(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】リモート開放型踏切制御装置
(51)【国際特許分類】
B61L 29/08 20060101AFI20230712BHJP
【FI】
B61L29/08
(21)【出願番号】P 2019209748
(22)【出願日】2019-11-20
【審査請求日】2022-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001292
【氏名又は名称】株式会社京三製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】吉本 啓介
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 雅和
(72)【発明者】
【氏名】児玉 有司
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 雅信
(72)【発明者】
【氏名】林 晃平
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-141251(JP,A)
【文献】特開平4-215561(JP,A)
【文献】特開平11-020702(JP,A)
【文献】特開2003-054411(JP,A)
【文献】特開平7-137635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 29/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各列車の位置および進行方向を少なくとも含む在線情報を管理し、所定の踏切の踏切遮断機を遠隔制御可能なリモート開放型踏切制御装置であって、
前記所定の踏切の踏切位置を記憶する踏切位置記憶手段と、
列車運行が停止された旨の操作又は信号を入力することで運行停止を把握する運行停止把握手段と、
前記踏切遮断機の踏切状態が遮断状態か開放状態かを取得する踏切状態取得手段と、
前記運行停止把握手段による運行停止の把握がなされ、且つ、前記踏切状態が遮断状態である場合に、前記在線情報および前記踏切位置に基づいて、前記所定の踏切に係る踏切通過列車を判定する踏切通過列車判定手段と、
前記踏切通過列車が前記踏切位置に差し掛かっているか否かを判定する差し掛かり判定手段と、
前記差し掛かり判定手段により差し掛かっていないと判定された場合に、前記踏切遮断機を開放状態にする遠隔制御を行う開放制御手段と、
を備えたリモート開放型踏切制御装置。
【請求項2】
前記差し掛かり判定手段は、前記踏切位置を含む所定範囲と、前記踏切通過列車の位置および所与の列車長から求まる前記踏切通過列車の在線範囲とが重なるか否かに基づいて、前記踏切通過列車が前記踏切位置に差し掛かっているか否かを判定する、
請求項1に記載のリモート開放型踏切制御装置。
【請求項3】
前記在線情報は、各列車の速度を含み、
前記在線情報に基づいて、前記踏切通過列車が停止しているか否かを判定する停止判定手段、
を更に備え、
前記開放制御手段は、前記停止判定手段により前記踏切通過列車が停止していると判定され、且つ、前記差し掛かり判定手段により差し掛かっていないと判定された場合に、前記踏切遮断機を開放状態にする遠隔制御を行う
請求項1又は2に記載のリモート開放型踏切制御装置。
【請求項4】
列車運行が再開可能である旨の操作又は信号を入力することで運行再開を把握する運行再開把握手段と、
前記運行停止把握手段による運行停止の把握、および、前記開放制御手段による開放状態にする遠隔制御、がなされた後に、前記運行再開把握手段による運行再開の把握がなされた場合に、前記踏切遮断機を遮断状態にする遠隔制御を行う遮断制御手段と、
を更に備えた請求項1~3の何れか一項に記載のリモート開放型踏切制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、踏切を遠隔制御可能なリモート開放型踏切制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道と道路とが交差する踏切には、通行する歩行者や自動車を列車との衝突から防護し列車の安全な運行を確保するために踏切保安設備が設けられている。踏切保安設備の代表例が踏切遮断機である。踏切遮断機は、踏切への列車の接近によって遮断棹を降下させ、列車の踏切通過によって遮断棹を上昇させる。踏切への列車の接近および通過を検知する方法は、例えば、軌道回路の一種である踏切制御子を設置する方法が知られている。近年では、地上・車上間の無線通信を利用した列車制御システムを前提として、地上装置が、列車の位置および速度に応じて踏切の警報を開始および終了させる制御を行う方法も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した通り、列車の接近によって遮断棹を降下させて踏切の道路交通を遮断した遮断状態は、当該列車が踏切を通過するまで維持する。このため、遮断状態のときに当該列車が何らかの理由で停止すると、踏切の遮断状態はそのまま継続される。例えば、架線停電や列車防護無線の受信等の様々な理由によって付近一帯の全ての列車が緊急停止する運行停止となった場合には、安全確認がなされて列車運行が再開されるまで、全ての列車はその位置に停止したままとなる。遮断状態のときに列車の運行が停止されると、列車運行が再開されるまで長時間に亘って遮断状態が継続されるため、踏切を横断する道路交通も長時間阻害されてしまっていた。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、踏切の遮断状態の時に列車運行が停止した際の道路交通の長時間に亘る阻害を解消させ得る技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の発明は、
各列車の位置および進行方向を少なくとも含む在線情報を管理し、所定の踏切の踏切遮断機を遠隔制御可能なリモート開放型踏切制御装置であって、
前記所定の踏切の踏切位置を記憶する踏切位置記憶手段(例えば、
図6の踏切管理情報320)と、
列車運行が停止された旨の操作又は信号を入力することで運行停止を把握する運行停止把握手段(例えば、
図6の列車運行把握部204)と、
前記踏切遮断機の踏切状態が遮断状態か開放状態かを取得する踏切状態取得手段(例えば、
図6の踏切状態取得部206)と、
前記運行停止把握手段による運行停止の把握がなされ、且つ、前記踏切状態が遮断状態である場合に、前記在線情報および前記踏切位置に基づいて、前記所定の踏切に係る踏切通過列車を判定する踏切通過列車判定手段(例えば、
図6の踏切通過列車判定部208)と、
前記踏切通過列車が前記踏切位置に差し掛かっているか否かを判定する差し掛かり判定手段(例えば、
図6の差し掛かり判定部210)と、
前記差し掛かり判定手段により差し掛かっていないと判定された場合に、前記踏切遮断機を開放状態にする遠隔制御を行う開放制御手段(例えば、
図6の遮断機遠隔制御部214)と、
を備えたリモート開放型踏切制御装置である。
【0007】
第1の発明によれば、踏切に列車(踏切通過列車)が接近することで踏切が遮断状態の時に列車運行が停止した際に生じ得る長時間に亘る道路交通の阻害を解消させることができる。つまり、列車の運行停止の際に、踏切通過列車が停止し、且つ、踏切位置に差し掛かっていないならば、踏切横断に係る交通の安全を確保できるため、遮断状態である踏切遮断機を開放状態に遠隔制御することで、自動車や歩行者等の踏切の通行を可能とすることができる。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、
前記差し掛かり判定手段は、前記踏切位置を含む所定範囲(例えば、
図2の「差し掛かり範囲」)と、前記踏切通過列車の位置および所与の列車長から求まる前記踏切通過列車の在線範囲とが重なるか否かに基づいて、前記踏切通過列車が前記踏切位置に差し掛かっているか否かを判定する、
リモート開放型踏切制御装置である。
【0009】
第2の発明によれば、列車はある程度の長さを有するので、踏切通過列車の在線範囲が踏切位置を含む所定範囲と重なるか否かを判定することで、踏切通過列車の先頭位置或いは最後尾位置が踏切位置から所定距離以上離れていることを判定する。これにより、踏切通過列車が踏切位置を差し掛かっていないと判定することができる。
【0010】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、
前記在線情報は、各列車の速度を含み、
前記在線情報に基づいて、前記踏切通過列車が停止しているか否かを判定する停止判定手段(例えば、
図6の停止判定部212)、
を更に備え、
前記開放制御手段は、前記停止判定手段により前記踏切通過列車が停止していると判定され、且つ、前記差し掛かり判定手段により差し掛かっていないと判定された場合に、前記踏切遮断機を開放状態にする遠隔制御を行う、
リモート開放型踏切制御装置である。
【0011】
第3の発明によれば、更に、踏切通過列車が踏切位置に差し掛かっておらず、且つ、停止している場合に、遮断状態にある踏切遮断機を開放状態とすることができる。従って、踏切通過列車の停止を確認することで、踏切を通行する道路交通の一層の安全確保を期すことができる。
【0012】
第4の発明は、第1~第3の何れかの発明において、
列車運行が再開可能である旨の操作又は信号を入力することで運行再開を把握する運行再開把握手段(例えば、
図6の列車運行把握部204)と、
前記運行停止把握手段による運行停止の把握、および、前記開放制御手段による開放状態にする遠隔制御、がなされた後に、前記運行再開把握手段による運行再開の把握がなされた場合に、前記踏切遮断機を遮断状態にする遠隔制御を行う遮断制御手段(例えば、
図6の遮断機遠隔制御部214)と、
を更に備えたリモート開放型踏切制御装置である。
【0013】
第4の発明によれば、列車運行が再開されると、リモート開放型踏切制御装置が、開放状態にある踏切遮断機を遮断状態にする遠隔制御を行うことで、再度、道路交通を遮断し、踏切通過列車が踏切を通過できるようにする。これにより、踏切の安全確保を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図4】列車運行の再開による踏切遮断機の遮断の説明図。
【
図5】踏切通過列車が踏切に差し掛かっている一例。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態によって本発明が限定されるものではなく、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものでもない。また、図面の記載において、同一要素には同一符号を付す。
【0016】
[システム構成]
図1は、本実施形態のリモート開放型踏切制御装置10の適用例である。本実施形態のリモート開放型踏切制御装置10は、踏切における安全な列車運行を確保するための装置であり、例えば中央指令室に設置され、通信ネットワークNを介して、線路を走行する列車20に搭載された車上装置22との無線通信、および、踏切(Crossing)CRに設置された踏切保安設備30の踏切制御機32との無線通信が可能である。
【0017】
リモート開放型踏切制御装置10は、各列車20の位置や速度、上り方向や下り方向といった進行方向を含む在線情報を管理している。列車の“位置”は、キロ程で表現される線路上の位置とするが、緯度経度などの地理的位置情報でもよい。在線情報は、リモート開放型踏切制御装置10が、各列車20の車上装置22と無線通信を行うことで取得してもよいし、運行管理装置等の同じく中央指令室に設置された他の装置から取得してもよい。
【0018】
鉄道と道路とが交差する部分である踏切CRには、踏切遮断機34や踏切警報機36、踏切近傍の器具箱内に設置されてこれらの各機器を制御する踏切制御機32、といった踏切保安設備30が設けられている。踏切制御機32は、無線通信装置を有しており、通信ネットワークNを介して、リモート開放型踏切制御装置10や運行管理装置といった中央指令室に設置された各装置との無線通信が可能である。そして、踏切制御機32は、運行管理装置やリモート開放型踏切制御装置10等から受信した制御情報に従って、踏切遮断機34の遮断棹の降下や上昇、踏切警報機36の鳴動の開始や終了といった踏切CRの警報制御を行うとともに、踏切遮断機34の踏切状態を示す信号を、リモート開放型踏切制御装置10へ送信する。踏切遮断機34の“踏切状態”とは、踏切遮断機34の遮断棹が降下しているか上昇しているかの状態を表し、具体的には、遮断棹が降下している“遮断状態”と、遮断棹が上昇している“開放状態”とを含む。本実施形態では、“遮断状態”には、踏切遮断機24の降下のみならず、当該踏切CRの踏切警報機36の鳴動や警報灯の点滅を含み、当該踏切CRと交差する道路交通の通行が不可能な状態を意味する。同様に、“開放状態”には、踏切遮断機24の上昇のみならず、踏切警報機36の鳴動停止や警報灯の滅灯を含み、当該踏切CRと交差する道路交通の通行が可能な状態を意味する。なお、“開放状態”については、踏切遮断機24は上昇しているが、踏切警報機36の鳴動や警報灯の点滅は継続している状態としても良い。
【0019】
リモート開放型踏切制御装置10は、列車の位置等により定められた制御条件に基づく警報開始や終了などの警報制御とは別制御として、踏切遮断機34の遠隔制御が可能である。このことを利用して、リモート開放型踏切制御装置10は、列車運行が停止された際に、在線情報に基づく踏切周辺の列車位置に応じて当該踏切の踏切遮断機34を遠隔制御することで、列車の運行停止の長時間に亘る踏切遮断の継続を回避する。具体的には、列車の運行停止を把握した場合に、踏切遮断機34の踏切状態が遮断状態であり、且つ、踏切位置に差し掛かっている列車がいないならば、遮断状態であった踏切遮断機34を開放状態とするように遠隔制御して、踏切CRと交差する道路交通の通行を可能とする。そして、運行再開を把握すると、開放状態とした踏切遮断機34を、再度、遮断状態とするように遠隔制御して、踏切CRの道路交通を遮断する。“列車の運行停止”とは、本実施形態では、例えば、架線停電や列車防護無線の受信等による対象範囲の全列車の停止を意味する。運行停止と判定する対象範囲は、例えば、リモート開放型踏切制御装置10の制御対象範囲としてもよいし、き電範囲等に基づいて当該制御対象範囲内を分割した複数の分割範囲のうちの踏切CRを含む範囲としてもよい。リモート開放型踏切制御装置10は、列車の運行停止や運行再開を、運行管理装置等の外部装置からの信号入力や、指令員の操作入力によって把握する。また、列車の運行停止から運行再開までの見込み時間が所定時間以上となるような運行停止を“列車の運行停止”に含めてもよい。
【0020】
詳細に説明すると、リモート開放型踏切制御装置10は、運行停止を把握すると、管理している踏切CRのうちから、踏切遮断機34の踏切状態が遮断状態である踏切CRを抽出する。踏切遮断機34の踏切状態は、該当する踏切制御機32から受信して取得する。そして、抽出した踏切CRの近傍に在線する踏切通過列車を判定し、判定した踏切通過列車が、踏切CRに差し掛かっているか否かを判定する。
【0021】
図2は、踏切通過列車の判定を説明する図である。
図2では、説明の簡明のため、1本の線路と交差する1つの踏切CRを例示し、進行方向が一方向(図中の右方向:下り方向)の列車のみを例示しているが、列車の進行方向が異なる複数本の線路と交差する踏切についても同様である。
図2に示すように、踏切CRには、踏切位置を含む範囲である踏切通過範囲が定められる。踏切通過範囲は、踏切CRに接近している列車20がその範囲内に位置するように定められ、例えば踏切CRの警報制御の開始点から終了点までの範囲とすることができる。この踏切通過範囲に位置する列車20が、踏切通過列車として判定される。また、踏切通過範囲の一部範囲であって踏切位置を含む差し掛かり範囲が定められている。この差し掛かり範囲に位置する踏切通過列車が踏切位置に差し掛かっていると判定され、位置しない踏切通過列車が差し掛かっていないと判定される。なお、
図2では、進行方向が一方向の列車のみを示しているが、踏切通過範囲および差し掛かり範囲は、上り方向や下り方向といった異なる複数の進行方向別に定められる。
【0022】
差し掛かり範囲は、踏切遮断機34を開放状態とすることで生じ得る危険を回避するために定められる。つまり、列車20が踏切上に停止している場合には、当該踏切と交差する道路交通は通行できないため、踏切遮断機34を遮断状態としておきたい。また、後述のように列車20の停止を確認した上で踏切遮断機34を開放状態とするが、列車20が踏切の近傍に停止している場合には、万が一列車20が誤って動き出した場合に非常に危険であるので、踏切遮断機34を遮断状態としておきたい。このように、踏切上および近傍に列車20が停止している場合、踏切遮断機34を開放状態にすると、踏切に誤って進入しようとする車や、列車20と踏切とのぎりぎりの隙間を横断しようとする歩行者が想定されるため、踏切に差し掛かっている列車20がいる場合には踏切遮断機34を開放状態にさせないために、差し掛かり範囲が定められる。また、列車20の位置に生じる誤差を想定して、踏切を含む範囲を差し掛かり範囲として定めている。
【0023】
リモート開放型踏切制御装置10は、列車20の“位置”を、例えば先頭車両の先端部といった当該列車の所定箇所の位置として在線情報を管理している。列車20の位置は、キロ程で表現される。そして、踏切通過範囲については、列車20の位置が踏切通過範囲内であるか否かによって、当該列車20が踏切通過範囲に位置するか否かを判定する。また、差し掛かり範囲については、列車20の位置から求まる在線範囲が差し掛かり範囲に重なるか否かによって、当該列車20が差し掛かり範囲に位置するか否かを判定する。列車20の在線範囲は、列車の位置を基準として、当該列車20の列車長に所定の余裕距離を加算した長さの範囲として求められる。
図2の例では、列車20Bが、踏切通過範囲に位置しており、且つ、差し掛かり範囲には位置していないので、踏切通過列車であり、踏切位置には差し掛かっていない、と判定される。列車20A,20Cは、踏切通過範囲に位置していないので、踏切通過列車ではない。
【0024】
リモート開放型踏切制御装置10は、踏切遮断機34が遮断状態である踏切CRについて、踏切通過列車の何れも踏切位置に差し掛かっていないと判定したならば、続いて、当該踏切CRの踏切遮断機34を開放する。
図3は、踏切遮断機34の開放を説明する図である。
図3に示すように、リモート開放型踏切制御装置10は、踏切通過列車が停止しているか否かを判定する(
図3の(1))。全ての踏切通過列車が停止していると判定したならば、踏切遮断機34を開放状態にする遠隔制御を行う(
図3の(2))。踏切遮断機34の遠隔制御は、踏切遮断機34を開放状態とさせる制御情報を踏切制御機32に送信し、踏切制御機32が、受信した制御情報に従って踏切遮断機34の遮断棹を上昇させて開放状態にさせることでなされる。なお、踏切遮断機34の遮断棹を上昇させる際に、併せて踏切警報機36の鳴動や警報灯の点滅を停止させるとしても良いし、停止させずに踏切警報機36の鳴動や警報灯の点滅を継続させるとしてもよい。
【0025】
踏切遮断機34を開放することにより、道路交通が踏切を通行できるようになる。その際、踏切周辺の踏切通過列車は停止しており、踏切の安全性が確保されているが、万一踏切通過列車が踏切に接近しないよう、抑止処理を行う(
図3の(3))。抑止処理としては、例えば、踏切外方での停車を指示する信号を踏切通過列車に送信するといった処理や、踏切が開放状態となっていることを通告する信号を踏切通過列車に送信するといった処理で実現することができる。また、踏切通過列車が踏切位置に差し掛かっていない。つまり、踏切内や踏切近傍には列車が在線していないので、踏切における道路交通の通行を妨げることがない。また、踏切の直近位置に停止している列車もいないため、踏切における道路交通に不安感を与えることもない。
【0026】
その後、リモート開放型踏切制御装置10は、列車運行の再開が可能であることを把握すると、開放した踏切遮断機34を、再度、遮断する。
図4は、踏切遮断機34の遮断を説明する図である。
図4に示すように、リモート開放型踏切制御装置10は、先ず、踏切遮断機34を遮断状態にする遠隔制御を行う(
図4の(1))。続いて、踏切通過列車が踏切に接近しないように行った抑止処理を解除するための抑止解除処理を行う(
図4の(2))。抑止解除処理は、抑止処理(
図3の(3))に対応する処理であり、例えば、踏切外方での停車の指示を解除する信号を踏切通過列車に送信するといった処理や、踏切が遮断状態になっていることを踏切通過列車に通告する信号を送信するといった処理で実現することができる。このように、踏切遮断機34を遮断状態にして道路交通を遮断した後に、踏切通過列車に対して踏切への進入が可能となるので、踏切の安全性が確保される。
【0027】
また、リモート開放型踏切制御装置10は、踏切遮断機34が遮断状態である踏切CRについて、踏切通過列車が踏切位置に差し掛かっていると判定したならば、当該踏切CRの踏切遮断機34を開放せず、遮断状態のままとする。
図5は、踏切通過列車が踏切位置に差し掛かっている状態の一例である。
図5の例では、列車20Dが、踏切通過範囲に位置し、且つ、差し掛かり範囲にも位置しているため、踏切位置に差し掛かっている通過列車と判定される。このような列車が存在する場合には、リモート開放型踏切制御装置10は、踏切遮断機34を遮断状態のまま継続させる。
【0028】
[機能構成]
図6は、リモート開放型踏切制御装置10の機能構成を示すブロック図である。
図6によれば、リモート開放型踏切制御装置10は、操作部102と、表示部104と、音出力部106と、無線通信部108と、有線通信部110と、処理部200と、記憶部300とを備え、一種のコンピュータシステムとして構成することができる。
【0029】
操作部102は、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、各種スイッチ等の入力装置で実現され、なされた操作に応じた操作信号を処理部200に出力する。表示部104は、例えば液晶ディスプレイやタッチパネル等の表示装置で実現され、処理部200からの表示信号に応じた各種表示を行う。音出力部106は、例えばスピーカ等の音声出力装置で実現され、処理部200からの音声信号に応じた各種音出力を行う。無線通信部108は、無線通信装置で実現され、通信ネットワークNに接続して、各列車20の車上装置22や、踏切保安設備30の踏切制御機32といった各種の外部装置との無線通信を行う。有線通信部110は、有線通信装置で実現され、列車運行管理装置といった各種の外部装置との有線通信を行う。
【0030】
処理部200は、CPU(Central Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の演算装置や演算回路で実現されるプロセッサーであり、記憶部300に記憶されたプログラムやデータ、操作部102からの入力データ等に基づいて、リモート開放型踏切制御装置10の全体制御を行う。また、処理部200は、機能的な処理ブロックとして、在線管理部202と、列車運行把握部204と、踏切状態取得部206と、踏切通過列車判定部208と、差し掛かり判定部210と、停止判定部212と、遮断機遠隔制御部214と、出発制御部216とを有する。処理部200が有するこれらの各機能部は、処理部200がプログラムを実行することでソフトウェア的に実現することも、専用の演算回路で実現することも可能である。本実施形態では、前者のソフトウェア的に実現することとして説明する。
【0031】
在線管理部202は、各列車20の位置や速度、進行方向を含む在線情報310を管理する。在線情報310は、各列車20の車上装置22と無線通信部108を介した無線通信を行うことで取得してもよいし、運行管理装置等の他の装置から有線通信部110を介した有線通信を行うことで取得してもよい。
【0032】
列車運行把握部204は、列車運行が停止された旨の操作又は信号を入力することで運行停止を把握する。また、列車運行が再開された旨の操作又は信号を入力することで運行再開を把握する。具体的には、列車運行把握部204は、操作部102を介した指令員の操作入力や、有線通信部110や無線通信部108を介した運行管理装置等の外部装置からの所定の信号入力によって、列車の運行停止や運行再開を把握する。列車の運行停止とは、本実施形態では、架線停電や列車防護無線の受信等による対象範囲の全列車の停止を意味する。
【0033】
踏切状態取得部206は、踏切制御機32から踏切遮断機34の踏切状態を示す信号を受信することで、踏切遮断機34の踏切状態が遮断状態か開放状態かを取得する。踏切遮断機34の遮断状態とは、少なくとも踏切遮断機34の遮断棹が降下している状態であり、開放状態とは、少なくとも遮断棹が上昇している状態である。
【0034】
踏切通過列車判定部208は、列車運行把握部204による運行停止の把握がなされ、且つ、踏切状態取得部206によって取得された踏切遮断機34の踏切状態が遮断状態である場合に、在線情報310および踏切位置に基づいて、踏切に係る踏切通過列車を判定する。具体的には、列車の運行停止が把握されると、管理している踏切のうちから踏切遮断機34の踏切状態が遮断状態である踏切を抽出する。そして、抽出した踏切に定められた踏切通過範囲に位置する列車を、当該踏切に係る踏切通過列車として判定する(
図2参照)。踏切遮断機34の踏切状態や、踏切の踏切通過範囲は、該当する踏切管理情報320において管理しており(
図7参照)、列車の位置は、在線情報310において管理している。
【0035】
差し掛かり判定部210は、踏切位置を含む所定範囲と、踏切通過列車の位置および所与の列車長から求まる踏切通過列車の在線範囲とが重なるか否かに基づいて、踏切通過列車が踏切位置に差し掛かっているか否かを判定する。具体的には、踏切通過列車判定部208によって判定された踏切通過列車の位置を基準として、該列車の列車長に所定の余裕距離を加算した長さの範囲として当該列車の在線範囲を求める。そして、求めた列車の在線範囲が差し掛かり範囲と重なるならば、当該踏切通過列車が踏切位置に差し掛かっていると判定し、重ならないならば差し掛かっていないと判定する。
【0036】
停止判定部212は、在線情報310に基づいて、踏切通過列車が停止しているか否かを判定する。つまり、在線情報310において管理している踏切通過列車の速度がゼロならば、当該踏切通過列車が停止していると判定する。
【0037】
遮断機遠隔制御部214は、停止判定部212により踏切通過列車が停止していると判定され、且つ、差し掛かり判定部210により踏切通過列車が踏切に差し掛かっていないと判定された場合、出発制御部216による出発抑止処理が完了した後に、踏切遮断機34を開放状態にする遠隔制御を行う(
図3参照)。また、列車運行把握部204による運行停止の把握、出発制御部216による出発抑止処理、および、遮断機遠隔制御部214による踏切遮断機34を開放制御にする遠隔制御、がなされた後に、列車運行把握部204による運行再開の把握がなされた場合に、踏切遮断機34を遮断状態にする遠隔制御を行う(
図4参照)。踏切遮断機34の遠隔制御は、踏切遮断機34を開放状態或いは遮断状態とさせる制御情報を踏切制御機32に送信することで実現され、踏切遮断機34の動作自体は、踏切制御機32が、受信した制御情報に従って踏切遮断機34の遮断棹を降下又は上昇させる駆動制御を行うことで実現される。
【0038】
出発制御部216は、差し掛かり判定部210により踏切通過列車が踏切に差し掛かっていないと判定された場合に、万一踏切通過列車が踏切に接近しないよう、抑止処理を行う。抑止処理としては、例えば、踏切外方での停車を指示する信号を踏切通過列車に送信する、あるいは踏切が開放状態になっていることを踏切通過列車に通告する信号を送信する、等である(
図3参照)。また、遮断機遠隔制御部214による踏切遮断機34を遮断状態にする遠隔制御の後に、踏切通過列車が踏切に接近しないように行った抑止処理を解除するための抑止解除処理を行う。抑止解除処理としては、例えば、踏切外方に停車する指示を解除する信号を踏切通過列車に送信する、あるいは踏切が遮断状態になっていることを通告する信号を踏切通過列車に送信する、等である(
図4参照)。
【0039】
記憶部300は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等のIC(Integrated Circuit)メモリやハードディスク等の記憶装置で実現され、処理部200がリモート開放型踏切制御装置10を統合的に制御するためのプログラムやデータ等を記憶しているとともに、処理部200の作業領域として用いられ、処理部200が実行した演算結果や、操作部102からの入力データ等が一時的に格納される。本実施形態では、記憶部300には、踏切制御プログラム302と、在線情報310と、踏切管理情報320と、運行停止フラグ330とが記憶される。
【0040】
運行停止フラグ330は、列車運行が停止されているか否かを示すフラグである。列車運行が停止されているか否かは、列車運行把握部204により把握される。
【0041】
図7は、踏切管理情報320の一例を示す図である。
図7に示すように、踏切管理情報320は、踏切毎に、当該踏切の識別情報である踏切IDと、踏切位置と、踏切状態と、遮断機制御履歴情報とを対応付けて格納している。踏切位置は、キロ程で表現される線路に沿った位置である。踏切状態は、当該踏切の踏切遮断機34が、遮断棹が降下している遮断状態か、遮断棹が上昇している開放状態かを示す情報を格納する。踏切状態は、当該踏切遮断機34を制御する踏切制御機32から受信する。遮断機制御履歴情報は、列車の運行停止の際に当該踏切の踏切遮断機34を遠隔制御した履歴であり、列車運行が停止された時刻と、列車運行が再開された時刻と、運行停止中に判定した踏切通過列車の列車番号とを対応付けて格納している。
【0042】
[処理の流れ]
図8は、リモート開放型踏切制御装置10が行う踏切制御処理を説明するフローチャートである。この処理は、リモート開放型踏切制御装置10が管理する各踏切CRを対象として並列的に行われる。
【0043】
列車運行把握部204が列車の運行停止を把握すると(ステップS1:YES)、対象踏切CRの踏切遮断機34の踏切状態が遮断状態ならば(ステップS3:YES)、踏切通過列車判定部208が、対象踏切CRに係る踏切通過列車を判定する(ステップS5)。次いで、差し掛かり判定部210が、判定された踏切通過列車が踏切位置に差し掛かっているか否かを判定し、何れの踏切通過列車も踏切に差し掛かっていないならば(ステップS7:NO)、続いて、停止判定部212が、踏切通過列車が停止しているかを判定する。全ての踏切通過列車が停止していると判定したならば(ステップS9:YES)、遮断機遠隔制御部214が、対象踏切CRの踏切遮断機34を、遮断状態から開放状態にする遠隔制御を行う(ステップS11)。そして、出発制御部216が、踏切通過列車が踏切に接近しないよう、抑止処理を行う(ステップS13)。
【0044】
対象踏切CRの踏切遮断機34の踏切状態が開放状態である場合や(ステップS3:NO)、何れかの踏切通過列車が踏切位置に差し掛かっていると判定された場合(ステップS7:YES)、踏切通過列車が停止していないと判定された場合には(ステップS9:NO)、対象踏切CRの踏切遮断機34の踏切状態をそのままとし、ステップS1に戻る。
【0045】
その後、列車運行把握部204が、列車運行の再開を把握したならば(ステップ15:YES)、遮断機遠隔制御部214が、対象踏切CRの踏切遮断機34を、開放状態から遮断状態にする遠隔制御を行う(ステップS17)。そして、出発制御部216が、踏切通過列車が踏切に接近しないように行った抑止処理を解除するための抑止解除処理を行う(ステップS19)。以上の処理を行うと、ステップS1に戻り、次回の運行停止に対して同様の処理を行う。
【0046】
[作用効果]
このように、本実施形態のリモート開放型踏切制御装置10によれば、踏切が遮断状態の時に列車運行が停止した際に生じ得る長時間に亘る道路交通の阻害を解消させることができる。つまり、リモート開放型踏切制御装置10の列車運行把握部204が列車の運行停止を把握すると、踏切遮断機34が遮断状態である踏切CRについて、当該踏切CRに係る踏切通過列車が踏切位置に差し掛かっておらず、且つ、停止しているならば、踏切横断に係る交通の安全を確保できるため、踏切通過列車の出発を抑止する出発抑止処理を行った後に、遮断状態である踏切遮断機34を開放状態に遠隔制御する。これにより、踏切CRを開放して自動車や歩行者等の踏切CRの通行を可能とすることができる。
【0047】
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【符号の説明】
【0048】
10…リモート開放型踏切制御装置
200…処理部
202…在線管理部
204…列車運行把握部
206…踏切状態取得部
208…踏切通過列車判定部
210…差し掛かり判定部
212…停止判定部
214…遮断機遠隔制御部
216…出発制御部
300…記憶部
302…踏切制御プログラム
310…在線情報
320…踏切管理情報
330…運行停止フラグ
30…踏切保安設備
32…踏切制御機
34…踏切遮断機
36…踏切警報機
20…列車
22…車上装置