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特許7312391スラブ貫通ユニットおよびこれを用いた排水管の接続構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-12
(45)【発行日】2023-07-21
(54)【発明の名称】スラブ貫通ユニットおよびこれを用いた排水管の接続構造
(51)【国際特許分類】
   E03C 1/12 20060101AFI20230713BHJP
   E03C 1/28 20060101ALI20230713BHJP
   E03C 1/29 20060101ALI20230713BHJP
   F16L 5/00 20060101ALI20230713BHJP
【FI】
E03C1/12 E
E03C1/28 B
E03C1/29
F16L5/00 N
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019169088
(22)【出願日】2019-09-18
(65)【公開番号】P2021046700
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】504306002
【氏名又は名称】独立行政法人都市再生機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000150006
【氏名又は名称】日本総合住生活株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509319904
【氏名又は名称】株式会社ベンカン
(74)【代理人】
【識別番号】110001623
【氏名又は名称】弁理士法人真菱国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 信吾
(72)【発明者】
【氏名】徳丸 隆
(72)【発明者】
【氏名】塚本 高弘
【審査官】七字 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-303527(JP,A)
【文献】特開2003-253721(JP,A)
【文献】特開2012-117237(JP,A)
【文献】特開2019-218763(JP,A)
【文献】特開2004-316422(JP,A)
【文献】特開2009-270345(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03C 1/12-1/33
F16L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側において、L字継手を介してスラブ上の横引き排水管に接続され、下流側において、前記スラブに埋め込まれた既設の床排水トラップを貫通して延びるスラブ貫通ユニットであって、
鉛直方向に延びる前記床排水トラップの流出流路部に挿通され、前記スラブの下方まで延びる挿通パイプ部、および前記挿通パイプ部から上方に延び前記挿通パイプ部と一体に形成された管接合部を有する管接続継手と、
前記管接合部と前記L字継手とを接続すると共に、カットすることで長さ調整可能に構成された調整短管と、を備えたことを特徴とするスラブ貫通ユニット。
【請求項2】
前記流出流路部には、上端部を前記スラブに埋め込まれるようにして既設排水管が接続されており、
前記挿通パイプ部は、前記流出流路部を挿通すると共に、前記既設排水管内おいて前記スラブ下方の所定の位置まで延在していることを特徴とする請求項1に記載のスラブ貫通ユニット。
【請求項3】
前記管接合部と前記調整短管とは、環状のシール部材を介在した状態でカシメ接合されていることを特徴とする請求項1または2に記載のスラブ貫通ユニット。
【請求項4】
前記L字継手および前記横引き排水管は、塩化ビニル管を耐火材で被覆した耐火二重管で構成されており、
前記調整短管は、塩化ビニルで構成されると共に、前記管接続継手は、ステンレス管で構成され、
前記管接合部と前記L字継手とを接続する前記調整短管の露出部分は、前記耐火材で被覆されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のスラブ貫通ユニット。
【請求項5】
前記流出流路部には、上端部を前記スラブに埋め込まれるようにして鋼管製の既設排水管が接続され、前記既設排水管は、前記流出流路部に接続された既設短管と、前記既設短管に接続されて既設エルボと、を有しており、
前記挿通パイプ部が前記既設短管に挿入された請求項1ないし4のいずれかに記載のスラブ貫通ユニットと、
前記既設短管の上端部を介して、前記挿通パイプ部を前記流出流路部に接着固定する接着剤と、を備えたことを特徴とする排水管の接続構造。
【請求項6】
前記挿通パイプ部と前記既設短管との間に介設され、前記接着剤の充填間隙の下端を画成する環状のバックアップ材を、備えたことを特徴とする請求項5に記載の排水管の接続構造。
【請求項7】
前記挿通パイプ部と前記既設短管の下端部との間に介設された環状のスペーサを、備えたことを特徴とする請求項6に記載の排水管の接続構造。
【請求項8】
前記床排水トラップの内周面から前記既設短管の内周面に亘って塗着された防錆用のコーティング材を、備えたことを特徴とする請求項5ないし7のいずれかに記載の排水管の接続構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上流側において、スラブ上の横引き排水管が接続され、下流側において、スラブに埋め込まれた既設の床排水トラップを貫通して延びるスラブ貫通ユニットおよびこれを用いた排水管の接続構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の排水管の接続構造として、既設の浴室を浴室ユニットに改修する際に、浴室ユニットの排水を既設のわんトラップに繋ぎ込む排水管の連結構造が知られている(特許文献1参照)。
既設の浴室には、外筒と内筒との間にトラップ部(封水部)を構成したわんトラップが、床スラブに埋め込まれるようにして設けられている。一方、新設の浴室ユニットには、浴槽にPトラップが設けられ、洗い場に逆わんトラップが設けられている。そして、これら排水トラップには、それぞれ排水管が接続されている。
この排水管の連結構造は、スラブ上において、排水トラップに接続されたこれらの排水管を合流させて、目皿やわんを取り去った既設のわんトラップに連結するものであり、合流後の排水管に接続される90°エルボと、この90°エルボとわんトラップの内筒とを連結する合成ゴム製の配管継ぎ手と、を備えている。配管継ぎ手は、わんトラップの内筒に接続される下受け口と、90°エルボに接続される上受け口と、下受け口と上受け口とを結ぶ蛇腹状の連結部と、わんトラップの外筒に嵌合し上受け口を介して90°エルボを押さえる合成ゴム製の固定板と、を有している。
このように、排水管の連結構造では、既設の浴室のわんトラップを利用して、新設の浴室ユニットの排水を二重トラップにならないように排水することを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-314164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の排水管の連結構造では、浴室ユニットの排水トラップ以降の横引きとなる排水管は、所定の排水勾配をもって配管される必要があるため、横引きの最下流端となる90°エルボの高さ位置は、90°エルボの配管継ぎ手への差込み深さで調整することとなる。
この場合、90°エルボは、上受け口を介して固定板により保持される構造であるが、上受け口および固定板が合成ゴム製であるため、防振性は有するものの、90°エルボを安定に保持することができない問題がある。すなわち、わんトラップの上流側の排水管において、振動等により経時的に所定の排水勾配を維持することができなくなるおそれがあった。
一方、既設のわんトラップでは、わんトラップとこれに接続されている既設排水管との接続部分や、外筒と内筒との間の封水部分が、最も腐食が進みやすい部分とされている。特に、上記の接続部分は、スラブに埋め込まれており、腐食の程度を視認することができない。このため、単純に90°エルボをわんトラップに繋ぎ込む上記従来の連結構造では、わんトラップを実管スリーブ的に活用する形態となり、経時的にわんトラップと排水管との接続部分から排水が漏れ出るおそれがあった。
すなわち、既設のわんトラップを、スラブを貫通する実管スリーブ的に利用する従来の連結構造では、わんトラップの腐食が進んでいる場合に、施工不良となるおそれがあった。
【0005】
本発明は、接続される横引き排水管の排水勾配に合わせて設置することができると共に、床排水トラップをスラブ貫通スリーブ的に利用することができるスラブ貫通ユニットおよびこれを用いた排水管の接続構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のスラブ貫通ユニットは、上流側において、L字継手を介してスラブ上の横引き排水管に接続され、下流側において、スラブに埋め込まれた既設の床排水トラップを貫通して延びるスラブ貫通ユニットであって、鉛直方向に延びる床排水トラップの流出流路部に挿通され、スラブの下方まで延びる挿通パイプ部、および挿通パイプ部から上方に延び挿通パイプ部と一体に形成された管接合部を有する管接続継手と、管接合部とL字継手とを接続すると共に、カットすることで長さ調整可能に構成された調整短管と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、L字継手に対し、管接続継手の管接合部に接続した調整短管を、適宜カットして長さ調整しL字状継手に接続することで、床排水トラップにセットされた管接続継手に対し、排水勾配に倣って配管された横引き排水管を、適切に接続することができる。
また、管接続継手の挿入パイプ部は、床排水トラップの流出流路部に挿通されると共に、スラブの下方まで延びているため、床排水トラップを貫通するように排水流路を構成することができる。
したがって、横引き排水管の排水勾配に合わせて設置することができると共に、床排水トラップをスラブ貫通スリーブ的に利用することができる。
【0008】
この場合、流出流路部には、上端部をスラブに埋め込むようにして既設排水管が接続されており、挿通パイプ部は、流出流路部を挿通すると共に、既設排水管内おいてスラブ下方の所定の位置まで延在していることが好ましい。
【0009】
この構成によれば、階下において、既設排水管をスラブの下側近傍で切断したときに、挿通パイプ部の下端部も同時に切断されるが、これにより、挿通パイプ部の下端部に、継手を介して新設の排水管を直接接続することができる。すなわち、床排水トラップおよび既設排水管の一部をスラブに残置した状態で、新たな排水流路を構成することができる。また、この状態において、床排水トラップおよび既設排水管の一部は、スラブ貫通スリーブとして機能すると共に、スラブに設けた配管支持具として機能する。
【0010】
一方、管接合部と調整短管とは、環状のシール部材を介在した状態でカシメ接合されていることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、管接合部をコンパクトに形成することができると共に、管接合部を介して管接続継手と調整短管とを簡単且つ水密に接合することができる。
【0012】
また、L字継手および横引き排水管は、塩化ビニル管を耐火材で被覆した耐火二重管で構成されており、調整短管は、塩化ビニルで構成されると共に、管接続継手は、ステンレス管で構成され、管接合部とL字継手とを接続する調整短管の露出部分は、耐火材で被覆されていることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、調整短管とL字継手とを接着剤を介して差込み接合することができ、L字継手と調整短管とを簡単且つ水密に接合することができる。また、管接続継手および調整短管を不燃材による耐火構造とすることができ、L字継手および横引き排水管と併せて、スラブによる防火区画を適切に維持することができる。
【0014】
本発明の排水管の接続構造は、流出流路部には、上端部をスラブに埋め込まれるようにして鋼管製の既設排水管が接続され、既設排水管は、流出流路部に接続された既設短管と、既設短管に接続されて既設エルボと、を有しており、挿通パイプ部が既設短管に挿入された上記のスラブ貫通ユニットと、既設短管の上端部を介して、挿通パイプ部を流出流路部に接着固定する接着剤と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、管接続継手(スラブ貫通ユニット)を、既設短管を介して床排水トラップに強固に支持固定することができる。すなわち、スラブ貫通ユニットに対し、床排水トラップおよび既設排水管(既設短管の上端部)を、スラブ貫通スリーブ兼配管支持具として活用することができる。また、床排水トラップや既設排水管とスラブ貫通ユニットとが異種金属である場合、接着剤により、両者間の接触による腐食(電蝕)を有効に防止することができる。
【0016】
この場合、挿通パイプ部と既設短管との間に介設され、接着剤の充填間隙の下端を画成する環状のバックアップ材を、備えることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、既設短管に対し挿通パイプ部を同軸上に位置合せした状態で接着することができる。また、挿通パイプ部と既設短管との間隙に、接着剤を上側から流し込むことで、接着剤を簡単に充填させることができ、接着作業を簡単に行うことができる。
【0018】
この場合、挿通パイプ部と既設短管の下端部との間に介設された環状のスペーサを、備えることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、既設短管に対し挿通パイプ部を同軸上に位置合せすることができ、挿通パイプ部が既設短管に接触するのを防止する(絶縁)ことができる。
【0020】
また、床排水トラップの内周面から既設短管の内周面に亘って塗着された防錆用のコーティング材を、備えることが好ましい。
【0021】
この構成によれば、床排水トラップおよび既設短管の更なる腐食を防止することができると共に、床排水トラップや既設排水管とスラブ貫通ユニット(管接続継手)との接触による腐食(電蝕)を有効に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1実施形態に係るスラブ貫通ユニットを含む排水管の接続構造を表した断面図である。
図2】第1実施形態に係るスラブ貫通ユニットの斜視図(a)、その半部裁断斜視図(b)、およびその分解斜視図(c)である。
図3】排水管の改修方法における手順(a)、手順(b)、および手順(c)を表した図である。
図4】排水管の改修方法における手順(d)、手順(e)、および手順(f)を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係るスラブ貫通ユニットおよびこれを用いた排水管の接続構造について説明する。例えば、築50年前後の古い集合住宅において、タイル張りの浴室を浴室ユニット(ユニットバス)に改修することが行われる。この種の浴室には、スラブに埋め込むようにして鋳鉄製の椀トラップ(床排水トラップ)が設けられ、また椀トラップに接続された排水管は、スラブを貫通し階下の天井部分で横引かれて排水立て管に接続されている。
【0024】
本実施形態の排水管の接続構造では、専用部品であるスラブ貫通ユニットを用いることにより、既設の椀トラップを活用して、新設の浴室ユニットの排水を排水立て管まで、適切に導くようにしている。上述のように、古い集合住宅においては、浴室の排水管が、椀トラップを介して、スラブを貫通し階下の天井部分に配管されている。このため、本来であれば、当該階の浴室の改修に際し、当該階における工事の他、階下における工事が必要となる。
【0025】
この点において、本実施形態では、スラブ貫通ユニットを用いて各階毎の改修工事を可能としている。具体的には、空き部屋が生じたときに当該階における既設の浴室を浴室ユニットに改修すると共に、既設の椀トラップを利用してスラブ貫通ユニットを設置して排水管の改修を行う。次に、階下が空き部屋となったときに、上記と同様の改修工事に加え、上階におけるスラブ貫通ユニット以降の排水管の改修を行うようにしている。すなわち、空き部屋が生じたタイミングで各階毎の改修工事を実施するようにし、年月をかけて建物(集合住宅)全体の浴室廻りの改修を完了するようにしている。
【0026】
[実施形態]
図1は、スラブ貫通ユニットを主体とする排水管の接続構造を表した断面図であり、図2は、スラブ貫通ユニットそのものの斜視図である。両図に示すように、スラブSには、既設の椀トラップTが埋め込まれており、椀トラップTに接続された既設排水管OPは、スラブSを貫通してスラブSの下側空間に配管されている。スラブSの下面は、階下の天井面(直天)となっており、既設排水管OPは、この天井部分で横引かれて図外の排水立て管に接続されている。
【0027】
既設の椀トラップTは、トラップ本体Taと、図示では省略した椀およびストレーナから成るが、実施形態のものは、ストレーナおよび椀を取り除き、トラップ本体Taの一部に加工を施して利用される。トラップ本体Taは、内筒部Taa、外筒部Tab、底板部Tac、外筒部Tabから側方に延びる防水押え部Tadおよび内筒部Taaから下方に延びる接続部Taeにより一体に形成されている。そして、雌ネジを螺刻した接続部Taeに、既設排水管OPがネジ接合されている。
【0028】
既設排水管OPは、配管用炭素鋼鋼管(白ガス管)で構成され、トラップ本体Taの接続部Taeに接続された既設短管OPaと、既設短管OPaの下端部に接続された既設エルボOPbと、既設エルボOPbと図外の排水立て管とを接続する既設分岐管OPcと、を有している。上述のように、この既設排水管OPは、階下の改修工事の際にやり替えられる。
【0029】
本実施形態における既設排水管OPは、配管用炭素鋼鋼管(白ガス管)が用いられているが、椀トラップTはメーカー別の各種形態の異なるものが存在する。特に、既設排水管OPの内径と、トラップ本体Taにおける内筒部Taaの内径と、は必ずしも一致しないものとなっている。そこで、可能であれば、内筒部Taaを切断・除去して、後述するスラブ貫通ユニット10をトラップ本体Taに挿入セットする一方、不可能である場合や一部しか切断・除去できない場合には、ワンサイズダウンのスラブ貫通ユニット10を用意しておいて、これをトラップ本体Taにセットするようにしている(詳細は、後述する)。
【0030】
したがって、請求項に言う「流出流路部」は、鉛直方向に延び、内部を排水流路とした内筒部Taaおよびこれに連なる接続部Taeのうちの、少なくとも接続部Taeにより、構成されている。
【0031】
本実施形態の排水管の接続構造1は、椀トラップT(トラップ本体Ta)を貫通する管接続継手11を有するスラブ貫通ユニット10と、トラップ本体Taから既設排水管OPの既設短管OPaに亘ってそれぞれの内周面に塗着した防錆用のコーティング材12と、管接続継手11と既設短管OPaの上端部との間隙に充填された接着剤13と、を備えている。
【0032】
この排水管の接続構造1は、当該階の浴室ユニットUBの排水を階下に導くに当たり、既設の椀トラップTを利用するものであるが、トラップ本体Taを貫通するスラブ貫通ユニット10(管接続継手11)を用いると共に、スラブ貫通ユニット10を、接着剤13によりトラップ本体Taに固着することで、トラップ本体Ta(椀トラップT)をスラブ貫通スリーブおよび配管支持部材として活用している。
【0033】
詳細は後述するが、本実施形態では、作業スペースの関係で、スラブ貫通ユニット10を施工してから、浴室ユニットUBを施工するようにしている。この場合、スラブ貫通ユニット10を含む排水管の接続構造1の施工は、配管工事側に区分され、L字継手15および横引き排水管16を含む浴室ユニットUBの施工は、ユニットバス工事側に区分されている。したがって、作業手順としては、スラブ貫通ユニット10を施工してから、浴室ユニットUB側のL字継手15および横引き排水管16を施工することとなる(詳細は、後述する)。
【0034】
[スラブ貫通ユニット]
図1および図2に示すように、スラブ貫通ユニット10は、トラップ本体Taの接続部Taeを介して既設短管OPaに挿入され、スラブSの下方位置まで延びる挿通パイプ部21、および挿通パイプ部21から上方に延び挿通パイプ部21と一体に形成された管接合部22を有する管接続継手11と、管接続継手11とL字継手15とを接続すると共に、カットすることで長さ調整可能に構成された調整短管23と、を備えている。そして、管接続継手11と調整前の調整短管23とは、工場において組み立てられ、現場に搬入される。
【0035】
管接続継手11は、ソケット形式の継手であり、ステンレス製の管接合部22と、段部25を介して、管接合部22の基端側に連なるステンレス製の挿通パイプ部21と、で一体に形成されている(図2(a)参照)。この場合、管接続継手11は、例えば管接合部22と挿通パイプ部21とを段部25の部分で溶接して一体化されている。そして、管接続継手11は、上記の接着剤13により挿通パイプ部21の上端部で既設短管OPaに接着固定されている(図1参照)。
【0036】
管接合部22は、呼び径60Suの配管用ステンレス鋼鋼管を加工したものであり、先端部内周面に環状のシール部材であるOリング26用の環状凹部22aが形成され、基端側にはこれを絞り込んだ段部25が形成されている(図2(b)参照)。環状凹部22aにOリング26を装着した管接合部22には、上側から調整短管23(50A)が接合される。また、この状態で、管接合部22は、外側から専用のプレス工具により、「カシメ」られている(図2(b)参照)。これにより、管接続継手11の管接合部22と調整短管23の下端部とは、水密に且つ強固に差込み接合されている。
【0037】
挿通パイプ部21は、例えば呼び径50Suの配管用ステンレス鋼鋼管で構成されている。一方、椀トラップT(トラップ本体Ta)に接続された既設排水管OPは、呼び径50Aの配管用炭素鋼鋼管で構成されている。この場合、既設排水管OP(既設短管OPa)の内径(52.9mm)と、挿通パイプ部21の外径(48.6mm)との間には、約4mmの直径差(約2mmの間隙)があり、挿通パイプ部21は、既設排水管OPに挿入(遊挿)可能となるだけでなく、既設短管OPaとの間隙に接着剤13を充填可能となっている。
【0038】
このように、スラブ貫通ユニット10の管接続継手11は、管接合部22および挿通パイプ部21が、60Su×50Suで構成されているが、上述したワンサイズダウンのスラブ貫通ユニット10における管接続継手11は、50Su×40Suで構成されている。なお、この場合の既設短管OPaの内径(52.9mm)と、挿通パイプ部21の外径(42.7mm)との間には、約10mmの直径差(約5mmの間隙)が生ずる。
【0039】
管接続継手11をトラップ本体Taにセットした状態において、挿通パイプ部21の下端部は、既設排水管OP(既設短管OPa)内において、スラブSの下面から所定の下方位置となるように、具体的には、ほぼ既設エルボOPbに達するように、適宜カットされるようになっている(図1参照)。詳細は後述するが、階下の工事において、既設排水管OPは、スラブSの下面近傍で切断・撤去され、新たな排水管にやり替えられる。かかる場合に、挿通パイプ部21の下端部は、既設排水管OPと共に切断されるが、新たに開発した新設のエルボが接続できるようになっている(図示省略)。
【0040】
図1に示すように、浴室ユニットUB側のL字継手15は、呼び径50A×50Aのいわゆるエルボで構成されている。この場合のL字継手15は、耐火性を考慮し耐火二重管のエルボで構成され、これに接続される横引き排水管16も、呼び径50Aの耐火二重管で構成されている。すなわち、L字状継手15および横引き排水管16は、硬質塩化ビニル管の外周面を耐火材(石綿セメント)で被覆した耐火二重管で構成され、相互に差込み接合(接着)されている。
【0041】
ところで、浴室ユニットUBの接続短管(図示省略)とL字継手15との間を繋ぐ横引き排水管16は、浴室ユニットUB(の床パネル)とスラブSとの間の配管スペースPSに、且つ所定の排水勾配(一般的には、1/50勾配)をもって配管されている。この場合、接続短管とL字継手15との平面的な位置関係は、現場により異なることが想定されるため、本実施形態では、横引き排水管16の下流端に接続したL字継手15の高さ位置に対し、現場合わせで調整短管23を適宜カットして長さ調整できるようになっている。
【0042】
なお、ワンサイズダウンのスラブ貫通ユニット10を用いる場合には、L字継手15を呼び径50A×40Aの径違いエルボとし、調整短管23も呼び径40Aとする。なお、ワンサイズダウンのスラブ貫通ユニット10(管接続継手11:50Su×40Su、調整短管23:40A)を用いた場合でも、排水性能に遜色が生じないことが実験で確認されている。
【0043】
調整短管23は、呼び径50A×50AのL字継手15に合わせて、呼び径50Aの硬質塩化ビニル管で構成されている。調整短管23は、横引き排水管16に接続されたL字継手15と、トラップ本体Taに接着固定された管接続継手11(の管接合部22)とを接続すべく現場合わせでカットされる。そして、下端部を、管接続継手11の管接合部22に差込み接合(カシメ)されている調整短管23は、カットにより長さ調整した後、L字継手15に差込み接合(接着)される。
【0044】
このように、L字継手15の高さ位置に合わせたカットされた調整短管23は、下端部を管接続継手11(管接合部22)に接合され、上端部をL字継手15に差込み接合される。したがって、調整短管23の中間部は、露出配管となる。そこで、本実施形態では、調整短管23の露出部分を、上記耐火二重管の耐火材片28で被覆するようにしている(図1参照)。これにより、防火区画(スラブS)貫通部から1m以内の不燃化が達成され、スラブSによる防火区画を維持されている。
【0045】
コーティング材12は、排水管内面の防錆用に開発されたものであり、2液タイプのエポキシ樹脂接着剤で構成されている。コーティング材12には、粘性の高いものが用いられ、既設短管OPaの上端面および内周面の全域に塗着される(詳細は、後述する)。これにより、トラップ本体Taの更なる腐食が防止され、且つトラップ本体Taと管接続継手11とが絶縁される。
【0046】
接着剤13は、例えば2液タイプのエポキシ樹脂接着剤で構成され、挿通パイプ部21と、既設排水管OPの既設短管OPaとの間隙に充填されている。この場合の接着剤13は、挿通パイプ部21(管接続継手11)を、接続部Taeを介してトラップ本体Taに支持固定する機能を有している。また、防食のために、コーティング材12と共に挿通パイプ部21(管接続継手11)とトラップ本体Taとを絶縁する機能を有している。
【0047】
この場合、接着剤13には粘性の低いものが用いられている。詳細は後述するが、接着剤13は、トラップ本体Taの底板部Tac上にいったん溜め、管接続継手11(挿通パイプ部21)を既設短管OPaに挿入してゆく過程で、挿通パイプ部21と既設短管OPaとの間隙に流し込まれるようにして充填される。
【0048】
挿通パイプ部21の外周面には、既設短管OPaとの間に接着剤13の充填間隙を構成すべく、環状のバックアップ材31が貼着されている。また、既設短管OPaの下端部には、環状のスペーサ32が貼着されている。さらに、挿通パイプ部21のバックアップ材31とスペーサ32との間、およびスペーサ32から先の下端部に、防食テープ33を貼着されている(図3(c)参照)。
【0049】
バックアップ材31は、粘着剤付きの独立発泡構造シール材で構成されている。バックアップ材31は、接着剤13の充填間隙の下端を画成するものであり、現場合わせで管接続継手11(挿通パイプ部21)に貼着される。また、バックアップ材31は、既設短管OPaと挿通パイプ部21とを同軸上に位置させると共に、既設短管OPaと挿通パイプ部21と絶縁する機能を有している。
【0050】
なお、挿通パイプ部21を既設短管OPaに挿入するときに、既設短管OPaの上端にバックアップ材31がつかえるおそれがある。そこで、バックアップ材31の下半部にビニールテープを巻き、テーパー形状の挿入ガイドとすることが好ましい(図示省略)。
【0051】
スペーサ32は、バックアップ材31と同様に、粘着剤付きの独立発泡構造シール材で構成されている。この場合にスペーサ32は、既設短管OPaと挿通パイプ部21とを同軸上に位置させると共に、既設短管OPaと挿通パイプ部21と絶縁する機能を有している。この場合も、スペーサ32の下半部にビニールテープを巻き、テーパー形状の挿入ガイドとすることが好ましい(図示省略)。
【0052】
防食テープ33は、既設短管OPaと挿通パイプ部21との絶縁を確実なものとしている。スチール製のトラップ本体Taや既設短管OPaと、ステンレス製のスラブ貫通ユニット10とが異種金属であり、上記のコーティング材12、接着剤13、バックアップ材31、スペーサ32および防食テープ33により、両者間の接触による腐食(電蝕)を有効に防止できるようになっている。また、階下における既設排水管OPからの臭気や、既設排水管OPのごみ詰まり等による漏水も、このバックアップ材31およびスペーサ32で防止できるようになっている。
【0053】
[改修方法]
次に、図3および図4を参照して、スラブ貫通ユニット10を用いたトラップ廻りの改修方法について説明する。上述のように、この改修方法では、スラブ貫通ユニット10を施工した後、横引き排水管16およびL字継手15を施工し、浴室ユニットUBを据え付ける。また、この改修方法では、予め管接続継手11に調整短管23を接続して、スラブ貫通ユニット10を組み立てておく。そして、これを現場に持ち込んで作業を開始する。
【0054】
この排水管の改修方法は、トラップ本体Taの内筒部Taaを切断撤去するトラップ加工工程(図3(a)参照)と、トラップ本体Taの内周面から既設短管OPaの内周面に亘ってコーティング材12を塗着するコーティング工程(図3(b)参照)と、スラブ貫通ユニット10の挿通パイプ部21にバックアップ材31、スペーサ32および防食テープ33を貼着する接着準備工程(図3(c)参照)と、スラブ貫通ユニット10の挿通パイプ部21を既設短管OPaに挿入・接着する接着工程(図4(d)参照)と、調整短管23を現場合わせでカットする短管調整工程(図4(e)参照)と、カットした調整短管23にL字状継手15および横引き排水管16に接続する接続工程(図4(f)参照)と、が実施される。
【0055】
図3(a)のトラップ加工工程では、先ず、セーバーソー等を用いて、トラップ本体Taの内筒部Taaに複数の切込みを入れる。切込みは、周方向に10か所程度とし、内筒部Taaの基部まで達するようにする。次に、タガネ等を用い、切込みにより分断された内筒部Taa片を径方向に叩いて、一枚ずつ折り取るようにする。このようにして、トラップ本体Taから内筒部Taaを除去すると、既設短管OPaの上端面が視認できる状態となる。
【0056】
次に、研磨用ビット(電動ドリル)を用い、既設短管OPaの上端面から内周面にかけて錆こぶ等を除去すべく研磨を行う。ここで、吸引等により粉塵を除去し、トラップ本体Taの内面および既設短管OPaの内周面を清掃する。これにより、既設短管OPaは、その内周面全域において地肌がむき出しの状態となる。
【0057】
図3(b)のコーティング工程では、ビット形式のローラー刷毛を(電動ドリル)を用い、既設短管OPaの内周面にコーティング材12を塗布する。コーティング材12を塗布したら、ドライヤー(布団乾燥機)を用いて、コーティング材12を硬化させる。これにより、既設短管OPaが更生された状態となる。
【0058】
図3(c)の接着準備工程では、挿通パイプ部21の所定の位置にバックアップ材31を設けるべく、上記の独立発泡構造シール材を貼着する。同様に、挿通パイプ部21の先端側の所定の位置にスペーサ32を設けるべく、独立発泡構造シール材を貼着する。また、バックアップ材31およびスペーサ32に上記のビニールテープ(挿入ガイド)を貼着する。次に、挿通パイプ部21のバックアップ材31とスペーサ32との間、およびスペーサ32から先の先端部に、防食テープ33を貼着する。これにより、スラブ貫通ユニット10に、バックアップ材31、スペーサ32および防食テープ33が設けられた状態となる。
【0059】
図4(d)の接着工程では、先ずスラブ貫通ユニット10をハンドリングし、上側から挿通パイプ部21を既設短管OPaに挿入してゆく。そして、挿通パイプ部21に設けたバックアップ材31の上端が、既設短管OPaの上端と合致した状態とする(仮セット)。この仮セット状態で、接着剤13をトラップ本体Taに流し込み、接着剤13がトラップ本体Taの底板部Tac上に溜まった状態とする。次に、スラブ貫通ユニット10(挿通パイプ部21)を既設短管OPaにゆっくり押し入れてゆく。これにより、バックアップ材31が既設短管OPa内を下動して行き、バックアップ材31で下端が画成された挿通パイプ部21と既設短管OPaとの充填間隙に、トラップ本体Taに溜まった接着剤13が流れ込んでゆく。
【0060】
スラブ貫通ユニット10(挿通パイプ部21)の既設短管OPaへの挿入が進み、挿通パイプ部21の下端が既設エルボOPbに当接し、或いは管接合部22の段部25が既設短管OPaに当接すると、スラブ貫通ユニット10の挿入セットが終了したことが体感される(本セット)。このようにして、スラブ貫通ユニット10の本セットが終了したら、接着剤13の硬化を待つ(養生)。
【0061】
図4(e)の短管調整工程では、浴室ユニットUBに備え付けの接続短管の高さ位置、接続短管からスラブ貫通ユニット10に至る横引き排水管16の長さ、および横引き排水管16の排水勾配から、L字継手15の高さ位置を割り出す。次に、L字継手15の高さ位置に合わせて、本セットされている調整短管23の上端側を切断する。ここで、切断した調整短管23に、これに合わせて切断した耐火材片28を装着する。
【0062】
図4(f)の接続工程では、長さ調整した調整短管23に、横引き排水管16に接続したL字継手15を接続する(接着)。最後に、浴室ユニットUBの床パネルを設置したところで、床パネルに設けられている接続短管に、横引き排水管16の上流端を接続する。
【0063】
なお、上記の改修工事の下階の改修工事を行う場合には、上記と同様の改修工事を実施すると共に、天井に露出している既設排水管OPをスラブSの下面近傍で切断し、排水立て管に至る部分を新規の排水管に改修する。この場合、既設短管OPaを切断することとなるが、その際、挿通パイプ部21の下端部も同時に切断することとなる。このため、本実施形態では、既設短管OPおよび挿通パイプ部21の切断端部に対し、新たに開発したエルボを用い新規の排水管を接続するようにしている。
【0064】
以上のように、本実施形態によれば、管接続継手11の管接合部22に、Oリング26を介在させた状態で調整短管23を差込み接合し、且つカシメることにより、スラブ貫通ユニット10を簡単に作製することができる。また、バックアップ材31で画成された充填間隙に接着剤13を充填することで、挿通パイプ部21を既設短管OPaに、すなわちスラブ貫通ユニット10をトラップ本体Taに強固に接着することができる。
【0065】
さらに、L字継手15の高さ位置に合わせて、管接続継手11に接続した調整短管23を適宜カットして長さ調整した後、L字継手15に接続することで、トラップ本体Taに固定したスラブ貫通ユニット10に、排水勾配に倣って配管された横引き排水管16を、適切且つ安定に接続することができる。
しかも、管接続継手11の挿入パイプ部21は、トラップ本体Taを挿通し、その下端部が既設排水管OPの既設エルボOPbの位置まで達するため、トラップ本体Taをスラブ貫通スリーブ的に利用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1…排水管の接続構造、10…スラブ貫通ユニット、11…管接続継手、12…コーティング材、13…接着剤、15…L字継手、16…横引き排水管、21…挿通パイプ部、22…管接合部、23…調整短管、26…Oリング、31…バックアップ材、32…スペーサ、33…防食テープ、OP…既設排水管、OPa…既設短管、OPb…既設エルボ、S…スラブ、T…椀トラップ、Taa…内筒部、Tae…接続部、UB…浴室ユニット。
図1
図2
図3
図4