(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-12
(45)【発行日】2023-07-21
(54)【発明の名称】ガスセンサ及びアルカリ土類フェライトの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/12 20060101AFI20230713BHJP
【FI】
G01N27/12 B
G01N27/12 C
G01N27/12 M
(21)【出願番号】P 2019173525
(22)【出願日】2019-09-24
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松嶋 茂憲
(72)【発明者】
【氏名】小畑 賢次
(72)【発明者】
【氏名】井口 憲一
(72)【発明者】
【氏名】大田 由希子
(72)【発明者】
【氏名】永田 久和
(72)【発明者】
【氏名】浦野 幸一
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-083530(JP,A)
【文献】特表2008-515167(JP,A)
【文献】特開2017-043808(JP,A)
【文献】特開昭59-058349(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102923786(CN,A)
【文献】小畑 賢次 ほか,CaFe2O4厚膜型センサにおけるCO2ガス検知特性,Chemial Sensors,公益社団法人 電気化学会 化学センサ研究会,2019年09月05日,Vol.35, Supplement B (2019),pp.10-12
【文献】小畑 賢次 ほか,ランタノイドを添加したMgFe2O4のCOガス検知特性,Chemical Sensors,公益社団法人 電気化学会 化学センサ研究会,2019年09月05日,Vol.35, Supplement B (2019),pp.7-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に配置された第1電極及び第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極とに接続されたガス検出部と、を備え、
前記ガス検出部は、アルカリ土類フェライトの薄片状粒子を含む、ガスセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサであって、
前記ガス検出部は、前記薄片状粒子と、前記薄片状粒子間の隙間である空隙部分と、を有する、ガスセンサ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のガスセンサであって、
前記薄片状粒子の各々が三次元多孔質構造を有する、ガスセンサ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のガスセンサであって、
前記薄片状粒子の前記基材の平面方向における長さと厚さとの比率(長さ/厚さ)が1以上20以下である、ガスセンサ。
【請求項5】
請求項4に記載のガスセンサであって、
前記アルカリ土類フェライトがLa、Sm、Si、Ti、Hf及びZrからなる群から選択される少なくとも一つの異種元素を含有する、ガスセンサ。
【請求項6】
請求項5に記載のガスセンサであって、
前記異種元素の含有量が10モル%以下である、ガスセンサ。
【請求項7】
請求項6に記載のガスセンサであって、
前記異種元素の含有量が3モル%以上7モル%以下である、ガスセンサ。
【請求項8】
請求項4から7のいずれか1項に記載のガスセンサであって、
前記アルカリ土類フェライトがCaFe
2O
4である、ガスセンサ。
【請求項9】
請求項
5に記載のガスセンサであって、
前記異種元素がZrである、ガスセンサ。
【請求項10】
ガスセンサにおけるガス検出部を構成する
薄片状粒子を含むアルカリ土類フェライトの製造方法であって、
出発原料である複数種の金属イオンの混合溶液を作製する工程と、
前記混合溶液に有機酸を添加し、金属-有機酸錯体を含む前駆体溶液を調製する工程と、
前記前駆体溶液を蒸発乾固して前駆体を得る工程と、
前記前駆体に第1仮焼処理を行う工程と、
前記第1仮焼処理の後に、第2仮焼処理を行う工程と、
を有し、
前記第1仮焼処理は、300℃以上600℃以下で、10分以上120分以下で仮焼する処理であり、
前記第2仮焼処理は、600℃以上1400℃以下で、1時間以上24時間以下で仮焼する処理である、
アルカリ土類フェライトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサ及びガスセンサのガス検出部に適用されるアルカリ土類フェライトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オフィス内又は家庭内等の住環境、または、農業・バイオ関連分野等において、一酸化炭素、二酸化炭素又はNOx等の特定ガスを監視する需要が高まっている。これに伴い、これらの特定ガスを検出するガスセンサが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載されたようなガスセンサでは、ガスを検出するガス検出部として、酸化スズの微粒子を主成分とする半導体が用いられることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、酸化スズが単独で用いられたガスセンサでは、ガス検出感度が頭打ちになるため、例えば、CO2ガスを検出する場合には、酸化スズ微粒子の表面をCO2ガスとの反応性が高いとされるランタン(La)の酸化物(La2O3)で被覆するなどの処理を行って、所望のガスに対する検出感度を確保する必要があった。このように、特定ガスに対するガス検出能を発現し得る材料の模索が続けられている。
【0006】
そこで、本発明は、ガス検出材料の表面への処理などを行うことなく、所望のガスに対するガス検出能を発現し得る材料を用いたガスセンサの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ガスセンサのガス検出部を構成する半導体材料の粒子形状が、粒子自身のバルク抵抗と粒子間の粒界抵抗との間の抵抗変化に影響を与えることに着目し、これに基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の一態様としてのガスセンサは、基材と、前記基材上に配置された第1電極及び第2電極と、前記第1電極と前記第2電極とに接続されたガス検出部と、を備え、前記ガス検出部は、アルカリ土類フェライトの薄片状粒子を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るガスセンサによれば、ガス検出部に、アルカリ土類フェライトの薄片状粒子を用いることにより、隣接するアルカリ土類フェライトの薄片状粒子間における粒界抵抗が抑えられる。それゆえ、ガス検出部に薄片状粒子を用いた場合は、ガス検出部に微粒子を用いた場合に比べて、ガス検出部の内部抵抗が相対的に大きくなるので、ガスの吸着に伴う内部抵抗の変化が検出されやすくなる。したがって、ガス検出部に薄片状粒子を用いたガスセンサは、所望のガスに対するガス検出能を発現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る厚膜型のガスセンサのガス検出部の一部を切り欠いた平面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る管型のガスセンサを説明するための模式図である。
【
図3】
図1に示す領域Aの拡大を模式的に示した模式図である。
【
図5】一般的なガスセンサの要部を拡大して説明するための模式図である。
【
図6】ガスセンサの抵抗成分を説明するための模式図である。
【
図7】アルカリ土類フェライトにおいて、CO
2ガスが検出されるメカニズムを説明するための模式図である。
【
図8】アルカリ土類フェライトにおいて、COガスが検出されるメカニズムを説明するための模式図である。
【
図9】アルカリ土類フェライトにおいて、NO
2ガスが検出されるメカニズムを説明するための模式図である。
【
図10】薄片状粒子を用いたセンサ素子のCO
2ガス検出を説明するための模式図である。
【
図11】本実施形態に係る薄片状素子を有するガス検知部の製造方法を説明するための図である。
【
図12】ガスセンサの性能を評価するための評価回路を説明するための回路図である。
【
図13】供試体4(CaFe
2O
4)のSEM画像を示す図である。
【
図14】供試体5(Si添加CaFe
2O
4)を50000倍に拡大したSEM画像を示す図である。
【
図15】供試体6(Ti添加CaFe
2O
4)を50000倍に拡大したSEM画像を示す図である。
【
図16】供試体7(Zr添加CaFe
2O
4)を50000倍に拡大したSEM画像を示す図である。
【
図17】供試体8(Hf添加CaFe
2O
4)を50000倍に拡大したSEM画像を示す図である。
【
図18】供試体9(Zrを3モル%添加したCaFe
2O
4)を20000倍に拡大したSEM画像を示す図である。
【
図19】供試体10(Zrを5モル%添加したCaFe
2O
4)を20000倍に拡大したSEM画像を示す図である。
【
図20】供試体11(Zrを7モル%添加したCaFe
2O
4)を20000倍に拡大したSEM画像を示す図である。
【
図21】供試体12(Zrを10モル%添加したCaFe
2O
4)を20000倍に拡大したSEM画像を示す図である。
【
図22】供試体10の(Zrを5モル%添加したCaFe
2O
4)を1000倍に拡大したSEM画像を示す図である。
【
図23】供試体10の(Zrを5モル%添加したCaFe
2O
4)を2500倍に拡大したSEM画像を示す図である。
【
図24】供試体11及び12のSEM画像を示す図である。
【
図25】第2仮焼処理に相当する加熱時間を12時間とし、加熱温度を変化させたときに得られる供試体(13-16)の表面のSEM画像を示す図である。
【
図26】供試体1~3のガス検出性能を示す図である。
【
図27】供試体4~8のガス検出性能を示す図である。
【
図28】供試体9~12のガス検出性能を示す図である。
【
図29】供試体9と17のガス検出性能を示す図である。
【
図30】管型ガスセンサ及び厚膜型ガスセンサにおけるCO
2ガスの検出性能を示す図である。
【
図31】CaFe
2O
4のCO
2、CO及びNO
2に対する検出性能を示す図である。
【
図32】CaFe
2O
4のCO
2、CO及びNO
2に対する検出性能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[ガスセンサ]
<ガスセンサの構成>
本発明の実施形態に係るガスセンサ10の一例について、図面を用いて詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係るガスセンサ10のガス検出部14の一部を切り欠いた平面図である。
【0013】
図1に示すガスセンサ10は、基材11と、第1電極12と、第2電極13と、ガス検出部14とを有し、これらが平板状の基材11に形成された厚膜型センサである。
【0014】
基材11としては、絶縁性材料又は半絶縁性材料を用いることができる。絶縁性材料としては、アルミナ、二酸化ケイ素、ムライト、酸化マグネシウム或いはフォルステライト等の構造用セラミックス、又は、ガラス或いはサファイア等を用いることができる。また、半絶縁性材料としては、炭化ケイ素等を用いることができる。このほか、ガスセンサの基材として通常用いられる材料であれば、基材11として用いることができる。
【0015】
平板状の基材11を使用する場合には、基材11の厚さは、0.05mm以上1.0mm以下とすることができる。基材11としての強度の観点から、基材11の厚さは0.09mm以上であることが好ましい。また、放熱性の観点から、基材11の厚さは、1.0mm以下であることが好ましい。
【0016】
第1電極12及び第2電極13は、通常、電極或いはリード線として用いられる材料であれば用いることができる。導電性材料として、Cu、Al、Ag、Au、Pt、Ni、Cr又はSn等を好適に用いることができる。
【0017】
図1に示すような厚膜型に形成する場合には、第1電極12及び第2電極13は、それぞれ櫛歯状に形成することができる。そして、第1電極12及び第2電極13は、基材11の表面において、第1電極12を構成する櫛歯12aの各々の間に、第2電極13を構成する櫛歯13aの各々が交互に入り込んで配置されている。
【0018】
第1電極12及び第2電極13は、用いる金属元素に応じて、基材11の表面にスパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法又はレーザアブレーション法を用いたパターン成膜等によって形成することができる。また、第1電極12及び第2電極13は、基材11の表面に、電極用材料を印刷により形成することができる。また、このほか、ワイヤーボンディング等の接合方法を用いることもできる。
【0019】
厚膜型に形成する場合には、第1電極12及び第2電極13の厚さは、0.05μm以上20μm以下とすることができる。検出ガスに対する検出性能の観点から、1μm以上、コストの観点から10μm以下であることが好ましい。
【0020】
第1電極12の櫛歯12aと第2電極13の櫛歯13aの電極間距離は、80μm以上200μm以下であり、第1電極12の櫛歯12aと第2電極13の櫛歯13aの電極ライン幅L0と第1電極12の櫛歯12aと第2電極13の櫛歯13aとの間隔Sの比率(S/L0)は、0.27以上4.00以下とすることができる。センサ特性の観点から、0.80以上2.00以下であることが好ましい。
【0021】
ガス検出部14は、第1電極12と第2電極13とを電気的に接続するように配置されている。ガス検出部14は、検出対象のガス分子を電気的に吸着可能な材料から構成されており、ガス分子の存在を、ガス分子の吸着に伴う抵抗値の変化を利用して検出するものである。
【0022】
本実施形態においては、ガス検出部14を構成する材料として、アルカリ土類フェライトが用いられる。本実施形態においては、ガス検出部14は、ガス検出部14を構成するアルカリ土類フェライトをバインダを用いてペースト状にし、これをスクリーン印刷法等を用いて基材11に塗布することで製造することができる。なお、ペーストには、ガラス等の絶縁性材料が混合されていてもよい。
【0023】
図1に示すような厚膜型においては、ガス検出部14は、第1電極12及び第2電極13の櫛歯間を覆うようにして、所定の長さL1及び幅W1の領域に塗布形成することができる。
【0024】
厚膜型のガスセンサ10において、センサ特性が最も良好となると考えられるのは、薄片状粒子の厚み方向の重なりが少ない状態であって、かつ、第1電極12及び第2電極13間の導通が確保できている状態である。この点を考慮すると、ガス検出部14の厚さは、0.05μm以上10μm以下とすることができる。
【0025】
ガス検出部14は、
図1に示すように、第1電極12及び第2電極13に跨がって所定領域に塗布されていてもよいし、第1電極12と第2電極13との間にのみ塗布されていてもよい。なお、
図1には図示されていないが、基材11の表面に絶縁層が配置され、その絶縁層の表面に、第1電極12及び第2電極13が配置されていてもよい。
【0026】
ガスセンサ10の全体の寸法、長さL2及び幅W2は、ガスセンサ10の使用環境に応じたサイズに適宜設定することができる。
【0027】
また、本実施形態に係るガスセンサは、管型に構成することもできる。
【0028】
図2は、管型のガスセンサ50を説明する模式図である。
図2は、管型のガスセンサ50の構造を分かりやすくするために、一部が切り欠かれて描かれている。
【0029】
管型の場合には、基材51を、所定径を有する管状に形成し、管状の基材51に所定の間隔で電極52,53を接続し、さらに、その周囲にガス検出部を構成する材料層54を形成する。
【0030】
一例として、基材51としてアルミナチューブを用い、電極52,53として白金ワイヤを用いることができる。アルミナチューブに白金ワイヤを接続し、さらに、アルミナチューブ及び白金ワイヤの周囲にアルカリ土類フェライトからなる材料層54を塗布して、管型のガスセンサ50を作製することができる。
【0031】
なお、
図1及び
図2には示されていないが、ガスセンサ10は、ガスセンサ10を検出対象のガスの検出温度まで加熱するヒータとともに用いられる。このヒータは、ガスセンサ10の基材11に一体的に形成されてもよい。
【0032】
<ガス検出部の説明>
図3は、
図1に示す領域Aを拡大して模式的に示した模式図である。また、
図4は、
図1のIV-IV線における断面図である。
【0033】
ガス検出部14は、アルカリ土類フェライトの薄片状粒子から構成されている。本実施形態において、薄片状とは、広がりのある一面と、広がり方向に対して著しく小さい厚みを有する板状であることを表す。
図3に示すように、ガス検出部14は、アルカリ土類フェライトの薄片状粒子141が凝集したものである。薄片状粒子141の隙間には空隙部分142が形成されている。なお、
図3では、図面をわかりやすくするために、櫛歯12a及び櫛歯13aの上の薄片状粒子141の一部は省略されている。
【0034】
薄片状粒子141は、基材11の平面方向における薄片状粒子141の長さMと厚さDとの比率(M/D)は、1以上20以下とすることができる。また、薄片状粒子141の長さMは、M<(2L+2S)であることが好ましい。これは、一つの薄片状粒子141が3つ以上の櫛歯12a(又は13a)に跨がらないことを意味する。
【0035】
また、
図3及び
図4には図示されていないが、薄片状粒子141のそれぞれは、微細孔による空隙部分と連続部分とが厚み方向にも連続する三次元多孔質構造を有する。薄片状粒子141における微細孔の全容量は、80cm
3/g以上であって、微細孔の平均孔径が10nm以上100nm以下であることが好ましい。
【0036】
アルカリ土類金属のなかでは、調達コスト及び環境負荷が低いことなどから、Mg或いはCaを用いることが好ましい。また、ガス検出感度を高める観点から、Caを用いることがより好ましい。
【0037】
また、ガス検出感度を向上させる観点から、アルカリ土類フェライトは、La、Sm、Si、Ti、Hf及びZrを含む群から選択される少なくとも一つの異種元素を含有することが好ましい。また、上述の異種元素のなかでは、所望とする微細孔を得やすいことから、Zrを用いることが好ましい。
【0038】
さらに、薄片状粒子141の微細孔の全容量を80cm3/g以上、微細孔の平均孔径を10nm以上100nm以下にする観点から、異種元素の含有量は、0モル%超10モル%以下とすることができ、3モル%以上7モル%以下であることが好ましい。異種元素の含有量が10モル%を超えると、薄片状粒子141に微細孔が形成されにくくなる。
【0039】
すなわち、本実施形態においては、アルカリ土類フェライトとして、Zrを含有するカルシウムフェライト(CaFe2O4)を用いることにより、ガス検出感度が良好なガス検出部14を製造することができる。
【0040】
<作用効果>
本実施形態に係るガスセンサの検出性能について説明する。
図5は、一般的なガスセンサ100の要部を拡大して説明するための模式図である。また、
図6は、ガスセンサの抵抗成分を説明するための模式図である。
【0041】
図5には、基材110に、第1電極111及び第2電極112が配置され、第1電極111及び第2電極112に電気的に接続されたガス検出部113を備えたガスセンサ100が示されている。なお、
図5では、図面をわかりやすくするために、第1電極111及び第2電極112上の微細粒子114は省略されている。
【0042】
ガスセンサのガス検出部を構成するアルカリ土類フェライトの内部で発生する抵抗成分には、
図6に示す3つの成分がある。
(1)酸化物の微細粒子114の内部抵抗であるバルク抵抗:R
b、
(2)互いに接触する微細粒子114間における粒界抵抗R
gb、
(3)微細粒子114と第1電極111(又は第2電極112)との電極界面抵抗R
e
すなわち、ガス検出部の全抵抗(R
all)は、バルク抵抗(R
b)、粒界抵抗(R
gb)及び電極界面抵抗(R
e)の総和で表すことができる。
【0043】
図7は、アルカリ土類フェライトにおいて、CO
2ガスが検出されるメカニズムを説明するための模式図である。本実施形態に係るガスセンサ10において、例えば、検出対象のガスがCO
2のような酸性ガスの場合について説明する。CO
2は、ルイス酸性を示すことから、アルカリ土類フェライトの表面と強く相互作用を起こすと考えられる。特に、アルカリ土類フェライトとして、CaFe
2O
4を用いることにより、酸性ガスと強く相互作用を起こすガス検出部14を形成することができる。
【0044】
CO2を検出する場合、CaFe2O4の表面に負電荷吸着した酸素が関与していると考えられる。CaFe2O4は、p型半導体である。CO2は、アルカリ土類フェライトの表面に負電荷吸着した酸素(O-、O2-)と反応し、CO3
2-を形成する。これにより、ホール濃度が増加する。すなわち、電気抵抗が減少する。吸着酸素であるO-又はO2-とCO2との反応は、以下の式で表される。
O-+CO2+e-→CO3
2-
O2-+CO2→CO3
2-
【0045】
CaFe2O4は、p型半導体であるため、CO2に対しては、ホール濃度が増加する。このため、CO2ガスが吸着することにより、電気抵抗は減少する。
【0046】
ガス検出感度は、電気抵抗変化率(ΔR)あるいは電気抵抗比(S)で定義されるため、ガス吸着により電気抵抗が増大する場合よりも、電気抵抗が減少する方が電気信号として取り出し易い。したがって、ガスの検出感度を高めることができると考えられる。
【0047】
図8は、アルカリ土類フェライトのCOガスへの応答性を説明するための模式図である。COに対しては、
図8に示すように、COと負電荷吸着した酸素(O
-)との反応が、以下の式で表されるように、ホール濃度の減少をもたらすと考えられる。
M-O
-
ads+CO→CO
2+e
-
【0048】
CaFe2O4は、COに対しては、ホール濃度が減少するため、COが検出された場合には、ガス検出部14の抵抗値が増加する。
【0049】
図9は、アルカリ土類フェライトのNO
2ガスに対する応答性を説明するための模式図である。
図9に示すように、NO
2に対する応答では、アルカリ土類フェライト表面における格子間酸素(O
o)が関与していると考えられる。
【0050】
NO2に対しては、NO2と格子間酸素(Oo)とが反応し、以下の式で表されるように、ホール濃度が増加する。これにより、NO2が検出された場合には、ガス検出部14の抵抗値が低下する。
Oo+NO2+e-→NO3
-
【0051】
ガスの吸着により、CaFe2O4において、上述のような抵抗値変化が生じることにより、CO2、CO及びNO2等のガスを検出することができる。
【0052】
なお、電気抵抗変化率は、空気中における抵抗(Rair)に対する被検ガス中における抵抗(Rgas)の変化量が空気中における抵抗(Rair)に対してどの程度の比率になるかを表すものであり、ΔR=(Rair-Rgas)/Rairにより算出される。
【0053】
また、電気抵抗比(S)は、空気中における抵抗(Rair)に対する被検ガス中における抵抗(Rgas)の比を表すものであり、S=Rair/Rgasにより算出される。
【0054】
ガス検出感度を表すうえで、電気抵抗変化率(ΔR)及び電気抵抗比(S)は、互いに同等に扱うことができるが、通常、電気抵抗変化率(ΔR)が二桁以上になる場合には、電気抵抗比(S)を用いて表すことがある。本願の各図では電気抵抗比(S)を用いる。
【0055】
また、
図10は、薄片状粒子を用いたセンサ素子のCO
2ガス検出を説明するための模式図である。CO
2ガスにおける電気抵抗変化率(ΔR
CO2)は粒界抵抗R
gbとバルク抵抗(R
b)により算出できる。
【0056】
本実施形態に係るガスセンサ10では、
図3及び
図4に示すように、薄片状粒子141は、
図5に示された微細粒子114よりも粗大であるため、ガス検出部14では、薄片状粒子141同士の間の接触箇所は少ない。このため、薄片状粒子141からなるガス検出部14では、ガス検出部14の全抵抗R
all=バルク抵抗(R
b)+粒界抵抗(R
gb)、において、バルク抵抗(R
b)成分が支配的となる。
【0057】
したがって、一般的なガスセンサ100と本実施形態に係るガスセンサ10において、電極材料、電極ライン幅、電極厚み及び電極間距離を同一条件で作製した場合には、ガスセンサ10では、検出対象のガスの吸着時における抵抗変化に、アルカリ土類フェライトの電気抵抗変化(バルク抵抗)が現れやすくなると考えられる。
【0058】
[アルカリ土類フェライトの製造方法]
続いて、本実施形態に係るガスセンサ10のガス検出部14を構成するアルカリ土類フェライトの製造方法について説明する。
【0059】
本実施形態に係るアルカリ土類フェライトの製造方法は、出発原料である複数種の金属イオンの混合溶液を作製する工程と、得られた混合溶液に有機酸を添加し、金属-有機酸錯体を含む前駆体溶液を調製する工程と、前駆体溶液を蒸発乾固して前駆体を得る工程と、前駆体に第1仮焼処理を行う工程と、第1仮焼処理の後に、第2仮焼処理を行う工程とを有する。
【0060】
本実施形態において、第1仮焼処理は、300℃以上600℃以下で、10分以上120分以下で仮焼する処理であり、第2仮焼処理は、600℃以上1400℃以下で、1時間以上24時間以下で仮焼する処理である。なお、第2仮焼処理においては、有効温度範囲のうち下限温度側においては、処理時間を上限側に設定することが好ましく、有効温度範囲のうち上限温度側においては、処理時間を下限側に設定することが好ましい。例えば、600℃の場合には、処理時間は、20時間以上にすることが好ましい。
【0061】
アルカリ土類フェライトに異種元素を含有させる場合には、混合溶液に異種元素を金属塩又はアルコキシドの状態で添加する工程を有する。
【0062】
具体的には、アルカリ土類フェライトとしては、アルカリ土類フェライト(AFe2O4、A=Mg,Ca)を用いることができる。出発原料は、金属イオンを溶解できるものであればよく、硝酸マグネシウム(II)、硝酸カルシウム(II)及び硝酸鉄(III)等の硝酸塩のほか、炭酸塩、或いは金属酸化物であってもよい。
【0063】
MgFe2O4を作製する場合には、後述する溶媒中に、硝酸マグネシウム(II)と硝酸鉄(III)とを溶解させて混合溶液を作製する。
【0064】
一方、CaFe2O4を作製する場合には、溶媒中に、硝酸カルシウム(II)と硝酸鉄(III)を溶解させて混合溶液を作製する。本実施形態においては、出発原料である複数種の金属イオンの混合溶液の溶媒として、脱イオン水、又は、メタノール、エタノール、アセチルアセトン或いはエチレングリコール等の有機溶媒を用いることができる。
【0065】
最終的に得られるアルカリ土類フェライト粒子を薄片状かつ三次元多孔質構造とするには、エタノールを用いることが好ましい。
【0066】
上記のように得られた混合溶液に、金属イオンの総モル数と等量の有機酸を加える。有機酸としては、複数種の金属イオンと安定なキレート錯体を形成可能であればよく、リンゴ酸,マロン酸等を好適に用いることができる。後の工程を経て得られるアルカリ土類フェライトの粒子を薄片状かつ粗大化させる観点から、リンゴ酸を用いることが好ましい。
【0067】
アルカリ土類フェライトに異種元素を含有させる場合には、異種元素として、Sm,La,Si,Ti,Hf及びZrを含む群から少なくとも一つを選択することができる。
【0068】
これらの異種元素は、金属硝酸塩或いはアルコキシドの形態で上記混合溶液に混ぜ合わせることでアルカリ土類フェライトに導入可能である。
【0069】
Sm又はLaを添加する場合には、Sm又はLaの金属硝酸塩を用いることが好ましい。また、Si,Ti,Hf又はZrを添加する場合には、これらのアルコキシドを用いることが好ましい。一例として、ケイ素(Si)のアルコキシドとして、オルトケイ酸テトラエチル、チタン(Ti)のアルコキシドとして、チタンイソプロポキシド、ハフニウム(Hf)のアルコキシドとして、ハフニウムエトキシドを用いることができる。
【0070】
本実施形態においては、異種元素の添加量は、アルカリ土類フェライトの全モル数に対するモル分率で、異種元素が10モル%以下であることが好ましく、3モル%以上7モル%以下であることがより好ましい。
【0071】
得られた前駆体に、第1仮焼処理を行う。この第1仮焼処理は、反応系中の炭酸、硝酸、リンゴ酸、エタノール等の残留有機物を除去するための処理であり、第1仮焼処理の温度は、有機酸の熱分解温度を上回る温度とすることができる。この点から、本実施形態において、第1仮焼処理の温度は、300℃以上600℃以下で、10分以上120分以下とする。
【0072】
また、第1仮焼処理に続いて、第2仮焼処理を行う。第2仮焼処理では、高純度のアルカリ土類フェライトを得ること、また、アルカリ土類フェライトの表面に多孔質を形成する観点から、600℃以上1400℃以下で、1時間以上24時間以下で仮焼処理する。
【0073】
図11は、本実施形態に係るアルカリ土類フェライトの製造方法を説明するための図である。本実施形態においては、一例として、
図11に示すように、Ca及びFeの各硝酸塩1-a,1-bとZrのアルコキシド1-cからなる出発原料を、エタノールに化学量論比で溶解した溶液を混合溶液2とし、この混合溶液2にリンゴ酸3を加えて、異種元素としてZrを添加することにより、金属-リンゴ酸錯体4を調製する。次いで、溶液4を蒸発乾固して前駆固体5を製造する。
【0074】
本実施形態においては、金属-有機酸錯体を含む溶液4を80℃~120℃の温度で1時間保持し、脱水又は脱エタノールを行う。次に、180℃~220℃の温度で3時間保持する条件で加熱する。これにより、硝酸塩の熱分解を促進する。続いて、大気中で300℃~500℃の温度で30分間保持する条件で加熱処理し、残留有機物を除去する。さらに、得られた前駆固体5を粉末状に粉砕し、CaFe2O4粉体6を得る。
【0075】
以上の操作により、薄片状を呈し、100nm以下の三次元多孔質構造を有するCaFe2O4粉体を得ることができる。
【0076】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は、本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0077】
例えば、ガスセンサ10の基材11の形状は、
図1又は
図2に示すものに限定されない。また、櫛歯12a及び13aの形状、及び櫛歯からのリード部分の形状も
図1に示すものに限定されない。
【実施例】
【0078】
本発明の実施形態に係るガスセンサを作製し、作製したガスセンサのガス検出性能等を測定した。以下、供試体の作製方法及びその評価について説明する。
【0079】
[供試体の作製]
<アルカリ土類フェライトの作製>
(供試体1~8)
・供試体1:MgFe2O4の作製
出発原料として、硝酸マグネシウム(III)及び硝酸鉄(III)を用いた。脱イオン水に、これらの硝酸塩を溶解し、金属イオンの総モル数と等量のリンゴ酸を加え、金属-有機酸錯体溶液を準備した。この溶液を蒸発乾固することにより、前駆体粉体を得た。得られた前駆体粉体を空気中400℃で2時間の第1仮焼処理を行った。続いて、800℃で2時間の第2仮焼処理を行った。これにより、供試体のガス検出部に適用するMgFe2O4を得た。
【0080】
・供試体2:La添加MgFe2O4の作製
添加する異種金属の金属源として、ランタン(La)の硝酸塩を用いた。Laの添加量がMgFe2O4に対して5モル%になるように、硝酸ランタンを調製し、脱イオン水に、硝酸マグネシウム(III)、硝酸鉄(III)及び硝酸ランタンを溶解させた。ここに、金属イオンの総モル数と等量のリンゴ酸を加えて、金属-有機酸錯体溶液を作製した。供試体1と同じく溶液を蒸発乾固させて前駆体粉体を得た。また、供試体1と同じく仮焼処理を行って、La添加MgFe2O4を得た。
【0081】
・供試体3:Sm添加MgFe2O4の作製
添加する異種金属としてサマリウム(Sm)を用いた。Smの添加量がMgFe2O4に対して5モル%になるように硝酸サマリウムを調製し、供試体2と同じように金属-有機酸錯体溶液を作製した。以下、供試体1と同様にして、Sm添加MgFe2O4を得た。
【0082】
・供試体4:CaFe2O4の作製
出発原料として、硝酸カルシウム(III)及び硝酸鉄(III)を用い、400℃で2時間の第1仮焼処理し、続いて、700℃で12時間の第2仮焼処理を行ったこと以外は、供試体1と同様の操作により、供試体4のガス検出部に適用するCaFe2O4を得た。
【0083】
・供試体5:Si添加CaFe2O4の作製
添加する異種金属としてケイ素(Si)を用いた。Siの添加量がCaFe2O4に対して5モル%になるようにSiのアルコキシド(オルトケイ酸テトラエチル)を調製し、硝酸カルシウム(III)及び硝酸鉄(III)とともに混合した。第1仮焼処理及び第2仮焼処理の条件は、供試体4と同様にして、Si添加CaFe2O4を得た。
【0084】
・供試体6:Ti添加CaFe2O4の作製
添加する異種金属としてチタン(Ti)を用いた。Tiの添加量がCaFe2O4に対して5モル%になるようにTiのアルコキシド(チタンイソプロポキシド)を調製し、硝酸カルシウム(III)及び硝酸鉄(III)とともに混合した。第1仮焼処理及び第2仮焼処理の条件は、供試体4と同様にして、Ti添加CaFe2O4を得た。
【0085】
・供試体7:Zr添加CaFe2O4の作製
添加する異種金属としてジルコニウム(Zr)を用いた。Zrの添加量がCaFe2O4に対して5モル%になるようにZrのアルコキシドを調製し、硝酸カルシウム(III)及び硝酸鉄(III)とともに混合した。第1仮焼処理及び第2仮焼処理の条件は、供試体4と同様にして、Zr添加CaFe2O4を得た。
【0086】
・供試体8:Hf添加CaFe2O4の作製
添加する異種金属としてハフニウム(Hf)を用いた。Hrの添加量がCaFe2O4に対して5モル%になるようにHfのアルコキシド(ハフニウムエトキシド)を調製し、硝酸カルシウム(III)及び硝酸鉄(III)とともに混合した。第1仮焼処理及び第2仮焼処理の条件は、供試体4と同様にして、Hf添加CaFe2O4を得た。
【0087】
(供試体9~12)
続いて、Zrの添加量を変更することによるガス検出部の性能を評価するためのセンサ検出材料を作製した。以下の供試体を作製するにあたり、センサ検出材料の組成がCaFe2-xZrxO4となるように、Ca及びFeのそれぞれの硝酸塩と、Zrアルコキシドとを調製した。
【0088】
・供試体9:Zrを3モル%添加したCaFe2O4
本例では、出発原料として、硝酸カルシウム(II)四水和物(Ca(NO3)2・4H2O(純度99%))、硝酸鉄(III)九水和物(Fe(NO3)3・9H2O(純度99%))及びZrブトキシド(ジルコニウム(IV)ブトキシド(85%1-ブタノール溶液))を用いた。
これらについて、硝酸カルシウム、硝酸鉄、Zrアルコキシド及び有機酸(リンゴ酸)のモル比が1:2-0.06:0.06:3になるように各出発原料を調製し、それらを混合して金属-有機酸錯体溶液を得た。続いて、この溶液を蒸発乾固することにより、前駆体固体を得た。得られた前駆体固体を粉砕し、これを大気中において、700℃で12時間加熱処理することにより、組成式がCaFe1.84Zr0.06O4を得た。
【0089】
・供試体10:Zrを5モル%添加したCaFe2O4
硝酸カルシウム、硝酸鉄、Zrアルコキシド及び有機酸(リンゴ酸)のモル比が1:2-0.10:0.10:3になるように各出発原料を調製したこと以外は、供試体9と同様の処理を行って、組成式がCaFe1.90Zr0.10O4を得た。
【0090】
・供試体11:Zrを7モル%添加したCaFe2O4
硝酸カルシウム、硝酸鉄、Zrアルコキシド及び有機酸(リンゴ酸)のモル比が1:2-0.14:0.14:3になるように各出発原料を調製したこと以外は、供試体9と同様の処理を行って、組成式がCaFe1.86Zr0.14O4を得た。
【0091】
・供試体12:Zrを10モル%添加したCaFe2O4
硝酸カルシウム、硝酸鉄、Zrアルコキシド及び有機酸(リンゴ酸)のモル比が1:2-0.20:0.20:3になるように各出発原料を調製したこと以外は、供試体9と同様の処理を行って、組成式がCaFe1.80Zr0.20O4を得た。
【0092】
(供試体13~17)
・供試体13:Zrを5モル%添加したCaFe2O4
600℃で12時間加熱処理したとしたこと以外は、供試体10と同様の処理を行った。
【0093】
・供試体14:Zrを5モル%添加したCaFe2O4
700℃で12時間加熱処理したものである。すなわち、供試体10と同一品である。
【0094】
・供試体15:Zrを5モル%添加したCaFe2O4
800℃で12時間加熱処理したとしたこと以外は、供試体10と同様の処理を行った。
【0095】
・供試体16:Zrを5モル%添加したCaFe2O4
900℃で12時間加熱処理したとしたこと以外は、供試体10と同様の処理を行った。
【0096】
・供試体17:固相反応法によるCaFe2O4
供試体17は、固相反応法を用いてCaFe2O4を作製した。出発原料からなる複数種の原料粉体(CaCO3、α-Fe2O3)を所定量秤量し混合した。CaCO3として純度99%のもの、また、α-Fe2O3として純度99%のものを用いた。これらを機械的に粉砕混合した後、大気中において700℃から900℃で12時間加熱処理して、CaFe2O4の粉体を得た。
【0097】
(供試体18~20)
・供試体18:CaFe2O4を用いた管型のガスセンサ
供試体4の材料を用いて、後述の管型のガスセンサを作製した。
【0098】
・供試体19:CaFe2O4を用いた厚膜型のガスセンサ
供試体4の材料を用いて、後述の厚膜型のガスセンサを作製した。
【0099】
・供試体20:Zrを5モル%添加したCaFe2O4を用いた厚膜型のガスセンサ
供試体10の材料を用いて、後述の厚膜型のガスセンサを作製した。
【0100】
<ガスセンサの作製1>
基材として、アルミナチューブを用い、電極材料として白金(Pt)を用いて、
図2に示した管型のガスセンサを作製した。直径3.0mmのアルミナチューブを用いて、電極52,53の間隔を1.0mmに設定した。
【0101】
また、5質量%エチルセルロース-α-テルピネオールをバインダとして、供試体1~8のMgFe2O4又はCaFe2O4のペーストを作製し、得られたペーストをアルミナチューブに塗布し、600℃で2時間乾燥させた。
【0102】
<ガスセンサの作製2>
基材として、アルミナ基板を用い、電極材料として金(Au)を用いて、
図1に示した厚膜型のガスセンサを作製した。
【0103】
第1電極12の櫛歯12a及び第2電極13の櫛歯13aの間隔Sを80μmに設定し、第1電極12の櫛歯12a及び第2電極13の櫛歯13aの電極ライン幅L0を100μmに設定した。また、第1電極12及び第2電極13の櫛歯の数を、ともに17本とした。すなわち、櫛歯の数は、合計34本であり、櫛歯12aと櫛歯13aとの間の数は33箇所であった。
【0104】
塗布の後、150℃で10分間乾燥させた後、600℃で2時間の熱処理を行って、供試体としてのガスセンサを得た。
【0105】
<評価回路>
図12は、ガスセンサの検出性能を評価するための評価回路を説明するための回路図である。得られたガスセンサと外部抵抗とを直列接続した回路に対して、所定電圧を印加したときのガスセンサが有する抵抗値の変化を測定した。
【0106】
[ガスセンサの評価]
<CaFe
2O
4の表面形態>
得られた供試体1から17の一部について、走査型電子顕微鏡(SEM)「JEOL社製、機種名:JSM-6700F」を用いて、表面形態を観察した。これらの結果を
図13から
図25に示す。
【0107】
<ガス検出性能評価>
(CO
2)
検出対象のガスとして、合成乾燥空気或いは合成乾燥空気希釈のCO
2(ガス濃度:5000ppm)を用いて、ガスセンサのCO
2検出性能を評価した。供試体のガスセンサに、このCO
2を0.10dm
3/minの流量にて流通させながら、それぞれの抵抗値の変化を測定した。なお、検出温度は、250℃~500℃に設定した。合成乾燥空気中にあるときのガスセンサの電気抵抗(R
air)と、検出対象のガスであるCO
2を含んだ合成乾燥空気中に曝されたときのガスセンサの電気抵抗(R
gas)とを測定し、これらの比(R
air/R
gas)である電気抵抗比(S)をガス検出感度とした。結果を
図26~
図30に示す。
【0108】
(CO)
検出対象のガスとして、一酸化炭素CO(ガス濃度:500ppm)を用いたこと以外は、CO
2の評価と同様にして、CO検出性能を評価した。以上の結果を
図31~
図32に示す。
【0109】
(NO2)
検出対象のガスとして、二酸化窒素NO2(ガス濃度:10ppm)を用いたこと以外は、CO2の評価と同様にして、NO2検出性能を評価した。
【0110】
[評価結果]
<CaFe
2O
4の表面形態>
図13は、供試体4(CaFe
2O
4)のSEM画像を示す図である。
図14は、供試体5(Si添加CaFe
2O
4)のSEM画像を示す図である。
図15は、供試体6(Ti添加CaFe
2O
4)のSEM画像を示す図である。
図16は、供試体7(Zr添加CaFe
2O
4)のSEM画像を示す図である。
図17は、供試体8(Hf添加CaFe
2O
4)のSEM画像を示す図である。
【0111】
図13から
図17に示されるSEM画像から、CaFe
2O
4が多孔質構造であることがわかった。また、CaFe
2O
4に異種元素として、Si,Ti,Zr,Hfを混合することにより表面構造が細やかになることがわかった。特に、Ti及びHfを添加した場合には、CaFe2O4の表面を微細化することができ、Si及びZrを添加した場合には、CaFe
2O
4の表面において、三次元多孔質構造が進行することがわかった。
【0112】
上記供試体のなかでも、Zrを添加した場合に良好な三次元多孔質構造が確認できたことから、CaFe2O4へのZrの添加量を変えて、表面形態を観察した。
【0113】
図18は、供試体9(Zrを3モル%添加したCaFe
2O
4)を20000倍に拡大したSEM画像を示す図である。
図19は、供試体10(Zrを5モル%添加したCaFe
2O
4)を20000倍に拡大したSEM画像を示す図である。
図20は、供試体11(Zrを7モル%添加したCaFe
2O
4)を20000倍に拡大したSEM画像を示す図である。
図21は、供試体12(Zrを10モル%添加したCaFe
2O
4)を20000倍に拡大したSEM画像を示す図である。
【0114】
図18に示すように、3モル%のZrを添加した場合には、表面に孔径100nm以下の微細孔を確認することができた。また、
図19に示すように、5モル%のZrを添加した場合には、表面の微細孔が増加しており、比表面積が増大していることを確認することができた。
【0115】
図20及び
図21に示すように、7モル%のZrを添加した場合、さらには10モル%のZrを添加した場合には、供試体11及び12の表面の三次元多孔質構造における開孔数が、5モル%のときと比べて減少する傾向にあることがわかった。このことから、Zrの添加により、CaFe
2O
4の表面の三次元多孔質構造を進行させることができるものの、添加量には適量があり、多すぎると三次元多孔質構造が退行することがわかった。
【0116】
図22は、供試体10(Zrを5モル%添加したCaFe
2O
4)の1000倍SEM画像を示す図である。また、
図23は、供試体10の(Zrを5モル%添加したCaFe
2O
4)の2500倍SEM画像を示す図である。
【0117】
図22及び
図23によれば、Zrを5モル%添加したCaFe
2O
4では、CaFe
2O
4の粒子は薄片状を呈し、全体の構造は、薄片状粒子間に空隙部分を有する構造となっており、さらに微視的には、薄片状粒子の各々が三次元多孔質構造を有することがわかった。
【0118】
図23からは、薄片状粒子の平面方向における長さが39μm程度であることが実測できる。
【0119】
図24は、供試体17のSEM画像を示す図である。固相反応法にて得られたCaFe
2O
4では、CaFe
2O
4自体の微細化は進行していたものの、CaFe
2O
4の表面に三次元多孔質構造を確認することはできなかった。
【0120】
図25(a)は、第2仮焼処理に相当する加熱時間を12時間とし、加熱温度を600℃として得られた供試体13の表面のSEM画像であり、
図25(b)は、第2仮焼処理に相当する加熱時間を12時間とし、加熱温度を700℃として得られた供試体14の表面のSEM画像であり、
図25(c)は、第2仮焼処理に相当する加熱時間を12時間とし、加熱温度を800℃として得られた供試体15の表面のSEM画像であり、
図25(d)は、第2仮焼処理に相当する加熱時間を12時間とし、加熱温度を900℃として得られた供試体16の表面のSEM画像である。
【0121】
これらの結果から、第2仮焼処理の加熱温度が600℃の場合には、三次元多孔質構造が確認できなかったが、加熱温度が高められるに連れて、三次元多孔質構造が細密化する。このことから、第2仮焼処理の加熱温度は700℃以上であることが好ましいことがわかった。
【0122】
<ガス検出性能評価の結果>
供試体1~3のMgFe
2O
4系センサと、供試体4~8のCaFe
2O
4系センサについて、ガス検出性能を評価した。
図26は、供試体1~3のガス検出性能を示す図である。ガス検出性能は、上述の電気抵抗比(S)により評価した。なお、評価試験には、厚膜型のガスセンサを使用した。
【0123】
図26は、異種元素が無添加(MgFe
2O
4)である供試体1、Laを5モル%添加した供試体2、Smを5モル%添加した供試体3のそれぞれを用いて作製したガスセンサの、各温度におけるCO
2ガス感度を示している。n型半導体であるMgFe
2O
4の場合、CO
2ガスが吸着すると、電子濃度が低下するため、ガス吸着後は抵抗が増大する。即ち、S<1と算出される。
【0124】
図26に示されるように、La及びSmを添加したMgFe
2O
4センサは、無添加のものと比べて、より低温側でCO
2を検出することができることがわかった。また、Laを添加したMgFe
2O
4が500℃において最大感度を示した。MgFe
2O
4センサでは、異種元素を添加することによって、CO
2ガス感度を示すことが確認できた。
【0125】
図27は、供試体4~8のガス検出性能を示す図である。ガス検出性能は、電気抵抗比(S)により評価した。なお、評価試験には、管型のガスセンサを使用した。
【0126】
図27は、各金属元素を添加したCaFe
2O
4の供試体のそれぞれを用いて作製したガスセンサの、各温度におけるCO
2ガス感度を示している。p型半導体であるCaFe
2O
4の場合、CO
2ガスが吸着すると、ホール濃度が増加するため、ガス吸着後は電気抵抗が減少する。即ち、S>1として算出される。
【0127】
図27に示されるように、Hf,Zrを添加したCaFe
2O
4センサは、高いCO
2感度を示し、特に、測定温度300℃~350℃において、最大感度を示した。Zrを添加したCaFe
2O
4センサ素子では、概ね350℃において、迅速な応答性が得られることがわかった。
【0128】
図27に示した性能評価に基づいて、各金属元素のなかからZrを用いた場合について、Zrの添加量を変更することによるガス検出部の性能を評価した。被検ガスとしては、CO
2を用いた。ガス検出性能は、電気抵抗比(S)により評価した。なお、評価試験には、管型のガスセンサを使用した。結果を
図28に示す。
【0129】
図28に示されるように、Zrを添加したCaFe
2O
4センサでは、Zrの添加量が5モル%のときに、最も良好なCO
2感度を示し、特に、測定温度300℃~350℃において、最大感度を示した。
【0130】
さらに、固相反応法によって作製された供試体17と、Zrを5モル%添加したCaFe
2O
4である供試体9とについて、ガス検出性能を評価した。被検ガスとしてCO
2を用いて、ガス検出性能は、電気抵抗比(S)により評価した。なお、評価試験には、管型のガスセンサを使用した。結果を
図29に示す。
【0131】
図29は、供試体9と供試体17のガス検出性能を示す図である。
図29に示されるように、Zrを添加したCaFe
2O
4センサは、CO
2に対して感度を示し、固相反応法によって作製された供試体17を用いたCaFe
2O
4センサに比べて、CO
2感度が良好であることがわかった。
【0132】
図22、
図23及び
図24を用いて説明したように、Zrを5モル%添加したCaFe
2O
4では、CaFe
2O
4の粒子は薄片状を呈し、全体の構造は、薄片状粒子間に空隙部分を有する構造となっている。さらに、微視的には、CaFe
2O
4の薄片状粒子の各々が三次元多孔質構造を有する。Zrを5モル%添加したCaFe
2O
4は、このような構造を有することにより、CO
2に対して感度を示し、さらには、固相反応法によって作製された供試体17を用いたCaFe
2O
4センサに比べて、CO
2感度が良好であることがわかった。
【0133】
続いて、管型のガスセンサと、厚膜型のガスセンサにおけるCO
2ガスの検出性能の違いを評価した。
図30は、管型ガスセンサ及び厚膜型ガスセンサにおけるCO
2ガスの検出性能を示す図である。
【0134】
CaFe2O4をガス検出部として用いた管型のガスセンサ(供試体18)と、CaFe2O4をガス検出部として用いた厚膜型のガスセンサ(供試体19)と、Zrを5モル%添加したCaFe2O4をガス検出部として用いた厚膜型のガスセンサ(供試体20)のそれぞれについて、被検ガスとしてCO2を用いて、電気抵抗比(S)を評価した。
【0135】
図30には、管型のガスセンサに比べて、厚膜型のガスセンサの方が、CO
2ガスの検出感度が良好であることが示されている。したがって、ガスセンサを厚膜型に構成することにより、被検ガスの検出性能を、さらに向上させることができる。
【0136】
以上によれば、薄片状粒子を含む抵抗体材料を用いて作製されたガス検出部を用いることにより、検出対象のガスの吸着時における抵抗変化に、アルカリ土類フェライトの電気抵抗変化(バルク抵抗)が現れやすくなるため、ガス検出感度が良好になると考えられる。
【0137】
このことから、薄片状粒子と厚膜型のガスセンサと組み合わせることにより、薄片状粒子であることの優位性を高めることができるため、ガス検出感度を、さらに良好にすることができる。
【0138】
続いて、CO2以外のガスに対する検出性能を評価した結果について説明する。
【0139】
供試体20のガスセンサ、すなわち、Zrを5モル%添加したCaFe2O4を含む抵抗体材料から作製したガス検出部を有する厚膜型のガスセンサを用いて、CO2のほか、CO及びNO2に対する検出性能について評価した。
【0140】
図31及び
図32は、CO
2、CO及びNO
2に対する検出性能を示す図である。
図31及び
図32によれば、CO
2に対しては、電気抵抗比(S)は、350℃近傍をピークとして、少なくとも200℃~500℃の温度範囲において、1よりも大きい値に増加するように変化している。これは、
図7を用いて説明したように、CaFe
2O
4がp型半導体であり、CO
2の吸着に対して、ホール濃度が増加するため、CO
2の吸着によってCaFe
2O
4の電気抵抗が減少するものである。
【0141】
このことから、アルカリ土類フェライトとして、CaFe
2O
4を用いた場合には、概ね200℃~500℃の温度範囲において、CO
2を検出可能であることが認められる。なお、CO
2検出性能を示すことは、既に、
図26~
図30を用いて説明したことからも明らかである。
【0142】
また、COに対しては、電気抵抗比(S)は、250℃をピークとして、少なくとも200℃以下~400℃の温度範囲において、1よりも減少する方向に変化している。これは、
図8を用いて説明したように、COの吸着に対して、CaFe
2O
4のホール濃度が減少するため、COの吸着によってCaFe
2O
4の電気抵抗が増加するものである。
【0143】
一方、NO
2に対しては、電気抵抗比(S)は、200℃をピークとして、概ね450℃以下の温度範囲において、1よりも増加する方向に変化している。これは、
図9を用いて説明したように、NO
2の吸着に対して、CaFe
2O
4のホール濃度が増加するため、NO
2の吸着によってCaFe
2O
4の電気抵抗が減少するものである。
【0144】
以上のことから、実施例として示すガスセンサによれば、CO2のほか、CO、NO2に対しても検出性能を有することがわかった。
【符号の説明】
【0145】
10,50 ガスセンサ
11,51 基材
12,52 第1電極
12a 櫛歯
13,53 第2電極
13a 櫛歯
14 ガス検出部
54 材料層
141 薄片状粒子
142 空隙部分