(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-12
(45)【発行日】2023-07-21
(54)【発明の名称】ヒドロキシ酸の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
C25B 3/23 20210101AFI20230713BHJP
C25B 3/07 20210101ALI20230713BHJP
C25B 15/02 20210101ALI20230713BHJP
【FI】
C25B3/23
C25B3/07
C25B15/02
(21)【出願番号】P 2019141228
(22)【出願日】2019-07-31
【審査請求日】2022-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】508059487
【氏名又は名称】アクテイブ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598069939
【氏名又は名称】阿部 正彦
(73)【特許権者】
【識別番号】501442806
【氏名又は名称】木戸 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100081282
【氏名又は名称】中尾 俊輔
(74)【代理人】
【識別番号】100085084
【氏名又は名称】伊藤 高英
(74)【代理人】
【識別番号】100117190
【氏名又は名称】前野 房枝
(72)【発明者】
【氏名】岩端 一樹
(72)【発明者】
【氏名】菅原 二三男
(72)【発明者】
【氏名】柿原 敏明
(72)【発明者】
【氏名】阿部 正彦
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-249500(JP,A)
【文献】特開2002-145928(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0114712(US,A1)
【文献】特開2008-069392(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 3/23
C25B 3/07
C25B 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物の両端の炭素にヒドロキシ基をそれぞれ有する原料素材の水溶液あるいは水と有機溶媒の混合液からなる反応溶液を用意し、前記反応溶液中に浸漬している作用極、対極および参照電極により、前記作用極および対極に所定時間にわたって通電するとともに、前記参照電極に対する前記作用極の電圧を前記原料素材の一方のヒドロキシ基のみを酸化させる境界電圧以下として通電することにより、前記原料素材の一方のヒドロキシ基のみを酸化させてカルボン酸とすることにより、ヒドロキシ酸を製造することを特徴とするヒドロキシ酸の製造方法。
【請求項2】
前記有機化合物は、炭素数2~8のアルキル基またはアルキル基の中間に酸素を備えた化合物であることを特徴とする請求項1に記載のヒドロキシ酸の製造方法。
【請求項3】
前記作用極の表面には前記酸化反応を補助する触媒層が形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のヒドロキシ酸の製造方法。
【請求項4】
前記作用極および対極に通電する所定時間は、前記反応溶液中の前記原料素材の酸化反応可能時間以内であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のヒドロキシ酸の製造方法。
【請求項5】
有機化合物の両端の炭素にヒドロキシ基をそれぞれ有する原料素材の反応溶液を貯留する反応容器と、
前記反応溶液中に浸漬して通電する作用極、対極および参照電極と、
前記作用極および対極に所定時間にわたって通電する通電時間制御部と、前記参照電極に対する前記作用極の電圧を前記原料素材の一方のヒドロキシ基のみを酸化させてカルボン酸とする境界電圧以下として通電させる通電電圧制御部とを有する通電制御部と
を備えていることを特徴とするヒドロキシ酸の製造装置。
【請求項6】
前記作用極の表面には前記酸化反応を補助する触媒層が形成されていることを特徴とする請求項5に記載のヒドロキシ酸の製造装置。
【請求項7】
前記通電時間制御部は、前記作用極および対極に通電する所定時間を前記反応溶液中の前記原料素材の酸化反応可能時間以内とすることを特徴とする請求項5または請求項6に記載のヒドロキシ酸の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシ酸の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
3-ヒドロキシプロピオン酸(以後、「3HP」とも称する)に代表されるヒドロキシ酸は、同一分子内にヒドロキシ基(水酸基)とカルボン酸基とを有する化合物であり、種々の用途に用いられている。例えば、3HPは、アクリル酸エステルなど様々な化学製品の原料として非常に有用な化合物である。
【0003】
3HPに代表されるヒドロキシ酸の合成方法に関しては、種々の検討がなされており、例えば、3HPを合成する方法として、出発原料に1,3-プロパンジオール(以後、「PDO」とも称する)を用いる酸化反応を実施する方法が検討されている。一般的に、PDOは炭素数3のアルキル基の両末端に化学的に等価なヒドロキシ基を有する化合物であり、その一方のヒドロキシ基のみを酸化させることは合成上かなり困難である。なかでも、非特許文献1においては、ハイドロタルサイト担持金パラジウムナノ粒子を触媒に用いて、PDOから3HPを酸化反応により合成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】M. Mohammad, S. Nishimura, K. Ebitani, AIP Conf. Proc. 2015, 1649, 58.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、非特許文献1の合成方法では、O2ガスを常に供給する必要があり、かつ3HPの収率が42%と低く、より簡便な3HPの製造方法および収率のより一層の向上が求められていた。
【0006】
本発明は、上記実情を鑑みて、ジオールを酸化してヒドロキシ酸を製造する反応に好適に用いられ、該反応においてヒドロキシ酸の収率が高く、スケールアップも容易なヒドロキシ酸の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、金属粒子担持触媒を作用極として、参照電極を基準に定電圧を印可することにより、上記課題を解決できることを見出して本発明を完成させた。
【0008】
前記目的を達成するための本発明の第1の態様のヒドロキシ酸の製造方法は、有機化合物の両端の炭素にヒドロキシ基をそれぞれ有する原料素材の水溶液あるいは水と有機溶媒の混合液からなる反応溶液を用意し、前記反応溶液中に浸漬している作用極、対極および参照電極により、前記作用極および対極に所定時間にわたって通電するとともに、前記参照電極に対する前記作用極の電圧を前記原料素材の一方のヒドロキシ基のみを酸化させる境界電圧以下として通電することにより、前記原料素材の一方のヒドロキシ基のみを酸化させてカルボン酸とすることにより、ヒドロキシ酸を製造することを特徴とする。
【0009】
本発明の第2の態様のヒドロキシ酸の製造方法は、前記第1の態様において、前記有機化合物は、炭素数2~8のアルキル基またはアルキル基の中間に酸素を備えた化合物であることを特徴とする。
【0010】
本発明の第3の態様のヒドロキシ酸の製造方法は、前記第1または第2の態様において、 前記作用極の表面には前記酸化反応を補助する触媒層が形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の第4の態様のヒドロキシ酸の製造方法は、前記第1から第3の態様のいずれかにおいて、前記作用極および対極に通電する所定時間は、前記反応溶液中の前記原料素材の酸化反応可能時間以内であることを特徴とする。
【0012】
本発明の第1の態様のヒドロキシ酸の製造装置は、有機化合物の両端の炭素にヒドロキシ基をそれぞれ有する原料素材の反応溶液を貯留する反応容器と、前記反応溶液中に浸漬して通電する作用極、対極および参照電極と、前記作用極および対極に所定時間にわたって通電する通電時間制御部と、前記参照電極に対する前記作用極の電圧を前記原料素材の一方のヒドロキシ基のみを酸化させてカルボン酸とする境界電圧以下として通電させる通電電圧制御部とを有する通電制御部とを備えていることを特徴とする。
【0013】
本発明の第2の態様のヒドロキシ酸の製造装置は、前記第1の態様において、前記作用極の表面には前記酸化反応を補助する触媒層が形成されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の第3の態様のヒドロキシ酸の製造装置は、前記第1または第2の態様において、前記通電時間制御部は、前記作用極および対極に通電する所定時間を前記反応溶液中の前記原料素材の酸化反応可能時間以内とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ジオールを酸化してヒドロキシ酸を製造する反応に好適に用いられ、該反応においてヒドロキシ酸の収率が高く、スケールアップも容易なヒドロキシ酸の製造方法および製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明のヒドロキシ酸の製造装置の1実施形態を示す概要図
【
図2】1,3-プロパンジオールのCV測定結果を示す特性図
【
図3】反応溶液のpHを変化させた場合の1,3-プロパンジオールのCV測定結果を示す特性図
【
図10】実施例7で得られた質量分析のスペクトル図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、
図1から
図10に基づいて、本発明のヒドロキシ酸の製造方法および製造装置について説明する。
【0018】
なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0019】
本発明のヒドロキシ酸の製造装置の1実施形態は、
図1に示す通り、通電制御部1と通電時間制御部2、および反応容器3によって構成される。反応容器3においては、通電制御部1と接続された3種類の電極が反応溶液3a中に浸漬されており、通電制御部1より所定の電圧を印加することにより酸化反応が開始される。また、3種類の電極としては、金属粒子(図示せず)を担持した作用極4、参照電極5、および対極6を用いる。作用極4は、金属粒子担持触媒、および、電極材(いずれも図示せず)を有する。また、金属粒子担持触媒は、金および白金を含む貴金属と触媒安定化剤とを含む金属粒子、および、金属粒子を担持するカーボンブラックを含む担体(いずれも図示せず)を有する。
【0020】
以下では、まず、ヒドロキシ酸の製造装置の各構成要素、および、その調製法について詳述し、その後、その製造方法について詳述する。
【0021】
<<通電制御部1>>
ヒドロキシ酸の製造装置には、通電制御部1が含まれる。通電制御部1は、参照電極5の電位を基準として、作用極4へ印加する電圧を制御できる機構を有する。オペアンプを実装した回路を持つ通電制御部1であれば特に限定されないが、参照電極5に対し-10 ~ +10 V、好ましくは-5 ~ +5 V、より好ましくは-2 ~ +2 Vまで制御できるものが好ましい。
【0022】
<<通電時間制御部2>>
ヒドロキシ酸の製造装置には、通電時間制御部2が含まれる。通電時間制御部2は、作用極4上で生じている酸化反応をリアルタイムに把握するため、および反応終了のタイミングを計るモニタとして作用する。通電時間制御部2は、通常、作用極4と対極6をつなぐ回路の途中に直列で接続される。通電時間制御部2は、電流が計測できれば特に限定されないが、10 mAから50 Aまで計測できるものが好ましい。
【0023】
<<反応容器3>>
ヒドロキシ酸の製造装置には、反応容器3が含まれる。反応容器3は、実質的にヒドロキシ酸を産生する反応場として作用する。反応容器3には反応溶液3aが満たされており、そこに作用極4、参照電極5、対極6が浸漬されている。反応の効率を高めるため、反応容器3には反応溶液3aを撹拌する撹拌装置が付随していてもよい。反応容器3の素材や形状は、ヒドロキシ酸の生産を阻害しないものであれば特に制限はないが、例えば樹脂またはセラミックの容器やビーカー等が好ましい。
【0024】
<接続方法>
まず、作用極4、参照電極5、および、対極6を反応容器3の反応溶液3a中へ浸漬する。その後、各電極を通電制御部1の所定の端子に接続する。通電時間制御部2は、作用極4と対極6をつなぐ回路内に直列で接続される。反応溶液3aを撹拌装置で撹拌させ、通電制御部1により作用極4に電圧が印加されることによって、ヒドロキシ酸の生産が開始される。
【0025】
<<作用極4>>
本発明の作用極4は、金属粒子担持触媒、および、電極材を有する。また、金属粒子担持触媒は、金および白金を含む貴金属と触媒安定化剤とを含む金属粒子、および、金属粒子を担持するカーボンブラックを含む担体を有する。
【0026】
以下では、まず、作用極4を構成する各要素について詳述し、その後、その製造方法について詳述する。
【0027】
<金属粒子担持触媒>
(金および白金)
金属粒子には、金および白金が貴金属として含まれる。
金と白金とのモル比(金:白金)は特に制限されないが、ヒドロキシ酸の収率および/または選択率がより高い点(以後、単に「本発明の効果がより優れる点」とも称する)で、99:1~1:99の範囲であることが好ましく、90:10~10:90の範囲であることがより好ましく、90:10~20:80の範囲であることがさらに好ましく、90:10~30:70の範囲であることが特に好ましく、80:20~75:35の範囲であることが最も好ましい。
【0028】
金と白金とのモル比の測定方法としては、例えば、金属粒子担持触媒を酸で処理して金および白金を溶出させ、該溶出液中の金イオンおよび白金イオンを高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析により定量することにより、決定することができる。
【0029】
(金属粒子)
本発明の金属粒子担持触媒に含有される金属粒子の平均粒径は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、1~10nmが好ましく、1~5nmがより好ましく、1~2nmがさらに好ましい。
【0030】
金属粒子中の金および白金の結晶構造は、例えば、金および白金が不規則に配置された合金構造、または、白金をコア層に、金をシェル層に有するコアシェル構造、または、金をコア層に、白金をシェル層に有するコアシェル構造等であり得る。いずれの結晶構造も本発明の金属粒子に包含されるものとする。
【0031】
(触媒安定化剤)
金属粒子には、触媒安定化剤が含まれる。触媒安定化剤は、金属粒子に含有される貴金属を保護する保護剤として作用する。つまり、触媒安定化剤は、金および白金を含む貴金属の表面を覆うように配置される場合が多い。
【0032】
触媒安定化剤とは、分子構造内に親水基を主鎖あるいは側鎖に持っている親水性高分子を意味する。
【0033】
親水性高分子化合物としては、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ポリアクリル酸、ポリスルホン酸などから選択して用いることができる。
【0034】
特に、触媒安定化剤として、ポリビニルピロリドン(PVP)を用いることが好ましく、触媒担持体中において金属触媒の合計モル数の1倍以下のモノマー数の含有量とされていることで担体への吸着量を高めることができる。これは、触媒安定化剤の濃度が高くなると、金属触媒粒子の表面を触媒安定化剤が密に覆い、当該金属触媒粒子の疎水性が低下することにより、同じく疎水性表面を有するカーボン粒子への金属触媒粒子の吸着の原動力が失われるためであると考えられる。
【0035】
(担体)
金属粒子を担持する担体としては、カーボンブラックが挙げられる。担体として使用するカーボンブラックは、電気的特性として導電性を有していれば特に限定されない。アセチレンブラックやバルカンXC-72(VALCANはギャボット社の登録商標)も使用できるが、比表面積や多孔度が高いケッチェンブラックがより好ましい。
【0036】
<金属粒子担持触媒調製法>
上記金属粒子担持触媒の製造方法は特に制限されないが、効率的に金属粒子担持触媒を製造できる点で、金属粒子を得る工程と、金属粒子とカーボンブラックとを接触させて、金属粒子担持触媒を得る工程とを有する態様が挙げられる。
【0037】
以下、各工程の手順について詳述する。
【0038】
(金属粒子形成工程)
本工程では、金イオンと白金イオンとを触媒安定化剤であるPVPの存在下で還元して、金および白金を含む貴金属と、PVPとを含む金属粒子を製造する工程である。
【0039】
触媒安定化剤は、上述の通りである。
【0040】
本工程において使用される金のイオンの供給源としては、塩化金酸が好ましい。また、白金のイオンの供給源としては、塩化白金酸が好ましい。
【0041】
本工程において、金のイオンと白金のイオンとを触媒安定化剤の存在下で還元する手段は、NaBH4還元法による還元反応であることが好ましい。なお、還元剤としては、NaBH4の他にも、ヒドラジン、クエン酸、アスコルビン酸、エタノールなどを用いることもできる。上記の条件で金イオンおよび白金イオンを還元することにより、金および白金を含む貴金属を触媒安定化剤に保護させることが可能となる。
【0042】
本工程において、金イオンと白金イオンとを還元する順序は特に限定されない。例えば、金イオンおよび白金イオンを同時に還元してもよく、金イオンおよび白金イオンを別々に、すなわち金イオンおよび白金イオンのいずれかを還元し、次いで他方のイオンを連続的に還元してもよい。通常、前者の場合は金および白金が不規則に配置された合金構造を、後者の場合は金と白金とから成るコアシェル構造の貴金属粒子を形成し得る。いずれの場合も本工程に包含されるものとする。
【0043】
上記の条件で本工程を実施することにより、金および白金を含む貴金属を微細且つ均質な粒径で両性界面活性剤に保護させることが可能となる。
【0044】
(接触工程)
本工程は、上記金属粒子とカーボンブラックを含む担体とを接触させて、金属粒子を該担体に担持させて、金属粒子担持触媒を得る工程である。
【0045】
本工程において使用されるカーボンブラックは、上述の通りである。
【0046】
本明細書において、「接触させる」とは、例えば、ある成分に別の成分を加えることを意味するが、これに限定されない。例えば、金属粒子を含有する溶液中にカーボンブラックを含む担体を加えてもよく、カーボンブラックを含む担体を含有する溶液中に金属粒子を加えてもよい。この場合、各成分を接触させる順序および速度は、使用される成分の化学的性質等に基づき適宜設定することができる。
【0047】
本工程は、金属粒子とカーボンブラックを含む担体とを実質的に分散させる溶媒存在下で実施することが好ましい。本工程で使用される溶媒は、水であることが好ましい。
【0048】
本工程は、金属粒子とカーボンブラックを含む担体とを室温条件下で接触させて混合物を得ることにより、金属粒子を担体に担持させるが、加温条件下で接触させて混合物を得ることにより、金属粒子を担体に担持させてもよい。また、混合物を接触させる時間は、0.5~48時間であることが好ましく、0.5~36時間であることがより好ましく、0.5~24時間であることが特に好ましい。上記の処理により得られた金属粒子担持触媒は、吸引濾過等の慣用の手段によって分離することができる。
【0049】
金属粒子担持触媒の形状および寸法は、特に限定されない。金属粒子担持触媒の形状としては、限定するものではないが、例えば、細粒状および粉末状等の形状を挙げることができ、いずれの形状の金属粒子担持触媒も使用することができる。粉末状の形状であることが特に好ましい。
【0050】
<電極材>
作用極4には、電極材が含まれる。電極材は、金属粒子担持触媒上で酸化反応によって生じる電子を受け取り、対極6へバイパスする配線として作用する。そのため、金属粒子担持触媒は反応溶液中の原料素材と接触できるように電極材の表面に配置される場合が多い。電極材としては、導電性を示す素材であれば特に制限されないが、カーボンペーパーやカーボンクロスを用いることが好ましい。
【0051】
<結着剤>
作用極には、結着剤が含まれる。結着剤は、金属粒子担持触媒同士、ならびに、金属粒子担持触媒と電極材とを接着させる作用を持つ。結着剤としては、プロトン伝導性を有した高分子電解質であり、フルオロアルキルエーテル側鎖とパーフルオロアルキル主鎖を有するフルオロアルキル共重合体のパーフルオロ系プロトン交換樹脂が好ましく用いられる。例えば、デュポン社製のナフィオン(登録商標)、旭化成製のアシプレックス(商標名)、旭硝子製のフレミオン(登録商標)、ジャパンゴアテックス社製のゴア-セレクト(登録商標)等が例示され、部分フッ素樹脂では、トリフルオロスチレンスルホン酸の重合体やポリフッ化ビニリデンにスルホン酸基を導入したものなどがある。また、炭化水素系プロトン交換樹脂である、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、ポリイミド系樹脂などにスルホン酸基を導入したものなどがある。
【0052】
上記工程で得られた金属粒子担持触媒は、所定の濃度の結着剤溶液中に分散され、この分散液を上記電極材に塗布し乾燥させることにより、作用極4として機能する。
【0053】
<<参照電極5>>
ヒドロキシ酸の製造装置には、参照電極5が含まれる。ヒドロキシ酸製造時には、作用極4に印加する電圧を制御しながら反応を行うため、作用極4の電圧を正確に知る必要がある。このために電位基準として参照電極5が用いられる。参照電極5に必要な要件は長時間に亘って一定の安定な電位を示すことである。そのためには参照電極5には電流を流さないことが望ましい。参照電極5としては、例えば、標準水素電極、可逆水素電極、銀-塩化銀電極、カロメル電極、パラジウム・水素電極などがある。ヒドロキシ酸の生産では、その使いやすさからAg/AgCl参照電極を用いている。
【0054】
<<対極6>>
対極6は、作用極4で生じた電子をもちいて還元反応が起こる。おそらく反応溶液3a中に存在する水素イオンが還元されて水素になる還元反応が生じている。対極6の素材としては、基本的に導電性を示す物質であれば特に制限はないが、例えば白金やステンレス、チタン等が用いられる。また、還元反応を促進する触媒が塗布された電極を用いてもよい。
【0055】
<境界電圧の決定方法>
境界電圧は、作製したいヒドロキシ酸の原料となるジオールのサイクリックボルタンメトリー(CV)測定によって決定する。触媒を塗布したグラッシーカーボン電極等の作用極4、Ag/AgCl等を用いた参照電極5、Ptワイヤー等の対極6を用意し、ジオールを添加した溶液に各電極を挿入した後、CV測定を行う。尚、参照電極5は、ヒドロキシ酸製造装置で使用するものと同じ種類の電極を使用する。得られたCV波形の結果から、まずジオールが触媒によって酸化されたことを示す酸化ピークがあるかを確認する。酸化ピークが見られる場合は、その酸化ピークが減少しきる電圧値を確認する。この電圧値が、ヒドロキシ酸製造時における境界電圧となる。もし酸化ピークが見られない場合は、ジオールを含む溶液のpHや温度、電圧のスキャン範囲、使用する触媒の種類等を変え、対象とするジオールが酸化される条件検討を行う。
【0056】
ここでは、3ヒドロキシ酸の原料となる1,3-プロパンジオールを例にとり、ヒドロキシ酸製造装置にて設定する境界電圧を決定するために行うCV測定について説明する(
図2参照)。作用極4はグラッシーカーボン電極を用い、表面にAuPt(モル比4:1)金属粒子をKB600に担持させた触媒を塗布した。参照電極5はAg/AgCl(飽和KCl)電極、対極6には白金ワイヤーを用いた。各電極は、反応溶液(0.1M 1,3-プロパンジオール、0.1M NaOH)に浸し、ポテンショスタットにて、100mV/sの速度で-0.8~0.6V間の電圧を掃引した。その結果、
図2の実線に示すように、1,3-プロパンジオールが酸化されたことを示す酸化ピークが-0.1V付近に検出された。一方、
図2の破線に示すように、1,3-プロパンジオールを添加していない反応溶液では、この酸化ピークは見られなかった。このCV測定結果より、1,3-プロパンジオールの酸化ピークが減少しきる0.3Vを境界電圧に設定した。他のジオールについても、上記方法にしたがってCV測定により境界電圧値を確認することで、ヒドロキシ酸製造装置の境界電圧を決定しうる。
【0057】
<<ヒドロキシ酸の製造方法>>
上述したヒドロキシ酸の製造装置は、ヒドロキシ酸の製造方法に好適に適用できる。より具体的には、作用極4として調製した金属粒子担持触媒または触媒組成物は、有機化合物の両端の炭素にヒドロキシ基をそれぞれ有するジオールを酸化してヒドロキシ酸を製造するために好適に用いられる。この製造方法では、ジオール中の1つのヒドロキシ基のみが酸化されてカルボン酸基となり、分子内にヒドロキシ基とカルボン酸基とを有するヒドロキシ酸が製造される。
【0058】
まず、作用極4、参照電極5、および、対極6を反応容器3の反応溶液3a中へ浸漬し、各電極を通電制御部1の所定の端子に所定の要領で接続を行った後、通電制御部1により作用極4に電圧が印加されることによって、ヒドロキシ酸の生産が開始される。この設定電圧は、上記境界電圧の決定方法で決定された電圧値を使用する。
図2の例の場合には、0.3Vとする。また、反応時は常に反応溶液3aを撹拌装置で撹拌させておく。
【0059】
以下では、まず、本製造方法で使用される成分について詳述する。
【0060】
金属粒子担持触媒および触媒組成物に関しては、上述の通りである。
【0061】
ジオールとは、2個のヒドロキシ基(水酸基)を有する有機化合物であれば特に制限はされないが、炭素数の下限値が2以上であり、上限値が通常10以下、好ましくは8以下のジオールが挙げられる。また、炭素数2~8のアルキル基またはアルキル基の中間に酸素を備えた有機化合物でもよい。
【0062】
本発明のヒドロキシ酸の製造方法は、上述した金属粒子担持触媒または触媒組成物の存在下において、ジオールの一方のヒドロキシ基を酸化してヒドロキシ酸を製造する工程を含む。
【0063】
ジオールと金属粒子担持触媒との量関係は特に制限されず、使用されるジオールの種類によって適宜最適な条件(濃度、反応温度、反応時間、反応雰囲気等)が選択される。
【0064】
本工程は、ジオールを実質的に分散または溶解させる溶媒存在下で実施することが好ましい。本工程において使用される溶媒は、ジオールの酸化反応を阻害するものでなければ特に制限されず、当該技術分野で慣用される溶媒を使用することができる。当該溶媒は、限定するものではないが、例えば、水、アセトン、アセトニトリル、THFを挙げることができ、水が好ましい。
【0065】
本工程は、ジオールを実質的に分散または溶解させる溶媒のpHを塩基性下で実施することが好ましい。本工程において使用される溶媒のpHは、ジオールの酸化反応を阻害するものでなければ特に制限されず、pH範囲としては、7以上が好ましく、11以上がより好ましい。
【0066】
例として、
図3はpH6~12における1,3-プロパンジオールのCV測定結果を示す。この
図3より、pH10~12にかけて1,3-プロパンジオールの酸化ピークが徐々に増加していることがわかる。一方、pH9以下(6を含む)では、-0.4~0.1Vのスキャン範囲においてほとんど電流値が変化せず、プロパンジオールの酸化反応が生じていない。
【0067】
塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基類、ピリジン、ジエチルアミン、トリエチルアミンなどの有機塩基類、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド類などを用いることができる。
【0068】
反応溶液3a中における塩基の含有量は特に制限されないが、0.1~5.0Mが好ましく、0.2~2.4Mがより好ましい。
【0069】
上記手順によって、ヒドロキシ酸が製造される。上述したように、ヒドロキシ酸は分子内にヒドロキシ基とカルボン酸基とを有する化合物である。
【0070】
本発明の触媒組成物には、必要に応じて、溶媒(例えば、水や有機溶媒)が含まれていてもよい。
【実施例】
【0071】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
(実施例1)
反応溶液(1.11M水酸化ナトリウム、0.37M 1,3-プロパンジオール)3aに、AuPt(モル比4:1)金属粒子をKB600に担持させたカーボンクロス電極を作用極4として浸し、さらに、参照電極5であるAg/AgCl電極と、対極6であるチタン製のメッシュ電極も浸した。また、作用極4、参照電極5、および、対極6は、電圧制御装置の所定の端子に接続した。反応溶液3aは室温で撹拌を行いながら、作用極4に参照電極5に対して境界電圧として0.3Vの電圧を印加した。電圧印加後は瞬時に電流が発生するので、その電流値の推移を経時的にモニタし、酸化反応の状況を確認した。8時間反応後、反応溶液3aを1mLほどサンプリングし、陽イオン交換樹脂Amberlite IR120(H) (Sigma-Aldrich)を添加してサンプルの脱塩を行った。その後、シリンジフィルターでろ過し、質量分析装置(ESI-negativeモード)に付した。
【0073】
図4に、質量分析の結果を示す。m/z=89.0にメインピークとして脱プロトン化した3-ヒドロキシプロパン酸[90.08g/mol]が検出された。これにより反応溶液3a中の1,3-プロパンジオール[76.09g/mol]から3-ヒドロキシプロパン酸[90.08g/mol]が得られたことがわかった。
【0074】
(実施例2)
反応溶液(1M水酸化カリウム、2 vol% 1,5-ペンタンジオール)3aに、AuPt(モル比4:1)金属粒子をKB600に担持させたカーボンクロス電極を作用極4として浸し、さらに、参照電極5であるAg/AgCl電極と、対極6であるチタン製のメッシュ電極も浸した。また、作用極4、参照電極5、および、対極6は、電圧制御装置の所定の端子に接続した。反応溶液3aは室温で撹拌を行いながら、作用極4に参照電極5に対して境界電圧として0.5Vの電圧を印加した。電圧印加後は瞬時に電流が発生するので、その電流値の推移を経時的にモニタし、酸化反応の状況を確認した。1時間反応後、反応溶液を1mLほどサンプリングし、陽イオン交換樹脂Amberlite IR120(H) (Sigma-Aldrich)を添加してサンプルの脱塩を行った。その後、シリンジフィルターでろ過し、質量分析装置(ESI-negativeモード)に付した。
【0075】
図5に、質量分析の結果を示す。m/z=117.1にメインピークとして脱プロトン化した5-ヒドロキシペンタン酸[118.13g/mol]が検出された。これにより反応溶液3a中の1,5-ペンタンジオール[104.15g/mol]から5-ヒドロキシペンタン酸[118.13g/mol]が得られたことがわかった。
【0076】
(実施例3)
反応溶液(1M水酸化カリウム、2 vol% 1,6-ヘキサンジオール)3aに、AuPt(モル比4:1)金属粒子をKB600に担持させたカーボンクロス電極を作用極4として浸し、さらに、参照電極5であるAg/AgCl電極と、対極6であるチタン製のメッシュ電極も浸した。また、作用極4、参照電極5、および、対極6は、電圧制御装置の所定の端子に接続した。反応溶液3aは室温で撹拌を行いながら、作用極4に参照電極5に対して境界電圧として0.5Vの電圧を印加した。電圧印加後は瞬時に電流が発生するので、その電流値の推移を経時的にモニタし、酸化反応の状況を確認した。1時間反応後、反応溶液を1mLほどサンプリングし、陽イオン交換樹脂Amberlite IR120(H) (Sigma-Aldrich)を添加してサンプルの脱塩を行った。その後、シリンジフィルターでろ過し、質量分析装置(ESI-negativeモード)に付した。
【0077】
図6に、質量分析の結果を示す。m/z=131.1にメインピークとして脱プロトン化した6-ヒドロキシヘキサン酸[132.16g/mol]が検出された。これにより反応溶液3a中の1,6-ヘキサンジオール[118.17g/mol]から6-ヒドロキシヘキサン酸[132.16g/mol]が得られたことがわかった。
【0078】
(実施例4)
反応溶液(1M水酸化ナトリウム、2 vol% 1,4-シクロヘキサンジメタノール)3aに、AuPt(モル比4:1)金属粒子をKB600に担持させたカーボンクロス電極を作用極4として浸し、さらに、参照電極5であるAg/AgCl電極と、対極6であるチタン製のメッシュ電極も浸した。また、作用極4、参照電極5、および、対極6は、電圧制御装置の所定の端子に接続した。反応溶液3aは室温で撹拌を行いながら、作用極4に参照電極5に対して境界電圧として0.3Vの電圧を印加した。電圧印加後は瞬時に電流が発生するので、その電流値の推移を経時的にモニタし、酸化反応の状況を確認した。2時間反応後、反応溶液を1mLほどサンプリングし、陽イオン交換樹脂Amberlite IR120(H) (Sigma-Aldrich)を添加してサンプルの脱塩を行った。その後、シリンジフィルターでろ過し、質量分析装置(ESI-negativeモード)に付した。
【0079】
図7に、質量分析の結果を示す。m/z=157.1にメインピークとして脱プロトン化した4-(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンカルボン酸[158.19g/mol]が検出された。これにより反応溶液3a中の1,4-シクロヘキサンジメタノール[144.21g/mol]から4-(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンカルボン酸[158.19g/mol]が得られたことがわかった。
【0080】
(実施例5)
反応溶液(1M水酸化カリウム、2 vol% エチレングリコール)3aに、AuPt(モル比4:1)金属粒子をKB600に担持させたカーボンクロス電極を作用極4として浸し、さらに、参照電極5であるAg/AgCl電極と、対極6であるチタン製のメッシュ電極も浸した。また、作用極4、参照電極5、および、対極6は、電圧制御装置の所定の端子に接続した。反応溶液3aは室温で撹拌を行いながら、作用極4に参照電極5に対して境界電圧として0.3Vの電圧を印加した。電圧印加後は瞬時に電流が発生するので、その電流値の推移を経時的にモニタし、酸化反応の状況を確認した。1時間反応後、反応溶液を1mLほどサンプリングし、陽イオン交換樹脂Amberlite IR120(H) (Sigma-Aldrich)を添加してサンプルの脱塩を行った。その後、シリンジフィルターでろ過し、質量分析装置(ESI-negativeモード)に付した。
【0081】
図8に、質量分析の結果を示す。m/z=75.1にメインピークとして脱プロトン化したグリコール酸[76.05g/mol]が検出された。これにより反応溶液3a中のエチレングリコール[62.09g/mol]からグリコール酸[76.05g/mol]が得られたことがわかった。
【0082】
(実施例6)
反応溶液(1M水酸化カリウム、2 vol% トリエチレングリコール)3aに、AuPt(モル比4:1)金属粒子をKB600に担持させたカーボンクロス電極を作用極4として浸し、さらに、参照電極5であるAg/AgCl電極と、対極6であるチタン製のメッシュ電極も浸した。また、作用極4、参照電極5、および、対極6は、電圧制御装置の所定の端子に接続した。反応溶液3aは室温で撹拌を行いながら、作用極4に参照電極5に対して境界電圧として0.5Vの電圧を印加した。電圧印加後は瞬時に電流が発生するので、その電流値の推移を経時的にモニタし、酸化反応の状況を確認した。1時間反応後、反応溶液を1mLほどサンプリングし、陽イオン交換樹脂Amberlite IR120(H) (Sigma-Aldrich)を添加してサンプルの脱塩を行った。その後、シリンジフィルターでろ過し、質量分析装置(ESI-negativeモード)に付した。
【0083】
図9に、質量分析の結果を示す。m/z=163.1にメインピークとして脱プロトン化した[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]酢酸[164.17g/mol]が検出された。これにより反応溶液3a中のトリエチレングリコール[150.17g/mol]から[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]酢酸[164.17g/mol]が得られたことがわかった。
【0084】
(実施例7)
反応溶液(1M水酸化カリウム、2 vol% テトラエチレングリコール)3aに、AuPt(モル比4:1)金属粒子をKB600に担持させたカーボンクロス電極を作用極4として浸し、さらに、参照電極5であるAg/AgCl電極と、対極6であるチタン製のメッシュ電極も浸した。また、作用極4、参照電極5、および、対極6は、電圧制御装置の所定の端子に接続した。反応溶液3aは室温で撹拌を行いながら、作用極4に参照電極5に対して境界電圧として0.5Vの電圧を印加した。電圧印加後は瞬時に電流が発生するので、その電流値の推移を経時的にモニタし、酸化反応の状況を確認した。1時間反応後、反応溶液を1mLほどサンプリングし、陽イオン交換樹脂Amberlite IR120(H) (Sigma-Aldrich)を添加してサンプルの脱塩を行った。その後、シリンジフィルターでろ過し、質量分析装置(ESI-negativeモード)に付した。
【0085】
図10に、質量分析の結果を示す。m/z=207.23にメインピークとして脱プロトン化した2-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]酢酸[208.23g/mol]が検出された。これにより反応溶液3a中のテトラエチレングリコール[194.23g/mol]から2-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]酢酸[208.23g/mol]が得られたことがわかった。
【0086】
(実施例8) 反応収率:エチレングリコール
反応溶液(1M水酸化カリウム、10mM エチレングリコール)3aに、AuPt(モル比4:1)金属粒子をKB600に担持させたカーボンクロス電極を作用極4として浸し、さらに、参照電極5であるAg/AgCl電極と、対極6であるチタン製のメッシュ電極も浸した。また、作用極4、参照電極5、および、対極6は、電圧制御装置の所定の端子に接続した。反応溶液3aは室温で撹拌を行いながら、作用極4に参照電極5に対して境界電圧として0.3Vの電圧を印加した。電圧印加後は瞬時に電流が発生するので、その電流値の推移を経時的にモニタし、酸化反応の状況を確認した。電流値がほぼ0Aになった時点で電極への電圧印加を停止し、反応溶液を1mLほどサンプリングして、陽イオン交換樹脂Amberlite IR120(H) (Sigma-Aldrich)を添加してサンプルの脱塩を行った。その後、シリンジフィルターでろ過し、HPLCによってエチレングリコール、および、その酸化によって生じたグリコール酸を定量した。
【0087】
カラム: Rezex ROA-Organic Acid, 300 x 7.8 mm (Phenomenex)
移動相: 0.005N 硫酸水溶液
流速: 0.5 mL/min
カラム温度: 60℃
検出: RI@40℃
【0088】
表1に、定量結果を示す。その結果、1つのヒドロキシ基がカルボキシル基に変換されたグリコール酸が収率70.9%(平均値)で合成できた。
【0089】
【0090】
(実施例10) 反応収率:1,3-プロパンジオール
反応溶液(0.558M水酸化ナトリウム、0.186M 1,3-プロパンジオール(PDO))3aに、AuPt(モル比4:1)金属粒子をKB600に担持させたカーボンペーパー電極を作用極4として浸し、さらに、参照電極5であるAg/AgCl電極と、対極6であるチタン製のメッシュ電極も浸した。また、作用4、参照電極5、および、対極6は、電圧制御装置の所定の端子に接続した。反応溶液3aは室温で撹拌を行いながら、作用極4に参照電極5に対して0.3Vの電圧を印加した。電圧印加後は瞬時に電流が発生するので、その電流値の推移を経時的にモニタし、酸化反応の状況を確認した。電流値がほぼ0Aになった時点で電極への電圧印加を停止した。反応溶液はシリンジフィルターでろ過しながらナスフラスコへ移し、エバポレーターを用いて60℃、15hPaで溶媒(水)を飛ばした後、析出した個体の一部をD2Oに溶解させて1H-NMRスペクトル解析を行った。1,3-プロパンジオール、および、その酸化によって生じた3-ヒドロキシ酸(3HP)の1Hスペクトルの積分値比より、3-ヒドロキシ酸を定量した。
【0091】
表2に、定量結果を示す。その結果、1つのヒドロキシ基がカルボキシル基に変換された3-ヒドロキシ酸が収率85.4%(平均値)で合成できた。
【0092】
【0093】
なお、本発明は、前記実施形態および実施例のものに限定されるものはなく、必要に応じて種々変更することが可能である。
【符号の説明】
【0094】
1 通電制御部2 通電時間制御部
3 反応容器
4 作用極
5 参照電極
6 対極