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  • 特許-免震構造体および免震装置 図1
  • 特許-免震構造体および免震装置 図2A
  • 特許-免震構造体および免震装置 図2B
  • 特許-免震構造体および免震装置 図3
  • 特許-免震構造体および免震装置 図4
  • 特許-免震構造体および免震装置 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】免震構造体および免震装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/04 20060101AFI20230712BHJP
   F16F 1/40 20060101ALI20230712BHJP
   F16F 1/50 20060101ALI20230712BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
F16F15/04 P
F16F1/40
F16F1/50
E04H9/02 331A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019225874
(22)【出願日】2019-12-13
(65)【公開番号】P2021095934
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100179947
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 晃太郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 重信
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-29539(JP,A)
【文献】特開2013-238494(JP,A)
【文献】特開2014-237962(JP,A)
【文献】特開2006-207680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00-15/36
F16F 1/00-6/00
E04H 9/00-9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質材料層と軟質材料層とを交互に配置してなる免震構造体であって、
前記免震構造体は、くびれ部を有しており、
前記免震構造体の幅W1に対する、前記くびれ部の幅W2の比Rwは、0.7≦Rw≦0.825の範囲内にあり、
前記免震構造体の高さH1に対する、前記くびれ部の高さH2の比Rhは、0.6≦Rh≦0.8の範囲内にある、免震構造体。
【請求項2】
前記軟質材料層の、初期剛性K1に対する、二次剛性K2の比Rkは、2≦Rk≦8である、請求項1に記載された免震構造体。
【請求項3】
前記比Rkは、4<Rk≦8である、請求項2に記載された免震構造体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載された免震構造体と、
前記免震構造体の両端に配置された、2つのプレートと、
を備える、免震装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震構造体および免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の免震技術には、建築物(上部構造物)と免震構造体(免震層)との間に減衰装置を備え、前記免震構造体に設けられた積層ゴムのハードニングにより、当該免震構造体の変位を低減可能とした、免震構造がある(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載の技術によれば、免震構造体の変位を抑えつつ、建築物の変形を抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6164473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、免震構造体の具体的な形状に着目することによって、当該免震構造体の変位を抑制するものではない。したがって、特許文献1に記載の技術は、くびれ部を有した免震構造体の変位を、最適なハードニングによって抑制することが困難であった。
【0005】
本発明の目的は、くびれ部が設けたことによって求められる最適なハードニング条件を得ることが可能な免震構造体および免震装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る免震構造体は、硬質材料層と軟質材料層とを交互に配置してなる免震構造体であって、前記免震構造体は、くびれ部を有しており、前記免震構造体の幅W1に対する、前記くびれ部の幅W2の比Rwは、0.7≦Rw≦0.825の範囲内にあり、前記免震構造体の高さH1に対する、前記くびれ部の高さH2の比Rhは、0.6≦Rh≦0.8の範囲内にある。本発明に係る免震構造体によれば、くびれ部が設けたことによって求められる最適なハードニング条件を得ることが可能となる。
【0007】
本発明に係る免震構造体において、前記軟質材料層の、初期剛性K1に対する、二次剛性K2の比Rkは、2≦Rk≦8であることが好ましい。この場合、この場合、容易に耐久性を向上させることができる。
【0008】
本発明に係る免震構造体において、比Rkは、4<Rk≦8であることがさらに好ましい。この場合、さらに耐久性を向上させることができる。
【0009】
本発明に係る免震装置は、上記のいずれかに記載された免震構造体と、前記免震構造体の上端および下端に配置された、2つのプレートと、を備える。本発明に係る免震装置によれば、くびれ部が設けたことによって求められる最適なハードニング条件を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、くびれ部が設けたことによって求められる最適なハードニング条件を得ることが可能な免震構造体および免震装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る免震装置を概略的に示す断面図である。
図2A】円筒形の免震構造体を軸直方向に変位させたときの状態と、当該変位状態において前記免震構造体に生じるせん断ひずみとの関係を模式的に示す図である。
図2B】くびれ部を有した免震構造体を軸直方向に変位させたときの状態と、当該変位状態において前記免震構造体に生じるせん断ひずみとの関係を模式的に示す図である。
図3】ゴムの一般的なハードニング特性を、せん断ひずみとせん断応力との関係で示すハードニング特性図である。
図4】くびれ部を有した免震構造体を軸直方向に変位させたときの、当該免震構造体の各軟質材料層に生じるせん断ひずみを算出し、当該算出値をプロットしたグラフである。
図5】軟質材料層のハードニング特性を同一にしたときの、くびれ部を有した免震構造体と、円筒形の免震構造体との、せん断ひずみ比Rδを算出し、当該算出値をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る免震構造体および当該免震構造体を備えた免震装置について説明をする。以下の説明において、軸方向とは、免震構造体の中心軸Oが延びている方向をいい、本実施形態では、鉛直方向(上下方向)の意味も含む。また、軸直方向とは、軸方向に対して直交する方向をいい、本実施形態では、幅方向(径方向)の意味も含む。実質的に同一の事項は、同一の符号を使用することにより、その説明を省略する。
【0013】
図1中、符号1は、本発明の一実施形態に係る免震装置である。免震装置1は、免震構造体10と、免震構造体10の両端に配置されたプレート20と、を備えている。
【0014】
本実施形態において、免震装置1は、上下方向に延びる中心軸Oを有し、当該中心軸Oを鉛直軸に沿って起立させることができる。
【0015】
本実施形態では、プレート20は、軸方向一方側(下側)端に配置されたプレート20aと、軸方向他方側(上側)端に配置されたプレート20bと、を含む。本実施形態において、プレート20aは、下部プレートである。プレート20aは、例えば、前記構造物を支える基礎(図示省略)に固定することができる。また、本実施形態において、プレート20bは、上部プレートである。プレート20bは、ビル、橋、家等の構造物(図示省略)に固定することができる。本実施形態では、プレート20は、円形の鋼板で形成されている。本実施形態では、プレート20の中心軸は、免震装置1の中心軸Oと同軸である。
【0016】
免震構造体10は、硬質材料層11と軟質材料12層とを交互に配置してなる。
【0017】
硬質材料層11は、剛性を有する層である。本実施形態では、硬質材料層11は、円形の金属板、具体的には、円形の鋼板からなる。本実施形態では、硬質材料層11の中心軸は、免震装置1の中心軸Oと同軸である。
【0018】
また、本実施形態では、軟質材料層12は、弾性を有する層である。本実施形態では、円形の弾性板、具体的には、円形のゴム板である。本実施形態では、軟質材料層12の中心軸は、免震装置1の中心軸Oと同軸である。
【0019】
本実施形態では、硬質材料層11及び軟質材料層12は、同一の厚さを有している。ただし、硬質材料層11及び軟質材料層12の厚さは、適宜変更することができる。更に、本実施形態では、硬質材料層11の幅方向外縁11eは、軟質材料層12と共に外層13によって被覆されている。外層13は、円筒形のゴム板である。ただし、外層13は、省略することができる。
【0020】
免震構造体10は、くびれ部R2を有している。
【0021】
本実施形態では、図1の一点鎖線に示すように、免震構造体10は、くびれ部R2と、くびれ部R2の上側及び下側に位置する、2つの末端部R3と、によって区画されている。具体的には、末端部R3は、くびれ部R2の下端に隣接して配置された下側末端部R3aと、くびれ部R2の上端に隣接して配置された上側末端部R3bと、によって区画されている。ここで、くびれ部R2は、免震構造体10の上下方向中央に位置する仮想の領域をいう。また、下側末端部R3aは、免震構造体10の下端から上方向に連続する仮想の領域をいう。さらに、上側末端部R3bは、免震構造体10の上端から下方向に連続する仮想の領域をいう。
【0022】
ここで、くびれ部R2および末端部R3の区画の一例を、仮想の境界線L1およびL2を用いて説明する。
【0023】
境界線L1は、プレート20と、免震構造体10との境界線である。本実施形態では、境界線L1は、プレート20と、プレート20と隣接する軟質材料層12との固定面を通る線である。本実施形態では、境界線L1は、免震構造体10の下端(最も下側の軟質材料層12の下端)とプレート20aの上端との境界線L1Aと、免震構造体10の上端(最も上側の軟質材料層12の上端)とプレート20bの下端との境界線L1Bと、を含んでいる。
【0024】
境界線L2は、くびれ部R2と、末端部R3との境界線である。本実施形態では、境界線L2は、末端部R3の、プレート20から軸方向に最も遠い軟質材料層12と、末端部R3の軟質材料層12と隣接する、くびれ部R2の硬質材料層11との固定面を通る線である。本実施形態では、境界線L2は、くびれ部R2の下端(最も下側の硬質材料層11の下端)と下側末端部R3aの上端(最も上側の軟質材料層12の上端)との境界線L2Aと、くびれ部R2の上端(最も上側の硬質材料層11の上端)と上側末端部R3bの下端(最も下側の軟質材料層12の下端)との境界線L2Bと、を含んでいる。
【0025】
くびれ部R2は、軸方向において、2つの境界線L2(境界線L2Aと境界線L2B)によって区画されている。また、末端部R3は、軸方向において、境界線L1と境界線L2とによって区画されている。本実施形態では、下側末端部R3aは、軸方向において、境界線L1Aと境界線L2Aとによって区画されている。また、本実施形態では、上側末端部R3bは、軸方向において、境界線L1Bと境界線L2Bとによって区画されている。
【0026】
また、くびれ部R2には、少なくとも1つの硬質材料層112が配置されている。本実施形態では、くびれ部R2は、複数(本実施形態では、10個)の硬質材料層112を有している。本実施形態では、硬質材料層112は、同一の軸直方向幅W12を有している。本実施形態では、硬質材料層112は、直径φ12の鋼板である。本実施形態では、硬質材料層112は、免震装置1の中心軸Oと同軸に配置されている。したがって、本実施形態では、硬質材料層112の幅方向外縁12eは、それぞれ、中心軸Oまでの軸直方向(径方向)距離が等しい。
【0027】
また、末端部R3には、少なくとも1つの硬質材料層113が配置されている。本実施形態では、末端部R3は、複数(本実施形態では、2個)の硬質材料層113を有している。本実施形態では、硬質材料層113は、軸直方向幅W13を有している。本実施形態では、硬質材料層113は、直径φ13の鋼板である。本実施形態では、硬質材料層113の軸直方向幅W13(直径φ13)は、くびれ部R2に近づくにしたがって小さくなっている。本実施形態では、硬質材料層113は、免震装置1の中心軸Oと同軸に配置されている。したがって、本実施形態では、硬質材料層113の幅方向外縁13eは、くびれ部R2に向かうに従って、中心軸Oまでの軸直方向(径方向)距離が近くなる。
【0028】
言い換えれば、くびれ部R2の硬質材料層112の軸直方向幅W12は、軸方向において同一であり、末端部R3の硬質材料層113の軸直方向幅W13は、軸方向においてくびれ部R2からプレート20に向かうに従って末広がりに広がっていく。
【0029】
本実施形態では、末端部R3の硬質材料層113の幅方向外縁113eは、くびれ部R2の硬質材料層112の幅方向外縁112eよりも幅方向外側に位置している。このため、免震構造体10が大きく軸直方向に弾性変形したときでも、末端部R3の硬質材料層113がくびれ部R2の硬質材料層112を支えることによって、当該免震構造体10の座屈を抑制することができる。
【0030】
ところで、図1の免震構造体10の上下端を軸直方向逆向きに変位させたときのせん断ひずみに着目した場合、図2Aに示すように、円筒形の免震構造体50に生じるせん断ひずみε0は、軸方向に均等な大きさであるが、図2Bに示すように、くびれ部R2を有した免震構造体10に生じるせん断ひずみε1は、くびれ部R2に集中する。
【0031】
一方、弾性材料(軟質材料)は、図3に示す一般的なゴムのように、せん断ひずみεが所定の値に達すると、せん断応力σが急激に上昇する。即ち、弾性材料の剛性K(=σ/ε)は、せん断ひずみεが前記所定の値に達すると急激に大きくなる。図3を参照すれば、弾性材料のハードニング特性は、1次剛性(初期剛性)K1に対する二次剛性K2の比Rk(=K2/K1)で表される。このハードニング特性は、弾性材料に固有の特性である。
【0032】
そこで、本願発明者は、くびれ部R2を有した免震構造体10において、軟質材料層12のハードニング特性を制御することによって、くびれ部R2に生じるせん断ひずみεが、図2Aに示すように、軸方向に均等な大きさになるようにすることを思い立った。
【0033】
図4は、くびれ部R2を有した免震構造体10の上下端を軸直方向逆向きに変位させたときの、当該免震構造体10の各軟質材料層12に生じるせん断ひずみεを算出し、当該算出値をプロットしたグラフである。
【0034】
図4において、縦軸の上下端は、免震構造体10の下端から上端に対応する。図4中、□(白四角)は、Rk=1としたときの免震構造体10の各軟質材料層12に生じるせん断ひずみである。■(黒四角)は、Rk=2としたときの免震構造体10の各軟質材料層12に生じるせん断ひずみである。○(白丸)は、Rk=4としたときの免震構造体10の各軟質材料層12に生じるせん断ひずみである。●(黒丸)は、Rk=8としたときの免震構造体10の各軟質材料層12に生じるせん断ひずみである。
【0035】
図4を参照すると、軟質材料層12がRkの大きいハードニング特性を有するようにすれば、くびれ部R2と末端部R3との間に生じるせん断ひずみεの差は、小さくすることができることがわかる。なお、図4に示すせん断ひずみεの特性は、軟質材料層12の層数n=30(枚)、40(枚)、50(枚)も同様である。このため、軟質材料層12の層数nは、図4に示すせん断ひずみεの特性に大きな影響を与えないと考えられる。
【0036】
一方、図5は、軟質材料層のハードニング特性を同一にしたときの、くびれ部を有した免震構造体と、円筒形の免震構造体との、せん断ひずみ比Rε(=δ/δ)を算出し、当該算出値をプロットしたグラフである。
【0037】
本実施形態では、δは、免震構造体10(のくびれ部R2)のせん断変形量である。また、本実施形態では、δは、円筒形の免震構造体50のせん断変形量である。本実施形態では、せん断変形量は、破断限界の変形量である。
【0038】
図5を参照すれば、軟質材料層12がRk=2以上のハードニング特性を有する場合、せん断ひずみ比Rε(=δ/δ)は、0.9付近で安定する。なお、図5中、●(黒丸)は、軟質材料層12の層数n=30(枚)の場合である。また、■(黒四角)は、軟質材料層12の層数n=40(枚)の場合である。さらに、▲(黒三角)は、軟質材料層12の層数n=50(枚)の場合である。これらを参照すると、軟質材料層12の層数nは、Rkに対するせん断ひずみ比Rδの特性に大きな影響を与えないと考えられる。
【0039】
ところで、図1を参照すれば、免震構造体10の幅W1は、免震構造体10の最大幅W1maxである。本実施形態では、免震構造体10の幅W1は、境界線L1での免震構造体10の軸直方向幅である。即ち、本実施形態では、免震構造体10の幅W1は、免震構造体10の軸方向端の軸直方向幅で規定されている。本実施形態では、免震構造体10の軸方向端は、免震構造体10の下端e1と、免震構造体10の下端e2と、を含む。本実施形態では、免震構造体10の下端e1の軸直方向幅と、免震構造体10の下端e2の軸直方向幅とは、同一の幅W1である。本実施形態では、免震構造体10の幅W1は、免震構造体10の最も軸方向外側の軟質材料層12の軸直方向幅である。
【0040】
また、図1を参照すれば、くびれ部R2の幅W2は、免震構造体10の最小幅W1minである。本実施形態では、くびれ部R2の幅W2は、境界線L2での免震構造体10の軸直方向幅である。即ち、本実施形態では、くびれ部R2の幅W2は、くびれ部R2の軸方向側端の軸方向幅で規定されている。本実施形態では、くびれ部R2の幅W2は、くびれ部R2の軟質材料層12の軸直方向幅と、軟質材料からなる外層13の軸直方向幅と、を含む幅である。本実施形態では、くびれ部R2の軸直方向幅は、軸方向に沿って同一の幅W2である。
【0041】
また、図1を参照すれば、免震構造体10の高さは、H1で規定されている。また、本実施形態では、くびれ部R2の高さは、H2で規定されている。また、本実施形態では、末端部R3の高さは、H3で規定されている。さらに、本実施形態では、2つの末端部R3のうちの、下側末端部R3aの高さは、H3aで規定されている。また、本実施形態では、2つの末端部R3のうちの、上側末端部R3bの高さは、H3bで規定されている。即ち、図1の免震構造体10の高さH1は、くびれ部R2の高さH2と、下側末端部R3aの高さH3aと、上側末端部R3bの高さH3bとの和(H1=H2+H3a+H3b)によって規定されている。なお、本実施形態では、下側末端部R3aの高さH3aと、上側末端部R3bの高さH3bとは、同一の高さである。
【0042】
さらに、図1を参照すれば、免震構造体10の高さH1は、免震構造体10の、2つの軸方向端の間の高さで規定されている。本実施形態では、免震構造体10の高さH1は、免震構造体10の下端e1(境界線L1A)と、免震構造体10の下端e2(境界線L1B)の間の高さである。本実施形態では、免震構造体10の高さH1は、免震構造体10の最も軸方向外側に配置された、2つの軟質材料層12の軸方向外側端の間の高さである。
【0043】
また、図1を参照すれば、くびれ部R2の高さH2は、2つの境界線L2(境界線L2Aおよび境界線L2B)の間の高さである。本実施形態では、くびれ部R2高さH2は、くびれ部R2の最も軸方向外側の硬質材料層11の軸方向外側端の間の高さである。
【0044】
以下の表1は、Rk(=K2/K1)を、免震構造体10の幅W1に対する、くびれ部R2の幅W2の比Rw(α=W2/W1)と、免震構造体10の高さH1に対する、くびれ部R2の高さH2の比Rh(β=H2/H1)と、の関係で特定したものである。
【0045】
【表1】
【0046】
表1を参照すれば、薄灰色で示した領域は、免震構造体10の幅W1とくびれ部R2の幅W2との差が大きすぎる場合、言い換えれば、免震構造体10がくびれすぎている場合である。この場合、軟質材料層12のハードニングにより、せん断ひずみεの差を縮めても、大きな効果を得ることができない。また、濃灰色で示した領域は、免震構造体10の幅W1とくびれ部R2の幅W2との差が小さすぎる場合、言い換えれば、免震構造体10がほとんどくびれていない場合である。この場合、円筒形の免震構造体50とほとんど変わらず、軟質材料層12のハードニングを行う必要がない。
【0047】
したがって、表1を参照すれば、くびれ部R2が設けたことによって求められる最適なハードニング条件は、ゴム層12の剛性比Rkが、以下の関係を満たすことである。
【0048】
2≦Rk≦8・・・(1)
【0049】
表1を参照すれば、ゴム層12の剛性比Rkが上記(1)の範囲を満たす場合、免震構造体10の幅W1と、くびれ部R2の幅W2とは、以下の関係を満たすことが好ましい。
【0050】
0.7≦(W2/W1)≦0.825・・・(2)
【0051】
また、表1を参照すれば、ゴム層12の剛性比Rkが上記(1)の範囲を満たす場合、免震構造体10の高さH1と、くびれ部R2の高さH2とは、以下の関係を満たすことが好ましい。
【0052】
0.6≦(H2/H1)≦0.8・・・(3)
【0053】
即ち、表1を参照すれば、くびれ部R2を有する免震構造体10において、くびれ部R2が設けたことによって求められる最適なハードニング条件を得るためには、当該免震構造体10は、当該免震構造体10の幅W1に対する、くびれ部R2の幅W2の比αは、0.7≦α≦0.825の範囲内にあり、かつ、免震構造体10の高さH1に対する、くびれ部R2の高さH2の比βは、0.6≦β≦0.8の範囲内にあるように形作られていることが好ましい。
【0054】
図1の免震構造体10は、上記(2)および(3)のいずれの条件も満たすように形成されている。この場合、上述のとおり、免震構造体10が軸直方向に変位したときにくびれ部R2に生じ得るせん断ひずみεの局所的な集中を抑制することができる。したがって、本実施形態に係る免震構造体10によれば、くびれ部R2が設けたことによって求められる最適なハードニング条件を得ることが可能となる。
【0055】
なお、本実施形態では、免震構造体10は、中心軸Oを中心とする円筒にくびれ部R2を設けたものである。本実施形態では、免震構造体10の幅W1は、免震構造体10の直径φ1である。また、くびれ部R2の幅W2は、免震構造体10の直径φ2である。即ち、本実施形態において、免震構造体10の幅W1に対する、くびれ部R2の幅W2の比αは、免震構造体10の直径φ1に対する、免震構造体10の直径φ2の比(φ2/φ1)と置き換えることができる。
【0056】
ただし、免震構造体10は、円筒にくびれ部R2を設けたものに限定されることなく、多角形等の異形の角筒にくびれ部R2を設けたものを採用することができる。この場合、免震構造体10の幅W1およびくびれ部R2の幅W2は、免震構造体10の外接円の直径とすることができる。
【0057】
なお、免震構造体10の幅W1は、複数の硬質材料層113のうち、プレート20に最も近い硬質材料層113の軸直方向幅W13(=φ13)に置き換えることができる。即ち、免震構造体10の幅W1は、複数の硬質材料層113のうちの、最も幅W13が大きい硬質材料層113の軸直方向幅W13とすることができる。また、くびれ部R2の幅W2は、くびれ部R2の硬質材料112の軸直方向幅W12(=φ12)に置き換えることができる。これらの置き換えが可能な理由は、せん断ひずみεに最も影響を与える部分であるためである。
【0058】
上述のとおり、図1の免震構造体10は、くびれ部R2を有することにより、当該免震構造体10の上下端が軸直方向逆向きに変位したときに生じ得る座屈を抑制することができる。加えて、図1の免震構造体10は、αが上記(2)の範囲を満たすとともにβが上記(3)の範囲を満たすように形作られている。この場合、表1に示すように、剛性比Rkを上記(1)の範囲内に収めれば、免震構造体10の上下端が軸直方向逆向きに変位したときにくびれ部R2に生じ得るせん断ひずみεの局所的な集中を抑制することができる。
【0059】
そこで、本実施形態に係る免震構造体10において、軟質材料層12の、剛性比Rkは、2≦Rk≦8であることが好ましい。この場合、免震構造体10の上下端が軸直方向逆向きに変位したときに生じ得る座屈を抑制しつつ、くびれ部R2に生じ得るせん断ひずみεの局所的な集中を抑制することができる。したがって、この場合、容易に耐久性を向上させることができる。
【0060】
さらに、本実施形態に係る免震構造体10において、剛性比Rkは、4<Rk≦8であることがさらに好ましい。この場合、この場合、より免震構造体10の耐久性を向上させることができる。特に、剛性比Rk=8の場合、さらに免震構造体10の耐久性を向上させることができる。
【0061】
また、本実施形態に係る免震装置1は、上記免震構造体10と、当該免震構造体10の上端および下端に配置された、2つのプレート20と、を備えている。本実施形態に係る免震装置1によれば、くびれ部R2が設けたことによって求められる最適なハードニング条件を得ることが可能となる。
【0062】
上述のとおり、本発明によれば、くびれ部R2が設けたことによって求められる最適なハードニング条件を得ることが可能な免震構造体および免震装置を提供することができる。
【0063】
なお、本実施形態に係る免震構造体10において、硬質材料113の幅方向外縁113eと、硬質材料113の幅方向外縁112eを連ねてなる、仮想稜線Lは、図1に示すように、免震装置1の軸方向断面視において、上下方向に対してなす鋭角側の角度Aが、45°~80°であるものとすることができる。角度Aが45°に満たない場合、座屈を抑制する効果が小さい。角度Aが80°を超える場合、座屈を抑制する効果が小さく、硬質材料113の幅方向外縁113eの圧縮側に局部的な剥離が生じやすい。本実施形態によれば、仮想稜線Lは、免震装置1の軸方向断面視において、上下方向に対してなす鋭角側の角度Aが、45°~80°である。このため、本実施形態によれば、座屈改善効果が特に高い。
【0064】
また、末端部R3の硬質材料113の軸直方向幅W13に対する、くびれ部R2の硬質材料112の軸直方向幅W12の比α1(=W12/W13)は、以下の関係(4)を満たすことが好ましい。
【0065】
0.6≦(W12/W13)≦0.97・・・(4)
【0066】
本実施形態では、硬質材料11は、円形の板である。また、本実施形態では、硬質材料11は、中心軸O上を同軸に配置されている。本実施形態では、硬質材料13の軸直方向幅W13、硬質材料112の軸直方向幅W12は、硬質材料11の直径である。即ち、本実施形態において、末端部R3の硬質材料113の軸直方向幅W13に対する、くびれ部R2の硬質材料112の軸直方向幅W12の比α1は、硬質材料113の直径φ13に対する、硬質材料112の直径φ12の比(φ12/φ13)と置き換えることができる。
【0067】
なお、硬質材料11も、円形の板に限定されることなく、多角形等の異形の板を採用することができる。この場合、硬質材料113の軸直方向幅W13、硬質材料112の軸直方向幅W12は、硬質材料11の外接円の直径とすることができる。また、比α1(=W12/W13)は、0.6以上であることが好ましい。より好ましくは、α1=0.7~0.92の値である。この場合、免震性能を十分確保することができる。硬質材料11が複数である場合、W13は、硬質材料113のうちの最大幅、W12は、硬質材料112の最小幅とする。
【0068】
また、末端部R3の硬質材料113の軸直方向幅W13およびくびれ部R1の硬質材料112の軸直方向幅W12の具体例としては、W12/W13=0.6~0.97が挙げられる。
【0069】
上記の場合、末端部R3の硬質材料113は、くびれ部R2の硬質材料112の幅方向外縁112eよりも幅方向外側に位置する幅方向外縁113eを有しているため、免震構造体10が急激に弾性変形したときでも、末端硬質材料113が硬質材料112を支えることによって、当該免震構造体10の座屈の原因となる、圧縮側の部分(末端領域R1)に生じる局所的な応力集中を抑制することができる。
【0070】
一方、末端部R3の硬質材料113の軸直方向幅W13のみを単純に大きく確保した場合、座屈特性が向上する。しかしながら、単純にW13を大きくしただけでは建築物等の構造物の固有振動周期が短くなるため、本来の免震性能を発揮できない課題がある。そこで、末端部R3の硬質材料113の軸直方向幅W13を大きく確保した場合、くびれ部R2の硬質材料112の軸直方向幅W12を小さくすれば、前記構造物の固有振動周期が短くなる現象を抑制できる。具体的には、末端部R3の硬質材料113の軸直方向幅W13に対する、くびれ部R2の硬質材料112の軸直方向幅W12の比α1は、0.97以下である場合、前記構造物の固有振動周期を長く保ちつつ、座屈特性を向上させる。このため、免震構造体10において、α1を、0.97以下とすれば、座屈性能を向上させつつ、要求される免震性能を損なうことがない。また、比α1を0.6未満とした場合、くびれ部R2の硬質材料112の軸直方向幅W12が小さくなり座屈性能や荷重支持能力が低下する。これに対し、α1を0.6以上とすれば、座屈性能改善効果が得られ、荷重支持能力も低下しない。
【0071】
加えて、本実施形態において、末端部R3には、複数の硬質材料層113が配置されており、当該複数の硬質材料層113の幅方向外縁113eがくびれ部R2の硬質材料112の幅方向外縁112eよりも幅方向外側にあり、かつ、硬質材料層113の幅W13が免震構造体10の軸方向端に向かう従って拡大しているため、免震構造体10が大きく弾性変形したときも、末端部R3の硬質材料113の幅方向外縁113eの圧縮側に、局部的な剥離が生じない。
【0072】
要するに、水平剛性が等しく、α1が0.97を超える免震構造体と比較した場合、本実施形態に係る免震構造体10は、耐座屈性能が向上する。また、末端部R3硬質材料113の軸直方向幅W13が同一で、α1が0.97を超える免震構造体と比較した場合、本実施形態は、より固有振動周期を長くできる。更に、くびれ部R2の硬質材料112の軸直方向幅W12が同一で、α1が0.97を超える免震構造体と比較した場合、本実施形態は、末端部R3の硬質材料113の幅方向外縁113eの圧縮側に生じる、局部的な剥離を抑制できる。
【0073】
従って、硬質材料層11を上記のように配列すれば、要求される免震性能を損なうことなく、荷重支持能力を維持しつつ、耐座屈性能及び耐久性に優れた、免震構造体および免震装置となる。
【0074】
上述したところは、本発明のいくつかの実施形態を開示したにすぎず、特許請求の範囲に従えば、様々な変更が可能となる。例えば、本発明によれば、免震構造体および免震装置は、プラグ(芯材)を備えていてもよい。具体的には、本実施形態において、免震構造体10の中心部に、中心軸Oに沿って延在するプラグを貫通させることができる。前記プラグは、鉛、錫等の金属によって形成されていることが好ましい。
【0075】
(解析)
硬質材料層11の配列に関する効果を確認するため、W12/W13に基くFEM(Finite Element Method)解析(以下、「幅比率に基くFEM解析」ともいう。)と、仮想稜線Lの角度Aに基くFEM解析(以下、「角度に基くFEM解析」ともいう。)と、の2種類の解析を行った。前記FEM解析では、座屈ひずみ、破断ひずみおよび固有振動周期について検証した。前記FEM解析には、MSCソフトウェア製のMarc解析ソフトを使用した。
【0076】
上記FEM解析では、本実施形態に係る免震構造体10の輪郭形状を再現した解析モデルを使用した。前記幅比率に基くFEM解析では、6つの解析モデルを作成した。また、前記角度に基くFEM解析では、5つの解析モデルを作成した。これらのFEM解析で使用した入力荷重は、1300kNである。
【0077】
硬質材料のメッシュは、1層当り1辺50~120mm程度の四面体、メッシュ数を54個とした。軟質材料のメッシュは、1層当り1辺50~120mmの四面体、メッシュ数を54個とした。また、以下の[表2]には、解析モデルのパラメータを示す。
【0078】
【表2】
【0079】
以下の[表3]には、前記幅比率に基くFEM解析の結果を基に評価した、座屈性能、耐久性能(破断性能)および免震性能を示す。ここで、「座屈ひずみ」とは、解析モデルに座屈が生じたときのひずみ(%)であって、当該ひずみは、主として末端領域に生じる。また、「改善座屈ひずみ」とは、本実施形態に係る免震構造体10の数値範囲を含まない従来の免震構造体(この解析では、関連する性能がR=1の免震構造体)の座屈ひずみを100としたときの、解析対象となっている解析モデルの座屈ひずみ(%)の割合である。したがって、この評価では、改善座屈ひずみの値が大きいほど、座屈を生じ難く、座屈性能が良好であると判定している。また、「破断ひずみ」とは、軟質材料層に破断が生じたときのひずみ(%)であって、当該ひずみは、主として末端部R3に生じる。したがって、この評価では、破断ひずみの値が大きいほど、破断を生じ難く、破断性能が良好であると判定している。なお、「NA」は、利用不可値である。また、「100%等価周期」Tは以下のように求める。免震構造体の変位(x)-荷重(y)グラフを描いた時、通常ループ状になる。ここでループ上の最も+(プラス)の変位xの位置と、最も-(マイナス)の変位xの位置と、を直線で結んだ時の、この直線の傾きをkとする。そしてT=2π√(m/k)で求められる(mは免震構造体の質量)。したがって、この評価では、100%等価周期の値が大きいほど、免震性能が良好であると判定している。[表3]においては、座屈ひずみが400%以上の場合は◎で、良好との評価である。また、従来構造より15%以上改善された場合は○で、おおむね良好との評価である。さらに、×はそれ以外で、改善の余地があるとの評価である。
【0080】
【表3】
【0081】
表3を参照すれば、W12/W13=0.55の解析モデルでは、耐久性能および免震性能の評価として、改善の余地が認められる一方、0.6≦W12/W13の解析モデルでは、耐久性能および免震性能が良好な性能であることが認められた。また、W12/W13=0.98以上の解析モデルでは、座屈性能の評価として、改善の余地が認められる一方、W12/W13≦0.97の解析モデルでは、座屈性能が良好な性能であることが認められた。したがって、これらの評価結果から、0.6≦W12/W13≦0.97の範囲の解析モデルであれば、座屈性能、耐久性能(破断性能)および免震性能のいずれも、良好な性能であることが明らかである。
【0082】
また、以下の[表4]には、前記角度に基くFEM解析の結果を基に評価した、座屈性能を示す。ここで、「座屈ひずみ」および「改善座屈ひずみ」は、[表3]と同様である。また、「端部引張ひずみ」とは、末端部R3のプレート20に隣接する硬質材料層113の幅方向端部に接する軟質材料層12にかかるひずみの事を言う。この値が小さい程、良好である。さらに、[表4]においては、◎、○および×で示した評価も、[表3]と同様である。
【0083】
【表4】
【0084】
表4を参照すれば、仮想稜線Lの角度Aが40°以下の解析モデルおよび角度Aが85°の解析モデルでは、座屈性能および捲れ上がり性能の評価として、改善の余地が認められる一方、仮想稜線Lの角度Aが45°~80°の解析モデルでは、座屈性能および捲れ上がり性能が良好な性能であることが認められた。したがって、これらの評価結果から、仮想稜線Lの角度Aが40°~85°の範囲の解析モデルであれば、座屈性能が、良好な性能であることが明らかである。
【符号の説明】
【0085】
1:免震装置, 10:免震構造体, 11:硬質材料層, 112:くびれ部の硬質材料層, 113:末端部の硬質材料層, 112e:くびれ部の硬質材料層の幅方向外縁, 113e:末端部の硬質材料の幅方向外縁, 12:軟質材料層, A:角度, H1:免震構造体の高さ, H2:くびれ部の高さ, L:仮想稜線, R2:くびれ部, R3:末端部, W1:免震構造体の幅, W2:くびれ部の幅
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5