機に通して、その後熱プレス機により複数回圧延することで、膜厚23μmの正極用樹脂集電体(W-1)を得た。
【0070】
<製造例18~31:正極用樹脂集電体(W-2)~(W-15)の製造>
表2に記載の高分子材料、導電性フィラー、分散剤を用いる以外は製造例17と同様にして、正極用樹脂集電体(W-2)~(W-15)を得た。
【0071】
<製造例32:正極用樹脂集電体(W-16)の製造>
2軸押出機にて、高分子材料としてポリプロピレン(PP)[商品名「サンアロマーPC630S」、サンアロマー(株)製]70.0部、導電性フィラーとしてアセチレンブラック[商品名「デンカブラック」、デンカ(株)製]25.0部、分散剤として製造例10で得た分散剤(D-2)5.0部を180℃、100rpm、滞留時間5分の条件で溶融混練して、膜厚80μmの正極用樹脂集電体(W-16)を得た。
【0072】
<比較製造例1:比較の正極用樹脂集電体(比W-1)の製造>
分散剤含量を0部に変更したことを除いて、製造例17と同様の方法で膜厚25μmの比較の正極用樹脂集電体(比W-1)を得た。
【0073】
<製造例33:負極用樹脂集電体(Z-1)の製造>
2軸押出機にて、高分子材料としてポリプロピレン[商品名「サンアロマーPL500A」、サンアロマー(株)製]70部、導電性フィラーとしてニッケル粒子[商品名「Type255」、Vale社製]25部、及び分散剤として分散剤(D-9)5部を200℃、200rpmの条件で溶融混練して負極樹脂集電体用材料を得た。得られた負極樹脂集電体用材料を、Tダイ押出しフィルム成形機に通して、その後熱プレス機により複数回圧延することで膜厚34μmの負極用樹脂集電体原反を得た。
この負極用樹脂集電体原反の両主面に、真空蒸着法により銅の金属層を厚さ5nmでそれぞれ形成して、金属層を両面に設けた負極用樹脂集電体(Z-1)を得た。
【0074】
<製造例34:負極用樹脂集電体(Z-2)の製造>
2軸押出機にて、高分子材料としてポリプロピレン[商品名「サンアロマーPL500A」、サンアロマー(株)製]70部、ニッケル粒子[商品名「Type255」、Vale社製]25部、及び分散剤として製造例9で得た分散剤(D-1)5部を200℃、200rpmの条件で溶融混練して、膜厚65μmの負極用樹脂集電体(Z-2)を得た。
【0075】
<製造例35~48:負極用樹脂集電体(Z-3)~(Z-16)の製造>
表3に記載の高分子材料、導電性フィラー及び分散剤を用いること以外は製造例34と同様にして、負極用樹脂集電体(Z-3)~(Z-16)を得た。
【0076】
<製造例49:負極用樹脂集電体(Z-17)の製造>
製造例35で得た負極用樹脂集電体(Z-3)の両主面に、真空蒸着法により銅の金属層を厚さ5nmでそれぞれ形成して、金属層を両面に設けた負極用樹脂集電体(Z-17)を得た。
【0077】
<比較製造例2:比較の負極用樹脂集電体の製造>
分散剤含量を0部に変更したことを除いて、製造例33と同様の方法で膜厚32μmの比較の負極用樹脂集電体(比Z-1)を得た。
【0078】
製造例1~49及び比較製造例1~2で得られた樹脂集電体について、JISK6301のダンベル試験に準じて引っ張り強度測定を行い、結果を表2、3に記載した。
【0079】
【0080】
【0081】
製造例17~49及び、比較製造例1~2で得られた樹脂集電体の組成、及び物性を表2~3に記載した。
なお、表2~3に記載の材料の種類を示す記号は下記の材料を意味する。
<高分子材料>
PP1:ポリプロピレン[商品名「サンアロマーPC630S」、サンアロマー(株)製]
PP2:ポリプロピレン[商品名「サンアロマーPC684S」、サンアロマー(株)製]
PP3:ポリプロピレン[商品名「サンアロマーPL500A」、サンアロマー(株)製]
【0082】
<導電性フィラー>
C1:アセチレンブラック[比表面積69m2/g、商品名「デンカブラック」、デンカ(株)製]
C2:アセチレンブラック[比表面積68m2/g、商品名「エンサコ250G(粒状)」、Imerys製
C3:ニッケル粒子[商品名「Type255」、Vale社製、メジアン径:20μm]
C4:ニッケル粒子[商品名「Type123」、Vale社製、メジアン径:10μm]
【0083】
<リチウムイオン伝導性固体電解質の合成>
Li2S(日本化学工業社製)とP2S5(アルドリッチ社製)とを、モル比でLi2S:P2S5=3:1となるように秤量し、これらをメノウ乳鉢で5分間混合した。この混合物に、さらに脱水ヘプタン(関東化学工業社製)を加え、遊星型ボールミルを用い40時間メカニカルミリングすることにより、リチウムイオン伝導性固体電解質(Li3PS4)を得た。
【0084】
<正極合材の調製>
Li2S(リチウム化合物)0.25g、アセチレンブラック(AB、導電助剤)0.25g、Li3PS4(固体電解質)0.50gを秤量し、これらをボールミルポット(容量:45mL、ZrO2製)に入れた。このボールミルポットに、さらにZrO2ボール(φ5mm)160個を入れた。ボールミルポットをボールミルにセットし、370rpmで5時間混合した。ボールミル終了後、ボールミルポットから混合物を取り出し、これを正極合材とした。
【0085】
<実施例1:全固体リチウムイオン電池の作製>
セラミックス製の型(断面積:1cm2)に前記リチウムイオン伝導性固体電解質(Li3PS4)100mgを加え、4ton/cm2でプレスすることにより、固体電解質膜を形成した。固体電解質膜の片面に対し、上記正極合材10mgを加え、1ton/cm2でプレスすることにより正極活物質層を形成した。固体電解質膜に対し正極活物質層とは反対側にリチウム金属箔(厚み500um)を設置し、1ton/cm2でプレスした。
また、正極活物質層側に正極用樹脂集電体(W-1)を、リチウム金属箔側に負極用樹脂集電体(Z-1)を、それぞれ配置し、全固体リチウム電池を得た。全固体リチウム電池は、アルゴン雰囲気下のグローブボックスに保管した。
【0086】
<実施例2~20及び比較例1:全固体リチウムイオン二次電池の作製>
正極用樹脂集電体及び負極用樹脂集電体を表4に記載したものへ変更した他は実施例1と同様にして全固体リチウム電池を得た。得られた全固体リチウム電池は、アルゴン雰囲気下のグローブボックスに保管した。
【0087】
(充放電試験)
アルゴン雰囲気下のグローブボックス中で、前項において得たリチウム全固体電池を1ton/cm2の圧力で拘束し、以下の条件で20サイクルの充放電を行い、1サイクル目と5サイクル目、1サイクル目と20サイクル目の放電容量の比率を、サイクル性能として表4に記載した。
測定温度:25℃
電圧範囲:0.0Vから3.0Vまでの範囲
測定電流:0.100mA
充放電試験は、実施例及び比較例で得た全固体リチウムイオン二次電池を各10個ずつ用いて行い、得られた放電容量の比率の平均値をサイクル性能として表4に記載した。なお、充放電試験の加圧により集電体が破断して測定できなかったものが含まれる場合は、測定できたもので平均値を計算し表4に記載した。
【0088】
【0089】
表4より、本発明の全固体リチウムイオン二次電池は、充放電試験において集電体が破断することなく、十分なサイクル特性と電池の安定性を持つことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の全固体リチウムイオン電池は、特に、携帯電話、パーソナルコンピューター、ハイブリッド自動車及び電気自動車に有用である。