(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-12
(45)【発行日】2023-07-21
(54)【発明の名称】車両ドア停止装置
(51)【国際特許分類】
B60J 5/10 20060101AFI20230713BHJP
F16H 37/12 20060101ALI20230713BHJP
E05C 17/36 20060101ALI20230713BHJP
【FI】
B60J5/10 Z
F16H37/12 Z
E05C17/36
(21)【出願番号】P 2020054116
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小島 侑也
(72)【発明者】
【氏名】日比 和宏
(72)【発明者】
【氏名】福田 貴行
【審査官】森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-046280(JP,A)
【文献】特開2020-186623(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0038081(US,A1)
【文献】特開2017-223110(JP,A)
【文献】特開2021-092019(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 5/00-5/12
F16H 37/12
E05C 17/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の開口部を開閉するためのドアが開動作するときに第1回転方向に回転する一方、前記ドアが閉動作するときに前記第1回転方向とは逆方向の第2回転方向に回転するドラムと、
前記ドラムの第1回転方向についての回転を制限するとともに第2回転方向についての回転を許容するロック位置、及び、前記ドラムの第1回転方向と第2回転方向との両方についての回転を許容するアンロック位置のうち、いずれかの位置に変位することが可能なロック部材と、
前記ドラムの第2回転方向についての回転後に第1回転方向についての回転が行われる切り換え動作を通じて、前記ロック部材の位置を前記アンロック位置から前記ロック位置に切り換える切換機構と、
を備える車両ドア停止装置において、
前記切換機構は、
前記ドラムからの回転伝達を受けて動作するものであって、前記ドラムの第2回転方向についての規定量以上の回転に伴い前記ロック部材を前記アンロック位置に変位させる一方、前記ドラムの第2回転方向から第1回転方向への回転の切り換え毎に前記ロック部材の前記アンロック位置での保持と前記ロック位置への変位とを交互に行うよう構成されており、且つ、
前記ドラムが第2回転方向についての回転範囲の端部から第1回転方向について前記規定量に相当する分の回転をするまでの回転範囲内に位置するとき、前記ロック部材を前記アンロック位置に保持するよう動作する保持機構が組み込まれている
ことを特徴とする車両ドア停止装置。
【請求項2】
前記保持機構は、前記ドラムに固定されたドライブギヤに対して噛み合うアイドルギヤと、そのアイドルギヤに設けられている係合突起と、前記ドラムが第2回転方向についての回転範囲の端部から第1回転方向について前記規定量に相当する分の回転をするまでの回転範囲内に位置するとき、前記係合突起による押圧を受けて前記ロック部材を前記アンロック位置に変位させるキャンセル機構と、を備えており、
前記ドライブギヤの歯数及び前記アイドルギヤの歯数は、前記ドアの全閉位置から全開位置に至るまでの前記ドラムの回転に対して、前記アイドルギヤの回転が一回転未満となるよう設定されている請求項1に記載の車両ドア停止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両ドア停止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の開口部を開閉するためのドアは開き方向に付勢されており、そうしたドアを全開位置よりも閉じ側の位置で一時的に開動作できないようにするため、例えば特許文献1に示される車両ドア停止装置を設けることが考えられる。
【0003】
同装置には、車両のボディに固定された本体に回転可能に支持されるドラム、及び、そのドラムとドアとを繋ぐケーブルが設けられている。ドラムは、ケーブルを巻き取る方向に付勢されており、ドアの開動作に伴いドラムからケーブルが繰り出されると、第1回転方向に回転する。一方、ドアが閉動作されると、ドラムが第1回転方向と逆方向である第2回転方向に回転して同ドラムにケーブルが巻き取られる。
【0004】
また、同装置には、ドアを全開位置よりも閉じ側の位置で開動作できないようにするため、ドラムの第1回転方向(ケーブルの繰り出し方向)についての回転を制限するロック部材が設けられている。ロック部材は、ドラムの第1回転方向についての回転を制限するとともに第2回転方向(ケーブルの巻き取り方向)についての回転を許容するロック位置、及び、ドラムの第1回転方向と第2回転方向との両方についての回転を許容するアンロック位置のうち、いずれかの位置に変位することが可能となっている。
【0005】
更に、上記装置には、ロック部材によるドラムの回転の制限を行ったり同制限を解除したりするための切換機構も設けられている。この切換機構は、ドラムの第2回転方向についての回転後に第1回転方向についての回転が行われる切り換え動作を通じて、ロック部材の位置を上記アンロック位置から上記ロック位置に切り換えるよう動作する。なお、ドラムには、ドアが全閉位置まで閉動作したとき、ロック位置にあるロック部材に対し接触することにより、同ロック部材をアンロック位置に変位させるカムが取り付けられている。
【0006】
従って、ドアが全開位置よりも閉じ側の位置で開いており、且つ、ロック部材がアンロック位置にあるとき、ドアをある程度閉動作させてから開動作させることによってドラムに上記切り換え動作を行わせると、ロック部材がアンロック位置からロック位置に変位してドラムの第1回転方向についての回転を制限する。これにより、ドアが全開位置よりも閉じ側の位置で開動作できないようにされる。
【0007】
一方、このようにドアが全開位置よりも閉じ側の位置で開動作できないようにされた状態のもと、ドアを全閉位置まで閉動作させると、ロック位置にあるロック部材がドラムに取り付けられた上記カムと接触してアンロック位置に変位するため、ドラムの第1回転方向についての回転が許容される。これにより、ドアを再び開動作させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記車両ドア停止装置では、ドアの開閉動作に基づくドラムの上記切り換え動作により、切換機構がロック部材をロック位置に一旦変位させると、ドアを全閉位置まで閉動作させてロック部材をロック位置からアンロック位置に変位させなければ、ドアを再び開動作させることができない。このため、ドアが全開位置に近い位置で開動作できないようにされた場合などには、ドアを再び開動作できるようにする際に同ドアを全閉位置まで大きく移動させなければならず、ドアを再び開動作させるための同ドアの操作に手間がかかるようになる。
【0010】
本発明の目的は、開動作できないようにされたドアを再び開動作させるための同ドアの操作に手間がかかることを抑制できる車両ドア停止装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する車両ドア停止装置は、次のようなドラム、ロック部材、及び切換機構を備える。上記ドラムは、車両の開口部を開閉するためのドアが開動作するときに第1回転方向に回転する一方、ドアが閉動作するときに第1回転方向とは逆方向の第2回転方向に回転する。上記ロック部材は、ドラムの第1回転方向についての回転を制限するとともに第2回転方向についての回転を許容するロック位置、及び、ドラムの第1回転方向と第2回転方向との両方についての回転を許容するアンロック位置のうち、いずれかの位置に変位することが可能とされる。上記切換機構は、ドラムの第2回転方向についての回転後に第1回転方向についての回転が行われる切り換え動作を通じて、ロック部材の位置をアンロック位置からロック位置に切り換える。上記車両ドア停止装置の切換機構に関しては、前記ドラムからの回転伝達を受けて動作するものとされる。また、上記切換機構に関しては、ドラムの第2回転方向についての規定量以上の回転に伴いロック部材をアンロック位置に変位させる一方、ドラムの第2回転方向から第1回転方向への回転の切り換え毎にロック部材のアンロック位置での保持とロック位置への変位とを交互に行うよう構成されている。更に、上記切換機構は、ドラムが第2回転方向についての回転範囲の端部から第1回転方向について前記規定量に相当する分の回転をするまでの回転範囲内に位置するとき、ロック部材をアンロック位置に保持するよう動作する保持機構が組み込まれるものとされている。
【0012】
上記構成によれば、ドラムの上述した切り換え動作を通じて、その切り換え動作毎にロック部材の位置がロック位置とアンロック位置とのうちの一方から他方に変位するよう切換機構が動作される。このため、ドアの開閉操作を通じてドラムの上記切り換え動作を行い、その切り換え動作を通じてロック部材をロック位置に変位させることにより、ドアを全閉位置よりも閉じ側の位置で開動作できないようにした後、次のようにドアを操作すればロック部材をアンロック位置に変位させることができる。すなわち、ドラムの上記切り換え動作が再度行われるようドアを開閉操作することにより、ロック部材がロック位置からアンロック位置に変位し、ドアを再び開動作させることができるようになる。このようにドアを全閉位置まで閉動作させなくても、開動作できないようにされていたドアを再び開動作させることができるようになる。従って、開動作できないようにされたドアを再び開動作させるための同ドアの操作に手間がかかることを抑制できる。
【0013】
ところで、上記切換機構を採用した場合、ロック部材がアンロック位置にあるとき、閉動作中のドアが全閉位置付近で開動作されると、そのドアの操作に伴ってドラムが上記切り換え動作を行うことになり、ロック部材がロック位置に変位してドアがそのときの位置(全閉付近の位置)で開動作できないようにされるおそれがある。このときのドアが全閉位置から上記規定量に相当する分の開動作をした際の移動位置までの間に位置している場合、ドアを閉動作させても全閉位置に突き当たるため、ドラムの第2回転方向についての上記規定量の回転を実現できなくなる。その結果、ドラムの上記切り換え動作を通じてロック部材をロック位置からアンロック位置に変位させることができなくなり、ドアを上記開動作できないようにされた位置から再び開動作させることもできなくなる。
【0014】
このことに対処するため、ドアが全閉位置まで閉動作したときにロック位置にあるロック部材に対し接触して同ロック部材をアンロック位置に変位させるカム等を、ドラムに取り付けることが考えられる。ただし、こうしたカム等をドラムに取り付ける場合、ドラムと一体回転するカム等が他部品に干渉しない構造を採用するといった配慮が必要になり、そのことが車両ドア停止装置における設計の自由度を低下させる要因となることは否めない。しかし、上記構成によれば、ドラムが第2回転方向についての回転範囲の端部から第1回転方向について上記規定量に相当する分の回転をするまでの回転範囲(回転範囲X)内に位置するときにロック部材をアンロック位置に保持するよう動作する保持機構が、ドラムからの回転伝達を受けて動作する上記切換機構に組み込まれている。この保持機構によって上述したようにロック部材がアンロック位置に保持されるため、ドラムにカム等を取り付けなくても、ドラムが上記回転範囲X内にあるときにロック部材をアンロック位置に変位した状態とすることができる。従って、カム等をドラムに取り付ける場合のような上記問題が生じることは抑制される。
【0015】
上記車両ドア停止装置において、上記保持機構は、ドラムに固定されたドライブギヤに対して噛み合うアイドルギヤと、そのアイドルギヤに設けられている係合突起と、を備える。更に、上記保持機構は、ドラムが第2回転方向についての回転範囲の端部から第1回転方向について上記規定量に相当する分の回転をするまでの回転範囲内に位置するとき、上記係合突起による押圧を受けてロック部材をアンロック位置に変位させるキャンセル機構を備える。また、上記ドライブギヤの歯数及び上記アイドルギヤの歯数については、ドアの全閉位置から全開位置に至るドラムの回転に対して、アイドルギヤの回転が一回転未満となるように設定することが考えられる。
【0016】
上記構成によれば、ドアが全閉位置と全開位置との間で移動する際のドラムの回転に伴いアイドルギヤが回転する際、そのアイドルギヤの回転が一回転未満となる。このため、ドアが全閉付近の所定範囲、すなわちドラムの上記回転範囲Xに相当する開閉範囲内に位置しているときのみ、アイドルギヤに設けられた係合突起のキャンセル機構に対する押圧を行うようにすることができる。従って、そのキャンセル機構に対する係合突起の押圧が必要のないときに行われ、同押圧に伴ってロック部材がアンロック位置に不必要に変位させられることを回避できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、開動作できないようにされたドアを再び開動作させるための同ドアの操作に手間がかかることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】車両ドア停止装置が適用される車両の後部を概略的に示す側面図。
【
図2】停止装置を正面側から見た状態を示す分解斜視図。
【
図3】停止装置を背面側から見た状態を示す分解斜視図。
【
図4】停止装置を正面側から見た状態を示す分解斜視図。
【
図5】停止装置を背面側から見た状態を示す分解斜視図。
【
図8】ノックユニットの動作を説明するための模式図。
【
図9】ノックユニットの動作を説明するための模式図。
【
図10】ノックユニットの動作を説明するための模式図。
【
図11】ノックユニットの動作を説明するための模式図。
【
図12】ノックユニットの動作を説明するための模式図。
【
図13】ノックユニットの動作を説明するための模式図。
【
図14】ノックユニットの動作を説明するための模式図。
【
図15】ノックユニットの動作を説明するための模式図。
【
図16】ドアが全閉位置にあるときの停止装置の状態を示す背面図。
【
図17】ドアが全閉位置から開動作したときの停止装置の状態を示す背面図。
【
図18】ドアが更に開動作したときの停止装置の状態を示す背面図。
【
図19】ドアが更に開動作したときの停止装置の状態を示す背面図。
【
図20】ドアが閉動作したときの停止装置の状態を示す背面図。
【
図21】ドアが再び開動作したときの停止装置の状態を示す背面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、車両ドア停止装置の一実施形態について、
図1~
図21を参照して説明する。
図1に示すように、車両10の後部に位置する開口部11を開閉するためのドア20は、その開口部11の上端部で車幅方向(
図1の紙面と直交する方向)に延びる回動軸21の周りで回動することが可能となっている。ドア20は、回動軸21周りでの回動を通じて、全閉位置(実線)から全開位置(二点鎖線)に向かう開動作、もしくは全開位置から全閉位置に向かう閉動作を行う。
【0020】
車両10には、ドア20を開き方向に付勢するためのガススプリング30が、ボディ12とドア20とを繋ぐように設けられている。ドア20には、その重量に基づく回動軸21周りのモーメントM1が作用するとともに、ガススプリング30の付勢力に基づく回動軸21周りのモーメントM2が作用する。更に、ユーザーがドア20を開き方向または閉じ方向に操作する際には、ドア20に対し上記操作力に基づく回動軸21周りのモーメントM3も作用する。
【0021】
ドア20の開閉態様は、上記各モーメントM1,M2,M3の大小関係に基づいて変化する。詳しくは、ドア20は、「M1>M2+M3」という関係が成立するときに閉動作し、「M1<M2+M3」という関係が成立するときに開動作し、「M1=M2+M3」という関係が成立するときに停止する。なお、ユーザーがドア20を操作しないときには「M3=0」となり、そのときにはモーメントM1とモーメントM2との大小関係に基づいてドア20の開閉態様が決まる。
【0022】
車両10には、ドア20を全開位置と全閉位置との間の任意の位置で一時的に開動作できないようにするための車両ドア停止装置40が設けられている。
車両ドア停止装置(以下、単に停止装置という)40には、車両10のボディ12に固定された筐体100に回転可能に支持されるドラム210、及び、そのドラム210とドア20とを繋ぐケーブル220が設けられている。ドラム210は、ケーブル220を巻き取る方向に付勢されており、ドア20の開動作に伴いドラム210からケーブル220が繰り出されると、第1回転方向に回転する。一方、ドア20が閉動作されると、ドラム210が第1回転方向と逆方向である第2回転方向に回転し、同ドラム210にケーブル220が巻き取られる。
【0023】
停止装置40は、ドア20を全開位置よりも閉じ側の位置で開動作できないようにするためにドラム210の第1回転方向(ケーブル220の繰り出し方向)についての回転を制限したり、その制限を解除したりする。こうした制限及び同制限の解除を停止装置40に行わせる際には、ドア20をある程度閉動作させた後に開動作させることにより、ドラム210に次のような切り換え動作を行わせる。すなわち、ドラム210における第2回転方向(ケーブル220の巻き取り方向)についての規定量の回転後、同ドラム210を第1回転方向に回転させる、という切り換え動作を行わせる。
【0024】
こうしたドラム210の切り換え動作を通じて停止装置40は、ドラム210の第1回転方向についての回転を制限し、それによってドア20が全開位置よりも閉じ側の位置で開動作できないようにする。また、このようにドア20が全開位置よりも閉じ側の位置で開動作できないようにされた状態のもと、ドラム210の上記切り換え動作が行われると、停止装置40は、ドラム210の第1回転方向についての回転の制限を解除し、ドア20が開動作できないようにされたときの位置から再び開動作できるようにする。
【0025】
次に、停止装置40について詳しく説明する。
図2~
図5に示すように、停止装置40の筐体100(
図2、
図3)は、平板状をなすベースプレート110と、ベースプレート110の板厚方向における一方側に設けられるケース120と、ベースプレート110の板厚方向における他方側に設けられるカバー130と、を備える。
【0026】
ベースプレート110とケース120との間には、支軸141によって回転可能に支持された上記ドラム210が設けられている。ドラム210には、ラチェット歯車430及びドライブギヤ310(
図4)が、同ドラム210と一体回転することが可能となるように取り付けられている。また、
図3に示すように、ベースプレート110とカバー130との間には、支軸141を介してドラム210に対しケーブル220を巻き取る方向(第2回転方向)についての付勢力を付与する渦巻きばね230が設けられている。
【0027】
図2及び
図4に示すように、ベースプレート110とケース120との間(
図2)であって、ドラム210及びラチェット歯車430の上側には、ドラム210の第1回転方向(ケーブル220の繰り出し方向)についての回転の制限を行うためのロック部材470が設けられている。ロック部材470においては、ドラム210に近い方の端部が支軸143によって回転可能に支持されている。ロック部材470におけるドラム210から遠い方の端部には、同ロック部材470の操作に用いられる貫通孔473が形成されている。ロック部材470の両端部の間には、ラチェット歯車430に対し係合することが可能な爪471(
図4)が形成されている。
【0028】
ロック部材470が支軸143を中心にドラム210に対し近づく方向に回転すると、ロック部材470の爪471がラチェット歯車430に対し係合する。このときのロック部材470は、ロック位置に変位した状態となる。ロック位置に変位したロック部材470は、爪471によってラチェット歯車430及びドラム210における第1回転方向についての回転を制限するとともに、ラチェット歯車430及びドラム210における第2回転方向についての回転を許容する。
【0029】
また、ロック位置にあるロック部材470が支軸143を中心にドラム210から離れる方向に回転すると、ラチェット歯車430に対するロック部材470の爪471の係合が解除される。このときのロック部材470は、アンロック位置に変位した状態となる。アンロック位置に変位したロック部材470は、ラチェット歯車430及びドラム210における第1回転方向と第2回転方向との両方についての回転を許容する。このようにロック部材470は、支軸143を中心とする回転を通じて、ロック位置とアンロック位置とのうちのいずれかの位置に変位する。
【0030】
次に、ロック部材470をロック位置とアンロック位置との間で変位させるための切換機構について説明する。
この切換機構は、ドア20の操作によるドラム210の上述した切り換え動作を通じて、その切り換え動作毎にロック部材470の位置をロック位置とアンロック位置とのうちの一方から他方に切り換えるものである。
【0031】
上記切換機構は、ドラム210と一体回転するドライブギヤ310(
図4及び
図5)に対し噛み合うアイドルギヤ320、同アイドルギヤ320に対し噛み合うドリブンギヤ330、同ドリブンギヤ330に対し連結されているセクターギヤ340、及び、同セクターギヤ340によって駆動されるノックユニット500(
図2)を備えている。セクターギヤ340は扇形のギヤであり、ノックユニット500のラック521と噛み合っている。ノックユニット500は、ロック部材470に対し、同ロック部材470の貫通孔473を用いて連結されている。
【0032】
これらアイドルギヤ320、ドリブンギヤ330、セクターギヤ340、及びノックユニット500は、筐体100のベースプレート110とケース120との間に設けられている。アイドルギヤ320は支軸142によって回転可能に支持されている。ドリブンギヤ330とセクターギヤ340とは、支軸341によって回転可能に支持されており、且つ、ロータリーダンパ350を介して所定値未満のトルクのみを伝達するよう連結されている。このため、ドリブンギヤ330とセクターギヤ340との一方に所定値未満のトルクが作用するときには、両者の間で上記トルクが伝達されて両者が一体回転する。一方、ドリブンギヤ330とセクターギヤ340との一方に所定値以上のトルクが作用するときには、両者が相対回転して他方への上記トルクの伝達が行われないようにされる。
【0033】
ドア20の開動作に伴いドラム210がケーブル220の繰り出し方向(第1回転方向)に回転すると、その回転がドライブギヤ310(
図4)、アイドルギヤ320、ドリブンギヤ330、及びセクターギヤ340に伝達され、同セクターギヤ340と噛み合うノックユニット500のラック521(
図2)が下方に移動する。一方、ドア20の閉動作に伴いドラム210がケーブル220の巻き取り方向(第2回転方向)に回転すると、その回転が上記各ギヤ310,320,330,340に伝達されてラック521が上方に移動する。
【0034】
ラック521が上下動するときの上記セクターギヤ340の回転範囲は、同ギヤ340がケース120の内壁に当たることによって制限されている。このため、ラック521は、セクターギヤ340の制限された上記回転範囲に対応する分の上下動を行う。なお、セクターギヤ340がケース120の内壁に当たっているときには、ドリブンギヤ330とセクターギヤ340とが、ロータリーダンパ350の動作を通じて互いに相対回転するようになる。
【0035】
上記切換機構では、ドア20の操作によるドラム210の上述した切り換え動作がアイドルギヤ320、ドリブンギヤ330、セクターギヤ340、及びノックユニット500に伝達されると、ノックユニット500がロック部材470の位置をロック位置とアンロック位置とのうちの一方から他方に切り換えるよう駆動される。
【0036】
詳しくは、ノックユニット500は、ドラム210の第2回転方向についての規定量以上の回転に伴いロック部材470をアンロック位置に変位させる。また、ノックユニット500は、ドラム210の第2回転方向から第1回転方向への回転の切り換え毎に、ロック部材470のアンロック位置での保持とロック位置への変位とを交互に行うよう動作する。従って、ノックユニット500は、ドラム210の上述した切り換え動作が行われる毎に、ロック部材470の位置をロック位置とアンロック位置とのうちの一方から他方に切り換えるよう動作する。
【0037】
次に、ノックユニット500について詳しく説明する。
図6及び
図7に示すように、ノックユニット500は、上下方向(
図6及び
図7の矢印A1,A2方向)に延びる筒体510と、下方から筒体510の内部に挿入されるノック体520及びプッシュ体530と、を備えている。更に、ノックユニット500は、上方から筒体510の内部に挿入される回転子540と、その回転子540を筒体510側(下方側)に向けて押圧する連結体560と、を備えている。
【0038】
筒体510は、ノックユニット500を筐体100(
図2)のベースプレート110とケース120との間に取り付けたとき、
図6及び
図7の矢印A1,A2方向及び矢印C1,C2方向(筒体510の周方向)についての位置が固定される。筒体510の内周面においては、下半分の内径が上半分の内径よりも小さくされることにより、上下方向の中央部が段差面となっている。この段差面は、第1カム面513及び第2カム面514、第1規制面515及び第2規制面516、並びに、底面518等によって形成されている。
【0039】
第1カム面513及び第2カム面514は、矢印C1,C2方向において交互に並ぶように複数形成されており、矢印C1方向に向かうほど矢印A2に向けて変位するよう傾斜している。第2カム面514の矢印C1方向における前端部と第1カム面513の矢印C1方向における後端部との間には退避溝517が形成されている。第1カム面513の矢印C1方向における前端部と第2カム面514の矢印C1方向における後端部とは、矢印A1,A2方向に延びる第1規制面515によって繋がっている。また、第1カム面513の矢印C1方向における後端部と退避溝517の底面518における矢印C1方向の前端部とは、矢印A1,A2方向に延びる第2規制面516(退避溝517の内側面)によって繋がっている。
【0040】
筒体510の内部には筒状の上記プッシュ体530が挿入されており、筒体510とプッシュ体530とは矢印A1,A2方向について相対移動可能となっている。また、筒体510内におけるプッシュ体530の内部には上記ノック体520の筒状部522が挿入されており、プッシュ体530と筒状部522とは矢印A1,A2方向について相対移動可能となっている。なお、筒状部522の下端には、連結部523を介して上記ラック521が固定されている。
【0041】
筒体510には、矢印A1,A2方向に延びるガイド溝511,512が形成されている。筒体510のガイド溝512には、プッシュ体530の外周面に形成されたガイド軸532が挿入されている。そして、ガイド溝512及びガイド軸532により、プッシュ体530と筒体510との矢印A1,A2方向についての相対移動がガイドされるとともに、矢印C1,C2方向についての相対移動が禁止される。
【0042】
プッシュ体530における筒体510のガイド溝511に対応する部分には、矢印A1,A2方向に延びるガイド溝531が形成されている。ガイド溝511,531には、ノック体520における筒状部522の外周面に形成されたガイド軸524が挿入されている。そして、ガイド溝511,531及びガイド軸524により、筒体510及びプッシュ体530とノック体520の筒状部522との矢印A1,A2方向についての相対移動がガイドされるとともに、矢印C1,C2方向についての相対移動が禁止される。
【0043】
プッシュ体530の上端面は、矢印C1方向に向かうほど矢印A2方向に変位するよう傾斜する複数のカム面534によって形成されている。また、ノック体520における筒状部522の上端面は、矢印C1方向に向かうほど矢印A2方向に変位するよう傾斜するカム面525、及び、矢印C1方向に向かうほど矢印A1方向に変位するよう傾斜するカム面526によって形成されている。なお、プッシュ体530のカム面534の形成数は、ノック体520(筒状部522)におけるカム面525の形成数の半分、言い換えればカム面526の形成数の半分となっている。
【0044】
プッシュ体530のカム面534、筒状部522のカム面525,526、並びに、上述した筒体510の第1カム面513及び第2カム面514は、矢印A1,A2方向についてのプッシュ体530、ノック体520(筒状部522)、及び筒体510の相対移動に伴い、矢印A1,A2方向についての互いの相対位置が変化する。
【0045】
なお、ドア20の操作に基づきドラム210が回転する際には、その回転が変換機構に伝達されることに伴い、上述したようにラック521が上下動してノック体520(筒状部522)も一体に上下動、すなわち矢印A1,A2方向に移動する。そして、こうしたノック体520の移動に伴い、筒状部522のカム面525,526がプッシュ体530のカム面534、並びに、上述した筒体510の第1カム面513及び第2カム面514に対し、矢印A1,A2方向に相対移動する。
【0046】
筒体510内に上方から挿入される筒状の上記回転子540は、筒体510に対し矢印A1,A2方向及び矢印C1,C2方向についての相対移動が可能となっている。回転子540の外周面には、矢印C1,C2方向に等間隔をおいて複数のリブ542が形成されている。リブ542は、矢印A1,A2方向に延びており、筒体510の内周面に形成された上記退避溝517に挿入することが可能となっている。
【0047】
リブ542の下端面は、矢印C1方向に向かうほど矢印A2に向かって変位するよう傾斜するカム面544となっている。このカム面544は、上述したプッシュ体530のカム面534、ノック体520(筒状部522)のカム面525,526、並びに、筒体510の第1カム面513、第2カム面514、及び退避溝517の底面518と、矢印A1,A2方向において対向している。
【0048】
回転子540の上側には、一部が回転子540の上端部に挿入される上記連結体560が設けられている。連結体560と回転子540とは、矢印C1,C2方向において互いに相対移動することが可能となっている。また、連結体560は、ノックユニット500を筐体100(
図2)のベースプレート110とケース120との間に取り付けたとき、ロック部材470(
図2)の貫通孔473に挿入される屈曲軸562と、同連結体560を回転子540側に押圧するコイルスプリング550と、を備えている。なお、このときの回転子540には、コイルスプリング550の付勢力が連結体560を介して矢印A2方向に向けて作用する。
【0049】
従って、ドア20の操作に基づきドラム210が回転する際には、その回転に基づき上述したようにノック体520(筒状部522)が矢印A1,A2方向に移動し、それに伴い筒状部522のカム面525が、回転子540のカム面544を上記コイルスプリング550の付勢力に抗して押圧したり、その押圧を解除したりする。
【0050】
ノック体520のカム面525が回転子540のカム面544を押圧すると、回転子540及び連結体560が上記コイルスプリング550の付勢力に抗して矢印A1方向に移動する。これにより、連結体560の屈曲軸562と連結されている上記ロック部材470が、アンロック位置に変位した状態となる。
【0051】
一方、ノック体520のカム面525による回転子540のカム面544の押圧を解除すると、回転子540及び連結体560が上記コイルスプリング550の付勢力によって矢印A2方向に移動する。そして、回転子540及び連結体560が矢印A2方向に最も大きく移動するとき、連結体560の屈曲軸562と連結されている上記ロック部材470がアンロック位置からロック位置に変位する。
【0052】
次に、ドア20の操作に基づきドラム210が回転する際のノックユニット500の動作態様、言い換えればロック部材470のロック位置とアンロック位置との間での変位態様について、更に詳しく説明する。
【0053】
図8~
図12は、回転子540(カム面544)、ノック体520(カム面525,526)、並びに、筒体510(第1カム面513及び第2カム面514)における矢印A1,A2方向についての位置関係を模式的に示している。
【0054】
回転子540の矢印A1,A2方向についての位置は、ロック部材470(
図2)の位置に関係している。詳しくは、回転子540のリブ542が、
図10に二点鎖線で示されるように筒体510の退避溝517に挿入されることにより、回転子540が矢印A2方向に最も大きく変位するときには、ロック部材470がロック位置に変位する。一方、回転子540のリブ542が、
図8~
図12において、筒体510の退避溝517から抜き出された位置にあるとき、すなわち
図10に二点鎖線で示される位置よりも矢印A1方向側に位置しているときには、ロック部材470がアンロック位置に変位する。
【0055】
ドア20の閉動作中は、ドラム210がケーブル220の巻き取り方向(第2回転方向)に回転することにより、
図9または
図11に示すようにノック体520のカム面525が、回転子540のカム面544を矢印A1方向に持ち上げることにより、ロック部材470がアンロック位置に変位した状態となる。このときには、カム面525とカム面544との作用により、回転子540がノック体520に対し
図9または
図11に実線で示す位置から矢印C1方向に変位する。このように変位する回転子540は、そのカム面544の矢印C1方向の前端がノック体520のカム面526の矢印C1方向の前端に当たることにより、
図9または
図11に二点鎖線で示すようにカム面526とカム面525との境界に留まる。
【0056】
閉動作しているドア20の動作態様が開動作に切り換えられると、ドラム210の回転がケーブル220の繰り出し方向(第1回転方向)に切り換えられる。こうしてドラム210が第2回転方向に回転すると、ノック体520のカム面525,526が矢印A2方向に移動するため、回転子540もコイルスプリング550の付勢力に基づき矢印A2方向に移動する。その結果、回転子540のカム面544が、
図10の実線で示すように筒体510の第2カム面514を矢印A2方向に押した状態となるか、あるいは
図12に実線で示すように筒体510の第1カム面513を矢印A2方向に押した状態となる。
【0057】
回転子540のカム面544が、
図10の実線で示すように筒体510の第2カム面514を矢印A2方向に押した状態となる場合、カム面544と第2カム面514との作用により、回転子540が筒体510に対し実線で示す位置から矢印C1方向に変位する。その結果、回転子540のリブ542(カム面544)が筒体510の退避溝517に収まり、カム面544が退避溝517の底面518に接触するとともに、リブ542が退避溝517内の第2規制面516に接触する。このときには、回転子540が矢印A2方向に最も大きく変位するため、ロック部材470がアンロック位置からロック位置に変位する。
【0058】
一方、回転子540のカム面544が、
図12に実線で示すように筒体510の第1カム面513を矢印A2方向に押した状態となる場合、カム面544と第1カム面513との作用により、回転子540が筒体510に対し実線で示す位置から矢印C1方向に変位する。その結果、二点鎖線で示すように、回転子540のカム面544が筒体510の第1カム面513に接触しつつ、回転子540のリブ542が筒体510の第1規制面515に接触する。このときには、回転子540が、矢印A2方向に最も大きく変位する位置、すなわちリブ542が退避溝517に収まったときの位置よりも、矢印A1方向寄りに位置しているため、ロック部材470がアンロック位置に保持されるようになる。
【0059】
そして、回転子540が
図10または
図12に二点鎖線で示す位置にあるとき、ドア20が閉動作されてドラム210がケーブル220の巻き取り方向(第2回転方向)に回転すると、ノック体520のカム面525が回転子540のカム面544を矢印A1方向に持ち上げる。その結果、回転子540が
図10に二点鎖線で示す位置にあった場合には
図11に実線で示す位置に移動され、回転子540が
図12に二点鎖線で示す位置にあった場合には
図9に実線で示す位置に移動される。このように回転子540が移動されることにより、ロック部材470がアンロック位置に変位した状態とされるようになる。
【0060】
従って、ドア20の操作を通じてドラム210に上記切り換え動作を行わせると、その切り換え動作に基づくノックユニット500の動作として、
図8→
図9→
図10の動作、もしくは
図10→
図11→
図12(
図8と同じ)の動作が行われる。そして、ドラム210の上記切り換え動作が繰り返し行われると、ノックユニット500の
図8→
図9→
図10の動作とノックユニット500の
図10→
図11→
図12の動作とが、交互に繰り返し行われるようになる。ノックユニット500の
図8→
図9→
図10の動作は、ロック部材470の位置をアンロック位置からロック位置に切り換えるための動作である。また、ノックユニット500の
図10→
図11→
図12の動作は、ロック部材470の位置をロック位置からアンロック位置に切り換えるための動作である。
【0061】
なお、ドラム210の上記切り換え動作において、ドラム210を第2回転方向について規定量以上の回転させる際の「規定量」とは、次のようなドラム210の第2方向についての回転量のことである。すなわち、ノックユニット500における
図10→
図11の動作において、ノック体520のカム面525,526の
図10に示す位置から
図11に示す位置への矢印A1方向についての移動を実現し得るドラム210の第2回転方向についての回転量が、上記「規定量」とされている。
【0062】
上述したように、停止装置40の切換機構(ノックユニット500等)は、ドラム210の上記切り換え動作を通じて、その切り換え動作毎にロック部材470の位置がロック位置とアンロック位置とのうちの一方から他方に変位するよう動作される。このため、ドア20の操作を通じてドラム210の上記切り換え動作を行い、その切り換え動作を通じてロック部材470をロック位置に変位させることにより、ドア20を全閉位置よりも閉じ側の位置で開動作できないようにした後、次のようにドア20を操作すればロック部材470をアンロック位置に変位させることができる。
【0063】
すなわち、ドラム210の上記切り換え動作が再度行われるようドア20を開閉操作することにより、ロック部材470がロック位置からアンロック位置に変位し、ドア20を再び開動作させることができるようになる。このようにドア20を従来のように全閉位置まで閉動作させなくても、開動作できないようにされていたドア20を再び開動作させることができるようになる。従って、開動作できないようにされたドア20を再び開動作させるための同ドア20の操作に手間がかかることを抑制できる。
【0064】
ところで、上記切換機構を採用した場合、ロック部材470がアンロック位置にあるとき、閉動作中のドア20が全閉位置付近で開動作されると、そのドア20の操作に伴ってドラム210が上記切り換え動作を行うことになる。その結果、ロック部材470がロック位置に変位し、ドア20がそのときの位置(全閉付近の位置)で開動作できないようにされるおそれがある。
【0065】
このときのドア20が全閉位置から上記規定量に相当する分の開動作をした際の移動位置までの間に位置している場合、ドア20を閉動作させても全閉位置に突き当たるため、ドラム210の第2回転方向についての上記規定量の回転を実現できなくなる。その結果、ドラム210の上記切り換え動作を通じてロック部材470をロック位置からアンロック位置に変位させることができなくなり、ドア20を上記開動作できないようされた位置から再び開動作させることもできなくなる。
【0066】
このことに対処するため、停止装置40の上記切換機構には、ドラム210が第2回転方向についての回転範囲の端部から第1回転方向について上記規定量に相当する分の回転をするまでの回転範囲(以下、回転範囲Xという)内に位置するとき、ロック部材470をアンロック位置に保持するよう動作する保持機構が組み込まれている。
【0067】
この保持機構によって上述したようにロック部材470をアンロック位置に保持すれば、ドラム210が上記回転範囲X内にあるときにロック部材470がロック位置に変位することはなくなる。このため、ドラム210が上記回転範囲X内にあるときにロック部材470がロック位置に変位し、ドア20がそのときの位置で開動作できないようにされた後、そのドア20を再び開動作させることができなくなるという問題の発生を抑制できる。
【0068】
次に、上記保持機構の詳細について説明する。
上記保持機構は、上記切換機構のアイドルギヤ320(
図4及び
図5)と、そのアイドルギヤ320に設けられている係合突起321(
図5)と、ドラム210が上記回転範囲X内に位置するときに係合突起321による押圧を受けてロック部材470をアンロック位置に変位させるキャンセル機構600と、を備えている。上記アイドルギヤ320の歯数、及び、そのアイドルギヤ320と噛み合うドライブギヤ310の歯数は、ドア20の全閉位置から全開位置に至るまでのドラム210の回転に対して、上記アイドルギヤ320の回転が一回転未満となるよう設定されている。
【0069】
キャンセル機構600は、筐体100のケース120に設けられた支軸124により、長手方向の中央部が回動可能に支持されているキャンセルレバー610を備えている。キャンセルレバー610における長手方向の一方の端部には、長孔616が形成されている。長孔616には、ノックユニット500におけるプッシュ体530(
図6及び
図7)のガイド軸532の先端に形成されたカム軸533が挿入されている。従って、キャンセルレバー610が支軸124周りに回動すると、プッシュ体530がキャンセルレバー610によって矢印A1,A2方向に押され、筒体510に対し矢印A1,A2方向に相対移動する。このプッシュ体530も、キャンセル機構600、すなわち上記保持機構に含まれている。
【0070】
図5に示すように、キャンセル機構600は、キャンセルレバー610とケース120とを繋ぐコイルスプリング620を備えている。コイルスプリング620は、キャンセルレバー610の回動方向のうち、プッシュ体530(
図6及び
図7)を矢印A2方向に移動させる方向に、同キャンセルレバー610を付勢している。また、ドラム210が上記回転範囲X内に位置するときには、アイドルギヤ320の係合突起321がキャンセルレバー610における長孔616側の端部とは反対側の端部を、上記コイルスプリング620の付勢力に抗する方向に押圧する。
【0071】
このように係合突起321がキャンセルレバー610を押圧した状態では、同キャンセルレバー610がプッシュ体530を押し上げて筒体510に対し矢印A1方向に相対移動させる。その結果、プッシュ体530が回転子540及び連結体560を矢印A1方向に押し上げ、それによってロック部材470がアンロック位置に変位した状態となる。そして、プッシュ体530が上述したように回転子540及び連結体560を矢印A1方向に押し上げた状態、すなわちロック部材470がアンロック位置に変位した状態は、ドラム210が上記回転範囲X内に位置している間は維持されるようになる。すなわち、そうなるよう係合突起321及びキャンセルレバー610が形成されている。
【0072】
次に、ドア20の操作に基づきドラム210に上記切り換え動作を行わせる際、そのドラム210が上記回転範囲Xに対し出入りする場合のノックユニット500の動作態様(ロック部材470のロック位置とアンロック位置との間での変位態様)について、詳しく説明する。
【0073】
ドア20が開動作中など、同ドア20が停止装置40を通じて全開位置よりも閉じ側の位置で開動作できないようにされてはいないときには、
図8に示すようにノックユニット500における回転子540のカム面544が筒体510の第1カム面513に接触し、回転子540が矢印A2方向に移動しないようにされる。このため、ロック部材470がアンロック位置に保持される。なお、このときにはノック体520のカム面525,526が、筒体510の第1カム面513及び第2カム面514よりも矢印A2方向に変位している。
【0074】
図8に示す状態のもと、ドア20の操作を通じてドラム210に上記切り換え動作を行わせると、ノックユニット500のノック体520及び回転子540が
図8→
図9→
図10のように動作し、それに伴ってロック部材470の位置がアンロック位置からロック位置に切り換えられる。
【0075】
ただし、ドラム210の上記切り換え動作の際に同ドラム210が上記回転範囲X内に入る場合には、プッシュ体530が矢印A1方向に向けて
図13に実線で示す位置から二点鎖線で示す位置に移動し、プッシュ体530のカム面534が回転子540のリブ542を矢印A1方向に押し上げる。このため、回転子540のリブ542が筒体510の退避溝517内に侵入し、それに伴いロック部材470がロック位置に変位することはない。従って、このときにはロック部材470の位置がアンロック位置からロック位置に切り換えられることがないよう、ロック部材470がアンロック位置に保持される。
【0076】
また、このときの回転子540は、リブ542のカム面544とプッシュ体530のカム面534との作用により、
図13に二点鎖線で示す位置まで矢印C1方向に変位する。その後、ドア20の開動作を通じてドラム210が上記回転範囲X内から出ると、プッシュ体530が矢印A2方向に向けて
図13の二点鎖線で示す位置から実線で示す位置に移動する。これにより、回転子540のカム面544が筒体510の第1カム面513に接触し、更に第1カム面513及びカム面544の作用により回転子540が
図15に実線で示す位置から二点鎖線で示す位置まで矢印C1方向に変位する。このときもロック部材470の位置がアンロック位置からロック位置に切り換えられることはなく、ロック部材470がアンロック位置に保持される。
【0077】
一方、ドア20が停止装置40を通じて全開位置よりも閉じ側の位置で開動作できないようにされているときには、ノックユニット500における回転子540のリブ542が
図10に二点鎖線で示すように筒体510の退避溝517内に収められ、矢印A2に方向に最も大きく変位した状態とされる。これにより、ロック部材470がロック位置に変位した状態となる。なお、このときにはノック体520のカム面525,526が、筒体510の退避溝517の底面518よりも矢印A2方向に変位している。
【0078】
仮に、ドラム210が上記回転範囲X内にあるときに、ノックユニット500が
図10に示す状態になっていたとすると、ドア20の操作を通じてドラム210に上記切り換え動作を行わせようとしても、それを行うことができない。これは、ドア20が閉動作時に全閉位置に突き当たり、ドラム210の上記切り換え動作のうちの第2回転方向についての上記規定量の回転を実現できなくなるためである。そして、ドラム210の上記切り換え動作を行えないと、ロック部材470をロック位置からアンロック位置に変位させることができず、ドア20を上記開動作できないようされている位置から再び開動作させることができなくなる。
【0079】
しかし、ドラム210が上記回転範囲X内にあるときには、プッシュ体530が矢印A1方向に向けて
図14に実線で示す位置から二点鎖線で示す位置に移動し、プッシュ体530のカム面534が回転子540のリブ542を矢印A1方向に押し上げる。このため、回転子540のリブ542が筒体510の退避溝517内に収められた状態となることはなく、ロック部材470がロック位置に変位した状態となることもない。従って、このときのロック部材470はアンロック位置に保持されることとなる。
【0080】
また、このときの回転子540は、リブ542のカム面544とプッシュ体530のカム面534との作用により、
図14に二点鎖線で示す位置まで矢印C1方向に変位する。その後、ドア20の開動作を通じてドラム210が上記回転範囲X内から出ると、プッシュ体530が矢印A2方向に向けて
図14の二点鎖線で示す位置から実線で示す位置移動する。これにより、回転子540のカム面544が筒体510の第1カム面513に接触し、更に第1カム面513及びカム面544の作用により回転子540が
図15に実線で示す位置から二点鎖線で示す位置まで矢印C1方向に変位する。このときもロック部材470の位置がアンロック位置からロック位置に切り換えられることはなく、ロック部材470がアンロック位置に保持される。
【0081】
最後に、停止装置40を構成する各機構の動作を含めた同停止装置40全体の動作について総括する。
図16は、ドア20が全閉位置にあるときの停止装置40の状態を示している。そして、全閉位置にあるドア20を徐々に開動作させると、停止装置40の状態が
図16→
図17→
図18→
図19に示す状態へと変化してゆく。また、停止装置40が
図19の状態のとき、ドア20の操作を通じてドラム210に上記切り換え動作を行わせると、停止装置40の状態が
図19→
図20→
図21に示す状態へと変化してゆく。以下、上述した停止装置40の状態の変化について詳しく述べる。
【0082】
ドア20を全閉位置から開動作させるときには、停止装置40のドラム210が上記回転範囲X内に位置した状態から徐々にケーブル220を繰り出す方向(第1回転方向)に回転する。このドラム210の回転は、ドライブギヤ310、アイドルギヤ320、ドリブンギヤ330、及びセクターギヤ340を介して、ノックユニット500のラック521に伝達される。これにより、ラック521が矢印A2方向に移動するとともに、
図6及び
図7に示すようにラック521に繋がるノック体520の筒状部522も矢印A2方向に移動する。
【0083】
ドラム210が上記回転範囲X内にある間(
図16→
図17)は、アイドルギヤ320の係合突起321がキャンセルレバー610をコイルスプリング620の付勢力に抗する方向に押圧する。更に、キャンセルレバー610がノックユニット500のプッシュ体530を、矢印A1方向に移動した状態となるように押圧する。このときには、
図6及び
図7に示すノックユニット500の回転子540及び連結体560がプッシュ体530によって矢印A1方向に押されるため、上記連結体560と連結されるロック部材470(
図16、
図17)がアンロック位置に保持された状態となる。
【0084】
ドア20の開動作に伴い、ドラム210が上記回転範囲X内から第1回転方向に外れると(
図17→
図18→
図19)、アイドルギヤ320の係合突起321がキャンセルレバー610から離れてゆき、それに伴いキャンセルレバー610がコイルスプリング620の付勢力によってプッシュ体530を矢印A2方向に移動させるように押圧する。このときには、
図6及び
図7に示すノックユニット500の回転子540及び連結体560が、筒体510によって矢印A1方向に移動したままの状態に維持されるため、上記連結体560と連結されるロック部材470(
図18、
図19)がアンロック位置に保持される。
【0085】
ドラム210が上記回転範囲X内から外れた後、ドア20が開動作から閉動作に変わると、ドラム210の回転方向がケーブル220を繰り出す方向から巻き取る方向(第2回転方向)に変わる(
図19→
図20)。そして、ドラム210の第2回転方向についての回転が、ドライブギヤ310、アイドルギヤ320、ドリブンギヤ330、及びセクターギヤ340を介して、ノックユニット500のラック521に伝達されると、ラック521が矢印A1方向に移動する。更に、ラック521に繋がるノック体520(
図6及び
図7)の筒状部522も矢印A1方向に移動する。このときのノックユニット500の回転子540及び連結体560は、上記ノック体520によって矢印A1方向に押されるため、上記連結体560と連結されるロック部材470(
図20)がアンロック位置に保持される。
【0086】
その後、ドア20が閉動作から開動作に変わると、ドラム210の回転方向がケーブル220を巻き取る方向から繰り出す方向に変わる(
図20→
図21)。これにより、ドラム210の上記切り換え動作(
図19→
図20→
図21)が行われたことになる。ドラム210のケーブル220を繰り出す方向についての上記回転に基づきラック521が矢印A2方向に移動し、更にノック体520(
図6及び
図7)の筒状部522も矢印A2方向に移動する。その結果、ノックユニット500の回転子540及び連結体560が、コイルスプリング550の付勢力によって矢印A2方向に押され、回転子540のリブ542が筒体510の退避溝517に侵入する。このときの回転子540及び連結体560は矢印A2方向に最も大きく移動した状態となるため、上記連結体560と連結されるロック部材470(
図21)の位置がアンロック位置からロック位置に切り換えられる。
【0087】
こうしてドア20は、停止装置40を通じて全開位置よりも閉じ側の位置で開動作できないようにされる。なお、この状態のもとで、ドア20の操作を通じてドラム210に上記切り換え動作を行わせると(
図21→
図20→
図19)、
図6及び
図7に示すノックユニット500の回転子540及び連結体560が、ノック体520によって矢印A1方向に押された後、筒体510によって矢印A1方向に移動したままの状態に維持される。更に、上記連結体560と連結されるロック部材470(
図19)の位置がロック位置からアンロック位置に切り換えられる。ちなみに、ドア20を全閉位置まで閉動作させることにより、ドラム210をケーブル220の巻き取り方向に回転させると(
図19→
図18→
図17→
図16)、ドラム210が第2回転方向から上記回転範囲X内に入るようになる(
図17→
図16)。このようにしてドラム210が上記回転範囲X内に位置した場合も、ロック部材470(
図16、
図17)がアンロック位置に保持された状態となる。
【0088】
以上詳述した本実施形態の車両ドア停止装置によれば、以下に示す作用効果が得られるようになる。
(1)停止装置40では、ドラム210の上記切り換え動作を通じて、その切り換え動作毎にロック部材470の位置がロック位置とアンロック位置とのうちの一方から他方に変位するよう切換機構が動作される。このため、ドア20の開閉操作を通じてドラム210の上記切り換え動作を行い、その切り換え動作を通じてロック部材470をロック位置に変位させることにより、ドア20を全閉位置よりも閉じ側の位置で開動作できないようにした後、次のようにドア20を操作すればロック部材470をアンロック位置に変位させることができる。すなわち、ドラム210の上記切り換え動作が再度行われるようドア20を開閉操作することにより、ロック部材470がロック位置からアンロック位置に変位し、ドア20を再び開動作させることができるようになる。このようにドア20を従来のように全閉位置まで閉動作させなくても、開動作できないようにされていたドア20を再び開動作させることができるようになる。従って、開動作できないようにされたドア20を再び開動作させるための同ドア20の操作に手間がかかることを抑制できる。
【0089】
(2)停止装置40の切換機構には、ドラム210が上記回転範囲X内に位置するとき、ロック部材470をアンロック位置に保持するよう動作する保持機構が組み込まれているため、ドラム210が上記回転範囲X内にあるときにロック部材470がロック位置に変位することはなくなる。従って、ドラム210が上記回転範囲X内にあるときにロック部材470がロック位置に変位し、ドア20がそのときの位置で開動作できないようにされた後、そのドア20を再び開動作させることができなくなる、という問題が発生することを抑制できるようになる。
【0090】
(3)上記保持機構は、停止装置40においてドラム210からの回転を受けて動作する切換機構、すなわちドラム210の上記切り換え動作を通じて、その切り換え動作毎にロック部材470の位置をロック位置とアンロック位置との一方から他方に切り換える切換機構に組み込まれている。
【0091】
ここで、停止装置40に上記保持機構を設ける代わりとして、従来のようにドア20が全閉位置まで閉動作したときにロック位置にあるロック部材470に対し接触して同ロック部材470をアンロック位置に変位させるカム等を、ドラム210に取り付けるようにしたとすると、次のような問題が生じる。すなわち、こうしたカム等をドラム210に取り付ける場合、ドラム210と一体回転するカム等が他部品に干渉しない構造を採用するといった配慮が必要になり、そのことが停止装置40における設計の自由度を低下させる要因になるという問題がある。
【0092】
この点、上記保持機構は、停止装置40において、ドラム210からの回転伝達を受けて動作する上記切換機構に組み込まれている。そして、同保持機構によって上述したようにロック部材がアンロック位置に保持されるため、ドラム210にカム等を取り付けなくても、ドラム210が上記回転範囲X内にあるときにロック部材470をアンロック位置に変位した状態とすることができる。従って、カム等をドラム210に取り付ける場合のような上記問題の発生を抑制することができる。
【0093】
(4)停止装置40の上記保持機構は、ドラム210が上記回転範囲X内にあるとき、そのドラムの回転に伴って回転するアイドルギヤ320の係合突起321からの押圧を受けて、ロック部材470をアンロック位置に変位させるよう動作するキャンセル機構600を備えている。そして、アイドルギヤ320はドラム210に固定されたドライブギヤ310と噛み合っており、ドライブギヤ310の歯数及びアイドルギヤ320の歯数については、ドア20の全閉位置から全開位置に至るドラム210の回転に対して、アイドルギヤ320の回転が一回転未満となるように設定されている。
【0094】
このため、ドア20が全閉付近の所定範囲、すなわちドラム210の上記回転範囲Xに相当する開閉範囲内に位置しているときのみ、アイドルギヤ320に設けられた係合突起321のキャンセル機構600(キャンセルレバー610)に対する押圧を行うようにすることができる。従って、そのキャンセルレバー610に対する係合突起321の押圧が必要のないときに行われ、同押圧に伴ってロック部材470がアンロック位置に不必要に変位させられることを回避できる。
【0095】
なお、上記実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・ドライブギヤ310の歯数及びアイドルギヤ320の歯数については適宜変更することが可能である。
【0096】
・停止装置40の筐体100をドア20に固定する一方、同装置40のケーブル220の先端をボディ12に接続するようにしてもよい。
・セクターギヤ340とラック521とにより回転運動を直線運動に変換する代わりに、例えばウォームホイールとウォームギヤとにより回転運動を直線運動に変換するようにしてもよい。
【0097】
・停止装置40が適用されるドアは、車両の側部にある開口部を開閉するドアであってもよい。こうしたドアとしては、車両の上下方向に延びる軸線周りに回動することで開閉動作するものや、車両の上下方向と交差する方向に延びる軸線周りに回動することで開閉動作するものが考えられる。
【符号の説明】
【0098】
20…ドア
40…停止装置
210…ドラム
220…ケーブル
230…渦巻きばね
310…ドライブギヤ
320…アイドルギヤ
321…係合突起
330…ドリブンギヤ
340…セクターギヤ
430…ラチェット歯車
470…ロック部材
471…爪
500…ノックユニット
510…筒体
517…退避溝
518…底面
520…ノック体
521…ラック
523…連結部
530…プッシュ体
540…回転子
542…リブ
550…コイルスプリング
560…連結体
562…屈曲軸
600…キャンセル機構
610…キャンセルレバー
616…長孔
620…コイルスプリング