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特許7312270導電性パターン付構造体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】導電性パターン付構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/18 20060101AFI20230712BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20230712BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20230712BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20230712BHJP
   C23C 18/08 20060101ALI20230712BHJP
   C23C 18/38 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
H05K3/18 C
H01B5/14 B
H01B13/00 503D
B32B15/08 J
C23C18/08
C23C18/38
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021555110
(86)(22)【出願日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2020041415
(87)【国際公開番号】W WO2021090893
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2022-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019203276
(32)【優先日】2019-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】小園 智子
(72)【発明者】
【氏名】湯本 徹
【審査官】齊藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-90110(JP,A)
【文献】特開2017-139294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 15/08
C23C 18/08
C23C 18/18
C23C 18/38
C23C 18/40
H01B 5/14
H01B 13/00
H05K 1/00―3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の表面に配置された、銅を含む導電性層とを備える導電性パターン付構造体であって、
前記導電性層の、前記基材に対向する側の主面を第1主面、前記第1主面と反対側の主面を第2主面としたときに、前記導電性層が、前記第1主面から導電性層厚み方向深さ100nmまでの第1主面側領域において0.01体積%以上50体積%以下の空隙率を有しており、かつ前記第2主面から導電性層厚み方向深さ100nmまでの第2主面側領域において10体積%以下の空隙率を有している、導電性パターン付構造体。
【請求項2】
前記第1主面側領域における空隙率が前記第2主面側領域における空隙率よりも大きい、請求項1に記載の導電性パターン付構造体。
【請求項3】
前記第1主面側領域における銅原子に対する酸素原子の元素比が、前記第2主面側領域における銅原子に対する酸素原子の元素比よりも大きい、請求項1又は2に記載の導電性パターン付構造体。
【請求項4】
前記第1主面側領域における銅原子に対する酸素原子の元素比が、0.025よりも大きい、請求項1~3のいずれか一項に記載の導電性パターン付構造体。
【請求項5】
前記第2主面にニッケル及び/又は金を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の導電性パターン付構造体。
【請求項6】
前記導電性層の一部が樹脂で覆われている、請求項1~5のいずれか一項に記載の導電性パターン付構造体。
【請求項7】
前記導電性層の表面の一部に配置されたハンダ層を更に備える、請求項1~6のいずれか一項に記載の導電性パターン付構造体。
【請求項8】
前記導電性層がアンテナである、請求項1~7のいずれか一項に記載の導電性パターン付構造体。
【請求項9】
前記導電性層がプリント基板の配線である、請求項1~8のいずれか一項に記載の導電性パターン付構造体。
【請求項10】
酸化銅粒子を含む分散体を基材に塗布して、塗布膜を得る塗布膜形成工程と、
前記塗布膜を乾燥する乾燥工程と、
前記乾燥工程後の塗布膜にレーザー光を照射して、銅含有膜を得る照射工程と、
前記銅含有膜にめっきを行って、前記銅含有膜とめっき層とを含む導電性層を得るめっき工程と、
を含み、
前記導電性層の前記基材に対向する側の主面である第1主面から導電性層厚み方向深さ100nmまでの領域を第1主面側領域としたときに、前記照射工程後の前記第1主面側領域の空隙率を前記めっき工程において低減させる、導電性パターン付構造体の製造方法。
【請求項11】
前記照射工程と前記めっき工程との間に、前記塗布膜のレーザー光未照射部を除去する現像工程を更に含む、請求項10に記載の導電性パターン付構造体の製造方法。
【請求項12】
銅濃度1.5g/L以上5.0g/L以下のめっき液を前記銅含有膜に適用することによって前記めっきを行う、請求項10又は11に記載の導電性パターン付構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性パターン付構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回路基板は、基材上に導電性の配線を施した構造を有する。回路基板の製造方法は、一般的に、次の通りである。まず、金属箔を貼り合せた基材上にフォトレジストを塗布する。次に、フォトレジストを露光及び現像して所望の回路パターンのネガ状の形状を得る。次に、フォトレジストに被覆されていない部分の金属箔をケミカルエッチングにより除去してパターンを形成する。これにより、高性能の回路基板を製造することができる。しかしながら、従来の方法は、工程数が多く、煩雑であると共に、フォトレジスト材料を要する等の欠点がある。
【0003】
これに対し、金属微粒子及び金属酸化物微粒子からなる群から選択された微粒子を分散させた分散体(以下、「ペースト材料」ともいう)で基材上に所望の配線パターンを直接印刷する直接印刷技術が注目されている。この技術は、工程数が少なく、フォトレジスト材料を用いる必要がない等、きわめて生産性が高い。
【0004】
直接印刷技術においては、基材(支持体として)上に、上記ペースト材料を適用、次いで焼成することで、基材上に金属質膜(例えば、銅微粒子及び/又は銅酸化物粒子を用いた場合には銅含有膜)を形成できる。従来、支持体と金属質膜との密着性を向上させる目的で、基材上に、下地層として酸化ケイ素のコロイダルシリカを設けることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/031860号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されるような、下地層に使用されるコロイダルシリカは、金属に対する密着性に優れるが、樹脂との密着性が悪い。このため、基材の材質が樹脂である場合、薬剤の侵入及び熱膨張により下地層と基材との間で剥離が生じ、製品の信頼性が低くなる場合がある。また、コロイダルシリカを基材上に塗布する工程が必要であることによる工程数増加という欠点もある。
【0007】
本発明はかかる状況に鑑み、簡便な製造工程で得られかつ層間密着性が良好である導電性パターン付構造体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、以下の態様を包含する。
[1] 基材と、前記基材の表面に配置された、銅を含む導電性層とを備える導電性パターン付構造体であって、
前記導電性層の、前記基材に対向する側の主面を第1主面、前記第1主面と反対側の主面を第2主面としたときに、前記導電性層が、前記第1主面から導電性層厚み方向深さ100nmまでの第1主面側領域において0.01体積%以上50体積%以下の空隙率を有しており、かつ前記第2主面から導電性層厚み方向深さ100nmまでの第2主面側領域において10体積%以下の空隙率を有している、導電性パターン付構造体。
[2] 前記第1主面側領域における空隙率が前記第2主面側領域における空隙率よりも大きい、上記態様1に記載の導電性パターン付構造体。
[3] 前記第1主面側領域における銅原子に対する酸素原子の元素比が、前記第2主面側領域における銅原子に対する酸素原子の元素比よりも大きい、上記態様1又は2に記載の導電性パターン付構造体。
[4] 前記第1主面側領域における銅原子に対する酸素原子の元素比が、0.025よりも大きい、上記態様1~3のいずれかに記載の導電性パターン付構造体。
[5] 前記第2主面にニッケル及び/又は金を含む、上記態様1~4のいずれかに記載の導電性パターン付構造体。
[6] 前記導電性層の一部が樹脂で覆われている、上記態様1~5のいずれかに記載の導電性パターン付構造体。
[7] 前記導電性層の表面の一部に配置されたハンダ層を更に備える、上記態様1~6のいずれかに記載の導電性パターン付構造体。
[8] 前記導電性層がアンテナである、上記態様1~7のいずれかに記載の導電性パターン付構造体。
[9] 前記導電性層がプリント基板の配線である、上記態様1~8のいずれかに記載の導電性パターン付構造体。
[10] 酸化銅粒子を含む分散体を基材に塗布して、塗布膜を得る塗布膜形成工程と、
前記塗布膜を乾燥する乾燥工程と、
前記乾燥工程後の塗布膜にレーザー光を照射して、銅含有膜を得る照射工程と、
前記銅含有膜にめっきを行って、前記銅含有膜とめっき層とを含む導電性層を得るめっき工程と、
を含む、導電性パターン付構造体の製造方法。
[11] 前記照射工程と前記めっき工程との間に、前記塗布膜のレーザー光未照射部を除去する現像工程を更に含む、上記態様10に記載の導電性パターン付構造体の製造方法。
[12] 銅濃度1.5g/L以上5.0g/L以下のめっき液を前記銅含有膜に適用することによって前記めっきを行う、上記態様10又は11に記載の導電性パターン付構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡便な製造工程で得られかつ層間密着性が良好である導電性パターン付構造体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一態様に係る導電性パターン付構造体を示す断面模式図である。
図2】本発明の一態様で使用できる分散体における酸化銅とリン酸エステル塩との関係を示す断面模式図である。
図3】本発明の一態様に係る導電性パターン付構造体の製造手順を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」ともいう。)を例示する目的で詳細に説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本発明者らは、簡便な製造工程で得られ、かつ、層間密着性が良い導電性パターン付構造体及びその製造方法を鋭意検討した。その結果、導電性層中の決められた領域内に所定量の空隙が存在することにより、この特性が達成できることを見出した。本実施形態の導電性パターン付構造体は、薬剤耐性に優れ、熱膨張による剥離が起きにくいという効果も示し得る。
【0013】
≪導電性パターン付構造体≫
本発明の一態様は、基材と、該基材の表面に配置された、銅を含む導電性層とを備える導電性パターン付構造体を提供する。図1を参照し、本発明の一態様に係る導電性パターン付構造体100は、基材11と、基材11の表面に配置された、銅を含む導電性層12とを備える。一態様においては、導電性層12の基材11に対向する側の主面を第1主面S1、該第1主面S1と反対側の主面を第2主面S2としたときに、導電性層12が、第1主面S1から導電性層厚み方向深さ100nmまでの第1主面側領域R1において0.01体積%以上50体積%以下の空隙率を有しており、かつ第2主面S2から導電性層厚み方向深さ100nmまでの第2主面側領域R2において10体積%以下の空隙率を有している。
【0014】
第1主面側領域が0.01体積%以上の空隙率を有することにより、銅の膨張による応力を緩和することができるため、熱衝撃に耐えることができる。また、第1主面側領域が50体積%以下の空隙率を有することは、層間密着性(より具体的には、基材と導電性層との間の密着性)が良好であることによって薬剤による剥離が起こりにくい点、及び、表面積が小さいことによって耐酸化性が良好である点で好ましい。
【0015】
第1主面側領域の空隙率は、好ましくは0.05体積%以上、より好ましくは0.1体積%以上、より好ましくは0.15体積%以上、より好ましくは0.2体積%以上、さらに好ましくは0.25体積%以上、さらにより好ましくは0.3体積%以上、さらに好ましくは0.35体積%以上、さらに好ましくは0.4体積%以上、最も好ましくは0.5体積%以上である。また、好ましくは45体積%以下、より好ましくは40体積%以下、さらに好ましくは35体積%以下、さらにより好ましくは30体積%以下、さらに好ましくは25体積%以下、さらに好ましくは20体積%以下、さらに好ましくは15体積%以下、さらに好ましくは10体積%以下、さらに好ましくは7体積%以下、さらに好ましくは5体積%以下、最も好ましくは3体積%以下である。
【0016】
また、第2主面側領域が10体積%以下の空隙率を有することで、層間密着性(より具体的には、基材と導電性層との間の密着性)が良好であり、薬剤による剥離が起こりにくい。また、導電性層の耐酸化安定性に優れる。
【0017】
第2主面側領域の空隙率が、0.0001体積%以上である場合、銅の膨張による応力を緩和することができ、熱衝撃に耐えることができるため、好ましい。上記空隙率は、より好ましくは0.0002体積%以上、より好ましくは0.0003体積%以上、さらに好ましくは0.001体積%以上、さらに好ましくは0.01体積%以上、さらに好ましくは0.05体積%以上である。また、上記空隙率は、層間密着性の観点から、好ましくは9体積%以下、より好ましくは8体積%以下、さらに好ましくは5体積%以下、さらに好ましくは3体積%以下、さらに好ましくは1体積%以下、さらに好ましくは0.5体積%以下、最も好ましくは0.1体積%以下である。
【0018】
第1主面側領域における空隙率は、例えば、導電性層の形成時に使用する照射レーザーの出力及び/又はスピード及び/又は波長を調整することによって、制御することができる。例えば、レーザーの出力が強く、照射スピードが遅くなるほど第1主面側領域の空隙率は小さくすることができ、レーザーの出力が弱く、照射スピードが速くなるほど第1主面側領域の空隙率は大きくなる。また、第2主面側領域における空隙率は、例えば、めっき前の脱脂工程及び/又はめっき温度及び/又はめっき時間及び/又はめっき液の組成及び/又はめっき液の銅濃度を調整することによって、制御することができる。例えば、めっき前に脱脂工程を行うことにより、第2主面側領域の空隙率が小さくなる。上記のパラメータを調整することによって、第1主面側領域と第2主面側領域との二つの領域の空隙率を特定範囲にするができる。
【0019】
一態様において、第1主面側領域の空隙率は第2主面側領域の空隙率よりも大きい。この場合、第1主面側領域と第2主面側領域との空隙率(単位:体積%)の差は、薬剤耐性に優れるという観点から、好ましくは、0.05体積%以上、又は0.1体積%以上、又は0.2体積%以上であることが好ましい。上記差は、良好な層間密着性を得る観点から、例えば、10体積%以下、又は5体積%以下、又は1体積%以下であってよい。
【0020】
本開示の空隙率は、導電性層中に存在する空隙の量の指標である。空隙は、導電性層の構成物質(より具体的には、導電性金属)が存在しない部位であり、典型的には、構成物質による連続相で囲まれた独立ボイド(図1中のボイドVのような)である。本開示の空隙率は、導電性層をエポキシ樹脂に固結した後、SEM(走査型電子顕微鏡)による断面分析が可能となるようにFIB(集束イオンビーム)加工し、SEM観察によって得られた画像をImageJ(Median→Threshold;Isodata)で二値化した場合に黒色部分となる部分の面積%として得られる値であり、この面積%の値を空隙率(体積%)と見做す。本開示の長径は、上記処理後の画像において、1つの独立した黒色部分の周縁における任意の2点を取ったときの最大距離である。なお銅含有膜等について後述する空隙率もまた、上記手順で走査型電子顕微鏡(SEM)による断面画像から得られる値である。
【0021】
図1を参照し、第1主面側領域R1は、導電性層12の第1主面S1(すなわち基材11に対向する側の表面)から、該第1主面S1と平行になるように導電性層の厚み方向にて導電性層の内方に100nm移動させた面である面S1aまでの領域である。また第2主面側領域R2は、導電性層12の第2主面S2(すなわち基材11とは反対側の面)から、該第2主面S2と平行になるように導電性層の厚み方向にて導電性層の内方に100nm移動させた面である面S2aまでの領域である。本開示の導電性パターン付構造体を構成する部材のそれぞれの表面(露出面又は他の部材との界面であってよい)の形状は限定されず、平面でも曲面でもよく、例えば段差等を有してもよい。いずれの場合も、第1主面S1及び第2主面S2を基準としてこれら面のそれぞれと平行に導電性層の厚み方向にて導電性層の内方に100nmまで延びる領域をそれぞれ、第1主面側領域及び第2主面側領域とする。
【0022】
第1主面側領域は、長径80nm以下の空隙を有していることが好ましい。長径80nm以下の空隙を有することで、銅の膨張による応力を緩和することができるため、熱衝撃に耐えることができる。さらに好ましくは長径78nm以下、さらに好ましくは長径75nm以下、さらに好ましくは長径65nm以下である。長径が上記範囲(一態様において長径80nm以下)の空隙の全体の空隙に対する体積比は、応力緩和の観点から、好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.2%以上、さらに好ましくは0.3%以上である。また上記体積比は、密着性の観点から、好ましくは99%以下、さらに好ましくは98%以下、さらに好ましくは97%以下である。
【0023】
導電性層厚み方向断面の分析により求められる本開示の特性値(具体的には、空隙率及び元素組成)は、SEM(走査型電子顕微鏡)又はSTEM(走査型透過電子顕微鏡)を用いて以下のように画定される導電性層断面上の第1主面S1及び第2主面S2に基づいて求められる。すなわち、導電性層断面上の第1主面S1及び第2主面S2は、実在の第1主面及び第2主面の各々の算術平均粗さ測定に応じて以下のように画定される。まず、算術平均粗さは、導電性層の厚み方向断面(予めFIB加工等により断面観察可能にしたもの)において、第1主面及び第2主面の各々の、任意に選択した測定長2μmの範囲で得られる粗さ曲線から求められる算術平均粗さである。また、上記粗さ曲線から、最大高さ、最小高さ及び平均線も求めておく。導電性層断面上の第1主面S1及び第2主面S2は、それぞれ、最大高さを与える点を通りかつ平均線と平行に延びる線(算術平均粗さRaが1.0μm未満の場合)又は最小高さを与える点を通りかつ平均線と平行に延びる線(算術平均粗さRaが1.0μm以上の場合)として画定される。
【0024】
第2主面の算術平均粗さは特に限定されるものではないが、導体の抵抗値のバラつきを抑える観点から好ましくは10.0μm以下、さらに好ましくは9.0μm以下、さらに好ましくは8.0μm以下である。
【0025】
一態様においては、良好な層間密着性を得る観点から、第1主面領域における銅原子に対する酸素原子の元素比が、第2主面領域における銅原子に対する酸素原子の元素比よりも大きいことが好ましい。第1主面領域における銅原子に対する酸素原子の元素比と第2主面領域における銅原子に対する酸素原子の元素比との差は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.003以上、より好ましくは0.005以上、より好ましくは0.01以上である。上記差は、導電性層の形成容易性の観点から、例えば、0.60以下、又は0.55以下、又は0.50以下、又は0.45以下であってよい。
【0026】
一態様においては、密着性に優れる導電性層を得る観点から、第1主面側領域における銅原子に対する酸素原子の元素比が0.025よりも大きいことが好ましい。第1主面側領域における銅原子に対する酸素原子の元素比は、より好ましくは0.026以上、より好ましくは0.027以上、より好ましくは0.028以上、より好ましくは0.03以上、より好ましくは0.05以上、より好ましくは0.06以上、より好ましくは0.07以上、より好ましくは0.08以上、より好ましくは0.09以上、より好ましくは0.10以上である。上記元素比は、良好な導電性を担保する観点から、例えば、1.0以下、又は0.9以下、又は0.8以下であってよい。
【0027】
以下、導電性パターン付構造体の各構成要素の好適例について説明する。
【0028】
<基材>
基材は導電性パターン付構造体を構成する主な部材である。基材の材質は、導電性パターン間の電気絶縁性を確保するため、絶縁性を有する材料であることが好ましい。ただし、必ずしも基材の全体が絶縁性を有する材料である必要はなく、導電性層が配置される面を構成する部分が絶縁性を有する材料であれば足りる。
【0029】
基材の、導電性層が配置される面は、平面又は曲面であってよく、また段差等を含む面であってもよい。本実施形態の導電性層は、基材の表面が平面でない場合にも、当該基材上に、例えば配線等として、良好に形成され得る。一態様において、基材は、基板(例えば、板状体、フィルム又はシート)、又は筐体であってよい。板状体は、例えば、プリント基板等の回路基板に用いられる支持体である。フィルム又はシートは、例えば、フレキシブルプリント基板に用いられる、薄膜状の絶縁体であるベースフィルムである。筐体は、3次元加工された形状を有し、使用形態によって様々な形状を有し得る。基材が3次元加工品(すなわち立体物)である場合の例としては、携帯電話端末、スマートフォン、スマートグラス、テレビ、パーソナルコンピュータ等の電気機器の筐体が挙げられる。立体物の他の例としては、自動車分野における、ダッシュボード、インストルメントパネル、ハンドル、シャーシ等も挙げられる。
【0030】
基材の材質は、特に限定されるものではなく、無機材料又は有機材料で構成されてよい。
【0031】
無機材料としては、例えば、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、硼珪酸ガラス、石英ガラス等のガラス、及びアルミナ等のセラミック材料が挙げられる。
【0032】
有機材料としては、高分子材料(樹脂フィルム、紙、不織布等)が挙げられる。樹脂フィルムとしては、ポリイミド(PI)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリアセタール(POM)、ポリアリレート(PAR)、ポリアミド(PA)(PA6、PA66等)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリカルボジイミド、シリコーンポリマー(ポリシロキサン)、ポリメタクリルアミド、ニトリルゴム、アクリルゴム、ポリエチレンテトラフルオライド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレア樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリブテン、ポリペンテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-ジエン共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、ブチルゴム、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリスチレン(PS)、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フェノールノボラック、ベンゾシクロブテン、ポリビニルフェノール、ポリクロロピレン、ポリオキシメチレン、ポリスルホン(PSF)、ポリフェニルスルホン樹脂(PPSU)、シクロオレフィンポリマー(COP)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、アクリロニトリル・スチレン樹脂(AS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)等を挙げることができる。特に、PI、PET及びPENは、フレキシブル性、コストの観点から好ましい。基板の厚さは、例えば1μm~10mmとすることができ、好ましくは25μm~250μmである。基板の厚さが250μm以下であれば、作製される電子デバイスを、軽量化、省スペース化、及びフレキシブル化できるため好ましい。
【0033】
紙としては、パルプを原料とした一般的な紙(上質紙、中質紙、コート紙、ボール紙、段ボール等の洋紙等)、セルロースナノファイバーを原料とした紙等が挙げられる。高分子材料の溶解物、ゾルゲル材料等が紙に含浸硬化又はラミネートされてなる複合基材も使用できる。例えば、紙とフェノール樹脂との複合基材、紙とエポキシ樹脂との複合基材、紙とガラスコンポジットとの複合基材、紙とガラスエポキシとの複合基材、紙とテフロン(登録商標)との複合基材、紙とアルミナとの複合基材、紙と低温低湿同時焼成セラミックス(LTCC)との複合基材、紙とシリコンウェハとの複合基材等が挙げられる。
【0034】
<導電性層>
導電性層は、銅(導電性金属として)を含む層である。導電性層は、例えば配線、放熱シートの金属層(例えば、シート状(すなわち金属のベタ膜)、又はメッシュ状)、又は、電磁波シールドの金属層(例えば、シート状、又はメッシュ状)、アンテナ等であってよいが、特に限定されない。ここで、配線は、例えば、支持体上に配置された複数の部品間を繋ぐための配線、プリント基板の配線、集積回路内の配線、電気機器又は電子機器の間を繋ぐための配線(例えば、自動車等の乗り物において、スイッチと照明等の機器との間の配線、センサとECU(Electronic Control Unit)との間の配線)等であってよいが、特に限定されない。
【0035】
図1を参照し、導電性層12は、第1主面側領域と第2主面側領域との間に第3の領域R3を有してよい。一態様において、第3の領域の少なくとも一部が第1主面側領域又は第2主面側領域と同様の特性を有してよい。ここで、特性が同様であるとは、元素比及び/又は空隙率の値が、第1主面側領域又は第2主面側領域の値±3.0%以内であることを意味する。図1を参照し、第3の領域R3は、第1主面側領域R1と連続し第1主面側領域R1と同様の特性を有する部位R31(以下、単に部位R31ともいう。)、第2主面側領域R2と連続し第2主面側領域R2と同様の特性を有する部位R32(以下、単に部位R2ともいう。)、及びその他の部位R33(以下、単に部位R33ともいう。)を有してよく、又は、部位R31と部位R32とで占められてもよい。また、部位R31から部位R33、更に部位32に向かって特性が連続的に変化していてもよい。
【0036】
第1主面側領域及び第2主面側領域は、それぞれ、後述する導電性パターン付構造体の製造方法にて形成できる。第3の領域R3が部位R31を有する場合、部位R31は、第1主面側領域R1の形成と同時に形成され得る。同様に、第3の領域R3が部位R32を有する場合、部位R32は、第2主面側領域R2の形成と同時に形成され得る。
【0037】
第1主面側領域の元素比(原子数基準、以下同じ。)は、基材と導電性層との密着性向上の観点から、好ましくはCu/O/Ni/S=100/1.0~35.0/0.1~3.0/0.1~3.0、より好ましくはCu/O/Ni/S=100/1.0~30.0/0.1~3.0/0.1~3.0、より好ましくはCu/O/Ni/S=100/1.0~25.0/0.1~3.0/0.1~3.0、より好ましくはCu/O/Ni/S=100/1.0~20.0/0.1~3.0/0.1~3.0、Cu/O/Ni/S=100/1.0~4.0/0.1~3.0/0.1~3.0、より好ましくはCu/O/Ni/S=100/1.5~3.5/0.2~2.5/0.2~2.5、さらに好ましくはCu/O/Ni/S=100/1.8~3.2/0.3~2.0/0.2~2.0である。
【0038】
第2主面側領域の元素比は、薬剤耐性の観点から、好ましくはCu/O/S=100/0.1~4.0/0.1~3.0、より好ましくはCu/O/S=100/0.2~3.5/0.2~2.5、さらに好ましくはCu/O/S=100/0.3~3.0/0.3~2.0である。
【0039】
導電性層中の各元素濃度は、導電性層をエポキシ樹脂に固結した後、STEM(走査型透過電子顕微鏡)による断面分析が可能となるようにFIB(集束イオンビーム)加工し、試料中の導電性層部分の第1主面から導電性層厚み方向深さ100nmまでの範囲、及び第2主面から導電性層厚み方向深さ100nmまでの範囲で、2μm×100nmの長方形の測定範囲における元素組成をEDX(エネルギー分散型X線分析)により分析して得られる値である。
【0040】
第1主面側領域及び第2主面側領域の各々における元素比は、例えば、後述の分散体の組成、めっき液の組成等によって制御できる。
【0041】
第1主面側領域は、好ましくは、銅(すなわち、酸化されていない金属銅)を含み、又は実質的に銅からなる。一態様において上記銅は焼結体である。また一態様において上記銅は還元銅である。本開示で、還元銅とは、酸化銅を還元し焼結して得られる焼結体を意味する。還元銅は、基材と導電性層との密着性において有利である。
【0042】
還元銅は、導電性層の材料を塗布してなる塗布膜に対してレーザー光を照射することにより形成できる。レーザー光の照射は、例えば光焼成法で行ってよい。一態様においては、塗布膜の一部領域のみにレーザー光を選択的に照射することにより、所望の導電性パターンを形成できる。
【0043】
光焼成法は、光源としてキセノン等の放電管を用いたフラッシュ光方式及びレーザー光方式が適用可能である。これらの方法は強度の大きい光を短時間露光し、基材上に塗布した酸化銅インクを短時間で高温に上昇させ焼成する方法で、酸化銅の還元、銅粒子の焼結、これらの一体化、及び有機成分の分解を行い、導電膜として銅含有膜を形成する方法である。焼成時間がごく短時間であるため基材へのダメージが少ない方法で、耐熱性の低い樹脂フィルム基板等への適用が可能である。
【0044】
フラッシュ光方式とは、キセノン放電管を用い、コンデンサに蓄えられた電荷を瞬時に放電する方式で、大光量のパルス光を発生させ、基材上に形成された酸化銅インクに照射することにより酸化銅を瞬時に高温に加熱し、導電膜としての銅含有膜に変化させる方法である。露光量は、光強度、発光時間、光照射間隔、及び回数で調整可能であり、基材の光透過性が大きければ、耐熱性の低い樹脂基板、例えば、PET、PEN、紙等へも、酸化銅インクによる導電性パターンの形成が可能である。
【0045】
導電性層の厚みは、0.5μm以上50μm以下であることが好ましく、1μm以上35μm以下であることがより好ましい。
【0046】
一態様において、導電性パターン付構造体は導電性層の第2主面にニッケル及び/又は金を含んでよい。第2主面にニッケル及び/又は金が含まれることにより、導電性パターンの酸化が防止され得るとともに、ハンダののりがよくなるので好ましい。ニッケル及び/又は金の含有量は特に規定されるものではないが、酸化防止の観点から、ニッケルと金との合計で、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上であり、内部応力が小さく密着性に優れる観点から、好ましくは100質量%以下、又は99質量%以下、又は98質量%以下である。第2主面のニッケル又は金の量は、第2主面の断面SEM-EDX法で測定される値である。
【0047】
<樹脂>
一態様において、導電性パターン付構造体は樹脂(図1中の樹脂13のような)を更に含んでよい。一態様においては、導電性層の一部が樹脂で覆われていることが好ましい。導電性層の一部が樹脂で覆われていることにより、導電性パターンの酸化が防止され、信頼性が向上する。また、導電性層に樹脂で覆われていない部分が存在することで、部品を電気的に接合することができる。
【0048】
樹脂層の一例は、封止材層である。樹脂層は例えばトランスファー成形、圧縮成形、光重合、熱硬化、キャスト法等により形成することができる。用いられる樹脂としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチルテレフタレート(PBT)等)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリアセタール(POM)、ポリアリレート(PAR)、ポリアミド(PA)(PA6、PA66等)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリカルボジイミド、シリコーンポリマー(ポリシロキサン)、ポリメタクリルアミド、ニトリルゴム、アクリルゴム、ポリエチレンテトラフルオライド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレア樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、アクリレート樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-ジエン共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、ブチルゴム、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリスチレン(PS)、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フェノールノボラック、ベンゾシクロブテン、ポリビニルフェノール、ポリクロロピレン、ポリオキシメチレン、ポリスルホン(PSF)、ポリフェニルスルホン樹脂(PPSU)、シクロオレフィンポリマー(COP)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、アクリロニトリル・スチレン樹脂(AS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)等が挙げられる。樹脂層は水酸基を含むことが好ましい。水酸基により、銅箔への密着性が向上する。また、樹脂層の好ましい厚みは、0.1μm以上1mm以下、又は0.5μm以上800μm以下である。
【0049】
封止材層は、製造後の完成品(導電性パターン付構造体そのもの及びそれを含む製品)において、導電性パターンを外部からのストレスから保護し、導電性パターン付構造体の長期安定性を向上できる。
【0050】
樹脂層の一例である封止材層の透湿度は、良好な長期安定性を確保する観点から、好ましくは、1.0g/m2/day以下、より好ましくは0.8g/m2/day以下、さらに好ましくは0.6g/m2/day以下である。透湿度を低くすることで、封止材層の外部からの水分の混入を防ぎ、導電性パターンの酸化を抑制できる。透湿度は低い程好ましいが、封止材層の製造容易性の観点から、例えば0.1g/m2/day以上、又は0.5g/m2/day以上であってもよい。上記透湿度は、カップ法で測定される値である。
【0051】
封止材層は、製造時に使用した酸素バリア層を剥離した後にも、導電性パターン付構造体に対して酸素バリア機能を与える機能層であることができるが、その他の機能として、導電性パターン付構造体の取り扱い時の耐傷性、外界からの汚染から導電性パターン付構造体を保護するための防汚性、強靭な樹脂を用いた場合における導電性パターン付構造体に対する剛性向上、等の機能を有してよい。
【0052】
<ハンダ層>
一態様において、導電性層の表面の一部、特に第2主面の一部にハンダ層が形成されていることが好ましい。ハンダ層によって導電性層と他の部材とを接続できる。ハンダ層は例えばリフロー法によって形成できる。ハンダ層は、Sn-Pb系、Pb-Sn-Sb系、Sn-Sb系、Sn-Pb-Bi系、Bi-Sn系、Sn-Cu系、Sn-Pb-Cu系、Sn-In系、Sn-Ag系、Sn-Pb-Ag系、Pb-Ag系等のハンダ層であってよい。ハンダ層はフラックス成分を含むことが好ましい。フラックス成分はカルボン酸基を含む活性剤を含んでいることが好ましい。この構成により、導電性層とハンダ層との密着性が高くなる。一態様において、導電性層の空隙部にハンダ層が入り込んでいてもよい。導電性層の空隙部にハンダ層が入り込むことにより、導電性層との密着性が向上する。ハンダ層の厚みは、好ましくは0.1μm以上2mm以下、より好ましくは0.5μm以上1mm以下である。
【0053】
≪導電性パターン付構造体の製造方法≫
本発明の一態様は、導電性パターン付構造体の製造方法を提供する。一態様において、当該方法は、酸化銅粒子を含む分散体を基材に塗布して、塗布膜を得る塗布膜形成工程と、該塗布膜を乾燥する乾燥工程と、該乾燥工程後の塗布膜にレーザー光を照射して、銅含有膜を得る照射工程と、銅含有膜にめっきを行って、銅含有膜とめっき層とを含む導電性層を形成するめっき工程とを含む。一態様においては、照射工程とめっき工程との間に、塗布膜のレーザー光未照射部を除去する現像工程を更に含んでよい。
【0054】
上記方法によれば、塗布膜をレーザー光照射によって焼成処理することにより、所望のパターンで還元銅層を形成できるため、従来のフォトレジストを用いた手法と比較し、生産性を向上させることができる。また、このようにして生成した還元銅は表面積が大きく、銅含有膜に対するめっきの成長速度を速くすることができる。また、一態様においては、めっきによって、空隙率が比較的低い第2主面側領域を形成できるため、導電性パターン付構造体の抵抗を低くすることができる。具体的な方法は後述するが、本実施形態の方法によれば、レーザー光を照射するだけで還元銅を生成できるため、従来のようなマスク又は印刷版が不要となり、また製品ごとに簡便にパターンを変更できる。さらに、本実施形態の方法は基材形状の制約なく(例えば立体物である基材に対しても)配線を良好に作製できるという利点を有する。
以下、各工程の好適例について説明する。
【0055】
<塗布膜形成工程>
本工程では、酸化銅粒子を含む分散体(本開示で、酸化銅インクともいう。)を基材に塗布して、塗布膜を得る。
【0056】
[酸化銅粒子を含む分散体]
分散体(酸化銅インク)は、酸化銅粒子と分散媒とを含み、一態様においては、分散剤及び/又は還元剤を更に含む。
【0057】
(酸化銅)
酸化銅としては、酸化第一銅(Cu2O)及び酸化第二銅(CuO)が挙げられるが、酸化第一銅が好ましい。酸化第一銅は、金属酸化物の中でも還元が容易であり、微粒子形状での焼結が容易であり、価格的にも銅であるがゆえに銀等の貴金属類と比較し安価であり、マイグレーションが生じ難い点で有利である、酸化銅としては、市販品又は合成品を用いてよい。
【0058】
例えば、酸化第一銅の合成法としては、次の方法が挙げられる。
(1)ポリオール溶剤中に、水と銅アセチルアセトナト錯体を加え、いったん有機銅化合物を加熱溶解させ、次に、反応に必要な水を後添加し、さらに昇温して有機銅の還元温度で加熱して加熱還元する方法。
(2)有機銅化合物(例えば銅-N-ニトロソフェニルヒドロキシアミン錯体)を、ヘキサデシルアミン等の保護剤存在下、不活性雰囲気中で、300℃程度の高温で加熱する方法。
(3)水溶液に溶解した銅塩をヒドラジンで還元する方法。
この中では(3)の方法は操作が簡便で、かつ、平均粒子径の小さい酸化第一銅が得られるので好ましい。
【0059】
酸化第二銅の合成方法としては、以下の方法が挙げられる。
(1)塩化第二銅又は硫酸銅の水溶液に水酸化ナトリウムを加えて水酸化銅を生成させた後、加熱する方法。
(2)硝酸銅、硫酸銅、炭酸銅、水酸化銅等を空気中で600℃の温度に加熱して熱分解する方法。
この中で(1)の方法は粒子径が小さい酸化第二銅が得られるので好ましい。
【0060】
合成終了後、生成物溶液と酸化銅との分離は、遠心分離等の既知の方法を用いて行う。得られた酸化銅に、後述の分散媒、及び任意に後述の分散剤を加え、ホモジナイザー等既知の方法で攪拌し分散させる。分散媒によっては酸化銅が分散し難く分散が不充分な場合があるが、このような場合は、一例として、酸化銅が分散しやすいアルコール類(例えばブタノール等)を分散媒として用いて酸化銅を分散させた後、所望の分散媒への置換と所望の濃度への濃縮を行うことで、酸化銅を所望の分散媒に良好に分散させることができる。方法の一例として、UF膜による濃縮、適切な分散媒によって希釈及び濃縮を繰り返す方法、等が挙げられる。このようにして得られた酸化銅分散体が、印刷等の塗布に用いられる。
【0061】
一態様において、酸化銅は微粒子状であり、その平均粒子径は、3nm以上、50nm以下であることが好ましく、5nm以上、40nm以下であることがより好ましい。ここで平均粒子径とは、分散体中での分散時の粒子径であり、大塚電子製FPAR-1000を用いてキュムラント法によって測定したときの値である。すなわち、平均粒子径は、一次粒子径とは限らず、二次粒子径である場合もある。平均粒子径が50nm以下の場合、低温焼成が可能となり、基材の汎用性が広がる点、及び、基材上に微細パターンを形成し易い傾向がある点で好ましい。また、3nm以上の場合、分散体中での酸化銅粒子の分散安定性が良好で、分散体の長期保管安定性が良好である点、及び、均一な薄膜を作製できる点で好ましい。
【0062】
分散体100質量%中の酸化銅の質量比率は、好ましくは、5質量%以上、又は10質量%以上、又は15質量%以上であり、好ましくは、60質量%以下、又は55質量%以下、又は50質量%以下である。
【0063】
(分散媒)
分散媒は、酸化銅粒子を分散させることができるものである。一態様において、分散媒は、分散剤を溶解させることができる。酸化銅インクを用いて導電性パターンを形成するという観点から、分散媒の揮発性が作業性に影響を与える。したがって、分散媒は、導電性パターンの形成方法、例えば塗布の方式(例えば印刷等)に適するものであることが好ましい。すなわち、分散媒は分散性と塗布(印刷等)の作業性とに合わせて選択することが好ましい。
【0064】
分散媒としては、アルコール類(1価アルコール及び多価アルコール(例えばグリコール))、アルコール(例えばグリコール)のエーテル類、アルコール(例えばグリコール)のエステル類等を使用できる。分散媒の具体例としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシ-3-メチル-ブチルアセテート、エトキシエチルプロピオネート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールターシャリーブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2-ペンタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、2,5-ヘキサンジオール、2,4-ヘプタンジオール、2-エチルヘキサン-1,3-ジオール、ジエチレングリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、トリエチレングリコール、トリ-1,2-プロピレングリコール、グリセロール、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノール、i-ペンタノール、2-メチルブタノール、2-ペンタノール、t-ペンタノール、3-メトキシブタノール、n-ヘキサノール、2-メチルペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、2-エチルブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、n-オクタノール、2-エチルヘキサノール、2-オクタノール、n-ノニルアルコール、2,6ジメチル-4-ヘプタノール、n-デカノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよく、塗布方式に応じ、蒸発性、塗布機材、被塗布基材の耐溶剤性等を考慮し選択する。
【0065】
分散媒としては、炭素数10以下のモノアルコールがより好ましい。中でも、酸化銅の分散性の低下を抑制する観点、及び、分散媒と分散剤との相互作用において酸化銅をより安定に分散させる観点で、モノアルコールの炭素数は8以下であることがさらに好ましい。モノアルコールの炭素数が8以下であることは、銅含有膜の抵抗値低減の点でも有利である。炭素数8以下のモノアルコールの中でも、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、sec-ブタノール、及びt-ブタノールは、分散性、揮発性及び粘性が分散体の塗布に特に適しているおりさらにより好ましい。これらのモノアルコールもまた、単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0066】
分散媒の含有量は、分散体全体の中で30質量%以上、95質量%以下が好ましく、40質量%以上、95質量%以下がさらに好ましく、50質量%以上、90質量%以下が最も好ましい。
【0067】
(分散剤)
分散剤としては、酸化銅を分散媒中に分散させることができる化合物を使用できる。分散剤の数平均分子量は、300~300,000、又は350~200,000、又は400~150,000であることが好ましい。なお本開示の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィを用い標準ポリスチレン換算で求められる値である。数平均分子量が300以上であると、絶縁性に優れ、分散体の分散安定性への寄与も大きい傾向があり、300,000以下であると、照射工程において容易に焼成され好ましい。分散剤は、酸化銅に対する親和性を有する基を有していることが好ましく、この観点から、リン含有有機化合物が好ましく、リン酸基含有有機化合物が特に好ましい。リン含有有機化合物の好適例はポリマーのリン酸エステルである。ポリマーのリン酸エステルとして、例えば、下記化学式(1):
【0068】
【化1】
【0069】
(式中、lは1~10000の整数であり、mは1~10000の整数であり、そしてnは1~10000の整数である。)
で示される構造は、酸化銅、特に酸化第一銅への吸着性、及び基材への密着性に優れるため、好ましい。
化学式(1)中、lは、より好ましくは1~5000、更に好ましくは1~3000である。
化学式(1)中、mは、より好ましくは1~5000、更に好ましくは1~3000である。
化学式(1)中、nは、より好ましくは1~5000、更に好ましくは1~3000である。
【0070】
リン含有有機物は、焼成後に有機物の残渣が残りにくく、抵抗率の低い導電性パターンを形成できる点で、光又は熱によって分解又は蒸発しやすいものであることが好ましい。一態様において、リン含有有機物の分解温度は、600℃以下であることが好ましく、400℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。分解温度は、分散体の分散安定性向上効果に優れる分散剤の選定が容易である観点から、50℃以上、又は80℃以上、又は100℃以上であってもよい。一態様において、リン含有有機物の沸点は、300℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることがさらに好ましい。沸点は、30℃以上、又は50℃以上、又は80℃以上であってよい。本開示で、分解温度は、熱重量示差熱分析法で測定される値である。
【0071】
一態様において、リン含有有機物は、酸化銅の焼成に用いる光を吸収できることが好ましい。焼成のための光源としてレーザー光を用いる態様においては、レーザー光の発光波長(例えば、355nm、405nm、445nm、450nm、532nm、及び/又は、1056nm)の光を吸収するリン含有有機物が好ましい。例えば、基材が樹脂である場合、355nm、405nm、445nm、及び/又は、450nmの波長の光を吸収するリン含有有機物が好ましい。
【0072】
分散剤としては公知のものを用いてもよい。例えば、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、不飽和ポリカルボン酸ポリアミノアマイド、ポリアミノアマイドのポリカルボン酸塩、長鎖ポリアミノアマイドと酸ポリマーの塩等の塩基性基を有するポリマーが挙げられる。また、アクリル系(コ)ポリマー、変性ポリエステル酸、ポリエーテルエステル酸、ポリエーテル系カルボン酸、ポリカルボン酸等の高分子のアルキルアンモニウム塩、アミン塩、アミドアミン塩等が挙げられる。このような分散剤としては、市販されているものを使用することもできる。
【0073】
上記市販品としては、例えば、DISPERBYK(登録商標)―101、DISPERBYK―102、DISPERBYK-110、DISPERBYK―111、DISPERBYK―112、DISPERBYK-118、DISPERBYK―130、DISPERBYK―140、DISPERBYK-142、DISPERBYK―145、DISPERBYK―160、DISPERBYK―161、DISPERBYK―162、DISPERBYK―163、DISPERBYK―2155、DISPERBYK―2163、DISPERBYK―2164、DISPERBYK―180、DISPERBYK―2000、DISPERBYK―2025、DISPERBYK―2163、DISPERBYK―2164、BYK―9076、BYK―9077、TERRA-204、TERRA-U(以上ビックケミー社製)、フローレンDOPA-15B、フローレンDOPA-15BHFS、フローレンDOPA-22、フローレンDOPA-33、フローレンDOPA-44、フローレンDOPA-17HF、フローレンTG-662C、フローレンKTG-2400(以上共栄社化学社製)、ED-117、ED-118、ED-212、ED-213、ED-214、ED-216、ED-350、ED-360(以上楠本化成社製)、プライサーフM208F、プライサーフDBS(以上第一工業製薬製)等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0074】
分散剤の酸価(mgKOH/g)は、好ましくは、20以上、130以下、より好ましくは30以上、100以下である。酸価が上記範囲である場合、分散体の分散安定性が良好であり好ましい。特に平均粒子径が小さい酸化銅の場合、上記範囲の酸価が有効である。具体的には、ビックケミー社製「DISPERBYK―102」(酸価101)、「DISPERBYK-140」(酸価73)、「DISPERBYK-142」(酸価46)、「DISPERBYK-145」(酸価76)、「DISPERBYK-118」(酸価36)、「DISPERBYK-180」(酸価94)等が好ましく挙げられる。
【0075】
また、分散剤のアミン価(mgKOH/g)と酸価との差([アミン価]-[酸価])は、-50以上0以下であることが好ましい。アミン価は、遊離塩基と遊離塩基由来部位との総量を示すものであり、酸価は、遊離脂肪酸と遊離脂肪酸由来部位との総量を示すものである。アミン価及び酸価は、それぞれ、JIS K 7700又はASTM D2074に準拠した方法で測定する。[アミン価]-[酸価]の値が-50以上0以下である場合、分散体の分散安定性が良好であり好ましい。[アミン価]-[酸価]の値は、より好ましくは-40以上0以下であり、さらに好ましくは-20以上0以下である。
【0076】
分散剤の含有量は、酸化銅の量に比例させ、要求される分散安定性を考慮し調整するのがよい。分散体中の酸化銅に対する分散剤の質量比率(分散剤質量/酸化銅質量)は、0.0050以上0.30以下であることが好ましく、より好ましくは0.050以上0.25以下であり、さらに好ましくは0.10以上0.23以下である。分散剤の量は分散体の分散安定性に影響し、量が少ないと酸化銅が凝集しやすく、多いと分散体の分散安定性が向上する傾向がある。但し、分散体における分散剤の含有率を35質量%以下にすると、焼成後に得られる銅含有膜において分散剤由来の残渣の影響を抑え、導電性を向上できる。一態様において、分散体100質量%中の分散剤の量は、好ましくは、0.5質量%以上、又は0.8質量%以上、又は1.0質量%以上であり、好ましくは、35質量%以下、又は30質量%以下、又は25質量%以下である。
【0077】
(還元剤)
分散体は、還元剤を更に含んでよい。還元剤としては、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、ナトリウム、水素化ホウ酸ナトリウム、ヨウ化カリウム、亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、蟻酸、シュウ酸、アスコルビン酸、硫化鉄(II)、塩化スズ(II)、水素化ジイソブチルアルミニウム、カーボン等が挙げられる。焼成処理において、酸化銅、特に酸化第一銅の還元に寄与し、より抵抗の低い還元銅層(銅含有膜として)を形成する観点から、還元剤としては、ヒドラジン及びヒドラジン水和物が最も好ましい。ヒドラジン及びヒドラジン水和物は、分散体の分散安定性の維持においても有利である。
【0078】
還元剤の含有量は、酸化銅の量に比例させ,要求される還元性を考慮し調整するのがよい。一態様において、分散体中の酸化銅に対する還元剤の質量比率(還元剤質量/酸化銅質量)は、好ましくは0.0001以上0.1以下、より好ましくは0.0001以上0.05以下、さらに好ましくは0.0001以上0.03以下である。還元剤の質量比率が0.0001以上である場合、分散体の分散安定性が良好であり、かつ還元銅層の抵抗が低い点で好ましく、0.1以下である場合、分散体の長期安定性が良好である。
【0079】
(分散体中の酸化銅と分散剤との関係)
図2は、本発明の一態様で使用できる分散体(酸化銅インク)における酸化銅とリン酸エステル塩との関係を示す断面模式図である。図2を参照し、本発明の一態様において、酸化銅インク200が、酸化銅22とリン酸エステル塩23(分散剤として)とを含む場合、酸化銅22の周囲を、リン酸エステル塩23が、リン23aを内側に、エステル塩23bを外側にそれぞれ向けて取り囲んでいる。リン酸エステル塩23は電気絶縁性を示すため、互いに隣接する酸化銅22間の電気的導通は、リン酸エステル塩23によって妨げられている。また、リン酸エステル塩23は、立体障害効果により酸化銅インク200の凝集を抑制している。したがって、酸化銅22は半導体である(すなわちある程度の導電性を有する)が、電気絶縁性を示すリン酸エステル塩23で覆われているので、酸化銅インク200は電気絶縁性を示す。このような酸化銅インク200で互いに隔てられた導電性パターン領域は、酸化銅インク200によって絶縁されていることができる。
【0080】
一方、導電性パターン領域(すなわち、塗布膜のうち光照射によって焼成された領域)においては、酸化銅22が銅に還元されるとともに、互いに隣接する酸化銅22同士が焼成され一体化される。これにより、優れた電気導電性を有する導電性パターン領域が形成される。なお、分散剤としてリン含有有機物を用いた場合、導電性パターン領域中にはリン元素が残存している。リン元素は、リン元素単体、リン酸化物及びリン含有有機物のうち少なくとも1つとして存在している。しかし、このような残存リン元素は、通常、導電性パターン領域中に偏析して存在しているため、導電性パターン領域の抵抗が大きくなる恐れはない。
【0081】
[塗布膜の形成]
分散体の塗布方法としては、スクリーン印刷、凹版ダイレクト印刷、凹版オフセット印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷、反転転写印刷等の印刷法、又はディスペンサー描画法等を用いることができる。塗布は、ダイコート、スピンコート、スリットコート、バーコート、ナイフコート、スプレーコート、ディツプコート等の方法を用いて実施できる。
【0082】
塗布膜の乾燥後の層厚は、均一な還元銅層を形成できる点で、好ましくは1nm以上10000nm以下、より好ましくは10nm以上8000nm以下、さらに好ましくは100nm以上7000nm以下である。
【0083】
<乾燥工程>
本工程では、塗布膜形成工程で得た塗布膜を乾燥させる。乾燥工程は分散媒を気化させるための工程である。分散媒は、室温で気化させてもよいし、オーブン、真空乾燥等の方法で気化させてもよい。基材の耐熱性を考慮すると、150℃以下の温度で乾燥させることが好ましく、100℃以下の温度で乾燥させることがさらに好ましい。
【0084】
<照射工程>
本工程では、乾燥工程後の塗布膜にレーザー光を照射して、銅含有膜を得る。塗布膜中の酸化銅粒子を還元して銅を生成させ、銅自体の融着及び一体化により銅含有膜(還元銅層)を形成することができる。分散体が銅粒子を含む場合は当該銅粒子と還元された銅との融着及び一体化も生じる。以上のようにして、銅含有膜が形成される。
【0085】
レーザー光の波長は自由に選択でき、分散体及び基材の吸収波長を考慮して選択することが可能である。またレーザーによればビームスキャンによる露光が可能であり、基材全面への露光、若しくは部分露光の選択等、露光範囲の調整が容易である。レーザーの種類としては、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)、YVO(イットリウムバナデイト)、Yb(イッテルビウム)、半導体レーザー(GaAs、GaAlAs、GaInAs)、炭酸ガス等を用いることができ、基本波だけでなく必要に応じ高調波を取り出して使用してもよい。
【0086】
レーザー光の中心波長は、300nm以上1500nm以下が好ましい。例えば、中心波長が、355nm以上532nm以下である場合、これら波長は酸化銅を含む塗布膜の吸収波長に含まれるため、好ましい。基材が樹脂である場合、レーザー光の中心波長としては、355nm、405nm、445nm、450nm、及び532nmが特に好ましい。また、導電性パターン付構造体の層間密着性の観点から、中心波長としては355nm及び532nmが好ましい。上記のような波長を選択することで、所望のボイドを形成して、所望の空隙率の銅含有膜を容易に作製できる。塗布膜に照射するレーザーの出力及びスピードを調整することによって、銅含有膜の空隙率を制御することができる。例えばレーザーの走査スピードを遅くすることは空隙率を低減させる方向に寄与する。
【0087】
一態様においては、塗布膜の一部の領域にレーザー光を照射する。レーザー光の選択的な照射は、例えば、レーザー光方式においてマスクを介して光線を塗布膜に照射すること、及び、レーザー光方式においてビームスキャンにより塗布膜に所望のパターンを直接描画することにより行うことができる。銅の酸化を防ぐ観点から、照射は非酸化性雰囲気で行うことが好ましい。レーザー光が照射される照射面は平面でも平面でなくてもよく、例えば基材が立体物である筐体であってもよい。
【0088】
(任意の洗浄)
レーザー照射後、未焼成領域は、適切な洗浄液を用いて除去してもよい。この場合、基材の上に焼成領域だけが残される。一方、洗浄工程を行わず、焼成領域とともに未焼成領域を残存させてもよい。いずれの場合も、導電性パターンとしての焼成領域によって導電性が付与された基材(以下、導電性基材ともいう。)が得られる。
【0089】
洗浄を行う場合の洗浄液としては、酸化銅を分散又は溶解させる液を用いることができる。具体例としては、水、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシ-3-メチル-ブチルアセテート、エトキシエチルプロピオネート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールターシャリーブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2-ペンタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、2,5-ヘキサンジオール、2,4-ヘプタンジオール、2-エチルヘキサン-1,3-ジオール、ジエチレングリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、トリエチレングリコール、トリ-1,2-プロピレングリコール、グリセロール、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノール、i-ペンタノール、2-メチルブタノール、2-ペンタノール、t-ペンタノール、3-メトキシブタノール、n-ヘキサノール、2-メチルペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、2-エチルブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、n-オクタノール、2-エチルヘキサノール、2-オクタノール、n-ノニルアルコール、2、6ジメチル-4-ヘプタノール、n-デカノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、3、3、5-トリメチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール、アセトン等が挙げられる。上記の溶媒は、特に、塗布膜に分散剤が含まれる場合、酸化銅を良好に洗い落とすことができ好適である。溶媒としては、水、エタノール、ブタノール、i-プロパノール、及びアセトンが特に好ましい。なお、上記の洗浄液に分散剤を加えてもよい。分散剤としては前述したものが使用でき、より好ましくはリン含有有機物である。
【0090】
レーザー光照射工程後の銅含有膜は0.5体積%以上の空隙率を有していることが好ましい。この空隙率とすることで、後のめっき工程においてめっき液が浸透しやすく、めっきの付着性がよくなるため、密着性が良好となる。上記空隙率は、より好ましくは0.7体積%以上、より好ましくは1.0体積%以上、より好ましくは1.5体積%以上、より好ましくは2.0体積%以上、より好ましくは2.5体積%以上である。また、銅含有膜と基材との密着性の観点から、空隙率は、好ましくは60体積%以下、より好ましくは58体積%以下、より好ましくは55体積%以下、より好ましくは53体積%以下、より好ましくは51体積%以下である。
【0091】
<脱脂工程>
本開示の方法は、一態様において、銅含有膜を脱脂する脱脂工程を更に含んでもよい。脱脂方法としては、UV法、湿式脱脂法等が挙げられる。脱脂工程により、その後のめっきの成長速度が速くなり、生産性が向上する。また、本工程は、めっき後の導電性層の空隙率低減、すなわち、最終的な導電性層の空隙率に寄与する。
【0092】
導電性パターン付構造体の層間密着性の観点から、脱脂工程は、アミノ基を含む化合物を含む脱脂液に上記導電性基材を浸漬することにより行われることが好ましい。アミノ基を含む化合物としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン、システイン、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン等のアミノ酸類、メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン等のアルキルアミン類、2-アミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン等のアルカノールアミン類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等のポリアミン類、タウリン等のアミノスルホン酸、2-アミノエタンチオール等のアミノチオール類、3-ピコリルアミン、3-ピリジンメタノール等の含窒素複素環式化合物類が挙げられる。めっきの成長速度に寄与する観点から、2-アミノエタノールが特に好ましい。
【0093】
脱脂液は市販品であってもよく、具体的には、上村工業株式会社のALC―009(アミノ基を有する化合物として2-アミノエタノールを含む)、アトテックジャパン株式会社のクリーナーセキュリガント902(アミノ基を有する化合物として2-アミノエタノールを含む)等が挙げられる。
【0094】
脱脂液の中のアミノ基を含む化合物の濃度としては、めっき反応の阻害物質を取り除く観点から5mmol/L以上が好ましく、10mmol/L以上がより好ましく、20mmol/L以上がより好ましい。また、めっき反応を促進させる観点から、100mmol/L以下が好ましく、90mmol/L以下がより好ましく、80mmol/Lがより好ましい。
【0095】
脱脂液への導電性基材の浸漬時間としては、めっきの成長速度に寄与する観点から1分以上が好ましく、2分以上がより好ましい。また、基材へのダメージを低減する観点から、15分以内が好ましく、10分以内がより好ましい。攪拌下での浸漬が、均一な脱脂の観点で好ましい。
【0096】
浸漬温度は、めっきの成長速度促進の効果を高めるために15℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましく、40℃以上がさらに好ましい。また、基材へのダメージを低減する観点から、70℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。
【0097】
脱脂工程後、導電性基材を洗浄した後にめっき工程を行うことが好ましい。洗浄液は水が好ましい。洗浄液の温度は15℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましい。また、基材へのダメージを低減する観点から、70℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。
【0098】
<めっき工程>
本工程では、脱脂工程を経た又は経ていない銅含有膜にめっきを行う。上述のようにして得られた導電性基材の銅含有膜(還元銅層)上に電解めっき又は無電解めっきを施すことで、所望の層厚のめっき層(例えばめっき銅層)を形成し、還元銅層及びめっき層で構成された導電性パターンを得る。この結果、導電性パターン付構造体を製造することができる。
【0099】
無電解めっきは、パターンへの適用性の広さの観点からより好ましい。特にレーザーでパターンが作製されている配線に対しては無電解めっきが好ましい。
【0100】
電解めっきには、一般的な電気めっき法を適用することができる。例えば、銅イオンを含む溶液(めっき浴)中に、一方に電極を入れ、他方にめっきを施す対象である導電性基材を入れる。そして、外部直流電源から直流電流を電極と導電性基材との間に印加する。導電性基材上の還元銅層に、外部直流電源の一方の電極に接続された冶具(例えばクリップ)を接続することで還元銅層に電流を印加できる。この結果、導電性基材上の還元銅層の表面に、銅イオンの還元によって銅が析出し、めっき銅層が形成される。
【0101】
電解めっき浴としては、例えば硫酸銅浴、ホウふっ化銅浴、シアン化銅浴、及びピロリン酸浴を使用することができる。安全性及び生産性の観点から、硫酸銅浴及びピロリン酸浴が好ましい。
【0102】
硫酸銅めっき浴としては、例えば、硫酸銅5水和物、硫酸及び塩素を含有する硫酸酸性硫酸銅めっき浴が好適に用いられる。硫酸銅めっき浴中の硫酸銅5水和物の濃度は、好ましくは50g/L~300g/L、より好ましくは100g/L~200g/Lである。硫酸の濃度は、好ましくは40g/L~160g/L、より好ましくは80g/L~120g/Lである。めっき浴の溶媒は、通常、水である。めっき浴の温度は、好ましくは20~60℃、より好ましくは30~50℃である。電解処理時の電流密度は、好ましくは1~15A/dm2であり、より好ましくは2~10A/dm2である。
【0103】
ピロリン酸銅めっき浴としては、例えば、ピロリン酸銅及びピロリン酸カリウムを含有するめっき浴が好適である。ピロリン酸銅めっき浴中のピロリン酸銅の濃度は、好ましくは60g/L~110g/L、より好ましくは70g/L~90g/Lである。ピロリン酸カリウムの濃度は、好ましくは240g/L~470g/L、より好ましくは300g/L~400g/Lである。めっき浴の溶媒は、通常、水である。めっき浴のpHは、好ましくは8.0~9.0、より好ましくは8.2~8.8である。pH値調整のために、アンモニア水等を添加してもよい。めっき浴の温度は、好ましくは20~60℃、より好ましくは30~50℃である。電解処理時の電流密度は、好ましくは0.5~10A/dm2であり、より好ましくは1~7A/dm2である。
【0104】
電解めっき用のめっき浴は界面活性剤を更に含んでもよい。
【0105】
無電解めっきには、一般的な無電解めっき法を適用することができる。例えば、脱脂工程又は洗浄工程と共に、無電解めっきを行う。無電解めっき浴としては、例えば銅イオン及び還元剤を含むめっき液を使用できる。空気バブリングを行いながら導電性基材をめっき液に浸漬することで、めっき液中の銅イオンが還元され、還元銅層の表面に銅が析出し、めっき銅層が形成される。
【0106】
無電解めっき浴としては、例えば銅イオン源としてCuSO4、錯化剤としてEDTA(エチレンジアミン四酢酸)又はロシェル塩、還元剤としてホルムアルデヒド(CH2O)、テトラヒドロ酸カリウム、ジメチルアミンボラン、グリオキシル酸、又はホスフィン酸を含むめっき液を使用できる。市販品としては、上村工業株式会社のスルカップPEA-6、スルカップELC-SP、メルテックス株式会社のメルプレートCU-390、メルプレートCU-5100P、奥野製薬工業株式会社のOPCカッパーHFS、OPCカッパーNCA、ATSアドカッパーIW、ロームアンドハース株式会社のCUPOSIT328、C4500、アトテック株式会社のAtotechMVTP1、PrintganthUPlus、日本マクダーミッド株式会社のCu-150、Cu-510、等を用いることができる。無電解めっきにはめっき液を用いる。めっき液はEDTA(エチレンジアミン四酢酸)を含むことが好ましい。EDTAは、錯化剤として機能し、銅イオンと安定性の高い錯体を形成するため、めっき浴中の副反応を抑制し、浴を安定化して、めっき析出を均一に進行させることにより塗布膜の剥がれ防止に寄与していると考えられる。したがって、EDTAを含むめっき液の使用は、層間密着性に優れる導電性パターン付構造体の製造に寄与する。またEDTAは、高温の液中においても安定であるため、EDTAを含むめっき液を加温下(例えば30℃以上)で使用する場合にはめっき速度を速めることにも寄与する。めっき液中のEDTAの量は、EDTAによる利点を良好に得る観点から、好ましくは、7g/L以上、又は10g/L以上、又は15g/L以上であり、めっき析出物中の不純物を低減し、電気抵抗を低くする観点から、好ましくは50g/L以下、又は45g/L以下、又は40g/L以下である。
【0107】
また、無電解めっき浴の温度は25~80℃が好ましく、より高速なめっき成長が望めることから30℃~70℃、又は35℃~65℃がより好ましい。めっき時間は5分~60分が好ましく、より好ましくは5分~50分、より好ましくは10分~40分である。
【0108】
無電解めっき用のめっき浴は界面活性剤を更に含んでもよい。
【0109】
無電解めっきは、銅濃度1.5g/L以上5.0g/L以下の範囲のめっき液を用いて行われることが好ましい。めっきの速度を向上させるために1.5g/L以上の濃度が好ましく、めっき被膜の均一性の観点から5.0g/L以下の濃度が好ましい。銅濃度は、さらに好ましくは1.5g/L以上4.0g/L以下、さらに好ましくは1.8g/L以上3.5g/L以下、さらに好ましくは2.0g/L以上3.0g//L以下である。
【0110】
めっき工程後、導電性基材を洗浄することが好ましい。洗浄液は水が好ましい。洗浄液の温度は15℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましい。また、基材へのダメージを低減する観点から、70℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。
【0111】
めっき層(一態様においてめっき銅層)の層厚は、導電性パターン付構造体に要求される電流を流すことが可能である点で、好ましくは1μm以上100μm以下、より好ましくは1μm以上50μm以下、更に好ましくは2μm以上30μm以下である。
【0112】
めっきを行うことにより、レーザー光照射後の銅含有膜の第1主面側領域の空隙率を低減させることができる。第1主面側領域の空隙率の減少率はめっき液の組成、めっき時間、及びめっき温度を調整することによって制御することができる。例えばめっき時間を長くすることは銅含有膜の空隙率を低減させる方向に寄与する。また、この時の減少率は上述の脱脂工程にも影響を受ける。例えば、脱脂工程において脱脂時間を長くすることは銅含有膜の空隙率を低減させる方向に寄与する。なお第1主面側領域の空隙率の減少率とは、下記式:
第1主面側領域の空隙率の減少率=[(銅含有膜形成直後の第1主面側領域の空隙率)-(めっき工程後の第1主面側領域の空隙率)]/[銅含有膜形成直後の第1主面側領域の空隙率]
で求められる値である。
例えば、空隙率の減少率は、銅含有膜の導電性向上の観点から、1.0体積%以上が好ましく、1.5体積%以上がより好ましく、2.0体積%以上がさらに好ましく、空隙減少に伴う応力によって導電性層のはがれが発生することを防ぐ観点から50体積%以下が好ましい。
【0113】
一態様において、導電性層の第2主面側領域は、前述のめっき工程によって形成されるめっき銅層である。第2主面側領域の空隙率は、めっき条件によって制御できる。例えば、めっき時間を長くすることは、めっき層の空隙率を低減させる方向に寄与する。
【0114】
一態様において、前述の第3の領域の少なくとも一部が第1主面側領域と同様の特性を有するように当該第3の領域を形成する場合には、例えば、レーザー光照射条件及び/又はめっき条件を制御することによって銅含有膜の空隙率を所望の範囲まで変化させ、第1主面側領域及び第3の領域の空隙率を所望の範囲に制御できる。また、一態様において、前述の第3の領域の少なくとも一部が第2主面側領域と同様の特性を有するように当該第3の領域を形成する場合には、めっき条件を制御することによって銅含有膜の空隙率を所望の範囲まで変化させるとともにめっき層の空隙率を調整し、第2主面側領域及び第3の領域の空隙率を所望の範囲に制御できる。第1主面側領域、第2主面側領域及び第3の領域の空隙率は、前述のレーザー光照射、脱脂及びめっきという一連の工程の条件の最適化により所望の範囲に制御できる。
【0115】
銅含有膜のうち、第1主面側領域の空隙率を有する部位(例えば、第3の領域の少なくとも一部が第1主面側領域と同様の空隙率を有する場合には当該部分も含む)の厚みは0.001~10μmが好ましく、0.01~8μmがより好ましく、0.1~7μmがさらに好ましい。また、第2主面側領域の空隙率を有する部位(例えば、第3の領域の少なくとも一部が第2主面側領域と同様の空隙率を有する場合には当該部分も含む)(典型的にはめっき銅層)の好ましい厚みは、めっき銅層の層厚として上述した通りであり、すなわち、好ましくは1μm以上100μm以下、より好ましくは1μm以上50μm以下、更に好ましくは2μm以上30μm以下である。
【0116】
<導電性パターン付構造体の製造方法の好適例>
以下、図3を参照して、導電性パターン付構造体の製造方法のより具体的な好適例を説明する。
図3(a)に示す塗布膜形成工程において、水とプロピレングリコール(PG)との混合溶媒中に酢酸銅を溶かし、ヒドラジンを加えて攪拌する。
次いで、図3(b)及び(c)に示すように、生成物溶液(上澄み)と酸化第一銅(沈殿物)とを遠心分離する。
次いで、図3(d)に示すように、沈殿物に、分散剤及びアルコールを加え、沈殿物を分散させる。
次いで、図3(e)及び(f)に示すように、酸化銅を含む分散体を、スプレーコート法等によって基材上に塗布し、酸化銅及び分散剤を含む塗布膜を形成する。
【0117】
次に、図3(g)に示すように、塗布膜に対して選択的なレーザー光照射を行い、塗布膜の一部を選択的に焼成し、酸化銅を銅に還元する。この結果、図3(h)に示すように、基材上に、酸化銅及び分散剤を含む絶縁領域と、銅を含む還元銅層とが互いに隣接して配置された単一層が形成された導電性基材が得られる。
【0118】
レーザー光照射後、図3中(i)に示すように、酸化銅及び分散剤を含む絶縁領域を適切な現像液を用いて除去してよい。この工程を現像工程と呼ぶ。この場合、基材上に焼成領域(すなわち還元銅層)のみを残存させることができる。洗浄後には、図3(j)に示すように、基材の上に還元銅層だけが残された導電性基材が得られる。現像液は、一態様において、有機溶媒若しくは水又はこれらの混合物である溶媒と、分散剤とを含む。一態様において、有機溶媒は、アルコール、ケトン、エステル及びエーテルから成る群から選ばれる1種以上である。本開示の現像液は、分散剤の寄与によって、乾燥塗膜の塗膜成分(特に、現像除去され難い成分である酸化銅粒子)を現像液中に良好に分散できるため、アルコール、ケトン、エステル及びエーテルから成る群から選ばれる有機溶媒並びに/又は水といった、金属配線及び基材にダメージを与え難い溶媒系であっても、良好な現像を実現できる。このように、本開示の現像液は、金属配線のダメージの回避と良好な現像性との両立に寄与する。溶媒は、1種又は2種以上の組合せであってよく、好ましくは極性溶媒を含み、より好ましくは極性溶媒で構成されている。極性溶媒は、酸化銅粒子の分散能に優れるため、現像性の点で特に有利である。現像液に含まれる溶媒(1種又は2種以上の組合せであってよい)は、好ましくは、分散体に含まれる分散媒(1種又は2種以上の組合せであってよい)の少なくとも1種と同種の化合物を含み、又は、当該分散媒と同種の化合物で構成される。
【0119】
アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、ターシャリーブタノール、ブタンジオール、エチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。
【0120】
ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
【0121】
エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸アミル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等が挙げられる。
【0122】
エーテルとしては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、1,4ジエチレンオキシド、ビニルエチレンカルボナート、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0123】
現像液中の溶媒は、極性を高くできる点で、水、エタノール、プロパノール、ブタノール、及びイソプロピルアルコールから成る群から選ばれる1種以上を含むことが好ましく、当該1種以上で構成されていることが特に好ましい。
【0124】
一態様において、現像液は分散剤を含む。分散剤は、基材に付着した酸化銅粒子を効率よく現像液中に分散させる(すなわち効率よく除去する)ことができる。分散剤としては、本開示の分散体が含み得る分散剤として前述したものが好ましい。例えばリン含有有機化合物を用いると、酸化銅粒子が現像液中に良好に分散するため、現像が容易である。したがって一態様において、現像液中の分散剤の好適化合物例は、分散剤の項で前述した分散剤の好適化合物例と同様である。
【0125】
現像液中の分散剤の含有率は、基材に付着した酸化銅粒子を効率よく現像液中に分散させる(すなわち効率よく除去する)ことができる点で、好ましくは0.1質量%以上、又は0.5質量%以上、又は1.0質量%以上であり、分散剤による金属配線の溶解を抑制できる点、高粘度の分散剤を使用しても現像に適した低粘度の現像液を形成できる点、及び、基材及び金属配線への余分な分散剤の付着を防ぎ、現像後の水洗工程を簡易化できる点で、好ましくは、20質量%以下、又は15質量%以下、又は10質量%以下である。
【0126】
次いで、図3(k)に示すように、アミノ基を含む化合物を含む脱脂液に導電性基材を浸漬し、脱脂工程を行う。
次いで、図3(l)に示すように、還元銅層上にめっき銅層を形成する。
以上の手順で、導電性パターン付構造体を製造できる。
【実施例
【0127】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0128】
<評価方法>
[ヒドラジン定量方法]
標準添加法によりヒドラジンの定量を行った。
サンプル(分散体)50μLに、ヒドラジン33μg、サロゲート物質(ヒドラジン1524)33μg、ベンズアルデヒド1質量%アセトニトリル溶液1mlを加えた。最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
【0129】
同じく、サンプル(分散体)50μLに、ヒドラジン66μg、サロゲート物質(ヒドラジン1524)33μg、ベンズアルデヒド1質量%アセトニトリル溶液1mlを加えた。最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
【0130】
同じく、サンプル(分散体)50μLに、ヒドラジン133μg、サロゲート物質(ヒドラジン1524)33μg、ベンズアルデヒド1質量%アセトニトリル溶液1mlを加えた。最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
【0131】
最後に、サンプル(分散体)50μLに、ヒドラジンを加えず、サロゲート物質(ヒドラジン1524)33μg、ベンズアルデヒド1質量%アセトニトリル溶液1mlを加え、最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
【0132】
上記4点のGC/MS測定から、m/z=207のクロマトグラムラムよりヒドラジンのピーク面積値を得た。次にm/z=209のマスクロマトグラムよりサロゲートのピーク面積値を得た。x軸に、添加したヒドラジンの質量/添加したサロゲート物質の質量、y軸に、ヒドラジンのピーク面積値/サロゲート物質のピーク面積値をとり、標準添加法による検量線を得た。
【0133】
検量線から得られたY切片の値を、添加したヒドラジンの質量/添加したサロゲート物質の質量で除しヒドラジンの質量を得た。
【0134】
[平均粒子径測定]
分散体の平均粒子径は、大塚電子製FPAR-1000を用いてキュムラント法によって測定した。
【0135】
[導電性層の空隙率測定及び元素分析]
(第1主面及び第2主面の画定)
導電性層をエポキシ樹脂に固結した後、SEM(走査型電子顕微鏡)による断面分析が可能となるようにFIB(集束イオンビーム)加工し、SEM断面観察に供した。観察は5万倍の倍率で行った。試料中の導電性層部分について、第1主面及び第2主面の各々の、任意に選択した測定長2μmの範囲で画像処理ソフトImageJを用い、平滑化後にコントラスト調整を行い、8bit化後、Smoothでスムージング、MedianFilter(Radius;3pixels)を実施した。その後、Thresholdによる2値化を実行した。2値化の際の閾値は、ソフト上に組み込まれている判定方法、「Isodata」により決定した。その後、Analyze line graphを用いてプロファイルを数値化し、粗さ曲線を抽出し、最大高さ、最小高さ、平均線及び算術平均粗さRaを求めた。各実施例及び比較例における算術平均粗さは1.0μm未満であったため、導電性層断面上の第1主面は、最大高さを与える点を通りかつ平均線と平行に延びる線として画定し、導電性層断面上の第2主面は、最大高さを与える点を通りかつ平均線と平行に延びる線として画定した。上記で画定した導電性層断面上の第1主面及び第2主面に基づいて、空隙率測定及び元素分析を行った。
【0136】
(空隙率及び元素比の測定)
第1主面から導電性層厚み方向深さ100nmまでの範囲、及び第2主面から導電性層厚み方向深さ100nmまでの範囲のそれぞれにおける、2μm×100nmの長方形の観察範囲(観察倍率5万倍)において、NIH(米国国立衛生研究所)のImageJソフトによってSEMによって得られた画像を8bit化後、Smoothでスムージング、MedianFilter(Radius;4pixels)を実施した。その後、Thresholdによる2値化を実行した。2値化の際の閾値は、ソフト上に組み込まれている判定方法、「Triangle法」により決定した。空隙部の面積はAnalyze Practicleにより算出した。なお空隙の長径は、上記処理後の画像において、各々の独立した黒色部分の周縁における任意の2点を取ったときの最大距離として測定した。
また、同じ観察範囲で、EDX分析により元素比を測定した。
【0137】
(SEM観察条件)
装置:S4700(日立ハイテク)
二次電子像(SE)観察時;加速電圧 1kV
EDX分析時;加速電圧 5kV
【0138】
[厚み測定]
上記のSEM断面像より厚みを算出した。
【0139】
[抵抗値]
抵抗計(ADVANTEST社製のAD7461A)を用い、4端子測定法によって測定した。
【0140】
[密着性評価(テープ剥離試験)]
導電性パターン付構造体について、スリーエム株式会社の軽包装用OPPテープ618を用いて、90°剥離にて密着性を評価した。完全剥離の場合を1点、導電性パターン面積のうち50%より大きく100%未満の面積が剥離した場合を2点、0%以上50%以下が剥離した場合を3点として評価を行った。
【0141】
[応力緩和性]
導電性パターン付構造体について、90°の折り曲げを行い、応力緩和性を評価した。完全剥離の場合を1点、導電性パターン面積のうち50%より大きく100%未満の面積が剥離した場合を2点、0%以上50%以下が剥離した場合を3点として評価を行った。
【0142】
[薬剤耐性]
導電性パターン付構造体について、0.1Mの塩酸に浸漬した後、水洗を行った。処理前後の抵抗値を測定し、抵抗値の処理前に対する処理後の比率が110%未満の場合を3点、110%以上150%未満の場合を2点、150%以上の場合を1点として評価を行った。抵抗の測定は4端子法を用いた。
【0143】
[耐酸化安定性]
導電性パターン付構造体について、大気下で80℃加熱を5時間行った。処理前後の抵抗値を測定し、抵抗値の処理前に対する処理後の比率が110%未満の場合を3点、110%以上150%未満の場合を2点、150%以上の場合を1点として評価を行った。抵抗の測定は4端子法を用いた。
【0144】
<実施例1>
蒸留水(共栄製薬株式会社製)7560g、1,2-プロピレングリコール(関東化学株式会社製)3494gの混合溶媒中に酢酸銅(II)一水和物(関東化学株式会社製)806gを溶かし、外部温調器によって液温を-5℃にした。ヒドラジン一水和物(東京化成工業株式会社製)235gを20分間かけて加え、窒素雰囲気中で30分間攪拌した後、外部温調器によって液温を25℃にし、窒素雰囲気中で90分間攪拌した。攪拌後、遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。得られた沈殿物390gに、DISPERBYK-145(ビッグケミー製、リン酸基含有有機化合物)13.7g(分散剤含有量4g)及びエタノール(関東化学株式会社製)907gを加え、窒素雰囲気中でホモジナイザーを用いて分散し、酸化第一銅を含む分散体1365gを得た。
【0145】
分散体は良好に分散されており、平均粒子径は21nmであった。ヒドラジン量は3000質量ppmであった。
【0146】
得られた分散体を、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、カプトン500H、厚み125μm)にスピンコート法によって塗布し、90℃のオーブンで2時間保持して塗布膜内の溶媒を揮発させて試料1を得た。得られた試料1の塗布膜厚は1000nmであった。
【0147】
ガルバノスキャナを用いて、最大速度1200mm/分で焦点位置を動かしながらレーザー光(パルス波発振、532nm)を、試料1の塗布膜に照射することで、所望とする0.5mm×5mmの寸法の銅を含む導電性パターン領域(銅含有膜)を得た。レーザー光を照射しなかった領域には塗布膜が残っていた。
【0148】
導電性パターン領域の銅の断面をSEMで観察したところ、厚みは0.5μm、空隙率は第1主面側領域で11.7体積%であった。また導電性パターン領域の抵抗値は30μΩcmであった。
【0149】
次に、導電性パターン領域が形成された試料1を超純水に浸して一分間振とうした後、エタノールに浸して一分間振とうすることで未焼成領域を洗い流し、室温で乾燥させた。
【0150】
次に、導電性パターン領域が形成された試料1に無電解めっき処理を施すことによって、導電性パターン領域の上に銅(めっき銅層)を積層した。無電解めっきの前処理として上村工業株式会社のACL-009を50mL/Lとなるように水に溶解した処理液を50℃に加温し、試料1を5分間浸漬した。処理後、試料1を取り出し水洗した。無電解めっき処理液として上村工業株式会社のスルカップPEA-6 ver.3を用い、33℃で30分処理した。形成されためっき銅層の厚みは約1μmであった。以上の手順で、実施例1に係る導電性パターン付構造体を得た。
【0151】
導電性パターン領域とめっき銅層との積層部である導電性層の抵抗値を4端子測定法によって測定したところ、7.3μΩcmであった。電気回路を形成するのに十分低い抵抗値であることが示された。
【0152】
また、導電性層の断面をSEMで観察したところ、空隙率は第1主面側領域で1.0体積%、及び第2主面側領域で0.06体積%、元素組成は第1主面側領域でCu/O=100/12、第2主面側領域でCu/O=100/6(原子数基準)であった。
【0153】
導電性パターン付構造体のテープ剥離試験(90°剥離)を行ったところ、はがれが起きなかった。
【0154】
<実施例2>
実施例1と同様にして得られた分散体を、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、カプトン500H、厚み125μm)にスピンコート法によって塗布し、90℃のオーブンで2時間保持して塗布膜内の溶媒を揮発させて試料2を得た。得られた試料2の塗布膜厚は1000nmであった。
【0155】
ガルバノスキャナを用いて、最大速度4500mm/分で焦点位置を動かしながらレーザー光(パルス波発振、532nm)を、試料2の塗布膜に照射することで、所望とする0.5mm×5mmの寸法の銅を含む導電性パターン領域(銅含有膜)を得た。レーザー光を照射しなかった領域には塗布膜が残っていた。
【0156】
導電性パターン領域の銅の断面をSEMで観察したところ、厚みは0.5μm、空隙率は第1主面側領域で40体積%であった。また導電性パターン領域の抵抗値は50μΩcmであった。
【0157】
次に、導電性パターン領域が形成された試料2を超純水に浸して1分間振とうした後、エタノールに浸して1分間振とうすることで未焼成領域を洗い流し、室温で乾燥させた。
【0158】
次に、導電性パターン領域が形成された試料2に無電解めっき処理を施すことによって、導電性パターン領域の上に銅(めっき銅層)を積層した。無電解めっきの前処理として上村工業株式会社のACL-009を50mL/Lとなるように水に溶解した処理液を50℃に加温し、試料2を5分間浸漬した。処理後、試料2を取り出し水洗した。無電解めっき処理液として上村工業株式会社のスルカップPEA-6 ver.3を用い、33℃で30分処理した。形成されためっき銅層の厚みは約1μmであった。以上の手順で、実施例2に係る導電性パターン付構造体を得た。
【0159】
導電性層の断面をSEMで観察したところ、空隙率は第1主面側領域で1.6体積%、及び第2主面側領域で0.6体積%、元素組成は第1主面側領域でCu/O=100/14、第2主面側領域でCu/O=100/9(原子数基準)であった。
【0160】
<実施例3>
実施例1と同様にして得られた分散体を、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、カプトン500H、厚み125μm)にスピンコート法によって塗布し、90℃のオーブンで2時間保持して塗布膜内の溶媒を揮発させて試料3を得た。得られた試料3の塗布膜厚は1000nmであった。
【0161】
ガルバノスキャナを用いて、最大速度1200mm/分で焦点位置を動かしながらレーザー光(パルス波発振、532nm)を、試料3の塗布膜に照射することで、所望とする0.5mm×5mmの寸法の銅を含む導電性パターン領域(銅含有膜)を得た。レーザー光を照射しなかった領域には塗布膜が残っていた。
【0162】
導電性パターン領域の銅の断面をSEMで観察したところ、厚みは0.5μm、空隙率は第1主面側領域で11.7体積%であった。また導電性パターン領域の抵抗値は30μΩcmであった。
【0163】
次に、導電性パターン領域が形成された試料3を超純水に浸して1分間振とうした後、エタノールに浸して1分間振とうすることで未焼成領域を洗い流し、室温で乾燥させた。
【0164】
次に、導電性パターン領域が形成された試料3に無電解めっき処理を施すことによって、導電性パターン領域の上に銅(めっき銅層)を積層した。無電解めっきの前処理として上村工業株式会社のACL-009を50mL/Lとなるように水に溶解した処理液を50℃に加温し、試料3を5分間浸漬した。処理後、試料3を取り出し水洗した。無電解めっき処理液として上村工業株式会社のスルカップPEA-6 ver.3を用い、50℃で10分処理した。形成されためっき銅層の厚みは約0.5μmであった。以上の手順で、実施例3に係る導電性パターン付構造体を得た。
【0165】
導電性層の断面をSEMで観察したところ、空隙率は第1主面側領域で5.4体積%、及び第2主面側領域で0.9体積%、元素組成は第1主面側領域でCu/O=100/34、第2主面側領域でCu/O=100/9(原子数基準)であった。
【0166】
<実施例4>
実施例1と同様にして得られた分散体を、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、カプトン500H、厚み125μm)にスピンコート法によって塗布し、90℃のオーブンで2時間保持して塗布膜内の溶媒を揮発させて試料4を得た。得られた試料4の塗布膜厚は1000nmであった。
【0167】
ガルバノスキャナを用いて、最大速度3000mm/分で焦点位置を動かしながらレーザー光(パルス波発振、532nm)を、試料4の塗布膜に照射することで、所望とする0.5mm×5mmの寸法の銅を含む導電性パターン領域(銅含有膜)を得た。レーザー光を照射しなかった領域には塗布膜が残っていた。
【0168】
導電性パターン領域の銅の断面をSEMで観察したところ、厚みは0.5μm、空隙率は第1主面側領域で35体積%であった。また導電性パターン領域の抵抗値は45μΩcmであった。
【0169】
次に、導電性パターン領域が形成された試料4を超純水に浸して1分間振とうした後、エタノールに浸して1分間振とうすることで未焼成領域を洗い流し、室温で乾燥させた。
【0170】
次に、導電性パターン領域が形成された試料4に無電解めっき処理を施すことによって、導電性パターン領域の上に銅(めっき銅層)を積層した。無電解めっきの前処理として上村工業株式会社のACL-009を50mL/Lとなるように水に溶解した処理液を50℃に加温し、試料4を5分間浸漬した。処理後、試料4を取り出し水洗した。無電解めっき処理液として上村工業株式会社のスルカップPEA-6 ver.3を用い、60℃で10分処理した。形成されためっき銅層の厚みは約0.5μmであった。以上の手順で、実施例4に係る導電性パターン付構造体を得た。
【0171】
導電性層の断面をSEMで観察したところ、空隙率は第1主面側領域で23.4体積%、及び第2主面側領域で0.9体積%、元素組成は第1主面側領域でCu/O=100/11、第2主面側領域でCu/O=100/10(原子数基準)であった。
【0172】
<実施例5>
実施例1と同様にして得られた分散体を、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、カプトン500H、厚み125μm)にスピンコート法によって塗布し、90℃のオーブンで2時間保持して塗布膜内の溶媒を揮発させて試料5を得た。得られた試料5の塗布膜厚は1000nmであった。
【0173】
ガルバノスキャナを用いて、最大速度4500mm/分で焦点位置を動かしながらレーザー光(パルス波発振、532nm)を、試料5の塗布膜に照射することで、所望とする0.5mm×5mmの寸法の銅を含む導電性パターン領域(銅含有膜)を得た。レーザー光を照射しなかった領域には塗布膜が残っていた。
【0174】
導電性パターン領域の銅の断面をSEMで観察したところ、厚みは0.5μm、空隙率は第1主面側領域で40体積%であった。また導電性パターン領域の抵抗値は50μΩcmであった。
【0175】
次に、導電性パターン領域が形成された試料5を超純水に浸して1分間振とうした後、エタノールに浸して1分間振とうすることで未焼成領域を洗い流し、室温で乾燥させた。
【0176】
次に、導電性パターン領域が形成された試料5に無電解めっき処理を施すことによって、導電性パターン領域の上に銅(めっき銅層)を積層した。無電解めっきの前処理として上村工業株式会社のACL-009を50mL/Lとなるように水に溶解した処理液を50℃に加温し、試料5を5分間浸漬した。処理後、試料5を取り出し水洗した。無電解めっき処理液として上村工業株式会社のスルカップPEA-6 ver.3を用い、65℃で10分処理した。形成されためっき銅層の厚みは約0.5μmであった。以上の手順で、実施例5に係る導電性パターン付構造体を得た。
【0177】
導電性層の断面をSEMで観察したところ、空隙率は第1主面側領域で27.2体積%、及び第2主面側領域で0.9体積%、元素組成は第1主面側領域でCu/O=100/10、第2主面側領域でCu/O=100/9(原子数基準)であった。
【0178】
<実施例6>
実施例1と同様にして得られた分散体を、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、カプトン500H、厚み125μm)にスピンコート法によって塗布し、90℃のオーブンで2時間保持して塗布膜内の溶媒を揮発させて試料6を得た。得られた試料6の塗布膜厚は1000nmであった。
【0179】
ガルバノスキャナを用いて、最大速度6000m/分で焦点位置を動かしながらレーザー光(パルス波発振、532nm)を、試料6の塗布膜に照射することで、所望とする0.5mm×5mmの寸法の銅を含む導電性パターン領域(銅含有膜)を得た。レーザー光を照射しなかった領域には塗布膜が残っていた。
【0180】
導電性パターン領域の銅の断面をSEMで観察したところ、厚みは0.6μm、空隙率は第1主面側領域で45体積%であった。また導電性パターン領域の抵抗値は53μΩcmであった。
【0181】
次に、導電性パターン領域が形成された試料6を超純水に浸して1分間振とうした後、エタノールに浸して1分間振とうすることで未焼成領域を洗い流し、室温で乾燥させた。
【0182】
次に、導電性パターン領域が形成された試料6に無電解めっき処理を施すことによって、導電性パターン領域の上に銅(めっき銅層)を積層した。無電解めっきの前処理として上村工業株式会社のACL-009を50mL/Lとなるように水に溶解した処理液を50℃に加温し、試料6を5分間浸漬した。処理後、試料6を取り出し水洗した。無電解めっき処理液として上村工業株式会社のスルカップPEA-6 ver.3を用い、65℃で10分処理した。形成されためっき銅層の厚みは約0.5μmであった。以上の手順で、実施例6に係る導電性パターン付構造体を得た。
【0183】
導電性層の断面をSEMで観察したところ、空隙率は第1主面側領域で34.3体積%、及び第2主面側領域で3.1体積%、元素組成は第1主面側領域でCu/O=100/13、第2主面側領域でCu/O=100/10(原子数基準)であった。
【0184】
<実施例7>
実施例1と同様にして得られた分散体を、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、カプトン500H、厚み125μm)にスピンコート法によって塗布し、90℃のオーブンで2時間保持して塗布膜内の溶媒を揮発させて試料7を得た。得られた試料7の塗布膜厚は1000nmであった。
【0185】
ガルバノスキャナを用いて、最大速度1800mm/分で焦点位置を動かしながらレーザー光(パルス波発振、532nm)を、試料7の塗布膜に照射することで、所望とする0.5mm×5mmの寸法の銅を含む導電性パターン領域(銅含有膜)を得た。レーザー光を照射しなかった領域には塗布膜が残っていた。
【0186】
導電性パターン領域の銅の断面をSEMで観察したところ、厚みは0.5μm、空隙率は第1主面側領域で22体積%であった。また導電性パターン領域の抵抗値は35μΩcmであった。
【0187】
次に、導電性パターン領域が形成された試料7を超純水に浸して1分間振とうした後、エタノールに浸して1分間振とうすることで未焼成領域を洗い流し、室温で乾燥させた。
【0188】
次に、導電性パターン領域が形成された試料7に無電解めっき処理を施すことによって、導電性パターン領域の上に銅(めっき銅層)を積層した。無電解めっきの前処理として上村工業株式会社のACL-009を50mL/Lとなるように水に溶解した処理液を50℃に加温し、試料7を5分間浸漬した。処理後、試料7を取り出し水洗した。無電解めっき処理液として上村工業株式会社のスルカップPEA-6 ver.3を用い、33℃で30分処理した。形成されためっき銅層の厚みは約1.0μmであった。
【0189】
次に、上記試料に電解めっきを更に施すことによって、めっき銅層の上に電解めっき銅層を積層した。電解めっき液として清川めっき工業株式会社の電解めっき液 M-1を用い、電流値0.01Aを5分間流して処理した。積層された銅の厚みは約1.0μmであった。以上の手順で、実施例7に係る導電性パターン付構造体を得た。
【0190】
導電性層の断面をSEMで観察したところ、空隙率は第1主面側領域で6.4体積%、及び第2主面側領域で9.8体積%、元素組成は第1主面側領域でCu/O=100/10、第2主面側領域でCu/O=100/18(原子数基準)であった。
【0191】
<実施例8>
平均粒子径5μmの銅ペーストを用い、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、カプトン500H、厚み125μm)にバーコートによって塗布し、90℃のオーブンで2時間保持して塗布膜内の溶媒を揮発させて試料8を得た。得られた試料8の塗布膜厚は1000nmであった。
【0192】
ガルバノスキャナを用いて、最大速度1200mm/分で焦点位置を動かしながらレーザー光(パルス波発振、532nm)を、試料8の塗布膜に照射することで、所望とする0.5mm×5mmの寸法の銅を含む導電性パターン領域(銅含有膜)を得た。レーザー光を照射しなかった領域には塗布膜が残っていた。
【0193】
導電性パターン領域の銅の断面をSEMで観察したところ、厚みは0.8μm、空隙率は第1主面側領域で53.2体積%であった。また導電性パターン領域の抵抗値は122μΩcmであった。
【0194】
次に、導電性パターン領域が形成された試料8に無電解めっき処理を施すことによって、導電性パターン領域の上に銅(めっき銅層)を積層した。無電解めっきの前処理として上村工業株式会社のACL-009を50mL/Lとなるように水に溶解した処理液を50℃に加温し、試料8を5分間浸漬した。処理後、試料8を取り出し水洗した。無電解めっき処理液として上村工業株式会社のスルカップPEA-6 ver.3を用い、33℃で30分処理した。形成されためっき銅層の厚みは約1.0μmであった。以上の手順で、実施例8に係る導電性パターン付構造体を得た。
【0195】
導電性層の断面をSEMで観察したところ、空隙率は第1主面側領域で2.2体積%、及び第2主面側領域で1.8体積%、元素組成は第1主面側領域でCu/O=100/7、第2主面側領域でCu/O=100/7(原子数基準)であった。
【0196】
<比較例1>
真空チャンバー内にPET基板を設置し、背圧8×10-Paまで真空引きした。銅の蒸着源温度を1350℃に設定し、1Å/秒の蒸着速度で真空蒸着した。蒸着後の銅膜厚は、500nmであった。以上の手順で、比較例1に係る導電性パターン付構造体を得た。
【0197】
導電性層の断面をSEMで観察したところ、銅膜は蒸着膜であるため、第1主面は空隙を有さなかった。元素組成は第1主面側領域でCu/O=100/6、第2主面側領域でCu/O=100/6(原子数基準)であった。
【0198】
<比較例2>
実施例1と同様にして得られた分散体を、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、カプトン500H、厚み125μm)にスピンコート法によって塗布し、90℃のオーブンで2時間保持して塗布膜内の溶媒を揮発させて試料10を得た。得られた試料10の塗布膜厚は1000nmであった。
【0199】
ガルバノスキャナを用いて、最大速度1200mm/分で焦点位置を動かしながらレーザー光(パルス波発振、532nm)を、試料10の塗布膜に照射することで、所望とする0.5mm×5mmの寸法の銅を含む導電性パターン領域(銅含有膜)を得た。レーザー光を照射しなかった領域には塗布膜が残っていた。
【0200】
導電性パターン領域の銅の断面をSEMで観察したところ、厚みは0.5μm、空隙率は第1主面側領域で11.7体積%であった。また導電性パターン領域の抵抗値は30μΩcmであった。
【0201】
次に、導電性パターン領域が形成された試料10を超純水に浸して1分間振とうした後、エタノールに浸して1分間振とうすることで未焼成領域を洗い流し、室温で乾燥させた。
【0202】
次に、上記試料に電解めっきを施すことによって、電解めっき銅層を積層した。電解めっき液として清川めっき工業株式会社の電解めっき液 M-1を用い、電流値0.1Aを10分間流して処理した。積層された銅の厚みは約10μmであった。以上の手順で、比較例2に係る導電性パターン付構造体を得た。
【0203】
導電性層の断面をSEMで観察したところ、空隙率は第1主面側領域で11.7体積%、及び第2主面側領域で50.9体積%、元素組成は第1主面側領域でCu/O=100/18、第2主面側領域でCu/O=100/18(原子数基準)であった。
【0204】
<比較例3>
実施例1と同様にして得られた分散体を、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、カプトン500H、厚み125μm)にスピンコート法によって塗布し、90℃のオーブンで2時間保持して塗布膜内の溶媒を揮発させて試料11を得た。得られた試料11の塗布膜厚は1000nmであった。
【0205】
ガルバノスキャナを用いて、最大速度1200mm/分で焦点位置を動かしながらレーザー光(パルス波発振、532nm)を、試料11の塗布膜に照射することで、所望とする0.5mm×5mmの寸法の銅を含む導電性パターン領域(銅含有膜)を得た。レーザー光を照射しなかった領域には塗布膜が残っていた。
【0206】
導電性パターン領域の銅の断面をSEMで観察したところ、厚みは0.5μm、空隙率は第1主面側領域で11.7体積%であった。また導電性パターン領域の抵抗値は30μΩcmであった。
【0207】
次に、導電性パターン領域が形成された試料11を超純水に浸して1分間振とうした後、エタノールに浸して1分間振とうすることで未焼成領域を洗い流し、室温で乾燥させた。
【0208】
次に、上記試料に実施例1と同様にして得られた分散体をスピンコート法によって塗布し、90℃のオーブンで2時間保持して塗布膜内の溶媒を揮発させた。プラズマ焼成装置で1.5kw、240秒間、圧力140Pa、水素3%/窒素97%(v/v)混合ガスを少量流した状態で焼成した。以上の手順で、比較例3に係る導電性パターン付構造体を得た。
【0209】
導電性層の断面をSEMで観察したところ、空隙率は第1主面側領域で6,4体積%、及び第2主面側領域で12.9体積%、元素組成は第1主面側領域でCu/O=100/22、第2主面側領域でCu/O=100/29(原子数基準)であった。
【0210】
実施例、比較例のそれぞれの試料の空隙率評価、酸素原子量評価、密着性評価(テープ剥離試験)、応力緩和性評価、薬剤耐性評価、耐酸化安定性評価を行った結果を表1に示す。密着性評価、応力緩和性評価、薬剤耐性評価、酸化安定性評価はそれぞれ1~3点の点数をつけ、その合計点も表に示した。
【0211】
【表1】
【0212】
なお、本発明は、上記実施の形態や実施例に限定されるものではない。当業者の知識に基づいて上記実施の形態や実施例に設計の変更等を加えてもよく、また、上記実施の形態や実施例を任意に組み合わせてもよく、そのような変更等を加えた態様も本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0213】
本発明は、プリント配線板、アンテナ、電子デバイス、電磁波シールド、帯電防止膜等の製造に好適に適用され得る。
【符号の説明】
【0214】
100 導電性パターン付構造体
11 基材
12 導電性層
13 樹脂
200 酸化銅インク
22 酸化銅
23 リン酸エステル塩
23a リン
23b エステル塩
R1 第1主面側領域
R2 第2主面側領域
R3 第3の領域
R31 第1主面側領域R1と同様の特性を有する部位
R32 第2主面側領域R2と同様の特性を有する部位
R33 その他の部位
S1 第1主面
S2 第2主面
S1a,S2a 面
V ボイド
図1
図2
図3