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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-12
(45)【発行日】2023-07-21
(54)【発明の名称】心肺蘇生の圧迫速度の決定
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/39 20060101AFI20230713BHJP
【FI】
A61N1/39
【請求項の数】 25
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018235084
(22)【出願日】2018-12-17
(65)【公開番号】P2019107450
(43)【公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-12-13
(31)【優先権主張番号】1721255.6
(32)【優先日】2017-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】503338457
【氏名又は名称】ハートサイン テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ポール マッカニー
(72)【発明者】
【氏名】イアン トッド
【審査官】槻木澤 昌司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-087588(JP,A)
【文献】国際公開第2016/193041(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/200813(WO,A1)
【文献】特開2005-339533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の心肺蘇生圧迫速度を決定する除細動器であって、
被験者に取り付けられるように構成された電極と、
前記電極に接続され、被験者の少なくとも1のインピーダンス信号を測定するように構成されたインピーダンス信号測定システムと、
前記電極に接続され、被験者の少なくとも1の心電図(ECG)信号を測定するように構成された心電図(ECG)信号測定システムと、
前記インピーダンス信号測定システムに接続され、複数のインピーダンス信号圧迫速度推定値および複数のインピーダンス信号特徴を得るために被験者のインピーダンス信号を処理するように構成されたインピーダンス信号処理システムと、
前記ECG信号測定システムに接続され、複数の心電図(ECG)信号特徴を得るために被験者のECG信号を処理するように構成された心電図(ECG)信号処理システムと、
前記インピーダンス信号測定システムおよび前記ECG信号測定システムに接続された圧迫速度推定値処理システムであって、インピーダンス信号特徴およびECG信号特徴に複数の基準を適用し、前記基準のうちの1または複数との適合性を使用して前記複数のインピーダンス信号圧迫速度推定値のうちの一つを心肺蘇生圧迫速度として選択するように構成された圧迫速度推定値処理システムと、
前記圧迫速度推定値処理システムに接続され、前記心肺蘇生圧迫速度に基づくフィードバックを当該除細動器のユーザに出力するように構成された出力ユニットとを備えることを特徴とする除細動器。
【請求項2】
請求項1に記載の除細動器において、
前記インピーダンス信号処理システムが、インピーダンス信号に周波数領域変換を使用してインピーダンス信号周波数スペクトルを取得し、ピーク検出アルゴリズムを使用してインピーダンス信号周波数スペクトルにおける複数のピークを識別し、複数のピークの中心周波数を複数のインピーダンス信号圧迫速度推定値として求めることによって、インピーダンス信号を処理して複数のインピーダンス信号圧迫速度推定値を得ることを特徴とする除細動器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の除細動器において、
前記インピーダンス信号処理システムが、インピーダンス信号に周波数領域変換を使用してインピーダンス信号周波数スペクトルを取得し、ピーク検出アルゴリズムを使用してインピーダンス信号周波数スペクトルにおける複数のピークを識別し、複数のピークの中心周波数および振幅を複数のインピーダンス信号特徴として求めることによって、インピーダンス信号を処理して複数のインピーダンス信号特徴を得ることを特徴とする除細動器。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の除細動器において、
前記ECG信号処理システムが、ECG信号に周波数領域変換を使用してECG信号周波数スペクトルを取得し、ピーク検出アルゴリズムを使用してECG信号周波数スペクトルにおける複数のピークを識別し、複数のピークの中心周波数および振幅を複数のECG信号特徴として求めることによって、ECG信号を処理して複数のECG信号特徴を得ることを特徴とする除細動器。
【請求項5】
請求項2乃至4の何れか一項に記載の除細動器において、
前記周波数領域変換を使用してインピーダンス信号周波数スペクトルおよびECG信号周波数スペクトルを得ることには、インピーダンス信号のウィンドウおよびECG信号の対応するウィンドウに、高速フーリエ変換アルゴリズム、Goertzelアルゴリズムの何れかを使用することが含まれることを特徴とする除細動器。
【請求項6】
請求項2乃至5の何れか一項に記載の除細動器において、
前記ピーク検出アルゴリズムを使用してインピーダンス信号周波数スペクトルにおける複数のピークを識別することには、インピーダンス信号周波数スペクトルのスロープの峻度の減少に基づいてピークを識別することが含まれ、前記ピーク検出アルゴリズムを使用してECG信号周波数スペクトルにおける複数のピークを識別することには、ECG信号周波数スペクトルのスロープの峻度の減少に基づいてピークを識別することが含まれることを特徴とする除細動器。
【請求項7】
請求項6に記載の除細動器において、
前記ピーク検出アルゴリズムが、その中心周波数において最大の振幅を有する一次ピークと、その中心周波数において次に大きい振幅を有する二次ピークとを返し、それが指定された数のピークまで続けられることを特徴とする除細動器。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか一項に記載の除細動器において、
前記インピーダンス信号処理システムが、インピーダンス信号を処理して、インピーダンス信号の変化、インピーダンス信号の形態、インピーダンス信号の勾配、インピーダンス信号のパワー、インピーダンス信号のウェーブレット分解、インピーダンス信号のノイズ解析、インピーダンス信号のケプストラムのうちの何れかを含む複数の追加的なインピーダンス信号特徴をインピーダンス信号から得ることを特徴とする除細動器。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか一項に記載の除細動器において、
前記ECG信号処理システムが、ECG信号を処理して、ECG信号の変化、ECG信号の形態、ECG信号の勾配、ECG信号のパワー、ECG信号のウェーブレット分解、ECG信号のノイズ解析、ECG信号のケプストラムのうちの何れかを含む複数の追加的なECG信号特徴をECG信号から得ることを特徴とする除細動器。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか一項に記載の除細動器において、
前記圧迫速度推定値処理システムにより適用される複数の基準には、インピーダンス信号周波数スペクトルにおいて、二次ピークの振幅と一次ピークの振幅の比が予め設定されたインピーダンス信号振幅比の閾値よりも大きいことを含む基準が含まれることを特徴とする除細動器。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか一項に記載の除細動器において、
前記圧迫速度推定値処理システムにより適用される複数の基準には、インピーダンス信号周波数スペクトルにおいて、一次ピークの中心周波数が二次ピークの中心周波数よりも大きいことを含む基準が含まれることを特徴とする除細動器。
【請求項12】
請求項1乃至11の何れか一項に記載の除細動器において、
前記圧迫速度推定値処理システムにより適用される複数の基準には、ECG信号周波数スペクトルにおいて、一次ピークの中心周波数が二次ピークの中心周波数よりも小さいことを含む基準が含まれることを特徴とする除細動器。
【請求項13】
請求項1乃至12の何れか一項に記載の除細動器において、
前記圧迫速度推定値処理システムにより適用される複数の基準には、インピーダンス信号周波数スペクトルにおけるより低い周波数の一次または二次ピークと、ECG信号周波数スペクトルにおけるより低い周波数の一次または二次ピークとの間の周波数差が、予め設定された周波数差の閾値よりも小さいことを含む基準が含まれることを特徴とする除細動器。
【請求項14】
請求項1乃至13の何れか一項に記載の除細動器において、
前記圧迫速度推定値処理システムが、前記複数の基準のうちの1または複数との適合性を使用して一つのインピーダンス信号圧迫速度推定値をCPR圧迫速度として選択することを特徴とする除細動器。
【請求項15】
請求項1乃至13の何れか一項に記載の除細動器において、
前記圧迫速度推定値処理システムが、前記複数の基準のうちの各々と適合することを使用して、インピーダンス信号周波数スペクトルの二次ピークの中心周波数をCPR圧迫速度とするインピーダンス信号圧迫速度推定値を選択するように構成されていることを特徴とする除細動器。
【請求項16】
請求項1乃至13の何れか一項に記載の除細動器において、
前記圧迫速度推定値処理システムが、前記複数の基準の何れかと不適合であることを使用して、インピーダンス信号周波数スペクトルの一次ピークの中心周波数をCPR圧迫速度とするインピーダンス信号圧迫速度推定値を選択するように構成されていることを特徴とする除細動器。
【請求項17】
請求項1乃至16の何れか一項に記載の除細動器において、
前記圧迫速度推定値処理システムにより適用される複数の基準には、ECG信号周波数スペクトルにおいて、二次ピークの振幅と一次ピークの振幅の比が予め設定されたECG信号振幅比の閾値よりも大きいことを含む基準が含まれることを特徴とする除細動器。
【請求項18】
請求項17に記載の除細動器において、
前記圧迫速度推定値処理システムが、前記複数の基準のうちの各々と適合することを使用して、インピーダンス信号周波数スペクトルの二次ピークの中心周波数をCPR圧迫速度とするインピーダンス信号圧迫速度推定値を選択するように構成されていることを特徴とする除細動器。
【請求項19】
請求項17に記載の除細動器において、
前記圧迫速度推定値処理システムが、前記複数の基準の何れかと不適合であることを使用して、インピーダンス信号周波数スペクトルの一次ピークの中心周波数をCPR圧迫速度とするインピーダンス信号圧迫速度推定値を選択するように構成されていることを特徴とする除細動器。
【請求項20】
請求項1乃至19の何れか一項に記載の除細動器において、
測定したインピーダンス信号のほぼ全ておよび測定したECG信号のほぼ全てを使用して、CPR圧迫速度を決定することを特徴とする除細動器。
【請求項21】
請求項1乃至20の何れか一項に記載の除細動器において、
測定したインピーダンス信号の1以上の部分および測定したECG信号の対応する1以上の部分を使用して、CPR圧迫速度を決定することを特徴とする除細動器。
【請求項22】
請求項21に記載の除細動器において、
前記測定したインピーダンス信号の前記部分または各部分が、CPR圧迫速度について予め分析された部分を含み、その圧迫速度が、真の速度であるか否かを判定するために使用される閾値を超えないことを特徴とする除細動器。
【請求項23】
請求項1乃至22の何れか一項に記載の除細動器において、
前記出力ユニットは、CPR圧迫速度が、満足できるか、遅過ぎるか、速過ぎるかの何れかであることの表示を含む、CPR圧迫速度に基づくフィードバックを当該除細動器のユーザに対して出力することを特徴とする除細動器。
【請求項24】
心肺蘇生(CPR)の圧迫速度を決定する方法であって、
インピーダンス信号測定システムが、被験者のインピーダンス信号を受け取るステップと、
心電図(ECG)信号測定システムが、被験者の心電図(ECG)信号を受け取るステップと、
インピーダンス信号処理システムが、インピーダンス信号を処理して複数のインピーダンス信号圧迫速度推定値を得るステップと、
前記インピーダンス信号処理システムが、インピーダンス信号を処理して複数のインピーダンス信号特徴を得るステップと、
ECG信号処理システムが、ECG信号を処理して複数のECG信号特徴を得るステップと、
圧迫速度推定値処理システムが、複数の基準をインピーダンス信号特徴およびECG信号特徴に適用し、前記基準のうちの1または複数との適合/不適合を使用して、前記複数のインピーダンス信号圧迫速度推定値のうちの一つをCPR圧迫速度として選択するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項25】
コンピュータ可読媒体に有形に具現化されたCPR圧迫速度決定コンピュータプログラムであって、請求項24に記載のCPR圧迫速度を決定する方法をコンピュータに実行させるための命令を含むことを特徴とするコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心肺蘇生の圧迫速度の決定に関し、特に、除細動器を用いたリアルタイムでの心肺蘇生の圧迫速度の決定に関する。
【背景技術】
【0002】
被験者に除細動器を使用するとき、除細動器は、しばしば被験者に対して心肺蘇生(CPR)を行うように勧める。CPRは、酸素化された血液が心拍の不在下で被験者の体内を確実に循環し続けるようにするために行われる。CPRは、例えば、被験者に対する1または複数の除細動ショックの適用の間に、あるいは被験者の心電図(ECG)が、除細動ショックよりもCPRが最良の治療であることを示すときに、勧められることがある。効果的なCPRの実行は、被験者の生存の可能性を増加させることが示されている。効果的であるためには、CPR圧迫は被験者に適した速度で行われなければならず、よってCPR圧迫の速度決定が重要である。
【0003】
CPR圧迫は、被験者の胸部の圧迫および解放を伴う。一般に、CPR圧迫速度決定のために、加速度計が除細動器とともに使用されて、胸部の運動が直接測定される。しかしながら、この速度決定方法には問題がある。加速度計は、胸部の測定加速度を二重積分することによって胸部運動を測定するため、測定した胸部の加速度からの圧迫速度の決定は、大きな不確実性を含み、正確ではない可能性がある。静的環境では、この問題は限定的であるかもしれないが、実際の環境では、被験者の動きが存在する場合があり、それが、速度決定に関する問題に繋がる可能性がある。また、加速度計は、被験者の身体に対して相対的に移動する場合に、ノイズの多い信号入力の影響を受け、それによりCPR圧迫速度の決定がさらに複雑となる。また、除細動器とともに追加のセンサを使用すると、除細動器の複雑さが増す。
【0004】
感圧パッドは、被験者の胸部に加えられる圧迫を測定するために除細動器とともに使用されることがある。これらも、ノイズおよび追加センサの複雑さ、コストおよびサイズの問題の影響を受ける。
【0005】
CPR中に行われる胸部圧迫は、被験者の経胸腔インピーダンスに対する変化をもたらす。被験者の胸部は印加電流に対する抵抗として作用し、CPRによる圧迫により胸部の容積が変化すると、経胸腔インピーダンスが変化することとなる。このため、圧迫の速度を決定するために、経胸腔インピーダンスの変化を使用することができる。この速度決定方法にも関連する問題がある。インピーダンス信号の形態は、時間とともに変化し得る。これは、圧迫の結果として被験者の胸部の形状が物理的に変化することによるものか、または異なる人がCPRを管理しているか、またはCPRを管理している人が疲労していることが原因となる可能性がある。現場における被験者の救助の現実は、短い時間内で速度、力および適用角度が変化する圧迫および動く被験者を意味する。インピーダンス信号形態は、従来の圧迫速度決定方法を混乱させるように変化する可能性がある。
【発明の概要】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、被験者の心肺蘇生圧迫速度を決定する除細動器が提供され、当該除細動器が、
被験者に取り付けられるように構成された電極と、
電極に接続され、被験者の少なくとも1のインピーダンス信号を測定するように構成されたインピーダンス信号測定システムと、
電極に接続され、被験者の少なくとも1の心電図信号を測定するように構成された心電図信号測定システムと、
インピーダンス信号測定システムに接続され、複数のインピーダンス信号圧迫速度推定値および複数のインピーダンス信号特徴を得るために被験者のインピーダンス信号を処理するように構成されたインピーダンス信号処理システムと、
心電図信号測定システムに接続され、複数の心電図信号特徴を得るために被験者の心電図信号を処理するように構成された心電図信号処理システムと、
インピーダンス信号測定システムおよび心電図信号測定システムに接続された圧迫速度推定値処理システムであって、インピーダンス信号特徴および心電図信号特徴に複数の基準(criteria)を適用し、基準のうちの1または複数との適合性(compliance)を使用して複数のインピーダンス信号圧迫速度推定値のうちの一つを心肺蘇生圧迫速度として選択するように構成された圧迫速度推定値処理システムと、
圧迫速度推定値処理システムに接続され、心肺蘇生圧迫速度に基づくフィードバックを当該除細動器のユーザに出力するように構成された出力ユニットとを備える。
【0007】
インピーダンス信号測定システムは、電極から受信したインピーダンスデータを連続的にサンプリングすることによって、少なくとも1のインピーダンス信号を測定するように構成されるものであってもよい。ECG信号測定システムは、電極から受信したECGデータを連続的にサンプリングすることによって、少なくとも1のECG信号を測定するように構成されるものであってもよい。
【0008】
被験者のインピーダンス信号を処理して複数のインピーダンス信号圧迫速度推定値を得ることには、インピーダンス信号に周波数領域変換(frequency domain transformation)を使用してインピーダンス信号周波数スペクトルを取得し、ピーク検出アルゴリズム(peak detection algorithm)を使用してインピーダンス信号周波数スペクトルにおける複数のピークを識別し、複数のピークの中心周波数を複数のインピーダンス信号圧迫速度推定値として求めることが含まれる。
【0009】
被験者のインピーダンス信号を処理して複数のインピーダンス信号特徴を得ることには、インピーダンス信号に周波数領域変換を使用してインピーダンス信号周波数スペクトルを取得し、ピーク検出アルゴリズムを使用してインピーダンス信号周波数スペクトルにおける複数のピークを識別し、複数のピークの中心周波数および振幅を複数のインピーダンス信号特徴として求めることが含まれる。
【0010】
被験者のECG信号を処理して複数のECG信号特徴を得ることには、ECG信号に周波数領域変換を使用してECG信号周波数スペクトルを取得し、ピーク検出アルゴリズムを使用してECG信号周波数スペクトルにおける複数のピークを識別し、複数のピークの中心周波数および振幅を複数のECG信号特徴として求めることが含まれる。
【0011】
インピーダンス信号に周波数領域変換を使用してインピーダンス信号周波数スペクトルを得ることには、インピーダンス信号のウィンドウに高速フーリエ変換(FFT)アルゴリズムを使用することが含まれる。インピーダンス信号に周波数領域変換を使用してインピーダンス信号周波数スペクトルを得ることには、インピーダンス信号のウィンドウにGoertzelアルゴリズムを使用することが含まれる。なお、他の周波数領域変換方法を使用できることを理解されたい。
【0012】
ECG信号に周波数領域変換を使用してECG信号周波数スペクトルを得ることには、インピーダンス信号のウィンドウに対応するECG信号のウィンドウにFFTアルゴリズムを使用することが含まれる。ECG信号に周波数領域変換を使用してECG信号周波数スペクトルを得ることには、インピーダンス信号のウィンドウに対応するECG信号のウィンドウにGoertzelアルゴリズムを使用することが含まれる。なお、他の周波数領域変換方法を使用できることを理解されたい。
【0013】
インピーダンス信号およびECG信号のウィンドウは、3秒~20秒の範囲のウィンドウサイズを含むことができる。ウィンドウは、6秒のウィンドウサイズを含むことができる。ウィンドウは前進するウィンドウであってもよい。ウィンドウは、ウィンドウサイズより短い期間だけ前進するようにしてもよい。ウィンドウは、1秒間前進するものであってもよい。
【0014】
ピーク検出アルゴリズムを使用してインピーダンス信号周波数スペクトルにおける複数のピークを識別することには、インピーダンス信号周波数スペクトルのスロープの峻度(steepness)の減少に基づいてピークを識別することが含まれる。ピーク検出アルゴリズムを使用してECG信号周波数スペクトルにおける複数のピークを識別することには、ECG信号周波数スペクトルのスロープの峻度の減少に基づいてピークを識別することが含まれる。なお、ピーク検出の他の方法を使用できることを理解されたい。ピーク検出アルゴリズムは、その中心周波数において最大の振幅を有する一次ピークと、その中心周波数において次に大きい振幅を有する二次ピークとを返し、それが指定された数のピークまで続けられるものであってもよい。ピーク検出アルゴリズムは、振幅の閾値を使用して、ピークが真のピークであるか否かを判定することができる。振幅の閾値は、バックグラウンドを上回る予め設定された数の標準偏差を含むことができる。
【0015】
インピーダンス信号処理システムは、インピーダンス信号を処理して、インピーダンス信号の変化、インピーダンス信号の形態、インピーダンス信号の勾配、インピーダンス信号のパワー、インピーダンス信号のウェーブレット分解、インピーダンス信号のノイズ解析、インピーダンス信号のケプストラムのうちの何れかを含む複数の追加的なインピーダンス信号特徴をインピーダンス信号から得ることができる。
【0016】
ECG信号処理システムは、ECG信号を処理して、ECG信号の変化、ECG信号の形態、ECG信号の勾配、ECG信号のパワー、ECG信号のウェーブレット分解、ECG信号のノイズ解析、ECG信号のケプストラムのうちの何れかを含む複数の追加的なECG信号特徴をECG信号から得ることができる。
【0017】
圧迫速度推定値処理システムにより適用される複数の基準には、インピーダンス信号周波数スペクトルにおいて、二次ピークの振幅と一次ピークの振幅の比が予め設定されたインピーダンス信号振幅比の閾値よりも大きいことを含む基準が含まれる。インピーダンス振幅比の閾値は、0.2とすることができる。
【0018】
圧迫速度推定値処理システムにより適用される複数の基準には、インピーダンス信号周波数スペクトルにおいて、一次ピークの中心周波数が二次ピークの中心周波数よりも大きいことを含む基準が含まれる。
【0019】
圧迫速度推定値処理システムにより適用される複数の基準には、ECG信号周波数スペクトルにおいて、一次ピークの中心周波数が二次ピークの中心周波数よりも小さいことを含む基準が含まれる。
【0020】
圧迫速度推定値処理システムにより適用される複数の基準には、インピーダンス信号周波数スペクトルにおけるより低い周波数の一次または二次ピークと、ECG信号周波数スペクトルにおけるより低い周波数の一次または二次ピークとの間の周波数差が、予め設定された周波数差の閾値よりも小さいことを含む基準が含まれる。周波数差の閾値は、0.25Hzとすることができる。この基準は、ECG信号周波数スペクトルのピークおよびインピーダンス信号周波数スペクトルのピークが予め設定された限界内に整列しているか否かを調べる。
【0021】
圧迫速度推定値処理システムは、複数の基準のうちの1または複数との適合性を使用して複数のインピーダンス信号圧迫速度推定値のうちの一つをCPR圧迫速度として選択することができる。圧迫速度推定値処理システムは、複数の基準のうちの各々と適合することを使用して、インピーダンス信号周波数スペクトルの二次ピークの中心周波数をCPR圧迫速度とするインピーダンス信号圧迫速度推定値を選択することができる。圧迫速度推定値処理システムは、複数の基準の何れかと不適合であることを使用して、インピーダンス信号周波数スペクトルの一次ピークの中心周波数をCPR圧迫速度とするインピーダンス信号圧迫速度推定値を選択することができる。
【0022】
圧迫速度推定値処理システムにより適用される複数の基準には、ECG信号周波数スペクトルにおいて、二次ピークの振幅と一次ピークの振幅の比が予め設定されたECG信号振幅比の閾値よりも大きいことを含む基準が含まれる。ECG信号振幅比の閾値は、0.2とすることができる。
【0023】
圧迫速度推定値処理システムは、複数の基準のうちの各々と適合することを使用して、インピーダンス信号周波数スペクトルの二次ピークの中心周波数をCPR圧迫速度とするインピーダンス信号圧迫速度推定値を選択することができる。圧迫速度推定値処理システムは、複数の基準の何れかと不適合であることを使用して、インピーダンス信号周波数スペクトルの一次ピークの中心周波数をCPR圧迫速度とするインピーダンス信号圧迫速度推定値を選択することができる。
【0024】
除細動器は、測定したインピーダンス信号のほぼ全ておよび測定したECG信号のほぼ全てを使用して、CPR圧迫速度を決定することができる。除細動器は、測定したインピーダンス信号の1以上の部分および測定したECG信号の対応する1以上の部分を使用して、CPR圧迫速度を決定することができる。測定したインピーダンス信号の上記部分または各部分は、CPR圧迫速度について予め分析された部分を含むことができ、その圧迫速度は、真の速度であるか否かを判定するために使用される閾値を超えていない。このように、CPR圧迫速度は、従来のインピーダンス信号分析技術のみを使用してインピーダンス信号の1以上の部分について決定することができ、CPR圧迫速度は、CPR圧迫速度の適格性のためにインピーダンス信号の使用とECG信号の使用とを組み合わせた本発明の方法を使用して、インピーダンス信号の1以上の部分について決定することができる。
【0025】
除細動器は、インピーダンス信号およびECG信号の処理を使用して、インピーダンス信号の形態に基づいて特徴を判定することができる。除細動器は、インピーダンス信号およびECG信号の処理を使用して、被験者の動きを判定することができる。
【0026】
出力ユニットは、CPR圧迫速度が、満足できるか、遅過ぎるか、速過ぎるかの何れかであることの表示を含む、CPR圧迫速度に基づくフィードバックを当該除細動器のユーザに対して出力することができる。CPR圧迫速度に基づくフィードバックを除細動器のユーザに出力することは、CPRの質を改善する機会をユーザに提供し、圧迫の有効性の指標を与えるものとなる。
【0027】
本発明の第2の態様によれば、心肺蘇生(CPR)の圧迫速度を決定する方法が提供され、当該方法が、
被験者のインピーダンス信号を受け取るステップと、
被験者の心電図(ECG)信号を受け取るステップと、
インピーダンス信号を処理して複数のインピーダンス信号圧迫速度推定値を得るステップと、
インピーダンス信号を処理して複数のインピーダンス信号特徴を得るステップと、
ECG信号を処理して複数のECG信号特徴を得るステップと、
複数の基準をインピーダンス信号特徴およびECG信号特徴に適用し、基準のうちの1または複数との適合(compliance)/不適合(non-compliance)を使用して、複数のインピーダンス信号圧迫速度推定値のうちの一つをCPR圧迫速度として選択するステップとを含む。
【0028】
本発明の第3の態様によれば、コンピュータ可読媒体に有形に具現化されたCPR圧迫速度決定コンピュータプログラムが提供され、当該コンピュータプログラムが、本発明の第2の態様に係るCPR圧迫速度を決定する方法をコンピュータに実行させるための命令を含む。
【0029】
本発明の態様によれば、追加のセンサを必要とすることなく、除細動器で既に測定された信号を用いて、インピーダンスのみを使用してこれまで可能であったものよりもロバストなCPR圧迫速度の決定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
本発明の実施形態を、添付の図面を参照して、単なる例として以下に説明する。
図1図1は、本発明の第1の態様に係る、被験者のCPR圧迫速度を決定する除細動器の概略図である。
図2図2は、図1の除細動器によって実行されるCPR圧迫速度を決定する方法のフローチャートである。
図3図3は、図2の方法のさらなる詳細を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1を参照すると、被験者のCPR圧迫速度を決定する除細動器1が示されている。これは、被験者(図示省略)に取り付けられるように構成された電極32と、電極3に接続されたインピーダンス信号測定システム5と、電極3に接続されたECG信号測定システム7とを含む。さらに、除細動器1は、インピーダンス信号測定システム5に接続されたインピーダンス信号処理システム9と、ECG信号測定システム7に接続されたECG信号処理システム11と、インピーダンス信号処理システム9およびECG信号処理システム11に接続された圧迫速度推定値処理システム13と、圧迫速度推定値処理システム13に接続された出力ユニット15とを備える。
【0032】
なお、除細動器1は、除細動ショック生成回路および電源などの他の構成要素を含むことを理解されたい。
【0033】
インピーダンス信号測定システム5は、予め設定された電圧で交流信号を生成するように構成されたインピーダンス測定信号生成器(図示省略)と、少なくとも増幅器モジュールおよび信号調整モジュール(図示省略)を含むインピーダンス測定信号プロセッサ(図示省略)とを備える。インピーダンス測定信号生成器は、交流信号を生成し、この交流信号が電極3に送られて、被験者を通過する。電極3は、被験者のインピーダンスを示すインピーダンスデータを生成し、このデータは、インピーダンス測定信号プロセッサに送られる。インピーダンス測定信号プロセッサは、電極3から受信したインピーダンスを示すデータを連続的にサンプリングする。インピーダンス測定信号プロセッサの増幅器モジュールおよび信号調整モジュールは、増幅、フィルタリング、AD変換および信号処理の何れかによって、電極3から受信したインピーダンスデータを処理する。このように、インピーダンス信号測定システム5は、被験者の少なくとも1のインピーダンス信号を測定し、それがインピーダンス信号処理システム9に送られる。
【0034】
ECG信号測定システム7は、ECG測定信号プロセッサ(図示省略)を含む。被験者に置かれると、電極3が、被験者のECGを示すECGデータを生成し、それがECG測定信号プロセッサに送られる。ECG測定信号プロセッサは、電極3から受信したECGを示すデータを連続的にサンプリングした後、電極3から受信したECGデータを処理する。このようにして、ECG信号測定システム7は、被験者の少なくとも1のECG信号を測定し、それがECG信号処理システム11に渡される。
【0035】
インピーダンス信号処理システム9は、インピーダンス信号を処理して複数のインピーダンス信号圧迫速度推定値および複数のインピーダンス信号特徴を得る少なくとも1のマイクロプロセッサを含む。ECG信号処理システム11は、ECG信号を処理して複数のECG信号特徴を得る少なくとも1のマイクロプロセッサを含む。圧迫速度推定値処理システム13は、インピーダンス信号特徴およびECG信号特徴に複数の基準を適用し、それら基準のうちの1または複数との適合性を使用して複数のインピーダンス信号圧迫速度推定値のうちの一つをCPR圧迫速度として選択する少なくとも1のマイクロプロセッサを含む。出力ユニット15は、そのCPR圧迫速度を受け取り、当該CPR圧迫速度に基づくフィードバックを除細動器のユーザに出力する。
【0036】
図2を参照すると、図1の除細動器1によって実行されるCPR圧迫速度を決定する方法は、
(i)被験者のインピーダンス信号を受信するステップ(30)と、
(ii)被験者のECG信号を受信するステップ(32)と、
(iii)複数のインピーダンス信号圧迫速度推定値を得るためにインピーダンス信号を処理するステップ(34)と、
(iv)複数のインピーダンス信号特徴を得るためにインピーダンス信号を処理するステップ(36)と、
(v)複数のECG信号特徴を得るためにECG信号を処理するステップ(38)と、
(vi)インピーダンス信号特徴およびECG信号特徴に複数の基準を適用し、それら基準のうちの1または複数との適合性を使用して複数のインピーダンス信号圧迫速度推定値のうちの一つをCPR圧迫速度として選択するステップ(40)とを備える。
【0037】
複数のインピーダンス信号圧迫速度推定値を得るためにインピーダンス信号を処理するステップ(34)は、インピーダンス信号に周波数領域変換を使用してインピーダンス信号周波数スペクトルを得るステップと、ピーク検出アルゴリズムを使用してインピーダンス信号周波数スペクトルにおける複数のピークを識別するステップと、複数のインピーダンス信号圧迫速度推定値として複数のピークの中心周波数を求めるステップとを含む。
【0038】
複数のインピーダンス信号特徴を得るためにインピーダンス信号を処理するステップ(36)は、インピーダンス信号に周波数領域変換を使用してインピーダンス信号周波数スペクトルを得るステップと、ピーク検出アルゴリズムを使用してインピーダンス信号周波数スペクトルにおける複数のピークを識別するステップと、複数のインピーダンス信号特徴として複数のピークの中心周波数および振幅を求めるステップとを含む。複数のECG信号特徴を得るためにECG信号を処理するステップ(38)は、ECG信号に周波数領域変換を使用してECG信号周波数スペクトルを得るステップと、ピーク検出アルゴリズムを使用してECG信号周波数スペクトルにおける複数のピークを識別するステップと、複数のECG信号特徴として複数のピークの中心周波数および振幅を求めるステップとを含む。
【0039】
変換は、インピーダンス信号の6秒前進ウィンドウと、ECG信号の対応する6秒前進ウィンドウとにFFTアルゴリズムを使用する。
【0040】
ピーク検出アルゴリズムは、スペクトルのスロープの峻度の減少に基づいてピークを識別することによって、インピーダンス信号周波数スペクトルおよびECG信号周波数スペクトルにおける複数のピークを識別する。この実施形態では、ピーク検出アルゴリズムが、各周波数スペクトルから、その中心周波数において最大振幅を有する一次ピークと、その中心周波数において次に高い振幅を有する二次ピークとの2つのピークを返す。バックグラウンドを上回る予め定められた数の標準偏差を含む振幅の閾値は、それらピークが真のピークであるか否かを判定するために使用される。インピーダンス信号周波数スペクトルにおける一次ピークおよび二次ピークの中心周波数は、インピーダンス信号圧迫速度推定値を提供する。インピーダンス信号周波数スペクトルにおける一次ピークおよび二次ピークの中心周波数および振幅は、インピーダンス信号特徴を提供する。ECG信号周波数スペクトルにおける一次ピークおよび二次ピークの中心周波数および振幅は、ECG信号特徴を提供する。
【0041】
図3を参照すると、この実施形態では、除細動器1の圧迫速度推定値処理システム13が、4つの基準をインピーダンス信号特徴およびECG信号特徴に適用し、適合性が、インピーダンス信号圧迫速度推定値のうちの一つを真のCPR圧迫速度として選択するために使用される。
【0042】
圧迫速度推定値処理システム13によって適用される第1の基準は、インピーダンス信号周波数スペクトルにおいて、二次ピークの振幅と一次ピークの振幅の比が予めされたインピーダンス信号振幅比の閾値である0.2よりも大きいことを含む。なお、他のインピーダンス信号振幅比の閾値を使用できることを理解されたい。
【0043】
圧迫速度推定値処理システム13によって適用される第2の基準は、インピーダンス信号周波数スペクトルにおいて、一次ピークの中心周波数が二次ピークの中心周波数よりも大きいことを含む。圧迫速度推定値処理システム13によって適用される第3の基準は、ECG信号周波数スペクトルにおいて、一次ピークの中心周波数が二次ピークの中心周波数よりも小さいことを含む。圧迫速度推定値処理システム13によって適用される第4の基準は、インピーダンス信号周波数スペクトルにおけるより低い周波数の一次または二次ピークと、ECG信号周波数スペクトルにおけるより低い周波数の一次または二次ピークとの間の周波数差が、予め設定された周波数差の閾値である0.25Hzよりも小さいことを含む。なお、他の周波数差の閾値を使用できることを理解されたい。
【0044】
圧迫速度推定値処理システム13は、図示のように、第1~第4の基準の各々との適合性を使用して、インピーダンス信号周波数スペクトルの二次ピークの中心周波数をCPR圧迫速度とするインピーダンス信号圧迫速度推定値を選択する。圧迫速度推定値処理システム13は、図示のように、第1~第4の基準の何れかに適合しないことを使用して、インピーダンス信号周波数スペクトルの一次ピークの中心周波数をCPR圧迫速度とするインピーダンス信号圧迫速度推定値を選択する。
【0045】
このようにして決定されたCPR圧迫速度は、出力ユニット15に渡される。これは、CPR圧迫速度が満足できるか、遅過ぎるか、速過ぎるかの何れかであることの表示を含む、CPR圧迫速度に基づくフィードバックを除細動器1のユーザに出力する。CPR圧迫速度に基づくフィードバックを除細動器のユーザに出力することは、CPRの質を改善する機会をユーザに提供し、圧迫の有効性の指標を与える。
図1
図2
図3