(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-12
(45)【発行日】2023-07-21
(54)【発明の名称】橋梁の変位制限装置
(51)【国際特許分類】
E01D 19/04 20060101AFI20230713BHJP
【FI】
E01D19/04 101
(21)【出願番号】P 2018124482
(22)【出願日】2018-06-29
【審査請求日】2021-05-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 「水平力分担構造・横変位拘束構造 PRF緩衝ピン」と題するカタログ 「水平力分担構造・横変位拘束構造 橋座前面の桁下に設置可能(鈑桁、コンクリート桁に対応) PRF緩衝ピンBT」と題するカタログ http://www.sbt.co.jp/seihin/kensetsu/01rakubo/06prf-pin/06prf-pin.html http://www.sbt.co.jp/seihin/kensetsu/01rakubo/07prf-pin_bt/07prf-pin_bt.html
(73)【特許権者】
【識別番号】000106955
【氏名又は名称】シバタ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101409
【氏名又は名称】葛西 泰二
(74)【代理人】
【氏名又は名称】葛西 さやか
(74)【代理人】
【識別番号】100175662
【氏名又は名称】山本 英明
(72)【発明者】
【氏名】織田 朋哉
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-153483(JP,A)
【文献】特開2013-019167(JP,A)
【文献】特開2012-012765(JP,A)
【文献】特開2008-115639(JP,A)
【文献】特開2008-163599(JP,A)
【文献】実開昭49-064682(JP,U)
【文献】特開平09-078529(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0908292(KR,B1)
【文献】米国特許第4209868(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 19/04
E01D 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁における橋脚又は橋台と橋桁との間に設けられる橋梁の変位制限装置であって、
橋脚又は橋台と橋桁とのうちのいずれか一方に固定される鋼製の架台と、
前記橋脚又は橋台と橋桁とのうちの他方に固定され、前記架台に対向するように配置されると共に、第1の貫通孔を有する鋼製の変位拘束部材と、
その基端側が前記架台に固定され、その先端側が前記第1の貫通孔に挿通される鋼製の柱状体とを備え、
前記架台は、
ナットを前記架台の表面に溶接で固着することにより、雌ねじを形成したナット部が設けられ、
前記柱状体は、その基端側の周面に雄ねじを形成した第1のボルト部が設けられ、
前記第1のボルト部を前記ナット部に螺合させることにより前記柱状体が前記架台に対し着脱可能に固定される、
橋梁の変位制限装置。
【請求項2】
橋梁における橋脚又は橋台と橋桁との間に設けられる橋梁の変位制限装置であって、
橋脚又は橋台と橋桁とのうちのいずれか一方に固定される鋼製の架台と、
前記橋脚又は橋台と橋桁とのうちの他方に固定され、前記架台に対向するように配置されると共に、第1の貫通孔を有する鋼製の変位拘束部材と、
その基端側が前記架台に固定され、その先端側が前記第1の貫通孔に挿通される鋼製の柱状体と、
前記架台と前記変位拘束部材との間に、前記架台に対し相対移動しないように固定され、前記柱状体が挿通する第2の貫通孔を有する補強支持体とを備え、
前記第2の貫通孔の孔径は、前記柱状体に曲げ変形が生じたときに、その変形量が最大許容たわみ量に達する前に、前記柱状体が前記補強支持体に当接する大きさに設定されている、橋梁の変位制限装置。
【請求項3】
前記柱状体は、前記架台に対し着脱可能である、請求項2記載の橋梁の変位制限装置。
【請求項4】
前記柱状体の側壁に装着されると共に、前記柱状体と前記第1の貫通孔との間に配置され、外力を吸収できる緩衝体をさらに備える、請求項1から請求項3のいずれかに記載の橋梁の変位制限装置。
【請求項5】
前記補強支持体と前記柱状体の先端との間の領域において、前記柱状体の側壁に装着されると共に、前記柱状体と前記第1の貫通孔との間に配置され、外力を吸収できる緩衝体をさらに備え、
前記第1の貫通孔の孔径は前記緩衝体の外径よりも大きく設定されると共に、前記第2の貫通孔の孔径は前記緩衝体の外径よりも小さく設定される、請求項2又は請求項3記載の橋梁の変位制限装置。
【請求項6】
前記緩衝体は、前記柱状体に対し着脱可能である、請求項4又は請求項5記載の橋梁の変位制限装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は橋梁の変位制限装置に関し、特に地震等により、橋梁における橋脚又は橋台と橋桁との間に変位が生じるのを抑制するための橋梁の変位制限装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋梁は一般に、橋脚又は橋台の上に支承を介して橋桁が載置される構造であり、温度変化による伸縮等を考慮して、橋脚又は橋台に対し橋桁を強固には固定しない構造が採用される。このため、地震等が発生したときに、橋脚又は橋台が振動する一方で橋桁が慣性力で停止しようとするため、両者の間に変位が生じる可能性が有る。
【0003】
このような地震等による橋梁の変位を抑制するための発明が、特開2007-40097号公報(特許文献1)や、特開2011-47120号公報(特許文献2)に記載されている。
【0004】
特許文献1の発明は、橋桁に固定した変位拘束プレートの貫通孔に、橋脚の上部に起立状態に固定した柱状支持体の上端側を挿通させる構成の変位制限装置である。橋脚の上面部に穿設して形成した穴に、柱状支持体の下端側を挿入し、この穴内にコンクリートを打設して固化させることによって、柱状支持体を固定する構造となっている([0031]参照)。
【0005】
特許文献2の発明は、橋桁に固定したプレートの貫通孔に、橋脚の上部に立設したアンカーバーの上端側を挿通させる構成の落橋防止装置である。橋脚の上面部に穿設して形成した穴にアンカーバーの下端側を挿入し、橋脚上面に突出するアンカーバーを、その基部側周囲に打設したコンクリートにより形成した台座コンクリートによって固定する構造となっている([0044]-[0046]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-40097号公報
【文献】特開2011-47120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の変位制限装置は、柱状支持体を、コンクリートを打設して橋脚に固定する構造であるため、設置時にあっては、コンクリートが固化して強度を発現するまでの時間を要し、作業の中断時間が発生する。柱状支持体の交換時にあっては、柱状支持体の基部周囲のコンクリートを掘削する作業が必要であり、手間を要する。
【0008】
特許文献2の落橋防止装置は、アンカーバーの基部周囲に台座コンクリートを打設してアンカーバーを橋脚に固定する構造であるため、設置時にあっては、打設したコンクリートが固化して強度を発現するまでに特許文献1の発明よりも長い時間を要することになり、長時間の作業の中断が発生する。アンカーバーの交換時にあっては、アンカーバーの基部周囲の台座コンクートを掘削する作業が必要であり、手間を要する。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、コンクリートによらずに、例えばボルト・ナット等により設置することが可能な橋梁の変位制限装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、請求項1記載の発明は、橋梁における橋脚又は橋台と橋桁との間に設けられる橋梁の変位制限装置であって、橋脚又は橋台と橋桁とのうちのいずれか一方に固定される鋼製の架台と、橋脚又は橋台と橋桁とのうちの他方に固定され、架台に対向するように配置されると共に、第1の貫通孔を有する鋼製の変位拘束部材と、その基端側が架台に固定され、その先端側が第1の貫通孔に挿通される鋼製の柱状体とを備え、架台は、ナットを架台の表面に溶接で固着することにより、雌ねじを形成したナット部が設けられ、柱状体は、その基端側の周面に雄ねじを形成した第1のボルト部が設けられ、第1のボルト部をナット部に螺合させることにより柱状体が架台に対し着脱可能に固定されるものである。
【0011】
このように構成すると、地震などにより、橋脚又は橋台と橋桁との間に水平方向の変位力が作用したときに、柱状体が架台と変位拘束部材との間の相対移動に抵抗することにより、橋脚又は橋台と橋桁との間の変位を抑制する。又、架台を取り外さずに、柱状体だけを、架台に対し取り付け、取り外しをすることができる。
【0012】
請求項2記載の発明は、橋梁における橋脚又は橋台と橋桁との間に設けられる橋梁の変位制限装置であって、橋脚又は橋台と橋桁とのうちのいずれか一方に固定される鋼製の架台と、橋脚又は橋台と橋桁とのうちの他方に固定され、架台に対向するように配置されると共に、第1の貫通孔を有する鋼製の変位拘束部材と、その基端側が架台に固定され、その先端側が第1の貫通孔に挿通される鋼製の柱状体と、架台と変位拘束部材との間に、架台に対し相対移動しないように固定され、柱状体が挿通する第2の貫通孔を有する補強支持体とを備え、第2の貫通孔の孔径は、柱状体に曲げ変形が生じたときに、その変形量が最大許容たわみ量に達する前に、柱状体が補強支持体に当接する大きさに設定されているものである。
【0013】
このように構成すると、地震などにより、橋脚又は橋台と橋桁との間に水平方向の変位力が作用したときに、柱状体が架台と変位拘束部材との間の相対移動に抵抗することにより、橋脚又は橋台と橋桁との間の変位を抑制する。又、柱状体が曲げ変形したときに、その変形量が最大許容たわみ量に達する前に柱状体が補強支持体に当接するから、補強支持体が、柱状体の変形に対する抵抗力を発揮する。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明の構成において、柱状体が、架台に対し着脱可能であるものである。
【0015】
このように構成すると、架台を取り外さずに、柱状体だけを、架台に対し取り付け、取り外しをすることができる。
【0016】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の発明の構成において、柱状体の側壁に装着されると共に、柱状体と第1の貫通孔との間に配置され、外力を吸収できる緩衝体をさらに備えるものである。
【0017】
このように構成すると、地震等により生じた柱状体と変位拘束部材との間に作用する変位力を、柱状体の側壁に装着した緩衝体が吸収する。
【0018】
請求項5記載の発明は、請求項2又は請求項3記載の発明の構成において、補強支持体と柱状体の先端との間の領域において、柱状体の側壁に装着されると共に、柱状体と第1の貫通孔との間に配置され、外力を吸収できる緩衝体をさらに備え、第1の貫通孔の孔径は緩衝体の外径よりも大きく設定されると共に、第2の貫通孔の孔径は緩衝体の外径よりも小さく設定されるものである。
【0019】
このように構成すると、補強支持体と柱状体の先端との間の領域のみに、緩衝体を柱状体の側壁に装着することができる。
【0020】
請求項6記載の発明は、請求項4又は請求項5記載の発明の構成において、緩衝体は、柱状体に対し着脱可能であるものである。
【0021】
このように構成すると、緩衝体を、必要に応じ、柱状体に対し取り付け、又は、取り外すことができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、請求項1記載の発明は、鋼製の架台及び変位拘束部材を例えばボルト・ナット等で固定することができ、鋼製の柱状体はこの架台に固定されるので、既設の橋梁に、コンクリートを使用せずに変位制限装置を構築することができる。従って、変位制限装置の設置の際、従来のようにコンクリートが固化するまで作業を中断する必要がなくなるから、工期の短縮化を図れる。又、柱状体の固定にコンクリートを使用しないから、柱状体の交換の際、従来のようにコンクリートを掘削する作業が不要となるので、交換作業の能率が向上する。
【0023】
請求項2記載の発明は、鋼製の架台及び変位拘束部材を例えばボルト・ナット等で固定することができ、鋼製の柱状体はこの架台に固定されるので、既設の橋梁に、コンクリートを使用せずに変位制限装置を構築することができる。従って、変位制限装置の設置の際、従来のようにコンクリートが固化するまで作業を中断する必要がなくなるから、工期の短縮化を図れる。又、柱状体の固定にコンクリートを使用しないから、柱状体の交換の際、従来のようにコンクリートを掘削する作業が不要となるので、交換作業の能率が向上する。更に、架台に対し変位拘束部材が相対的に変位しようとするときに、柱状体に曲げ変形力が作用するが、この曲げ変形力に対し、架台に対する固定部及び補強支持体に対する当接部の2個所で柱状体が抵抗することができる。従って、橋脚又は橋台と橋桁との間の変位に対する抵抗力が増大する。あるいは、柱状体の架台に対する固定強度を低く抑えても、必要な抵抗力を得ることが可能となる。補強支持体の第2の貫通孔の孔径は、柱状体の変形量が最大許容たわみ量に達する前に、柱状体が補強支持体に当接する大きさに設定されているから、柱状体の損傷や破壊を防止することができる。
【0024】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明の効果に加えて、柱状体が架台に対し着脱可能であることにより、柱状体を交換する際、従来のように、コンクリートの打設作業や、柱状体を取り外すためのコンクリートを掘削作業が不要となるから、作業性が向上する。又、コンクリートの固化を待つために作業を中断する必要がなくなるから、作業時間の短縮化を図れる。
【0025】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の発明の効果に加えて、柱状体の側壁に装着した緩衝体が、柱状体と変位拘束部材との間に作用する変位力を吸収して緩和するから、変位に対する抵抗力を増大させると共に、柱状体が損傷を受けるのを抑制できる。
【0026】
請求項5記載の発明は、請求項2又は請求項3記載の発明の効果に加えて、緩衝体を柱状体の全長に渡って装着する必要がなくなるから、緩衝体の必要長さを短くすることができ、緩衝体に要するコストの削減を図れる。
【0027】
請求項6記載の発明は、請求項4又は請求項5記載の発明の効果に加えて、柱状体を架台に固定した後に緩衝体を柱状体に装着することが可能なので、設置状況に応じた最適な緩衝体を施工後に選択することができる。これにより、変位力に対する高い緩和機能を確実に発揮させることが可能となる。又、衝撃吸収の結果、緩衝体が変形したり損傷を受けたりしたときに、これを交換するのが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の第1の実施の形態による橋梁の変位制限装置の構成を概略的に示す図である。
【
図2】本発明の第2の実施の形態による橋梁の変位制限装置の構成を概略的に示す図である。
【
図3】本発明の第3の実施の形態による橋梁の変位制限装置の構成を概略的に示す図である。
【
図4】本発明の第4の実施の形態による橋梁の変位制限装置の構成部材を分解して示す図である。
【
図5】本発明の第4の実施の形態による橋梁の変位制限装置の構成を一部断面して示す図である。
【
図6】本発明の第5の実施の形態による橋梁の変位制限装置を概略的に示す斜視図である。
【
図7】本発明の第5の実施の形態による橋梁の変位制限装置の構成部材を分解して示す図である。
【
図8】本発明の第5の実施の形態による橋梁の変位制限装置の構成を一部断面して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態による橋梁の変位制限装置の構成を概略的に示す図である。
【0030】
図1を参照して、本例の変位制限装置1Aは、橋梁を構成する橋脚Fと橋桁Gとの間に設けられるものであって、橋脚Fに固定される架台2と、橋桁Gに固定され、架台2に対向するように配置され、第1の貫通孔4aを有する変位拘束部材4と、基端側が架台2に固定され、先端側が第1の貫通孔4aに挿通される柱状体3とを備える。
【0031】
本例では、架台2、柱状体3、及び、変位拘束部材4はいずれも剛性の高い鋼材で製作される。又、耐食性や防錆性を高めるため、溶融亜鉛メッキや防錆塗装などの表面処理を施してもよい。
【0032】
架台2は、橋脚Fの上面に面接触する例えば板状の部材であって、中央部に雌ねじを形成したナット部2aが設けられる。このナット部2aは、例えばナットを架台2の表面に溶接で固着したものでもよい。架台2を橋脚Fに固定する手段は、例えば、橋脚Fに埋設したアンカーボルト5aを、架台2に形成した開孔に挿通させて突出させ、この突出部分にナット5bを螺合させて締め付ける構成を使用できる。アンカーボルト5aは、機械的に固定するメカニカルアンカーや、接着剤を利用するケミカルアンカーなどの、あと施工アンカー工事で使用されるものを使用することができる。あるいは、橋脚Fの施工時に予め埋設される埋め込みアンカーボルトを使用してもよい。
【0033】
柱状体3は、柱状の部材であって、本例では、基端側の周面に雄ねじを形成した第1のボルト部3aが設けられる。この第1のボルト部3aを、架台2のナット部2aに螺合させて締め付けることにより、柱状体3を架台2に対し起立状態に固定することができる。又、この固定は、ねじ嵌合によるものであるから、必要に応じ、柱状体3を架台2から取り外すこと、及び、柱状体3を交換することが可能である。
【0034】
変位拘束部材4は、本例では一端側が橋桁Gに固定され、橋桁Gからほぼ水平方向に張り出して架台2に対向する位置まで伸びる張り出し部4bを有し、この張り出し部4bに第1の貫通孔4aが形成されたものである。変位拘束部材4を橋桁Gに固定する手段は、例えば、橋桁G及び変位拘束部材4に開孔を形成し、これら開孔を位置合わせしてボルト6aを挿通させ、突出した部分にナット6bを螺合させて締め付ける構造を使用することができる。第1の貫通孔4aの孔径は、気候などによる橋桁Gの伸縮を考慮して、柱状体3との間に適切な隙間が形成されるように設定するとよい。尚、本例の変位拘束部材4にあっては、橋桁Gから水平方向に延びる張り出し部4bを有するので、架台2及び柱状体3を橋桁Gから離れた位置に配置することができる。従って、架台2及び柱状体3の設置作業を橋桁Gとは干渉しない位置で行えるから、作業能率が良いという利点が得られる。
【0035】
次に、上記の変位制限装置1Aの奏する作用及び効果について説明する。地震等が発生したとき、橋脚Fが振動するのに対し橋桁Gは慣性力により停止しようとするため、両者は相対的に変位しようとする。このとき、橋脚Fに固定された架台2に固定した柱状体3が、橋桁Gに固定した変位拘束部材4の第1の貫通孔4aに挿通されており、両者間に変位が生じたとき、柱状体3が変位拘束部材4に当接することで、変位力の水平方向の成分に対する抵抗力を発揮する。これにより、橋桁Gが橋脚Fに対し位置ずれを生じたり、落橋が発生したりすることを防止する。
【0036】
尚、架台2の橋脚Fに対する接触面積、架台2の橋脚Fに対する固定強度、柱状体3の架台2に対する固定強度、柱状体3の曲げ強度、及び、変位拘束部材4の橋桁Gに対する固定強度等の各数値は、変位制限装置1Aが水平方向の変位に対し十分な抵抗力を発揮することができるように、橋梁の規模や想定される地震の大きさ等に基づく強度計算により、適宜設定される。
【0037】
本例の変位制限装置1Aは、架台2及び変位拘束部材4がいずれもボルト・ナットによって固定され、柱状体3は架台2に対しねじ嵌合によって固定される構成であるので、従来のように、設置の際にコンクリートを打設する作業が不要である。従って、既設の橋梁に対し、作業を中断することなく変位制限装置を設置することが可能なので、工期を短縮できる。又、柱状体3を交換する場合も、コンクリートの掘削及び再打設が不要であるから、交換作業に要する時間も短縮できるという効果を発揮する。
【0038】
ところで、
図1に示す実施の形態では、変位制限装置1Aを、橋脚F上に橋桁Gを支える支承Sの比較的近傍に配置するものとしているが、必ずしも、この態様に限定されるものではない。
[第2の実施の形態]
図2は、本発明の第2の実施の形態による橋梁の変位制限装置の構成を概略的に示す図である。
【0039】
図2を参照して、本例の変位制限装置1Bは、橋脚Fに固定される架台2と、橋桁Gに固定される変位拘束部材4と、基端側が架台2に固定され、先端側が第1の貫通孔4aに挿通される柱状体3とを備えており、これらの点は上記の実施の形態と同様である。
【0040】
本実施の形態は、架台2と変位拘束部材4との間に、架台2に対し相対移動しないように固定され、柱状体3が挿通する第2の貫通孔11aを有する補強支持体11をさらに備える点を特色としている。この補強支持体11を架台2に対し相対移動しないように固定する手段は、例えば架台2に柱状体3の周囲を囲む起立壁2bを設け、この起立壁2bの上端に溶接により固定する構造が考えられる。
【0041】
補強支持体11の第2の貫通孔11aの孔径は、柱状体3が曲げ変形したときに、その変形量が最大許容たわみ量に達する前に、柱状体3が補強支持体11に当接する大きさに設定される。尚、第2の貫通孔11aの孔径は、柱状体3が挿通可能で、なるべく小さいことが望ましい。又、補強支持体11の配置は、変位拘束部材4になるべく近接する位置が望ましい。
【0042】
このように設定すると、橋脚Fと橋桁Gとの間の相対的変位により柱状体3に曲げ変形が生じたときに、この変形量が最大許容たわみ量に達する前に柱状体3が変位拘束部材4に当接する。その結果、柱状体3は、架台2に対する固定部と変位拘束部材4に対する当接部との2個所において、変位に対する抵抗力を発揮できると共に、柱状体3自体が変形したり損傷したりすることを回避できる。従って、本例では、より大きな変位力に対し抵抗し得る変位制限装置を提供することが可能である。あるいは、柱状体3の架台2に対する固定強度を低く設定しても、設計上必要な抵抗力を得ることが可能となる。
[第3の実施の形態]
図3は、本発明の第3の実施の形態による橋梁の変位制限装置の構成を概略的に示す図である。
【0043】
図3を参照して、本例の変位制限装置1Cは、橋脚Fに固定される架台2と、橋桁Gに固定される変位拘束部材4と、基端側が架台2に固定され、先端側が第1の貫通孔4aに挿通される柱状体3とを備えており、これらの点は第1、第2の実施の形態と同様である。
【0044】
本実施の形態は、柱状体3の側壁に装着されると共に、柱状体3と第1の貫通孔4aとの間に配置され、外力を吸収できる緩衝体12をさらに備える点を特色としている。又、緩衝体12は、柱状体3に対し、着脱可能とすることができる。
【0045】
本例の緩衝体12は、筒状の形態を有し、ゴムのような弾性体を用いるほか、例えば、弾性を有する合成樹脂の層と、織布・不織布・編み布などの繊維の層とを交互に積層した材質を使用することができる。このような材質の緩衝体12は、圧縮荷重が作用したとき、初期段階では弾性変形するが、荷重が初期降伏荷重を超えたときには連続して塑性変形することにより、継続して衝撃を吸収することが可能である。
【0046】
このように構成された本例の変位制限装置1Cは、地震等による橋脚と橋桁との間に働く変位力により、柱状体3に強い衝撃力が作用したときに、緩衝体12がこの衝撃力を吸収するので、柱状体3が損傷するのを防止することができる。
【0047】
又、緩衝体12を着脱可能とすれば、柱状体3を架台2に固定した後でも、緩衝体12を柱状体3に装着することが可能となる。これにより、設置状況に応じた最適な材質や形態の緩衝体12を施工後に選択することができるので、変位力に対する高い緩和機能を確実に発揮させることが可能となる。又、衝撃吸収の結果、緩衝体12が変形したり損傷を受けたりしたときに、これを交換するのが容易である。
[第4の実施の形態]
図4は、本発明の第4の実施の形態による橋梁の変位制限装置の構成部材を分解して示す図であり、
図5は、本発明の第4の実施の形態による橋梁の変位制限装置の構成を一部断面して示す図である。
【0048】
図4を参照して、本例の変位制限装置1Dは、橋脚Fに固定される架台2、橋桁Gに固定される変位拘束部材4、架台2に固定される柱状体3、架台2と変位拘束部材4との間に配置される補強支持体11、柱状体3の側壁に装着される緩衝体12、ワッシャ7、スペーサ8、及び、固定ナット9を備える。
【0049】
本例の架台2は、中央部に配設された雌ねじを形成したナット部2aと、ナット部2aを囲むように形成した起立壁2bと、起立壁2bの外面に設けられた補強用のリブ2cとを有する。架台2は、橋脚Fに埋設したアンカーボルト5aとナット5bとで、橋脚Fの上面に固定される。
【0050】
本例の柱状体3は、基端側の周面及び先端側の周面それぞれに雄ねじを形成した第1のボルト部3a及び第2のボルト部3bが設けられる。又、先端付近には、螺合させた固定ナット9の脱落防止用のピンを挿通させるための開孔3cが形成されている。
【0051】
図5を参照して、本例の変位制限装置1Dは、架台2がアンカーボルト5a及びナット5bによって橋脚Fの上面に固定され、変位拘束部材4がボルト6a及びナット6bによって橋桁Gに固定される。柱状体3は、基端側の第1のボルト部3aをナット部2aに螺合させることによって架台2に固定されると共に、先端側が変位拘束部材4の第1の貫通孔4aに挿通される。又、架台2と変位拘束部材4との間に配置される補強支持体11が、第2の貫通孔11aに柱状体3を挿通させた状態で、架台2の起立壁2b上端に溶接等により固着される。そして緩衝体12が、補強支持体11と柱状体3の先端との間の領域において、柱状体3と第1の貫通孔4aとの間に配置されるように、柱状体3の側壁に装着される。さらに、変位拘束部材4の上面側において、ワッシャ7及びスペーサ8を介し、固定ナット9が柱状体3の第2のボルト部3bに螺合されて締め付けられる。柱状体3に螺合させた固定ナット9は、地震等で橋梁に垂直方向の荷重が作用したときに、橋桁Gが橋脚Fに対し上方へ変位するのを阻止する機能を発揮することができる。
【0052】
本例の変位制限装置1Dにあっては、緩衝体12が、補強支持体11と柱状体3の先端との間の領域に配置される。そこで、このような配置を確実に得るため、
図4に示すように、第1の貫通孔4aの孔径d1が、緩衝体12の外径d3よりも大きく設定されると共に、第2の貫通孔11aの孔径d2は、緩衝体12の外径d3よりも小さく設定される。このように設定すれば、緩衝体12を着脱可能とした場合に、簡単且つ確実に、緩衝体12を柱状体3の適切な位置に装着することができる。又、緩衝体12を着脱自在とすることにより、地震の発生後等に緩衝体12の状態を点検しやすくなり、万一損傷した場合には、容易に交換することができる。
【0053】
本例では、補強支持体11を設けたことによる効果(第2の実施の形態参照)及び緩衝体12を設けたことによる効果(第3の実施の形態参照)に加えて、緩衝体12を柱状体3の全長に渡って装着する必要がなくなるから、緩衝体12の必要長さを短くして、緩衝体12に要するコストの削減を図れるという利点が得られる。
[第5の実施の形態]
図6は、本発明の第5の実施の形態による橋梁の変位制限装置を概略的に示す斜視図であり、
図7は、本発明の第5の実施の形態による橋梁の変位制限装置の構成部材を分解して示す図であり、
図8は、本発明の第5の実施の形態による橋梁の変位制限装置の構成を一部断面して示す図である。
【0054】
本実施の形態は、橋桁Gに架台21を固定し、橋脚Fに変位拘束部材22を固定して、変位制限装置1Eを構成したものである。従って、本例の架台21は、柱状体30を橋桁Gの下面側に垂下状態で固定するためのブラケットとして機能する。
【0055】
図7を参照して、本例の変位制限装置1Eは、橋桁Gに固定される架台21、橋脚Fに固定される変位拘束部材22、架台21に固定される柱状体30、柱状体30の側壁に装着される緩衝体26、ワッシャ24、スペーサ25、及び、固定ナット31を備える。
【0056】
本例の架台21は、中央部に雌ねじを形成したナット部21aが配設され、例えば橋桁Gの底辺部20の下面側にボルト16a及びナット16bで固定される。尚、底辺部20の上面側に配置した補助板17と架台21とで底辺部20を挟みつけるように構成して、ボルト16a、ナット16bによる締め付け力を均等分散させるようにしてもよい。
【0057】
本例の柱状体30は、基端側の周面及び先端側の周面それぞれに雄ねじを形成した第1のボルト部30a及び第2のボルト部30bが設けられる。又、先端付近には、螺合させた固定ナット31の脱落防止用のピンを挿通させるための開孔30cが形成されている。
【0058】
本例の変位拘束部材22は、橋脚Fの側面に固定されるブラケット23の一部として構成される。このブラケット23は、橋脚Fの側面に、アンカーボルト15aとナット15bとで固定される基板部23aと、基板部23aに対し垂直に突設された補強リブ23bとを有し、これらの上端部に、橋脚Fの側面から水平方向に延びる張り出し部22bと第1の貫通孔22aとを備える変位拘束部材22が一体に設けられたものである。
【0059】
図8を参照して、本例の変位制限装置1Eは、架台21がボルト16a及びナット16bによって橋桁Gの下面に固定され、変位拘束部材22を備えるブラケット23がアンカーボルト15a及びナット15bによって橋脚Fに固定される。柱状体30は、基端側の第1のボルト部30aをナット部21aに螺合させることによって架台21に固定されると共に、先端側が変位拘束部材22の第1の貫通孔22aに挿通される。そして緩衝体26が、柱状体30と第1の貫通孔22aとの間に配置されるように、柱状体30の側壁に装着される。さらに、変位拘束部材22の下面側において、ワッシャ24及びスペーサ25を介し、固定ナット31が柱状体30の第2のボルト部30bに螺合されて締め付けられる。地震等で橋梁に垂直方向の荷重が作用すると橋桁Gが橋脚Fに対し上方へ変位するおそれがあるが、柱状体30に螺合させた固定ナット31は、この上方変位を阻止する機能を発揮することができる。
【0060】
本例の変位制限装置1Eにあっては、橋桁Gの下面に架台21を固定し、橋脚Fの側面に水平方向に延びる変位拘束部材22を設ける構成としたので、橋桁Gと橋脚Fとの間の間隙寸法が小さいために第1-第4の実施の形態の構成では適応できない場合に、変位制限装置の設置が可能となるという利点を有している。
[その他の実施の形態]
以上説明した実施の形態にあっては、変位制限装置を橋脚と橋桁との間に設置するものとしたが、本発明の変位制限装置は、橋台と橋桁との間にも同様に設置することができるものである。
【符号の説明】
【0061】
F…橋脚
G…橋桁
S…支承
1A、1B、1C、1D、1E…変位制限装置
2…架台
2a…ナット部
3…柱状体
3a…第1のボルト部
3b…第2のボルト部
4…変位拘束部材
4a…第1の貫通孔
4b…張り出し部
11…補強支持体
11a…第2の貫通孔
12…緩衝体
d1…第1の貫通孔の孔径
d2…第2の貫通孔の孔径
d3…緩衝体の外径
21…架台
21a…ナット部
22…変位拘束部材
22a…第1の貫通孔
22b…張り出し部
23…ブラケット
26…緩衝体
30…柱状体
30a…第1のボルト部
30b…第2のボルト部
尚、各図中同一符号は同一又は相当部分を示す。