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特許73123303,4-ジヒドロキシ-N-(1’-ベンジル-2’-ヒドロキシエチル)-2-メチルピリジニウムクロリド、その製造方法及び使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】3,4-ジヒドロキシ-N-(1’-ベンジル-2’-ヒドロキシエチル)-2-メチルピリジニウムクロリド、その製造方法及び使用
(51)【国際特許分類】
   C07D 213/69 20060101AFI20230712BHJP
   A61K 31/4425 20060101ALI20230712BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
C07D213/69 CSP
A61K31/4425
A61P25/16
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022538312
(86)(22)【出願日】2020-06-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-20
(86)【国際出願番号】 CN2020097578
(87)【国際公開番号】W WO2021143048
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】202010063101.9
(32)【優先日】2020-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522245204
【氏名又は名称】杭州▲澤▼徳医▲薬▼科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100128347
【弁理士】
【氏名又は名称】西内 盛二
(72)【発明者】
【氏名】▲兪▼ 永平
(72)【発明者】
【氏名】ハイダー ロバート チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】袁 ▲シン▼
(72)【発明者】
【氏名】▲韓▼ 峰
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ 文▲騰▼
(72)【発明者】
【氏名】章 国林
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 祖▲東▼
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 宇
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111170936(CN,A)
【文献】欧州特許出願公開第1006108(EP,A1)
【文献】国際公開第2004/41151(WO,A2)
【文献】国際公開第2009/103950(WO,A1)
【文献】国際公開第1999/23075(WO,A1)
【文献】国際公開第2003/22817(WO,A1)
【文献】ACS Chem. Neurosci,2020年10月14日,2020,11,3646-3657
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 213/69
A61K 31/4425
A61P 25/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造式が式(I)で示される3,4-ジヒドロキシ-N-(1’-ベンジル-2’-ヒドロキシエチル)-2-メチルピリジニウムクロリドであって、
【化1】
(I)
(式(I)中、化合物AがR配置であり、化合物BがS配置である。)
前記式(I)で示される化合物は、その薬学的に許容される塩を含むことを特徴とする3,4-ジヒドロキシ-N-(1’-ベンジル-2’-ヒドロキシエチル)-2-メチルピリジニウムクロリド。
【請求項2】
請求項1に記載の3,4-ジヒドロキシ-N-(1’-ベンジル-2’-ヒドロキシエチル)-2-メチルピリジニウムクロリドの製造方法であって、
メチルマルトール:フェニルアラニノールのモル比=1:1~1:1.2、メチルマルトール:ホウ素含有試薬のモル比=1:0.8~1:1.2となるように、三つ口フラスコにメチルマルトール、フェニルアラニノール、ホウ素含有試薬、水を順次加えて、反応が終了するまで所定の温度の条件下で2~10時間撹拌するステップ(1)と、
ステップ(1)で得られた反応系のpHを0.01mol/mL水酸化ナトリウム溶液で8.5に調整し、反応系に対してジクロロメタンで抽出を行い、有機相を合わせた後、それに6mol/L塩酸溶液を添加し、1時間還流し、次に-5~5℃、12時間で結晶を析出し、吸引ろ過し、ジクロロメタンで洗浄して、白色固体の目的物を得るステップ(2)を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項3】
ステップ(1)において、前記ホウ素含有試薬は、ホウ酸、フェニルボロン酸及びホウ酸ナトリウムから選択されることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
ステップ(1)において、前記温度の範囲は、60~100℃であることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
ステップ(2)において、ジクロロメタンで洗浄する方法は、ろ過ケーキ1gを取り、1回3mlの量でジクロロメタンを用いて2回洗浄することを含むことを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項6】
抗パーキンソン病薬の製造における請求項1に記載の3,4-ジヒドロキシ-N-(1’-ベンジル-2’-ヒドロキシエチル)-2-メチルピリジニウムクロリドの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機合成及び医薬化学の分野に属し、具体的には、3,4-ジヒドロキシ-N-(1’-ベンジル-2’-ヒドロキシエチル)-2-メチルピリジニウムクロリド、及びパーキンソン病治療薬の製造における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン病(Parkinson’s disease、PD)は振戦麻痺とも呼ばれ、よく見られる中枢神経系変性疾患であり、臨床では静止性振戦、筋強直、運動遅延や姿勢反射障害を主とする。PDの正確な病因や発症機序はまだ完全に解明されておらず、主要な病理学的変化は中脳の黒質緻密部内のドーパミン(dopamine、DA)分泌ニューロンの変性と死亡やレビー小体(Lewy Body))の産生である。そのうち、PDドーパミン作動性ニューロンの変性と死亡プロセスに関与する可能性がある要因が多くあり、例えば遺伝的要因、環境的要因、年齢老化、酸化ストレス、ミトコンドリア機能障害などである。現在、中国では、65歳以上の人のパーキンソン病の罹患率は約1.7%であり、患者の数は人口の高齢化に伴って増大している。PDは発病率が高いだけでなく、生涯にわたる病気でもあり、病気の期間が進むにつれて、患者は徐々に生活や労働の能力を失い、認知障害や精神錯乱などの運動以外の合併症が発生し、生活品質に深刻な影響を与え、患者は長期に薬を服用する必要があり、家庭や社会に重い負担をもたらす。
【0003】
現在、PDの薬物治療は、主に、ドーパミン代替薬物とドーパミン作動性に影響を与える薬物を使用し、L-ドパ(マドパー)は現在依然としてPDの症状を治療するのに最も有効な薬物であるが、長期治療は、例えば、ジスキネジア、運動障害や運動変動などの深刻な不良反応を引き起こし、また、より進行した患者の治療効果を低下させる可能性がある。もう1つのドーパミン作動性に影響を与える薬物がドーパミン受容体作動薬であり、これもPD治療では重要な役割を果たし、これらは、内因性の神経伝達物質を模倣することにより、ドーパミン受容体に直接作用し、それらを活性化させ、ドーパミンに類似する作用を発揮させ、例えばロチゴチン、プラミペキソールやロピニロールなどの薬物が挙げられる。しかし、このようなドーパミン代替戦略は主に対症治療法であり、PD病状の進行を効果的に阻止又は緩和することができず、最終的に深刻な運動障害や認知症をもたらす。
【0004】
したがって、新規な構造を持つ抗PD薬を見つけることは重大な意義がある。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、構造式が式(I)で示される3,4-ジヒドロキシ-N-(1’-ベンジル-2’-ヒドロキシエチル)-2-メチルピリジニウムクロリドを提供することである。
【化1】
(I)
前記式(I)で示される化合物は、その薬学的に許容される塩、ならびに前記式(I)で示される化合物又はその薬学的に許容される塩の溶媒和物、互変異性体又はそれらの任意の割合の混合物を含み、前記混合物がラセミ混合物を含む。
【0006】
本発明の別の目的は、3,4-ジヒドロキシ-N-(1’-ベンジル-2’-ヒドロキシエチル)-2-メチルピリジニウムクロリドの製造方法を提供することである。
前記製造方法は以下のステップを含む。
(1)メチルマルトール:フェニルアラニノール(モル比)=1:1~1:1.2(好ましくは1:1.1)、メチルマルトール:ホウ素含有試薬(モル比)=1:0.8~1:1.2(好ましくは1:1)となるように、三つ口フラスコにメチルマルトール、フェニルアラニノール、ホウ素含有試薬、水を順次加えて、所定の温度の条件で反応が終了するまで2~10時間撹拌する。ここで、メチルマルトール1gあたり水5mlを使用し、反応が終了するまで60~100℃の温度範囲の条件で2~10時間撹拌する。前記ホウ素含有試薬は、ホウ酸、フェニルボロン酸、ホウ酸ナトリウムから選択される。
(2)ステップ(1)で得られた反応系のpHを0.01mol/mL水酸化ナトリウム溶液で8.5に調整し、反応系に対してジクロロメタンで抽出を行い、有機相を合わせた後、それに6mol/L塩酸溶液を添加し、1時間還流し、次に-5~5℃、12時間で結晶を析出し、吸引ろ過し、ジクロロメタンで洗浄して、白色固体の生成物を得る。前記洗浄方法は、ろ過ケーキ1gをジクロロメタンを用いて1回3mlの量で2回洗浄することを含む。
【0007】
反応方程式は、以下のとおりである。
【化2】
【0008】
本発明のさらなる目的は、抗パーキンソン病薬の製造における前記3,4-ジヒドロキシ-N-(1’-ベンジル-2’-ヒドロキシエチル)-2-メチルピリジニウムクロリドの使用を提供することである。本発明は、動物試験により、このような化合物は優れた抗パーキンソン病活性を有することを証明した。
【0009】
従来技術に比べて、本発明の利点は以下のとおりである。(1)一段階の反応によって3,4-ジヒドロキシ-N-(1’-ベンジル-2’-ヒドロキシエチル)-2-メチルピリジニウムクロリドを直接合成する。(2)本発明により提供される3,4-ジヒドロキシ-N-(1’-ベンジル-2’-ヒドロキシエチル)-2-メチルピリジニウムクロリドは、動物試験を行った結果、このような化合物が優れた抗パーキンソン病活性を有することが動物試験によって確認された。この化合物は、新規な構造を持つ抗パーキンソン病薬の候補薬になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】MPTP慢性モデルの運動機能に対する化合物Aの試験結果を示し、ここで、図1におけるAがハンギング実験(時間)であり、図1におけるBがハンギング実験(スコア)である。
図2】化合物AのMPTP慢性モデル水迷路実験結果に対する影響を示し、ここで、図2におけるAが場所学習逃避訓練の逃避潜時であり、図2におけるBがプローブテストの逃避潜時である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面及び実施例を参照して本発明をさらに説明する。
【0012】
実施例1
(R)-3,4-ジヒドロキシ-N-(1’-ベンジル-2’-ヒドロキシエチル)-2-メチルピリジニウムクロリド(化合物A)の製造
メチルマルトール(16mmol、2.02g)、D-フェニルアラニノール(17.6mmol、2.66g)、ホウ酸(16mmol、1.95g)、および水10mlを50ml三つ口フラスコに順次に加えて、100℃で2時間反応させた後、反応を終了した。反応液を水酸化ナトリウム溶液(0.01mol/mL)でpHを8.5程度に調整し、ジクロロメタン(10mL×3)で抽出し、有機相を合わせた後に、その中に塩酸溶液(6mol/L)20mlを加えて、1時間撹拌還流し、さらに-5~5℃で撹拌しながら12時間結晶化させ、ジクロロメタン(10mL×2)で洗浄し、白色固体3.42を得て、収率が72%であった。
【0013】
その構造式は以下のとおりである。
【化3】
融点:177~179℃、H NMR (500 MHz, DMSO) δ 10.37 (s, 1H), 8.58 (d, J = 7.5 Hz, 1H), 7.43 (d, J = 7.0 Hz, 1H), 7.24 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 7.19-7.16 (m, 3H), 5.36 (s,1H), 5.10-5.04 (m, 1H), 3.90-3.82 (m, 2H), 3.27 (dd, J = 14.0, 5.5 Hz, 1H), 3.12 (dd, J = 14.0, 10.0 Hz, 1H), 2.30 (s, 3H). 13C NMR (125 MHz, DMSO) δ 158.5, 142.5, 142.1, 136.2, 135.3, 128.9, 128.6, 126.9, 110.8, 66.7, 63.0, 36.2, 12.6. HRMS (ESI): m/z calcd for C1518NO [M+H]: 260.1287, found: 260.1289。
【0014】
さまざまな条件での対照実験を以下に示す。
【0015】
比較例1-1において、反応温度を100℃から60℃に変更した以外、実施例1と同様に実施して、白色固体として(R)-3,4-ジヒドロキシ-N-(1’-ベンジル-2’-ヒドロキシエチル)-2-メチルピリジニウムクロリド2.47gを得て、収率が52%であった。
【0016】
比較例1-2において、D-フェニルアラニノールの使用量を(16mmol、2.42g)、すなわち、メチルマルトール:フェニルアラニノール(モル比)=1:1に変更した以外、実施例1と同様に実施して、白色固体として(R)-3,4-ジヒドロキシ-N-(1’-ベンジル-2’-ヒドロキシエチル)-2-メチルピリジニウムクロリド2.66gを得て、収率が56%であった。
【0017】
比較例1-3において、D-フェニルアラニノールの使用量を(19.2mmol、2.90g)、すなわち、メチルマルトール:フェニルアラニノール(モル比)=1:1.2に変更した以外、実施例1と同様に実施して、白色固体として(R)-3,4-ジヒドロキシ-N-(1’-ベンジル-2’-ヒドロキシエチル)-2-メチルピリジニウムクロリド3.51gを得て、収率が74%であった。
【0018】
比較例1-4において、ホウ酸の使用量を(12.8mmol、1.94g)、すなわち、メチルマルトール:ホウ酸(モル比)=1:0.8に変更した以外、実施例1と同様に実施して、白色固体として(R)-3,4-ジヒドロキシ-N-(1’-ベンジル-2’-ヒドロキシエチル)-2-メチルピリジニウムクロリド3.04gを得て、収率が64%であった。
【0019】
比較例1-5において、ホウ酸の使用量を(19.2mmol、2.34g)、すなわち、メチルマルトール:ホウ酸(モル比)=1:1.2に変更した以外、実施例1と同様に実施して、白色固体として(R)-3,4-ジヒドロキシ-N-(1’-ベンジル-2’-ヒドロキシエチル)-2-メチルピリジニウムクロリド3.51gを得て、収率が74%であった。
【0020】
比較例1-6において、ホウ酸をフェニルボロン酸に変更した以外、実施例1と同様に実施して、白色固体として(R)-3,4-ジヒドロキシ-N-(1’-ベンジル-2’-ヒドロキシエチル)-2-メチルピリジニウムクロリド2.85gを得て、収率が60%であった。
【0021】
比較例1-7において、ホウ酸をホウ酸ナトリウムに変更した以外、実施例1と同様に実施して、白色固体として(R)-3,4-ジヒドロキシ-N-(1’-ベンジル-2’-ヒドロキシエチル)-2-メチルピリジニウムクロリド2.47gを得て、収率が52%であった。
【0022】
実施例2
(S)-3,4-ジヒドロキシ-N-(1’-ベンジル-2’-ヒドロキシエチル)-2-メチルピリジニウムクロリド(化合物B)の製造
メチルマルトール(16mmol、2.02g)、L-フェニルアラニノール(17.6mmol、2.66g)、ホウ酸(16mmol、1.95g)、及び水10mlを50ml三つ口フラスコに順次に加えて、100℃で2時間反応させた後、反応を終了した。反応液を水酸化ナトリウム溶液(0.01mol/mL)でpHを8.5程度に調整し、ジクロロメタン(10mL×3)で抽出し、有機相を合わせた後その中に塩酸溶液(6mol/L)20mlを加えて、1時間撹拌還流し、さらに-5~5℃で撹拌しながら12時間結晶化し、ジクロロメタン(10mL×2)で洗浄し、白色固体3.51gを得て、収率が74%であった。
【0023】
その構造式は、以下のとおりである。
【化4】
融点:177~179℃、H NMR (500 MHz, DMSO) δ 10.38 (s, 1H), 8.59 (d, J = 7.5 Hz, 1H), 7.44 (d, J = 7.0 Hz, 1H), 7.25 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 7.20-7.16 (m, 3H), 5.37 (s,1H), 5.11-5.04 (m, 1H), 3.91-3.82 (m, 2H), 3.28 (dd, J = 14.0, 5.0 Hz, 1H), 3.13 (dd, J = 14.0, 10.5 Hz, 1H), 2.30 (s, 3H). HRMS (ESI): m/z calcd for C1518NO [M+H]: 260.1287, found: 260.1285。
【0024】
実施例3
抗パーキンソン病における(R)-3,4-ジヒドロキシ-N-(1’-ベンジル-2’-ヒドロキシエチル)-2-メチルピリジニウムクロリド(化合物A)の使用
【0025】
マウスMPTP慢性モデルに対する化合物Aの行動学的影響
【0026】
1、マウスMPTP慢性モデルの作成
MPTP(1-Methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine、1-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン)慢性モデルを作成してPDをシミュレーションした。250mg/kgでプロベネシドを腹腔内注射し、0.5時間後にMPTPを25mg/kgで腹腔内注射した。3.5日おきに1回、5週間連続して注射した。MPTPは血液脳関門を透過した後グリア細胞中のモノアミンオキシダーゼBにより代謝物MPPに転化された。MPPはドーパミントランスポーターに対して高い親和性を有するので、ドーパミン作動性ニューロンに容易に入ることができ、ミトコンドリア複合体Iを抑制することで毒性作用を果たし、酸化ストレスをもたらすとともに細胞内カルシウム恒常性を破壊し、結果として、ドーパミン作動性ニューロンのアポトーシスや壊死を招き、最後に、PDをシミュレーションする目的を達成させる。プロベネシドは、脳や腎臓内のMPTPの急速な除去や排泄を阻害することに用いられる。モデル作成においてプロベネシドの量もTris-HClの量も脳内のドーパミン含有量に明らかな影響を及ぼすことはない。
【0027】
2、実験動物の群分け及び投与量
C57/BLマウス36匹を6群に分け、群ごとにn≧6とし、具体的には、表1に示す。
【表1】
モデルを作成した後、マウスに1ヶ月連続して胃内投与した。
【0028】
3.行動学的試験方法
投与が終了した後、実験動物について以下の行動学的試験を行った。
【0029】
(1)ハンギング実験:
試験対象であるマウスの2つの前足を一本の水平金属ワイヤ(径5mm、地面からの距離30cm)にハンギングして保持させ、マウスが金属ワイヤから落ちるまでの時間を記録し、60秒を超えると60秒としてカウントされる。実験の前にの1日2回訓練した。つかむ
【0030】
マウスのハンギング能力のスコア基準
最初の10秒以内に、マウスが2つの後足で金属ワイヤを掴む場合を3点、1つの後足で金属ワイヤを掴む場合を2点、2つの後足がいずれも金属ワイヤを掴めない場合を1点とし、最後に、スコアを算出してマウスが金属ワイヤから落ちるまでの時間を記録し、60秒を超えると60秒としてカウントされる。
【0031】
(2)水迷路実験
Morris水迷路試験は認知や記憶能力の変化を検出するためのものである。円形プールは直径120cm、高さ70cmとし、プラットホームは高さ50cm、直径10cmとし、プラットホームは水面よりも1cm低く、水温は(22±2)℃とした。迷路の上にはディスプレイシステム付きのビデオカメラが設置され、コンピュータにより自動的に追跡し計時し、水泳軌跡を記録した。実験中に迷路外の参照物は変化しなかった。
場所学習逃避訓練(Place navigation):
マウスは、毎日4個の入水地点で訓練され、カメラ及びコンピュータによりその水泳経路のビデオを記録し、入水地点から水に入ってからプラットホームを見つけるまでの時間、即ち、プラットホームへの逃避潜時を記録した。マウスがプラットホームに登っった後10秒滞在させ、90秒以内にプラットホームを見つけて登ることができなかった場合、プラットホームを見つけるようにマウスを人為的に案内し、プラットホームに10秒滞在させ、その逃避潜時を90秒として記録した。毎回の水泳時間を90秒に限定し、休憩間隔の時間を30~50分間とし、合計で4日間訓練した。逃避潜時は1日あたり4回の訓練の平均値として算出された。
プローブテスト(Spatial probe):
場所学習逃避訓練が終了した後、即ち5日目に、円形プラットホームを取り外し、マウスをいずれかの入水地点から水に入るようにし、その水泳軌跡及び時間を記録し、かつ90秒以内の1回目に元のプラットホームの象限を越えて水泳する時間、及び回数を記録した。
【0032】
4.行動学的試験結果
【0033】
(1)ハンギング実験:
MPTP慢性モデル対照群は、C57正常対照群と比較して、ハンギング時間が著しく低下した。
【0034】
MPTP慢性モデル+マドパー群、MPTP慢性モデル+化合物A 25mg/kg群、及びMPTP慢性モデル+化合物A 100mg/kg群は、MPTP慢性モデル対照群と比較して、明らかな差がなく、MPTP慢性モデル+プラミペキソール群は、MPTP慢性モデルと比較して、ハンギング時間が低下した。
【0035】
MPTP慢性モデル+化合物A 25mg/kg群は、MPTP慢性モデル対照群に比べて、ハンギングスコアが増加した(図1)。その結果から、化合物A 25mg/kgを投与すると、PD動物モデルの筋力を改善できる。この図には、C57、MPTP+化合物A 25mg/kg、MPTP+化合物A 100mg/kg群:n=7である;MPTP-M、MPTP+マドパー、MPTP+プラミペキソール群:n=6である。*p<0.05:C57正常対照群に比べて統計学的差異がある。#p<0.05:MPTPモデル対照群に比べて統計学的差異がある。
【0036】
(2)水迷路実験
化合物AのMPTP慢性モデルY字迷路や水迷路実験に対する結果から、100mg/kgの用量での化合物Aは、モデルの認知機能障害に対して改善作用を有する可能性があることを示した(図2)。この図には、C57、MPTP+化合物A 25mg/kg、MPTP+化合物A 100mg/kg群:n=7である;MPTP-M、MPTP+マドパー、MPTP+プラミペキソール群:n=6である。*p<0.05:C57正常対照群に比べて統計学的差異がある。
【0037】
5.結論
化合物Aは、MPTP慢性モデル動物の筋力や協調性を改善する傾向を示し、化合物A 100mg/kgは、MPTP慢性モデル動物の認知機能を部分的に改善することができ、このため、3,4-ジヒドロキシ-N-(1’-ベンジル-2’-ヒドロキシエチル)-2-メチルピリジニウムクロリドは、優れた抗パーキンソン病活性を有する。
図1
図2