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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】外傷後ストレス障害の治療用の製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/55 20060101AFI20230712BHJP
   A61K 31/42 20060101ALI20230712BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20230712BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
A61K31/55
A61K31/42 ZMD
A61P25/22
A61P43/00 121
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019564988
(86)(22)【出願日】2018-05-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-16
(86)【国際出願番号】 IL2018050567
(87)【国際公開番号】W WO2018216018
(87)【国際公開日】2018-11-29
【審査請求日】2021-04-27
(31)【優先権主張番号】62/510,801
(32)【優先日】2017-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/518,020
(32)【優先日】2017-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516128500
【氏名又は名称】グリテック, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・シー・ジャヴィット
【審査官】小川 知宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-522075(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0216805(US,A1)
【文献】B DRUG MONOGRAPHS - Cycloserine (wayback machine archive),2017年04月,https://web.archive.org/web/20170427131201/http://www.tbdrugmonographs.co.uk/cycloserine.html
【文献】Journal of Psychiatric Research,2012年,46,1184-1190
【文献】JAMA Psychiatry,2017年01月,74,501-510
【文献】Arch Gen Psychiatry,2004年,61,1136-1144
【文献】Neuropsychopharmacology,2008年,33,2108-2116
【文献】精神神経学雑誌,2012年,114,1085-1092
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/55
A61K 31/42
A61P 25/22
A61P 43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外傷後ストレス障害(PTSD)又は強迫性障害(OCD)の症状の治療における使用のための組成物であって、前記組成物が、
≧500mg/d~≦1000mg/dの投与量で投与され、かつ25マイクログラム(μg)/mLを超える血中レベルをもたらすように配合されるD-サイクロセリンと、
ラセミ体ミルタザピン、R-ミルタザピン、及びS-ミルタザピンからなる群から選択される抗うつ剤と、
を含み、
PTSD又はOCDの症状が、積極的な回避および/または不安覚醒であることを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記抗うつ剤がラセミ体ミルタザピンである、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
前記抗うつ剤がS-ミルタザピンである、請求項1に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
その開示内容の全体を参照によって援用する、2017年5月25日出願の米国仮特許出願第62/510,801号及び2017年6月12日出願の米国仮特許出願第62/518,020号に対する利益を主張する。
【0002】
本明細書では、外傷後ストレス障害(PTSD)の症状を軽減するためのN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体アンタゴニストと抗うつ剤との組合せを含む組成物が提供される。記載された組成物を使用するPTSD治療の方法も記載される。
【背景技術】
【0003】
外傷後ストレス障害(PTSD)は、退役軍人の10%~60%を含む世界中の個人の1%~15%に影響を及ぼす重度の精神神経障害である。PTSDの診断は、米国精神医学会によって出版されたDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders-fifth edition (DSM-5)など、標準的な技術のテキストに記載されている基準を用いて決定されることができる。
【0004】
PTSDは、死、切迫した死、実際の又は切迫した重大な傷害、又は実際の又は切迫した性的暴力を含む重度のストレスを誘発することが知られている状況に晒された後の機能困難に伴う特徴的かつ持続的な症状の発達として定義される。ストレスの多い状況は、直接的又は間接的に経験されることがある。
【0005】
特徴的で持続的な症状は、再体験症状、回避症状、及び増加された覚醒を含む。これらは、数ある中で、Alexanderによる“Pharmacotherapy for Post-traumatic Stress Disorder In Combat Veterans:Focus on Antidepressants and Atypical Antipsychotic Agents,”P T.37(1):32-8,2012 PMC3278188に記載される。PTSD臨床診断面接尺度(CAPS)版などの標準化された尺度を用いて、PTSDの症状を評価することができる。これらの尺度は、反応と寛解の基準を決定するために用いられることができる。
【0006】
PTSDは、急性サブタイプと慢性サブタイプに分類されることができる。一般に、3か月未満続く症状は、急性と見なされるが、3か月を超える症状は慢性と見なされる。
【0007】
PTSDの症状は、再体験、積極的な回避、感情的な麻痺、不快な覚醒、及び不安覚醒にも分類されることができる。再体験は、ポジティブな出来事及びネガティブな出来事の両方を指す。ポジティブ及びネガティブの両方の解離も起こることがある。
【0008】
PTSDの症状は、改定出来事インパクト尺度などの尺度を用いて、侵入症状、回避症状、及び過覚醒症状のカテゴリーに分類されることができる。PTSD症状の他の下位区分も提案されることができる。
【0009】
PTSD症状の重症度の違いは、個人間で観察されることがある。これらの症状のタイプは、薬理学的又は行動的介入の特定のタイプに対し特異的に反応することができる。
【0010】
上記に記載される症状に加えて、PTSDに苦しむ個人の間で自殺の割合が増加する。同様に、大うつ病の割合は、PTSDを罹患している個人の間で著しく上昇される。
【0011】
PTSDと診断された個人の中で、自殺企図の生涯リスクは、25%になることがある。コロンビア自殺重症度評価尺度などの標準的な手段を用いて、自殺する可能性を評価することができる。自殺念慮及び自殺行為については、別々の評価が得られることがある。
【0012】
大うつ病は、悲しい気分が持続したり、活動に興味を失ったりすることを含む臨床症候群であり、治療が行われない場合で少なくとも2週間持続する。大うつ病の症状は通常、ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)、Montgomery Asburgうつ病評価尺度(MADRS)、又はベックうつ病質問票(BDI)などの評価尺度を使用して測定される。抑うつ気分に関連する症状を含めることに加えて、HAM-Dには、罪悪感、離人症/現実感消失、及び偏執病のための項目を含む精神病に敏感な症状も含まれる。うつ病は、強制水泳試験などの動物モデルで研究されることができる。
【0013】
PTSDの症状は、再体験症状、回避症状、及び覚醒症状の齧歯類のアッセイを用いてモデル化されることができる。1つの効率的なモデルは、Wistar-Kyoto (WKY)恐怖条件づけモデルである(例えば、Laitman et al.,“The alpha1 adrenoceptor antagonist prazosin enhances sleep continuity in fear-conditioned Wistar-Kyoto rats,”Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry 49:7-15.2014,PMC3969852)。
【0014】
PTSDの治療のために、臨床医は現在、うつ病及び/又は精神病の治療にも用いられる1以上の剤を使用している。そのような薬剤は、セルトラリン、パロキセチン、ベンラファキシン、及びクエチアピンを含む、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン/ノルエピネフリン(norephinephrine)(SNRI)再取り込み阻害薬、及び非定型抗精神病薬を含む。四環系抗うつ剤であるミルタザピンは、SSRI及びSNRIの補助剤として有効であることが示されている。
【0015】
それにもかかわらず、そのような剤は、部分的にのみ有効であり、殆どの個人で完全な症状の寛解をもたらさない。同様に、NMDARアンタゴニストケタミンは、単回静脈内投薬後のPTSDの幾つかの面で改善をもたらすと報告されている。しかしながら、その有用性は、精神異常発現性効果、及び反復投与中の神経毒性によって制限される。ケタミンの効果は、SSRI、SNRI、非定型抗精神病薬、又は他の治療医薬と組み合わせて試験されていない。したがって、PTSDの治療の開発に対する継続的なニーズが存在する。
【発明の概要】
【0016】
特定の実施形態において、抗うつ剤又は抗精神病剤と組み合わされたNMDARアンタゴニストを含む製剤、及びPTSDの治療及びPTSDの症状におけるそのような剤の使用方法が、本明細書に記載される。
【0017】
特定の実施形態においては、前記NMDARアンタゴニストは、NMDARの競合的アンタゴニストから選択されることができる。他の実施形態においては、前記NMDARアンタゴニストは、グリシン認識部位、グルタメート認識部位、又は酸化還元/ポリアミン認識部位でのアンタゴニストとして機能する剤から選択されることができる。更に他の実施形態においては、前記NMDARアンタゴニストは、NR2Aサブユニット又はNR2Bサブユニットなどの特定のサブユニットを含むNMDARでの非選択的アンタゴニスト又は選択的アンタゴニストであることができる。
【0018】
1つの実施形態においては、本明細書に記載されるのは、本質的に2つの治療薬からなる経口投与レジメンであり、前記2つの有効成分の1つ目は、NMDARアンタゴニストであり、2つ目は、抗うつ剤又は非定型抗精神病剤である。
【0019】
1つの実施形態においては、第1の治療薬は、≧500mg/d~≦1000mg/dの投与量で投与されるD-サイクロセリンからなり、25マイクログラム(μg)/mLを超える血中レベルをもたらすように配合される。特定の実施形態においては、D-サイクロセリンのそのような正味アンタゴニスト投与量(net-antagonist dosage)は、10mg/kg以上の投与量を含み、より具体的には、D-サイクロセリンは、7.5mg/kg/日~12.5mg/kg/日の用量で投与される。
【0020】
幾つかの実施形態においては、前記NMDARの前記グリシン部位の前記アンタゴニストは、25μg/mL超の血漿濃度をもたらすように配合されるガベスチネル、ラパスチネル(GlyX-13)、アピモスチネル(NRX-1074)、AV-101、Cerc-301、及びD-サイクロセリンを含むリストから選択される。
【0021】
幾つかの実施形態においては、前記第1の治療薬は、前記NMDARの競合的アンタゴニストである。幾つかの実施形態においては、前記第1の治療薬は、ガベスチネル、D-CPPene、ケタミン、デキストロメトルファン、CNS-1102、AZD6765、又はCGS-19755を含むリストから選択される。
【0022】
幾つかの実施形態においては、第2の治療薬は、四環系抗うつ剤(TeCA)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン/ノルエピネフリン(norephinephrine)再取り込み阻害薬(SNRI)、ノルアドレナリン及び特異的セロトニン剤(NaSSa)、非定型抗うつ剤、5-HT2Aアンタゴニスト、又はこれらの組合せを含む。
【0023】
幾つかの実施形態においては、前記第2の治療薬は、セルトラリン、パロキセチン、又はクエチアピンを含むリストから選択される。
【0024】
幾つかの実施形態においては、前記抗うつ剤は、イミプラミン、アミトリプチリン、アモキサピン、ブプロピオン、シタロプラム、クロミプラミン、デシプラミン、デスベンラファキシン、デュロキセチン、エスシタロプラム、フルオキセチン、フルボキサミン、レボミルナシプラン、マプロチリン、ミアンセリン、ミルナシプラン、レボミルナシプラン、ミルタザピン、ネファゾドン、パロキセチン、セルトラリン、セチプチリン、トラゾドン、ベンラファキシン、ベンラファキシンXR、ダポキセチン、インダルピン(indalpine)、ビラゾドン、及びボルチオキセチンを含むリストから選択される。
【0025】
幾つかの実施形態においては、前記抗うつ剤は、S-(+)-ミルタザピン又はR-(-)-ミルタザピンを含むリストから選択される。
【0026】
特定の実施形態においては、前記第2の剤は、選択的5-HT2A受容体アンタゴニスト又はインバースアゴニストである。
【0027】
幾つかの実施形態においては、前記第2の剤は、ボリナンセリン(MDL100,907、M100907としても知られる)プルバンセリン(EMD281014)、エプリバンセリン(SR-46349、Citryri)、CYR-101、及びピマバンセリン(ACP-103)を含むリストから選択される。
【0028】
幾つかの実施形態においては、前記第2の治療薬は、アゴメラチン、Lu AA21004、F2695、SEP-227162、LuAA24530、SEP-225289、エプリバンセリン、SR46349、LY12624803、HY10275、TIK-301/LY156735、ロナセン、LU-31-130、SLV313、エディボキセチン、OPC-34712、リスデキサンフェタミン、サコメリン(sacomeline)、コルラセタム(clouracetam)、BMS-82036、及びM100907を含むリストから選択される。
【0029】
幾つかの実施形態においては、NMDARアンタゴニスト及び抗うつ病医薬の組合せは、静脈内投与、鼻腔内投与、又は皮下投与などの非経口的ケタミン投与による初回処置後に投与される。幾つかの実施形態においては、特異的鏡像異性体であるS-ケタミン又はR-ケタミンが、初回処置に用いられる。
【0030】
正味アンタゴニスト有効量のD-サイクロセリンとR-(-)-ミルタザピンとを含む医薬組成物も本明細書で記載され、前記正味アンタゴニスト有効量のD-サイクロセリンは、≧500mg/d~≦1000mg/dの投与量であり、25マイクログラム(μg)/mLを超える血中レベルをもたらすように配合され、特定の実施形態においては、10mg/kg以上の投与量で提供されるD-サイクロセリンであり、より具体的には、前記D-サイクロセリンは、7.5mg/kg/日~12.5mg/kg/日の用量で投与される。
【0031】
前述及び他の目的、特徴、及び利点は、以下の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、ガラス玉覆い隠しに対するDCS及びミルタザピンの相乗効果を示す。***p<0.001対溶媒。#p<0.05ミルタザピン+DCS300mg/kg対ミルタザピン単独。10頭のマウスを、溶媒(対照)、パロキセチン(5mg/kg)、ミルタザピン(5.5mg/kg)、D-サイクロセリン(30mg/kg)、D-サイクロセリン(300mg/kg)、又はD-サイクロセリン(300mg/kg)+(ミルタザピン5.5mg/kg)のいずれかで処置し、試験の30分前にIPで投与した。試験中に移動した距離をカメラで捕らえ、Video Tracker Software(ViewPoint Life Sciences Software,France)を用いて定量化した。試験の終わりに、マウスをケージから取り出し、覆われていないガラス玉の数を数えた。少なくとも3分の2が床敷きで覆われている場合、ガラス玉は覆い隠されていると見なした。p<0.05の場合、効果は有意と見なした。
図2図2は、ガラス玉覆い隠しにおけるミルタザピンのR異性体とS異性体との相対的な効果を示し、R異性体対S異性体のより大きな効果を示す。***p<0.001対ラセミ体ミルタザピン。10頭のマウスを、溶媒(対照)、パロキセチン(5mg/kg)、S-ミルタザピン(1mg/kg、2.5mg/kg、5.0mg/kg、及び10mg/kg)、R-ミルタザピン(1mg/kg、2.5mg/kg、5.0mg/kg、及び10mg/kg)、R-ミルタザピン(2.5mg/kg)+D-サイクロセリン(300mg/kg)のいずれかで処置し、試験の30分前にIPで投与した。試験中に移動した距離をカメラで捕らえ、Video Tracker Software(ViewPoint Life Sciences Software,France)を用いて定量化した。試験の終わりに、マウスをケージから取り出し、覆われていないガラス玉の数を数えた。少なくとも3分の2が床敷きで覆われている場合、ガラス玉は覆い隠されていると見なした。p<0.05の場合、効果は有意と見なした。
図3図3は、齧歯類におけるDCSの薬物動態を示す。どの用量が>25マイクログラム/mLのDCS血漿レベルの効果をもたらすか(produces)を決定するために、8頭のマウスを30mg/kg、100mg/kg、300mg/kg、500mg/kg、及び1000mg/kgのDCSで処理し、IPで投与した。グラフに示されているのは、血漿(±sem)DCSレベル対用量である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
I.用語
別段の説明がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。「a」、「an」、及び「the」という単数形の用語には、文脈が明確に示さない限り、複数の参照を含む。同様に、「又は」という言葉は、文脈が明確に示さない限り、「及び」を含むことを意図している。更に、核酸又はポリペプチドに与えられた全ての塩基サイズ又はアミノ酸サイズ、及び全ての分子量又は分子質量の値は、おおよそであり、説明のために提供されることが理解される。本明細書に記載のものと類似又は同等の方法及び材料を本開示の実施又は試験に使用することができるが、適切な方法及び材料を以下に記載する。「comprises」という用語は、「includes」を意味する。「consisting essentially of」は、リストされた特徴のみをアクティブ又は必須な要素として含む組成物、方法、又はプロセスを示すが、更に非アクティブ要素を含むことができる組成物、方法、又はプロセスを示す。略語「e.g.」は、ラテン語のexempli gratiaに由来し、非限定的な例を示すために本明細書中で使用される。したがって、略語「e.g.」は、「for example」などの用語と同義である。
【0034】
矛盾する場合、用語の説明を含む本明細書が考慮される。更に、全ての材料、方法、及び例は例示的であり、限定することを意図したものではない。
【0035】
本明細書で使用されるように、本明細書で参照される治療薬の「有効」量又は「治療有効量」への言及は、毒性はないが、望ましい効果を提供するのに十分な量の同じものを意味する。本発明の併用療法において、組合せの1つの成分の「有効量」は、組合せの他の成分と組み合わせて使用される場合に、所望の効果を提供するのに効果的な化合物の量である。「有効である」量は、個体の年齢及び一般的な状態、特定の活性剤又は剤などに応じて、対象ごとに異なる。したがって、正確な「有効量」を指定することは常に可能ではない。しかしながら、任意の個々の場合における適切な「有効」量は、通常の実験を用いて当業者によって決定されることができる。
【0036】
本明細書で使用される「治療すること」及び「治療」という用語は、症状の重症度及び/又は頻度の低下、症状及び/又はその根本的な原因の除去、症状及び/又はその根本的な原因の発生の防止、及び損傷の改善又は修復を指す。したがって、例えば、患者を「治療する」ことは、影響を受けやすい個体における特定の障害又は有害な生理学的事象の予防、並びに臨床的に症状のある個体の治療を含む。
【0037】
PTSDの症状は、再体験、積極的な回避、感情的な麻痺、不快な覚醒、及び不安覚醒を含む。再体験は、ポジティブな出来事及びネガティブな出来事の両方を指す。ポジティブ及びネガティブの両方の解離も起こることがある。PTSDの症状は、改定出来事インパクト尺度などの尺度を用いて、侵入症状、回避症状、及び過覚醒症状のカテゴリーに分類されることもできる。本明細書に記載される組成物及び方法は、PTSDに関連するこれらの及び他の症状を治療するために用いられることができる。
【0038】
D-サイクロセリン又はDCSは、化学的D-サイクロセリン(CA指標名:3-イソオキサゾリジノン,4-アミノ-,(4R)-(9CI);CAS登録番号68-41-7)、又はその薬学的に許容される塩を指す。DCSは、結核の治療のための、FDA(米国食品医薬品局)が認可した薬物であり、Eli Lilly and CompanyからSeromycin(登録商標)の商標名で販売されている。DCSは、D-アラニンの構造類似体であり、Streptomyces orchidaceus及びgarphalusの幾つかの株によって産生される広域抗生物質である。
【0039】
II.PTSDの治療のための方法
PTSD及びその症状(再体験、回避症状、及び/又は増加された覚醒など)の治療の方法における使用のための経口的又は非経口的投与レジメンが、本明細書に記載される。
【0040】
記載された方法の1つの実施形態は、それを必要としている対象に、治療的有効量のN-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)アンタゴニストを含む。
【0041】
他の実施形態においては、PTSD又はその症状を治療する方法における使用のための経口投与レジメンが、本明細書に記載され、前記投与レジメンは、2つの治療薬(有効成分)を投与することを含む。前記有効成分の1つ目は、NMDARアンタゴニストであり、2つ目は、抗うつ剤又は非定型抗精神病剤である。
【0042】
NMDARは、脳神経伝達物質グルタメートに対する神経細胞受容体の一種である。NMDARは、感覚処理、認知、及び感情調節を含む様々な脳機能に関与する。NMDARは、GluN1、GluN2、及びGluN3(以前は、NR1、NR2、NR3)と呼ばれる複数のサブユニットから構成される。GluN1、GluN2、及びGluN3の複数の形態が存在する。NMDARは、種々の量のGluN1、GluN2、及びGluN3サブユニットの種々の組合せからなることができる。アゴニスト及びアンタゴニストは、全てのNMDARに同等に影響を及ぼすことができる、又は特定のサブユニットタイプを含むNMDARにおいて選択的であることができる。本明細書に記載される方法は、NMDARアンタゴニストの使用を含む。
【0043】
NMDARは、神経伝達物質グルタメート及び内因性調節アミノ酸であるグリシンとD-セリンのための結合部位を含む。NMDARは、酸化還元部位/ポリアミン結合部位を介して、周囲の組織の酸化還元状態に対して感応性である。これらの部位に結合してNMDAR活性を低下させる剤は、競合的阻害薬と呼ばれる。
【0044】
NMDARグルタメート結合部位は、合成グルタメート誘導体N-メチル-D-アスパラギン酸(aspartate)を高親和性で選択的に結合する。この部位は、NMDARのNMDA認識部位又はグルタメート認識部位とも呼ばれる。
【0045】
NMDARグリシン/D-セリン結合部位は、グリシン調節部位、アロステリックな調節部位、又はグリシン-B受容体と呼ばれている。
【0046】
NMDARは、フェンシクリジン(PCP)、ケタミン、又はジゾシルピン(MK-801)などの幾つかの依存性薬物によってブロックされるイオンチャネルを形成する。これらの化合物は、PCP受容体と呼ばれている部位に結合する。NMDAR関連イオンチャネルをブロックする剤は、非競合的NMDARアンタゴニスト又はNMDARチャネルブロッカーと総称される。チャネルブロッカーによるNMDARの遮断は、統合失調症によく似た臨床精神病状態をもたらす。
【0047】
記載される方法においては、NMDARは、グルタメート認識部位、グリシン認識部位、又はポリアミン結合部位に結合するアンタゴニストによっても阻害されることができる。歴史的に、高親和性NMDARアンタゴニストは、複数の臨床設定で使用されてきた。
【0048】
セルフォテル(CGS19755)は、グルタメート認識部位に結合するアンタゴニストの例である。幾つかのこのような化合物は、脳卒中やてんかんなどのCNS適応症を対象として開発された。NMDARを有意に阻害するのに十分な用量で用いられると、チャネルブロッカーのようなこれらの化合物は、臨床的な精神異常発現性症状をもたらす。
【0049】
グルタメート認識部位のアンタゴニストとして機能する追加の化合物は、アプチガネル(Cerestat、CNS-1102)及びJ Med Chem 37:260-7.1994(Reddy等)に記載される関連化合物を含む。グルタメート認識部位のアンタゴニストとして機能する追加の化合物は、様々なスペーサーユニットによって分離されたα-アミノ-カルボン酸及び及びホスホン酸機能性を含む。修飾されていない例は、2-アミノ-5-ホスホノバレリアン酸(AP5)(Watkins,J.C.;Evans,R.H.,Annu.Rev.Pharmacol.Toxicol.1981,21,165)であり、飽和炭素鎖を含む。構造的剛性、それによって効力を高める要素を含むより複雑な例は、CPP、cis-4-(ホスホノメチル)-2-ピペリジンカルボン酸(CGS-19755)(Lehman,J.et al.,J.Pharmacol.Exp.Ther.1988,246,65)、及び(E)-2-アミノ-4-メチル-5-ホスホノ-3-ペンテン酸(CGP-37849)(Schmutz,M.et al.,Abs.Soc.Neurosci.1988,14,864)を含む。その全体を参照によって援用する、2008年3月18日発行の米国特許第7,345,032号明細書及び米国特許第5,168,103号明細書を参照。
【0050】
記載される方法では、グリシン認識部位に結合するアンタゴニストによってNMDARが阻害されることもできる。特定の実施形態においては、このような阻害は、D-サイクロセリンによるものであり、アンタゴニスト産生用量で投与される。
【0051】
D-サイクロセリンは、部分的グリシン部位アンタゴニスト(別名混合アゴニスト/アンタゴニスト)としても作用する抗結核医薬である。D-サイクロセリンは、約100mgまでの用量で主にアゴニスト効果を、500mgを超える用量で主にアンタゴニスト効果を、中間用量で中間効果をもたらす。主にアゴニスト効果に関連する血漿濃度は、主に<10μg/mLである。アンタゴニスト効果に関連する血漿濃度は、>25μg/mlである。毒性に対する増加した易罹病性(liability)は、血漿レベル>35μg/mLで観察される。
【0052】
D-サイクロセリンは通常、結核の治療のために250mg~1000mgの用量で投与される。したがって、典型的な用量は、250mg、500mg、750mg、又は1000mgである。550mg、600mg、650mg、700mg、800mg、850mg、又は900mgなどの中間用量も可能である。記載された方法の特定の実施形態においては、D-サイクロセリンは、上記の中間用量を含むがこれに限定されない、500mg/日超から1000mg/日以下の用量で対象に投与される。ヒトにおける意図された使用のためのD-サイクロセリンの有効用量は、>25μg/ml超の持続された血漿レベルを必要とし、特定の実施形態においては、成人対象において10mg/kg以上の用量で提供される。記載された組成物は、12mg/kg/日、14mg/kg/日、15mg/kg/日、16mg/kg/日、20mg/kg/日、22mg/kg/日、及び24mg/kg/日などを含むがこれらに限定されない、10mg/kg/日~25mg/kg/日の重量基準用量で提供されるD-サイクロセリンを含むことができる。これらのレベルの達成には、500mg/日を超えるヒトの用量が必要であり、平均的な成人では約700mg/日である。正味アンタゴニスト効果をもたらすためのD-サイクロセリンのヒトへの投与は、ヒトの薬物動態研究によって理解することができる。対象の体重に応じて、特定の実施形態においては、より具体的には、D-サイクロセリンは、7.5mg/kg/日~12.5mg/kg/日の用量で投与され、必要な正味アンタゴニスト用量を達成する。
【0053】
500mgの用量後のヒトにおけるD-サイクロセリンの薬物動態(PK)が、過去に研究されてきた。重要なパラメーターは、投与間隔中に達成された最大(ピーク)濃度(Cmax)、最大濃度までの時間(Tmax)、及び曲線下面積(AUC)を含む。
【0054】
例えば、Zhu等(Zhu M,Nix DE,Adam RD,Childs JM,Peloquin CA.Pharmacokinetics of cycloserine under fasting conditions and with high-fat meal,orange juice,and antacids.Pharmacotherapy.2001;21(8):891-7)は、12.1マイクログラム/mL~30.6マイクログラム/mLの範囲において、空腹条件下で14.8マイクログラム/mLの中央値Cmax値を示した。24時間に亘る中央値AUCレベルは、163~352の範囲で、214マイクログラム-hr/mLであり、6.8マイクログラム/mL~14.7マイクログラム/mLの範囲で、8.9マイクログラム/mLの中央値持続血漿レベルに対応する。
【0055】
Park等(Park SI,Oh J,Jang K,Yoon J,Moon SJ,Park JS,Lee JH,Song J,Jang IJ,Yu KS,Chung JY.Pharmacokinetics of Second-Line Antituberculosis Drugs after Multiple Administrations in Healthy Volunteers.Antimicrob Agents Chemother.2015;59(8):4429-35.)は、12時間毎にPOで投与される250mgのD-サイクロセリンの薬物動態を評価し、24.9マイクログラム/mLの平均Cmax値及び242.3mg-時間/Lの12時間に亘る平均AUCを観察し、これは、20.2マイクログラム/mLの平均血漿レベルに対応する。
【0056】
Hung等(2014年)(Hung WY,Yu MC,Chiang YC,Chang JH,Chiang CY,Chang CC,Chuang HC,Bai KJ.Serum concentrations of cycloserine and outcome of multidrug-resistant tuberculosis in Northern Taiwan.Int J Tuberc Lung Dis.2014;18(5):601-6)は、DCSによる臨床治療中のPKレベルを評価した。対象に亘る平均用量は、8.8mg/kgであり、対象の大部分(n=27)が500mg/日のDCSを投与され、少数が750mg/d(n=4)又は250mg/d(n=2)のいずれかだった。投与後2時間及び6時間でのDCS濃度は、19.7マイクログラム/mL及び18.1マイクログラム/mLだった。
【0057】
したがって、ヒトのPK研究の一貫した知見は、D-サイクロセリンの500mg投与後の持続された血漿用量が、一貫して25マイクログラム/mL未満であることである。本明細書に記載されるように、D-サイクロセリンの抗PTSD効果は、25マイクログラム/mLを超える用量で観察される。したがって、このような血漿レベルをもたらすための1日当たりの用量は、上記に記載されているように、必然的に500mg/日を超える。
【0058】
フェルバメートは、グリシン結合部位を介して作用することができる化合物の別の例であり、記載された方法で用いられることができる。ヒトに投与すると、フェルバメートは、その臨床的有用性を制限する精神病効果をもたらす(例えば、Besag FM,Expert Opin Drug Saf 3:1-8,2004)。
【0059】
ガベスチネル(GV-150,526)は、本明細書に記載されるように、使用するためのグリシン結合部位でのアンタゴニストの別の例である。他の同様に有用な化合物は、参照により本明細書に組み込まれる、DiFabrio et al.,J Med Chem 40:841-50,1997に記載される。本明細書に記載される医薬組成物及び方法における使用に適したグリシン部位アンタゴニストの他の例は、以下で参照されるものである。2003年12月23日に発行された米国特許第6,667,317号明細書;2000年6月27日に発行された米国特許第6,080,743号明細書;1999年11月23日に発行された米国特許第5,990,108号明細書;1999年8月24日に発行された米国特許第5,942,540号明細書;1999年7月15日に発行された世界特許出願国際公開第99/34790号;1998年10月29日に出版された世界特許出願国際公開第98/47878号;1998年10月1日に出版された世界特許出願国際公開第98/42673号;1991年12月29日に出版された欧州特許出願公開第966475A1号明細書;1998年9月11日に出版された世界特許出願国際公開第98/39327号;1998年2月5日に出版された世界特許出願国際公開第98/04556号;1997年10月16日に出版された世界特許出願国際公開第97/37652号;1996年10月9日に発行された米国特許第5,837,705号明細書;1997年6月12日に出版された世界特許出願国際公開第97/20553号;1999年3月23日に発行された米国特許第5,886,018号明細書;1998年9月1日に発行された米国特許第5,801,183号明細書;1995年3月23日に発行された世界特許出願国際公開第95/07887号;1997年11月11日に発行された米国特許第5,686,461号明細書;1997年4月22日に発行された米国特許第5,622,952号明細書;1997年3月25日に発行された米国特許第5,614,509号明細書;1996年4月23日に発行された米国特許第5,510,367号明細書;1992年12月9日に出版された欧州特許出願公開第517,347A1号明細書;1993年11月9日に出版された米国特許第5,260,324号明細書。前述の特許及び特許出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0060】
本明細書に記載される医薬組成物及び方法において用いられることができるグリシン部位アンタゴニストの他の例は、N-(6,7-ジクロロ-2,3-ジオキソ-1,2,3,4-テトラヒドロ-キノキサリン-5-イル)-N-(2-ヒドロキシ-エチル)-メタンスルホンアミド及び6,7-ジクロロ-5-[3-メトキシメチル-5-(1-オキシピリジン-3-イル)-[1,2,4]トリアゾル-4-イル]-1,4-ジヒドロ-キノキサ-リン-2,3-ジオンである。
【0061】
本明細書における使用のための追加のNMDARアンタゴニストは、その全体が参照により本明細書に組み込まれるSchiene等の米国特許出願公開第2001/0306674A1号明細書に記載され、N含有ホスホン酸(ノルバリン(AP5)、D-ノルバリン(D-AP5)、4-(3-ホスホノ-プロピル)-ピペラジン-2-カルボン酸(CPP)、D-(E)-4-(3-ホスホノプロプ-2-エニル)ピペラジン-2-カルボン酸(D-CPPene)、cis-4-(ホスホノメチル)-2-ピペリジンカルボン酸(セルフォテル、CGS19755)、SDZ-220581、PD-134705、LY-274614、及びWAY-126090);キノリン酸(キヌレン酸、7-クロロ-キヌレン酸、7-クロロ-チオキヌレン酸、及び5,7-ジクロロ-キヌレン酸など)、そのプロドラッグ(4-クロロキヌレニン及び3-ヒドロキシ-キヌレニンなど);4-アミノテトラヒドロキノリン-カルボキシラート(L-689,560など);4-ヒドロキシキノリン-2(1H)-オン(L-701,324など);キノキサリンジオン(リコスチネル(licostinel)(ACEA-1021)及びCGP-68,730Aなど);4,6-ジクロロ-インドール-2-カルボキシラート誘導体(MDL-105,519、ガベスチネル(GV-150,526)、及びGV-196,771Aなど);三環式化合物(ZD-9,379及びMRZ-2/576など)、(+)-HA-966、モルフィナン誘導体(デキストロメトルファン及びデキストロファン(dextrophan)など);ベンゾモルファン(BIII-277CLなど);他のオピオイド(デキストロプロポキシフェン、ケトベミドン、デキストロメタドン(dextromethadone)、及びD-モルヒネなど);アミノ-アダマンタン(アマンタジン及びメマンチンなど);アミノ-アルキル-シクロヘキサン(MRZ-2/579など);イフェンプロジル及びイフェンプロジル様化合物(エリプロディル及びPD-196,860など);イミノピリミジン;又は他のNMDA-アンタゴニスト(ニトロプルシド、D-サイクロセリン、1-アミノシクロプロパン-カルボン酸、ジゾシルピン(MK801)及びその類似体、フェンシクリジン(PCP)、ケタミン((R,S)-2-(2-クロロフェニル)-2-(メチルアミノ)シクロヘキサン-1-オン)、(R)-ケタミン、(S)-ケタミン、レマセミド(remacemide)及びその脱グリシニル-代謝物(des-glycinyl-metabolite)FPL-12,495、AR-R-15,896、メサドン、スルファゾシン、AN19/AVex-144、AN2/AVex-73、ベソンプロジル、CGX-1007、EAB-318、フェルバメート、及びNPS-1407など)を含むが、これらに限定されない。NMDA-アンタゴニストは、例えば、 “Analgesics,”(H.Buschmann,T.Christoph,E.Friderichs,C.Maul,B.Sundermann,2002,Wiley-VCH Verlag GmbH&Co.KGaA,Weinheim,Germanyにより編集された)の特に389頁~428頁に開示される。記載のそれぞれの部分は、参照により本明細書に組み込まれ、本開示の一部を形成する。
【0062】
同定されたNMDARアンタゴニストに加えて、追加の効果的な化合物は、NMDAグルタメート部位アゴニストに対するNMDA-受容体を介した応答の調節などの十分に検証された電気生理学的アッセイ、又はNMDA PCP-受容体チャネル結合部位への結合の調節などの放射線受容体アッセイなどを用いて同定されることができる。グリシン部位アゴニスト及びアンタゴニストは、チャネル部位に結合するフェンシクリジン(PCP)又はケタミンなどの化合物からの受容体結合及び電気生理学の両方に基づいて区別されることができる。部分アゴニストは、完全アゴニストに対して、受容体の立体構造の変化を誘発する効果が低下した化合物(通常40%~80%)として定義される。混合アゴニスト/アンタゴニストは、低用量ではアゴニスト効果を誘発し、高用量ではアンタゴニスト効果を誘発することができる化合物である。
【0063】
NMDARアンタゴニストケタミンは、現在麻酔剤として認可されている。推定される低親和性NMDARアンタゴニストのメマンチンは、認知症での使用が認可されている。それ以外の場合、NMDARアンタゴニストは、確立された臨床的有用性を有さない。一般に、NMDARアンタゴニストは、精神病性障害、不安障害、又はうつ病性障害における使用において禁忌とみなされている。例えば、NMDARアンタゴニストD-サイクロセリンは、うつ病、重度の不安、又は精神病における使用のためにFDAによって禁忌とされている。
【0064】
D-サイクロセリンは、過去にPTSDの治療のために研究されてきたが、主に低用量(例えば、50mg)でNMDARアゴニストとして作用すると考えられ、主に行動介入の補助として用いられる。PTSDの治療のためのNMDARアンタゴニストとしてのその使用は、現在の開示以前には記載されていない。
【0065】
上記に示されるように、PTSD又はその症状を治療するための記載された治療の特定の実施形態は、1つ又は2つの主要な治療薬(有効成分)を含む投与レジメンを含む。有効成分の1つ目は、NMDARアンタゴニストであり、2つ目は、抗うつ剤又は非定型抗精神病剤である。
【0066】
記載された方法の幾つかの実施形態においては、第1の治療(NMDARアンタゴニスト)剤は、グリシン認識部位、グルタメート認識部位、又はポリアミン認識部位で作用する。
【0067】
幾つかの実施形態においては、第1の治療薬は、NR2Aサブユニット又はNR2Bサブユニットを含むNMDARで作用する。
【0068】
幾つかの実施形態においては、第1の治療薬は、500mg/日~1000mg/日などの500mg/日超の投与量で投与されたD-サイクロセリンであり、25マイクログラム/mLを超える血漿レベルをもたらすように配合される。
【0069】
幾つかの実施形態においては、第1の治療薬は、ケタミン、セルフォテル、アプチガネル、CPP、CGP-37849、フェルバメート、ガベスチネルN-(6,7-ジクロロ-2,3-ジオキソ-1,2,3,4-テトラヒドロ-キノキサリン-5-イル)-N-(2-ヒドロキシ-エチル)-メタンスルホンアミド及び6,7-ジクロロ-5-[3-メトキシメチル-5-(1-オキシピリジン-3-イル)-[1,2,4]トリアゾル-4-イル]-1,4-ジヒドロ-キノキサ-リン-2,3-ジオン、4-(3-ホスホノ-プロピル)-ピペラジン-2-カルボン酸(CPP)、D-(E)-4-(3-ホスホノプロプ-2-エニル)ピペラジン-2-カルボン酸(D-CPPene)、SDZ-220581、PD-134705、LY-274614、及びWAY-126090);キノリン酸(キヌレン酸、7-クロロ-キヌレン酸、7-クロロ-チオキヌレン酸、及び5,7-ジクロロ-キヌレン酸など)、そのプロドラッグ(4-クロロキヌレニン及び3-ヒドロキシ-キヌレニンなど);4-アミノテトラヒドロキノリン-カルボキシラート(L-689,560など);4-ヒドロキシキノリン-2(1H)-オン(L-701,324など);キノキサリンジオン(リコスチネル(licostinel)(ACEA-1021)及びCGP-68,730Aなど);4,6-ジクロロ-インドール-2-カルボキシラート誘導体(MDL-105,519、ガベスチネル(GV-150,526)、及びGV-196,771Aなど);三環式化合物(ZD-9,379及びMRZ-2/576など)、(+)-HA-966、モルフィナン誘導体(デキストロメトルファン及びデキストロファン(dextrophan)など);ベンゾモルファン(BIII-277CLなど);他のオピオイド(デキストロプロポキシフェン、ケトベミドン、デキストロメタドン(dextromethadone)、及びD-モルヒネなど);アミノ-アダマンタン(アマンタジン及びメマンチンなど);アミノ-アルキル-シクロヘキサン(MRZ-2/579など);イフェンプロジル及びイフェンプロジル様化合物(エリプロディル及びPD-196,860など);イミノピリミジン;又は他のNMDA-アンタゴニスト(ニトロプルシド、D-サイクロセリン、1-アミノシクロプロパン-カルボン酸、ジゾシルピン(MK801)及びその類似体、(R)-ケタミン、(S)-ケタミン、レマセミド(remacemide)及びその脱グリシニル-代謝物(des-glycinyl-metabolite)FPL-12,495、AR-R-15,896、メサドン、スルファゾシン、AN19/AVex-144、AN2/AVex-73、ベソンプロジル、CGX-1007、EAB-318、及びNPS-1407を含むリストから選択される。
【0070】
幾つかの実施形態においては、MDARアンタゴニストは、抗うつ剤又は非定型抗精神病薬と組み合わされ、本明細書では「第2の治療薬」とも呼ばれる。そのような剤の多くは、セロトニン(5-HT)の調節によって作用し、ノルエピネフリンとドーパミンは、神経伝達物質のシグナル伝達である。
【0071】
セロトニン(5-HT)、ノルエピネフリン、及びドーパミンは、神経精神障害の病因に関与すると考えられている脳内の神経伝達物質である。
【0072】
5-HT2A受容体は、神経伝達物質セロトニン(5-HT)の受容体の一種である。記載された方法における使用のためのものなど5-HT2Aアンタゴニストは、5-HT2A受容体におけるセロトニンなどのアゴニストの効果を阻害する化合物である。インバースアゴニストは、更に、基礎レベル未満に活性を低下させる化合物である。5-HT2A受容体アンタゴニストは、5-HT2A対他のセロトニン受容体(例えば、5-HT2C)において非選択的であることができる、又は5-HT2A受容体において選択的であることができる。その全体が参照により本明細書に組み込まれる2010年5月11日に発行された米国特許第7,713,995号明細書に記載されるものなどの標準アッセイ手順を用いて、選択的5-HT2Aアンタゴニストは、発現され、特徴づけられることができる。
【0073】
非選択的セロトニン受容体アンタゴニストとして作用する剤は、リタンセリン、ケタンセリン、セガンセリン、及びICI-169369を含む。選択的5-HT2Aアンタゴニスト又はインバースアゴニストとして作用する剤は、ボリナンセリン(MDL100,907、M100907としても知られる)プルバンセリン(EMD281014)、エプリバンセリン(SR-46349、Citryri)、CYR-101、及びピマバンセリン(ACP-103)を含む。選択的5-HT2A受容体アンタゴニスト及びインバースアゴニストは、うつ病及び精神病の両方の治療のために現在開発中であり、一般に及び現在開示されている方法を目的とした、潜在的な抗うつ剤/抗精神病剤と見なされる。
【0074】
追加の5-HT2A受容体アンタゴニスト又はインバースアゴニストは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2011年1月25日に発行された米国特許第7,875,632号明細書;2011年1月11日に発行された米国特許第7,868,176号明細書;2011年1月4日に発行された米国特許第7,863,296号明細書;2010年10月26日に発行された米国特許第7,820,695号明細書;及び/又は2010年5月11日に発行された米国特許第7,713,995号明細書に記載される。
【0075】
うつ病のための最も一般的に用いられる薬理学的治療は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)(セルトラリン、フルオキセチン(fluxetine)、シタロプラム、エスシタロプラム、パロキセチン、及びフルボキサミンなど)とセロトニン/ノルエピネフリン(norephinephrine)(SNRI)再取り込み阻害薬(デュロキセチン、ベンラファキシン、デスベンラファキシン、ミルナシプラン、及びレボミルナシプランなど)と、からなる。モノアミン、特にノルエピネフリン及びセロトニンの脳中濃度を調節することで、及び/又は5-HT2A受容体をブロックすることで、これらの剤は機能する。
【0076】
本明細書に記載される方法における使用のためのNMDAR受容体アンタゴニストと組み合わせることができる剤の追加のクラスは、ノルアドレナリン作動性及び特異的セロトニン作動性(NaSSA)(アプタザピン、エスミルタザピン、ミアンセリン、ミルタザピン、及びセチプチリン/テシピチイン(tecipitiine)など)、並びに非定型抗うつ剤(ブプロピオン、ネファゾドン、ビラゾドン、及びボルチオキセチンなど)を含む。
【0077】
開示された治療において用いられることができるうつ病の治療のために認可された他の剤は、リスペリドン、オランザピン、クエチアピン、クエチアピンXR、アリピプラゾール、ブレクスピプラゾール、及びルラシドンなどの非定型抗精神病薬を含む。他の潜在的な非定型抗精神病薬は、アミスルプリド、アリピプラゾール、アセナピン、バイオアンセリン(bioanserin)、ビフェプルノクス、カリプラジン、クロチアピン、クロザピン、イロペリドン、ルマトペロン(lumatoperone)(ITI-007)、ルラシドン、モサプロアミン(mosaproamine)、オランザピン、パリペリドン、ペロスピロン、クエチアピン、レモキシプリド、リスペリドン、セルチンドール、スルピリド、ジプラシドン、ゾテピンを含む。
【0078】
非定型抗精神病薬の特定の例は、ドーパミンD2及びセロトニン5-HT2A受容体の両方のアンタゴニストとして機能することができる。D2及び5-HT2A受容体の両方で作用する剤は、セロトニン-ドーパミンアンタゴニスト(SDA)と呼ばれる。
【0079】
記載された方法の特定の実施形態においては、第2の治療薬(NMDARアンタゴニストとの組合せにおける使用のため)は、本明細書に記載される任意の剤であり、例えば、四環系抗うつ剤(TeCA)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン/ノルエピネフリン(norephinephrine)再取り込み阻害薬(SNRI)、ノルアドレナリン作動性及び特異的セロトニン作動性(NaSSA)、非定型抗うつ剤、5-HT2A受容体アンタゴニスト、うつ病の治療における使用のために認可された非定型抗精神病薬、又はそれらの組合せである。
【0080】
幾つかの実施形態においては、2つの有効成分が、単一の医薬組成物で提供され、幾つかの実施形態においては、前記2つの有効成分のそれぞれを含むキット又は組み合わされたディスペンサーパケットが考えられる。現在の開示は、2つの有効成分のいずれかを対象に同時投与すること、そのような投与を単一製剤又は別々の製剤で組み合わされるか否か、及びそのような投与が同時に行われるかずらして行われるかを考慮することを理解されたい。
【0081】
幾つかの実施形態においては、それを必要としている対象にPTSDを治療する方法は、記載されるように、経口投与レジメンの使用を含む。
【0082】
記載された方法の幾つかの実施形態においては、対象は、うつ病又は不安も罹患する。幾つかの実施形態においては、本発明は、PTSDの症状と共にうつ病及び不安の重症度を軽減する方法を提供する。しかしながら、PTSDを罹患し、記載される方法から利益を受けることができる患者は、うつ病又は不安を罹患していることは必然的ではないことを強調する必要がある。
【0083】
記載された方法の幾つかの実施形態においては、対象は、自殺念慮又は行動を含む自殺傾向も罹患する。幾つかの実施形態においては、本発明は、PTSDの症状と共に自殺の重症度を軽減する方法を提供する。しかしながら、PTSDを罹患し、記載される方法から利益を受けることができる患者は、自殺傾向を罹患していることは必然的ではないことを強調する必要がある。
【0084】
上記に記載されるように、特定の実施形態においては、NMDAR受容体アンタゴニスト剤は、PTSD又はその症状の治療のための単剤製剤で用いられる。そのような実施形態においては、NMDARアンタゴニスト剤は、前記対象を治療するときに前記対象におけるうつ病を治療するのに最適以下と考えられる投与量で投与される。
【0085】
記載された方法における使用ための医薬組成物は、経口、静脈内、経粘膜(例えば、鼻、膣など)、肺、経皮、眼、頬、舌下、腹腔内、くも膜下腔内、筋肉内、又は長期のデポ製剤などの幾つかの経路のいずれか、又は組合せによって対象に投与されることができる。経口投与のための固体組成物は、コーンスターチ、ゼラチン、ラクトース、アカシア、スクロース、微結晶セルロース、カオリン、マンニトール、リン酸二カルシウム、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、脂質、アルギン酸、又は制御された緩効性のための成分などの適した担体又は賦形剤を含むことができる。用いられることができる崩壊薬は、微結晶セルロース、コーンスターチ、デンプングリコール酸ナトリウム、及びアルギン酸を含むが、これらに限定されない。用いられることができる錠剤の結合剤は、アカシア、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン(ポビドン)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、スクロース、デンプン、及びエチルセルロースを含むが、これらに限定されない。
【0086】
例えば、pH依存性胃加水分解を低減する腸溶コーティング剤の適用により、組成物は、D-サイクロセリン又は他の成分の胃分解を低減するように配合されることができる。組成物は、標準的なアプローチを用いて持続放出用に配合されることもできる。
【0087】
水又は他の水性溶媒で調製される経口投与用の液体組成物は、活性化合物と共に湿潤剤、甘味料、着色剤、及び香味料を含む、溶液、エマルジョン、シロップ、及びエリキシル剤を含むことができる。治療される患者の肺への吸入のための従来の方法により、種々の液体及び粉末組成物が調製されることができる。
【0088】
注射用の組成物は、植物油、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、乳酸エチル、炭酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)などの種々の担体を含むことができる。静脈内注射において、化合物は、点滴法により投与されることができ、それにより、活性化合物及び生理学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物が注入される。生理学的に許容される賦形剤は、例えば、5%デキストロース、0.9%食塩水、リンガー溶液、又は他の適した賦形剤を含むことができる。筋肉内製剤にとって、前記化合物の適した可溶性塩形態の滅菌組成物は、注射用水、0.9%食塩水、又は5%グルコース溶液などの医薬賦形剤に溶解又は投与されることができ、化合物のデポ形態(例えば、デカン酸、パルミチン酸、ウンデシレン酸、エナン酸)は、ゴマ油中に溶解されることができる。若しくは、医薬組成物は、チューインガム、ロリポップなどとして配合されることができる。
【0089】
記載された方法による治療を受けている対象は、PTSDの症状における有意な改善を経験することができる。PTSDの代替治療で治療された対象に対して、記載された方法によって治療された対象は、幾つかの実施形態においては、臨床的に認められたPTSDの評価方法(例えば、CAPS尺度)によって測定されるように、より大きな改善、又はより長期間続く改善を経験する。
【0090】
下記の実施例は、特定の特徴及び/又は実施形態を説明するために提供される。これらの実施例は、記載された特定の特徴又は実施形態に開示を限定するものと解釈されるべきではない。
実施例
【0091】
実施例1:NMDARアンタゴニスト及び抗うつ剤によるPTSDの治療
この実施例は、NMDARアンタゴニストが、PTSDに関連する再体験、回避症状、及び増加された覚醒症状を軽減させることを予想外に示す。特に、NMDARアンタゴニスト効果をもたらすように設計された用量で投与されたD-サイクロセリンは、PTSDに関連する再体験、回避症状、及び増加された覚醒症状を予想外に軽減させる。同様の効果は、グルタメート結合部位を標的とする競合的NMDARアンタゴニストでは観察されない。
【0092】
近交系Wistar-Kyoto(WKY)ラットは、ストレス脆弱性及び睡眠障害など、幾つかの行動欠陥のモデルとして使用されている。WKYラットは、軽度の電気ショックを加えた後、回避症状の固執(perseveration)も示した。恐怖条件づけを用いた検証研究においては、WKYラットは、Wistarラットと比較して、恐怖消去の明らかな欠陥を示した。これらの証拠は、WKYラットがPTSDの精神医学的状態の治療における潜在性を有する化合物のスクリーニングに理想的なモデルであることができることを示唆する。
【0093】
恐怖の記憶は、PTSDなどの精神医学的状態において重要である。パブロフの恐怖条件づけ(FC)試験は、嫌悪的刺激(軽度の電気ショック)と、特定の合図(例えば、音、手がかりとなる条件づけ)又は電気ショックが起きた文脈(文脈的条件づけ)との関連性を学習することにより、嫌悪学習と記憶の測定のために齧歯類において広く用いられる行動試験法である。関連付けが確立されると、条件刺激(CS、即ち音又は文脈)は、非条件刺激(US、即ち電気ショック)と同様の方法で恐怖反応を誘発することができる。しかしながら、USを組み合わせずにCSが繰り返し現れると、正常な動物で消去が起こる。恐怖消去は、通常、USなしで繰り返される又は長期にわたるCS提示後の新しい抑制学習と見なされ、条件づけ反応(即ち、FC試験におけるすくみ反応)の大きさ及び/又は頻度が徐々に低下する。このような抑制学習の欠陥は、臨床的PTSDの特徴と見なすことができる。
【0094】
試験は、PsychoGenics Inc.,100 Philips Parkway,Montvale,New Jersey 07645,USAによって行われた。
【0095】
Charles River Laboratoryから購入した若い成体(約7週齢)、雄のWKYラット、及び雄のWistarラットを本試験で用いた。受領後、動物をグループで収容し(ケージ当たり2頭)、少なくとも7日間順化させた。十分な健康と適合性を確保するために、研究開始前に全てのラットを調査し、取り扱い、且つ計量した。研究の過程で、12/12明/暗サイクルを維持した。室温を20℃~23℃に維持し、相対湿度を約50%に維持した。各処置グループにランダムにラットを割り当てた。全ての試験を動物の明るいサイクルの間に行った。
【0096】
下記の化合物を本研究のために用いた。
・D-サイクロセリン30mg/kg(低用量)及び300mg/kg(高用量)を食塩水に溶解し、2ml/kgの用量体積で、消去試験30分前にIP投与した。
・セルトラリン20mg/kgを食塩水に溶解し、2ml/kgの用量体積で、試験30分前にIP投与した。DSCと組み合わせる場合、消去試験の30分前に組合せをカクテルで与えた。
・D-CPP-ene(5mg/kg)を酸性化食塩水に溶解し、2ml/kgの用量体積で、消去試験30分前にs.c投与した。
・ルラシドン(Lur、0.2mg/kg)を食塩水に溶解し、1ml/kgの用量体積で、試験30分前にIP投与した。
・クエチアピン(QTP、10mg/kg)を酸性化食塩水に溶解し、1ml/kgの用量体積で、試験30分前にs.c投与した。
【0097】
Coulbourn Instruments(PA、USA)によって製造された恐怖条件づけシステムにおいて、実験を行った。ビデオシステム及びFreezeFrameソフトウェアを用いて動物の体の動きを捕らえ、FreezeViewソフトウェア(Coulbourn Instruments、PA、USA)を用いて、すくみを自動的に分析した。
【0098】
恐怖条件づけトレーニング:短い電気ショック(1.0秒間で0.5mA、非条件刺激/US)と同時に終了する(co-terminating)10秒間の音(70dB条件刺激/CS)の5つのCS-USペアリングに、動物を晒した。5つのCS-USペアリングを60秒間隔で区切り、最初のCSは120秒間である。ラットは、移動する前の最後のショックの後、1分間箱に入れた(stage)。
【0099】
消去トレーニング:FCトレーニングの24時間後と72時間後に消去トレーニングを2回実施した。手がかりのFC消去パラダイムを適用した。FCトレーニングのボックスとは異なる変更された文脈である「シリンダー」で、消去トレーニングを行った。消去トレーニングは、8~10の同一のビン(bin)を含め、32分間~40分間続けた。各ビンは、2分間の無音期間(試行間間隔、ITI)の後、2分間の音期間を含む。
【0100】
消去トレーニングの7~8のビン(24時間及び72時間)におけるすくみ率を用いて、処置の有効性を評価した。一元配置分散分析(ANOVA)によりデータを分析し、処置/グループ及び消去段階(手がかり又はビン)を因子として設定した。必要に応じて、事後比較でFisher LSD法を用いた。
【0101】
1日目と3日目の手がかり付与後のすくみ行動の程度に基づき、WKYは、対照(Wistar)ラットとは異なり、刺激の>85%のすくみ行動を示した動物の数に顕著な違いがあった(F=24.6、df=1,76、p<0.0001)(表1)。
【0102】
薬理学的研究は、WKYラットのみで実施され、表2に示される。日に亘るすくみ行動における非常に有意な治療効果があった(F=9.24、df=9,362、p<0.0001)。日数の影響は、僅かに有意であった(F=3.24、df=1,362、p=0.07)。治療効果による日数は、有意ではなかった(F=0.99、df=9,362、p=.45)。事後試験においては、日に亘り溶媒に対して、高用量(300mg/kg)DCS(LSDp<0.001)、セルトラリン単独(LSD p=0.023)、及び組み合わされた高用量DCS+セルトラリン(LSD p=0.023)はいずれも、すくみ行動において有意な減少をもたらした。対照的に、低用量DCS(30mg/kg)は、すくみ行動に有意な効果を有さなかった(p=0.3)。低用量とHD-DCSとの効果の違いは、トレンドレベルで有意だった(p=0.08)。
【0103】
高用量DCSとは対照的に、競合的NMDARアンタゴニストD-CPPene(p=0.009)及び非定型抗精神病薬ルラシドン(p=0.1)及びクエチアピン(p=0.009)は、すくみ行動を増加させる傾向があった。高用量DCSは、ルラシドンに追加すると、すくみが低下する傾向があった(p=0.09)が、クエチアピンとの組合せにおいて統計的効果はなかった(p=0.3)。
【0104】
これらの知見は、NMDARアンタゴニストが齧歯類における再体験、回避症状、及び増加された覚醒(PTSD関連)行動を減らすことができるという最初の実証を示す。特に、D-サイクロセリンの抗PTSD効果は、300mg/kgの用量(即ち、NMDARアンタゴニスト効果をもたらすことが知られているD-サイクロセリンの用量)の投与により齧歯類で選択的に誘発され、30mg/kgの用量(即ち、NMDARアゴニスト効果をもたらすことが知られているD-サイクロセリンの用量)では観察されない。更に、SSRIセルトラリンの存在下では効果が持続したが、5-HT2A受容体アンタゴニストであるルラシドン又はクエチアピンの存在下では持続しなかった。競合的NMDARアンタゴニストD-CPPeneは、すくみ行動の減少ではなく増加をもたらし、NMDAR機能のグリシン部位対グルタメート部位のアンタゴニズムの予想外の有益な効果を示唆した。
【表1】
【表2】
【0105】
実施例2:抗うつ剤によるNMDARアンタゴニスト精神異常発現性効果の回復
先の例は、NMDARアンタゴニストと抗うつ剤を組み合わせたPTSD症状の治療を示す。しかしながら、NMDARアンタゴニスト治療の既知の懸念は、精神病における増加した易罹病性(liability)であり、行動運動亢進アッセイを用いて齧歯類でモデル化されることができる。この例においては、示されるように、NMDARアンタゴニストと抗うつ剤とを組み合わせた治療の予期しない相乗効果。
【0106】
この研究では、抗うつ剤の存在下又は非存在下で、D-サイクロセリン投与後の齧歯類のオープンフィールド試験を用いて、D-サイクロセリンの精神運動効果を評価した。
【0107】
全ての試験は、PsychoGenics Inc,765 Old Saw Mill River Road,Tarrytown,NY 10591,USAで実施された。
【0108】
Jackson Laboratories(Bar Harbor、Maine)から雄のC57BL/6Jマウス(8週齢)を使用した。受領時に、特有の識別番号(尾に印を付ける)をマウスに割り当て、OPTImiceケージにグループで収容した。全ての動物は、試験前に1週間コロニー室に馴化させた。馴化期間中、動物を定期的に調査し、取り扱い、体重を測定して、適切な健康と適合性を保証した。動物を12/12明/暗サイクルで維持した。室温を20℃~23℃で維持し、相対湿度を30%~70%で維持した。研究期間中、食物と水は自由に提供された。全ての試験を動物の明るいサイクルの段階で実施した。
【0109】
試験化合物は、下記を含んだ。
・D-サイクロセリン(300mg/kg)をPTS溶媒(5%PEG200:5%Tween80:90%NaCl)に溶解し、オープンフィールド試験において10mL/kgの用量体積でIP投与をした。
・ブプロピオン(10mg/kg)を食塩水に溶解し、オープンフィールド試験においてD-サイクロセリン30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
・デシプラミン(10mg/kg)を食塩水に溶解し、オープンフィールド試験においてD-サイクロセリン30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
・セルトラリン(20mg/kg)を滅菌水に溶解し、オープンフィールド試験においてD-サイクロセリン30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
・ベンラファキシン(40mg/kg)を食塩水に溶解し、オープンフィールド試験においてD-サイクロセリン30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
・デュロキセチン(40mg/kg)を食塩水に溶解し、オープンフィールド試験においてD-サイクロセリン30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
・フルオキセチン(10mg/kg)を食塩水に溶解し、オープンフィールド試験においてD-サイクロセリン30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
・イミプラミン(10mg/kg)を食塩水に溶解し、オープンフィールド試験においてD-サイクロセリン30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
・シタロプラム(10mg/kg)を食塩水に溶解し、オープンフィールド試験においてD-サイクロセリン30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
・レボミルナシプラン(40mg/kg)を滅菌水に溶解し、オープンフィールド試験においてD-サイクロセリン30分前にmL/kgの用量体積でIP投与した。
・ミルナシプラン(40mg/kg)を滅菌水に溶解し、オープンフィールド試験においてD-サイクロセリン30分前にmL/kgの用量体積でIP投与した。
・ビラゾドン(1mg/kg)をPTS溶媒(5%PEG200:5%Tween80:90%NaCl)に溶解し、オープンフィールド試験においてD-サイクロセリン30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
・ボルチオキセチン(10mg/kg)をPTS溶媒(5%PEG200:5%Tween80:90%NaCl)に溶解し、オープンフィールド試験においてD-サイクロセリン30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
【0110】
赤外線光束(16×16×16)に囲まれたPlexiglas正方形チャンバー(27.3cm×27.3cm×20.3cm;Med Associates Inc.、St Albans、VT)を用いて、オープンフィールド(OF)試験を実施し、水平及び垂直活動を測定した。試験前に、少なくとも1時間実験室条件へ馴化させるために、マウスを活動実験室に運んだ。動物に溶媒又は試験化合物を投与し、OFに入れた。D-サイクロセリンの効果を評価するために、試験チャンバーに入る前に、マウスにDCSを注射し、活動を60分間観察した。若しくは、アンフェタミン(4mg/kg)又はフェンシクリジン(5mg/kg)による摂取30分前に溶媒又はD-サイクロセリンを投与し、溶媒又はD-サイクロセリン投与後60分間、活動を合計した(summed)。他の条件では、動物を溶媒又は抗うつ剤で処置し、その後ベースライン活動を30分間記録した。その後、マウスはDCS注射を受け、60分間のセッションのためにOFチャンバーに戻した。各OFテストセッションの終了時に、OFチャンバーを徹底的に清掃した。
【0111】
データを分散分析(ANOVA)によって分析し、その後、必要に応じてFishersのLSD試験を用いて、事後比較を行った。p<0.05であれば、効果は有意であると考えられた。
【0112】
結果:30mg/kg~1000mg/kgの用量で溶媒又はD-サイクロセリンを投与した後30分間、用量反応を評価した。全ての条件に亘って、非常に有意な効果があった(F=19.0、df=3,35、p<0.001)。自発運動活性は、30mg/kg(p=0.5)の用量で投与されたD-サイクロセリンでは有意に影響されなかったが、300mg/kg(p<0.001)及び1000mg/kg(p<0.001)両方のD-サイクロセリンの用量で有意に増加した(表3)。
【表3】
【0113】
NDRI(ブプロプリオン)、三環系抗うつ剤(デシプラミン、イミプラミン)、高セロトニン作動性輸送(SERT)阻害活性に関連するSSRI/SNRI(セルトラリン、ベンラファキシン、デュロキセチン、フルオキセチン、シタロプラム)対ノルエピネフリントランスポーターなどの、他の標的に対し低セロトニン作動性輸送阻害活性に関連する新しい剤(レボミルナシプラン、ミルナシプラン、ビラゾドン、ボルチオキセチン)を含む薬物タイプに応じて、条件を分けたとき、薬物クラス間で予期しない差が観察された(表4)。
【表4】
【0114】
これは、その臨床的精神異常発現性効果と一貫したD-サイクロセリン単独で齧歯類における自発運動亢進をもたらすことを示すことが分かっている最初の研究である。160mg/kgの用量で投与されたD-サイクロセリンの有意な効果を示さない以前の研究(Carlsson et al.,J Neural Transm 95:223-233,1994)と共に考慮すると、これらの知見は、精神異常発現性効果が25マイクログラム/mLを超える血漿レベルで優先的に観察されることを実証する(実施例3参照)。
【0115】
これも、従来のSSRI/SNRI又はブプロピオン、ドーパミン-ノルエピネフリン(norephrine)再取り込み阻害薬に対して、TCA又は新しい抗うつ剤であるビラゾドン、ボルチオキセチン、ミルナシプラン、及びレボミルナシプランなどの剤において示される優先的な効果をもって、D-サイクロセリンの存在下で、抗うつ剤が自発運動亢進において特異的影響を示すことを認識した最初の研究である。
【0116】
新しいSNRIと非定型抗うつ剤は、セロトニントランスポーター以外の標的に対する高い特異性を有する点で、従来の医薬とは異なり、TCAに比較的より類似している。これらの知見は、新しいSNRI/非定型抗精神病剤が、血漿レベル>25マイクログラム/mLに関連するD-サイクロセリン用量との組合せで優先的に有益な活性を有することを予期せず示し、それによって高用量のD-サイクロセリンと新しい抗うつ剤に関する組合せの予期しない有用性を示す。
【0117】
実施例3:齧歯類におけるガラス玉覆い隠し行動に対するDCS及びミルタザピンの相乗効果
ガラス玉覆い隠しは、PTSDを含む不安障害と強迫性障害(OCD)の両方のモデルとして用いられ、積極的な回避症状と不安覚醒の構成要素に最も結びついている。
【0118】
ガラス玉を含むケージに個別に配置すると、マウスは、ガラス玉を覆い隠すことが示されている。ベンゾジアゼピンなどの抗不安剤は、齧歯類のガラス玉覆い隠し行動を減少させる。ここでは、NMDARアンタゴニスト及び抗うつ剤がガラス玉覆い隠しに相乗効果をもたらすと仮定した。
【0119】
実験室の条件に少なくとも1時間の馴化のために、試験前にマウスを活動実験室に運んだ。約6cmの堅木の床敷き及び5列に空けて配した20個の黒いガラス玉を含む清潔なマウスケージに、30分間マウスを独立して置いた。試験中に移動した距離をカメラで捕らえ、Video Tracker Software(ViewPoint Life Sciences Software,France)を用いて定量化した。試験の終わりに、マウスをケージから取り出し、覆われていないガラス玉の数を数えた。少なくとも3分の2が床敷きで覆われている場合、ガラス玉は覆い隠されていると見なした。
【0120】
下記の化合物を用いた。全ての化合物は、10ml/kgの用量体積で投与した。
・D-サイクロセリン(Sigma、DSC;30mg/kg及び300mg/kg)を5%PEG200:5%Tween80:90%食塩水(PTS)に溶解し、試験30分前に10ml/kgの用量体積でIP投与した。
・ミルタザピン(Sigma、5.5mg/kg)を5%PEG200:5%Tween80:90%食塩水(PTS)に溶解し、試験30分前に10ml/kgの用量体積でIP投与した。
・パロキセチン(Sigma、5mg/kg)をガラス玉覆い隠し試験におけるポジティブリファレンスとして用いた。この化合物を20%シクロデキストリンに溶解し、試験30分前に10ml/kgの用量体積でIP投与した。
・組合せDSC(300mg/kg)+ミルタザピン(5.5mg)を、試験30分前に10ml/kgの用量体積で単回投与におけるカクテルとして、IP投与した。
下記の試験グループのそれぞれにおいて、10頭のマウスを試験した。
・溶媒(5%PEG200;5%Tween80;90%食塩水)
・パロキセチン(5mg/kg)
・ミルタザピン(5.5mg/kg)
・D-サイクロセリン(30mg/kg)
・D-サイクロセリン(300mg/kg)
・D-サイクロセリン(300mg/kg)+(ミルタザピン5.5mg/kg)
【0121】
この研究の結果を図1に示す。一元配置分散分析(One-Way ANOVA)では、有意な治療効果を見出した。事後比較では、パロキセチン(5mg/kg)及びミルタザピン(5.5mg/kg)が、溶媒と比較して、覆い隠されたガラス玉の数を有意に減少させたことを実証した。いずれかの用量のD-サイクロセリン(30mg/kg及び300mg/kg)による動物の治療は、この測定に影響を及ぼさなかった。D-サイクロセリン(300mg/kg)及びミルタザピン(5.5mg/kg)の組合せは、溶媒とミルタザピン(5.5mg/kg)のみと比較して、覆い隠されたガラス玉の数を有意に減少させた。
【0122】
これらの知見は、NMDARアンタゴニスト、300mg/kg用量で投与されたDCSと、不安、OCD、及びPTSDに関連する挙動における抗うつ剤ミルタザピンとの間の有意な予期しない相乗作用を実証し、PTSDの治療におけるNMDARアンタゴニスト及び抗うつ剤の組合せを支持する。
【0123】
実施例4:ガラス玉覆い隠しにおけるミルタザピンのR-異性体及びS-異性体の特異的影響
ミルタザピンは、別々のR(-)異性体及びS(+)異性体のラセミ混合物である。追跡研究では、2つの異性体の相対的な効果を個別に評価した。方法は、実施例3と同じである。試験化合物は、下記の通りである。
・5%PEG200:5%Tween80:90%食塩水(PTS)を試験30分前に10ml/kgの体積用量でIP投与した。
・パロキセチン(5mg/kg)を食塩水に溶解し、試験30分前に10ml/kgの体積用量でIP投与した。
・D-サイクロセリン(Sigma、DSC;300mg/kg)を5%PEG200:5%Tween80:90%食塩水(PTS)に溶解し、試験30分前に10ml/kgの用量体積でIP投与した。
・ミルタザピン(Sigma、1mg/kg、2.5mg/kg、5.0mg/kg、及び10mg/kg)を5%PEG200:5%Tween80:90%食塩水(PTS)に溶解し、試験30分前に10ml/kgの用量体積でIP投与した。
・S-ミルタザピン(TRC、1mg/kg、2.5mg/kg、5.0mg/kg、及び10mg/kg)を5%PEG200:5%Tween80:90%食塩水(PTS)に溶解し、試験30分前に10ml/kgの用量体積でIP投与した。
・R-ミルタザピン(TRC、1mg/kg、2.5mg/kg、5.0mg/kg、及び10mg/kg)を5%PEG200:5%Tween80:90%食塩水(PTS)に溶解し、試験30分前に10ml/kgの用量体積でIP投与した。
【0124】
ガラス玉覆い隠し行動におけるパロキセチン、ミルタザピン、S-ミルタザピン、R-ミルタザピン、及びD-サイクロセリンの効果は、図2に示される。一元配置分散分析は、有意な治療効果を見出した。事後比較は、パロキセチン(5mg/kg)、ミルタザピン(1mg/kg、2.5mg/kg、5mg/kg、及び10mg/kg)、S-ミルタザピン(1mg/kg、2.5mg/kg、5mg/kg、10mg/kg)、並びにR-ミルタザピン(10mg/kg)は、溶媒と比較して、覆い隠されたガラス玉の数を有意に減少させたことを実証した。R-ミルタザピン(1mg/kg、2.5mg/kg、及び5mg/kg)は、この測定に影響を及ぼさなかった。S-ミルタザピンの効果は、ラセミ体ミルタザピンよりも有意により強く、R-ミルタザピンの効果は、強くなく(図2)、OCD及びPTSDを含む不安関連症状の治療において、ラセミ体よりもS-異性体の優位性を示す。
【0125】
3つのミルタザピン製剤(ラセミ体、R-、S-)に亘って、先の知見を支持するDCS治療の非常に有意な主作用(F=27.2、df=1,54、p<0.001)があった。ミルタザピン(2.5mg/kg)単独(p<0.01)と比較して、ミルタザピン(2.5mg/kg)+DSC(300mg/kg)の組合せは、覆い隠されたガラス玉の数を有意に減少させた。更に、R-ミルタザピン(2.5mg/kg)+DSC(300mg/kg)の組合せは、R-ミルタザピン(2.5mg/kg)+PTS溶媒(p<0.01)の組合せと比較して、覆い隠されたガラス玉の数を有意に減少させた。S-ミルタザピンの存在下では、DCSの非存在下と存在下の両方でフロアレベル(floor level)の効果が観察されたので、比較を実行できなかった。
【0126】
実施例5:齧歯類におけるDCSの薬物動態
齧歯類における行動的影響と血漿DCSレベルとの関係を評価するために、DCSの薬物動態研究を行った。Jackson Laboratories(Bar Harbor、Maine)からの雄のC57BL/6Jマウス(8週齢)を用いた。受領時に、特有の識別番号(尾に印を付ける)をマウスに割り当て、OPTImiceケージにグループで収容した。全ての動物は、試験前に1週間コロニー室に馴化させた。馴化期間中、動物を定期的に調査し、取り扱い、体重を測定して、適切な健康と適合性を保証した。動物を12/12明/暗サイクルで維持した。室温を20℃~23℃で維持し、相対湿度を30%~70%で維持した。研究期間中、食物と水は自由に提供された。全ての試験を動物の明るいサイクルの段階で実施した。
【0127】
これらの研究では、DCS(30mg/kg、100mg/kg、300mg/kg、500mg/kg、及び1000mg/kg)をPTS溶媒(5%PEG200:5%Tween80:90%NaCl)に溶解し、10mL/kgの体積用量でIP投与した。
時点毎に、下記の処置グループのそれぞれにおいて、8頭のマウスを用いた。
・D-サイクロセリン 30mg/kg
・D-サイクロセリン 100mg/kg
・D-サイクロセリン 300mg/kg
・D-サイクロセリン 500mg/kg
・D-サイクロセリン 1000mg/kg
【0128】
別々の動物から30分、60分、120分でサンプルを集めた。分析には、30分~120分時点に亘る平均血漿レベルを用いた。各時点で、K2EDTAを含むチューブに胴体血(trunk blood)を採取し、短期保存用に氷上で維持した。採血から15分以内に、冷却遠心機で10,000RPMで10分間、チューブを遠心分離した。上清(血漿)を抽出し、ドライアイス上の事前にラベルを貼ったチューブに移した。分析までサンプルを約-80℃で保存した。
【0129】
血漿及び脳サンプルにおけるDCSの分析は、Acquity UPLCクロマトグラフシステム及びQuattro Premier XEトリプル四重極質量分析計(いずれもWatersから)からなるUPLC/MS/MSシステムを用いて実施した。5ng/mLのLLOQを提供した5分間(合計実行時間)のHILIC方法論を用いて、DCSの単離を達成した。
【0130】
血漿サンプル分析用のDCS標準物質をマウス血漿で調製し、その後濾過し(3kDaカットオフアミコンフィルター)、分析前に、5μLの濾液と、10%水/アセトニトリルで調製した45μLの1.0ng/mLのD9-Ach内部標準溶液とを組み合わせることで希釈した。利用された標準物質の範囲は、1.0ng/mL~1000ng/mLだった。同じ方法で、10μLのサンプルと90μLの内部標準混合物を用いて、血漿サンプルを調製し、希釈後に100μLのサンプルを提供し、3回の分析用とした。
【0131】
DCSの親イオン(親102.7Daから2つのフラグメント74.7Da、57.7Da)から形成された固有のフラグメントを観察することにより、分析物の検出を行った。内部標準D9-Ach(親154.95DAからフラグメント86.7DA)をサンプルに組み込み、サンプルマトリックスと機器のばらつきを補正し、より強いデータセットを提供した。
【0132】
実験の結果を図3に示す。示されるように、DCSの30mg/kg用量は、数値的に25マイクログラム/mL未満の血漿レベルをもたらしたが、差は、統計的に有意ではなかった(p=0.2)。100mg/kg以上の濃度は、有意に>25マイクログラム/mLだった(p<0.01)。これらの知見は、先の例で300mg/kgDCSによってもたらされた効果が、>25マイクログラム/mLのDCS血漿レベルの結果を反映していることを実証する。
【0133】
開示された発明の原理が適用され得る多くの可能な実施形態を考慮して、図示された実施形態は本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきでないことを認識すべきである。むしろ、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲によって定義される。したがって、これらの特許請求の範囲及び精神に含まれる全てのものを発明として主張する。

図1
図2
図3