(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-12
(45)【発行日】2023-07-21
(54)【発明の名称】遠心脱水機の分離水排出装置
(51)【国際特許分類】
B04B 1/20 20060101AFI20230713BHJP
B04B 11/02 20060101ALI20230713BHJP
C02F 11/127 20190101ALI20230713BHJP
【FI】
B04B1/20 ZAB
B04B11/02
C02F11/127
(21)【出願番号】P 2019219687
(22)【出願日】2019-12-04
【審査請求日】2022-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】505279215
【氏名又は名称】株式会社広島メタル&マシナリー
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【氏名又は名称】藤本 信男
(72)【発明者】
【氏名】上刎 正士
(72)【発明者】
【氏名】藤嶋 宏治
(72)【発明者】
【氏名】平田 大介
(72)【発明者】
【氏名】平野 勝也
(72)【発明者】
【氏名】北風 俊哉
【審査官】谷本 怜美
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-179472(JP,A)
【文献】特開2014-091077(JP,A)
【文献】特表2013-545602(JP,A)
【文献】特開昭57-021955(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B04B 1/00-15/12
C02F 11/00-11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理液を内部に保持し回転するボウルと、前記ボウルと差速をもって回転することでスラリー中の固形物を装置外に移動させるスクリューコンベアとを有する遠心式脱水機の前記ボウルから排出される分離水の排出口に設置される分離水排出装置であって、
回転と逆方向に前記分離水を流出させる構造の部品である排水吐出部材と、
回転方向に開口した空気入口と回転の逆方向に開口した空気出口を有し、内部を空気が流れる構造体である空気ガイド部材とを有し、
前記空気ガイド部材は、前記ボウルの回転に伴う前記空気ガイド部材の運動により、内部で前記空気入口から流入した空気を圧縮し、前記空気出口から吐出して分離水に噴射する構造であ
り、
前記空気ガイド部材は、前記排水吐出部材よりも回転中心基準において外周側に設置され、
前記空気出口における空気の排出方向が、前記空気出口の内周側における回転円周の接線方向に対して中心方向に傾斜し、前記排水吐出部材から排出される分離水に前記空気出口から排出された空気を当てる構造であることを特徴とする遠心脱水機の分離水排出装置。
【請求項2】
空気ガイド部材は、中空の管状構造であり、
前記空気入口での回転方向に垂直の面を基準とする開口面積が、前記空気出口での回転方向に垂直の面を基準とする開口面積の2倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の遠心脱水機の分離水排出装置。
【請求項3】
前記空気入口から前記空気出口までの間で、前記空気出口の内周側の位置(A)と空気出口の外周側の位置(D)を結ぶ長さを基準長さとした時、空気出口の内周側の位置(A)から回転方向に基準長さの2倍の位置の回転方向に垂直線を2倍基準線とし、 前記空気出口の内周側の位置(A)と、前記2倍基準線の内周側の位置(B)とを結ぶ線を内周線(AB)とし、
前記内周線(AB)が、前記空気出口の内周側における回転円周の接線方向となす角度を内周線角度とし、
前記空気出口の外周側の位置(D)と、前記2倍基準線の外周側の位置(E)とを結ぶ線を外周線(DE)とし、
前記外周線(DE)が、前記空気出口の外周側における回転円周の接線方向となす角度を外周線角度とした時、
前記内周線角度と外周線角度の平均値が40度以下であることを特徴とする
請求項1又は2に記載の遠心脱水機の分離水排出装置。
【請求項4】
空気ガイド部材に内包される位置に、前記排水吐出部材が設置されており、
前記排水吐出部材は、その内部において分離水と前記空気ガイド部材中の空気流が接触しない構造であり、
前記排水吐出部材の少なくとも内周側と外周側から、前記排水吐出部材から排水される分離水を挟む状態で空気を吐出する構造であることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の遠心脱水機の分離水排出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の装置は、水や溶媒中に懸濁する粒子を遠心分離し、清浄水(分離水)と粒子を多く含む分離物(脱水ケーキ)に分ける遠心式脱水機の付属装置であり、分離水の排出口に設置されるものであり、遠心脱水機の駆動動力の省エネルギーに関わる。
【背景技術】
【0002】
遠心分離装置は、酸化物や金属粉の無機系スラリー(液体と微粉粒子の流動性のある混合物)や建設汚泥、下水汚泥などの脱水処理に用いられる汎用的な脱水機である。遠心脱水機は、
図1に示すように、処理原液を貯留する外筒(ボウル)と遠心力により外筒中に蓄積した粒子比率の高い層を排出部方向に搬送するスクリューコンベアが設置されている。
遠心分離によって、清浄化された分離水は、遠心分離装置の一端に設置されている複数の排水口から装置外に排出される。また、脱水ケーキは他方の端からスクリューコンベアにより装置外に押し出されて排出される。
【0003】
このような遠心脱水装置は、無機系粒子として微細な酸化鉄粉、酸化アルミニウム粉などの工業原料のスラリーの脱水や、建設汚泥や工業廃水の汚泥の脱水処理に用いられている。また、下水汚泥やし尿汚泥のような有機系汚泥の脱水処理にも用いられている。有機系汚泥の脱水処理を処理する場合は、汚水に凝集剤を添加することで、有機物のフロックを形成して、沈殿しやすくする処理を行うことが一般的である。
【0004】
これらスラリー・汚泥の処理には、10,000~35,000m/s2程度の高遠心力を作用させることで、ボウルの内部面に比較的比重の大きい粒子やフロックを沈殿させる。ボウル内面に沈降した粒子又はフロックをスクリューコンベアで移動させ、最終的には、ケーキ排出口から排出する。なお、ボウルに対してスクリューコンベアを1~20回転/分の差速を作って、沈降した粒子又はフロックをゆっくり移動させる機構がある。差速を作る装置としては、油圧式差速機とギア式差速機がある。粒子又はフロックを分離した水(液体)は、粒子又はフロックを排出する方向とは逆方向の端に設置された複数の排水口から排出される。ボウル内面に液を保持し、かつある程度の深さが必要であることから、この排水口はボウル内面よりも回転軸に近い位置に設置されている。
【0005】
十分な遠心力を得るために、ボウルは2,000~3,500回転/分の速度で回転する。このように、遠心脱水機は、ボウル、スクリュー、および付帯装置を高速回転させる。したがって、遠心脱水機は、処理のために比較的多くの電力を消費する。消費する電力は、装置全体の回転抵抗エネルギー(回転支持部の摩擦、空力的抵抗など)、供給されたスラリーを静止状態から増速するエネルギー、装置外に脱水ケーキを排出するエネルギー、装置外に分離水を排出するエネルギー、差速を作るエネルギーロス等に消費される。これらのエネルギーロスの内、回転抵抗エネルギーが最も大きく、全体の30~40%を占めている。また、スラリーを静止状態から増速するエネルギー、差速を作るエネルギーロス、及び分離水を装置外に排出するエネルギーも各々10%以上の比率であり、比較的大きな部分を占めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-158309号公報
【文献】特許5101688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、処理コスト低減やCO2排出量削減のために、遠心脱水機の省電力が求められている。これに対応するために、種々の技術が発明されてきている。従来型のデカンター式遠心脱水機では、ボウルの脱水ケーキ排出部に近い部分の直径が小さくなっており、このテーパー部分で、脱水ケーキを掻き上げることで、徐々に水切りをして、脱水ケーキを排出する構造となっている。これに対して、特許文献1に記載の方法では、ボウルの直径を全長にわたって同一にして、遠心力を最大化することと、脱水ケーキを圧縮する構造として、ボウル容積当りの脱水力を高めて、その分、ボウル直径を小さくすることで、ボウル回転のエネルギーを下げることや、遠心力(ボウル回転数)を下げることでも、同等の脱水力を維持し、そのことにより省電力を達成する装置が記載されている。この装置では、駆動の全動力の20~25%が低減されている。
【0008】
また、装置外に排出される際の分離水の速度は30~50m/sであり、その運動エネルギー(分離水運動エネルギー、速度の二乗に比例)は、分離水量当たり450~1200kJ/m3である。このように、分離水速度を低減することによる省エネルギー効果は大きい。これを低減する技術として、特許文献2に記載の装置がある。この発明では、特殊な形状の排水ガイド部材を用いて、分離水を回転方向と逆方向に吐出させる。この方法により、吐出後の分離水の運動速度を排水口の運動速度よりも低下させることで、分離水運動エネルギーを低下することができると記載されている。この際に、排水口に水流を制御する装置を設置することで、分離水の吐出方向を適正な角度にすることで、エネルギー削減ができることを記載している。
【0009】
特許文献2に記載の装置を排水口に設置することで、分離水の回転方向への移動速度(静止空間に対する速度)を排水口の移動速度よりも遅くすることで、分離水の運動エネルギーを低減することができる。ただし、遠心分離機の排水口での吐出圧力は小さいことから、特許文献2の装置では、排水口の移動速度に対する分離水の移動速度の差は大きくない。その結果、分離水の移動速度を約5~10%低減にとどまり、その分の運動エネルギーが低減できるが、それは分離水運動エネルギーの10~20%程度の削減にしかならない。
【0010】
分離水運動エネルギーの徹底した削減のためには、排水口位置での分離水の移動速度を本来の速度の60%以下、可能であれば0にできると、大きな省エネルギーとなる。しかしながら、特許文献2に記載方法では、ただ単に、分離水の排出方向を回転とは逆方向に変えるだけであり、減速のための追加の力が掛からないため、分離水の移動速度をこの以上の減速することが不可能であった。
【0011】
特殊な装置を用いて、分離水を減速する考えもある。例えば、排水口の近傍に、高圧水の吐出口を設けて、分離水を加速させることも可能であるものの、そのための加圧ポンプや配管などの付帯装置が必要であり、装置自体が複雑で高価なものとなってしまう欠点がある。したがって、従来技術による装置においては、簡便な装置で分離水の運動エネルギーを徹底的に低減することができておらず、新しい技術による装置が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明の分離水排出装置は、
図1又は
図2の例に示されるように、処理液を保持し高速回転するボウル3とボウル3と差速をもって回転することでスラリー中の固形物を装置外に移動させるスクリューコンベア軸4とフライト5から構成されるスクリューコンベアを有する遠心式脱水機に装備される分離水の排出装置である。
本発明の分離水排出装置は、ボウル3から排出される分離水の排出口10に設置され、分離水を流出させる部品である排水吐出部材13と空気を圧縮して噴き出す空気ガイド部材14から構成される。排水吐出部材13からは回転と逆方向に前記分離水を流出させる。空気ガイド部材14は回転方向に開口している空気入口と回転と逆方向に開口している空気出口を有し、内部を空気が流れる構造体である。空気ガイド部材14は、ボウル3の回転に伴う空気ガイド部材14の運動により、空気ガイド部材14の内部において、前記空気入口から流入した空気を圧縮して前記空気出口から吐出させて、排水吐出部材13から流出した分離水に当てる構造となっている。
また、空気ガイド部材14が排水吐出部材13の回転軸基準で外周側に設置されて、空気ガイド部材14の空気出口における空気の排出方向が、空気出口の内周側における回転円周の接線方向に対して中心方向に傾斜し、排水吐出部材13から排出される分離水に前記空気出口から排出された空気を当てる構造である。
【0013】
(2)また、空気ガイド部材14は中空の管状構造であり、空気入口での回転方向に垂直な面を基準とする開口面積が、空気出口での回転方向に垂直な面を基準とする開口面積の2倍以上である。
【0015】
(3)また、(1)又は(2)の装置であって、 前記空気入口から前記空気出口までの間で、前記空気出口の内周側の位置(A)と空気出口の外周側の位置(D)を結ぶ長さを基準長さとした時、空気出口の内周側の位置(A)から回転方向に基準長さの2倍の位置の回転方向に垂直な断面を2倍基準面とし、前記空気出口の内周側の位置(A)と、前記2倍基準面の内周側の位置(B)とを結ぶ線を内周線(AB)とし、前記内周線(AB)が、前記空気出口の内周側における回転円周の接線方向となす角度を内周線角度とし、前記空気出口の外周側の位置(D)と、前記2倍基準面の外周側の位置(E)とを結ぶ線を外周線(DE)とし、前記外周線(DE)が、前記空気出口の外周側における回転円周の接線方向となす角度を外周線角度とした時、前記内周線角度と外周線角度の平均値が0度以下である。
【0016】
(4)(1)又は(2)の装置であって、空気ガイド部材14に挟まれるか内包される位置に、排水吐出部材13が設置されており、排水吐出部材13は、その内部において分離水と空気ガイド部材14中の空気流が接触しない構造であり、排水吐出部材13の少なくとも内周側と外周側から、排水吐出部材13から排水される分離水を挟む状態で空気を吐出する構造である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の遠心脱水機の分離水排出装置を用いることにより、遠心脱水機の消費動力を低減でき、水処理における消費エネルギーを低減できる。駆動モーター電力消費削減効果は、遠心脱水機の総動力の5~15%である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の分離水排出装置が適用される遠心脱水機の一例を示す図であり、ボウルにテーパーがあるものである。
【
図2】本発明の分離水排出装置が適用される遠心脱水機の一例を示す図であり、ボウルにテーパーがないものである。
【
図3】本発明の分離水排出装置の設置状態を示す概略図である。
【
図4】本発明の分離水排出装置の構成を示す図である。
【
図5】本発明の分離水排出装置の第一の例(Aタイプ)を示す図であり、左右の図は斜めから見た図で、中央の図は、側面図である。
【
図6】本発明のAタイプの装置における分離水と空気の流れを示す図である。
【
図7】本発明の分離水排出装置の第二の例(Bタイプ)を示す図であり、左右の図は斜めから見た図で、中央の図は、側面図である。
【
図8】本発明の分離水排出装置での入口と出口の面積比のモーター動力に対する影響を示す図である。
【
図9】第一の例の分離水排出装置での吐出空気方向のモーター動力に対する影響を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の装置を設置する遠心脱水機は、
図1又は
図2を代表例とする以下の構造の装置である。処理水を保持するボウル3が、駆動モーター1で駆動される回転軸2に接続されている。処理水は、導入パイプ6から給水室7を経緯して、スラリー供給口8からボウル3の内部に供給される。10,000~35,000m/s
2の高い遠心力を発生するためにボウル3は2000~3500回転/分(rpm)の高速回転をしており、高い遠心力がボウル3にかかることで、処理水はボウル3の内面に保持される。処理水中の固形分や、事前処理等で凝集剤により集合したフロックは遠心力により脱水ケーキとしてボウル3の内面上に滞積する。スクリューコンベア軸4はボウル3に対して1~20回転/分の差速をもって、回転している。なお、この差速は油圧差速装置又は差速ギアを用いて作る。前記脱水ケーキは、スクリューコンベア軸4の回転によって、フライト5に押されて、脱水ケーキ排出口9に向けて搬送される。分離水は、排水側側板11に設置されている排水口10から装置外に排出される。基本的に、分離水はボウル3の内面に張り付いており、排水口10からオーバーフローすることで、装置外に排出される。
【0020】
図1に記載の遠心脱水機では、ボウル3の直径は、脱水ケーキ排出側で直径が小さくなるテーパーが付いている。脱水ケーキは、テーパー部でボウル3の内部に貯まった水から引き上げられて、水切りされる。このような形式の遠心脱水機が一般的であるが、
図2に示す遠心脱水機のように、このようなボウルにテーパー部がなく、スクリューコンベア軸にテーパーがある直胴式のボウルを持つ遠心脱水機もある。本発明の分離水排出装置は、上記のいずれの形式、または、これらに上記の構造に類似の遠心脱水機であれば、適用可能である。横置きの遠心脱水機であっても、縦置きの遠心脱水機であっても、本発明の装置を設置することは可能である。
【0021】
図1及び2に示されるように、本発明の分離水排出装置12は排水口10に設置される。また、遠心脱水機回転軸の正面方向から、本発明の装置の排水側側板11を見た図が
図3である。
図3の例では、排水口10は4式あり、各々の排水口10に分離水排出装置12が設置される。また、
図4に示す例のように、本発明の装置である分離水排出装置12は、分離水を流出させる部品である排水吐出部材13と、空気入口と空気出口を有し内部を空気が流れる構造の管状構造体である空気ガイド部材14から構成される。これが取付座15に設置されている。
【0022】
本発明の装置は、
図4に示した例のような構成であり、分離水排出装置12の回転に伴い、空気ガイド部材14の内部で圧縮された空気流を排水吐出部材13から流出した分離水に吹き付ける構造であり、この機能を有するものであれば、どのような形式でもよい。排水吐出部材13は、分離水を回転とは逆方向に流す構造であり、排水口10からオーバーフローしてくる分離水を受け止める。分離水は、回転方向とは逆方向において、ほぼ回転の接線方向を向いて排出される。分離水を回転の逆方向に吐出することにより、分離水の空間に対する速度を低減でき、その分、分離水の運動エネルギーを低減できる。なお、ただ単に前記分離水出口から分離水を回転方向に逆に吐出するだけでは、分離水の速度は5~10%程度しか低減しない。これは、排水口10においては、分離水はオーバーフローするのみであり、加圧状態で排出されるものではないため、流出速度は小さい。従って電力削減効果も、分離水の運動エネルギーの10%以下、全モーター動力の2~3%しか低減できない。本発明では、このように排出された分離水に、更に空気ガイド部材14からの空気を吹き付けて、分離水速度をいっそう減速する装置構成である。以下、簡便な構造に特徴のある装置例である、排水吐出部材13と空気ガイド部材14とが一体化したAタイプとBタイプの構成の装置の例を説明するが、上記の機能を発揮できれば、基本的には構造的な制約はなく、
図4に示すように、排水吐出部材13と空気ガイド部材14が独立したものであってもかまわない。
【0023】
本発明の装置の基本機能を
図5に示すAタイプの装置で説明する。Aタイプでは、排水吐出部材13と空気ガイド部材14が一体化したものである。
排水吐出部材13は、分離水ガイド板18、空気・分離水仕切板17、取付座15、及び横板23によって構成され、空気ガイド部材14とは空気・分離水仕切板17によって仕切られた構造となっている。空気ガイド部材14は空気ガイド板16、空気・分離水仕切板17、取付座15、及び横板23によって構成される。空気ガイド部材14の内部において、ボウル3の回転に伴う空気ガイド部材14の運動により、空気入口19から流入した空気を圧縮することで、空気を回転方向に対して後方に吹き付け、さらに分離水を減速させる。Aタイプの装置での分離水と空気の動きを
図6に示す。本発明の装置では、以上の機能を発揮できれば、構造的な制約はないが、空気ガイド部材14は管状構造であり、空気入口19の面積に対して、空気出口20の面積が小さい構造である。
【0024】
回転による圧縮により、空気出口20から吐出した空気と空気ガイド部材14との相対速度を増速させ、吐出された空気を排水吐出部材13の分離水出口22から排出された分離水に当てる。具体的には、
図6に示すように、回転方向に向かって開いている空気入口19から入る空気の通路が空気出口20に向けて狭まる構造とすることで、空気を圧縮して流速を増加させる。
制作のしやすさ、空気の乱れによる効率低下の防止のためには、空気ガイド部材14の内部構造はシンプルなことが良い。
図4には、取付座15と横板23が平行な面であり、空気ガイド板16と空気・分離水仕切板17の面間隔が直線的に狭まる空気ガイド部材14の構造例が示されている。ただし、内部構造は空気の流れを大きく乱すほどの複雑なものでなければよく、例えば、
図6に示すように、上下面が曲面で構成されているものや複数の平面又はでもよい。また、空気ガイド部材14の左右面(
図5においては、取付座15と横板24)が平行でない構造でも良い。
【0025】
空気ガイド部材14の構造的要件としては、空気入口19での回転方向に垂直の面の面積(S1)と空気出口20での回転方向に直角面の面積(S2)の比(S1/S2)が重要である。
図4では、空気入口19と空気出口20の幅同一な例として示すものであり、この場合は、S1/S2は各々の高さの比で示すことができる。
図5のような空気入口が単純な形状でない場合は、横板23が、空気ガイド板16と空気・分離水仕切板17と交わる点である、
図5中の点Cと点Fを結ぶ垂直線(空気入口の垂直線28)で代表される面積で表現する。つまり、本発明では、回転接線から透視した空気入口19の開口部面積で定義する。
【0026】
空気出口20から吐出する空気の空気ガイド部材14との相対速度と空気ガイド部材14の速度の比(以下、速度比と称する)は、S1/S2に強く影響され、S1/S2が小さい値である場合は、ほぼS1/S2に比例する。本発明では、この加速比率の指標であるS1/S2を2以上とすることが良い。これはS1/S2が2であれば、加速後の空気の速度が空気ガイド部材14基準に対して、回転と逆方向に1倍、つまり静止空間基準でほぼ0となるため、空気出口20から吐出した空気は分離水を減速させる効果を大きくすることができる。なお空気と空気ガイド部材14の速度比が2以下では、静止空間基準で空気が回転方向に移動している状態である。この条件では、分離水を減速させる効果は小さい。一方、この速度比が2以上であれば、空気出口20から吐出された空気の速度は、静止空間基準で回転と反対方向に移動する。この結果、分離水を減速させる効果が大きくなる。S1/S2が3以上であれば、空気出口20から吐出した空気は、優位な速度差をもって回転と逆方向に向けて移動できるため、分離水の減速効果が大きい。
【0027】
更に分離水と空気の運動量の関係を考慮した場合も同様の条件が得られる。空気ガイド部材14での空気加速の条件は、以下の条件を考慮する必要がある。遠心脱水機のボウル3側面での機械的取り合い条件から、空気入口19の面積は5~20平方センチメートルとなる。30~40m/秒で移動している空気ガイド部材14を通過する空気量は54~290立方メートル/時で、約70~380kg/時である。例えば、10立方メートル/時の処理能力の遠心脱水機では、通常4個の排水口9が設置されている。つまり排水口9当りの排水量は約2立方メートル/時(2000kg/時)であり、空気質量の約7~20倍である。この質量比率から考えると、分離水の速度を20%以上低下させるためには、空気は最低で回転速度の2~3倍以上の対分離水速度差を持っていることがより良い。従って、本発明の範囲は、前出の静止空間との速度要件と同様に、分離水加速のための条件においても、好ましくはS1/S2は2以上であり、いっそうのエネルギー削減には、3以上が更に好ましい。
【0028】
一方、空気ガイド部材14での空気圧縮率(空気入口19と空気出口20の面積比、S1/S2で評価)を過剰に大きくすることは、空力抵抗が大きくなる問題が起きる。S1/S2が4~6以下(ボウル3の周速度に影響される値で適正値に幅がある)までは、ほぼ空気圧縮率に比例するが、これ以上では、条件によるが、空気ガイド部材14の対気速度が音速の0.6~0.7倍以上となり、圧縮性流体である空気は動的効果による圧縮により内部に流れる空気量が減少していく、この結果、空気出口20での気速は頭打ちされてしまい、空気ガイド部材14の空気抵抗だけが増加する。この結果、分離水を減速する効果に対して、空力抵抗増加の影響の方が大きくなるため、S1/S2が大きすぎる場合も、効果が減少することが予想された。
【0029】
これらの原理を経験的に評価するために、本発明者らは種々の実験を実施した。本発明者らの実験では、S1/S2が2まではS1/S2が増加するに従い効果もほぼ比例して大きくなり、3までは明確に増加傾向にある。一方、S1/S2が3から6程度までは、分離水の減速効果と空力的抵抗の増加影響が相殺されて、駆動動力の減少比率が小さくなる傾向を示し、8を超えると6前後と同等と又は効果が減少する傾向になり、10以上では、動力低減効果が減少していることが分かった。従って、S1/S2は2以上が良いが、より良好な範囲は2~10であり、最も望ましくは3~10である。
【0030】
空気ガイド部材14から吐出される空気の流れの方向にも適正な範囲がある。空気が当たる角度が回転の接線と平行であると、分離水の水流に効果的に当たらず、分離水の減速効果が小さい。一方、空気が当たる角度が回転の接線と大きな角度で当たると、分離水の水流が散ってしまい、一部のみが減速されることから、これも効果が小さい。本発明者らが行った実験では、空気ガイド部材14から吐出される空気の角度は、回転の接線に対して、回転中心側に向けて40度以下の角度で傾斜している場合に適正な効果が得られる。また特に、10~40度である場合に、良い結果が出る。
【0031】
本発明者らの実験では、空気ガイド部材14の吐出空気の角度は、以下のように決めることが実験結果と一致することを見出した。以下、
図6に記載される図を用いて説明する。
空気ガイド部材14の空気ガイド板16の空気出口20での位置(空気出口の外周側の位置:点D)と、空気出口20の回転方向に垂直な方向で空気・分離水仕切板17に接する点(空気出口の内周側の位置)である点Aにおける幅(
図5中の点Aと点Dを結ぶ線「空気出口の垂直線29」の長さ)を基準長さとする。基準長さの2倍の長さを回転接線方向に移動した点から垂直に引いた線(
図5に記載の「基準長さ位置での回転接線との垂直線(2倍基準線)30」)と接する空気・分離水仕切版17の位置(点B)と空気ガイド板16の位置(点E)を決める。点Aと点Bを結ぶ線(内周線)の回転接線に対する角度(内周線角度)と点Dと点Eを結ぶ線(外周線)の回転接線に対する角度(外周線角度)の平均角度を空気吐出角度とする。この空気吐出角度と実際の空気の流れの角度を比較した結果、両者はよく一致することが分かった。空気出口20、空気ガイド板16、及び空気・分離水仕切版17の形状が複雑な場合は、
図5における断面方向の平均値を採用すると良い。
【0032】
また、分離水と吐出空気を効率的に接触させるためには、排水吐出部材13の分離水の吐出方向にも最適値がある。分離水の減速効果を大きくするためには、分離水の吐出方向は、回転の接線に対して、回転の中心側又は外側に20度以内、かつ排水側側板11に対する角度は25度以内が良い。回転の接線に対して、回転の中心側に20度以上の角度があると、吐出空気の当たる角度が浅くなり、効果が小さくなる、また、回転の外側に20度以上の角度があると、吐出空気との衝突角度が大きくなり、分離水が散ってしまい、効果が小さくなる。排水側側板11に対する角度は25度以上では、水に当たる周辺空気との接触があり、吐出空気の速度の影響が小さくなる。
【0033】
次に、
図7の例を用いて、Bタイプの装置の構造と機能を説明する。Bタイプでは、空気ガイド部材14は、空気ガイド外板24、空気ガイド内板25、取付座15、及び横板23によって囲われた構造になっており、
図7での上下(回転中心に対して内外)に分かれている。排水吐出部材13は
図7中の上下一対の空気・分離水仕切板17によって空気ガイド部材14と分離されており、排水吐出部材13は、その内部の分離水と空気ガイド部材14中の空気流が接触しない構造である。空気ガイド部材14の内側には、排水吐出部材13の周囲に空気が通過できる空間があり、空気ガイド部材14の内部に、排水吐出部材13上下(下は回転中心向いて内側、上は外側である)に空気の流路がある。
【0034】
排水吐出部材13の分離水出口22から流出する分離水に当てるように、空気ガイド部材14からの空気流を上下(回転軸に向かう方向と離れる方向)から回転とは逆方向の回転接線に向けて流す。また、
図7の例では排水吐出部材13から流出した処理水を上下に空気を流しているが、排水吐出部材13の横板23の方向からも包むように流しても良い。空気出口20からの空気流れにより、分離水がボウル3に固定された座標基準で回転後方に加速される。その結果、分離水は静止空間に対して減速する。
図6では、分離水出口22が空気出口20よりも突出しているが、分離水出口22と空気出口20が同一面上にあること、やや空気ガイド部材14の内部であっても良い。空気の圧縮率については、Aタイプの装置と同様であり、その基礎となる値のS1/S2の定義も同じである。ただし、Bタイプの場合は、この式に使う面積は、入口、出口ともに総面積である。空気流と分離水流の方向は、回転接線から15度程度までであれば、傾いていても良い。
【実施例】
【0035】
図2に示される型式の遠心脱水機に、
図4と
図6に示される形式(AタイプとBタイプ)の分離水排出装置12を設置して、脱水処理の実験を行い、モーター動力低減効果を調査した。なお、脱水機の仕様は表1に示されるものである。遠心脱水機の標準処理能力は10立方メートル/時であった。
【表1】
【0036】
実験での運転条件は、軸回転数3,100rpmで、ボウル3の内面での遠心力が2,350G(23,000m/s2)であり、分離水排出装置12の位置での周速度は33m/sであった。処理水量は10m
3/時であった。本発明者らの実験では、複数の形状のAタイプ(A-1~A-11)とBタイプ(B-1~B-4)で運転した。分離水排出装置12の仕様と実験結果を表2に示す。
【表2】
【0037】
Aタイプの実験では、まず、実施例1~6において、空気ガイド部材14での空気の圧縮率(入口・出口の面積比で定義、S1/S2で表示)の影響を調査した。モデルA-1~A-6では、水流方向が回転の接線方向であり、また吐出空気の吹付け方向は20度で、S1/S2が1.6~9.8であった。モーター動力低下は、S1/S2が1.6では5%、S1/S2が2.6~7.8では14~20%で、S1/S2が9.8では13%であった。
図8に示すように、モーター動力低減効果はS1/S2が2~10の条件が良く、特に3~10が更に良く、最も良かったのは3~8であった。
【0038】
次に、モデルA-4のS1/S2を基準として、実施例7~10で空気の吹付け方向を回転接線から7.5~45度の角度で傾けた実験を行った。この結果を
図9に示す。7.5度や45度であっても、ある程度の効果があるが、
図8から判断すると、40度以下の角度の範囲が良好であり、更に10~35度であれば、更に良好である。なお、吐出空気の吹付け角度(表2の平均角度)は、前述の定義に従って求めたものである。
【0039】
次に、空気ガイド部材14の側面が直線的でないものの例として、モデルA-7の実験結果を実施例11として示す。モデルA-11の空気ガイド部材14は
図6に示されるものであり、空気出口20の周辺が膨らんだ形状をしている。モーター動力の低減効果は実施例3,4などとほぼ同等であった。
【0040】
また、モデルA-4a~A-4cでは、A-4と同じ空気ガイド部材14を用いて、排水吐出部材13の分離水の排出方向を回転内側に15度、回転外側に15度(表2には、-15度と記載)傾けた実験結果を実施例12、13として示す。また、分離水の流出方向を排水側側板11に対して30度傾けた実験結果を実施例14として示す。いずれの条件でも、モーター動力は低減されたが、実施例4と比較すると効果はやや小さかった。
【0041】
Bタイプの分離水排出装置12の運転結果を実施例15~19(B1~B5)として表2に示す。B-1~B-4では、
図5に記載の形状のBタイプの分離水排出装置12(空気流が排水吐出部材13の上下に流れるタイプ)の運転結果である。この形式の分離水排出装置12においても、モーター動力が低減されていた。S1/S2が4.5と7の実験結果が特に良かった。実施例19は、排水吐出部材13を空気ガイド部材14の内部に空気流れに平行な版に固定させた形式(B-5)のもので、排水吐出部材13の4面を空気が流れる形式のものである。この形式の装置であっても、他の型式の分離水排出装置12とほぼ同じ効果があった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の遠心脱水機の分離水排出装置は、下水やし尿処理水の固形分の分離・脱水処理、金属材料や無機原料の排水、反応液などに懸濁する微粒子を脱水・回収する処理、豆乳・酒類等の食品原料の脱水・分離水回収処理、建設汚泥の脱水処理、無機汚泥の脱水処理などに用いる遠心脱水機に設置して利用が可能である。
【符号の説明】
【0043】
1‥‥駆動モーター
2‥‥回転軸
3‥‥ボウル
4‥‥スクリューコンベア軸
5‥‥フライト
6‥‥導入パイプ
7‥‥給水室
8‥‥スラリー供給口
9‥‥脱水ケーキ排出口
10‥‥排水口
11‥‥排水側側板
12‥‥分離水排出装置
13‥‥排水吐出部材
14‥‥空気ガイド部材
15‥‥取付座
16‥‥空気ガイド板
17‥‥空気・分離水仕切板
18‥‥分離水ガイド板
19‥‥空気入口
20‥‥空気出口
21‥‥分離水入口
22‥‥分離水出口
23‥‥横板
24‥‥空気ガイド外板
25‥‥空気ガイド内板
26‥‥空気流れ
27‥‥分離水流れ
28‥‥空気入口の垂直線
29‥‥空気出口の垂直線
30‥‥基準長さ位置での回転接線との垂直線