(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-12
(45)【発行日】2023-07-21
(54)【発明の名称】立体配線構造および立体配線構造の製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 1/02 20060101AFI20230713BHJP
H05K 3/10 20060101ALI20230713BHJP
A47K 13/30 20060101ALI20230713BHJP
【FI】
H05K1/02 B
H05K3/10 D
A47K13/30 A
(21)【出願番号】P 2018198464
(22)【出願日】2018-10-22
【審査請求日】2021-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】坂 晋二
(72)【発明者】
【氏名】松田 宏
【審査官】鹿野 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-196791(JP,A)
【文献】特開2011-062589(JP,A)
【文献】特開2006-173212(JP,A)
【文献】特開2012-084657(JP,A)
【文献】特開平04-137590(JP,A)
【文献】特開2007-061690(JP,A)
【文献】特開2014-003107(JP,A)
【文献】特開2010-075533(JP,A)
【文献】国際公開第2006/076609(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/02
H05K 3/10
A47K 13/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の曲面部に沿って立体的に形成される立体領域を含む印刷配線を有し、
前記立体領域には、前記基材から受ける応力を分散可能な応力分散部が設けられ、
前記印刷配線は、1以上の印刷層を含み、前記応力分散部の印刷層数は、前記印刷配線の前記応力分散部に隣接する部分の印刷層数より多いことを特徴とする立体配線構造。
【請求項2】
前記応力分散部は、厚肉部を有し、
前記印刷配線において、前記厚肉部の最大膜厚は、当該厚肉部に隣接する部分の膜厚の1.5倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の立体配線構造。
【請求項3】
側断面の曲率半径において、前記応力分散部の前記曲面部とは反対側の曲率半径は、前記曲面部の前記応力分散部側の曲率半径の2倍以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の立体配線構造。
【請求項4】
前記印刷配線は、便座の座面部材の裏側の上面部から内側面部にわたる領域に印刷された電気ヒータであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の立体配線構造。
【請求項5】
基材の曲面部に沿って立体的に形成される立体領域を含む印刷配線を有し、前記立体領域に、前記基材から受ける応力を分散可能な応力分散部が設けられる立体配線構造を製造する方法であって、
吐出部を基材の印刷配線が形成される領域に接近させ、この状態で前記吐出部を前記基材に対して相対移動させながら前記吐出部から導電性材料を吐出する吐出工程を含み、
前記吐出工程は、前記応力分散部を形成する箇所に、導電性材料を重ねて吐出することを特徴とする立体配線構造の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体配線構造および立体配線構造の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
立体的な表面に印刷配線を形成する技術が知られている。例えば、特許文献1には、印刷基板上に形成された配線と、当該印刷基板上に搭載された電子部品の立体的形状部分とに導電性のインク材料を印刷して電気的に接続する印刷配線板が記載されている。特許文献1に記載の印刷配線は、インク材料をインク塗布モジュールの噴出口から噴出させながらその噴出口の部分をアクチュエータの駆動により移動させて連続的に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、建物用の設備・機器に内蔵される電気・電子機器の配線手段について以下の認識を得た。
建物用の設備・機器を高機能化するために、これらの設備・機器に電気・電子機器を内蔵するものが増えている。この場合、建物用の設備・機器のケースや筐体などの壁面には、プリント配線板が設けられる場合がある。このようなプリント配線板として予め印刷配線が形成された樹脂フィルムをケースや筐体などの裏側に貼る構成が考えられる。
【0005】
しかし、この構成では樹脂フィルムがボトルネックとなり、建物用の設備・機器の高機能化に十分に対応できない場合があることが発明者らの検討により判明した。このため、発明者らは、建物用の設備・機器のケースや筐体などの壁面に直接印刷配線を形成する構成を考案した。しかし、建物用の設備・機器のケースや筐体などは、使用者の使用の際に衝撃や荷重を受けることが多く、繰り返し使用されるとケースや筐体などの壁面に形成された印刷配線にクラックを生じる懸念があることが判明した。
【0006】
これらから、本発明者らは、基材に形成された印刷配線について、基材が衝撃や荷重を受けた際の応力の影響を小さくする観点から、特許文献1の開示技術に関して改良の余地があるとの認識を得た。
【0007】
本発明のある態様は、このような課題に鑑みてなされたもので、その目的の1つは、基材が衝撃や荷重を受けた際の応力の影響を小さくすることが可能な立体配線構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の立体配線構造は、基材の曲面部に沿って立体的に形成される立体領域を含む印刷配線を有する。立体領域には、基材から受ける応力を分散可能な応力分散部が設けられる。
【0009】
本発明の別の態様は、立体配線構造の製造方法である。この方法は、基材の曲面部に沿って立体的に形成される立体領域を含む印刷配線を有し、立体領域には、基材から受ける応力を分散可能な応力分散部が設けられる立体配線構造を製造する方法であって、吐出部を基材の印刷配線が形成される領域に接近させ、この状態で吐出部を基材に対して相対移動させながら吐出部から導電性材料を吐出する吐出工程を含む。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基材が衝撃や荷重を受けた際の応力の影響を小さくすることが可能な立体配線構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態に係る立体配線構造を備えた便座を示す斜視図である。
【
図2】立体配線構造の基材と印刷配線とを模式的に示す斜視図である。
【
図4】比較例の立体配線構造について基材と印刷配線とを模式的に示す斜視図である。
【
図6】
図2の立体配線構造の基材から応力を受けた場合の印刷配線の応力分布を示す。
【
図7】
図4の立体配線構造の基材から応力を受けた場合の印刷配線の応力分布を示す。
【
図8】
図2の立体配線構造の応力分散部の一例を説明する説明図である。
【
図9】
図2の立体配線構造の製造方法を説明する説明図である。
【
図10】第1変形例に係る立体配線構造の側断面図である。
【
図11】第2変形例に係る立体配線構造の側断面図である。
【
図12】第3変形例に係る立体配線構造の側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、建物用の設備・機器の一つである暖房便座を例に本発明に至った過程を説明する。トイレを快適に使用するために、便座には座面の裏側に加熱用のヒータが設けられる。このようなヒータとしては、予め印刷配線が形成された樹脂フィルムを座面の裏側に貼る構成が考えられる。しかし、昨今の省エネニーズから待機電力を低減し、使用直前に急速加熱することが求められているところ、上述の構成では樹脂フィルムの熱抵抗がボトルネックとなり十分に対応できるとはいえない。
【0014】
これらから、本発明者らは、座面の裏側に直接印刷配線を形成して速熱性を改善する技術を発案した。しかし、座面は、使用者の荷重を受けて、着座時に潰れて脱座時に復元する変形を繰り返す。座面が繰り返し変形する際、印刷配線にも繰り返し応力が付与される。このとき、座面の曲面部に形成された印刷配線の屈曲領域には特に大きな応力が付与され、クラックが発生しやすいことが判明した。この場合、クラックの周辺で抵抗が増加し局所的に発熱量が増え、座面の温度分布が不均一になり、使用者が不快に感じる懸念がある。また、クラックが進行すると配線が断線するおそれもある。
【0015】
このように、座面などの基材が受けた応力により基材に形成された印刷配線にクラックが発生する現象は、便座に限らず基材に形成された印刷配線を有する他の種類の建物用の設備・機器についても生じうる。
【0016】
本発明者らは、これらの知見に基づいて、印刷配線の立体領域に、座面の曲面部が変形したときに受ける応力を分散可能な応力分散部を設けることにより、その応力の影響を軽減する構成を創案した。以下、本発明が適用された実施形態を例に詳細に説明する。
【0017】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施の形態および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0018】
なお、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0019】
[実施の形態]
図1~
図6を参照して、本発明の実施の形態に係る立体配線構造1について説明する。
図1は、実施の形態の立体配線構造1を備えた便座12を示す斜視図である。この図は、便座12から裏板部(不図示)を外した状態で座面部材を斜め裏側から視た図である。立体配線構造1は、基材10に形成された印刷配線20を含むところ、本実施形態で基材10は便座12の座面部材であり、印刷配線20は電気ヒータである。
【0020】
基材10は、着座者の大腿部が載置される部分で、中孔部10mを囲む環状または一部が欠けた環状を有する。基材10は、上面部10aと、内側面部10bと、外側面部10cとを有する。上面部10aは、略水平または中孔部10m側が下がる傾斜に沿って延在し、主に大腿部の中央領域が接する部分である。内側面部10bは、上面部10aの内縁から下方に延びて中孔部10mを囲み、着座者の大腿部の内側領域が接する部分である。外側面部10cは、上面部10aの外縁から下方に延び、上面部10aの外側を囲む部分である。
【0021】
図1に示すように、基材10の裏面10fには印刷配線20が設けられる。印刷配線20は、基材10を加温する電気ヒータとして機能する。本実施形態の印刷配線20は、矩形の繰り返しパターンを有し、基材10の裏面10fに印刷により形成される。着座者の大腿部の内側が内側面部10bに触れたときに温感を与えることが望ましい。このため、印刷配線20は、上面部10aから内側面部10bにわたる領域に設けられている。
図1の破線円Aに示すように、上面部10aと内側面部10bとは曲面部10dによって繋がれている。曲面部10dは、上面部10aと内側面部10bとを接続する曲面であり、湾曲面や屈曲面など様々な曲面を含んでもよい。
【0022】
図2は、立体配線構造1について基材10と印刷配線20とを模式的に示す斜視図である。
図3は、立体配線構造1を矢印Bから視た側断面図である。これらの図では印刷配線20の重要でない部分の記載を省略している。
図2、
図3に示すように、印刷配線20は、立体領域20dと、立体領域20dに隣接して設けられる第1領域20aおよび第2領域20bとを含む。立体領域20dは、基材10の曲面部10dの表面に沿って立体的に形成される。第1領域20aは、上面部10aに形成される。第2領域20bは、内側面部10bに形成される。
図3に示すように、立体領域20dには、基材10から受ける応力を分散可能な応力分散部20eが設けられる。応力分散部20eは、基材10から応力を受けたときに、その応力を分散して狭い領域への応力集中を緩和する形状を有する。
【0023】
(比較例)
ここで、
図4、
図5、
図7を参照して、先に比較例に係る立体配線構造8を説明する。
図4は、立体配線構造8について基材10と印刷配線20とを模式的に示す斜視図であり、
図2に対応する。
図5は、立体配線構造8を矢印Bから視た断面図であり、
図3に対応する。比較例に係る立体配線構造8は、発明者らが立体配線構造1を創作する過程で、比較のために創作したものである。立体配線構造8は、立体配線構造1に対して応力分散部20eを有しない点で相違し、その他の構成は同様である。したがって、重複する説明を省く。
【0024】
比較例では、
図5の破線円Cに示すように、上面部10aに対して内側面部10bに内向き(
図5の矢印の方向)の変形応力を受けた場合、印刷配線20に加わる応力は立体領域20dの曲率変化が最大の領域(曲率半径が最少の領域)に集中する。
【0025】
図7は、比較例について、上面部10aを固定して内側面部10bに5N/mの等分布荷重を加えたときの立体領域20d近傍の応力分布のシミュレーション結果である。この試料の第1領域20a、第2領域20bおよび立体領域20dは膜厚1mmの配線であり、立体領域20dの表面の曲率半径は0.5mmである。この結果が示すように、第1領域20aおよび第2領域20bの応力はあまり大きくないが、立体領域20dには応力が集中し、その部分で応力は200Mpaを超えている。曲率半径が最少の領域で応力が限界を超えると、その部分に
図5の破線円Cに示すようにクラックが発生する。
【0026】
比較例の結果を踏まえて本実施形態の立体配線構造1の応力分布を説明する。
図6は、本実施形態について、上面部10aを固定して内側面部10bに5N/mの等分布荷重を加えたときの立体領域20d近傍の応力分布のシミュレーション結果である。この試料の第1領域20a、第2領域20bおよび立体領域20dは膜厚1mmの配線であり、立体領域20dには表面の曲率半径が5.0mmの応力分散部20eが設けられている。本実施形態では、応力分散部20eを有することにより、立体領域20dへの応力集中が緩和され応力が分散され、比較例と比べて立体領域20dの応力は大幅に低下する。
【0027】
図8を参照して、応力分散部20eを説明する。
図8は、本実施形態の立体配線構造1の応力分散部20eの一例を説明する説明図である。この図は、
図3と同様に立体配線構造1を側面から視た側断面を示している。応力分散部20eは、印刷配線20の延在方向における前後(以下、単に「前後」という)の部分より厚く形成された厚肉部20nを有する。つまり、厚肉部20nは局所的に厚く形成された部分であってもよい。応力分散効果を有意に得る観点でなされたシミュレーションによれば、厚肉部20nの膜厚は、印刷配線20の厚肉部20nに隣接する部分の膜厚の1.5倍以上が好ましく、3倍以上はより好ましく、5倍以上はさらに好ましい。厚肉部20nの膜厚は、製造経済上の観点から10mm以下が実用的である。本実施形態では、
図8に示すように、第1、第2領域20a、20bの膜厚Da、Dbは1mmで、厚肉部20nの最大膜厚Deは3.3mmで、膜厚Deの膜厚Da、Dbに対する比率は3.3倍である。
【0028】
図8を参照して、応力分散部20eの曲率半径H20eを説明する。曲率半径H20eは、立体配線構造1を側面から視た側断面の表面の曲率半径である。なお、この側断面は印刷配線20を、その延在方向および膜厚方向に直行する方向から視た断面であってもよい。応力集中を回避する観点でなされたシミュレーションによれば、曲率半径H20eは、曲面部10dの表面の曲率半径H10dの2倍以上が好ましく、5倍以上はより好ましく、10倍以上はさらに好ましい。本実施形態では、
図8に示すように、曲面部10dの曲率半径H10dは0.5mmで、曲率半径H20eは5mmで、曲率半径H20eの曲率半径H10dに対する比率は10倍である。
【0029】
(製造方法)
図9を参照して、応力分散部20eを有する立体配線構造1の製造方法を説明する。
図9は、立体配線構造1の製造方法を説明する説明図である。立体配線構造1は、基材10に導電性材料を所望の膜厚に印刷することにより製造することができる。この印刷方法は、印刷配線20を所望の形状に形成可能な方法であれば特に限定されない。印刷方法は、例えば、ディスペンサ印刷、インクジェット印刷、パッド印刷等であってもよい。本実施形態の印刷方法では、導電性材料52を吐出する吐出部50を印刷配線20が形成される領域に接近させ、この状態で吐出部50を基材10に対して相対移動させながら導電性材料52を吐出して印刷する。
【0030】
導電性材料52は銅ペーストや銀ペーストなどの導電性ペーストであってもよい。導電性材料52の粘度は、所望の特性を実現可能な範囲で任意に選択できる。本実施形態では比較的高粘度(例えば、6Pa・s)の導電性材料52を用いている。吐出部50は、導電性材料52を吐出するディスペンサであってもよい。
図9の例では、基材10を固定し、例えば、吐出部50を破線で示す位置から実線で示す位置に向かって、印刷配線20の延在方向に沿って移動させる。吐出部50を移動させながら所定の位置で吐出部50の吐出口から所定量の導電性材料52を吐出することにより印刷配線20を形成する。この印刷は、片道印刷でもよいし、往復印刷でもよいし、往復印刷を複数回繰り返してもよい。片道印刷によれば早く印刷でき、往復印刷によればより多くの導電性材料52を塗布でき、また塗布ムラを低減できる。
【0031】
片道印刷によれば単層の印刷層を形成でき、往復印刷によれば複数層の印刷層を形成できる。印刷位置によって印刷層の層数を変化させてもよい。
【0032】
片道印刷するときは、一回で所望量の導電性材料52を吐出し、往復印刷するときは吐出量を略半分にしてもよい。また、往復印刷を複数回繰り返すときはその回数に応じて導電性材料52の単位時間当りの吐出量(以下、単に「吐出量」ということがある)を減らしてもよい。なお、往復印刷するとき、それぞれの往路と復路とで吐出量を変化させてもよいし、経路を変化させてもよい。
【0033】
また、吐出部50を移動させるとき、印刷配線20の延在方向に交差する方向(例えば、直交方向)に往復運動させながら吐出部50を延在方向に移動させてもよい。つまり、吐出部50をジグザグ運動させながら主方向に移動させてもよい。この場合、交差方向に幅広な配線を印刷でき、塗布ムラを低減できる。また、往復運動印刷と片道・往復印刷を組み合わせてもよい。また、印刷位置によって往復運動の振幅を変化させてもよい。この場合、多様な形状の配線を印刷できる。
【0034】
吐出部50の吐出方向は一定であってもよいが、本実施形態では変化させている。
図9に示すように、吐出部50の吐出方向は基材10の印刷面に直交する方向としており、印刷面の角度が異なる箇所では、吐出方向は印刷面の角度に合せて変化させている。つまり、応力分散部20eを印刷する際には、応力分散部20eの前後を印刷する場合と比べて、吐出部50の吐出方向を変化させている。このように吐出方向を変化させることにより、印刷配線20の形状精度を向上できる。なお、重力による影響を考慮してこの吐出方向を調整してもよい。
【0035】
応力分散部20eの厚肉部20nを形成する方法の幾つかの例を説明する。
【0036】
(第1の例)
この例では、吐出部50の移動速度(以下、単に「移動速度」ということがある)を一定にして応力分散部20eで目標とする膜厚に合せて吐出量を増減することにより応力分散部20eを形成する。一例として、この吐出量を目標とする膜厚に比例して変化させてもよい。
図8の例では、第1、第2領域20a、20bの膜厚Da、Dbは1mmで、厚肉部20nの最大膜厚Deは3.3mmであるので、最大膜厚Deを印刷する際の吐出量Ea2は、膜厚Da、Dbを印刷する際の吐出量Ea1の3.3倍に設定してもよい。
【0037】
(第2の例)
この例では、吐出部50の吐出量を一定にして応力分散部20eで目標とする膜厚に合せて移動速度を加減することにより応力分散部20eを形成する。一例として、この移動速度を目標とする膜厚に反比例して変化させてもよい。
図8の例では、最大膜厚Deを印刷する際の移動速度Vm2は、膜厚Da、Dbを印刷する際の移動速度Vm1の1/3.3に設定してもよい。
【0038】
(第3の例)
この例では、移動速度および吐出量を一定にして応力分散部20eで目標とする膜厚に合せて吐出部50の印刷を重ねて印刷層数を増やすことにより応力分散部20eを形成する。一例として、この印刷層数を目標とする膜厚に比例して変化させてもよい。
図8の例では、最大膜厚Deの印刷層数は、膜厚Da、Dbの印刷層数の3倍または4倍に設定してもよい。本実施形態では、膜厚Da、Dbの印刷層数は1とし、最大膜厚Deの印刷層数は、3または4に設定している。
【0039】
(第4の例)
例えば、印刷配線20の全体または一部の領域を一定の膜厚で導電性材料52を印刷した後、膜厚を厚くしたい部分に吐出部50を移動させてその部分に導電性材料52を重ねて印刷してもよい。一例として、その部分で吐出部50を前後に往復運動させながら導電性材料52を吐出してもよい。
【0040】
(その他の例)
上述の第1~第4の例に係る方法の少なくとも2つを組み合わせてもよい。この場合、より細かく膜厚を可変できる。
【0041】
以上のように構成された立体配線構造1の特徴を説明する。本実施形態の立体配線構造1は、基材10の曲面部10dに沿って立体的に形成される立体領域20dを含む印刷配線20を有し、立体領域20dには、基材10から受ける応力を分散可能な応力分散部20eが設けられる。
【0042】
この構成によれば、基材10が衝撃や変形荷重を受けた場合に、印刷配線20の立体領域20dへの応力の影響を低減し、立体領域20dにおけるクラック発生や局所的な温度上昇を抑制できる。
【0043】
応力分散部20eは、厚肉部20nを有し、印刷配線20において、厚肉部20nの最大膜厚は、当該厚肉部20nに隣接する部分の膜厚の1.5倍以上であってもよい。この場合、厚肉部20nの膜厚を隣接部分より厚くして立体領域20dにおける応力を分散できる。
【0044】
側断面の曲率半径において、応力分散部20eの曲面部10dとは反対側の曲率半径は、曲面部10dの応力分散部20e側の曲率半径の2倍以上であってもよい。この場合、厚肉部20nと隣接部分の曲率半径の変化を緩やかにして立体領域20dへの応力の集中を抑制できる。
【0045】
印刷配線20は、1以上の印刷層を含み、応力分散部20eの印刷層数は、印刷配線20の応力分散部20eに隣接する部分の印刷層数より多くしてもよい。この場合、応力分散部20eの印刷層数を増加させることにより、所望の断面形状を有する応力分散部20eを容易に形成できる。
【0046】
印刷配線20は、便座12の座面部材の上面部10aから内側面部10bにわたる領域に印刷された電気ヒータであってもよい。この場合、便座12の急速加熱特性を向上して使用者の快適性を改善できる。また、着座・脱座が繰り返された際に、印刷配線20の立体領域20dでのクラック発生や局所的な温度上昇を抑制できる。また、上面部10aと内側面部10bとの間にもヒータを設けて大腿部の内側にも温感を付与し使用者の快適性を一層改善できる。
【0047】
本実施形態の立体配線構造1を製造する方法は、基材10の曲面部10dに沿って立体的に形成される立体領域20dを含む印刷配線20を有し、立体領域20dには、基材10から受ける応力を分散可能な応力分散部20eが設けられる立体配線構造を製造する方法であって、吐出部50を基材10の印刷配線20が形成される領域に接近させた状態で吐出部50を基材10に対して相対移動させながら吐出部50から導電性材料52を吐出する吐出工程S80を含む。
【0048】
この方法によれば、吐出部50を移動させながら導電性材料52を吐出することにより、この移動方向に沿って所望形状の応力分散部20eを容易に形成できる。例えば、めっき形成する場合と比べて、膜厚の厚い配線を短時間で形成可能であり、領域ごとに膜厚を変化させ、所望の断面形状を有する応力分散部20eを容易に形成できる。
【0049】
吐出工程S80は、応力分散部20eを形成する際に、印刷配線20の応力分散部20eに隣接する部分を形成する場合より、基材10に対する吐出部50の相対移動速度Vmを遅くしてもよい。この場合、移動速度Vmを遅くすることによりその領域に膜厚の厚い配線を形成可能であり、領域ごとに膜厚を簡単に変えることができる。
【0050】
吐出工程S80は、応力分散部20eを形成する際に、印刷配線20の応力分散部20eに隣接する部分を形成する場合より、導電性材料52の単位時間当りの吐出量Eaを増加させてもよい。この場合、単位時間当りの吐出量Eaを増加させることによりその領域に膜厚の厚い配線を形成可能であり、領域ごとに膜厚を簡単に変えることができる。
【0051】
吐出工程S80は、応力分散部20eを形成する箇所に、導電性材料52を重ねて吐出してもよい。この場合、応力分散部20eに導電性材料52を重ねて吐出することにより、その部分の膜厚を変化させて所望の断面形状を有する応力分散部20eを形成できる。
【0052】
以上、本発明の実施形態をもとに説明した。これらの実施形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求の範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【0053】
以下、変形例について説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0054】
[第1変形例]
実施の形態の説明では、応力分散部20eが基材10の曲面部10dに向かって窪むR形状を有する例を示したが、本発明はこれに限定されない。応力分散部20eの形状は、応力を分散可能な形状であれば特に限定されない。
図10は、第1変形例に係る立体配線構造2の側断面図である。この図に示すように、第1変形例の応力分散部20eは、傾斜した直線状のC形状を有する。
【0055】
[第2変形例]
図11は、第2変形例に係る立体配線構造3の側断面図である。この図に示すように、第2変形例の応力分散部20eは、曲面部10dから離れる方向に突出した凸R形状を有する。この凸R形状は、導電性材料52を重ねて盛り上げて形成してもよい。
【0056】
[第3変形例]
実施の形態の説明では、応力分散部20eが基材10の曲面部10dの内側(凹側)に形成される例を示したが、本発明はこれに限定されない。応力分散部20eは曲面部10dの外側(凸側)に形成されてもよい。
図12は、第5変形例に係る立体配線構造4の側断面図である。この図に示すように、第3変形例の応力分散部20eは、曲面部10dの外側において、曲面部10dから離れる方向に突出した凸R形状を有する。この凸R形状は、導電性材料52を外側に重ねて盛り上げて形成してもよい。
【0057】
[その他の変形例]
実施の形態の説明では、本発明の立体配線構造1が便座に適用される例を示したが、立体配線構造1は様々な建物用の設備・機器に適用できる。建物用の設備・機器に設けた立体配線には、使用時の基材の変形や衝撃あるいは地震・台風等での家屋の揺動による変形や衝撃を受けて大きな応力が付与されるところ、本発明の立体配線構造を適用することで応力の影響を軽減できる。
【0058】
例えば、本発明の立体配線構造は、床暖房や壁暖房など建材の暖房用のヒータや電気・電子配線に適用できる。例えば、床暖房用建材の曲面部にヒータを設けた場合、歩行者の体重を受けて立体配線に繰り返し応力が加わりクラックが発生するおそれがあるところ、本発明の立体配線構造を適用することで応力の影響を軽減できる。この作用・効果は他の種類の建材やキッチン・風呂・洗面所周りの暖房用のヒータや電気・電子配線についても果たしうる。
【0059】
また、本発明の立体配線構造は、玄関ドア等の扉、サッシ等の引戸あるいはシャッタなど開閉時に衝撃を受ける建具に内蔵される電気錠や電気・電子機器に適用できる。例えば、建具に内蔵したボックスの曲面部に立体配線を形成した場合、急な開閉、家屋の揺動あるいは風圧変動による変形や衝撃を受けて立体配線に応力が加わりクラックが発生するおそれがあるところ、本発明の立体配線構造を適用することで応力の影響を軽減できる。また、本発明の立体配線構造は、ドアハンドルに内蔵される電気・電子機器にも適用できる。
【0060】
実施の形態の説明では、単一の基材10に印刷配線20を形成する例を示したが、印刷配線20は、複数の基材にわたって形成されるものであってもよい。この場合、応力分散部20eは、複数の基材にわたって形成されてもよい。
【0061】
実施の形態の説明では、印刷配線20が単一の方法により形成される例を示したが、印刷配線20は異なる方法により形成されてもよい。例えば、印刷配線20の一部の領域はめっきで形成され、別の一部の領域は印刷で形成されてもよい。また、応力分散部20eは、めっきで形成された配線上に導電性材料52を重ねて塗布することによって形成されてもよい。また、印刷で形成された応力分散部20eの表面にめっき等の別の表面層が積層されてもよい。
【0062】
実施の形態の説明では、印刷配線20が吐出部50から導電性材料52を吐出して形成される例を示したが、印刷配線20は、少なくとも一部が3Dプリンタによって形成されてもよい。この場合、例えば、金属を吐出しながらレーザを照射するようにしてもよい。
【0063】
上述の各変形例は実施形態と同様の作用・効果を奏する。
【0064】
上述した実施形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【0065】
なお、図面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【符号の説明】
【0066】
1、2、3、4・・立体配線構造、 10・・基材、 10a・・上面部、 10b・・内側面部、 10d・・曲面部、 10m・・中孔部、 12・・便座、 20・・印刷配線、 20a・・第1領域、 20b・・第2領域、 20d・・立体領域、 20e・・応力分散部、 20n・・厚肉部、 50・・吐出部、 52・・導電性材料。