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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】通信装置
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/08 20060101AFI20230712BHJP
   H04L 27/14 20060101ALI20230712BHJP
   H04L 27/227 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
H04B7/08 480
H04B7/08 372A
H04L27/14 B
H04L27/227
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022508081
(86)(22)【出願日】2021-01-07
(86)【国際出願番号】 JP2021000359
(87)【国際公開番号】W WO2021186856
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2020047942
(32)【優先日】2020-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】岡 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】内藤 昌志
(72)【発明者】
【氏名】吉田 大希
【審査官】原田 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-115140(JP,A)
【文献】特開2007-243853(JP,A)
【文献】特開平10-075236(JP,A)
【文献】特開平11-068647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/08
H04L 27/14
H04L 27/227
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GMSK方式又はMSK方式で変調され、受信された信号を同期検波してI信号、Q信号からなる出力信号を復調する同期検波部をそれぞれ有する2つの受信系を具備し、各前記受信系から出力された前記出力信号をダイバーシティ合成した合成出力信号によりデータの復号を行う受信装置であって、
一方の前記受信系から出力された前記出力信号S、他方の前記受信系から出力された前記出力信号Sに対して、重み付け係数をC、Cとして、S・C+S・C 、S・C-S・C、-S・C+S・C、-S・C-S・Cの4種類の計算式のうちのいずれかが選択されて算出された値を前記合成出力信号として出力するダイバーシティ合成部を具備することを特徴とする受信装置。
【請求項2】
前記ダイバーシティ合成部は、
2つの前記受信系のそれぞれにおける受信信号強度が極小となる時刻のうち、隣接する2つの前記時刻の間において、前記4種類の計算式のうちの一つが選択される状態を維持することを特徴とする請求項1に記載の受信装置。
【請求項3】
前記ダイバーシティ合成部は、
一方の前記受信系から出力された前記出力信号におけるI信号、Q信号と、他方の前記受信系から出力された前記出力信号におけるI信号、Q信号とに基づき、前記4種類の計算式によりそれぞれ算出された値のうち最も大きくなる値を出す前記計算式を選択することを特徴とする請求項2に記載の受信装置。
【請求項4】
前記同期検波部は、コスタスループ動作を行うことを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の受信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル変調された信号を受信して同期検波により復調する通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
受信信号においてデジタル変調(直交変調)された信号を復調する方式として、復調の対象となる信号において用いられたものと同じ周波数でかつ同期した搬送波を基準信号として用いる同期方式(同期検波)と、復調する対象となる時点よりも前の受信信号を基準信号として用いる遅延方式(遅延検波)とが知られている。フェージングの影響がない静特性環境においては、原理的に同期検波の方が受信性能が高い(符号誤り率が低い)ことが知られているが、特に高速で移動する移動体の通信のようにフェージングが顕著となる場合には、受信信号の位相が様々に変動して基準信号との間の同期をとることが困難であるために、符号誤り率を十分に低くすることが困難である。特許文献1には、こうした場合において同期検波における受信性能を高める技術が記載されている。
【0003】
また、同期検波においては、基準信号と受信信号との間の位相を整合させるために、例えば特許文献2に記載されたような、Costas Loopを用いた方式(コスタス法)が用いられる。Costas Loopにおいては、受信信号の直交する2成分であるI信号とQ信号とを乗算器で乗算して位相誤差が算出され、基準信号を生成するVCO(電圧制御発振器)がこの位相誤差に応じて基準信号と受信信号の間の位相差を調整し、これらが同期するように制御された状態が維持される(ロックされる)。
【0004】
一方、フェージングが顕著な環境下においては、特許文献3に記載されるように、それぞれが独立した受信系を構成する複数のアンテナを用い、それぞれで受信した受信信号を合成して用いるダイバーシティ方式も有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-261852号公報
【文献】特開2001-136221号公報
【文献】特開2012-114601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
同期検波とダイバーシティ方式とを組み合わせることによって、フェージングが顕著な環境下においても、安定して高い受信性能が得られることが期待される。しかしながら、この場合においても、十分に高い受信性能を安定して得ることは困難であった。これは、フェージングによる受信信号の位相の不安定性によって、ダイバーシティ方式における受信信号の合成が適切に行われない場合があることに起因した。
【0007】
このため、同期検波とダイバーシティ方式とを組み合わせて高い受信性能を安定して得る技術が望まれた。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みなされたもので、上記課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の受信装置は、GMSK方式又はMSK方式で変調され、受信された信号を同期検波してI信号、Q信号からなる出力信号を復調する同期検波部をそれぞれ有する2つの受信系を具備し、各前記受信系から出力された前記出力信号をダイバーシティ合成した合成出力信号によりデータの復号を行う受信装置であって、一方の前記受信系から出力された前記出力信号S、他方の前記受信系から出力された前記出力信号Sに対して、重み付け係数をC、Cとして、S・C+S・C、S・C-S・C、-S・C+S・C、-S・C-S・Cの4種類の計算式のうちのいずれかが選択されて算出された値を前記合成出力信号として出力するダイバーシティ合成部を具備する。
また、前記ダイバーシティ合成部は、2つの前記受信系のそれぞれにおける受信信号強度が極小となる時刻のうち、隣接する2つの前記時刻の間において、前記4種類の計算式のうちの一つが選択される状態を維持してもよい。
また、前記ダイバーシティ合成部は、一方の前記受信系から出力された前記出力信号におけるI信号、Q信号と、他方の前記受信系から出力された前記出力信号におけるI信号、Q信号とに基づき、前記4種類の計算式によりそれぞれ算出された値のうち最も大きくなる値を出す前記計算式を選択してもよい
また、前記同期検波部は、コスタスループ動作を行ってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、同期検波とダイバーシティ方式とを組み合わせて高い受信性能を安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】GMSK方式におけるI信号、Q信号のアイパターンを示す例である。
図2】同期検波が理想的に行われた場合におけるI信号とQ信号による復号の状況を示す図である。
図3】コスタス法における補正を模式的に示す図である。
図4】2つの受信系における受信強度の振幅の時間経過と、状態判定タイミングの関係を示す図である。
図5】4つの状態間の遷移の状況及びこの際の各パラメータの変化を示す図である。
図6】本発明の実施の形態に係る受信装置の構成を示す図である。
図7】本発明の実施の形態に係る受信装置における合成調整部の動作を示すフローチャートである。
図8】実施例と比較例における符号誤り率と搬送波電力耐雑音比の関係の静特性である。
図9】実施例と比較例における符号誤り率と搬送波電力耐雑音比の関係の動特性である。
【0012】
次に、本発明を実施するための形態となる受信装置を具体的に説明する。この受信装置はダイバーシティ方式で動作するため、異なる2つのアンテナを用いた2つの受信系を具備する。各受信系において同期検波が行われて直交信号(I信号、Q信号)が得られる。ダイバーシティ方式によりこの各出力が合成された合成出力が用いられて最終的な信号が復調される。
【0013】
まず、同期検波とダイバーシティ方式とを組み合わせた場合における問題点について、変調方式がGMSK、2系統のダイバーシティ方式の場合について説明する。
【0014】
まず、各々の系統における検波の状況について説明する。図1は、シンボル同期がとれたことを前提とした、GMSK方式におけるI信号、Q信号のアイパターンを模式的に示す。I信号とQ信号は直交するため、信号の判定を行うべきポイント(アイが最も開くポイント)は、I信号とQ信号との間で半周期分だけずれ、1シンボル毎に判定を行うべきポイントは、交互に発生する。すなわち、I信号を認識する判定ポイント、Q信号を認識する判定ポイントが交互に存在する。
【0015】
この場合、ある判定ポイントにおけるI信号のみ、あるいはQ信号のみからシンボル(Mark/Space)の判定(復号)を行うことはできず、例えばある判定ポイントにおけるI信号、Q信号のうちの一方の出力と、その直前の判定ポイントにおけるI信号、Q信号のうちの他方の出力の関係によって、Mark、Spaceの判定が行われる。図2は、同期検波が理想的に行われた場合におけるこの状況を模式的に示す図であり、I(I信号の出力)、Q(Q信号の出力)のそれぞれについて、IについてはI1、I2、QについてはQ1、Q2のそれぞれ+側、-側の2値の出力が認識される。すなわち、図2を複素平面とした場合、IはI1(=1=exp(j×0))、I2(=-1=exp(j×π))の値をとり、QはQ1(=+j=exp(j×π/2))、Q2(=-j=exp(j×3π/2))の値をとる。すなわち、I1とI2、Q1とQ2はそれぞれ位相がπだけずれ、それぞれI軸上、Q軸上にある点となる。図2(a)においては、現状の判定ポイントでQが白丸で示されたQ1、Q2として認識され、一つ前の判定ポイントでIが黒丸で示されたI1、I2として認識された場合を示す。
【0016】
この場合において、実線矢印で示されたような、一つ前の判定ポイント(黒丸)でIが+(I1)であった場合から現状の判定ポイント(白丸)でQが+の状態(Q1)として認識された場合と、一つ前の判定ポイントでIが-(I2)であった場合から現状の判定ポイント(白丸)でQが-の状態(Q2)として認識された場合が、Markの場合として認識される。一方、破線矢印で示されたような、一つ前の判定ポイント(黒丸)でIが-(I2)であった場合から現状の判定ポイント(白丸)でQが+の状態(Q1)として認識された場合と、一つ前の判定ポイント(黒丸)でIが+(I1)であった場合から現状の判定ポイント(白丸)でQが-の状態(Q2)として認識された場合が、Spaceの場合として認識される。
【0017】
一方、図2(b)は、図2(a)のような認識が可能である判定ポイントと隣接する判定ポイントにおける同様のMark/Spaceの判定の状況を示す。この場合には、実線矢印で示されたような、一つ前の判定ポイント(黒丸)でQが+(Q1)であった場合から現状の判定ポイント(白丸)でIが-の状態(I2)として認識された場合と、一つ前の判定ポイント(黒丸)でQが-(Q2)であった場合から現状の判定ポイント(白丸)でIが+の状態(I1)として認識された場合が、Markの場合として認識される。一方、破線矢印で示されたような、一つ前の判定ポイント(黒丸)でQが+(Q1)であった場合から現状の判定ポイント(白丸)でIが+の状態(I1)として認識された場合と、一つ前の判定ポイント(黒丸)でQが-の状態(Q2)から現状の判定ポイント(白丸)でIが-の状態(I2)として認識された場合が、Spaceの場合として認識される。前記のように、図2(a)(b)において、I、Qのとりうる値は位相がπだけずれているのに対し、このようにMark/Spaceの判定に要する直交信号の位相変化は、図示されるように、どの場合でもπ/2となる。
【0018】
このように、図2(b)におけるMark/Spaceの判定手法は図2(a)の場合と異なり、仮にIとQを入れ替えたとしてもこれらは異なっている。図2(a)の状況と図2(b)の状況は判定ポイント(シンボル)毎に交互に起こるため、以下では、図2(a)の場合をOdd、図2(b)の場合をEvenとする。Mark/Spaceの判定を行うためには、現在の判定ポイントがOdd/Evenのいずれかであるかを認識することが必要となる。ただし、Odd/Evenは交互に切り替わるため、シンボル同期がとれ、かつ受信信号における位相変化がなければ、少なくとも初期状態で上記のOdd/Evenの認識が適正である限り、以降においても、Odd/Evenの認識を適正に行うことができ、Mark/Spaceの判定を常に適正に行うことができる。
【0019】
一方、同期検波においては、受信信号と基準信号との間の同期をとる必要がある。例えば図2(a)(Oddの場合)において、同期がとれている場合(理想的な場合)には、新たに認識されるべきQ1、Q2はそれぞれ+j(=exp(j×π/2))、-j(=exp(j×3π/2))であり、これらはQ軸上に存在する。これに対して、図3に示されるように、同期がとれていない場合に認識されるQ1’、Q2’は、これらの位相差がπとなる状態が保たれた状態でQ軸からずれる。すなわち、同期がとれていない場合には、図3におけるQ1’、Q2’は、原点の周りでQ1、Q2を一定角度(位相誤差)だけ回転した位置に認識される。このように同期がとれていない状況から、例えば特許文献2に記載されたようなコスタス法によって、同期をとることができる。この場合には、I信号とQ信号の乗算より位相誤差が得られ、この位相誤差が零となるようなフィードバックが行われる。すなわち、コスタス法によって、図3におけるQ1’、Q2’がQ軸上のQ1、Q2と一致するように、矢印Aで示されるように位相が調整される。
【0020】
しかしながら、図3に示された位相調整において、矢印Bに示されるように、Q1’がQ2に、Q2’がQ1となるように調整される場合がある。即ち、コスタス法による位相調整がπだけ誤って行われる場合がある。この場合には、調整後における図2に示されたMark/Spaceの判定は誤って行われる。
【0021】
この状況は、図2(b)(Evenの場合)においても同様である。すなわち、同期がとれていない場合には、I1、I2は、これらの位相差がπとなる状態が保たれた状態でI軸からずれて検出され、コスタス法によって、図2(b)に示されるようにI1、I2がI軸上に存在するように位相が調整される。この際に位相調整がπだけ誤って行われる場合がある。
【0022】
以上の問題点は、ダイバーシティ方式における各々の受信系毎においてそれぞれ個別に生じる。次に、この場合におけるダイバーシティ方式における合成出力の問題点について説明する。
【0023】
ダイバーシティ方式で用いられる2つのブランチ(br1、br2)の出力信号S、Sを前記のようにI信号、Q信号を用いて(1)(2)式のとおりに定義する。これらは、各々前記のコスタス法によって位相が調整された後の出力となる。
【0024】
【数1】
【数2】
【0025】
これらによるダイバーシティ合成出力は、I信号に対応した成分をDivI、Q信号に対応した成分をDivQとして、(3)式の通りとなる。
【0026】
【数3】
【0027】
ここで、C、Cは、合成時のS、Sに対する重み付け係数であり、これらはそれぞれbr1、br2の平均受信電力の振幅値(√(平均受信電力))とすることができる。ただし、後述するように、この平均受信電力としては、瞬時値ではなく、忘却係数λを用いたフィルタ処理によって、漸化式で算出されたものを用いることが好ましい。これによって、ノイズの影響を低減することができる。
【0028】
ここで、br1とbr2は同じ送信信号に対応するが、前記のような伝搬時の位相の変動があれば、br1とbr2における位相は異なる。この場合において、S、Sは、時刻をTとしてnシンボル目の判定時刻はnTとすることができ、(4)(5)式で表される
【0029】
【数4】
【数5】
【0030】
ここで、各々のブランチで位相の変動があれば、一般的にはθ≠θとなる。ただし、各ブランチでコスタス法によって理想的に位相が補正される場合には、(3)式は、(1)(2)(4)(5)式を用いて、(6)式のように表される。
【0031】
【数6】
【0032】
ここで、(6)式におけるF=exp((-j・θ))、 F=exp((-j・θ))は、各ブランチにおけるコスタス法による位相調整に対応する補正因子であり、θ、θは、図3における補正の際の回転角度となる。前記の通り、この際には、πだけ誤って補正が行われる場合がある。この場合、上記の因子は、それぞれexp((-j・(π+θ)))=-exp((-j・θ)=-F、 exp((-j・(π+θ)))=-exp((-j・θ))=-Fとなる。すなわち、上記の補正因子F、Fは、これが適正な場合と比べて正負が逆転する場合がある。
【0033】
表1は、このような合成出力において、このような補正因子F、Fの正負に応じて(6)式と同様に算出される合成出力の結果である。この組み合わせの状態を以下では「00」、「01」、「10」、「11」と定義する。ここでは、F、Fが共に正である「00」が適正な場合であり、この場合の合成出力は(6)式と一致する。
【0034】
【表1】
【0035】
ここで、ダイバーシティ方式における合成出力においては、br1の強度とbr2の強度とが合成されることによって合成出力におけるDivIとDivQの値が大きくなることが好ましい。しかしながら、表1における「01」、「10」の場合は、br1、br2の強度が相殺されるため、逆にDivIとDivQは小さくなる。
【0036】
一方、図1における各判定ポイントの時点で、各ブランチにおいてコスタス法で位相が調整された後の出力が表1のどの状態であるかは一定ではなく、実際には判定ポイント毎にこれらの状態は切り替わる。また、コスタス法における上記のような位相の調整の状況は、ブランチ毎に独立である。このため、各ブランチにおいてコスタス法を用いて位相調整が行われた出力をダイバーシティ合成する場合には、各ブランチで位相調整がπだけずれる場合があり、これにより、適正な合成出力が得られず、例えば単独のブランチの出力よりも小さくなる合成出力が得られる場合がある。
【0037】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、このような同期検波とダイバーシティ方式とを組み合わせた場合における欠点を解消する。このために、本発明の実施の形態に係る通信装置においては、判定ポイント時における各ブランチの出力の状態が、表1における4種類のうちのいずれかであるかが、各ブランチの出力の関係によって判定される。以下に、その手法について説明する。
【0038】
上記のような補正因子の符号の変化は、br1、br2の出力における位相(θ、θ)の変化に伴って生じるが、一般的に、このような位相の変化は急激には生じず、徐々に生じる。このため、時系列的には、例えば「00」の状態が一定時間継続した後で「01」の状態が一定時間継続するという状況が生じ、一定の受信強度が継続的に得られていれば、このような状態の急激な変化は発生しにくいと考えられる。このため、このような一つの状態が維持される期間の始期、終期は、受信強度が低下した時点に対応すると考えられる。
【0039】
図4は、このようなbr1の受信強度の振幅の時間経過と、これに対応するbr2の受信強度の振幅の時間変化の例を示す。ここに示された特性は、受信信号の包絡線に対応する。前記の場合には、一つの状態が維持される期間は、br1、br2の各々の強度が零(極小)となる点(包絡線が交わる点)P21、P11、P22、P12、P23、P24、P13、P25で区切られた区間となる。このため、上記の状態の判定を行うタイミング(状態判定タイミング)は、これらの点の直後とすればよい。
【0040】
次に、この状態判定タイミングにおいて実際に状態の判定を行う手法について説明する。この状態は、br1において得られたSとbr2において得られたSの関係、及びS、Sの電力平均値を考慮して判定(推定)することができる。ここで、SとS の関係においても、これらの和の電力平均値と、これらの差分の電力平均値に基づいた判定を行うことができる。これらの電力平均値としては、S、Sの測定タイミングにおける瞬時値ではなく、これをフィルタリングした値を用いることが好ましい。このため、ここでは、S、Sの測定タイミング毎に忘却係数λを用いた漸化式によって算出された値が算出され、状態判定タイミングにおけるこの値が用いられる。忘却係数λは0と1の間で1に近い値であり、例えば0.98とされる。すなわち、上記の和の平均電力値をD、上記の差の平均電力値をD、S(br1)の電力平均値をBr1、S(br2)の電力平均値をBr2とすると、これらは、以下の(8)~(11)式で算出される。ここで、kはS、Sの測定タイミングに対応する。
【0041】
【数7】
【数8】
【数9】
【数10】
【0042】
表1において、例えば「00」から「10」、「01」から「11」への遷移は、br1においてのみ状況が変わったことに対応し、「00」から「01」、「10」から「11」への遷移は、br2においてのみ状況が変わったことに対応する。一方、「00」から「11」への遷移、「10」から「01」への遷移は、br1、br2の両方において状況が変化したことに対応する。しかしながら、図4に示されたような受信レベルの変化はbr1、br2における伝搬状況に応じて発生し、かつこの伝搬状況がbr1とbr2で独立である場合には、br1、br2において同時に状況が変化する可能性は極めて低い。
【0043】
このため、上記の4つの状態間の遷移は、図5に模式的に示されるようになると考えられる。この場合、状態間の遷移はX1~X4、Y1~Y4の8種類となる。ここで、正常な状態(br1、br2で共に位相調整が共に適正に行われている状態)である「00」においては、D>Dであると認識することができる。また、br1、br2で共に位相がπだけずれた状態である「11」においても、同様にD>Dとなる。一方、「01」、「10」の状態においては、逆にD<Dとなる。
【0044】
また、「10」、「01」においては、br1、brのうちのいずれかのみにおける位相がπだけずれている。このようにπだけ位相がずれているのは、受信レベルの低い側であると推定することができる。すなわち、この場合には、Br1>Br2である場合には「01」、Br1<Br2であれば「10」であると推定することができる。
【0045】
このため、図5において、例えば「00」であった場合(D>D)から、次の状態判定ポイントにおいてD<Dの状態に変化した場合において、Br1>Br2であれば「01」に遷移したと推定され(図5におけるX1)、Br1<Br2であれば「10」に遷移したと推定される(図5におけるY1)。
【0046】
また、図5において、例えば「01」であった状態(D<D)から、次の状態判定ポイントにおいてD>Dの状態に変化した場合において、Br1>Br2であれば「00」に遷移したと推定され(図5におけるY4)、Br1<Br2であれば「11」に遷移したと推定される(図5におけるX2)。
【0047】
同様に、他の遷移の要件もDとDの大小関係、及びBr1、Br2の大小関係に応じて設定され、図5においては、これらが全て示されている。いずれの遷移においても、直前の状態判定ポイントにおいて認識された状態から、DとDの大小関係が逆転している。逆に、ある状態判定ポイントにおいて、DとDの大小関係に変化が認められなかった場合には、状態の遷移はなかったものと推定され、現在の状態は直前に認識された状態のままであると推定される。
【0048】
このため、図5に示された条件に基づき、直前の状態判定ポイントにおいて認識された状態と、現在のDとDの大小関係、及びBr1、Br2の大小関係から、現在の状態が「00」、「01」、「10」、「11」のいずれであるかを認識することができる。あるいは、br1、br2で共に受信状態が良好であり、正常な出力が得られていると認識されている場合には、「00」であると推定することもでき、以降は、図5に示されたX1~X4、Y1~Y4の要件に従って最新の状態を認識することができる。
【0049】
ダイバーシティ合成においては、以上のようにbr1、br2において発生した位相のπ分のずれは、前記のように補正因子の正負の逆転として反映される。上記のように状態が認識された場合には、このダイバーシティ合成においてbr1、br2のどちらの側でこのように本来の場合とは正負が逆転したかが判明するため、これに応じて、補正因子の正負を調整する、あるいはダイバーシティ合成出力((3)式)を状態に応じて変えることにより、表1における「00」の合成出力と同様に、合成出力がbr1、br2を共に用いることによって高められるような設定とすることができる。ここで、C1=(Br1)1/2、C2=(Br2)1/2とすることができる。
【0050】
【表2】
【0051】
以上により、ダイバーシティ合成前の各ブランチにおいて同期検波を行った場合に、位相が不適正な状態に調整された場合でも、これを考慮したダイバーシティ合成が行われ、常に安定して高い受信性能を得ることができる。
【0052】
次に、実際に上記の動作を実現するダイバーシティ方式の受信装置1について説明する。図6は、この受信装置1の構成を示すブロック図である。ここでは、アンテナで信号を受信してから符号(Mark/Space)の判定が行われるまでの構成が示されており、ここでは2つの独立したアンテナAN1、AN2が用いられている。AN1で受信された側の信号処理系統は前記のbr1に対応し、AN2で受信された側の信号処理系統は前記のbr2に対応する。
【0053】
br1において、アンテナAN1で受信された受信信号は、AD変換器111でデジタルIF信号に変換され、周波数変換部121で復調に適した周波数とされたデジタルベースバンド信号に変換される。その後、ダウンサンプル処理部131でサンプリングレートが調整される。その後、この信号が、復調に適するようにAGC(Auto Gain Control)141でゲインの調整が、AFC(Auto Frequency Control)151で周波数の微調整がそれぞれ行われた後に、コスタス法によって基準信号との同期をとる同期検波部161によってI信号とQ信号が復調される。その後、このI信号、Q信号において、シンボル同期部171によって図1に示されたようにシンボル同期がとられる。このため、シンボル同期部171を通過後には、br1において、シンボル同期がとられたI信号又はQ信号が出力される。ここでは、図1における判定ポイント毎に図2におけるI1又はI2、Q1又はQ2となっている旨が認識される。なお、AFC151、同期検波部161の動作に際しては、シンボル同期部171からフィードバックされた位相誤差εが用いられる。br1において用いられる各構成要素は、従来の通信装置で用いられているものと変わるところがない。
【0054】
ここでは、同期検波部161において、図3に示されたように位相の調整が行われる。この場合において、調整後の位相が適正な場合とπだけずれる場合があり、その場合にはI信号、Q信号の符号が反転する場合があることは前記の通りである。このため、シンボル同期部171を通過後のI信号、Q信号を用いて復号(前記のMark/Spaceの判定)を行うことも可能であるが、この際にはこの判定が適正でない場合が発生する。
【0055】
br2においても、アンテナAN2以下で同様に、AD変換器112、周波数変換部122、ダウンサンプル処理部132、AGC142、AFC152、同期検波部162、シンボル同期部172が設けられる。これによって、br1とは独立に、I信号、Q信号が出力される。これらの符号が場合により適正な場合から反転する場合があることも同様である。すなわち、br1、br2は独立した受信系を構成し、これらの構成は、従来の受信装置で用いられるものと変わるところはない。
【0056】
この受信装置1においては、ダイバーシティ合成の際の調整を行う合成調整部10が用いられる。合成調整部10にはbr1、br2から得られたI信号、Q信号が入力し、図4に示された状態判定タイミングにおけるI信号、Q信号から、前記のD((8)式)、D((9)式)、Br1((10)式)、Br2((11)式)が算出される。合成調整部10は、これらの値によって、図5に基づいて、現在の状態が「00」、「01」、「10」、「11」のいずれであるかを認識することができる。
【0057】
ダイバーシティ合成部20は、この結果に基づいて、表2におけるいずれかの合成式によって、ダイバーシティ合成出力を生成する。その後、復調処理部30は、図2に示されたようにI信号、Q信号からMark/Spaceを判定する。復調処理部30は、従来の通信装置で用いられているものと同様である。ただし、ここで判定のために用いられるI、Qは、前記の合成式によって生成された、(6)式に対応するDivI、DivQとなる。このため、図2に示されたように、I(I1、I2)、Q(Q1,Q2)から、Mark/Spaceの判定をする。この際、前記のように同期検波部161、162によってI信号、Q信号の符号が反転している場合でも、ダイバーシティ合成出力中においてはbr1、br2からの出力が増強し合うように合成される。このため、この判定を適正にすることができ、符号誤り率を低くすることができる。
【0058】
図7は、上記の受信装置1における合成調整部10の動作を示すフローチャートである。前記のように、合成調整部10は、現在の状態が「00」、「01」、「10」、「11」のいずれであるかを認識する。このため、合成調整部10は、AD変換器111、112の出力等によって、現在の受信信号の強度を認識する。これによって、現在が図4におけるP11、P21等の状態判定タイミングであるか否かが判定される(S1)。現在が状態判定タイミングであると認識された場合(S1:Yes)には、合成調整部10は、前記のようにD、D、Br1、Br2を算出し、これを記憶する。ここで、DとDの大小関係が前回の状態判定タイミングにおける大小関係から変化がなかった場合(S3:No)には、現在の状態は、前回の状態判定タイミングにおいて認識された状態と同じであると認識される(S4)。
【0059】
一方、DとDの大小関係が前回の状態判定タイミングにおける大小関係から変化があった場合(S3:Yes)には、D、D、Br1、Br2の値に応じて、図5に示された関係に基づいて、新たな状態が認識されるため、これを記憶する(S5)。
【0060】
ダイバーシティ合成部20は、このように状態が判定された後においては、このように認識された最新の状態に応じて、前記のようにダイバーシティ合成出力を生成する。その後、次回の状態判定タイミング(S1)で新たに状態が認識された場合には、以降はその状態に応じたダイバーシティ合成出力を生成する。
【0061】
また、ダイバーシティ合成部20で用いられる合成式は、表2に示された4種類である。この合成式は、この合成出力が大きくなるように設定されるため、この4種類の合成式による4種類の値を算出し、最も大きな値が得られた合成式に対応した状態が、現在の状態であると推定することも可能である。この場合においても、図4における状態判定タイミング直後においてこの判定を行い、次回の状態判定タイミングまでの間はこの合成式を用いることができる。この場合には、合成調整部10は不要、あるいはダイバーシティ合成部20自身がこの状態を認識することができる。
【0062】
実際に上記の方式を用いて静特性、動特性のシミュレーションを行った結果について説明する。ここでは、変調方式をGMSK(bT=0.5)、搬送波の周波数を2.3GHz、伝送速度を4Mbps、サンプリングレートを128MHz(32倍オーバーサンプル)、λ=0.98とした。また、動特性において、伝搬モデルとしては、K=4、f =600HzとしたRICEフェージングを仮定した。
【0063】
図8は、単一ブランチのみ(br1又はbr2)を用いた場合(比較例)と、図6に示されたようにダイバーシティ合成出力を用いた場合(実施例)の符号誤り率(BER)と搬送波電力耐雑音比(CNR)の関係の静特性である。特に雑音が大きな場合においては、上記の構成によって大幅にBERを改善することができる。
【0064】
また、図9は、前記のフェージングを仮定した場合における同様の特性(動特性)である。ここでは、雑音が大きな場合には単一ブランチの場合にはBERを1×10-3以下とすることが困難であるのに対し、上記の構成によってBERを1×10-5以下とすることができる。すなわち、フェージングがある環境下では、上記の受信装置は特に有効である。
【0065】
上記の例では、変調方式としてGMSKが用いられたが、MSKの場合においても同様の効果を奏することは明らかである。また、上記の例においては2つの受信系が用いられ、2=4種類の状態(関係式)が設定されたが、同様に、3つの受信系が用いられる場合には8種類、4つの受信系が用いられる場合には16種類の状態を設定することができる。また、3つ以上の受信系を用いる場合において、そのうちの2つにおいて上記の構成を適用することもできる。
【0066】
以上、本発明を実施形態をもとに説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の実施形態は、同期検波とダイバーシティ方式とを組み合わせた通信装置、通信システムに利用可能性がある。また、変調方式がGMSK、2系統のダイバーシティ方式、といった通信装置や通信システムに利用可能性がある。また、フェージングが顕著な環境下における通信装置や通信システムに利用可能性がある。この出願は、2020年3月18日に出願された日本出願特願2020-047942を基礎として優先権の利益を主張するものであり、その開示の全てを引用によってここに取り込む。
【符号の説明】
【0068】
1 受信装置10 合成調整部20 ダイバーシティ合成部30 復調処理部111、112 AD変換器121、122 周波数変換部131、132 ダウンサンプル処理部141、142 AGC151、152 AFC161、162 同期検波部171、172 シンボル同期部AN1、AN2 アンテナ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9