(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-12
(45)【発行日】2023-07-21
(54)【発明の名称】前処理剤、前処理剤付与装置及び画像形成方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/54 20140101AFI20230713BHJP
D06P 5/30 20060101ALI20230713BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20230713BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20230713BHJP
D06P 5/00 20060101ALI20230713BHJP
【FI】
C09D11/54
D06P5/30
B41M5/00 114
B41M5/00 132
B41M5/00 120
B41J2/01 501
B41J2/01 123
D06P5/00 104
(21)【出願番号】P 2019049544
(22)【出願日】2019-03-18
【審査請求日】2021-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2018070156
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 篤史
(72)【発明者】
【氏名】岡田 吾郎
(72)【発明者】
【氏名】福井 優悟
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-200844(JP,A)
【文献】特開2013-095766(JP,A)
【文献】特開2017-179263(JP,A)
【文献】特開2002-321452(JP,A)
【文献】特開2018-035273(JP,A)
【文献】特開2011-189527(JP,A)
【文献】国際公開第17/191660(WO,A1)
【文献】特開2012-251062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛への画像形成時にインクの前に前記布帛に付与される前処理剤であって、
カルボキシル基を実質的に含まない水性高分子(ただし、カチオン性水性高分子を除く。)と、
前記インクに含まれる成分が有するカルボキシル基と架橋可能な架橋剤と、
を含み、
前記水性高分子が、ポリビニルピロリドンであることを特徴とする前処理剤。
【請求項2】
布帛への画像形成時にインクの前に前記布帛に付与される前処理剤であって、
カルボキシル基を実質的に含まない水性高分子(ただし、カチオン性水性高分子を除く。)と、
前記インクに含まれる成分が有するカルボキシル基と架橋可能な架橋剤と、
を含み、
使用時において、前記前処理剤全量における前記水性高分子の含有量が、0.1重量%~0.5重量%であることを特徴とする前処理剤。
【請求項3】
布帛への画像形成時にインクの前に前記布帛に前処理剤を付与する前処理剤付与装置であって、
プラテンと、
前記前処理剤を前記布帛に付与する前処理剤付与手段と、
を含み、
前記前処理剤を備え、
前記前処理剤が、請求項1
又は2に記載の前処理剤であることを特徴とする前処理剤付与装置。
【請求項4】
布帛に画像を形成する画像形成方法であって、
前記布帛に前処理剤を付与する前処理工程と、
前記前処理剤の付与部にインクを用いて画像を印刷する画像印刷工程と、
を有し、
前記前処理工程において、前記前処理剤として、請求項1
又は2に記載の前処理剤を用いることを特徴とする画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前処理剤、前処理剤付与装置及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
衣類等の布帛にインクジェット方式によりインクを吐出して画像を形成する画像形成方法が知られている。前記画像形成方法は、例えば、前処理剤を前記布帛に付与する前処理工程と、前記前処理剤の付与部にインクを吐出した後、前記インクを前記布帛に熱定着させる熱定着工程と、を含む(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記前処理剤には、画像形成部の洗濯堅牢性の観点から、耐水性の高い樹脂成分(樹脂エマルション)が含まれ、この樹脂成分が、洗濯後も前記布帛に残ってしまう。その結果、前記布帛には、前記前処理剤の付与部と非付与部とに境界が生じ、外観上好ましくない。
【0005】
この外観不良の問題を解決する手法として、樹脂成分を洗濯で除去しやすくするために、特許文献1に記載のように、前記樹脂成分として水性ポリマー分散体を用いることが考えられる。しかし、この手法では、前記前処理剤の付与部上に吐出されるインクが、洗濯時に剥がれやすくなってしまう。
【0006】
この洗濯時のインクの剥がれの問題を解決する手法としては、特許文献1に記載のように、前記前処理剤に、反応性架橋剤を含ませることが考えられる。しかし、この手法では、前記反応性架橋剤が、前記前処理剤に含まれる水性ポリマーと架橋し、析出物を生じるおそれがある。前記析出物が生じると、前記前処理剤を、前記布帛に均一に付与しにくい。また、前記前処理剤の成分同士が架橋すると、洗濯堅牢性の向上は期待できないと考えられ、また、前記前処理剤の付与跡を洗濯により除去しにくい。
【0007】
そこで、本発明は、インクジェット記録方法による布帛への画像形成において、画像形成部の洗濯堅牢性を損なうことなく、付与跡を容易に除去可能で、且つ、保存安定性に優れた前処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の前処理剤は、
布帛への画像形成時にインクの前に前記布帛に付与される前処理剤であって、
カルボキシル基を実質的に含まない水性高分子と、
前記インクに含まれる成分が有するカルボキシル基と架橋可能な架橋剤と、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の前処理剤は、前記水性高分子と、前記架橋剤と、を含むことで、画像形成部の洗濯堅牢性を損なうことなく、付与跡を容易に除去可能で、且つ、保存安定性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1(a)及び(b)は、本発明の画像形成方法における前処理剤の付与例を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明のインクジェット記録装置の構成の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、
図2に示すインクジェット記録装置のインクジェットプリンタの構成の一例を示す正面図である。
【
図4】
図4(a)は、
図2に示すインクジェット記録装置のプラテンに布帛をセットした状態を示す平面図であり、
図4(b)は、
図4(a)のA-A方向から見た断面図である。
【
図5】
図5は、
図2に示すインクジェット記録装置の記録制御装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、「水性高分子」とは、水溶性高分子を含み、例えば、水に分散又は溶解可能な高分子である。
【0012】
本発明の前処理剤は、布帛への画像形成時にインクの前に前記布帛に付与される前処理剤であって、カルボキシル基を実質的に含まない水性高分子と、前記インクに含まれる成分が有するカルボキシル基と架橋可能な架橋剤と、を含むことを特徴とする。本発明の前処理剤は、前記水性高分子と、前記架橋剤と、を含むことが特徴であって、その他の構成は、特に制限されない。本発明の前処理剤は、例えば、顔料、染料等の着色剤を含んでもよいが、着色剤を含まないことが好ましい。本発明の前処理剤は、例えば、インクではなく、着色剤を含まないことが好ましい。本発明の前処理剤は、着色剤を含む場合、実質的に布帛への印刷用インクとはならない量である。
【0013】
前記布帛は、編物及び織物の双方を含む。前記布帛の材質は、天然繊維であっても、合成繊維であってもよい。前記天然繊維としては、例えば、綿、絹等があげられる。前記合成繊維としては、例えば、ポリエステル、アクリル、レーヨン、ウレタン、ナイロン等があげられる。前記布帛の材質は、綿/ポリエステル=50%/50%等の複数種の前記繊維を混ぜて紡績された混紡であってもよい。
【0014】
前記水性高分子は、カルボキシル基を実質的に含まないものである。前記水性高分子としては、例えば、ポリビニルピロリドン(水溶性高分子)、ポリビニルアルコール(水溶性高分子)、ポリアクリルアミド(水溶性高分子)、ヒドロキシエチルセルロース(水溶性高分子)、でん粉(水溶性高分子)、デキストリン(水溶性高分子)等があげられる。また、前記水性高分子としては、例えば、スチレン、アクリルアミド、エチレン、酢酸ビニル等の単量体からなる化合物をエマルション化した樹脂(水性分散ポリマー)等もあげられる。
【0015】
前記水性高分子としては、例えば、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、ポリビニルピロリドンである「ピッツコール(登録商標) K-60L」(第一工業製薬(株)製)、酢酸ビニル系エマルション樹脂である「ビニブラン(登録商標)GV-6181」(日信化学工業(株)製)、ポリビニルアルコールである「クラレポバール(登録商標)PVA217」((株)クラレ製)等があげられる。
【0016】
本発明の前処理剤は、樹脂成分として水性高分子を用いているため、洗濯により付与跡を容易に除去可能である。本発明の前処理剤は、前記水性高分子がカルボキシル基を実質的に含まないため、前記水性高分子が後述の架橋剤と架橋することが無いか、架橋しても僅かである。このため、本発明の前処理剤は、後述のように、インクに含まれる成分が有するカルボキシル基と架橋可能な前記架橋剤を含むことにより、洗濯時のインクの剥がれが抑制され、洗濯堅牢性に優れる上に、長期保存時においても架橋により析出物が生じるのを防止又は抑制可能であり、保存安定性に優れ、布帛に均一に付与しやすい。
【0017】
使用時において、前記前処理剤全量における前記水性高分子の含有量は、例えば、0.1重量%~0.5重量%である。この場合において、例えば、前記水性高分子濃度の高い前記前処理剤を調製しておき、使用時に希釈(例えば、水で3倍に希釈)することで、前記水性高分子の含有量を前記範囲としてもよいし、前記水性高分子の含有量が前記範囲となるように前記前処理剤を調製してもよい。
【0018】
前記架橋剤は、後述のインクに含まれる成分が有するカルボキシル基と架橋可能なものである。前記架橋剤としては、例えば、オキサゾリン基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、イソシアネート基含有化合物、アジリジン基含有化合物、エポキシ基含有化合物、ポリカルボジイミド樹脂に親水性セグメントを付与させた水性架橋剤等があげられる。
【0019】
前記架橋剤としては、例えば、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、オキサゾリン基含有水溶性ポリマーである「エポクロス(登録商標) WS-700」((株)日本触媒製)、ポリカルボジイミド樹脂に親水性セグメントを付与させた水性架橋剤である「カルボジライト(登録商標) V-02」(日清紡ケミカル(株)製)等があげられる。
【0020】
本発明の前処理剤は、それに含まれる前記架橋剤と、その付与部上に吐出されるインクに含まれる成分が有するカルボキシル基とが架橋可能であるため、画像形成部の洗濯堅牢性に優れる。
【0021】
前記架橋剤の含有割合は、例えば、前記水性高分子100重量部に対し、1重量部以上である。前記含有割合を1重量部以上とすれば、洗濯堅牢性により優れる。また、前記架橋剤の含有割合は、例えば、前記水性高分子100重量部に対し、100重量部以下である。前記含有割合を100重量部以下とすれば、前記前処理剤の付与跡の除去がより容易であるのに加え、保存安定性により優れる。
【0022】
前記前処理剤は、さらに、水を含んでもよい。前記水は、蒸留水、イオン交換水又は純水であることが好ましい。前記前処理剤全量における前記水の含有量は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0023】
前記前処理剤は、必要に応じて、さらに、金属塩、水溶性有機溶剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、防腐剤、防黴剤等の添加剤を含んでもよい。前記金属塩としては、特に限定されず、例えば、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、リン酸二水素カルシウム、チオシアン酸カルシウム、乳酸カルシウム、フマル酸カルシウム、クエン酸カルシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩化バリウム、臭化バリウム、ヨウ化バリウム、硝酸バリウム、チオシアン酸バリウム、塩化銅、臭化銅、硫酸銅、硝酸銅、酢酸銅、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄、シュウ酸鉄、乳酸鉄、フマル酸鉄、クエン酸鉄、硫酸マンガン、硝酸マンガン、リン酸二水素マンガン、酢酸マンガン、サリチル酸マンガン、安息香酸マンガン、乳酸マンガン、塩化ニッケル、臭化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル、硫酸スズ、塩化チタン、塩化亜鉛、臭化亜鉛、硫酸亜鉛、チオシアン酸亜鉛、酢酸亜鉛及びそれらの水和物等があげられる。前記水溶性有機溶剤としては、例えば、多価アルコール、多価アルコール誘導体、アルコール、アミド、ケトン、ケトアルコール、エーテル、含窒素溶剤、含硫黄溶剤、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等があげられる。前記多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、へキシレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、1,5-ペンタンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール等があげられる。前記多価アルコール誘導体としては、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコール-n-プロピルエーテル、ジエチレングリコール-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコール-n-ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコール-n-プロピルエーテル、トリエチレングリコール-n-ブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール-n-プロピルエーテル、プロピレングリコール-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコール-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコール-n-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコール-n-プロピルエーテル、トリプロピレングリコール-n-ブチルエーテル等があげられる。前記アルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、ベンジルアルコール等があげられる。前記アミドとしては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等があげられる。前記ケトンとしては、例えば、アセトン等があげられる。前記ケトアルコールとしては、例えば、ジアセトンアルコール等があげられる。前記エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン等があげられる。前記含窒素溶剤としては、例えば、ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、シクロへキシルピロリドン、トリエタノールアミン等があげられる。前記含硫黄溶剤としては、例えば、チオジエタノール、チオジグリコール、チオジグリセロール、スルホラン、ジメチルスルホキシド等があげられる。
【0024】
前記前処理剤は、例えば、前記水性高分子と、前記架橋剤と、必要に応じて、他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合することにより調製できる。前記前処理剤は、例えば、前記混合後、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製してもよい。
【0025】
つぎに、本発明のインクと前処理剤のセットについて説明する。本発明のインクと前処理剤のセットは、布帛への画像の形成に用いられるインクと前処理剤のセットであって、前記インクは、着色剤と、カルボキシル基を有する成分と、を含み、前記前処理剤が、本発明の前処理剤であることを特徴とする。前述のとおり、前記インクは、着色剤と、カルボキシル基を有する成分と、を含むことが特徴であって、その他の構成は、特に制限されない。例えば、前記インクは、水を含むものであってもよいし、着色剤、前記カルボキシル基を含む成分及び水以外の成分を含むものであってもよい。前記インクとしては、例えば、顔料インク、染料インク等を使用でき、顔料インクを使用することが好ましい。前記インクは、例えば、ホワイト、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの5色のインクを含んでもよい。
【0026】
前記ホワイトインクは、例えば、着色剤として、中空粒子又は非中空粒子(中空でない粒子。中実粒子とも言う。)からなるホワイト顔料を含んでもよい。前記ホワイトインクは、例えば、前記ホワイト顔料として、前記中空粒子と、前記非中空粒子とを併用してもよい。
【0027】
前記中空粒子としては、例えば、JSR(株)製の「SX-866(B)」(スチレン-アクリル分散液、顔料固形分配合量20重量%、1次粒子径0.3μm)及び「SX-868(B)」(スチレン-アクリル分散液、顔料固形分配合量20重量%、1次粒子径0.5μm);ローム アンド ハース社製の「ROPAQUE(登録商標) ULTRA E」(スチレン-アクリル分散液、顔料固形分配合量30重量%、1次粒子径0.4μm);日本ゼオン(株)製の「NIPOL(登録商標) V1004」(変性スチレン-ブタジエン分散液、顔料固形分配合量50重量%、1次粒子径0.3μm)、「NIPOL(登録商標) MH8055」(スチレン-アクリル分散液、顔料固形分配合量30重量%、1次粒子径0.8μm)及び「NIPOL(登録商標) MH5055」(スチレン-アクリル分散液、顔料固形分配合量30重量%、1次粒子径0.5μm);等があげられる。なお、前記1次粒子径は、体積平均粒子径を表す。
【0028】
前記非中空粒子としては、例えば、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の遮蔽性の高いホワイト顔料等があげられる。
【0029】
前記ホワイトインクは、例えば、さらに、アニオン性水溶性樹脂を塩基性化合物で中和して得られる高分子分散剤を含んでもよい。前記アニオン性水溶性樹脂としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、シトラコン酸、無水シトラコン酸、シトラコン酸モノアルキルエステル等のカルボキシル基含有不飽和単量体(開環してカルボキシル基を与える酸無水物基含有不飽和単量体を含む)の1種又は2種以上と、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン単量体、ベンジルメタクリレート、ベンジルアクリレート等のアラルキルメタクリレート又はアクリレート、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルアクリレート等のアルキルメタクリレート又はアクリレート等から選択される不飽和単量体の1種又は2種以上との混合物を反応させて得られる共重合体、好ましくは、ガラス転移温度0℃~80℃となるように選択した単量体の混合物を反応させて得られる共重合体等があげられる。前記塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチレンジアミン等の有機塩基性化合物等があげられる。
【0030】
前記高分子分散剤の使用量は、前記ホワイト顔料100重量部に対して、例えば、10重量部~40重量部、15重量部~30重量部である。
【0031】
前記ホワイトインクは、例えば、さらに、カルボキシル基を含有する成分を含む。前記カルボキシル基を含有する成分は、例えば、ウレタン系樹脂エマルション、アクリル系樹脂エマルション、スチレン系樹脂エマルション等の樹脂成分であってもよい。前記樹脂成分は、カルボキシル基を含有するものであればいかなるものであってもよく、樹脂の酸価は、例えば、1mgKOH/g~300mgKOH/gである。また、カルボキシル基を含有する樹脂成分の形態に制限はなく、例えば、樹脂単体に含まれていても、樹脂エマルションとして含まれていてもよい。
【0032】
前記ホワイトインク全量において、前記ホワイト顔料、前記高分子分散剤、前記樹脂成分、前記ノニオン性樹脂エマルション及び前記アニオン性樹脂エマルションを合わせた総固形分量は、例えば、25重量%~45重量%である。
【0033】
前記ホワイトインクは、この他にも、例えば、保湿剤、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、防腐剤、防黴剤等を含んでもよい。前記保湿剤は、例えば、前記ホワイトインクの乾燥防止に寄与する。前記保湿剤としては、例えば、ジアセトンアルコール等のケトアルコール;ポリアルキレングリコール;アルキレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール;2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等があげられる。前記ポリアルキレングリコールは、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等があげられる。前記アルキレングリコールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール等があげられる。これらの保湿剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中で、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが好ましい。前記インク全量における前記保湿剤の含有量は、例えば、0重量%~60重量%、3重量%~50重量%である。前記界面活性剤は、例えば、前記ホワイトインクの表面張力の調整及び前記ホワイト顔料の分散性向上に寄与する。前記界面活性剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0034】
つぎに、本発明の前処理剤付与装置について説明する。本発明の前処理剤付与装置は、布帛への画像形成時にインクの前に前記布帛に前処理剤を付与する前処理剤付与装置であって、プラテンと、前記前処理剤を前記布帛に付与する前処理剤付与手段と、を含み、前記前処理剤が、カルボキシル基を実質的に含まない水性高分子と、前記インクに含まれる成分が有するカルボキシル基と架橋可能な架橋剤と、を含むことを特徴とする。
【0035】
前記プラテンは、例えば、後述の
図2に示すインクジェット記録装置のプラテンと、同様の構成であってもよい。
【0036】
前記前処理剤付与手段としては、例えば、液体吐出ヘッド等の液体吐出手段、スプレー、スタンプ、刷毛、ローラ等があげられる。
【0037】
本発明の前処理剤付与装置における前記前処理剤は、前述の本発明の前処理剤と同様であり、その説明を援用できる。
【0038】
つぎに、本発明の画像形成方法について説明する。本発明の画像形成方法は、布帛に画像を形成する画像形成方法であって、前記布帛に前処理剤を付与する前処理工程と、前記前処理剤の付与部にインクを用いて画像を印刷する画像印刷工程と、を有し、前記前処理工程において、前記前処理剤として、本発明の前処理剤を用いることを特徴とする。
【0039】
本発明の画像形成方法は、例えば、前記2つの工程以外に、後述の熱処理工程、圧縮工程、熱定着工程等の工程を有してもよい。
【0040】
前記前処理工程において、前記前処理剤の付与は、例えば、インクジェット方式、スプレー方式、スタンプ塗布、刷毛塗り、ローラ塗布、パディング方式等の方法により実施できる。
【0041】
前記前処理工程において、前記前処理剤の付与は、前記布帛の画像形成面の全面でもよいし、一部でもよい。一部に付与する場合、前記布帛の画像形成面の少なくともインクによる印刷部分と概ね同じ領域が前処理剤付与部になる。一部に付与する場合、前処理剤付与部の大きさは、印刷部分よりも大きい方がよい。例えば、
図1(a)に示すように、布帛(本例では、Tシャツ)100に対し、文字(X)を印刷する場合は、前記文字の線幅よりも大きな線幅で前処理剤付与部110を形成するように前記前処理剤を付与することが好ましい。また、
図1(b)に示すように、布帛(Tシャツ)100に対し、図柄を印刷する場合は、前記図柄よりも大きな前処理剤付与部120を形成するように前記前処理剤を付与することが好ましい。
【0042】
つぎに、本発明の画像形成方法は、前記前処理工程後、前記前処理剤の付与部に熱処理を施す熱処理工程及び前記前処理剤の付与部を圧縮する圧縮工程の少なくとも一方の工程を有してもよい。前記熱処理は、例えば、市販のホットプレス機、オーブン、ベルトコンベアオーブン等を用いて実施できる。前記ホットプレス機を用いる場合には、前記前処理剤の付与部上に、表面が平滑なテフロン(登録商標)シートを置いた状態で熱処理を行うことが好ましい。これにより、前記布帛のケバを抑えることができ、例えば、本工程後に前記画像印刷工程を実施する場合に、その実施がよりスムースとなる。前記熱処理の温度は、特に限定されないが、例えば、160℃~185℃である。前記圧縮は、例えば、市販のホットプレス機を用いて、前記熱処理と同様の条件で実施できる。
【0043】
つぎに、前記画像印刷工程は、前記前処理剤の付与部にインクを用いて画像を印刷する工程である。
【0044】
前記画像印刷工程は、前記前処理剤の付与部に第1のインクを用いてベース部を形成するベース部形成工程と、前記ベース部に第2のインクを用いて画像を形成する画像形成工程とを有することが好ましい。前記第1のインクとして、ホワイトインクを用い、前記第2のインクとして、カラーインクを用いることが好ましい。この態様によれば、地色の濃い布帛に対しても、発色性に優れたカラー画像を形成することが可能となる。
【0045】
前記画像印刷工程は、例えば、
図2に示すインクジェット記録装置を用いて実施できる。
図2に示すとおり、このインクジェット記録装置30は、布帛にインクを吐出して所望の画像を記録するインクジェットプリンタ31と、前記所望画像の画像データを取得し、かつ、インクジェットプリンタ31を制御する記録制御装置70とがインターフェースを介して接続されて構成されている。
【0046】
インクジェットプリンタ31は、
図3に示すように、枠体状のフレーム52を備えている。フレーム52は、プリンタ31の底部に位置する水平部52hと、水平部52hの両端から垂直に立ち上がる2つの垂直部52vとを有している。なお、
図3において、
図2と同一部分には同一符号を付しており、
図4以降の図面においても同様である。
【0047】
2つの垂直部52vの上部同士を連結するように、スライドレール53が水平に支架されている。スライドレール53には、キャリッジ54が、スライドレール53の長手方向(主走査方向)に沿って摺動自在に備えられている。このキャリッジ54の下面には、5色のインクを吐出させるために色毎に配設された5個の圧電式のインクジェットヘッド(インク吐出手段)55が設けられている。
【0048】
2つの垂直部52vの上部には、それぞれ、プーリ56、57が支持され、一方のプーリ56には、垂直部52vによって支持されるモータ58のモータ軸が連結されている。両プーリ56、57の間には無端ベルト59が架け渡されており、キャリッジ54は、この無端ベルト59の適宜の部分に固定される。
【0049】
このような構成により、一方のプーリ56が、モータ58の駆動により正逆回転されると、それに伴ってキャリッジ54がスライドレール53の長手方向(主走査方向)に沿って直線往復駆動され、この結果、インクジェットヘッド55の往復移動が行われる。
【0050】
2つの垂直部52vには、それぞれ、インクカートリッジ60を着脱可能に搭載する搭載部50が形成されている。2つの搭載部50は、一方が2色分の、他方が3色分のインクカートリッジ60を装着できるようになっており、このインクカートリッジ60の内部に形成されているインク袋(図示せず)が可撓性チューブ62によって、インクジェットヘッド55のそれぞれの上部に位置する5つのインクタンク61と接続される。なお、5つのインクタンク61は、後述するようにインクジェットヘッド55とそれぞれ連通しているため、インクカートリッジ60からインクジェットヘッド55へとインクが供給される。
【0051】
フレーム52の水平部52hの上には、搬送手段としてのスライド機構41が設置され、このスライド機構41の上にプラテン(支持体)42が支持される。このプラテン42には、Tシャツ等の布帛を、その記録部分が上面に来るように位置決めして、かつ、ピンと張った皺のない平坦な状態でセットできるように固定フレーム(固定手段)45が設けられている。また、本例のインクジェットプリンタ31では、プラテン42の数は、1つである。ただし、本発明において、前記プラテンの数は1つに限定されず、必要に応じて増やすことができる。
【0052】
また、プラテン42を
図3の紙面垂直方向(スライド機構41におけるスライド方向であって、インクジェットプリンタ31の副走査方向)に往復移動させるために、プラテン搬送機構が配設されている(図示せず)。前記プラテン搬送機構には、例えば、ラック、ピニオン機構や、無端ベルトを用いた機構等を適用できる。
【0053】
図4に、プラテンに布帛をセットした状態を示す。
図4(a)は、平面図であり、
図4(b)は、
図4(a)のA-A方向から見た断面図である。
図4に示すように、プラテン42は、平面視で副走査方向に長手方向を有する長方形状とされるとともに、Tシャツ100を支持する支持面46を有している。また、
図4(b)の紙面垂直方向奥側のプラテン42の下面は、それと対向する位置のスライド機構41と支持部材47とによって連結されている。
【0054】
また、固定フレーム45は、L字形状の断面を有するフレームがプラテン42の支持面46の4辺を覆うように構成されている。固定フレーム45のプラテン42の支持面46と対向する面には、プラテン42の支持面46の面積より若干小さい開口面積を有する開口部45aが形成されている。プラテン42にTシャツ100をセットする際は、Tシャツ100の裾側からプラテン42の支持面46を覆うようにして被せ、固定フレーム45で固定する。また、固定フレーム45は、プラテン42の
図4(b)の紙面垂直方向奥側の端部に設けられた回動部(図示せず)によって回動可能に設けられており、Tシャツ100をプラテン42に被せた後に固定フレーム45をプラテン42に嵌合するように回動させて、Tシャツ100をプラテン42と固定フレーム45とで挟むようにして固定している。
【0055】
また、インクジェットプリンタ31は、カバー43を備えており、インクジェットヘッド55やスライド機構41等を覆っている。なお、
図3においては、カバー43を二点鎖線で描いて透視的に図示している。カバー43の前面の右上部には、液晶パネルや操作ボタンを備える操作パネル44が配設されている。
【0056】
図3に示す5つのインクジェットヘッド55は、5色のインク(ホワイト、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラック)に対応して、キャリッジ54の往復移動方向に沿って並設されており、それぞれに対応したインクカートリッジ60と、可撓性チューブ62及びインクタンク61を介して連通されている。インクジェットヘッドにインクを供給するための構成としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2004-291461号公報参照)。なお、5つのインクジェットヘッド55は、4色のインク(イエロー、マゼンタ、シアン及びブラック)をそれぞれ吐出する吐出部を備えたヘッドユニットと、ホワイトインクを吐出する吐出部を備えたヘッドユニットを、副走査方向に並べるように配置してもよい。インクジェットプリンタ31は、5つのインクジェットヘッド55とは別に、さらに、前記前処理剤を事前に布帛に付与する手段としての液体吐出手段を含んでもよい。また、インクジェットプリンタ31は、例えば、スプレー等の前記前処理剤を事前に布帛に付与する手段を含んでもよい。
【0057】
インクジェットヘッド55は、その下面がプラテン42の支持面46との間にわずかな隙間を形成するように配置されており、Tシャツ100に画像を記録する際にプラテン42にセットされたTシャツ100の記録部分がその隙間に搬送される。この構成で、インクジェットヘッド55がキャリッジ54によって往復移動されつつTシャツ100上にインクジェットヘッド55の底面に多数並べて形成された微小径の吐出ノズルから各色のインクを吐出する。これにより、吐出された各色のインクが布帛の表面上に保持される。この結果、所望のカラー画像がTシャツ100に記録される。
【0058】
図2に示す記録制御装置70は、例えば、汎用のパーソナルコンピュータ(PC)を用いて構成され、本体71と、表示部72としてのディスプレイと、操作部75としてのキーボード73及びマウス(ポインティングデバイス)74とを備えている。
【0059】
図5は、
図2に示す記録制御装置70の構成を示したブロック図である。記録制御装置70は、CPU(Central Processing Unit)81、ROM(Read Only Memory)82、RAM(Random Access Memory)83、HD(Hard Disk)84、操作部75、表示部72、インターフェース(I/F)85を備えており、これらは、バスを介して相互に接続されている。
【0060】
HD84には、記録制御装置70の動作を制御するために用いられる各種プログラムが格納されている。また、HD84には、インターネット等からダウンロードされた、又はソフトウェアによって作成された種々の画像データ、及びTシャツ等の布帛の種類毎の各種データが格納されている。CPU81は、操作部75によって入力された信号と、ROM82、RAM83及びHD84内の各種プログラム、及びデータとに基づいて各種演算等の処理を行う。そして、インターフェース85を介して、インクジェットプリンタ31にデータ等を送信する。RAM83は、読み出し・書き込み可能な揮発性記憶装置であって、CPU81での各種演算結果等が記憶される。インターフェース85は、インクジェットプリンタ31のインターフェースと接続されており、記録制御装置70とインクジェットプリンタ31との間の通信を可能にするものである。
【0061】
本例のインクジェット記録装置30を用いたTシャツ100への所望画像の記録は、例えば、つぎのようにして実施できる。まず、記録制御装置70のキーボード73及びマウス74を通じて、Tシャツ100に記録したい画像データを取得する。前記画像データの取得においては、記録制御装置70にインストールされたソフトウェアを使用して画像データを作成するか、予めHD84に記憶された画像データを選択する。
【0062】
つぎに、Tシャツ100を、プラテン42に固定する。すなわち、Tシャツ100を、プラテン42に裾から被せ、プラテン42の支持面46に沿わせて皺のない状態にしつつ固定フレーム45で固定する。
【0063】
ついで、ユーザが記録の実施を指示すると、前記画像データがインクジェットプリンタ31にインターフェース85を介して送信され、この画像データに基づいてインクジェットヘッド55からインクが吐出されて、プラテン42に固定されたTシャツ100への記録が実施される。
【0064】
つぎに、本発明の画像形成方法は、前記画像印刷工程後、布帛の前記印刷部分に熱処理を施すことで、前記インクを前記布帛に熱定着させる熱定着工程を有してもよい。前記熱定着工程は、例えば、前記熱処理と同様の装置、条件にて実施できる。また、前記熱定着工程は、例えば、特開2009-209493号公報に記載の装置を用いて実施することもできる。この装置によれば、布帛に対して180℃の加熱と共に加圧を施すことができる。
【0065】
つぎに、本発明の布帛の製造方法について説明する。本発明の布帛の製造方法は、画像を有する布帛の製造方法であって、本発明の画像形成方法により前記布帛に画像を形成する工程を有することを特徴とする。
【0066】
本発明の画像形成方法及び布帛の製造方法によれば、洗濯により前処理剤の付与跡を容易に除去可能なため外観に優れ、且つ、画像形成部の洗濯堅牢性に優れた布帛を得ることができる。
【実施例】
【0067】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例及び比較例により限定及び制限されない。
【0068】
[実施例1-1及び比較例1-1~1-3]
前処理剤組成(表1)における各成分を撹拌混合することで、表1に示す実施例1-1及び比較例1-1~1-3の前処理剤を得た。
【0069】
実施例1-1及び比較例1-1~1-3の前処理剤を用いて、黒色のTシャツ(材質:綿100%)に、下記工程により画像を形成した。
【0070】
(前処理工程)
前処理剤を水で重量が3倍となるように希釈し、スプレーを用いて、前記Tシャツの画像形成面に付与した。前処理剤の付与量は、0.02g/cm2とした。
【0071】
(熱処理工程)
前記前処理工程後のTシャツの前処理剤付与部に、180℃に設定したヒートプレス機を用いて、35秒熱処理を施した。
【0072】
(画像印刷工程)
ブラザー工業(株)製のガーメントプリンターを用いて、Tシャツに、インクを吐出することで、文字(A)を印刷した。前記インクとしては、前記前処理剤の付与部にベース部を形成するホワイトインクとして、顔料1重量%~25重量%、カルボキシル基を有する樹脂1重量%~30重量%、保湿剤0重量%~60重量%、界面活性剤0重量%~2重量%を含む水分散液(水性ホワイトインク)を、前記ベース部に文字(A)を形成するカラーインクとして、顔料1重量%~10重量%、カルボキシル基を有する樹脂1重量%~25重量%、保湿剤0重量%~60重量%、界面活性剤0重量%~2重量%を含む水分散液(水性カラーインク)を用いた。
【0073】
(熱定着工程)
前記画像印刷工程後、160℃に設定したオーブンを用いて、前記ホワイトインクを前記Tシャツの印刷部分に熱定着させた。前記熱定着における加熱時間は、3.5分とした。
【0074】
実施例1-1及び比較例1-1~1-3の前処理剤について、(a)保存安定性評価、(b)前処理剤付与跡の除去の容易さ評価及び(c)画像形成部の洗濯堅牢性評価を、下記方法により実施した。
【0075】
(a)保存安定性評価
ガラス容器に前処理剤(水で希釈していないもの)を入れ、60℃の環境下で336時間保管し、保管前後の粘度変化率及び外観変化を、下記評価基準に従って、評価した。保管前後の粘度は、ブルックフィールド社製の回転粘度計DV-II+を用いて25℃で測定し、下記式により変化率を算出した。
Δη=100×(ηa-ηb)/ηb
ηa:保管前の粘度(mPa・s)
ηb:保管後の粘度(mPa・s)
【0076】
保存安定性評価 評価基準
A:保管前後の粘度変化率が、5%未満であった。
B:保管前後の粘度変化率が、5%以上10%未満であった。
C:保管前後の粘度変化率が、10%以上であった。
*:保管後に微小な析出物がみられたが、実用上問題ないレベルであった。
【0077】
(b)前処理剤付与跡の除去の容易さ評価
つぎのようにして、評価サンプルを得た。すなわち、まず、前記熱定着工程後のTシャツの画像形成面に、スプレーを用いて、水を付与した。水の付与量は、0.02g/cm2とした。前記水の付与後、160℃に設定したオーブンを用いて、Tシャツを乾燥させた。前記乾燥における加熱時間は、3.5分とした。このようにして得た前記評価サンプルの前処理剤の付与部及び非付与部のL*値を、X-Rite社製のCIE1976L*a*b*色空間スケール測色計X-Rite939を用いて測定し、下記式によりΔL*を算出した。算出されたΔL*に基づき、下記評価基準に従って、前処理剤付与跡の除去の容易さを評価した。なお、ΔL*が小さい程、洗濯の代替とした前記水の付与により前処理剤がより除去され、前処理剤付与跡が目立ちにくく、外観に優れると判断できる。
ΔL*=L*1-L*2
L*1:前処理剤付与部のL*値
L*2:前処理剤非付与部のL*値
【0078】
前処理剤付与跡の除去の容易さ評価 評価基準
A:ΔL*が1未満
B:ΔL*が1以上1.5未満
C:ΔL*が1.5以上
【0079】
(c)画像形成部の洗濯堅牢性評価
Tシャツを、米国規格AATCC 61 II A法で洗濯し、下記評価基準に従って、画像形成部の洗濯堅牢性を評価した。
【0080】
画像形成部の洗濯堅牢性評価 評価基準
G :洗濯等級が、3級、3-4級、4級、4-5級又は5級となった。
NG:洗濯等級が、1級、1-2級、2級又は2-3級となった。
【0081】
実施例1-1及び比較例1-1~1-3の前処理剤の組成及び評価結果を、表1に示す。
【0082】
【0083】
表1に示すとおり、実施例1-1では、保存安定性、前処理剤付与跡の除去の容易さ及び画像形成部の洗濯堅牢性のいずれの評価結果も良好であった。一方、インクに含まれる成分が有するカルボキシル基と架橋可能な架橋剤を用いなかった比較例1-1及び1-3では、画像形成部の洗濯堅牢性の評価結果が悪かった。また、カルボキシル基を含む水溶性高分子を用いた比較例1-2では、保存安定性及び前処理剤付与跡の除去の容易さの評価結果が悪かった。
【0084】
[実施例2-1]
水性高分子として、カルボキシル基を含まない水溶性高分子であるポリビニルピロリドンに代えて、非水溶性高分子である酢酸ビニル系エマルション樹脂を用いた以外は、実施例1-1と同様にして、保存安定性、前処理剤付与跡の除去の容易さ及び画像形成部の洗濯堅牢性を評価し、実施例1-1の評価結果と比較した。
【0085】
実施例1-1及び実施例2-1の前処理剤の組成及び評価結果を、表2に示す。
【0086】
【0087】
表2に示すとおり、実施例1-1及び2-1の評価結果を比較すると、水性高分子として、水溶性高分子を用いた実施例1-1の方が、非水溶性高分子を用いた実施例2-1よりも、前処理剤付与跡の除去の容易さの評価結果がより優れていた。
【0088】
[実施例3-1及び3-2]
架橋剤であるオキサゾリン基含有化合物の水で希釈前の含有量を、0.15重量%とした以外は、実施例1-1と同様にして、実施例3-1の前処理剤を得た。また、架橋剤として、オキサゾリン基含有化合物に代えて、オキサゾリン基を含まないものを用いた以外は、実施例3-1と同様にして、実施例3-2の前処理剤を得た。実施例3-1及び3-2の前処理剤について、保存安定性、前処理剤付与跡の除去の容易さ及び画像形成部の洗濯堅牢性を評価し、比較例1-1の評価結果と比較した。
【0089】
実施例3-1、実施例3-2及び比較例1-1の前処理剤の組成及び評価結果を、表3に示す。
【0090】
【0091】
表3に示すとおり、実施例3-1及び3-2では、保存安定性、前処理剤付与跡の除去の容易さ及び画像形成部の洗濯堅牢性のいずれの評価結果も良好であった。実施例3-1及び3-2の評価結果を比較すると、架橋剤としてオキサゾリン基含有化合物を用いた実施例3-1の方が、ポリカルボジイミド樹脂に親水性セグメントを付与させた水性架橋剤を用いた実施例3-2よりも、保存安定性の評価結果がより優れていた。一方、前述のとおり、インクに含まれる成分が有するカルボキシル基と架橋可能な架橋剤を用いなかった比較例1-1では、画像形成部の洗濯堅牢性の評価結果が悪かった。
【0092】
[実施例4-1~4-7]
架橋剤としてのオキサゾリン基含有化合物の含有量を変更した以外は、実施例1-1、実施例3-1及び比較例1-1と同様にして、保存安定性、前処理剤付与跡の除去の容易さ及び画像形成部の洗濯堅牢性を評価し、実施例1-1、実施例3-1及び比較例1-1の評価結果と比較した。また、実施例1-1、3-1及び4-4~4-7並びに比較例1-1の前処理剤について、(d)保存安定性(変色)評価を、下記方法により実施した。
【0093】
(d)保存安定性(変色)評価
ガラス容器に前処理剤(水で希釈していないもの)を入れ、70℃の環境下で72時間保管した。保管前後の前処理剤を水で重量が3倍となるように希釈したものを評価サンプルとし、ミノルタ社製の分光測色計CM-3700dを用いてL*値、a*値及びb*値を測定して、下記式により色差ΔE*abを算出し、下記評価基準に従って評価した。
ΔE*ab={(L1
*-L2
*)2+(a1
*-a2
*)2+(b1
*-b2
*)2}1/2
L1
*:前記保管前の評価サンプルのL*値
L2
*:前記保管後の評価サンプルのL*値
a1
*:前記保管前の評価サンプルのa*値
a2
*:前記保管後の評価サンプルのa*値
b1
*:前記保管前の評価サンプルのb*値
b2
*:前記保管後の評価サンプルのb*値
【0094】
保存安定性(変色)評価 評価基準
A:ΔE*abが1未満
B:ΔE*abが1以上3未満
C:ΔE*abが3以上
【0095】
実施例1-1、3-1及び4-1~4-7並びに比較例1-1の前処理剤の組成及び評価結果を、表4に示す。
【0096】
【0097】
表4に示すとおり、水性高分子100重量部に対する架橋剤の含有割合を1重量部以上とした実施例1-1、3-1及び4-1~4-7では、画像形成部の洗濯堅牢性の評価結果が良好であった。また、水性高分子100重量部に対する架橋剤の含有割合を100重量部以下とした実施例1-1、3-1及び4-1~4-4では、前記含有割合が100重量部を超える実施例4-5~4-7よりも、保存安定性(変色)及び前処理剤付与跡の除去の容易さの評価結果がより優れていた。なお、実施例4-1~4-3では、保存安定性(変色)評価を実施していないが、変色は、架橋剤の含有量に依存しており、実施例4-1~4-3の保存安定性(変色)の評価結果は、「A」になると推定された。
【0098】
[参考例5-1~5-5]
水性高分子の含有量を変更したこと、並びに、保湿剤及び架橋剤を用いなかったこと以外は、実施例1-1と同様にして、保存安定性、前処理剤付与跡の除去の容易さ及び画像形成部の洗濯堅牢性を評価した。
【0099】
実施例1-1及び参考例5-1~5-5の前処理剤の組成及び評価結果を、表5に示す。
【0100】
【0101】
表5に示すとおり、参考例5-1~5-5では、架橋剤を用いていないため、画像形成部の洗濯堅牢性の評価結果が悪かったが、水性高分子の含有量を変更しても、保存安定性及び前処理剤付与跡の除去の容易さの評価結果は、実施例1-1と同等であった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
以上のように、本発明の前処理剤は、画像形成部の洗濯堅牢性を損なうことなく、付与跡を容易に除去可能で、且つ、保存安定性に優れたものである。本発明の前処理剤の用途は、特に限定されず、各種布帛への画像形成前の前処理に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0103】
30 インクジェット記録装置
31 インクジェットプリンタ
42 プラテン(支持体)
45 固定手段
46 支持面
54 キャリッジ
55 インク吐出手段(インクジェットヘッド)
60 インクカートリッジ
70 記録制御装置
71 本体
72 表示部
73 キーボード
74 マウス
100 Tシャツ
110、120 処理剤付与部