(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】レーザ加工装置およびレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/08 20140101AFI20230712BHJP
B23K 26/10 20060101ALI20230712BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20230712BHJP
B23K 26/14 20140101ALI20230712BHJP
【FI】
B23K26/10
B23K26/00 M
B23K26/14
(21)【出願番号】P 2022534933
(86)(22)【出願日】2021-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2021019283
(87)【国際公開番号】W WO2022009535
(87)【国際公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2020118893
(32)【優先日】2020-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】394019082
【氏名又は名称】コマツ産機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 義博
(72)【発明者】
【氏名】野崎 茂
(72)【発明者】
【氏名】岡本 匡平
(72)【発明者】
【氏名】高田 伸浩
(72)【発明者】
【氏名】近藤 圭太
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-132270(JP,A)
【文献】特開2012-164974(JP,A)
【文献】特開昭62-267095(JP,A)
【文献】特開平07-027903(JP,A)
【文献】特開昭49-084000(JP,A)
【文献】特開2017-177152(JP,A)
【文献】特開平06-190582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/08
B23K 26/00
B23K 26/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を用いて被加工材を加工するレーザ加工装置であって、
前記被加工材の下面を支持する載置部を有する支持部材と、
前記レーザ光の透過を抑制する透過抑制液を
前記被加工材の上面よりも高い高さ位置まで貯留可能な容器と、
前記レーザ光の照射部における前記被加工材の前記上面の前記透過抑制液を除去するようにガスを吹き出すガス吹出口を有するレーザヘッドと、を備える、レーザ加工装置。
【請求項2】
前記透過抑制液は、0.7μm以上10μm以下の波長域における光の透過率が10%/cm以下である、請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記透過抑制液は、0.7μm以上10μm以下の波長域における光の透過率が5%/cm以下である、請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記透過抑制液は、0.7μm以上10μm以下の波長域における光の透過率が3%/cm以下である、請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記透過抑制液は、0.7μm以上10μm以下の波長域における光の透過を抑制するための添加剤として炭素を含む、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記透過抑制液は防錆剤を含む、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記容器に貯留される前記透過抑制液の液位を検出する液位検出センサーと、
前記液位検出センサーの検出結果に基づいて、前記容器に貯留される前記透過抑制液の液位を調整する液位調整機構と、をさらに備える、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
前記容器に貯留される前記透過抑制液の透過率を検出する透過率検出センサーと、
前記透過率検出センサーの検出結果に基づいて、報知およびレーザ加工動作の少なくとも一方の制御指令を発するコントローラと、をさらに備える、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項9】
前記レーザヘッドは、前記レーザ光を射出する射出部を有
し、
前記レーザヘッドの周囲を取り囲むレーザ光遮光部
材をさらに備える、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項10】
前記レーザ光遮光部材は、前記被加工材と対向する下面を有する板部材であり、前記板部材の前記下面は、前記板部材を径方向に切断した断面において鋸歯状の凹凸を有する、請求項9に記載のレーザ加工装置。
【請求項11】
前記レーザ光遮光部材は、前記被加工材と対向する下面を有する板部材である、請求項9に記載のレーザ加工装置。
【請求項12】
前記板部材の直径は200mm以上である、請求項10または
請求項11に記載のレーザ加工装置。
【請求項13】
前記レーザ光遮光部材は、
前記レーザヘッドの前記射出部の周囲を取り囲む筒形状の周壁部と、
前記周壁部に取り付けられ、第1孔が設けられた第1上板と、
前記第1上板の上に隙間を挟むように前記周壁部に取り付けられ、第2孔が設けられた第2上板と、を有し、
前記第2孔は、前記被加工材から反射した前記レーザ光が前記第1孔を通過して前記隙間内を直線状に進んだ先の位置を避けて前記第2上板に配置されている、請求項9に記載のレーザ加工装置。
【請求項14】
前記レーザヘッドは、前記ガス吹出口から吹き出すガスが旋回流となるように構成されている、
請求項1から請求項13のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項15】
前記ガス吹出口は、アシストガスを吹き出す第1吹出口と、前記第1吹出口の外周に配置された第2吹出口と、を有する、
請求項1から請求項14のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項16】
前記透過抑制液は、光を吸収して前記レーザ光の透過を抑制する、請求項1から請求項
15のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項17】
レーザ加工装置により被加工材をレーザ加工するレーザ加工方法であって、
波長が0.7μm以上10μm以下である光の透過を抑制する透過抑制液を容器に貯留するステップと、
前記容器に対して前記被加工材を載置するステップと、
前記被加工材の
上面よりも高い高さ位置まで前記透過抑制液が貯留され、
レーザ光の照射部における前記被加工材の前記上面の前記透過抑制液が前記レーザ加工装置におけるレーザヘッドのガス吹出口から吹き出すガスにより除去され、かつ前記被加工材を貫通した
前記レーザ光が前記透過抑制液に入射する状態で、前記レーザ光を用いて前記被加工材を加工するステップと、を備える、レーザ加工方法。
【請求項18】
前記レーザ加工装置は、
前記レーザ光を射出する射出部を有する
前記レーザヘッドと、
前記レーザヘッドの前記射出部の周囲を取り囲む遮光カバーと、を備え、
前記レーザ光を用いて前記被加工材を加工するステップにおいて、前記遮光カバーは、前記遮光カバーの下端と前記被加工材との間に隙間を有する、請求項
17に記載のレーザ加工方法。
【請求項19】
前記レーザ光を用いて前記被加工材を加工するステップにおいて、
前記透過抑制液の液位は前記遮光カバーの前記下端よりも上に調整される、請求項
18に記載のレーザ加工方法。
【請求項20】
レーザ光を用いて被加工材を加工するレーザ加工装置であって、
前記被加工材の下面を支持する載置部を有する支持部材と、
波長が0.7μm以上10μm以下である光の透過を抑制する透過抑制液を
前記被加工材の上面よりも高い高さ位置まで貯留可能な容器と、
前記レーザ光の照射部における前記被加工材の前記上面の前記透過抑制液を除去するようにガスを吹き出すガス吹出口を有するレーザヘッドと、を備える、レーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ加工装置およびレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ファイバレーザを用いたレーザ加工装置には、マシンルーム型ファイバレーザ加工装置、ガントリー型ファイバレーザ加工装置などがある。マシンルーム型ファイバレーザ加工装置は、被加工材が比較的小さい場合に用いられる。このタイプの加工装置では、レーザ光が装置外部へ漏れないように切断テーブル全体がマシンルームで覆われる。
【0003】
またガントリー型ファイバレーザ加工装置は、被加工材が比較的大きい場合に用いられる。このタイプの加工装置では、切断テーブル全体を覆うことができないため、レーザ光が装置外部へ漏れないようにレーザヘッド周りがカバーで覆われる。
【0004】
ガントリー型ファイバレーザ加工装置は、たとえば特許第5940582号公報(特許文献1)に開示されている。特許文献1には、レーザノズル側カバー体とガーター側カバー体との各々の下端側に遮光部材が取り付けられている。この遮光部材により、レーザノズル側カバー体およびガーター側カバー体の各々の下端部と定盤の上面との間の隙間からレーザ光が漏れることが防止されている。
【0005】
またレーザ加工装置において水を用いた装置が、たとえば特開平8-132270号公報(特許文献2)、特開昭62-168692号公報(特許文献3)などに開示されている。
【0006】
特許文献2では、加工テーブルの水槽内において被加工材の下部が冷却水に浸けられた状態でレーザ加工が行なわれる。これにより、被加工材の全体を下部から冷却し、安定した加工が可能になる。
【0007】
特許文献3では、剣山ピンの取付箱に水を入れた状態で、剣山ピンに支持された被加工材がレーザ加工される。水槽に入った水は、レーザ切断中に被加工材を冷却し、粉塵の飛散を抑える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5940582号公報
【文献】特開平8-132270号公報
【文献】特開昭62-168692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載のレーザ加工装置では、レーザ光が被加工材を貫通し、被加工材の下方において切断テーブル内を反射することにより装置外部へ漏れ出るおそれがある。このレーザ光の漏れ出しを防止するためには被加工材の下方に切断テーブル側遮光部材を設置する必要がある。このためレーザ加工装置の構造が複雑となる。
【0010】
また特許文献1において被加工材の下方に配置された切断テーブル側遮光部材はレーザ光により少しずつ削り取られていく。このため時間の経過とともに遮光が万全ではなくなり、レーザ光が装置外部へ漏れ出す。
【0011】
また特許文献2および3では、水槽内の水は被加工材の冷却または粉塵の飛散防止の目的で用いられるものであり、レーザ光の遮光は考慮されていない。
【0012】
本開示の目的は、簡易な装置構成で、レーザ光の外部への漏れ出しを防止できるレーザ加工装置およびレーザ加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討した結果、レーザ光の漏れ出しを防止するために、レーザ光の透過を抑制するための透過抑制液を利用するという従来存在しなかった発想に着目することにより本開示をなすに至った。
【0014】
本開示の一のレーザ加工装置は、レーザ光を用いて被加工材を加工するレーザ加工装置であって、支持部材と、容器とを備える。支持部材は、被加工材の下面を支持する載置部を有する。容器は、レーザ光の透過を抑制する透過抑制液を載置部の高さ位置まで貯留可能である。
【0015】
なお上記における「透過抑制液を載置部の高さ位置まで貯留可能」とは、透過抑制液を少なくとも載置部の高さ位置まで貯留可能であることを意味し、載置部の高さ位置よりも上方の位置まで貯留可能であることを含む。
【0016】
本開示のレーザ加工方法は、レーザ加工装置により被加工材をレーザ加工するレーザ加工方法であって、以下のステップを備える。
【0017】
波長が0.7μm以上10μm以下である光の透過を抑制する透過抑制液が容器に貯留される。容器に対して被加工材が載置される。被加工材の下に透過抑制液が貯留され、かつ被加工材を貫通したレーザ光が透過抑制液に入射する状態で、レーザ光を用いて被加工材が加工される。
【0018】
本開示の透過抑制液は、レーザ加工に用いられる透過抑制液であって、波長が0.7μm以上10μm以下である光の透過を抑制する。
【0019】
本開示の他のレーザ加工装置は、レーザ光を用いて被加工材を加工するレーザ加工装置であって、支持部材と、容器とを備える。支持部材は、被加工材の下面を支持する載置部を有する。容器は、波長が0.7μm以上10μm以下である光の透過を抑制する透過抑制液を載置部の高さ位置まで貯留可能である。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、簡易な装置構成で、レーザ光の外部への漏れ出しを防止できるレーザ加工装置およびレーザ加工方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】一実施形態におけるレーザ加工装置の構成を示す斜視図である。
【
図2】
図1のレーザ加工装置に用いられる容器の内部構成を示す断面斜視図である。
【
図3】
図1のレーザ加工装置に用いられるレーザヘッドの構成を示す断面図である。
【
図4】
図1のレーザ加工装置に用いられる遮光カバーの構成を示す断面図である。
【
図5】
図1のレーザ加工装置に用いられる液位調整機構の構成を示す断面図である。
【
図6】一実施形態におけるレーザ加工方法の第1工程を示す斜視図である。
【
図7】一実施形態におけるレーザ加工方法の第2工程を示す斜視図である。
【
図8】一実施形態におけるレーザ加工方法の第3工程を示す斜視図である。
【
図9】一実施形態におけるレーザ加工方法の第4工程を示す斜視図である。
【
図10】一実施形態におけるレーザ加工方法の第5工程を示す斜視図である。
【
図11】容器内における透過抑制液の液位を調整する様子を示す図である。
【
図12】被加工材をレーザ加工する様子を示す図である。
【
図13】被加工材のレーザ加工終了後に被加工材などを容器内から取り出す様子を示す図である。
【
図14】レーザ光遮光部材の他の構成を示す断面図である。
【
図15】レーザ加工による被加工材の加工点からの距離Lにおけるレーザ光のパワー密度を説明するための図である。
【
図17】媒質の厚みと透過率との関係を示す図である。
【
図19】レーザ加工時において透過抑制液のレーザ照射部への巻き込みを説明するための図である。
【
図20】レーザ光の透過率と液体の深さとの関係を調べるための装置の構成を説明するための図である。
【
図21】水道水を用いた場合のレーザ光の強度と液体の深さとの関係を示す図である。
【
図22】水道水に墨汁を添加した水溶液を用いた場合のレーザ光の強度と液体の深さとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、明細書および図面において、同一の構成要素または対応する構成要素には、同一の符号を付し、重複する説明を繰り返さない。また、図面では、説明の便宜上、構成を省略または簡略化している場合もある。
【0023】
<レーザ加工装置の構成>
本実施形態におけるレーザ加工装置の構成について
図1~
図5を用いて説明する。
【0024】
図1は、一実施形態におけるレーザ加工装置の構成を示す斜視図である。
図2は
図1のレーザ加工装置に用いられる容器の内部構成を示す断面斜視図である。
図3、
図4および
図5のそれぞれは、
図1のレーザ加工装置に用いられるレーザヘッド、遮光カバーおよび液位調整機構の構成を示す断面図である。
【0025】
図1および
図2に示されるように、本実施形態のレーザ加工装置20は、容器1と、切断パレット2(支持部材)と、スラッジトレイ3と、液位調整タンク4と、レーザヘッド10と、駆動機構25と、操作盤30とを主に有している。
【0026】
図2に示されるように、容器1は、矩形状の底壁1aと、底壁1aの4辺の各々から立ち上がる4つの側壁1bとを有する。容器1は、上方が開口した有底筒形状を有する。容器1は、上端の開口部と、その開口部から容器1の内部へ延びる内部空間とを有する。
【0027】
容器1は、内部に液体を貯留できるように構成されている。側壁1bには、パレット支持部1cが設けられている。パレット支持部1cは、側壁1bの壁面から容器1の内部空間に向かって側方へ突き出している。
【0028】
液位調整タンク4は、容器1の内部空間内に配置されている。液位調整タンク4は、下端に開口部を持つ箱形状を有している。この開口部を通じて、液位調整タンク4の内部空間は容器1の内部空間と繋がっている。
【0029】
液位調整タンク4は、液位調整タンク4の内部空間にガスを貯留できるように構成されている。液位調整タンク4の内部空間に対してガスを供給または排出することが可能である。液位調整タンク4の内部空間にガスを供給することにより、液位調整タンク4内の液体を液位調整タンク4の外部へ押し出すことができる。また液位調整タンク4の内部空間からガスを排出することにより、液位調整タンク4の外部から内部へ液体を取り入れることができる。これにより、容器1内の液位を調整することが可能である。
【0030】
スラッジトレイ3は、液位調整タンク4の上方に配置されている。スラッジトレイ3は、上端に開口部を有する箱形状を有している。スラッジトレイ3は、レーザ加工で被加工材を切断した際に生じるスラッジを溜めることが可能である。レーザ加工の際に生じたスラッジは、被加工材WO(
図5)から落下し、スラッジトレイ3の上端における開口部を通じてスラッジトレイ3の内部に溜められる。
【0031】
切断パレット2は、パレット支持部1cにより容器1に支持される。切断パレット2は、容器1の内部空間内であって、スラッジトレイ3の上方に配置されている。切断パレット2は、複数の第1支持板2aと、複数の第2支持板2bとを有する。複数の第1支持板2aと複数の第2支持板2bとは、縦横に配置されることにより格子状に組み上げられている。
【0032】
切断パレット2は、被加工材WO(
図5)の下面を支持する載置部2cを有する。切断パレット2の載置部2cは、たとえば複数の第2支持板2bの各々の上端により構成されている。載置部2cは、容器1の上端(側壁1bの上端)よりも低い位置にある。容器1の上端は、載置部2cに被加工材WOを載置した状態で、被加工材WOの上面よりも高い位置にある。これにより、載置部2cに被加工材WOが載置された状態で容器1内に液体を満たした場合、液体の液位を被加工材WOの上面より高くすることができる。
【0033】
図1に示されるように、駆動機構25は、レーザヘッド10を、X方向(容器1の長手方向)、Y方向(容器1の短手方向)およびZ方向(上下方向)に移動させる。駆動機構25は、左右1対の支持台21と、X方向可動台22と、Y方向可動台23と、レーザヘッド10とを主に有している。
【0034】
左右1対の支持台21は、容器1をY方向に挟み込むように配置されている。左右1対の支持台21は、X方向に延びている。X方向可動台22は、Y方向に延びることにより、左右1対の支持台21に跨って配置されている。X方向可動台22は、X軸モータ(図示せず)により支持台21に沿ってX方向に駆動される。
【0035】
Y方向可動台23は、たとえばラックピニオン機構により、X方向可動台22に対してY方向に移動可能に支持されている。Y方向可動台23は、Y軸モータ(図示せず)によりY方向に駆動される。
【0036】
レーザヘッド10は、たとえばラックピニオン機構により、Y方向可動台23に対してZ方向に移動可能に支持されている。レーザヘッド10は、Z軸モータ(図示せず)によりZ方向に駆動される。
【0037】
操作盤30は、被加工材WOの板厚、材質、速度などの加工条件の入力を受け付ける。操作盤30は、ディスプレイ、スイッチ、報知器などを有する。ディスプレイには、加工条件の入力画面、レーザ加工装置20の稼働状況を示す画面などが表示される。
【0038】
図3に示されるように、レーザヘッド10は、ヘッド本体5と、集光レンズ6aとを主に有する。ヘッド本体5は、本体部5aを有する。
【0039】
本体部5aは、中空の円筒形状を有する。集光レンズ6aは、本体部5aの中に収納されている。集光レンズ6aは、レーザ光RLを被加工材WOに集光する。集光レンズ6aによって集光されたレーザ光RLは、本体部5aのレーザ射出口5aa(射出部)から被加工材WOに向かって射出される。
【0040】
本実施形態のレーザ加工装置20に用いられるレーザ光RLは、可視光、近赤外光、中赤外光および遠赤外光のいずれかの波長を有し、0.7μm以上10μm以下の波長を有する。このレーザ光RLは、たとえばファイバレーザを光源とするレーザ光であり、YAG(Yttrium Aluminum Garnet)を含む固体レーザを光源とするレーザ光であってもよい。ファイバレーザとは、光ファイバを増幅媒体とする固体レーザの一種である。ファイバレーザでは、光ファイバの中心にあるコアに希土類元素Yb(イッテルビウム)がドープされている。ファイバレーザを光源とするレーザ光RLは、約1.06μmの波長を有する近赤外光である。ファイバレーザでは、炭酸ガスレーザよりもランニングコスト、メンテナンスコストが安い。
【0041】
本体部5aは、ガス吹出口5aa(第1吹出口)と、ガス供給部5abとを有する。ガス供給部5abから本体部5a内にアシストガスが供給される。本体部5a内に供給されたアシストガスは、ガス吹出口5aaから被加工材WOに向かって吹き出される。ガス吹出口5aaは、レーザ射出口5aaを兼ねている。
【0042】
ヘッド本体5は、アウターノズル5bをさらに有してもよい。アウターノズル5bは、本体部5aのガス吹出口5aaの周囲を取り囲むように本体部5aに取り付けられている。アウターノズル5bの内周面と本体部5aの外周面との間には、隙間空間が設けられている。
【0043】
アウターノズル5bは、ガス吹出口5ba(第2吹出口)と、ガス供給部5bbとを有する。ガス吹出口5baおよびガス供給部5bbの各々は、上記隙間空間に繋がっている。ガス吹出口5baは、ガス吹出口5aaの外周に配置され、円環形状を有する。
【0044】
ガス供給部5bbから本体部5aとアウターノズル5bとの間の隙間空間に2次ガス(シールドガス)が供給される。隙間空間内に供給された2次ガスは、ガス吹出口5baから被加工材WOに向かって吹き出される。これによりガス吹出口5aaから吹き出されるアシストガスの外周側に、ガス吹出口5baから2次ガスが吹き出される。
【0045】
上記のようにレーザヘッド10は、ガス吹出口5aa、5baを有する。ガス吹出口5aa、5baは、アシストガスを吹き出すガス吹出口5aaと、2次ガスを吹き出すガス吹出口5baとを含んでいてもよい。ガス吹出口5aaとガス吹出口5baとは、2重ノズル構造を構成する。
【0046】
図4に示されるように、レーザヘッド10は、遮光カバー7を有する。遮光カバー7は、レーザ射出口5aa(ガス吹出口5aa)の周囲を取り囲む。遮光カバー7は、たとえばゴムシートよりなっている。遮光カバー7は、周壁部7aと、第1上板7bと、第2上板7cとを有する。周壁部7aは、ヘッド本体5の外周を取り囲む円筒形状を有する。
【0047】
周壁部7aの上部には第1上板7bおよび第2上板7cが取り付けられている。第1上板7bには、1つまたは複数の第1孔7baが設けられている。第2上板7cは、第1上板7bの上に隙間7dを挟んで配置されている。
【0048】
第2上板7cには、1つまたは複数の第2孔7caが設けられている。第1上板7bの下方に位置する周壁部7aの内部空間7eは、第1孔7baと第2孔7caとを通じて遮光カバー7の外部空間と繋がっている。後述するように、レーザ加工時において遮光カバー7の周壁部7aの下端7Lより高い位置まで液体LIが貯留されていても、このような構造により、遮光カバー7の内部空間7eにおけるガスは、第1孔7baと第2孔7caとを通じて遮光カバー7の外部へ抜ける。
【0049】
第1孔7ba、隙間7dおよび第2孔7caは、レーザ光に対してラビリンス構造を構成する。具体的には
図4中の実線矢印で示すように、レーザヘッド10のレーザ射出口5aaから射出されて被加工材WOにて反射したレーザ光が第1孔7baを通過した後に隙間7d内を直線状に進んだ先に第2孔7caが位置しない。第2孔7caは、レーザヘッド10を中心とする径方向の位置において、第1孔7baよりもたとえば内周側に位置する。
【0050】
第1孔7baを通過して隙間7dに入ったレーザ光は、第1上板7bと第2上板7cとの間で反射を繰り返すことにより(多重反射することにより)遮光カバー7に吸収される。これにより遮光カバー7の内部から外部へレーザ光が漏れることはない。
【0051】
図5に示されるように、容器1の内部に液体LIを供給するための供給配管36が設けられている。供給配管36には、供給バルブ31が取り付けられている。供給バルブ31を開くことにより容器1の内部空間への液体LIの供給が開始され、供給バルブ31を閉じることにより容器1の内部空間への液体LIの供給が停止される。
【0052】
液位調整タンク4には、容器1の外部からガス配管37が接続されている。ガス配管37には加圧バルブ32と、減圧バルブ33とが取り付けられている。加圧バルブ32を開くことにより液位調整タンク4内にガスが供給され、加圧バルブ32を閉じることにより液位調整タンク4内へのガスの供給が停止される。減圧バルブ33を開くことにより液位調整タンク4内のガスが外部へ排出され、減圧バルブ33を閉じることにより液位調整タンク4内からのガスの排出が停止される。液位調整タンク4、ガス配管37、加圧バルブ32および減圧バルブ33は液位調整機構に含まれる。この液位調整機構は、後述のように、液位検出センサー41の検出結果に基づいて容器1内における透過抑制液LIの液位を調整する。
【0053】
容器1には、オーバーフロー配管38が取り付けられている。容器1内の液体の液位が所定液位以上になった場合に、容器1内の液体がオーバーフロー配管38を通じて貯液槽35へ排出される。貯液槽35は、容器1の外部に配置されている。
【0054】
容器1には、液排出配管39が取り付けられている。液排出配管39には排出バルブ34が取り付けられている。排出バルブ34を開くことにより容器1内の液体LIが貯液槽35に排出され、排出バルブ34を閉じることにより容器1からの液体LIの排出が停止される。
【0055】
容器1は、少なくとも載置部2cの高さ位置HLまで液体LIを貯留可能に構成されている。また容器1は、載置部2cに載置された被加工材WOの上面よりも高い位置まで液体LIを貯留可能である。さらに容器1は、レーザ加工時における遮光カバー7の周壁部7aの下端より高い位置まで液体LIを貯留可能である。
【0056】
容器1に貯留される液体LIは、レーザ光の透過を抑制する透過抑制液LIである。透過抑制液LIは、光を吸収してレーザ光の透過を抑制する。透過抑制液LIは、たとえば波長が0.7μm以上10μm以下である光の透過を抑制する。
【0057】
透過抑制液LIにおける0.7μm以上10μm以下の波長域における光の透過率は、たとえば10%/cm以下である。また透過抑制液LIにおける0.7μm以上10μm以下の波長域における光の透過率は、たとえば5%/cm以下であることが好ましい。また透過抑制液LIにおける0.7μm以上10μm以下の波長域における光の透過率は、たとえば3%/cm以下であることがより好ましい。
【0058】
透過抑制液LIは、0.7μm以上10μm以下の波長域における光の透過を抑制するため、0.7μm以上10μm以下の波長域における光を吸収または散乱する添加剤を含む。この添加剤はたとえば炭素を含む。添加剤は、黒色であることが好ましい。透過抑制液LIは、たとえば水に炭素を添加した水溶液である。透過抑制液LIは、たとえば水に0.1容積%の墨汁を加えた水溶液である。本明細書における水とは、水道水であってもよく、純水であってもよい。墨汁は、膠またはその他の水溶性樹脂の水溶液に、カーボンブラック(炭素)を分散させてなるものであり、カーボンブラックの混合比率は全量に対して4.0~20.0重量%であり、好ましくは5.0~10.0重量%である。墨汁は、たとえば市販の「呉竹 濃墨墨滴 BA7-18」である。
【0059】
透過抑制液LIは、防錆剤を含むことが好ましい。防錆剤は、鋼材などの腐食を抑制する腐食抑制剤である。防錆剤は、たとえば水溶性である。防錆剤としては、たとえば沈殿皮膜型インヒビター、不動態型インヒビター、脱酸素型インヒビターなどが用いられてもよい。
【0060】
レーザ加工装置20は、液位検出センサー41と、透過率検出センサー42と、コントローラ50と、報知器51と、加工開始スイッチ52とをさらに有している。液位検出センサー41は、容器1内に貯留された透過抑制液LIの液位を検出する。透過率検出センサー42は、容器1内に貯留された透過抑制液LIの透過率を検出する。
【0061】
報知器51は、表示、音などによりレーザ加工装置20の状態を外部へ報知する。報知器51は、操作盤30(
図1)に設けられた警告灯、ディスプレイまたはスピーカであってもよい。加工開始スイッチ52は、外部からの操作によりレーザ加工装置20によるレーザ加工開始の指令を発する。加工開始スイッチ52は、操作盤30に設けられてもよい。加工開始スイッチ52は、操作盤30に設けられたタッチパネルであってもよい。
【0062】
コントローラ50は、供給バルブ31、加圧バルブ32、減圧バルブ33、排出バルブ34を開閉するよう制御する。コントローラ50は、レーザヘッド10のX、Y、Z方向への移動、レーザヘッド10からのレーザ照射などを制御する。コントローラ50は、報知器51による報知を制御する。
【0063】
コントローラ50は、液位検出センサー41により検出された容器1内における透過抑制液LIの液位を示す信号を受ける。コントローラ50は、透過率検出センサー42により検出された透過抑制液LIの透過率を示す信号を受ける。コントローラ50は、加工開始スイッチ52による加工開始の指令を示す信号を受ける。
【0064】
コントローラ50は、液位検出センサー41の検出結果に基づいて、加圧バルブ32または減圧バルブ33の開閉を制御する。これにより液位調整タンク4内に貯留されるガスの量が調整され、容器1に貯留される透過抑制液LIの液位が調整される。このようにコントローラ50が加圧バルブ32または減圧バルブ33の開閉を制御することにより、液位調整機構(液位調整タンク4、ガス配管37、加圧バルブ32および減圧バルブ33)が容器1内に貯留される透過抑制液LIの液位を調整する。
【0065】
コントローラ50は、透過率検出センサー42の検出結果に基づいて、報知器51による報知およびレーザ加工動作の少なくとも一方の制御指令を発する。透過率検出センサー42により検出された透過抑制液LIの透過率が所定値(たとえば10%/cm、5%/cmまたは3%/cm)より大きいとき、コントローラ50は報知器51による報知を実行する制御指令、またはレーザ加工の実施を停止する(またはレーザ加工を開始しない)制御指令を発する。報知器51による報知は、たとえば表示または音によって行なわれる。
【0066】
一方、透過率検出センサー42により検出された透過抑制液LIの透過率が所定値(たとえば10%/cm、5%/cmまたは3%/cm)以下のとき、コントローラ50は報知器51による報知を実行せず、かつレーザ加工の実施を実行する制御指令を発する。
【0067】
コントローラ50は、たとえばプロセッサであり、CPU(Central Processing Unit)であってもよい。
【0068】
<レーザ加工方法>
次に、本実施形態におけるレーザ加工装置を用いたレーザ加工方法について
図6~
図13を用いて説明する。
【0069】
図6~
図10は、一実施形態におけるレーザ加工方法を工程順に示す斜視図である。
図11は、容器内における透過抑制液の液位を調整する様子を示す図である。
図12は、被加工材をレーザ加工する様子を示す図である。
図13は、被加工材のレーザ加工終了後に被加工材などを容器内から取り出す様子を示す図である。
【0070】
図6に示されるように、レーザ加工装置20の容器1内に、透過抑制液LIが供給される。この際、
図5に示されるコントローラ50は、供給バルブ31を開くように制御する。これにより供給配管36から透過抑制液LIが容器1内に供給される。この際、コントローラ50は、液位検出センサー41により容器1内の透過抑制液LIの液位を検出する。コントローラ50は、液位検出センサー41の検出結果に基づいて容器1内の透過抑制液LIの液位が所望の液位になったと判断したら、供給バルブ31を閉じるように制御する。このとき、透過抑制液LIは、たとえば切断パレット2の載置部2cの高さ位置よりも低い位置まで供給される。
【0071】
図6に示されるように、レーザ加工装置20に被加工材WOが搬入される。被加工材WOは、切断パレット2の載置部2c上に配置される。被加工材WOは、たとえば鋼材である。この状態で、レーザ加工装置20によるレーザ加工動作が開始される。
【0072】
図5に示されるように、レーザ加工装置20におけるレーザ加工動作の開始は、たとえば加工開始スイッチ52を操作することにより行なわれる。コントローラ50は、加工開始スイッチ52からレーザ加工動作開始の信号を受けると、容器1内における透過抑制液LIの透過率を検出するよう透過率検出センサー42を制御する。
【0073】
コントローラ50は、透過率検出センサー42により検出された透過抑制液LIの透過率が所定の透過率(たとえば10%/cm、5%/cm、または3%/cm)以下か否かを判定する。コントローラ50は、透過抑制液LIの透過率が所定の透過率より大きい場合、レーザ加工動作を開始しない、またはレーザ加工動作の実施を停止するようにレーザ加工装置20を制御する。またコントローラ50は、透過抑制液LIの透過率が所定の透過率より大きい場合、表示または音によって透過抑制液LIの透過率が所定の透過率より大きいことを報知するよう報知器51を制御する。
【0074】
一方、コントローラ50は、透過抑制液LIの透過率が所定の透過率以下である場合、レーザ加工装置20によるレーザ加工動作を開始する、またはレーザ加工動作の実施を停止しないようレーザ加工装置20を制御する。
【0075】
レーザ加工動作が開始されると、コントローラ50は、液位検出センサー41の検出結果に基づいて、容器1に貯留される透過抑制液LIの液位を調整する。具体的には、コントローラ50は、たとえば加圧バルブ32を開くように制御する。これにより液位調整タンク4内にガスが供給され、容器1に貯留される透過抑制液LIの液位が高くなるように調整される。
【0076】
図11に示されるように、透過抑制液LIの液位調整により、透過抑制液LIの液位が被加工材WOの上面よりも高い位置に調整される。これにより被加工材WOの全体は、透過抑制液LI内に沈む(浸漬される)。
【0077】
図7に示されるように、この状態で、レーザヘッド10がレーザ加工の開始位置へ移動する。レーザヘッド10の移動は、コントローラ50(
図5)により制御される。具体的には、X方向可動台22が左右1対の支持台21に対してX方向に移動する。またY方向可動台23がX方向可動台22に対してY方向に移動する。またレーザヘッド10は、Y方向可動台23に対してZ方向に移動する。
【0078】
図8に示されるように、レーザ加工装置20によるレーザ加工が開始される。レーザ加工時には、レーザヘッド10から被加工材WOに向けてレーザ光が照射される。またレーザヘッド10からアシストガスが被加工材WOに向けて吹き出される。
【0079】
図12に示されるように、レーザ加工時には、透過抑制液LIの液位が遮光カバー7の下端7Lよりも上になるように調整される。これにより遮光カバー7の下端7Lは、透過抑制液LIの液位と被加工材WOの上面との間に位置している。
【0080】
レーザヘッド10からアシストガスが被加工材WOに向けて吹き出される。アシストガスの吹き出し力により、被加工材WOの加工点において透過抑制液LIが押しのけられる。これにより被加工材WOの加工点において被加工材WOの上面が透過抑制液LIから露出する。
【0081】
透過抑制液LIから露出した被加工材WOの上面にレーザ光が照射される。このレーザ光の照射により被加工材WOが加工される。これにより被加工材WOが、たとえば切断などされる。被加工材WOを切断することにより被加工材WOを貫通したレーザ光は、被加工材WOの下方に貯留された透過抑制液LIに入射する。
【0082】
レーザヘッド10から吹き出されたアシストガスは、第1上板7bの第1孔7baと第2上板7cの第2孔7caとを通じて遮光カバー7の内部から外部へ抜ける。このためアシストガスの吹き出しによって、遮光カバー7の内部においてガスの圧力が上昇することは抑制される。
【0083】
また第2上板7cの第2孔7caは、被加工材WOから反射したレーザ光が第1孔7baを通過して隙間7d内を直線状に進んだ先の位置を避けて第2上板7cに配置されている。このため被加工材WOから反射したレーザ光が遮光カバー7の内部から外部へ漏れることが防止される。よって第1孔7baを通過して隙間7dに入ったレーザ光は、第1上板7bと第2上板7cとの間で反射を繰り返すことにより(多重反射することにより)遮光カバー7に吸収される。
【0084】
図11に示されるように、レーザ加工により被加工材WOを切断した際に生じたスラッジSは透過抑制液LI内に沈み、スラッジトレイ3内に溜まる。スラッジSとは、たとえば溶融鉄が固まった酸化鉄の粒である。このように被加工材WOが透過抑制液LI内に浸漬された状態でレーザ加工が行なわれることにより、加工時に生じるスラッジSの周囲への飛散が防止される。
【0085】
図9に示されるように、上記のレーザ加工が終了すると、レーザヘッド10が初期位置へ移動するようコントローラ50(
図5)により制御される。具体的には、X方向可動台22が左右1対の支持台21に対してX方向に移動する。またY方向可動台23がX方向可動台22に対してY方向に移動する。またレーザヘッド10は、Y方向可動台23に対してZ方向に移動する。
【0086】
図10に示されるように、レーザヘッド10が初期位置に移動した後、透過抑制液LIの液位調整により、透過抑制液LIの液位が被加工材WOの下面よりも低い位置に調整される。これにより被加工材WOの全体は、透過抑制液LIから露出する。
【0087】
具体的には
図5に示されるように、コントローラ50は、レーザ加工終了を検出した後に、たとえば減圧バルブ33が開くように制御する。これにより液位調整タンク4内に貯留されるガスの量が減ぜられ、液位調整タンク4内に透過抑制液LIが流れ込む。このため容器1内における透過抑制液LIの液位が下がる。この際、コントローラ50は、液位検出センサー41により容器1内の透過抑制液LIの液位を検出する。コントローラ50は、容器1内の透過抑制液LIの液位が所望の液位になったと判断したら、減圧バルブ33を閉じるように制御する。
【0088】
図13に示されるように、容器1内の透過抑制液LIの液位が所定液位になった後に、被加工材WOがレーザ加工装置20から搬出される。また必要に応じて、切断パレット2およびスラッジトレイ3が容器1内から取り出される。この後、スラッジトレイ3内のスラッジSが撤去される。
【0089】
以上のように本実施形態におけるレーザ加工装置20を用いたレーザ加工が行なわれる。なお上記においてはレーザ加工方法として被加工材WOを切断する方法について説明したが、レーザ加工方法はレーザ光を用いた溶接などの加工方法であってもよい。
【0090】
上記の実施形態においては、コントローラ50は、透過抑制液LIの透過率が所定の透過率より大きい場合、被加工材WOの全体が透過抑制液LI内に沈む(浸漬される)よう透過抑制液LIの液位を調整する工程を開始しないものとして説明したが、これに限られない。コントローラ50は、透過抑制液LIの透過率が所定の透過率より大きい場合にレーザ光の照射を実行しなければよく、透過抑制液LIの液位を調整する工程を実行してもよい。
【0091】
<変形例>
次に、上記実施形態の変形例について
図14を用いて説明する。
【0092】
図14は、レーザ光遮光部材の他の構成を示す断面図である。
上記実施形態においては、
図4に示されるように、周壁部7aと、第1上板7bと、第2上板7cとを有する遮光カバー7について説明したが、レーザ光を遮光する部材(レーザ光遮光部材)はこの構成に限定されない。
【0093】
図14に示されるように、レーザ光遮光部材は板部材70であってもよい。板部材70は、たとえば環形状を有する。板部材70は、被加工材WOと対向する下面を有している。板部材70の下面は、板部材70を径方向に切断した断面において鋸歯状の凹凸を有していてもよい。鋸歯状の凹凸は、レーザ光が板部材70の下面に照射された場合にレーザ光を板部材70の内周側に反射するように構成されている。
【0094】
また板部材70は、厚みがほぼ一定で平らな形状を有する平板であってもよい。板部材70が平板である場合、板部材70の下面は平らであり、下面から被加工材WOに向かって延びる突起部を有していない。
【0095】
板部材70は、たとえばボルトなどの固定部材72によってヘッド本体5に取り付けられている。板部材70は、平面視においてガス吹出口5aaを中心としてヘッド本体5との取り付け位置から外周側へ延びている。これにより板部材70は、レーザヘッド10のレーザ射出口5aaの周囲を取り囲んでいる。
【0096】
板部材70は、たとえばカーボンプレートからなっていてもよく、またゴムシートからなっていてもよい。板部材70の下面(被加工材WOと対向する面)は、レーザ光を吸収しやすいように黒色とされていてもよい。また板部材70の下面には、反射材が貼付けられていてもよい。あるいは、金属製の板部材70の下面には、カーボンシートまたはゴムシートが貼付けられていてもよい。
【0097】
板部材70は、ヘッド本体5のレーザ射出口5aaから射出されて被加工材WOで反射したレーザ光を吸収または反射する。レーザ光は、板部材70で吸収されることにより、その強度を減ずる。またレーザ光は、板部材70で反射されて透過抑制液LI内を通ることにより、その強度を減ずる。これにより板部材70と被加工材WOとの間からレーザ光が漏れ出すことが抑制される。
【0098】
また図中矢印RLで示されるように、板部材70に当たらずに板部材70と被加工材WOとの隙間から外部へ漏れ出ようとするレーザ光がある。このレーザ光が透過抑制液LI内を所定距離L3だけ通過するように板部材70の寸法(直径L1)が設定されている。レーザ光が透過抑制液LI内を所定距離L3だけ通過することにより、レーザ光の強度は十分に減ぜられる。これにより板部材70と被加工材WOとの間からレーザ光が漏れ出すことが抑制される。
【0099】
レーザ光の波長域が0.7μm以上10μm以下で、透過抑制液LIが水に0.1容積%の上記墨汁を加えた水溶液である場合、所定距離L3が10mm以上とされれば、矢印RLの方向に沿うレーザ光の強度を十分に減ずることができる。透過抑制液LIの液面と被加工材WOの上面との距離T1が10mm、透過抑制液LIの液面と板部材70の下面との距離T2が5mm、ガスにより除去できる透過抑制液LIの直径L2が90mmの場合に、10mm以上の所定距離L3を確保するためには、板部材70の直径L1はたとえば200mm以上必要である。
【0100】
なお板部材70は、外周端縁70Aが内周端縁70Bに対して上または下に位置するように若干反っていてもよい。
【0101】
板部材70は、透過抑制液LIの液面との間に隙間空間を有する。ヘッド本体5から吹き出されたアシストガスおよび2次ガスの各々は、板部材70と透過抑制液LIの液面との間の隙間空間を通じて外部空間へ排出される。
【0102】
2次ガスは旋回流となってガス吹出口5baから吹き出すようにヘッド本体5は構成されている。2次ガスは、ガス供給部5bbから流路5bcを通ってリング71内を通過することで旋回成分を付与される。旋回成分を付与された2次ガスは、旋回流となって流路5bdを通ってガス吹出口5baから吹き出される。
【0103】
具体的には2次ガスがリング71内を通過することにより、吹出口5baに向かう2次ガスの流れに、リング71の軸線ALを中心とする円の接線方向の成分が付与される。なお軸線ALは、円筒形のリング71の中心Cを通り、かつリング71の軸方向に延びる仮想の直線である。これによりリング71を通過した後の2次ガスは、流路5bd内において本体部5aの外周面に沿ってらせん状に流れ、旋回流となってガス吹出口5baから吹き出される。2次ガスが旋回流となって吹出口5baから吹き出すことにより、2次ガスが軸流で吹出口5baから吹き出す場合と比較して、被加工材WOの上面から安定的に透過抑制液LIを除去することができる。たとえば2次ガスを旋回流とすることにより、被加工材WOの上面から透過抑制液LIを除去できる範囲として、
図14に示すような90mmの直径L2を安定的に得ることができる。
【0104】
なお、吹出口5baから吹き出す2次ガスを旋回流とする代わりに、吹出口5aaから吹き出すガスが旋回流とされてもよい。あるいは、吹出口5baから吹き出す2次ガスと吹出口5aaから吹き出すガスとの両方が旋回流とされてもよい。このようにレーザヘッド10は、ガス吹出口(吹出口5aa、5ba)から吹き出すガスが旋回流となるように構成されている。
【0105】
<本実施形態の効果>
次に、本実施形態の効果について説明する。
【0106】
本実施形態においては
図12に示されるように、容器1は、載置部2cの高さ位置まで透過抑制液LIを貯留可能である。このため載置部2cに載置された被加工材WOを加工するレーザ光は、被加工材WOを貫通した後に、透過抑制液LI内に入射される。透過抑制液LIは、レーザ光の透過を抑制する。このため、透過抑制液LI内に入射したレーザ光は透過抑制液LIにより透過を抑制される。これによりレーザ光は透過抑制液LI内で強度を減じられ、レーザ加工装置20の外部へのレーザ光の漏れ出しが防止される。
【0107】
また透過抑制液LIを容器1内に貯留するだけで、レーザ加工装置20の外部へのレーザ光の漏れ出しが防止される。このため被加工材WOの下方にレーザ光の漏れ出しを防止するための遮光部材を設置する必要がない。よって簡易な構造で、レーザ加工装置20の外部へのレーザ光の漏れ出しが防止される。
【0108】
またマシンルーム型ファイバレーザ加工装置のように容器1の全体をマシンルームで覆うことなく、レーザ光の漏れ出しが防止される。
【0109】
また透過抑制液LIは、波長が0.7μm以上10μm以下である光の透過を抑制するものであってもよい。この場合、レーザ光として波長が0.7μm以上10μm以下のレーザ光を用いると、透過抑制液LI内に入射したレーザ光は透過抑制液LIにより透過を抑制される。これによりレーザ光は透過抑制液LI内で強度を減じられ、レーザ加工装置20の外部へのレーザ光の漏れ出しが防止される。
【0110】
またレーザ光源としてファイバレーザが用いられることにより、レーザ加工における消費電力が低減され、かつ寿命が長くなる。ファイバレーザの光は炭酸ガスレーザの光(波長10.6μm)に比較して水などを透過しやすい。しかし本実施形態においては、上記のとおり透過抑制液LIが0.7μm以上10μm以下の波長を有する光の透過を抑制するため、レーザ光源としてファイバレーザが用いられてもレーザ光がレーザ加工装置20の外部へ漏れ出すことが防止される。
【0111】
また本実施形態においては、透過抑制液は、0.7μm以上10μm以下の波長域における光の透過率が10%/cm以下である。また透過抑制液は、0.7μm以上10μm以下の波長域における光の透過率が5%/cm以下であることが好ましい。さらに透過抑制液は、0.7μm以上10μm以下の波長域における光の透過率が3%/cm以下であることがより好ましい。以下、これらの光の透過率について
図15~
図18を用いて説明する。
【0112】
図15は、レーザ加工による被加工材の加工点からの距離Lにおけるレーザ光のパワー密度を説明するための図である。
図16は、媒質の厚みを説明するための図である。
【0113】
[透過率Q、媒質厚みTおよび減衰率δの関係]
鋼板加工用の高出力レーザ光がレーザ加工装置の外部に漏れても周囲に影響の少ないレベルまでレーザ光の強度を低下させるための減衰率δは、ランベルト・ベールの法則に基づいて以下の式(1)で表される。減衰率δは、透過率Qとレーザ光の散乱光あるいは反射光がどれだけの媒質の層を通過するのか、その媒質距離Tに依存する。
【0114】
【0115】
式(1)における媒質距離Tは、レーザ光がレーザ加工装置の外部に漏れても周囲に与える影響が少ないレベルまで減衰させるための媒質の厚みであり、単位はcmである。また透過率Qは、レーザ光がその媒質を1cm通過する前後のパワーの割合(=通過後のパワー/通過前のパワー)であり、その単位は%/cmである。減衰率δは、レーザ光が厚みTで透過率Qの媒質を通過することによる減衰率である。
【0116】
また、レーザ光が装置外部に漏れても周囲に影響の少ないレーザ光のレベル(パワー密度)PAは、たとえばPA=5mW/cm2に設定される。
【0117】
[レーザ光のパワー密度]
図15に示されるように、レーザ発振器8で発振されたレーザ光RLは、光ファイバ9を通過した後、コリメーターレンズ6bにより平行光線とされ、集光レンズ6aにより被加工材WOに集光される。
【0118】
レーザ発振器8におけるレーザ出力をW、平行光のビーム直径をd、平行光(集光レンズ6a直前)のパワー密度をP0とすると、レーザ光のパワー密度P0は以下の式(2)により表される。
【0119】
【0120】
一般的な鋼板加工用のレーザ光RLの場合、レーザ出力Wが3kWで、平行光のビーム直径dが2cmである。この場合、レーザ光RLのパワー密度P0は、式(2)から以下の式(3)で表される。
【0121】
【0122】
[加工点から離れた位置でのレーザ光のパワー密度]
通常、レーザ光は被加工材WOに垂直に照射されて、切断溝を形成し被加工材WOの下の切断テーブル内に到達して、切断テーブル内で反射しながら減衰する。この際、被加工材WOの切断の状況によっては、レーザ光が被加工材WOにより反射したり、切断テーブル内の壁や底板に当たって反射する。これにより、レーザ加工装置の外部へレーザ光が漏れる可能性が存在する。
【0123】
そこで
図15に示されるように、被加工材WOの加工点から距離Lだけ離れた位置でのレーザ光RLのパワー密度P1について検討する必要がある。被加工材WOの加工点は集光レンズ6aの焦点位置に相当し、そこから離れるに従って反射光が円錐状に広がるのでパワー密度は低下する。集光レンズ6aの焦点距離をfとすると、加工点から距離Lだけ離れた位置でのレーザ光RLのパワー密度P1は以下の式(4)のようになる。
【0124】
【0125】
集光レンズ6aの焦点距離fを15cmとすると、加工点から60cmだけ離れた位置でのレーザ光RLのパワー密度P1は式(4)から以下の式(5)で表される。
【0126】
【0127】
式(5)で得られたパワー密度P1は、上記パワー密度PA(=5mW/cm2)の104倍の値を有している。つまりパワー密度P1をパワー密度PAの1万分の1程度に減衰させなければ、レーザ光RLがレーザ加工装置の外部へ漏れ出して周囲に影響を与える可能性がある。
【0128】
[装置の周囲に影響を与えないパワー密度P1を得るための減衰率δ]
被加工材WOで反射したレーザ光RLが何らかの媒質中を通過して距離Lだけ離れた位置に到達する場合に、上記パワー密度P1がパワー密度PAと同じ値にまで減衰するための当該媒質による減衰率δは以下の式(6)で表される。
【0129】
【0130】
[パワー密度PAまで減衰させるための透過率Qと媒質厚みTとの関係]
ここで、当該媒質の透過率をQとし、当該媒質の厚みをTとした場合、透過率Qと厚みTとの間には、以下の式(7)の関係が成り立つ。なお、当該媒質の厚みTは、
図16に示されるようにレーザ光RLの進行方向における媒質(たとえば液体LI)の厚みである。
【0131】
【0132】
式(7)における減衰率δに式(2)、(4)、(6)を代入すると、以下の式(8)が得られる。
【0133】
【0134】
式(8)に基づいて、ビーム直径dを2cmとし、焦点距離fを15cmとし、レーザ出力Wを3kWまたは6kWとし、距離Lを50cmまたは100cmとしたときの当該媒質の透過率Qと当該媒質の厚みTとの関係をグラフ化したものが
図17である。また
図17の領域Rを拡大して示したものが
図18である。
【0135】
図17および
図18において、破線は、レーザ出力Wが3kWで、距離Lが50cmの場合を示す。一点鎖線は、レーザ出力Wが6kWで、距離Lが50cmの場合を示す。実線は、レーザ出力Wが6kWで、距離Lが100cmの場合を示す。
【0136】
ここで
図12に示されるように、被加工材WOが当該媒質内に浸漬されたときに、被加工材WOの上面上の当該媒質の厚みTが5cmであれば被加工材WOを加工可能である。
図17および
図18の結果から、当該媒質の厚みが5cmでも、当該媒質の透過率を10%/cm以下とすることにより、加工点から50cmまたは100cm離れた位置でのパワー密度P1をパワー密度PAまで減衰させることができることが分かる。
【0137】
以上より当該媒質の透過率を10%/cm以下とすることにより、当該媒質の厚みTが5cmでも、加工点から60cmだけ離れた位置でのパワー密度P1をパワー密度PAまで減衰させることができ、装置の外部に与える影響を少なくできることが分かる。また当該媒質の透過率を5%/cm以下とすることにより、当該媒質の厚みTが4cmでも、加工点から60cmだけ離れた位置でのパワー密度P1をパワー密度PAまで減衰させることができ、装置の外部に与える影響を少なくできることが分かる。さらに当該媒質の透過率を3%/cm以下とすることにより、当該媒質の厚みTが3cmでも、加工点から60cmだけ離れた位置でのパワー密度P1をパワー密度PAまで減衰させることができ、装置の外部に与える影響を少なくできることが分かる。
【0138】
本実施形態において、透過抑制液LIは、0.7μm以上10μm以下の波長域における光の透過を抑制するための添加剤として炭素を含む。透過抑制液LIの添加剤として炭素が添加されることにより、透過抑制液LIの透過率を顕著に低減することができる。
【0139】
また本実施形態においては、透過抑制液LIは防錆剤を含む。これにより被加工材WOの錆を抑制することができる。
【0140】
また本実施形態においては
図5に示されるように、液位調整機構は、液位検出センサー41の検出結果に基づいて透過抑制液LIの液位を調整する。これにより容器1内における透過抑制液LIの液位の調整が容易となる。このためレーザ加工時には被加工材WOを透過抑制液LIに浸漬でき、また被加工材WOをレーザ加工装置20に対して搬入・搬出する際に被加工材WOを透過抑制液LIから露出させることができる。
【0141】
また本実施形態においては
図5に示されるように、コントローラ50は、透過率検出センサー42の検出結果に基づいて報知およびレーザ加工動作の少なくとも一方の制御指令を発する。これにより透過抑制液LIの透過率が高い状態でレーザ加工することによってレーザ光がレーザ加工装置20の外部へ漏れ出すことが防止される。
【0142】
また本実施形態においては
図14に示されるように、レーザヘッド10は、ガス吹出口(吹出口5aa、5ba)から吹き出すガスが旋回流となるように構成されている。具体的には、吹出口5aaから吹き出すアシストガスと吹出口5baから吹き出す2次ガスとの少なくとも一方が旋回流となるようにレーザヘッド10は構成されている。これによりガスが軸流で吹出口5aa、5baから吹き出す場合と比較して、被加工材WOの上面から安定的に透過抑制液LIを除去することができる。
【0143】
また本実施形態においてはレーザ光遮光部材(
図4に示す遮光カバー7および
図14に示す板部材70の各々)は、レーザヘッド10のレーザ射出口5aaの周囲を取り囲む。これにより、被加工材WOにおけるレーザ光の反射光または散乱光がレーザ加工装置20の外部へ漏れ出すことが防止される。
【0144】
また本実施形態においては
図14に示される板部材70の被加工材WOと対向する下面は、板部材70を径方向に切断した断面において鋸歯状の凹凸を有している。この鋸歯状の凹凸により、板部材70の下面に照射されたレーザ光を板部材70の内周側に反射させることができる。これにより簡易な構成でレーザ光の反射光または散乱光がレーザ加工装置20の外部へ漏れ出すことが防止される。
【0145】
また本実施形態においては
図14に示されるように、レーザ光遮光部材は、被加工材WOと対向する下面を有する板部材70であってもよい。これにより簡易な構成でレーザ光の反射光または散乱光がレーザ加工装置20の外部へ漏れ出すことが防止される。
【0146】
また本実施形態においては
図14に示されるように板部材70の直径(外径)L1は200mm以上である。これによりレーザ光の反射光または散乱光がレーザ加工装置20の外部へ漏れ出すことが防止される。
【0147】
また本実施形態においては
図4に示されるように、遮光カバー7の第2孔7caは、被加工材WOから反射したレーザ光が第1孔7baを通過して隙間7d内を直線状に進んだ先の位置を避けて配置されている。このため被加工材WOから反射したレーザ光が遮光カバー7の内部から外部へ漏れることが防止される。また第1孔7baおよび第2孔7caを通じて遮光カバー7の内部から外部へガスを排出することができる。
【0148】
なお遮光カバー7の内部からガス(アシストガス、2次ガス)を排出しなければ、遮光カバー7と被加工材WOとの間の隙間からガスが排出されることになり、その際に透過抑制液LIによる遮光が破られることになる。これを防止するために遮光カバー7には遮光カバー7の内部からガスを排出するための第1孔7baおよび第2孔7caが設けられている。
【0149】
また本実施形態においては
図3に示されるように、レーザヘッド10は、ガスを吹き出すガス吹出口5aa、5baを有する。このガスの吹き出し力により、被加工材WOの加工点において透過抑制液LIが押しのけられる。これにより被加工材WOの加工点において被加工材WOの上面が透過抑制液LIから露出し、その露出した加工点にレーザ光を照射することができる。
【0150】
図19に示されるように、透過抑制液LIは、アシストガスにより矢印ARに沿って被加工材WOの切断溝を通じて被加工材WOの上面側に吹き上げられる。巻き上げられた透過抑制液LIは、アシストガスに巻き込まれてレーザ加工による加工点およびその付近に達し、レーザ加工に悪影響を与え加工不良を起こす可能性がある。
【0151】
これに対して本実施形態においては
図3に示されるように、ガス吹出口5aa、5baは、アシストガスを吹き出すガス吹出口5aaと、ガス吹出口5aaの外周に配置されたガス吹出口5baとを有する。ガス吹出口5baから2次ガスが吹き出される。これにより、アシストガスによって吹き上げられた透過抑制液LIが加工点付近に達することが2次ガスにより抑制される。このためアシストガスによって巻き上げられた透過抑制液LIがレーザ加工に悪影響を及ぼすことが防止される。
【0152】
特許文献1では、レーザノズル側カバー体とガーター側カバー体との各々の下端側に取り付けられた遮光部材が、被加工材またはその被加工材を支持する支持部材に接触して撓む。この被加工材または支持部材との摺動により特許文献1の遮光部材は摩滅していくため、遮光部材の交換メンテナンスが必要となる。
【0153】
これに対して本実施形態においては
図12に示されるように、レーザ光を用いて被加工材WOを加工する際に、遮光カバー7の下端7Lと被加工材WOとの間に隙間が設けられる。これにより遮光カバー7と被加工材WOとの擦れによる遮光カバー7の劣化が防止される。
【0154】
また本実施形態においては
図12に示されるように、レーザ光を用いて被加工材WOを加工する際に、透過抑制液LIの液位は遮光カバー7の下端7Lよりも上に調整される。これにより遮光カバー7の下端7Lと被加工材WOとの間の隙間に透過抑制液LIが存在する。このため遮光カバー7の下端7Lと被加工材WOとの間の隙間からレーザ光の反射光または散乱光が漏れ出すことが透過抑制液LIにより防止される。
【0155】
また本実施形態においては
図12に示されるように、レーザ加工時において被加工材WOは透過抑制液LI内に浸漬される。このため被加工材WOの下面だけでなく上面も透過抑制液で冷却される。よって特許文献2および3よりもレーザ加工時における被加工材の冷却効果が大きい。
【0156】
また本実施形態においては、レーザ加工に用いられる透過抑制液LIは、波長が0.7μm以上10μm以下である光の透過を抑制する。このためレーザ光として波長が0.7μm以上10μm以下のレーザ光を用いた場合、透過抑制液LI内に入射したレーザ光は透過抑制液LIにより透過を抑制される。これによりレーザ光は透過抑制液LI内で強度を減じられ、レーザ加工装置20の外部への漏れ出しを防止することができる。
【実施例】
【0157】
次に、本発明者らが行なった検討について
図20~
図22を用いて説明する。
図20は、レーザ光の透過率と液体の深さとの関係を調べるための装置の構成を説明するための図である。
図21は、水道水を用いた場合のレーザ光の強度と液体の深さとの関係を示す図である。
図22は、水道水に墨汁を添加した水溶液を用いた場合のレーザ光の強度と液体の深さとの関係を示す図である。
【0158】
本発明者らは、
図20に示されるように、ファイバレーザのレーザ発振器8から発振されたレーザ光の経路内に、液体を貯留した液槽61を配置し、その液体を透過した透過光の強度をセンサー62で検出した。ファイバレーザのレーザ発振器8として、3kWのレーザ出力を有する発振器を用いた。このレーザ発振器8を用いて、100Wでレーザ光を連続発振させた。
【0159】
液槽61の保護ウィンドウ63には合成石英(φ40×t4)を用い、レーザ光は保護ウィンドウ63を透過させた。液槽61に水道水を入れ、液槽61内における水道水の深さを変えて、各深さでレーザ光の強度をセンサー62で検出した。検出したレーザ光の強度から透過率を算出した。液槽61内における水道水の深さと、各深さで検出されたレーザ光の強度との結果を
図21に示す。
【0160】
また液槽61に、水道水に0.1容積%の墨汁を添加した水溶液を入れ、その水溶液の深さを変えて、各深さでレーザ光の強度をセンサー62で検出した。検出したレーザ光の強度から透過率を算出した。液槽61内における水溶液の深さと、各深さで検出されたレーザ光の強度とその結果を
図22に示す。
【0161】
墨汁は、膠またはその他の水溶性樹脂の水溶液に、カーボンブラック、すなわち炭素を分散させてなるものであり、カーボンブラックの混合比率は全量に対して4.0~20.0重量%程度とするのが好ましい組成とされる。なお、墨汁としては、市販の「呉竹 濃墨墨滴 BA7-18」を使用した。
【0162】
図21の結果から、水道水の透過率は91%/cmであることが分かった。このことから水道水の深さが3cmの場合、水道水への入射光の強度に対する透過光の強度は75%となることが分かった。このことからレーザ光のレベル(パワー密度)を上記PA(=5mW/cm
2)程度にするためには、レーザ光が深さ1mの水道水を通過する必要があることが分かった。
【0163】
一方、
図22の結果から、水道水に0.1容積%の墨汁を添加した水溶液の透過率は3%/cmであることが分かった。このことから上記水溶液の深さが3cmの場合、水溶液への入射光の強度に対する透過光の強度は2.7×10
-5%となることが分かった。また深さ3cmの上記水溶液を通過することにより、レーザ光のレベル(パワー密度)が1.6mW/cm
2となり、上記PA(=5mW/cm
2)よりも小さくなることも分かった。
【0164】
また大型機のレーザ加工装置では10m3(10,000リットル)の透過抑制液が必要になる。しかし、墨汁は水道水に0.1容積%の濃度で添加されればよいため、10m3の水道水に対して高々10リットル程度添加されればよい。
【0165】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0166】
1 容器、1a 底壁、1b 側壁、1c パレット支持部、2 切断パレット、2a 第1支持板、2b 第2支持板、2c 置部、3 スラッジトレイ、4 液位調整タンク、5 ヘッド本体、5a 本体部、5aa,5ba ガス吹出口、5ab,5bb ガス供給部、5b アウターノズル、5bc,5bd 流路、6a 集光レンズ、6b コリメーターレンズ、7 遮光カバー、7L 下端、7a 周壁部、7b 第1上板、7ba 第1孔、7c 第2上板、7ca 第2孔、7d 隙間、7e 内部空間、8 レーザ発振器、9 光ファイバ、10 レーザヘッド、20 レーザ加工装置、21 支持台、22 X方向可動台、23 Y方向可動台、25 駆動機構、30 操作盤、31 供給バルブ、32 加圧バルブ、33 減圧バルブ、34 排出バルブ、35 貯液槽、36 供給配管、37 ガス配管、38 オーバーフロー配管、39 液排出配管、41 液位検出センサー、42 透過率検出センサー、50 コントローラ、51 報知器、52 加工開始スイッチ、61 液槽、62 センサー、63 保護ウィンドウ、70 板部材、70A 外周端縁、70B 内周端縁、71 リング、72 固定部材、LI 透過抑制液、RL レーザ光、S スラッジ、WO 被加工材。