(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】動作時間監視装置
(51)【国際特許分類】
B61L 29/16 20060101AFI20230712BHJP
【FI】
B61L29/16
(21)【出願番号】P 2019203108
(22)【出願日】2019-11-08
【審査請求日】2022-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001292
【氏名又は名称】株式会社京三製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000180380
【氏名又は名称】四国旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】小林 和弘
(72)【発明者】
【氏名】田中 丈之
(72)【発明者】
【氏名】西園 青史
(72)【発明者】
【氏名】為広 重行
(72)【発明者】
【氏名】三▲崎▼ 友樹
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】実開平7-35237(JP,U)
【文献】特開昭62-41805(JP,A)
【文献】特開2009-234447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 29/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源ラインからの供給電力によって駆動される踏切しゃ断機の動作時間を監視する動作時間監視装置であって、
前記電源ラインの電流を計測する電流計測部と、
前記電流計測部による電流計測値が所与の待機電流値に基づく変動許容範囲を超えたことを判定することで動作開始時を判定し、当該動作開始時の判定の後に、前記電流計測値が所定の終了初期条件を満たし且つ前記電流計測値の変動が所定の収束条件を満たしたことを判定することで動作終了時を判定し、前記動作開始時から前記動作終了時までを前記踏切しゃ断機の上昇又は下降の動作に係る動作時間として算出する動作時間算出部と、
を備える動作時間監視装置。
【請求項2】
前記電流計測値が、前記変動許容範囲より狭い範囲として設定される前記待機電流値に基づく小変動範囲を超えた場合に、前記電流計測値に基づく前記待機電流値の更新設定制御を行う待機電流値設定部、
を更に備える請求項1に記載の動作時間監視装置。
【請求項3】
前記動作時間算出部は、前記電流計測値が、前記小変動範囲を超えてから所定の開始時判定時間を経過するまでの間に前記変動許容範囲を超えた場合に、前記変動許容範囲を超えた時点を前記動作開始時と判定する、
請求項2に記載の動作時間監視装置。
【請求項4】
前記待機電流値設定部は、前記動作時間算出部によって前記動作終了時が判定された場合に、前記待機電流値を前記動作終了時における前記電流計測値で更新設定する、
請求項2又は3に記載の動作時間監視装置。
【請求項5】
前記動作時間算出部は、前記電流計測値が前記終了初期条件を満たし且つ前記電流計測値の変動が前記収束条件を満たした場合に、所定の終了時判定時間遡った時点を前記動作終了時と判定する、
請求項1~4の何れか一項に記載の動作時間監視装置。
【請求項6】
前記収束条件は、前記終了時判定時間の間、前記電流計測値の変動が所定の変動幅以内となったこと、である、
請求項5に記載の動作時間監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、踏切しゃ断機の動作時間監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道の踏切には、列車の通過時に踏切道の交通をしゃ断するため、踏切しゃ断機が設置されている。この踏切しゃ断機の保守・点検項目の1つに、上昇や下降の動作に係る動作時間の監視が挙げられる。特に、下降の動作時間(しゃ断桿の下降開始からしゃ断完了までの時間)は、列車の通過に間に合うように規定の時間内に収める必要がある。例えば、特許文献1には、所定時間以内にしゃ断桿が下降しきれない下降不能を検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の監視回路は、しゃ断桿の昇降を駆動制御する駆動制御回路が出力する昇降の駆動制御信号や、当該駆動制御回路が入力する各種検知スイッチの検知信号等を取得して動作時間を監視する仕組みであった。そのため、駆動制御回路の入出力信号を取得するために、踏切しゃ断機から踏切制御回路への配線追加や、踏切制御回路の変更等が必要であった。
【0005】
そこで、本発明は、踏切しゃ断機の上昇又は下降の動作に係る動作時間を踏切しゃ断機の外部から簡単且つ適正に算出することを課題として、考案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の発明は、
電源ラインからの供給電力によって駆動される踏切しゃ断機の動作時間を監視する動作時間監視装置であって、
前記電源ラインの電流を計測する電流計測部と、
前記電流計測部による電流計測値が所与の待機電流値に基づく変動許容範囲を超えたことを判定することで動作開始時を判定し、当該動作開始時の判定の後に、前記電流計測値が所定の終了初期条件を満たし且つ前記電流計測値の変動が所定の収束条件を満たしたことを判定することで動作終了時を判定し、前記動作開始時から前記動作終了時までを前記踏切しゃ断機の上昇又は下降の動作に係る動作時間として算出する動作時間算出部と、
を備える動作時間監視装置である。
【0007】
第1の発明によれば、踏切しゃ断機に電力を供給する電源ラインの電流計測値が変動許容範囲を超えたことを判定することで、動作開始時を判定することができる。また、動作開始時の判定の後に電流計測値が所定の終了初期条件を満たし、且つ、その変動が収束条件を満たしたことを判定することで、動作終了時を判定することができる。そして、判定した動作開始時と動作終了時とから、踏切しゃ断機の上昇又は下降の動作に係る動作時間を算出することができる。これによれば、電源ラインに電流計測部を設置し、その電流計測値を処理することで踏切しゃ断機の上昇又は下降の動作に係る動作時間を算出することができる。したがって、踏切しゃ断機の上昇又は下降の動作に係る動作時間を、踏切しゃ断機の外部から簡単且つ適正に算出することが可能となる。
【0008】
また、第2の発明として、
前記電流計測値が、前記変動許容範囲より狭い範囲として設定される前記待機電流値に基づく小変動範囲を超えた場合に、前記電流計測値に基づく前記待機電流値の更新設定制御を行う待機電流値設定部、
を更に備える第1の発明の動作時間監視装置を構成してもよい。
【0009】
第2の発明によれば、変動許容範囲の基準に用いる待機電流値に基づく小変動範囲であって、変動許容範囲より狭い小変動範囲を設定し、電流計測値が小変動範囲を超えた場合に、待機電流値の更新設定制御を行うことができる。電流計測値とは、踏切しゃ断機に電力を供給する電源ラインの通流電流であるため、電力供給元の給電電力が例えば電力需給に応じて(例えば系統電力の変動に応じて)変動することで、電流計測値も変動し得る。待機電流値を電流計測値で更新することができるため、この変動を加味した適切な待機電流値を随時設定することができる。
【0010】
また、第3の発明として、
前記動作時間算出部は、前記電流計測値が、前記小変動範囲を超えてから所定の開始時判定時間を経過するまでの間に前記変動許容範囲を超えた場合に、前記変動許容範囲を超えた時点を前記動作開始時と判定する、
第2の発明の動作時間監視装置を構成してもよい。
【0011】
第3の発明によれば、電流計測値が小変動範囲を超えた場合であって、その後開始時判定時間を経過するまでの間に変動許容範囲を超えた場合に、変動許容範囲を超えた時点を動作開始時として、動作時間を算出することができる。
【0012】
また、第4の発明として、
前記待機電流値設定部は、前記動作時間算出部によって前記動作終了時が判定された場合に、前記待機電流値を前記動作終了時における前記電流計測値で更新設定する、
第2又は第3の発明の動作時間監視装置を構成してもよい。
【0013】
第4の発明によれば、待機電流値を、動作終了時の電流計測値で更新設定することができる。
【0014】
また、第5の発明として、
前記動作時間算出部は、前記電流計測値が前記終了初期条件を満たし且つ前記電流計測値の変動が前記収束条件を満たした場合に、所定の終了時判定時間遡った時点を前記動作終了時と判定する、
第1~第4の何れかの発明の動作時間監視装置を構成してもよい。
【0015】
第5の発明によれば、動作開始時の判定の後に電流計測値が終了初期条件を満たし、且つ、電流計測値の変動が収束条件を満たした場合に、終了時判定時間遡った時点を動作終了時として、動作時間を算出することができる。
【0016】
また、第6の発明として、
前記収束条件は、前記終了時判定時間の間、前記電流計測値の変動が所定の変動幅以内となったこと、である、
第5の発明の動作時間監視装置を構成してもよい。
【0017】
第6の発明によれば、電流計測値が所定の終了初期条件を満たし、且つ、電流計測値の変動が所定の変動幅以内となったまま終了時判定時間が経過した場合に、電流計測値の変動が所定の変動幅以内となった時点を動作終了時として、動作時間を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】動作時間監視装置を備えた全体システムを示すブロック図。
【
図2】踏切しゃ断機への供給電流の概略波形例を示す模式図。
【
図3】待機電流値の更新設定前後の値を説明するための図。
【
図4】動作時間算出処理の流れを説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態の一例について説明する。なお、以下説明する実施形態によって本発明が限定されるものではなく、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものでもない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付す。
【0020】
[システム構成]
図1は、本実施形態の動作時間監視装置10を備えた全体システムを示すブロック図である。本実施形態の動作時間監視装置10は、踏切しゃ断機50の動作時間を監視するためのものであり、踏切しゃ断機50から離隔した位置に設けられる。例えば、
図1に示すように、動作時間監視装置10は、踏切制御回路40とともに踏切器具箱1内に収容され、踏切しゃ断機50の外部から動作時間を監視する。踏切制御回路40や踏切しゃ断機50は従来装置のまま利用することができ、改造を必要としない。また、踏切制御回路40と踏切しゃ断機50との間を電気的に接続する制御信号も、従来の信号ラインのままで、動作時間監視装置10は踏切しゃ断機50の動作時間を監視する。
【0021】
踏切制御回路40は、踏切しゃ断機50に上昇又は下降の動作をさせるための制御入力を行う。具体的には、踏切制御回路40は、その制御対象の踏切しゃ断機50が設置された踏切に列車が接近した旨の通知を外部(例えば踏切制御子)から受けると、踏切しゃ断機50に下降指令を出力する。これに応答し、踏切しゃ断機50は、しゃ断桿を所定の下降位置まで下降させて保持する。続いて、列車が当該踏切を通過し終えた旨の通知を受けると、踏切制御回路40は、踏切しゃ断機50に上昇指令を出力する。これに応答し、踏切制御回路40は、下降位置のしゃ断桿を上昇させて、所定の上昇位置で保持する。
【0022】
動作時間監視装置10は、処理装置11と、電流計測部13と、を備えて構成される。
【0023】
電流計測部13は、踏切しゃ断機50に電力を供給する電源ライン3に設置され、電源ライン3を流れる電流を計測する。計測結果は、電流計測値を示す信号(以下単に「電流計測値」という。)として処理装置11に出力される。この電流計測部13として用いる電流センサの種類は特に限定されないが、例えば、電源ライン3をクランプして電流計測を行うクランプ型の電流センサを用いることができる。
【0024】
処理装置11は、CPU等の制御装置や記憶装置、中央装置60との通信を制御する通信装置等を備えたコンピュータ制御ボード或いは演算制御回路部として構成することができる。記憶装置には、動作時間監視装置10の動作に必要な各種データ、電流計測部13による電流計測値、動作時間の算出結果等が格納される。
【0025】
この処理装置11は、動作時間算出部111と、待機電流値設定部113と、を備える。動作時間算出部111は、電流計測部13の電流計測値を用い、踏切しゃ断機50の上昇又は下降の動作の動作開始時判定処理および動作終了時判定処理を行って、当該動作に係る動作時間を算出する。待機電流値設定部113は、動作終了時と判定されてから動作開始時と判定されるまでの間、電流計測値に基づく待機電流値の更新設定制御を行う。
【0026】
ここで、
図2および
図3を参照しつつ、動作時間の算出および待機電流値の更新設定について説明する。
図2は、縦軸を電流値、横軸を時間として、踏切しゃ断機50のある1回の対象動作(上昇又は下降)の前後に亘る電流計測値の概略波形を示す模式図である。
また、
図3は、待機電流値I
Wの更新設定前後の値を電流計測値I
Mの概略波形例とともに示した図である。
【0027】
先ず、上昇又は下降の動作をしていないときの踏切しゃ断機50はしゃ断桿を上昇位置又は下降位置で保持しており、踏切しゃ断機50にはそのための電流(以下「待機電流」という。)が流れるため、電流値は概ね一定となる。すなわち、
図2においてグラフの両端の平坦な部分が示すように、踏切しゃ断機50の動作時間外の電流値は、多少変動はするものの、所定値付近でほぼ一定値を示す。一方、踏切しゃ断機50の上昇又は下降の動作にあたっては、しゃ断桿を動作させるために電動機を駆動するか、或いは、ばね復元力により電動機が起電状態となるため、電流値は大きく変化する。
【0028】
ただし、当該動作中の電流波形の形状は、その動作が上昇動作なのか下降動作なのかによって異なる。また、同じ上昇動作時や下降動作時でも、踏切しゃ断機50の種類によって波形は様々である。一方、待機電流の大きさも、踏切しゃ断機50の種類によって異なる。加えて、同種の踏切しゃ断機50であっても、電源環境等の外部環境の影響を受けて変動し得る。そのため、従来においては、電流波形の形状や電流値そのものから画一的に動作時間を特定するのは困難であった。
【0029】
そこで、処理装置11は、電流計測部13による電流計測値IMが所与の待機電流値IWに基づく小変動条件を満たすか否かの判定を繰り返し行って、電流計測値IMが安定状態にあるか否かを判定する。
【0030】
小変動条件は、「電流計測値I
Mが小変動範囲内であること」とする。小変動範囲は、待機電流値I
Wを基準値とする第1の変動幅の範囲とする。第1の変動幅は、例えば、±αの値幅とすることができる。αは所定値であり、予め設定される。そして、電流計測値I
Mが小変動範囲内であれば、安定状態と判定する。
図2および
図3では、小変動範囲の上限値および下限値を一点鎖線で示している。
【0031】
そして、小変動条件を満たすと判定している間は、そのまま待機状態となる。一方、小変動条件を満たさないと判定した場合には、動作開始時判定処理を行う。具体的には、動作開始時判定処理では先ず、所定時間(以下「開始時判定時間」という)Taの間、動作開始条件を満たすか否かの判定を繰り返す。そして、小変動条件を満たさないと判定してから開始時判定時間Taが経過する前に動作開始条件を満たした場合に、当該動作開始条件を満たした時点を動作開始時と判定する。
【0032】
動作開始条件は、「電流計測値I
Mが変動許容範囲外となったこと」とする。変動許容範囲は、待機電流値I
Wを基準値とする第2の変動幅の範囲とする。第2の変動幅は、例えば、±βの値幅とすることができる。βは所定値であり、αよりも大きい値として予め設定される。
図2および
図3では、変動許容範囲の上限値および下限値を二点鎖線で示している。
【0033】
例えば、
図2の例では、電流計測値I
Mは、時点T1において、小変動範囲(I
W-α≦I
M≦I
W+α)の上限値(I
W+α)を超える値に変動している。そして、電流計測値I
Mは、それから開始時判定時間Taが経過する前の時点T3において、変動許容範囲(I
W-β≦I
M≦I
W+β)の上限値(I
W+β)を超える値に変動している。よって、当該変動の時点T3を動作開始時と判定して、踏切しゃ断機50の状態を「動作状態」に変更する。
【0034】
一方、小変動条件を満たさないと判定した時点から動作開始条件を満たさないまま開始時判定時間Taが経過した場合には、待機電流値IWが変動したとして、待機電流値IWをそのときの電流計測値IMで書き換え、待機電流値IWを更新設定する。これが、電流計測値に基づく待機電流値の更新設定制御である。
【0035】
例えば、
図3の例では、電流計測値I
Mは、時点T11において小変動範囲の上限値(I
W+α)を超える値に変動し、小変動条件を満たさなくなっている。そしてその後、小変動条件を満たさず、且つ、動作開始条件も満たさないまま(電流計測値I
Mが小変動範囲外で且つ変動許容範囲内のまま)、開始時判定時間Taが経過している。よって、当該経過の時点T31での電流計測値I
Mを、待機電流値I
Wとして更新設定する。電流計測値I
Mは踏切しゃ断機50に電力を供給する電源ライン3の通流電流であるため、電力供給元の給電電力が、例えば電力需給に応じて(例えば系統電力の変動に応じて)変動することで電流計測値I
Mも変動し得る。このような変動を捉えて待機電流値I
Wを電流計測値I
Mで更新する制御を行うことで、当該変動を加味した適切な小変動条件および動作開始条件に随時設定することができる。
【0036】
以上の動作開始時判定処理によれば、電流計測値IMが小変動範囲外となって安定状態ではなくなり、且つ、その後開始時判定時間Taが経過する前に変動許容範囲外となった場合に、当該変動許容範囲外となった時点を動作開始時と判定することができる。一方、安定状態から変動したものの、変動許容範囲内にとどまっているときには、小変動範囲および変動許容範囲の基準値となっている待機電流値IWを更新設定し、動作開始時とは判定しない。
【0037】
次に、動作終了時判定処理について説明する。本実施形態では、動作開始時判定処理で動作開始時と判定した場合に、動作終了時判定処理を開始する。
図2の例では、動作開始時と判定された時点T3で動作終了時判定処理を開始する。動作終了時判定処理には、終了初期条件を満たすか否かの判定と、収束条件を満たすか否かの判定との2つの判定が含まれる。
【0038】
終了初期条件は、「電流計測値IMが判定範囲内となったこと」とする。判定範囲は、例えば、待機電流値IWを基準値とした第2の変動幅の範囲とする。具体的には、待機電流値IWを基準とした±βの値幅の範囲を判定範囲とする。なお、第2の変動幅とは異なる第3の変動幅の範囲を判定範囲としてもよい。具体的には、第3の変動幅を±γの値幅とし、待機電流値IWを基準とした±γの値幅の範囲を判定範囲としてもよい。
【0039】
電流計測値IMが判定範囲内となって終了初期条件を満たした後は、電流計測値IMの変動が収束条件を満たすか否かの判定を行う。収束条件は、例えば、「電流計測値IMの変動が第1の変動幅以内のまま所定時間(以下「終了時判定時間」という)Tbが経過したこと」とする。そして、収束条件を満たした場合には、当該時点から終了時判定時間Tbを遡った時点を動作終了時と判定する。また、待機電流値IWを、動作終了時と判定した時点の電流計測値IMで書き換え、待機電流値IWを更新設定する。これが、電流計測値に基づく待機電流値の更新設定制御である。
【0040】
例えば、
図2の例では、電流計測値I
Mは、時点T4において判定範囲の上限値(I
W+β)を下回って判定範囲内となり、終了初期条件を満たすと判定する。そして、判定時点から遡って過去の終了時判定時間Tbの間の電流計測値I
Mの変動幅が第1の変動幅以内となった時点T6において、電流計測値I
Mの変動が第1の変動幅以内のまま終了時判定時間Tbが経過したこと、すなわち収束条件を満たしたと判定する。そして、時点T6から終了時判定時間Tbを遡った時点T5を動作終了時と判定し、当該時点T5以後の踏切しゃ断機50の状態を「待機状態」とする。また、動作終了時と判定した時点T5での電流計測値I
Mを、待機電流値I
Wとして更新設定する。
【0041】
これによれば、電流計測値IMが判定範囲内となり、変動する値幅が、終了時判定時間Tbの間、第1の変動幅以内にあるとして、電流計測値IMが収束したと判定できたときに、動作終了と判定することができる。そして、電流計測値IMの値幅が終了時判定時間Tbの間第1の変動幅以内にあると判定できた時点から、その終了時判定時間Tb前に遡った時点を、動作終了の時点として判定することができる。
【0042】
その後は、処理装置11は、動作開始時T3から動作終了時T5までの「動作状態」の時間を対象動作の動作時間として算出する。そして、算出した動作時間を各時点T3,T5の時刻情報と対応付けて動作時間データとし、記憶装置に蓄積・保存する。また、この動作時間データを中央装置60(
図1を参照)に送信する。動作時間を算出するたびに中央装置60に送信する構成としてもよいし、1日1回等の所定のタイミングで、記憶装置に蓄積された動作時間データをまとめて中央装置60に送信する構成としてもよい。
【0043】
中央装置60は、監視対象の踏切しゃ断機50毎に設置される動作時間監視装置10の処理装置11とネットワーク7を介して通信可能に接続され、当該踏切しゃ断機50毎に動作時間データを収集する。そして、その動作時間の時間長を基準の時間長と比較することにより、各踏切しゃ断機50における動作不良を検出する。具体的には、動作時間が許容最大時間長よりも長かったり、逆に許容最小時間長よりも短い場合には、その踏切しゃ断機50に動作不良が発生したと判定する。そして、動作不良を検出した場合は、その旨の警告出力を行う。例えば、メッセージの表示等によって動作不良が発生した踏切しゃ断機50を係員に報知したり、動作不良が発生した踏切しゃ断機50を示すランプを表示する等して実現できる。
【0044】
ここで、中央装置60は、踏切しゃ断機50毎に、当該踏切しゃ断機50に下降指令や上昇指令を指令する踏切制御回路40の指令時刻を別途収集することが可能に構成されている。例えば、警報開始点および警報終了点それぞれに設置された踏切制御子が列車通過を検知した信号を取得し、当該信号の取得時の時刻をもって指令時刻として記憶する。また、警報開始点の踏切制御子の検知信号か、警報終了点の踏切制御子の検知信号であるかの識別情報を、当該指令時刻と対応付けて記憶する。一方、踏切制御回路40もまた、踏切制御子からの検知信号に基づいてしゃ断桿の下降指令や上昇指令を踏切制御回路40に出力しているため、その時刻は、中央装置60が記憶する指令時刻と同じ時刻或いはほぼ同じ時刻となる。そのため、動作時間データに含まれている各時点T3,T5の時刻情報と、中央装置60が記憶している指令時刻とから、当該時刻に対応する踏切制御子が警報開始点であれば下降動作であり、警報終了点であれば上昇動作であるかを判別できる。そして、動作不良が発生したと判定した場合の警告出力に際し、判別した動作種類(上昇又は下降)を併せて提示することとしてもよい。これによれば、動作不良が発生した踏切しゃ断機50と、その動作種類とを係員に認知させることができ、速やかな保守・点検作業を実現することができる。
【0045】
[処理の流れ]
図4は、処理装置11が行う動作時間の算出および待機電流値I
Wの更新設定に係る処理の流れを説明するフローチャートである。
図4に示すように、先ず、動作時間算出部111が動作開始時判定処理を開始し、電流計測値I
Mが待機電流値I
Wに基づく小変動条件を満たすか否かの判定を繰り返し行う。
【0046】
そして、小変動条件を満たさないと判定した場合には(ステップS1:NO)、開始時判定時間Taが経過したかの計時を開始する(ステップS3)。その後、電流計測値IMに基づいて動作開始条件を満たすか否かの判定を繰り返す。
【0047】
そして、動作時間算出部111は、動作開始条件を満たさない場合には(ステップS5:NO)、ステップS3で計時を開始した開始時判定時間Taが経過していなければ(ステップS7:NO)、ステップS5に戻る。また、動作開始条件を満たさないまま(ステップS5:NO)、開始時判定時間Taが経過した場合には(ステップS7:YES)、待機電流値設定部113が、そのときの電流計測値IMで待機電流値IWを更新設定する(ステップS9)。その後、ステップS23に移行する。
【0048】
一方、ステップS5において動作開始条件を満たすと判定した場合には(ステップS5:YES)、動作時間算出部111が、当該動作開始条件を満たした時点を動作開始時と判定し、踏切しゃ断機50の状態を「動作状態」に設定する(ステップS11)。
【0049】
続いて、動作時間算出部111は、動作終了時判定処理を開始し、電流計測値IMに基づいて終了初期条件を満たすか否かの判定を繰り返し行う。そして、動作時間算出部111は、終了初期条件を満たすと判定した場合には(ステップS13:YES)、続いて、収束条件を満たすか否かの判定を繰り返し行う。
【0050】
そして、収束条件を満たした場合には(ステップS15:YES)、動作時間算出部111は、終了時判定時間Tbを遡った時点を動作終了時として判定し、踏切しゃ断機50の状態を「待機状態」に設定する(ステップS17)。また、待機電流値設定部113が、動作終了時と判定した時の電流計測値IMで待機電流値IWを更新設定する(ステップS19)。
【0051】
その後、動作時間算出部111が、ステップS11で動作開始時と判定して踏切しゃ断機50の状態を「動作状態」とした時点からステップS17で動作終了時と判定して踏切しゃ断機50の状態を「待機状態」とした時点までの時間を、対象動作に係る動作時間として算出する(ステップS21)。その際、算出した動作時間を動作開始時および動作終了時の時刻と対応付けて動作時間データとし、記憶装置に保存する。また、この動作時間データを、適宜のタイミングで中央装置60に送信する。その後、ステップS23に移行する。
【0052】
そして、ステップS23では終了判定を行い、本処理を終了するまでの間は(ステップS23:NO)、ステップS1に戻って上記した処理を繰り返す。
【0053】
以上説明したように、本実施形態によれば、電源ライン3に電流計測部13を設置し、その電流計測値IMが変動許容範囲を超えたことを判定することで、動作開始時を判定することができる。例えば、電流計測値IMが変動許容範囲を超えた時点を、動作開始時と判定することができる。また、動作開始時の判定の後に電流計測値IMが判定範囲内となって終了初期条件を満たし、且つ、その変動が収束条件を満たしたことを判定することで、動作終了時を判定することができる。例えば、電流計測値IMの変動が第1の変動幅以内のまま終了時判定時間Tbが経過したことを収束条件として判定し、収束条件を満たした時点から終了時判定時間Tbを遡った時点を、動作終了時と判定することができる。そして、判定した動作開始時と動作終了時とから、踏切しゃ断機50の上昇又は下降の動作に係る動作時間を算出することができる。したがって、当該上昇又は下降の動作時間を、踏切しゃ断機50の外部から簡単且つ適正に算出することが可能となる。
【0054】
また、電流計測値IMが小変動範囲を超えた場合に、待機電流値IWの更新設定制御を行うことができる。例えば、電流計測値IMが小変動範囲を超えた後、変動許容範囲内のままで開始時判定時間Taが経過した場合に、その時の電流計測値IMで待機電流値IWを更新設定し、次回以降の安定状態か否かの判定に用いることができる。また、動作終了時を判定した場合に、当該動作終了時の電流計測値IMで待機電流値IWを更新設定して、次回以降の安定状態か否かの判定に用いることができる。これによれば、踏切しゃ断機50の種類や外部環境の影響を受けずに、画一的な処理で動作時間を算出することが可能となる。
【0055】
なお、本発明を適用可能な形態は上記した実施形態に限定されるものではなく、適宜構成要素の追加・省略・変更を施すことができる。
【0056】
例えば、踏切制御回路40に入力される上昇指令および下降指令を処理装置11にも入力するようにし、上記した動作種類(上昇/下降)の識別を処理装置11が行う構成としてもよい。そして、識別した動作種類(上昇/下降)を動作時間データに含めて記憶装置に蓄積・保存しておくとともに、中央装置60に送信する構成としてもよい。また、処理装置11は、中央装置60に設ける構成としてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 踏切器具箱、10 動作時間監視装置、11 処理装置、111 動作時間算出部、113 待機電流値設定部、13 電流計測部、3 電源ライン、40 踏切制御回路、50 踏切しゃ断機、7 ネットワーク、60 中央装置