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  • 特許-原子燃料の破損防止方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】原子燃料の破損防止方法
(51)【国際特許分類】
   G21C 17/10 20060101AFI20230712BHJP
   G21C 17/00 20060101ALI20230712BHJP
   G21C 17/02 20060101ALI20230712BHJP
   G21C 17/112 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
G21C17/10
G21C17/00 230
G21C17/02 100
G21C17/112
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020541993
(86)(22)【出願日】2019-02-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-13
(86)【国際出願番号】 US2019016233
(87)【国際公開番号】W WO2019164654
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2022-01-25
(31)【優先権主張番号】62/625,393
(32)【優先日】2018-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501010395
【氏名又は名称】ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100091568
【弁理士】
【氏名又は名称】市位 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】ヘイベル、マイケル、ディー
(72)【発明者】
【氏名】カルバハル、ジョージ、ブイ
(72)【発明者】
【氏名】スタフォード、ショーン、シー
(72)【発明者】
【氏名】アーント、ジェフリー、エル
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-038686(JP,A)
【文献】特開平09-061582(JP,A)
【文献】特開2013-140150(JP,A)
【文献】特開昭56-30689(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 17/00-17/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転中の原子炉の炉心の1本以上の燃料棒(10)の燃料棒内最高温度測定値および被覆ピーク温度を突き止める方法であって、
当該1本以上の燃料棒内の1カ所以上の位置における温度をセンサにより直接測定するステップ(100)と、
当該センサから温度測定値を受信するように構成されている信号処理装置により、当該1本以上の燃料棒内の最高温度を当該燃料棒内最高温度測定値として特定するとともに、当該最高温度が測定された炉心位置を特定するステップ(102)と、
当該最高温度が測定された当該炉心位置で当該炉心から流出する冷却材の最高温度と当該冷却材の最小流量とを測定するステップ(104)と、
当該信号処理装置により、当該燃料棒内最高温度測定値と、当該最高温度が測定された当該炉心位置で当該炉心から流出する当該冷却材の当該最高温度と、当該冷却材の当該最小流量とから、当該被覆ピーク温度を決定するステップ(106)と
を含む方法。
【請求項2】
前記直接測定ステップでは、前記1本以上の燃料棒の複数の軸方向位置に沿って温度を測定する、請求項1の方法。
【請求項3】
前記複数の軸方向位置には前記1本以上の燃料棒の最上部および最下部が含まれる、請求項2の方法。
【請求項4】
前記最高温度が測定された前記炉心位置で前記炉心から流出する前記冷却材の前記最高温度と前記冷却材の前記最小流量とから前記冷却材のバルク温度を決定するステップ
をさらに含む、請求項1の方法。
【請求項5】
前記被覆ピーク温度の決定が、前記1本以上の燃料棒内の燃料ペレットおよび前記1本以上の燃料棒の被覆の熱伝達特性および幾何学的特性に関する知識に基づいて行われる、請求項4の方法。
【請求項6】
前記被覆ピーク温度決定ステップが、以下の数式を用いて前記被覆ピーク温度を決定することを含む、請求項5の方法。
【数1】
ここに、
【数2】
および
【数3】
であり、
r=燃料ペレットの直径
c=被覆の厚さ
L=燃料棒の長さ
kf=燃料ペレットの熱伝導率
kc=被覆の熱伝導率
Ar=燃料ペレットの断面積
Ar+c=燃料ペレットと被覆の断面積
h=対流による被覆の熱伝達率
=被覆ピーク温度
=周囲のバルク冷却材温度
=燃料棒内最高温度測定値
【請求項7】
記温度を直接測定するステップが実質的に継続して実行される、請求項1の方法。
【請求項8】
前記被覆ピーク温度および/または前記燃料棒内最高温度測定値を1つ以上のしきい値と比較するステップと、
前記被覆ピーク温度および/または前記燃料棒内最高温度測定値当該1つ以上のしきい値との比較結果に応じて保護措置を実施するステップと
をさらに含む、請求項1の方法。
【請求項9】
前記保護措置がタービンランバックまたは原子炉トリップを含む、請求項8の方法。
【請求項10】
運転中の原子炉の炉心の1本以上の燃料棒(10)の燃料棒内最高温度測定値および被覆ピーク温度を突き止めるシステムであって、
当該1本以上の燃料棒内に配置され、当該1本以上の燃料棒内の1カ所以上の位置における温度を直接測定するように構成されているセンサ(20)と、
当該1本以上の燃料棒の外に配置され、当該センサから温度測定値を受信するように構成されている計装シンブル(30)と、
当該センサから温度測定値を受信するように構成されている信号処理装置(44)とを含み、当該信号処理装置は、
当該1本以上の燃料棒内の最高温度を当該燃料棒内最高温度測定値として特定するとともに、当該最高温度が測定された炉心位置を特定し(102)、
当該最高温度が測定された当該炉心位置で当該炉心から流出する冷却材の最高温度測定値と当該冷却材の最小流量とを受信し(104)、
当該燃料棒内最高温度測定値と、当該最高温度が測定された当該炉心位置で当該炉心から出る当該冷却材の当該最高温度と、当該冷却材の当該最小流量とから当該被覆ピーク温度を決定すること(106)、
を特徴とするシステム。
【請求項11】
前記センサが受動的である請求項10のシステム。
【請求項12】
前記計装シンブルが前記センサに呼び掛けるように構成されている、請求項10のシステム。
【請求項13】
前記センサの少なくとも1つが、前記直接測定された温度に応じて共振周波数が変化するように構成された共振回路を含む、請求項10のシステム。
【請求項14】
前記センサの少なくとも1つが、液体金属温度計(54)と、フェライトコア(52)と、インダクタコイル(50)とを含み、当該液体金属温度計は、温度変化に応じて当該フェライトコアが当該インダクタコイルに対して出入りするように構成されている、請求項10のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2018年2月2日出願の「NUCLEAR FUELFAILURE PROTECTION METHOD」と題する米国仮特許出願第62/625,393号に基づく優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、概して原子炉の炉心の動作パラメータを突き止める方法に関し、具体的には、燃料棒中心線ピーク温度をより正確に監視し、燃料棒被覆ピーク温度を求め、それらのパラメータが危機的な動作限界にどれだけ近いかを突き止める方法に関する。
【背景技術】
【0003】
最新式の原子炉システムの多くは、炉心内の放射能を軸方向のさまざまな高さで直接測定する炉内センサを用いている。また、炉心の周囲には、冷却材出口の高さにあたるさまざま位置に熱電対センサが設置されており、冷却材出口温度をさまざまな半径方向位置で直接測定することができる。これらのセンサは、炉心内の半径方向および軸方向の出力分布を直接測定するために使用される。この出力分布測定情報は、原子炉が出力分布の限界内で運転されているか判断するために使用される。こうした機能の実行に用いられる典型的な炉内センサは、周辺で起きている核分裂の量に比例する電流を発生させる自己給電型検出器である。この種のセンサは概して、炉心のさまざまな燃料集合体の計装シンブル内に配置され、上述の電流を発生させるための外部電源を必要としない、一般的に自己給電型検出器と呼ばれるものであり、その詳細は、参照によって全体として本願に組み込まれる米国特許第5,745,538号に記載されている。
【0004】
炉心のさまざまなパラメータを測定可能なセンサとして、一般的に炉心内のさまざまな燃料集合体の計装シンブル内に配置される、参照によって全体として本願に組み込まれる米国特許出願第2018/0218797号に記載された別の種類のセンサがある。この種のセンサは、中性子束を検出するように構成された自己給電型中性子検出器と、当該中性子検出器に並列に接続されたコンデンサと、入力端および出力端を有するガス放電管と、共振回路と直列に当該出力端に接続されたアンテナとから成る送信器装置を使用する。ガス放電管の入力端は当該コンデンサに接続されている。当該アンテナは、当該自己給電型検出器によって監視される中性子束の強度を表す一連のパルスから成る信号を発信するように構成されている。当該共振回路のインダクタンスおよび静電容量の値の変化に影響を及ぼす他の炉心パラメータも監視することができる。
【0005】
出力を原子炉の外部へ伝えるための信号線を必要としない、参照によって全体として本明細書に組み込まれる米国特許第4,943,683号に開示されたさらに別の種類の炉内センサがある。この米国特許は、原子炉炉心の燃料集合体に組み込まれる異常検出装置と原子炉容器の外に配置される送受信器とを有する原子炉の炉心異常診断システムを記載している。送受信器は、異常検出装置に向けて信号を無線で送信し、当該異常検出装置が発生するエコー信号を無線で受信する。異常検出装置が燃料集合体内の異常な温度上昇のような炉心内の異常を検出すると、エコー信号が基準信号から偏移したモードになる。すると送受信器は、エコー信号のこのような基準信号からの偏移を検知し、発電所の保護系統に異常検出信号を送信する。このセンサは、それが設置された燃料集合体周辺の冷却材温度を実際に監視している。
【0006】
前述の各センサは原子炉の炉心内の状態を直接監視するが、いずれのセンサも、運転中の原子炉の炉心内の原子燃料棒内の状態を直接監視するものではない。先進的な燃料被覆管材料は、商業利用が可能になる前に、規制当局の承認に必要な厳格な試験にパスしなければならない。先進的な燃料被覆管材料の今の試験方法は、数回の燃料サイクルにわたる燃料棒の照射試験と、その終了時の検査が必要である。これは数年かかる長いプロセスであり、燃料被覆管のデータはその期間中入手不可能である。今の方法では、重要なデータの入手は照射後の検査時に限られる。かくして、燃料棒内に設置可能で、数回の燃料サイクルにわたって危険な状態に耐えることができ、燃料棒に貫通部を必要としない炉内センサに対する要望がある。
【0007】
さらに、原子炉運転の安全性を確保するために、原子燃料棒に適用される破損限界に決して到達しないよう監視する必要のある重要な炉心動作パラメータとして、燃料棒内最高温度(T)測定値と被覆ピーク温度(T)がある。原子炉保護系の現行の設計では、これらの温度値は、上述の中性子検出器の出力から推定される燃料核分裂率分布と、原子炉容器の冷却材温度および冷却材流量のバルク指標とに基づいて推定される。燃料棒内温度の詳細な情報が不足しているため、核放射線分布、原子炉容器温度分布、およびそれに対応する原子炉内のTおよびTピーク値の相互関係について控え目な仮定が必要になる。そのような控え目な仮定は、原子炉の発電コストを増加させる。燃料棒内に配置できる炉内センサは、そうした控え目な仮定の必要性を最小限に抑えることにも役立つ。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、上述の目的を、運転中の原子炉の炉心の1本以上の燃料棒の燃料棒内最高温度測定値および被覆ピーク温度を突き止める方法を提供することによって達成する。当該方法は、当該1本以上の燃料棒内の1カ所以上の位置における温度を直接測定するステップと、当該1本以上の燃料棒内の最高温度を当該燃料棒内最高温度測定値として特定するとともに、当該最高温度が測定された炉心位置を特定するステップと、当該最高温度が測定された当該炉心位置で当該炉心から流出する冷却材の最高温度と当該冷却材の最小流量とを測定するステップと、当該燃料棒内最高温度測定値と、当該最高温度が測定された当該炉心位置で当該炉心から流出する当該冷却材の当該最高温度と、当該冷却材の当該最小流量とから、当該被覆ピーク温度を決定するステップとを含む。
【0009】
一実施態様では、当該直接測定ステップにおいて当該1本以上の燃料棒の複数の軸方向位置に沿って温度を測定する。当該複数の軸方向位置は、当該燃料棒の最上部および最下部を含んでよい。
【0010】
一実施態様では、当該被覆ピーク温度が、当該1本以上の燃料棒内の燃料ペレットならびに当該1本以上の燃料棒の被覆の熱伝達特性および幾何学的特性に関する知識に基づいて決定される。当該燃料の1カ所以上の位置における温度を直接測定するステップは、実質的に継続的に実行してよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明の詳細を、好ましい実施態様を例にとり、添付の図面を参照して以下に説明する。
【0012】
図1】本発明の一実施例に基づくセンサシステムの概略図である。
【0013】
図2】本発明の一実施例に基づくセンサシステムの回路図である。
【0014】
図3】本発明の一実施例に基づく液体金属温度計を用いたセンサの概略図である。
【0015】
図4】本発明の一実施例に基づく、運転中の原子炉の炉心内の1本以上の燃料棒の燃料棒内最高温度測定値および被覆ピーク温度を突き止める方法の流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の一実施例に基づくセンサシステムの概略図である。このシステムは、原子炉の燃料棒10内に配置されたセンサ20を含む。センサ20は、送受信兼用素子22と検知素子24とを含む。ただし、送受信兼用素子22は、図2に表示して説明するような単一回路として構成できることを理解されたい。検知素子24は、非限定的な例として、ペレット温度12、ペレット伸長度14、燃料棒圧力16のような燃料棒内の1つ以上の特性を検知するように構成されている。例えば、検知素子24の電気的特性は、燃料棒10内の1つ以上の特性の変化による影響を受ける。送受信兼用素子22は、検知した情報を送信するように構成されている。一部の実施例では、送受信兼用素子22は、検知された特性に応じて変化する周波数で発振するように構成されている。
【0017】
センサシステムは、計装シンブル30の内部に配置された、対応する送受信兼用素子32も含む。本発明の一部の実施例では、計装シンブル30内の送受信兼用素子32は、センサ20内の送受信兼用素子22に対して呼び掛けをするように構成されている。例えば、計装シンブル30内の送受信兼用素子32によるセンサ20内の送受信兼用素子32に対する呼び掛けは、無線自動識別(RFID)システムの動作と同様に、無線自動識別信号を出力してセンサ20内の送受信兼用素子22からの出力を検知することにより行うことができる。センサ20の出力(例えばセンサの発振周波数)は、ペレット温度12のような燃料棒10内の特性を指示する。例えば、燃料中心線温度は、燃料棒10内の温度変化に起因するセンサ20の共振回路のインダクタンスの変化に相関させることができるので、計装シンブル30において、そのインダクタンスの変化に起因する共振周波数の変化を検出すればよい。
【0018】
センサシステムはまた、原子炉の炉心の外部などの過酷でない環境40に配置された別の送受信兼用素子42と信号処理装置44とを含む。過酷でない環境に配置されたこれらの機器は、計装シンブル30からの出力を受信して処理するために使用される。信号処理装置44は例えば、計装シンブル30からの出力に基づいて、燃料棒内最高温度測定値(T)のような温度特性を突き止めるように構成されたプロセッサおよび/またはメモリを含んでよい。信号処理装置44は、被覆ピーク温度(T)の限界値を計算するためにTを使用できる。次に、原子炉保護系(RPS)は、TとTの値を用いて、一般市民にとって必要な健康と安全をあらゆる運転条件下で確保するために必要な原子炉のトリップを実施すべきか否かの判断をすることができる。
【0019】
センサとして、適当なタイプの任意のセンサ20を使用できることを理解されたい。本願では、センサのいくつかの実施例を図2、3に関連して説明している。しかし、本発明の範囲から逸脱することなく、他のタイプのセンサを使用することができる。本発明の一部の実施例において、センサ20は受動的である。ただし、本発明の範囲から逸脱することなく、任意の能動的センサ(すなわち電源を必要とするもの)を使用できることを理解されたい。
【0020】
図2は、本発明の一実施例に基づくセンサシステムの回路図である。図2の実施例では、センサ20は共振回路によって構成されている。センサ20は、温度などの燃料棒10内の特性が変化するとそれに応じて共振回路の特性が変化するように構成されている。よって、燃料棒10内の温度が変化すると、それに応じてセンサ20の出力周波数が変化する。一部の実施例では、共振回路は、温度に応じて電気的特性が変化する感温性電気部品を含んでよい。例えば、インダクタL2やコンデンサC2は、感温性電気部品の場合がある。別の実施例では、感温性抵抗器を追加してRLC共振回路を構成する。別の実施例では、図3に関連して説明するように、インダクタL2のインダクタンスを変化させる液体温度計を使用する。共振回路の構成要素は、リターンパルスが、その発生源(すなわちリターンパルスの発生元の燃料棒)の特定を可能にする固有の周波数を持つように値を選ぶことができる。
【0021】
図2に示す実施例はまた、コンデンサC1とインダクタL1とによって構成される別の共振回路である較正器を含む。この較正器は感温性電気部品を含まないため、その出力は温度変化に関係なく一定である。これにより、センサシステムは、構成部品の劣化やドリフトを較正して補正することができる。また、計装シンブル30は、センサ回路だけでなく、静的な較正器の共振回路にも呼び掛けを行う。較正器回路の応答は、構成部品の劣化や温度ドリフトに伴うセンサ信号の変化を補正するために使用する。
【0022】
図2に示すように、計装シンブル30は、インダクタL3、L4によって構成される送受信器を含む。送信器はセンサ20に対する呼び掛けに使用し、受信器は応答を検知することができる。
【0023】
図3は、本発明の一実施例に基づく液体金属温度計を用いたセンサの概略図である。センサは、インダクタコイル50と、フェライトコア52と、液体金属温度計54とを含む。液体金属温度計54は、図1の燃料棒10のような燃料棒内の燃料ペレット56に近接して配置されている。インダクタコイル50のインダクタンスは、コイル内のフェライトコア52の透磁率に依存する。このフェライトコア52がコイル50に対して出し入れされると、その位置に応じてインダクタンスが変化する。この方法を用いて、液体金属温度計54は燃料棒内の中心線温度を測定することができる。例えば、液体金属温度計54内の液体金属は、燃料棒内の温度変化に伴って膨張し収縮する。フェライトコア52は、液体金属上に浮いているため、燃料棒内の温度変化に応じて、インダクタコイル50内へさらに、あるいはインダクタコイル50から出る方向へさらに移動する(インダクタンスの変化を引き起こす)。
【0024】
図3に示すセンサは、図1または図2に示すセンサ20として採用できる。例えば、図2に示すインダクタL2をインダクタコイル50とフェライトコア52により構成してもよい。
【0025】
前述の実施態様で取得する温度データは、継続的に測定してもよい。原則として、前述の装置に使用される温度センサは、炉心内に位置する燃料集合体の燃料棒内の複数の軸方向位置に配置できる。これは、燃料棒の最上部および最下部を含むが、燃料棒内のさらに別の軸方向位置を含んでもよい。原子炉内で最も出力レベルが高いと予想される燃料棒内にこれらのセンサを多数、分散配置して、最も重要な燃料温度を突き止めることができる。出力レベルが最も高い燃料棒は、定常的に実施される炉心出力分布の測定から突き止めることができる。燃料中心線温度の測定値を、既設のセンサから得られる対応する冷却材最高温度および冷却材最小流量の測定値と組み合わせて使用すると、T値からT値を算出できる。冷却材最高温度と冷却材最小流量を測定するために、既存の任意適当なセンサを使用することができる。次にRPSは、TとTの値を用いて、一般市民にとって必要な健康と安全をあらゆる運転条件下で確保するための原子炉のトリップを実施すべきか否かを判断することができる。
【0026】
参照によって全体として本願に組み込まれるM.M.El-Wakil著「Nuclear Heat Transport」、American Nuclear Society、copyright 1971、第3刷、セクション5-6は、Tおよび周囲のバルク冷却材温度(T)に関する情報、ならびに燃料ペレットと燃料棒構造材の熱伝達特性に関する情報に基づいてT値を求める方法を説明している。Tは、冷却材最高温度と冷却材最小流量から求める。対応するTとTの測定値と、燃料ペレットおよび燃料棒シースの既知の熱伝達特性との組み合わせから導出される時間の関数としてのTの数式1~3は、次の通りである。
【数1】
ここに、
【数2】
および
【数3】
であり、
r=燃料ペレットの直径
c=被覆の厚さ
L=燃料棒の長さ
kf=燃料ペレットの熱伝導率
kc=被覆の熱伝導率
Ar=燃料ペレットの断面積
Ar+c=燃料ペレットと被覆の断面積
h=対流による被覆の熱伝達率
【0027】
当業者であれば、予想される燃料特性の変化を補償するために、燃料ペレットと被覆との間の隙間の熱抵抗を勘案したさらなる調整をφ(t)の数式に対して行うことができるであろう。
【0028】
定数の値、TおよびTの測定値、ならびにTの限界値とT値の測定位置で求めたT値との間の予想される差異に付随する不確実性を勘案して、T値を大きめにする必要がある。この方法の好ましい実施態様において、当業者であれば、Tの限界値を得るための、T値の測定位置におけるT値の調整量を、複数の計装シンブル位置で継続的に測定または予測される軸方向出力分布(AO)から求めることができるであろう。同様の方法は、時間の関数としてのTピーク値を計算するためにT測定値を調整する際にも使用される。これは当業者によって達成可能であり、その結果、調整された被覆ピーク温度を表す次式が得られる。
【数4】
【0029】
相対出力が最も高いと予想される燃料集合体中の、相対出力が最も高いと予想される燃料棒において、測定または予想される原子炉出力分布の情報から、所与の時間における
【数5】

【数6】
の値の分布が決まったら、T(t)と
【数7】
の限界値を求めることができる。タービンランバックおよび/または原子炉トリップは、各パラメータの適当に控え目な設定点で行うことができる。
【0030】
上述の方法は、原子炉保護系が、原子炉をトリップすべきか否かの判断を、燃料棒が核沸騰限界(DNB)または燃料ペレットの溶融を経験するか否かを判断する上で鍵となる重要なパラメータとより直接的な関係のあるデータを使用して行うのを可能にする。この手法を用いると、複雑な原子炉出力分布測定コードやDNBの予測・解析手法が不要になる。また、上述の方法は、既存および将来の加圧水型原子炉、沸騰水型原子炉および軽水型原子炉のいずれのタイプにも使用することができる。さらに、この技術に必要なセンサを燃料集合体に組み込むことができる。
【0031】
図4は、本発明の一実施例に基づく、運転中の原子炉の炉心のTおよびTを突き止める方法の流れ図である。この方法の最初のステップ100では、原子炉の1本以上の燃料棒内の燃料上の1カ所以上の位置における温度を直接測定する。図1~3に関連して説明したような、任意適切な検知システムおよびセンサを使用して、温度を直接測定する。この方法の次のステップ102では、燃料の最高温度と、最高温度が測定された炉心内の位置を特定する。最高温度は、燃料棒の様々な軸方向位置に配置されたセンサ20などのセンサの出力に基づいて特定してよい。最高温度を測定したセンサを、例えばセンサが出力する識別情報により特定し、炉心内におけるそのセンサの位置を、例えばセンサの設置場所に関する情報を参照することにより特定する。次にステップ104において、最高温度に対応する炉心位置で炉心から流出する冷却材の最高温度と、冷却材の最小流量を測定する。これらの値は、原子炉内に既設の適切なセンサを用いて測定することができる。この方法は次にステップ106において、測定された燃料の最高温度と、当該炉心位置で炉心から流出する冷却材の最高温度と、冷却材の最小流量とから、Tを決定する。Tを求めるために、例えば数式1~3を使用してもよい。また、燃料ペレットや燃料棒構造材の熱伝達特性に関する知識を利用してもよい。
【0032】
図4の方法は、図1のようなセンサシステムにおいて実施してもよい。例えば、ステップ100は、1つ以上のセンサ20を用いて実施してもよい。ステップ102~106は、信号処理装置44などのプロセッサで実行してもよい。図4の方法は、Tおよび/またはTがしきい値を超えるか否か判断し、超える場合には、RPSにおいて実施可能なタービンランバックおよび/または原子炉トリップなどの保護措置を実施するステップをさらに含んでもよい。
【0033】
従来のシステムおよび方法は、原子炉設計で許容される運転出力レベルおよび出力分布を制限する、より控え目な仮定を行っていたが、本願に記載するシステムおよび方法は、TおよびTの測定および計算を改善するものである。本発明に基づくシステムおよび方法は、燃料ペレットおよび被覆の使用に関する実際の安全限界値にはるかに近い状況での燃料棒の使用を可能にし、それによって、同量の燃料を用いた場合の発電量を28%改善することができる。
【0034】
本発明の特定の実施態様について詳しく説明してきたが、当業者は、本開示書全体の教示するところに照らして、これら詳述した実施態様に対する種々の変更および代替への展開が可能である。したがって、ここに開示した特定の実施態様は説明目的だけのものであり、本発明の範囲を何ら制約せず、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲に記載の全範囲およびその全ての均等物を包含する。
図1
図2
図3
図4