(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】無線通信モジュール
(51)【国際特許分類】
H01P 1/203 20060101AFI20230712BHJP
H04B 1/38 20150101ALI20230712BHJP
【FI】
H01P1/203
H04B1/38
(21)【出願番号】P 2022182861
(22)【出願日】2022-11-15
【審査請求日】2022-12-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 雄大
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-135005(JP,A)
【文献】国際公開第2022/014066(WO,A1)
【文献】Y.Hasegawa et al.,"Compact and Low-loss Stripline Bandpass Filters Made of Liquid Crystal Polymer for n257 and n258 Applications",2021 51st European Microwave Conference (EuMC),2022年04月06日,pp.437-440,DOI: 10.23919/EuMC50147.2022.9784197
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/203
H04B 1/38
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基板と、第2基板と、周波数変換器と、フィルタ群と、アンプ移相器と、アンテナとを備える、無線通信モジュールであって、
前記第1基板は、単一の多層基板であり、
前記フィルタ群は、前記第1基板に形成された第1フィルタ及び第2フィルタを
含み、
前記周波数変換器、前記フィルタ群、前記アンプ移相器、及び前記アンテナは、この順番で前記第2基板に実装されており、
前記第1フィルタ及び前記第2フィルタの各々は、前記多層基板の内層に形成された信号パターンと、前記多層基板の一対の主面に形成され、前記信号パターンを挟み込む一対の地導体層と、で構成されるストリップラインを含み、
前記信号パターンを平面視した場合に、前記一対の地導体層は、前記第1フィルタの信号パターンと重なる第1領域と、前記第2フィルタの信号パターンと重なる第2領域と、を含み、
前記一対の地導体層のうち少なくとも何れかの地導体層は、前記第1領域と前記第2領域とが分断されており、
前記一対の地導体層のうち一方の地導体層において、前記第1領域には、前記第1フィルタにおける一対の入出力ポートとして機能する一対のランドが形成されており、前記第2領域には、前記第2フィルタにおける一対の入出力ポートとして機能する一対のランドが形成されており、
前記第1領域に形成された前記一対のランドの各々は、前記第1フィルタの信号パターンにビアを介して接続されており、
前記第2領域に形成された前記一対のランドの各々は、前記第2フィルタの信号パターンにビアを介して接続されており、
前記第1領域に形成された前記一対のランドと、前記第2領域に形成された前記一対のランドとは、
前記第1基板上において、絶縁されて
おり、且つ、前記第2基板に接続されており、
前記第1フィルタ及び前記第2フィルタのうち、一方のフィルタを通過した高周波信号は、前記アンテナよりV偏波として放射され、他方のフィルタを通過した高周波信号は、前記アンテナよりH偏波として放射される、
ことを特徴とする
無線通信モジュール。
【請求項2】
前記信号パターンを平面視した場合に、前記第1フィルタの信号パターンと、前記第2フィルタの信号パターンとは、合同な形状であるか鏡映対称な形状である、
ことを特徴とする請求項1に記載の
無線通信モジュール。
【請求項3】
前記一対の地導体層のうち他方の地導体層は、前記第1領域と前記第2領域とが分断されている、
ことを特徴とする請求項
1に記載の
無線通信モジュール。
【請求項4】
前記一対の地導体層のうち一方の地導体層は、前記第1領域と前記第2領域とが分断されている、
ことを特徴とする請求項
3に記載の
無線通信モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ群に関する。また、本発明は、フィルタ群を備えた無線通信モジュールにも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、増大する無線通信需要に対応する5G NRが普及していることもあり、n257(26.50GHz以上29.50GHz以下)やn258(24.75GHz以上27.50GHz以下)などに代表されるミリ波を取り扱う高周波デバイスが注目を集めている。例えば、非特許文献1のFig.3の(a)及び(c)には、n257又はn258に該当する高周波信号に適用可能なフィルタ群が記載されている。
【0003】
非特許文献1のFig.3の(c)に図示されているように、フィルタ群は、鏡映対称となるように設けられた2つのフィルタを備えている。また、非特許文献1のFig.3の(a)に図示されているように、各フィルタは、多層基板の内層に形成された信号パターンと、多層基板の一対の主面に形成され、前記信号パターンを挟み込む一対の地導体層と、を備えたストリップラインを用いている。各フィルタの信号パターンは、各々の端部に入出力ポートが設けられた信号線と、6個の共振器とを含んでいる(Fig.3の(c)参照)。これらの6個の共振器は、各フィルタがバンドパスフィルタとして機能するように設計されている。
【0004】
また、特許文献1の
図1及び
図2には、このようなフィルタ群を備えた無線通信モジュールが記載されている。この無線通信モジュールは、非特許文献1のフィルタ群の適用例の1つである。
【0005】
この無線通信モジュールは、無線モジュール基板と、無線モジュール基板に実装された、周波数変換器、アンプ移相器、及びバンドパスフィルタと、アンテナと、を備えている。周波数変換器、バンドパスフィルタ、アンプ移相器、及びアンテナは、この順番で配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Yuta Hasegawa et. al.,Proceedings of the 51st European Microwave Conference,p.437 - p.440,4-6 April 2022.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1のFig.3の(a)及び(c)に図示されたようなフィルタ群においては、2つのフィルタ間におけるアイソレーションを向上させることが難しい。2つのフィルタ間におけるアイソレーションは、フィルタ群の適用例である無線通信モジュールの特性にも影響を与える可能性がある。
【0009】
本発明の一態様は、上述した課題に鑑みなされたものであり、その目的は、単一の多層基板に形成された複数のフィルタ間におけるアイソレーションを向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様に係るフィルタ群は、単一の多層基板に形成された第1フィルタ及び第2フィルタを備えたフィルタ群である。上記の課題を解決するために、本フィルタ群においては、前記第1フィルタ及び前記第2フィルタの各々は、前記多層基板の内層に形成された信号パターンと、前記多層基板の一対の主面に形成され、前記信号パターンを挟み込む一対の地導体層と、で構成されるストリップラインを含み、前記信号パターンを平面視した場合に、前記一対の地導体層は、前記第1フィルタの信号パターンと重なる第1領域と、前記第2フィルタの信号パターンと重なる第2領域と、を含み、前記一対の地導体層のうち少なくとも何れかの地導体層は、前記第1領域と前記第2領域とが分断されている、構成が採用されている。
【0011】
上記の構成によれば、前記一対の地導体層のうち少なくとも何れかの地導体層の前記第1領域と前記第2領域とが分断されていることによって、第1フィルタと第2フィルタとの間におけるアイソレーションを向上させることができる。
【0012】
本発明の第2の態様に係るフィルタ群においては、上述した第1の態様に係るフィルタ群の構成に加えて、前記信号パターンを平面視した場合に、前記第1フィルタの信号パターンと、前記第2フィルタの信号パターンとは、合同な形状であるか鏡映対称な形状である、構成が採用されている。
【0013】
上記の構成によれば、第1フィルタ及び第2フィルタは、各々の信号パターンが合同な形状又は鏡映対称な形状となるように設計されているため、実質的に同じフィルタである。
【0014】
このように、第1フィルタ及び第2フィルタが実質的に同じフィルタである場合においても、第1フィルタと第2フィルタとの間におけるクロストークは、非特許文献1のFig.3の(a)及び(c)に図示したフィルタ群のフィルタ特性を悪化させる。第2の態様に係るフィルタ群は、フィルタ間におけるアイソレーションを向上させることができるので、第1フィルタ及び第2フィルタが実質的に同じフィルタである場合にも好適である。
【0015】
本発明の第3の態様に係るフィルタ群においては、上述した第1の態様又は第2の態様に係るフィルタ群の構成に加えて、前記一対の地導体層のうち一方の地導体層において、前記第1領域には、前記第1フィルタにおける一対の入出力ポートとして機能する一対のランドが形成されており、前記第2領域には、前記第2フィルタにおける一対の入出力ポートとして機能する一対のランドが形成されており、前記第1領域に形成された前記一対のランドの各々は、前記第1フィルタの信号パターンにビアを介して接続されており、前記第2領域に形成された前記一対のランドの各々は、前記第2フィルタの信号パターンにビアを介して接続されている、構成が採用されている。
【0016】
上記の構成によれば、各フィルタの一対の入出力ポートを、一対の地導体層のうち一方の地導体層の層内に形成することができるため、例えば半田バンプを用いてフィルタ群を別の基板に容易に実装することができる。
【0017】
本発明の第4の態様に係るフィルタ群においては、上述した第3の態様に係るフィルタ群の構成に加えて、前記一対の地導体層のうち他方の地導体層は、前記第1領域と前記第2領域とが分断されている、構成が採用されている。
【0018】
上記の構成によれば、一対の地導体層のうち、一対の入出力ポートが設けられている一方の地導体層において第1領域と第2領域とが分断されている場合と比較して、第1フィルタと第2フィルタとの間におけるアイソレーションをより向上させることができる。
【0019】
本発明の第5の態様に係るフィルタ群においては、上述した第4の態様に係るフィルタ群の構成に加えて、前記一対の地導体層のうち一方の地導体層は、前記第1領域と前記第2領域とが分断されている、構成が採用されている。
【0020】
上記の構成によれば、一対の地導体層のうち他方の地導体層のみにおいて第1領域と第2領域とが分断されている場合と比較して、第1フィルタと第2フィルタとの間におけるアイソレーションをより向上させることができる。
【0021】
本発明の第6の態様に係る無線通信モジュールは、前記多層基板を第1基板として、第2基板と、周波数変換器と、上述した第3の態様~第5の態様の何れか一態様に係るフィルタ群と、アンプ移相器と、アンテナとを備えている。本無線通信モジュールにおいて、前記周波数変換器、前記フィルタ群、前記アンプ移相器、及びアンテナは、この順番で前記第2基板に実装され、前記フィルタ群の前記ランドと前記第2基板とが接続されている。
【0022】
上記の構成によれば、第1の態様に係るフィルタ群と同様の効果を奏する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一態様によれば、単一の多層基板に形成された複数のフィルタ間におけるアイソレーションを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】(a)は、本発明の実施形態1に係るフィルタ群の平面図である。(b)は、(a)に図示したフィルタ群の断面図である。
【
図2】
図1に図示したフィルタ群の一変形例の平面図である。
【
図3】本発明の実施形態2に係る無線通信モジュールのブロック図である。
【
図4】
図3に示した無線通信モジュールの模式的な平面図である。
【
図5】
図3に示した無線通信モジュールが備える基板及びフィルタ群の断面図である。
【
図6】(a)~(c)の各々は、それぞれ、本発明の実施例1~3のSパラメータの周波数依存性を示すグラフであり、
図6の(d)は、本発明の比較例のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
〔実施形態1〕
本発明の実施形態1に係るフィルタ群10について、
図1及び
図2を参照して説明する。
図1の(a)は、フィルタ群10の平面図である。
図1の(b)は、フィルタ群10の断面図であって、
図1の(b)に図示したA-A’線における断面図である。なお、
図1の(a)の平面図は、フィルタ群10を構成する多層基板11の主面11aの法線方向からフィルタ群10をみた場合に得られる平面図である。
図2は、フィルタ群10の一変形例であるフィルタ群10Aの平面図である。
【0026】
図1の(a)に示すように、フィルタ群10は、1枚の多層基板11と、多層基板11に形成されたフィルタ10a及びフィルタ10bと、を備えている。フィルタ10a及びフィルタ10bの各々は、それぞれ、第1フィルタ及び第2フィルタの一例である。また、後述するように、フィルタ10a及びフィルタ10bの各々は、ストリップラインを含む。すなわち、フィルタ10a及びフィルタ10bの各々は、ストリップラインフィルタの一例である。なお、多層基板11に形成されているフィルタの数は、2つに限定されず3つ以上であってもよい。
【0027】
なお、フィルタ群10に含まれるフィルタ10a,10bは、非特許文献1に記載のフィルタ群と同様に、n257(26.50GHz以上29.50GHz以下)やn258(24.75GHz以上27.50GHz以下)などに代表されるミリ波の高周波信号に適用するように設計されている。本実施形態では、n257に含まれる高周波信号に適用するために、通過帯域の中心周波数及び帯域幅が、それぞれ、28.0GHz及び3GHzとなるようにフィルタ10a,10bを設計している。ただし、フィルタ10a,10bの特性は、用途に応じて適宜設計することができる。
【0028】
また、フィルタ群10は、実施形態2に後述するように無線通信モジュールに適用することができる。この場合、周波数変換器から供給される高周波信号をフィルタ10a,10bの各々に入力し、一方の高周波信号(例えばフィルタ10aを通過した高周波信号)をV偏波用の高周波信号として用い、他方の高周波信号(例えばフィルタ10bを通過した高周波信号)をH偏波用の高周波信号として用いることができる。このような用途においては、フィルタ10aの通過特性とフィルタ10bの通過特性とが同じであることが好ましい。すなわち、フィルタ10aとフィルタ10bとは、同様に構成されていることが好ましい。
【0029】
<フィルタの構成>
フィルタ10a及びフィルタ10bについて、以下に説明する。なお、フィルタ群10において、フィルタ10aとフィルタ10bとは、
図1の(a)に図示したB-B’線を通り、且つ、多層基板11の主面11aに直交する面を対称面として鏡映対称となるように構成されている。したがって、フィルタ10aとフィルタ10bとは、
図1の(a)のように平面視した場合に配置されている向きが180度異なるものの、実質的には同一に構成されている。したがって、以下では、フィルタ10aの構成について説明し、フィルタ10bの構成についての説明を省略する。なお、フィルタ10aの各構成要素において、符号の末尾に「a」が付された構成要素については、「a」を「b」に読み替えることができる。この読み替えを行うことにより、フィルタ10aの構成と同様にフィルタ10bの構成を理解することができる。
【0030】
フィルタ10aは、多層基板11と、地導体層12と、地導体層13と、信号パターン14aと、ビア161a,162aと、11本のスルービア171aと、を備えている。
【0031】
(多層基板)
多層基板11は、基板111,112と、接着層とを備えている。なお、
図1の(b)においては、接着層の図示を省略している。
【0032】
基板111,112は、誘電体製の2枚の板状部材である。
図1の(b)に示した状態においては、基板111の上側に基板112が配置されている。以下において、基板111の一対の主面のうち基板112と逆側の主面11aに設けられる層を外層LO11と称し、基板112の一対の主面のうち基板111と逆側の主面11bに設けられる層を外層LO12と称し、基板111と基板112との間を内層LI1と称する。
【0033】
本実施形態において、基板111,112は、液晶ポリマー樹脂製である。ただし、基板111,112を構成する誘電体は、液晶ポリマー樹脂に限定されるものではなく、ガラスエポキシ樹脂や、エポキシ配合品や、ポリイミド樹脂などであってもよい。また、本実施形態において、基板111,112は、平面視において長方形状である。ただし、基板111,112の形状は、長方形状に限定されるものではなく、適宜選択することができる。
【0034】
接着層は、内層LI1に設けられており、基板111と基板112とを互いに接着する。接着層を構成する接着剤は、限定されるものではなく、既存の接着剤のなかから適宜選択することができる。
【0035】
(地導体層)
地導体層12は、外層LO11に設けられた導体膜により構成されている。地導体層13は、外層LO12に設けられた導体膜により構成されている。地導体層12,13は、多層基板11の一対の主面である主面11a,11bに形成され、後述する信号パターン14aを挟み込む一対の地導体層の一例である。地導体層12,13は、後述する信号パターン14aとともにストリップラインを構成する。
【0036】
なお、本発明の一態様において、地導体層12及び地導体層13のうち、地導体層12を省略することができる。地導体層12を省略する場合、地導体層13は、後述する信号パターン14aとともにマイクロストリップを構成する。また、地導体層12は、他方の地導体層の一例であり、地導体層13は、一方の地導体層の一例である。
【0037】
本実施形態において、地導体層12,13は、銅製である。ただし、地導体層12,13を構成する導体は、銅に限定されるものではなく、金やアルミニウムなどであってもよい。
【0038】
図1の(a)に図示すように、地導体層12,13及び信号パターン14a,14bを平面視した場合に、地導体層12は、領域12aと領域12bとを含んでおり、地導体層13は、領域13aと領域13bとを含んでいる。領域12a及び領域13aは、平面視においてフィルタ10aの信号パターン14aと重なる領域であり、領域12b及び領域13bは、平面視においてフィルタ10bの信号パターン14bと重なる領域である。
【0039】
本実施形態においては、地導体層12として領域12aと領域12bとが連続した導体パターンを採用しており、地導体層13として領域13aと領域13bとが分断された導体パターンを採用している。なお、ここでいう分断とは、平面視において領域13aと領域13bとが離間しており、且つ、フィルタ群10が他の基板(例えば実施形態2で説明する多層基板20)に実装されていない状態において領域13aと領域13bとが絶縁されている状態を指す。
【0040】
ただし、本発明の一態様においては、(1)地導体層12として領域12aと領域12bとが分断された導体パターンを採用し、且つ、地導体層13として領域13aと領域13bとが分断された導体パターンを採用することもできるし、(2)地導体層12として領域12aと領域12bとが分断された導体パターンを採用し、且つ、地導体層13として領域13aと領域13bとが連続した導体パターンを採用することもできる。なお、
図2に図示するフィルタ群10Aにおいては、上述した(1)の構成を採用している。多層基板11に形成されているフィルタの数が3つ以上である場合において、各フィルタの信号パターンを平面視した場合に、一対の地導体層は、各フィルタの信号パターンと重なる複数の領域を含む。このような場合、一対の地導体層のうち少なくとも何れかの地導体層は、各フィルタの信号パターンと重なる複数の領域の各々が分断されていればよい。
【0041】
図1の(b)に示すように、地導体層12には、アンチパッド121a,122aが形成されている。なお、
図1の(a)においては、符号121a,122aの図示を省略している。アンチパッド121aは、平面視において、線路140aの端部の少なくとも一部を取り囲むように形成されている。アンチパッド122aは、平面視において、線路147の端部の少なくとも一部を取り囲むように形成されている。以下において、アンチパッド121aにより取り囲まれた領域をランド123aと称し、アンチパッド122aにより取り囲まれた領域をランド124aと称する(
図1の(b)参照)。ランド123a,124aは、フィルタ10aにおける一対の入出力ポートとして機能する。なお、ここでは、地導体層12の領域12aに形成された一対のランド123a,124aについて説明しているが、同様に、地導体層12の領域12bには、一対のアンチパッド121b,122b及び一対のランド123b,124bが形成されている。ランド123b,124bは、フィルタ10bにおける一対の入出力ポートとして機能する。
【0042】
(信号パターン)
内層LI1に設けられた信号パターン14aは、線路140aと、6段の共振器である共振器141a~146aと、線路147aと、を含む。
【0043】
共振器141a~146aの各々は、隣接する共振器同士の間隔が所定の間隔になるように、互いに離間した状態で配列されている。なお、本発明の一態様において、共振器の数(段数)は6に限定されるものではなく、所望の反射特性及び透過特性を実現するために適宜選択することができる。ただし、共振器の数は、偶数であることが好ましい。
【0044】
本実施形態において、信号パターン14aは、地導体層12,13の各々から離間しており、且つ、地導体層12と地導体層13との間に介在するように設けられている。本実施形態において、信号パターン14aは、内層LI1に設けられている。
【0045】
信号パターン14aを構成する線路140a,147aと共振器141a~146aとは、
図1の(a)に示すように、それぞれが帯状導体により構成されている。共振器141a~146aは、内層LI1において、それぞれを構成する帯状導体における一対の端部同士がギャップを形成するように、各帯状導体を折れ曲げることによって構成されている。本実施形態において、信号パターン14aは、銅製である。ただし、信号パターン14aを構成する帯状導体は、銅に限定されるものではなく、金やアルミニウムなどであってもよい。
【0046】
本実施形態において、(1)共振器141aと共振器142aとの間、(2)共振器142aと共振器143aとの間、(3)共振器143aと共振器144aとの間、(4)共振器144aと共振器145aとの間、(5)共振器145aと共振器146aとの間、(6)共振器141aと共振器146aとの間、における結合は、何れも主に磁気的であり、(7)共振器142aと共振器145aとの間における結合は、主に静電的である。ただし、このような信号パターン14aの構成は、これに限定されず、所望の透過特性を有するバンドパスフィルタを実現するために適宜設計することができる。
【0047】
なお、
図1の(a)では、線路140a,147aの各々の先端部と、ランド123a,124aとの重なり具合を見やすくするため図示を省略しているが、線路140a,147aの各々の先端部には、平面視においてランド123a,124aの各々と重なるようにランドが形成されている。なお、線路140a,147aの各々の先端部とは、それぞれ、共振器141a,146aと接続されていない端部を指す。
【0048】
また、内層LI1には、線路140a,147aの各々の先端部に形成されたランドとは別個に、平面視において後述するスルービア171aと重なる領域にランドが形成されている。当該ランドのことをスルービア171a用のランドとも呼ぶ。
【0049】
(ビア)
ビア161a,162aは、多層基板11を構成する2枚の基板111,112のうち、基板111に設けられた導体製の筒状部材である。ただし、ビア161a,162aは、導体製の柱状部材であってもよい。
【0050】
ビア161aは、平面視において、地導体層12に設けられたランド123aと線路140aの先端部とが重なる領域に設けられており、ランド123aと線路140aの先端部とを短絡する。ビア162aは、平面視において、地導体層12に設けられたランド124aと線路147aの先端部とが重なる領域に設けられており、ランド124aと線路147aの先端部とを短絡する。すなわち、ランド123aは、線路140aの先端部に形成されたランドにビア161aを介して接続されている。また、ランド124aは、線路147aの先端部に形成されたランドにビア162aを介して接続されている。なお、線路140a,147aの先端部は、信号パターン14aの両端部を構成する。
【0051】
(スルービア)
11本のスルービア171aの各々は、多層基板11を主面11aから主面11bまで貫通するように、多層基板11に設けられた導体製の筒状部材である。各スルービア171aのうち、基板111を貫通する部分の端部と、基板112を貫通する部分の端部とは、内層LI1に形成されたスルービア171a用のランドにより接続されている。なお、各スルービア171aは、導体製の柱状部材であってもよい。このように構成された各スルービア171aは、何れも、内層LI1に形成されたランドを介して地導体層12と地導体層13とを短絡する。なお、
図1の(a)においては、一部のスルービアにおける符号を省略している。
【0052】
(2つのフィルタの形状)
図1の(a)に図示するように、フィルタ群10は、フィルタ10aとフィルタ10bとが鏡映対称(特には信号パターン14aと信号パターン14bとが鏡映対称)な形状となるように構成されている。ただし、
図2に図示するフィルタ群10Aのように、フィルタ10aAとフィルタ10bAとが合同(特には信号パターン14aと信号パターン14bとが合同)な形状となるように構成されていてもよい。換言すれば、フィルタ10aAとフィルタ10bAとが並進対象な形状となるように構成されていてもよい。また、フィルタ10aとフィルタ10bとが鏡映対称となるように構成されている場合、フィルタ10aとフィルタ10bとを入れ替えた配置であってもよい。この場合、フィルタ10aの一対の入出力ポートと、フィルタ10bの一対の入出力ポートとの間隔は、
図1の(a)に図示したフィルタ群10、及び、
図2に図示したフィルタ群10Aよりも広くなる。
【0053】
〔実施形態2〕
本発明の実施形態2に係る無線通信モジュール1について、
図3~
図5を参照して説明する。
図3は、無線通信モジュール1のブロック図である。
図4は、無線通信モジュール1の模式的な平面図である。
図5は、無線通信モジュール1が備えるフィルタ群10及び多層基板20の断面図である。なお、
図4においては、アンテナ50の図示を省略している。
【0054】
図3及び
図4に示すように、無線通信モジュール1は、2個のフィルタ群10と、多層基板20と、周波数変換器30と、8個のアンプ移相器40と、アンテナ50とを備えている。なお、
図3においては、2個のフィルタ群10及び8個のアンプ移相器40を、それぞれ1個のブロックで図示している。
【0055】
無線通信モジュール1に含まれるフィルタ群10は、実施形態1において説明したフィルタ群10と同一である。したがって、本実施形態においては、フィルタ群10に関する説明を省略する。なお、フィルタ群10に含まれる多層基板11は、第1基板の一例である。
【0056】
周波数変換器30、フィルタ群10、アンプ移相器40、及びアンテナ50は、この順番で多層基板20に実装されている。
【0057】
無線通信モジュール1の構成については、特許文献1に記載の無線通信モジュールと同様である。したがって、周波数変換器30、アンプ移相器40、及びアンテナ50の説明は省略する。ただし、無線通信モジュール1においては、周波数変換器30から高周波信号がフィルタ10a及びフィルタ10bの各々に入力される。無線通信モジュール1において、一方のフィルタ(例えばフィルタ10a)を通過した高周波信号は、V偏波用として用いられ、他方のフィルタ(例えばフィルタ10b)を通過した高周波信号は、H偏波用として用いられる。フィルタ10a及びフィルタ10bの各々から出力された高周波信号は、何れも4つに分岐されたうえで、各アンプ移相器40に入力される。このように構成された無線通信モジュール1は、各アンプ移相器40に接続されたアンテナ50よりV偏波とH偏波とを放射することができる。
【0058】
以下に、多層基板20に対するフィルタ群10の実装について説明する。
図5には、多層基板20に実装された状態のフィルタ群10を示している。多層基板20は、基板211,212と、接着層と、地導体層22と、地導体層23とを備えている。なお、
図5においては、接着層の図示を省略している。なお、無線通信モジュール1を構成する基板は、多層基板20のような多層基板に限定されず単層基板であってもよい。
【0059】
基板211,212は、誘電体製の2枚の板状部材である。
図2に示した状態においては、基板211がフィルタ群10に近接する側の基板であり、基板211の下側に基板212が配置されている。以下において、基板211の一対の主面のうち基板212と逆側の主面を外層LO21と称し、基板212の一対の主面のうち基板211と逆側の主面を外層LO22と称し、基板211と基板212との間を内層LI2と称する。接着層は、内層LI2に設けられており、基板211と基板212とを互いに接着する。
【0060】
地導体層22は、外層LO21に設けられた導体膜により構成されている。地導体層23は、外層LO22に設けられた導体膜により構成されている。地導体層22,23は、後述する線路251,252とともにストリップラインを構成する。
【0061】
図5に示すように、地導体層22には、アンチパッド221,222が形成されている。以下において、アンチパッド221により取り囲まれた領域をランド223と称し、アンチパッド222により取り囲まれた領域をランド224と称する。本実施形態において、ランド223とランド224との中心間距離は、ランド123aとランド124aとの中心間距離と等しい。
【0062】
線路251,252は、内層LI2に設けられた、直線状の帯状導体である。線路251は、平面視において、一方の端部がランド223と重なるように構成されている。線路252は、平面視において、一方の端部がランド224と重なるように構成されている。線路251,252は、上述したように、地導体層22,23とともにストリップラインを構成する。
【0063】
ビア261,262は、多層基板20を構成する2枚の基板211,212のうち、基板211に設けられた導体製の筒状部材である。ただし、ビア261,262は、導体製の柱状部材であってもよい。
【0064】
ビア261は、平面視において、地導体層22に設けられたランド223と線路251の一方の端部とが重なる領域に設けられており、ランド223と線路251の一方の端部とを短絡する。ビア262は、地導体層22に設けられたランド224と線路252の一方の端部とが重なる領域に設けられており、ランド224と線路252の一方の端部とを短絡する。
【0065】
ランド223とビア261とは、多層基板20における一対の入出力ポートの1つとして機能する。同様に、ランド224とビア262とは、多層基板20における一対の入出力ポートの1つとして機能する。
【0066】
本実施形態において、フィルタ10aは、多層基板20に対して、半田バンプ31,32,33を用いて実装されている。同様に、フィルタ10bは、多層基板20に対して、半田バンプを用いて実装されている。すなわち、フィルタ群10は、多層基板20に対して半田バンプを用いて実装されている。
【0067】
半田バンプ31は、ランド123aとランド223とを導通させるとともに、フィルタ10aを多層基板20に固定する。半田バンプ32は、ランド124aとランド224とを導通させるとともに、フィルタ10aを多層基板20に固定する。複数の半田バンプ33は、地導体層12と地導体層22とを短絡させるとともに、フィルタ10aを多層基板20に固定する。
【0068】
以上のように、フィルタ群10は、多層基板20に対して、低損失且つ容易に実装することができる。
【0069】
〔付記事項〕
本発明は上述した実施形態1,2に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0070】
本発明の実施例1~3と、本発明の比較例とについて以下に説明する。
【0071】
実施例1は、
図1に図示するフィルタ群10である。すなわち、地導体層12として領域12aと領域12bとが連続した導体パターンを採用し、且つ、地導体層13として領域13aと領域13bとが分断された導体パターンを採用した。
【0072】
実施例2は、
図1に図示するフィルタ群10をベースにして、地導体層12として領域12aと領域12bとが分断された導体パターンを採用し、且つ、地導体層13として領域13aと領域13bとが分断された導体パターンを採用したフィルタ群である。
【0073】
実施例3は、
図1に図示するフィルタ群10をベースにして、地導体層12として領域12aと領域12bとが連続した導体パターンを採用し、且つ、地導体層13として領域13aと領域13bとが分断された導体パターンを採用したフィルタ群である。
【0074】
また、比較例は、
図1に図示するフィルタ群10をベースにして、地導体層12として領域12aと領域12bとが連続した導体パターンを採用し、且つ、地導体層13として領域13aと領域13bとが連続した導体パターンを採用したフィルタ群である。
【0075】
これらの実施例1~3において、フィルタ10aのランド123a,124aの各々をポート1,2と定め、フィルタ10bのランド123b,124bの各々をポート3,4と定めた。このポート1~4の定め方については、比較例についても同様である。そのうえで、実施例1~3及び比較例について、SパラメータS11,S21,S31,S41を測定した。
図6の(a)~(c)の各々は、それぞれ、実施例1~3のSパラメータの周波数依存性を示すグラフであり、
図6の(d)は、比較例のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【0076】
図6の(a)~(d)の各々によれば、SパラメータS41の最大値は、実施例1において-47.23dBであり、実施例2において-48.01dBであり、実施例3において-45.38dBであり、比較例において-45.16dBであることが分かった。
【0077】
以上の結果より、地導体層12,13の少なくとも一方において信号パターン14aと重なる領域(第1領域)と信号パターン14bと重なる領域(第2領域)とを分断することによって、フィルタ10aとフィルタ10bとの間におけるアイソレーションを向上させられることが分かった。
【0078】
また、地導体層12,13の何れか一方において第1領域と第2領域とを分断する場合、地導体層13を分断したほうがアイソレーションを向上させる効果が高いことが分かった。
【0079】
また、地導体層12,13の両方において1領域と第2領域とを分断することによって、アイソレーションを向上させる効果が最も高いことが分かった。
【符号の説明】
【0080】
1 無線通信モジュール
10,10A フィルタ群
10a,10b,10aA,10bA フィルタ
11 多層基板
12,13 地導体層
12a,13a 領域(第1領域)
12b,13b 領域(第2領域)
14a,14b 信号パターン
123a,124a ランド(一対の入出力ポート)
161a,162a,161b,162b ビア
20 多層基板
30 周波数変換器
40 アンプ移相器
50 アンテナ
【要約】
【課題】単一の多層基板に形成された複数のフィルタ間におけるアイソレーションを向上させること。
【解決手段】フィルタ群(10)において、多層基板(11)に形成された第1フィルタ及び第2フィルタ(フィルタ10a,10b)は、信号パターン(14a,14b)と、一対の地導体層(12,13)と、で構成されるストリップラインを含み、地導体層(13)は、第1領域(領域13a)と、第2領域(領域13b)とが分断されている。
【選択図】
図1