(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-12
(45)【発行日】2023-07-21
(54)【発明の名称】剥離コーティングを有する二軸延伸ポリエステルフィルム及びその製造方法ならびにその使用
(51)【国際特許分類】
C08J 7/04 20200101AFI20230713BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230713BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20230713BHJP
B05D 5/08 20060101ALI20230713BHJP
B05D 7/04 20060101ALI20230713BHJP
【FI】
C08J7/04 Z CES
B32B27/00 L
B32B27/36
B05D5/08 Z
B05D7/04
(21)【出願番号】P 2019044958
(22)【出願日】2019-03-12
【審査請求日】2022-01-28
(31)【優先権主張番号】10 2018 105 735.0
(32)【優先日】2018-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】596099734
【氏名又は名称】ミツビシ ポリエステル フィルム ジーエムビーエイチ
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペトル・コラル
(72)【発明者】
【氏名】クラウディア・ローレ
(72)【発明者】
【氏名】ヤブズ・ウィンケル
(72)【発明者】
【氏名】マティアス・コンラッド
(72)【発明者】
【氏名】ステファン・バルトッシュ
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-218392(JP,A)
【文献】特開2002-188040(JP,A)
【文献】特開2011-161696(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/04
B32B 27/00
B32B 27/36
B05D 5/08
B05D 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも片面に剥離コーティングを有する二軸延伸ポリエステルフィルムであって、剥離コーティングは水性塗布分散液をポリエステルフィルムに塗布し、乾燥することにより形成され、水性塗布分散
液は、水性塗布分散液の重量を基準として(I)2~10重量%のポリオレフィンワックスと、(II)0.05~1.4重量%の架橋剤および/または(III)0.05~2.5重量%のシリコン含有化合物と、
(IV)0~2.1重量%の添加剤と、(V)残余の水と
の成分のみから成り、ポリオレフィンワックスの酸素と炭素の原子比率であるO/C比率が5~15原子%であり、ポリオレフィンワックスに対する架橋剤の質量比率(架橋剤:ポリオレフィンワックス)が1:7以下であり、ポリオレフィンワックスに対するシリコン含有化合物の質量比率(シリコン含有化合物:ポリオレフィンワックスが1:4以下であ
り、架橋剤が、オキサゾリン系架橋剤、加水分解性シラン及びメラミン系架橋剤から選択される1つ又は2つ以上の異なる化合物からなることを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項2】
ポリオレフィンワックスが、ポリプロピレン系および/またはポリエチレン系の部分酸化ワックスから選択される1つ又は2つ以上の異なる化合物から選択される請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項3】
シリコン含有化合物が、合成樹脂と3-(ポリオキシエチレン)プロピル-ヘプタメチルトリシロキサン基および/またはメチルビニルシロキサン基および/またはメチル水素シロキサン基のシロキサンとから成る1つ又は2つ以上の異なる化合物から選択される請求項
1又は2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
水性塗布分散液が、更に、アルコール類および/またはアミン類および/または界面活性剤および/または消泡剤および/または安定剤および/またはpHバッファーを、水性塗布分散液の重量を基準として2.1重量%以下含有する請求項1~
3の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】
水性塗布分散液の固形分含有量が、水性塗布分散液の重量を基準として2.05~16重量%である請求項1~
4の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項6】
ポリエステルフィルムが単層または複層の二軸延伸ポリエステルフィルムであり、未塗布ポリエステルフィルムの重量を基準とし80重量%以上の熱可塑性ポリエステルから成る請求項1~
5の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項7】
ポリエステルフィルムの厚さが4.5~500μmである請求項1~
6の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項8】
単層ポリエステルフィルム又は少なくとも1層の外層を有する複層ポリエステルフィルムに、5μm以下の平均粒径d
50を有する粒子を含む剥離層が直接塗布形成される請求項1~
7の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項9】
請求項
1に記載の少なくとも片面に塗布層を有する二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法であって、当該製造方法は、単層または複層ポリエステルフィルムの原料ポリエステルを一軸以上の押出機内で溶融し、フラットフィルムダイを介して引取りロール上に押出しして引取り、長手方向および横方向に同時または逐次延伸し、熱固定し、巻取る工程から成り、熱固定工程の前に請求項1に記載の水性塗布分散体をインライン法により片面または両面に塗布することを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項10】
印刷プロセスによって有機溶媒を使用してポリアクリレート薄層が請求項
1に記載の少なくとも片面に塗布層を有する二軸延伸ポリエステルフィルムに塗布された剥離フィルム。
【請求項11】
広告宣伝、包装、自動車、家具および/または産業機械分野の装飾層用の、請求項
1に記載の少なくとも片面に塗布層を有する二軸延伸ポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷プロセスによって有機溶媒から形成される薄いポリアクリレート層に対して容易に剥離できるポリエステル剥離フィルムに関する。本発明は、更に、そのフィルムの製造方法ならびに使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルム、特にポリエチレンテレフタレート(以下PETと略す)を主成分とするような二軸延伸ポリエステルフィルムは、有機溶媒からポリマー(例えば、ポリ塩化ビニル、ポリアクリレート等)を塗布して薄層を形成する(製膜工程)ための剥離(または脱着)可能なフィルムとして好適である。このような場合、ポリマーは、通常連続的なロール-ロール製造ラインの上で、溶媒の蒸発により硬化し、200℃未満の温度でポリマー層の乾燥が行われる。剥離フィルムは、その後、乾燥ポリマー層から機械的に引き剥がされる。ポリエステル基材の表面性質は非常に堅いため、剥離は簡単な方法で、表面に欠陥を生じることなく出来る。剥離された剥離フィルムは、製膜工程で再使用することが出来る。このようなプロセスは、種々の工業用途(自動車、家具、機械工業など)のための修飾(装飾)層の形成に使用される。
【0003】
特に、宣伝広告や包装業界におけるポリアクリレート系ニスの薄く精密なポリマー層(乾燥フィルム厚が数百ナノメーターの)は、高速印刷製造ラインで効率よく塗布される。特許文献1~4には、装飾転写層と剥離フィルムとから成る低温エンボス加工のための複層転写フィルムの構成および印刷プロセスが記載されており、剥離フィルムは室温で穏やかに剥離されることが出来る。転写層中の装飾層は、剥離フィルム側の上のμmの厚さのポリアクリレートの保護ニス層に設けられる。剥離フィルムを剥離した後のこの表面の品質は、特に重要であり、剥離フィルムの剥離によってサブミクロンメーターの厚さの装飾層にダメージを与えてはいけなく、それゆえ非常に小さい所定の力で行われなければならない。化学的類似性の理由により、ポリアクリレート系保護ニスを非塗布ポリエステルから成る剥離フィルムの表面に直接塗布されることは、大きくて不均一な剥離力を導く。剥離力を改良することは、ポリエステルフィルム表面のコロナ処理の使用によっては達成できない。
【0004】
特許文献5~6には、剥離フィルムと転写層との間にさらに剥離層を使用することが記載されており、この剥離層はワックス状物質から成る。更に、特許文献7には、90℃の滴点を有するエステル系ワックスの使用が記載されており、ワックス状物質が加熱によってのみ柔らかくなり、次いで剥離フィルムが剥離する。しかしながら、この技術は、通常室温で行う低温エンボス加工の場合の剥離フィルムの剥離には適さない。特許文献8には、転写層と低温エンボス加工のための剥離フィルムとの間に、ポリアクリレート共重合体、特に水性ポリウレタン共重合体から成る更なる剥離層を使用することが記載されている。しかしながら、この剥離層を設けて乾燥することは、更なる作業工程を有する。
【0005】
これらの代替案としては、塗布ポリエステル剥離フィルムの使用が挙げられる。シリコンコーティングを有するポリエステル剥離フィルムが、ポリアクリレート系接着層(例えば、ラベル、ユーザーが圧着する高性能な感圧粘着剤(PSA)テープ、装飾ラミネート、接着剤転写テープ等の)のための保護フィルムとして市販品として入手できることが知られている。ポリアクリレート系接着層は、非常に小さい力のみで表面から剥離する。しかしながら、シリコン化表面の高い疎水性のため、有機溶媒系の液体ポリアクリレートニスのシリコン化フィルムへの濡れは不十分であるという欠点がある。
【0006】
特許文献9は、ポリエステルフィルムのためのシリコンを含有しない剥離コーティングの発展について述べている。ポリオレフィンワックスと架橋性アクリルポリマーとの混合物が提案され、この混合物はさらに、任意にポリシロキサン又はシランを含有する。ポリオレフィンワックスとしては、酸化したエチレンホモポリマー系ワックス(例えば、ME 18325、Michelman社製)が好ましいことが記載されている。しかしながら、ポリアクリレート/有機溶媒を有するアクリル樹脂から成る剥離コーティングの被覆は、化学物質的な類似のためにニス層の乾燥後に非常に強い剥離力を必要としてしまい、好ましくない。
【0007】
フィルム表面を広範囲に被覆するという目的である、フィルムに対する公知の塗布プロセスとは対照的に、印刷プロセスの場合の濡れ性は精密である。印刷プロセスにおいて、μmスケールでのポリマー含有溶液に対するフィルム表面の十分な濡れ性が確保されることが重要である。フィルム表面の濡れ性の測定として、通常、接触角の測定が使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】欧州特許出願公開第2172347号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2163394号明細書
【文献】国際公開第2016/150681号パンフレット
【文献】国際公開第2017/021461号パンフレット
【文献】国際公開第2007/048563号パンフレット
【文献】国際公開第2017/102744号パンフレット
【文献】独国特許出願公開第10349963号明細書
【文献】国際公開第2017/021461号パンフレット
【文献】欧州特許出願公開第1186643号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、印刷プロセスにより有機溶媒から形成される薄いポリアクリレート層に対して、剥離フィルムとして好適なポリエステルフィルムを提供することである。そして、このポリエステルフィルムは、乾燥ポリアクリレート層から室温において低く均一な剥離力で且つ残存部の無い脱着可能/剥離可能である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討の結果、特定のポリエステルフィルムにより上記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明の要旨は、少なくとも片面に剥離コーティング(すなわち塗布剥離フィルム)を有する二軸延伸ポリエステルフィルムであって、剥離コーティングは水性塗布分散液をポリエステルフィルムに塗布し、乾燥することにより形成され、水性塗布分散は、水性塗布分散液の重量を基準として(I)2~10重量%のポリオレフィンワックスと、(II)0.05~1.4重量%の架橋剤および/または(III)0.05~2.5重量%のシリコン含有化合物と、(IV)残余の水とから成り、ポリオレフィンワックスの酸素と炭素の原子比率であるO/C比率が5~15原子%であり、ポリオレフィンワックスに対する架橋剤の質量比率(架橋剤:ポリオレフィンワックス)が1:7以下であり、ポリオレフィンワックスに対するシリコン含有化合物の質量比率(シリコン含有化合物:ポリオレフィンワックスが1:4以下であることを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルム
【0011】
塗布フィルム表面の性質は以下の通りである。塗布フィルム表面とポリアクリレートが溶解する溶媒または溶媒混合物とのぬれ角が10°未満である。塗布剥離フィルム上の3種の標準液体(水、1,5-ペンタンジオール及びジヨードメタン)の接触角の測定により決定される、塗布フィルム表面の表面自由エネルギーσs(総、トータルでの)、それの分散力成分σs,Dおよび極性成分σs,pが、次の関係を有する。すなわち、表面自由エネルギーσs(総)は、15~30mN/m、好ましくは20~30mN/m、特に好ましくは25~30mN/mである。表面自由エネルギーσs(総)の分散力成分σs,Dは、通常15~30mN/m、好ましくは20~30mN/m、特に好ましくは25~30mN/mである。表面自由エネルギーσs(総)の極性成分σs,pは、通常0~2.0mN/mを超え、好ましくは0.3~1.5mN/m、特に好ましくは0.5~1mN/mである。
【0012】
本発明の塗布ポリエステルフィルムの他の物性として、有機溶媒中のポリアクリレートに関する濡れ性が少なくとも未塗布ポリエステルフィルムに比較して良好であること、それと同時に、乾燥ポリアクリレート層の剥離力が、同じ厚さ有する未塗布ポリエステルフィルムより小さいこと、濡れ性及び剥離力が実施例に記載される測定方法で表示される好ましい数値より低いことである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリエステルフィルムから成る剥離フィルムは、印刷プロセスによって有機溶媒から形成される薄いポリアクリレート層に対して容易に剥離できるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ポリオレフィンワックスの酸素と炭素の原子比率であるO/C比率は、5~15原子%である。これにより、有機溶媒系で塗布されるポリアクリレート分散体に対する塗布ポリエステルフィルム表面の濡れ性が高くなる。ポリオレフィンワックスのO/C比率が5原子%未満の場合、ポリオレフィンワックス及びポリマー基材の化学的性質は、剥離コーティンがポリエステル基材に十分に密着しない原因となる。その場合、乾燥ポリアクリレートコーティングの除去中に剥離コーティングがポリエステル基材から脱着してしまい、就職表面上に残ってしまう。ポリオレフィンワックスのO/C比率が15原子%を超える場合、ポリアクリレートコーティングが有機溶媒で塗布形成された場合、非プロトン性極性溶媒にポリオレフィンワックスを溶させるため、乾燥剥離コーティングの質が悪化する。好ましくは、ポリプロピレン及び/又はポリエチレン系の部分酸化ワックス水性分散体である。そのようなポリオレフィンワックスとしては、例えば、Michelman Aubange社(ベルギー、EIF 1312.E;部分酸化ホモポリプロピレンワックス)から入手できるもの、又はBYK-Chemie GmbH Wesel(独国、Aquacer(登録商標)1547);酸化ポリエチレンワックスのアニオン系エマルジョン)から入手できるものが挙げられる。その他のポリオレフィンワックスとしては、パラフィンワックス及び/又はナチュラルワックス等の他のワックスを単独または組合せて使用する。塗布分散体中のポリオレフィンワックスの含有量(濃度)は、通常2~10重量%、好ましくは2.3~5重量%、特に好ましくは2.5~4.5重量%である。ポリオレフィンワックスの含有量が10重量%を超えると、塗布分散体の粘度が上昇し、塗工における問題が生じる。ポリオレフィンワックスの含有量が2重量%未満では、剥離コーティングの乾燥中の多量の水を蒸発させるのに必要なコストの問題が生じ、技術的な正確さの問題が生じる(非常に低濃度の正確な計測に限界が生じる)。
【0015】
更に、塗布分散体は架橋剤と混合することが出来、その濃度は、通常0.05~1.4重量%、好ましくは0.1~0.7重量%、特に好ましくは0.3~0.6重量%である。自己架橋を通じて、架橋剤は剥離コーティングの堅さを確かなものとし、巻き取ったフィルム(完成フィルム)の反対面に、剥離コーティングからポリオレフィンワックスの部分転写のおそれを無くすことが出来る。架橋剤は、更に、ポリアクリレート溶液の塗布における有機溶媒の乾燥剥離コーティングに対する安定性を向上できる。架橋剤は、更に、ポリアクリレート溶液の塗布における有機溶媒の乾燥剥離コーティングに対する安定性を向上できる。架橋剤は塗布分散体(ポリオレフィンワックスへ)に質量比で1:7以下(架橋剤:ポリオレフィンワックス)で添加する(すなわち、1/7以下)。ポリオレフィンワックスに対する架橋剤の質量比率が1:7を超えると、塗布フィルム表面の、本発明の濡れ角および表面自由エネルギーを達成できない。架橋剤を使用しないポリオレフィンワックスの場合は、完成フィルムのレベルは低いが、架橋剤の濃度が、本発明の範囲の低い方に向かう場合の方が、好ましい結果となる。(0.05~0.1%重量%)。好ましい架橋剤は、フィルム製造の熱固定温度(特に190-240℃)において自己架橋するものである。特に好ましくは、Epocros(登録商標)WS-700(オキサゾリン系架橋剤、日本触媒社製)大阪が挙げられる。架橋剤として、加水分解性シラン、例えばXiameter(登録商標)OFS-6020(Dow Corning S.A.社製、Seneffe、ベルギー)も使用できる。Cymel(登録商標)303LF(Cytec Industries B.V.社製、Vlaardingen、オランダ)等のメラミン系架橋剤も使用できる。メラミン系架橋剤を使用する場合、架橋剤の濃度は、高メラミン含有量(窒素留分)が再生フィルムの黄変を導くことから、本発明の架橋剤の最低濃度はより低くなる(0.05~0.1重量%)。シリコン含有化合物を使用する場合、架橋剤の前に使用できる。
【0016】
架橋剤に加えて又は架橋剤の代わりに、塗布分散体に、シリコン含有化合物を0.05~2.5重量%、好ましくは0.1~1.2重量%、特に好ましくは0.3~1.1重量%混合してもよい。これは、ある種の溶媒系のアクリレート系の場合に、乾燥ポリアクリレート層(乾燥アクリレート系)から塗布剥離フィルムの剥離において有益である。シリコン含有化合物は、好ましくは水分散体として使用される。これに関する特に好ましい例は、合成樹脂と界面活性剤として3-(ポリオキシエチレン)プロピルヘプタメチルトリシロキサンから成るシロキサンとの水性エマルションであり、例えば市販品としてJost Chemicals GmbH社製(Lauterbach、独国)のAqua Release(登録商標)470 V67)が挙げられる。メチルビニルシロキサン基およびメチルハイドロジェンシロキサン基を含有する他のシロキサンを、同様に単独または2種以上組合せて使用してもよい。シリコン含有化合物を塗布分散体(ポリオレフィンワックスに)に添加してもよく、その質量比は、通常1:4以下(シリコン含有化合物:ポリオレフィンワックス)である(すなわち1/4以下)。ポリオレフィンワックスに対するシリコン含有化合物の質量比が1:4を超えると、有機溶媒中のポリアクリレートに対するフィルム表面の濡れ性が不十分となる。ポリオレフィンワックスが乾燥アクリレートコーティングの剥離に十分な性能を示すようなアクリレート系の場合は、シリコン含有化合物の使用を控えることも可能である。
【0017】
乾燥体としての剥離コーティングを形成する分散体は、好ましくは水性分散体である。分散体の調製法としては、塗布分散体の個々の成分を一緒に導入して分散させる方法、又は、個々の成分のそれぞれの分散体を予め用意し、使用前にそれらを混合する方法が挙げられる。分散安定性を向上させるため及び/又は各成分の溶解性を向上させるために、上記の水分散体は、連続相中に所定量のアルコール(例えばエタノール又は2-プロパノール)及び/又はアミン類(例えば2-ジメチルアミノメタノール)を添加してもよい。更に、必要に応じて添加剤(例えば、界面活性剤、消泡剤、安定剤、pHバッファー等)を塗布分散体に添加してもよい。添加剤の総濃度は、水分散体の総量を基準として通常2.1重量%以下である。
【0018】
塗布分散体の固形分含有量は、通常2.05~16重量%、好ましくは2.5~9重量%、特に好ましくは3~6重量%である。固形分含有量が大き過ぎると、塗布分散体が泡を形成しやすくなり、巻取られたフィルムの反対面に乾燥されたコーティングの部分転写が起りやすくなる。塗布分散体中の固形分含有量が2.05重量%未満の場合、乾燥剥離コーティングによるフィルム表面の被覆が不完全となることもある。
【0019】
剥離コーティングを有する本発明のポリエステルフィルムは、有機溶媒から薄いポリアクリレート層を、グラヴィア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷などの印刷プロセスで塗布するために特に好適に使用できる。ポリアクリレート分散体は、ポリアクリレート共重合体(例えば、ポリメチルメタクリレート共重合体)および/またはポリウレタン共重合体の有機溶媒溶液から成る。有機溶媒としては、例えば、非プロトン性極性溶媒から成り、特に好ましくはメチルエチルケトン(以下MEKと略す)及び/又は酢酸エチルまたはそれらの混合物から成る。1つ以上の相メディエータ(緩衝体)を添加することが好ましく、例えば、エタノール、グリコール類(例えば、n-プロピルグリコール、1-メトキシ-2-プロピルアクリレート、乳酸エチル等)およびセルロース誘導体(例えば、ニトロセルロース、アセチルセルロース等)などを単独または組合せて使用できる
【0020】
本発明のポリエステルフィルムは、剥離コーティングが塗布された単層または多層二軸延伸ポリエステルフィルムであり、少なくとも80重量%の熱可塑性ポリエステルから成る。この目的に好適な材料としては、エチレングリコール及びテレフタル酸からなるポリエステル(ポリエチレンテレフタレート:PET)、エチレングリコール及びナフタレン-2,6-ジカルボン酸からなるポリエステル(ポリエチレン2,6-ナフタレート:PEN)、1,4-ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン及びテレフタル酸からなるポリエステル(ポリ-1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート:PCDT)及びエチレングリコール、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸およびビフェニル-4,4’-ジカルボン酸からなるポリエステル(ポリエチレン2,6-ナフタレートビベンゾエート:PENBB)が挙げられる。好ましいポリエステルとしては、エチレン単位を有し、ジカルボン酸に基づくポリエステルであって、少なくとも90モル%、特に少なくとも95モル%のテレフタレート単位または2,6-ナフタレート単位を有するポリエステルである。好ましいポリエステルはエチレン単位から成る。残りのモノマー単位は、他のジカルボン酸由来の単位である(以下参照)。同様に、ポリエステルフィルムは、上述のホモポリマー及び/又はコポリマーからなる共重合体または混合物あるいはブレンドも好適に使用できる(ジカルボン酸に関する上述の使用量の場合、全ジカルボン酸の合計量は100モル%であり、同様に、全ジオールの合計量は100モル%となる)。
【0021】
好適な他の芳香族ジカルボン酸としては、ベンゼンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸(例えば、ナフタレン-1,4-又は1,6-ジカルボン酸)、ビフェニル-x,x’-ジカルボン酸(特に、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸)、ジフェニルアセチレン-x,x’-ジカルボン酸(特に、ビジフェニルアセチレン-4,4’-ジカルボン酸)及びスチルベン-x,x’-ジカルボン酸が挙げられる。前記脂環式ジカルボン酸としては、シクロヘキサンジカルボン酸(特に、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸)が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸としては、アルカン部位が直鎖又は分岐鎖であるC3-C19アルカン二酸、が特に好適である。ヘテロ脂環式ジカルボン酸としては、例えばフランジカルボン酸が挙げられる。
【0022】
ポリエチレングリコール以外の好適な他の脂肪族ジオールとしては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、一般式HO-(CH2)n-OHで表される脂肪族グリコール(式中、nは、3~6の整数を示す;特に、プロパン-1,3-ジオール、ブタン-1,4-ジオール、ペンタン-1,5-ジオール及びヘキサン-1,6-ジオール等)および炭素数6以下の分岐鎖脂肪族グリコール、及び任意にヘテロ原子含有してもよい、1つ以上の環を有する脂環式ジオールが挙げられる。これらの脂環式ジオールの中では、シクロヘキサンジオール(特に、シクロヘキサン-1,4-ジオール)が好ましい。好適な他の芳香族ジオールとしては、例えば、式HO-C6H4-X-C6H4-OHで表される芳香族ジオール(式中、Xは、-CH2-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-O-、-S-又は-SO2-)が挙げられる。また、式HO-C6H4-C6H4-OHで表されるビスフェノールも同様に好適である。
【0023】
本発明のポリエステルフィルムは、ジカルボン酸成分がテレフタル酸由来単位と少量(5モル%未満)のイソフタル酸由来単位から構成されるコポリエステルから成ることが好ましい。特に好ましくは、ポリエステルフィルムが主として、テレフタル酸およびイソフタル酸単位およびエチレングリコール単位(ジオール単位の97モル%を超える量)から成るポリエステル共重合体から成る。
【0024】
ポリエステルは、エステル交換法によって製造できる。エステル交換法では、ジカルボン酸エステル及びジオールを出発物質として使用し、両者を従来のエステル交換触媒、例えば、亜鉛、カルシウム、リチウム及びマンガンの塩を用いて反応させる。次いで、得られた中間生成物を、例えば二酸化アンチモン、酸化チタン、あるいはゲルマニウム化合物などの従来公知の重縮合触媒の存在下に重縮合させる。製造方法は、重縮合触媒の存在下に直接エステル化法によっても同様に進行させることが出来る。この直接エステル化法では、ジカルボン酸及びジオールを出発物質として使用する。
【0025】
本発明で使用するポリエステルフィルムの厚さは、通常4.5~500μm、好ましくは8~75μm、特に好ましくは10~36μmであり、1層または2層以上のポリエステル層から成り、好ましくは共押出またはラミネートにより積層された複層フィルムである。ポリエステルフィルム又は複層フィルムの各層のそれぞれは、酸化防止剤、顔料、染料、帯電防止剤、UV安定剤、光安定剤、難燃剤、耐ブロッキング剤、充填剤などの公知の添加剤を含んでもよい。充填剤としては、二酸化ケイ素、カオリン、炭酸カルシウム、二酸化チタン、硫酸バリウム等が上げられる、これらの公知の添加剤は単独で使用しても、複数を組合せて使用してもよい。ポリエステルフィルム又は少なくとも剥離コーティングの下に直接配置される複層フィルムのポリエステル層において、平均粒径d50が通常5μm以下、好ましくは4μm以下、特に好ましくは3.5μm以下の粒子を含有することが好ましい。粒子の平均粒径d50が5μmを超えると、有機溶媒中のμm厚のポリアクリレートニス層を伴う剥離コーティングに備わるポリエステルフィルムの被覆が不均一と成る。
【0026】
剥離コーティングの反対側に、剥離コーティングを備えたポリエステルフィルムが、ラミネート又は機械的手段により、他の基材に積層される。
【0027】
<製造方法>
本発明のポリエステルフィルムは公知の方法で製造される。製造方法としては、例えば、「Encyclopedia of Polymer Science and Engineering」(12巻、第2稿、1988、例えばp.193-216)、「PET Packaging Technology」(David W.Brooks、Geoff A. Giles著、Sheffield Academic Press、2002(ISBN 0-8493-9786-3)、例えばp.116-157)などに包括的に記載されている。塗布分散体は、前処理無しのフィルムまたは前処理を施したポリエステルフィルムに塗布される。最も普及し好ましい方法は、フィルム表面と剥離コーティングとの密着性を改良するために行われる公知のコロナ前処理である。ポリエステルフィルムの表面自由エネルギーσs(総)が50mN/mを超える又は50~56mN/mにするようなコロナ強度が、特にコーティングの密着性を十分にするので好ましい。化学的な接着促進法(下塗り)又は中間層を設ける方法をとってもよい。フィルムの熱固定前でフィルム製造プロセス中に、フィルム表面に塗布剤を塗布するポリエステルフィルムのインラインコーティングは、コストの面で好ましい塗布法である。ポリエステルフィルムの塗布は、代表的にはコロナ処理の後、長手方向の延伸と横方向の延伸の間に行われる。塗布分散体はポリエステルフィルムの片面または両面に塗布される。インライン法で塗布された塗布分散体の架橋反応は、フィルム製造中の熱固定工程において行われるのが好ましく、典型的には190-240℃の温度で行われる。インラインコーティングに加えて、塗布分散体はオフラインで塗布されてもよい(すなわち、フィルム基材の製造お跳び熱固定の後に塗布される)。従来公知の塗布方法としては、アプリケーターロール、リバースロールコーティング、彫刻ロール、リバース彫刻ロール、ワイヤー-ウーンドバー(メイヤーバーコーティング)、スプレーコーティング、エアブラシコーティング、メニスカスコーティング及びディップコーティングが挙げられる。
【実施例】
【0028】
以下の実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、以下の実施例は単なる例示と考えるべきである。以下の実施例において、原料やフィルムの特性について以下の測定方法、評価方法を使用する。
【0029】
<原料PETのSV値(標準粘度)>
希薄溶液中の標準粘度(SV)は、ジクロロ酢酸(DCA)を溶媒とし、ウベロ-デ型粘度計を用い、25±0.05℃で、DIN 53728 Part 3に記載の方法に従って測定する。ポリマ-濃度は、ポリマ-1g/100ml純溶媒である。溶解には60℃で1時間を必要とする。無次元のSV値は、相対粘度(ηrel=η/ηs)を用いて以下の式から決定する。
【0030】
SV=(ηrel-1)×1000
【0031】
<ポリオレフィンワックスのO/C比>
市販のポリオレフィンワックス分散体を、固形分含有量が3重量%となるように蒸留水で希釈した。20mlの水性分散体をアルミニウム皿の中に入れ、乾燥機内の130℃の循環空気内にアルミニウム皿を設置して乾燥させ、更に真空乾燥機内で1Pa未満に脱気して、100℃で1時間真空乾燥した。乾燥試料の元素組成は、Apollo SSD検出器(EDAX(Ametek)社製)を装備するエネルギー分散型X線分光分析(EDX)を使用して測定した。EDX検出器は、Supra 35 FE-SEM電子顕微鏡(Zeiss)内にある低真空(10-50Pa)内での更なる試料調製をしないで、60μmの開口部を使用して測定を行った。カソード電圧は5kVであり、試料間隔は10mmである。元素の測定は次の線を使って行った:炭素Kα(C)=0.277keV、酸素Kα(O)=0.525keV。元素組成は、試料の無作為の3箇所において測定され、測定値の平均を求めた。測定結果はO/C比として示され、Oは酸素元素量(原子%:At%)、Cは炭素元素量(原子%:At%)である。
【0032】
<3つの標準溶媒による接触角の測定>
剥離コーティングを有するフィルム表面の化学組成の測定として、測定フィルム表面と液滴の表面輪郭の正接との静止接触角を測定した。静止接触角はDIN 55660-1,2に従い、表1に示すように、3種の標準液体と以下の計量シリンジを使用して測定した。
【0033】
【0034】
水平に静置した液滴の接触角測定は、ドーム型サンプルテーブルアダプターST08を有し、ヴァージョン4のAdvance社製ソフトウェアを有するDSA-100装置(Kruss GmbH社製)で行った。電荷を有さず、標準的な温度と湿度の条件化での予備的な条件を16時間以上経たフィルムサンプルを、23℃±1℃で相対湿度50%の条件で測定して測定値を得る。自動計量シリンジを使用して、3-5μlの標準液をフィルム表面に供給する。20秒後、接触角αを自動的に5秒毎に測定する。測定は4液滴について行われ、16の個々の数値から接触角αの平均値が計算される。
【0035】
3種の標準液体による接触角測定が、表面自由エネルギー(トータル)σS、その分散力成分σS,D及び極性成分σS,Pの計算に使用される。その方法についての詳細は、Owens-Wendt-Rabel-Kaelble-see W. Rabel,Einige Aspekte der Benetzungstheorie und ihre Anwendung auf die Untersuchungund Veranderung der Oberflacheneigenschften von Polymeren[濡れ理論の特徴およびポリマーの表面性状の研究および改良へのその応用],Farbe und Lack 77,10(1971),p.997-1005に記載されている。計算に必要な表面張力(総)σL、その分散力成分σL,D及び極性成分σL,Pの数値は、表1に記載の3種の標準液体で特定される。
【0036】
<単溶媒または混合溶媒の接触角>
NE44計量針を備えた手動の2ml計量注射器(Omnifix,B.BraunB Melsungen AG)を使用した以外は、上記の3標準液体の接触角の測定と同様の操作で測定を行った。液滴体積は3~5μlである、ソフトウェアは、液滴が置かれた後3秒間の間、29ミリ秒毎に自動的に接触角を測定するようにプログラムされている(103の測定データ)。3液滴について測定が行われ、その平均が計算される。接触角測定の再現性は、±0.5°内に優れている。安定性に欠き再現性の低い接触角は、溶媒と剥離コーティングとの間の反応の指標となる。表面の性質や、液滴の置かれる速さによっては、5°未満の非常に低い接触角の場合、液滴を形成できずに表面が完全に濡れてしまう(広がってしまう)。このような場合は再度測定する。
【0037】
<乾燥剥離コーティング裏移り>
応力下で巻取ったフィルムの裏面への乾燥剥離コーティングの転写の試験を行うため、コーティング裏移りスペクトルを、ヴァージョン10.4.2のスペクトルソフトウェアを備えたFrontier(Perkin Elmer社製)ATR/FTIR分光計により測定した。測定のためのフィルムのコーティング側をATR結晶の反対に回転シュー(チップL120-2049に据付ける)を用いてプレスする。プレス圧力は80(スペクトルソフトウェアの単位において)である。フィルム試料は次いで除去され、650~4000cm-1の波数において空気に対して測定される。裏移りスペクトルの強度に従って、測定結果を以下の3ランクに分類した。
【0038】
○(裏移りが無い):裏移りスペクトルの最大ピークの吸光度のlog10が5×10-4未満である。
△(やや裏移りがある):裏移りスペクトルの最大ピークの吸光度のlog10が5×10-4~1.5×10-3である。
×(裏移りが著しい):裏移りスペクトルの最大ピークの吸光度のlog10が1.5×10-3を超える。
【0039】
<ポリアクリレート被覆層の濡れ性>
ポリエステルフィルム上の乾燥した剥離コーティングに、ポリメチルメタクリレート(Elvacite 2008,Lucite International,Newton Aycliffe(英国))の27.5重量%のMKE溶液を、5μmワイヤー-ウーンドバーを用いて塗布した。ポリアクリレート塗布層は、塗布フィルムを乾燥機内で150℃で30秒加熱することにより乾燥させた。乾燥ポリアクリレート塗布層は、続いて光学欠陥を検査し、以下のランクに分類した。
【0040】
○(良):完全に均一に濡れており、視覚的に欠陥が認められない。
△(可):塗布の光学的な不均一が認められる(例えば、縞、滴、凝集など)。
×(不良):濡れが不完全であり、未塗布の部分が認められる。
【0041】
濡れおよび剥離量の視認性を増加させるために、ポリアクリレート溶液に、Paliogen Red Violet K5411又はHeliogen Green K9360(両方ともBASF社製、スェーデン、ルードヴィッグシャッフェン)の染料を1重量%添加した。
【0042】
<剥離力の測定>
25mm幅の粘着テープtesa(登録商標)7475 PV02(Tesa SE(独国))の10cm長片を、乾燥ポリアクリレートコーティングが形成されている剥離フィルムのコーティング面に気泡やしわの無いように粘着させる。粘着は、FINAT標準型プレスローラーで2kg(FINAT Technical Handbook:Test method、第8版、ハーグ;2009,p.73)の荷重を負荷し、それ以外の圧力を負荷しないで行われる。粘着して30分後に、粘着テープに接しているポリアクリレートコーティングから剥離フィルムを剥離するための剥離力を、剥離テスターTL-2200(Imass Inc.,Accord、マサチューセッツ州、米国)を使用し、180°形状(T剥離)で測定した。測定速度は30cm/分である。2秒の接触時間の後、20秒の測定時間内に約200点の剥離力の測定が自動的に行われて測定値が得られ、平均化される。剥離力の開法は視覚的に評価される。測定時間内の剥離力の急激な変化は、RMS(二乗平均平方根)標準偏差で高値に反映される。6枚の測定を行って、剥離力の平均値およびRMS標準偏差が記録される[g/25mm]。
【0043】
それぞれの剥離コーティングを有するフィルム試料の測定結果を標準試料(比較例1で使用の未被覆の二軸延伸PETフィルムRNK 12でコロナ処理無し)と比較し、以下のランクに分類した。
【0044】
◎(優):剥離力<5g/25mm及び標準偏差<2g/25mm
○(良):剥離力5~10g/25mm及びRMS標準偏差<3g/25mm
△(可):剥離力5~10g/25mm及びRMS標準偏差3~4g/25mm
×(不良):剥離力>10g/25mm及びRMS標準偏差>4g/25mm
【0045】
<剥離フィルムの剥離性>
剥離力を測定した後、剥離フィルム剥離部分を観察した。その結果を以下のランクに分類した。
【0046】
○(良、完全に剥離):ポリアクリレート層からのポリエステルフィルムの分離が完全であり、ポリエステルフィルム上にポリアクリレート層の残部が全く認められない。
△(可、部分剥離):ポリアクリレート層からのポリエステルフィルムの分離が不完全である。
×(不良、剥離せず):ポリアクリレート層からポリエステルフィルムが分離されていない。
【0047】
<原料>
・RM-PET:PET 4004(ポリエチレンテレフタレート(PET)、Invista Resins & Fibers GmbH社製、独国)、SV=870、エチレンテレフタレート含有量約99モル%。添加剤を含まない。
・MB:PET 4004を98.5重量%と非晶SiO2(Sylobloc 46(Grace GmbH社製、Worms、独国、平均粒径:d50:2.9-3.5μm(カタログデータ))を1.5重量%とから成るマスターバッチ。
【0048】
実施例1~4及び比較例1~11:
<剥離フィルムの製造>
ABA構造の共押出二軸延伸3層ポリエステルフィルムを製造した。ベース層(B)は原料であるRM-PETから成り、2つの外層(A)は、99重量%のRM-PETと1重量%のMBとの混合物から成る。ベース層(B)の原料RM-PETは、脱気付き二軸押出機(主押出機)内で溶融した。それぞれの外層(A)用の原料混合物(RM-PET及びMB)は、脱気付き二軸押出機(共押出機)内でそれぞれ溶融した。それぞれの溶融フローはフラットダイで合流し、冷却ロール上で固化し、非晶シート(フィルム)を形成した。非晶シートは、延伸ロールユニットにおいて、延伸温度110℃、延伸比3.5:1で長手方向に延伸した。長手方向延伸フィルムは、コロナ放電ユニット(Enercon industries社製)で、6W・分/m2の強度でコロナ処理を施した。長手方向延伸フィルムは、引続き、コロナ処理面に剥離コーティング水性分散体をリバース彫刻(engraved)ロールを使用して塗布した。塗布液の塗布量は2.7g/m2であった。片面に塗布され、長手方向に延伸されたフィルムを、テンターフレームを使用し、110℃で延伸比3.8:1で横方向の延伸を行い、熱固定は230℃で5秒間行い、巻取った。フィルム上の水性コーティングは、テンターフレームの工程内で乾燥され、架橋反応が行われた。フィルムの総厚みは12μmであり、ベース層の厚みは10μm、外層(A)の厚みはそれぞれ1μmであった。それぞれの外層中のSiO2耐ブロッキング剤(Sylobloc 46)の含有量は(それぞれの外層を基準として)、0.1重量%であった。
【0049】
<塗布成分>
塗布成分として以下のものを使用した。
・ポリオレフィンワックス
(1)Aquacer 1547(BYK-Chemie GmbH社製)、カタログに記載された固形分量:25%、O/C比:6.2At%
(2)EIF1312.E(Michelman社製)、カタログに記載された固形分量:24%、O/C比:9.6At%
・架橋剤
(3)Cymel 303 LF(Cytec Industries B.V.社製)、カタログに記載された固形分量:98%
(4)Eastek 1100(Rastman社製)、カタログに記載された固形分量:33%
(5)Epocros WS-700(日本触媒社製)、カタログに記載された固形分量:25%
(6)Xiameter OFS 6020(Dow Corning社製)、カタログに記載された固形分量:98%
・シリコン含有化合物
(7)Aqua Release 470 V67(Jost Chemicals GmbH社製)、カタログに記載された固形分量:7.5%
・添加剤
(8)Defoamer E、カタログに記載された固形分量:100%
【0050】
<比較フィルム>
(1)RNK 12 -:標準的な未塗布二軸延伸PETフィルム(ミツビシポリエステルフィルムGmbH社製)、フィルム厚さ:12μm、未コロナ処理
(2)RN 23 215KN:シリコン被覆二軸延伸PETフィルム(ミツビシポリエステルフィルムGmbH社製)、フィルム厚さ:23μm
(3)RN 23 2PRK:シリコン被覆二軸延伸PETフィルム(ミツビシポリエステルフィルムGmbH社製)、フィルム厚さ:23μm
【0051】
表2~4に実施例1~4及び比較例1~11で使用した水性剥離コーティング分散体の組成を示す。
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
表5~10に実施例1~4及び比較例1~11で得られたポリエステルフィルムの性状を示す。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
本出願は、2018年3月13日出願の独国特許出願第10 2018 105 735.0(発明の名称:剥離コーティングを有する二軸延伸ポリエステルフィルム及びその製造方法ならびにその使用)を優先権主張し、その内容の全てが参照により引用される。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のポリエステルフィルムから成る剥離フィルムは、印刷プロセスによって有機溶媒から形成される薄いポリアクリレート層に対して乾燥ポリアクリレート層から室温において低く均一な剥離力で且つ残存部の無い脱着可能/剥離可能である。