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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】粉体分別装置
(51)【国際特許分類】
   B07B 13/08 20060101AFI20230712BHJP
   H01M 4/36 20060101ALN20230712BHJP
【FI】
B07B13/08 A
H01M4/36 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020192543
(22)【出願日】2020-11-19
(65)【公開番号】P2022081168
(43)【公開日】2022-05-31
【審査請求日】2021-11-19
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大工原 秀吾
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-199031(JP,A)
【文献】中国実用新案第210058972(CN,U)
【文献】特開2006-102599(JP,A)
【文献】特開2000-254539(JP,A)
【文献】特開平11-291323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B07B 1/00-15/00
H01M 4/36
B02C 1/00- 7/18
B02C 15/00-17/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体を収容する容器と,
前記容器を加振する加振器と
前記加振器を制御する加振制御部とを有し,
前記容器には,
粉体を下向きに排出する第1の排出口と,
前記第1の排出口に設けられ開いた状態と閉じた状態とをとるシャッターと,
前記第1の排出口より高い位置に配置され粉体を吸引して排出する第2の排出口とが設けられており,
前記加振制御部は,前記加振器に,
粉体の塊状物を解塊させる,粉体の種類ごとの下限振動数以上の振動数での加振と, その後の,粉体に混入している異物を分別させる,前記容器の共振振動数での加振と,の二段階の加振を行わせるものである粉体分別装置。
【請求項2】
請求項1に記載の粉体分別装置であって,
前記容器はアルミ製である粉体分別装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の粉体分別装置であって,
前記第1の排出口より高い位置に配置され前記第2の排出口による吸引が済んでから粉体を吸引して排出する第3の排出口がさらに設けられている粉体分別装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示技術は,粉体を分別する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から,粉体を適当な容器に収容して貯蔵することが行われている。粉体には概して,異物粉がある程度混入していることがある。このため異物粉を分別することが求められる。特許文献1には,粉粒体集合群から異物粉を分別する技術が記載されている。同文献の技術では,搬送面状に載置した粉粒体混合物に対して音波を送波することとしている。これにより,異物粉以外の本来の粉粒体のみを定在波の節に捕捉して分別する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-143899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した従来の技術には,次のような問題点があった。粉体によっては,目的とする本来の粉体自体が複数種類の粉体の混合体である場合がある。そのような場合でも,特許文献1の技術で定在波の節に捕捉できるのは,1種類の粉体のみである。このため,本来の粉体と同じ混合比のものを得ることができなかった。異物粉が捕捉対象となるような設定条件を用いたとしても,複数種類の異物粉が含まれている場合にはその1種類しか捕捉できないことに変わりはない。
【0005】
本開示技術は,前記した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,複数種類の粉体の混合体である粉体を収容しつつ,そこに含まれる異物粉を適切に分別して除去できる粉体分別装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示技術の一態様における粉体分別装置は,粉体を収容する容器と,容器を加振する加振器とを有し,容器には,粉体を下向きに排出する第1の排出口と,第1の排出口に設けられ開いた状態と閉じた状態とをとるシャッターと,第1の排出口より高い位置に配置され粉体を吸引して排出する第2の排出口とが設けられているものである。
【0007】
上記態様における粉体分別装置では,粉体を容器に収容している状態で加振器により容器を加振することで,粉体を目的粉と異物粉とに分別する。加振振動数を選ぶことで,粉体を事実上の液状化状態として密度差により上下に分かれさせる。上下の排出口から別々に排出することで,異物粉を除去した目的粉を回収できる。
【0008】
記態様における粉体分別装置ではさらに,加振器に,粉体の塊状物を解塊させる,粉体の種類ごとの下限振動数以上の振動数での加振と,その後の,粉体に混入している異物を分別させる,容器の共振振動数での加振と,の二段階の加振を行わせる加振制御部を有している。粉体が塊状物をなしている場合には,分別用の振動数で加振してもうまく分別できない。塊状物を解塊させる解塊用の振動で加振することで塊状を解消させてから分別用の振動数で加振することで,分別を適切に行うことができる。
【0009】
上記態様における粉体分別装置では,容器がアルミ製であるとよりよい。目的粉が電池の電極材料である場合にあまり害をなさないからである。また,第1の排出口より高い位置に配置され第2の排出口による吸引が済んでから粉体を吸引して排出する第3の排出口がさらに設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本開示技術によれば,複数種類の粉体の混合体である粉体を収容しつつ,そこに含まれる異物粉を適切に分別して除去できる粉体分別装置が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態に係る粉体分別装置の構成を示す断面図である。
図2】実施の形態の変形例に係る粉体分別装置の構成を示す断面図である。
図3】加振による最大粒径の変化を示すグラフである。
図4】粉体分別装置による分別の手順を示す模式図(その1)である。
図5】粉体分別装置による分別の手順を示す模式図(その2)である。
図6】分別前後での粉体中における鉄濃度を示すグラフである。
図7】分別前後での粉体中における銅濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示技術を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,図1に示す粉体分別装置1として本開示技術を具体化したものである。粉体分別装置1は,容器2と,加振器3とを有している。容器2には,排出口4と排出口5とが設けられている。排出口4と排出口5とは,容器2において異なる高さの位置に配置されている。排出口5が排出口4より高い位置にある。排出口4にはシャッター6が設けられている。加振器3は,容器2に振動を印加するものである。粉体分別装置1にはさらに,制御部7が設けられている。制御部7は,加振器3を制御する加振制御部である。シャッター6も制御部7により制御することとしてもよい。
【0013】
粉体分別装置1では,容器2の内部に粉体8を貯蔵することができる。粉体8には,より高密度な異物粉9が混入している可能性があるものとする。粉体分別装置1では,粉体8を貯蔵しているときに加振器3を駆動することで,粉体8を貯蔵しつつ粉体8から異物粉9を分別することができる。加振器3により容器2を振動させることで,粉体8の集合体としての全体を振動させていわゆる液状化状態とすることができるからである。そのため,密度の差により,高密度な異物粉9が容器2の底部に貯まるのである。図1では分別後の状態を示している。ここでいう密度とは,粒子単体としての密度であり,粒子の集合体全体としての密度ではない。
【0014】
加振により図1の状態となったら,シャッター6を開くことで,異物粉9を排出口4から下向きに排出することができる(矢印D)。異物粉9を全部排出したらシャッター6を閉じる。分別後の粉体8の回収は,上方の排出口5からの吸引により行う(矢印U)。そのため排出口5を適当な吸引ポンプに繋いでおけばよい。
【0015】
粉体8には,複数の粒子が団子状に集合した塊が含まれている場合がある。塊をなしている粉体8が含まれていると,加振器3の加振による上記の異物粉9の分別が不十分となる場合がある。分別のための加振では塊は解体しないので,塊の中に混入している異物粉9を分別できないからである。また,塊をなしている粉体8は単独の粉体8とは異なる振動をすることがあるので,塊をなしている粉体8が異物粉9側の方に行ってしまうこともある。
【0016】
そのため粉体分別装置1では,制御部7により二種類の加振を行うことができるようにしている。二種類の加振とは,塊を解体させるための加振と,前述の分別のための加振である。塊を解体させることを以下,「解塊」という。解塊のための加振と分別のための加振とでは振動数が異なる。解塊のための加振を先に行い,その後に分別のための加振を行う。以下これを二段階の加振という。分別前の粉体8を容器2に投入する前に,何らかの方法で塊解をあらかじめ行っておくことも考えられる。その場合には二段階の加振を行う必要はなく,分別のための加振のみを行えばよい。
【0017】
図2に,図1の粉体分別装置1に排出口10を追加した変形例を示す。この変形例は,粉体8に,より低密度な異物粉11が高密度な異物粉9とともに混入している場合に適したものである。この変形例では分別のための加振を行うことにより,高密度な異物粉9が容器2の底部に貯まり,低密度な異物粉11が粉体8の上に貯まることとなる。異物粉9は図1の場合と同様に排出口4から排出され,異物粉11は上方の排出口10からの吸引により排出される。排出口10による異物粉11の吸引と排出口5による分別後の粉体8の吸引とは同時には行わない。異物粉11の吸引が済んでから粉体8の吸引を行う。
【0018】
粉体8に低密度な異物粉11のみが混入していて高密度な異物粉9が混入していない場合には,図1の粉体分別装置1で対応できる。この場合には異物粉11を上方の排出口5からの吸引により排出し,分別後の粉体8は排出口4から下向きに排出することで回収すればよい。
【実施例
【0019】
以下,粉体8がリチウムイオン二次電池の電極材料用の粉末材料である場合についての実施例を説明する。本実施例では,図1の構成の粉体分別装置1を使用した。容器2の材質はアルミ(1000番手系)とした。その内面のうち,排出口4,5の付け根付近には,炭化タングステンの超硬コーティングを施した。加振器3の容器2への取り付け方法は,ボルトおよびナットによる締結とした。
【0020】
対象とする粉体8(以下,目的粉という。)は,2種類の正極活物質(活物質A,B)と,3種類の正極用導電粒子(導電材A,B,C)の計5種類とした。混入が想定される異物粉9は,鉄粉および銅粉である。鉄粉および銅粉のいずれも,5種類の目的粉のいずれよりも高密度である。容器2の材質であるアルミは,目的粉と密度があまり違わないが,電極材料の場合アルミの混入はさほど大きな害とはならないので,本実施例では考慮対象外とした。
【0021】
まず,目的粉の解塊用振動数を調べた。上記5種類の目的粉をそれぞれ粉体分別装置1に投入し,加振器3で15分間加振した。加振時の振動数は10~120Hzの12水準とした。加振後の最大粒径を顕微鏡観察で調べた。結果を図3のグラフに示す。図3から,加振後の最大粒径について以下のことが分かる。
活物質A:いかなる振動数でも小さい。
活物質B:同上。
導電材A:振動数70~80Hz程度を境に,低振動数では大きく高振動数では小さい。導電材B:振動数100Hz程度を境に,低振動数では大きく高振動数では小さい。
導電材C:いかなる振動数でも大きい。
【0022】
これより次のように解される。
活物質A,B:もともと塊をなしていない。
導電材A:振動数70~80Hz程度が解塊用振動数として使用できる下限である。
導電材B:振動数100Hz程度が解塊用振動数として使用できる下限である。
導電材C:加振によって解塊することはできない。
【0023】
活物質A,Bについては,解塊用振動は不要で分別用振動のみ行えばよいことが分かる(図4)。導電材A,Bについては,上記の下限振動数以上の振動数で解塊用振動を行った後で分別用振動を行えばよいことが分かる(図5)。導電材Cについては,別の何らかの手段で解塊を行った後で,粉体分別装置1としては分別用振動のみ行えばよいことが分かる(図4)。
【0024】
次に,分別用振動数を決定した。分別用振動数としては,目的粉の種類に関わらず容器2の共振振動数を用いることが望ましい。容器2の底面,壁面を介して粉体8の個々の粒子(目的粉,異物粉とも)に最も大きい振動を伝達できる振動数だからである。しかし共振振動数には,容器2の材質,板厚,形状等の多様な要因が複雑に関わり合うので,理論的に計算で求めることはおよそ現実的でない。同一の仕様の容器2同士でも個体差がありうる。そのため個々に実測で決定するのがよい。空の状態の容器2にて,振動計を用いたハンマリング法により,容器2の振動数応答特性を取得した。測定点は加振器3の取り付け位置とした。その結果に基づき,容器2の共振振動数は32.7Hzであった。これにより分別用振動数を32.7Hzと決定した。
【0025】
上記5種類の目的粉のうちの「導電材B」について,粉体分別装置1による異物分別の効果確認試験を行った。この試験は,次の手順で行った。
1.粉体投入:未分別の導電材Bを容器2に投入した。
2.解塊:振動数120Hzで15分間加振した。
3.分別:振動数32.7Hzで30分間加振した。
4.異物排出:シャッター6を開いて排出口4から粉体を排出した。排出量は,投入全量の4重量%とした。
5.製品吸引:異物排出の後に容器2に残っている粉体を,排出口5から吸引して回収した。
【0026】
ICP-MS分析法により,粉体中の鉄濃度および銅濃度を測定した。測定対象は,上記「1.」の未分別粉体と,上記「4.」の排出粉体と,上記「5.」の回収粉体である。上記の分別試験および濃度測定を2セット行った。鉄濃度の測定結果を図6に,銅濃度の測定結果を図7に,それぞれ示す。図6および図7における「n1」,「n2」は,2セット行った試験および測定の1セット目および2セット目を意味する。図6および図7のいずれでも,1セット目と2セット目とで似たような傾向が得られている。
【0027】
図6から,鉄の異物粉に関しては,分別前の導電材B中にもともと60~80ppm程度含まれていたものが,粉体分別装置1での分別により10ppm未満に低減されたことが分かる。異物として排出した排出物中における鉄濃度は300ppm以上にもなっている。銅の異物粉に関しては,分別前の導電材B中のもともとの濃度自体もごく低いが,異物として排出した排出物中における銅濃度は2ppm程度と意外にある。これより,分別後の回収物中における銅濃度は,分別前よりさらに下がっているものと考えられる。このように,粉体分別装置1での分別により異物含有率の有意な低下効果があることが試験により確認された。導電材B以外の目的粉に対しても同様に効果がある。
【0028】
異物粉として繊維片や樹脂片のような目的粉より低密度のものも想定される場合には,図2に示した排出口10を有する粉体分別装置を用いることが好ましい。この場合の低密度の異物粉の排出口10からの排出の図4図5中でのタイミングは,「異物排出」のときである。つまり,排出口4からの高密度の異物の排出と同時でよい。
【0029】
以上詳細に説明したように本実施の形態および実施例によれば粉体分別装置1では,容器2を加振器3で加振できる構造として,上下に排出口4,5を設けている。これにより,粉体8を加振により密度差で目的粉と異物粉とに分別することができる粉体分別装置1が実現されている。加振を解塊用の振動数と分別用の振動数との2段階で行うことで,粉体8の一部に塊状をなしているものがある場合でも,適切に解塊と分別とを行うことができるものである。
【0030】
本実施の形態および実施例は単なる例示にすぎず,本開示技術を何ら限定するものではない。したがって本開示技術は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,対象とする目的粉は,電極材料には限定されない。容器2の材質はアルミ以外としては例えばステンレス鋼が挙げられる。容器2には,内部の様子を外側から目視できるように透明な部材で窓を設けてもよい。加振器3は,一般的には振動数が可変なものであるが,解塊用の振動を行わない場合には,容器2の共振振動数と一致する振動数でのみ振動するものであってもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 粉体分別装置
2 容器
3 加振器
4 排出口
5 排出口
7 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7