(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-12
(45)【発行日】2023-07-21
(54)【発明の名称】計測機器用の超音波振動子
(51)【国際特許分類】
H04R 17/00 20060101AFI20230713BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20230713BHJP
【FI】
H04R17/00 330K
H04R17/00 330G
H10N30/20
(21)【出願番号】P 2022118435
(22)【出願日】2022-07-26
【審査請求日】2022-12-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000243364
【氏名又は名称】本多電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】流田 賢治
【審査官】渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-244691(JP,A)
【文献】特開昭63-181676(JP,A)
【文献】特開平08-140984(JP,A)
【文献】特開2006-319592(JP,A)
【文献】特開昭64-043783(JP,A)
【文献】特開平03-224400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 1/72- 1/82
G01S 3/80- 3/86
G01S 5/18- 5/30
G01S 7/52- 7/64
G01S 15/00-15/96
H10N 30/00-39/00
H04R 1/00- 1/02
H04R 1/06
H04R 1/20- 1/34
H04R 1/40
H04R 1/44
H04R 3/00
H04R 9/00
H04R 13/00
H04R 15/00
H04R 17/00-17/02
H04R 17/10
H04R 19/00
H04R 23/00
H04R 29/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送受信する計測機器用の超音波振動子であって、
支持体を有する筐体容器と、
略円形状の外形を有し、前記支持体に支持された圧電素子と
を備え、
前記圧電素子は、中央部にて互いに連通しかつ放射状に延びる複数の溝部により分割された複数の略扇状の振動部
と、隣接する複数の前記振動部同士を互いに接合固定すべく、複数の前記溝部を埋めるようにして配置された両面テープ付きの防音材シートと、を含んで構成され、
前記圧電素子は、第1の周波数帯で厚さ方向に振動するとともに、前記第1の周波数帯よりも低い第2の周波数帯で半径方向に振動する
ことを特徴とする計測機器用の超音波振動子。
【請求項2】
複数の前記振動部は、前記圧電素子の中心軸線に直交する面に対し、ともに等しい傾斜角度をなす状態で、互いに接合固定されていることを特徴とする請求項
1に記載の計測機器用の超音波振動子。
【請求項3】
前記支持体は、平坦な面形状を有する支持板であることを特徴とする請求項
1に記載の計測機器用の超音波振動子。
【請求項4】
超音波を送受信する計測機器用の超音波振動子であって、
支持体を有する筐体容器と、
略円形状の外形を有し、前記支持体に支持された圧電素子と
を備え、
前記支持体は、多角錐または多角錐台の角錐面に相当する面形状を有するとともに、外面側に全体的に凸または凹である支持板であり、
前記圧電素子は、中央部にて互いに連通しかつ放射状に延びる複数の溝部により分割された複数の略扇状の振動部を含んで構成され、
前記圧電素子は、第1の周波数帯で厚さ方向に振動するとともに、前記第1の周波数帯よりも低い第2の周波数帯で半径方向に振動する
ことを特徴とする計測機器用の超音波振動子。
【請求項5】
超音波を送受信する計測機器用の超音波振動子であって、
支持体を有する筐体容器と、
略円形状の外形を有し、前記支持体に支持された圧電素子と
を備え、
前記支持体は、多角錐または多角錐台の角錐面に相当する面形状を有するとともに、外面側に全体的に凸または凹である支持板であり、
前記圧電素子は、中央部にて互いに連通しかつ放射状に延びる複数の溝部により分割された複数の略扇状の振動部と、隣接する複数の前記振動部同士を互いに接合固定すべく、複数の前記溝部を埋めるようにして配置された両面テープ付きの防音材シートと、を含んで構成され、
前記圧電素子は、第1の周波数帯で厚さ方向に振動するとともに、前記第1の周波数帯よりも低い第2の周波数帯で半径方向に振動する
ことを特徴とする計測機器用の超音波振動子。
【請求項6】
前記圧電素子は、n分割(ただしnは8以上)された複数の前記振動部を含んで構成されていることを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の計測機器用の超音波振動子。
【請求項7】
前記圧電素子は、n分割(ただしnは8以上)された複数の前記振動部を含んで構成されているとともに、複数の前記振動部は
、前記支持板におけるn角錐またはn角錐台
の角錐面を構成するn個の構成面にそれぞれ支持されていることを特徴とする請求項
4または5に記載の計測機器用の超音波振動子。
【請求項8】
前記振動部の厚さは前記振動部の幅よりも大きく、前記振動部の前記半径方向の長さは前記振動部の厚さの3倍以上であることを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の計測機器用の超音波振動子。
【請求項9】
前記振動部は、前記圧電素子の中央部側に配置されかつ面取りされた形状の鋭角部を有することを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の計測機器用の超音波振動子。
【請求項10】
前記支持体は、前記筐体容器の前面側に位置する支持板であり、
複数の前記振動部は、超音波放射面である第1面及びその反対側にある第2面を有するとともに、前記第1面は、音響整合層を介して前記支持板の内面側に接合されている
ことを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の計測機器用の超音波振動子。
【請求項11】
前記支持体は、前記筐体容器の後面側に位置する支持板であり、
複数の前記振動部は、超音波放射面である第1面及びその反対側にある第2面を有するとともに、前記第2面は、バック材を介して前記支持板の内面側に接合され、前記第1面は、充填材でモールドされている
ことを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の計測機器用の超音波振動子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を送受信する計測機器用の超音波振動子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波の送受信によって水中の魚群などを探知する魚群探知機がよく知られている。この種の魚群探知機では、超音波振動子を用いて超音波の送受信を行うことにより、水中の様子が探知できるようになっている。そして、水中の探知結果は画像として画面に表示される。
【0003】
ところで、魚群探知機用の超音波振動子は、通常、円板状や円環状の圧電素子を用いており、厚さ方向振動で例えば200kHz、半径方向振動で例えば50kHz、といったように、2種類の周波数の超音波を一つの振動子で送受するように設計される。しかし、この種の圧電素子は、それぞれの超音波の周波数帯域が狭い。近年、同様の魚群探知機を搭載した船舶が増加しているため、他の船舶との混信が生じやすくなってきている。混信を避けるためには、付近の船舶が使用している駆動周波数を外して超音波を送受信すればよいが、周波数帯域が狭い場合には、変更できる周波数の選択肢が少なくなってしまう。このため、超音波の周波数帯域が広い超音波振動子を用いることが求められている。
【0004】
なお、超音波を広帯域にする手法としては、
図18、
図19に示されるように、超音波振動子191を構成する圧電素子192に、同一方向に延びる複数の溝部193を形成し、溝部193を介して複数の振動部194を配設することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このようにすれば、各振動部194が圧電素子192の厚さ方向に変形しやすくなる。その結果、圧電素子192が全域にわたり厚さ方向に振動しやすくなるため、電気機械結合係数が高くなり、周波数帯域も広くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-213666号公報(段落[0023]、
図1,
図3,
図4A等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1は、圧電素子192を主として厚さ方向に振動しやすくする技術であるため、超音波の送受信に適した周波数帯域が十分に得られているとは言い難い。ゆえに、超音波の周波数帯域をより広くすることが求められている。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、超音波の送受信に適した周波数帯域を広げることが可能な計測機器用の超音波振動子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、超音波を送受信する計測機器用の超音波振動子であって、支持体を有する筐体容器と、略円形状の外形を有し、前記支持体に支持された圧電素子とを備え、前記圧電素子は、中央部にて互いに連通しかつ放射状に延びる複数の溝部により分割された複数の略扇状の振動部と、隣接する複数の前記振動部同士を互いに接合固定すべく、複数の前記溝部を埋めるようにして配置された両面テープ付きの防音材シートと、を含んで構成され、前記圧電素子は、第1の周波数帯で厚さ方向に振動するとともに、前記第1の周波数帯よりも低い第2の周波数帯で半径方向に振動することを特徴とする計測機器用の超音波振動子をその要旨とする。
【0009】
従って、請求項1に記載の発明によれば、圧電素子が溝部により分割された複数の振動部を含んで構成されるため、各振動部が厚さ方向に変形しやすくなる。その結果、圧電素子が全域にわたり厚さ方向に振動し、電気機械結合係数が高くなる。このため、厚さ方向振動の周波数帯である第1の周波数帯の送受感度が高くなり、第1の周波数帯の範囲も広くなる。また、圧電素子を構成する各振動部は略扇状であるため、半径方向振動の共振周波数で駆動したときに、振動部における中央部側の端部、即ち、略円形状の超音波振動子の中央部が大きい振幅で振動する。その結果、振動部の半径方向振動の周波数帯である第2の周波数帯の送受感度が高くなる。以上のことから、厚さ方向振動及び半径方向振動の双方において、高感度で送受信を行うことができる。
【0010】
なお、「略円形状の外形」を有する圧電素子には、円形状の外形を有する圧電素子だけでなく、楕円形状の外形を有する圧電素子や、長円形状の外形を有する圧電素子などが含まれる。
【0011】
前記圧電素子は、複数の前記振動部と、隣接する複数の前記振動部同士を互いに接合固定すべく、複数の前記溝部を埋めるようにして配置された両面テープ付きの防音材シート固定部材と、を含んで構成されている。従って、各振動部をそれぞれ正しく位置決めされた状態で互いに接合固定することができるとともに、圧電素子全体の機械的強度を向上させることができる。
【0012】
また、防音材シートの両面テープは振動部側面に対して貼着可能なため、これを用いた場合には、各振動部をそれぞれ正しく位置決めした状態で、確実にかつ比較的簡単に互いを接合固定することができる。さらにこの場合、複数の前記振動部は、前記圧電素子の中心軸線に直交する面に対し、ともに等しい傾斜角度をなす状態で、互いに接合固定されていてもよい(請求項2)。
【0013】
前記支持体は、平坦な面形状を有する支持板であってもよいが(請求項3)、平坦ではなく、全体的に凸または凹であって傾斜のある面形状を有する支持板であってもよい。この構成によると、平坦な面形状を有する支持板に圧電素子を支持させた場合とは異なる指向角を設定することができる。なお、前記支持体は、板状以外の形状(例えば棒状や突起状など)であってもよい。
【0014】
上記課題を解決するために、請求項4に記載の発明は、超音波を送受信する計測機器用の超音波振動子であって、支持体を有する筐体容器と、略円形状の外形を有し、前記支持体に支持された圧電素子とを備え、前記支持体は、多角錐または多角錐台の角錐面に相当する面形状を有するとともに、外面側に全体的に凸または凹である支持板であり、前記圧電素子は、中央部にて互いに連通しかつ放射状に延びる複数の溝部により分割された複数の略扇状の振動部を含んで構成され、前記圧電素子は、第1の周波数帯で厚さ方向に振動するとともに、前記第1の周波数帯よりも低い第2の周波数帯で半径方向に振動することを特徴とする計測機器用の超音波振動子をその要旨とする。
また、請求項5に記載の発明は、超音波を送受信する計測機器用の超音波振動子であって、支持体を有する筐体容器と、略円形状の外形を有し、前記支持体に支持された圧電素子とを備え、前記支持体は、多角錐または多角錐台の角錐面に相当する面形状を有するとともに、外面側に全体的に凸または凹である支持板であり、前記圧電素子は、中央部にて互いに連通しかつ放射状に延びる複数の溝部により分割された複数の略扇状の振動部と、隣接する複数の前記振動部同士を互いに接合固定すべく、複数の前記溝部を埋めるようにして配置された両面テープ付きの防音材シートと、を含んで構成され、前記圧電素子は、第1の周波数帯で厚さ方向に振動するとともに、前記第1の周波数帯よりも低い第2の周波数帯で半径方向に振動することを特徴とする計測機器用の超音波振動子をその要旨とする。
上記発明において、多角錐または多角錐台の角錐面に相当する面形状を有するとともに、前記支持板の外面側に全体的に凸である支持板であると、各振動部を所望角度に保持した状態で支持板に安定的に支持できるとともに、平坦な面形状を有する支持板に圧電素子を支持させた場合に比べて、指向角を広くすることができる。あるいは、多角錐または多角錐台の角錐面に相当する面形状を有するとともに、前記支持板の外面側に全体的に凹である支持板であると、各振動部を所望角度に保持した状態で支持板に安定的に支持できるとともに、平坦な面形状を有する支持板に圧電素子を支持させた場合に比べて、指向角を狭くすることができる。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれか1項において、前記圧電素子は、n分割(ただしnは8以上)された複数の前記振動部を含んで構成されていることをその要旨とする。従って、請求項6に記載の発明によると、各振動部の幅が小さくなるため、各振動部が厚さ方向に振動しやすい形状となる。つまり、圧電素子が厚さ方向に振動しやすい形状となることで、電気機械結合係数を高くすることができ、厚さ方向振動の周波数帯である第1の周波数帯の感度を高め、帯域を広くすることができる。
【0016】
また、支持板が多角錐または多角錐台の角錐面に相当する面形状を有するとともに、支持板の外面側に全体的に凸または凹である場合、複数の前記振動部は、n角錐またはn角錐台における角錐面を構成するn個の構成面にそれぞれ支持されていてもよい(請求項7)。この構成であると、n分割された複数の振動部を所望角度に保持した状態で支持板に安定的に支持することができる。
【0017】
請求項8に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれか1項において、前記振動部の厚さは前記振動部の幅よりも大きく、前記振動部の前記半径方向の長さは前記振動部の厚さの3倍以上であることをその要旨とする。従って、請求項8に記載の発明によると、振動部が半径方向に振動しやすい細長形状となることで、電気機械結合係数が高くなり、半径方向振動の周波数帯である第2の周波数帯の範囲を確実に広くすることができる。
【0018】
請求項9に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれか1項において、前記振動部は、前記圧電素子の中央部側に配置されかつ面取りされた形状の鋭角部を有することをその要旨とする。従って、請求項9に記載の発明によると、振動部における鋭角部が面取りされた形状となることで、鋭角部先端の尖りが解消され、振動部の欠けを防ぐことができる。
【0019】
請求項10に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれか1項において、前記支持体は、前記筐体容器の前面側に位置する支持板であり、複数の前記振動部は、超音波放射面である第1面及びその反対側にある第2面を有するとともに、前記第1面は、音響整合層を介して前記支持板の内面側に接合されていることをその要旨とする。
【0020】
請求項11に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれか1項において、前記支持体は、前記筐体容器の後面側に位置する支持板であり、複数の前記振動部は、超音波放射面である第1面及びその反対側にある第2面を有するとともに、前記第2面は、バック材を介して前記支持板の内面側に接合され、前記第1面は、充填材でモールドされていることをその要旨とする。
【発明の効果】
【0021】
以上詳述したように、請求項1~11に記載の発明によると、超音波の送受信に適した周波数帯域を広げることが可能な計測機器用の超音波振動子を得ることができる。特に請求項4、5に記載の発明によると、指向角に広狭を持たせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】第1実施形態の超音波振動子を示す概略断面図。
【
図2】第1実施形態の超音波振動子における圧電素子を示す斜視図。
【
図3】第1実施形態の圧電素子を支持板に支持させた状態を示す平面図。
【
図4】上記圧電素子を構成する振動部を示す斜視図。
【
図5】実施例についての周波数とインピーダンスとの関係を示すグラフ。
【
図6】実施例、比較例1、2についての周波数と送受感度との関係を示すグラフ。
【
図7】第2実施形態の超音波振動子を示す概略断面図。
【
図8】第2実施形態の超音波振動子における圧電素子を示す斜視図。
【
図9】第2実施形態の圧電素子を支持板に支持させるときの様子を示す平面図。
【
図10】(a)~(c)は第2実施形態における変形例の圧電素子を示す斜視図。
【
図11】第3実施形態の超音波振動子を示す概略断面図。
【
図12】第3実施形態の超音波振動子における圧電素子を示す斜視図。
【
図13】(a)は別の実施形態における超音波振動子を示す斜視図、(b)はその振動部の平面図。
【
図14】別の実施形態における超音波振動子を示す概略断面図。
【
図15】別の実施形態において、テープ貼着構造の圧電素子を支持板に支持させた状態を示す平面図。
【
図16】
図15の圧電素子において、振動部間に防音材シートを配置した状態を示す斜視図。
【
図17】別の実施形態において、テープ貼着構造の圧電素子を備えた超音波振動子を示す概略断面図。
【
図18】従来技術における圧電素子を示す要部平面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1実施形態]
以下、本発明を具体化した第1実施形態の計測機器用の超音波振動子を
図1~
図6に基づき詳細に説明する。
【0024】
図1、
図2に示されるように、この超音波振動子11は計測機器用の超音波振動子であって、本実施形態では魚群探知機に使用される超音波振動子として具体化されている。
【0025】
図1に示されるように、この超音波振動子11は、筐体容器21、圧電素子31等を備えている。筐体容器21は、圧電素子31等を収容するための容器であって、容器本体22と支持板23とによって構成されている。容器本体22は、例えばABS樹脂などの樹脂材料を用いて、前面側26に開口部を有する有底円筒状に形成されている。支持体としての支持板23は、容器本体22の前面側26に配置固定されることで開口部を閉塞している。
図3に示されるように、本実施形態の支持板23は、容器本体22の開口部と同径かつ平面視で円形状の部材であって、特に凹凸を有しない平坦な面形状を有したものとなっている。支持板23の形成材料は、圧電素子31を支持可能な機械的強度を持ち、超音波を透過しうるものであれば特に限定されないが、例えばABS樹脂などの樹脂材料が使用される。
【0026】
図1~
図3に示されるように、圧電素子31は、円形状の外形を有するセラミックス製板状物であって、例えば圧電セラミックスであるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いて形成されている。圧電素子31の外径は同じく円形状の支持板23の外径よりも一回り小さく、それゆえ支持板23の面積は圧電素子31の面積よりも一回り大きいものとなっている。圧電素子31は、超音波放射面である第1面31a及びその反対側にある第2面31bを有している。圧電素子31の第1面31aには接着剤を用いて音響整合層32の一方側面が接合され、さらに支持板23の内面23a側には接着剤を用いて音響整合層32の他方側面が接合されている。つまり、音響整合層32を介して、圧電素子31と支持板23とが接合されている。圧電素子31の第1面31aには前面側電極33が形成され、圧電素子31の第2面31bには背面側電極34が形成されている。そして、前面側電極33及び背面側電極34の間に電圧を印加することにより、圧電素子31が厚さ方向に分極されている。
【0027】
圧電素子31には、複数本の溝部36が形成され、それら溝部36により振動部41が複数に分割されている。圧電素子31の分割数nは8以上であることがよく、本実施形態の圧電素子31では、24本の溝部36により振動部41が24個に分割されている。各溝部36は、圧電素子31の中央部にて互いに連通しかつ放射状に延びている。24個の振動部41は繋がっておらず、互いに完全に分離している。そして、各溝部36は、圧電素子31の中心を基準として等角度間隔(本実施形態では15°間隔)で配置されている。つまり、各溝部36同士の交点は中心と一致している。また、各溝部36の幅は、互いに等しくなっている。
【0028】
各振動部41は、同じ大きさ及び形状を有し、いずれも平面視で細長の扇状をなしている。具体的に言うと、
図2~
図4に示されるように、細長の扇状をなす振動部41の主面42は、3つの辺43、44、45によって構成されている。最も短くて圧電素子31の外周部側に位置する1つの辺43は円弧状であり、残りの2つの辺44、45は等しい長さかつ直線状である。なお、各振動部41の外側面は、圧電素子31の外周面の一部を構成している。
【0029】
細長の扇状をなす各振動部41の厚さL1、幅L2、半径方向の長さL3は、特に限定されず任意に設定されうるが、厚さL1は幅L2よりも大きく設定されることがよく、例えば厚さL1は幅L2の1.1倍以上、さらには1.1倍以上3.0倍以下に設定される。また、半径方向の長さL3は厚さL1及び幅L2の2倍以上に設定されることがよく、3倍以上に設定されることがよりよい。本実施形態において具体的には、厚さL1が幅L2の約1.5倍~2.0倍に設定され、半径方向の長さL3が厚さL1の約3.0倍~3.5倍に設定されている。
【0030】
図1に示されるように、各振動部41の上側の主面42上に形成された複数の背面側電極34には、それら同士を架け渡すようにして導電性部材である図示しない金属箔(例えば銅箔、黄銅箔、アルミニウム箔など)が貼付されている。金属箔は、はんだ等の導電金属や、従来周知の導電性フィラーを含む導電性接着剤などにより、各背面側電極34に貼付されている。この金属箔は、各振動部41の上側の主面42における共通電極として機能する。
【0031】
そして、前面側電極33には配線ケーブル53の第1のリード線51が接続され、背面側電極34には配線ケーブル53の第2のリード線52が接続されている。第1のリード線51は、前面側電極33から外側に延出された側面端子(図示略)に対してはんだ付けなどにより接続されている。第2のリード線52は、複数の背面側電極34のいずれか1つに対してはんだ付けなどにより接続されている。そして、第1のリード線51及び第2のリード線52を結束する配線ケーブル53は、容器本体22の上部中央に設けられたケーブル挿通孔54を通って筐体容器21外に引き出されている。なお、第1のリード線51を側面端子に接続するほかに、別の接続方法を採用してもよい。例えば、前面側電極33の上側の主面42に銅箔等の金属箔(図示略)を貼付し、その金属箔に対して第1のリード線51をはんだ付けしてもよい。
【0032】
また、圧電素子31の第2面31b側(即ち各振動部41の上側の主面42側)には、シート状のバック材61(防音材や音響減衰材)が貼付されている。バック材61は、残響を抑えるためのものであり、筐体容器21の内周面にも貼付されている。このようなバック材61としては、樹脂材料やゴムに対して金属やセラミックスからなる粒子または繊維を含有させたものや、樹脂材料に対して空孔を分散的に設けたもの(ウレタンスポンジ材など)を用いることができる。
【0033】
次に、この超音波振動子11の動作について説明する。
【0034】
まず、魚群探知機の電源をオンにして図示しない制御装置を作動させ、超音波振動子11に高周波信号を出力することにより、超音波振動子11を振動させる。このとき、圧電素子31の各振動部41は、所定方向に収縮と伸長とを繰り返す。例えば、振動部41が厚さ方向A3に収縮すると、振動部41が幅方向に膨らむように(即ち
図4の矢印A1方向に)変形する。逆に振動部41が厚さ方向A3に伸長すると、振動部41が幅方向に縮むように(即ち
図4の矢印A2方向に)変形する。その結果、圧電素子31が振動し、超音波振動子11から水中に対して超音波が照射(送信)される。そして、超音波が魚群などの被探知物に到達して反射されると、戻ってきた超音波の反射波が超音波振動子11によって受信される。超音波振動子11が受信した超音波の反射波は、受信信号に変換されて制御装置に入力され、所定の信号処理を経ることにより、被探知物が可視化される。
【0035】
次に、この超音波振動子11の製造方法の一例を挙げて説明するが、この例以外の方法により超音波振動子11を製造しても勿論構わない。
【0036】
まず、外形が真円状である円板状の圧電素子31と、同じく外形が真円状である円板状の音響整合層32とを準備する。圧電素子31の製造にあたっては、まずチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる円板状のセラミックス製焼結体を作製し、それに表面研磨を施す。次に、両主面42に対して前面側電極33及び背面側電極34となる金属層を形成し、さらに両電極33、34に電圧を印加して分極させる処理を施す。次に、圧電素子31の第1面31a側に音響整合層32を接着する。その際、接着面から電気配線が取りやすくなるように、円板状の音響整合層32の直径を圧電素子31の直径よりも若干小さくしておくことがよい。次に、音響整合層32が接合された圧電素子31を従来公知の切断装置にセットし、円板の中心を通るように放射状に溝加工を施して複数個に切断する。次に、切り出された個々の圧電素子片(即ち音響整合層32付きの振動部41)を支持板23の内面23a側に支持させる。具体的には、
図3に示されるように、音響整合層32付きの振動部41を、支持板23の内面23a上にて溝部36を隔てて配置する。このとき溝部36が、圧電素子31及び支持板23の中央部で互いに連通して放射状に延びた状態となるようにする。そしてこの配置状態で、音響整合層32を介して各振動部41を支持板23の内面23aに接着固定する。次いで、圧電素子31の前面側電極33及び背面側電極34に、それぞれ第1のリード線51及び第2のリード線52をはんだ付けにより接合する。そして、配線ケーブル53をケーブル挿通孔54から筐体容器21外に引き出すとともに、支持板23を容器本体22の前面側26に配置して固定する。その結果、容器本体22の開口部が閉塞されるとともに、筐体容器21内の空間に圧電素子31が収容された状態となる。この後、筐体容器21に設けた図示しない孔を介して充填材38を充填し、上記空間内を充填材38で満たして一体的にモールドする。以上のようにして超音波振動子11が完成する。
【0037】
従って、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0038】
(1)本実施形態の超音波振動子11では、圧電素子31が溝部36により分割された複数の振動部41からなるため、各振動部41が厚さ方向A3に変形しやすくなる。その結果、圧電素子31が全域にわたり厚さ方向A3に振動し、電気機械結合係数が高くなる。このため、厚さ方向振動の周波数帯である第1の周波数帯の送受感度が高くなり、第1の周波数帯の範囲も広くなる。また、圧電素子31を構成する各振動部41は細長の扇状であるため、半径方向振動の共振周波数で駆動したときに、振動部41における中央部側の端部、即ち、円形状の超音波振動子11の中央部が大きい振幅で振動する。その結果、振動部41の半径方向振動の周波数帯である第2の周波数帯の送受感度が高くなる。以上のことから、厚さ方向振動及び半径方向振動の双方において、高感度で送受信を行うことができる。
【0039】
(2)本実施形態の圧電素子31は、第1の周波数帯で厚さ方向A3に振動するだけでなく、第1の周波数帯とは異なる周波数帯、具体的には、第1の周波数帯よりも低い第2の周波数帯で半径方向A4にも振動する。そこで、厚さ方向A3に振動する第1の周波数帯(例えば200kHz付近)と、半径方向A4に振動する第2の周波数帯(例えば50kHz付近)とのいずれかに切り替えて超音波振動子11を駆動すれば、それぞれの周波数帯で超音波を送受信することが可能となる。また、魚群探知機に1つの超音波振動子11を設けるだけで、2つの周波数帯において超音波の送受信が可能となるため、装置の軽量化、小型化、低コスト化を図ることができる。
【0040】
なお、第2の周波数帯で超音波振動子11を駆動(低周波駆動)する場合には、高周波に比べて減衰しにくく深い探知が可能であって、広指向角となるという特長がある反面、受信信号(反射波)の分解能は低下する。一方、第1の周波数帯で超音波振動子11を駆動(高周波駆動)すれば、減衰が大きく探知深度は浅くなるが、高分解能で狭い指向角の探知が可能となる。このように、1つの超音波振動子11で周波数を切り替えて駆動できることから、状況に応じた探知が選択できるようになる。
【0041】
(3)本実施形態の圧電素子31は、24分割された等しい大きさ及び形状の振動部41からなる。従って、各振動部41の幅L2が小さくなるため、各振動部41が厚さ方向A3に振動しやすい形状となる。つまり、圧電素子31が厚さ方向A3に振動しやすい形状となることで、電気機械結合係数を高くすることができ、厚さ方向振動の周波数帯である第1の周波数帯の感度を高め、帯域を広くすることができる。
【0042】
(4)本実施形態では、振動部41の厚さL1が幅L2よりも大きく、半径方向の長さL3が厚さL1の3倍以上となっている。従って、振動部41が半径方向A4に振動しやすい細長形状となることで、電気機械結合係数が高くなり、半径方向振動の周波数帯である第2の周波数帯の範囲を確実に広くすることができる。
【0043】
[超音波振動子の評価]
以下、超音波振動子11の評価方法及びその結果を説明する。
【0044】
ここでは、本実施形態の圧電素子31(外径50mm、厚さ7.2mm)を対象とし、振動部41のインピーダンスを測定した。具体的には、測定用サンプルに対し、インピーダンスアナライザを用いて30kHz~300kHzの間で周波数をスイープしながら測定を行った。その結果、振動部41の半径方向振動の共振領域(谷になっている領域)が70kHz付近にあり、振動部41の厚さ方向振動の共振領域が170kHz付近にあることが確認された(
図5(a)参照)。従って、この測定用サンプルでは、振動部41が厚さ方向A3に振動する際の周波数よりも低い周波数で半径方向に振動することが確認された。また、半径方向振動での変位量は、振動部41の両端部(中心部及び外周部)に行くに従って大きくなり、厚さ方向振動での変位量は、中間部の表面側及び裏面側に行くに従って大きくなることが確認された。
【0045】
次に、本実施形態の圧電素子31(外径50mm、厚さ7.2mm)に加えて、2種類の異なる圧電素子31を作製した。そのうちの一方のものは、円形状の外形を有する圧電素子31に対して一方向に延びる溝部36を複数形成することにより、複数の帯状の振動部を形成した。他方のものは、円形状の外形を有する圧電素子31であって溝部36を形成していないものとした。そして、これら圧電素子31を用いてそれぞれ超音波振動子11を試作した(
図6参照)。具体的には、細長の扇状の振動部41を有する本実施形態の圧電素子31を用いて構成された超音波振動子11を、サンプル1(実施例)とした。帯状の振動部を有する圧電素子31を用いて構成された超音波振動子11を、サンプル2(比較例1)とした。分割されていない圧電素子31を用いて構成された超音波振動子11を、サンプル3(比較例2)とした。
【0046】
そして、これら測定用サンプル(サンプル1~3)について、超音波振動子11の送受感度を算出した。具体的には、超音波振動子11の超音波放射面を水中に浸漬し、超音波放射面から170mm離れた位置にあるSUS板に対して超音波を垂直に照射した。SUS板で反射した超音波(反射波)は、超音波振動子11で受信され、超音波振動子11の両端に電圧信号を生じる。このとき、超音波振動子11の送信時及び受信時の電圧振幅をオシロスコープにより測定し、送信電圧波形及び受信電圧波形の双方の周波数成分解析と演算とを行うことにより、送受感度を算出した。なお、送受感度は、送信電圧の振幅Vsに対する受信電圧の振幅Vrの比であり、20×log(Vr/Vs) の式から算出されるものである。また、
図7のグラフは、サンプル1~3における周波数と送受感度との関係を示している。
【0047】
その結果、サンプル1(実施例)では、210kHzで送受感度がピークとなる第1の周波数帯で厚さ方向に振動するとともに、第1の周波数帯よりも低く、80kHzで送受感度がピークとなる第2の周波数帯で振動部の半径方向に振動することが確認された。そして、送受感度が例えば-33dB以上となる範囲は、第1の周波数帯で135kHz~325kHz付近となり、第2の周波数帯で80kHz~90kHz付近となることが確認された。以上のことから、サンプル1は、第1の周波数帯及び第2の周波数の両方が、超音波の送受信に適していることが確認された。また、溝部36を放射状に形成すると、200kHz付近で広帯域となる一方、80kHz付近では狭帯域となる超音波振動子となることが確認された。
【0048】
一方、サンプル2(比較例1)では、220kHzで送受感度がピークとなる周波数帯で厚さ方向に振動することが確認された。そして、送受感度が例えば-33dB以上となる範囲は、220kHzをピークとする周波数帯で140kHz~340kHz付近となることが確認された。なお、サンプル2では、半径方向振動のピークは認められなかった。以上のように、比較例1であるサンプル2では、厚さ方向振動で広帯域となっているものの、切込み(溝部)の長手方向振動による送受感度が弱いことが確認された。それに対して、実施例であるサンプル1では、サンプル2と同様の厚さ方向の送受感度と帯域特性を持つことに加えて、振動部41の半径方向振動による低周波での送受信も可能となることが確認された。
【0049】
また、サンプル3(比較例2)では、205kHzで送受感度がピークとなる周波数帯で厚さ方向に振動するとともに、50kHzで送受感度がピークとなる周波数帯で径方向(直径方向)に振動することが確認された。そして、送受感度が例えば-33dB以上となる範囲は、第1の周波数帯で195kHz~230kHz付近となり、第2の周波数帯で45kHz~55kHz付近となることが確認された。比較例2であるサンプル3は、50kHzと200kHzとの2周波切替タイプの魚群探知機用振動子として、広く市場に浸透しているものである。一方、実施例であるサンプル1は、200kHz付近の厚さ方向振動がサンプル3よりも高感度かつ広帯域であることに加えて、低周波の径方向振動の送受感度もサンプル3と同等の感度が得られており、サンプル3と同様に両周波数帯で使用することが可能であることがわかった。
【0050】
[第2実施形態]
以下、本発明を具体化した第2実施形態の超音波振動子11Aを
図7~
図10に基づいて説明する。ここでは、前記第1実施形態と相違する部分を中心に説明し、共通する部分についは同じ部材番号を付して詳細な説明を割愛する。
【0051】
図7に示されるように、第2実施形態の超音波振動子11Aは、支持板23Aの構成が第1実施形態の支持板23と異なっている。即ち、第1実施形態の支持板23は平坦な面形状を有するものであったが、本実施形態の支持板23Aは平坦ではない面形状を有している。具体的には、この支持板23Aは、二十四角錐台の角錐面に相当する面形状を有しており、支持板23Aの外面23b側に全体的に凸になっているとともに、内面23a側に全体的に凹になっている。つまり、この支持板23Aの場合、多角錐台の角錐面が、圧電素子31の分割数nと等しい個数(即ち24個)の構成面を備えている(
図9参照)。24個の構成面は、いずれも略扇状(鋭角部が面取りされた扇状)となっている。そして、各構成面の反対側面(正確にいうと、支持板23Aの内面)には、それよりも一回り小さい振動部41が音響整合層32を介して一枚ずつ接着固定されている。ここで、振動部支持面である支持板23Aの内面23aが、超音波振動子11Aの中心軸線に直交する面に対してなす角度のことを、傾斜角度θと定義する。傾斜角度θは、特に限定されず任意に設定可能であるが、例えば5°~60°程度に設定され、好ましくは10°~60°程度に設定される。本実施形態では支持板23Aの内面23aの傾斜角度θが30°であるため、各振動部41も中心軸線直交面に対して30°の角度をもって支持板23Aの内面23aに支持されている。なお、
図8には各振動部41を傾斜角度θ=30°で配置した状態の圧電素子31が示されている。これとは別の変形例として、
図10(a)には振動部41を傾斜角度θ=15°で配置した状態、
図10(b)には振動部41を傾斜角度θ=45°で配置した状態、
図10(c)には振動部41を傾斜角度θ=60°で配置した状態の圧電素子31が、それぞれ示されている。
【0052】
このように構成された第2実施形態によると、上記第1実施形態の作用効果に加えて、以下の作用効果を奏することができる。即ち、支持板23Aにおける支持面が多角錐台の角錐面に相当する面形状を有するとともに、支持板23Aの外面側に全体的に凸となっている。そしてこの構成であると、各振動部41を所望角度(ここでは30°)に保持した状態で支持板23Aに安定的に支持させることができる。さらに、平坦な面形状を有する支持板23に圧電素子31を支持させた場合に比べて、指向角を広くすることができる。ちなみに、支持面が円錐または円錐台の円錐面に相当する湾曲した面形状を有する支持板を選択し、これに各振動部41を採ることも考えられる。しかしながら、この構成であると、各振動部41を湾曲面に接着することになるため、各振動部41を支持板に安定的に支持させにくく、支持板と振動部41との間に隙間ができやすくなる。また、支持板に対する各振動部41の位置決めも難しくなる。その点、本実施形態のような支持板23Aは、上記の問題が生じにくいという点で好ましい。
【0053】
[第3実施形態]
以下、本発明を具体化した第3実施形態を
図11、
図12に基づいて説明する。ここでは、前記第1、第2実施形態と相違する部分を中心に説明し、共通する部分についは同じ部材番号を付して詳細な説明を割愛する。
【0054】
図11に示されるように、第3実施形態の超音波振動子11Bでは、支持板23Bが外面23b側に全体的に凹になっており、内面23a側に全体的に凸になっている点が、第2実施形態の支持板23Aと異なっている。この支持板23Bは、多角錐台の角錐面が、圧電素子31の分割数nと等しい個数(即ち24個)の構成面を備えている。そして、各構成面には、それよりも一回り小さい振動部41が音響整合層32を介して一枚ずつ接着固定されている。また、支持板23Bの傾斜角度θは特に限定されず任意に設定可能であるが、例えば5°~60°程度に設定され、本実施形態では15°に設定されている。なお、
図12には各振動部41を傾斜角度θ=15°で配置した状態の圧電素子31が示されている。例えば5°~60°程度に設定され、好ましくは10°~60°程度に設定される。本実施形態では支持板23Aの内面23aの傾斜角度θが15°であるため、各振動部41も中心軸線直交面に対して15°の角度をもって支持板23Aの内面23aに支持されている。なお、
図12には各振動部41を傾斜角度θ=15°で配置した状態の圧電素子31が示されている。
【0055】
このように構成された第3実施形態によると、上記第1実施形態の作用効果に加えて、以下の作用効果を奏することができる。即ち、支持板23Bにおける支持面が多角錐台の角錐面に相当する面形状を有するとともに、支持板23Bの外面23b側に全体的に凹となっている。そしてこの構成であると、各振動部41を所望角度(ここでは15°)に保持した状態で支持板23Bに安定的に支持させることができる。さらに、平坦な面形状を有する支持板23に圧電素子31を支持させた場合に比べて、指向角を狭くすることができる。また、上記第2実施形態のときと同じく、支持板と振動部41との間に隙間ができず、また、支持板に対する各振動部41の位置決めも容易に行うことができる。
【0056】
なお、上記実施形態を以下のように変更してもよい。
【0057】
・例えば、
図13(a)、(b)に示す別の実施形態のような略扇状の圧電素子31Aとしてもよい。この圧電素子31Aは、中央部に円形状の貫通孔71を有する略円環状をなしており、貫通孔71の内壁面は各振動部41Aにおける中央部側の端面を構成している。この構成によると、各振動部41Aにおける圧電素子31Aの中央部側に配置された鋭角部72が、面取りされた形状になる。従って、各振動部41Aにおける鋭角部先端の尖りが解消され、各振動部41の欠けを防ぐことができる。よって、耐久性に優れた圧電素子31Aとすることができる。
【0058】
・上記各実施形態では、筐体容器21の前面側26に位置する支持板23、23A、23Bに対して各振動部41を支持固定したが、これに限定されない。例えば、
図14に示す別の実施形態の超音波振動子11Cのように、筐体容器21の後面側27に位置する支持板23Cに対して各振動部41を支持固定してもよい。この超音波振動子11Bでは、支持板23Cは平坦な面形状を有するものであって、各振動部41の第2面31bは、バック材61を介して支持板23Cの内面側に接着剤を用いて接合されている。一方、超音波放射面である第1面31aの側は、充填材38でモールドされている。充填材38は筐体容器21の開口部と面一となるように充填されている。なお、筐体容器21の後面側27に位置する支持板23Cは、多角錐または多角錐台の角錐面に相当する面形状を有し、外面側に全体的に凸または凹となったものでもよい。そして、そのような傾斜を有する支持板23Cの内面に各振動部41の第2面31bを支持させてもよい。
【0059】
・上記各実施形態の超音波振動子11、11A、11B、11Cは、円形状(真円状)の外形を有する圧電素子31を用いて構成されていたが、これに限定されない。圧電素子は、例えば楕円状の外形を有するものであってもよく、長円状の外形を有するものであってもよい。
【0060】
・上記各実施形態の圧電素子31、31Aには、溝部36を介して24個の振動部41(中心角15°)が配置され固定されていた。しかし、圧電素子31、31Aには、溝部36を介して25個以上(例えば、30個,36個等)の振動部41が配設されていてもよいし、23個以下(例えば、16個,12個,10個,8個等)の振動部41が配設されていてもよい。また、上記各実施形態では、圧電素子31、31Aが同じ中心角(15°)の振動部41を有していたが、圧電素子31、31Aは、中心角が異なる複数種類の振動部41を有していてもよい。
【0061】
・上記各実施形態の超音波振動子11、11A、11B、11Cでは、各振動部41間の溝部36が全体的に空隙となっていたが、その空隙に充填材38(固定部材)を埋めるようにして配置してもよい。充填材38を使用した場合、硬化した充填材38によって、隣接した振動部41同士を互いに接合固定することができる。この場合、充填材38の比重は特に限定されないが、例えば1.5以下であることが好ましい。このようにすれば、充填材38が比較的軽くなるため、充填材38が振動部41の振動時の負荷になりにくくなる。その結果、充填材38の使用に起因する送受感度の低下を防止することができる。
【0062】
・各振動部41間の溝部36の空隙には、上記充填材38に代わる固定部材として、例えばスポンジなどの防音材を配置してもよく、具体的には
図15~
図17に示す別の実施形態における超音波振動子11Dの圧電素子31Bのように、両面テープ82付きの防音材シート81を配置してもよい。なお、両面テープ82は防音材シート81の両側にそれぞれ設けられていることがよい(
図16参照)。防音材シート81の両面テープ82は振動部41の側面S1に対して貼着可能なため、これを用いた場合には、各振動部41をそれぞれ正しく位置決めした状態で、確実にかつ比較的簡単に互いを接合固定することができる。上記のようなテープ貼着構造の圧電素子31Bは、上記各実施形態のように支持板23、23A、23B、23Cに支持固定されてもよいが、そうでなくてもよい。例えば、棒状や突起状をなす支持体85を内壁の複数箇所に設けた筐体容器21を用い、この筐体容器21内に上記テープ貼着構造の圧電素子31Bを収容し、かつ支持体85の先端に支持させて姿勢を決定した状態で、充填材38でモールドしてもよい(
図17参照)。なお、複数の振動部41は、圧電素子31Bの中心軸線に直交する面に対し、ともに等しい傾斜角度θをなす状態で、互いに接合固定される。例えば、
図16のように防音材シート81の厚さが均等(言い換えると2つの側面S1が平行)なものを用いた場合には、各振動部41の底面が1つの面内に位置する平坦な状態(即ち傾斜角度=0°)で配置された圧電素子31Bを構成することができる。防音材シート81の厚さを上下方向で異なる不均等なものを用いた場合には、各振動部41を傾斜させて配置することができる。具体的にいうと、例えば防音材シート81の厚さが下方にいくに従って厚くなるものを用いた場合には、圧電素子31Bの中心部が第1面31a側に凸となる状態で、各振動部41を傾斜配置することができる。逆に、防音材シート81の厚さが下方にいくに従って薄くなるものを用いた場合には、圧電素子31Bの中心部が第1面31a側に凹となる状態で、各振動部41を傾斜配置することができる。
【0063】
・上記各実施形態の超音波振動子11、11A、11B、11C、11Dでは、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電素子31、31A、31Bを用いたが、圧電素子31、31Aの形成材料は特に限定されるものではない。例えば、ニオブ酸カリウムナトリウム系(ニオブ酸アルカリ系)、チタン酸バリウム系、PMN-PT(Pb(Mg1/3Nb2/3)O3-PbTiO3)単結晶、PZNT(Pb(Zn1/3Nb2/3)O3-PbTiO3)単結晶、LiNbO3単結晶の圧電セラミックスからなる圧電素子を用いてもよい。
【0064】
・上記各実施形態では、超音波振動子11、11A、11B、11C、11Dを魚群探知機用の超音波振動子に用いる例を示したが、これに限定されず、他の計測機器に用いてもよい。例えば、超音波振動子11を、超音波の照射方向を電気的または機械的に変更するソナーに用いてもよいほか、水の深さを計測する測探機や、空気中で距離を計測する空中センサなどの計測機器に用いてもよい。
【符号の説明】
【0065】
11、11A、11B、11C、11D…計測機器用の超音波振動子
21…筐体容器
23、23A、23B、23C…支持体としての支持板
23a…(支持板の)内面
23b…(支持板の)外面
26…(筐体容器の)前面側
27…(筐体容器の)後面側
31、31A、31B…圧電素子
31a…第1面
31b…第2面
32…音響整合層
36…溝部
38…充填材
41、41A…振動部
61…バック材
72…鋭角部
81…固定部材としての防音材シート
82…両面テープ
85…支持体
A3…厚さ方向
A4…半径方向
L1…振動部の厚さ
L2…振動部の幅
L3…振動部の半径方向の長さ
θ…傾斜角度
【要約】
【課題】超音波の送受信に適した周波数帯域を広げることが可能な計測機器用の超音波振動子を提供すること。
【解決手段】本発明の計測機器用の超音波振動子11は、支持板23を有する筐体容器21と、略円形状の外形を有し支持板23に支持された圧電素子31とを備える。圧電素子31は、中央部にて互いに連通しかつ放射状に延びる複数の溝部36により分割された複数の略扇状の振動部41を含む。圧電素子31は、第1の周波数帯で厚さ方向A3に振動するとともに、第1の周波数帯よりも低い第2の周波数帯で半径方向A4に振動する。
【選択図】
図1