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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/22 20060101AFI20230712BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20230712BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20230712BHJP
   D07B 1/06 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
B60C9/22 B
B60C1/00 A
B60C11/00 B
B60C11/00 D
D07B1/06 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019225832
(22)【出願日】2019-12-13
(65)【公開番号】P2021094917
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】松本 恭平
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-247738(JP,A)
【文献】国際公開第2016/098505(WO,A1)
【文献】特開平01-174547(JP,A)
【文献】特開2019-116574(JP,A)
【文献】国際公開第2018/190308(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/190309(WO,A1)
【文献】特開2017-210191(JP,A)
【文献】国際公開第2017/203766(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/22
B60C 1/00
B60C 11/00
D07B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接地部を形成するトレッド部に、少なくとも1層のベルト層からなるベルトを備えるタイヤにおいて、
前記ベルト層が、撚り合わされずに一列に引き揃えられた複数本の金属フィラメントからなる補強素子をエラストマーにより被覆してなり、
前記トレッド部のベーストレッドが、0℃におけるtanδの値である0℃tanδと、30℃におけるtanδの値である30℃tanδとの比率0℃tanδ/30℃tanδが、2.90以上であるゴム組成物からなり、かつ、
前記ゴム組成物が、ゴム成分として、スチレン量が26質量%以上のスチレンブタジエンゴムを含むことを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
前記補強素子が、2本以上20本以下の金属フィラメントからなる金属フィラメント束である請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記金属フィラメント同士の間の最小隙間距離が、0.01mm以上0.24mm未満である請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記金属フィラメント同士の間の最大隙間距離が、0.25mm以上2.0mm以下である請求項1~3のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項5】
前記金属フィラメントの線径が、0.15mm以上0.40mm以下である請求項1~4のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項6】
前記30℃tanδが、0.075~0.220である請求項1~5のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項7】
前記0℃tanδが、0.200~0.625である請求項1~6のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項8】
前記ゴム組成物が、ゴム成分として、天然ゴムをさらに含む請求項1~7のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項9】
前記ゴム組成物が、ゴム成分として、ブタジエンゴムをさらに含む請求項1~8のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項10】
前記ゴム組成物が、ゴム成分として、前記天然ゴムを10~75質量%、前記ブタジエンゴムを10~75質量%、前記スチレンブタジエンゴムを15~60質量%含む請求項1~9のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤに関し、詳しくは、撚り合わされずに引き揃えられた複数本の金属フィラメントからなる補強素子を、エラストマーで被覆してなるベルト層を備えた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、強度が必要とされるタイヤの内部には、リング状のタイヤ本体の子午線方向に沿って埋設された補強コードを含むカーカスが配置され、カーカスのタイヤ半径方向外側には、ベルト層が配置される。このベルト層は通常、スチール等の金属コードをエラストマーで被覆してなるエラストマー-金属コード複合体を用いて形成され、タイヤに耐荷重性、耐牽引性等を付与している。
【0003】
近年、自動車の燃費を向上させるために、タイヤを軽量化する要求が高まっている。タイヤの軽量化の手段として、ベルト補強用の金属コードが注目され、金属フィラメントを撚らずにベルト用コードとして使用する技術が多数公開されている。例えば、特許文献1には、単一のモノフィラメントからなるスチールコード本体の周囲に熱可塑性樹脂中にエラストマーを分散させた熱可塑性エラストマー組成物を被覆したタイヤ補強用スチールコード、および、これを使用したタイヤが開示されている。また、特許文献2には、同一の径の2~6本の主フィラメントを、撚り合わせることなく単一の層をなすように並列させて主フィラメント束とし、主フィラメントより小径で真直の1本のスチールフィラメントをラッピングフィラメントとして主フィラメント束の周囲に巻き付けてなるスチールコードを、タイヤベルト層に用いた空気入りラジアルタイヤが開示されている。
【0004】
また、自動車の燃費を向上させるために、タイヤのトレッドのベース部を構成するゴム部材であるベーストレッドについて改良を図る技術も知られている。例えば、特許文献3には、ゴム成分や充填剤の調整によって発熱性が改良され、すなわち、tanδが低く抑えられたゴム組成物を、ベーストレッドに適用する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-053495号公報
【文献】特開2012-106570号公報
【文献】特開2016-006135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、タイヤの改良に関しては従来より種々検討がなされてきているが、十分なものではなく、低転がり抵抗であって耐セパレーション性に優れるとともに、ベルト面内剛性が高く、車両通過時にタイヤから発生する騒音、いわゆる通過騒音を抑制できるタイヤの実現が求められていた。
【0007】
これに対し、特許文献1や特許文献2に記載されているように、金属のモノフィラメントをエラストマーで被覆してベルトコードを形成することで、ベルトの薄ゲージ化による軽量化を図るとともに、ベルトの面内剛性を向上することができ、さらにモノフィラメントを束として用いれば、モノフィラメント束間の距離の確保による耐ベルトエッジセパレーション(BES)性の向上も図ることができるが、転がり抵抗や通過騒音の問題については検討されていない。また、特許文献3に記載されているように、ゴム組成物の損失正接tanδを低く抑えた場合、転がり抵抗は向上できるが、通過騒音が悪化するという問題があった。
【0008】
そこで本発明の目的は、低転がり抵抗であって耐セパレーション性に優れるとともに、ベルト面内剛性が高く、さらに、通過騒音についても抑制できるタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解消するために鋭意検討した結果、ベルト層に、撚り合わされずに一列に引き揃えられた複数本の金属フィラメントからなる補強素子を用いるとともに、トレッド部のベーストレッドに、所定の物性値を満足するゴム組成物を用いることで、上記課題を解消できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、接地部を形成するトレッド部に、少なくとも1層のベルト層からなるベルトを備えるタイヤにおいて、
前記ベルト層が、撚り合わされずに一列に引き揃えられた複数本の金属フィラメントからなる補強素子をエラストマーにより被覆してなり、
前記トレッド部のベーストレッドが、0℃におけるtanδの値である0℃tanδと、30℃におけるtanδの値である30℃tanδとの比率0℃tanδ/30℃tanδが、2.90以上であるゴム組成物からなり、かつ、
前記ゴム組成物が、ゴム成分として、スチレン量が26質量%以上のスチレンブタジエンゴムを含むことを特徴とするものである。
【0011】
本発明のタイヤにおいては、前記補強素子が、2本以上20本以下の金属フィラメントからなる金属フィラメント束であることが好ましい。また、本発明のタイヤにおいては、前記金属フィラメント同士の間の最小隙間距離が、0.01mm以上0.24mm未満であることが好ましい。さらに、本発明のタイヤにおいては、前記金属フィラメント同士の間の最大隙間距離が、0.25mm以上2.0mm以下であることが好ましい。さらにまた、本発明のタイヤにおいては、前記金属フィラメントの線径が、0.15mm以上0.40mm以下であることが好ましい。
【0012】
さらにまた、本発明のタイヤにおいては、前記30℃tanδが、0.075~0.220であることが好ましく、前記0℃tanδが、0.200~0.625であることも好ましい。さらにまた、本発明のタイヤにおいては、前記ゴム組成物が、ゴム成分として、天然ゴムをさらに含むことがより好ましく、前記ゴム組成物が、ゴム成分として、ブタジエンゴムをさらに含むこともより好ましい。特には、前記ゴム組成物が、ゴム成分として、前記天然ゴムを10~75質量%、前記ブタジエンゴムを10~75質量%、前記スチレンブタジエンゴムを15~60質量%含むことがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低転がり抵抗であって耐セパレーション性に優れるとともに、ベルト面内剛性が高く、さらに、通過騒音についても抑制できるタイヤを提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤの概略片側断面図である。
図2】本発明の一好適な実施の形態に係るベルト層の幅方向における部分断面図である。
図3図2に示すベルト層における補強素子の一構成例に係る金属コードを示す概略平面図である。
図4】本発明においてベルト層に適用できる補強素子の他の構成例に係る金属コードを示す概略平面図である。
図5】本発明においてベルト層に適用できる補強素子のさらに他の構成例に係る金属コードを示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のタイヤについて、図面を用いて詳細に説明する。
【0016】
図1に、本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤの概略片側断面図を示す。図示するタイヤ100は、接地部を形成するトレッド部101と、このトレッド部101の両側部に連続してタイヤ半径方向内方へ延びる一対のサイドウォール部102と、各サイドウォール部102の内周側に連続するビード部103とを備えた空気入りタイヤである。
【0017】
本発明のタイヤは、図示するように、一対のビード部103間にトロイド状に延在して、トレッド部101、サイドウォール部102およびビード部103を補強する少なくとも1枚、図示する例では1枚のカーカスプライからなるカーカス104を骨格とする。また、カーカス104のクラウン部タイヤ半径方向外側には、トレッド部101を補強する少なくとも1層のベルト層、図示する例では2層の第1ベルト層105aおよび第2ベルト層105bからなるベルト105が配置されている。ここで、カーカスプライは2枚以上であってもよく、ベルト層は2層以上であってもよく、3層以上であってもよい。
【0018】
本発明においては、ベルト105が、撚り合わされずに一列に引き揃えられた複数本の金属フィラメントからなる補強素子をエラストマーにより被覆してなるベルト層により形成されるとともに、トレッド部101のベーストレッドが、下記に詳述する物性値を満足するゴム組成物により形成される点が重要である。これにより、後述するように、低転がり抵抗であって耐セパレーション性に優れるとともに、ベルト面内剛性が高く、さらに、通過騒音についても抑制できるタイヤを実現することが可能となった。
【0019】
まず、本発明のタイヤに係るベルト層の構成について、図面を用いて詳細に説明する。図2は、本発明の一好適な実施の形態に係るベルト層の幅方向における部分断面図である。また、図3は、図2に示すベルト層における補強素子の一構成例に係る金属コードを示す概略平面図である。
【0020】
本発明に係るベルト層は、撚り合わされずに一列に引き揃えられた複数本の金属フィラメント1からなる補強素子2を、ベルト層用エラストマー3により被覆して形成されている。このような構成とすることで、ベルト層の厚みを薄くすることができ、タイヤの軽量化を図ることができるとともに、ベルトの面内剛性を向上することができる。
【0021】
図示する例では、補強素子2は、複数本の金属フィラメント1が、撚り合わされずに一列に引き揃えられた束からなる金属コード2であるが、本発明においてはこれに限られない。本発明における補強素子2は、撚り合わされずに一列に引き揃えられた複数本の金属フィラメント1が、均等に配置されているものであってもよい。特には、補強素子2は、複数本の金属フィラメント1が、撚り合わされずに一列に引き揃えられた束からなる金属コード2であることが好ましい。
【0022】
なお、本発明においては、ベルト層における金属フィラメント1は、実質的に真直の金属フィラメントであることが好ましいが、波型やジグザグ状のように2次元に型付けされた金属フィラメントを用いてもよく、螺旋状のように3次元型付けされたものを用いてもよい。ここで、真直の金属フィラメントとは、意図的に型付けをしておらず、実質的に型がついていない状態の金属フィラメントを指す。
【0023】
図4,5に、本発明においてベルト層に適用できる補強素子の他の構成例に係る金属コードを示す概略平面図を示す。図4に示す金属コード2Aは、型付けされていない真直の金属フィラメント1bとジグザグ状に型付けされた金属フィラメント1aとが交互に配置されて形成されている。図5に示す金属コード2Bは、波型に型付けされた金属フィラメント1cが、隣り合う金属フィラメント間でそれぞれの金属フィラメントの位相が異なるように、交互に配置されて形成されている。
【0024】
補強素子2が、図示するような束からなる金属コード2である場合、金属フィラメント1は、好適には2本以上、より好適には5本以上であって、好適には20本以下、より好適には12本以下、さらに好適には10本以下、特に好適には9本以下の金属フィラメント束で金属コード2を構成する。図示する例においては、5本の金属フィラメント1が、撚り合わされずに引き揃えられて、金属コード2を形成している。
【0025】
本発明においては、補強素子2を構成する金属フィラメント1同士の間の最小隙間距離が、0.01mm以上0.24mm未満であることが好ましい。隣り合う金属フィラメント1同士の間の最小隙間距離を、0.01mm以上とすることで、ベルト層用エラストマー3を十分に金属フィラメント1同士の間に十分に浸透させることが可能となる。一方、上記最小隙間距離を0.24mm未満とすることで、金属フィラメント1同士の間におけるセパレーションの発生を抑制できる。補強素子2を構成する金属フィラメント1同士の間の最小隙間距離は、より好適には0.03mm以上0.20mm以下、さらに好適には0.03mm以上、0.18mm以下である。
【0026】
なお、補強素子2が、図示するような束からなる金属コード2である場合、金属コード2を構成する金属フィラメント1同士の間隔w1が、上記最小隙間距離に相当する。
【0027】
また、本発明においては、補強素子2を構成する金属フィラメント1同士の間の最大隙間距離が、好適には0.25mm以上2.0mm以下、より好適には0.3mm以上、1.8mm以下であって、さらに好適には0.35mm以上、1.5mm以下である。金属フィラメント1同士の間の最大隙間距離を0.25mm以上とすることで、ベルト幅方向端部のコード端を起点としたゴム剥離が隣り合う金属コード間に伝播する、ベルトエッジセパレーションの発生を抑制することができる。また、金属フィラメント1同士の間の最大隙間距離を2.0mm以下とすることで、ベルトの剛性を維持することができる。
【0028】
なお、補強素子2が、図示するような束からなる金属コード2である場合、金属コード2同士の間の間隔w2が、上記最大隙間距離に相当する。
【0029】
本発明において、ベルト105内で隣接する2層のベルト層105a,105bにそれぞれ埋設された金属フィラメント1の表面間の距離である層間ゲージは、0.10mm以上1.20mm以下であることが好ましく、0.35mm以上0.80mm以下であることがより好ましい。層間ゲージを0.10mm以上1.20mm以下とすることで、層間歪の抑制と、軽量性および低転がり抵抗の効果とを、バランス良く得ることができる。
【0030】
さらに、本発明において、金属フィラメント1の線径は、0.15mm以上0.40mm以下であることが好ましい。より好ましくは0.18mm以上、さらに好ましくは0.20mm以上であって、また、好ましくは0.35mm以下である。金属フィラメント1の線径を0.40mm以下とすることで、タイヤの軽量効果が十分に得られる。一方、金属フィラメント1の線径を0.15mm以上とすることで、十分なベルト強度を発揮できる。
【0031】
本発明においては、隣り合う金属フィラメント1間にエラストマー3を十分に浸透させることができるものであるが、隣り合う金属フィラメント間にエラストマーによって被覆されていない非エラストマー被覆領域が連続して存在することを抑止する観点からは、以下の条件を満足することが好ましい。すなわち、補強素子2が、図示するような束からなる金属コード2である場合には、金属コード2内で隣り合う金属フィラメント1の、金属コード2の幅方向側面におけるエラストマー被覆率が、単位長さ当たり10%以上であることが好ましく、より好ましくは20%以上である。さらに好ましくは50%以上被覆されており、80%以上被覆されていることが特に好ましい。もっとも好ましくは、90%以上被覆されている状態である。これにより、ベルト層における耐腐食進展性を確保するとともに、ベルトの面内剛性を向上させ、操縦安定性を改善する効果を良好に得ることができる。
【0032】
ここで、本発明において、エラストマー被覆率とは、例えば、エラストマーとしてゴムを用い、金属コードとしてスチールコードを用いた場合、スチールコードをゴム被覆し、加硫した後、得られたゴム-スチールコード複合体からスチールコードを引き抜き、スチールコードを構成するスチールフィラメント同士の間隙に浸透したゴムにより被覆されている、スチールフィラメントの金属コード幅方向側面の長さを測定し、下記算出式に基づいて算出した値の平均をいう。
エラストマー被覆率=(ゴム被覆長/試料長)×100(%)
なお、エラストマーとして、ゴム以外のエラストマーを用いた場合、および、金属コードとして、スチールコード以外の金属コードを用いた場合も、同様に算出することができる。
【0033】
本発明において、金属フィラメント1は、一般に、鋼、すなわち、鉄を主成分(金属フィラメントの全質量に対する鉄の質量が50質量%を超える)とする線状の金属をいい、鉄のみで構成されていてもよいし、鉄以外の、例えば、亜鉛、銅、アルミニウム、スズ等の金属を含んでいてもよい。
【0034】
また、本発明において、金属フィラメント1の表面状態については特に制限されないが、例えば、下記の形態をとることができる。すなわち、金属フィラメント1としては、表面のN原子が2原子%以上60原子%以下であって、かつ、表面のCu/Zn比が1以上4以下であることが挙げられる。また、金属フィラメント1としては、フィラメント表面からフィラメント半径方向内方に5nmまでのフィラメント最表層に酸化物として含まれるリンの量が、C量を除いた全体量の割合で、7.0原子%以下である場合が挙げられる。
【0035】
また、本発明において、金属フィラメント1の表面には、めっきが施されていてもよい。めっきの種類としては、特に制限されず、例えば、亜鉛(Zn)めっき、銅(Cu)めっき、スズ(Sn)めっき、ブラス(銅-亜鉛(Cu-Zn))めっき、ブロンズ(銅-スズ(Cu-Sn))めっき等の他、銅-亜鉛-スズ(Cu-Zn-Sn)めっきや銅-亜鉛-コバルト(Cu-Zn-Co)めっき等の三元系合金めっきなどが挙げられる。これらの中でも、ブラスめっきや銅-亜鉛-コバルトめっきが好ましい。ブラスめっきを有する金属フィラメントは、ゴムとの接着性が優れているからである。なお、ブラスめっきは、通常、銅と亜鉛との割合(銅:亜鉛)が、質量基準で60~70:30~40、銅-亜鉛-コバルトめっきは、通常、銅が60~75重量%、コバルトが0.5~10重量%である。また、めっき層の層厚は、一般に100nm以上300nm以下である。
【0036】
さらにまた、本発明においては、金属フィラメント1の抗張力、断面形状については、特に制限はない。例えば、金属フィラメント1としては、抗張力(filament strength)が2500MPa(250kg/mm)以上のものを用いることができ、これにより、タイヤの耐久性を維持しつつ、ベルトに使用する金属量を低減でき、騒音性を改善することができる。さらに、金属フィラメント1の幅方向の断面形状も特に制限されず、真円状や楕円状、矩形状、三角形状、多角形状等とすることができるが、真円状が好ましい。なお、本発明において、補強素子2が、図示するような束からなる金属コード2である場合に、金属コード2を構成する金属フィラメント1の束を拘束する必要がある場合には、金属フィラメント束にラッピングフィラメント(スパイラルフィラメント)を巻回してもよい。本発明において金属フィラメント1は、樹脂被覆されていないものであり、金属フィラメントの表面とエラストマーとが直接接するものである。
【0037】
このようなエラストマー3としては、例えば、従来、金属コードを被覆するために用いていたゴムの他、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR、高シスBRおよび低シスBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR等のジエン系ゴムおよびその水添物、エチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M-EPM)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニルまたはジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー等のオレフィン系ゴム、Br-IIR、CI-IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br-IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、塩素化ポリエチレンゴム(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレンゴム(M-CM)等の含ハロゲンゴム、メチルビニルシリコンゴム、ジメチルシリコンゴム、メチルフェニルビニルシリコンゴム等のシリコンゴム、ポリスルフィドゴム等の含イオウゴム、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン-プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム等のフッ素ゴム、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等の熱可塑性エラストマーが挙げられる。これらのエラストマー3は1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0038】
また、エラストマー3には、硫黄、加硫促進剤、カーボンブラックの他に、タイヤやコンベアベルト等のゴム製品で通常使用される老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸等を適宜配合することができる。
【0039】
本発明において、ベルト層を形成するベルトトリートは、既知の方法にて作製することができる。例えば、複数本の金属フィラメント1を、所定の間隔で平行に並べてなる補強素子2を、エラストマー3により被覆するか、または、複数本の金属フィラメント1を撚り合わせずに引き揃えた金属フィラメント束からなる金属コード2を、エラストマー3により被覆して作製することができる。
【0040】
本発明において、ベルト層を形成するベルトトリートの厚みは、0.30mm超、1.00mm未満とすることが好ましい。ベルトトリートの厚みを上記範囲とすることで、ベルトの軽量化を十分に達成することができる。
【0041】
次に、本発明に係るベーストレッドを構成するゴム組成物について説明する。
本発明においては、トレッド部101のベーストレッドが、0℃におけるtanδの値である0℃tanδと、30℃におけるtanδの値である30℃tanδとの比率0℃tanδ/30℃tanδが、2.90以上であるゴム組成物からなる。
【0042】
通常、tanδを低減すると、タイヤの転がり抵抗の改善を図れるものの、通過騒音レベルが悪化するという問題があり、一方、tanδを高くすると、通過騒音レベルを抑えることができるものの、転がり抵抗が悪化するという問題があった。これに対し、本発明者は、転がり抵抗および通過騒音に影響するtanδの周波数領域に着目して鋭意検討した結果、転がり抵抗については、低周波数のtanδを低くした方が良化する傾向にあり、通過騒音の改良には高周波数のtanδを高くすることが好ましいことがわかった。そして、高周波数の粘弾性は装置の仕様上測定することが難しいため、温度周波数換算(WLF則)により、30℃におけるtanδに対する0℃におけるtanδの比を大きくし、具体的には、0℃におけるtanδの値である0℃tanδと、30℃におけるtanδの値である30℃tanδとの比率0℃tanδ/30℃tanδの値を2.90以上に設定することによって、低転がり抵抗を得つつ、通過騒音についても改善が可能になることを見出した。
【0043】
なお、本発明においては、比率0℃tanδ/30℃tanδの値が2.90以上であることを要するが、比率0℃tanδ/30℃tanδの値が2.90未満である場合には、十分な周波数の差(温度の差)が見いだせないため、低転がり抵抗と通過騒音の低減とを両立することができない。同様の観点から、比率0℃tanδ/30℃tanδの値は、3.00以上であることが好ましく、3.1以上であることがより好ましい。一方、比率0℃tanδ/30℃tanδの値が大きすぎる場合には、十分な転がり抵抗の低減が見込めないため、比率0℃tanδ/30℃tanδの値は、6.0以下であることが好ましい。
【0044】
ここで、本発明において、0℃tanδおよび30℃tanδの値は、本発明に係る上記ゴム組成物を加硫した後において測定した、0℃tanδおよび30℃tanδの値を意味する。また、0℃tanδおよび30℃tanδの測定は、例えば、上島製作所(株)製スペクトロメータを用いて行うことができるが、それぞれのtanδの値が正確に得られる方法であれば特に限定はされず、通常使用される測定機を用いて行うことができる。さらに、0℃tanδおよび30℃tanδの測定の際における、初期歪、動歪および周波数の条件としては、例えば、初期歪2%、動歪1%および周波数10Hzの条件が挙げられる。
【0045】
本発明に係るゴム組成物の30℃tanδは、上述した比率0℃tanδ/30℃tanδの関係を満たすことができれば特に制限されないが、低転がり抵抗と通過騒音の改善とをより高いレベルで両立する観点からは、0.075~0.220であることが好ましく、0.100~0.170であることがより好ましい。30℃tanδを0.075以上とすることで、通過騒音の抑制性能をより向上することができ、30℃tanδを0.220以下とすることで、転がり抵抗をより低減することができる。
【0046】
また、本発明に係るゴム組成物の0℃tanδについても、上述した比率0℃tanδ/30℃tanδの関係を満たすことができれば特に制限されないが、低転がり抵抗と通過騒音の改善とをより高いレベルで両立する観点からは、0.200~0.625であることが好ましく、0.300~0.500であることがより好ましい。0℃tanδを0.200以上とすることで、通過騒音の抑制性能をより向上することができ、0℃tanδを0.625以下とすることで、転がり抵抗をより低減することができる。
【0047】
本発明において、比率0℃tanδ/30℃tanδの値を調整するための方法については、特に制限されないが、例えば、本発明に係るゴム組成物の構成成分の適正化を図ることが挙げられる。例えば、後述するように、ゴム成分の種類および含有量を限定したり、充填剤の種類および含有量を調整することによって、比率0℃tanδ/30℃tanδの値を本発明に係る範囲に設定することが可能である。
【0048】
本発明に係るゴム組成物を構成する各成分については、上述した比率0℃tanδ/30℃tanδの関係を満たすことができるものであれば、特に制限されない。ベーストレッドに要求される性能に応じて、ゴム成分および充填剤の種類や含有量を適宜調整することができる。
【0049】
本発明に係るゴム組成物のゴム成分については、特に制限されないが、上述した比率0℃tanδ/30℃tanδの関係を満たしやすく、低転がり抵抗と通過騒音の改善とをより高いレベルで両立できる点からは、スチレン量が26質量%以上のスチレンブタジエンゴム(SBR)を含むことが好ましい。また、同様の観点から、上記SBRのスチレン量は、30質量%以上であることがより好ましく、39質量%以上であることがさらに好ましい。
【0050】
なお、上記SBRのスチレン量については、H-NMRスペクトルの積分比より、求めることができる。
【0051】
また、上記ゴム成分における上記SBRの含有率は、低転がり抵抗と通過騒音の改善とをより高いレベルで両立できる点からは、10~80質量%であることが好ましく、15~70質量%であることがより好ましく、15~60質量%であることがさらに好ましく、20~45質量%であることが特に好ましい。上記ゴム成分における上記SBRの含有率が、10質量%以上であることによって、上述した比率0℃tanδ/30℃tanδの関係を満たしやすくなり、低転がり抵抗と通過騒音の改善とを、より高いレベルで両立できる。
【0052】
本発明に係るゴム組成物は、ゴム成分として、上記SBRに加えて、天然ゴム(NR)をさらに含むことが好ましい。上述した比率0℃tanδ/30℃tanδの関係を満たしやすく、低転がり抵抗と通過騒音の改善とを、より高いレベルで両立できるためである。
【0053】
また、本発明に係るゴム組成物は、ゴム成分として、上記SBRやNRに加えて、さらに、ブタジエンゴム(BR)を含むことが好ましい。上述した比率0℃tanδ/30℃tanδの関係を満たし、低転がり抵抗と通過騒音の改善とを、より高いレベルで両立できるためである。
【0054】
さらに、本発明に係るゴム組成物は、低転がり抵抗と通過騒音の改善とをより確実に両立する観点から、ゴム成分として、NRを10~75質量%、BRを10~75質量%、上記SBRを15~60質量%含むことが好ましく、NRを20~70質量%、BRを10~70質量%、上記SBRを20~45質量%含むことがより好ましい。
【0055】
なお、本発明において、上記SBR、NRおよびBRは、未変性のものであっても、変性されたものであってもよい。
【0056】
本発明に係るゴム組成物に用いるゴム成分については、要求される性能に応じて、上述したSBR、NRおよびBR以外の、その他のゴム成分についても含むことができる。このようなその他のゴム成分としては、イソプレンゴム(IR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のジエン系ゴムや、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、ブチルゴム(IIR)等の非ジエン系ゴムが挙げられる。
【0057】
また、本発明に係るゴム組成物に含まれる充填剤の有無や含有量、種類等については、特に制限されず、要求される性能に応じて適宜変更することができる。例えば、充填剤としては、カーボンブラックやシリカ、その他の無機充填剤等を含有させることができる。
【0058】
カーボンブラックの種類については、特に制限されず、要求される性能に応じて適宜選択することができる。カーボンブラックは、例えば、FEF、SRF、HAF、ISAF、SAFグレードのものを用いることができる。
【0059】
本発明に係るゴム組成物に含まれるカーボンブラックの含有量については、ゴム成分100質量部に対して、25~65質量部であることが好ましく、30~45質量部であることがより好ましい。カーボンブラックの含有量を、ゴム成分100質量部に対して、25質量部以上とすることで、より高い補強性および耐亀裂進展性を得ることができ、65質量部以下とすることで、低発熱性の劣化を抑えることができる。
【0060】
シリカの種類については、特に制限されず、例えば、湿式シリカ、コロイダルシリカ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられる。
【0061】
本発明に係るゴム組成物は、樹脂を含むこともできる。このような樹脂としては、C5系樹脂、C5/C9系樹脂、C9系樹脂、フェノール樹脂、テルペン系樹脂、テルペン-芳香族化合物系樹脂等が挙げられる。これら樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0062】
本発明に係るゴム組成物は、上述したゴム成分および充填剤の他にも、その他の成分を、発明の効果を損なわない程度に含むことができる。このようなその他の成分としては、例えば、シランカップリング剤、軟化剤、ステアリン酸、老化防止剤、硫黄などの加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤等の、ゴム工業界で通常使用されている添加剤を挙げることができる。
【0063】
例えば、本発明に係るゴム組成物が、充填剤としてシリカを含有する場合には、シランカップリング剤をさらに含有することが好ましい。シリカによる補強性および低発熱性の効果をさらに向上させることができるからである。なお、シランカップリング剤は、公知のものを適宜使用することができる。
【0064】
老化防止剤としては、公知のものを用いることができ、特に制限されない。例えば、フェノール系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤、アミン系老化防止剤等を挙げることができる。これら老化防止剤は、1種または2種以上を併用することができる。
【0065】
加硫促進剤としては、公知のものを用いることができ、特に制限されるものではない。例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド等のチアゾール系加硫促進剤;N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、N-t-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン(1,3-ジフェニルグアニジン等)等のグアニジン系加硫促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラドデシルチウラムジスルフィド、テトラオクチルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等のチウラム系加硫促進剤;ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛等のジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤;ジアルキルジチオリン酸亜鉛等が挙げられる。
【0066】
加硫促進助剤としては、例えば、亜鉛華(ZnO)や脂肪酸等が挙げられる。脂肪酸としては、飽和若しくは不飽和であって、直鎖状若しくは分岐状であるいずれの脂肪酸であってもよく、脂肪酸の炭素数も特に制限されないが、例えば、炭素数1~30、好ましくは15~30の脂肪酸、より具体的にはシクロヘキサン酸(シクロヘキサンカルボン酸)、側鎖を有するアルキルシクロペンタン等のナフテン酸;ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸(ネオデカン酸等の分岐状カルボン酸を含む)、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸)等の飽和脂肪酸;メタクリル酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の不飽和脂肪酸;ロジン、トール油酸、アビエチン酸等の樹脂酸などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本発明においては、亜鉛華およびステアリン酸を好適に用いることができる。
【0067】
本発明のタイヤにおいて、トレッド部のベーストレッド上に配置されるキャップトレッドの構成については、特に制限されない。タイヤに要求される性能に応じて、公知のキャップトレッドを適宜使用することができる。キャップトレッドを構成するゴム組成物は、例えば、ゴム成分と、補強性充填剤と、軟化剤と、ゴム工業界で通常使用される添加剤とを含むことができる。
【0068】
また、本発明のタイヤのトレッド部は、タイヤの転がり抵抗および通過騒音のバランスをより高める観点から、上記ベーストレッド上にキャップトレッドが形成され、キャップトレッドの貯蔵弾性率E’cと、ベーストレッドの貯蔵弾性率E’bとの比率E’c/E’bが、0.25~0.75であることが好ましく、0.30~0.70であることがより好ましい。
【0069】
さらに、本発明のタイヤは、適用するタイヤの種類に応じ、未加硫のゴム組成物を用いて成形後に加硫して製造してもよく、予備加硫工程等を経た半加硫ゴムを用いて、成形後、さらに本加硫して製造してもよい。
【0070】
本発明のタイヤ100においては、上記所定のベルトおよびベーストレッドを用いる以外の点については特に制限されるものではない。例えば、ベルト105のタイヤ径方向外側にベルト補強層を配置してもよく、その他の補強部材を用いてもよい。また、一対のビード部103には、それぞれビードコア106を配置することができ、カーカス104は、通常、ビードコア106の周りに内側から外側に巻き上げて係止される。さらに、図示はしないが、ビードコア106のタイヤ径方向外側には、断面先細り状のビードフィラーを配置することができる。さらにまた、タイヤ100に充填する気体としては、通常のまたは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【0071】
さらにまた、本発明において、カーカス104のカーカス層は複数枚としてもよく、タイヤ周方向に対してほぼ直交する方向、例えば、70°以上90°以下の角度で延びる有機繊維コードを好適に用いることができる。また、ベルト105におけるコード角度は、タイヤ周方向に対し30°以下とすることができる。
【0072】
本発明においては、タイヤ種には制限はなく、図示するタイヤは乗用車用タイヤであるが、トラック・バス用タイヤや大型タイヤなど、いかなるタイヤにも適用することができる。
【実施例
【0073】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
【0074】
(ゴム組成物の調製)
下記の表1に示す配合処方に従い、通常のバンバリーミキサーを用いて、ベーストレッド用ゴム組成物A~Cを調製した。なお、下記の表1中の各成分の配合量は、ゴム成分100質量部に対する量(質量部)を記載している。
【0075】
得られたベーストレッド用ゴム組成物A~Cについて、160℃、15分間の加硫処理を行い、得られた加硫ゴムに対して、上島製作所株式会社製スペクトロメーターを用いて、初期歪2%、動歪1%、周波数10Hzの条件下で、0℃および30℃における損失正接tanδ、並びに、貯蔵弾性率E’を測定した。測定した0℃tanδ、30℃tanδおよびE’、並びに、算出した比率0℃tanδ/30℃tanδの値について、下記の表1中に併せて示す。
【0076】
【表1】
【0077】
*1)JSR株式会社製「BR01」
*2)JSR株式会社製「SL563」、スチレン量:20質量%
*3)JSR株式会社製「HP755B」、スチレン量:40質量%、表1中に括弧で示した数値は油展ゴムとしての配合量(質量部)である。
*4)JSR株式会社製「0122」、スチレン量:38質量%、表1中に括弧で示した数値は油展ゴムとしての配合量(質量部)である。
*5)旭カーボン株式会社製「旭♯65」
*6)旭カーボン株式会社製「旭♯70」
*7)N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、大内新興化学工業(株)製「ノクラック6C」
*8)九州白水(株)製 「ハクスイテック」
*9)ジベンゾチアジルジスルフィド、大内新興化学(株)製「ノクセラーDM-P」
【0078】
(ゴム-スチールコード複合体の作製)
下記の表2中に示す条件に従う補強素子としてのスチールコードを、上下両側から、ゴム組成物よりなる厚さ0.5mm程度のシートにより被覆して、ベルト層に用いる各ゴム-スチールコード複合体を作製した。コーティング用のゴム組成物は、常法に従い配合・混練することで調製した。得られた各ゴム-スチールコード複合体を160℃、20分にて加硫して、以下の評価を行った。
【0079】
ここで、実施例1の補強素子は、撚り合わせずに一列に引き揃えられた7本の線径0.24mmのスチールフィラメントからなるスチールフィラメント束よりなるコードである。実施例2の補強素子は、撚り合わせずに一列に引き揃えられた5本の線径0.26mmのスチールフィラメントからなるスチールフィラメント束よりなるコードである。実施例3の補強素子は、撚り合わせずに一列に引き揃えられた3本の線径0.3mmのスチールフィラメントからなるスチールフィラメント束よりなるコードである。
【0080】
また、比較例1~3については、下記の表2中に示す条件とした場合の推測データとして、以下の評価を行った。比較例1の補強素子は、スチールフィラメントを2+3構造で撚り合わせた短径0.53mm、長径0.64mmの断面楕円形の撚りコードである。比較例2の補強素子は、撚り合わせずに一列に引き揃えられた線径0.3mmのスチールフィラメントが均等に配置されたコードである。比較例3の補強素子は、スチールフィラメントを2+3構造で撚り合わせた短径0.53mm、長径0.64mmの断面楕円形の撚りコードである。なお、比較例3は、比較例1と補強素子および打ち込み条件は同一であって、ゴム-スチールコード複合体の厚みを比較例1対比で小さくしたもの(ローゲージ)である。
【0081】
<ゴム量>
各ゴム-スチールコード複合体を用いて作製したベルト層に含まれるゴム量を、比較例1を基準の100として、指数にて求めた。数値が小さいほど、軽量性に優れ良好である。結果は表2中に示した。
【0082】
<ベルト面内剛性>
各ゴム-スチールコード複合体を用いて作製した交錯ベルト層サンプルを用いて面内剛性の評価を行い、操縦安定性の指標とした。ベルト角度は、タイヤ周方向に対して±28°とした。この交錯ベルト層サンプルの下2点、上1点に冶具を配置し、上1点から押し込んだ時の荷重を面内剛性として評価した。結果は比較例1を基準の100として、指数にて求めた。数値が大きいほど、操縦安定性に優れている。結果は表2中に示した。
【0083】
(タイヤによる評価)
図1に示すようなタイヤサイズ195/65R15の乗用車用タイヤを、各ゴム-スチールコード複合体を2層のベルトに適用して作製した。ベルト角度は、タイヤ周方向に対して±28°とした。また、トレッド部のベーストレッドには、それぞれ下記の表2中に示すベーストレッド用ゴム組成物を適用した。
【0084】
<耐セパレーション性>
各ゴム-スチールコード複合体をベルト層に適用したタイヤについて、ドラム試験機による評価を行った後におけるセパレーション長さを測定して求めた。セパレーション長さが、比較例1より小さい場合を◎、同等である場合を○、やや大きい場合を△、大きい場合を×とした。結果は表2中に示した。
【0085】
<転がり抵抗>
比較例1を基準(コントロール)として、各供試タイヤの転がり抵抗について推測値を求めた。結果は比較例1よりも転がり抵抗が低下している場合を▲で示した。結果は表2中に示した。
【0086】
【表2】
【0087】
※)比較例1および比較例3については、2+3構造の撚りコードのコード径およびコード同士の隙間を意味する。
【0088】
また、通過騒音については、実施例1~3の各供試タイヤのいずれにおいても、比較例1~3と比較して低減すると予測される。
【符号の説明】
【0089】
1,1a,1b,1c 金属フィラメント
2,2A,2B 補強素子(金属コード)
3 エラストマー
100 タイヤ
101 トレッド部
102 サイドウォール部
103 ビード部
104 カーカス
105 ベルト
105a,105b ベルト層
106 ビードコア
図1
図2
図3
図4
図5