(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】液晶ポリマーフィルム及び該液晶ポリマーフィルムを含む積層体
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20230712BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20230712BHJP
B32B 15/09 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
H05K1/03 610H
H05K1/03 630H
B32B15/09 Z
(21)【出願番号】P 2020166621
(22)【出願日】2020-10-01
【審査請求日】2020-10-09
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】595009383
【氏名又は名称】長春人造樹脂廠股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】CHANG CHUN PLASTICS CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】7F., No.301, Songkiang Rd., Zhongshan Dist Taipei City,Taiwan 104
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】杜安邦
(72)【発明者】
【氏名】呉佳鴻
(72)【発明者】
【氏名】陳建鈞
【審査官】川井 美佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-107505(JP,A)
【文献】特開2007-092036(JP,A)
【文献】国際公開第2016/136537(WO,A1)
【文献】特開2017-135216(JP,A)
【文献】特開2017-031442(JP,A)
【文献】国際公開第2012/117850(WO,A1)
【文献】特開2003-340918(JP,A)
【文献】特開2008-221488(JP,A)
【文献】特開2018-121085(JP,A)
【文献】特開2010-076295(JP,A)
【文献】国際公開第2016/104420(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/181223(WO,A1)
【文献】吉田瞬,幾何及び表面色情報を用いた単純重ね合わせ接着継手の強度評価,2015年3月25日,p46
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02
C08J 5/12-5/22
H05K 1/03
B32B 15/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層体に使用される液晶ポリマーフィルムであって、互いに反対側にある第1表面と第2表面とを含み、
前記第1表面の尖度(クルトシス:Rku)は3.0以上かつ60.0以下であり、
前記尖度はJIS B 0601:2001によって定義され
、前記液晶ポリマーフィルムは、6-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸から誘導されたモノマー、4-ヒドロキシ安息香酸から誘導されたモノマー、及び無水酢酸から誘導されたモノマーを含むことを特徴とする、
積層体に使用される液晶ポリマーフィルム。
【請求項2】
前記第1表面のRkuは3.4以上かつ60.0以下であることを特徴とする、請求項1に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項3】
前記第1表面の算術平均粗さは0.09μm以下であり、前記算術平均粗さはJIS B 0601:1994によって定義されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項4】
前記第1表面の算術平均粗さは0.02μm以上かつ0.09μm以下であることを特徴とする、請求項3に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項5】
前記第1表面の十点平均粗さは2.0μm以下であり、前記十点平均粗さはJIS B 0601:1994によって定義されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項6】
前記第1表面の十点平均粗さは0.1μm以上かつ2.0μm以下であることを特徴とする、請求項5に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項7】
前記第2表面のRkuは3.0以上かつ60.0以下であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項8】
前記第2表面の算術平均粗さは0.09μm以下であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項9】
前記第2表面の十点平均粗さは2.0μm以下であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項10】
第1の金属箔と、請求項1~9のいずれか一項に記載の液晶ポリマーフィルムと、を含む積層体であって、
前記第1の金属箔は前記液晶ポリマーフィルムの前記第1表面上に配置されている、
積層体。
【請求項11】
前記積層体は第2の金属箔を含み、前記第2の金属箔は前記液晶ポリマーフィルムの前記第2表面上に配置されていることを特徴とする、請求項10に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、積層体のためのポリマーフィルム、より具体的には、液晶ポリマー(LCP)フィルム及び該ポリマーフィルムを含む積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
移動通信技術の急速な発展により、電気通信産業は、第4世代モバイルネットワーク(4G)のデータ伝送速度、応答時間、システム容量などの性能を最適化するため、第5世代モバイルネットワーク(5Gと略される)を積極的に開発することを強いられている。
【0003】
5G通信技術は、信号伝送に高周波数帯域を使用することから、信号の周波数が高いほど挿入損失が大きくなる。高周波数帯域を使用した信号伝送を達成するため、低吸湿性かつ低誘電特性のLCPフィルムを、吸湿性かつ高誘電特性ポリイミドフィルム(PIフィルム)に代わるものとして選択し、金属箔と積み重ねて積層体を製造して、高周波数における挿入損失を低減できることは公知である。
【0004】
しかしながら、積層体のLCPフィルムと金属箔との間の界面接着は概して不十分であり、回路基板上のコンポーネントが分離(detach)しやすく、そのため後続の積層プロセスが深刻な悪影響を受けることとなる。技術の進歩と共に、積層体の挿入損失の低減も切望されている。したがって、従来の積層体のLCPフィルムと金属箔との間の不十分な剥離強度並びに大きな挿入損失の問題は、なお解決を必要としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の問題を考慮して、本出願の目的は、LCPフィルムと金属箔との間の剥離強度を強化すること、並びに積層体の低挿入損失を確実とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本出願の一態様はLCPフィルムを提供する。このLCPフィルムは、互いに反対側にある第1表面と第2表面とを有し、第1表面の尖度(Rku)は3.0以上かつ60.0以下である。
【0008】
LCPフィルムの第1表面のRku特性を制御することによって、金属箔に積み重ねられたLCPフィルムの接着が増し、それによってLCPフィルムと金属箔との間の剥離強度の強化、更には後続の積層加工中のワイヤ分離などの問題の回避が可能である。更に、上記の技術的手段は、かかるLCPフィルムを含む積層体が低い挿入損失を有することも確実とする。
【0009】
一実施形態では、LCPフィルムの第1表面に加えて、第2表面のRkuも3.0以上かつ60.0以下となり得る。したがって本出願のLCPフィルムが少なくとも1つの金属箔に、第1表面及び第2表面のいずれかで重ねられているか又は両方で重ねられているかにかかわらず、LCPフィルムは少なくとも1つの金属箔に対して優れた接着を有し、それによって積層体が低挿入損失を有する条件下でLCPフィルムと少なくとも1つの金属箔との間の剥離強度を強化できる。
【0010】
換言すると、本出願のLCPフィルムを積層体に適用することで、積層体がハイエンド5G製品に特に好適となる。
【0011】
好ましくは、本出願のLCPフィルムの第1表面のRkuは、3.4以上かつ60.0以下であってもよい。一実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面のRkuは3.4以上かつ59.9以下であってもよい。一実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面のRkuと第2表面のRkuとは、両方とも上記の範囲のいずれかに入り得る。本出願のLCPフィルムの第1表面のRkuと第2表面のRkuとは、必要に応じて、同じでも異なっていてもよい。一実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面のRkuと第2表面のRkuとは異なっている。
【0012】
好ましくは、本出願のLCPフィルムの第1表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.09マイクロメートル(μm)以下であってもよい。ここで、LCPフィルムと金属箔との間に高い剥離強度を達成することに加え、LCPフィルムを積層体に適用することは、挿入損失を更に低減し、したがってLCPフィルムを含む積層体がハイエンド5G製品に非常に好適である。より好ましくは、本出願のLCPフィルムの第1表面のRaは0.02μm以上かつ0.09μm以下であってもよく、更により好ましくは、第1表面のRaは0.020μm以上かつ0.088μm以下であってもよい。
LCPフィルムの第1表面のRaを低減する手段によって、LCPフィルムを含む積層体の挿入損失は更に低下し、その結果積層体は、ハイエンド5G製品に非常に好適である。一実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面のRaは、0.04μm以上かつ0.09μm以下であってもよい。一実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面のRaと第2表面のRaとは、両方とも上記の範囲のいずれかに入り得る。本出願のLCPフィルムの第1表面のRaと第2表面のRaとは、必要に応じて、同じでも異なっていてもよい。一実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面のRaと第2表面のRaとは異なっている。
【0013】
好ましくは、LCPフィルムの第1表面の十点平均粗さ(Rz)は2.0μm以下であってもよく、より好ましくは、本出願のLCPフィルムの第1表面のRzは1.9μm以下であってもよい。一実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面のRzは、0.1μm以上かつ2.0μm以下であってもよい。好ましくは、LCPフィルムの第1表面のRzは0.2μm以上かつ2.0μm以下であってもよく、より好ましくは、本出願のLCPフィルムの第1表面のRzは0.3μm以上かつ2.0μm以下であってもよい。更により好ましくは、本出願のLCPフィルムの第1表面のRzは0.3μm以上かつ1.9μm以下であってもよい。一実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面のRzと第2表面のRzとは、両方とも上記の範囲のいずれかに入り得る。本出願のLCPフィルムの第1表面のRzと第2表面のRzとは、必要に応じて、同じでも異なっていてもよい。一実施形態では、本出願のLCPフィルムの第1表面のRzと第2表面のRzとは異なっている。
【0014】
本出願によると、LCPフィルムはLCP樹脂で製造されてもよく、該樹脂は市販されて、又は従来の原材料から製造される。本出願では、LCP樹脂は特に制約されない。例えば、芳香族又は脂肪族ヒドロキシ化合物、例えばヒドロキノン、レゾルシン、2,6-ナフタレンジオール、エタンジオール、1,4-ブタンジオール、及び1,6-ヘキサンジオール、芳香族又は脂肪族ジカルボン酸、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2-クロロテレフタル酸、及びアジピン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸、例えば3-ヒドロキシ安息香酸、4-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸、及び4’-ヒドロキシ-4-ビフェニルカルボン酸、芳香族アミン化合物、例えばp-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノビフェニル、ナフタレン-2,6-ジアミン、4-アミノフェノール、4-アミノ-3-メチルフェノール、及び4-アミノ安息香酸を、原材料として使用して、LCP樹脂を調製してもよく、その後該LCP樹脂を使用して本出願のLCPフィルムを調製する。
本出願の一実施形態では、LCP樹脂を得るために6-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸、4-ヒドロキシ安息香酸、及びアセチル無水物(無水酢酸とも呼ばれる)を選択してもよく、該LCP樹脂を使用して本出願のLCPフィルムを調製できる。一実施形態では、LCP樹脂の融点は約250℃~360℃であってもよい。
【0015】
一実施形態では、当業者は、本出願のLCPフィルムの調製中に、それぞれの必要に応じて、潤滑剤、酸化防止剤、電気絶縁剤、又は充填剤などであるがこれらに限定されない添加剤を添加してもよい。例えば、適用可能な添加剤は、限定するものではないが、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、又はポリエーテルエーテルケトンであってもよい。
【0016】
本出願によると、LCPフィルムの厚さは特に制約されない。例えば、LCPフィルムの厚さは、10μm以上かつ500μm以下であってもよく、好ましくは、本出願のLCPフィルムの厚さは10μm以上かつ300μm以下であってもよい。より好ましくは、本出願のLCPフィルムの厚さは15μm以上かつ250μm以下であってもよく、更により好ましくは、本出願のLCPフィルムの厚さは20μm以上かつ200μm以下であってもよい。
【0017】
上記の目的を達成するために、本出願の別の態様は、第1の金属箔とLCPフィルムとを含む積層体も提供する。第1の金属箔は、LCPフィルムの第1表面上に配置される。すなわち、本出願の積層体の第1の金属箔は、LCPフィルムの第1表面の上に積み重ねられる。
【0018】
一実施形態では、本出願の積層体は、第2の金属箔を更に含んでもよく、これはLCPフィルムの第2表面上に配置される。すなわち、本出願の積層体の第1の金属箔は、LCPフィルムの第1表面の上に積み重ねられ、上記積層体の第2の金属箔は、LCPフィルムの第2表面の上に積み重ねられる。
この実施形態では、LCPフィルムの第1表面と第2表面との両方のRku特性が同時に制御されたとき、第1の金属箔上に積み重ねられたLCPフィルムの接着と、第2の金属箔上に積み重ねられたLCPフィルムの接着とは両方が改善される。したがってLCPフィルムと第1の金属箔との間の剥離強度及びLCPフィルムと第2の金属箔との間の剥離強度は両方が強化される。同時に、積層体の低挿入損失が達成される。
【0019】
本出願によると、「積み重ねる」とは、直接的な接触に限定されず、更に間接的接触も含む。例えば、本出願の一実施形態では、積層体の第1の金属箔は、LCPフィルムの第1表面上に間接的に接触して積み重ねられる。本出願の別の実施形態において、積層体の第1の金属箔は、LCPフィルムの第1表面上に間接的に接触して積み重ねられる。具体的には、それぞれの必要に応じて、第1の金属箔とLCPフィルムの第1表面との間に接続層が配置されてもよく、その結果、第1の金属箔が接続層を介してLCPフィルムの第1表面と接触する。
接続層の材料は、それぞれの必要性に従って調節されてもよい。例えば、接続層の材料としては、耐熱性、耐薬品性、又は電気抵抗性などの機能をもたらすニッケル、コバルト、クロム、又はこれらの合金が挙げられる。同様に、積層体の第2の金属箔も、LCPフィルムの第2表面上に直接的又は間接的に接触して積み重ねられてもよい。本出願の一実施形態では、LCPフィルムと第1の金属箔との積み重ね方式と、LCPフィルムと第2の金属箔との積み重ね方式とは、同じであってもよい。別の実施形態において、LCPフィルムと第1の金属箔の積み重ね方式は、LCPフィルムと第2の金属箔との積み重ね方式と異なっていてもよい。
【0020】
本出願によると、第1の金属箔及び/又は第2の金属箔は、限定するものではないが、銅箔、金箔、銀箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス鋼箔などであってもよい。一実施形態では、第1の金属箔と第2の金属箔とは、異なる材料で出来ていてもよい。好ましくは、第1の金属箔及び/又は第2の金属箔は銅箔であってもよく、その結果、銅箔とLCPフィルムとが積み重ねられて銅張積層板(CCL)が形成される。加えて、第1の金属箔及び/又は第2の金属箔を調製する方法は、該方法が本出願の目的に反しない限り、特に制約されない。例えば、金属箔は、限定されないが、ロールツーロール法又は電着法によって製造されてもよい。
【0021】
本出願によると、第1の金属箔及び/又は第2の金属箔の厚さは、特に制約されず、それぞれの必要に応じて、当業者が調節できる。例えば、一実施形態では、第1の金属箔及び/又は第2の金属箔の厚さは、独立して1μm以上かつ200μm以下であってもよく、好ましくは、第1の金属箔及び/又は第2の金属箔の厚さは、独立して1μm以上かつ40μm以下であってもよい。より好ましくは、第1の金属箔及び/又は第2の金属箔の厚さは、独立して1μm以上かつ20μm以下であってもよく、更により好ましくは、第1の金属箔及び/又は第2の金属箔の厚さは、独立して3μm以上20μm以下であってもよい。
【0022】
本出願によると、本出願の第1の金属箔及び/又は第2の金属箔の表面処理は、それぞれの必要に応じて、当業者によって実施され得る。例えば、表面処理は、限定するものではないが、粗面化処理、酸塩基処理、熱処理、脱脂処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、プライマーコーティング処理などから選択されてもよい。
【0023】
本出願によると、第1の金属箔及び/又は第2の金属箔の粗さは、特に制約されず、それぞれの必要性に従って当業者が調節できる。一実施形態では、第1の金属箔のRz及び/又は第2の金属箔のRzは、独立して0.1μm以上かつ2.0μm以下であってもよく、好ましくは、第1の金属箔のRz及び/又は第2の金属箔のRzは、独立して0.1μm以上かつ1.5μm以下であってもよい。一実施形態では、第1の金属箔のRz及び第2の金属箔のRzは、両方とも上記の範囲のいずれかに該当し得る。第1の金属箔のRzと第2の金属箔のRzとは、必要に応じて同じでも異なっていてもよい。一実施形態では、第1の金属箔のRzと第2の金属箔のRzとは異なっている。
【0024】
一実施形態では、それぞれの必要性に基づき、当業者によって第3の金属箔が追加的に提供されてもよい。第3の金属箔は、必要に応じて、第1の金属箔及び/又は第2の金属箔と同じでも異なっていてもよい。一実施形態では、第3の金属箔のRzは、上記の第1の金属箔のRz及び/又は第2の金属箔のRzの範囲のいずれかに該当し得る。一実施形態では、第1の金属箔のRzと、第2の金属箔のRzと、第3の金属箔のRzとは異なる。
【0025】
好ましくは、第1の金属箔、第2の金属箔、及び/又は第3の金属箔は、ロープロファイル金属箔、例えばロープロファイル銅箔であってもよい。
【0026】
一実施形態では、積層体は、複数のLCPフィルムを含んでもよい。本出願の趣旨に反しないことを前提として、本出願が複数のLCPフィルムと、複数の金属箔(例えば、上記の第1の金属箔、第2の金属箔、及び/又は第3の金属箔)とは、それぞれの必要に応じて当業者によって積み重ねられ、複数のLCPフィルムと複数の金属箔とを有する積層体が製造され得る。
【0027】
本明細書で、用語「尖度(Rku)」は、JIS B 0601:2001に従って定義され、「算術平均粗さ(Ra)」及び「十点平均粗さ(Rz)」はJIS B 0601:1994に従って定義される。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、複数の調製例を示し、本出願のLCPフィルムの製造に使用される原材料を例示する。複数の実施例を更に提供して、本出願のLCPフィルム及び積層体の実施を例示すると同時に、比較として複数の比較例を提供する。当業者は、本出願の利点及び効果を、以下の実施例及び比較例から容易に認識できる。本明細書で提案する記載は、単なる例示目的の好ましい実施形態にすぎず、本出願の範囲を限定することを意図するものではない。本出願を実施又は適用するために、本出願の趣旨及び範囲から逸脱することなく様々な修正及び変更を実施できる。
【0029】
《LCP樹脂》
調製例1:LCP樹脂
6-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸(540g)、4-ヒドロキシ安息香酸(1071g)、アセチル無水物(1086g)、亜リン酸ナトリウム(1.3g)、及び1-メチルイミダゾール(0.3g)の混合物を、3Lのオートクレーブに仕込み、アセチル化のため、常圧、窒素雰囲気下で、160℃で約2時間撹拌した。
その後、混合物を30℃/時の速度で320℃まで加熱し、次いでこの温度条件下、圧力を760トルから3トル以下までゆっくりと下げ、温度を320℃から340℃まで上昇した。
その後、粉末を撹拌し、圧力を増大し、ポリマー排出のステップ、ストランドを引くステップ、及びストランドをペレット状に切断するステップを実施して、約278℃の融点及び約45Pa・s(@300℃)の粘度を有するLCP樹脂を得た。
【0030】
調製例2:LCP樹脂
6-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸(440g)、4-ヒドロキシ安息香酸(1145g)、アセチル無水物(1085g)、及び亜リン酸ナトリウム(1.3g)の混合物を、3Lのオートクレーブに仕込み、アセチル化のため、常圧、窒素雰囲気下で、160℃で約2時間撹拌した。
その後、混合物を30℃/時の速度で320℃まで加熱し、次いでこの温度条件下、圧力を760トルから3トル以下までゆっくりと下げ、温度を320℃から340℃まで上昇した。
その後、粉末を撹拌し、圧力を増大し、ポリマー排出のステップ、ストランドを引くステップ、及びストランドをペレット状に切断するステップを実施して、約305℃の融点及び約40Pa・s(@300℃)の粘度を有するLCP樹脂を得た。
【0031】
《LCPフィルム》
実施例1~12及び比較例1~6:LCPフィルム
調製例1及び2から得られたLCP樹脂(PE1及びPE2)を原材料として使用して、実施例1~12(E1~E12)及び比較例1~6(C1~C6)のLCPフィルムを、下記の方法で調製した。
【0032】
最初に、LCP樹脂を、直径27ミリメートル(mm)のスクリューを有する押出機(製造業者:Leistritz、型式:ZSE27)に入れ、300℃~320℃の範囲の温度まで加熱し、次いで、幅500mmのTダイから、5.5キログラム毎時(kg/時)~8.5kg/時の範囲の供給速度で押出した。
次いで、LCP樹脂を2つのキャスティングホイール間のスペースに送り(該ホイールはTダイから約5mm~20mm離れており、各々が約290℃~330℃の範囲の温度及び約35センチメートル(cm)~45cmの範囲の直径を有する)、約20キロニュートン(kN)~60kNの力で押出し、次いで、冷却ホイールに移送して室温で冷却して、50μmの厚さを有するLCPフィルムを得た。
【0033】
実施例1~12のプロセスは、比較例1~6のプロセスと、LCP樹脂の種類、Tダイからキャスティングホイール表面までの距離、供給速度、及び押出温度が異なる。実施例1~12及び比較例1~6のパラメータを、それぞれ下の表1に記載する。
【0034】
【0035】
上記のLCPフィルム調製方法は、本出願の例証的実施に使用されるにすぎない。当業者は、積層押出法及びインフレーション法などの従来方法を用いてLCPフィルムを調製し得る。
【0036】
一実施形態では、LCP樹脂をTダイから押出した後、LCP樹脂を2枚の高温耐性フィルムと共に2つのキャスティングホイール間のスペースに送り、必要に応じて当業者が3層積層体を形成し得る。2枚の高温耐性フィルムを、室温でLCP樹脂から分離して、本出願のLCPフィルムを得た。高温耐性フィルムは、限定するものではないが、ポリ(テトラフルオロエテン)(PTFE)フィルム、ポリイミド(PI)フィルム、及びポリ(エーテルスルホン)(PES)フィルムから選択されてもよい。
【0037】
更に、得られたLCPフィルムの後処理を、それぞれの必要に応じて当業者が実施してもよい。後処理としては、研磨、紫外線照射、プラズマなどが挙げられるがこれらに限定されない。プラズマ処理は、それぞれの必要性に基づき、窒素、酸素、又は大気雰囲気下、減圧又は常圧で、1キロワット(kw)の出力のプラズマで適用されてもよいが、これらに限定されない。
【0038】
試験例1:LCPフィルムのRku、Ra、及びRz
この試験例では、実施例1~12及び比較例1~6のLCPフィルムを試験試料として使用した。各試験試料の表面のRkuは、JIS B 0601:2001に従って測定し、各試験試料の表面のRa及びRzは、JIS B 0601:1994に従って測定した。
【0039】
各試験試料のいずれかの表面のRku、Ra、及びRzを測定するため、共焦点レーザー走査型顕微鏡(製造業者:Olympus、型式:LEXT OLS5000-SAF、対物レンズ:MPLAPON-50xLEXT)に、光学ズーム50X、1Xの拡大倍率の対物レンズ及び波長405ナノメートル(nm)の光源を、温度24±3℃及び湿度63±3%で使用して、試験試料の表面モルホロジー画像を撮影した。試験試料のRkuを、評価長さ4mm、カットオフ値(λc)0.8mmのハイパスフィルター及びカットオフ値(λs)2.5μmのローパスフィルター、解像度1024ピクセル×1024ピクセル、及び自動傾斜除去モードを選択して測定した。試験試料のRa及びRzを、評価長さ4mm及びカットオフ値0.8mmを選択して測定した。
【0040】
上記の方法に従って、実施例1~12及び比較例1~6の各LCPフィルムのいずれかの表面のRku、Ra、及びRzの結果を、下の表2に記載する。
【0041】
実施例1A~12A及び比較例1A~6A:積層体
実施例1A~12Aの積層体(E1A~E12A)及び比較例1A~6Aの積層体(C1A~C6A)は、それぞれ、市販の銅箔の上に積み重ねた実施例1~12及び比較例1~6の積層体から製造した。
【0042】
市販の銅箔の製品説明を以下に示す。
銅箔1:CF-T49A-HD2、福田金属箔粉工業株式会社から購入、Rz:約1.2μm
銅箔2:CF-H9A-HD2、福田金属箔粉工業株式会社から購入、Rz:約1.0μm
【0043】
実施例1A~12A及び比較例1A~6Aの積層体の各々に使用したLCPフィルムの種類及び銅箔の種類を表2に示す。積層体の各々は以下のように製造した。
【0044】
厚さ約50μmのLCPフィルムと、各々の厚さ約12μmの2枚の同一の銅箔を、各々最初に20cm×20cmのサイズに切断した。次いで、LCPフィルムを2枚の市販の銅箔の間に挟んで積層構造を形成した。この積層構造を、5キログラム毎平方センチ(kg/cm2)の圧力で180℃で60秒間、次いで20kg/cm2の圧力で300℃で25分(min)処理し、その後室温まで冷却して、積層体を得た。
【0045】
ここで、積層体の積層方法は特に制約されない。当業者は、ワイヤ積層又は表面積層などの従来技術を使用して、積層プロセスを実施してもよい。本出願に適用可能なラミネータは、断続的熱プレス機、ロールツーロール・ホイール機、ダブルベルトプレス機などであり得るが、これらに限定されない。それぞれの必要に応じて、当業者はLCPフィルムを銅箔と整列させて積層構造を形成でき、これを次に加熱ステップとプレスステップとを含む表面積層で加工してもよい。
【0046】
別の実施形態において、LCPフィルム上の銅箔などの金属箔は、スパッタリング、電気めっき、化学めっき、蒸着などによって、それぞれの必要に応じて当業者により、形成されてもよい。あるいは、接続層、例えば、グルー層、ニッケル層、コバルト層、クロム層、又はこれらの合金層が、それぞれの必要に応じて当業者により、LCPフィルムと金属箔との間に形成されてもよい。
【0047】
試験例2:積層体の剥離強度
積層体の剥離強度は、IPC-TM-650No:2.4.9に従って測定した。実施例1A~12A及び比較例1A~6Aの積層体を、各々、エッチングした試験片として長さ約228.6mm及び幅約3.2mmのサイズに切断した。エッチングした試験片の各々を、23±2℃の温度及び50±5%の相対湿度に24時間置いて、安定化に到達させた。その後、エッチングした試験片の各々を試験機(製造業者:Hung Ta Instrument Co.,Ltd.,型式:HT-9102)のクランプに両面接着テープで接着した。エッチングした試験片の各々を、次いで、50.8mm/分の剥離速度で、所定の力でクランプから剥離し、次いで、剥離プロセス中の力の値を連続的に記録した。ここで、力は、試験機の耐力の15%~85%の範囲内で制御する必要があり、クランプからの剥離距離は少なくとも57.2mmを超える必要があり、6.4mmの初期距離までの力は無視して、記録しなかった。結果を表2に示す。
【0048】
試験例3:積層体の挿入損失
実施例1A~12A及び比較例1A~6Aの積層体を、各々、ストリップ線路試験片として長さ約100mm及び幅約140mm、抵抗約50オーム(Ω)のサイズに切断した。ストリップ線路試験片の挿入損失を、10GHzの下、プローブ(製造業者:Cascade Microtech、型式:ACP40-250)を含むマイクロ波ネットワークアナライザ(製造業者:Agilent Technologies、Ltd.型式:8722ES)で測定した。積層体の結果を、下の表2に記載する。
【0049】
【0050】
試験結果の考察
上記の積層体の結果を、同じ種類の銅箔を有する積層体の結果と比較することで、LCPフィルムが積層体の性能に与える影響が明らかにした。その結果、積層体の有益な効果はLCPフィルムによるものであり、LCPフィルムが積層体の性能の最適化に有用であることが確認できることを、当業者は理解するはずである。
【0051】
上の表2に示すように、実施例1~12のLCPフィルムのいずれかの表面のRkuは、3.0以上かつ60.0以下の範囲内に制御され、その結果、実施例1A~12Aの積層体(かかるLCPフィルムと、様々な市販の銅箔から製造された)は全て、高い剥離強度と低挿入損失とを示した。
対照的に、比較例1~6の各々のLCPフィルムのいずれかの表面のRkuは上記範囲外であり、その結果、比較例1A~6Aの積層体は、高い剥離強及び低挿入損失を有していなかった。
【0052】
銅箔1を有する複数の積層体の結果を比較及び分析した。LCPフィルム(例えば比較例1)のRkuが60.0を超えると、製造された積層(例えば比較例1A)は、大きな挿入損失をもたらし、他方、LCPフィルム(例えば比較例2)のRkuが3.0未満の場合、製造された積層体(例えば比較例2A)は、明らかに不十分な剥離強度を有した。
対照的に、LCPフィルム(例えば実施例1~6)のRkuが3.0以上かつ60.0以下に制御された場合、積層体(例えば実施例1A~6A)は、LCPフィルムと金属箔との間の剥離強度が改善されただけでなく、低挿入損失も有した。
【0053】
異なる銅箔を使用した場合でも、本出願のLCPフィルムは、なおも剥離強度が改善され、低挿入損失の積層体を提供した。具体的には、銅箔2を有する複数の積層体の結果を比較及び分析した。特許請求されるLCPフィルムを使用しない積層体(例えば、比較例3A~6A)の結果と比較して、3.0~60.0の範囲のRkuを有するLCPフィルム(例えば実施例7~12)は、積層すると(例えば、実施例7A~12A)、改善された剥離強度並びに低挿入損失を示した。
【0054】
要約すると、LCPフィルムの第1表面のRkuを3.0以上かつ60.0以下に制御することによって、積層体はLCPフィルムと金属箔との間の剥離強度が改善されるだけでなく、低挿入損失も示す。従って、本出願の積層体は、ハイエンド5G製品に非常に好適である。
【0055】
本出願の多数の特性及び利点を、上記記述において、本出願の構造及び特徴の詳細と共に説明してきたが、本開示は例示にすぎない。本出願の原理内で、添付の特許請求の範囲で表された用語の広義の意味が示す範囲の限り、詳細の変更を、特に、形状、サイズ、及び部品の配列に関して、加えてもよい。