(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】水素製造システム
(51)【国際特許分類】
C25B 1/042 20210101AFI20230712BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20230712BHJP
C25B 15/021 20210101ALI20230712BHJP
F28D 20/00 20060101ALI20230712BHJP
F28F 23/00 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
C25B1/042
C25B9/00 A
C25B15/021
F28D20/00 G
F28F23/00 Z
(21)【出願番号】P 2021045706
(22)【出願日】2021-03-19
【審査請求日】2022-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100157277
【氏名又は名称】板倉 幸恵
(74)【代理人】
【識別番号】100182718
【氏名又は名称】木崎 誠司
(72)【発明者】
【氏名】若杉 知寿
(72)【発明者】
【氏名】新山 泰徳
(72)【発明者】
【氏名】小林 圭介
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 友宏
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-91631(JP,A)
【文献】特開2010-232165(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102015222695(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/042
C25B 15/021
F28D 20/00
F28F 23/00
C25B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素製造システムであって、
電気分解により水蒸気から水素を製造する電解セルと、
外部熱源から提供される熱を利用して水を加熱して水蒸気を生成する蒸発器と、
前記蒸発器により生成された水蒸気を、前記電解セルの燃料側から排出される燃料側オフガスを用いて加熱する燃料側熱交換器と、
前記外部熱源から提供される熱の蓄熱と、蓄えた熱の放熱とを行う蓄熱材を有する熱貯蔵タンクと、
前記熱貯蔵タンクを通過した前記燃料側オフガスを冷却する放熱器と、
を備え、
前記蓄熱材は、
前記外部熱源から熱が提供される蓄熱モードでは、脱水反応により前記外部熱源から提供される熱を蓄熱し、
前記外部熱源から熱が提供されない放熱モードでは、前記燃料側熱交換器を通過した前記燃料側オフガスが供給され、水和反応により蓄熱した熱を前記蒸発器へと放熱する、水素製造システム。
【請求項2】
請求項1に記載の水素製造システムであって、
前記蓄熱材は、100℃以上かつ300℃以下において、脱水反応および水和反応を生じさせる化学蓄熱材である、水素製造システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の水素製造システムであって、さらに、
前記放熱モードにおいて、前記熱貯蔵タンクへと供給される前記燃料側オフガスに対して水を噴霧する水噴霧発生器を備える、水素製造システム。
【請求項4】
請求項3に記載の水素製造システムであって、さらに、
前記電解セルの空気側から排出される空気側オフガスを用いて、前記蒸発器により生成された水蒸気を加熱する酸素側熱交換器と、
前記蒸発器により生成された水蒸気の流量を、前記燃料側熱交換器と前記酸素側熱交換器とに分配する流量分配制御部と、
を備え、
前記流量分配制御部は、前記水噴霧発生器により噴霧される水の量に応じて、前記燃料側熱交換器と前記酸素側熱交換器とに分配する水蒸気の流量を変化させる、水素製造システム。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の水素製造システムであって、さらに、
前記放熱器により冷却された前記燃料側オフガス中の水素を貯蔵する水素タンクを備え、
前記水素タンクは、前記蓄熱モードにおいて、パージガスとしての水素を前記蓄熱材に供給し、
前記蓄熱材から脱水された水蒸気は、前記電解セルに供給される、水素製造システム。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の水素製造システムであって、
前記蒸発器と前記熱貯蔵タンクとは、一体のタンク一体型蒸発器として形成され、
前記タンク一体型蒸発器は、
円筒形状を有し、
中心軸に沿って水蒸気として加熱される水が流れる蒸発流路と、
前記蒸発流路の外側に配置され、熱媒が流れる熱媒流路と、
前記熱媒流路の外側に配置され、前記蒸発流路に連通している水蒸気流路と、
前記水蒸気流路の外側に配置された前記蓄熱材と、
記熱媒流路と、前記水蒸気流路と、前記蓄熱材とのそれぞれに配置された、径方向に延びる平板状の複数の伝熱フィンと、
を備える、水素製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
高温水蒸気を電気分解することにより水素を製造するSOEC(Solid Oxide Electrolyser Cell:固体酸化物形電解セル)が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された水素製造装置では、SOECで製造された水素の一部と、蒸発器で生成された水蒸気とが混合部で混合され、水蒸気を含む燃料ガスが生成されている。燃料ガスに含まれる水蒸気の生成および予熱には、SOECの燃料側出口から排出される高温の燃料側オフガスと、外部熱源である原子炉と、からそれぞれ供給される熱が利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
SOECでは、電力を使って水素を製造するために、SOECを含む水素製造システム全体の効率化が望まれている。特許文献1に記載された水素製造装置では、外部熱源から供給される熱を利用することにより、システム全体の効率化が図られている。しかしながら、外部熱源がメンテナンスなどにより停止した場合には、水素製造システムは、ヒータ等の熱源を用いて水蒸気を生成および予熱を行わなければならない。そのため、水素製造システムには別途の熱源を動作させるためのエネルギーが必要となり、水素製造システムの効率が悪化してしまうおそれがある。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、外部熱源から熱が供給される水素製造システムを高効率化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現できる。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、水素製造システムが提供される。この水素製造システムは、電気分解により水蒸気から水素を製造する電解セルと、外部熱源から提供される熱を利用して水を加熱して水蒸気を生成する蒸発器と、前記蒸発器により生成された水蒸気を、前記電解セルの燃料側から排出される燃料側オフガスを用いて加熱する燃料側熱交換器と、前記外部熱源から提供される熱の蓄熱と、蓄えた熱の放熱とを行う蓄熱材を有する熱貯蔵タンクと、前記熱貯蔵タンクを通過した前記燃料側オフガスを冷却する放熱器と、を備え、前記蓄熱材は、前記外部熱源から熱が提供される蓄熱モードでは、脱水反応により前記外部熱源から提供される熱を蓄熱し、前記外部熱源から熱が提供されない放熱モードでは、前記燃料側熱交換器を通過した前記燃料側オフガスが供給され、水和反応により蓄熱した熱を前記蒸発器へと放熱する。
【0008】
この構成によれば、熱貯蔵タンクの蓄熱材は、蓄熱モード時にプラントなどの外部熱源の排熱の余剰熱を蓄熱材に蓄熱し、外部熱源から熱が提供されない放熱モード時に蓄熱した熱を放熱する。蓄熱材から放熱された熱が、蒸発器の水蒸気生成に利用されることで、水素製造システムの高効率化を維持できる。また、放熱モードにおける蓄熱材は、燃料側オフガス中の水蒸気と水和反応するため、水素製造の蒸発熱の一部が補われ、水素製造システムの電解効率が向上する。さらに、放熱モードにおける蓄熱材の水和反応により、放熱器へと供給される燃料側オフガス中の水蒸気が減少するため、放熱器における冷却に要する動力を低減できる。この結果、本構成の水素製造システムによれば、外部熱源から熱が供給されるシステム全体を高効率化できる。
【0009】
(2)上記態様の水素製造システムにおいて、前記蓄熱材は、100℃以上かつ300℃以下において、脱水反応および水和反応を生じさせる化学蓄熱材であってもよい。
この構成の水素製造システムによれば、化学蓄熱材の脱水反応および水和反応が100℃以上かつ300℃以下で生じるため、300℃レベルの外部熱源の熱を蒸発熱として利用でき、蓄熱材は大気圧下の水蒸気と水和反応を生じさせることができる。
【0010】
(3)上記態様の水素製造システムにおいて、さらに、前記放熱モードにおいて、前記熱貯蔵タンクへと供給される前記燃料側オフガスに対して水を噴霧する水噴霧発生器を備えていてもよい。
この構成によれば、燃料側オフガス中に水が噴霧されることにより、ガスおよび液滴の直接熱交換による気化と、水蒸気の濃度増加とが可能になる。これにより、燃料側熱交換器から供給される燃料側オフガスの排気熱を気化熱として回収できる。さらに、本構成の水素製造システムでは、蓄熱材の水和反応に必要な水蒸気量を増加させて熱量を増やすことにより、蒸発器で水蒸気を生成するためのヒータ等を稼働させるための電力を低減できる。
【0011】
(4)上記態様の水素製造システムにおいて、さらに、前記電解セルの空気側から排出される空気側オフガスを用いて、前記蒸発器により生成された水蒸気を加熱する酸素側熱交換器と、前記蒸発器により生成された水蒸気の流量を、前記燃料側熱交換器と前記酸素側熱交換器とに分配する流量分配制御部と、を備え、前記流量分配制御部は、前記水噴霧発生器により噴霧される水の量に応じて、前記燃料側熱交換器と前記酸素側熱交換器とに分配する水蒸気の流量を変化させてもよい。
この構成によれば、状況に応じて燃料ガスの分配比が変化し、さらに、電解セルに投入される電力が変化することにより、電解反応の吸熱と電解損失の発熱とのバランスが変化する。当該バランスが変化すると、電解セルへの投入エネルギーおよび電解セルにおける発熱量が増減し、一方で、水噴霧のため燃料側分配比を減少させると、燃料側排気温が上昇し、かつ、酸素側分配比が増加する。酸素側熱交換器に流入する酸素側オフガスの熱量は少ないため、結果として、混合後の燃料側に供給される燃料ガスの水蒸気の温度は低下する。すなわち、本構成の水素製造システムによれば、熱交換器における熱量の増減に応じて、水噴霧発生器により噴霧される水の量と、流量分配器による分配比の制御とが行われる。さらに、電解セルに投入される電力が調整されて熱量のバランスが調整されることにより、水素製造システムの電解効率を向上させることができる。
【0012】
(5)上記態様の水素製造システムにおいて、さらに、前記放熱器により冷却された前記燃料側オフガス中の水素を貯蔵する水素タンクを備え、前記水素タンクは、前記蓄熱モードにおいて、パージガスとしての水素を前記蓄熱材に供給し、前記蓄熱材から脱水された水蒸気は、前記電解セルに供給されてもよい。
本構成によれば、蓄熱モード時に蓄熱材から脱水された水蒸気がパージガスとして機能した水素と混合されることにより、電解セルで製造される水素の燃料ガスとして再利用できる。
【0013】
(6)上記態様の水素製造システムにおいて、前記蒸発器と前記熱貯蔵タンクとは、一体のタンク一体型蒸発器として形成され、前記タンク一体型蒸発器は、円筒形状を有し、中心軸に沿って水蒸気として加熱される水が流れる蒸発流路と、前記蒸発流路の外側に配置され、熱媒が流れる熱媒流路と、前記熱媒流路の外側に配置され、前記蒸発流路に連通している水蒸気流路と、前記水蒸気流路の外側に配置された前記蓄熱材と、記熱媒流路と、前記水蒸気流路と、前記蓄熱材とのそれぞれに配置された、径方向に延びる平板状の複数の伝熱フィンと、を備えていてもよい。
本構成の一体型蒸発器は、水蒸気を生成する蒸発器と熱貯蔵タンクとを一体として構成されているため、伝熱フィンを介して、熱媒の熱輸送に起因した熱輸送ロスを軽減できる。
【0014】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、水素製造システム、SOEC、水素製造システムの制御装置、水素製造システムの制御方法、水素制御方法、およびこれらの装置を備えるシステム、これら装置を実行するためのコンピュータプログラム、このコンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、コンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態としての水素製造システムおよび外部熱源の概略ブロック図である。
【
図2】蓄熱材としての水酸化マグネシウム系蓄熱材の性質についての説明図である。
【
図3】蓄熱モードの水素製造システムの概略ブロック図である。
【
図4】蓄熱完了後の水素製造システムの概略ブロック図である。
【
図5】放熱モードの水素製造システムの概略ブロック図である。
【
図6】放熱モードにおける第2実施形態の水素製造システムの概略ブロック図である。
【
図7】水素製造システムの効果についての説明図である。
【
図8】水素製造システムの効果についての説明図である。
【
図9】放熱モードにおける第3実施形態の水素製造システムの概略ブロック図である。
【
図10】第3実施形態の一体型蒸発器の説明図である。
【
図11】第3実施形態の一体型蒸発器の説明図である。
【
図12】変形例の硫酸塩を含む蓄熱材の性質についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1実施形態>
1.水素製造システムの構成:
図1は、本発明の一実施形態としての水素製造システム500および外部熱源300の概略ブロック図である。水素製造システム500は、固体酸化物形水電解セル(SOEC:Solid Xxide Electrolyser Cell)10を用いて、燃料である水蒸気から水素を製造するシステムである。本実施形態の水素製造システム500は、外部熱源300としてのプラントなどから提供される排熱を利用して、水蒸気を加熱している。水素製造システム500では、プラントなどが停止して外部熱源300から熱が提供されない場合であっても、熱貯蔵タンク50に貯蔵された蓄熱材51の放熱を利用することにより、システムの効率化を実現する。
【0017】
図1に示されるように、水素製造システム500は、SOEC(電解セル)10と、水貯蔵タンク80と、蒸発器40と、マスフローコントローラ(MFC:Mass Flow Controller)120と、燃料側熱交換器30と、酸素側熱交換器20と、熱貯蔵タンク50と、流量分配器90と、放熱器60と、気液分離器130と、昇圧器110と、水素貯蔵タンク(水素タンク)70と、循環ポンプPと、バルブV1~V6と、これらの各構成を制御する制御部160と、を備えている。
【0018】
SOEC10は、電気分解により高温の水蒸気から水素を製造する。水貯蔵タンク80は、水蒸気の元となる水を貯蔵している。蒸発器40は、水貯蔵タンク80から供給される水を加熱して水蒸気を生成する。MFC120は、水貯蔵タンク80から蒸発器40へと供給される水の流量を制御する。燃料側熱交換器30は、SOEC10の燃料側12から排出される燃料側オフガスを用いて蒸発器40により生成された水蒸気を加熱する。酸素側熱交換器20は、SOEC10の空気側11から排出される空気側オフガスを用いて蒸発器40により生成された水蒸気を加熱する。熱貯蔵タンク50は、外部熱源300から提供される熱の蓄熱と蓄えた熱の放熱とを行う蓄熱材51を貯蔵している。流量分配器90は、熱貯蔵タンク50および蒸発器40から供給された水蒸気を酸素側熱交換器20と燃料側熱交換器30とのそれぞれに分配して供給する。放熱器60は、熱貯蔵タンク50を通過した燃料側オフガスを冷却する。気液分離器130は、放熱器60により冷却された燃料側オフガスに含まれる水と水素とを分離する。昇圧器110は、気液分離器130により分離された水素を昇圧する。水素貯蔵タンク70は、昇圧器110により昇圧された水素を貯蔵する。循環ポンプPは、熱貯蔵タンク50と蒸発器40との間で熱媒を循環させる。バルブV1~V6は、6つの三方弁である。
【0019】
本実施形態の制御部160は、パーソナルコンピュータ(Personal Computer)で構成されている。制御部160以外の各部は、
図1中に実線で示される配管で接続されている。各配管中には、各種気体および液体が流れる。また、
図1には示されていないが、SOEC10、酸素側熱交換器20、および燃料側熱交換器30の入口には、配管中の流量を検出するマスフローセンサが配置されている。また、SOEC10、酸素側熱交換器20、燃料側熱交換器30、および蒸発器40の出入口には、温度を検出する温度センサが配置されている。さらに、SOEC10の燃料側12の入口には、配管中の圧力を検出する圧力センサが配置されている。制御部160は、各センサの検出値を取得し、各部を制御する。
【0020】
水貯蔵タンク80は、大気圧下で常温の水を貯蔵している。水貯蔵タンク80には、気液分離器130により分離された燃料側オフガスに含まれる水が供給される。制御部160により制御されたMFC120により、水貯蔵タンク80から蒸発器40へと水が供給される。
【0021】
本実施形態の蒸発器40は、供給された水を加熱するヒータ41を備えている。蒸発器40は、外部熱源300から熱が提供される場合には、熱媒を介して得られる外部熱源300からの熱を用いて水を蒸発させる。一方で、外部熱源300から熱が提供されない場合には、蒸発器40は、熱貯蔵タンク50の蓄熱材51から提供される熱を用いて水を蒸発させる。なお、外部熱源300から熱が提供されない場合に、蒸発器40は、ヒータ41の加熱を用いる場合もある。
【0022】
本実施形態における熱貯蔵タンク50の蓄熱材51は、下記関係式(1)に示される、発熱を伴う水和反応および吸熱を伴う脱水反応を行う水酸化マグネシウム(Mg(OH)
2)により構成されている。蓄熱材51は、外部熱源300から熱が提供される蓄熱モードでは、下記関係式(1)の右から左への脱水反応を行うことより熱を蓄熱する。一方で、蓄熱材51は、外部熱源300から熱が提供されない放熱モードでは、下記関係式(1)の左から右への水和反応を行うことにより蓄熱していた熱を放熱する。
【数1】
【0023】
図2は、蓄熱材51としての水酸化マグネシウム系蓄熱材の性質についての説明図である。
図2には、温度変化に対するMg(OH)
2および水蒸気の圧力変化を表す作動線図が示されている。
図2に示されるように、Mg(OH)
2は、温度と圧力との関係に応じて、水和反応および脱水反応を生じさせる。制御部160は、
図2に示される作動線図に基づいて、各バルブV1~V6の開閉および循環ポンプの動作を制御することにより、蓄熱材51の蓄熱モード時の蓄熱と、放熱モード時の放熱とを制御する。
【0024】
水酸化マグネシウム系の蓄熱材51では、水和反応媒体(水)を蒸発するのに必要な熱量Qinが40.2kJ/molである。一方で、蓄熱材51が水和反応時に放熱する熱量Qoutは、81kJ/molである。そのため、下記関係式(2)で表される増熱比R1は、2.01(=81/40.2)であり、2倍以上と高い。
【0025】
【数2】
ただし、水和反応により得られた熱が水和反応媒体の蒸発熱として用いられる場合、得られる熱量がQout-Qinと減少するため、下記関係式(3)で表される実用増熱比R2は、増熱比R1よりも低下する。
【数3】
【0026】
水素製造システム500の蓄熱モードでは、制御部160が蓄熱材51の圧力を27.4kPaに維持することにより、
図2に示されるように、外部熱源300から提供される熱により、摂氏220度(℃)から蓄熱材51の脱水反応が始まる。脱水反応により蓄熱材51から発生した水蒸気は、バルブV2を介して流量分配器90へと送られる。一方の放熱モードでは、蓄熱モードにより脱水された蓄熱材51は、燃料側熱交換器30の排気側32を通過した燃料側オフガスに含まれる水蒸気と水和反応することにより発熱する。水和反応は、180℃で完了する。発熱により生じた熱は、作動している循環ポンプPにより熱媒を介して蒸発器40へと供給され、水の加熱に用いられる。蒸発器40では、およそ150℃まで加熱された水蒸気が生成される。
【0027】
流量分配器90は、マスフローコントローラで構成されている。流量分配器90は、制御部160の制御により、蒸発器40および熱貯蔵タンク50により生成された水蒸気の流量を、燃料側熱交換器30と酸素側熱交換器20とに分配して供給する。燃料側熱交換器30と酸素側熱交換器20とに供給される水蒸気の流量は、第2実施形態で後述するように、水素製造システム500の蓄熱モードと放熱モードとで異なる。流量分配器90および制御部160は、流量分配制御部に相当する。
【0028】
燃料側熱交換器30は、熱を伝える隔壁を介して分けられた、加熱された水蒸気が通過する燃料側31と、燃料側オフガスが通過する排気側32とを有している。燃料側31に供給された水蒸気は、隔壁を伝わる燃料側オフガスの熱により加熱されて、SOEC10の燃料側12へと供給される。
【0029】
酸素側熱交換器20は、熱を伝える隔壁を介して分けられた、加熱される水蒸気が通過する燃料側21と、空気側オフガスが通過する排気側22とを有している。燃料側21に供給された水蒸気は、隔壁を伝わる空気側オフガスの熱により加熱されて、SOEC10の燃料側12へと供給される。
【0030】
SOEC10の燃料側12は、燃料側熱交換器30により加熱された水蒸気と、酸素側熱交換器20により加熱された水蒸気と、が混合された燃料ガスが供給される。SOEC10は、
図1に図示されていない外部電源から供給される電力によって、燃料ガス中の水蒸気を電気分解することにより、水素を製造する。なお、本実施形態のSOEC10の電極は、Ni(ニッケル)で形成されたNi電極である。Ni電極は、高酸素分圧にさらされると酸化してしまう。そのため、本実施形態の制御部160は、燃料側12に供給される燃料ガスに10~20vol%の水素が含まれるように制御する。
【0031】
SOEC10の空気側11から発生する空気側オフガスは、
図1に示されるように、酸素側熱交換器20の排気側22を通って酸素として図示されないタンクに貯蔵される。SOEC10の燃料側12から排出された燃料側オフガスは、燃料側熱交換器30の排気側32を通過する。排気側32を通過した燃料側オフガスは、制御部160によるバルブV1~V3の開閉制御により、放熱モードでは熱貯蔵タンク50の蓄熱材51を通過して放熱器60に供給され、蓄熱モードでは直接放熱器60へと供給される。放熱器60により冷却された燃料側オフガスは、気液分離器130により水と水素とに分離される。
【0032】
2.水素製造システムの蓄熱モード:
図3は、蓄熱モードの水素製造システム500の概略ブロック図である。
図3では、バルブV1~V6のうち、開いている弁がハッチングで示されている。例えば、バルブV1,V4は、水素貯蔵タンク70から供給される水素を、熱貯蔵タンク50の蓄熱材51へと導いている。
【0033】
図3では、蒸発器40内および熱貯蔵タンク50内での熱の動きがクロスハッチングの矢印で示され、外部熱源300から供給された熱媒(Air)の移動が太線の矢印で示されている。
図3に示されるように、外部熱源300から熱が提供されている蓄熱モードでは、循環ポンプPが動作せずに、外部熱源300からの熱は、熱媒としての空気を介して、熱貯蔵タンク50と蒸発器40とを通過した後に排気される。
【0034】
熱貯蔵タンク50では、水と水和している蓄熱材51は、外部熱源300からの熱により加熱されて脱水される。さらに、蓄熱材51には、制御部160の制御により、水素貯蔵タンク70からパージガスとして機能する水素が供給される。脱水された水蒸気と、パージガスとして機能した水素とは、バルブV2を介して、燃料ガスとして流量分配器90へと送られ、SOEC10の燃料側12へと供給される。熱貯蔵タンク50を通過した熱媒により蒸発器40へと提供された熱は、水貯蔵タンク80から蒸発器40へと供給された水を加熱して水蒸気へと変化させる。変化した水蒸気は、流量分配器90へと送られる。なお、蓄熱モードでは、ヒータ41は作動していない。
【0035】
図4は、蓄熱完了後の水素製造システム500の概略ブロック図である。
図4には、外部熱源300からの熱が提供される蓄熱モードの水素製造システム500において、蓄熱材51の脱水が完了した後のブロック図が示されている。
図4に示される蓄熱完了後の水素製造システム500では、
図3に示される蓄熱完了前の水素製造システム500に対して、バルブV1,V2,V4の開閉が異なる。
図4に示される蓄熱完了後の水素製造システム500では、熱貯蔵タンク50の蓄熱材51へとパージガスとしての水素を供給する必要がないため、水素貯蔵タンク70から流量分配器90へと水素が直接供給される。
【0036】
3.水素製造システム500の放熱モード:
図5は、放熱モードの水素製造システム500の概略ブロック図である。例えばプラントなどの外部熱源300は、メンテナンス等の停止期間中に、水素製造システム500へと熱を提供できない。そのため、
図5に示される水素製造システム500では、蓄熱モード時に外部熱源300から提供される熱の代わりに、熱貯蔵タンク50の蓄熱材51が水和反応による放熱によって蒸発器40へと熱を供給する。
【0037】
制御部160は、循環ポンプPを作動させ、バルブV5,V6を開閉制御することにより、熱貯蔵タンク50と蒸発器40との間で、熱媒を介して蓄熱材51の放熱による熱を蒸発器40へと送る。また、バルブV1~V3の開閉制御により、燃料側熱交換器30の排気側32から排出された燃料側オフガスは、熱貯蔵タンク50の蓄熱材51へと供給される。さらに、制御部160は、ヒータ41を稼働させて、蒸発器40に供給される水を加熱する。
【0038】
蓄熱材51に供給される燃料側オフガスは、SOEC10の燃料側12で未反応の水蒸気を含んでいる。そのため、未反応の水蒸気は、脱水された蓄熱材51と水和反応することにより発熱する。蓄熱材51の発熱により生じた熱は、熱媒を介して蒸発器40へと供給される。蒸発器40では、水貯蔵タンク80から供給された水が、熱媒を介して蓄熱材51から供給された熱とヒータ41の熱とにより加熱されて水蒸気に変化する。変化した水蒸気は、水素貯蔵タンク70から供給された水素と混合されて、燃料ガスとしてSOEC10の燃料側12へと供給される。
【0039】
以上説明したように、本実施形態の水素製造システム500は、外部熱源300から提供される熱の蓄熱と蓄えた熱の放熱とを行う蓄熱材51を貯蔵している熱貯蔵タンク50と、熱貯蔵タンク50を通過した燃料側オフガスを冷却する放熱器60と、を備えている。蓄熱材51は、蓄熱モードでは、脱水反応により外部熱源300から提供される熱を蓄熱する。一方で、放熱モードでは、蓄熱材51には、燃料側熱交換器30の排気側32を通過した燃料側オフガスが供給される。放熱モードの蓄熱材51は、燃料側オフガスに含まれる水蒸気と水和反応することにより放熱する。蓄熱材51の放熱により発生した熱は、蒸発器40へと送られる。本実施形態の熱貯蔵タンク50の蓄熱材51は、蓄熱モード時にプラントなどの外部熱源300の排熱の余剰熱を蓄熱し、外部熱源300から熱が提供されない放熱モード時に蓄熱した熱を放熱する。蓄熱材51から放熱された熱が、蒸発器40の水蒸気生成に利用されることで、水素製造システム500の高効率化を維持できる。また、放熱モードにおける蓄熱材51は、燃料側オフガス中の水蒸気と水和反応するため、水素製造の蒸発熱の一部が補われ、水素製造システム500の電解効率が向上する。さらに、放熱モードにおける蓄熱材51の水和反応により、放熱器60へと供給される燃料側オフガス中の水蒸気が減少するため、放熱器60における冷却に要するファン動力を低減できる。この結果、外部熱源300から熱が供給される水素製造システム500を高効率化できる。
【0040】
また、本実施形態では、蓄熱材51として用いられた水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)の化学蓄熱材の脱水反応が220℃で始まり、蓄熱材51の水和反応は180℃で完了する。そのため、300℃レベルの外部熱源300の熱を蒸発熱として利用でき、蓄熱材は大気圧下の水蒸気と水和反応を生じさせることができる。
【0041】
また、本実施形態の蓄熱材51には、水素貯蔵タンク70からパージガスとして機能する水素が供給される。そのため、本実施形態の水素製造システム500では、蓄熱モード時に蓄熱材51から脱水された水蒸気が、パージガスとして機能した水素と混合されることにより、SOEC10で製造される水素の燃料ガスとして再利用できる。
【0042】
<第2実施形態>
図6は、放熱モードにおける第2実施形態の水素製造システム500aの概略ブロック図である。第2実施形態の水素製造システム500aは、第1実施形態の水素製造システム500と比較して、放熱モードにおいて熱貯蔵タンク50へと供給される燃料側オフガスに対して水を噴霧する水噴霧発生器140を備える点が異なる。これに伴い、第2実施形態の制御部160aは、水噴霧発生器140と流量分配器90とに対する制御内容が異なる。そのため、第2実施形態では、第1実施形態と異なる放熱モードにおける水噴霧発生器140および流量分配器90の制御について説明し、第1実施形態と同じ構成および制御についての説明を省略する。
【0043】
図6に示される蓄熱材51の水和反応が完了していない放熱モードの水素製造システム500aでは、制御部160aは、ヒータ41を稼働させずに、水噴霧発生器140から燃料側オフガスへと水を噴霧させる。さらに、制御部160aの制御により、流量分配器90は、水噴霧発生器140により噴霧される水の量に応じて、燃料側熱交換器30と酸素側熱交換器20とに分配する燃料ガスの分配比を変化させる。具体的には、流量分配器90は、蓄熱モードから放熱モードへと切り替わった時点で、全ての燃料ガスを酸素側熱交換器20へと分配する。すなわち、放熱モードにおける燃料側熱交換器30への流量と、酸素側熱交換器20への流量との分配比は、0:100である。なお、蓄熱モードにおける燃料側熱交換器30への流量と、酸素側熱交換器20への流量との分配比は、82:18である。さらに、制御部160aは、放熱モードにおいてSOEC10に外部電源から投入する電力を増加させる。
【0044】
水噴霧発生器140により蓄熱材51に供給される燃料側オフガス中の水蒸気量が増加するため、蓄熱材51の水和反応による放熱は増加する。これにより、蒸発器40に供給される水は、水噴霧発生器140による水の噴霧がない場合よりも加熱される。熱貯蔵タンク50へと供給される燃料側オフガスは、水噴霧発生器140から水が噴霧されることにより、温度が下がる。一方で、放熱モードでは、流量分配器90から燃料側熱交換器30の燃料側31へと供給される燃料ガスをゼロとするため、燃料側熱交換器30の排気側32から排出される燃料側オフガスの温度が上昇する。酸素側熱交換器20の燃料側21に供給される燃料ガスが増加するが酸素側オフガスの熱量が少ないため、SOEC10の入口燃料温度は低下し、熱収支は負(吸熱側)となる。吸熱側の熱収支が負となるため、SOEC10に供給される電力増加によりSOEC10の発熱が増加すると、全体としての熱収支はゼロになる。その後、蓄熱材51の水和反応が完了すると、制御部160aは、第1実施形態の水素製造システム500の放熱モード(
図5)と同じになるように、水噴霧発生器140の水噴霧を終了させ、流量分配器90の分配比を蓄熱モードと同じに設定する。なお、第2実施形態の水素製造システム500aではヒータ41を用いない。そのため、第2実施形態の蒸発器40は、ヒータ41を備えていなくてもよい。
【0045】
図7および
図8は、水素製造システム500,500aの効果についての説明図である。
図7および
図8には、4つの水素製造システムとして、第1実施形態の水素製造システム500と、第2実施形態の水素製造システム500aと、熱貯蔵タンク50を備えていない比較例1の水素製造システム500xと、比較例1の水素製造システム500xが常に外部熱源300から熱を提供され続けている比較例2の水素製造システム500yとの効果が示されている。
【0046】
図7には、4つの水素製造システムの各電解効率が示されている。
図8には、4つの水素製造システムに投入される投入エネルギーが示されている。
図7および
図8に示される状態は、下記6つの条件を満たした上での評価値である。
・電解電力は10kW
・SOEC10の作動温度は650℃
・燃料利用率は80%
・燃料ガスには10vol%の水素が含まれる
・一週間(168hr)のうちの156hrに外部熱源300から熱が提供される
・蓄熱材51の最大蓄熱量は105MJ
図8に示される投入エネルギーは、上述の10kWの電解電力に対して、流入温度低下を熱補完するために追加で投入された電解電力増加分(クロスハッチングの領域)と、ヒータ41の加熱のための投入された蒸発潜熱分(細い斜線ハッチングの領域)とを足したエネルギーの総和である。
【0047】
図7に示されるように、第1実施形態の水素製造システム500の電解効率は、95.9%であり、熱貯蔵タンク50を備えていない比較例1の水素製造システム500xの電解効率(88.6%)よりも高い。この理由は、
図8に示されるように、蓄熱材51の水和反応により蒸発潜熱分のエネルギーの差分(1.0kW=2.0kW-1.0kW)だけ第1実施形態の水素製造システム500の方が比較例1の水素製造システム500xよりも投入されるエネルギーが小さいためである。なお、
図8に示されるように、第1実施形態の水素製造システム500と、比較例1の水素製造システム500xとにおける電解電力増加分は、同じ0.8kWである。
【0048】
図7に示されるように、第2実施形態の水素製造システム500aの電解効率は、102.9%であり、比較例1の水素製造システム500xの電解効率(88.6%)よりも高い。さらに、水素製造システム500aの電解効率は、常に外部熱源300から熱が提供されている比較例2の水素製造システム500yの電解効率(105.1%)に近い効率である。第2実施形態の水素製造システム500aでは、
図8に示されるように、水噴霧発生器140により燃料側オフガスに対して噴霧される水と蓄熱材51との水和反応の発熱によりヒータ41の加熱が不要になるため、蒸発潜熱分の投入エネルギーが不要になる。一方で、水素製造システム500aにおける熱収支をゼロにするために、SOEC10に投入される電解電力増加分が1.1kWに増加する。その結果、第2実施形態の水素製造システム500aの電解効率は、第1実施形態および比較例1の水素製造システム500,500xよりも高くなる。
【0049】
以上説明したように、第2実施形態の水素製造システム500aは、放熱モードにおいて熱貯蔵タンク50へと供給される燃料側オフガスに対して水を噴霧する水噴霧発生器140を備えている。燃料側オフガス中に水が噴霧されることにより、ガスおよび液滴の直接熱交換による気化と、水蒸気の濃度増加とが可能になる。これにより、第2実施形態の水素製造システム500aでは、燃料側熱交換器30から供給される燃料側オフガスの排気熱を気化熱として回収でき、さらに、蓄熱材51の水和反応に必要な水蒸気量を増加させて熱量を増やすことにより、ヒータ41等を稼働させるための電力を低減できる。
【0050】
また、第2実施形態の流量分配器90は、水噴霧発生器140により噴霧される水の量に応じて、燃料側熱交換器30と酸素側熱交換器20とに分配する燃料ガスの分配比を変化させる。状況に応じて燃料ガスの分配比が変化し、さらに、SOEC10に投入される電力が変化することにより、電解反応の吸熱と電解損失の発熱とのバランスが変化する。当該バランスを変化させるために、例えば、放熱モードにおいて燃料側熱交換器30へと分配される燃料ガスをゼロして、全ての燃料ガスを酸素側熱交換器20に分配し、かつ、SOEC10の電気分解に用いられる電力を増加させる。これにより、SOEC10への投入エネルギーが増え、SOEC10での発熱量が増える。一方で、水噴霧のため燃料側への燃料ガスの分配比が減少すると、燃料側排気温度が上昇し、かつ、酸素側への燃料ガスの分配比が増加する。酸素側熱交換器20に流入する酸素側オフガスの熱量は少ないため、結果として、混合後の燃料側21に供給される燃料ガスの水蒸気の温度は低下する。すなわち、第2実施形態の水素製造システム500aによれば、燃料側熱交換器30および酸素側熱交換器20における熱量の増減に応じて、水噴霧発生器140により噴霧される水の量と、流量分配器90による分配比の制御とが行われる。さらに、電解セルに投入される電力が調整されて、水素製造システム500aの電解効率を向上させることができる。
【0051】
<第3実施形態>
図9は、放熱モードにおける第3実施形態の水素製造システム500bの概略ブロック図である。第3実施形態の水素製造システム500bは、第2実施形態の水素製造システム500aと比較して、蒸発器40と熱貯蔵タンク50とが一体となった一体型蒸発器(タンク一体型蒸発器)150を備える点が異なる。そのため、第3実施形態では、一体型蒸発器150について説明し、第2実施形態と同じ構成および制御についての説明を省略する。
【0052】
図10および
図11は、第3実施形態の一体型蒸発器150の説明図である。一体型蒸発器150は、中心軸OLを中心とする円筒形状を有する。
図10には、一体型蒸発器150の中心軸OLを含む断面の概略図が示されている。
図10に示されるように、一体型蒸発器150は、中心軸OLに沿って形成された蒸発流路151と、隔壁を介して蒸発流路151の外側に配置された熱媒流路152と、隔壁を介して熱媒流路152の外側に配置された水蒸気流路153と、隔壁を介して水蒸気流路153の外側に配置された蓄熱材51と、中心軸OLに沿って延びる線上のヒータ41bと、を備えている。
【0053】
図10に示されるように、蒸発流路151の水入口には、水貯蔵タンク80から供給される、水蒸気として加熱される水が供給される。熱媒流路152では、外部熱源300から供給される熱媒として空気が、熱媒入口から流入し、熱媒出口から排出される。水蒸気流路153は、蒸発流路151に接続部ARuを介して連通している。接続部ARuは、蒸発流路151に供給された水が鉛直下方から上方へと流れた部分を、水蒸気や水が上方から下方へと流れる水蒸気流路153へとUターンさせて接続している。
【0054】
図11には、
図10に示される一体型蒸発器150のA-A断面の概略図が示されている。
図11に示されるように、一体型蒸発器150は、熱媒流路152内に配置された複数の伝熱フィン152Fと、水蒸気流路153内に配置された複数の伝熱フィン153Fと、蓄熱材51中に配置された複数の伝熱フィン51Fと、を備えている。伝熱フィン51F,152F,153Fのそれぞれは、径方向に延びる平板形状を有している。蓄熱材51の脱水反応では、高い温度(例えば300℃)の熱媒から伝熱フィン51F,152F,153F経由で蒸発流路151へと熱輸送が行われる。蓄熱材51の水和反応では、蒸発流路151に流入した水は、Uターンして水蒸気流路153内で下降流蒸発を発生させながら隣接する蓄熱材51と熱交換を行う。
【0055】
以上説明したように、第3実施形態の一体型蒸発器150は、
図11に示されるように、中心軸OLに沿って形成された蒸発流路151と、蒸発流路151の外側に配置された熱媒流路152と、熱媒流路152の外側に配置された水蒸気流路153と、水蒸気流路153の外側に配置された蓄熱材51と、を備えている。さらに、一体型蒸発器150は、
図12に示されるように、熱媒流路152内に配置された複数の伝熱フィン152Fと、水蒸気流路153内に配置された複数の伝熱フィン153Fと、蓄熱材51中に配置された複数の伝熱フィン51Fと、を備えている。伝熱フィン51F,152F,153Fのそれぞれは、径方向に延びている。一体型蒸発器150は、第1実施形態の蒸発器40と熱貯蔵タンク50とを一体として構成されているため、伝熱フィン51F,152F,153Fを介して、熱媒の熱輸送に起因した熱輸送ロスを軽減できる。
【0056】
また、第3実施形態の一体型蒸発器150の接続部ARuは、蒸発流路151に供給された水が鉛直下方から上方へと流れた部分を、水蒸気や水が上方から下方へと流れる水蒸気流路153へとUターンさせて接続している。すなわち、第3実施形態の一体型蒸発器150では、蒸発流路151と水蒸気流路153とが接続部ARuによりUターンで接続した往復流路とすることにより、蒸発流路151が熱媒流路152と蓄熱材51とのそれぞれに隣接している。これにより、蓄熱材51の水和温度(例えば150℃)が低く、蓄熱材51と熱媒との温度差が小さくても、蓄熱材51から熱媒への熱輸送が可能になる。
【0057】
<上記実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0058】
<変形例1>
上記第1実施形態から第3実施形態では、水素製造システム500,500a,500bの一例について説明したが、水素製造システムは、外部熱源300から提供される熱を利用した蓄熱材51を備える範囲で変形可能である。例えば、蒸発器40は、ヒータ41を備えていなくてもよい。
図7および
図8に示される電解効率および投入エネルギーは、特定の条件における数値であり、特定の条件を構成する電解電力、SOEC10の作動温度、燃料利用率、燃料ガスに含まれる水素の割合、外部熱源300が熱を提供する時間(提供しない時間)、および蓄熱材51の蓄熱量などについては、変形可能である。特定の条件に合わせて、
図7および
図8に示される電解効率および投入エネルギーが変化してもよい。
【0059】
図12は、変形例の硫酸塩を含む蓄熱材の性質についての説明図である。
図12には、
図2と同じように、温度変化に対する蓄熱材および水蒸気の圧力変化を表す作動線図が示されている。変形例の蓄熱材は、希土類元素X(Ce,La,Sc,Yのいずれか)を含む硫酸塩X
2(SO
3)
2の化学蓄熱材で構成されている。変形例の蓄熱材は、下記関係式(4)に示される水和反応および脱水反応を行う。
【数4】
【0060】
変形例の蓄熱材では、水和反応媒体(水)を蒸発するのに必要な熱量Qinが40.2kJ/molである。一方で、蓄熱材が水和反応時に放熱する熱量Qoutは、87kJ/molである。そのため、上記関係式(2)で表される変形例の蓄熱材の増熱比R1は、2.16(=87/40.2)である。
【0061】
図12に示されるように、蓄熱モードでは、外部熱源300から提供される熱により、変形例の蓄熱材では、240℃から脱水反応が始まる。一方の放熱モードでは、蓄熱モードにより脱水された蓄熱材の水和反応は、150℃で完了する。熱貯蔵タンク50に貯蔵される蓄熱材は、100℃以上300℃以下の温度下で、脱水反応および水和反応を生じさせる化学蓄熱材が好ましい。なお、蓄熱材は、必ずしも100℃以上300℃以下の温度下で脱水反応および水和反応を生じさせる必要はなく、例えば、300℃以上で脱水反応を生じさせてもよい。
【0062】
上記第2実施形態の流量分配器90は、制御部160aの制御により、水噴霧発生器140により噴霧される水の量に応じて、燃料側熱交換器30と酸素側熱交換器20とに分配する燃料ガスの分配比を変化させたが、分配比を変化させなくてもよい。例えば、流量分配器90は、蓄熱モードおよび放熱モードのいずれであっても、同じ分配比で燃料側熱交換器30と酸素側熱交換器20とに分配してもよい。制御部160aは、分配比に応じて、SOEC10に投入する電力を変化させてもよい。水素製造システムにおける電解反応の吸熱と電解損失の発熱とは、必ずしも同じになるサーモニュートラルの状態で運用されなくてもよい。
【0063】
上記第1実施形態の蓄熱モードの蓄熱材51には、水素貯蔵タンク70からパージガスとして機能する水素が供給されていたが、必ずしも水素が供給されなくてもよい。例えば、蓄熱モードにおいて、蓄熱材51の脱水反応が完了していない状態であっても、水素貯蔵タンク70から流量分配器90へと水素が直接供給されてもよい。
【0064】
上記第3実施形態の一体型蒸発器150は、一例であって、変形可能である。例えば、一体型蒸発器150は、中心軸OLを中心とする柱状形状を有していてもよい。一体型蒸発器150内に配置された伝熱フィン51F,152F,153Fは、配置されていなくてもよいし、径方向に延びずに格子状に配置されていてもよい。蒸発流路151に水が供給される水入口と、水蒸気流路153から水蒸気が流出される水蒸気出口とは、
図10に示されるように、鉛直下方に形成されていたが、異なる位置に形成されていてもよい。蒸発流路151と、水蒸気流路153との連結は、接続部ARuにおけるUターンした形状ではなく、異なる形状であってもよい。
【0065】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0066】
10…SOEC(電解セル)
11…SOECの空気側
12…SOECの燃料側
20…酸素側熱交換器
21…酸素側熱交換器の燃料側
22…酸素側熱交換器の排気側
30…燃料側熱交換器
31…燃料側熱交換器の燃料側
32…燃料側熱交換器の排気側
40…蒸発器
41,41b…ヒータ
50…熱貯蔵タンク
51…蓄熱材
51F,152F,153F…伝熱フィン
60…放熱器
70…水素貯蔵タンク
80…水貯蔵タンク
90…流量分配器(流量分配制御部)
110…昇圧器
120…MFC
130…気液分離器
140…水噴霧発生器
150…一体型蒸発器
151…蒸発流路
152…熱媒流路
153…水蒸気流路
160,160a…制御部(流量分配制御部)
300…外部熱源
500,500a,500b,500x,500y…水素製造システム
ARu…接続部
OL…中心軸
P…循環ポンプ
Qin…熱量
Qout…熱量
R1…増熱比
R2…実用増熱比
V1~V6…バルブ