IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭サナック株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-液体噴射装置 図1
  • 特許-液体噴射装置 図2
  • 特許-液体噴射装置 図3
  • 特許-液体噴射装置 図4
  • 特許-液体噴射装置 図5
  • 特許-液体噴射装置 図6
  • 特許-液体噴射装置 図7
  • 特許-液体噴射装置 図8
  • 特許-液体噴射装置 図9
  • 特許-液体噴射装置 図10
  • 特許-液体噴射装置 図11
  • 特許-液体噴射装置 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-12
(45)【発行日】2023-07-21
(54)【発明の名称】液体噴射装置
(51)【国際特許分類】
   B05B 1/34 20060101AFI20230713BHJP
   B08B 3/02 20060101ALI20230713BHJP
   B08B 3/12 20060101ALI20230713BHJP
【FI】
B05B1/34
B08B3/02 A
B08B3/12 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021534482
(86)(22)【出願日】2019-07-24
(86)【国際出願番号】 JP2019029014
(87)【国際公開番号】W WO2021014610
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000117009
【氏名又は名称】旭サナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】明永 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】中森 健太
(72)【発明者】
【氏名】境 郁哉
【審査官】青木 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-064979(JP,A)
【文献】特開平05-212317(JP,A)
【文献】実開昭55-153150(JP,U)
【文献】特開2005-205397(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01306136(EP,A1)
【文献】特開2001-044602(JP,A)
【文献】特開2010-129840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 1/00- 3/18;
7/00- 9/08
B08B 3/00- 3/14
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が流れる流路を有し、処理対象物に向かって前記液体を噴射するノズルと、前記液体を加圧して前記ノズルに供給する高圧ポンプと、を備える液体噴射装置であって、
前記流路が、前記液体に振動流を発生させるための振動発生流路を備え、
前記振動発生流路は、
第1流路と、
前記第1流路の下流側に連なり、前記第1流路よりも小さい内径を有する第2流路と、
前記第2流路の下流側に連なり、下流側に向けて内径が縮小する縮径部と、
を有し、
前記縮径部は、前記第2流路側に、前記第2流路よりも大きい内径の径大部を含み、
前記第2流路を区画する第2内周面と、前記第2内周面と前記第1流路を区画する第1内周面とを接続する段差面と、によって角が形成されており、前記高圧ポンプから供給された前記液体の流れに対して、前記第1流路から前記第2流路に流入する時に前記角部から剥離を生じさせ
前記第2流路が、前記角部から剥離した前記液体の流れが前記第2内周面に再付着する長さとされ前記角部と前記液体の流れが再付着する箇所との間において気泡を生じさせ、前記気泡の形成と放出と断続的に繰り返し、
前記縮径部が、前記径大部において前記気泡を集めて雲状の気泡雲を生じさせ、前記気泡雲を周期的に下流側に流すことによって、前記液体に振動流を発生させる、液体噴射装置。
【請求項2】
前記振動発生流路が、
前記第2流路の下流側に連なる加速流路を備え、
前記加速流路が、
前記液体を噴射する噴射口と、
前記噴射口側に位置し断面円形の直管状をなすストレート部と、
前記ストレート部に連なる前記縮径部とを備え、
前記ストレート部の軸方向の長さ寸法L1と直径寸法D1との比(L1/D1)が、7.8以上、15以下とされている、請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記第1流路において前記第2流路に隣接して配される部分の内径に対する前記第2流路の内径の比率が0.04以上0.8以下である、請求項1または請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
記段差面と前記第2内周面との角度が90°以上150°以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記高圧ポンプの加圧による前記ノズルからの噴射圧力が1MPa以上30MPa以下である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の液体噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、ノズル、および液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フラットパネルディスプレイや半導体ウエハなどの表面に高圧洗浄液を噴射して洗浄するための高圧噴射装置が知られている。このような高圧洗浄装置において、洗浄力を向上させることを目的として、超音波発生装置によって洗浄液に超音波を印加して噴射する技術が考案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-204480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のような構成では、洗浄ノズルに超音波発生装置を設けることが必要となり、装置構成が複雑化しがちであった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書によって開示されるノズルは、液体が流れる流路を有し、処理対象物に向かって前記液体を吐出するノズルであって、前記流路が、前記液体に振動流を発生させるための振動発生流路を備える。
【0006】
また、本明細書によって開示される液体噴射装置は、上記のノズルと、前記ノズルに接続されて前記ノズルに供給される前記液体を加圧する高圧ポンプと、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本明細書によって開示されるノズル、およびこのノズルを備える液体噴射装置によれば、ノズルが振動発生流路を備えているので、超音波発生装置等の振動流を発生させるための装置を別途設ける必要がなく、装置構成の複雑化を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態の洗浄装置の全体概略図である。
図2図2は、実施形態において、配管に接続されたノズルの断面図である。
図3図3は、実施形態において、振動発生流路の内部を液体が流れる様子を模式的に示す図である。
図4図4は、変形例のノズルの部分拡大断面図である。
図5図5は、振動周波数を測定する試験例において使用した試験装置の模式図である。
図6図6は、振動周波数を測定する試験例において、加速度センサにより測定された動的加速度振幅の波形を示す図である。
図7図7は、振動周波数を測定する試験において、測定された加速度振動を周波数解析して得られた周波数と振幅との関係を示すグラフである。
図8図8は、実施形態の構成を有するノズルと、従来のノズルとを用いた洗浄試験において、高圧ポンプの設定圧力と除去率との関係を示すグラフである。
図9図9は、噴射液滴粒子の粒子径-速度分布を調べる試験において、実施形態のノズルから噴射された噴射液滴粒子について、シャドードップラー粒子分析計を用いて測定された粒子径と速度の分布を示すグラフである。
図10図10は、噴射液滴粒子の粒子径-速度分布を調べる試験において、従来のノズルから噴射された噴射液滴粒子について、シャドードップラー粒子分析計を用いて測定された粒子径と速度の分布を示すグラフである。
図11図11は、噴射液の面圧分布を調べる試験において、実施形態のノズルから噴射された噴射液の面圧分布を示す図である。
図12図12は、噴射液の面圧分布を調べる試験において、従来のノズルから噴射された噴射液の面圧分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施形態の概要]
本明細書によって開示されるノズルは、液体が流れる流路を有し、処理対象物に向かって前記液体を噴射する部材であって、前記流路が、前記液体に振動流を発生させるための振動発生流路を備える。
【0010】
また、本明細書によって開示される液体噴射装置は、上記のノズルと、前記ノズルに接続されて前記ノズルに供給される前記液体を加圧する高圧ポンプと、を備える。
【0011】
上記の構成によれば、ノズルが振動発生流路を備えているので、超音波発生装置等の振動流を発生させるための装置を別途設ける必要がなく、装置構成の複雑化を回避することができる。
【0012】
上記の構成において、前記振動発生流路が、第1流路と、前記第1流路の下流側に連なり、前記第1流路よりも小さい内径を有する第2流路と、前記第2流路の下流側に連なり、前記第2流路よりも大きい内径を有する第3流路と、を備えていても構わない。
【0013】
このような構成によれば、簡易な構成で、振動発生流路内を流れる液体に振動流を発生させることができる。
【0014】
上記の構成において、前記振動発生流路が、前記第2流路の下流側に連なる加速流路を備え、前記加速流路が、前記液体を噴射する噴射口と、前記噴射口側に位置し断面円形の直管状をなすストレート部と、前記ストレート部に連なり、前記第2流路側に設けられた流入口から前記ストレート部との接続端まで次第に内径を縮小させていく縮径部とを備え、前記ストレート部の軸方向の長さ寸法L1と直径寸法D1との比(L1/D1)が、7.8以上、15以下とされており、前記縮径部のうち、少なくとも前記第2流路側の一部が前記第2流路よりも大きい内径を有する前記第3流路となっていても構わない。このような構成によれば、洗浄力を向上させることができる。
【0015】
上記の構成において、前記第1流路において前記第2流路に隣接して配される部分の内径に対する前記第2流路の内径の比率が0.04以上0.8以下であっても構わない。比率がこの範囲内にあるときに、ノズルの内部を流れる液体に、十分な振動流を発生させることができる。
【0016】
上記の構成において、前記ノズルが、前記第1流路を区画する第1内周面と、前記第2流路を区画する第2内周面と、前記第1内周面と前記第2内周面とを接続する段差面を備えており、前記段差面と前記第2内周面との角度が90°以上150°以下であっても構わない。角度がこの範囲内にあるときに、ノズルの内部を流れる液体に、十分な振動流を発生させることができる。
【0017】
上記の構成の液体噴射装置において、前記高圧ポンプの加圧による前記ノズルからの噴射圧力が1MPa以上30MPa以下であっても構わない。噴射圧力がこの範囲にあるときに、ノズルから噴射される微粒化した噴射液滴の粒子速度、粒子径が処理対象物を処理するために適した大きさとなるとともに、処理対象物のダメージや搬送系の異常の発生を避けることができる。
【0018】
[実施形態の詳細]
本明細書によって開示される技術の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0019】
<実施形態>
実施形態を、図1から図3を参照しつつ説明する。本実施形態の洗浄装置1(液体噴射装置に該当)は、液体(超純水)を高圧で噴射して処理対象物W(処理対象物に該当)を洗浄する装置である。処理対象物Wの例としては、フラットパネルディスプレイや半導体ウエハが挙げられる。
【0020】
洗浄装置1は、図1に示すように、液体を貯留するタンク11と、高圧ポンプ12と、複数のノズル20とを備えている。タンク11と高圧ポンプ12とは配管13を介して接続されており、高圧ポンプ12とノズル20とは配管14を介して接続されている。
【0021】
高圧ポンプ12は、タンク11から供給される液体を加圧してノズル20に供給する。この高圧ポンプ12は、ノズル20から噴射される液体の噴射圧力が1MPa以上30MPa以下となるように液体を加圧する。噴射圧力は処理対象物Wに応じて適宜に決定することができるが、1MPa未満であると洗浄効果が減少し、30MPaを超えると処理対象物Wへのダメージや搬送系に異常が発生する可能性があるので、好ましい洗浄効果を得るためには液体が1MPa以上30MPa以下の範囲で噴射されるように加圧することが望ましい。
【0022】
ノズル20は、高圧ポンプ12から供給された液体を処理対象物Wに向かって噴射する1流体ノズルであって、図2に示すように、高圧ポンプ12に連なる配管14が接続される配管接続部30と、配管接続部30に連なるオリフィス部40と、オリフィス部40に連なる加速部50と、これら3つの部材を保持する保持部60とを備えている。配管接続部30と、オリフィス部40と、加速部50とは、それぞれ別体となっており、保持部60によって保持されることにより一体化されている。配管接続部30は、供給流路33を有しており、オリフィス部40は、供給流路33に連なる絞り流路43(第2流路に該当)を有しており、加速部50は、絞り流路43に連なる加速流路55を有している。図2に示すように、供給流路33と、絞り流路43と、加速流路55とが、液体が流れる流路21を構成している。
【0023】
配管接続部30は、図2に示すように、全体として円柱状をなしており、配管固定孔31と、この配管固定孔31に連なる供給流路33とを有している。配管固定孔31は、配管接続部30の外周面に開口しており、内部に、配管14の一端に接続された継手(図示せず)が固定される。供給流路33は、配管固定孔31に連なり、配管接続部30の中心軸に向かって延びる第1供給流路33Aと、第1供給流路33Aに連なり、配管接続部30の中心軸に沿って直管状に延びる第2供給流路33B(第1流路に該当)とを有している。第2供給流路33Bは、配管接続部30の両端面のうち一面(図2の下面)に、液体が流出する第1流出口32を有している。
【0024】
オリフィス部40は、図2に示すように、全体として円柱状をなしており、絞り流路43を有している。絞り流路43は、オリフィス部40の中心軸に沿って直管状に延びる流路であって、オリフィス部40の両端面のうち一方に第2流入口41、他方に第2流出口42を有してオリフィス部40を貫通している。
【0025】
オリフィス部40は、第2流入口41を有する面(図2の上面)が第1流出口32を有する面と当接するようにして、配管接続部30に重ねられている。オリフィス部40は、配管接続部30と同軸に配されている。絞り流路43は、第2供給流路33Bに連通している。
【0026】
図2および図3に示すように、絞り流路43は、第2供給流路33Bの内径D2よりも小さい内径D3を有している。言い換えると、第2流入口41の内径D3は第1流出口32の内径D2よりも小さい。第2供給流路33Bと絞り流路43との境界位置には、段差面45が配されている。この段差面45は、オリフィス部40の第2流入口41を有する面のうち、第2流入口41の口縁の周辺部分によって構成されており、配管接続部30に備えられて第2供給流路33Bを区画する第1内周面34と、オリフィス部40に備えられて絞り流路43を区画する第2内周面44とを接続している。この段差面45と第2内周面44との角度α1は90°となっている。
【0027】
加速部50は、図2に示すように、全体として円柱状をなす加速部本体51と、この加速部本体51の外周面から張り出すフランジ部52とを備えている。加速部本体51は、加速流路55を有している。加速流路55は、加速部本体51の中心軸に沿って延びる流路であって、加速部本体51の両端面のうち一方に第3流入口53(流入口に該当)、他方に第3流出口54(噴出口に該当)を有して加速部本体51を貫通している。
【0028】
加速部50は、第3流入口53を有する面(図2の上面)が第2流出口42を有する面(図2の下面)と当接するようにして、オリフィス部40に重ねられている。加速部50は、配管接続部30およびオリフィス部40と同軸に配されている。加速流路55は、絞り流路43に連通している。加速流路55は、第3流出口54側に位置して、断面円形の直管状をなすストレート部57と、ストレート部57に連なり、絞り流路43側の第3流入口53からストレート部57まで次第に内径を縮小させていく縮径部56とを備えている。縮径部56の内周面は、第3流入口53からストレート部57に至るまで次第に内径を縮小させていきながら、段差なくストレート部57に滑らかにつながる形状を有している。縮径部56のうち、絞り流路43に隣接する大部分は、絞り流路43よりも大きい内径を有する径大部56A(第3流路に該当:図3を併せて参照)である。また、ストレート部57は絞り流路43よりもやや小さい内径を有している。
【0029】
図3に示すように、第2供給流路33B、絞り流路43、および径大部56Aが、内部を流れる液体に振動流を発生させる振動発生流路22を構成している。
【0030】
保持部60は、図2に示すように、円形の底板部61と、底板部61の外周縁から延びる筒状の保持筒部62とを備えている。底板部61は、加速部本体51を挿通可能な挿通孔63を有している。加速部50は、加速部本体51が挿通孔63に挿通されて、第3流出口側の大部分が保持部60から突出しており、フランジ部52が底板部61に突き当たることで保持部60に保持されている。また、オリフィス部40、および、配管接続部30において第1流出口32側の一部分が、保持筒部62の内部に固定されている。
【0031】
上記のように構成された洗浄装置1を用いて処理対象物Wを洗浄する際には、高圧ポンプ12によって加圧された液体が配管固定孔31からノズル20の内部に供給され、供給流路33、絞り流路43、加速流路55を通って第3流出口54から噴出され、処理対象物Wに吹き付けられる。これにより洗浄が行われる。
【0032】
ノズル20は振動発生流路22を備えており、振動発生流路22内を流れる液体に振動流を発生させることができる。これにより、超音波発生装置等の振動流を発生させるための装置を別途設ける必要がなく、洗浄装置1の構成の複雑化を回避することができる。また、振動発生流路22が、第2供給流路33Bと、第2供給流路33Bの下流側に連なり、第2供給流路33Bよりも小さい内径を有する絞り流路43と、絞り流路43の下流側に連なり、絞り流路43よりも大きい内径を有する径大部56Aとを備えている。このような構成によれば、簡易な構成で、液体に振動流を発生させることができる。
【0033】
液体が振動発生流路22を通って流れる際に振動流が発生するメカニズムは、以下のようであると考えられる。
【0034】
図3に示すように、液体が第2供給流路33Bから絞り流路43に流入する時、第2流入口41の口縁から流れの剥離が生じ、一度剥離した流れが絞り流路43の壁面に再付着する。図3中、点P1が剥離点であり、点P2が再付着点である。これにより、剥離点P1と再付着点P2との間において、第2内周面44付近に渦71が発生する。渦71の中心部では、圧力が局所的に飽和蒸気圧以下となり、中心部に気泡(剥離泡)が発生する(キャビテーション)。気泡は、一定の大きさに達すると下流へ流れていく。このようにして、剥離泡の形成と放出が断続的に繰り返されることにより、周期的な振動流が発生する。
【0035】
振動流が径大部56Aに流入すると、剥離泡が集まって雲状となった気泡雲72が生じる。発生した気泡雲72は周期的に加速流路55の下流に流れていく。
【0036】
ここで、第2供給流路33Bの内径D2に対する絞り流路43の内径D3の比(絞り比β)は、以下の式(1)で表される。絞り比βは、0.04以上0.8以下であることが好ましい。絞り比βがこの範囲内にあるときに、ノズル20の内部を流れる液体に、十分な振動流を発生させることができる。
β=D3/D2・・・・・(1)
【0037】
さらに、液体が加速流路55を通過することで、第3流出口54から噴出する液体の噴射速度を高めることができる。ここで、レイノルズの理論によると、ノズルの液体流路における液体の流れの状態は、基端側から順に、縮流域、渦流域、乱流域となっている。加速流路55のうち、第3流入口53からストレート部57までの部分について、段差がなく、内径が次第に縮小する縮径部56とすることにより、圧力損失を低減して、ストレート部57に導入させる液体の流れを良好とすることができる。また、ストレート部57の軸方向の長さ寸法L1と直径寸法D1との比(L1/D1)を、7 .8以上とすることにより、ノズル20からの液体の噴射口である第3流出口54を乱流域に配置することができ、噴射口から吐出される液体の速度を十分に高めることができる。これにより、洗浄力をさらに向上させることができる。但し(L1/D1)が大きくなりすぎると、吐出される液体の粒子径が大きくなる傾向にあり、(L1/D1)の値は15以下とすることが好ましい。
【0038】
上記のように、振動発生流路22を有するノズル20によって振動流を付与した液体を処理対象物Wに吹き付けることにより、洗浄力を向上させることができる。また、加速流路55によって、液体を加速させて処理対象物Wに吹き付けることにより、洗浄力をさらに向上させることができる。
【0039】
<変形例>
図4に示すように、段差面81と第2内周面44との角度α2は、は必ずしも90°でなくても構わない。段差面81と第2内周面44との角度は、90°以上150°以下であることが好ましい。150°以上になると、液体が第2供給流路33Bから絞り流路43に流入する時に流れの剥離が生じにくくなり、洗浄力を向上させるために十分な振動流を発生させにくくなってしまうためである。
【0040】
<試験例>
1.振動周波数の測定
図5に示す試験装置100を準備した。一端に供給口102を有する供給流路103と、この供給流路103に連なり、他端に噴出口105を有する絞り流路104とを備えるキャビテータ101を準備した。キャビテータ101に、長さ10mの高圧ホース107を介して高圧ポンプ108を接続した。キャビテータ101において、噴出口105を有する噴出面106には、加速度センサ111を取り付けた。高圧ホース107には、キャビテータ101に近接する位置に、圧力センサ112を取り付けた。
【0041】
この試験装置100を用いて、噴射圧力5MPaでキャビテータ101から水を噴射させ、加速度センサ111により、噴出面106に伝わる加速度振動を測定した(図6参照)。この加速度振動を周波数解析し、8kHz付近にピークが存在することを確認した(図7参照)。
【0042】
2.洗浄試験
上記実施形態の構成の振動発生流路を有するノズル(以下、「実施形態のノズル」という)と、振動発生流路を有しない従来のノズル(以下、「従来のノズル」という)とを用いて、洗浄試験を行った。シリコンウエハの表面に粒径3μm 程度のポリスチレン粒子を疑似汚れとして付着させた試料に対し、実施形態のノズルと従来のノズルを用いて、同様の条件で洗浄作業を行った。洗浄前後の試料の表面を専用のスキャナでスキャンして粒子数をカウントし、下記式(2)によって除去率を算出した。
除去率(%)=100×{(洗浄前の粒子数-洗浄後の粒子数)/洗浄前の粒子数}・・・・・(2)
【0043】
高圧ポンプの設定圧力を5MPa、8MPa、または10MPaとして試験を行った。また、噴射距離(ノズルの噴出口から試料までの直線距離)を100mmとした。
【0044】
図8に示すように、高圧ポンプの設定圧力が5MPa、8MPa、10MPaいずれの場合でも、実施形態のノズルを用いた場合の方が、従来のノズルを用いた場合よりも、除去率が20~35%程度高かった。これにより、実施形態のノズルを用いた場合の方が、従来のノズルを用いた場合よりも、洗浄力が高くなっているといえる。
【0045】
3.噴射液滴粒子の粒子径-速度分布
実施形態のノズルと従来のノズルとを用いて、噴射圧力10MPaで水を噴射させ、シャドードップラー粒子分析計(SDPA) を用いて、ノズルの噴射口から100mm離れた位置における噴射液滴粒子の粒子径と速度とを測定した。
【0046】
図9および図10に示すように、実施形態のノズルを用いた場合の粒子径-速度分布は、従来のノズルを用いた場合とほぼ同等であったが、粒子速度が早く粒子径の大きい粒子が若干多くなっていた。
【0047】
4.噴射液の面圧分布
実施形態のノズルと従来のノズルとを用いて、ノズルの噴射口から100mm離れた位置に設置された面圧センサに向かって噴射圧力10MPaで水を噴射させ、噴射液の面圧分布を測定した。
【0048】
図11および図12に示すように、実施形態のノズルを用いた場合には、従来のノズルを用いた場合と比較して、面圧分布の広がりが全体的に小さく、面圧の高い部分が中央に密集している。これより、実施形態のノズルを用いた場合には、従来のノズルを用いた場合と比較して、噴射液滴の直進性が高くなっているといえる。また、詳細にデータを示さないが、ノズルから噴射された水は、従来のノズルを用いた場合には、噴射直後の流れの様相は層流であり、噴射口から離れるにつれて乱流に遷移するが、実施形態のノズルを用いた場合には、噴射直後から乱流である様相が観察された。これらのことも、噴射液滴の直進性が高くなることに寄与しており、洗浄力の向上に寄与していると考えられる。
【0049】
<他の実施形態>
(1)上記実施形態では、ノズル20が加速流路55を有していたが、例えば第3流路が、内径が一定の直管状の流路であっても構わない。
(2)上記実施形態では、配管接続部30とオリフィス部40と加速部50とが別体となっていたが、例えば、配管接続部とオリフィス部と加速部とが一体であってもよく、配管接続部とオリフィス部、またはオリフィス部と加速部が一体であっても構わない。
【符号の説明】
【0050】
1…洗浄装置(液体噴射装置)
12…高圧ポンプ
20…ノズル
21…流路
22…振動発生流路
33B…第2供給流路(第1流路)
34…第1内周面
43…絞り流路(第2流路)
44…第2内周面
45…段差面
53…第3流入口(流入口)
55…加速流路
54…第3流出口(噴射口)
56…縮径部
56A…径大部(第3流路)
57…ストレート部
W…洗浄対象物(処理対象物)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12