(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-12
(45)【発行日】2023-07-21
(54)【発明の名称】エピラム化剤でコーティングされた表面を含む基板およびこのような基板のエピラム化のための方法
(51)【国際特許分類】
C08F 22/18 20060101AFI20230713BHJP
A44C 27/00 20060101ALI20230713BHJP
G04B 31/08 20060101ALI20230713BHJP
【FI】
C08F22/18
A44C27/00
G04B31/08 A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018108295
(22)【出願日】2018-06-06
(62)【分割の表示】P 2016053413の分割
【原出願日】2016-03-17
【審査請求日】2019-03-18
【審判番号】
【審判請求日】2021-05-18
(32)【優先日】2015-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【氏名又は名称】小池 勇三
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・ルトンドール
(72)【発明者】
【氏名】クレール・ラヌー
【合議体】
【審判長】近野 光知
【審判官】海老原 えい子
【審判官】小出 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-353817(JP,A)
【文献】国際公開第2009/148029(WO,A1)
【文献】特開2008-285540(JP,A)
【文献】特表2003-520871(JP,A)
【文献】特開昭54-115128(JP,A)
【文献】特表2003-527456(JP,A)
【文献】特開2006-53487(JP,A)
【文献】国際公開第2012/64821(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F6/00-246/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖による共有結合により連結されかつランダムに分布したM単位、N単位および任意に少なくとも1つのP単位を含むコポリマー、ここで、
【化1】
式中、R
1、R
2、R
3は、同じであっても異なっていてもよく、H、C
1-C
10アルキル基、またはC
2-C
10アルケニル基であり、
Y、Xは、同じであっても異なっていてもよく、1個のヘテロ原子から形成されるか、または少なくとも1個の炭素原子を含みかつ少なくとも1個のヘテロ原子を含んでもよい直鎖もしくは分岐型炭化水素鎖から形成されるスペーサーアームであり、
Aは、同じであっても異なっていてもよく、基板に対するアンカー部分を形成し、かつ、Aが同じである場合、メチルチオ、
および-P(=O)(-ORb)2(ここで、2つのRbの一方は-Si(CH3)3であり、他方はH、CH3または-Si(CH3)3である
)からなる群から選択され、Aが異なっている場合、コポリマーは2つの異なるAアンカー部分、または、3つの異なるAアンカー部分:すなわち、メチルチオおよびアルキルジメトキシシラン若しくはジアルキルメトキシシラン;メチルチオおよび3,4-ジヒドロキシフェニル;、または、チオール、トリメトキシシランおよび-P(=O)(-ORb)2(ここで、2つのRbは独立してH、CH3または-Si(CH3)3である);を含み、
Lは、
完全にフッ素化
され、または部分的にフッ素化されたC
1-C
20炭素部分であり、
R
4は、同じであっても異なっていてもよく、H、CH
3、または少なくとも2個の炭素原子を含みかつ少なくとも1個のヘテロ原子を含んでもよい直鎖もしくは分岐型、飽和もしくは不飽和炭化水素鎖である、
コポリマー。
【請求項2】
Y、Xは、同じであっても異なっていてもよく、C
1-C
20エステル基、アミド基、およびスチレン誘導体基を含む群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項3】
Lは
完全にフッ素化され、または部分的にフッ素化されたC
2-C
20炭素部分であることを特徴とする、請求項1または2に記載のコポリマー。
【請求項4】
L
は部分的にフッ素化された部分であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項5】
0.1%~50%の間のM単位、1%~99.9%の間のN単位、および0%~50%の間のP単位を含むことを特徴とする、請求項1~4いずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項6】
10~350の間の単位を含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のコポリマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械学、特に、時計製作法または装身具の分野に関する。本発明は、より詳
しくは、基板、特に、エピラム化剤で少なくとも部分的にコーティングされた表面を含む
時計または装身具の部品の部材のための基板に関する。本発明はまた、このような基板、
およびこのような基板を含む部材を含む時計または装身具の部品にエピラム化を行う方法
に関する。
【背景技術】
【0002】
基板の表面状態を、ある特定の表面特性を特異的に改良するための適当な薬剤を用いた
処理により改質するためには様々な方法がある。例えば、機械学の分野、特に、時計製作
法の分野、また、装身具の分野では、部品または部材の表面は、使用中に前記表面の表面
エネルギーを制御および低減するために、エピラム化剤を用いてエピラム化が行われる場
合が多い。より具体的には、エピラム化剤の目的は、処理済み表面の所定の場所に滑沢剤
を残存させることができる疎水性かつ疎油性の表面を形成させることにより時計または装
身具部品の部材上のオイルまたは滑沢剤の展延を防ぐことである。
【0003】
しかしながら、エピラム化に現行使用されている物質には様々な欠点がある。より具体
的には、Moebius(登録商標)Fixodrop(登録商標)FK/BSまたは3
M(商標)Fluorad(商標)種などの既知のエピラム化剤は、時計メーカーの洗浄
操作に対する耐性が不十分である。特許文献1は、カテコール鎖末端官能基を有するエピ
ラム化剤の使用を提案することによりこの問題をある程度解決するものであり、このカテ
コール官能基には基板の表面への固着能がある。しかしながら、時計メーカーの洗浄操作
に対するこれらのエピラム化剤の耐性は、全ての基板に対して向上しているわけではなく
、特に、時計製作法および装身具の分野で汎用性の高い基板である金およびスチールがそ
うである。従って、既知のエピラム化剤の使用は一般に特定の材料に限定され、このため
ユーザーは被処理表面の性質に応じて利用可能な様々なタイプのエピラム化剤を保持する
必要がある。この問題を克服するための1つの解決策は例えば、特許文献2に開示されて
いる。この解決策は、エピラム化組成物に、相乗作用が基板に対するエピラムの接着を促
進するタイプの異なる化合物(チオール化合物およびビホスホン酸化合物)の混合物を使
用することからなる。しかしながら、これらの各化合物の合成には少なくとも4工程が必
要であり、従って、エピラム化組成物全体を合成する方法は時間がかかり、複雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願第2012/0088099号明細書
【文献】国際公開第2012/085130号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、既知のエピラム化剤の様々な欠点を克服することである。
【0006】
より具体的には、本発明の目的は、既知のエピラム化剤に比べて洗浄耐性が増強された
エピラム化剤を提供することである。
【0007】
本発明の目的はまた、いずれのタイプの材料にも使用可能な万能エピラム化剤を提供す
ることである。
【0008】
本発明の目的はまた、数工程またはさらには一合成工程で製造が簡単なエピラム化剤を
提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的で、本発明は、少なくとも一部がエピラム化剤でコーティングされた表面を含
む基板に関する。
【0010】
本発明によれば、前記エピラム化剤は、少なくとも1種類の化合物を、主鎖による共有
結合により連結されかつランダムに分布したM単位、N単位および任意選択により少なく
とも1つのP単位を含むランダムコポリマーまたは統計的コポリマーの形態で含み、ここ
で、
【0011】
【0012】
式中、R1、R2、R3は、同じであっても異なっていてもよく、H、C1-C10アルキル
基、C1-C10アルケニル基、好ましくはH、CH3基であり、
Y、Xは、同じであっても異なっていてもよく、1個のヘテロ原子から形成されるか、
または少なくとも1個の炭素原子を含みかつ少なくとも1個のヘテロ原子を含んでもよい
直鎖もしくは分岐型炭化水素鎖から形成されるスペーサーアームであり、
Aは、同じであっても異なっていてもよく、基板に対するアンカー部分を形成し、かつ
、チオール、チオエーテル、チオエステル、スルフィド、チオアミド、シラノール、アル
コキシシラン、シランハリド、ヒドロキシル、ホスフェート、保護または非保護ホスホン
酸、保護または非保護ホスホネート、アミン、アンモニウム、含窒素複素環、カルボン酸
、無水物、カテコールからなる群から選択され、
Lは、同じであっても異なっていてもよく、ハロゲン化、好ましくはフッ素化C1-C2
0炭素部分であり、
R4は、同じであっても異なっていてもよく、H、CH3、少なくとも2個の炭素原子を
含みかつ少なくとも1個のヘテロ原子を含んでもよい直鎖または分岐型、飽和または不飽
和炭化水素鎖である。
【0013】
このようなエピラム化剤は洗浄耐性が改善され、万能性を備え、いずれのタイプの材料
にも使用可能となる。
【0014】
本発明はまた、基板表面の少なくとも1つの部分のエピラム化のための方法であって、
a)上記で定義される少なくとも1つの統計的コポリマーを含むエピラム化剤を調製す
る工程;
b)任意選択により基板表面を準備する工程;
c)基板表面をエピラム化剤と接触させる工程;
d)乾燥させる工程
を含む方法に関する。
【0015】
本発明はまた、主鎖による共有結合により連結されかつランダムに分布したM単位、N
単位および任意選択により少なくとも1つのP単位を含む統計的コポリマーに関し、ここ
で、
【0016】
【0017】
式中、R1、R2、R3は、同じであっても異なっていてもよく、H、C1-C10アルキル
基、C1-C10アルケニル基、好ましくはH、CH3基であり、
Y、Xは、同じであっても異なっていてもよく、1個のヘテロ原子から形成されるか、
または少なくとも1個の炭素原子を含みかつ少なくとも1個のヘテロ原子を含んでもよい
直鎖もしくは分岐型炭化水素鎖から形成されるスペーサーアームであり、
Aは、同じであっても異なっていてもよく、基板に対するアンカー部分を形成し、かつ
、チオール、チオエーテル、チオエステル、スルフィド、チオアミド、シラノール、アル
コキシシラン、シランハリド、ヒドロキシル、ホスフェート、保護または非保護ホスホン
酸、保護または非保護ホスホネート、アミン、アンモニウム、含窒素複素環、カルボン酸
、無水物、カテコールからなる群から選択され、
Lは、同じであっても異なっていてもよく、ハロゲン化、好ましくはフッ素化C1-C2
0炭素部分であり、
R4は、同じであっても異なっていてもよく、H、CH3、少なくとも2個の炭素原子を
含みかつ少なくとも1個のヘテロ原子を含んでもよい直鎖または分岐型、飽和または不飽
和炭化水素鎖であり、
ただし、以下のコポリマーは除く。
【0018】
【0019】
本発明はまた、特に時計または装身具を意図した基板表面の少なくとも1つの部分のた
めのエピラム化剤としての、主鎖による共有結合により連結されかつランダムに分布した
M単位、N単位および任意選択により少なくとも1つのP単位を含む統計的コポリマーの
使用に関し、ここで、
【0020】
【0021】
式中、R1、R2、R3は、同じであっても異なっていてもよく、H、C1-C10アルキル
基、C1-C10アルケニル基、好ましくはH、CH3基であり、
Y、Xは、同じであっても異なっていてもよく、1個のヘテロ原子から形成されるか、
または少なくとも1個の炭素原子を含みかつ少なくとも1個のヘテロ原子を含んでもよい
直鎖もしくは分岐型炭化水素鎖から形成されるスペーサーアームであり、
Aは、同じであっても異なっていてもよく、基板に対するアンカー部分を形成し、かつ
、 チオール、チオエーテル、チオエステル、スルフィド、チオアミド、シラノール、ア
ルコキシシラン、シランハリド、ヒドロキシル、ホスフェート、保護または非保護ホスホ
ン酸、保護または非保護ホスホネート、アミン、アンモニウム、含窒素複素環、カルボン
酸、無水物、カテコールからなる群から選択され、
Lは、同じであっても異なっていてもよく、ハロゲン化、好ましくはフッ素化C1-C2
0炭素部分であり、
R4は、同じであっても異なっていてもよく、H、CH3、少なくとも2個の炭素原子を
含みかつ少なくとも1個のヘテロ原子を含んでもよい直鎖または分岐型、飽和または不飽
和炭化水素鎖である。
【0022】
本発明はまた、上記で定義される基板を含む部材を備えた時計または装身具部品に関す
る。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明によれば、基板、特に、時計または装身具部品の部材の基板は、少なくとも1つ
の部分がエピラム化剤でコーティングされた表面を含み、前記エピラム化剤は、少なくと
も1種類の化合物を、主鎖による共有結合により連結されかつランダムに分布したM単位
、N単位および任意選択により少なくとも1つのP単位を含むランダムコポリマーまたは
統計的コポリマーの形態で含み、ここで、
【0024】
【0025】
式中、R1、R2、R3は、同じであっても異なっていてもよく、H、C1-C10アルキル
基、C1-C10アルケニル基、好ましくはH、CH3基であり、
Y、Xは、同じであっても異なっていてもよく、1個のヘテロ原子から形成されるか、
または少なくとも1個の炭素原子を含みかつ少なくとも1個のヘテロ原子を含んでもよい
直鎖もしくは分岐型炭化水素鎖から形成されるスペーサーアームであり、
Aは、同じであっても異なっていてもよく、基板に対するアンカー部分を形成し、かつ
、チオール、チオエーテル、チオエステル、スルフィド、チオアミド、シラノール、アル
コキシシラン、シランハリド、ヒドロキシル、ホスフェート、保護または非保護ホスホン
酸、保護または非保護ホスホネート、アミン、アンモニウム、含窒素複素環(例えばイミ
ダゾールまたはピリジン)、カルボン酸、無水物、カテコールからなる群から選択され、
Lは、同じであっても異なっていてもよく、ハロゲン化、好ましくはフッ素化C1-C2
0炭素部分であり、
R4は、同じであっても異なっていてもよく、H、CH3、少なくとも2個の炭素原子を
含みかつ少なくとも1個のヘテロ原子を含んでもよい直鎖または分岐型、飽和または不飽
和炭化水素鎖である。
【0026】
好ましくは、統計的コポリマーは、主鎖による共有結合により連結されかつランダムに
分布したM単位、N単位および任意選択により少なくとも1つのP単位を含み、ここで、
【0027】
【0028】
式中、R1、R2、R3は、同じであっても異なっていてもよく、H、C1-C10アルキル
基、C1-C10アルケニル基、好ましくはH、CH3基であり、
Y、Xは、同じであっても異なっていてもよく、1個のヘテロ原子から形成されるか、
または少なくとも1個の炭素原子を含みかつ少なくとも1個のヘテロ原子を含んでもよい
直鎖もしくは分岐型炭化水素鎖から形成されるスペーサーアームであり、
Aは、同じであっても異なっていてもよく、基板に対するアンカー部分を形成し、かつ
、チオール、チオエーテル、チオエステル、スルフィド、チオアミド、シラノール、アル
コキシシラン、シランハリド、ヒドロキシル、ホスフェート、保護または非保護ホスホン
酸、保護または非保護ホスホネート、アミン、アンモニウム、含窒素複素環(例えばイミ
ダゾールまたはピリジン)、カルボン酸、無水物、カテコールからなる群から選択され、
Lは、同じであっても異なっていてもよく、ハロゲン化、好ましくはフッ素化C1-C2
0炭素部分であり、
R4は、同じであっても異なっていてもよく、H、CH3、少なくとも2個の炭素原子を
含みかつ少なくとも1個のヘテロ原子を含んでもよい直鎖または分岐型、飽和または不飽
和炭化水素鎖である。
【0029】
好ましくは、統計的コポリマーは、M単位、N単位および任意選択によりP単位のみを
含む。
【0030】
M単位、N単位およびP単位は、それらの主鎖により互いに統計的に連結されており、
従って、統計的コポリマーは以下の形式で記載することができる。
【0031】
【0032】
有利には、同じまたは異なるY、X部分は、C1-C20エステル基、好ましくはC2-C
10エステル基、より好ましくはC2-C6エステル基、いっそうより好ましくはC2-C5エ
ステル基、好ましくはアルキルエステル基、好ましくは直鎖アミド基、およびスチレン誘
導体基からなる群から選択される。
【0033】
対象とするA官能基は、エピラム化を行う基板表面と反応して、基板表面においてエピ
ラム化剤のためのアンカー部分を形成することができる。有利には、A基はコポリマーの
末端に提供され得る。
【0034】
有利には、コポリマーは、少なくとも2つの異なるAアンカー部分を含む。
【0035】
対象とするL官能基は、エピラム効果を担う。L官能基は少なくとも1個のハロゲン原
子、好ましくはフッ素原子を含む。好ましくは、Lは炭素部分、すなわちC2-C20、好
ましくはC4-C10、より好ましくはC6-C9アルキル鎖であり、環式であってもよく、
好ましくはヘテロ原子を含まない。Lは部分的または完全にハロゲン化されている。有利
には、Lは少なくとも部分的にフッ素化された、好ましくは完全にフッ素化された部分で
ある。Lはまた末端基に水素原子を含んでもよい。Lは好ましくは過フッ素化アルキル鎖
である。
【0036】
P単位の対象とするR4官能基は、エピラム化剤の特性を改質するため、かつ/または
他の機能を提供するために用いられる。例えば、R4は、相補的架橋工程(工程e)にお
いて得られる接触の角度または形成可能な鎖の架橋点を変更するために使用されるアルキ
ル鎖、好ましくはC8-C20アルキル鎖であり得る。例えば、P単位は、ステアリルメタ
クリレートから誘導することができる。
【0037】
好ましくは、統計的コポリマーは、0.1%~50%の間、好ましくは5%~30%の
間、より好ましくは5%~20%の間のM単位、1%~99.9%の間、好ましくは50
%~99.9%の間、より好ましくは80%~95%の間のN単位、および0%~50%
の間、好ましくは0%~30%の間、より好ましくは0%~10%の間のP単位を含み、
これらのパーセンテージは単位の総数(x+y+z)に対して表される。
【0038】
有利には、統計的コポリマーは10~350の間の単位(x+y+z)を含む。
【0039】
特に有利な様式では、M単位、N単位、P単位は、より具体的には、基板との親和性が
改良された万能エピラム化剤を得るためエピラム化剤の特性を精密化および改良するため
には、タイプの異なる数個のA基、好ましくは同じタイプの数個のL基、およびあり得る
場合として、タイプは同じであっても異なっていてもよい1個以上のR4基を有するよう
に選択される。
【0040】
好ましくは、少なくとも一部がエピラム化剤でコーティングされた基板表面は、金属、
ドープまたは非ドープ金属酸化物、ポリマー、サファイア、ルビー、ケイ素、酸化ケイ素
、窒化ケイ素、炭化ケイ素、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、およびそれらの合
金からなる群から選択される材料から製造される。
【0041】
より具体的には、基板表面は、スチール製、金、ロジウム、パラジウム、白金などの貴
金属製、またはアルミニウム、ジルコニウム、チタン、クロム、マンガン、マグネシウム
、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、モリブデン、銀、タングステンのドープもしくは非ドープ金
属酸化物、またはポリオキシメチレンもしくはアクリルアミド、およびそれらの合金製で
あり得る。
【0042】
本発明はまた、基板表面の少なくとも1つの部分のエピラム化のための方法であって、
a)上記で定義される少なくとも1つの統計的コポリマーを含むエピラム化剤を調製す
る工程;
b)任意選択により特に標準的な時計メーカーの方法に従った洗浄により基板表面を準
備する工程;
c)基板表面をエピラム化剤と接触させる工程;
d)乾燥させる工程
を含む方法に関する。
【0043】
好ましくは、エピラム化剤は、M単位を形成し得るモノマーとN単位を形成し得るモノ
マーと任意選択により少なくとも1つのP単位を形成し得るモノマーとの統計的共重合に
より作製される。
【0044】
統計的共重合技術は当業者に周知であり、詳細に記載する必要はない。特に好適な重合
法は、溶液またはエマルジョン中でのフリーラジカル共重合である。
【0045】
第1の変形形態によれば、統計的共重合は、Y-A側鎖を有するモノマーとX-L側鎖
を有するモノマーとあり得る場合としてR4側鎖を有するモノマーとの共重合、好ましく
はラジカル共重合により一工程で得ることができる。
【0046】
別の変形形態によれば、統計的コポリマーは、適当なY側鎖を有するモノマーと適当な
X側鎖を有するモノマーとあり得る場合としてR4を有することが意図される側鎖を有す
るモノマーとの共重合、好ましくはラジカル重合により得ることができ、次に、これらの
側鎖は、例えばクリックケミストリーにより、対象とするA官能基、L官能基およびR4
基を導入するように修飾される。
【0047】
好ましくは、モノマーは、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリ
ルアミド、ビニル、ジエン、スチレンおよびオレフィンモノマーからなる群から選択され
る。
【0048】
アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、ビニルおよびス
チレンモノマーは特に好ましい。これらの製品は既知であり、大抵の場合、市場で入手可
能であるか、または合成工程で入手することができる。
【0049】
特に好ましいモノマーは以下のものである。
【0050】
【0051】
よって、エピラム化剤として使用するコポリマーは、一工程でまたは市販の製品から限
定数の工程で容易に得ることができる。
【0052】
本発明で好ましく使用されるコポリマーの1つは下記の構造(I)を有する。
【0053】
【0054】
より詳しくは、本発明で好ましく使用されるコポリマーは下記の構造(II)を有する
。
【0055】
【0056】
本発明で使用されるコポリマーは、粉末または粘稠な液体形態で得ることができる。次
に、それらを過フッ素化またはフッ素化炭化水素、ペルフルオロポリエーテル、ヒドロフ
ルオロオレフィン、ヒドロフルオロエーテルなどのフッ素化溶媒中、好ましくは50mg
/L~250mg/Lの間に含まれる濃度の溶液に入れ、エピラム化を行う表面を処理す
るために使用されるエピラム化剤溶液を得ることができる。
【0057】
変形形態では、本発明によるエピラム化法は、工程c)の後に、特に、P単位のR4側
鎖に提供される、対象とする適当な官能基の存在により可能となる相補的架橋工程e)を
さらに含んでよい。
【0058】
本発明による基板は、合成が簡単かつ経済的であり、いずれの基板タイプとも親和性を
示し、しかも既知のエピラム化剤に比べて洗浄操作に対する耐性が改良されたエピラム化
剤でコーティングされた表面を有する。本発明による基板を備えた部材または部品は、機
械学、およびより詳しくは、精密機械学、および特に時計製作法および装身具の分野で、
いずれのタイプの適用にも使用可能である。
【0059】
以下の例は、その範囲を限定することなく本発明を説明する。
【実施例】
【0060】
3-メタクリルオキシプロピルメチルチオエーテルの合成:
(メチルチオ)プロパノール(4.05mL)、ジクロロメタン(100mL)および
トリエチルアミン(8.2mL)を、磁気撹拌しながら窒素雰囲気下に置いた三口フラス
コに加えた。この溶液を氷浴中で冷却した後、塩化メタクリレート(3.8mL)を10
分かけて滴下した。この反応混合物を0℃で2時間、次いで周囲温度で一晩撹拌した。7
0mLの水を加え、次に、この反応混合物を分液漏斗に移した。有機相と水相を分離した
。有機相をHCl溶液(pH=4)で、pH=7となるまで洗浄した後、Na2SO4で乾
燥させた。次に、ロータリーエバポレーターにて溶媒を除去し、予想生成物を97%の収
率で得た。
【0061】
RMN1H(CDCl3, 500MHz):化学シフト(ppm):6.10(s,1H
),5.56(s,1H),4.24(t,2H),2.58(t,2H),2.11(
s,3H),1.99(m,2H),1.94
【0062】
実施例1
統計的コポリマーの形態のエピラム化剤を、以下の手順に従い、
・(3-アクリルオキシプロピル)メチルジメトキシシラン
・1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデシルアクリレート
・3-メタクリルオキシプロピルメチルチオエーテル(上記に示すように製造)
のフリーラジカル重合により合成した:
(3-アクリルオキシプロピル)メチルジメトキシシラン(189μL)および3-メタ
クリルオキシプロピルメチルチオエーテル(159μL)および次いで1H,1H,2H
,2H-ペルフルオロデシルアクリレート(2.3mL)を、予め窒素で脱気したシクロ
ヘキサノン(2.5mL)を含有するシュランク管に加えた。この反応媒体に5分間窒素
をバブリングさせた後、予め窒素をバブリングさせた0.8mLのNovec(商標)ヒ
ドロフルオロエーテルHFE-7200(3M(商標))を加えた。0.5mLの0.2
28mol/Lアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)溶液を加えた。この反応媒体を
撹拌し、3時間80℃に加熱した。このポリマーをメタノール中で凝固させた後にすすい
だ(3×50mL)。ポリマーは白色粉末の形態で得られた(収率=90%)。
【0063】
以下の統計的コポリマーが得られる。
【0064】
【0065】
実施例2
統計的コポリマーの形態のエピラム化剤を、以下の手順に従い、
・(3-アクリルオキシプロピル)メチルジメトキシシラン
・1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデシルアクリレート
・3-メタクリルオキシプロピルメチルチオエーテル
・1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート
の制御フリーラジカル重合により合成する:
(3-アクリルオキシプロピル)メチルジメトキシシラン(189μL)および3-メタ
クリルオキシプロピルメチルチオエーテル(159μL)、1,6-ヘキサンジオールジ
メタクリレート(12μL)および次いで1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデシル
アクリレート(2.3mL)を、予め窒素で脱気したシクロヘキサノン(2.5mL)を
含有するシュランク管に加えた。この反応媒体に5分間窒素をバブリングさせた後、予め
窒素をバブリングさせた0.8mLのNovec(商標)HFE-7200を加えた。0
.5mLの0.228mol/L AIBN溶液を加えた。この反応媒体を撹拌し、3時
間80℃に加熱した。このポリマーをメタノール中で凝固させた後にすすいだ(3×50
mL)。ポリマーは白色粉末の形態で得られた(収率=97%)。
【0066】
以下の統計的架橋コポリマーが得られる。
【0067】
【0068】
このコポリマーにおいて、P単位のR4側鎖は別のコポリマーの側鎖と架橋される。
【0069】
実施例3
後架橋可能な統計的コポリマーの形態のエピラム化剤を、以下の手順に従い、
・(3-アクリルオキシプロピル)メチルジメトキシシラン
・1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデシルアクリレート
・3-メタクリルオキシプロピルメチルチオエーテル
・2-シンナモイルオキシエチルアクリレート(後架橋可能モノマー)
のフリーラジカル重合により合成する:
(3-アクリルオキシプロピル)メチルジメトキシシラン(189μL)および3-メタ
クリルオキシプロピルメチルチオエーテル(159μL)、2-シンナモイルオキシエチ
ルアクリレート(92mg)および次いで1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデシル
アクリレート(2.2mL)を、予め窒素で脱気したシクロヘキサノン(2.5mL)を
含有するシュランク管に加えた。この反応媒体に5分間窒素をバブリングさせた後、予め
窒素をバブリングさせた0.8mLのNovec(商標)HFE-7200を加えた。0
.5mLの0.228mol/L AIBN溶液を加えた。この反応媒体を撹拌させ、3
時間80℃に加熱した。このポリマーをメタノール中で凝固させた後に洗浄した(3×5
0mL)。ポリマーは白色粉末の形態で得られる(収率=90%)。
【0070】
以下の後架橋可能な統計的コポリマーが得られる。
【0071】
【0072】
このコポリマーにおいて、R4側鎖は、合成直後または基板に付着させた後にUV架橋
することができる。
【0073】
実施例4
統計的コポリマーの形態のエピラム化剤を、以下の手順に従い、
・3-アクリルオキシプロピルメチルトリメトキシシラン
・1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデシルアクリレート
・(ジメトキシホスホリル)メチル2-メチルアクリレート
・2-チオエチルメタクリルアミド(刊行物:Synthesis and chara
cterization of a high selective mercury(
II)-imprinted polymer using novel aminot
hiol monomer,Talanta,101,261-266;2012に記載
の手順に従って合成)
のフリーラジカル重合により合成する:
3-アクリルオキシプロピルメチルトリメトキシシラン(378μL)および2-チオエ
チルメタクリルアミド(132μL)および次いで1H,1H,2H,2H-ペルフルオ
ロデシルアクリレート(2.3mL)を、予め窒素で脱気したシクロヘキサノン(2.5
mL)を含有するシュランク管に加えた。この反応媒体に5分間窒素をバブリングさせた
後、予め窒素をバブリングさせた0.8mLのNovec(商標)HFE-7200を加
えた。0.5mLの0.228mol/Lアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)溶液
を加えた。この反応媒体を撹拌し、3時間80℃に加熱した。このポリマーをメタノール
中で凝固させた後にすすいだ(3×50mL)。ポリマーは白色粉末の形態で得られた(
収率=90%)。
【0074】
以下の統計的コポリマーが得られる。
【0075】
【0076】
実施例5
統計的コポリマーの形態のエピラム化剤を、以下の手順に従い、
・(3-アクリルオキシプロピル)メチルジメトキシシラン
・1H,1H,2H,2H-ペルフルオロオクチルアクリレート
・3-アクリルオキシプロピルメチルチオエーテル(文献:Preparation o
f biomimetic polymer hydrogel materials
for contact lenses,Bertozzi,Carolyn et a
l.US Patent 6552103に記載の手順を用いて得る)
のフリーラジカル重合により合成する:
3-アクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン(148μL)および3-アクリル
オキシプロピルメチルチオエーテル(108μL)および次いで1H,1H,2H,2H
-ペルフルオロオクチルアクリレート(2.1mL)を、予め窒素で脱気したシクロヘキ
サノン(2mL)を含有するシュランク管に加えた。この反応媒体に5分間窒素をバブリ
ングさせた後、予め窒素をバブリングさせた0.8mLのヒドロフルオロエーテル(No
vec(商標)HFE-7200)を加えた。0.5mLの0.228mol/Lアゾビ
スイソブチロニトリル(AIBN)溶液を加えた。この反応媒体を撹拌し、3時間80℃
に加熱した。このポリマーをメタノール中で凝固させた後にすすいだ(3×50mL)。
ポリマーは半透明のゲルの形態で得られた(収率=90%)。
【0077】
以下の統計的コポリマーが得られる。
【0078】
【0079】
実施例6:洗浄耐性
使用手順:
基板の準備
エピラム処理の前に、種々のタイプの基板を標準的な時計メーカーの方法を用いて洗浄
した。より具体的には、これらのパーツを超音波の存在下、ルビソール溶液で洗浄し、イ
ソプロピルアルコールで3回すすぎ、その後、温風で乾燥させた。
【0080】
基板のエピラム処理
基板を、エピラム化剤の溶液:(溶媒:250mg/L DuPont(商標)Ver
trel(登録商標)Suprion(商標))中に浸漬(5分前後)した後に温風で乾
燥させることによりエピラム化した。
【0081】
洗浄耐性
エピラム化剤の洗浄耐性を、エピラム化パーツの3回の連続洗浄操作(ルビソール溶液
を用いた標準的な時計メーカーの洗浄)後に評価した。
【0082】
接触の角度
エピラム化剤の有効性を、2種類の滑沢剤:MOEBIUS Testol 3および
9010オイルの油滴を付着させることにより評価した。各滑沢剤および各エピラム化剤
について、基板と滑沢剤との接触の角度をOCA Dataphysics装置で測定し
た。
【0083】
結果:
種々の基板を実施例1のエピラム化剤または実施例4のエピラム化剤のいずれかでエピ
ラム化した。次に、これらの基板を3回の時計メーカーの洗浄操作により洗浄した。
【0084】
比較のため、種々の基板を
・Moebius(登録商標)Fixodrop(登録商標)FK/BS(最もよく用い
られている市販のエピラムの1つ)または
・国際公開第2014/009058号に記載されている、後述のエピラム化剤M51
のいずれかを用いてエピラム化した後、3回の時計メーカーの洗浄操作を行う。
【0085】
【0086】
M51エピラム化剤は、時計メーカーの洗浄操作に対して最も耐性のあるエピラム化剤
の1つであることが知られている。
【0087】
Testol 3オイルおよび9010オイルそれぞれの油滴を各エピラム化基板に付
着させ、基板と滑沢剤との接触の角度を測定した。
【0088】
結果を下表に示すが、これらの表は測定された接触の角度の値を示す。
【0089】
【0090】
結論:
上記の結果は、2種類のオイル(Testol 3および9010)を用いた3回の時
計メーカーの洗浄操作後に得られた接触の角度は、既知のエピラム化剤でエピラム化した
基板に比べて、本発明のエピラム化基板ではるかに大きいことを示す。従って、3回の時
計メーカーの洗浄操作後のエピラム化効果は、本発明に従ってエピラム化した基板ではる
かに高い。これは本発明に従ってエピラム化した基板が、その基板のタイプが何であれ、
洗浄耐性の向上を与えることを示す。